●青年●若者●若い者●若手●若人●若造●若い衆●未成年●健児●青少年●小町●お嬢さん●処女●生娘●ヤング●結婚適齢期●妙齢●年頃●青春●青春期●青年●若者●若い者●若手●若人●若造●若い衆●未成年●健児●青少年●小町●お嬢さん●処女●生娘●ヤング●結婚適齢期●妙齢●年頃●青春●青春期
●青年 
あおあらし青年百の椅子たたむ 野田田美子
あしかびのごとき青年初日の出 原裕 葦牙
いつまでを青年といふ夏衣 高橋悦男
にんげんを大河内傅次郎を話す冬夜青年が真向き 中塚一碧樓
ばら切って青年空を張りかえる 白井しげみ
まぎれなく青年となり初湯かな 長谷川櫂 蓬莱
アンタレス見ることなくてとりが啼くあづまに伊予の一青年老ゆ 高野公彦
イスラムの青年に貸す夜学の書 竹岡一郎
クローバに青年ならぬ寝型残す 西東三鬼
サングラス青年はなぜ眼を隠す 津田清子 二人称
シャツ白く帰省の青年 鱶かわく村へ 伊丹公子 メキシコ貝
ヒーローになれぬ脚組み 風の青年 伊丹公子 メキシコ貝
マラソン青年ルソーの冬の森を抜け 河野南畦 湖の森
一雷後おもふ日本の創深し(又原爆症で千葉といふ青年が死んで行つた) 岸田稚魚 『負け犬』
一青年の死や知床の夏没日 大橋敦子 匂 玉
一青年国栖の翁を舞ひにけり 阿波野青畝
万緑や青年耶馬の陶に生く 阿部みどり女
乳搾り青年牧に若井汲む 高野喜八郎
二科展をみる目の光り一青年 佐藤白鵠
五月灯台無韻青年崖にいて 和知喜八 同齢
五月病癒えし青年ボート漕ぐ 峰尾秀之(苑)
五月祭の汗の青年病むわれは火のごとき孤独もちてへだたる 塚本邦雄
人参も青年も身を洗ひ立て 宮坂静生
人日の雨青年をおびやかす 原裕 青垣
今年竹魂うつろなる美青年 香西照雄 素心
似顔絵の青年絵描き木の葉散る 小西久子
佇ち眠る青年霧のコンビナート 穴井太 ゆうひ領
余生とは戦中派の謂さりながら青年をして眠らせしは何 晋樹隆彦
傘ひらきたる青年に春の雪 黒田杏子 一木一草
僧形のその青年の寒に入る 黒田杏子
光年のしずかな時間草はらにならびて立てる馬と青年 井辻朱美
六月のわが影踏みて青年過ぐ 河野多希女 両手は湖
冬山や日輪の辺に一青年 柴田白葉女 花寂び 以後
冬山水激突し激突し青年のごと何も失わず 橋本夢道
冬草や耳たぶ汚れなき青年 波多野爽波
凍てはげし青年の声ひかリ出す 柴田白葉女 花寂び 以後
凜と梅青年僧が切に掃く 山口超心鬼
初法話きく青年の膝正し 松本まどか
初湯出て青年母の鏡台に 鷹女
勤めの青年麦の穂をあをあをもちくる シヤツと雑草 栗林一石路
吊橋を渡る青年風光る 梅田男
向日葵よ青年は血と鉛の海 徳弘純 非望
向日葵全焼青年の夏衰えり 仁平勝 花盗人
吾娘欲しと言ふ青年が雛の客 山内山彦
啄木はいつも青年春の雪 丸山正俊
固餅食べつゝキリストの青年期にならはん 磯貝碧蹄館 握手
地吹雪を背に青年の大滑降 本多トミ
壁にマント青年の死のように 斎藤慎爾
壁画はロココ遠い黍みな青年めく 楠本憲吉
夏バテなし漫画を糧の青年は 高澤良一 寒暑
大学祭カンナ青年の丈に燃ゆ 宮坂静生 雹
婚近き青年兜虫拾ふ 沢木欣一 赤富士
実葛青年海を見て下山 蓮田双川
宿直の青年教師夕ざくら 瀧井孝作せん 万太郎せん 吉屋信子
密集して走り青年らが川床へ 田中裕明 花間一壺
寒曉の青年の死に隣りせり 山本歩禅
寶石を胸に碎きし青年よ 九毯志保
屋上は青年のものいわしぐも 大牧広
屠蘇注ぐや吾娘送りきし青年に 加倉井秋を
山の蜂見て混浴の二青年 高澤良一 素抱
山彦は青年のこゑ山笑ふ 二藤 覚
山水激突し激突し青年のごと何も失わず 橋本夢道 良妻愚母
山継ぐといふ青年のちやんちやんこ 川村紫陽
岬角に照る青年とし秋遠方 松澤昭 安曇
崖は青年あじさいの毬遊ばせて 楠本憲吉
幸(さち)ながら青年の尻菖蒲湯に 秋元不死男(1901-77)
幸さながら青年の尻菖蒲湯に 秋元不死男「瘤」
強し青年干潟に玉葱腐る日も 金子兜太(1919-)
影と同速出前の青年炎昼馳す 磯貝碧蹄館 握手
復員青年しようべんつよくつつじ燃ゆ 栗林一石路
快活に道問ふ青年白木蓮 高澤良一 宿好
怖ろしき青年立てり紅葉谷 斎藤愼爾 秋庭歌
成人式終りおおまたの青年たち 菊地一風
戦しらぬ青年が*もぐ太き氷柱 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
手拭を腰に兵隊となる村の青年 シヤツと雑草 栗林一石路
手袋なし手話の青年言葉光る 坂間恒子
折れてひかりの操縦のごと青年おり 岡部 博
抽ん出て青年菩薩練供養 西野白水
探梅の母を伴ふ一青年 三橋鷹女
握手せりダリヤのような青年と 栗林千津
撃たれたる鹿青年の顔を持つ 小室善弘
政治を信じられない日は青年青葉の塔を描く 橋本夢道 無禮なる妻抄
敗戦忌炎えてしまつた青年ら 北さとり
敗戦忌燃えてしまつた青年ら 北さとり
星月夜いづくにいます老青年 桑添礼子
春風のごとく青年肉食す 保科その子
暖房車青年チエロを立てて坐す 大山さちを
暗し青年連翹の黄に顔しかむ 田川飛旅子 『植樹祭』
書を重く青年通る夏座敷 桂信子 黄 瀬
朝の裸泉のごとし青年立つ 島津 亮
木の芽活けて壁に青年の黒帽子 古沢太穂 古沢太穂句集
未青年とは馬の魂春暮れる 坪内稔典
村へ帰る一青年と冬の月 青柳志解樹
東京に尻向け田草取る青年 山崎十生「上映中」
東京は雨の青年ほたるいか 駿河静男
松の花うすうすといる青年僧 森下草城子
枯園の青年独り鹿を愛す 井上美子
枯野ゆく青年はもうふりむかず 遠藤若狭男
桜桃の里の青年けぶりがち 穴井太 土語
梅凛と理に逆はず青年期 原裕 投影
梅雨屋上に汝が青年母子草 古沢太穂 古沢太穂句集
櫂のしずくの青年よぎる椅子の前 穴井太 土語
母の眼に青年吾子の大き手袋 柴田白葉女 花寂び 以後
水を打つ青年にして古書店主 馬場駿吉
氷像の青年蒼き胸持てり 奈良文夫
氷柱ある磧の青年黒く跳ぶ 和知喜八 同齢
汗くさき青年歌集明日ありや 清水哲男
汗の香がやや青年訛る言葉を無口に 赤城さかえ句集
沖遠し青年が釣り河豚鳴けり 西東三鬼
泳ぎ来て青年の声透きとほる 河野南畦
浮塵子とぶ楽器をみがく青年に 皆川盤水
浴衣短し青年は木の匂い 宇佐見輝子
海ヘドア開かれる青年の死のように 小宮山遠
海底に降り積む雪は青年を眠らせてわが画面を消すも 黒瀬珂瀾
涙に弱い青年教師の冬りんご 軍司路子
渚澄むパンツ脱ぐ青年が映る 金子兜太
火の粉撒きつつ来るよ青年焼芋屋 山田みづえ 手甲
火祭りの輪を抜けきたる青年は霊を吐きしか死顔をもてり 春日井建
灼くる嶺よし青年の肩見るごと 大野林火
烏帽子脱ぎ鵜匠青年なりしかな 向井久子
熱帯魚のやうな夜の青年ら 岩淵喜代子 硝子の仲間
爽やかな一語青年医師信ず 都筑智子
獅子頭肩に担げば美青年 藤坂陽子
田植すむ青年やるせなき晴夜 福田甲子雄
痛がりて青年が選る冬の薔薇 小檜山繁子
痩せ犬と服に眼光る青年と 金子兜太
癌治療待つ青年の冬帽子 阿部美恵子
白けた顔の青年吃る雨氷かな 田川飛旅子
白皙の青年なりし遍路笠 松島千代
硬球を打つ青年の秋の暮 鈴木六林男 谷間の旗
福祉説く青年の目に盛夏来る 太田常子
秋のはずれを歩き青年のいない村 塩見すゞ子
秋夕焼け芝生に青年らのダンス 野仁志水音
稔り田に雨や濡れ身の青年佇つ 寺井谷子
立ちて受くる青年の礼初風呂に 岸風三樓
篁に青年の闇鶴帰る 宮坂静生 樹下
羊刈る銅色の瞳の青年と 四ッ谷 龍
群れ霞むヨツトに青年覚めてをり 原裕 青垣
胡麻の花青年館は灯をともす 北見さとる
芦の角につまづき青年のデモを恐れ 香西照雄 素心
花ざかりなる山牛蒡青年医 柴田白葉女
花会式青年僧の大反身 内川恵
花壇出来るひかる青年をホース洗う 島津 亮
花桐に雲青年に志 高澤良一 ももすずめ
芽山椒青年を摘む匂ひして 星野明世
芽木の風青年塑像となる怖れ 斎藤宵路
草闌けて犀の言葉で青年くる 八木三日女
落下の速度で笑う青年森の夜 益田清
落花すぐ紺の上衣の青年に 杉本寛
落葉せり碧天はいつも青年にて 有働亨 汐路
薔薇よりも青年匂ふ聖金曜日 楠本憲吉
藤千房(ちふさ)青年ら顎立て膝伸し 赤尾兜子
蘗のひかり青年の身も束の間 榎本冬一郎
蜩や青年の書は青が濃し 加藤知世子 花寂び
蝸牛は木の毒青年の指飾り 金子兜太
血を売って愉快な青年たちの冬 鈴木六林男
論議せし青年朝は籾をまく 百合山羽公 故園
谿を来し青年髪に雪煌く 有働亨 汐路
豊年の赤牛撫でて青年よ 岸風三樓
赤い羽根つけ青年のウールの香 楠本憲吉
赤鬼は青年らしき壬生狂言 花谷和子
足場組む茶髪青年小鳥来る 佐藤紀子
跡を継ぐ青年がゐて畦を焼く 川邊草人
造花の百合を運ぶ青年原爆忌 鍵和田[ゆう]子 浮標
遠い夜景へ手袋咥へぬぐ青年 藤田湘子
重装備のリユックの青年松虫草 川崎展宏 冬
鋤焼や新聞青年早々に 山口かをり
長い雨季青年だれも孤島もつ 酒井 弘司
隣り合ふ青年の息涅槃図絵 鈴木鷹夫 春の門
雪の丹沢青年が打つ通信音 桜井博道 海上
雪山の襞ぎつしりと青年期 木村敏男
雫の青年たち朝の硝子を過ぎ 森下草城子
青年 海猫をまねている 鱚釣の舟から 吉岡禅寺洞
青年がきて桃の日の手巻寿司 吉田祐子
青年が湯壺へどんと初湯波 高澤良一 寒暑
青年が背後に居りし夜霧かな 池田澄子
青年とをり白檀扇を遠ざける 小島千架子
青年と山に向へり蝉とべり 村越化石 山國抄
青年と腹這ふ前に菫濃し 山口誓子
青年と言交はす間も落葉降る 柴田白葉女 遠い橋
青年にいきなり出合う夏蓬 森下草城子
青年に万緑の塵見えず飛ぶ 原裕 葦牙
青年に妻の好意や栃咲けり 草間時彦
青年に忌日の青き椿の実 長谷川かな女 牡 丹
青年に愛なき冬木日曇る 佐藤鬼房(1919-2002)
青年に愛の一瞥寒雀 齋藤愼爾
青年に春の鳥きて名告りけり 鳴戸奈菜
青年に月光の翳あやまたず 後藤紀一
青年に汐満ちて来し本の中 山崎十死生
青年に自由楽しくおそろしく 峠谷清広
青年に落花高とぶ風の坂 原裕 葦牙
青年に虚無の青空躰使う 鈴木六林男 桜島
青年に隙あり背面跳びの首 仁平勝 東京物語
青年に青年の肱弓始 大島雄作
青年に髪褒められて蛍の夜 池田澄子
青年のあばらを出でて冬の蝶 三橋鷹女
青年のこめかみ大暑過ぎにけり 金田咲子
青年のやうな茎から曼珠沙華 大石雄鬼
青年の一人は拝む寒の宮 伊達外秋
青年の一語一語の息白し 島津 亮
青年の匂い亡き子のセーターに 隈元拓夫
青年の名を問へば森青蛙 遅沢いづみ(小熊座)
青年の夏痩しつゝ健かに 高橋淡路女 梶の葉
青年の外科医の腕に薔薇の束 和田耕三郎
青年の大靴木の実地にめり込む 西東三鬼
青年の寒泳が超え銀杏の木 和知喜八 同齢
青年の尻こりこりと青い柿 甲斐すず江
青年の影かるくして草の村 登村光美
青年の後ろ虎の尾草の朝なり 加藤青女
青年の心吹きぬけ春の風 坂本義雄
青年の日がな働く若布船 延原美幸
青年の日焼鉄壁牛冷す 森澄雄「花眼」
青年の春雲を吸うばかりかな 阿部完市 無帽
青年の樹々朽ちて瞳の湖を漕ぐ 八木三日女 赤い地図
青年の気宇の書体や夏見舞 東郷喜久子
青年の洋書読みつぐ秋灯し 武田光子
青年の瀧に打たれしのちのかほ 黒田杏子
青年の眼の奥いくつもの運河ある 藤本一幸
青年の笑ひ皺よしソーダ水 飯島香代
青年の笑顔や喜雨を連れて来し 奈良文夫
青年の筆意空間草の香す 加藤知世子 花寂び
青年の肩幅雪嶺をかくしえず 椎橋清翠
青年の背より湯気立つ川普請 加藤和子
青年の背丈に竜の壁炎ゆる 古舘曹人 能登の蛙
青年の背丈新樹の間きて 百合山羽公 寒雁
青年の膕くらし土用波 松村武雄
青年の言葉は匂う樫若葉 松田ひろむ
青年の頬の間近さ春の雨 飯田龍太
青年の頸骨太し竿灯祭 小倉和子
青年の顎ジャンパーが突き上ぐる 今村俊二
青年の髭うつすらと春の昼 作田 幸子
青年の黒髪永遠に餓鬼忌かな 石塚友二
青年は息子花野ですれ違ふ 鳥居真里子
青年は登山具鎧ひ原爆忌 百合山羽公 寒雁
青年は膝を崩さず水羊羹 川崎展宏「観音」
青年へ愛なき冬木日曇る 佐藤鬼房 夜の崖
青年やたそがれをゆく紙の舟 森下草城子
青年ら滝に直面して憩ふ 津田清子 二人称
青年を呼びつつありき鵙の贄 永田耕衣 悪霊
青年を見詰む口中に生卵 鳴戸奈菜
青年を踏むまぼろしや虫の闇 天野素子
青年医師の靴跡雪舞ひ下りて消す 野澤節子 黄 瀬
青年医師面輪きりりと医務始 筒井源枝
青年暮れるキリンの首にボタンつけ 藤井照久
青年期冬のにんじん胸にだき 酒井 弘司
青年水汲む太い水柱霧の日の出 田川飛旅子 花文字
青年波郷電気毛布の夢に出て 相馬遷子 山河
青年胸を揃える対岸の逆光に 稲葉 直
青年飢えてつねにレモンの香を放つ 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
青年鹿を愛せり嵐の斜面にて 金子兜太(1919-)
音楽堂に消えた青年パセリに近い 加川憲一
風光る青年となる喉仏 柴田青水
餅に黴青年世辞に抵抗す 宮坂静生 青胡桃
馬を洗う青年麦がぐんぐん伸びる 細谷源二
騎馬の青年帯電して夕空を負う 林田紀音夫
鰯雲青年われに歩を合はせ 林翔 和紙
鳥のように青年が発ち寒い都心 寺井谷子
鳥交る声ふりかぶり老青年 谷川 昇
麦負うて来て汗うつくしき青年なり 栗林一石路
●若者
おそく来て若者一人さくら鍋 深見けん二
びしよびしよの若者サーフィン預り所 都筑智子
わが若者意味なくさけぶ冬の暮 篠田悌二郎
ペアルック着て若者の盆帰省 相馬沙緻
不漁の波の背景で 縫う 若者たち 伊丹公子 メキシコ貝
並みてゆく吾子の若者更衣 及川貞
並みて行く吾子の若者ころもがヘ 及川貞 夕焼
二の腕の若者らしき壬生踊り 越智晶子
五月きて若者のしぶきとしずく 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
初凪や若者にして縁の使者 中村草田男
友かるく打つ若者らの白扇 尾田秀三郎
友讃へあふ新緑の若者たち 福田甲子雄
噴水や若者の腰ひよろひよろと 藤田湘子 てんてん
地にかがみ若者の恋遠花火 大熊輝一 土の香
夏の海若者のみのものならず 中西利一
天高し爾若者闊歩せよ 河野静雲
寒林に待つは若者眉根濃し 星野麦丘人
寒林をゆく若者は脚長に 石田波郷
岩礁にパセリ一片若者去る 桂信子 花寂び 以後
帰還の若者とものを食ふ熱い茶をのむ秋夜 中塚一碧樓
年酒酌む夜発つ若者らと語り 大野林火
弔旗はためき村の若者日なたに寄る 穴井太 土語
彼岸会の若者となり端に座す 斉藤葉人
徹夜登山せし若者に吾もまじる 右城暮石 上下
敗戦忌饒舌ならぬ若者ら 久保田月鈴子
日ごろ見ぬ若者もをり雪を掻く 寺島ただし
月見草日々波乗りの若者に 冨田みのる
朴の木までの同行 伐採の若者と 伊丹公子
椎咲けば若者のごとく憂鬱に 相馬遷子 山河
止まり木に若者とをり十二月 古賀まり子
水着脱ぐにも音楽の要る若者達 横山白虹
水車小屋出る成人の若者ら 萩原麦草 麦嵐
汗の若者土蔵は壁の落つにまかす 藤岡筑邨
海あれば若者不意に泳ぐなり 朝倉和江
湖口の朝の若者の口笛と河鹿の声と 梅林句屑 喜谷六花
滝ひびき若者泊る燈の強し 宮津昭彦
炬燵寝の若者起きて餅を搗く 木村蕪城 一位
熟れ柿を溜め若者の消えし村 吉田舟水
熱風や若者に岩砕かれて 佐藤鬼房
磯に遊べリメーデーくずれの若者たち 草間時彦
祭なり若者が来て蘭を嗅ぐ 中山純子 沙羅
祭頭祭果つ若者は棒を持ち 岡崎桂子
秋彼岸地に寝る若者らが暑し 金田咲子 全身 以後
秋晴や若者と来し子規の墓 小林篤子
秋燕や地に若者の肌かがやき 相馬遷子 雪嶺
竿灯や四肢逞しき若者ら 佐々木ちてき
美しく狂う若者梨の木枯れ 穴井太 ゆうひ領
脚長き若者多し街薄暑 黒川悦子
花冷えて若者の歌胸に沁む 相馬遷子 山河
若者が墓と肩組む桜桃忌 石河義介「縄文杉」
若者が寒夜香強き含嗽す 細見綾子 黄 炎
若者が岩攀づる見ゆ鷹五月 有働亨 汐路
若者と一泊二日合歎の花 八木林之介 青霞集
若者と大断絶や連翹忌 藤田湘子 てんてん
若者にはやる口髭漱石忌 相馬蓬村
若者には若き死神花柘榴 中村草田男「萬緑」
若者に古着が流行る春一番 有馬朗人
若者に縁談生れ燕来る 滝青佳
若者に落日はなし黄水仙 工藤紫蘇
若者の夜濯ぎロック流しつつ 武田光子
若者の居る明るさの冬灯 稲畑汀子
若者の帰つてきたる踊かな 須藤常央
若者の恋の氷菓の溶けやすし 小俣由とり
若者の恋はひと幕揚雲雀 正木みえ子
若者の愛語さらりと夏みかん 岡田 和子
若者の手をとりあるく白詰草 高澤良一 素抱
若者の日照雨に濡るゝ春来たり 石橋辰之助 山暦
若者の汗が肥料やキャベツ巻く 西東三鬼
若者の渇き春蘭水の辺に 細見綾子
若者の脛もてあます川床料理 水原春郎「蒼龍」
若者の訃や数珠玉の乾く音 萩原俊佑
若者の語らひ長しライラック 茂里正治
若者の路上芸術落葉降る 古賀まり子 緑の野
若者の踏み跡ゆゆし輪*かんじき 佐藤瑠璃
若者の長き脛行く街薄暑 長門美煕子
若者の音量で聴く梅雨のジャズ 勝田公子
若者の頭が走る麦熟れゆく 西東三鬼
若者の馬走らすや恵方道 青木月斗
若者はみな去ににはかにねむき星月夜 中村草田男
若者は正座に慣れず利休の忌 浜岡美哉子
若者みな去ににはかにねむき星月夜 中村草田男
若者らどやどやと湯に稲の花 波多野爽波 『一筆』
若者ら小縒がよれずお帳綴ぢ 樋口玉蹊子
若者ら恋に朽ちをりすもも咲く 北野民夫
若者ら来て年頭をゆさぶりぬ 蓬田紀枝子
若者をつゆ見ぬ島の花ミモザ 尾熊靖子
若者を真似てナイター観る夜かな 中保 郁子
若者哄笑ぼくらのしらない筋肉で 北川正吐志
若者立ち尻形残すひめじよおん 小室善弘
若者等古典に疎く去来の忌 野田きみ代
草市へ行くいたづらに行く彼等若者 梅林句屑 喜谷六花
葡萄作りは皆若者よ夏近し 瀧春一
蝦夷晩夏旅の若者脛長し 北野民夫
里遠く畑打つ老か若者か 会津八一
野火守りゐて若者は振り向かず 直人
長老の笛 若者の神楽の足 伊丹公子 沿海
霧と噴煙若者の視野狭む 津田清子 礼 拝
青い夜雨に籠り都恋しい若者の創作 人間を彫る 大橋裸木
顔上げて若者なりし焼藷屋 都筑智子
餅を搗く音若者と替りけり 中原八千草
高き柿とる若者の足張りて 小澤碧童 碧童句集
髪赤き若者寝落つ月の駅 石寒太 翔
鬼婆の役の若者アロハシャツ 毛塚静枝
麦秋や若者の髪炎なす 西東三鬼
黄落や若者はみな肩組みて 古賀まり子 緑の野以後
黙しても若者にほふ爐の強火 三好潤子
夏みかん若もの夢をいだきそめ 篠田悌二郎 風雪前
妻と焚く門火若もの道通る 松村蒼石
若もの棹もち芦の芽の中に舟やる シヤツと雑草 栗林一石路
●若い者
●若手
太棹のずらりと若手初芝居 岡明子
●若人
ただ恃む若人等あり初茜 富安風生
ふるさとの若人よわが橇を曳く 佐藤漾人
ゆあみゐし若人淵に泳ぎいづ 木津柳芽 白鷺抄
喪疲れの若人の瞳や去年今年 殿村莵絲子 雨 月
夏草刈り若人ゆゑに瞳の青き 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
寒き舷に闇を見飽かぬ若人ら 津田清子 礼 拝
惚れ惚れと若人の句読む息涼し 殿村莵絲子 牡 丹
梅天に髪を濡らして若人来 上野泰 佐介
波乗やあしたなきかに若人等 上村占魚
海寄りの若人賀状ふやしくれし 村越化石 山國抄
緑蔭に若人嫉妬老貴族 成瀬正とし 星月夜
膝を抱く若人ひとり花筵 川原瀞秋
花舞うや若人語ること多く 磯直道
若人かたくなつてをると思ふ団扇とるなり 梅林句屑 喜谷六花
若人にたのしき暑さ海の紺 河合嵯峨
若人にみどり児わが家薔薇の季 殿村莵絲子 遠い橋
若人の宴青林檎火口に落つ 津田清子 礼 拝
若人の日本語いずこ秋桜 島津紀代子
若人の眼鏡かけたり絹袷 袷 正岡子規
若人らいでて還らず寒幾夜 岸風三樓
若人らどかどかと来て年祝ぐも 林火
若人等衣更して老を訪ふ 成瀬正とし 星月夜
蚊火足して若人ばかり泊り客 及川貞 夕焼
車ごと若人日向ぼこりかな 岩崎照子
鞦韆に少女ベンチに若人ら 岸風三楼 往来
●若造
●若い衆
ほとゝぎすいかに若衆の声がはり 高井几董
やうやうに納豆くさし寺若衆 納豆 正岡子規
よく遊べ月下出てゆく若衆猫 西東三鬼
下戸若衆柳に花もなかりけり 調鶴 選集「板東太郎」
剃こかす若衆のものや年のくれ 太祇
剃りこかす若衆のもめや年の昏 太祇 五車反古
和ラカなるやうにて弱からず水仙は花の若衆たらん 信徳
小若衆に念者きはまる火燵かな 李由 十 月 月別句集「韻塞」
年わすれ昔念者と若衆かな 青峨 五車反古
年忘昔念者と若衆かな 青峨
抽てむめ勝けりな寺若衆 炭 太祇 太祇句選
梅やなぎさぞ若衆かな女かな 松尾芭蕉
梅柳さぞ若衆かな女かな 松尾芭蕉
残せ花若葉若後家若衆また 露言 選集「板東太郎」
沢庵の若衆せゝりや雪のふみ 服部嵐雪
矢数射ル若衆に望なかりけり 言 水
芍薬は少しすねたる若衆哉 芍薬 正岡子規
花の顔やとこなつ喝食児若衆 貞徳「山の井」
若い衆の草鞋食い込む義士祭 神田道子
若衆が上げる鉄下駄雪柳 川崎展宏
若衆に戸ぼそ隙けある囲炉裡かな 楠目橙黄子 橙圃
若衆に水吹かせたる螢かな 会津八一
若衆のゲンゲンバラバラ夜っぴいて 高澤良一 ぱらりとせ
若衆の激ちて匂ふ花神楽 伊丹さち子
藤切や祭若衆のけもの声 大坪景章
蝶々や下山の若衆たゞ一人 蝶 正岡子規
鉢まきをとれば若衆ぞ大根引 野坡
●未成年
南京豆墓前に噛み噛み未成年 中村草田男
冬星を弾丸となし未成年 高野ムツオ
●健児
健児(こんでい)の足を揃へる旱みち 筑紫磐井 婆伽梵
地より灼け天より灼けて健児の塔 吉田紫乃
牛健児(うしこでい)車に落す草の露 上島鬼貫
●青少年
●小町
おほかたは卒塔婆小町の盆踊り 七田谷まりうす
かりそめの小町となりて月を待つ 鈴木節子
かるた札うつくしからぬ小町なり 梅子
くくられて小町ゆかりの芒かな 下村梅子
くちなしの小町のやうに萎れゆき 岡本輝久
けし垣の内や硯の小町形 万里 俳諧撰集玉藻集
けふの月婆とはよばぬ小町かな 秋色 俳諧撰集玉藻集
しぐるゝや行手に仰ぐ小町寺 比叡 野村泊月
としひとつ積るや雪の小町寺 蕪村 冬之部 ■ 春泥舎に遊びて
はねず唄小町の塚の春落葉 長柄公子
ひこばえや絵図の小町をたづね得ず 角川源義
ぼうたんは紅にして江戸小町 高澤良一 随笑
みちのくに小町の里や雪蛍 佐藤一星
みちのくや小町草咲く屋根の上 矢島渚男 延年
ゆくとしや老を誉めたる小町の絵 園女 俳諧撰集玉藻集
よろと卒塔婆小町の萩の託言も失せてけり 文挟夫佐恵
ビードロの根付を帯に小町の忌 西村弘子
マスクして小町の墓を訪ねけり 神郡 貢
乙女らの小町顔なる春まつり 村松 堅
今小町つらつら椿いきみんたん 加藤郁乎
俊寛も小町も果の施米かな 青木月斗
優曇華や寺に小町の九相図 三矢らく子
冴え返る入谷小町を挟み撃ち 攝津幸彦 鹿々集
初硯一首は小野の小町かな 池田かほる
名月や海に向かへば七小町 松尾芭蕉
囀りや苔盛り上がる小町塚 巽恵津子
四万六千日小町屋で買ふつけ睫毛 鈴木栄子
在るがままの花でありたし小町の忌 松谷雅子
夕桜小町塚まで足のばす 板谷芳浄
夜の秋を小町寺より遊び尼 山口誓子
大原や小町が果の夏花つみ 一茶「七番日記」
大根煮て小町も年をとりにけり 龍岡晋
姥等とよ小町がはてをこれ見よや 姥等 正岡子規
寒しとは小町が嘘よほとゝぎす 高井几董
小町の忌歌詠むときは化粧して 大元祐子
小町塚弔ふに摘む都草 小野たか子
小町塚訪ふと蝗を跳ばしたり 神蔵 器
小町墳言葉少なに時雨傘 浅野アツ子
小町寺とうとうたらり春の舞 井本農一
小町寺尼がかむれる綿帽子 大森積翠
小町寺枯木ざくらもゆかしけれ 高濱年尾 年尾句集
小町崩れの姉ふらふら来小正月 たむらちせい
小町忌のなき淋しさや業平忌 野村喜舟
小町忌のはんなり香る桜餅 中御門あや
小町忌の反物のまま二十年 北柳あぶみ
小町忌の歌膝ゆゆし九十九髪 高橋睦郎
小町忌の老いても母の富士額 西浦昭美
小町忌の褪せし押花詩集より 斎藤静枝
小町忌は人丸忌なり井水汲む 高橋睦郎
小町忌や芍薬の芽の紅に 山口マサエ
小町忌や花の透しのあそび紙 高山 檀
小町忌や鴨の啄む紅椿 藤原口佐子
小町草咲きひろがりぬ尼が庵 高浜虚子
小町草石屋の石の間かな 矢島渚男 延年
小町草花壇に盛りすぎにけり 高野素十「高野素十全句集」
小野の小町こらへ情有二夜の月 云奴子 選集「板東太郎」
年経たる小町のにほひ蓬原 鷲谷七菜子 天鼓
幾夜ふる小野の小町のかた鶉 如流 選集「板東太郎」
廿とせの小町が眉に落花かな 高井几董
徂く春の卒塔婆小町を観し疲れ 松本たかし
捨松も小町も居りて福笑ひ 太田 昌子
掘り上げて陽に当つ藷の紅小町 森田公司
日本に小野小町や合歓の花 辰巳あした(雨月)
春落葉浮けり小町の化粧井戸 龍頭美紀子
書出しに小町が返事なかりけり 黒柳召波 春泥句集
朝火事の寺町小町革枕 攝津幸彦 鹿々集
枯尾花醜き小町臥りけり 高井几董
柾の実昔小町のあちら向き 相原澄江
柾を葺く仮宮かなし小町草 富安風生
椿挿す死相も音戸小町よと 赤松[ケイ]子
業平と小町の並ぶ歌がるた 下村梅子
歌いづれ小町踊や伊勢踊 貞徳
歌留多の絵小町は老いずありにけり 後藤夜半 底紅
此花を小町草とは知らざりし 月舟俳句集 原月舟
流星の果てなる鸚鵡小町かな 黒田杏子 花下草上
百日紅ややちりがての小町寺 蕪村「夜半叟句集」
百歳の小町目を張り秋の暮 大橋敦子 匂 玉
盆踊清少納言小町の国 西本一都 景色
破れ扇これも小町かなれのはて 捨扇 正岡子規
破れ扇小町かはてを見付たり 捨扇 正岡子規
秋灯や要かなめの小町針 橋本白木
秋風や小野の小町の笑ひ聲 秋風 正岡子規
積年の朽葉をためて小町井戸 中村姫路
笠深く鸚鵡小町の出の涼し 加藤三七子「無言詣」
笹鳴や小町通りをそれてすぐ 川崎展宏
紅梅や畦より低き小町塚 野崎ゆり香
芍薬のくづれ艶めく小町塚 高橋一経
花の枝あふるる卒都婆小町かな 黒田杏子 花下草上
花薄こゝも小町のふしど哉 薄 正岡子規
菊人形小町世にふる眺めして 百合山羽公
華麗なる空箱のこる小町の忌 平坂万桑
萩薄小町が笠は破れけり 萩 正岡子規
萩薄小町が笠は破れたり 萩 正岡子規
蝶々の葎深しや小町寺 星野立子
行く年や老を誉めたる小町の絵 斯波園女
袋絵の小町ほほえむ今年米 松本由美子
負ひ真綿里の小町も古りにけり 永田青嵐
踊りそろへば小町桜は咲きにけり 長谷川かな女 雨 月
野を焼や小町が髑髏不言 高井几董
野菜曳く村の小町の頬被り 松浦 釉
針供養母の使ひし小町針 有賀三枝子
鎌倉の小町通りも小春かな 金田元彦
関寺の小町の塚の蛇いちご 村木佐紀夫
雨乞の小町が果や落し水 蕪村
露の川小野小町の山を出づ 八木林之介 青霞集
青葉冷え鎌倉小町通りにて 川崎展宏
頬の落ち卒都婆小町のしたたかさ 須崎美穂子
飾りたる小町雛のうれひ眉 阿部みどり女 笹鳴
鼈甲を磨く老眼小町の忌 中野青雁
●お嬢さん
あこがるる交換嬢のいと細き 筑紫磐井 花鳥諷詠
わが孫の村嬢と群れて入学す 水原秋櫻子
スキー嬢蜜柑をむけり男らに 岸風三楼 往来
事後は雨後めくトルコ嬢と神に近づく 加藤郁乎
出土土器散らばり乾き赤のまま 水田三嬢
切手売る初髪の紅一点嬢 秋元不死男
初春の真珠選別御木本嬢 高澤良一 燕音
嬢(じょ)っこ等の踊り浴衣を見てたんせ 高澤良一 素抱
嬢(じょ)っこ達めかして西馬音内(にしもね)盆踊り 高澤良一 素抱
家系殊に老嬢聖像(イコン)のごと灯り 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
恋猫の老嬢坐り直しけり 高澤良一 ぱらりとせ
挨拶を訛り長閑なガイド嬢 高澤良一 素抱
政變来 老嬢(オオルドミス)が何言はうと 筑紫磐井 花鳥諷詠
春服に鶴のマークのクルー嬢 高澤良一 寒暑
春浅し表情かたしサーカス嬢 湊松峙
某嬢に二本線引く去年今年 櫂未知子 蒙古斑
病院のアナウンス嬢咳き込んで 谷村千恵子
石榴割れる村お嬢さんもう引き返さう 星野紗一
紅葉ふんで村嬢塩をはこびけり 飯田蛇笏 山廬集
細魚(さより)嬢看護婦(ナース)寝起きの声掛けぬ 高澤良一 鳩信
老嬢に暗き蜜あれわれには詩を 寺山修司 花粉航海
良きお嬢はたと逝きたり春疾風 下田明子
踊る夜を嬢っこ真紅のしごき帯 高澤良一 素抱
雛壇に潜むO嬢物語 内田美紗 浦島草
青森暑し昆虫展のお嬢さん 佐藤鬼房 何處ヘ
●処女
いわし雲みじかき海女の処女期畢ふ 宮武寒々 朱卓
てのひらに砂を平して五月処女 山口誓子
みつまたの花嗅ぎ断崖下の処女よ 西東三鬼
ろんろんと月がまはるぞ処女汚し 川口重美
ジーパンをはき半処女や秋刀魚焼く 磯貝碧蹄館
スキー服黒き処女は吾に従く 石川桂郎 含羞
一粒の向日葵の種まきしのみに荒野をわれの処女地と呼びき 寺山修司
住吉に凧揚げゐたる処女はも 誓子
入学処女微笑む四人掛けの椅子 楠節子
冬香水処女の匂ひに自信なし 鈴木栄子
処女たちびらびらと立ち泳ぎ 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
処女とどまる春着扉に挟まれて 津田清子 礼 拝
処女のごと自由奔放夏の川 菖蒲あや 路 地
処女の唇はあくまでも酸し百日紅 仁平勝 花盗人
処女の掌に一顆の卵よみがへる 本島高弓
処女の肌深山蝶さへ怖るゝか 岸風三樓
処女の背に雪降り硝子夜となる 西東三鬼
処女みな情濃かれと濃白酒 松本たかし
処女らコートの白に統べられ霧の航 上野さち子
処女二十歳に夏痩がなにピアノ弾け 竹下しづの女 [はやて]
処女地の中墓標にあらず妻佇てる 和田悟朗
処女峯といふべき登攀霧をふむ 飯田蛇笏 椿花集
処女眠し金雀枝遠く咲き満てば 岸風三樓
処女紙幣青し颯爽として軽く 日野草城
初蝶や楽譜かたどる処女詩集 岡田 貞峰
十二月街頭神を説く処女 福田蓼汀 秋風挽歌
卒業処女恋して後に母となれ 楠節子
南風や処女来てわが病室に 石田波郷
夜半の春なほ処女なる妻と居りぬ 日野草城
夜桜を産みたき処女と手を繋ぐ 林桂 銅の時代
夜間飛行士草に眠る処女膜のように 安井浩司 赤内楽
大寒の芦屋に処女老いゆくと 下村槐太 天涯
山行の処女も全身縛したる 岸風三樓
年は逝く永久の処女は画の中に 林 翔
春は夜の処女の秘密に月にほふ 飯田蛇笏 雪峡
暗きまゝ処女の夜濯ぎなほつゞく 右城暮石 声と声
木の実の合唱日へ回帰する聖処女に 磯貝碧蹄館 握手
林道の処女雪踏絵のごとくあり 関森勝夫
柿をむきて久遠の処女もおもしろし 竹下しづの女 [はやて]
消え消えの色に咲き出ぬ処女袴 石塚友二
真処女と来て真珠棲む海泳ぐ 八木原祐計
真処女の白鳥羽づくろひゐて日射す 中山純子 沙 羅以後
真処女や西瓜を喰めば鋼の香 津田清子
磯ぎんちゃく処女膝小僧よごしけり 川口重美
箱根駅伝坂白くして処女のごとし 熊谷静石
聖処女の一人静の姿かな 平井照敏
聖歌隊解かれて処女柿噛る 津田清子 礼 拝
肩掛を黒くわれには常処女 下村槐太 天涯
花売りの擬宝珠ばかり信濃処女 橋本多佳子「信濃」
芹つみに国栖の処女等出んかな 榎本星布
萱負うて束ね髪濃き山処女 星野麦丘人
薔薇白し処女の倫理の昨日(きぞ)の栄 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
蚊遣焚き一坪ふかく処女仏 古舘曹人 能登の蛙
血管の青さたしかに五月処女 宮坂静生 青胡桃
隠沼は処女の瞳冬に入る 石原舟月
麦束をよべの処女のごとく抱く 橋本多佳子
黒足袋の聖処女ミサヘ磯づたひ 下村ひろし
●生娘
大道は秋/生娘はみな和音 仁平勝 東京物語
生娘ならず雪さんさんと舌で受け 鎌倉佐弓 天窓から
生娘の聟見る窓や青簾 尾崎紅葉
生娘やつひに軽みの夕桜 加藤郁乎
●ヤング
●結婚適齢期
●妙齢
われを囚ふ葉柳と吾子の妙齢と 下村槐太 天涯
妙齢にしてごきぶりを石火打 山地春眠子(鷹)
妙齢にして利酒の好敵手 岡本雅洸
妙齢のするどく飛ばす歌かるた 徳田青雨
妙齢の占ひ師ゐて路地夜寒 山口霞牛
妙齢の喪主まずくぐる春霞 仁平勝 東京物語
妙齢の息しづかにて春の昼 山口誓子 遠星
妙齢の息たぢろがぬさくら幹 松山足羽
妙齢の白息に触れ旅なかば 力石郷水
妙齢の秋暑をいとふ師弟愛 飯田蛇笏 椿花集
妙齢の逝けるは罪や碇星 佐野鬼人
妙齢や大小の榾胸に抱き 久保純夫 熊野集 以後
妙齢を保つレースの手袋に 百合山羽公 寒雁
尼ながら妙齢にして夏座敷 安田千鶴女
春の昼妙齢にして相容れず 六林男
柿若葉妙齢とこそ申さばや 石塚友二 光塵
生酔ひをひどくからかふ髱(たぼ)の妙齢(とし) 筑紫磐井 花鳥諷詠
芙蓉は妙齢老の釣針魚もだゆ 中村草田男
雪女みな妙齢と思ひこむ 穐山珠子
面取れば妙齢なりし寒稽古 永田百々枝
黄葉林妙齢の紅もち来たり 上田五千石 田園
●年頃
セルを着てほぼ年頃もおなじかな 上村占魚 球磨
制叱迦は吾子の年ごろ野菊濃し 大岳水一路
夕顔や口数減りし子も年頃 影島智子
寒紅もその年頃の杏子色 後藤夜半 底紅
年頃の二人の娘和布干す 指中恒夫
年頃を過ぎし織子の腰布団 有本銘仙
竹馬や男まさりも年頃に 広畑美千代
風呂吹や年頃つかふ薬味入 原俊子
●青春
「青春」の碑文字に露のあたらしく 原田青児
いつまでを青春といふ夏衣 高橋悦男
いま酌めばいまが青春さくら散る 木村敏男
かかる青春塩田に砂撒きちらし 津田清子 礼 拝
げんげ田に寝し青春を失へる 田村一翠
これよりは永遠の青春桃の花 成瀬正とし 星月夜
しやりしやりと梨喰ふ晩年青春期 本庄登志彦
せがまれて語る青春鳥雲に 仲村青彦
ねとねとと糸ひくおくら青春過ぐ 小澤實 砧
ひと息に蝌蚪流れゆく青春も 倉橋羊村
わが妻に永き青春桜餅 沢木欣一(1919-2002)
われに無かりし青春海女の堅肉灼け 野澤節子 花 季
ジャケットの羽毛ふくれに汝が青春 清水衣子
スケートの靴に乗りたる青春よ 稲畑汀子
ダルマストーブころがる青春ここに終り 藤岡筑邨
ボートより手浸す青春永からむ 今村俊三
メーデーや我が青春のコッペパン 原 昭二
ヨットの帆張るや青春ただ中に 伊東宏晃
ラグビーに青春の影踏みあへり 山岡 季郷
リスボンの青春 海泡石になる夕暮 伊丹公子 山珊瑚
亀啼くや青春果てし手を洗ふ 小林康治
仁王永久に青春の貌山の虻 大峯あきら
僕の青春がぽつんと座っている川原 西村秀治
共学を知らぬ青春漱石忌 荒井書子
冬草や耳たぶ汚れなき青春 爽波
冬銀河青春容赦なく流れ 上田五千石(1933-97)
冬陽に眠る青春の日の真昼のごと 金子兜太
初袷青春すでに子らのもの 篠田悌二郎
十二月八日青春欠け初めし 森 洋子
古書市に青春探す小春かな 有働 亨
吾が青春水蜜桃の薄皮むき 三好潤子
命ある日々が青春薔薇を観に 伊東宏晃
四方太忌や未だ青春の志 田中寒楼
基地で果てた青春 海底透きに透き 伊丹公子 メキシコ貝
夢捨てぬ限り青春初鏡 安河内登志
失ひし青春のごと虹消ゆる 常石芝青
嫁がねば長き青春青蜜柑 大橋敦子 手 鞠
山にゐる限り青春夏炉燃ゆ 山田春生「極楽」
我ら知らぬ母の青春母子草 寺井谷子
手話びとの青春しづか緑立つ 堀口星眠 樹の雫
捨てマッチ地に燃え青春は霧か 宮坂静生 山開
敝衣破帽の青春悔いず西郷忌 山下鴻晴
斑猫やわが青春にゲバラの死 大木あまり 火球
早春は青春に似て水韻く 中村明子
昔/真神の/深雪匂ひの/青春楡峠(あをだもたうげ) 林桂 銀の蝉
春の潮わが青春に寮歌あり 和田あきを
春の花死のかんばせに青春を 阿部みどり女
晩年の青春切符星祭 三浦すゑ
曝す書に我が青春の一紙片 東山喝子(獺祭)
書き込みし青春の檄書を曝す 川端 実
書を曝し我が青春をさらしけり 小島隆保
月の友青春今もあるごとし 山内年日子
月仰ぐいま青春の二人子と 中嶋秀子
本漁ればいつも青春肩さむし 古沢太穂
東風吹くと青春の絵馬鳴りどほす 西本百合子
林檎噛む歯に青春をかゞやかす 麦南
枯芝に青春もかく翳りたる 木下夕爾
校塔の冬日はうすれ青春失せ 岩田昌寿 地の塩
椿寿忌やわが青春の稽古会 深見けん二
檻のテレビ青春の日の遊び場写す 仲上隆夫
残る青春この闘鶏の真顔抱き 柴崎左田男
殺戮もて終へし青春鵙猛る 鉄之介
河骨や吾が青春は下駄なりし 藤後左右
海昏れぬ青春の唇濡れ合うて岩匂う 橋本夢道 良妻愚母
海見ゆるかぎり青春豆の花 菖蒲あや
消えのこる月と青春草刈女 木下夕爾
演劇にかけし青春卒業す 山崎和代
炎天に匍匐し走りたる青春 根岸たけを
焚火火の粉吾の青春永きかな 草田男
独り身の今も青春日記買ふ 平田節子
生涯を青春として更衣 梶山千鶴子
甦る青春の日々明易き 安原葉
病みぬけし子の青春や雪焼す 殿村莵絲子 牡 丹
白ハンカチ青春は畳みこんで置く 蔦 悦子
白地着て子に青春の始まれる 松本明子
百合の列青春開花何時の日ぞ 香西照雄 対話
競漕や青春はがねの脚持てり 田山康子
筋を通せしわが「青春譜」敗戦忌 尾村馬人
紅葉裡に日の藪青春くゆりたつ 香西照雄 対話
緋桃みるわが青春は遠く去り 高橋淡路女 淡路女百句
美男蔓いま青春といふ色に 山田弘子 懐
羮や銀匙うらゝかに舌青春 松根東洋城
聖菓のてっぺん舐めて 青春短かすぎる 伊丹公子 メキシコ貝
背泳ぎの青春揺らぐところまで 鎌倉佐弓 潤
色褪せし我が青春の白絣 田中義孝(ランブル)
苺つぶす青春に悔なしとせず 千原叡子
草いきれとて青春に似たるもの 後藤比奈夫
草いちご青春暗き沼もありし 山口冬男
草笛を吹いて青春呼びもどす 貴舩恒夫
菊坂は母の青春散紅葉 村松 堅
菜の花や日々青春のこころざし 秋元幸治
蝉の青春その木漏れ日に夫と老う 殿村莵絲子 牡 丹
豊年や飢ゑて過ごせし青春期 八橋 隆文
軍帽は夫の青春衣魚育て 市川弥栄乃
遠ざかりゆく戦旗など夕映ゆるさまにか似たりわが青春は 尾崎左永子
隧道なか坐席疾走しぼくら青春 上月章
露台よりわが青春の海見えて 星野椿
青き踏む青春遅々に過去のもの 佐野まもる
青春かく涼しかりしか楡大樹 鍵和田釉子
青春が晩年の子規芥子坊主 金子兜太「両神」
青春と云ふ言葉好き春野馳く 本田祐子
青春と口紅でかく狂ひ咲き 和田季洋
青春なかば雪山並ぶ暗さ知りぬ 岡田日郎
青春ににきびとバレンタインデー 金井利信
青春にサルビアの朱ほどの悔い 岩岡中正
青春のあるとき暗し鳥兜 有光令子
青春のいつかな過ぎて氷水 上田五千石 田園
青春のいま静のとき毛糸編む 山田弘子 螢川
青春のかけらにも似て桜貝 池上奈々子
青春のかけら音立て雪飛びつく 殿村莵絲子 牡 丹
青春のすぎにしこゝろ苺喰ふ 水原秋櫻子「葛飾」
青春のただ中の顔スキー負ふ 岡田 貞峰
青春のひかりまぶしむ春の沼 金山敏允
青春のひと刻賭けし大雪渓 角田双柿
青春のほろびし灰に落椿 仙田洋子 雲は王冠
青春のまつただ中の日焼顔 寺岡捷子
青春のゴッホに似たり青みかん 佐野竹の子
青春の仏のかほと見まゐらす 竹下しづの女 [はやて]
青春の十年の張り初浅間 松田ひろむ
青春の思い出や妻とゆく万枯の中 橋本夢道 無類の妻
青春の想ひをはこぶ沈丁花 雨宮抱星
青春の日に似て妻と花野ゆく 伊東宏晃
青春の日に比しがたき霜の天 飯田蛇笏 雪峡
青春の昏さキャンプの燈を消して 津田清子 二人称
青春の晩年の子規芥子坊主 金子兜太
青春の楽続きをり今日の月 酒井郁子
青春の殻を残して卒業す 斉藤良子
青春の白歯の笑ひ牡蠣煮えつつ 榎本冬一郎 眼光
青春の目鼻飛ばして大嚏 攝津幸彦 鹿々集
青春の真っ只中や鮎跳ねる 中村信吾
青春の苦き珈琲ゼリー食む 成田郁子
青春の裸浸りて淵青葉 池内友次郎 結婚まで
青春の貧はよかりし曝書かな 新明紫明
青春の辞書の汚れや雪催 寺井谷子
青春の過ぎにしこころ蝉の殻 福島清恵
青春の過ぎにしこゝろ苺喰ふ 水原秋櫻子
青春の遠さ雪解のきらびやか 宇咲冬男
青春の隊長の葬寒林に 杉本寛
青春の音す胡桃を割るたびに 小林康治 『潺湲集』
青春はあまりに暗く書を曝す 新谷ひろし
青春はすでに子のもの虹仰ぐ 牛山一庭人
青春は悪夢に似たり*たらの花 角田双柿
青春は馬鹿馬鹿しくて四月かな 櫂未知子 貴族
青春ものラストシーンのヒメジオン 高澤良一 随笑
青春も人も遥けし夕の野火 飯泉葉子
青春や一握の鳥と思えずうぐいすは 橋本夢道 無禮なる妻抄
青春や星を突く銛さがすごと 大木あまり 雲の塔
青春や酒量ふえても背に翼 江里昭彦
青春を培ひし書を曝しゐる 古高厚子
青春を斉すに似る黄砂が降る 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
青春を浪費せるシュプールの深さ 津田清子 礼 拝
青春を焦土の中に広島忌 重本泰彦
青春を買い足しているチューリップ 松尾火炎樹
青春前期マフラーの色ブルー 上田日差子
青春忌遠雷スワン家の方へ 藤原月彦
青春想起の若潮の香を胸にしまう 河野多希女
飢ゑし夏も青春も遥かなるものか 金久美智子
鯉幟わが青春に戦あり 伊東宏晃
鰯雲わが青春の万華鏡 鷹羽狩行 誕生
黄楊の花青春は貧とありしかな 金子明彦
鼎ノ中デ潮招キラガ青春スルゾ 夏石番矢 真空律
●青春期
豊年や飢ゑて過ごせし青春期 八橋 隆文
しやりしやりと梨喰ふ晩年青春期 本庄登志彦