●砂●砂子（すなご）●真砂（まさご）●白砂●鳴砂●星砂●砂遊び●砂の城●流砂●砂原●砂礫●砂利●黄砂●砂●砂子（すなご）●真砂（まさご）●白砂●鳴砂●星砂●砂遊び●砂の城●流砂●砂原●砂礫●砂利●黄砂
●砂 
*はたはた跳ぶかすかに砂の舞ひ上がり 岸本尚毅 鶏頭
*はまなすに言葉寄せ合ふ砂の道 古館曹人
*はまなすや波をなだむる砂の隈 成田千空 地霊
*ほうぼうの青き胸鰭砂を這ふ 田中睦枝
*むつ五郎砂かぶりつつ突かれけり 河野南畦
あき雨に澄む舟つきの砂崩れ 飯田蛇笏 山廬集
あしうらを砂の流るる雪をんな 斎藤梅子
あたたかに砂かぶりけり磯若菜 蓼太
あたたかや子の靴の砂はたき出し 小島健 木の実
あたたかや砂に黄色き防風の芽 松本たかし
あつき日や硯の中の砂ほこり 暑 正岡子規
あはゆきのつもるつもりや砂の上 久保田万太郎 流寓抄
あらかやの砂舞い昇れ茜空 夏石番矢 楽浪
あるひは思ふ天の川底砂照ると 空華
あわゆきのつもるつもりや砂の上 久保田万太郎(1889-1963)
いかづちの砂紋つきさすふたごころ ハルツォーク洋子
いくども砂照るビキニ忌後の風紋 古沢太穂
うぐひすや砂丘昨日の砂ならず 津田清子
うしろ手砂へ突く九十九里梅雨の星 古沢太穂「捲かるる鴎」
うつくしき砂に乏しき蜆哉 蜆 正岡子規
うつろひきて微少となりて夜々凍む砂 宮津昭彦
うの花の散るや遊行の砂の上 蝶 夢
おたまじやくし砂漢につづく白き土 小池文子 巴里蕭条
かかる青春塩田に砂撒きちらし 津田清子 礼 拝
かきわくる砂のぬくみや防風摘む 杉田久女
かくぞあれ鮎に砂かむ夜べの月 太祇「太祇句稿」
かげろふやほろほろ落つる岸の砂 服部土芳 (とほう)(1657-1730)
かげろふや小磯の砂も吹きたてず 其角
かたつむりよりもさびしき砂の音 神尾久美子
きのうから吹かれ続けて砂の穴 豊口陽子
きらら砂きさらぎの陽の渦にかな 中戸川朝人 残心
きりぎりす蜑の砂畑十坪ほど 中島斌雄
きり〜す此處は砂村瓜畠 泉鏡花
ぎんなんに砂をかぶせて一遍忌 長沢ふさ
くるぶしの砂におぼるる浜豌豆 片山由美子 水精 以後
けふ掃きてきよらの砂も地虫出づ 水原秋櫻子
こがらしや潮ながら飛浜の砂 加舎白雄
ここ掘れワンワン掘つても掘つても砂 砂 砂 津田清子
こそばゆき砂保安林にて堰かれ 穴井太 穴井太集
こぼれ鰯砂にまみれて蜑の路地 中井湖山
こゑ出さばたちまち寂し雪解砂洲 橋本多佳子
こんこんと砂おどらせて清水湧く 尾崎さなえ
こゝら浅川砂どめの萩の盛りかな 乙字俳句集 大須賀乙字
さくら貝よりこぼれたる砂少し 稲畑汀子
さびしさや浅蜊の吐きし砂すこし 須川洋子
さへずりや煉瓦のそばの砂袋 中田剛 珠樹以後
さらさらと揉み合ふ砂や蟻地獄 行方克己 昆虫記
さらさらと浜昼顔の花に砂 澤田れい
さら〜と砂の雲出て秋の冷 川崎展宏
さんさんと海の砂照る笹粽 友岡子郷 日の径
さゞなみや滋賀の松茸砂詰めに 久米正雄 返り花
ざざざざと砂を天降らせ麦の青 栗生純夫 科野路
しまひ湯に砂のざらつく雁供養 佐藤博美
しやしやむしやを踊る女は砂の色 下中悦子
しろがねの砂さゝめかし手長蝦 森夢筆
すつぽんの春子を砂の鶸日和 石川桂郎 高蘆
その人の生まれ死ぬべき砂の国 我には死後の国より遠い 河路由佳
ただ眠し砂色泥鰌砂涼み 香西照雄 対話
たとへば雲たとへば砂や冬帽子 栗林千津
たらたらと流るる砂や盆の雨 千葉皓史
たんぽぽのほとりから砂無限かな 楸邨
ちさく砂蹴つて川千鳥のゆくへ 夏井いつき
つく膝は砂に沈みて防風掘る 村山葉子
てのひらに砂を平して五月処女 山口誓子
とまりても飛びても砂の蝶暑し 阿部みどり女
どうしようもない心もつてきた月夜の砂の上 橋本夢道 無禮なる妻抄
なき砂をもらふ大暑の芭蕉庵 鈴木太郎
のどけしや砂より鰈の目が二つ 館容子
はたはたの夕日にもどる砂の上 古館曹人
はつ雪やとても作らば立砂(りふさ)仏 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
はまぐりが青い灯もらす砂一まい 直江裕子
はまごうの実やかそけきは砂のこゑ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
はますげや砂に埋るゝ船の腹 細木芒角星
はまなすの尖る莟に砂きよら 山口青邨
はまゆふや駅のホームに海の砂 片山由美子 水精
ひげの砂こぼし野老を飾りけり 沢木欣一 遍歴
ひとりでに砂がこぼれて蟻地獄 山口波津女 良人
ひと解きに砂落つごとし夏の帯 澁谷道
ひる顔に雨のあとなき砂路哉 昼顔 正岡子規
ひる顔やかり橋残る砂河原 横井也有 蘿葉集
ふく清水に砂の負け居る汀かな 高田蝶衣
ほつとりと砂洲ぬれてゐる通し鴨 河合照子
ほんだはら打ちあげられし砂きよら 藤田湘子 てんてん
まづ砂を洗ふことより防風かな 稲畑汀子
みささぎの砂白妙や鳥交る 加藤三七子
むらさきの砂の流れや風信子 小菅佳子
めん鶏ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人は過ぎ行きにけり 斎藤茂吉
やゝ寒うなりて太るよ砂の鯊 茶煙
ゆく夏や小瓶の中に星の砂 吉田ひろし
よべの雨松露の砂はやゝかたく 安宅信一
わが影のしみ透る砂洲夕河鹿 鍵和田[ゆう]子 未来図
わらわらと乾きて蟹の砂だんご 高澤良一 素抱
ゐ心をしるあら砂の月見かな 水田正秀
アラー称ふあれは銀漢これは砂 マブソン青眼
ストーブを取る日来にけり炉砂売 福原雨之
メロン積む砂の半島弓なりに 守谷茂泰
一握の砂こぼしきくは雲雀かな 太田鴻村 穂国
一握の砂に草の実まじりけり 川島彷徨子 榛の木
一握の砂を蒼海にはなむけす 吉岡禅寺洞
一月の砂洲の白張り尽したる 伊藤京子
一枚の歌留多の砂に埋れんと 波多野爽波 『一筆』
一歩づつ砂にめり込む登山馬 山口波津女
一粒砂悴かみ移動する砂丘 黒岩有径
一軒家焼け砂に茎立つものの踏まる 梅林句屑 喜谷六花
七夕や水に浸りし砂を踏み 日原傳
七夕や雨をふくみし浜の砂 片山由美子 水精
七輪あふぎ砂もあふぎて冬土現る 川口重美
万籟寂たり清水静に砂を吹く 清水 正岡子規
万籟寂然清水静に砂を吹く 清水 正岡子規
三月の砂にひとでの寝窪かな ふけとしこ
下萌や砂の中なる岐れ幹 大橋櫻坡子 雨月
不安な饒舌握ればこぼるつめたき砂 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
不機嫌に砂巻き上げて初嵐 中村苑子
中入に砂入れ足せる鶏合 茨木和生
九頭竜の砂のこぼれる辣韮を 小島千架子
乾き来て若布の砂の美しき 小杉余子
五月富士湧水砂を噴き上ぐる 塚本 清
井戸堀や砂かぶせたる蓼の花 蓼の花 正岡子規
人のあと踏んで晩夏の砂鳴けり 橋本榮治 越在
人棲むか棲まぬか風垣飛砂埋め 福田蓼汀
人生の涯をあつめし夏の砂 小出治重
人麻呂忌砂にひろごる波の末 長尾俊彦
仏像が売れて年逝く砂ぼこり 吉本伊智朗
仏桑花兵の骨いま星の砂 白鳥峻(寒雷)
伊勢蝦の髭にはじきし鳥羽の砂 長谷川かな女 花 季
伏流の吹きあぐる砂糸とんぼ 松尾隆信
優しきもの欲りて砂掘る貝も蟹も 矢島渚男 百済野
元日の海へ砂とぶ海女の径 つじ加代子
六月や砂で嘴拭く宮雀 中村草田男
兵の死に砂一握を奉る 宇多喜代子
内灘の砂に吸はるる海の水嘆き掬へばすでに色なし 芦田高子
冬ぬくし社務所の縁に海の砂 木村蕪城
冬の浜空瓶に砂詰まりゐて 今井三重子
冬凪ぎて砂に小貝の美しく 吉屋信子
冬天や砂に消されし砂の文字 松崎光夫
冬川の砂とる土手の普請哉 冬の川 正岡子規
冬川や砂にひつゝく水車 冬の川 正岡子規
冬怒濤白馬のひづめ砂深く 渡辺恭子
冬日中飛砂かりそめの音ならず 北見さとる
冬泉砂を忘れて砂躍る 菅原鬨也
冬深し藪へ入り込む川の砂 大峯あきら 鳥道
冬菫外浜の砂の荒れ易き 八十島稔 筑紫歳時記
冬蝿の顔にくるなり砂蒸し湯 広田祝世
冬銀河砂曼荼羅を地に描く 山崎祐子
冬麗の砂零しては初老の手 高澤良一 宿好
凍蝶を埋む銀砂のひと握り 島田節子
凧落ちて砂にまみれて冬鴎 対馬康子 吾亦紅
凩や練兵場の砂けむり 寺田寅彦
切れ雲に色鳥や川砂光る 内田百間
初乗の蹄音砂にきざまるる 水見壽男
初冬や蘭に培ふ乾き砂 四明句集 中川四明
初凪の煙草火砂にさして消す 藤井 亘
初凪や汐引き砂のつぶやける 阿部みどり女
初凪や潮引き砂のつぶやける 阿部みどり女
初場所の砂青むまで掃かれけり 内田哀而
初明りして波の色砂の色 三橋喜代
初潮や砂にもどりし砂の塔 中野ひろし
初砂丘新しき砂海に延ぶ 百合山羽公 寒雁
初秋の山日が崩す山の砂 長谷川かな女 雨 月
初空やむかしの砂は海の中 小栗たゑ
初雁の砂に落ち込むつばさかな 闌更
初鴈の砂に落ち込むつばさかな 闌更
剥落や辰砂の朱を失わず 和田悟朗 法隆寺伝承
北に入る駱駝の跡や砂の霜 会津八一
北風やまつかうを打つ砂つぶて 上村占魚 球磨
北風吹けば砂粒うごく失語の浜 西東三鬼
十字架の墓や*さ夫藍砂に咲く 森田公司
厚朴咲くや児童遊園の砂照りつ 原田種茅 径
口ツペンの子がよちよちと砂炎ゆる 臼田亞浪 定本亜浪句集
口能登や墓も花菜も砂まみれ 沢木欣一 地聲
台風の盛り上げし砂河口埋む 茨木和生 遠つ川
台風裡浅蜊に砂を吐かせをり 大串章 百鳥 以後
同じ字を砂に書きつゝ春の昼 山口誓子
名月や小磯は砂のよい處 名月 正岡子規
吹き当ててこぼるる砂や枯薄 松本たかし
味噌汁に蜆の砂も土用かな 岡本綺堂 独吟
命なき砂さらさらと啄木忌 坂本俊子
哀しさは西南風に消され砂採り唄 加倉井秋を
哀しみの砂吐き切つて寒蜆 椎名智恵子
啄木になつて五月の砂すくふ 堀内一郎
啄木忌手種の砂のうす湿り 斉藤勇幸
噛み当つる身のおとろひや海苔の砂 松尾芭蕉
土人哀史いまも黒砂炎ゆるのみ 河野南畦 湖の森
地を染めて砂ずりの藤こぼれ初む 有働 亨
地震のあと砂の音して雪降れり 三浦ふく
埋まりてありし砂除防風出づ 森田峠
塁上に死す砂まみれ汗まみれ 村上沙央(狩)
塩一石汗一石砂積み崩し 沢木欣一 塩田
塩鮭の尾が砂に立つ松林 中拓夫
壕冷えて砂がしづかにこぼれつぐ 加藤秋邨 火の記憶
夏の夜や砂の中なる貝の国 大橋櫻坡子 雨月
夏の湖へ展望台の砂こぼす 古館曹人
夏の靴砂に忘れしこと忘る 対馬康子 吾亦紅
夏川の砂さらさらと流れけり 夏川 正岡子規
夏川や砂さだめなき流れ筋 飯田蛇笏 山廬集
夏川や砂みがきする樽二つ 蘇子句集 木下蘇子、吉田冬葉・松本翠影編
夏果つる瓶に南の島の砂 安居正浩
夏濤のくだけし力砂つたひ来る 篠原梵 雨
夏濤の砂にましろし音たてて褪す 篠原梵 雨
夏立てり砂湯に仰ぐ雲のいろ 川崎俊子
夏老いぬバスのあげゆく砂ほこり 久保田万太郎 流寓抄
夏菊や雨かゞやかに砂しめす 金尾梅の門 古志の歌
夏蝶ひたと羽伏せて砂の安宅道 中村草田男「銀河依然」
夏行くと足吸はれゐる海の砂 中 拓夫
夕凪や独語ひとつに砂うごく 岸田稚魚 筍流し
夕焼けて砂町に棲むほかはなし 石田波郷「春嵐」
夕焼のはての戦火湯槽に砂たまり 友岡子郷 遠方
夕焼の流れはやむる砂簾 岸田稚魚 筍流し
夕焼雀砂あび砂に死の記憶 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
夕砂が泳ぎづかれの足さらふ 林原耒井 蜩
夕立つや帰山を撒きし迎へ砂 牧唄 久米三汀(正雄)
夕立や砂にまみれし庭草履 竹久夢二
夕立や砂に突き立つ青松葉 子規
夕陽の砂にふたりがあるいた跡をのこしてあるいている 橋本夢道 無禮なる妻抄
夕風や独語ひとつに砂うごく 岸田稚魚
夜へつながる黒砂 いまは陽に返礼 伊丹公子 機内楽
夜寒さや舟の底する砂の音 立花北枝
夜泳ぐ砂に女を残し置き 吉田汀史
大内の砂を土産や相撲とり 蓼太
大夕立乾きし砂の円覚寺 佐野青陽人 天の川
大庫裏の砂や木の葉や冬日影 寒烟(かんえん)喜谷六花、内田易川編
大旱の砂に孔雀がうづくまる 田川飛旅子 『花文字』
大汐や昼顔砂にしがみつき 一茶
大磯や庭砂にして松つゝじ 子規句集 虚子・碧梧桐選
大磯や砂のひかりのあつさかな 陳曲 六 月 月別句集「韻塞」
大胆な水着ごろごろ砂乾く 安与広
大風の軒の古巣の砂こぼるゝ 原田種茅
大食堂遍路が砂を零しけり 伊沢 恵
大鰈砂に眼ひらき涅槃西風 小林俊彦
天の川砂の匂いの男かな 鳴戸奈菜
天草を枕砂ふり女の昼寝 羽部洞然
天道虫砂に返りて仮死のさま 阿部みどり女
太陽は四季咲の花砂の国 津田清子
夾竹桃砂に這ふ如人住みて 望月たかし
奥ふかく砂しく門や白丁花 無徳「新類題発句集」
妻と掘る砂湯のほかは霧の中 沖崎青波
子があそぶ砂の乏しく胡麻の花 佐野良太 樫
子のつくる砂のケーキや鳥交む 藤本陽子
子雀や寺の中まで浜の砂 大峯あきら 鳥道
宇陀人の春日にさらし蘭の砂 岡井省二
安息日のないふるさとの海と砂 中山美樹
定斎里砂に何書くしづごころ 佐野まもる 海郷
実盛塚踏めば暮春の砂鳴れり 中川博秋 『加賀野』
実菖蒲に力みち砂に影つくる 横山白虹
宵闇や墓へ置ききし海の砂 宇佐美魚目 秋収冬蔵
家苞の紫砂焼急須霾れり 上原瑞子 『燈台草』
寂寞と遅日の崖が砂こぼす 岡本眸 午後の椅子
寄居虫や黄名粉のやうな浜の砂 鈴木雅子
寒三日月錨は砂に埋もれて 新山恵美子
寒明けの中洲の砂の白さかな 片山由美子 天弓
寒泳を待つ足の指砂を噛む 石井いさお
寒蜆故郷の砂を吐きにけり 野坂 民子
寒雀汝も砂町に煤けしや 石田波郷
寒風や砂を流るる砂の紋 石田勝彦
射干の花より砂をうち払ひ 岸本尚毅 舜
小浜菊さらさらと砂くづれけり 大竹多可志
少年が少女に砂を嗅がしむる 阿部青鞋
少年も提げし鱸も砂まみれ 千葉孝子
山の芋雲母交りの砂こぼす 沢木欣一
山川の砂焦したるどんどかな 芝不器男
山椒喰地にしろがねの砂満ちて 堀口星眠 営巣期
山眠り流木砂に埋れをり 大峯あきら 鳥道
山砂の崩るる白さ夕立あと 杉本寛
山砂の流れ止めて橡咲けり 長谷川かな女「川の灯」
山葵の芽砂に暦日ありやなしや 川端茅舎
岩の上に砂まみれなるつゆの鎌 松村蒼石 春霰
島の春めぐすりさせば砂に落つ 安東次男 裏山
島の蝉砂でみがいて樽を白め 友岡子郷 遠方
崖横ぎるに小砂こぼして蜥蜴哉 西山泊雲 泊雲句集
巌の根の砂ゴの舟の汐干かな 尾崎迷堂 孤輪
川の砂夕日に流れゐる盛夏 松村蒼石 雪
川原の砂ほこり色鳥低し 内田百間
川原の砂ほこり色鳥渡る 内田百間
川急ぎかるかやと透く砂番屋 成田千空 地霊
川涸れて砂の流紋海を指す 塚腰杜尚
川砂を敷きて時雨の通る庭 高澤良一 宿好
巣作りの蟻つみ上げし砂の山 松浦紫夏女
巻き貝の九月の砂をこぼしけり 杉本多恵子
巻貝にすめらみくにの秋の砂 木内彰志
巻貝の砂を遊ばせ秋の浪 柴田幸雪
巻貝を砂のこぼるる霞かな 大岳水一路
帆立貝飽食なれば砂噴きぬ 吹田孤蓬
干す網のなかば砂曳き秋の風 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
年の内春立ちて胡砂降りにけり 二神節子 『砥部』
年用意利尻昆布の砂おとす 細見綾子
幸島の猿は砂中の清水摂る 大浦フサ子
幽かなる防風の砂噛みにけり 矢島渚男 船のやうに
広島の忌や浮袋砂まぶれ 西東三鬼
広島の忌や浮袋砂まみれ 西東三鬼
底砂にゐつける沙魚やむき〜に 比叡 野村泊月
底砂に浪目さやかや秋の川 比叡 野村泊月
底砂のひしめきゆらぐ噴井かな 古賀拓桜
底砂の綾目さやかに泉かな 松根東洋城(渋柿)
庭砂のこぼれ松葉を掃き始 富安風生
引き上げて平砂を照らす鰯かな 白扇
引く波に砂のつぶやく花の冷え 島田洋子
引潮に砂緊りたる芒種かな 後藤綾子
引潮の砂ふめば鳴る秋思かな 伊原恵美子
引潮の飛びたちがたき砂や春 池田澄子
弥撒の庭蚯蚓が砂にまみれ這ふ 石田波郷「春嵐」
彎曲の砂洲半身に独楽まわる 対馬康子 愛国
彼岸西風信夫の墓の砂の坂 千田一路
彼岸西風砂に突き出て傘の骨 吉川清江
律の風砂に色あり波のあり 石関洋子
微動だにせぬ立砂や競べ馬 泰 織女
思ふほど飛ばぬ千鳥や砂に立つ 岩田由美
感情は移入されまいをんな握りの砂売り 加藤郁乎
戴ける初茸ぼんに砂を残し 小野房子
戸袋にかならず虚無の砂あらむ 攝津幸彦
戻り鴫潮引砂洲を小走りに 小川斉東語
手燈明の火の垂るゝなり露の砂 銀漢 吉岡禅寺洞
手袋の手をつき憩ふ砂の丘 山口波津女 良人
打ち水や砂に滲みゆく樹々の影 臼田亜浪
打水や砂に滲みゆく樹々の影 臼田亞浪 定本亜浪句集
折からや霰たばしる敷砂に 西山泊雲 泊雲句集
抱く輪に金砂ちりばめ寒三日月 相馬遷子 雪嶺
招かれて初場所の砂かぶりけり 内山亜川
指を洩る砂さらさらと防風摘む 谷繁子
指宿の砂湯かぶりて春惜しむ 川口ふかし
捕吏に抗議す漁婦或るは泣き砂炎ゆる 古沢太穂 古沢太穂句集
捨鋳砂はや梅雨のもの流れ出す 中戸川朝人 残心
掃き清められし砂より鶏頭花 川崎展宏
掌つけば干潟の星の砂 山田渓舟
探梅行崖より砂のこぼれけり 棚山波朗
掻き出せし松露の砂のすぐ乾く 河野碧灯
揺らしたる都邑ひっそりと砂こぼす 水野真由美
撒き砂に願化踊りの雁形舞 高澤良一 素抱
撒き砂を踏みしめ亡者踊かな 高澤良一 素抱
故郷寒しうつくしき雨垂れの砂 榎本冬一郎 眼光
敗戦忌砂のざらつく風呂の底 木田千女
数へ日の書院ながらや砂(いさご)の日 岡井省二
数へ日の首を出しゐる砂蒸し湯 小室風詩
敷砂に蜆の殻や春の雨 比叡 野村泊月
敷砂の乾き揚羽の影わたる 高井北杜
敷砂や玄関脇に残る雪 寺田寅彦
料峭をおひずる借りてお砂踏む 竹中碧水史
断崖のように砂まく飼育箱 対馬康子 純情
新寺の砂にしだるゝ柳哉 許六
新涼の海を見て来し足の砂 高瀬竟二
新涼や指をこぼるる星の砂 西村文枝
新涼や渚の砂の踏み応へ 村井光子
新涼や濡れ纜の砂まみれ 西山泊雲 泊雲句集
旅の岬よ 男ら憮然と砂にあそび 井上伝
日の丸が焦点初凪の海と砂 福田蓼汀 秋風挽歌
日の崖の砂さらさらと実朝忌 戸川稲村
日傘して砂に子を待つ我が齢 文挟夫佐恵 黄 瀬
日傘人見る砂文字の異花奇鳥 芥川龍之介
日月の盛砂涼気渡りけり 伊丹さち子
日本と砂へ書きたる時雨哉 一茶
日盛りの網渋かへす磯砂に 喜谷六花「寒烟」
日盛りや砂に短き松の影 日盛 正岡子規
日雷砂を跳ね上げ雀立つ 今井ヒナ
早春の涸川砂は産着の白 大井雅人 龍岡村
旱星子亀が走る砂の浜 宇治田 薫
明ぼのや砂洲にあがれる春の鴨 岡井省二
星月夜涙壺より砂いづる 小檜山繁子
星涼し昼は黒砂に雲母賞でぬ 香西照雄 素心
春ぞ影八百日の浜路砂土圭(どけい) 西望 選集「板東太郎」
春の川砂に流れて海に消え 高木晴子
春の日や庭に雀の砂あびて 鬼 貫
春の月砂絵の童らにさしそめぬ 芝不器男
春の海砂に吸はれて波果てる 宮下邦夫
春の砂こぼれやすさよそれに寄せて 細見綾子 花寂び
春の砂浪さま〜に響きけり 高濱年尾 年尾句集
春の砂蓬に少しかけてやる 細見綾子 花寂び
春の風水いとすぢを砂に引く 林原耒井 蜩
春はやて濯ぐ足袋より海の砂 神尾久美子 桐の木以後
春一番校庭走る砂けむり 鈴木洋子
春一番砂ざらざらと家を責め 福田甲子雄
春宵やこぼるゝものに足袋の砂 林原耒井 蜩
春寒し砂に埋るる砂防林 福田蓼汀 秋風挽歌
春寒や砂より出でし松の幹 高浜虚子
春寒や貝のはなさぬ海の砂 いのうえかつこ
春干潟生くるものみな砂色に 中島斌雄
春愁や砂をあるけば砂のこゑ 豊長みのる
春晝の砂の余白に貝乾く 斉藤夏風
春暁の一番船が砂降ろす 中戸川朝人 星辰
春月や川洲の砂の宵光り 内田百間
春来つつ*いもりの下の睡り砂 宮坂静生 春の鹿
春浅きかな湧水の砂けむり 藤田あけ烏
春潮や砂美しく貝もまた 三木みち
春空へ砂なげ上げてあそぶ子ら 京極杞陽 くくたち下巻
春逝くや砂の上なる影もまた 桂信子 草影
春隣むかし産屋に砂を敷き 友岡子郷 春隣
春雷に砂蹴る鶴の足掻かな 内田百間
春霰雲割つて日の砂簾 石川桂郎 高蘆
昭君酒春宵を汲む紫砂の碗 田中英子
昼顔の空しき蔓の砂を這ひ 田中竜城
昼顔の花の中にも砂多少 阿波野青畝
昼顔や砂に吸はるゝ昼の雨 昼顔 正岡子規
昼顔や砂に埋れし石地蔵 寺田寅彦
昼顔や砂に集めし汐木屑 松瀬青々
昼顔や砂より波のひびき来る 織田 道子
昼顔や舟小屋のなか砂白く 長谷川櫂 天球
昼顔や船引き上ぐる砂の上 寺田寅彦
時の日や砂をピンクに砂時計 鈴木栄子
時雨るるや浪はしりきて砂に消え 内藤吐天 鳴海抄
晝顔の風に砂噛む家居かな 富田木歩
晝顔や砂に集めし汐木屑 松瀬青々
晩春やわが身を載せて砂崩る 加倉井秋を 午後の窓
晩涼の胸に砂寄せ砂ゆっこ 高澤良一 素抱
暑き時鐘長崎の砂手に盛れば 友岡子郷 遠方
暖き砂を掌に浴び防風つむ 嶋田みつ子
暖くなりて砂場の砂いじり 高澤良一 宿好
暗い昔の砂を幼女の手に移す 林田紀音夫
月に掬へど砂光り無し秋の暮 渡邊水巴
月の窓に砂吐かせある蜆哉 国枝合歓女
月光の渚の砂を踏み荒らし 長谷川櫂 天球
月清し遊行のもてる砂の上 芭蕉
月見るや明るき砂の一と所 松瀬青々
朔風に砂の音聞く良夜かな(敦煌) 下村 梅子
朝すでに砂にのたうつ蚯蚓またぐ 西東三鬼「今日」
朝の郭公砂の轍のまだ崩えず 中村草田男
朝凪や砂に釣竿立ててあり 薬師神和美「百鳥俳句選集」
朝東風や砂まびれなる磯肴 響美
朧夜や貝は厨に砂を吐き 片山由美子 風待月
木戸深く砂入れしより朧かな 金尾梅の門 古志の歌
木枯の砂吹きのせてゐる木の葉 右城暮石 声と声
木枯や砂の消しゆく鴎の死 橋本榮治 麦生
木蓮に砂垣海へ邸かな 楠目橙黄子 橙圃
本堂の畳の砂も十夜明け 四明句集 中川四明
本買へば砂触りある二月の夜 原田種茅 径
杉の花護摩火猛れり砂かまど 脇坂啓子
東風の中堆砂崩るゝ音捉ふ 林原耒井 蜩
松浅き砂に身をする雉子かな 乙字俳句集 大須賀乙字
松籟や秋の扇を砂の上 斎藤 梅子
松茸が異国の赤い砂こぼす 根岸竹葉
松茸は京の荒砂こぼしけり 長谷川櫂
松落葉踏む亀巣忌の砂湿り 山本清嗣
松蝉の空より砂のこぼれくる 内田美紗 魚眼石
松露々々爾に問はむ砂の数 幸田露伴 江東集
松露なくなりし砂丘の砂貰ふ 百合山羽公
松露を得ず砂に恨の歌を書く 鈴木苔花
板の上に砂ひろげある半夏かな 斉藤美穂子
板の間の土筆の砂や掃にけり 妻木 松瀬青々
枯月夜砂躍らせて水の湧き 川村紫陽
柊は銀河の砂の花こぼす 大木石子
柾の実籬のうちも砂白く 富安風生
栗咲くや砂の湿けない砂時計 池田澄子 たましいの話
根の砂の葉に乗る日頃草霞む 内田百間
桃の村砂美しき小川かな 乙字俳句集 大須賀乙字
桑植うる砂をとばして風渡る 廣瀬直人
桜人といふもはづかし砂まぶれ 尾崎紅葉
桜貝一握の砂とはかなけれ 福田蓼汀 山火
桜貝軒端の砂にうちまじり 阿波野青畝
桜鯛砂へ刎ねたるいさぎよさ 日野草城
梅散つて砂浄らかに根もとかな 西山泊雲 泊雲句集
梅雨の海老砂まみれなる威勢かな 島村元句集
梶鞠の鞠足砂をとばしけり 山口誓子
棕櫚の花砂降るごとくこぼれけり 朝芝喜代子
棗の実胡旋舞の子の砂まみれ 櫻井菜緒 『帰雁』
棲む魚の砂走りせる清水かな 中村汀女
棹さして来る砂舟や水ぬるむ 芝不器男
椅子の脚砂におちつき避暑家族 桂信子
武家屋敷切砂に添ふ実千両 西形佐太郎 『てんご』
歩き行く地が砂になり海水浴 吉屋秀雄
歯固やかねて佗しき飯の砂 松瀬青々
歯固や千代見む巌みがき砂 茗風 選集「板東太郎」
殉職碑前の凍砂踏み通る 鈴木六林男 第三突堤
残る白鳥海に風吹き砂を吹く 成田千空 地霊
残る虫砂雪隠のうしろより 石垣青☆子
母葬る春泥に砂打ち敷きて 宮田正和
水にじむ砂に散りしく花あふち 横山房子
水ぬるむ稚魚の走りに砂湧きて 町田昌成
水ナ底やゐざりし鯊に砂うごく 高橋淡路女 梶の葉
水中に日当たる砂と影の砂 内野 修
水仙や水を湛へて砂白し 青峰集 島田青峰
水底の砂あたたかき野菊かな 中田剛 珠樹
水底の砂のさ走るまで澄めり 上田五千石
水底の砂の涼しく動くかな 長谷川櫂(1954-)
水底の砂も小春の日なたかな 梅室
水打つや砂玉となり水まろぶ 高澤良一 素抱
水槽に動く砂粒日脚伸ぶ ふけとしこ
水涸れて砂に食ひ入る轍かな 著森遺稿集 貴志著森
水澄んで砂に声ある隠れ耶蘇 岸原清行
水着干す珊瑚の白き砂こぼれ 山崎ひさを
水鳥や砂に濁らぬ木津の川 四明句集 中川四明
永き日の砂に浮遊の乾電池 小檜山繁子
永き日や門のぬかりへ砂はこぶ 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
永き日を銭にもならぬ砂画かな 日永 正岡子規
汗だくのおでこ拭はれ砂ゆっこ 高澤良一 素抱
沖くらく昼顔砂に伏し咲ける 岸風三楼 往来
沖てふもの常に眩しき小春砂 奈良文夫
没日の柚子砂に一基の舟轆轤 友岡子郷 遠方
油掌洗ふ砂の西日を擦りこみて 吉田鴻司
泉湧く太古の砂を踊らせて 安斉君子
法師蝉遠しや木なし砂町は 軽部烏頭子
波伸びて砂を走りぬ春隣 稲畑汀子
波引けば砂のつぶやく小春かな 稲垣きくの 黄 瀬
泣き砂に泣かれて返す秋の潮 佐藤綾子
泣き砂の黙りて梅雨の琴の浦 西村公鳳
泣き砂を泣かせて浜の居待月 不破 幸夫
泣き砂を瓶に封じて夏終る 穴井太 原郷樹林
泣く形に子蟹戻れり砂の穴 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
泥鰌屋の汽車式便所砂壁冷え 北野民夫
泳ぎ人去りたるあとの砂の文字 久保より江
流れ木の芽立ちしままに砂洲光る 横光利一
流木に冬麗の砂零しみぬ 高澤良一 随笑
流木のごと砂に寝て星今宵 那須淳男
流木を砂より起こし雁供養 磯田富久子
浅春や砂町通り馬糞飾り 皆川白陀
浅蜊の黙岩色砂色もたらせしに 香西照雄 対話
浅蜊居る證しそこここ砂ゑくぼ 高澤良一 素抱
浜おもと踏みしむる砂ほこほこと 高澤良一 ももすずめ
浜の砂とぶ駅にゐて春隣 友岡子郷 春隣
浜の砂まだ冷たけれ桜貝 中村汀女
浜川の末砂に消ゆ芦の花 篠田悌二郎
浜日傘腹這へる肢の砂弄ぶ 原田種茅 径
浜昼顔抜かむと砂をひきづれり 山岸孝子
浜木綿や坐りてぬるき海の砂 長谷川櫂 天球
浜砂に潮しむひびき雲の峰 高井北杜
浜砂に片手をつけば桜貝 鷹羽狩行
浜砂の濡れが冷え呼ぶ十三夜 原 文子
浜苦菜ほろりと風に動く砂 高澤良一 燕音
浜道や砂から松の若みどり 蝶夢
浜道や砂の中より緑たつ 蝶夢
浮輪たたみぬおとといの砂こぼし 白岩文美
浴衣砂の上に飛んでをる 梅林句屑 喜谷六花
海からの凩砂を礫とす 矢島渚男 延年
海が暖い島を抱いて鹽田の砂が乾いている 橋本夢道
海に出て小春の砂のやはらかに 瀧澤伊代次
海に降る砂思うべし寒椿 永末恵子
海の蝶砂に羽たて砂つかむ 高屋窓秋
海へ出る砂ふかき道花いばら 大井雅人
海へ降り砂洲にとどまり落花霏霏 猿橋統流子
海べ手の砂が漏つてしまふ シヤツと雑草 栗林一石路
海までの砂のきしみや西行忌 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
海までの砂の起き伏し草紅葉 高井北杜
海女たのし砂に腹這ひ瓜かぢる 鈴鹿野風呂 浜木綿
海女よ砂に子を叱りすてて出てゆく 栗林一石路
海底に砂かむる魚日脚のぶ 友岡子郷
海底の砂もろともに昆布乾く 稲畑汀子
海底を流るる砂に寒鮃 長谷川櫂 虚空
海暮れて昼顔砂に眠りつく 鈴木 麓
海猫交る稲佐の浜の砂飛ばし 岩切貞子
海苔籠の砂に曳きゆく汐ひとすぢ 軽部烏頭子
海苔粗朶に汐引く砂の鴉かな 高木晴子 花 季
海開き神の座吾と砂つづき 浜端順子(鉾)
海際の砂踏むかるさ雀の子 磯貝碧蹄館
海鳴りを砂に鎮めて青麦張る 稲岡巳一郎
涅槃西風渚の砂に禽の跡 丸山哲郎
涅槃風廃墟にできし砂の類 中村草田男
消えてゆく砂の重さと蛍火を 牧ひでを
涙しくや遊行の持てる砂の露 松尾芭蕉
涼しさや先づ蛤の口の砂 句空 芭蕉庵小文庫
涼風やビードロになる砂を採る 涼風 正岡子規
淀川を砂舟下る春星忌 羽田岳水
淋代の砂踏んで聴く秋の声 藤木倶子
淡雪のつもるつもりや砂の上 久保田万太郎
淡雪のとどきかねけり砂の上 水田正秀
淡雪は受胎の痛み砂乾く 対馬康子 吾亦紅
清め砂にも大寒の散松葉 手塚美佐 昔の香
渚まで砂深く踏む秋の暮 清水径子
温むなき砂丘の泉砂を噴く 山口草堂
湖の砂のしまれる素足かな 石田郷子
湧き水の砂盛り上がる鳥の恋 矢島栄子
湧水に砂のぽこぽこ春日中 高澤良一 随笑
湧水の砂噴きやまぬ神の留守 木内怜子
湧水の砂噴き上げるみどりの夜 水野すみ子
満月の仔山羊を繋ぐ砂袋 吉田紫乃
満月の畳に海の砂すこし 正木ゆう子 悠
溶岩砂に青黴めきて駒草生ふ 三浦勲 『生きる』
漁衣解けば砂のこぼるゝ夜の炉かな 金尾梅の門 古志の歌
漬瓜や砂の上なる一と筵 長谷川かな女 雨 月
漸寒や衣嚢深きに海の砂 丹羽啓子
潅仏会砂に釦のまじりゐし 神尾久美子
潮引きて石蓴まみれの砂湯かな 小池森閑
潮浴びにきて砂埋めにされたがる 小林守男
濱砂をさだかに蹴立て盆踊 八木林之介 青霞集
灯台の壁砂こぼす土筆かな 中戸川朝人 星辰
炎昼の血砂を吐けり落馬騎手 山本光篁子(梟)
炎暑に貯金下ろすは砂取りゲームに似 高澤良一 寒暑
烏蝶水際の砂に水を吸ふ 高濱年尾
烏貝は獲れ砂まみれ春時雨 中村汀女
烏賊干すやひとりの影を砂に置き 岸秋渓子
焚火消す葬るごとく砂をかけ 福田蓼汀 秋風挽歌
無人燈台砂に千鳥の址とどむ 大野林火
焼砂に昼顔の露潤ひけり 旅一筋 安藤和風
焼砂に深き轍や雲の峯 雲の峯 正岡子規
焼砂に細るる秋の螢かな 室生犀星 魚眠洞發句集
煎りつけて砂路あつし原の馬 中村史邦
熔岩の砂熱きを掬び掌をもるる 橋本多佳子「海燕」
熱風や砂にあまたの松の苗 長谷川櫂 天球
爆薬よりも砂のふかさと夜涼にいふ 竹中宏 句集未収録
父孵る飛砂走石の夕まぐれ 夏石番矢 猟常記
牛あそぶ秋の荒磯の砂白く 富澤赤黄男
牛突の涎ひつぱる旱砂 中戸川朝人 尋声
牡丹焚く阿武隈川の砂の炉に 小林愛子
物売りの荷を砂におく土用波 桂信子
犬が掘る野分後の朝日強き砂 内藤吐天 鳴海抄
犬も荒息避暑地の砂を足で掻き 桂 信子
犬馳けし足跡雪の銀砂灘 右城暮石 上下
猪の砂を身にぬる枯野かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
玄海の砂噛む波も十二月 清水基吉
玉蟲の一死を砂にいつくしま 赤松子
珠数鳩(砂つばめ)の若葉や里のかい廻り 広瀬惟然
珠洲焼きのまこと砂色新茶汲む 細見綾子 天然の風
現し世の風に砂とび練供養 舘野翔鶴
甘薯の蔓砂の中にまみるる人の脚に触るる 梅林句屑 喜谷六花
甘藷蔓を起す手にしむ砂の焼け 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
生きるまの浅蜊素朴に砂吐けり 有働志雅子
生まざりし身を砂に刺し蜃気楼 鍵和田釉子
産土の砂が砂擦る空つ風 三橋敏雄
甲子園汗にじむ砂玉として 加古宗也
申訳けほどの砂吐き寒蜆 鶴田ちしほ
男娼は砂で五感を磨くなり 夏石番矢
白がねの砂の乾きや福壽草 会津八一
白南風や砂丘へもどす靴の砂 中尾杏子「ながさき曼陀羅」
白南風や靴より吐かす星の砂 長谷川閑乙
白妙の砂や鈴虫を甕に飼ふ 栗生純夫 科野路
白川や重陽の砂買はれゆく 桂樟蹊子
白桃をおもひて眠る砂の街に 小檜山繁子
白浜の名に負ふ砂や桜貝 吉田愛子
白牡丹しめりし気比の砂を踏む 田口俊子 『こととひ』
白粉の父鳴き砂に滅り込みぬ 攝津幸彦 未刊句集
白靴に踏む浜砂の曇りたる 内藤吐天 鳴海抄
白靴を脱げばハワイの砂こぼる 佐伯哲草
盆山や梺のみぞれ砕き砂 調川子 選集「板東太郎」
盆砂取あめつちしんと従へり 下田稔
盛り砂に蝿羽みがき地鎮祭 高井北杜
盛砂にお降したり相撲部屋 雑草 長谷川零餘子
盛砂の上をまひるの天の川 原田喬
盛砂や水打つ門の人さわぐ 打ち水 正岡子規
瞳の中の砂粒無色特車隊 阿部完市 証
短夜や海のとゞめの砂の丘 尾崎迷堂 孤輪
短夜や砂土手いそぐ小提灯 短夜 正岡子規
短日や砂の江尻の流れ石 余子句集 小杉余子、松根東洋城選
短日や砂を噛みゐる貝の腸 斎藤梅子
石となり砂と乱れて夕焼くる 鈴木六林男 悪霊
石竹に雀すずしや砂むぐり 中村史邦
石置けば砂の流るる夜の秋 黒田杏子 花下草上
砂あげて歩く道なり胡麻の花 長谷川かな女
砂あびる小さき埃や親雀 本田あふひ
砂あびる鶏の埃りや鳳仙花 塩谷鵜平
砂あぶる雀見てゐて蝉の恋 宮坂静生 樹下
砂ありく蟹のどけしやその狭み 安斎桜[カイ]子
砂あり蟹のどけしや空らはさみ 安斎櫻[カイ]子
砂うごきゐる白昼の蟻地獄 鷲谷七菜子 花寂び
砂かげろふ瞳にこそばゆき月見草 太田鴻村 穂国
砂かぶりなる貧乏ゆすり前相撲 松本孝太郎
砂が鳴く鳴くとひとりの磯遊び 今瀬剛一
砂きよくたゞ牡丹の芽あるばかり 河野静雲 閻魔
砂げむり上げたる鯒が突かれけり 野村五松
砂こぼし砂こぼし天道虫生る 小林恵子
砂こぼる音の移りて穴まどひ 神蔵 器
砂さくとビーチサンダル履き始め 高澤良一 鳩信
砂しかとつかむ跣足や地引網 小山松岬子
砂ずりの藤を見ずして奈良を恋ふ 青木重行
砂ちかちかホテル楽呼ぶ仏桑華 河野南畦 湖の森
砂つけし蟋蟀の腹やはらかし 中田剛 珠樹以後
砂つ子に海一碧の椰子の空 河野南畦 湖の森
砂づきて行く魂嬉し夏衣 永田耕衣 物質
砂ながれ砂に埋まる廻転椅子 穴井太 ゆうひ領
砂にある師走の翳の深きかな 阿部みどり女
砂にかく日蔭の寺へゆび入れて 安井浩司
砂に伏す鯒もさだかに潮澄める 久保もり躬
砂に埋む須磨の小家や冬の月 暁台
砂に大きな字を描いて字がくれてしまう 橋本健三
砂に寝て砂の軋むや秋日和 山口誓子
砂に座しこゝろををしむ定斎屋 佐野まもる 海郷
砂に挿す月下美人の遺伝子を 丘本風彦
砂に敷き椎の落花は砂の色 吉年虹二
砂に明けて暑くなりさうな石 シヤツと雑草 栗林一石路
砂に杭打つてひびかぬ牡丹雪 吉田紫乃
砂に浮き浜昼顔の吹かるるよ 熊岡俊子(円虹)
砂に立つ足根こそぎに土用波 辻美奈子
砂に落ちて松笠黒き二月かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
砂に落ち鳥の形の春手袋 猪俣千代子 堆 朱
砂に足あとのどこまでつづく 山頭火
砂に足捉られし島の盆踊 山地里水
砂に足跡浮かせて春の佛に遇う 金子皆子
砂に迫り堪へぬ波雲雀音収めぬ 安斎櫻[カイ]子
砂に這うてもひる顔の花咲ぬ 菊舎尼
砂に這ふ防風はにかむ紅に 長谷川かな女 花寂び
砂に降りて春の雀の砂のいろ 角川 照子
砂に陽のしみ入る音ぞ曼珠沙華 佐藤鬼房 「何處へ」以降
砂のある飯に馴れけり蕪汁 菅原師竹
砂のこる避暑地の白い洗面器 星野明世
砂のごとき遺髯冴えたる鋼より 野澤節子 花 季
砂のごと抱けば妻は崩れゐぬ 仁智栄坊
砂のごと闇夜に売られている帽子 対馬康子 吾亦紅
砂のつまった電車が父の方へ行く 高橋信雄
砂のはて海くさまとい消えゆきしとこよのまれびと夜々に顕ちくる 加藤克巳
砂の上に夕日しみ入る石蓴採り 古沢太穂 古沢太穂句集
砂の上に波ひろがりぬ春の月 橋本鶏二
砂の上に濡れしひとでが乾きゆく仏陀もいまだ生れざりし世よ 岡部桂一郎
砂の上に醒めて線香花火屑 高澤良一 素抱
砂の上を走る砂あり防風摘 丸島弓人
砂の上曳ずり行くや桜鯛 高濱虚子
砂の中に海鼠の氷る小さゝよ 碧梧桐
砂の中まで香燃ゆるおしよろさま 中戸川朝人 残心
砂の匂いでアルバイト集まる雲の下 中村孝史
砂の声してピラミツドに春秋なし マブソン青眼
砂の如き雲流れゆく朝の秋 正岡子規
砂の家ありゆふがたの海の家 横山晃二(魚座)
砂の小箱にひと夜*もがきて鍬形よ 安井昌子
砂の幅ひろがる黄河雁の秋 下村 梅子
砂の庭海見るごとく野菊瞠る 宮津昭彦
砂の歩を殺し蟹より遠ざかる 古舘曹人 能登の蛙
砂の砦に波来てやどる冬暮光 角川源義
砂の絵の太陽系に穴ひとつ 中田美子
砂の蟹一つ見ゆれば無数見ゆ 内野修
砂の音たてて干潟の車椅子 小平千里
砂はじく音して乾ぶ市の鮭 臼田亜浪
砂はねて何か消えたる蟻地獄 坂根と志
砂はむと浦人いへり春の雁 闌更
砂はらに居り心しる月見かな 水田正秀
砂ばたけ芽ぷすぷすとあつきなり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
砂ふかく冬の彼方へ栗蔵ふ 栗生純夫 科野路
砂ふめば砂のきらめき秋彼岸 大津希水
砂ふるへあさまの砂を麦うづら 加舎白雄
砂ぼこり吹きつけ吹きつけ水からくり 榎本冬一郎 眼光
砂ぼこり馬とわけ合ひ冬の菊 大木あまり 雲の塔
砂まぜの肌に碧の潮を浴ぶ 吉原文音
砂まみれなる長ホース撒水す 右城暮石 上下
砂まみれの蚯蚓が目ざす閻魔堂 松木泊舟
砂みちに月のしみ入る二月かな 久保田万太郎 流寓抄
砂みちのあくなくぬるゝしぐれかな 久保田万太郎 流寓抄
砂みちのすこし上りや冬の月 久保田万太郎 流寓抄
砂みちのほのあかるしや花曇 久保田万太郎 流寓抄
砂も亦美しきかな桜貝 高濱虚子
砂も家も白し夏潮ただ青く 本田花女
砂も飛ぶ桜吹雪のきらめきて 岩田由美 夏安
砂やさし日和佐の浜に亀生るる 由比周子
砂やまにそよぐ浜風夏めけり 清水光士
砂よけのかげにも一人日向ぼこ 阿部みどり女 笹鳴
砂よけや蜑(あま)のかたへの冬木立 野澤凡兆
砂よけや蜑のかたへの冬立木 凡兆
砂よりもはやく乾いて桜貝 今瀬剛一
砂をどる利根源流やななかまど 高瀬史
砂をゆく歩々の深さよ天の川 橋本多佳子
砂を吐くいそぎんちやくの昼ふかし 福本吾香彦
砂を吐くことも気怠き日の浅蜊 高室有子
砂を吐く霞ヶ浦の生蜆 阿波野青畝
砂を吹家の棟川や冬下風 高井几董
砂を噴く流れ浅々と花菜かな 乙字俳句集 大須賀乙字
砂を摺る大淀舟や暮遅き 一茶
砂を摺大淀舟や暮遅き 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
砂を撒く如き雨なりベラを釣る 岡本爽子
砂を落とせばまつしろな月となり 石川さくら
砂を這ふ南瓜の花に島の雨 今井千鶴子
砂を這ふ蝿きらきらと魚臭の村 古館曹人
砂ヶ森袰月龍飛田植寒 黒田杏子 花下草上
砂丘には砂のふところ春蜥蜴 百合山羽公 寒雁
砂丘吹く風の砂立たず夏の月 乙字俳句集 大須賀乙字
砂冷えの昆布をたたむ一部落 文挟夫佐恵 黄 瀬
砂取り節うたへば応ふ磯鶫 沢木欣一 赤富士
砂取節うたへば応ふ磯鶫 沢木欣一
砂取節こもりてけぶる青葉潮 千田一路「能登荒磯」
砂取節唄ふ翁の着ぶくれて 坂 北濤
砂取節粛々寒し海に雨 西村公鳳
砂取節踊るや月の位置移り 千田一路
砂叩く雨に昼顔花やぶれ 岡本無漏子
砂吐いて動けば虎魚なりしかな 田中祥子
砂吐いて破顔一笑の寒蜆 三国谷美津代
砂吐かすごとくに濯ぎ螢烏賊 石川桂郎 四温
砂和布水切つて贋つかまさる 石川桂郎 四温
砂噛んでばか貝の打ち寄せらるる 平井照敏
砂噴いて穢を近づけず水草生ふ 西山泊雲 泊雲
砂土圭干潟や泳ぐぐ堺町 立吟 選集「板東太郎」
砂土手や山をかざして櫨紅葉 紅葉 正岡子規
砂土手や西日をうけて蕎麥の花 蕎麥の花 正岡子規
砂場には砂が来てをり四月尽 梶 智紀
砂場に砂どかと足されて春きざす 小林清之介
砂壇にうらがへりたる秋の蝉 川崎展宏
砂寄せて門の埋もれし避寒かな 水原秋櫻子
砂抜きのあてにはならぬ浅蜊かな 波出石品女
砂抜きの出刃差し入れて蜆桶 成田智世子
砂抱いてか黝き馬刀の虚せ貝 高澤良一 素抱
砂押太鼓たかぶる浦の植樹祭 松岡嶺波
砂掬ふことが遊びや暑をきざす 山口誓子
砂掻いてころがる馬や秋の風 木歩句集 富田木歩
砂掻けば防風白根雨情の地 八牧美喜子
砂村の能登恋しさよ蚊の日暮 松瀬青々
砂村や狐も鳴かず冬籠り 冬籠 正岡子規
砂村や稲荷を祭る冬木立 冬木立 正岡子規
砂村や茶屋のかたへの枯尾花 枯薄 正岡子規
砂村や蘆散る暮の戻り舟 芦の花 正岡子規
砂染めて干梅の滴りやまず 松村蒼石
砂止めの柵のゆるぶや夕薄暑 伊藤京子
砂止めの芝の宝鐸咲きにけり 大多和茶岳
砂殊につけて大きな松露かな 原田浜人
砂洲あまりひろし肩掛かき合す 山口波津女
砂洲の露響きはじめを喚く鐘 竹中宏 饕餮
砂洲を飛ぶ端から端へ寒鴉 右城暮石
砂洲昏れて白鳥明日へ羽づくろふ 北見さとる
砂深く蛤彩られてあり 澁谷道
砂温泉時過ぎて灯を打つ蛾も夜毎 河東碧梧桐
砂潜る小魚可笑しや秋の川 島村元句集
砂焼けて松の影這ふ芋畑 会津八一
砂熱く太陽熱く辣韮掘る 清水諒子
砂珠につけて大きな松露かな 原田浜人
砂生きて躍るパンの前担きゆけば 堀葦男
砂畑に突立つて居る案山子かな 会津八一
砂畠きれいに打つて秋祭 原田喬
砂疾風若藻を海へ巻きかへす 加藤知世子 花 季
砂白く松の落葉や数ふべし 散り松葉 正岡子規
砂粒を僅かに揺らし蜷進む 森本悦子
砂糠黍植うる鬼界ヶ島晴れて 河野照子
砂舟の水尾撓む北風大幅に 成田千空 地霊
砂色が砂になるまでトカゲの死 田中久美子
砂色の戦死の墓に参りけり 成田千空
砂色の鳥啼く礁しぐれ来る 文挟夫佐恵 雨 月
砂若布その山ほどの春愁ぞ 鳥居おさむ
砂落して蟻のわしれる油団かな 島村元句集
砂蒸しの秋は死にたる形かな 平井照敏 天上大風
砂蟹の穴に押し入る無理無体 高澤良一 さざなみやつこ
砂走りの夕日となりぬ富士詣 飯田蛇笏 山廬集
砂走り千鳥が走り砂走り 森田峠 避暑散歩
砂走る外の面の音にうそ寒き 富田木歩
砂走る音の外の面にうそ寒き 木歩句集 富田木歩
砂走れぬ自転車海は生の力 上月章
砂路の豌豆の花あつすぎる 川島彷徨子 榛の木
砂跳ねて羽抜鶏消ゆ日本海 能村登四郎 枯野の沖
砂踏めば一月ぬくし蟹の爪 秋元不死男
砂踏めば海のひろさの秋涼し 佐藤尋雪
砂踏めば砂の淋しき日の盛り 平田節子
砂踏めば砂の音して海うらら 小林たけし
砂蹴つて汐風に向く仔馬かな 脇坂啓子
砂蹴つて鯊の子姿くらませり 高澤良一 ももすずめ
砂雪隠螢光色に冬日溜め 殿村莵絲子 遠い橋
砂風に馬上の禰宜や秋祭 楠目橙黄子 橙圃
砂風の後に浮かぶや赤蜻蛉 内田百間
砂風の橋を落ち行く帰雁哉 内田百間
磧砂掘りて居り春を掘るごとく 林原耒井 蜩
磧砂掘れば水湧く東風の中 林原耒井 蜩
磨砂楊枝づかひや雪の昼 言水 選集「板東太郎」
磯ものを砂に商ふ祭かな 石田勝彦 秋興
磯砂に書きすてもどる暮春の句 佐野まもる 海郷
磯鴫の餌場ととのふ砂湿り 加藤峰子
礎に砂吹きあつる野分かな 夏目漱石 明治三十四年
神還るみちが砂紋にありにけり 吉田紫乃
禅寺の砂を浴びゐる初雀 鈴間斗史
秋の蝶砂丘は砂のきめ光る 百合山羽公 寒雁
秋の雷白刃のごとし砂にゐて 新谷ひろし
秋日没る庭の平らに金の砂 桂信子 「草影」以後
秋晴れや火口を落ちる砂の音 中川宋淵 詩龕
秋暑し足に海砂ひつついて 茨木和生 丹生
秋海棠冷えたる影を砂のうへ 高田正子
秋燕や靴底に砂欠けつづけ 加藤楸邨
秋燕や駅よりすでに海の砂 神尾季羊
秋立つや砂をどりゐる水の底 瀧澤和治
秋風の砂のつぶやき聴きまさむ 林翔 和紙
秋風や砂に汚き打上藻 楠目橙黄子 橙圃
秋風や砂の詰りし貝ばかり 藤田湘子 黒
穴惑砂の流るるごとく消ゆ 宮津昭彦
空席も華なり春の砂あらし 田口満代子
空蝉にあるはづもなき砂の音 大木孝子
立冬の砂まき返す波の腹 加藤耕子
立砂の鋭く尖り今日の菊 阪本早苗
立秋のひるの砂場の砂のかげ 中戸川朝人 残心
童女素足砂色小波四段ほど 香西照雄 対話
笹鳴や砂にちらばるうつせ貝 福田蓼汀 秋風挽歌
箱庭や砂ひとにぎり堆く 中田剛 珠樹以後
箱眼鏡舎利のやうなる砂流れ 高橋とも子「百鳥俳句選集」
籾萌ゆるや砂の村から鶏の声 成田千空 地霊
糸桜口中の砂のみ下す 岡田史乃
紀伊闌けし砂岩くづるゝ花石蕗に 長谷川かな女 雨 月
納骨の双膝をつく夏至の砂 鳥居美智子
終戦日夕餉の椀に貝の砂 今村妙子
絶え間なく砂のながれる北のビル 穴井太 ゆうひ領
絶間なく砂踊らせて湧く泉 了戒 純
網から投げ出された太刀魚が躍つて砂を噛んだ 河東碧梧桐
緊まりをる汀の砂や騎馬始 上原富子
緊りをる汀の砂や騎馬始 上原富子
緑陰に移す雀の遊び砂 中村ケイ子
罌粟蒔きし砂月光にかわくなり 飴山實 少長集
美しき砂をこぼしぬ防風籠 富安風生
美しき砂を被りし松露かな 桐山道子
美しき落葉を砂に神無月 武定巨口
群落の水仙砂に風音して 古舘曹人 能登の蛙
老人と鴉ばかりで砂洲伸びる 橋間石
胡砂ぐもる丘文字消えし墓ばかり 羽部洞然
胡砂の翳暑く粗塩山なせる 西村公鳳
胸をほしつて砂をみな出してしまつた 河本緑石
脇役でよし昼顔の砂乾く 鹿糠寿恵女
脚に砂盛つて泳ぎの身を鎮む 友岡子郷 遠方
脱衣する葭簀の中の砂深し 橋本美代子「石階」
膝の砂あやめの水に払ひけり 桂信子 黄 瀬
臘八や砂のつまりし二枚貝 斎藤梅子
舌先に浅蜊の砂や彌陀の国 宮坂静生 春の鹿
舞ひ上げし砂をかぶりて寒鮃 長谷川櫂 虚空
舞ひ砂の落ちついて雪の一わたり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
舟に砂溜めて飼ふ鶏冬たくまし 友岡子郷 遠方
舟底を擦る川の砂夏の果 桂信子 遠い橋
舟曳きの砂に鼻擦る霞かな 菅原師竹句集
舟茣蓙に砂のざらつく沖膾 堤月耕
舟虫や砂湯なごりの杙二本 上村占魚 球磨
色鳥の散りて磧の砂の月 内田百間
色鳥の暮れて川原の砂の月 内田百間
色鳥や砂踊りゐる柿田川 鈴木朗月
芥子咲くや漂砂はてなき地図の上 古舘曹人 能登の蛙
花冷や砂より抜けるハイヒール 新庄八重
花合歓いだき抗いの砂覚むる湿り 古沢太穂 古沢太穂句集
花満ちて砂粒ひとつひとつ見ゆ 岸本尚毅 鶏頭
花石蕗や作務の芸術砂の紋 河野静雲
花落もろとも少年院の砂平らす 津田清子
花豆や日々干し昆布の砂を揉む 金尾梅の門 古志の歌
花豆や砂に相撲へる蝦夷の子ら 露月句集 石井露月
花豌豆の葉をのぞき咲く砂まみれ 雑草 長谷川零餘子
苔も咲かず屍に砂にさらされぬ 苔の花 正岡子規
苔清水底砂にして青松葉 苔清水 正岡子規
若竹や砂に落ちたる蝸牛 比叡 野村泊月
草の実や砂少し溜め蜆殻 香西照雄 対話
草の穂や渚のごとく馬場の砂 大木あまり 雲の塔
荒南風やいく度変はる砂の紋 梅園芳郎
荒鮎のほろにがき砂も味はひぬ 瀧春一 菜園
莫告藻(なのりそ)の根に砂ほどのつめた貝 大屋達治 龍宮
莫告藻の根に砂ほどのつめた貝 大屋達治
菊さし芽する砂箱を僧作る 田村木国
菊の日や水すいと引く砂の中 魚目
菊根分亡き児が砂をいぢりをる 金尾梅の門 古志の歌
萩の風さぞや都は砂ほこり 萩 正岡子規
落ちてゆく砂ばかりなり蟻地獄 瀬川春暁
落ち蝉の砂に羽摶つ尚暑し 河東碧梧桐
落ち蝉の覚めず落ちゐる砂の上 松瀬青々
落栗や砂の流れし山の道 中拓夫 愛鷹
落花もろとも少年院の砂平らす 津田清子 礼 拝
落花生抜く砂飛ばし九十九里 本川晴代
落鮎の砂呑みこんでゐたりけり 藤崎久を
葉ざくらや荒砂(あらき)にまじるますほ貝(種の浜) 角川源義 『冬の虹』
葉月かな昼顔の砂踏み荒るる 伊丹さち子
葉牡丹や砂のこぼるる雲母壁 野村喜舟
蒔砂に箒の波や初しくれ 時雨 正岡子規
蓮如忌や漁砂どりの小女魚(こなご)売り 法水研秀
蔓荊の砂ごもりつつ芽の凛と 栗生純夫 科野路
蕉翁の卯波見てゐる砂の山 佐川広治
薄氷の底砂きらら流しをり 中戸川朝人 尋声
藁盒子饌米砂にこぼれゐる 浜野潮花
蘂触れて砂洲に漂着曼珠沙華 橋本美代子
虹仰ぐサーフボードを砂に立て 黛 まどか
蛇匂ふとは砂つけし草のさき 中田剛 珠樹以後
蛇進む砂ひとつぶも身につけず 大野今朝子
蛞蝓死すなめくぢいろに古刹の砂 宮坂静生 雹
蛤の砂を吐かせて梅月夜 角川春樹
蜂迷ふ墓の姫いま風と砂 マブソン青眼
蜆とるゝ砂に流のかすれかな 松瀬青々
蜑の子も砂湯の客や七五三 穐好樹菟男
蜩やひじきに混じる海の砂 長谷川櫂 天球
蜷の子の砂より小さく進みけり 大串章 百鳥 以後
蜷の道砂の道へとつづくらし 上田日差子
蝉なくや砂に短き松の影 蝉 正岡子規
蝉時雨供華の花束砂にさし 阿部みどり女
蝶消えて白き手が砂かきならす 横山白虹
蝶落ちて砂の摺鉢千尋なす 岸田稚魚 筍流し
蟹かさかさ入り来て砂を戸内に敷く 長谷川かな女 花寂び
蟹となり今宵霜くだる砂を匐ふ 千代田葛彦 旅人木
蟹もぐる砂の動きを波が消す 堤剣城
蟹よ汝れ砂にもぐらば眼つむるか 川口重美
蟹孤独炎ゆる砂どち歌へるに 川口重美
蟻の巣に砂を落して優しき子 矢島渚男 百済野
蟻も添ふ父の箒目砂に整し 香西照雄 対話
蟻呑みて砂おさまれり蟻地獄 五十嵐播水 播水句集
蟻地嶽飢ゑてゐずやと砂こぼす 鷹羽狩行 五行
蟻地獄この美しき砂の窪 三好曲「空港」
蟻地獄すべりし跡は砂が消す 柴田佐知子
蟻地獄そのほかの砂やはらかし 榎本冬一郎 眼光
蟻地獄まぶしまぶして砂痩せし 百合山羽公 寒雁
蟻地獄わづかに砂を手繰りたる 中田剛 珠樹以後
蟻地獄何事もなき砂落ちぬ 西岡正保
蟻地獄月下に渇く銀の砂 花田春兆(萬緑)
蟻地獄砂の切味あざやかに 山口誓子
蟻地獄飢ゑてゐずやと砂こぼす 鷹羽狩行
血に匹敵する水母の液砂に沁む 津田清子 礼 拝
行春や砂には松より生ふものなく 斎藤空華 空華句集
行水の砂美しき盥かな 星野高士
衣たたむ袂の中の東風の砂 阿部みどり女 『微風』
衰ひや歯に喰あてし海苔の砂 松尾芭蕉
袷きて踏む砂の降り固まりや 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
西国や渚の砂に瓜の苗 斎藤梅子
西瓜畑抜け来し足に砂なじむ 杉本寛
覇王樹や砂を握れば夜も熱き 長島千城
見るかぎり砂の色なり土用波 岩田由美 夏安
親潮は遥か泣砂を泣かしめて 沼尻巳津子
語らず寝ころぶ怒濤も夜の砂に友 古沢太穂 古沢太穂句集
読み初めの書よりこぼれる地震の砂 西田もとつぐ
象の前西瓜を砂に滴らす 星野紗一
象亀の砂に喰ひこむ四温の手 高澤良一 さざなみやつこ
象潟の砂美しき汐まねき 渡辺てい子
貝の砂かちりと噛めり隙間風 玉川リヨ
貝の砂噛んでむなしき半夏生 羽田岳水「胡笳」
貝の砂椀に残れり法然忌 鈴木鷹夫 春の門
貝寄風の描きし浜の砂の紋 堤靭彦
貝寄風や砂粒こぼす空の鳥 宇佐美魚目 秋収冬蔵
貝殻を拾ひて秋の砂こぼす 柏禎
貝風鈴まなうらに砂零れゆく 小泉静子
足ざはり良き鳴き砂に跣かな 金岡道子
足型も砂にほのかや鯊の水 西山泊雲 泊雲句集
足跡を砂のながるる涅槃吹 若山すみえ
踏みゆかば磯の砂哭く大旦 後藤春翠
踏む砂に影失ひぬ油照り 西岡正保(獺祭)
踏んでゆく砂たよりなき晩夏かな 大隈草生
蹠にはつなつの砂返りけり 高澤良一 さざなみやつこ
蹤く妻に砂丘の萩は砂を這へり 森川暁水 淀
身の重さだけ砂沈む秋渚 伊藤敬子
身もあらず鶏の砂あぶ草いきれ 富田木歩「定本木歩句集」
転けし子の砂払ふ子よ黄水仙 朝妻 力
轟々と白昼の砂ひとりの幼児 林田紀音夫
辣韮掘る父祖の地の砂さらさらと 上石みち子
辻風の砂にまぶれし小蝶哉 一茶 ■享和二年壬戌(四十歳)
迎へ火や脛より海の砂こぼれ 藤田湘子 春祭
送り火や砂に突きたる老の膝 木村蕪城 一位
這い出でて砂にまみれて蚯蚓死す 伊藤無限子
逝く春の砂曼陀羅の緑美し 上原瑞子 『燈台草』
遊ぶさまに砂採舟や春の川 星野麦丘人
遊行忌の潮足裏の砂を引く 小川玉泉
運動会ころべば砂の味のして 藤本陽子
遥か来てわれら 砂がきに夏去ると 伊丹公子 時間紀行
遺構いずれ砂となりゆく花はこべ 足柄史子
避暑宿へひかりつづける砂のあり 大野林火
郁子熟るや忍野湧水砂あげて 斎藤梅子
都護府とは砂のまほろばカンナ咲く 鳥居おさむ
酢牡蛎あり旅の句しるすお砂焼 水原秋桜子
里神楽赤子泣くたび砂緊る 村田小夜子
野は枯れて砂にずり込むうづらかな 伊賀-荻子 俳諧撰集「有磯海」
野分の砂さらさらと穴ヘこぼるる 川島彷徨子 榛の木
野分後の砂刷く浪へ子を放つ 皆川白陀
野馬追の神旗を奪ふ砂ぼこり 棚山波朗
金盞花砂の目潰し喰ひけり 高澤良一 随笑
銀漢の砂底乾き蛾の舞へる 櫛原希伊子
銀漢や砂丘砂散る未明音 鷲谷七菜子 花寂び
銀閣の銀の砂より牡丹の芽 鈴木育子
錦木や砂揺りて湧く水屋敷 廣瀬釣仙
門川を流るる砂や神無月 大峯あきら 鳥道
関跡の砂くれなゐの蟻地獄 藤江 昭
闘牛の終り血の砂かき均す 三木由美
防風つむ砂とんで日は銀いろに 八牧美喜子
防風のこゝまで砂に埋もれしと 高浜虚子
防風やきらりきらりと砂つむじ 石田勝彦
防風掘る砂の中まで日の匂ひ 和泉梅里
防風摘む砂さらさらと指間抜け 大川幸子 『小春日和』
阿武隈や月冴えて鳴る渚砂 鳥居おさむ
陽炎やさく〜と踏む砂の上 古白遺稿 藤野古白
陽炎や冬荒浪の砂の上 東洋城千句
陽炎や砂に坐りて蛇籠あむ 篠原鳳作
陽炎や砂まみれなる生簀籠 岡田耿陽
陽炎や砂より萌ゆる月見草 秋櫻子
陽炎や砂画の跡の赤き砂 陽炎 正岡子規
階段に砂のあがれる藜かな 山西雅子
雀しきりに砂を浴び原爆忌 鷹羽狩行
雀の子砂を浴びたる跡ならぶ 後藤夜半 底紅
雁供養砂の埋れ木焚き添へぬ 新谷ひろし
雁渡し砂丘は生きて砂奔る 豊長みのる
雁瘡に砂くひこんでゐたりけり 茨木和生 三輪崎
雨ほろほろあとのあつさよ砂河原 暑 正岡子規
雨みんな砂にすはるる木の芽どき 下村槐太 光背
雪や砂馬より落ちよ酒の酔 松尾芭蕉
雪解犀川砂洲を見せては瀬を頒つ 橋本多佳子
雪駄片方祭りの果の砂まみれ 大城まさ子
雲の峯浜砂乾く手を払ふ 原田種茅 径
雲を踏むかに富士を下る砂走り 旅一筋 安藤和風
雲母砂手にも足にも水着にも 篠原梵
雲渇きペレ還らざる砂降らす 河野南畦 湖の森
電燈や夜の野分の砂ほこり 野分 正岡子規
霍乱ややけ砂はしる赤跣 霍乱 正岡子規
霙るゝや砂深々と踏むしばし 泰山俳句集 中村泰山、岩谷山梔子編
霜の河岸砂岩のトルソ館内に 宇佐美魚目 秋収冬蔵
霜の砂洲一身斃れて首尾鋭きさま 竹中宏 饕餮
霜焼けの子の手がつくる砂の塔 佐川広治
露霜の静寂深めてゐる砂紋 有働清一郎
青あらし滅びの砂岩砂こぼす 西東三鬼
青く暗くひるねを刻む砂の上 岸田稚魚 筍流し
青ざめてゐて新松子砂の上 石寒太 炎環
青栗や砂の流れし山の道 中拓夫
青砂さん居 石川桂郎 高蘆
青芦の風来る白き砂を踏む 阪田ひで
静かさは砂吹きあぐる泉哉 泉 正岡子規
靴の砂返して冬の海を去る 和田祥子
靴先の砂飛びやまず東風の浜 内藤吐天 鳴海抄
靴底の砂さらさらと秋の海 坂井建
須磨寺は砂美しく夏の月 川崎展宏 冬
須走は砂荒き町富士薊 青木路春
頭髪のなかまで赤き砂降れり 大井 恒行
額に汗尻に火がつき砂ゆっこ 高澤良一 素抱
風が絶えず中洲の麦に砂入るる 栗生純夫 科野路
風にちれむそぢの砂絵青や赤 中勘助
風に研がれて砂純粋に純粋に 津田清子
風の日の明かき砂に無尽数に辛夷の花の影ゆれゆれぬ 岡部文夫
風の草千里熱波の砂千里 岡田日郎
風吹けば砂にかくるゝ防風かな 風外
風垣に組む流木は砂こぼす 佐藤ちさと
風垣の目に砂詰まる安吾の碑 山崎羅春
風垣の砂に埋もれて少し見ゆ 高浜虚子
風紋の上を走れる南風の砂 深川正一郎
風紋の砂の色してばつた跳ぶ 瀧春一
風紋の砂を積み上げ花の墓 対馬康子 吾亦紅
風紋は砂の自画像鰯雲 大森井栖女
風除けの萱にはりつく浜の砂 宮下邦夫
風除の砂に埋もれて少し見ゆ 高浜虚子
飛んで来て砂粒の入る浜昼顔 高澤良一 素抱
飛砂のあと砂のやさしき金鳳華 神尾久美子 桐の木以後
飛砂の風が締めゆく掛大根 井原響子
飢えてゐる砂をしづめて蟻地獄 百合山羽公 寒雁
飲食も砂噛む思ひ風邪籠 大森積翠
餅草や砂渦の立つ曲り道 室生犀星 犀星発句集
首に吊る砂の時計の息絶えて 増田まさみ
馬刀穴を隠しおほせず砂動く 松原直庵
馬刀貝の潮にさか立ち砂の中 秋田蓬午
馬鹿の花砂の鎖を脚にひく((註)馬鹿の花ははまごう) 石原八束 『黒凍みの道』
高浪の砂引く音やむらしぐれ 増田龍雨 龍雨句集
鯊舟の小錨砂に据りけり 永井龍男
鯒王の砂ゆるがして游ぎけり 長谷川零余子
鯨の血流れて砂に溜りけり 吉武月二郎
鰈干す簀に降る砂や春の風 冬葉第一句集 吉田冬葉
鰍突き砂をとばして鰍逃ぐ 茨木和生 往馬
鰒の声砂にまぶれて弱りけり 加舎白雄
鳥帰る磯村ひしと砂の上 友岡子郷 風日
鳥渡る波際粗き砂の面 毛塚静枝
鳥羽玉の蛭を磨くや砂の上 尾崎紅葉
鳥貝は獲れ砂まみれ春時雨 中村汀女
鳥達の踊り疲れて砂の街 対馬康子 吾亦紅
鳥飛んで砂に影ある春日哉 春日 正岡子規
鳴き砂のこゑを蹠に海施餓鬼 岡地蝶児
鳴き砂の中より拾ふ桜貝 瀬並久子
鳴き砂の浜に古郷忌過しけり 奥 令子
鳴き砂の浜の八月十五日 丸山嵐人
鳴き砂の砂を鳴かせる良夜かな 鳥井保和
鳴き砂の秋思の一歩にも鳴けり 今瀬剛一
鳴き砂の音のかそけきお講凪 鈴木夢亭
鴉も砂悲も砂乱舞はるかなり 八木原祐計
鴛鴦の水金砂銀砂をまぶすごと 高澤良一 素抱
鶏頭の砂の陽の影の音かな 冬の土宮林菫哉
鶴来る天山の砂こぼしつつ 秋山巳之流
麗かな砂中のぼうふ掘りにけり 室生犀星 魚眠洞發句集
麦の芽や風垣したる砂畠 吉田冬葉
黒砂の浜椰子泳ぎ子土語ばかり 河野南畦 湖の森
きりぎりす島の砂嘴また波に消え 友岡子郷 未草
はまなすの実より離るる砂嘴の風 橋本和男
はまなすや旅鳥の旅終る砂嘴 平井さち子 紅き栞
初凪や野付半島砂嘴長し 吉田晶子
朝月の砂嘴へ曳くべし氷魚網 桂樟蹊子
隙間なく砂嘴埋めをり日向鴨 小路紫峡
鮭颪砂嘴のへだつる海の色 松崎鉄之介
えぞかわらなでしこ砂州の凹みにも 高澤良一 燕音
これより夏砂州を舞台の花宴 高澤良一 燕音
はまなすも目つむる砂州の砂っかぜ 高澤良一 燕音
日の砂州の獣骨白し秋の川 藤沢周平
武者りんどうこぞりこぞりて砂州に咲く 高澤良一 燕音
水澄むと砂州にたちたる火をながめ 中田剛 珠樹以後
砂州あまりひろし肩掛かき合す 山口波津女 良人
青鷺の嘴を預けし砂州の天 高澤良一 燕音
あげ舟の如く熱砂に駱駝伏す 中村草田男
ぎじぎじと熱砂は口をねばらする 長谷川素逝 砲車
ぐすぐすと熱砂を踏めり旅の神 原裕 青垣
ゴビ熱砂蝶きしきしと消えにけり 鍵和田釉子
ピラミッド叩けば熱砂こぼしけり 矢島渚男 釆薇
人骨に似たる熱砂の枯珊瑚 秋光道女
俺に似た少年兵が熱砂ゆく 五島高資
壘を獲し熱砂のけむりあがりたれ 大橋櫻坡子 雨月
大西部熱砂に蝶と人の影 仙田洋子 雲は王冠
愛され方足らぬあしうら熱砂で灼き 田邊香代子
果てしなき熱砂に両親揃わぬ子 対馬康子 吾亦紅
流木や熱砂に消ゆる河なれど 鳥居おさむ
渚まで熱砂跳ねゆく跣かな 高澤良一 素抱
漁夫の葬舟を熱砂に曳き上げて 津田清子 礼 拝
熱砂さめ寮の全灯一指で点く 友岡子郷 遠方
熱砂に漁婦泣き「日本の巡査かお前らは」 古沢太穂 古沢太穂句集
熱砂ゆくなほ白靴を捨てきれず 野澤節子 花 季
熱砂ゆく捨て猫と化し街に出る 対馬康子 吾亦紅
熱砂ゆく老婆のこゑもせずなれり 山口誓子
熱砂万里生きとし生けるものミクロ 金子如泉
熱砂砂塵こころ庇ふに限りあり 小池文子 巴里蕭条
熱砂行く老婆のこゑもせずなれり 山口誓子「青女」
熱砂踏む靴音世より来し人か 金子晃典 『望郷独語』
熱砂降る砂漠の薔薇と言ふは石 小池文子 巴里蕭条
熱砂降る飼はれて黙す亀の上 小池文子 巴里蕭条
熱砂駆け行くは恋する者ならん 三好曲「空港」
爆音のあと死の谷(デスバレー)の熱砂のみ 仙田洋子 雲は王冠
発掘の熱砂に転ぶ泪の壺 殿村菟絲子 『牡丹』
秋暑し熱砂にひたと葉つぱ草 杉田久女
羊の血熱砂流るるまでもなく 中戸川朝人
荒荒と熱砂に羊皮乾きけり 小池文子 巴里蕭条
蛾を食みし蜥蜴熱砂に口拭ふ 佐野青陽人 天の川
踏めば鳴る離島の白き熱砂かな 橋本榮治 麦生
軍配昼顔熱砂をにじりつつ咲けり 堀口星眠 青葉木菟
鞁(むながい)置く熱砂さみしく波立たせ 対馬康子 愛国
駅馬車の道は熱砂へ還りけり 仙田洋子 雲は王冠
骨拾ふまして熱砂ののど仏 宮本みさ子
黙深く戦の島の熱砂踏む 土田桃花
さすらいの遠の砂山犬抱いて 村松彩石
すかんぽの赤む砂山春浅し 山萩 志田素琴
ふるさとの砂山いかに秋の風 会津八一
コンと咳 砂山に捨て 薄暮の銀 伊丹公子 パースの秋
佐渡見せぬ日や砂山の松落葉 石塚友二
初蝶や子は砂山で宙返り 鍵和田[ゆう]子 浮標
土佐みづき土佐の砂山遥かなる 磯貝碧蹄館
壊してはつくる砂山太宰の忌 伊藤 梢
夏千鳥砂山よりは高く飛ばず 樋笠文
彼岸中日砂山のピラミッド 上田日差子
拉致されるかも砂山へ白地着て 上野昭子
昼顔や十三の砂山米ならよかろ 角川源義 『冬の虹』
月の下砂山松の嵐かな 増田龍雨 龍雨句集
木の芽垣砂山の風とゞめけり 増田龍雨 龍雨句集
東風吹くや尚砂山の枯芒 野村喜舟 小石川
松露掻き幾砂山のかなたより 藤後左右
歳月は砂山となる夏帽子 対馬康子 愛国
海鳴りの砂山頭暑くをり 桜井博道 海上
物蔭に砂山の如桜あり 対馬康子 愛国
白昼の砂山に雉子啼きにけり 秋山百合子
砂を売る砂山の村北風晒らし 成田千空 地霊
砂山にかくれ去りたる防風掘 山口青邨
砂山にぬるゝ草ある時雨かな 増田龍雨 龍雨句集
砂山にぽかと月あり雁供養 永田青嵐
砂山に十六夜差せる波の群 桂樟蹊子
砂山に千年を待つといふ女 長澤奏子
砂山に四五人現れぬ彼岸潮 桂信子 花影
砂山に日の照つてゐる暑さかな 今井杏太郎
砂山に波及びゐる雷雨かな 野村喜舟 小石川
砂山に泳がぬ妹の日傘見ゆ 日野草城
砂山に芒ばかりの野分哉 夏目漱石 明治三十年
砂山に葱の花咲き妻が郷 岸原清行
砂山に蜂唸りサンテグジュペリ忌 大串章 百鳥
砂山に雀が鳴いて雪起し 今井杏太郎
砂山に風紋を被て墳の春 桂樟蹊子
砂山のくまなく濡れぬ冬の雨 細川加賀 生身魂
砂山のほてりにむせる小舟哉 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
砂山の八方破れ雪降り出す 中村苑子
砂山の吹雪張りつく安吾の碑 継田秀子
砂山の埋るる墓に參りけり 八木林之介 青霞集
砂山の夕ぐれ永し氷水 長谷川櫂 古志
砂山の歌碑に日矢立つ鰤起し 伊藤京子
砂山の波にくづるる啄木忌 林 美穂子
砂山の砂となるまで虫鳴けり 平川常廼
砂山の砂のざらつく啄木忌 古津みどり
砂山の砂ふところに墓しぐれ 細見綾子 雉子
砂山の砂を泣かすも夕霧忌 江ほむら
砂山の砂走りけり新松子 鈴木しげを
砂山の草あるところ仔猫の屍 成田千空 地霊
砂山の野分の髪となりにけり 細川加賀 生身魂
砂山の鷹ゆるやかに離れけり 中島佐渡
砂山は乾き山茶花散り続く 山西雅子
砂山は狼いろに草枯れゆく 成田千空
砂山も碑も美しく枯れにけり 難波三椏
砂山をいでて巻貝ゆるみけり 宇多喜代子
砂山をおりゆきし春の日傘かな 長谷川櫂 古志
砂山をのぼりくだりや星月夜 日野草城
砂山を下りて遅日の果てにけり 文挾夫佐恵
砂山を預流果(よるか)のごとく歩みけり 安井浩司 密母集
砂山赤い旗たてて海へ見せる 尾崎放哉
祖先のやうに寒い砂山いくつも越し 栗林千津
能登線や砂山ぶだう棚枯れて 細見綾子 黄 瀬
菱喰を砂山に聞き潟に聞く 中山フジ江
蝙蝠傘の骨が五月の砂山に 佐藤鬼房 朝の日
蝶そと飛びて砂山がひとり崩れをり シヤツと雑草 栗林一石路
蟻の塔砂山に古る水神社 角川源義
銀閣の遅日砂山こぼれけり 萩原麦草 麦嵐
防風摘いつか砂山遠く来し 阿部里風
陽炎に坐し砂山の言葉聞く 町田しげき
雁行くや砂山が消え童消ゆ 藤田湘子 てんてん
風で優しいまなざしの妻 砂山踏み 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 磁針彷徨
力なき浜昼顔に砂灼けし 三ツ谷謡村
巫女の鈴りりちりち砂灼けにける 伊藤敬子
愛され方足らぬあしうら熱砂で灼き 田邊香代子
海女かなし灼けたる砂に子を寝かせ 松尾 静子
灼けし砂踏みしむ日付変更線 海老原徳彦
灼け砂にまろびて球を獲しところ 大橋櫻坡子 雨月
灼け砂に藻屑を焚きし跡匂ふ 栗原 政子
灼け砂に踏板埋れ途方なし 長谷川かな女
灼け砂の真白目を突く恐山 高澤良一 随笑
灼け砂を宥める潮や浜おもと 玉井翠陽「渋柿句集」
灼け砂を踏みゐてひとりとは軽し 伊丹さち子
灼熱の砂を過ぎゆく夢の翳 仙田洋子 雲は王冠
砂の上砂吹かれゆく灼け砂丘 松田多朗
砂灼けていしを一事として帰る 小宮山遠
蟹さんの型押し遊び灼け砂に 高澤良一 素抱
やませ来る砂浜に聞く砂の音 松本 久
山車曲る砂浜の砂ゑぐりつつ 波津女
砂浜に砂の椅子など運ぶ家族 高桑婦美子
砂浜に続く砂畑貝割菜 茨木和生 遠つ川
砂浜に落ちて砂噛む奴凧 高澤良一 寒暑
砂浜の砂あたゝかき粟筵 中村汀女
砂浜の砂は貝なり崎の春 山形与志樹
濱豌豆散つて砂浴び雀かな 八木林之介 青霞集
砂浴びに胸を並べし寒雀 古川眞澄
砂浴びの砂のなかにて尿もらす 宮坂静生 青胡桃
砂浴びの社の雀祭前 高澤良一 素抱
砂浴びの穴日々深く夏雀 阿部みどり女 『雪嶺』
砂浴びの雀の地べた滑歯 財津立枝「財津立枝句集」
砂浴びの鶏の身震ひ春立てり 田中俊尾
砂浴びをしてゐる孔雀文化の日 矢代克康
砂浴び居る七面鳥や日の牡丹 島村元句集
砂浴ぶ鶏と同じ日向に着ぶくれて 野沢節子
神鶏の砂浴びてゐる花の昼 吉田ひろし
秋旱軍鶏の砂浴びきりもなし 中澤康人
紅蜀葵砂浴び鶏の寄りどころ 田島秩父
蛤になるべく雀砂浴びす 上野一孝
●砂子（すなご）
巣鴉に月の周りの金砂子 千代田葛彦
淑気満つ替ふる色紙の金砂子 鷲見 梅
砂子めく蚕紙守る家に時鳥草 田中英子 『浪花津』
蜻蛉生る多摩の金泥銀砂子 久米正雄 返り花
転げきて砂子の上の柿の花 山西雅子
鉄線花壁をこぼるる銀砂子 野村喜舟
銀砂子撒ける蓮池(れんち)のいと涼し 高澤良一 随笑
陋巷や花火が撒きし金砂子 内藤吐天 鳴海抄
除夜の灯は金の砂子を撒いてをり 阿波野青畝
雪空に野火が舞はせる金砂子 能村登四郎 菊塵
●真砂（まさご）
どんなくらしの事情も切り離しまるで真砂のように吹きつのる雪の力 橋本夢道
ふり海鼠なり浜の詠めの真砂原 調機 選集「板東太郎」
一月の松や真白き真砂ふむ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
万歳の口や真砂は尽きるとも 千代尼
初凪の伊良湖恋路という真砂 山田亀城
尺蠖の真砂に落ちて怒りけり 日原傳
巌海苔の能登の真砂を噛みあてし 石田あき子
引汐に小貝の氷る真砂かな 古白遺稿 藤野古白
御料紙の金銀真砂筆はじめ 中島知恵子
曲水の踵の真砂はらひけり 小林喜一郎
汐に沈む真砂と小草月明り 松村蒼石 雪
浜明けて真砂驚く花火殻 高澤良一 素抱
海見えて真砂路遠き散歩かな 尾崎紅葉
湧き水の真砂のひかり葱洗ふ 原 孜志
潮交る真砂を摺つて鮎下る 松村蒼石 雁
白真砂すこしこぼれて若茱籠 甲斐すず江
真砂とる篭揺れてゐる夏木立 小出穎太
真砂までてりしく園の紅葉哉 松岡青蘿
真砂地に菊のあるゝや浜庇 妻木 松瀬青々
真砂踏むよさを知りたる跣の子 高澤良一 素抱
神の春真砂に玉の響あり 尾崎紅葉
福寿草ひらきてこぼす真砂かな 鶏二
秋雨や真砂の中の潦 西山泊雲 泊雲句集
行く春や真砂掬うて須磨にあり 岡部六弥太
遊船や真砂座見えて橋の下 雑草 長谷川零餘子
関白の座に春眩し敷真砂 長谷川かな女 雨 月
陽炎や真砂の上の莚切れ 山梔子第一句集 岩谷山梔子
雲あひの真砂の星や秋の空 飯田蛇笏 山廬集
はますげやまさごのなかの筒井筒 吉田冬葉
篩ひたる如きまさごや蟻地獄 山本歩禅
まさご路や陽炎を追波がしら 高井几董
●白砂
お火渡りあしたに白砂凍みこごる 中戸川朝人 星辰
この庭の白砂に萌ゆるもの許さず 鈴木貞雄
さくらんぼ寄進の白砂とどきけり 中戸川朝人 星辰
ほだはらは玉白砂の上にあり 加藤みき
亀孵る白砂と御坊指さしぬ 高澤良一 宿好
佐渡見えず白砂掌より洩れ終り 阿部完市 無帽
分葱萌ゆ白砂混じりの島の畑 中島真理
初空や青松白砂ところがら 尾崎迷堂 孤輪
初鐘の楼へ白砂を渡りけり 比叡禽化
名月に白砂玉とも見ゆるかな 名月 正岡子規
夏風邪や青松白砂夜遊びて 尾崎迷堂 孤輪
夢殿へ白砂敷き足す年用意 山田孝子
年祝ぎの波白砂に敷きのべて 津田清子
庭坪の白砂弾んで初雀 勝村茂美
御白砂に数珠の音なしかんこ鳥 浜田酒堂
恐山血の池地獄の白砂に吾を裏切りし人の名を書く 石野公子
揚舟に湖の白砂と花の屑 伊藤京子
斑猫もまぎるる白砂秋の声 田中水桜
日に鴨の白砂あゆむ尾ぶりかな 白雄
早生紅葉白砂育ちの繊細に 香西照雄
春泥は王の墓域の白砂にも 河野頼人
晴昊や白砂に置いて鯊の顔 小澤實 砧
暮れなづむ白砂に残る若布の香 植田 桂子
月の白砂に腹がつかへてゐる餘裕 藤後左右
東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる 石川啄木
松葉散る白砂道や三穂神社 散り松葉 正岡子規
梨剥くや山水白砂を滲み出て 香西照雄 対話
椎匂ふ白砂のごとき頭痛薬 鈴木鷹夫 千年
椿落ち白砂に咲きぬ子安神 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
渚まで続く白砂や仏桑花 古賀まり子「暁雲」
白砂に別雷の実梅かな(上賀茂神社) 波多野爽波 『骰子』
白砂に松の実生や春の雨 比叡 野村泊月
白砂に水に飛石かきつばた 堀 葦男
白砂に熊手の波やちり松葉 散り松葉 正岡子規
白砂に犬のゐねふる小春哉 小春 正岡子規
白砂に犬の寐ころぶ小春哉 小春 正岡子規
白砂に葉を散らしをり沙羅双樹 森田公司
白砂に雀足ひくあつさかな 遅望 俳諧撰集「有磯海」
白砂のきらきらとする熱さ哉 暑 正岡子規
白砂の山もあるのにしくれ哉 時雨 正岡子規
白砂や露の貝殻鏤めて 石塚友二 光塵
白砂を踏む音筍曇りなる 桂信子 花影
白砂光り早箸さばき白子干す 丹羽卓
白砂安堵の息するすると蔓南瓜 飯田龍太
白砂拾ふともなく浜へ世阿弥の忌 上田日差子
白砂青松怒濤に縮む干大根 百合山羽公 寒雁
白砂青松磯に群がる鰯引 寺田寅彦
白砂青松踊子鞍を卸さるゝ 安斎櫻[カイ]子
石庭の白砂すがしき若葉かな 中野 薫
石庭の白砂ひかる薄暑かな 久保田万太郎 流寓抄以後
神籬の白砂にとんで道をしへ 大橋敦子 匂 玉
落し文安宅の白砂巻きにけり 小原啄葉
蕎麦の花白砂の海を行くごとし 田野やゑ
薔薇は白砂に散り緑蔭に猿の檻 田川飛旅子 花文字
長元坊現るる白砂や虚し貝 小枝秀穂女
陽炎や白砂がいだく塚一基 鷲谷七菜子 雨 月
青松を白砂へ出たる春着かな 森田 峠
須磨の白砂跡つけて雛の落ちゆくや 久米正雄 返り花
鷹の子や岩山裾に白砂の帯 成田千空 地霊
●鳴砂
白粉の父鳴き砂に滅り込みぬ 攝津幸彦 未刊句集
足ざはり良き鳴き砂に跣かな 金岡道子
鳴き砂のこゑを蹠に海施餓鬼 岡地蝶児
鳴き砂の中より拾ふ桜貝 瀬並久子
鳴き砂の浜に古郷忌過しけり 奥 令子
鳴き砂の浜の八月十五日 丸山嵐人
鳴き砂の砂を鳴かせる良夜かな 鳥井保和
鳴き砂の秋思の一歩にも鳴けり 今瀬剛一
鳴き砂の音のかそけきお講凪 鈴木夢亭
●星砂
星砂の小瓶に眠る良夜かな 杉江みずき
竹富の星砂さらふ卯波かな 牧野一古
●砂遊び
ふたなぬか過ぎ子雀の砂遊び 角川源義
分け入れば女と男砂遊び 辻脇系一
子雀のもぐりきつたる砂遊び 八木荘一
御旅所や御輿の下の砂遊 松藤夏山 夏山句集
捕虫網脇に横たえ砂遊び 高澤良一 素抱
春風で砂丘の神の砂あそび 辻田克巳
汗疹の子砂遊びしておとなしき 野村喜舟
泳ぎたくない子がひとり砂遊び 山田弘子 こぶし坂
藤棚や喘息の子の砂遊び 石川あゆみ
蟻追うてゐし目が離れ砂あそび 稲畑汀子
●砂の城
三蔵の往きし黄砂の城に立つ 藤本三楽
匿名の男女が見える砂の城 鈴木伸一
夏怒濤二人で守る砂の城 岩井たけを
百年の蟻塚にして砂の城 津田清子
砂の城崩れて海月太りけり 風巻恵子
砂の城攫ふ土用の波頭 佐藤信子
砂の城築きし王子潮浴びに 高澤良一 素抱
●流砂
いづかたへ浜昼顔の飛砂流砂 加藤三七子
春の雁流砂のなかの佛たち 藺草慶子
月明の石狩流砂こぼれつぐ 山部栄子
決闘の少年ボタの流砂ひろげ 穴井太 穴井太集
流砂ほど金木犀が散る夕べ 対馬康子 吾亦紅
硫黄山流砂の果ての附子の花 太田登茂子
●砂原
女ありく春の砂原下駄を没す 春 正岡子規
春風や吹かれこぼるる巌の砂 原石鼎
晝顔に浅間砂原あはれなり 室生犀星 魚眠洞發句集
照り昃り皺む砂原農馬の市 成田千空 地霊
砂原に頭ばかりの土筆哉 土筆 正岡子規
砂原の時雨吸いこんて水もなし 時雨 正岡子規
砂原の風吹き止まず朝の月 内田百間
砂原やほうしこ抜けばとなゝがら 土筆 正岡子規
砂原や脳巓暑く眼眩む 暑 正岡子規
砂原を蛇のすり行く秋日かな 村上鬼城
舟横に砂原あつし藪はづれ 信徳「誹林良材」
花火ありし砂原へ船上りけり 増田龍雨 龍雨句集
裸で焼き黍を食ふ家の前の砂原 梅林句屑 喜谷六花
●砂礫
冬川のたしかな落差砂礫澄み 成田千空 地霊
月面の如し月夜の砂礫帯 島村 正
洲の砂礫紫帯びぬ谿紅葉 香西照雄 素心
砂礫白エーデルワイスまぎれけり 岩崎照子「かつらぎ選集」
秋の雨大正池の砂礫打つ 高澤良一 素抱
縄より?れて竜巻あそぶ砂礫の涯 堀葦男
蟻とまる時に砂礫の明らかに 上野泰 佐介
裸子に砂礫は熱き鋲なして 大井雅人 龍岡村
連嶺も踏める砂礫も秋夕焼 福田蓼汀 秋風挽歌
雪割れば去年の相もつ砂礫みち 平井さち子 紅き栞
●砂利
あいつも一生砂利採暮色に火を點し 細谷源二
うなだるる馬に凍河の砂利積み上ぐ 斎藤玄
きりぎりす砂利場の馬の足もつれ 百合山羽公 故園
さだかに夏空音さし交いに砂利を練る 古沢太穂 古沢太穂句集
しがらめし葛に砂利あげ堰づくり 木村蕪城 寒泉
やはらかく砂利を踏む音盆の月 柏原眠雨
アポイ岳砂利より立ちし壺すみれ 榎 美幸
一車の砂利一潟の空つぽ枯野風 平井さち子 完流
二月風梶あげて砂利落し敷く 古沢太穂 古沢太穂句集
入学や母として踏むあらき砂利 吉野義子
冬の虹砂利のどこかに鍵埋もれ 山本千代子
冬川のどん底唄や砂利採女 萩原麦草 麦嵐
冬砂利を踏めば頭を占むヨブ記の章 岩田昌寿 地の塩
初蝶を得し砂利果舗の鏡中に 香西照雄 対話
初鴉砂利場の水に羽おろす 羽公
南天微動ひよこ運ぶに砂利騒ぎ 香西照雄 対話
受難節恪印負ひて砂利車 百合山羽公 寒雁
告悔日踏みゆく霜の砂利厚し 後藤一朗 『雪間』
夏草の上に砂利しく野道哉 夏草 正岡子規
大根引く三方原の砂利畑 阿部月山子
如月の嵯峨は砂利布く村賦役 四明句集 中川四明
妻抱かな春昼の砂利踏みて帰る 草田男
学徒出陣凍砂利の音憑きまとう 高木青二郎
家裏に砂利あける音枯れすすき 鍵和田[ゆう]子 未来図
寒中や水なくば供華砂利に埋め 依光陽子
小砂利には先づ一粒や喜雨至る 香西照雄 素心
少しづつ砂利に取らるる薄哉 正岡子規
少しづゝ砂利に取らるゝ薄哉 薄 正岡子規
尾花枯て砂利ほる丘に鴉鳴く 枯薄 正岡子規
川砂利のあらはに白き今朝の秋 成田郁子
川砂利を馬に負はすや雪まじり 中島斌男
広場の砂利隙間なしメーデー歌充満 内藤吐天 鳴海抄
引く潮に砂利鳴る音や夏の月 本田あふひ句集 本田あふひ
招魂祭濡れたる雨後の砂利を踏む 磯貝碧蹄館
指輪失う罪は夏至光砂利の山 渋谷道
敷砂利の裏まだ濡るる孔雀草 神谷紫光
早乙女や街道の砂利いたがりつつ 中村草田男
春の砂利濡れ初め個色詩の会へ 香西照雄 対話
春泥を砂利でまぎらし病院建つ 津田清子
曇る砂利 運ぶ 巨きく寒いタイヤ 伊丹公子 メキシコ貝
木流しを見ず砂利船の居坐りて 森田峠 三角屋根
柵瞬県れの砂利踏み天使像ゆく 西東三鬼
梅が香や砂利しき流す谷の奥 土芳
橋下に砂利取共の午睡かな 比叡 野村泊月
死後の砂利採り囁きにも似て疲る 杉本雷造
水は澄むに砂利掻く音の春日影 安斎櫻[カイ]子
洗ひ顔の河砂利故郷の柿若葉 香西照雄 素心
涙滂沱たるは砂利採の濡れしさま 細谷源二
涯になるほど砂利採は馬よりかすむ 細谷源二
涸川見る砂利採り馬の無言見る 寺田京子 日の鷹
濡砂利を踏む歩度くるひ雁の列 加藤楸邨
灼け砂利の蟇の豆子よいづこまで 加藤知世子 花 季
炎天の砂利に供華挿す広島忌 鈴木厚子
炎天の砂利に小鳩は首なき影 安東次男 裏山
炎昼の砂利ふみて来し遺影かな 原田青児
無蓋貨車砂利満載や年暮るる 杉山満保
片陰や弾き出されて砂利完し 香西照雄 対話
田打帰りのつまづきやすき道の砂利 大熊輝一 土の香
田楽や雨に砂利舟通ひ居る 阿部みどり女 笹鳴
癒えし子いる小砂利小笹の霜晴に 古沢太穂 古沢太穂句集
砂利が鳴る松葉牡丹の車寄せ 岡崎莉花女
砂利といふ落花の馴染みにくきもの 後藤比奈夫 めんない千鳥
砂利にスコップ突きさされしまま驟雨中 古沢太穂 古沢太穂句集
砂利の上に櫻落葉す校の庭 寺田寅彦
砂利の道片蔭にほそき土の道持つ 篠原梵
砂利の音させて蜆を洗ひけり 杉山三知子
砂利みちの夜がいきいきと稲車 山田公一
砂利を曳く馬見つゝ小春の日暮れたり 青峰集 島田青峰
砂利を踏む僧の足音鑑真忌 田中はな
砂利トラック洗ふ馬洗ふごとくなり 木村蕪城 寒泉
砂利山にしばらく春の夕日かな 菅原多つを
砂利山に生き鳳仙花実をとばす 中戸川朝人 星辰
砂利山の砂利白し夏来りけり 石塚友二
砂利山を高きへ登るこころかな 草間時彦 櫻山
砂利庭の深き箒目落葉浮く 杉本みつる
砂利採の唄ちぎれ飛ぶ雪解風 草間時彦
砂利採の馬を冷しぬ長良川 広瀬千鶴
砂利敷に花筒を樹て夏花萎ゆ 富安風生
砂利浜は先祖の遺産こんぶ干す 南 良一
砂利積みし牛を鞭うつ首夏の浜 林 徹
砂利舟の大工でくらす枯野かな 野村喜舟 小石川
砂利踏んで月の光を瑕つけし きくちつねこ
砂利運ぶ船の鈍足鳥雲に 館 容子
破れ蝶が砂利訪ふ栄華の跡無くて 香西照雄 素心
祝詞和し老婆ら下座す寒の砂利 鍵和田[ゆう]子 未来図
神楽舞ひ砂利踏む足袋の白きこと 城間芙美子
秋ざくら砂利敷かれたる家の前 滝井孝作 浮寝鳥
秋苑の小砂利掌に撒く紅毛児 長谷川かな女 花 季
秋行かす離宮の小砂利鳴かせつつ 山尾玉藻
種馬のどどと帰るを砂利とびのき 平井さち子 完流
積砂利の中冷めきつて炎天に 野澤節子 黄 瀬
第一歩に砂利騒だつよ遠足へ 香西照雄 素心
脳天に砂利の音する白い罌粟 野間口千佳
自安我楽の舞ふ打水の砂利鳴らし 柴田寛石
荒々と砂利船洗ふ海雨の明け 茂里正治
菜をかかへ砂利もしぐるるたつきかな 室生犀星 犀星発句集
葉櫻や裸身ひかりて砂利くづす 細見綾子
蕪赤き里隣る砂利を上ぐる村 河東碧梧桐
裏道の貝がら砂利や霜柱 丸之 選集「板東太郎」
道端の砂利のほとりの嫁菜哉 滝井孝作 浮寝鳥
雪を被て砂利濡れあへりなつかしき 千代田葛彦 旅人木
雪嶺に向ひて砂利を篩ひをり 萩原麦草 麦嵐
雪虫や底湿る砂利にシヤベル挿す 榎本冬一郎 眼光
露の中にて満載の砂利下ろす 直人
馬は肋のなりに皺みて凍砂利牽く 齋藤玄 『玄』
鮎汲や裾しぼりゐる砂利の上 松香
鯉のぼり砂利満載のトラックに 穂坂日出子
鳥雲に砂利採りの咳遠きこゆ 稚魚
鶯や砂利掃きしあと旗揚げる 田中裕明 山信
鶴ヶ岡秋意の小砂利踏みにけり 不破 博
●黄砂
うつむきてひた行く驢馬や黄砂降る 坪井澄郎
ちはやぶる鳥居に迫る黄砂かな 五島高資
わが兄も黄砂となりて戻り来よ 緒方しま子
三蔵の往きし黄砂の城に立つ 藤本三楽
六甲も街もにびいろ黄砂来る 小川濤美子
叔父ふたり遺骨還らず黄砂降る 松下訓子
売れ残る黄砂の宅地みどりの日 清水晴子
外国の黄砂造幣局に降る 竹中碧水史
大陸の果なき黄砂曇とも 稲畑汀子
宙吊りの愛在り海へ降る黄砂 寺井谷子
小惑星自転のうなり黄砂降る 我妻民雄
山頂のモラエス館に黄砂降る 藤江駿吉
岸壁に来し郵便車黄砂降る 白虹
我が生れし大陸よりの黄砂かな 服部たか子
戦没碑瓶の中まで黄砂降る 宇都宮靖
戦艦は海底にあり黄砂降る 大庭紫逢
故郷は海峡の果て黄砂降る 武内英子
楊貴妃の骨の溶けゐる黄砂かな 渡辺重昭
次々に黄砂を拭ふ帰り水 川崎展宏 冬
死して灰黄砂まじりに翔ぶもよし 鳥居おさむ
父いまだひきずりしもの黄砂降る 斉藤久美子
父に蹤き渡りし国の黄砂来る 佐藤喜代子 『水の綺羅』
経本の耳のささくれ黄砂くる 重田忠雄
肉食家族に黄砂は夜を流れおり 寺井谷子
荒川の犬と黄砂を浴びており 小高沙羅
赤い靴はいて亡命する黄砂 森田むつみ
遠き日の戦陣よりの黄砂降る 佐々木帯山
遼太郎逝きてモンゴルより黄砂 柳澤一生
雑音の多きラジオに黄砂降る 山内崇弘
雲仙の火山灰もまじへて黄砂降る 築城百々平
電光ニユース消えて黄砂の街残る 中西徳太郎
青春を斉すに似る黄砂が降る 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
風葬の地より届きし黄砂かな 平田君代
鴬の声もかすむや黄砂降り 古賀新男
黄砂ふる子の落書のボンネット 蔵本丈晶
黄砂ふる日を曼荼羅にぬかづきぬ 吉田汀史
黄砂ふる朝より二杯目のコーヒー 足柄史子
黄砂ふる遊びざかりの老夫婦 延原ユキエ
黄砂来る胸に馬蹄のペンダント 高橋叶
黄砂来る黄旗滅びし黄土より 的野 雄
黄砂舞ふ孫子の生地魯か斎か 田中英子
黄砂降り籠にけばだつ白兎 横山房子
黄砂降り遠望の海消えにけり 石田慶子
黄砂降るこの空の果戦禍あり 中村敏子
黄砂降る動哭の子の長睫 中野由美
黄砂降る日も生まれつぐ無精卵 三沼画龍
黄砂降る水動かざる養魚池 内山 都
黄砂降る沙翁の節の一くさり 筑紫磐井 婆伽梵
黄砂降る洋館なべて幻に 澤井洋子
黄砂降る海に消えゆく舳先かな 長嶋美年子
黄砂降る耶馬台国に卑弥呼在り 猿渡藜子
黄砂降る華北のいくさ夢にみる 筒木真一
黄砂降る身近かに死者の多き日は 今村ケサヱ
黄砂降る長城に立つ葬り終へ 杉本寛 『杉の実』
黄砂降る黒き瞳のかなしみに 野澤節子