鼠
あごひげに鼠を湧かせ濡れ遊ぶ 稲葉直
あめのくに鼠も僧も刹那光り 大沢輝一
いがぐりに鼠のしのぶ妻戸かな 黒柳召波 春泥句集
おとうとに鼠の歯型さるすべり 増田まさみ
お十夜の供物の甘藷にくる鼠 小原菁々子
かけいねに鼠のすだく門田哉 蕪村遺稿 秋
きりぎりす鼠の巣にて鳴き終りぬ 服部嵐雪
この宗旨鼠法衣や閑古鳥 菅原師竹句集
さみだれの空や月日のぬれ鼠 高井几董
さみだれや鼠の廻る古葛籠 闌更
しぐるるや鼠のわたる琴の上 與謝蕪村
しぐるゝや鼠のわたる琴の上 蕪村 冬之部
せんもなや家には鼠あり稲の虫 寺田寅彦
その尉の利久鼠のゆくへかな 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
つゆ霜に木鼠啼くや佛國寺 三好達治 路上百句
とりいれの土蔵の鼠の穴ふさぎ 長谷川素逝 村
どぶ川を鼠のわたる祭笛 鈴木貞雄
どぶ板通りねずみ花火が駈け抜けて 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和六十一年
ねずみ小僧見得切る羽子板それがよし 高澤良一 鳩信 白帝
ねずみ志野花野暮れゆくごとく見る 百合山羽公 寒雁
ねずみ捕り口開け置かれ梅雨に入る 菖蒲あや
ねずみ花火逃足早き吾子を追ふ 神山幸子
ねずみ食みして山梨の皮むけり 平子 公一
ひょうきん者ねずみ泳ぎのネズミフグ 高澤良一 燕音 六月
まっくろな目ゆえ鼠は殺される 宇多喜代子
まれに一人そよりと鼠はた若葉 古沢太穂 古沢太穂句集
みちのくの空攀ず花火鼠鳴き 高澤良一 寒暑 七月-九月
ものの芽や地ねずみ雪をかき分けて 戸川幸夫
ややさむく人をうかがふ鼠かな 乙州
やや寒く人を覗ふ鼠かな 乙州
やゝ寒く人を覗ふ鼠かな 乙州
ゆふいんの銀鼠ずずこ雨まみれ 高澤良一 鳩信 炎帝
ファンタジア室いつから棲むや春の鼠 松山足羽
一灯を鼠に備へ餅筵 西山泊雲
七草に鼠が恋もわかれけり 高井几董
不作の犬がかりかりと田鼠の頭を噛む 栗林一石路
不寝番親しきものに月の鼠 香西照雄 対話
世に混じるべく外套の黒ねずみ 橋本榮治 逆旅
五月雨や鼠の廻る古葛籠 闌更
人が来てふためく鼠掛干菜 西山泊雲 泊雲句集
人を噛む鼠出でけり夜半の冬 子規句集 虚子・碧梧桐選
今日より冴ゆ天井鼠みじろぐ音 香西照雄 対話
今朝いかに鼠かみつく枕の秋 露泊 選集「板東太郎」
仏壇の柑子を落す鼠かな 正岡子規
仏壇の柑子を落す鼠哉 正岡子規
佛壇に鼠さわぐや稲光 寺田寅彦
佛壇の柑子を落す鼠かな 正岡子規
側溝に鼠花火が逃げこめり 上野可空
元朝や鼠顔出すものゝ愛 炭 太祇 太祇句選
八十八夜鼠が白い米こぼす 磯貝碧蹄館
公園の鼠睡蓮の池岸を 京極杞陽 くくたち下巻
冬の夜や寺の流しに鳴く鼠 古白遺稿 藤野古白
冬の鼠にうしろ通られ露語習う 田川飛旅子 花文字
冬眠す蛙の鼠蹊おもはるる 中田剛 珠樹以後
冬籠り琴に鼠の足のあと 正岡子規
冱てる夜や見にも起きざる鼠捕 森川暁水 黴
凍るペン絶えざる鼠の歯音澄む 岩田昌寿 地の塩
凩の樹を木鼠のはひ下りる 高田蝶衣
刈つて行く真菰の上を鼠かな 高梨花人
刈らぬまま枯れたうちの田を走る鼠か 栗林一石路
初氷やす女が鼠かじりけり 龍岡晋
劇に出て鼠の役や卒業す 田川飛旅子 『外套』
升わなに鼠もつかず鉢たゝき 中村史邦
半蔀に鼠花火の燃え尽きぬ 芝不器男
卯の花に隣歩きやぬれ鼠 諷竹 四 月 月別句集「韻塞」
厠なる扇も喰らふ鼠かな 几菫 五車反古
古塀に鼠の上る干菜かな 河東碧梧桐
古池に鼠の走る氷かな 古白
台風の来るたび鼠太りけり 真山 尹
吹雪河野鼠のむくろを波が打つ 鳥居おさむ
唐紙に鼠溺す夜長哉 寺田寅彦
唐黍を鼠かむらん畑の月 広江八重桜
啓蟄の茶鼠のコピー再製紙 高澤良一 ももすずめ 平成三年
坑内鼠清水湧く場所知りて来る 戸沢寒子房
城壁の鼠近しに花はこべ 西本一都
埠頭の灯凍てたる鼠走らせる 高橋馬相 秋山越
壁くれや鼠行き達ふみそさざゐ 暁台 選集古今句集
夕がほや鼠葬るめくら児 高井几董
夕立や鼠巣に死ぬ茶の木原 暁台
夜の秋鼠てのひらかざしけり 桂信子 樹影
夜を寒みから鮭つたふ鼠かな 乙州 俳諧撰集「藤の実」
夜を寒み乾鮭つたふ鼠かな 乙州
大夕立こんなのあるかい濡れ鼠 高澤良一 素抱 七月-九月
大魚篭の蔭なる鼠花火かな 水原秋桜子
天井の鼠いつしか神隠し 穴井 太
天井へ鼠戻りて水温む 真山 尹
妻も叱ってゐる鼠をどなってやった 浜口弥十郎
妻よ天井を隣の方へ荒れくるうてゆくあれがうちの鼠か 橋本夢道 無礼なる妻
子鼠のちゝよと啼や夜半の秋 蕪村 秋之部 ■ 山家
子鼠の井戸に落ちたる霜夜かな 寺田寅彦
子鼠の尿かけたる紙子かな 正岡子規
子鼠の梁渡る夜寒かな 中川宋淵 詩龕
室を穹ぎて鼠を燻す神無月 金子兜太
家鼠懸想ばみたる雛かな 小澤實
寒天煮るとろとろ細火鼠の眼 橋本多佳子
寒月や盥の水に鼠捕 六花
寒林に一禽一鼠なにもなし 古舘曹人 能登の蛙
寺かぢる鼠が駆ける時雨かな 前田普羅
寺寒く樒はみこぼす鼠かな 蕪村 冬之部 ■ 御火焚といふ題にて
小をんなの鼠走りや寒の内 石塚友二 光塵
小走りの尼に蜥蜴のきらと刎ね 深見けん二
小鼠がちよろと出て消ゆ枯れ大地 北野民夫
小鼠の行列つづく師走哉 正岡子規
小鼠よ小春何も無き台所 渡辺水巴 白日
尼寺の鼠に春もくれにけり 許六
尾を垂れて鼠ののれる屏風かな 京極杞陽 くくたち下巻
山女釣より戻りきし濡鼠 清崎敏郎
川鼠顔を干し居る薊かな 内田百間
差し金の鼠消えたり明易き 龍岡晋
市民農園田鼠鶉となりにけり 高野良
年よれば鼠もひかず寒さかな 園女 俳諧撰集玉藻集
年わすれ宿は鼠の舞台かな 浜田酒堂
年一夜きしりのこさじ日の鼠 服部嵐雪
廊に群る夜長のスリツパ鼠めく 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和六十一年
廿日鼠巴里の市場に日脚伸ぶ 小池文子 巴里蕭条
心臓の鼠鳴きする寒さかな 高澤良一 鳩信 白帝
愛居ふと鼠の音もすずしくて 京極杞陽
我は烏賊釣る鼠子のごと軽率しく悲しき烏賊を夜もすがら釣る 北原白秋
戦前を鼠花火はくるしめり 三橋敏雄 *シャコ
戸口まで紅葉してをる鼠捕 川崎展宏(1927-)
戸隠や小栗鼠小走る朴並木 中勘助
捕鼠器ひたし沈むる水や桐一葉 飯田蛇笏 山廬集
揚げ舟に憑きゐる鼠海鰻釣り 米沢吾亦紅 童顔
文殻を鼠引き行く夜長哉 寺田寅彦
新わらや此頃出来し鼠の巣 正岡子規
新藁やこの頃出来し鼠の巣 正岡子規
新藁や此の頃出来し鼠の巣 正岡子規
明易き戸よりかへりぬ溝鼠 原石鼎
春の夜や鼠の御所の猫の怪 菅原師竹
春をまつ野鼠の巣に毒を盛り 堀口星眠 営巣期
春暁の鼠旋盤をめぐり消ゆ 米沢吾亦紅 童顔
春萱に来て素話の昼ねずみ 赤尾兜子
春風や鼠のなめる角田川 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
春風や鼠のなめる隅田川 一茶
時同じく鼠の子猫の子が育つ 右城暮石 声と声
時雨るるや軒にもさがる鼠の尾 巴人
暑き夜の鉢木花咬む鼠かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
暗い製粉言葉のように鼠湧かせ 金子兜太 金子兜太句集
暗い谷間にボイラーの女湧く鼠 八木三日女 赤い地図
更る夜の炭に鼠の匂ひかな 安介
月明の無花果食みに鼠かな 太田鴻村 穂国
朝寒や音羽へ下りる鼠坂 野村喜舟 小石川
朝顔の出水を渡る鼠かな 河東碧梧桐
朧夜に鼠やつたふ藤の棚 亀柳 俳諧撰集「藤の実」
木隠れや鼠の小社下紅葉 水田正秀
木鼠の落す実猿が植ゑにけり 安斎桜[カイ]子
木鼠の葡萄棚這ふ月夜哉 寺田寅彦
本陣に鼠の糞のさむさかな 黒柳召波 春泥句集
杜若濡鼠の子叱り抱き 川端茅舎
栗に飽きて蘭につく鼠とらへけり 黒柳召波 春泥句集
梨子の葉に鼠の渡るそよぎかな 斯波園女
森はまだ冬草ねずみ捨てにゆく 長谷川双魚 風形
歯固や鼠は何を食む今宵 尾崎紅葉
死鼠の歯を美しと見て寒かりき 北山河
死鼠を常(とこ)のまひるへ抛りけり 安井浩司 阿父学
殺鼠剤と氷塊失せし石の上 宇多喜代子
母のこゑ鼠花火のおしまひに 井上 雪
毒たべて夜寒の鼠なほ駆くる 山口波津女 良人
毛蒲団の上を走るや大鼠 正岡子規
水仙に鼠をすかす灯かな 会津八一
水仙の卓の下ゆく鼠かな 会津八一
水吸に鼠出けり瓶の花 炭 太祇 太祇句選後篇
水瓶へ鼠の落し夜さむかな 炭 太祇 太祇句選
水落ちて田の面をはしる鼠かな 蝶夢
水落ちて田面をはしる鼠かな 蝶夢
水鶏叩き鼠答へて夜は明ぬ 正岡子規
氷る燈の油うかがふ鼠かな 與謝蕪村
氷上の積藁に通ふ鼠かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
氷苦く堰鼠(えんそ)が咽をうるほせり 松尾芭蕉
汐留のしじみなつかし鼠路地 今泉貞鳳
泉水に鼠の走る氷かな 古白遺稿 藤野古白
泥槃像鼠なるもの侍らする 中田剛 珠樹以後
涅槃像鼠の尿もあはれなり 正岡子規
溝鼠金雀枝の下ゆききする 川島彷徨子 榛の木
滝水に鼠捕り器の鼠浸す 右城暮石 上下
灯の裏に鼠ひそめて聖夜来る 伊藤京子
炭にくる鼠にわらふ夫婦かな 森川暁水 黴
炭にくる鼠の立つてあるきけり 森川暁水 黴
炭をひき俎を噛む鼠かな 森川暁水 黴
炭斗の羽箒に来る鼠かな 師走
無き跡や鼠も寒きともちから 木節 (悼芭蕉)
無花果を*もぐや鼠のわたりしあと 下村槐太 天涯
猫柳風に光りて銀鼠 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
琵琶の音は月の鼠のかぶりけり 上島鬼貫
田園の憂鬱よ鼠のマラソンよ 椎名弘郎
田鼠の鳴く音も螽静まれば 河東碧梧桐
田鼠や薩摩芋ひく葉の戦ぎ 泉鏡花
田鼠打すたれて売れる退治薬 八牧美喜子
畦塗の踏み固めをる鼠穴 福神規子
白日や鼠渡りし秋の水 碧雲居句集 大谷碧雲居
白酒をこぼしてのめる鼠かな 西山泊雲 泊雲句集
百発の鼠花火で泣き了えり 増田まさみ
百計の尽きしところに鼠穴 森田智子
皿を踏(ふむ)鼠の音のさむさ哉 與謝蕪村
皿を蹈鼠の音のさむさ哉 蕪村 冬之部 ■ かの曉の霜に跡つけたる晋子が信に背きて、嵐雪が懶に倣ふ
眞がねはむ鼠の牙の音寒し 蕪村遺稿 冬
短夜の扇引き去る鼠かな 会津八一
短夜や棚に鼠の明のこり 横井也有 蘿葉集
短夜や野ねずみ走る港駅 高井北杜
秋晴に沈めし鼠捕りの泡 長田等
秋風や鼠のこかす杖の音 稲津祇空
稲刈の鼠を追ふや鎌の先 広江八重桜
穂俵を捜す鼠も嘉例かな 石鼎
空繭やおともさせずに昼鼠 阿波野青畝
籠の炭鼠のつきてへりにけり 森川暁水 黴
籾蒔きや鼠もぬるる神の雨 才麿
粟は刈つてしまひ農夫たんたんと手叩いては追ふ野鼠 安斎櫻[カイ]子
糊箱に躍る夜寒の鼠かな 長谷川零余子
糊箱に躍る鼠の夜寒かな 雑草 長谷川零餘子
糞ひとつ鼠のこぼすふすま哉 蕪村遺稿 冬
糸檜葉に鼠出遊ぶ梅雨かな 木歩句集 富田木歩
紙衣着て我は袋の鼠かな 野坂十二楼
羽色も鼠に染つかんこ鳥 蕪村遺稿 夏
聖土曜泊るときめて鼠馳す 角川源義 『秋燕』
腮鼠の四肢やわらかし渇水期 寺井谷子
船の鼠啼いて夏海霧深かりぬ 臼田亜浪 旅人
芋の闇鼠花火の流行りけり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
花にねぬ此もたぐいか鼠の巣 芭蕉 俳諧撰集「有磯海」
花に寝ぬこれも類か鼠の巣 松尾芭蕉
花に渡ぬ是も類か鼠の巣 芭蕉 俳諧撰集「藤の実」
花の下ひかり振り来て鼠取 小檜山繁子
花冷の磁石を二十日鼠かな 宮坂静生
花道を鼠走れり夏芝居 宮下のりを
苗代に野鼠除けの夜水張る 宮崎牛芽
若き粟鼠棲ましめ森の老いたる冬木 内藤吐天 鳴海抄
草の穂の一尺ほどな鼠の尾 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
萩叢の鼠花火に足とられ 石田あき子 見舞籠
落し水野鼠をうちのめしたり 西山泊雲 泊雲句集
葬の渦とはぐれた神父死鼠の発光 赤尾兜子
蓬に徐福と申す鼠かな 高浜虚子
蓬の麓へ通ふ鼠かな 鬼貫
蓬莱に徐福と申す鼠かな 高浜虚子
蓬莱の歯朶踏みはづす鼠かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
蓬莱の陰や鼠のさゝめ言 正岡子規
蔵に居て人には見えず白鼠 上島鬼貫
藍瓶に鼠ちょろつく寒さ哉 幸田露伴 江東集
虫干の箱あけまじき鼠かな 佐藤紅緑
虫払鼠の糞の大いなる 飯田蛇笏 山廬集
蚤鼠詩性拳銃餓死議事堂 鈴木六林男 荒天
蛇出でて田鼠は既に鶉かな 会津八一
蝙蝠や星の鼠(なず)鳴く中の橋 言水 選集「板東太郎」
蝙蝠や飼はれて育つ烏鼠の間 村上鬼城
行くとしや月日の鼠どこへやら 黒柳召波 春泥句集
行灯をけせば鼠のとしわすれ 内藤丈草
行灯を消せば鼠の年忘れ 丈草
袖の色よごれて寒し濃鼠 松尾芭蕉
解剖の尿ちと出たる冬鼠 如月真菜
貧厨に葱噛む昼の鼠かな 尾崎紅葉
貧厨や柚味噌残りて鼠鳴く 正岡子規
足かぶる庵の鼠も師走かな 浜田酒堂
身に入むや喪の帷子の薄鼠 野村喜舟 小石川
逝く春の入日に染みつ捕鼠器購ふ 宮武寒々 朱卓
野分して鼠のわたるにわたずみ 與謝蕪村
野鼠にゆかり持たり鶉の巣 井原西鶴
野鼠にゆかり持ちたり鶉の巣 西鶴
野鼠のひつこみつかぬ桃の花 松山足羽
野鼠の多きをかこち蕎麦を刈る 久慈 静
野鼠の流れわたりす冬の川 四明句集 中川四明
野鼠の眼やふるさとは雪の国 飯田龍太 春の道
野鼠の稲架走る見ゆ月夜かな 西山泊雲 泊雲句集
野鼠の穴ぽつかりと寒明くる 伊藤京子
野鼠の穴ぽつかりと蕗の薹 太田土男
野鼠の穴をお降り濡らすほど 阿部みどり女
野鼠の走るを遠目枯故郷 伊藤京子
野鼠も正午を過ぎればみな僧侶 安井浩司
野鼠ら晴れた小山を競(せ)つている 穴井太
銀鼠に空の整ひ大旦 高澤良一 寒暑 一月-三月
長き夜や鼠も憎きのみならず 幸田露伴 礫川集
長き夜や鼠王出て来て親しみぬ 村上鬼城
長崎の敷石溝に住む鼠旅の浅夜を出て鳴きにけり 村野次郎
長閑さや鼠のなめる角田川 一茶
雀子と声鳴かはす鼠の巣 芭蕉
雀子と声鳴きかはす鼠の巣 松尾芭蕉
雛の間の天井にゐる鼠かな 山口波津女 良人
雪沓をはかんとすれば鼠行 蕪村
震災忌路地を鼠の走りけり 鈴木真砂女
霙るる田鳶や鼠を鷲掴み 家田小風
露置けば鼠も走る芝生なり 林原耒井 蜩
青葦原汗だくだくの鼠と遇う 金子兜太 皆之
面扶持をへづるか粟の鼠共 向井去来
頼りなき日のまだ差せる鼠の尾 高澤良一 さざなみやっこ 秋
飛退いて鼠の笑ふふすまかな ミノ-燕下 霜 月 月別句集「韻塞」
飯盒を引き込む穴の鼠ともなり 藤後左右
馴て出る鼠のつらや小夜ぎぬた 炭 太祇 太祇句選後篇
魂棚や鼠もつかずあはれなり 爾遠
鮟鱇や鼠小僧を泊めし家 長谷川かな女
鰡とんで鼠のぞける河口壁 山本春海
鰡飛んで深川鼠の川面かな 高澤良一 ぱらりとせ 秋
鶉鳴く田も見えたりな鼠丸堂 上島鬼貫
鶏頭に鼠のつくや持佛堂 御風
鶏頭に鼠出づ垣つぶれして 河東碧梧桐
麻薬街の内部撫で了る鼠の孤児 赤尾兜子
鼠ども出立の芋をこかしけり 内藤丈草
鼠なく雨夜を春の別れかな 成美
鼠にもやがてなじまん冬籠 榎本其角
鼠にも知られず凍てぬ糠袋 高田蝶衣
鼠にジヤガ芋をたべられて寝て居た 尾崎放哉
鼠に胸渡らるゝ霜夜かな 石塚友二
鼠の屍尾を曲げ落葉降りに降る 林翔 和紙
鼠の穴から隣がある 山本蒼天
鼠よく捕る猫膝に冬籠 大場白水郎 散木集
鼠よけに燈ともして寝る衾かな 吉田冬葉
鼠を視るに歯があり毛がある山家かな 金子兜太 詩經國風
鼠入つて四隅を落す蚊帳かな 正岡子規
鼠入らず蝿帳そして祖母よいづこ 高柳重信
鼠出てわが家の神はとはに留守 小檜山繁子
鼠出て月の纜わたりたる 五十嵐播水 埠頭
鼠出て月をうかがふ青葡萄 加藤楸邨
鼠出て栗曳く音の憎からぬ 馬場移公子
鼠出て炭ひきよごす畳かな 森川暁水 黴
鼠喰ふ鳶のゐにけり枯柳 炭 太祇 太祇句選
鼠子も春まつ年のひと夜哉 加舎白雄
鼠尾草(みそはき)のよそも御名よぶ夕べかな 上島鬼貫
鼠尾草(みそはぎ)も売られスーパー花売場 高澤良一 素抱 七月-九月
鼠尾草や身にかゝらざる露もなし 暁台
鼠捕りかけきし父を懼れそむ 齋藤愼爾
鼠木戸潜り黴の香かすかなる 水原 春郎
鼠棲む百合が社章の銀行に 田川飛旅子 『山法師』
鼠殺してしまひし犬のためいき 七戸黙徒
鼠穴<時>の濁流激つ見ゆ 徳弘純 非望
鼠穴るると室内電話線 井沢唯夫
鼠穴天には荒れる萱ばかり 安井浩司 汝と我
鼠老いて蘭の根を噛む夜もあらむ 会津八一
鼠荒れ止んで雛段の夜明かな 内田百間
鼠追ふも秋の夜長のすさびかな 尾崎紅葉
六日はや鳥籠で売る白マウス 小林清之介
いちはやく巣を作り終へしマウスたち白き塊に重なりてねむる 石川恭子
春雷やクゝとこたへしモルモット 軽部烏帽子 [しどみ]の花