●産土参り●絵馬●大絵馬●御祓い●御札●御守り●御神酒●御神籤●柏手●形代●神歌●紙幣●神信心●神棚●神頼み●神の綱●神参り●神迎●神詣●惟神（かんながら）の道●潔斎●献納●御神燈●護符●斎戒●参宮●参詣●参拝●参拝九拝●三坊●注連●注連飾●注連縄（〆縄）●社参●守護矢●神鏡●神供●神剣●神事●神饌 御饌●神託●託宣●玉串●鎮魂●燈明●直会●幣●祈事●祝詞●初穂●初宮●初詣●破魔矢●祓●火伏札●奉燈●奉納●御明かし●神籤（御籤）●禊●宮参り●宮詣で●木綿注連●遙拝●立拝●産土参り●絵馬●大絵馬●御祓い●御札●御守り●御神酒●御神籤●柏手●形代●神歌●紙幣●神信心●神棚●神頼み●神の綱●神参り●神迎●神詣●惟神（かんながら）の道●潔斎●献納●御神燈●護符●斎戒●参宮●参詣●参拝●参拝九拝●三坊●注連●注連飾●注連縄（〆縄）●社参●守護矢●神鏡●神供●神剣●神事●神饌 御饌●神託●託宣●玉串●鎮魂●燈明●直会●幣●祈事●祝詞●初穂●初宮●初詣●破魔矢●祓●火伏札●奉燈●奉納●御明かし●神籤（御籤）●禊●宮参り●宮詣で●木綿注連●遙拝●立拝
●産土参り
●絵馬 
いきほひのある絵馬を買ふ初詣 住田歌子
うすれたる絵馬の歌文字人麿忌 福田蓼汀 山火
おぼろより絵馬のいろどり近づきぬ 石寒太 炎環
かさなりて絵馬三月の風の中 佐久間采一
こつそりと絵馬掛けてきし落葉径 今橋真理子
するすると絵馬の蛇消え昭和消え 寺井谷子
たたら踏む絵馬のにはとり暮の秋 岡田久慧
どんどの火願文古りし絵馬を焼く 伊沢 健存
一斉に絵馬の鳴りだす春疾風 長野啓女
一枚の絵馬あきかぜのゆくへかな 松村蒼石 雪
乳絵馬の胡粉なまめく花の昼 つじ加代子
二三枚絵馬見て晴るしぐれかな 横井也有 蘿葉集
冬ぬくし重なり合ひて恋の絵馬 高橋悦男
冬めくや砥の粉ばかりの残る絵馬 朝妻力
冬刻々絵馬の童の剥げ易し 古舘曹人 能登の蛙
冬木みな言葉を溜めて間引絵馬 町田しげき
初伊勢の絵馬を置きたる机かな 細川加賀
初午の土産の絵馬の二三枚 後藤夜半
初午や女人提げくる白狐絵馬 林 昌華
初天神学問の絵馬恋の絵馬 結城一雄
初天神日当る方に絵馬を吊り 竹田昭子
助六で絵馬を杵屋で餅を買ひ 土屋花峰
勇魚取る絵馬古りにけり雲の峰 高橋睦郎「賚」
十薬を踏みてかける絵馬新しき 月舟俳句集 原月舟
午祭り待たで絵馬師や雪佛 石塚友二
厄除けの絵馬かき鳴らす青嵐 鈴木啓造(青玄)
受験子の絵馬に誤字あり脱字あり 入谷美枝子
受験絵馬よりはみ出して恋の絵馬 松本由美子
受験絵馬中に一つの恋の絵馬 早田輝風
受験絵馬声なき声の迫りくる 村田冨美
古絵馬に四万六千日来る 松本たかし
古絵馬を焚き護摩堂の年用意 北村 周
只ならぬめの字絵馬なり田水沸く 辻桃子
合格祈願絵馬とま闇を恋の猫 諸角せつ子
囀や廻船絵馬は帆満風 宮津昭彦
夕帰雁蔵に安南渡海絵馬 伊藤いと子
大絵馬のすき間なき文字寒気しむ 松本ミツ子
大絵馬の朱のうごくなり牡丹雪 岸田稚魚 筍流し
大絵馬の白駒枯野へ跳り出る 宮坂秋湖
大絵馬の鵺の暑がる砂埃 斎藤梅子
大試験一礼ふかく絵馬納む 藤原三余
天神の絵馬にもいろいろありて東風 高澤良一 素抱
天神の絵馬カラカラと春一番 西前千恵
奉納の手型の絵馬や七五三 佐野たけ子
嬰児昼寝絵馬の金時犬張子 福田蓼汀 秋風挽歌
宇良神社長寿招福絵馬涼し 福井貞子
寛政の絵馬の嘶き夏木立 中村みよ子
干支絵馬の紐をつまみて女正月 長谷川久々子
強風に打ち合ふ絵馬や初天神 沖山政子
思春期の絵馬の横書き青木の実 開高斉
恋の絵馬受験の絵馬にかくれけり 大島民郎
掛け替ふる大絵馬打てり那智しぐれ 坂口 麗峰
掛絵馬の風に鳴るなり寒椿 佐藤郁子
探梅の空まだ硬し絵馬の花 岡本ひろ子
新しき絵馬重なりて日脚伸ぶ 生田経子
日限りに男断つ絵馬明け易し 中村路子
早苗振や絵馬塗替も一話題 清原枴童 枴童句集
明神絵馬木の実に打たれつつ古りぬ 村上しゆら
春残し保母になりたい絵馬揺れる 川崎美知子
月しろのわたりし絵馬の月日かな 村上しゅら
杉に雨降り絵馬を濡らして雨終る 林田紀音夫
杉の木に絵馬掛けて来る日永哉 日永 正岡子規
村人の数ほどの絵馬枯野寺 鍵和田[ゆう]子 未来図
来の宮の楠の香の絵馬小正月 原子岱子
東京やからからと鳴る受験絵馬 福井隆子
東風吹くと青春の絵馬鳴りどほす 西本百合子
板絵馬のごふんはげたり夏木立 夏木立 正岡子規
枯蔦や絵馬は古りたる神の杉 寺田寅彦
桜東風文字いとけなき恋の絵馬 有馬籌子
梅雨畳千住に守る手描き絵馬 町田しげき
橋をもて絵馬堂とせり春の雪 西本一都 景色
正月や望みの高き絵馬あふれ 林 民子
歳暮るるうす灯に烏賊・海老・蛸の絵馬 山本一糸
永き日や絵馬をみてゐる旅の人 不白
流し雛かやとまみえし雛の絵馬 後藤夜半 底紅
浮世絵の女の絵馬や生姜市 加藤三七子
涼しさやどの絵馬も帆に風孕み 伊藤いと子
源氏名の絵馬並びをり蝉丸忌 竹内☆代子
燭あまた灯して涼し絵馬の市 栗田やすし
牛若を懸け絵馬堂の雪しづく 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
畑打に絵馬の女の顔白し 藤田湘子
神の留守絵馬堂裏で恋に逢ふ 北野民夫
祭絵馬より炎天の溢れ出づ 後藤比奈夫 花匂ひ
秋蝉やだるまの絵馬のゆるるほど 瀬間かつ子
秋風やかこかこかこと絵馬の鳴る 南方久賛
秋風や板絵馬さわぐ藪の神 梅室
穂芒や絵馬の兎はこちら向く 鈴木鷹夫 大津絵
空蝉も絵馬にすがりて祈りをり 金原千代子
立春の鶏絵馬堂へ歩み入る 佐野美智
立春大吉絵馬堂に墨匂ふ 岡本菊絵
紅紐の絵馬うちならぶ春の月 津森延世
紅葉濃し絵馬に鋭き左鎌 筒木真一
絵馬かけに夜行く竹の都かな 松瀬青々
絵馬が鳴り夏めく磯の流人墓 河野南畦 湖の森
絵馬によき手綱曳かせて春の寺 原裕 『出雲』
絵馬に書くほど願易からず神の留守 鈴木栄子
絵馬に書く家賃と間取りや柳の芽 野沢 雄
絵馬の数祈願の数の梅の宮 山田弘子 こぶし坂
絵馬の文字ひとつひとつに初日かな 佐藤美恵子
絵馬の竜火を吐きて年改まる 友田しげを
絵馬の紅かすかなれども秋の寺 神尾久美子 桐の木
絵馬の絵は葵懸けたる牛童 後藤夜半 底紅
絵馬の蜂牡丹の蜂に混りけり 永田耕衣 真風
絵馬の馬ぬれて跳ねゐしやまざくら 石寒太 翔
絵馬の馬宙にとどまる初詣 藤岡筑邨
絵馬はみな白馬を描きふきのたう 藤田湘子 去来の花
絵馬むすぶ指の先までお降りす 日高華子
絵馬を消す風かとあゆむ芋の葉に 宇佐美魚目 秋収冬蔵
絵馬を見る人顔暗き時雨かな 阿部みどり女
絵馬を買ふ列のなかなる御慶かな 清之介
絵馬兎金眼をきかす月の寺 大木あまり 山の夢
絵馬叩く風より雪の降り出して 角光雄
絵馬堂に涼風遊ぶ島の午後 山田弘子 初期作品
絵馬堂に絵馬のひしめく梅月夜 毛塚静枝
絵馬堂に鉄釜据ゑて御命講 新井徳子
絵馬堂に鳴くや子雀親雀 雀の子 正岡子規
絵馬堂の乾ける土間や秋の雨 池内たけし
絵馬堂の内に舞ひ込む落葉かな 寺田寅彦
絵馬堂の内日のぬくき落葉かな 飯田蛇笏 山廬集
絵馬堂の子守爺婆々冬ぬくし 河野静雲 閻魔
絵馬堂の戦国絵図や蝉時雨 今井誠人「亀山」
絵馬堂の絵馬の薄れし木下闇 上田俊二
絵馬堂は風来る所大揚羽 谷内茂(高志)
絵馬堂や時雨あそびの子守唄 吉武月二郎句集
絵馬幾重いくへに青葉時雨かな 樋口桂紅
絵馬思ふ小彼岸ざくら紅濃にて 大橋敦子
絵馬掛けて野のうす氷厚氷 神尾久美子 桐の木
絵馬焚いて灰納めたり草紅葉 吉田冬葉
絵馬百の願いを濡らし春時雨 乾修平
絵馬落ちて裏返しなる杉菜かな 月舟俳句集 原月舟
船絵馬のまぼろしとをり日蓮忌 宮坂静生 山開
船絵馬の旭真紅に雪解かな 野沢節子 八朶集
船絵馬の海青すぎし厄日前 能村研三 鷹の木 以後
花からすうり加茂社には鴨の絵馬 吉田紫乃
草枯や絵馬落ちてある稲荷道 高田蝶衣
菜の花や絵馬売る店の夕日影 菜の花 正岡子規
落し文舞へる静の絵馬かかり 大岳水一路
葛咲くや成就不成就絵馬襖 北見さとる
蝉涼し絵馬の天人身を横に 松本たかし「野守」
行く春や仕事探しの絵馬ひとつ 藤原さち
裏がへる絵馬一つあり東風の宮 阿部みどり女 笹鳴
評判の是真の絵馬や散る桜 野村喜舟
誤字ひとつぶっきらぼうな受験絵馬 松本三千夫
誰が鳴子絵馬さかさまにかゝりたる 泉鏡花
象山神社絵馬るいるいと蝉時雨 片山桃弓
買うてゆけ神明生姜とめ組絵馬 高澤良一 燕音
辻堂に絵馬のふゑたる弥生哉 正岡子規
道ばたに絵馬売る婆々の日永哉 日永 正岡子規
金比羅に大絵馬あげる日永哉 日永 正岡子規
間引絵馬見て裸木に眼を外らす 町田しげき
雁渡し大絵馬に吹きあたりをり 大峯あきら 宇宙塵
雨乞ひの絵馬に降り来る桜蘂 町田しげき
雪の息雪にうもるる絵馬の息 赤沢正子
露の秋かかげし絵馬の合掌図 松村蒼石 寒鶯抄
音たてて絵馬の打ち合ふ花吹雪 林 久子
風に鳴る合格御礼絵馬なりし 浅井清香
鬣の絵馬にあふるる秋収 宮坂静生 樹下
●大絵馬
大絵馬のすき間なき文字寒気しむ 松本ミツ子
大絵馬の朱のうごくなり牡丹雪 岸田稚魚 筍流し
大絵馬の白駒枯野へ跳り出る 宮坂秋湖
大絵馬の鵺の暑がる砂埃 斎藤梅子
掛け替ふる大絵馬打てり那智しぐれ 坂口 麗峰
金比羅に大絵馬あげる日永哉 日永 正岡子規
雁渡し大絵馬に吹きあたりをり 大峯あきら 宇宙塵
●御祓い
いぐし奪ふ人の羽音や御祓川 高井几董
かげろふやいせの御祓捨てある 成美
かは風にうしろ吹かるゝ御祓哉 みそぎ 正岡子規
くらがりに人うづくまる御祓かな 松尾静子「現代俳句全集」
つくばふた禰宜でことすむ御祓哉 蕪村 夏之部 ■ 宮島
つくばへば石のほとぼる御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
三山に明日立つ人の御祓かな 菅原師竹句集
人立ちて舟のゆれたる御祓かな 宇佐美魚目 天地存問
伏姫の御祓せしとふ清水ありや 寺田寅彦
傘さして禰宜のこゞめる御祓かな 静塔
兎に角に御祓も過ぎて夜半哉 みそぎ 正岡子規
冠の紐吹く風や御祓川 会津八一
加茂川に日の衰へし御祓かな 村山古郷
吹く風の中を魚飛ぶ御祓かな 芭蕉「真蹟画賛」
堰石に土器灯す御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
夏中の身持やよろづ御祓川 大坂-六翁 元禄百人一句
夏帯や鈴鹿の御祓せしめ縄 宗因「糸屑」
夕がほの宿や御祓(みそぎ)の戻りかけ 立花北枝
夕されば松籟さむき御祓かな 岸風三楼 往来
夕虹も消えて御祓の流れかな 闌更「三傑集」
夕闇は賀茂にとく濃き御祓かな 岸風三楼 往来
太箸や御祓の木のあまりにて 言水
山へ紙ひらひらとんで御祓かな 宇佐見魚目
山川に星配りたる御祓かな 山田みづえ
川ぞひを戻るもよしや御祓の夜 白雄「白雄句集」
川下に牛洗ひ居る御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
川風に烏帽子かゝへて御祓哉 既白
川風に背中吹かるる御祓哉 正岡子規
幣たてゝ一水浄き御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
年のはやなかば流れつ御祓川 山口素堂
御祓してはじめて夏のをしき哉 みそぎ 正岡子規
御祓して帰るたもとに蛍かな みそぎ 正岡子規
御祓して帰れば西に星の飛ぶ みそぎ 正岡子規
御祓して星一つ飛ぶ西の空 みそぎ 正岡子規
御祓して浅き流れや石光る 河東碧梧桐
御祓する禰宜はやまぶの川社 凡兆「荒小田」
御祓すんで冠を置く石の上 大橋櫻坡子 雨月
御祓ひや砂地を走る足の裏 丈草「薦獅子集」
御祓や砂地をはしる足のうら 内藤丈草
御祓受く海女砂浜に正座して 大西生子
御祓終へぬ京は山川清浄と 飯尾峭木
懐に笏や烏帽子や御祓禰宜 西山泊雲 泊雲句集
日かげりて御祓はじまる河原かな 萩原井泉水
暗い磧をほのかに御祓すと遠見る 梅林句屑 喜谷六花
朝霧を払ふや風の御祓川 守武
橋殿に朗詠おこる御祓かな 下村非文
橋殿に燭ぞまたゝき御祓かな 岸風三楼 往来
橋殿に燭奉る御祓かな 吉田愛子
水上はふんどし洗ふ御祓哉 正岡子規
水底の散銭ふんで御祓かな 随古「平安二十歌仙」
沢瀉による傾城や御祓川 蕪村「落日庵句集」
泪して命うれしき御祓かな 樗良「樗良発句集」
海川や御祓のあとの雨の声 加舎白雄
灸すゑて仕舞ひたりける御祓かな 越人「三つの顔」
烏きて水を飲みをる御祓かな 西山泊雲 泊雲
爪たてゝ蟹の出てくる御祓哉 みそぎ 正岡子規
牛引て通りかゝるや御祓川 みそぎ 正岡子規
畦道を禰宜につく児等御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
白干や大井にかへす御祓串 言水「東日記」
神主の衣冠風ある御祓かな 松藤夏山 夏山句集
神鳴の次第に近き御祓哉 みそぎ 正岡子規
禰宜の沓道踏み欠きし御祓かな 阿波野青畝「国原」
笏をもて*まくなぎはらひ御祓かな 青畝
絹をひく水の流れや御祓川 会津八一
舟人の腰蓑洗ふ御祓かな 渡辺香墨
船頭の昼寝覚むれば夕御祓 岡本癖三酔
荻の葉にかゝる御幣や御祓川 みそぎ 正岡子規
藪影の川さしわたる御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
蛍火のあはれちさきも御祓川 岸風三楼 往来
里人は能して遊ぶ御祓かな 句空「類題発句集」
雨雲の烏帽子に動く御祓哉 みそぎ 正岡子規
面八句神恋せじ御祓川 井原西鶴
風吹て口髭そよぐ御祓哉 みそぎ 正岡子規
●御札
ごうごうと雪なめつくす御札焼 小村松蔭
ポケットに御札縫ひこむ渡り漁夫 田中良次
前髪に初卯戻りの御札かな 高田蝶衣
御札捧げて家三めぐりや秋の風 比叡 野村泊月
経机に御札切る間の御数珠かな 島本凡狂子
●御守り
御守の中味は木つ端三鬼の忌 斎藤由美子
●御神酒
三方の御神酒賜はる初社 海野みち子
月山の御神酒が出て船遊 茨木和生 往馬
樽の香の御神酒を受くる初詣 大関とし子
田遊の嫁大杯で御神酒受く 川越蒼生
賜はりし裸参りの御神酒かな 矢作早智子
●御神籤
御神籤の凶が出でたる落葉降る
おみくじのやうに開いて落し文 野口和男
おみくじの半吉でよし厄詣 本多貴久
おみくじの鳴る音椎の実落ちる音 蔵前幸子
おみくじは吉 古仏とわたしへ緑射す 伊丹公子 メキシコ貝
おみくじをにぎり破魔矢をかざしゆく 高木晴子 晴居
おみくじを受けて香水匂はせて 吉屋信子
おみくじを捨てたる加太の卯波かな 吉田葵人
おみくじを枝に結びて春を待つ 工藤せつ子
おみくじを読みて羽子板市の前 成瀬正とし 星月夜
霧の木におみくじ殖ゆる竜口寺 仙田敬子
●柏手
しわしわと打つ柏手や山始 高橋睦郎
大時化の海へ柏手神迎ふ 小林梨花
少年の柏手はらり冬紅葉 木下蘇陽
建国の神に柏手初詣 田原憲治
柏手も雄々しくなりし初詣 井上義郎
柏手を打つて句碑にも初詣 木下嶺生
神々に柏手二つ秋高し 金山 有紘
●形代
あはれわが形代ながるつまづきつ 岸風三楼 往来
いただきし形代にもう雨の粒 藺草慶子
がゞんぼを吹けば飛ぶなり形代も 岡本松浜 白菊
よき声を使ひ形代流しかな 関戸靖子
わが代の形代にして幽かなり 相生垣瓜人 微茫集
七十の形代や袖長過ぎむ 殿村菟絲子「菟絲」
亀覗く澱む形代掻き分けて 原口絹枝
俳号てふ無名を記す形代に 嶋田麻紀
半身を病む形代の白さかな 熊谷愛子
去り難くわが形代のよどみゐて 三宅年子
古利根へ流す形代馬の背に 野崎ゆり香
名を書いてわが形代となりにけり 大石悦子 聞香
大潮に乗る形代の立ちあがる 岡田史乃
引潮に乗り形代の流れ行く 茨木和生 往馬
形代として両腕のなかりけり 川口未来
形代となりて流るるけさの夢 桜井千種
形代となるまで伏せむ雪の原 柿本多映
形代と形代競ふこともなし 山崎十生
形代にありたる長き袖袂 猪俣千代子 秘 色
形代にうすうす骨の見え来たる 大木孝子
形代にうつす現身息をかけ 福田蓼汀 秋風挽歌
形代におのが齢のおのれ寂ぶ 下村ひろし 西陲集
形代にかけたる息の余りけり 綾部仁喜 樸簡
形代にさらばさらばをする子かな 一茶「文政八年句帖」
形代にそひて流るる藻の青し 大熊輝一 土の香
形代につゝがなき名をしるしけり 徳永山冬子
形代にとまりし蝿を憎みをり 白岩 三郎
形代になき鳩尾をかかへけり 綾部仁喜 樸簡
形代になでられてゐる子供かな 山西雅子
形代にわが名を書きて恐ろしき 前田普羅
形代にをんなの袂ありにけり 平井あい子
形代に卯の年男とぞ書ける みそぎ 正岡子規
形代に名を書く心素直なり 西川 五郎
形代に子の名より書き母なりき 林昌華
形代に我の裡なるもの移る 相生垣瓜人
形代に拭ひし身なり流さるる 小林康治 『潺湲集』
形代に数へて記す母の齢 阪田昭風「四温」
形代に暑さおくるゝ部屋のさま 高橋馬相 秋山越
形代に書きし吾が名の沈みゆく 品川鈴子
形代に書きて佳き名と言はれけり 片山由美子「水精」
形代に書きて我名をよみにけり 横山蜃楼
形代に書く名の一人旅にあり 山野邊としを
形代に有為の山々高みけり 鷲谷七菜子 天鼓
形代に未婚のままのわが名かな 岩崎照子
形代に桃色人に夢多き 後藤比奈夫 めんない千鳥
形代に点字打たれてありにけり 奥坂まや「縄文」
形代に瑛といふ名をこの日より 古舘曹人 樹下石上
形代に病める吾が名を真先に 山二茶壺子
形代に脱いで捨てけり麻袴 成美
形代に華甲の息を一文字 伊藤敬子
形代に虱おぶせて流しけり 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
形代に親のつけたる名をしるす 市村究一郎「*かりん」
形代に記し齢をいつはらず 八染藍子
形代に記す家族の年を聞き 荻江寿友
形代に負はせし罪を思ひけり 仁尾正文「山泉」
形代に走り書して女去る 福井圭児
形代に黒髪の無き怨みかな 鈴木鷹夫「春の門」
形代のあと知らずゆく秋の風 松山足羽
形代のいざよふは日の衰へし 長谷川双魚 『ひとつとや』
形代のうるみゆく名を読みゐたり 大石悦子 群萌
形代のおくれ先んず早瀬かな 高橋淡路女 梶の葉
形代のかすかなる穢にこだはりぬ 能村登四郎
形代のかゝりて乾く杭かな 中島月笠 月笠句集
形代のたもとひらひら母が来る 細田恵子
形代のまだ男とも女とも 櫨木優子
形代のゆくへも知らず水の闇 松尾静子
形代のよき川波にのりにけり 三山
形代のわが名はげます太く書く 鈴木太郎
形代のわが名はとはに俯ける 中尾寿美子
形代のわが名わが齢水の上 神尾季羊
形代のわが名一画さへ略さず 小野恵美子(馬酔木)
形代のわが名軽々風に浮き 深見けん二 日月
形代のをみなか袖をひるがへし 館容子
形代の一枚に書く双子の名 小林勇二
形代の一片雲へ歩かせる 林田紀音夫
形代の佳き御名に置くたなごころ 都筑智子
形代の切込みふかき袖たもと 串上青蓑
形代の名の仮名文字のいとけなき 松尾立石
形代の名を書けば妻となるかなし 山口青邨
形代の吹かるるものに袖袂 檜紀代
形代の嘘いつはりのなき形 矢島久栄
形代の夫の名わが名水に消ゆ 春子
形代の妻はさつさと流れけり 湯浅康右
形代の施しやうもなく飛びぬ 松山足羽
形代の流れて寧し渓杏 松山足羽
形代の浅黄の帯ぞ淋しけれ 比叡 野村泊月
形代の深く沈むは訳ありよ 横山佳世子
形代の生きて袂をかへしけり 高田正子
形代の男女と流れけり 富田うしほ
形代の男女ひらひら重なりぬ 山田みづえ 草譜
形代の白さ伏屋のものに似ず 相生垣瓜人 微茫集
形代の白にひとしく波がしら 林田紀音夫
形代の白妙年を経たりけり 小林康治
形代の白紙袂のあるあはれ 福田蓼汀 秋風挽歌
形代の紙も粗末となりにけり 岡本松浜 白菊
形代の行方の水の真青なる 原田豊子
形代の袂かろきをよろこべり 向笠和子「存念」
形代の袂は風に吹かれけり 古舘曹人 砂の音
形代の袂ひろげて流れゆく 加藤三七子
形代の袂長きが哀しけれ 野見山ひふみ「野に遊ぶ」
形代の袖に筆頭わが名書く 三宅かつみ
形代の袖を重ねて沈みをり 中西蘖
形代の襟しかと合ふ遠青嶺 能村登四郎 幻山水
形代の襟のあたりのかげりかな 深見けん二
形代の貌男とも女とも 藤岡和雄
形代の重なりゆくも縁かな 大橋敦子
形代の鋏惜しみし袂かな 綾部仁喜 樸簡
形代の闇の流れの果知れず 小枝秀穂女
形代も通船堀にかかる頃 松本 進
形代やたもとかはして浮き沈み 飯田蛇笏 山廬集
形代やとつぎし者の名を加へ 本宮銑太郎
形代やひとりとなりし末子の名 橋本冬樹
形代やわがいきかくるぬくきいき 阿片瓢郎
形代や今こそ掌より川浪へ 東洋城
形代や何でも水に流す国 橋本喜夫(銀化)
形代や書く筈の名の一人欠け 行廣すみ女
形代や朝は真鶸の声澄みて 高橋馬相 秋山越
形代や末社ながらも檜皮葺 大庭紫逢(鷹)
形代や机のはしに忘らるゝ 松浜
形代や柳の彼方やなぎ見え 宇佐美魚目 秋収冬蔵
形代や水なめらかになめらかに 草間時彦
形代や水の近江に住みつきて 中山碧城
形代や父に貰ひし名を書いて 数馬あさじ
形代や異国の子等の名も書きぬ 藤本スエ子
形代や腹閃めかす魚の見ゆ 島田五空
恐ろしやわが形代の流れゆく 本岡歌子
息かけて形代に顔なかりけり 小倉行子
息かけて形代重くなりにけり 伊藤柳香
斎院のおんぞの汚染や形代草 長谷川かな女 花寂び
昏々と湖の形代流しかな 大石悦子 群萌
此の世より流す形代混み合へり 榎田きよ子
母が書いて形代のわが名なりけり 鈴木栄子
水とがる方へ形代ながれけり 金久美智子
汗ばみて旅の形代流しけり 細川加賀 生身魂
泳ぐかなからくれなゐの形代と 夏石番矢
流し雛わが手離れしより形代 吉野義子
流れゆき誰が形代と重なりし 菅原鬨也
流れゆく形代の名のをみなかな 中村三山
渦の上に形代ながす湯殿川 中村翠湖
火をあびつ形代さつと闇に入る 知世子
狎れ難し吾に代らむ形代に 相生垣瓜人 明治草抄
真菰わけ形代ながす人ゆきぬ 秋櫻子
稚児の名書く産衣のやうな形代に 榊原惇子(天佰)
紅紙のわが形代に息を吹く 長谷川かな女 雨 月
納め形代重ね置かるはゆゆしかり 大石悦子 群萌
美濃和紙の形代流す板取川 佐藤たみ子
蓮田風あほつ形代流しかな 石田波郷
蓮田風起ちて形代流しかな 石田波郷「酒中花」
袖白き魑魅の形代吹かれけり 古舘曹人 砂の音
身につけてゐたる木の葉が形代と 茨木和生 丹生
身を出でし形代奔るおそろしき 川崎展宏 冬
遠き子の形代親が息かけて 下村ひろし 西陲集
遠く来て形代に息かけにけり 綾部仁喜「寒木」
雲は形代 翼よあれがバリの火だ 夏石番矢 メトロポリティツク
●神歌
神歌や上野の杜の能始 文挟夫佐恵
●紙幣
たつき日々紙幣の花びら掌にあふれ 片山桃史 北方兵團
はるさむや地に替う紙幣ひとつまみ 飯田蛇笏 春蘭
へな〜と紙幣賽しぬ残り福 皆吉爽雨
わが受くる紙幣は瞬く間に数ふ 日野草城
メロン買ひわが体温の紙幣消ゆ 福永耕二
処女紙幣青し颯爽として軽く 日野草城
寡婦の指四五枚の紙幣を預金せり 片山桃史 北方兵團
少き子が獲て来し紙幣は眼に痛き 日野草城
手の切れるやうな紙幣あり種物屋 大木あまり 火球
手袋と紙幣使はずして病めり 野澤節子 黄 瀬
扶助料といふ紙幣得ぬ百合買はな 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
枯れふかむ紙幣の表裏みな利息 雨宮抱星
柿落葉うつくしく紙幣値なく 山口青邨
極月の人の温味のある紙幣 片山桃史 北方兵團
疲れたる紙幣を共同募金とす 日野草城
皺くちやの紙幣を投ず社会鍋 行方克己 無言劇
短日やまざと紙幣の穢を指に 中島斌男
紙幣とは雪夜香を嗅ぐためのもの 林翔 和紙
老紙幣疲れうらぶれくづほるゝ 日野草城
落書が紙幣にありて敗戦忌 土生重次
落葉まひ靴磨より紙幣とぶ 爽雨
買初の釣銭折り目なき紙幣 田中俊尾
野遊びのはじめにつくる葉の紙幣 上田日差子
露草が綻ぶ財布ゆ萎え紙幣 香西照雄 対話
黄の紙幣よみ疲れ極月の灯を昼も 片山桃史 北方兵團
鼻さむし紙幣ことごとく羽を持つ 磯貝碧蹄館 握手
●神信心
●神棚
おでん屋の低き神棚煤けをり 牛島清治
八雲先生の神棚古りぬ供へ餅 林 翔
厩神門の神棚祝ひけり 中村烏堂
啓蟄の地卵供ふ三輪の神 棚山波朗
屋久夏暁神棚に水献じゐし 大矢内生気(藍生)
惜掲き神棚ゆらぐ大草屋 加藤知世子 花 季
早苗饗や神棚遠く灯ともりぬ 高浜虚子「六百五十句」
歳いはふ灯を梁に吊る神棚に 長谷川素逝 村
炉の部屋に神棚ありて煤けたる 塩川雄三
煤掃酒庫の神棚忘れじな 西山泊雲 泊雲句集
神棚にひと夜をおきぬ初暦 高田蝶衣
神棚に仏壇に燈を月の宿 阿部みどり女 笹鳴
神棚に代へて初富士拝むなり 大須賀乙字
神棚に彩なき独楽や木地師宿 塩原佐和子
神棚に征露丸置き猟夫小屋 後藤青峙
神棚に忘れしままの小豆粥 杉千代志
神棚に朝の灯あげて紅葉狩 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
神棚に注連ゆるぎなし新世帯 毛塚静枝
神棚に熊撃銃の弾丸二つ 綾部仁喜 樸簡
神棚に祀る鋸雁渡し 宮坂静生 樹下
神棚に神います灯や三ケ日 柿巷
神棚に護符いく重ね夏蚕飼ふ 皆吉爽雨
神棚に貼りし白紙や夜の秋 吉武月二郎句集
神棚に鏡がひとつ糸を引く 茨木和生「往馬」
神棚に霊芝古びぬ桂郎忌 井口光石
神棚のぶだうに映る灯哉 寺田寅彦
神棚の一枚板や冬怒濤 増田陽一
神棚の下に一枚餅筵 森田君子
神棚の下は戸主の座夏炉燃ゆ 吉川ハマ子
神棚の前に車座粽結ふ 浅井陽子
神棚の前より敷きぬ餅筵 高浜虚子
神棚の大雪沓や貌を持つ 加藤知世子 花 季
神棚の投げ込まれたる飾り焚 斉藤程子
神棚の早苗からびしまま病めり 木村蕪城 一位
神棚の灯に古き暦かな 会津八一
神棚の灯は怠らじ蚕時 蕪村
神棚の熊手煤けて神無月 相沢真知子
神棚の燈のふもとなる炬燵かな 原石鼎 花影以後
神棚の目隠し紙へ秋の風 松浦敬親
神棚の習字に盆の夕日さす 福田甲子雄
神棚の飾は解かず鳥曇 古舘曹人 樹下石上
神棚は柱にくくる枯岬 古館曹人
神棚へまづ新米の一と握り 羽吹利夫
神棚へ運ぶ七種粥の湯気 有山八洲彦
神棚も仏壇もなく神の留守 山内遊糸
神棚も佛間も灯し松の内 村井杜子
神棚やつかね上げたる古暦 寺田寅彦
神棚を高く積み上げ年の市 佐藤博重
設計図に神棚の位置風光る 毛塚静枝
鈴虫の音色一つを神棚に 原裕 『王城句帖』
陶工の家神棚に松の花 田川飛旅子
馬追に夜の神棚氷店 高橋馬相 秋山越
●神頼み
ちやんちやんこ着て神頼み長かりき 高澤良一 ももすずめ
神頼むことのよろしき常陸帯 岩谷山梔子
●神の綱
●神参り
梅が香の誘ふ恵方や神参り 一音
カシオペアまだ眠り神参られず 松本扇々子
●神迎
お留守には何事もなし神迎 神迎 正岡子規
くれなゐの実を荒きとも神迎 宮坂静生 山開
したたかに降り清めけり神迎 藤田八郎
はらはらとはしる雑仕や神迎 阿波野青畝
もののふの霊を鎮めの神迎へ 小路紫峡
一月の落葉も掃て神迎 蝶 夢
三宝に鯉の息づく神迎 角淳子
乘掛の旅僧見たり神迎 神迎 正岡子規
二羽の鳶円を描きて神迎 法本フミ女
八重波に向ひて祝詞神迎 金森柑子
参道の箒目正しく神迎ふ 白木サダ子
回廊を潮路を点し神迎え 宮城踏青
大岳の夜明け火を焚く神迎 藤原如水
大時化の海へ柏手神迎ふ 小林梨花
巫女の髪水引を懸け神迎 安西閑山寺
拍手も海鳴りの中神迎 渡部美知子
日々荒れてともしの暗さ神迎ふ 桑原視草
暗に踏む木の葉かわくや神迎へ 野坡
欄干の朱のあざらしき神迎へ 谷口ゆり女
氏神の囲ひ済ませて神迎 渡辺セツ
水浴びて並ぶ烏や神迎へ 一茶
海原に冬日一条神迎ふ 田中静龍
海鳥の目覚めよきこゑ神迎へ 木内彰志
湖の上を疾風来るなり神迎 水原秋桜子
湖の月あきらかに神迎へ 前田圭史
火を入れて闇美しき神迎 土谷和生
燈籠の障子も替へて神迎 比叡 野村泊月
神の木の揺れひとしきり神迎へ 遠藤若狭男
神迎して歌神に献ず句碑 大橋敦子 手 鞠
神迎ふ一山六社みな灯り 木田素子
神迎ふ伊勢の荒風日もすがら 山本しげき
神迎ふ出雲の国の石畳 有馬朗人
神迎ふ出雲は日和つづきかな 岡本春人
神迎ふ太き纜注連として 道川虹洋
神迎ふ形に居るや池の亀 久米正雄 返り花
神迎ふ水面静けき人造湖 上野澄江
神迎ふ珠のようなる嬰抱きて 村上和子
神迎へ巫女車座に汁粉食ふ 豊田豊
神迎へ新月の環あきらかに 佐野良太 樫
神迎へ静かに済みし湖の村 有働清一郎
神迎水口だちか馬の鈴 浜田酒堂
神迎近江蕪を舟に乗せ 針 呆介
稲の香のしるき国原神迎 栗間酔舟
空稲架の芯まで濡れて神迎へ 小早川蘇宇
笛吹きて鳶も産土神迎へけり 野原 春醪
荒神の散らす落葉や神迎ふ 佐々木醒湖
裸木に雀あつまる神迎 柴田白葉女
野々宮や四五人寄りて神迎 野村泊月
青苔に山茶花にほふ神迎 水原秋櫻子
頓て国しろし召すべう神迎 竹冷句鈔 角田竹冷
鬨あぐるごと大焚火神迎ふ 上原朝城
鴨居まで日の届きゐる神迎へ 能村研三 鷹の木
鶏もうたひ参らす神迎 正岡子規
●神詣
ねづみ茸もゆる木の間を神詣 前田普羅 春寒浅間山
ゆるゆると涼み憩ひて神詣 深川正一郎
三囲を抜けて福神詣かな 高浜虚子
墨堤の風の福神詣かな 皆川盤水
小袋の切山椒分け神詣 脇坂啓子
恋猫に身ほとり揺らぐ神詣 鍵和田[ゆう]子 浮標
毘沙門で福神詣終りけり 加藤とく
煖房に汗ばむ夜汽車神詣 杉田久女
神詣道々梅雨の雀かな 小澤碧童 碧童句集
福神詣をんなはいつも袋持ち 鍵和田[ゆう]子 浮標
船とがり福神詣あたゝかく 丹治蕪人
身の秋やねぎごともなき神詣で 高橋淡路女 梶の葉
雉啼いて一人二人は神詣 大竹狭田男
●惟神（かんながら）の道
かんながらちぎれんばかり鹿踊 高澤良一 寒暑
●潔斎
お火焚の炬火潔斎の地を焦す 窪田佳津子
初鶏や皆潔斎の湯を了へつ 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
潔斎の僧が籠れる沙羅の花 津田清子
潔斎の箸をちよろぎの二三個に 花谷和子(俳句)
●献納
茶の花に献納の鐘撞きをさむ 久米正雄 返り花
銀献納冬日が凍るいとまなし 萩原麦草 麦嵐
●御神燈
コンビニも町内の裡御神燈 高澤良一 寒暑
●護符
そぞろ寒護符いちめんの太柱 熊谷佳久子
ふところにかさこそとある牛王護符 大石悦子
み熊野の護符いただきて筏組む 鷹野清子
優曇華や東司の護符の端黄ばみ 三村純也
初寅の護符をかざして貴船へも 中田余瓶
厄日なり護符の真神の尾がふさふさ 飯名陽子
受けし護符帯間にはさみ梅の宮 林昌華
嘶ける馬を護符とし秋山家 宮坂静生 春の鹿
四百四病護符花冷えの石仏 近藤一鴻
大き護符閻魔参りの子の腰に 本間 稔
大寒の護符の白さに牛を飼ふ 木村蕪城 寒泉
子を連れて戻れと護符の供養河豚 浜井六迦
岩魚釣雪除け護符の背にゆれて 白川節子
弥彦社の護符ふところに杜氏来る 香川はじめ
愛宕護符すぐきの室の入口に 藤本安騎生
方よけの護符苗床の杭に添ひ 高濱年尾 年尾句集
日本の護符もち秋の大陸へ 渋谷道
旧正や戸袋にある鍾馗護符 豊田ふじを
春潮に向けて護符置く海女の小屋 長浜聰子
朝顔や護符に火を打つ鬼子母神 大谷夏木
朝顔市切火の匂ふ護符賜ふ 沢ふみ江
杉の香の高尾の護符や星月夜 水原秋櫻子
梟や社務所賊除け護符祀る 石原栄子
歳徳の護符の舞ひ落つ五日かな 澁谷天眠
海女小屋に年越す護符の釘を打つ 平川とおる
狼の護符を戸口に寒造 勝呂 靖
短日の護符をいただく金閣寺 森田かずや
石手寺の足形護符や蚊遣香 國島十雨
石鎚山の護符を四隅に植田かな 大塚禎子
祈雨の護符またナイターを流しけり 大島民郎
神棚に護符いく重ね夏蚕飼ふ 皆吉爽雨
神無月自在鍵にも護符貼られ 川崎慶子
秋の蚊が火除けの護符に辿りつく 末光美登里
空也忌の護符のひさごの緒の朱く 遠藤みや子
立春大吉護符あたらしく金魚小屋 原 好郎
立春大吉護符新しき料理店 湊 一春
籾種を下して畦に護符をさす 馬越冬芝
腰に護符荒東風の鳶畦に落つ 友岡子郷 遠方
葭蔵に火伏の護符のべたべたと 大石悦子 聞香
蛇除の護符を柱に黴の宿 伊藤柏翠
蟲護符の竹のみ残りおとし水 高田蝶衣
請ひ得てし竃神護符や上元会 田中田士英
護符いくつ貼る階段の途中の空 林田紀音夫
護符のごと目貼を冬の果つるまで 村越化石 山國抄
護符の鈴妻の荷に結ふ山開き 小西 藤満
護符受けて湖艇に戻る冬帽子 宮武寒々 朱卓
護符貼つて牛舎繕ふ厄日前 脇坂啓子
身に沁みてナイルの青の石像護符 高澤良一 燕音
迦具土の護符の厚さよ鍛冶まつり 和田孝子
郭公や久渡寺の護符の練粉餅 広田丘映
重ね貼る鬼除け護符や夏山家 能村登四郎
陶枕に貼られぽつくり寺の護符 六田あき子
隅々や稲虫除の護符 寺田寅彦
離農の護符白く炎えだす凍柏 寺田京子 日の鷹
霜来り護符の白さに野良の富士 百合山羽公 寒雁
露の那智護符にくろぐろ烏文字 宮津昭彦
鬼の護符刷る廬山寺の桔梗かな 飯田はるみ
●斎戒
あしび咲き僧斎戒の堂ひくき 原 俊子
●参宮
なほひまの菜の花日和参宮に 長谷川素逝 村
のり替へし参宮線や春の月 中村吉右衛門
参宮や中ヵ一日の春の雪 尾崎迷堂 孤輪
梅早し参宮なす児清らかに 長谷川かな女 雨 月
船飾りたてて海女らの初参宮 橋爪里浦
●参詣
さいぎさいぎお山参詣稲穂黄に 飯塚田鶴子
ゆつくりと数える数えて道成寺参詣 阿部完市 その後の・集
初諷経はや参詣のありにけり 西沢さち女
千日の参詣見やる舞臺かな 六 降
参詣にわが名記して歳新た 森田かずや
参詣のたばこにむせな雀の子 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
参詣の人に俄かな花の雨 高浜虚子
参詣の人に冬涸れ御講水 高浜虚子
参詣の早くも群衆初不動 高濱虚子
参詣人松葉牡丹を踏みをれり 梅林句屑 喜谷六花
参詣者少なき寺を寒鴉占む 佐脇葭紅
寺の蚊の痩せて参詣の人を刺す 蚊 正岡子規
弁天の参詣絶えぬ桜かな 桜 正岡子規
髪置や参詣まはる清水寺 松根東洋城
●参拝
一張羅カシミヤセーター来て参拝 高澤良一 随笑
参拝の信徒に一施冷豆腐 上田正久日
参拝はその後のこと大根焚 野口かず子
参拝団序破急に過ぎ橋薄暑 平井さち子 紅き栞
鶏頭や参拝順路首塚へ 園部孤城子
●参拝九拝
●三坊
●注連
こもりゐの女ずまひや牛蒡注連 寂人
ころがりてありし瓶子や注連焚火 青畝
さくさめの何に色こき梅の注連 園女 俳諧撰集玉藻集
さへづりや鳥屋に注連張る石の上 中野はつえ
さゝやかな注連をかざりて旅に出る 山内二三子
たゞ一人注連を貰ひに来りけり 岡本松浜 白菊
ながながと又ながながと注連餝り 飾 正岡子規
はづす注連はらりと肩にかかりけり 中村花桐
はなやぎて煙れる注連や竈神 飯田蛇笏 山廬集
まだ暗いかせぎの舟が注連つんで 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
ゆきずりに鉄門の注連寿くべしや 飯田蛇笏 雪峡
リヤカーで運び来るなり注連貰 丸山ひろあき
三浦なる古道辿る注連貰 田部井土来子
上げてある船に祭の注連と旗 森田公司
今年又注連縄売りが柳生から 高岡智照尼
今日は藁言ふこと聞くと注連綯へる 井尾望東
伊勢みちを子のよき声に注連貰 内山芳子
余呉の畦とんで来るなり注連貰 西山満寿
作りたる注連をならべて日もささぬ 岸本尚毅 舜
俎に注連張り鯉切る包丁始 石井大泉
傘杉の注連あらあらし別れ雪 古舘曹人 砂の音
初天帝注連を跨いで昇りけり 木内彰志
吾が句碑も注連賜りて神域に 河野静雲
命綱付けて注連張る那智の滝 後藤静一
命綱神杉に掛け注連替ふる 早淵道子
喜雨来る注連縄太き諏訪大社 横田昌子(笹)
国宝の塔に一本牛蒡注連 高地倭子
国引きの注連かく太き四温光 戸崎千代子
地鎮祭の注連くぐり来し初燕 加藤ふさ子
大年の注連新たまり御神木 香下純公
大注連は人を刎ねつつ作らるる 橋本鶏二
大注連をもう一尋と綯ひにけり 細野恵久
大注連を作りをるものみな氏子 高濱年尾 年尾句集
大注連輪くぐれば関東平野なり 黒川憲三
大津絵の鬼の来てゐる注連貰 関戸靖子
大滝の心頭に注連一文字 伊藤柏翠
天へ跳ね山の祠の牛蒡注連 近藤一鴻
子の造る注連縄青く匂ひけり 佐藤政代
寒造り見るいくつもの注連くぐり 森田公司
小蔀や暖簾の上の注連餝 飾 正岡子規
尾に力ある注連縄を選びけり 鈴木節子
山治む石の祠や牛蒡注連 篠崎一路
山焼のはじめの焔注連囲ひ 渋谷 澪
山神の注連藁塚を二本解く 宮田正和
峰入の泊れる坊の注連すがし 水原秋櫻子
平信の郵便受の注連はづす 植原抱芽
廃船に誰があはれぞも注連かざり 篠田悌二郎 風雪前
悴むや注連を引きあふ陰の石 古館曹人
放屁虫が床をぞろぞろ注連寺 土田啓三
教会につどひてゐたる注連貰 若山すみ江
新涼や注連張り替へし夫婦岩 山本とく江
新藁の注連たかく張り一位彫る 吉澤 卯一
新藁の注連張つてある夫婦岩 道川虹洋
早刈の藁に残る香注連を綯ふ 杉山木川
曳く橇の氷湖に沿へり注連貰 村上光子
月の道まつりの注連を綯ひに行く 大串章 山童記
木に石に注連かけて年改まる 右城暮石
木も石も注連をまとひて神となる 那須乙郎
木綿注連を賜はる朝や時鳥 御子柴光子
松の木の注連繩古し神の春 神の春 正岡子規
椿の葉挟む注連張る修二会かな 牧野春駒
橇曳きて辻につどへる注連貰 増澤正冬
法輪寺みち雪舞ふ中に注連貰 杉山郁夫
注連かけていよよ枯れきる大銀杏 青木重行
注連かけてかつぐ修二会の竹送り 西脇妙子
注連かけて人の住まひぬ昼螢 山本洋子
注連かけて窯を祀れり青嵐 長谷川櫂 虚空
注連かけて鴨の字隠る翁塚 林翔 和紙
注連さげし杉の神木花粉撒く 村上辰良
注連つくり揚舟に背をもたせつつ 手島靖一
注連つくり杉の木の香の空に酔ひ 飯田龍太
注連とりてことに鶏の目夕景色 飯田龍太
注連はずす石狩湾の腕のなか 伊藤二三子
注連はつて天平の井を晒しをり 吉村久子(百磴)
注連はつて真青き箍の和布刈桶 米谷秋風子
注連はづす奥の院より順番に 梶 和雄
注連はるや神も仏も一つ棚 阿部みどり女
注連を焼く子等に雪ふる磧かな 田士英
注連を焼く火のはなびらに雪降れり 野見山朱鳥
注連を綯ふ焚火ほこりを身にまとひ 池原巨桐
注連を綯ふ膝にこぼるゝ日ざしかな 阿波岐 滋
注連を綯ふ藁の強弱知り尽し 石井いさお
注連を綯ふ藁は踏むまじ跨ぐまじ 上田土世起
注連を綯ふ足らざる力夫に貸し 影島智子
注連を飾る母の全き指図受け 奥田たけし
注連冴ゆる俎上が天地式庖丁 野澤節子 遠い橋
注連凍てゝ翁のシテの現はれし 佐野青陽人 天の川
注連切つて青無垢の山開きけり 関森勝夫
注連古りし一樹殺気のみどり苔 河野多希女 納め髪
注連売りの子が七輪を煽ぎをり 若月瑞峰
注連売をさらふ風出て市更けし 長谷川かな女 花寂び
注連太く張る杉山の出入口 田中禾青
注連寺の軒に吊せし干茸 粕谷容子
注連市やあそび雪ふる仁王門 西本一都 景色
注連張って草木のにほふ山の口 宇佐美魚目
注連張つてうしほ濃くなる日向かな 鷲谷七菜子
注連張つて古木は神の木となれり 甘糟怜子
注連張つて氏神の杜暗くなる 福田甲子雄
注連張つて神輿のみちの船溜り 原裕 青垣
注連張つて草木のにほふ山の口 魚目
注連張りて巌も神となりにけり 鈴木幸代
注連張るや神も仏も一つ棚 阿部みどり女 笹鳴
注連張れば神の木となり葉をおとす 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
注連張れる天の真名井に鱒太る 坂口恵子
注連替のひと日に済まぬ三輪の神 長田恵子
注連杉に落花の風の吹きあたる 鈴鹿野風呂 浜木綿
注連焚きし燠浄らかに路地晴るる 小松崎爽青
注連焚きて斎の庭に跡とどむ 青畝
注連焚くや鴎は腋をゆるめつつ 大木あまり 火球
注連焼けば祝詞は山の煙なり 吉田さかえ
注連盗りの来てはざわめきさりにけり 山本ちかし
注連編むや北空こめて馬蹄音 竹鼻瑠璃男
注連縄につながるる巌波の花 梅木酔歩
注連縄に藁の香嗅ぎし今年かな 新谷ひろし
注連縄のあたり光のとどまりぬ 西原天気
注連縄の丈もの立てて年の市 深見けん二 日月
注連縄の大黒柱年迎ふ 中村苑子
注連縄の逞しき縒男の子産め 鷹羽狩行 誕生
注連縄を張つて地震の国の春 川崎展宏
注連貫ひ見知らぬ子供ばかりかな よしこ
注連貰の中に我が子を見出せし 高濱虚子
注連貰の中に我子を見出せし 高浜虚子
注連貰ひの中に我子を見出せし 高浜虚子
注連貰ひ一と霰せし畦跳んで 荒井正隆
注連貰ひ宵の飛雪をかぶり行く 木村陽城
注連貰ひ翼もたねば畦づたひ 加藤有水
注連貰ふ子についてゆく仔犬かな 三村純也
注連貰午後の支局にやつて来し 小田道知
注連貰比良の飛雪を漕ぎもどる 羽田岳水
注連貰湖北の虹をはやしけり 河北斜陽
注連貰風の巷を通りけり 徳永山冬子
注連高く那智の瀧空雲置かず 下村ひろし 西陲集
流氷に注連巻き流氷祭かな 石垣軒風子
涼しさや石に注連張る山の奥 涼し 正岡子規
湯かけ太鼓寒村つんざき注連揺れる 海野梅香
湯始の注連とらまへて立つ子かな 一茶
漁夫涼むうしろの山の太き注連 宇佐美魚目 天地存問
火祭の注連切る太刀は闇も切る 西畑幸子
点火待つ左義長注連をたなびかせ 関口祥子
焼米や棚の御注連を張りかへる 寺田寅彦
生きもののごと松注連縄の焼かれけり 福士冨美子
田の神へ注連あたらしく秋収め 宮田紀美子
石あれば石に注連張り山始 小畑一天
石山寺郵便局の大根注連 高澤良一 燕音
碧落へ注連張つて那智一の滝 肥田埜勝美
磯遊び注連縄掛かる巌まで 矢島渚男 延年
神棚に注連ゆるぎなし新世帯 毛塚静枝
神迎ふ太き纜注連として 道川虹洋
祭注連断ち先生の通夜仕度(先生逝く) 中戸川朝人
祭注連断つ刃を使ふ通夜仕度 中戸川朝人 星辰
禰宜が門注連繩の上なる注繩飾 飾 正岡子規
竃注連や藁の匂ひのまだほのと 荒木睦枝
竜神を祀る注連張り花ユッカ 宮下翠舟
縒りつよき注連縄原子力の基地 高木公園
老年や巨木に注連を張ることも 村岡草舟
色里や朝寝の門の注連貰ひ 岡本松濱
芳しき瑞穂の注連を飾りけり 末永てる
葬ひに誰も出かけず注連を綯ふ 森田峠 避暑散歩
蔦紅葉す注連をはりたる大榎 寺田寅彦
藁の腰強し弱しと注連を綯ふ 香西朝子
蜘蛛の糸はや煤づける注連納 山本村家
蟇鳴くや注連縄ゆるむ椎の虚 古館曹人
裏白の反りをいたはり注連外す 嶋岡茂雄
託(ことづか)る注連・松・牛蒡忘れまじ 高澤良一 宿好
豊作の注連青々と綯ひあがり 山本二千
赤いものこぼしてゆけり注連貰 田村美樹子
道に張る大き注連縄ここから村 米田 一穂
選びたる藁さらに選り注連を綯ふ 細川圭六
鉤引の注連巻き納む樟の下 澤井とき子
鉱山の神露けき鉱石に注連新し 瀧春一 菜園
鉾祭注連縄を断つ稚児の太刀 外園善行
銃負ひて山神の注連替へゆけり 沼澤 石次
鍛冶町より鋳物師町へ注連貰 田中英子
除夜の月機械に注連を張りおわる 飴山實 『おりいぶ』
雪の戸を叩く子のこゑ注連貰ひ 角川春樹
雪嶺に注連新しき若狭彦命 斎藤夏風
雪竿や注連寺への山の道 菅原庄山子
雲しきて山廬の注連井年迎ふ 飯田蛇笏 霊芝
電燈のあかり綯ひ込め注連太く 赤木範子
霧はれるまで注連縄の藁を打つ 福田甲子雄
鞴祀る国見颪に注連吹かれ 大島鋸山
鞴祭の鞴の錆に注連噛ます 吉田鴻司
餅藁の青き香を入れ注連を綯ふ 影島智子
駅頭のまつさをの注連くぐりけり 嶋田麻紀
鬢頭盧尊者注連鉢巻を太々と 山岸美重子
鬼女が飛び飾り注連揺る薪能 浅田聡纓
鴉の巣宿す神杉注連張れる 平山純司
鶏小屋の屋根の古注連嶺嶺そそり 木村蕪城 寒泉
●注連飾
*えり挿しの舟にも小さき注連飾り 佐川広治
あまゆるは風の水光注連飾り 飯田蛇笏 雪峡
たくはえの荒縄小出し注連飾る 相沢たかし
たれも通らぬ山道の注連飾 広瀬町子
ふつふつと地獄の湯壺注連飾る 渡辺流萍
まだ誰も来ぬ玄関の注連飾 神尾季羊
まほろばの上総に住みて注連飾 武田哲子
みごもれる妻にまぶしい注連飾り 石井 保
めんどりのそそくさとして注連飾る 河村正浩
ゆゆしさや滝のおもての注連飾 木津柳芽
ロープウエー起点終点注連飾る 小西領南
一徹の鍛冶屋のふとき注連飾 馬渡清蔵
一頭となりし馬小屋注連飾る 宮田 勝
三日月の繊さや風の注連飾 永井龍男
中吉がよし一文字注連飾る 木股正とし
人生は非可逆変化注連飾る 田川飛旅子
人間といふ淋しさに注連飾る 中村正幸
仕込み倉 常に祈りの注連飾 中 ヤスヱ
仰ぎ見る大注連飾出雲さび 杉田久女
八十路なる父の綯ひたる注連飾 青柳志解樹
半壊のわが家へ父の注連飾 井田みさ子
単身の古りし官舎に注連飾る 桜田和夫
去年より上に釘打ち注連飾る 中村秀子
古井戸のつかはぬままに注連飾 山口青邨
古釘にながきなじみの注連飾 能村登四郎
大銀杏雌雄別なく注連飾る 村上辰良
奥飛騨や金扇つけし注連飾 羽部洞然
女手に注連飾打つ音きこゆ 日野草城
孫を待つチャイルドシート注連飾る 篠崎太嘉男
客室を一戸と見立て注連飾る 合田丁字路
屋島駕注連飾りして並びをり 一都
後楽園の鶴の檻にも注連飾る 浅原ちゝろ
故郷や臼も竃も注連飾 田中寒楼
新妻の差し上ぐる注連飾りけり 橋本自然児
日の在る内購ひおかむ注連飾 高澤良一 さざなみやつこ
曲屋に直屋に同じ注連飾る 佐藤嘉子
注連飾きりりと谷戸の一社かな 波多野爽波
注連飾して鯨揚ぐ大轆轤 沖一風
注連飾の逞しき縒男の子産め 鷹羽狩行
注連飾りうしほ濃くなる日向かな 鷲谷七菜子
注連飾り南の海の静かな眼 川崎展宏
注連飾り手っ取り早く済ませけり 高澤良一 燕音
注連飾り燭に新藁匂ひけり 佐々木春蔵
注連飾る一本の釘しかと打つ 松村明石
注連飾る伊勢の町家の深庇 船井詩織
注連飾る去年の釘の曲るまま 赤尾恵以
注連飾る古き一軒吾が生家 平野六角牛
注連飾る墓の頭に日が平ら 猿山木魂
注連飾る山小屋鈴の鳴る扉 道場信子
注連飾る牛舎に牛の居らずなり 青木廣子
注連飾る茶室火の神水の神 千野湘山人
注連飾る醗酵槽の泡烈し 芦川巣洲
注連飾る間も裏白の反りかへり 鷹羽狩行
注連飾る頼りの釘の古りにけり 谷口稠子
注連飾南に海ひらけたる 森澄雄
注連飾日蔭かづらを掛けそへたり 鬼城
注連飾留守居の鸚哥よくこたへ 福田甲子雄
注連飾終へてくつろぐなにとなく 山本詩翠
洗はれて櫓櫂細身や注連飾 林火
浜小屋に小舟をさまり注連飾る 憲曠
海光のまつすぐに来る注連飾 吉田成子
海峡の巌に登りて注連飾る 藤本保太
溶鉱炉注連飾して真赤なり 富安風生
火の香りしてゐて留守や注連飾り 西山睦
火止めせし窯の余熱や注連飾る 藤谷 紫映
炭住に住み残る戸の注連飾 植田のぼる
炭焼きの七つ道具に注連飾る 谷本圭司
無欲なる夫の横顔注連飾る 福島かなえ
煙筒にて注連飾して川蒸気 高浜虚子
煙筒に注連飾して川蒸汽 高浜虚子
熔鉱炉注連飾して真赤なり 風生
燈台の町に住みつき注連飾 柴田白葉女 『夕浪』
爪立ちてかまどの神へ注連飾 今井つる女
牛の居ぬ納屋の車に注連飾 林 康子
牛の瞳の中へ入りゆき注連飾る 佐野操
狛犬の首に真青な注連飾 藤本安騎生
畑中の神のあらはや注連飾 余子
真つすぐに届く川音注連飾る 光吉高子
祖の打ちし釘に掛けらる注連飾 本庄陣太郎
老人がとる田植機の注連飾 岡部弾丸
老杉も注連飾りして神棲める 大木健市
臼に注連飾りて神の餅を搗く 梅島婦美
舟ごとに注連飾りして堅田びと 所 山花
落ちぎはの山の日のある注連飾り 福島勲
藪口に注連飾して藪の村 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
表札の歪み正して注連飾る 鈴木美佐子
観音様のお水屋に売る注連飾 阿部みどり女 笹鳴
諏訪大社たおやかに注連飾りけり 宮本永子
軒ごとの太注連飾伊勢路かな 染谷彩雲
軒吊の避難舟にも注連飾 野原春醪
造る船なき船台に注連飾り 鈴木鷹視
遠く住む子の空部屋へ注連飾る 宮田富昭
遠賀川文化の土器に注連飾る 野見山朱鳥
門に注連飾りめでたく休診す 高槻青柚子
開けることなき門なれど注連飾 鈴木道雄
鳥船のマストにむすぶ注連飾り 佐川広治
●注連縄（〆縄）
今年又注連縄売りが柳生から 高岡智照尼
喜雨来る注連縄太き諏訪大社 横田昌子(笹)
子の造る注連縄青く匂ひけり 佐藤政代
尾に力ある注連縄を選びけり 鈴木節子
松の木の注連繩古し神の春 神の春 正岡子規
注連縄につながるる巌波の花 梅木酔歩
注連縄に藁の香嗅ぎし今年かな 新谷ひろし
注連縄のあたり光のとどまりぬ 西原天気
注連縄の丈もの立てて年の市 深見けん二 日月
注連縄の大黒柱年迎ふ 中村苑子
注連縄の逞しき縒男の子産め 鷹羽狩行 誕生
注連縄を張つて地震の国の春 川崎展宏
生きもののごと松注連縄の焼かれけり 福士冨美子
磯遊び注連縄掛かる巌まで 矢島渚男 延年
禰宜が門注連繩の上なる注繩飾 飾 正岡子規
縒りつよき注連縄原子力の基地 高木公園
蟇鳴くや注連縄ゆるむ椎の虚 古館曹人
道に張る大き注連縄ここから村 米田 一穂
鉾祭注連縄を断つ稚児の太刀 外園善行
霧はれるまで注連縄の藁を打つ 福田甲子雄
〆縄の太き住宅展示場 増田妙子
手筒花火の男〆縄肩にして 兵藤水美
年の市青〆縄のにほひたつ 石川桂郎 高蘆
●社参
社参せぬ身に降りまされ五月雨 渡辺水巴 白日
●守護矢
●神鏡
唇映せば神鏡に似て冬鏡 中村明子
夏まつり神鏡に母うつりゐる 田口とよみ
幽ければ信ずる神鏡春の雪 鍵和田[ゆう]子 浮標
神鏡にかがやきはなし百足虫這ふ 古田紀一
神鏡に大年の顔うつりけり 小川迪子
神鏡に成人式の雪降れり 江口竹亭
神鏡に映る万花の一牡丹 野見山朱鳥
神鏡に桜紅葉の揺れどほし 上田日差子
神鏡に樫の若葉の照り映ゆる 山田節子
神鏡のわれを捉へて涼しけれ(羽黒山) 上村占魚 『一火』
神鏡の今日の輝き女正月 高木禮子
神鏡の曇りかしこき時雨かな 比叡 野村泊月
神鏡の真正面の鏡餅 粕谷容子
神鏡は少し凸なり冬の靄 細野正子
穢れなき神鏡の空梅香る 山本富万
美しの宮は姫神鏡餅 石崎晋象
落日は神鏡のごと紫雲英田に 鍵和田[ゆう]子 未来図
護摩壇の神鏡煙る施餓鬼寺 氏家頼一
雪嶺が台座神鏡の日が一輪 岡田日郎
黄落の奥神鏡は闇を映し 桂信子 黄 瀬
●神供
●神剣
●神事
うぶすなの神事の和布賜はれり 高橋江翠
おだやかに和布刈神事の夜の明ける 磯野充伯
ご神事の和布刈に門波荒れやまず 西村草生
一神事五月の風を奉る 高木石子
初潮に突出し岩の神事かな 高浜虚子
卯の花の神事ありしをゆくりなく 高濱年尾 年尾句集
古都の春招く神事の火を放つ 山田弘子 こぶし坂
大雪に神事の鯉の匂ひけり 大峯あきら
天霧ひ秘す神事幽事 加倉井秋を
妹の歳告げて幸乞ふ春神事 上村占魚 『かのえさる』
実梅もぎ神事といふはすぐ済みし 井尾望東
宮若葉静もり今日は神事無く 大橋杣男
対岸も和布刈る浄闇神事の火 山田桂三
弓神事待つ境内の大焚火 赤谷ちか子
待春の神事火の粉をよろこべり 中山純子
御田植の神事や禰宜のかちはだし 斎藤梅影
御神事の美しかりし紅葉かな 清水一羊女
我れ見ねど矢取の神事加茂の宮 高浜虚子
手から手へ鷽替神事鼓に果つる 小松弘枝
抗ひの目もて神事の田掻牛 前山松花
料峭のもたついてゐる神事かな 茨木和生 往馬
日月旌日の当りをり祈雨神事 大橋杣男
日脚伸ぶ綱掛け神事覚え書 山本洋子
春灯のとどかぬ神事御鈴鳴る 工藤茶亭
暁闇の神事待つ間の温め酒 伊藤いと子
水送り鵜の瀬の神事詣でけり 橋爪梅子
海峡に神事待つ夜のふぐと汁 河野頼人
渦潮を照して和布刈神事かな 松田禹川
湯立神事天地天地と太鼓打つ 久保 武
潮迅し和布刈神事のすゝみをり 高浜年尾
濃あやめを結びて下げし神事髪 後藤夜半 底紅
煤笹の横たへありし神事かな 後藤夜半 底紅
猫の子に鳴釜神事の不思議かな 中山嘉代
相馬野の神事ひかへし朝ぐもり 下田稔
神事すみぬすびと萩の道帰る 細見綾子 黄 瀬
神事待つ御田の水のゆきわたり 山崎天誅子
神事待つ捨て雛舟の中に坐す 初村迪子
神事待つ黄心樹の花一つ散る 粟飯原幸子
神事近き作り舞台や楠若葉 河東碧梧桐
秋雨のしぶく神事もありにけり 大峯あきら 宇宙塵
竹の花明りに神事すすみゐる 長谷川双魚 『ひとつとや』
粥占や版木古りたる神事帖 渡辺叶夫
背山よりしぐれ尾を曳く神事能 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
船神事終りし港浮寝鳥 小西魚水
花神楽火伏せ神事に月くらし 石川魚子
若布刈神事誘はれゐしを寝ねにけり 藤中和
若狭なるお水送りの神事戀ふ 京極昭子
若竹や神事すませて馬遊ぶ 碧雲居句集 大谷碧雲居
蓑ぬぎて水口祭る神事かな 佐久間法師
袴まで和布刈神事の潮満ち来 宮崎松果
角切の神事の鹿の糞こぼす 鈴木美恵
遠つ世の星も集へり粥神事 内山保子
鉾流し神事つかの間なりしこと 舘野翔鶴
雛流し神事おだやかなる口上 高澤良一 素抱
雛流し神事に余る五千体 竹中碧水史
雪の上に魂なき熊や神事すむ 山口誓子
青淵に映る神事や日短か 大峯あきら 宇宙塵
青潮に炬火抛げ和布刈神事果つ 横山房子
頂の神事は知らず山開 森田峠 逆瀬川
風蘭の香に近づきて神事待つ 浜島君江(若竹)
馬肥ゆる阿蘇の流鏑馬神事かな 松田弘子
●神饌 御饌
むかご飯土鍋に炊いて神饌田守 佐藤うた子
七種の薺神饌田に摘む 皆川東水
初伊勢や真珠のいろに神饌の海 伊藤敬子
南風吹けば神饌に洩れたる水母浮く 田中水桜
外人の眼に神饌の夏大根 月舟俳句集 原月舟
夜祭の神饌に荒稲・秩父柚子 森田公司
岩影に神饌の生簀や寒椿 西村旅翠
神饌となす米洗う紅葉川 西島民江
神饌なべて山川の幸国栖の奏 山田みづえ
神饌に吾名を見るや初詣 鈴鹿野風呂
神饌に山鳥・箒・薪と繭 伊藤いと子
神饌に春大根の一把かな 永井寿子
神饌に産地さまざま今年酒 佐々木久子
神饌に選られし一尾桜鯛 木内彰志
神饌のえび芋揚げて芭蕉祭 田島和生
神饌の一つに加へ蕗の薹 木内彰志
神饌の今年の棉を摘みて干す 野津八洲範
神饌の夜振か天城雨となり 渡辺水巴 白日
神饌の田の荒れ放題や冬の草 伊藤みのる
神饌の芋も大根も洗ひゐず 茨木和生 往馬
神饌の若鮎櫃に移しけり 茨木和生 往馬
神饌の鯛が尾を振る節分会 井山幸子
神饌所にて鯛捌きゐる春祭 茨木和生 野迫川
神饌田守朝餉の萵苣を摘み戻る 朝日澄子
神饌田植うるしづけさかこみ立つ 篠原梵 雨
禰宜来ては神饌田の鳴子鳴らしけり 石山佇牛
荒川の鯉を神饌とし在祭 大西八洲雄
遠つ海の幸の鮪を神饌となす 黒田晃世
金毘羅の神饌田小屋あと薺萌ゆ 水田千風
雁爪をつけて神饌田に集まれり 茨木和生 倭
麓より届く夏越の神饌の鯛 白岩てい子
元朝や朱盃に盛らる御饌の酒 藤井佳子
六夜祭御饌の雌雄の焼き山女 山下智子
初霜や素焼の土器に御饌の塩 玉貫甲子郎
半夏雨しばらく御饌となす鯉に 宮澤 薫
句碑除幕御饌の長芋素直かな 阿波野青畝
句碑除幕御饌の長芋素直かな 阿波野青畝
奥伊勢の御饌田短き稲架を組む 岡村紀洋
山女祭山女の肝を御饌として 海野 勲
油日の神の御饌田の田亀かな 岡井省二
海神の御饌の大鱒大漁旗 阿部月山子
潮垂るゝ初和布を御饌の三方に 金森柑子
●神託
栗鼠が捧げ 大森林へ消える神託 伊丹公子
石をまわって蜥蜴神託をわする 八木三日女 石柱の賦
神託をうべなふ鏡餅の罅 静塔
神託を聴く蟷螂の面構へ 松本旭
●託宣
夏鴉何を託宣国上寺 高澤良一 寒暑
●玉串
仲秋の太玉串を奉る 高野素十
玉串の大は勅使や紀元祭 前川菁道
玉串の榊花もつ夏越かな 大岳水一路
玉串を軍配とせる宮相撲 平松三平
針まつり玉串捧ぐ黄八丈 尼崎たか
●鎮魂
みぞるるや鎮魂の灯を掌でおほひ 平野敏子
万緑へ打つ鎮魂の鐘ひとつ 川井政子
寄せ雪に埃浮き犬の鎮魂碑 平井さち子 完流
恰もや鎮魂の雪降りにけり 小林康治 『華髪』
折り鶴に込めし鎮魂原爆忌 本田幸吉
月斗句碑鎮魂の蟻黒づくめ 塩川雄三
木枯や鎮魂の書を膝の上 加藤耕子
紫陽花は鎮魂の花宗治忌 密田真理子
胸に湧く鎮魂曲(レクイエム)あり雲の峰 仙田洋子 雲は王冠
鎮魂のあけくれ麦茶のみにけり 阿波野青畝
鎮魂の園きらきらと秋あかね 吉田銀葉
鎮魂の岩のレリーフ緑さす 猪俣千代子
鎮魂の心に除夜の鐘を聞く 金堂淑子
鎮魂の手の切り傷よ芒原 原裕 葦牙
鎮魂の潮騒届く余花の寺 横島正子
鎮魂の火の穂短かし広島忌 藤井艸眉子
鎮魂の百合はひらかぬままに挿す 古舘曹人 砂の音
鎮魂の碑文なぞりて旅小春 石川風女
鎮魂の笙あたたむる春火桶 宮下翠舟
鎮魂の錨錆びたり草紅葉 木村里風子
鎮魂の霞の隔つ淡路島 ふけとしこ 鎌の刃
鎮魂の鳩爽やかな風のこし 福田甲子雄
鎮魂や知覧に炎立つ鶏頭花 井上閑子
鎮魂や雨の疎林にすみれ摘み 鍵和田[ゆう]子 浮標
鎮魂碑古りまんさくの花の中 岡田日郎
●燈明
いつしんに祈るその父にともる燈明 シヤツと雑草 栗林一石路
お燈明にこもる巒気や日の盛り 佐野青陽人 天の川
お燈明に花暮れてあり庭社 碧雲居句集 大谷碧雲居
かゞまりて千燈明をなつかしむ 銀漢 吉岡禅寺洞
しぐるるや燈明一つ奥の院 星野椿
はかなさは燈明の油が煮える 尾崎放哉
よみがへるをみなの面輪初灯明 高澤良一 燕音
わが消す灯母がともす灯明易き 古賀まり子(1924-)
五百羅漢御灯明は松の花なりし 渡辺恭子
仏壇に初灯明の火を捧ぐ 笠間愛子
凩や常灯明のしんかんと 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
初午や燈明ゆらぐ鰈の眼 水原秋櫻子
初灯明こぞりて九体阿弥陀仏 竹中碧水史
初灯明オルガン古りし本願寺 石川英子
初灯明上ぐ火打石うちにけり 関戸高敬
初燈明けふ生きてある証とも 杉本寛
初燈明こぞりて九体阿弥陀仏 竹中碧水史
初燈明はえていただく翁面 長谷川久代
初燈明ほのと息づく北御堂 中村月三
初燈明商三代を賀しまつる 鈴木弘子
初燈明揺るるを神の吐息とも 山崎千枝子
初燈明父に会ふごと廬遮那仏 杉本寛
初盆や京より花のお灯明 浜野桃華
千燈明をともすわらべの露の秋 銀漢 吉岡禅寺洞
吹雪く夜の我家の神やお燈明 碧雲居句集 大谷碧雲居
夏桑の中の灯明や御山口 長船
夜桜や灯明ゆらり人ゆらり 広戸英二
大学生今年は卒業初燈明 池上京子
大黒の微笑ゆらゆら初灯明 勝村茂美
寒燈明滅小僧すよすよと眠りけり 寒燈 正岡子規
御灯明ここに小川の始まれり 安井浩司(1936-)
御灯明穂長に芭蕉霊位かな 富安風生
御燈明ここに小川の始まれり 安井浩司 阿父学
御降や昼を絶やさぬお灯明 篠塚しげる
手囲ひに灯明ともし雪舟忌 田面浩一郎
手探りの根本中堂初燈明 高澤良一 燕音
手燈明の火の垂るゝなり露の砂 銀漢 吉岡禅寺洞
抱く琵琶に燈明ゆらぐ初弁天 森田旅舟
新月に燈明もして山廬かな 飯田蛇笏 春蘭
新酒上りて燈明あかし庫の奥 比叡 野村泊月
有明の燈明台をかすみけり 霞 正岡子規
木の洞の虚空蔵様へ初灯明 日守むめ
歳徳や土かはらけの御燈明 西山泊雲 泊雲句集
水仙や灯明き障子月忘る 宮武寒々 朱卓
泣きに来し部屋の秋灯明かりき 田畑美穂子
灯明に神発ちませし暗さあり 片岡片々子
灯明に離れて坐る朧かな 斎藤梅子
灯明のあまたを青葉囲ひかな 山西雅子
灯明のすつと立ちたる余寒かな 星野 椿
灯明のぽぽと次郎柿の山河かな 折井紀衣
灯明の夜霧に潤む除夜詣 森 郁代
灯明の灯をかき立て砧かな 許六
灯明の煙となりし牡丹かな 藺草慶子
燈明にさだかな死後のたなごころ 林田紀音夫
燈明に梅雨沁み辻の秋葉さま 西村公鳳
燈明に綿打初のほこりかな 高田蝶衣
燈明に草木の色や涅槃像 碧雲居句集 大谷碧雲居
燈明に虫も寄らぬや比叡の山 蘇葉 俳諧撰集「有磯海」
燈明に離れて坐る朧かな 齋藤梅子
燈明のひとりでに消え雪の昼 桂信子 遠い橋
燈明の数のいよいよ御開帳 松木百枝
燈明の神々しくも蚕屋深く 安田蚊杖
燈明や禽獣虫魚夜の秋 川崎展宏 冬
燈明をつけて無月の供へ物 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
燈明を肩に歳来る土間竈 長谷川素逝 村
真如堂灯明揺れもせず涼し 伊藤和義
短夜を燈明料のかすりかな 短夜 正岡子規
神祀る燈明二つ露時雨 福田蓼汀 山火
祭来る燈明皿に白き芯 下田稔
結願の灯明太く寒に入る 山口幸代
繭玉に燈明の炎を感じけり 飯田蛇笏 霊芝
荒神や燈明皿の火取虫 竹冷句鈔 角田竹冷
蕣の油ぞ瓦灯明けにける 調鶴 選集「板東太郎」
虚子句碑に一つ燈明和布刈の夜 寺井谷子
蝙蝠の燈明倒しでてゆきぬ 吉田さかえ
衣更へし母とゐて晝の燈明 内藤吐天
足袋にふれし手をすゝぎ燈明奉る 高田蝶衣
過去帳の表紙金襴初燈明 中村青径
雪の雉子燈明二本点りけり 磯貝碧蹄館
青衣の女人燈明凍てて動かざる 大野林火
鳴いて鳴いて燈明背戸の雪に応ふ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
鴨引くと燈明の焔の立ち直り 波多野爽波
鵜の小屋に燈明一つ年は逝く 松井慶太郎
●直会
初天神終へて直会宮の庭 井上光人
直会といふは新酒と鯣なり 猿渡青雨
直会として猿酒を賜りぬ 前川菁道
直会に海女の手料理海開 川原友江
直会に田螺料理や田螺祭 久垣大輔
直会の後の熱燗席和む 石川風女
直会の煮しめの匂ふ里神楽 佐川広治
直会の男が捌く桜鯛 小笠原和男
直会の辛き地酒と納豆汁 山崎千枝子
直会の酒の香に出し地虫かな 吉本伊智朗
直会の雑炊煮立つ神楽笛 佐川広治
神水に冷やせし西瓜直会へ 藤本正子
虫送りたる直会の機嫌かな 猪俣千代子 秘 色
●幣
あららぎの枝に幣つけ穂屋祓ふ 久保方子
うど咲いて例幣使街道の古家かな 村上鬼城
お山颪裸詣りの幣鳴らす 高橋青湖
お火焚の幣燃えながら揚りけり 鈴鹿野風呂
お練りある林檎並木に榊幣 西本一都 景色
かまくらの雪の祠に幣白し 山口誓子
きつつきや湯元の幣の鬼門神 桂樟蹊子
その昔官幣大社の噴井かな 清水 浩
ひとひらの幣ぞ散りきし御田植うる 岸風三楼 往来
ほんだはら幣に仕立てし春祭 茨木和生 倭
み神楽の鈴や御幣や風光る 中勘助
マスクの人水口に幣立ててゆく 藤田あけ烏 赤松
三つ石の幣に静まる冬怒涛 満田玲子
下萌や金の幣立ていくさ神 脇坂啓子
例幣使街道麦笛も横切らず 平畑静塔
例幣使街道麻を刈つてをり 西本一都 景色
先着にあな幣尊と紅葉山 飯田蛇笏 山廬集
切り絵幣風通るたび火が恋し 戸塚時不知
切幣を散らせて伊勢の春田打 升本行洋
初ほたる水口の幣照らしけり 七田谷まりうす
初不動火攻めの御幣躍りけり 泉並末香
初午や大幣立てる藪の口 水原秋櫻子
十和田湖や幣の花かもなゝかまど 渡辺水巴 白日
口開けの切幣肩に和布刈海女 町田しげき
喜雨が来る棚田の畦の白い幣 田浪富布
夏やせの顔に若葉や神の幣(ぬさ) 立花北枝
夏草や官幣大社富士浅間 尾崎迷堂 孤輪
宵ひそと一夜飾りの幣裁りぬ 富田木歩
寒明けの幣の浸りし泉かな 飯田蛇笏 山廬集
小さき幣杖に結びつ富士詣 菅裸馬
小さな幣杖に結びつ富士行者 菅裸馬
少女期の真蒼な顔幣辛夷 川崎展宏
山の神祀れる幣を風ちぎる 矢島渚男 延年
山茶花や火の神白き幣を結ふ 加古宗也
山風に幣ひるがへり簗の秋 楠目橙黄子 橙圃
峠神幣を倒して旅だちぬ 福田蓼汀
幣きざむ静かな音も注連作り 高槻青柚子
幣たてて卸す田舟や蓼の花 井口 秀二
幣たてゝ一水浄き御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
幣たてゝ彦山踊月の出に 杉田久女
幣たてゝ橋の止めある祭かな 岸風三楼 往来
幣のごと手斧に年を畏みぬ 藤村克明
幣ひらひら夜も水口の神います 橋本多佳子
幣もなく藁塚踊りはじまりぬ 豊口陽子
幣をただ替えて山祇初詣 皆吉爽雨
幣を執る氏一系や白しやうぶ 荒井正隆
幣一つ刺されて墳のしぐれけり 上野さち子
幣下げし門おごそかに小望月 長谷川かな女 雨 月
幣張りて女人を絶てり松上げ場 向井富美子
幣摶ちて句碑に入魂花鶏来る 駒木逸歩
幣散つて水吸ふ水口祭あと 山田みづえ
幣束を一つ千切りし春疾風 大塚清子
幣立てて源流といふ岩清水 甘田正翠
幣立てて献穀の田に風光る 小田実希次
幣立てる日田の大簗車窓より 爽雨
幣見えて祭の列の近づかず 長谷川かな女
年立つや畑に幣吊る奥武蔵 角田太一
当り矢に幣の上りし弓始 大野林窓
御幣紛れる 伐採予定の 風の林 伊丹公子 時間紀行
御幣餅串にも柚子の香が沁みて 栗生純夫 科野路
御幣餅熱き息はき秋の霧 栗生純夫 科野路
御幣鯛(おんべだい)献上の島初日さす 高澤良一 鳩信
御神渡神の恋路に幣を振る 川瀬清子
拝殿に幣まだ見えず今朝の霜 佐野青陽人 天の川
揚舟に幣の真白し初凪す 代 五米
春祭すみて幣立つ桑畑 森田公司
暁闇の海へとんどの幣飛べり 壺井久子
暑さ言ふ戸口に赤き三輪の幣 佐野美智
曳山の白幣逸りたつ桜東風 つじ加代子
月白や瀧の真上の幣吹かれ 黒田杏子 花下草上
朝寒や禰宜のさゝぐる白和幣 朝寒 正岡子規
末黒野に窯観世音幣白し 下村ひろし 西陲集
村の神幣立つばかり遠郭公 高井北杜
杜涼し幣に結びし麻一筋 伊藤いと子
松飾焚く火幣より発しけり 皆吉爽雨
桃咲くと檜原の鳥居幣白き 堀 文子
桑畑に幣鍬はじめしたるらし 皆吉爽雨
梅雨冷えや炉端充たして御幣餅 河野南畦 湖の森
歳旦の幣なびかせぬ滝の神 羽田岳水
水口の幣喜びの雨に濡れ 森田 峠
水口の幣汚したる源五郎 美柑みつはる(俳句朝日)
水神の幣の日晒し実南天 石田阿畏子
水薙鳥波の幣めく玄界灘 田中英子
注連作り御幣を差せば神宿る 吉田久代
洪水疫病払ふ幣見つ草蜻蛉 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
浅春の水荒行の幣とんで 古澤久子
湧水の楮晒場幣を張る 判治遼子
湯立獅子神の湯を揉む笹の幣 角川源義
火の神や幣を立てたる切大根 ふけとしこ 鎌の刃
火祭の篝の幣の燃え落つる 高濱年尾 年尾句集
烏帽子来て幣ふる猿や花の春 猿廻 正岡子規
熊笹を束ねたる幣熊祭 茨木和生 遠つ川
田に幣を立て奥能登の虫送り 岡田小夜
田の神の幣にぼつてり霜の華 大熊輝一 土の香
田の神の幣に泥跳ね畦を塗る 半崎墨縄子
田祭の幣立ててすぐ吹かれをり 猪俣千代子 秘 色
番船や神に幣の美を尽し 松瀬青々
白幣の切れ端の飛ぶ枯山中 飯野きよ子
白米の中に幣立て施餓鬼棚 清水ムツミ
的それて幣を落せし弓始め 檜 紀代
磐座に幣ひるがへり年新た 小倉英男
禰宜病みて海女が幣振る海開き 高橋 好温
秋蝉や岩を祀りて幣白く 山西雅子
秋雨や御鏡曇る青和幣 秋雨 正岡子規
秋風や浪にただよふ古幣 飯田蛇笏 山廬集
空風にご幣ひらひら道祖神 斉木うた子
舞ふ燕ときどき白し幣に似し 橋本鶏二
花火師の東に幣を立てにけり 林 周作
苗代田に幣白々と夜明けたり 青峰集 島田青峰
荒神の御幣倒しぬ里神楽 福田蓼汀 山火
荻の葉にかゝる御幣や御祓川 みそぎ 正岡子規
落鮎を待つ簗さみし幣白く 長谷川かな女 雨 月
虫送りすみし幣立ち暁の星 西村公鳳
蝦夷松に幣やゆづり葉年用意 飯田弥伊子
行年や奈良の都の青幣 行く年 正岡子規
襟に幣さし白息の情け言 友岡子郷 遠方
襟に挿すやうに水口に幣を挿す 加倉井秋を 午後の窓
谷川に幣のながるる師走かな 飯田蛇笏 山廬集
赤き幣のいはれはしらず春日影 川崎展宏
赤幣をかざせば春野濃かりけり 細見綾子 黄 炎
赤米の神の田に幣苗代田 河野頼人
辻浄む幣立て替へて針供養 脇坂啓子
遅桜棟に幣たて御師部落 福田蓼汀 秋風挽歌
野分して官幣大社深吉野に 波多野爽波 『湯呑』
鋤初の雨ふりいでし幣かな 飯田蛇笏 山廬集
鐘楼の幣踊らせて春一番 安斉君子
雨乞や多度の社の黒御幣 香原政春
雲海の地に幣生えて眼下かな 駒走鷹志
青田べり幣一本の小神かな 森田公司
青祈祷幣を飛ばしてしまひけり 茨木和生 往馬
風が出てどんどの幣を吹きながす 古舘曹人 砂の音
風に幣鳴ればよろこび贄の熊 鎌田薄氷
飛鳥鍛冶鞴祭の土間の幣 橋本鶏二
髪置きの絞手柄に触るゝ幣 小原菁々子
鮎供養幣吹く風の瀬に立ちて 内山亜川
鵜と禊ぐ水とて幣を立てし桶 辻口静夫
●祈事
●祝詞
だんだんと春社の祝詞早口に 栢野木樵
万緑にあげて祝詞は言葉の祖 赤松[ケイ]子
八重波に向ひて祝詞神迎 金森柑子
初午の祝詞あがつて居たりけり 河野静雲 閻魔
初鴨が沢と祝詞に詠み上ぐる 茨木和生 往馬
四方拝雪にひびきし祝詞かな 山本九曇
地祭の祝詞途切れし夏の雨 酒井 武
天神の梅に祝詞の出だしかな 高澤良一 さざなみやつこ
奉る祝詞の前のさくらんぼ 田中汀氓
左義長の祝詞にたたふ山河かな 大橋敦子
帰ります神ねぎらひの祝詞かな 島田五空
待宵や祝詞上げゐる志賀の宮 矢島渚男 延年
御田植の祝詞参らす蛙かな 橋本いさむ
数へ日の息ととのへて太祝詞 佐川広治
春山に向ひて奏す祝詞かな 高野素十
梅雨に籠り媒酌祝詞暗誦す 青木重行
楽浪の志賀と祝詞や船始 中村与謝男
榾明り祝詞をあげし松聖 阿部月山子
注連焼けば祝詞は山の煙なり 吉田さかえ
浜風や祝詞のながき玉取祭 実近通子
火祭の火を招ぶ祝詞野に奏す 荒井正隆
祝詞すぐ田の風に乗り春祭 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
祝詞の声鶯の谷渡るこゑ 山口超心鬼
祝詞の間蟻を見つむる大祓 高澤良一 素抱
祝詞和し老婆ら下座す寒の砂利 鍵和田[ゆう]子 未来図
祝詞聞く足を遊ばせ七五三 川原友江
穂懸していでや笹葉に一祝詞 三父
縁蔭に兜供養の祝詞あぐ 前田時余
雛流す磯の祝詞の風にとび 峰山 清
青田風井の神祭る祝詞かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
風神を祝詞が讃へ鞴祭 岡本欣也
●初穂
せとにます大海若にうま酒の初穂ささげてさかづきを取る 石槫千亦
やはらかに静かに芒初穂かな 高橋馬相 秋山越
初穂米井桁に組みて比神社 勝山美枝
師と逢ひてすすきに初穂生れけり 村越化石 山國抄
折りそふる梅のからびや粥初穂 史邦 芭蕉庵小文庫
暁の風に初穂の見えかくれ 大河双魚
権現へざつくり切りし初穂置く 伊藤佳代
葉がくれに見えそむ早稲の初穂かな 村上鬼城
●初宮
●初詣
ありのまま白髪のまま 初詣 久保まさ子
いきほひのある絵馬を買ふ初詣 住田歌子
いみじくも奏ずるかけひ初詣 五十嵐播水 播水句集
えりあしのましろき妻と初詣 日野草城(1901-56)
かなめ垣雫してをり初詣 石橋秀野
がん封じてふ石撫でて初詣 藤江朋子
きざはしに一刷けの雪初詣 勝又水仙
くれなゐの袂かかへる初詣 石原八束
さやけさの楢の小川や初詣で 紫影
すみにけり何も願はぬ初詣 川崎展宏 冬
たゞならぬ世に生きるなり初詣 大場白水郎 散木集
ちちははの墓遠く見て初詣 長田群青
ちりひぢの旅装かしこし初詣 竹下しづの女 [はやて]
つちのこ御符に長蛇の列や初詣 川井玉枝
つまづかぬ程の灯ともり初詣 曽我玉枝
ぬかづきて我も神の子初詣 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
ぬかづけば我に立つ神初詣 上野泰 春潮
はや暮るゝ多門寺道や初詣 晁湖
ひよどりの山彦の澄む初詣 田村木国
ひよんの実を拾ひしが幸初詣 田中英子
ひろまへに志賀の湖あり初詣 久米幸叢
ふたたびのふたりとなりて初詣 三嶋隆英
みたらしに杓の灯影や初詣 五十嵐播水 播水句集
ミサの灯の堂の深きに初詣 野田きみ代
一山に薬師三尊初詣 吉原朱雀
一言の願ひも持たず初詣 塩川雄三
三代の歩みそぞろや初詣 長屋せい子
上器に浸みゆく神酒や初詣 高濱年尾
下向路の泉香にたち初詣 皆吉爽雨 泉声
世の幸にいとしやわが幸初詣 池内友次郎 結婚まで
両の手にあまる鈴の緒初詣 五十嵐播水 埠頭
乞食の嬰児貌薔薇色や初詣 正雄
二あし三あし麦を踏みたる初詣 廣江八重櫻
人々を率てちらばりて初詣 虚子
人つゞく方に末社の初詣 日原方舟
人はみな前みてすすみ初詣 小原啄葉
人波に何か淋しく初詣 高木晴子 晴居
人波に吾子さしあげ初詣 為成菖蒲園
人波に旨く乗りけり初詣 高澤良一 宿好
人踏まぬ雪道えらび初詣 白岩てい子
人間の息のあつまる初詣 本宮哲郎
仲見世はあとの楽しみ初詣 今井つる女
住吉に歌の神あり初詣 大橋櫻坡子 雨月
信仰といふにもあらぬ初詣りこの民俗はなほつづくべし 四賀光子
停年の夫ははしごの初詣 ザボ節子
兀として男山あり初詣 富岡犀川
八百楠の囲める宮の初詣 高澤良一 宿好
凍りたる湖わたり来ぬ初詣 田村了咲
初詣あかつきくらき男下駄 石橋秀野
初詣ありあけ月の森づたひ 松浜
初詣いくさなき世のいくさ神 小林呼渓
初詣いつか背中を見られをり 前野雅生
初詣おんぶをしたき母の掌引く 山内サダミ
初詣かはるがはるに犬抱きて 鈴木友寄枝
初詣ことしのひかり射さぬ間を 貞
初詣して三井寺の力餅 森澄雄
初詣せず病院に詰め通す 石井 保
初詣ともなく来たり弁財天 酒井土子
初詣なかなか神に近づけず 藤岡筑邨
初詣なづなの畦を踏みゆけり 谷口ゆり女
初詣はや梅ふふむ人麿社 堀 古蝶
初詣はらからたちの中にゐて 中曾根康弘
初詣みな新しき顔をして 渡辺笑子
初詣よその母子をなつかしみ 富安風生
初詣パートの巫女の幼顔 浦野芙美
初詣マスク清らにかけにけり 吉屋信子
初詣一度もせずに老いにけり 山田みづえ
初詣一期一会の人の波 中山暁代
初詣一社は渡船志賀さまヘ 小原菁々子
初詣丹の橋軋む阿弥陀堂 遠藤アサ子
初詣五十鈴川には銭沈む 山口波津女
初詣五臓六腑に神の酒 水島三尚
初詣今年の鈴のよくひびき 町 春草
初詣仰山いかたこ姿焼 川崎展宏 冬
初詣傘寿の鈴を高鳴らす 宮下秀昌
初詣厄除け塩は小指ほど 小島千架子
初詣双親寿かれと 福田蓼汀
初詣双親寿かれと 蓼汀
初詣受けて平家の赤破魔矢 百合山羽公
初詣古墳に足を伸ばしけり 加藤倶子
初詣古江の廬火なほ燃えて 村田眉丈
初詣吾子とかぞえる石だたみ 北見亮市
初詣善男善女の代に似たり 香西照雄 素心
初詣大吉引けり鳩翔てり 脇坂啓子
初詣夫の蹤ききて女坂 水野龍子
初詣奈良の春日と約束す 瀧澤伊代次
初詣妻にかはりて願ごと 五十嵐播水 播水句集
初詣子の目妻の目きらきらと 松本誠司
初詣寒くせばまる母の肩 依田由基人
初詣小さき宮の神仏 長谷川かな女 雨 月
初詣小鳥屋はまだ熟睡せる 丘本風彦
初詣少年祖母によりそわず 宇野三千女
初詣帝釈さまのよもぎもち 青邨
初詣幾千人の私語の中 正木海彦
初詣扇びらきに大樹の根 辻田克巳
初詣携帯電話の巫女はしる 市川恭子
初詣月明かかりしよべひと夜 池内友次郎 結婚まで
初詣権現の喝いただきに 川北憲央
初詣母の歩幅に合はす旅 岩本敏子
初詣浮世話をして歩く 上野泰 春潮
初詣湖の入江を漕ぎ出でて 小路紫峡
初詣無住の宮の一灯に 川島千枝
初詣熱田の森に鶏のこゑ 木全一子
初詣牧の馬魂碑にも廻る 太田土男
初詣町の真中の大鳥居 河原比佐於
初詣白歯よろしき矢大臣 松藤夏山 夏山句集
初詣神の舌打ち聞えたり 山田みづえ
初詣神鶏凜と歩みをり 大海みつ子
初詣秋葉天狗の赤電車 百合山羽公
初詣空がずんずん進みけり 高澤良一 宿好
初詣空に浮くごと沖の船 八牧美喜子
初詣終へし眉目を海の前 畠山譲二
初詣縁起蒼古の神とのみ 西本一都 景色
初詣羽田航空神社かな 高澤良一 鳩信
初詣耀く月を背にしたり 安藤白翠
初詣薄荷の息が隣から 井上宗雄
初詣観音様の笑みの中 菊地 霞
初詣誰にともなき土産物 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
初詣諏訪は信濃の一の宮 西本一都
初詣賽銭箱の大きさよ 千才治子
初詣身ぬちそこばく悲しめる 『定本石橋秀野句文集』
初詣道の真中をゆく楽し 池内友次郎 結婚まで
初詣遠つあふみの皇子二陵 西本一都
初詣雪とならむ間いそぎけり 源太郎
初詣雪見事なる太鼓橋 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
初詣雷門は狭き門 内田幸子
初詣願ひ少なくなりにけり 小林京子
初詣駒形に来て泥鰌汁 碧童
初詣鳩の和毛を賜はりぬ 小栗正好
千年の楠に手を当つ初詣 園本穹子
印旛沼渡し夜もあり初詣 石井とし夫
厨子暗く祖師在します初詣 永井賓水
参道の直なる歩み初詣 皆吉爽雨
参道の草家点れり初詣 清崎敏郎
口開いて矢大臣よし初詣 青畝
古町の川音に沿ひ初詣 田村了咲
吉ならば末でもよろし初詣 高原滋子
名水の御香の宮に初詣 上野緑峰
君も我も明治の生れ初詣 星野立子
吹き下ろす風いさぎよし初詣 下村梅子
土器に浸みゆく神酒や初詣 高濱年尾 年尾句集
土器の神酒冷たき初詣 池田秀水
境内に入りて風なし初詣 田中王城
境内に美術館あり初詣 高田風人子
外人の鼻の下にて初詣 竹本仁王山
夜風添ふ篝の火の粉初詣 風生
大勢の子供連れたる初詣 松藤夏山 夏山句集
大漁旗高鳴る磴や初詣 藤木倶子
天に舞う鳩地を歩む鳩初詣する(鶴が岡) 荻原井泉水
夫に蹤く帯に鈴鳴る初詣 山田弘子 初期作品
女人坂人声のして初詣 高野素十
女坂人声のして初詣 高野素十
姉妹と母と父なり初詣 永井龍男
嫁ぐ子に市杵の姫へ初詣 山本行々子
嫁ぐ子に紬をゆづり初詣 上村比呂子
子の丈に神籤結ばれ初詣 小川濤美子
子の夫となる人加ふ初詣 毛塚静枝
子を抱いて石段高し初詣 星野立子
子凡な妻になりたき初詣 菖蒲あや 路 地
子授けの神を素通り初詣 倉富あきを
宝庫番と暮れてまかるや初詣 竹下しづの女句文集 昭和十四年
富士小さく小さく見ゆる野初詣 茂里正治
履きそめのかたき鼻緒や初詣 吉屋信子
履き馴れし下駄の響や初詣 堤 俳一佳
山かげ池の氷る末社にも初詣する 荻原井泉水
山の辺のみち踏みもして初詣 茂里正治
山の辺の道少しゆく初詣 山内年日子
山寺の雪やはらかし初詣 篠田悌二郎
山迫り来て飛ぶ雪や初詣 蕪城
山道の掃いてありたる初詣 富安風生
山頂の磐座に来し初詣 茨木和生 遠つ川
岩殿の巌を神とし初詣 赤掘五百里
島人の素通りの陵初詣 上崎暮潮
左右より松の梢や初詣 山口青邨
幡高く畝傍に流れ初詣 鈴間斗史
幣をただ替えて山祇初詣 皆吉爽雨
平凡な妻になりたき初詣 菖蒲あや
年寄りに相応の風初詣 宇多喜代子 象
幼子の一礼深き初詣 吉井秀風
幾泉見て初詣深大寺 皆吉爽雨 泉声
幾谿の灯のつどひ来る初詣 大網信行
広々と大石段や初詣 池内たけし
座標軸しかと固めて初詣 野頭てつお
建国の神に柏手初詣 田原憲治
御手洗の杓の柄青し初詣 杉田久女
恵まれし寿をかしこみて初詣 富安風生
恵方にはかかはりもなき初詣 岡安仁義
我が生の盛衰流転初詣 泰
戦火なき世のとはにあれ初詣 上田正久日
手を合はす姿勢押さるる初詣 塙 きく
押し押され一灯捧ぐ初詣 小笠原扶美女
拝むこと孫に教へる初詣 久保田重之
拝殿の闇おごそかや初詣 上野青逸
提灯にへだてられつゝ初詣 瀧春一
文弱の徒とあなどりそ初詣 高浜虚子
新しき日のなか歩く初詣 千原草之
新句帳一句を得たり初詣 野村喜舟
旅人の己れをたのむ初詣 市野沢弘子
日の歩み人の歩みや初詣 野見山朱鳥
日本がここに集る初詣 山口誓子(1901-94)
星かとも尾根ゆく灯あり初詣 白澤よし子
星の燭頒ちてすすむ初詣 伊藤敬子
星めがけて賽銭投げぬ初詣 青陽人
昼月の東山見ゆ初詣 風間ゆき
月読の荒御霊こそ初詣で 矢島渚男 延年
本厄の娘を誘ひだす初詣 我妻順子
杉山は湖にのめりて初詣 廣瀬直人
杜をゆく馬車の灯もあり初詣 田村了咲
松籟にかんざし揺れる初詣 堀江暁子
松籟の高き札所へ初詣 上崎暮潮
柏手も雄々しくなりし初詣 井上義郎
柏手を打つて句碑にも初詣 木下嶺生
校庭に足止めて去る初詣 斉田輝月
梅早き北野の神や初詣 大橋越央子
楠を一巡りせり初詣 河田青嵐
樹々の黙光るまで佇つ初詣 知世子
樽の香の御神酒を受くる初詣 大関とし子
橋渡ることが禊や初詣 山崎十生
橋越ゆるたびに明けきし初詣 福田甲子雄
機関車は裾も湯げむり初詣 誓子
母としてねぎこと多し初詣 阿部みどり女 笹鳴
氏神の千年杉や初詣 水谷純一郎
水掛けて消ゆる罪あり初詣 江川由紀子
水神に鯉を供へて初詣 登 七曜子
氷らざる岸ありすすぎ初詣 皆吉爽雨
氷上の径野につづき初詣 田村了咲
海光の江の島山や初詣 不破 博
海神に捧ぐる櫂や初詣 北山新樹
海見ゆる高宮を選り初詣 茂里正治
海路にて着きし熊野の初詣 川口美江子
渾身の鐘ひとつつき初詣 若木 睦
満潮に赫奕と日や初詣 大橋敦子
滝音に近づいて行く初詣 保坂嘉子
潮退きて徒で小島へ初詣 森田 峠
火の方に集まつて来る初詣 秋篠光広
灯の中の濃きは篝火初詣 岩淵喜代子 朝の椅子
爛漫と鳩を翔たしめ初詣 福田蓼汀
珊瑚玉首より垂らし初詣 上村占魚 『かのえさる』
生涯をこの地と決めて初詣 水沢源治
生涯を一陶工や初詣 吉村陶季
田に父子の影落しゆく初詣 大谷利彦
白猫の尾の黒きをり初詣 田村千勢
白鷺に逢ひし一事や初詣 原コウ子
知らぬ子の手の堅かりし初詣 星野明世
石段に一歩をかけぬ初詣 高浜虚子
石段のなき玉津島初詣 中谷楓子
石段の変らぬ堅さ初詣で 桂 信子
磯の鵜を車窓にかぞへ初詣 中山純子
磴に見て紀の海蒼し初詣 直江藤三郎
社運かけ二十数名初詣 深見けん二 日月
祖師はわが隣の上人初詣 山口青邨
神の名は頭にあらず初詣 長谷川 久
神域に信号つけて初詣 和田郁子
神慮いま鳩をたゝしむ初詣 高浜虚子
神慮今鳩をたゝしむ初詣 高浜虚子
神橋のことに飛雪裡初詣 皆吉爽雨 泉声
神籬によれば鵯なく初詣 岸風三楼 往来
神饌に吾名を見るや初詣 鈴鹿野風呂
種子明かす手品師も居し初詣 竹下しづの女句文集 昭和十一年
篝火の金銀舞へり初詣 矢納満江
簪のゆれつゝ下る初詣 山口青邨
紀の国は木の神多し初詣 山川喜八
絵馬の馬宙にとどまる初詣 藤岡筑邨
老杉の直ぐなるに立つ初詣 原 和子
胸突きの二百の磴や初詣 中村雄松
脇宮も洩れなく賽し初詣 島村茂雄
自らを炎となさむとて初詣 桂信子 樹影
自ら定まる心初詣 高木餅花
舌うつて末世の神に初詣 斎藤玄
船寄せて島の宮居へ初詣 浅海津舟
荒汐のとりまく島へ初詣 鈴木真砂女
葛城にかかる虹あり初詣 南光翠峰
藪いでて又畦をゆく初詣 風三楼
蛇女見たくて来たる初詣 茨木和生 倭
蛸焼きの紅に日のさす初詣 沢木欣一
蛸焼の紅に日のさす初詣 沢木欣一
蟇自若たり石のごと身じろがず 三宮初詣
行く道の直ぐなるはなし初詣 青木重行
裏山は松が枝ばかり初詣 桂信子
護摩の灰髪にかざして初詣 市川 良
賽銭の響きゆゆしき初詣 伊藤セキ
賽銭を手裏剣投げに初詣 木田千女
走り根の薄雪被く初詣 加藤高秋
起承転我還暦や初詣 岩田沙悟浄
足伸ばし岬の宮へ初詣 小島雅夫
辻といふ道の不思議を初詣 鷹羽狩行
道々のこゝ宮戸川初詣 小澤碧童 碧童句集
道いつか平らかになり初詣 桂信子 遠い橋
道順は変ることなき初詣 川上潺々
野球部の大声の初詣かな 甲斐多津雄
金星のひたと蹤きくる初詣 川鍋絹子
鎌倉に馬車あり乗りて初詣 松本たかし
鎌倉は春の如しや初詣 池内たけし
鎌倉を日照雨が通る初詣 西山睦
門を出て星の高さや初詣 池上浩山人
降りやみし薄雪惜み初詣 後藤夜半
階に御鬮のちりや初詣 橙黄子
随身の美男に見(まみ)ゆ初詣 竹下しづの女句文集 昭和十一年
頂へ道の集まる初詣 高澤良一 ねずみのこまくら
願い事一つにしぼり初詣 羽鳥たま江
願ぎ事はもとより一つ初詣 高浜虚子
願ふより謝すこと多き初詣 千原叡子
颯颯と祓はるる厄初詣 奈良文夫
飛梅に傘ひしめくや初詣 白水郎
駅三つばかりを乗りて初詣 竹腰八柏
鳥居中遠くの鳥居初詣 深見けん二
鳩下りて羽もつれあふ初詣 鷹羽狩行
鳩舞へる行手の宮や初詣 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
鳴り龍の鳴り上々や初詣 佐々木敏則
鴨川の風いさぎよし初詣 岩崎照子
●破魔矢
あだ守る筑紫の破魔矢うけに来し 杉田久女
あと厄もすみし今年の破魔矢かな 啼魚
あらそひて破魔矢を拾ふ鬼神祭 岡崎泊葉子
いつ帰り来しや破魔矢は卓の上 今井千鶴子
おみくじをにぎり破魔矢をかざしゆく 高木晴子 晴居
これよりは一誌を肩に破魔矢受く 西山陸
ぞろぞろとふるさと動く破魔矢かな 甲斐多津雄
たてかけてあたりものなき破魔矢かな 高濱虚子
ちはやふる破魔矢の鈴に初の闇 原裕 青垣
どう持つてゐても破魔矢の晴れどほし 嶋野國夫
なほもつて余生働く破魔矢うく 鈴木真砂女 夕螢
はぐれゐし夫かも破魔矢高々と 築城 京
ひとところ羽離れ深き破魔矢かな 加倉井秋を
みくじ吉破魔矢に結び帰りけり 藤松遊子
わが句碑は破魔矢かざして詠む句碑ぞ 後藤比奈夫 めんない千鳥
わが寝屋の闇の一角白破魔矢 橋本多佳子
わが書屋破魔矢をさしてととのひぬ 岩崎照子
わが門に戻りつきたる破魔矢かな 高浜年尾
をりからの雪にうけたる破魔矢かな 久保田万太郎 流寓抄
バス揺れるたびに破魔矢の鈴が鳴り 松本穣葉子
一九九九年の破魔矢かな 五島高資
一団の誰も破魔矢を手にしたる 久保ともを
一壷あり破魔矢をさすにところを得 高浜虚子
一年を壺に古りたる破魔矢かな 上野泰 春潮
一本の破魔矢に起ち居あらたまる 橋本貴美
一本の破魔矢余生を護るべし 青畝
一本の破魔矢受けたり軽きかな 稀音家塔九
三日はや破魔矢をつつむ旅ごころ 古舘曹人 樹下石上
上の字の袋きせ置く破魔矢かな 阿波野青畝
九人目の比古なる孫に美き破魔矢 後藤夜半 底紅
人のくれし破魔矢長押に病み通す 稲垣きくの 牡 丹
人形の目の逸れてをる破魔矢かな 上野泰 佐介
人波の上を破魔矢の流れゆく 篠田典子
仇まもる筑紫の破魔矢受けに来し 杉田久女
今年また破魔矢を挿して壷古りぬ 吉屋信子
付き添いし孫の未来へ破魔矢受く 村田芳水
伊勢講の婆の土産は破魔矢なり 楠 節子
値札見て選ぶ破魔矢の神かろし 黒谷博楽子
儒門の子からだ☆き破魔矢かな 山口誓子
児の握る破魔矢の鈴の鳴りどほし 藤田郁子
八幡宮破魔矢握りて五十段 高澤良一 素抱
冷込んで来たる破魔矢をいただきぬ 岸田稚魚
切先に比叡の雪嶺破魔矢受く 山田弘子 こぶし坂
切通破魔矢かざせば海が見ゆ 宮下翠舟
初旅の破魔矢挿す荷を枕上み 茂里正治
初詣受けて平家の赤破魔矢 百合山羽公
十年の知己の如くに破魔矢受く 山崎十生
反り橋は朱の太鼓橋破魔矢買ふ 田中水桜
受けもどる破魔矢にはつしはつしと日 皆吉爽雨
古壷にかたと音して破魔矢挿す 高浜虚子
吊橋を人帰り来る破魔矢手に 田島魚十
向妙の破魔矢たづさへ男の子なき 草村素子
吾も持ち人も持つなる幾破魔矢 久米正雄 返り花
壺中なほ去年の闇あり破魔矢挿す 肥田埜勝美
大風の夜を真白なる破魔矢かな 渡辺水巴 白日
天空に神の弓あり破魔矢うく 上野 泰
嫁ぐべき娘に持たせたる破魔矢かな 永井龍男
子が持ちし破魔矢の鈴を探しけり 角川春樹 夢殿
子に破魔矢持たせて下りぬ男山 金久美智子
子に破魔矢持たせて抱きあげにけり 星野立子
子の持ちて破魔矢の小鈴昂りぬ 星 多希子
孫のやうな巫女に礼して破魔矢受く 和田春雷
実朝の海より生れし破魔矢享く 北澤瑞史
左手には破魔矢右手には松葉杖 品川鈴子
師を神と畏敬すこころ破魔矢うく 鈴木白祇
年々の破魔矢立てたり高麗古壺 長谷川かな女 牡 丹
幸矢とて袖をあてがふ破魔矢かな 後藤夜半 底紅
御神馬の厩舎の柱破魔矢挿し 小原菁々子
戀の矢はくれなゐ破魔矢白妙に 山口青邨
戒名は「雄魂」亡き子の破魔矢受く 香西照雄 素心
手に持てる白羽破魔矢に海荒るる 野見山朱鳥
折からの雪より白き破魔矢享く 鶴丸白路
抱きし子に持たせて長き破魔矢かな 松本たかし
抱き戻る破魔矢の白と京の冷 山田弘子 螢川
挿して置く破魔矢の影の添ふ如く 池内たけし
授かりし破魔矢の火山灰を払ひけり 梶原 宇良
掌に享けて鈴の止みたる破魔矢かな 加倉井秋を
摩多羅神破魔矢を放つ天に向け 岡崎泊葉子
教へ子の巫女より享くる破魔矢かな 松本三千夫
教へ子の巫女より破魔矢受けにけり 甲斐遊糸
新幹線の棚の破魔矢の飛ぶごとし 鈴木栄子
早立の山荷に破魔矢挿しゐたり 神田 岩魚
月山の月さす破魔矢受けにけり 勝山 耕南
東京湾フェリー破魔矢の鈴が鳴り 宮腰秀子
松ヶ枝に破魔矢のとどく肩車 小早川 恒
松風の小径となりぬ破魔矢持ち 吉屋信子
森の冷え破魔矢もつ手に及ぶなり 稲垣きくの 黄 瀬
此の書屋美しと定まる破魔矢かな 阿波野青畝
歩にあひて鈴のよく鳴る破魔矢かな 山口峰玉
江ノ島の浪と真白き破魔矢かな 佐野青陽人 天の川
沖の浪白し破魔矢を袖に抱く 秋を
浅間さん詣で破魔矢を高かかげ 高澤良一 ぱらりとせ
浪花女の背中にさしし破魔矢かな 吉田冬葉
海人の子に真紅の破魔矢にぎらしむ 原田喬
海沿ひに破魔矢の鈴の行くことよ 川崎展宏
瀬戸内の一夜に荒れし破魔矢かな 古舘曹人 樹下石上
灯を消してなほ確かとある破魔矢かな 永井龍男
無事厄を終えし破魔矢を炎とす 川端静子
無造作に束の破魔矢や巫女溜 立花杢公
片耳に破魔矢の鈴をあそばせる 関洋子
生意気小僧忘れてゆきし破魔矢かな 八木林之介 青霞集
男山仰ぎて受くる破魔矢かな 高浜虚子
病室へ入り来破魔矢の鈴鳴らし 右城暮石
病巣を射よと授かりたる破魔矢 品川鈴子
白妙の破魔矢いだきて夫子なし 菖蒲あや あ や
白妙の破魔矢をかざす童かな 杉山とし子
白破魔矢武に苦しみし神達よ 橋本多佳子
白破魔矢潮騒空にひろがり来 友岡子郷
白雲の白を移せり諏訪破魔矢 静塔
白雲の立ちつぐ山の破魔矢かな 村田 脩
破魔矢あり壺に一枝の梅も咲き 岸風三楼 往来
破魔矢あり追儺豆買ひ忘れても 及川貞
破魔矢うけたゞはぐれじと酉の市 及川貞 夕焼
破魔矢うけて帰路八方のわが一路 稲垣きくの 黄 瀬
破魔矢さし机辺めでたく片づける 播水
破魔矢さす襟や五十の恋いかに 小林康治 玄霜
破魔矢とて湖国枯葦かざし舞ふ 加藤耕子
破魔矢など天に射れどもむなしさや 山口青邨
破魔矢に揺れる小鈴や女性やさしかれ 中村草田男
破魔矢の子乗せて始発の鹿島線 鹿志村のぼる
破魔矢の巫女なかに一人の眸の大き 和久田隆子
破魔矢の鈴師の星父母の星呼べり 奈良文夫
破魔矢の鈴暗闇にまた海の音 川崎展宏
破魔矢の鈴路ゆづるとき鳴りにけり 山部栄子
破魔矢もつほかに女の支へなし 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
破魔矢もつ人神前をよぎりけり 星野立子
破魔矢もつ父子の影を浜に曳き 宮下翠舟
破魔矢もて獅子身中の虫は射よ 安住敦
破魔矢ゆきあとまたねむるなまこ壁 龍太
破魔矢より鈴をはづして弄びけり 原裕 青垣
破魔矢一矢貧しき書架に禅されたり 石田波郷
破魔矢享く吾に白羽の矢が当れ 品川鈴子
破魔矢享く巫女の全身無表情 河野 薫
破魔矢享く神に告ぐべき事告げて 雨宮昌吉
破魔矢享け降る筑波嶺雲に入る 小林 碧郎
破魔矢受くちひさき生命片抱きに 岡本差知子
破魔矢受く今年も酔うてゐたりけり 鈴木鷹夫 春の門
破魔矢受く多摩の横山霞む日を 水原秋櫻子
破魔矢受く子は父となり母となり 長谷川史郊
破魔矢受く山城の国一の宮 後藤比奈夫 めんない千鳥
破魔矢受く手に手が触るる臨時巫女 竹中碧水史
破魔矢受く曉光すでに沖にあり 向野楠葉
破魔矢受く母となる日の近き娘に 伊東宏晃
破魔矢受く紅顔なれど検事たり 加治幸福
破魔矢受く転ばぬ先の杖となし 相原一枝
破魔矢受けし第一番の男かな 高浜年尾
破魔矢命中それからの赤い糸 小池 都
破魔矢得てカメラにポーズ媼かな 渋沢美代子
破魔矢得て飛雪の磴をひたに下る 正雄
破魔矢手に人ごみに子を探しをり 高濱年尾 年尾句集
破魔矢手に今年を恃むこころ切 稲垣きくの 黄 瀬
破魔矢手に大和心のありやなし 後藤比奈夫 めんない千鳥
破魔矢手に汚き雪を蹴りに蹴る 岸本尚毅 舜
破魔矢手に生田の森を出で来たる 千原叡子
破魔矢抱くやわれを貫く白きもの 塘柊風
破魔矢持ち海底人道行く一家 森松まさる
破魔矢持ち膳所で降りたる夫婦かな 高澤良一 燕音
破魔矢持つ人のうしろに鉛筆もつ 小檜山繁子
破魔矢持つ童女吉祥天なるよ 楠節子
破魔矢挿して一隅寧きくらしあり 稲垣きくの 黄 瀬
破魔矢挿し夜は白妙の睡りかな ほんだゆき
破魔矢挿す女ざかりの夜の髪 後藤比奈夫 初心
破魔矢掲げ仲見世遂に膨らんで 石田素
破魔矢欲し武蔵野の風荒ければ 桂子
破魔矢白し今日いまだ客に触れず 渡邊水巴 富士
破魔矢立て一人書斎に立て籠る 岬 雪夫
破魔矢置く寺の畳の青海波 平畑静塔
破魔矢触れ梅の蕾をまなかひに 吉屋信子
破魔矢買ふ母の白息触れしものを 橋本美代子
破魔矢長く持ちて車の助手席へ 藤本草四郎
神山に近く住みなし破魔矢受く 山口白甫
空席に破魔矢を寝かせ湖西線 鈴木鷹夫 大津絵
空青し破魔矢の人を追ひ越して 岩田由美
立ち並ぶ破魔矢の店や男山 木犀
笹山に入りて破魔矢の鈴さわぐ 宮岡計次
箔を押す鏑雁股破魔矢かな 田中田士英
紅梅や盆の破魔矢に切火飛ぶ 渡邊水巴 富士
翠張につらぬきとめし破魔矢かな 飯田蛇笏 山廬集
肩車されて破魔矢を握りしむ 山崎矢寸尾
膝までの長枇はきて破魔矢受く 飯川久子
船上に破魔矢の鈴の鳴りにけり 大木あまり 火球
荒矧の破魔矢なれども金の箔 久米正雄 返り花
葛飾や舳さきに坐る破魔矢の子 角川春樹 夢殿
藪をゆく破魔矢の鈴の鳴り通し 岸本尚毅 舜
谷雲にそれてながるる破魔矢かな 飯田蛇笏 山廬集
買ひてすぐ羽をいたはる白破魔矢 橋本美代子
赤ん坊の手のつかみたる破魔矢かな 細川加賀 『玉虫』
軍靴はもう鳴らぬ砂利道破魔矢買ふ 佐々木英子
追越すやなお先をゆく破魔矢あり 信子
追越すやなほ先をゆく破魔矢あり 桂 信子
運ついてまはる破魔矢をうけにけり 山本蓬郎
還暦に破魔矢の鈴の殊に鳴る 森田智子
金よりも銀美しき破魔矢かな 串上青蓑
金色の一トすぢはしる破魔矢かな 久保田万太郎 草の丈
釜山までわづか破魔矢の距離なりし 横尾桂子
鈴鳴つて鞍馬を越ゆる破魔矢かな 鈴木鷹夫 大津絵
雨の電車破魔矢の鈴の鳴りにけり 星野すま子
電車待つ人の手に手に破魔矢かな 吉屋信子
電車降り月明らかに破魔矢持ち 深見けん二
青き目の舸子海神の破魔矢受く 野中 春艸
風寒し破魔矢を胸に抱へくる たかし
高々と破魔矢かかげて渡舟客 山田弘子 初期作品
高きより破魔矢でかぞへ島の数 鷹羽狩行(1930-)
●祓
あをあをと水無月祓過ぎにけり 筑紫磐井 野干
いぐし奪ふ人の羽音や御祓川 高井几董
かげろふやいせの御祓捨てある 成美
かは風にうしろ吹かるゝ御祓哉 みそぎ 正岡子規
くらがりに人うづくまる御祓かな 松尾静子「現代俳句全集」
ちやぽちやぽと腹で酒鳴る川祓 茨木和生 三輪崎
つくばふた禰宜でことすむ御祓哉 蕪村 夏之部 ■ 宮島
つくばへば石のほとぼる御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
ぬばたまの晦日祓の恐ろしき 高野素十
のれんかけ替へて夏越の祓かな 吉田みち子
むつかしき神の名となへ大祓 山上樹実雄
むにゃむにゃにむにゃむにゃ和せる大祓 高澤良一 素抱
もやもやと老人のゐる夏祓 小原啄葉(俳句)
よき齢を召されし禰宜や夏祓 深見けん二 日月
三味線の稽古にはげみ夏祓 深見けん二
三山に明日立つ人の御祓かな 菅原師竹句集
予期せざる鱶の刺身や夏祓 長井通保
人立ちて舟のゆれたる御祓かな 宇佐美魚目 天地存問
伏姫の御祓せしとふ清水ありや 寺田寅彦
修祓のさかき緑雨を滴らす 伊藤敬子
傘さして禰宜のこゞめる御祓かな 静塔
兎に角に御祓も過ぎて夜半哉 みそぎ 正岡子規
冠の紐吹く風や御祓川 会津八一
出水の賀茂に橋なし夏祓 蕪村 夏之部 ■ 宮島
加茂川に日の衰へし御祓かな 村山古郷
吹く風の中を魚飛ぶ御祓かな 芭蕉「真蹟画賛」
唐崎の松の下なる祓かな 下村梅子
堰石に土器灯す御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
夏中の身持やよろづ御祓川 大坂-六翁 元禄百人一句
夏帯や鈴鹿の御祓せしめ縄 宗因「糸屑」
夏祓古き円座のあるばかり 高木石子
夏祓大峰山の御符届く 伊藤敬子
夏祓御師の宿札たづねけり 其角「華摘」
夏祓海女が脱ぎたる濡れ草履 門伝史会
夏祓目の行く方や淡路島 嵐雪「薦獅子集」
夏祓薩摩太鼓にはじまれり 田中政子「水標」
夕がほの宿や御祓(みそぎ)の戻りかけ 立花北枝
夕されば松籟さむき御祓かな 岸風三楼 往来
夕祓御衣大いに翻り 飯島晴子
夕虹も消えて御祓の流れかな 闌更「三傑集」
夕闇は賀茂にとく濃き御祓かな 岸風三楼 往来
大小の三宝四つ大祓 高澤良一 素抱
大祓の触れ立つてをり夏蓬 元池静子
大祓梛の下風吹き抜けり 高澤良一 素抱
天照や梅に椿に冬日和 鬼貫 (大神宮の御祓を備へ花の色々とり添て)
太箸や御祓の木のあまりにて 言水
小短冊巳の日の祓かき流す 岡野知十
山に向ひ流るゝ川や夏祓 富田うしほ
山へ紙ひらひらとんで御祓かな 宇佐見魚目
山伏は俄か支度や大祓 薗部庚申
山川に星配りたる御祓かな 山田みづえ
山杉に霧ふりかゝる夏祓 山中不艸
川ぞひを戻るもよしや御祓の夜 白雄「白雄句集」
川下に牛洗ひ居る御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
川祓吾は脛まで子は膝まで 品川鈴子
川風に烏帽子かゝへて御祓哉 既白
川風に背中吹かるる御祓哉 正岡子規
幣たてゝ一水浄き御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
年のはやなかば流れつ御祓川 山口素堂
式次第とどかうりなく大祓 高澤良一 素抱
御祓してはじめて夏のをしき哉 みそぎ 正岡子規
御祓して帰るたもとに蛍かな みそぎ 正岡子規
御祓して帰れば西に星の飛ぶ みそぎ 正岡子規
御祓して星一つ飛ぶ西の空 みそぎ 正岡子規
御祓して浅き流れや石光る 河東碧梧桐
御祓する禰宜はやまぶの川社 凡兆「荒小田」
御祓すんで冠を置く石の上 大橋櫻坡子 雨月
御祓や砂地をはしる足のうら 内藤丈草
御祓受く海女砂浜に正座して 大西生子
御祓終へぬ京は山川清浄と 飯尾峭木
思川白きもの立て夏祓 阿波野青畝
懐に笏や烏帽子や御祓禰宜 西山泊雲 泊雲句集
明日よりは七月となる祓かな 成瀬千代
晩婚のカラー冷たく祓受く 北野民夫
暗い磧をほのかに御祓すと遠見る 梅林句屑 喜谷六花
朝霧を払ふや風の御祓川 守武
梶の葉の深きくびれも夏祓 斉藤啓子(青海波)
森の中夏越祓の禰宜と会ふ 武内ひさし
榧青実にほへる下の大祓 高澤良一 素抱
樹の洞に蛇の入りゆく夏祓 甲子雄
橋桁に触るる斎串や川祓 武田紀久江(繪硝子)
橋殿に朗詠おこる御祓かな 下村非文
橋殿に燭ぞまたゝき御祓かな 岸風三楼 往来
橋殿に燭奉る御祓かな 吉田愛子
水ぎはに蘆の騒げる夏祓 大石悦子 群萌
水上はふんどし洗ふ御祓哉 正岡子規
水底の散銭ふんで御祓かな 随古「平安二十歌仙」
水音を止めて始まる夕祓 中村泰子
沢瀉による傾城や御祓川 蕪村「落日庵句集」
泪して命うれしき御祓かな 樗良「樗良発句集」
海川や御祓のあとの雨の声 加舎白雄
湯のあとを父と歩きぬ大祓 鈴木太郎
滝の前並びて受くる祓かな 橋本鶏二 年輪
火渡りの童女押し出す夏祓 平賀扶人「風知草」
灸すゑて仕舞ひたりける御祓かな 越人「三つの顔」
烏きて水を飲みをる御祓かな 西山泊雲 泊雲
爪たてゝ蟹の出てくる御祓哉 みそぎ 正岡子規
牛引て通りかゝるや御祓川 みそぎ 正岡子規
狩衣に風はらませて大祓 高澤良一 素抱
畏くも苔蒸す斎(には)に大祓 高澤良一 素抱
畦道を禰宜につく児等御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
白干や大井にかへす御祓串 言水「東日記」
祓戸の神に雨ふる春落葉 藤田あけ烏 赤松
祝詞の間蟻を見つむる大祓 高澤良一 素抱
神の灯のみな灯されて夏祓 藤井乃婦
神主の出を待つ木履大祓 高澤良一 素抱
神主の衣冠風ある御祓かな 松藤夏山 夏山句集
神鳴の次第に近き御祓哉 みそぎ 正岡子規
禰宜の沓道踏み欠きし御祓かな 阿波野青畝「国原」
竃祓百地三太夫の家も 山中みね子
笏をもて*まくなぎはらひ御祓かな 青畝
絹をひく水の流れや御祓川 会津八一
老禰宜の坐作ゆるやかに夏祓 安達棟月
脳天に小さき赤丸夏祓 宮田祥子
舟人の腰蓑洗ふ御祓かな 渡辺香墨
船頭の昼寝覚むれば夕御祓 岡本癖三酔
茅の香のまづ立ちてきし夏祓 中司信子
草の戸や畳かへたる夏祓 炭 太祇 太祇句選後篇
草深き径戻るや夏祓 六山
荻の葉にかゝる御幣や御祓川 みそぎ 正岡子規
藪影の川さしわたる御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
蘆の花折りて船出の祓せん 才麿
蚊とんぼのやうな神主大祓 高澤良一 素抱
蛍火のあはれちさきも御祓川 岸風三楼 往来
越の野に会ふ川三すぢ川祓 本多静江
車椅子の母と夏越の祓受く 熊田鹿石
郁子の花女竹に咲けり祓川 村田青麥
里人は能して遊ぶ御祓かな 句空「類題発句集」
闇美し泉美し夏祓 高野素十「野花集」
降神の太鼓一打や夏祓 白井新一
雨雲の烏帽子に動く御祓哉 みそぎ 正岡子規
青猫のよぎりて吹かる竃祓 高島征夫
面八句神恋せじ御祓川 井原西鶴
顔舐めて横浜の猫夏祓 大木あまり 火のいろに
風吹て口髭そよぐ御祓哉 みそぎ 正岡子規
鳥も来よ虫も参ぜよ夏祓 矢崎良子(ランブル)
鶏のしづかな顔や夏祓 綾部仁喜 樸簡
●火伏札
もみがらを踏み配りくる火伏札 辻桃子
人日や端の焦げたる火伏札 関戸靖子
寺の子の火伏札刷る年用意 平賀寛子
山廬忌や煤けてしるき火伏札 竪 ヤヱ子
梟や柱に古ぶ火伏札 高橋悦男
火伏札貼って年木を積みにけり 池田とみ子
火伏札貼り足すことも神の留守 及川秋美
雪風の剥がしにかかる火伏札 太田土男
●奉燈
すでに荒奉灯渚に出でずとも 加倉井秋を
大沢へかけて露天や奉灯会 山中納士
奉灯の火浦の生活の火に加ふ 加倉井秋を
奉灯宿帷がくれに老の海女 加倉井秋を
●奉納
からくり奉納注ぐ秋日に手をかざし 高澤良一 素抱
よき馬や櫻に曳て御奉納 村上鬼城
六斎の奉納すみし夜蝉鳴く 奥村茂風
千姫の奉納羽古板古りにけり 稲荷島人
大鋸を奉納の宮霧うごく 川崎展宏
奉納のしやもじ新らし杉の花 杉田久女
奉納の和歌と留守なる神の和歌 後藤夜半
奉納の土俵新藁にて囲む 花谷和子
奉納の子泣き相撲や春立てり 町田千鶴子
奉納の巫女の舞ひゐる夏衣 上原信子
奉納の手型の絵馬や七五三 佐野たけ子
奉納の手拭こほる月夜かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
奉納の白き幟や冬木立 冬木立 正岡子規
奉納の白馬を見上げ吉宗忌 圓生智子
奉納の繭も慈姑も新嘗祭 三谷いちろ
奉納の赤手拭や春の風 蘇山人俳句集 羅蘇山人
奉納の鮪ごろりと初戎 西脇妙子
奉納をされし頬白囀れり 茨木和生 倭
奉納太鼓宮の淑気を揺さぶりぬ 畑中良子
奉納相撲野太き漁婦の声飛びて 長谷川閑乙
奉納繭の粒を豊かに秩父祭 ながさく清江
奉納舞鹿(しし)の在所は六角牛山(ろっこうし) 高澤良一 寒暑
奉納餅みづから砕け旭の岬 平井さち子 完流
左内忌や学童相撲奉納し 野口 稔
文殊会や子の一字書きの奉納額 大野修二
終戦日戦友と奉納機関車触る 河秀風
腰ざしのゆらゆら奉納鹿踊 高澤良一 寒暑
腰巻奉納ぽっくり寺くっくっ石笑う 古川克巳
葉桜のころの奉納相撲かな 日原傳
雨乞に女相撲を奉納す 佐々木鳴子
黄華鬘や能奉納の笛ひびく 山下智子
●御明かし
御あかしを点して休む鞴かな 高浜虚子
御あかしを消さじと寒き詣かな 清原枴童 枴童句集
早苗饗の御あかし上ぐる素つ裸 高野素十
●神籤（御籤）
ひそかに引きひそかに開く初御籤 山口青邨
八幡菩薩南無の御籤に照葉かな 石塚友二 方寸虚実
初神籤良きことばかり信じたり 市野沢弘子
吉凶も結べば花に初神籤 秋山朔太郎
夜桜ににぎはふ恋の神籤かな 大橋櫻坡子 雨月
夫婦して吉の神籤や初大師 名倉正志
妻の手のどんどの神籤火に投ず 古舘曹人 砂の音
子の丈に神籤結ばれ初詣 小川濤美子
小吉の御籤は結はず寒詣 大石悦子 群萌
御籤をも結ひこめてある古巣かな 森田 峠
松寒し神籤結びを人な見そ 太田鴻村 穂国
枝先の男結びや初神籤 水原春郎
桐の実や吉の御籤を波さらふ 磯貝碧蹄館
梅を干す凶の御籤を引いて来て 米川杉南
横向きに乙女のひらく初神籤 高澤良一 宿好
落し穴注意と出たる初御籤 千原草之
襟巻を肩に流して御籤引く 大川千秋
逆らうな旅に出るなと初御籤 小野富美子
おみくじのやうに開いて落し文 野口和男
おみくじの半吉でよし厄詣 本多貴久
おみくじの鳴る音椎の実落ちる音 蔵前幸子
おみくじは吉 古仏とわたしへ緑射す 伊丹公子 メキシコ貝
おみくじをにぎり破魔矢をかざしゆく 高木晴子 晴居
おみくじを受けて香水匂はせて 吉屋信子
おみくじを捨てたる加太の卯波かな 吉田葵人
おみくじを枝に結びて春を待つ 工藤せつ子
おみくじを読みて羽子板市の前 成瀬正とし 星月夜
びつしりと木に結ふみくじ冷ゆる山 宇佐美魚目 秋収冬蔵
みくじ凶結びて仰ぐ初茜 鈴木美代子
みくじ吉破魔矢に結び帰りけり 藤松遊子
みくじ引くささやき宵宮涼しうす 村越化石 山國抄
みくじ引く采女祭の夕明り 山内山彦
みくじ手に鬼灯市を覗きけり 阿久津渓音子
みくじ札夫婦遍路ののぞき合ふ 鈴鹿野風呂 浜木綿
みくじ結ひ易くて結はれ花蘇枋 美馬風史
みくじ結ふ金色堂の山百合に 白瀬陽子
みくじ読む笑ひし顔のひきしまり 上野泰 春潮
よきみくじ四つに畳んで単帯 星野立子
よろこびごと多しとみくじ寒の入 柳井淑子
一つ葉にみくじを結ぶ霊地かな 阿波野青畝「西湖」
一箱は英語のみくじ若葉風 篠田恵衣子
下枝はみくじの占めて桜紅葉 田中芙美
凶みくじ引くうそ寒の浅草寺 浅倉君子
初午の凶のみくじを引き直す 山田節子
初寅のみくじをひらく鞍馬山 黒田杏子 花下草上
吉と出しみくじを秘めて春を待つ 金井利信
善光寺のみくじをつけし柳ちる 西本一都
大吉のみくじ支へに大試験 坂本たけ乃
女正月みくじの喜憂持ちあるく 井桁衣子
媼らのみくじ見せ合ふ針供養 阿部悦子
小吉のみくじが乾く夏木立 黒田紅玲
山冷えてみくじの中に花一首 宇佐美魚目 秋収冬蔵
師を囲みみくじ見せ合ふ受験生 熊沢 豊
恋みくじ三方に盛り年用意 福島せいぎ
恋みくじ売られ長谷寺小春かな 椎野数子
慈悲心鳥観音様のみくじ吉 佐藤トミ
春興やみくじの吉凶拘はらず 中山君江
淡雪やみくじの吉をふところに 恩田秀子
百千鳥願掛け松の結ひみくじ 梅島くにを
神やどる樹の蘖にみくじ結ふ 畑山タミ
紅梅や声の出てくる恋みくじ 藤田 昭
縁談の大吉みくじに初笑 田中英子
霧の木におみくじ殖ゆる竜口寺 仙田敬子
黄梅や子供みくじを婆がひく 板谷芳浄
●禊
一番に恙の虫を夕禊 妻木 松瀬青々
三光鳥声ふる富士の禊跡 加々美鏡水(塔)
会陽の刻待つ禊水かぶり 岸風三樓
塩ふつて冬至禊の火を鎮む 森田公司
御禊舟夕かたまけて漕ぎ出す 伊東肇(若葉)
思はざる禊の朝寝とはなりぬ 手塚美佐 昔の香
朝な朝な霧吐き天竜禊ぐなり 岡部義男
権現の合歓の葉ゆれの禊川 鈴鹿野風呂 浜木綿
橋渡ることが禊や初詣 山崎十生
氏人の古き冠や夕禊 松瀬青々
水引の花禊場の水しぶき 茨木和生 遠つ川
水涸れて暗さのひそむ禊の場 松岡君枝
滝守りの己れを禊ぐ大焚火 渡辺恭子
玄海へ放つ禊矢弓始 梅津皓童
百日の闇を禊の黒葡萄 小檜山繁子
禊する湧玉池の冷気かな 渡辺志な
禊川銀山を出てひびきけり 下田稔
禊酒残りは獅子が喇叭飲み 品川鈴子
禰宜の沓道踏み欠きし御禊かな 阿波野青畝
竹の子の皮流れ来る禊川 辻田継枝
菩提樹の咲く香に禊ぎ戒壇へ 飯田晴子
葛に汲水の行ゑや御禊川 横井也有 蘿葉集
蛇は樹に禊了へたる如きかな 望月百代
鉄梯子下りて禊や滝の行 鳥居忠一
雪解けの水を禊の御柱 横井法子
鵜と禊ぐ水とて幣を立てし桶 辻口静夫
みそぎして寄せくる秋の声きかん 勘助
みそぎはぎ交ひのことなかりけり 星野麦丘人
厳冬のみそぎはらひの不動尊 斎藤栄峰
御手洗や団子にぬるもみそぎかな 重頼「犬子集」
禰宜ひとりみそぎするなる野河かな 几董
賀茂の子らみそぎの川に水遊 牧野美津穂
身安かれ水無月みそかみそぎ河 貞室「玉海集」
青蝿やみそぎに流す瓜の皮 宗因「玉手箱」
●宮参り
乳の香の白息漏らす宮参り 太秦女良夫
初鳩に道ふさがれし宮参り 古田清
宮参り木の実のごときあかごかな 飴山實 『花浴び』以後
新緑や足どり軽き宮参り 横溝三男
煤逃げの鳥居くぐれば宮参り 森田智子
菅貫やお宮参りの子を抱いて 星野椿
遷宮の獻納もして伊勢参 植村浦人
●宮詣で
中腹に宮あり詣で薄紅葉(上州妙義山) 上村占魚 『球磨』
冬三日月男宮詣での篠島衆 高澤良一 鳩信
初(はつ)に詣でて土の宮風の宮 高澤良一 燕音
初乗の単線一の宮詣 高橋香帆
喪の人を待たせて宵宮詣でかな 佐野美智
土の宮はこほろぎの宮詣でけり 山田みづえ 草譜以後
夏に二度詣でし宮の椎拾ふ 下村槐太 光背
夫が抱き宮に詣づる花の中 山本つぼみ
朝寒み白木の宮に詣でけり 夏目漱石 明治三十二年
那覇の夜の涼みの宮に詣でけり 高濱年尾 年尾句集
雪解けのし給ふ宮に詣りけり 松藤夏山 夏山句集
●木綿注連
木綿注連を賜はる朝や時鳥 御子柴光子
●遙拝
明けて来し樹氷の山を遙拝す 茨木和生 倭
●立拝