馬

●野生馬●馬の目●馬の耳●馬の鼻●馬の胴●馬の尻●馬の尿●駒●名馬●駿馬
●神馬●駑馬●駄馬●荷馬●輓馬●種馬●荒馬●悍馬●奔馬●驢馬●裸馬●縞馬●橇馬

●野生馬
灘に尽く野生馬の岬冬夕焼 大橋敦子
野生馬に山陰を恋ふ妻子あり 藤後左右
野生馬に朝りんりんと露の谿 加倉井秋を 『真名井』
野生馬に水呑む序列葛の花 早川利浩
野生馬に秋も岬の薊濃し 神尾久美子 掌
野生馬ねぐらいづこや寒夕焼 鈴木詮子
野生馬の先馬は夏峰に近し 藤後左右
野生馬の啼かぬ一列夏山越ゆ 藤後左右
野生馬の天や龍胆よりも澄む 神尾季羊
野生馬の夫婦なりと言ふ夏山ゆく 藤後左右
野生馬の病めば真葛を刈り与ふ 瓜生和子
野生馬の肌あらあらと草青む 一民江
野生馬の背の灼くるまま岬山 寺田順子
野生馬の跳ねてみさきは火の祭 梶原 宇良
野生馬の遠目夏野を傾かす 田沢公登
野生馬の馬身艶なく冬ざるる 大橋敦子 匂 玉
野生馬の黒光りして夏岬 寺田順子
野生馬や夏野の父や苦悩ありや 藤後左右
野生馬を見ての泊りの春の月 小坂蛍泉
●馬の目
かげろふにほそる神馬の眼つきかな 幸田露伴 江東集
ながれ来るものに目つむり冷し馬 四ノ宮白帆
はるばるみちのく耕馬の眼には路傍のわれ 磯貝碧蹄館 握手
ふんばつて雨を眼尻に田掻馬 近藤一鴻
シャガールの馬の眸夜明けの青はまだ 岩間民子
一直線に馳け橇馬の眼の青むか 山本よ志朗
二度呼べばかなしき目をす馬の子は 加藤楸邨
兵馬俑眼に追ふ真夏の夢に生き 河野南畦 『元禄の夢』
冷し馬の目がほのぼのと人を見る 加藤楸邨
冷し馬の眼に遥かなる帆がすすむ 内藤吐天 鳴海抄
冷し馬暮色のなかに眼をひらく 松澤鍬江
冷し馬瞳より涼しさあふれくる 朝倉和江
凩や眼をつむりたる馬の上 古白遺稿 藤野古白
初ひばり瞳を澄ましゐる厩の馬 下田稔
初雪は馬の瞳に降るがよし 栗林千津
合掌部落に秋が来てゐる馬の瞳よ 中村明子
埃から埠頭吸い馬の眼馬の眼を怒る 赤尾兜子
夜祭や神馬優しき眼を向けて 都筑智子
大根馬菩薩面して眼になみだ 川端茅舎
大海馬眼をしょぼつかせゐたりけり 高澤良一　ぱらりとせ 雜
干鮭の目へかがんだる竈馬かな 許六 九 月 月別句集「韻塞」
御神馬の瞳動かず秋の暮 仙田洋子 橋のあなたに
日がさして馬の目も露溜めにけり 静塔
春塵に眼をしばたたき繋ぎ馬 阿部みどり女
木曽馬の黒瞳みひらく二月かな 大峯あきら
末枯の馬の眼に逢ふ草千里 加藤安希子
橇逸る馬の眼に灯の飛び入れば 栗生純夫 科野路
水馬目高の目玉ふまへたり 巌谷小波
活き馬の目を抜く江戸の師走かな 柑子句集 籾山柑子
涙ぐむ馬の眸にあふ竹煮草 内山せつ子
澄んだ眼で菫を喰べてしまふ馬 田川飛旅子 『山法師』
瞬けば老いの眼なりし飾り馬 花田春兆
砂丘馬のうるみ眼や辣韮畑 畠中久枝
神馬の瞳冬撒かれゆく石だたみ 北野民夫
神馬灰色秋蝿に眼をしばたたき 長谷川朝風
秋の暮馬の目猫の目皆恋ひし 尾形不二子
繋がれし馬の眼細し合歓の花 伊藤松宇
花の雨馬の瞳の中に降る 野沢節子 八朶集以後
行く秋や遠き目をして兵馬俑 樋口比佐夫
誘蛾燈に目を剥いて馬通りけり 萩原麦草 麦嵐
負馬の眼のまじまじと人を視る 飯田蛇笏 山廬集
負馬の眼のまじ〜と人を視る 飯田蛇笏
貸馬の瞳の涼しさのかなしさよ 風生
近よれば貸馬露の眼をひらき 柴田白葉女 牡 丹
遠山火闇に馬の瞳しづかなり 中拓夫
遠山火闇の馬の瞳しづかなり 中拓夫 愛鷹
閉づるなき眼冷まじ兵馬俑 山田弘子
雛の日や巷に荷馬の無垢なる目 野澤節子 黄 瀬
雪深きくらがり馬の目がふたつ 本宮哲郎
雪片の眼より離れず埴輪馬 河野多希女 こころの鷹
飾り馬ひと懐しき眼を持てり 渡辺亀齢
馬が来るみなうるみたる眼をはつて 細谷源二 砂金帯
馬が目をひらいてゐたり雪夜にて 加藤楸邨
馬が眼をひらいてゐたり雪夜にて 加藤楸邨
馬と生れて競ふとき眼するどしや 細谷源二 砂金帯
馬の屁に目覚て見れば飛ほたる 一茶 ■寛政四年壬子(三十歳)
馬の目を念入りに拭き卒業す 折井眞琴
馬の眸に前髪かかる朝曇 正木ゆう子
馬の眼にうつりて赤き椿かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
馬の眼に旧正月の泪かな 佐川広治
馬の眼に遠き馬ゐて雪降れり 中条明
馬の眼のどこかが赤し合歓の花 横山白虹
馬の眼のどこかゞ赤し合歓の花 横山白虹
馬の眼のどこ見るとなく夕立かな 水谷千津子
馬の瞳にうつる小さき町のまつり 細谷源二 砂金帯
馬の瞳に人の世枯れてゆきにけり 大串章
馬の瞳に土筆ポキポキ摘まるるよ 加藤憲曠
馬の瞳に夕日が届く籾殻火 栗林千津
馬の瞳に継ぎ目があるとすれば夏 栗林千津
馬の瞳に蒼空映る冬木風 太田鴻村 穂国
馬の瞳のあをさ愛しも葛の花 小松崎爽青
馬の瞳のひつそりとある秋の風 石田郷子
馬の瞳の中の遠火事を消しに行く 西川徹郎
馬の瞳の哀れ照葉の紅ゐに 長谷川かな女 雨 月
馬の瞳の奥で乾いてゆく木立 大西泰世 世紀末の小町
馬の瞳も山国の澄み蕎麦刈れる 岡野風痕子
馬の瞳も零下に碧む峠口 飯田龍太 童眸
馬刀掘りのひたと金壺眼かな 西田青沙
馬小屋に馬目ざめゐて初茜 有働 亨
馭者の目が馬にきびしい秋の暮 宇多喜代子
黒瞳がちに御崎の馬は肥えにけり 山口麻子
●馬の耳
人馬湧きその馬の耳天を剌す 片山桃史 北方兵團
啓蟄やぴくりと動く馬の耳 日比野睦子
木曾馬の耳すこし立ち秋しぐれ 鷲谷七菜子
橇馬の耳の動きに吹雪泣く 石川桂郎 高蘆
異見など投頭巾着て馬の耳 黒柳召波 春泥句集
白南風のからまつやまへ馬の耳 鷲谷七菜子 花寂び
苗札や雨をいやがる馬の耳 小原俊一
遠雷や笠より出たる馬の耳 龍岡晋
餅を搗く方へ全き馬の耳 宇佐美喜代治
馬の耳うごくばかりや花曇り 飯田蛇笏 山廬集
馬の耳すぼめて寒し梨の花 各務支考
馬の耳見てゐれば東風吹きにけり 高 千夏子
馬の耳豚の尾寒鴉に与える 松本勇二
●馬の鼻
代馬の鼻竿敏き童かな 菅原師竹句集
啼く虫の中へさし込む馬の鼻 道彦
橇馬の鼻のもゝいろ湯を覗く 山口草堂
蜜柑むく初荷の馬の鼻がしら 中村汀女
親馬の鼻は子馬の何を嗅ぐ 森田峠 逆瀬川
赤馬の鼻で吹けり雀の子 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
露けしや朝草喰ふた馬の鼻 黒柳召波 春泥句集
馬の鼻きるつばめの音の青き暮れ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
馬の鼻叩き戻しぬ青嵐 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
馬の鼻芒は食はでゆきにけり 原石鼎
馬の鼻過ぎてさびしき葱の畝 藤田湘子 雲の流域
●馬の胴
耕馬の胴黒奴一撥の報ここに 成田千空 地霊
馬の胴押して通しぬ麦車 比叡 野村泊月
●馬の尻
万歳や馬の尻へも一祝ひ 一茶
冬暖か綺麗に割れて馬の尻 堀 敬子
凩に吹き落されな馬の尻 正岡子規
初夢や赫々として馬の尻 大木あまり 火球
地吹雪と行くほのぼのと馬の臀 橘川まもる
夕涼や水投つける馬の尻 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
寒垢離に尻背けたる繋ぎ馬 蕪 村
桔梗も馬の尻毛も靡く野ぞ 展宏
梅雨空のずり落ちて来る馬の尻 石寒太
橇馬の臀毛少なに老いにけり 飯田蛇笏
満々たる馬の臀見え冬越す芽 成田千空 地霊
爽籟や艶にも馬の尻ならぶ 篠田悌二郎 風雪前
秋光やここ帯広の馬の尻 杜春
菫咲き埴輪の馬に尻の穴 田川飛旅子 『使徒の眼』
霧こめて途ゆく先や馬の尻 高井几董
霧こめて道行先や馬の尻 几董
鞍とれば寒き姿や馬の尻 河東碧梧桐
馬の尻に行きあたりけり年の市 子規
馬の尻の綺麗に割れて菫咲く 中村和弘
馬の尻みがく少年雲の秋 小松崎爽青
馬の尻雪吹きつけてあはれなり 子規句集 虚子・碧梧桐選
馬の尻馬の尻ここは雪の国 細谷源二 砂金帯
馬の臀摶たれてひびく霜来つつ 藤田湘子 途上
麦生うや哀しくまろき馬の尻 北原志満子
●馬の尿
すさまじき馬の尿なり山は雪 鳥羽三郎
尿前の馬の尿句碑穴まどひ 河野静雲
木枯に進まぬ馬の尿かな 青峰集 島田青峰
蚤虱馬の尿するまくらもと 芭蕉
●駒
ここよりは山坂けはし駒つなぎ 増田宇一
しぐれ来と首ふり立てて三春駒 中村苑子
しづかなる駒の煙に北風ありや 京極杞陽
じつとして雪をふらすや牧の駒 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
つと出でて妹の春駒いさむかな 菊池芳女
はた〜や遠く小さき放ち駒 松根東洋城
ふみならし人形づかひや駒むかヘ 井原西鶴
ゆふ牧の駒いごくときねむのはな 日夏耿之介 婆羅門俳諧
アカシヤの波なし駒の雷おこる 太田鴻村 穂国
一むれや夏野かけぬく二歳駒 ノ松 俳諧撰集「藤の実」
一陽を出て走るや瓢の駒 松岡青蘿
一頭動き百頭動く春の駒 金箱戈止夫
不二は白雲桜に駒の歩みかな 松岡青蘿
並脚となりてたかぶる春の駒 椎橋清翠
京笠は皆駒曳のもどりなり 浪化 俳諧撰集「有磯海」
初乗や由井の渚を駒並めて 高浜虚子
初御空晴雪に飛ばす駒もがな 高田蝶衣
初明りたてがみ白き三春駒 高木公園
初明り覚めし藁コの忍び駒 河合未光
口取も咳気(がいき)ごゑなり駒むかへ 曲翠 俳諧撰集「有磯海」
唐秬に駒や繋がん野路の月 黒柳召波 春泥句集
嘘から出て遠き蘆生にわけいる駒 竹中宏 句集未収録
嘶くや口取駒のうすごほり 立花北枝
囀の梢木曾駒の雪まぶし 原 柯城
夏の駒山梨の花嗅ぎて去る 長谷川かな女 雨 月
夏草や所々にはなれ駒 闌更
大庭をどよもす風や駒迎 露月句集 石井露月
大絵馬の白駒枯野へ跳り出る 宮坂秋湖
天の斑駒鞣しに鞣す妣の国 高柳重信
将棋駒干す街筋や竹の春 松浦貞子
岩角をふみかく駒の野分かな 松岡青蘿
強霜や朝あかねして駒の嶮 飯田蛇笏
弾初や女独り住める家の忍駒 尾崎紅葉
御免なり将棋の駒も箱の内 小林一茶
思ふ事聞かせかましき忍駒 尾崎紅葉
手拭もときに野良帽駒鳴けり 影島智子
打たゝく駒のかしらや天の川 向井去来
打ちたたく駒のかしらや天の川 去来
放たれてまなざし聡し春の駒 磯崎美枝
旅に欲る將槿の駒とさくらんぼ 阿波野青畝
日高嶺や跳ぶも憩ふも春の駒 猪俣千代子
早稲の香や有磯の浜の放れ駒 詠み人しらず 俳諧撰集「有磯海」
春の駒人に嘶き甘えけり 高橋淡路女 梶の葉
春の駒東風にあらがうごと歩む 皆川盤水
春の駒東風にあらがふごと歩む 皆川盤水
春の駒柵にすり寄り人を恋ふ 熊倉 猷
春風や片手たづなに駒並めて 素逝
春駒に童つきゆく浦曲みち 中川文彦
春駒のどこかをかしくかなしくて 金子のぼる
春駒の哥でとかすや門の雪 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
春駒の影たたかうて来りけり 萩原麦草 麦嵐
春駒の昨日廻りし村に泊つ 高澤良一　随笑 一月-三月
春駒の松にくるわや朝日かけ 鳴雪俳句集 内藤鳴雪、松浦爲王編
春駒の鈴の音澄めり湖に来て 皆川盤水
春駒の鴎を翔たす鈴の音 皆川盤水
春駒は面のうちよりささやけり 藤井青咲
春駒やふり分け髪の振りくらべ 素 丸
春駒やぽこんぽこんと山並び 中村清子
春駒やよい子育し小屋の者 炭 太祇 太祇句選
春駒や味方但馬の盛り節 松岡金亀子
春駒や己が宿より舞ふて出づ 妻木 松瀬青々
春駒や染分手綱濃紫 籾山梓月
春駒や江を渡り来て美男村 広江八重桜
春駒や父祖の世よりの佐渡暮し 成瀬正とし
春駒や男顔なるおゝなの子 炭 太祇 太祇句選
春駒や男顔なる女の子 太祇
春駒や通し土間より日本海 赤塚五行
春駒や雪の椿をくぐり来て 中島花楠
暮るる海春駒面剥ぎ怒り顔 加藤知世子 花寂び
朝はしる駒の蹴あげの雲雀かな 蓼太
朝駒の朝川わたる雪解かな 白雄
木曽駒に雪きて蕪もろ手抜き 下田 稔
木曽駒の冷えのさざなみ種下ろす 藤田湘子
木曾駒に雪きて蕪もろ手抜き 下田稔
木曾駒も甲斐駒も晴れ廐出し 那須風雪
木曾駒ゆ雲吹き剥がす黍嵐 林翔 和紙
木曾駒を編む新藁の香を満たし 瓜生和子
朱の鞍や佐野のわたりの雪の駒 立花北枝
東風吹くや駒の足並みる日和 井月の句集 井上井月
桟橋や先づ思い出づ駒迎へ 松尾芭蕉
梅の宮手綱を金に縁起駒 加藤耕子
梅雨駒の鬣降灰によごれけり 西島麦南 人音
検非違使の廳の櫻の繋ぎ駒 筑紫磐井 野干
浅間かけて雲ひとひらや春の駒 由紀
焼けし餅駒と進めて網の上 鈴木栄子
片口の駒行く原や秋の暮 調管子 選集「板東太郎」
片陰や壁に錆びゆく駒つなぎ 嶋田麻紀
牧の駒あやめの沼の岸に来る 長谷川素逝
狼のまつりか狂ふ牧の駒 炭 太祇 太祇句選後篇
玄蕃(げんば)とも云べき人か野駒取り 中村史邦
瓢箪や青葉につなぐ牧の駒 丸露 選集「板東太郎」
町医師や屋敷方より駒迎へ 松尾芭蕉
町医者や屋敷方より駒迎へ 松尾芭蕉
白地着て蝶の来てをり駒姫忌 笹沢信
秋の駒月に覚めいて夜も食う 榎本虎山
秋山や駒もゆるがぬ鞍の上 其 角
筵編む駒をどりをり韮の雨 町田勝彦
若くさや駒の寝起もうつくしき 千代尼
若駒が跳ねて蕪村の南蘋画 高澤良一　随笑 一月-三月
若駒に朝日溢るる草千里 野原春醪
若駒に海原といふ碧きもの 大牧 広
若駒の柵を越えては海に沿ふ 野中亮介
若駒の濃霧を現るる膚あはれ 石橋辰之助
若駒の濃霧を現るゝ膚あはれ 石橋辰之助 山暦
若駒の点となりゆく草千里 川原博美
若駒の親にすがれる大き眼よ 原 石鼎
若駒の野に出て敏き眼となりぬ 桜庭梵子
若駒の野に出て敏き瞳となりぬ 桜庭梵子
若駒の駆け合ふカムイ嶺の牧に 沼澤 石次
葉に垂るる短き莢や駒繋 丹羽 玄子
藁しべの括り髪なる秋の駒 中村苑子
藁駒が夜なべの指先からうまる 藤岡筑邨
藁駒をさづかり焚火もらひをり 西本一都 景色
蜻蛉に駒は煙りを濃くしたり 臼田亜浪 旅人
蜻蛉に駒は煙を濃くしたり 臼田亞浪 定本亜浪句集
行く駒の麦になぐさむやどりかな ばせを 芭蕉庵小文庫
行く駒の麦に慰むやどりかな 松尾芭蕉
行駒の麦になぐさむ宿り哉 芭蕉 (甲斐にて)
角力にも得たり顔なり野駒取 中村史邦
諸鶉駒はまかせぬ脇目かな 其角 (餞秋航)
豆喰らふ月毛の駒に十三夜 几董
貼紙に生後五日と春の駒 金子佳子
赤松の芽立の雨に駒は臥す 石橋辰之助 山暦
踊り込む春駒の背を怒濤が押す 加藤知世子
踏んでゐしやさしき花が駒繋 中村若沙
遠島や汐干にかける牧の駒 松岡青蘿
遠目にもよき駒ばかり湖に冷やす 森田峠 避暑散歩
郡上のなあふくら雀も春駒を 高澤良一　ぱらりとせ 冬
酔うて来し春駒みれば女なる 前川龍二
里宮に黒駒太子黍の秋 西本一都 景色
野馬追の装ふ駒を庭に曳き 半谷憲
関なりけり瓜庖丁も駒迎 黄吻 選集「板東太郎」
青柳のかつらぎ伊駒麦畠 椎本才麿
青竹の駒の口より春の水 比叡 野村泊月
青駒をいつしんにみて精神書く 阿部完市 春日朝歌
面あげて風の春駒磯いそぐ 岸田稚魚
飛び乗るや春の雪ちる二歳駒 立花北枝
駈け出でる駒も足嗅ぐすみれかな 千代尼
駒が根に日和定めて稲の花 井月の句集 井上井月
駒つなぎ咲きゐて鮠も釣れゐたり 川島彷徨子
駒つなぎ机の上に別れ惜し 土田 初枝
駒とめて野馬追の武者水を乞ふ 加藤楸邨
駒どりの声ころびけり岩の上 斯波園女
駒なめて風あをあをと祭りかな 筑紫磐井 野干
駒の足揃ふ浜名の夕うづら 浜田酒堂
駒の鼻ふくれて動く泉かな 高浜虚子
駒むかへ逢坂よりは行儀なり 水田正秀
駒ケ根に日和定めて稲の花 井上井月
駒下駄が御堂筋ゆく祭かな 山田弘子
駒下駄に桜落葉を蹴りもして 上村占魚 鮎
駒寄に石蹴の子が春日かな 柑子句集 籾山柑子
駒引の心に叶ふ旅出かな 上島鬼貫
駒引の跡猶はやし梅の陰 上島鬼貫
駒彫つて出羽路に古りし夏暖簾 大島鋸山
駒曳いて鳥羽の夜道に出にけり 吉武月二郎句集
駒止めは男のにほひ山つつじ 白井 爽風
駒牽の木曽や出らんみかの月 向井去来
駒犬の怒つてゐるや梅の花 夏目漱石 明治三十二年
駒繋咲いてゐるなり*かがいの地 町田しげき
駒買ひに出迎ふ野べのすすきかな 野明 俳諧撰集「有磯海」
駒迎ことにゆゝしや額白 蕪村 秋之部 ■ 竹渓法師丹後へ下るに
駒迎や山だち出る田舎客 濯資 選集「板東太郎」
駒迎当時の哥仙誰/\ぞ 高井几董
駒迎見るや埴生の小家の妻 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
駒鳳凰山吹曇りつづきけり 前田普羅
騎初に厩を出づる良駒哉 青木月斗
黒駒を見てむらさきの葡萄祭 萩原麦草 麦嵐
●名馬
秋うらら報の一つに名馬死す 対馬康子 吾亦紅
御料地の名馬嘶く枯尾花 寺田寅彦
早春の水渉りゆく名馬ばかり 和田悟朗
●駿馬
鬣のすでに駿馬や風光る 吉橋綾子
肥えたるはおほよそ駿馬にはあらず 下村梅子
地響きをたてきし駿馬冷やすなり 澁谷道
夏の王駿馬三千頭と牝馬 金子兜太 詩經國風
●神馬
おん祭春日乙女が神馬曳き 本多炬生
かげろふにほそる神馬の眼つきかな 幸田露伴 江東集
かげろふに寂然として神馬かな 幸田露伴 江東集
げんのしようこ祖は家持の神馬なり 遠藤寛太郎
冬枯や神馬の漆はげて立 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
夜祭の神馬こと〜覚め居たり 河野静雲 閻魔
夜祭や神馬優しき眼を向けて 都筑智子
御神馬に乗り初めと云ふ衛士白衣 小原菁々子
御神馬の厩舎の柱破魔矢挿し 小原菁々子
御神馬の瞳動かず秋の暮 仙田洋子 橋のあなたに
御神馬の芦毛つやめく秋日陰 岡田壮三
御神馬の首下げて来る遅日かな 長山順子
御神馬も羽目板を蹴り梅雨長し 鍵和田[ゆう]子
旅立ちて神はおはさぬ神馬かな 富安風生
早梅いま瞬くごとし神馬のごと 楠本憲吉
月の宮神馬の起きてゐる気配 竹内三桂
松風に神馬のいななき冬至梅 飯田蛇笏 春蘭
梅雨さむや撫づるにまかす老神馬 高桑義生
楠若葉神馬のけぞるごとく揺れ 高澤良一　さざなみやっこ 夏
深き雪神馬の機嫌覗くかな 野村喜舟 小石川
田掻馬きのふ神馬をつとめたる 猪俣千代子 秘 色
真白に生れて神馬寒からむ 豊東 蘇人
神の旅神馬ペガサスともならむ 柴田奈美
神留守の間に肥ゆる神馬かな 柴田奈美
神馬の瞳冬撒かれゆく石だたみ 北野民夫
神馬灰色秋蝿に眼をしばたたき 長谷川朝風
神馬藻やふつさりとせし世のためし 露吟
秋渓し神馬も恋ふる五十鈴川(伊勢謹詠二句) 石井露月
賀茂祭り駄馬も神馬の貌をして 伊藤昌子
陽炎や馬屋の神馬に日は斜 幸田露伴 江東集
霜の花神馬静かに湯に拭かれ 村田青麥
青簾垂れて神馬は老いにけり 柑子句集 籾山柑子
●駑馬
駑馬の尾と揺るる葦原橋得たし 成田千空 地霊
●駄馬
だばどぼだばどぼ駄馬ゆくぼくゆく故郷の村道 高柳重信
五月雨の徴発駄馬を今や引 森鴎外
勢揃ひせる駄馬老馬おん祭 右城暮石 上下
旅人に行きそふ駄馬や葛の秋 飯田蛇笏 山廬集
耳袋の赤鮮しや春の駄馬 沢木欣一
船橋に駄馬騒ぎ出す霰かな 会津八一
買物の女も駄馬や花珈琲 目黒はるえ
賀茂祭り駄馬も神馬の貌をして 伊藤昌子
道芝を吹いて駄馬ゆく今朝の冬 飯田蛇笏 山廬集
駄馬つづく阿蘇街道の若葉かな 夏目漱石 明治二十九年
駄馬に會ふことも旧道郁子垂れて 及川貞 夕焼
駄馬のように食まされるもの食み黙つた生活であるのだ 橋本夢道
駄馬梅雨晴片脚爪立てまぐさ食う 古沢太穂 古沢太穂句集
●荷馬
うららかや荷馬糞り路甦る 殿村莵絲子 遠い橋
凩や荷馬ひしめき城に入る 四明句集 中川四明
北風に糞落し行く荷馬かな 河東碧梧桐
渓石を渡り馴れたり炭荷馬 内藤吐天
秋晴に仔馬を連れて荷馬かな 大橋櫻坡子 雨月
荷馬につゞく砲車の記憶雪降るか 中島斌男
荷馬夫らが屍を焼く蓬野や 細谷源二 砂金帯
行く年の賤しからざる荷馬哉 竹冷句鈔 角田竹冷
雛の日や巷に荷馬の無垢なる目 野澤節子 黄 瀬
雨の螢疲れし荷馬引き戻る 石島雉子郎
雪泥の港明るし荷馬の咳 西村公鳳
●輓馬
こつこつと輓馬いでくる初荷かな 百合山羽公 寒雁
リラに雨輓馬の食事すぐ了る 渋谷道
吹雪して輓馬湯気たついとおしき 渋谷道
炎天の坂に輓馬の頸力む 田川飛旅子 花文字
秋晴を輓馬毛深く笞うたる 中島斌男
綿虫の舞ふ空ひくき輓馬市 島田 尚子
草涼し夢は輓馬の音に覚め 河野多希女 こころの鷹
薔薇咲くと輓馬の痛み空にあり 津沢マサ子
辻があり輓馬と螢入れかはる 柿本多映
陽炎を食ひし輓馬の顔伸びる 内藤吐天 鳴海抄
●種馬
種馬のふところに入る頬被 佐野鬼人
種馬の胴かがやきて曳かれけり 黛執
種馬の厩は花に包まれて 森田峠
種馬といなゝきあへり馬屋の馬 瀧澤伊代次
種馬のひとり草喰めり牧の秋 石塚友二
種馬に竹を割ったる日和かな 橋石 和栲
●荒馬
寒夕焼荒馬街を出でゆけり 佐藤鬼房
荒馬を露けしと見る知命かな 岩村蓬
荒馬の如くに寒き日なりけり 上野泰 春潮
荒馬の西部を許し神もたてがみ 攝津幸彦
荒馬の師走の牧の寒さかな 斯波園女
●悍馬
儀の長し悍馬宥める競べ馬 田島君子
風花や悍馬くびすじから滅び 藤田康子
耕馬の顔よごれいよいよ悍馬めく 永田耕一郎 氷紋
●奔馬
一心不乱奔馬のごとき渦の芯 橋本夢道 無礼なる妻
停りても木馬は奔馬秋の風 杉本零
大道絵奔馬を白く初観音 上井正司
痴情胸に奔馬駈けすや瘧のごと 石塚友二 方寸虚実
葡萄樹下奔馬のごとき洩れ陽あり 佐藤鬼房 鳥食
●驢馬
いぬふぐり昔は驢馬のパン屋来て 角 長子
かげろふとなりたき驢馬の沙上かな 小檜山繁子
かげろふや市場の驢馬はパンを食ふ 小池文子 巴里蕭条
ざくろ村夕ベの驢馬はむち打たず 中村明子
ねぎらへば炎暑の驢馬の耳動く 小田中柑子
はつ夏は何色驢馬の耳のいろ 藤原寿美
シャンゼリゼ驢馬鈴沈む花曇 横光利一
乾陵へ驢馬と別るる柳絮さかな 山田みづえ 草譜
人よれば驢馬うれしがる冬日かな 阿部みどり女
冬耕す驢馬を石馬につなぎとめ 日原傳
刈草の山驢馬の背に子まで乗せ 加藤耕子
初霜や粉な屋の驢馬の耳機嫌 四明句集 中川四明
多毛の廃兵遠くで激しくつまづく驢馬 赤尾兜子
天山をくぐり来し水驢馬冷す 西上禎子
小春日や驢馬が舂いたる米の味 中川宋淵 遍界録 古雲抄
手折りたる山萩に驢馬鞭うてる 鈴鹿野風呂 浜木綿
文化の日児の掌に驢馬のパン歪み 佐野まもる
更待月驢馬なきかはす家群に 小池文子 巴里蕭条
木蓮の陽に酔い驢馬のような旅路 吉田透思朗
枯野馬車驢馬は頭を垂れて曳く 高濱年尾 年尾句集
棉車驢馬を気儘に歩かする 太田土男
椿散る男爵と驢馬達の不眠 仁平勝 花盗人
死の夏天驢馬に愚かな縞ありぬ 片山桃史 北方兵團
水汲みに驢馬引き入るる秋の川 太田土男
永き日や驢馬を追ひ行く鞭の影 正岡子規
泉の辺驢馬を荷車より離す 山崎ひさを
流木に吹き出でし塩を舐めている真昼浜辺の一匹の驢馬 三井修
流木に驢馬つなぎ住む穂草かな 小池文子 巴里蕭条
男根の意識 たちまち驢馬啼き狂ひ 富澤赤黄男
秋の夢驢馬が持てくる日向かな 中川宋淵 遍界録 古雲抄
穴ぐらの驢馬と女に日ぽつん 片山桃史 北方兵團
糸杉のこころは驢馬のむこうがわ 津のだとも子
老人の驢馬引の背に汗のしみ 田川飛旅子
花杏小さき驢馬をつなぎたし 内藤吐天 鳴海抄
芹買へり市場の驢馬に見られつつ 小池文子 巴里蕭条
葉柳の水の日ぐれを驢馬追へる 臼田亞浪 定本亜浪句集
蜀に入る冬野の道や驢馬の糞 蘇山人俳句集 羅蘇山人
豆腐屋に驢馬の仔生れ忙しき 田村了咲
逃水や驢馬にて運ぶ壺の水 澤田緑生
鈴の音は驢馬の曳く馬車サルビヤ緋 竹尾夜畔
長城へ眉研ぐ冷気驢馬眠り 小倉緑村
長城を越えて蒙古へ驢馬の秋 原田青児
雪かゝる聖樹の憲に驢馬の鈴 飯田蛇笏 霊芝
霧に汲み水甕驢馬にふりわくる 小池文子 巴里蕭条
霧の香やしとしとと驢馬ゆきかよふ 小池文子 巴里蕭条
霾の地に鳴れど驢馬臼挽ける 西村公鳳
霾歇むと驢馬又粉を碾きはじむ 柳村来雨
静かなる驢馬に重き荷冬落暉 都筑智子
驢馬ちぎる垣の葡萄や砂塵立つ 小池文子 巴里蕭条
驢馬に乗り口アブー奏づ秋の風 田中英子
驢馬の市つちふるまゝに立ちにけり 三篠羽村
驢馬の眼に反月滲む余寒かな 今井竜蝦
驢馬の耳ひたひた動く生きて灼けて 加藤秋邨 死の塔
驢馬の鈴過ぎたる風の秋桜 山田弘子
驢馬やさし少年はいつ島を出る 八木三日女 石柱の賦
驢馬を打つ少年無口葡萄の荷 岡崎万寿
驢馬を打つ鞭のひびけり胡沙ぐもり 毛塚静枝
驢馬・騾馬の没り日をいそぐ棉車 つじ加代子
驢馬今も寒の塩負ひ川渡る 有馬朗人 知命
驢馬啼いてやがて貌見ゆ橋の霧 西村公鳳
驢馬嘶く灯に漂ひて棗の実 小池文子 巴里蕭条
驢馬曳いて日焼童女が河渡る 佐川広治
麗かや花婿乗せて驢馬傾ぐ 原田青児
黍の荷と動きゆくもの驢馬の耳 加藤知世子
木下闇伏し目のロバがいるばかり 服部一彦
著ぶくれて黒衣の農婦ロバでゆく 高木晴子 花 季
父の日のどんよりとあるロバの耳 柿本多映
●裸馬
あらあらと裸馬を駆りをり青薄 伊丹さち子
ほんの挨拶うまごやし裸馬にやる 橋本美代子
夕立や川追ひあぐる裸馬 正秀
廓街の時雨を裸馬に乗り過ぎつ 宮武寒々 朱卓
涼しさや柳につなぐ裸馬 正岡子規
白雨に河追ひあぐる裸馬 水田正秀
裸馬に乗る少年麦の秋おそく 田川飛旅子 花文字
裸馬率ておとなしや花嵐 飯田蛇笏 山廬集
裸馬落葉かゆがる木下かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
裸馬通ると見れば桐咲いてゐる 加倉井秋を 午後の窓
裸馬騎手も裸洗ふべく 石塚友二 光塵
雪解や町を走らす裸馬 正岡子規
青高原わが変身の裸馬逃げよ 西東三鬼
●縞馬
ポスターの縞馬に夏はじまれり 皆吉司
歓びよこしまなるを縞馬のまぬけ 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
縞馬があそんで崩す夏景色 澁谷道
縞馬の流るる縞に夏兆す 原田青児
縞馬の縞がずれゆく春の暮 渡辺誠一郎
縞馬の縞にまぎれて睡魔くる 中村和弘
縞馬の縞の中より初蝶来 今井聖
縞馬は神の悪戯夏深し 岸田雨童
縞馬は縞馬と交みたがりをり 辻桃子 ねむ 以後
縞馬は驚き易し樗の実 高橋輝子
遠国に縞馬逃げる眩しさよ 和田悟朗
●橇馬
一直線に馳け橇馬の眼の青むか 山本よ志朗
橇馬に荒鞭くれて馭者酔へり 田村了咲
橇馬の怖れすゝまず吹き溜り 高濱年尾 年尾句集
橇馬の息づきばかり夜半をゆく 中島斌男
橇馬の昏れたる貌の近づけり 依田秋葭
橇馬の積荷に耐えている憩い 飴山 實
橇馬の耳の動きに吹雪泣く 石川桂郎 高蘆
橇馬の臀毛少なに老いにけり 飯田蛇笏
橇馬の袋の中の耳うごく 田村了咲
橇馬の鈴うち鳴らし歩みいづ 阿部みどり女
橇馬の鼻のもゝいろ湯を覗く 山口草堂
荷を下す橇馬つつむ汽車煙 大野林火