●親●親御●親心●親馬鹿●親譲り●片親●仮親●継父母●里親●父母●名付け親●二親●継親●養親●養父母●両親●老親●親●親御●親心●親馬鹿●親譲り●片親●仮親●継父母●里親●父母●名付け親●二親●継親●養親●養父母●両親●老親
●親 
*はまなすや仔馬は親を離れ跳び 高浜年尾
あきら日に子雀親とまぎれなく 原石鼎 花影以後
あけび割れ狐は親を忘れたり 橋石 和栲
あまへ啼く田掻き帰れる親牛に 松藤夏山 夏山句集
いそがしや昼飯頃の親雀 親雀 正岡子規
いつとなく子雀の親とまがひけり 原石鼎 花影以後
いつも親のどこかに仔馬馬柵古び 渡辺均
いなびかり睡りて親の傍へゆく 坂巻純子
うぐひすや月日覚える親の側 炭 太祇 太祇句選
うそ寒や親といふ字を知てから 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
おとろへし親におどろく野分かな 原裕 出雲
おやゆびの親だすごとく蚕豆むく 島津亮
おんばこや息やはらかく親仔牛 つじ加代子
かたまりて菌の親の子沢山 馬見塚吾空
かはほりや親に呼ばれぬ子がひとり 青山 岬
こがらしや親星子星相つれて 永田耕一郎 氷紋
こけしには親兄弟もなかりけり 中勘助
しぐるるや山彦は樹を親と思ひ 長谷川久々子
ちぢみ着て親をうらみてゐたるかな 秋元不死男
つく〜ぼふし親がないとて子がないとて 寺田寅彦
つつぬけの天の高さや思親閣 小島花枝
つとめよと親もあたらぬ火燵哉 服部嵐雪
としどしや二人の親の煤ごもり 信州 米居 五車反古
とっくりに親の付き添ふ火の祭 高澤良一 燕音
なき親の繪姿笑ふ今朝の春 今朝の春 正岡子規
なら漬に親酔ふ浦の汐干かな 越人
なんばんぎせる芒を親と思ひしか 長谷川久々子
ぬすまれて親の恩知る寒さ哉 寒さ 正岡子規
ねだる子や秋淋しがる親の顏 秋淋し 正岡子規
はこべらや親につめたき山の影 長谷川双魚 『ひとつとや』
はまなすや仔馬は親を離れ跳び 高濱年尾
はまなすや湖に影ゆく親仔馬 沢田しげ子
はりつめし親の心や雉の声 雉 正岡子規
ひとの子の親のさびしさ鳥雲に 安住敦
ふた親にたちまちわかれ霜のこゑ 飯田蛇笏 春蘭
ふた親に二つともしび朧の夜 長谷川久々子
ふた親のくに秋嶺の藍ひらく 成田千空
ふた親のなみだに死ぬ子明け易し 飯田蛇笏「白嶽」
ふた親のやりとりが洩る雪囲ひ 柳川大亀
ふところの親の位牌や秋出水 三宅応人
ふろふきの煮上る親星子星出て 村越化石
ほその緒や親の手跡の土用干 土用干 正岡子規
まず会いたし利根川に浮く親の鯉 阿部完市 春日朝歌
まづしく汁ぼのよりの親のうなじにまで 梅林句屑 喜谷六花
やぶ入の寐るやひとりの親の側 炭 太祇 太祇句選
やぶ入の我に遅しや親の足 高井几董
やぶ入の親もなき子や芝居好キ 藪入 正岡子規
やぶ入や琴かき鳴す親の前 炭 太祇 太祇句選
やぶ入や親なき里の春の雨 李由 正 月 月別句集「韻塞」
やぶ入や親の墓訪ふ一乗寺 前田孤村
わか葉して親と子疎き雀かな 高井几董
わびしさは親なき人の二日灸 二日灸 正岡子規
をろがめる大御親神(おおみおやがみ)伊勢の春 高澤良一 燕音
一すじの藁しべ口に親雀 佐藤華秋
万愚節親のみたてのあたりけり 水原春郎
世には着て親に背むくを馬鹿踊 上島鬼貫
世渡りの下手親ゆづりなめくじら 西岡より子
九体佛親猫仔猫とほりけり 細川加賀 生身魂
乳を吸ふごと親芋に子芋群れ 後藤比奈夫 花匂ひ
乳親の嫁ぐとも聞く春の雨 中塚一碧樓
亀の子が一目散に親のあと 長谷川公二
亀の子の四肢ひらひらと親を追ふ 内藤英子「雉俳句集」
五六間烏追けり親雀 一茶 ■文化六年己巳(四十七歳)
亡き親に我はづかしき紙衣かな 紙衣 正岡子規
亡き親のいよいよ遠く夜寒きぬ 木津柳芽 白鷺抄
人の親の来るとばかりや魂まつり 上島鬼貫
人の親の烏追ひけり雀の子 上島鬼貫
人の親の甘酒売を呼びにけり 甘酒 正岡子規
人の親の病悲しき師走かな 赤木格堂
人の親の翦羽子取りに長階子 梅室
人の親凧を跨で通りけり 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
人近く来るや雀の親心 親雀 正岡子規
仔牛まだ親を離れず花胡桃 古賀まり子
仔雀を誘ひ飛びして親雀 右城暮石
仔馬が来馬車をひきつつ親馬来 成瀬正後
佐渡航路寄する卯浪の彩親疎 高澤良一 寒暑
兄弟子に親とつかへて夜なべかな 森川暁水 黴
児の親の手笠いとはぬしぐれかな 遊女-夕霧 俳諧撰集玉藻集
入営をひた泣く親の誠かな 大谷句佛 我は我
入学の子をもつ親の君と我 久米正雄 返り花
八十の老に親ありとし木樵 高井几董
六法を踏む揺れのあり船芝居 戸上親俊(ホトトギス)
冬ぬくし人骨にある親知らず 能勢京子
冬の夜の狐は親のなくやらん 中勘助
冬の湖聖徒は親を捨てにけり 角谷昌子
出代の傘返し来す親の馬子 雉子郎句集 石島雉子郎
初富士や双親草の庵にあり 高浜虚子
初日仰ぐ雙親の愛一身に 轡田進
初秋や親に離れし相撲取 米巒 七 月 月別句集「韻塞」
初詣双親寿かれと 福田蓼汀
初鮒や宿に病気の親一人 初鮒 正岡子規
剪定の小枝親木の根に積まれ 川崎慶子
化鳥ともならず鷺の子親と舞ふ 百合山羽公 寒雁
北畠親房端居でもするか 佐々木六戈 百韻反故 初學
卯月野のほとけの親にあひに来し 西島麦南
厩出しの親牛が跳ね仔牛跳ね 千葉年子
去年うせし親がかたみの接木哉 接木 正岡子規
參らせん親は在さぬ新茶哉 寺田寅彦
双親の陶榻にあり雛の日 後藤夜半 底紅
双親を客に招じて風炉開き 大橋越央子「野梅」
吊忍いつまで親の臑かじり 宮坂静生 青胡桃
君か代は冬の筍親五十 寒竹 正岡子規
君か代や親が所望の夏氷 夏氷 正岡子規
君か代や親の病気に夏氷 夏氷 正岡子規
吸入器ごときに親を任せをり 山野みどり
呼ぶは子よ何をくはへて親雀 親雀 正岡子規
咥へとぶ親を見てゐる雀の子 角川春樹 夢殿
囀るや親を振り向くこともなく 櫂未知子 貴族
四人目の親焼く煙り山眠る 宮地桂公
地上では子が親になり稗を抜く 安川貞夫
垣に来て雀親呼ぶ声せはし 雀の子 正岡子規
墓守の軒に子雀親雀 山口青邨
夏以後の暑を志士とその親の墓 竹中宏 句集未収録
夏休み親威の子と遊びけり 仁平勝
夏痩を親に泣かるゝ遊女哉 夏痩 正岡子規
夏落葉訃のつづきしも親疎あり 河野南畦 湖の森
大花野親水公園まん中に 中戸川朝人
大駈りしては鹿の子親に添ふ 皆吉爽雨
太箸や親に貰ひしめでたき名 太田壽子
夫に吾に二親ありぬ今年麦 柳澤和子
姨捨や芋は親うるけふの月 横井也有 蘿葉集
娘の思ひ親の思ひや木の芽和え 塩見美恵子
子が舞えば親が囃して花神楽 平松荻雨
子に見えて親に探せぬ初わらび 白土青波
子の墓の雪冠親目にずり落ちさう 香西照雄 素心
子の未来親の未来や遠霞 山田はるい
子の親のつとめをへにし朝寝かな 麻田椎花
子の鶴も親にならひて凍てはじむ 波多野爽波 『一筆』以後
子は衣装親は常也ゑびす講 榎本其角
子は親を育てる蘆の角である 園ゆかり
子も親もみな日焼して玉送り 山口義夫
子を追へる親は緩走芝枯るる 林翔 和紙
子千鳥の親を走せ過ぎ走せかへし 草田男
子守唄終りは親ほめ月夜褒め 加倉井秋を
子心や親にすすむる薬喰 高浜虚子
子烏のひねもす親を待ちてなく 川原みや女
子狸も親に似てゐるふぐりかな 青木月斗
子猫見て親猫の居ぬ鳳仙花 雑草 長谷川零餘子
子舟載せ親船に家紋しぐれ通し 平井さち子 完流
子鴉に鳴く声太し親鴉 高橋淡路女 梶の葉
孤火小さし親なし子孤がともす 成瀬櫻桃子 素心
寒に入る親芋子芋はしけやし 藤田湘子 てんてん
寒声やあはれ親ある白拍子 高井几董
寒声や親かたどのゝまくらもと 炭 太祇 太祇句選後篇
寒夕焼親に先立つかも知れず 結城昌治 歳月
寒紅のきりりと親を拒みをり 黛執
寒鮒を釣る親と子とならびけり 久保田万太郎 草の丈
小千鳥の親を走せ過ぎ走せかへし 中村草田男
小浅間の親雲小雲秋立つよ 角川源義 『神々の宴』
小豆粥親のなき子となりにけり 久保田万太郎 流寓抄以後
巣つくるや憎き鴉も親ごゝろ 加舎白雄
巣に戻る親鳥の我れを叫ぶかな 安斎櫻[カイ]子
巣の中や身を細うして親燕 少年-峰嵐 選集古今句集
巣へもどる羽ゆるやかに親烏 太平栄子「雉俳句集」
巣立鳥親にしたがひ泳ぎけり 滝沢伊代次
帰省子の親離れしてをりにけり 重松里人
帷子のしやちこばりたる親仁哉 星野麦人
平凡な顔して秋の動物園に来た親と子 人間を彫る 大橋裸木
年々や二人の親の煤ごもり 米居
年の暮ひら〜生える親知らず 中川宋淵 詩龕
年玉や古く悲しき親の恩 高橋睡郎
幼より親よろこべる武者幟 三島由子
弓弦葉や親より越せぬ子の齢 清治法子
形代に親のつけたる名をしるす 市村究一郎「*かりん」
快々と鳴けり烏の子も親も 大石悦子 百花
息継ぎもせでまた雨へ親つばめ 田山康子
我と来てあそべや親のない雀 一茶
我れが身に秋風寒し親ふたり 上島鬼貫
我等父子雷鳥親仔と尾根に逢ふ 福田蓼汀
我等親子雷鳥親仔と尾根に逢ふ 福田蓼汀
我親に似てをかしさよ古頭巾 頭巾 正岡子規
所詮他人とは言へ親疎のありて秋 福田蓼汀 秋風挽歌
抱き親は生絹のかぶり水烟る 茨木和生 三輪崎
捩花親の因果は過去のこと 磯崎ゆきこ
掛香や遊女が親の泥臭き 掛香 正岡子規
放された風船おうは親がさき ジャンボール絹子
日盛り出しやる二部教授を厭ひ親の身 梅林句屑 喜谷六花
日車の親花は焦げそめにけり 五十崎古郷句集
昏れてなほ黒光りあふ親仔馬 石寒太 炎環
春の星座交友親疎くりかへす 平井さち子 完流
春の鴉親に死なれて啼きしかな 安住敦
春光へ炉火虹色に燃親ふ 加藤知世子 黄 炎
春嵐親にそむきしことあらず 堀口星眠
昼暗き家内おどろく親雀 上田五千石 田園
晝霞親死んで渡舟筋替へし 中塚一碧樓
晩涼や親に似て子もだまりん坊 龍岡晋
月の出を待ちゐる親と子のえにし 井上雪
朝の間の親山影や山始 大橋櫻坡子 雨月
木槿さくや親代々の細けぶり 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
木瓜の実や仏頂面は親ゆづり 麻生順子
木立から親のところにいとどきて 阿部完市 軽のやまめ
末つ子の親となる日や桜桃 和田千恵子
村人に親疎の譏り初嵐 木村蕪城 寒泉
来る蝶を親む初夏の病かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
松の雪親に齢のありしこと ふけとしこ 鎌の刃
板壁や親の世からの古暦 一茶
桑摘や親籠を置く道の上 大橋櫻坡子 雨月
梅を供す親よろ背より子ぞ哀(かな)し 竹下しづの女句文集 昭和二十三年
梅日和ラツコの毛皮親ゆづり 野村喜舟
梅雨の窓其子の親も覗きけり 尾崎紅葉
梶の葉や親のなき身の願ひ事 井月の句集 井上井月
正月や顔を見に来る里の親 小澤碧童 碧童句集
此畑も親が譲りの茗荷哉 茗荷 正岡子規
歩みゆく我に双親花下にあり 上野泰 春潮
水漬く葉に乗つて鷭の子親を待つ 岸本隆雄(ひいらぎ)
水風呂につかりわれ親鹿である 阿部完市 鶏論
汗ふく親銭数ふる子舟は着きぬ 汗 正岡子規
沖へ放つ帰ることなき親鰻 百合山羽公 寒雁
河童の子河童の親の忌日かな 上村占魚 鮎
波とがる雪の越前親知らず 牧石剛明
泣き虫の子猫を親にもどしけり 久保より江
泳ぐ子と静かな親の森のプール 金子兜太「金子兜太句集」
流れるプール親を離れて子の手足 小野元夫(あざみ)
流氷の親に乗り添ふ子アザラシ 福田惟子
海峡が平ら端午の牛親仔 和知喜八 同齢
海霧残る牧の沢辺の親仔馬 高濱年尾 年尾句集
涅槃稚児行列親と手を継ぎ 上岡末喜
渋谷には親よりはやく死にたる児ひすがら石を積みそして積み 仙波龍英
潜く親見てゐし鳰の仔の潜く 松井文子
無著天親其外の佛秋の風 秋風 正岡子規
煮凝や親の代よりふしあはせ 森川暁水 黴
燕は子となり親となりし朝 上村占魚 鮎
燕子の親待つてなく口の形 小宮豊隆
爪切ってすでに親なき夜の霜 高橋ふじ
片親に十とせ和泉の秋茄子(親はと問はるゝに) 『定本石橋秀野句文集』
片陰に親待つ兄と弟と 対馬康子 吾亦紅
牛市や親仔別れの息白し 井口公子
牛蛙むつくほつくり親ゐない 工藤ひろえ
狐火小さし親なし子狐がともし 成瀬桜桃子
狸の親仔が来て湯宿の一夜 本橋歌子
猫の子や親を距離て眠り居る 村上鬼城
猫の親屑茶の上を歩るきけり 前田普羅 新訂普羅句集
猿引を親猿と思ふ夜もあらむ 猿曳 正岡子規
猿曳を親猿と思ふ夜もあらん 子規句集 虚子・碧梧桐選
獅子の児の親を仰げば霞かな 幸田露伴 拾遺
玉棚の奥なつかしや親の顔 向井去来
玉棚の親に見せけり銭五貫 高井几董
玉椿親仁さけすばかゝらじを 服部嵐雪
玻璃内の眼を感じつつ親雀 高浜虚子
生身魂其又親も達者なり 子規句集 虚子・碧梧桐選
男親こでまりほどの飯握る 鈴木八駛郎
畑の風中呼びかはす親と子となり シヤツと雑草 栗林一石路
畦もどる親馬仔馬ほととぎす 木村蕪城 一位
白仔馬親へ脚挙げ蹠黒く 香西照雄 素心
白虎忌やわれも子を持つ親として 滝沢幸助
盆の海親知らず子知らず陽の没るよ 角川源義(1917-75)
盆礼や織子の親の女杣 有木銘仙
目ふたいで鉾下りにけり児の親 大魯「蘆陰句選」
眼つむりて親のそばなる子猫かな 山口波津女 良人
眼に残る親の若さよ年の暮 炭 太祇 太祇句選後篇
石の親石の子を生む寒夜かな 宇多喜代子 象
砂糖こそ歯ぬけ親仁の氷様 言水 選集「板東太郎」
破れあり親子障子の親の方 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
祇園会の稚児親たちにかしづかれ 玉木里春
祖父よ父よ梅雨響かしめ男親 石塚友二 光塵
祖父親孫の栄えや柿蜜柑 松尾芭蕉
秋の夜や学業語る親の前 河東碧梧桐
秋の蚊や親にもらふた血をわけん 秋の蚊 正岡子規
秋の風親なきに我を吹そぶり 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
秋冷を行くや草花親まず 清原枴童 枴童句集
秋茄子の紫おもし親遠し 石橋秀野
秋風や親に似てこの蝮指 鈴木石夫
秋風や親疎別ある両隣 五十風播水
竜の玉子は親のみのものならず 宇咲冬男
竹の子に親竹は影降らすかな 鈴木鷹夫 大津絵
竹の子の出て竹の親ふり仰ぐ 辻田克巳
竹馬に乗り太陽と親めり 青山悦子
筍や雨の親竹うちかむり 篠田悌二郎
精進すなといはれし親の彼岸かな 来山
細工絵を親に見せたる火桶かな 来山
絵馬堂に鳴くや子雀親雀 雀の子 正岡子規
羽抜鳥子育て下手な親叱り 樋笠文
老親を亡くして盆の藺坐布団 百合山羽公 寒雁
胼かなし親なき後のこと思ふ 高濱年尾 年尾句集
胼の頬泣きぬるゝ子の親はわれ 西島麦南 人音
船蟲の大きな親の子沢山 浜口今夜
芋の子の親にかも似て芋の鬚 佐々木北涯
花はこべ多産の親の白き脛 市野川隆
花人やめしひの親の手を引ける 飴山實 『花浴び』以後
花冷や柱しづかな親の家 正木ゆう子 悠
花咲て今人の親の病かな 花 正岡子規
花咲て老莱の親の病かな 花 正岡子規
苔さくや親にわかれて二十年 村上鬼城
若竹の艶見す親竹並みてみせ 香西照雄 素心
若駒の親にすがれる大き眼よ 石鼎
苧環や子に始まりし親離れ 矢口由起枝
茎立や親葉明りに包まれて 西山泊雲 泊雲句集
茎立や親葉郤け勃然と 西山泊雲 泊雲句集
茎立をつゝみするどき親葉かな 西山泊雲 泊雲句集
草を食む顔の大小親仔馬 嶋田一歩
菊数多届き親なき子となりぬ 櫂未知子 貴族
菊枕子のない親に寝てもらう 間宮洋子
菖蒲湯や男の子つれたる女親 菖蒲湯 正岡子規
菱喰の親が左を見れば子も 天河真佐子
萩年々今年子の親にしあれど 福田蓼汀 山火
萩枯れて斑愈々濃し鹿の親 西山泊雲 泊雲句集
葱畑少しあつて娘が親のらしい絹着た 梅林句屑 喜谷六花
蓮の葉の小さきを親の涙かな 尾崎紅葉
蓮の香に酔ふて寐まらむ親の家 幸田露伴 谷中集
蕣の咲くや親にも叱られず 智月 俳諧撰集玉藻集
薄氷を胸で割りゆく親白鳥 中村姫路
藪入の蒲団の中や親拝む 湯室月村
藪入や泪先立人の親 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
蘗や蟻何につきし枯親木 河野静雲 閻魔
虎魚産み落とせし親もこんな貌 高澤良一 随笑
虫干や傾城の文親の文 土用干 正岡子規
虫銜へ走る親追ひ蜥蜴の子 西山泊雲 泊雲句集
蚊をよけて親の鼾や郭公 上島鬼貫
蚊帳の中に親いまは亡し月あがる 村上鬼城
蜘の子や親の袋を噛んで出る 河東碧梧桐
蜘蛛の子の湧くがごとくに親を棄つ 加藤楸邨
蜜豆や親に逆らひ娘が喰ふる 今泉貞鳳
螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
行年や親無きあとの日が落つる 中島月笠 月笠句集
行春や親になりたる盲犬 村上鬼城
覗き見る浮巣の親は居らぬなり 西山泊雲 泊雲句集
親ありて大木戸越る角力哉 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
親ありとこたへてもどる桜哉 一茶 ■寛政九年丁巳(三十五歳)
親あるうち癒えむとおもふ暦果つ 木村蕪城 一位
親がまづ飲んで見せたるラムネかな 細川加賀 『玉虫』以後
親がらす歩み子がらすつづきけり 成瀬櫻桃子 風色
親が子が妻が代りて鳴子哉 鳴子 正岡子規
親が配る婚の赤飯いわし雲 皆川白陀
親が鳴き子猿が鳴いて秋の風 秋風 正岡子規
親ごころ傷つけしやも雨の鵙 樋笠文
親たちばかり暖冬の杉ばかり 齋藤美規
親つらゝ子つらゝ角兵衛地蔵前 広瀬一朗
親とゐてはらから多き子猫かな 山口波津女 良人
親と子が立体交差のまま聖夜 仲 寒蝉
親と子のごとき硯を洗ひけり 八染藍子
親と子の一つの水輪かいつぶり 瀬戸十字
親と子の夢ふくらます一の富 小砂見曙美
親と子の宿世悲しき蚊やりかな 道芝 久保田万太郎
親と子の心の対話さくらんぼ 酒井銀鳥
親と子の浮世を語る榾の影 暁台
親と子の親獅子子獅子初芝居 戸板康二
親と行くたそがれ貌の鹿の子かな 渡邊水巴
親と見え子と見ゆるありかたつぶり 太祇「太祇句稿」
親なしと答ふ淀野の田にし売 暁台
親なしにふるさとの月まんまるし 角川源義 『口ダンの首』
親なしに山すかんぽのあまかつし(母の忌近し) 角川源義 『秋燕』
親なしの天国(ハライソ)いかに露の夜 角川源義 『冬の虹』
親ならば見よ踊子の袖の鈴 立花北枝
親なれば子なれば似たり冬の梅 久保田万太郎 流寓抄
親なれば子を鍾愛す遠蛙 安住敦
親にあふて一日秋を忘れけり 秋 正岡子規
親にかじりつきて子芋の十あまり 大熊輝一 土の香
親にそむこう心麦踏みてやわらげり 大越吾亦紅
親に似し子猫一つをのこしけり 河野静雲 閻魔
親に似た御皃見出して秋の暮 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
親に似て肩幅ひろき浴衣かな 久保田万太郎 草の丈
親に尾く牧の仔馬の霧がくれ 鈴鹿野風呂 浜木綿
親に添ふ仔馬大地を楽しめり 尾崎和子
親に逢に行出代や老の坂 炭 太祇 太祇句選
親のあと追うて子烏つまづくな 成瀬櫻桃子 素心
親のいふことのいちいちちゝろ鳴く 久保田万太郎 流寓抄
親のことかつておもはず夾竹桃 鈴木しづ子
親のころよりのよしみの水温む 久保田万太郎 流寓抄以後
親のたけ子が抜き畑のカンナが抜く 右城暮石 声と声
親のない子はないと焚火してゐるよ 冬の土宮林菫哉
親のない子は大人しき火鉢哉 寺田寅彦
親のなき婢の身の上や走馬燈 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
親の名に傘貸してやる時雨かな 也有
親の名のまわり螢の気配して 宇多喜代子
親の名を継ぎけり草の芳ばしき 久保田万太郎 流寓抄以後
親の家のおそれいるほど瓜冷えて 鳥居真里子(門)
親の居て子に盗まする目刺かな 森川暁水 黴
親の手の届かぬ列に入学児 西岡正保
親の日と知らで茄子盗る人悲し 雑草 長谷川零餘子
親の縁薄かりし梅雨の髪洗ふ 佐野美智
親の股くぐる仔牛や草の花 西山泊雲 泊雲
親の胸毛に埋もるる子猫の一つは 梅林句屑 喜谷六花
親の血を吸てとぶ蚊のにくさ哉 蚊 正岡子規
親の親も子の子もかくて田打かな 安藤橡面坊
親の跡目寺世話方や御取越 大谷句佛 我は我
親の顔見る日やいさむ駒のこゑ 正岡子規
親の顔見る日や駒のいさみかな 正岡子規
親はありきむかし一人の親はありき百合の園生にふとはぐれたり 与謝野鉄幹
親はまだ衣更ふべくも見えざりき 更衣 正岡子規
親は子に古著買ふなる祭来ぬ 森川暁水 淀
親は親子は子の山羊に鰯雲 森閑
親ひとり子ひとりに夜の鏡餅 飯田龍太
親ひとり子ひとり蝌蚪を飼ひにけり 角川春樹
親ひとり子ふたり三つ寒卵 満田春日
親ひばり塩田斜に子の許へ 津田清子 礼 拝
親へ子ヘシヤベルが動く露びつしり 川崎展宏
親みて後や夜寒の物おもひ 尾崎紅葉
親むやとまりとまりの根深汁 角田竹冷
親むや泊り〜の根深汁 竹冷句鈔 角田竹冷
親もかうしてしなびらかせし大根かも 冬の土宮林菫哉
親もたぬ身は年々の寒さかな 路通
親もちし人は目出度し墓祭り 井上井月
親もなき子もなき家の玉まつり 魂祭 正岡子規
親もなく子もなき聲やかんこ鳥 蕪村遺稿 夏
親も夫もいたゞく柴の木実哉 松岡青蘿
親も子も同じ蒲団や別れじも 秋色 俳諧撰集玉藻集
親も子も酔へばねる気よ卵酒 炭 太祇 太祇句選後篇
親も子も雑魚提げて来る蚊遣哉 蚊遣 正岡子規
親も斯見られし山や冬籠 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
親よりの藍落ちつきし江戸浴衣 井田半三
親よりも白き羊や今朝の秋 村上鬼城(1865-1938)
親よりも頭勝ちむつくり巣立鳥 橋本多佳子
親を国許にもつて落葉するベンチに シヤツと雑草 栗林一石路
親を撲ちかかる大事や子蜘蛛散る 西岡正保(俳句朝日)
親を看る最後の家人シクラメン 鈴木 明
親一人子ひとり林間学校へ 山県輝夫
親二人に不機嫌の児や凧提げて 河野静雲 閻魔
親仔の馬あそぶ雪形遠白馬岳 秋山朔太郎
親去つてたちまち静か燕の子 山田木石
親子で頼みにきて親の傘に入つて帰る 松田一男
親捨てて子に捨てらるる春火鉢 松田ひろむ
親捨てるなどはたやすき青草に 寺田京子 日の鷹
親星を子星はなれず冬深む 木附沢麦青
親星子星北にかたまり寒波来る 小倉英男
親杉小杉熊出し夜も空真青 赤尾兜子
親梯子よりの子梯子松手入 魚井 苔石
親椀に零るる程や今年酒 井月の句集 井上井月
親死んで松茸の出ぬ故山かな 星野恒彦
親殺し子殺しの空しんと澄み 眞鍋呉夫
親殺し蛇泳ぎして行方も知れず 高柳重信
親沼の子沼連ねて涸れにけり 多胡一蚪
親泊千代の名刻む住の胸 石原八束 『藍微塵』
親泳ぐ水尾の中ゆく子鴨かな 加瀬美津子
親烏子烏に山深き湖 高木晴子 花 季
親燕出入りさかんに旅人宿 加藤耕子
親燕群なし鴉追ひはらふ 加藤昌子
親牛に飼葉つぎたす夜の秋 宗像夕野火
親牛の子牛をねぶる霜夜哉 霜夜 正岡子規
親牛も仔牛もつけしげんげの荷 高野素十
親猫といふ本能に戻る時 稲畑廣太郎
親猫に践みつぶされし柚味噌哉 会津八一
親猫はずつしり重し冬ごもり 日野草城
親猿か子猿に呉れし木の実哉 蘇山人俳句集 羅蘇山人
親猿の赤い頭巾や叱られし 高浜虚子
親留守の間は鳴かず燕の子 堂前悦子
親疎十年交りたゆる葱の月 飯田蛇笏 山廬集
親知らず子知らず月は朧なり 瀬藤もと子
親知らず抜き大根の花月夜 宮坂静生 樹下
親竹がそよげばそよぎ今年竹 下村真砂
親竹に寄り添うて竹皮を脱ぐ 田中光峰
親竹のここまで撓う大竿灯 高澤良一 寒暑
親籠をはるか麓に茶を摘める 八染藍子
親舟にひかれてゆくも枇杷荷舟 鈴鹿野風呂 浜木綿
親舟に人集りぬ薬喰ひ 会津八一
親芋が四方に子を抱く渓日和 中井恭子
親芋はつくねんとして更に愚なり 寺田寅彦
親茎につく萱の芽のひらきけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
親蟹の子蟹誘うて穴に入る 高浜虚子
親負うて踊念佛見に行ん 踊 正岡子規
親車子車秋の水を撥ね 友岡子郷 春隣
親迎ふ雛鵜の逸り見上げけり 臼田亜浪 旅人
親里の山へ向つて御慶かな 一茶
親里は見えなくなりて秋の風 一茶 ■文政八年乙酉(六十三歳)
親里へ水は流るゝ春辺哉 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
親雀人を恐れて見せにけり 高浜虚子
親雀舞ひおりくれば子雀も 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
親雀街にユッカの幹を啄む 下村槐太 天涯
親雀誓子書屋の簷に入る 山口誓子
親雀鳥毛咥へしよろこびに 山口誓子
親離れも子離れもいまだ夕焼けて 中村明子
親離れ子ばなれ桜吹雪かな 占部詩子
親離れ子離れ沖に夏燕 福本 博
親雲雀草引く前に躍り出て 岡部芳子
親音に夏の白花黄花かな 森 澄雄
親馬のあとあしの辺を仔馬ゆく 星野立子
親馬のおとなしければ子馬また 森田峠
親馬の腰に頬寄せ子馬行く 京極杞陽
親馬の跳べば仔馬もとびにけり 大原得考
親馬の鼻は子馬の何を嗅ぐ 森田峠 逆瀬川
親馬は梳らるゝ仔馬跳び 高野素十
親馬は海霧のしづくの音にも覚め 福田甲子雄「盆地の灯」
親馬は肥えぬ仔馬は睫毛伸びし 成田千空 地霊
親馬を半周したる仔馬かな 京極杞陽
親馬を梳きて仔馬を撫でにけり 井原久子
親鯉の背丈も伸びゐぬ水澄みて 香西照雄 素心
親鳥とおもふ頭が見え燕の巣 高澤良一 ぱらりとせ
親鳥のぬくめ心地や玉子酒 玉子酒 正岡子規
親鳥の子を取られたる悲鳴かな 鳥の子 正岡子規
親鳥の巣立ち促す声しきり 高橋千枝子
親鳥の火急の羽の機械音 大橋迪代(水明)
親鳥も頼め子安の觀世音 正岡子規
親鳰の子に与ふもの水底草 高澤良一 素抱
親鴉歩み子がらすつづきけり 成瀬櫻桃子
親鴉黒衣ひろげて子と別れ 鳥越すみこ
親鴨の水尾のかばへる子鴨かな 西村和子 かりそめならず
親鴨の水輪の中の子鴨かな 早川志津子
親鹿にふり向かれ跳ぶ子鹿かな 西村和子 かりそめならず
親鹿に追ひつきたりし子鹿かな 高濱虚子
親鹿のあゆめる方へ鹿の子かな 山口波津女 良人
親鹿の岩とびこえて鳴きにけり 鹿 正岡子規
角力とりやはる〜来ぬる親の塚 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
語尾甘き親を日向に冬菫 栗林千津
講親のはたごの馬や花かづら 園女 俳諧撰集玉藻集
負角力其子の親も見て居るか 一茶 ■寛政四年壬子(三十歳)
貧の親弾初の子を持ちにけり 松根東洋城
赤い羽根胸に親ばか子ばかかな 久保田万太郎 流寓抄以後
赤子目覚め泣きそむ飛び入る親燕 香西照雄 素心
足わろき子を親鹿の先立たす 皆吉爽雨「雲板」
躑躅わけ親仔の馬が牧に来る 秋櫻子
軽鳧の子の一羽となりて親に蹤く 下田千里
軽鳧の子の親に蹤きゆく不思議なし 西村和子 かりそめならず
軽鳧の子の親の水脈よりはみださず 石橋典子
軽鳧の子の親を離るゝ水尾引いて 今井つる女
軽鳧の子の親恋ふ水を叩きけり 成瀬櫻桃子 素心
迎火や六親(りくしん)風のはるかより 西島麦南
迯る也紙魚が中にも親よ子よ 一茶
迷ひ子の親の心やすすき原 野澤羽紅女
逃るなり紙魚が中にも親よ子よ 一茶
運動会親の出番を児が伝ふ 高松勇峰
運動会親を見てより力走す 角 光雄
遠き子の形代親が息かけて 下村ひろし 西陲集
鉾を待つ窓に親威中の子よ 西村 和子
長松が親の名で来る御慶かな 野埃
雛恋ふる親のこゝろや夜の鶴 松岡青蘿
雨上るらし子雀と親雀 高木晴子 花 季
雪光や思わず在れど親の恩 寺井谷子
霞み行や二親待し小すげ笠 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
霧ふかし山の湯に親も子も裸 栗林一石路
霧笛鳴る岬や寄り合ふ親仔馬 渡会 昌広
霧笛鳴る岬や寄り立つ親仔馬 渡会昌広
顔出して頬の濃かりし親雀 石田勝彦 秋興
飛かハすやたけごゝろや親雀 蕪村 春之部 ■ 懷舊
餌を貰ふ親のうしろの鹿の子かな 岩木躑躅
首筋のふと親に似る初鏡 岩田由美 夏安
馬の子や親につれだつ摩耶参 摩耶詣 正岡子規
馬の親の子をば離さず野分かな 廣江八重櫻
鬼餅寒子は親離れ尽したり 山城久良光
魂棚の奥なつかしや親の顔 向井去来(1651-1704)
魂祭我は親より老いにけり 内藤鳴雪
鯛網を観る親舟に乗りうつる 五十嵐播水
鰯ひく親船子船夕やけぬ 石田波郷
鳥の子の飛ふ時親はなかりけり 鳥の子 正岡子規
鳥の親に中將湯や糞づまり 正岡子規
鳩の巣のひな寄り合ふて親を待つ 長谷川芳子
鳰の子が親の水輪の中にゐる 水原秋櫻子
鳰の子のおくるるに親泳ぎ寄り 中村汀女
鳰の子は親の真似してくゞりけり 鳰の子 正岡子規
鳰の親として目の前で消えて見す 吉岡翠生
鴨の子の頭並べて親を見る 本田空也
鶴の朝のぱん食みごとにつくり親 阿部完市 春日朝歌
鷭の子のもう親離れして漁る 松本圭二
鷭の子の親に連れ浮く小さよ 感来
鷭の子の親の水輪に溺れさう 藤木倶子「火を蔵す」
鷭の子の親より先に駆けて巣へ 石井とし夫
鹿の子に必ず親の目のありぬ 村木記代
鹿の子の親よりも斑をしるくゐる 森澄雄
鹿寄せの疾走親も子もあらず 八染藍子
●親御
●親心
人近く来るや雀の親心 親雀 正岡子規
子心は親心なり水中花 鈴木花蓑句集
巣つくるや憎き烏も親心 白雄
春雲やつかず離れず親心 井田富江
親ごころ傷つけしやも雨の鵙 樋笠文
親心届かぬ夜の鉦叩き 楳田幸子
●親馬鹿
袴着の孰れ親馬鹿ならざらぬ 石塚友二
親馬鹿のひとりで忙し四月馬鹿 影島智子
赤い羽根胸に親ばか子ばかかな 久保田万太郎 流寓抄以後
●親譲り
甚平や薄髭これも親譲り 石塚友二
梅日和ラツコの毛皮親ゆづり 野村喜舟
木瓜の実や仏頂面は親ゆづり 麻生順子
世渡りの下手親ゆづりなめくじら 西岡より子
●片親
まんさく咲き片親なるはふつうなり 足利屋篤
一人静友も片親育ちかな 八牧美喜子
夫婦とも片親そだち藤咲けり 成瀬桜桃子 風色
片親となりたる寒さ桑の枝 宇佐美魚目 天地存問
片親に十とせ和泉の秋茄子(親はと問はるゝに) 『定本石橋秀野句文集』
片親に育ちて悲し蕗の薹 雑草 長谷川零餘子
片親のさびしさ湧けり蜜柑吸ふ 青木敏彦
片親の不憫は胸に星迎 土田桃花
●仮親
●継父母
●里親
雁の里親帰る雁数へけり 黒田杏子 花下草上
かりがねの里親として老いゆかな 黒田杏子 花下草上
白鳥の里親となりペタル踏む 平林孝子
●父母
*えり舟通りすがりの父母の村 関戸靖子
あやめ咲きぬ父母を結びし明治の恋 赤城さかえ句集
あらたまの年金婚の父母のとし 百合山羽公 故園
いただきて父母の仏飯雁渡し 都筑智子
いつの日の父母に報恩灯取虫 大橋敦子 母子草
いつまでも父母遠し新小豆 石田波郷
いまぞ出で発つ父母の国線路が二本 野田誠
いまも未熟に父母きそふ繭の中 中村苑子
いま掃けば一握の雪父母亡し 神尾久美子 掌
かなかなやこの世に父母のきて去りし 児玉南草
かなかなや父母の香ひそむ小切れ函 加藤知世子 花寂び
この月の下故郷に父母在す 今井文和
しみじみ生きるもの父母は鱗雲 金子皆子
すいつちよや戸よりひろがる父母の闇 金箱戈止夫
すこやかに青松笠に父母のゐて 瀧澤伊代次
その裏に父母の居さうな雲の峰 山本青壷
つくし煮て師に供へ父母に供ふる 黒田杏子 花下草上
つまさきの初冬の木の葉父母在さず 阿部みどり女
とことはに黄味さす父母や神無月 三橋敏雄
とめどなき迷いに父母呼ぶ春の月 原 尚子
ひっそりとベラ棲む明るさ父母の島 坪内稔典
ひよつこりと父母の来さうな秋日和 堀 裕子
ふりむけば父母の貧しさ山すみれ 和田耕三郎
ふるさとに父母なく白い城がある 藤木清子
ふるさとの寒さの中の父母よ 五十嵐播水 播水句集
ふるさとは草が猛々しいだけの何を食つて生きて父母 橋本夢道 無禮なる妻抄
ふるさとは雪山まろし父母在らず 成瀬櫻桃子 素心
へんろ宿あの世の父母の宿のごと 大野林火
べつたらの甘かりし世も父母もなき 林翔 和紙
ほうほうと木菟呼ぶ故山に父母待つと 福田蓼汀 秋風挽歌
まなうらに父母浮かび大文字 久保田 洋子
むつまじき吾が老父母にパンジーなど 赤城さかえ
もらひ泣く父母(ぷも)の化生の白魚とも 筑紫磐井 婆伽梵
ゆうやけこやけ父母も教師も射程の中 穴井太 天籟雑唱
一つ火の照らす父母なき膝頭 岩淵喜代子 朝の椅子
七五三着付見守る父母祖父母 山田万津恵
七夕竹浄土の父母に何告げむ 堀口星眠 営巣期
万葉の珠洲の海女びと海苔とれり 父母島路幸
三月は我が生れ月父母を恋ふ 川口咲子
三椏の花のきいろや父母はなし 菖蒲あや
三界の枷や父母乗る茄子の馬 大塚亜木良
下町は父母の故郷一葉忌 伊東宏晃
世の壽命はるかに越えし父母の春 相馬遷子 雪嶺
九十の父母揃ふ屠蘇の膳 和田郁子
亀まぎれこみ父母すてし日の甦える 穴井太 穴井太集
二三日父母を見ず冬ふかむ 橋本榮治 麦生
二房の葡萄あり父母のなきこの地 原裕
二荒嶺に秋雪父母の無き故郷 加藤親夫
亡き父母にあふ日はいつぞ紫雲英咲く 堀口星眠 営巣期
亡き父母にくつろぐ秋の扇かな 中島月笠 月笠句集
亡き父母に告ぐることあり菊白し 松尾隆信
亡き父母の吐息降るかな春の雪 堀口星眠 青葉木菟
亡き父母へ湯気ほろほろと零余子飯 新井英子
亡き父母遠し生家の朧影にねる 羽部洞然
人日の雪山ちかき父母の墓 石原舟月 山鵲
今生に父母なく子なく初天神 菖蒲あや
今生に語る父母なし鳥雲に 小澤満佐子
仏壇に在す父母冬ごもり 河野静雲 閻魔
仏頂づらしてよくすねる子だと父母に憎くがられた記憶もある 橋本夢道 無礼なる妻
優曇華の家より父母の流離かな 大木あまり 山の夢
優曇華や寂と組まれし父母の梁 能村登四郎
元日の雪すこし載せ父母の墓 細川加賀 『玉虫』
元日やあらためて知る父母の齢 林昌華
元朝の障子真白く父母遠し 宮坂静生 青胡桃
全伽藍雪降れり父母未生の闇 倉橋羊村
冬ざれや父母の拠る灯がわが灯 野澤節子 黄 瀬
冬の園楽しき子等に父母あり 富安風生
冬の耕蒼き洞なり父母は 川田由美子
冬日なめらか今は父母なきたしかさよ 石塚友二 光塵
冬椿咲けり父母在り孝なさず 吉田未灰
冬耕の父母見下ろしに子が帰る 飯田龍太 童眸
冬襖父母近き安心に 橋本榮治 麦生
冬近し父母かたまりて睡るなり 阿部完市 無帽
冬野来る靴音か父母に逢う音か 長谷川かな女 牡 丹
冬青き利根の流速父母の里 猪俣千代子 堆 朱
切に濡らすわれより若き父母の墓 西東三鬼
切山椒仏の父母に味を問ふ 久保東海司
初嵐白蚊帳に透き父母が見ゆ 冨田みのる
初鴉父母とゐる畳かな 上田操
初鶏に目覚めて父母の家なりし 松本みどり
卒業し父母の菩提の僧となり 山口笙堂
卒業の少女に日射す父母の墓 服部ますみ
卒業やほとばしらせて父母批判 赤松[けい]子 白毫
厳寒のまくらがりより父母を訪ふ 細川加賀
古里に父母在す雑煮かな 五十嵐播水 播水句集
台風の真中の闇に父母座る 樟豊
吾の上父母の上雁帰る 村中[トウ]子
吾も妻も父母亡き齢真夜の雁 林翔 和紙
四十路いま叱る父母なく筒鳥聴けり 村越化石 山國抄
四間道に父母の世の風鉄線花 舟橋きみ子
土用蜆父母訪ふ朝に掬ひけり 篠田悦子
垣間見ゆ父母の涼しき夕餉の灯 冨田みのる
墓に水打てば父母近くあり 吉野義子
墓並ぶ父母妹麦青む 高野素十
声あげて父母を呼びたし秋の山 阿部みどり女 『微風』
夏大根父母の遊ぶを見て日暮 金田咲子 全身 以後
夏掛の白を揃へて父母安寝 冨田みのる
夏草のしみじみ青く父母は亡し 山下麦秋
夏菊や遺書の多くは父母讃へ 川崎慶子
夕河鹿訪ふたび淡き父母の国 江口千樹
夕顔や父母の意にそひ只の主婦 小松原みや子
外国に父母は住む娘に遅日 高木晴子 花 季
夜の蕗むく父母の墓ねむりをらむ 寺田京子
夜光虫石投げて父母遠かりき 山崎明子
夢の父母いつも働く水草生ふ 鈴木貞雄
大文字や父母在りし日の京遠く 五十嵐 櫻
天より父母地より吾見る揚花火 品川鈴子
天界の父母に火宅の茸飯 立川華子
夫と父母恵子よ庭萩切りて来ぬ 及川貞 夕焼
妻と寝て銀漢の尾に父母ゐます 鷹羽狩行
妻に父母ありて訪ふ日の百日紅 杉山岳陽 晩婚
子に合はす父母の歩幅や七五三 山崎ひさを
子の旅程北指しあかしや父母に散る 殿村莵絲子 雨 月
子供神輿とつとと行けり父母の前 奈良文夫
存命の父母を軽んず実南天 正木ゆう子 悠
寒き夜の記憶に父母の争ふを 林火
寒昴父母の息感じをり 老川敏彦
寒芹に花ありわれに父母の恩 大岳水一路
寒菊のふたもと供ふ父母の墓 稲井和代
寒菊やあの世といふに父母がゐて 細川加賀 『玉虫』
寒鴉いざや「汝の父母を蹴れ」 堀井春一郎
寝よと父母毛布に子等をつゝむ時 中村草田男
寝間二間父母なくて飛ぶ螢 柿本多映
小照の父母をあるじや明の春 渡邊水巴
小照の父母をあろじや明の春 渡辺水巴 白日
小綬鶏に呼ばれ通しや墓の父母 平井さち子 鷹日和
岩木山に雪が降れりと聞くからに父母も火に寄り寂かにあらぬ 島有道
崖上に父母の灯小さし雁のころ 堀口星眠 営巣期
巌寒のまくらがりより父母を訪ふ 細川加賀 『傷痕』
帰り来て父母なき山河暮の秋 佐藤慈童
平凡の無念が父母の後光ぞよ 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
年老いし父母をもつ身の木の葉髪 百合山羽公 故園
年賀状亡き父母の宛名欲し 増田河郎子
恋雀婚約のこと父母知らず 品川鈴子
慈悲心鳥父母なき齢重ねたる 館岡沙緻
慈悲心鳥父母恋ひの歌碑おく山路 入江朝子
懐に父母恩重経春の雁 原裕 正午
我に父母なし蜥蜴が赭土(はに)をころげ落つ 川口重美
或る日父母が居ないと思う梅花かな 永田耕衣 陸沈考
掃苔や合掌裡なる父母の聲 石塚友二
掌に父母の血が透く葉鶏頭 土井湧輔
故郷のひたすら灼ける父母の墓 山県よしゑ
故郷も父母もなき手毬唄 菖蒲あや 路 地
故郷や菊芳しく父母在す 寺田寅彦
敗走に似て枯野ゆく父母の死後 堀口星眠 営巣期
数へ日の閂ゆるき父母の家 辻美奈子
新涼や父母となる日の話など 村上あかね
新社員に制服被せ父母に逢はす 鈴木栄子
新米や国太平に父母は無事 飯原翠竹
新米や愛しむ髪膚父母在らず 河野多希女 納め髪
新米や父母すでに耕さず 広瀬邦弘
施主の父母なる人も門茶かな 雑草 長谷川零餘子
旅知らぬ父母に瓢の花ざかり 守屋光正「草衣」
旅立つや父母のこり雛の宿 成瀬正とし 星月夜
既に老父母子の茸飯の味濃きに 殿村莵絲子 雨 月
日だまりの父母の齢や蕗の薹 橋本榮治 越在
日向ぼこしてゐて父母が近かりき 大橋敦子
日輪は父母の背に在り七五三 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
早稲の香や父母に離るる日のあらむ 妹尾静子
早馬を仕立てむ父母の魂迎 岡田砂千子
明易やいつも色なき父母の夢 小島照子
星流る美しき距離父母と子の 折笠美秋
星飛んで父母亡き里の遠くなり 田中美代子
春惜しむ亡き父母の部屋そのままに 山根きぬえ
春手袋ほつれ易くて父母の無し 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
春灯や金婚の父母健やかに 山田弘子 螢川
昼の虫父母の世の戦蹟に 京極杞陽 くくたち下巻
晩年の父母あかつきの山桜 飯田龍太
暫しゐてまた木の実落つ父母の墓 草間時彦
月に啼くよしきり父母の舟あらず 貝塚放朗
月明のカーテン父母と世を隔つ 相原左義長
月祀る師あり父母亡し子孫なし 黒田杏子 花下草上
朝顔が日ごとに小さし父母訪はな 鍵和田釉子
木の葉髪落としぬ父母の仏飯に 冨田みのる
木槿咲くや畑の中の父母の墓 吉武月二郎句集
朴咲けり遠くにありて老いし父母 落合よう子
松過ぎの風ごうごうと父母の顔 藤岡筑邨
林檎のみ紅顔祖父母と父母が遺族 香西照雄 素心
柊家の簾のくらみに父母と座す 岡田史乃
柑樹色づく貧しき父母の許に帰る 橋本夢道 無禮なる妻抄
柚子煮詰む父母の遺影を並べ掛け 館岡沙緻
柿の花父母のみとなりし家 長谷川櫂 虚空
柿食うて真実父母のなかりけり 青木重行
桜ひらく山かげの墓所父母浮かぶ 大井雅人 龍岡村
桜前線父母を経て来りけり 正木ゆう子
梅さむし雲さむしとて父母の山 三田きえ子
梅林を尋常卒の父母歩む 坪内稔典
梅花とは何ぞ父母何寂しき 永田耕衣 陸沈考
梅花永らへて父母と同じき 永田耕衣 陸沈考
梅雨晴を賜びしと父母の来給へる 瀧澤伊代次
榧の実や風の遠くに父母の声 成瀬櫻桃子 素心以後
歩く子の手に父母の手やチューリップ 嶋田一歩
歯固や耳順の父母に十二孫 前川素泉
死は一瞬遺りし父母に秋幾度 福田蓼汀 秋風挽歌
残る日のひと日の紅葉父母のため 甲斐すず江
残る暑や五十の吾の父母かなし 相馬遷子 雪嶺
水うまし青苔のごと父母ありて 平北ハジム
水洟や父母の代の日暮見え 上田五千石
水霜や高階に父母移り住む 西野陽子
氷菓父母の手子の一心メリイゴウラウンド 石塚友二 方寸虚実
汗し睡る子よおき発たん父母へ笑め 平井さち子 完流
法師蝉火山灰降りつづく父母の墓 江川信子
泣きたいような清流 父母が年老いていく 川村朗生
流木に敬老の日の父母憩ふ 関森勝夫
浜昼顔父母と異なる墓にかな 古川塔子
渓に浸す挙ぐんぐん遠のく父母 桜井博道 海上
渓谷に哀号切り込む父母への斧 阿部完市 絵本の空
湯豆腐やゆらりとうかぶ父母の顔 池内 勝信
潮干狩せし父母のこと夫のこと 石田孝子
潮騒や父母なき家の燕の巣 桜井周子
火の上に餅あれば亡き父母来ます 清水径子
灯しても父母遠し十三夜 橋本恭子
灯取虫家郷に遠く父母あり 岸風三楼 往来
炎昼や法師に父母をゆだねたり 角川源義
煙茸ふいに煙りて父母の亡し 小宮山政子
煤ごもる二階の父母へ運び膳 岡田耿陽
煮凝や父母の膝下に一と日あり 加倉井秋を 『胡桃』
父母あらず到るところに冬日向 沼尻巳津子
父母あらぬ山河更けゆく木菟の声 西村 博子
父母ありし昔真桑や灯も黄いろ 森澄雄「四遠」
父母ありてこの世まつたし盆の月 上田日差子
父母いますいまの尊し牡丹の香 堀口星眠 営巣期
父母います人たれたれぞ花の春 正岡子規
父母がありて倖せ初鏡 高木晴子 晴居
父母がゐて五感するどき盆三日 つじ加代子
父母くれし黒髪乱す桜東風 大木あまり 山の夢
父母とひとつの火桶寒に入る 相生垣瓜人 微茫集
父母ともに来て霊棚のみづみづし 大石悦子 群萌
父母とゐるつかのまの鰡雲 妹尾 健
父母と吾と三人の虫の宿 成瀬正俊
父母と在りし日の牡丹目の前に 細見綾子 天然の風以後
父母と在れば娘や盆の月 今橋眞理子
父母と居て砂漠の如し去年今年 青木重行
父母と居て青柿は屋根に落つ 針ヶ谷隆一「刀身」
父母と戻る故郷ながら秋の星 中島月笠 月笠句集
父母なくて十薬の花さかりなり 影島智子
父母なくて山河美し墓参り 藤坂込め子
父母なる日月甘藍は肥ゆ内側より 磯貝碧蹄館 握手
父母にあふ夾竹桃のまた盛り 森 澄雄
父母に供へて黄菊映えにけり 今泉貞鳳
父母に便り怠り馬酔木咲く 加倉井秋を 『胡桃』
父母に書けぬ詫び状そばの花 市野沢弘子
父母に残りし信州訛十一も 野沢節子
父母に生かされてきて後の月 山口恭徳
父母に藺苗を投ぐる畦の子よ 三橋喜与志
父母に遠く節分の豆たうべけり 小林康治 四季貧窮
父母に重陽の燭奉る 香月 梅邨
父母ねむる冬なり杉の青こもり 成田千空 地霊
父母のある児に負けず蝗追ふ 長谷川かな女 雨 月
父母のうすき縁や流れ星 下田実花
父母のことのみおもふ秋のくれ 蕪村 秋之部 ■ 老懐
父母のこと岐阜提灯を吊りにけり 伊藤敬子
父母のこと憶ひゐる裸かな 乾 燕子
父母のこゑに醒めたる桜かな 加藤真吾
父母のさびしさは草花をいつぱい咲かせ 栗林一石路
父母のしきりに恋し雉子の声 芭蕉
父母のその余の墓も洗ひけり 綾部仁喜 樸簡
父母のそろひの朱椀小豆粥 三浦恒礼子
父母のたどりし恋路梅椿 成瀬正とし 星月夜
父母のなき子に花火線香買ふ 阿部小壺
父母のなき荻窪銀座秋はじめ 角川春樹
父母の亡き世に黒豆の甘く煮え 三好潤子
父母の亡き裏口開いて枯木山 飯田龍太(1920-)
父母の佇む気配花の闇 戸澤敬子
父母の何になれとやちゃんちゃんこ 善積ひろし
父母の写真の下の春炬燵 清水たず子
父母の同じ年忌や戻り寒 水越菖石
父母の在さぬ里や鳥帰る 小宮山巧
父母の在りし日のごと葭障子 手塚金魚
父母の墓ありて紅葉の山親し 加々美鏡水
父母の墓ふるさとにあり霊祭 吉武月二郎句集
父母の墓傾くままに洗ひたる 鳥井保和
父母の墓地にて探す血止草 金子常作
父母の墓抱きし山の芽吹きかな 保科美登里
父母の墓灼けぬ金銭網の目に 石橋辰之助
父母の墓炎天の真只中に 石橋辰之助
父母の墓遠く炎天に水こぼす 原コウ子
父母の声して木の実降りにけり 古内一吐
父母の夜長くおはし給ふらん 高浜虚子
父母の天長節の明治節 原岡昌女
父母の家継ぎて初富士まのあたり 麦草
父母の寒き話をきゝにけり 五十嵐播水 播水句集
父母の幼に見ゆる鬼やらひ 大槻一郎
父母の庭未明を白く馬酔木咲く 穴井太 穴井太集
父母の忌に続く妻の忌梅雨に入る 北村聖火
父母の忌の間みじかくて日々蜩 栗生純夫 科野路
父母の忌は白梅に任せけり 永田耕衣 陸沈考
父母の忌も子の忌も淡し島帰る 有川葉子
父母の忌や桃花変ハタ梅花変 永田耕衣 陸沈考
父母の杉より花粉童子かな 磯貝碧蹄館
父母の杞憂はてなく吹雪鳴る 『定本石橋秀野句文集』
父母の煤掃きに行く本願寺 松川多美枝
父母の畝美しく大根蒔く 古賀 秀女
父母の眼をまたたかせ青葉木菟 二村典子
父母の空より春日とどきけり 安達逸子
父母の老いゐたまひし炬燵かな 吉田冬葉
父母の背にいつも荷のあり露の村 筒井野光
父母の血をわたくしで閉ざすこといつかわたしが水となること 道浦母都子
父母の言葉のまろみ牡丹雪 今井山朗
父母の負債や古里の凩に村を押し出さる 橋本夢道
父母の貧しさ泛ぶ鬼灯市 鈴木鷹夫 風の祭
父母の避暑の子の荷を提げ試す 亀井糸游
父母の闇をおそるる帰省かな 橋本榮治 麦生
父母の闇を残して切子吊る 小林康治 『潺湲集』
父母の霊移して秋の仮寓かな 吉武月二郎句集
父母の音階下にありて年暮るる 岡田史乃
父母の香の肌ひとり見て温泉の冬 渡邊水巴 富士
父母の齢越えて生かさる花木槿 岩堀甫有子
父母は海へ出ており寝冷えの子 寺井谷子
父母は目出度きことに炉火にあり 前田普羅 春寒浅間山
父母は稲刈すらん討論す 清水友三
父母へとうすみ蜻蛉しぶくかな 本田ひとみ
父母もてばふるさとに着ぶくれてゐる冬 シヤツと雑草 栗林一石路
父母も夫も在はすお寺や枇杷の花 龍胆 長谷川かな女
父母も疾くまいりませほうたる来い 清水静子
父母やよりそひ寒夜乳をのます 下村槐太 光背
父母や掌重りのせし仏手柑 森澄雄
父母や杉の秀に水たどりつく 徳弘純 非望
父母や椎樫の冬チカチカす 森澄雄
父母や青杉の幹かくれあふ 三橋敏雄 眞神
父母よりのこの家風鈴よく鳴つて きくちつねこ
父母よりも日焼子はいま友恋へり 宍戸富美子
父母よりも生き永らへて夏越しかな 平井梢
父母よりも長命たまひ秋彼岸 上田朴月
父母より長き髪寒泳の立泳ぎ 藤井照久
父母よわれすでに八十門火焚く 新井 英子
父母よ柚子湯の上の燈が暗し 鈴木鷹夫 春の門
父母よ風にふくらむ吊し雛 吉田悦花
父母ら秋夕焼にまぎれこむ 松澤昭 麓入
父母ら行方不明の墓参り 京極杞陽
父母わかき日の七夕にわれ生る 中戸川朝人 残心
父母を乗せきしきしきしむ茄子の馬 岸本マチ子
父母を呼ぶごとく夕鵙墓に揺れ 龍太
父母を弑す冬の芒に逢ふために 齋藤愼爾
父母を忘れて暮らす栗の花 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
父母を恋ふ翼燈銀河に溺る夜は 齊藤美規
父母を知る人も減りたるどんどかな 青木重行
父母を経て来たりしか風花は 齋藤愼爾
父母を褒めて訣れる椿の夜 和知喜八 同齢
父母を辞して書窓の柳かな 会津八一
父母亡くて何ぞ故郷やつくつくし 池田弥寿
父母伯母天人といておかしがる 阿部完市 春日朝歌
父母住む灯涼しと仰ぐ子の新居 山田弘子 こぶし坂
父母佛の歎喜にうまれ百千鳥 高橋 睦郎
父母健やか雨瓜の花も日々を大 大串 章
父母在さずこの指に止まれ糸とんぼ 磯貝碧蹄館
父母在さば百越えをらむ除夜の鐘 那須乙郎
父母在す世を包み居り福寿草 中島月笠 月笠句集
父母在せば枳殻の実の数知れず 石田波郷
父母妻子串柿のごと竝びけり 串柿 正岡子規
父母守りて吾らまた老ゆ鳥雲に 冨田みのる
父母恩重経口あけて燕の子 佐々木菁子「千眼」
父母所生(ふもしょじやう)一家甚だ氷柱垂る 三橋敏雄 まぼろしの鱶
父母揃ふこの家河鹿の澄みわたり 阿部みどり女
父母既になくて頼みし椎夏木 中村草田男
父母昇天つららを垂らし早寝の戸 細谷源二 砂金帯
父母晩年暾のいっぱいにある石榴 新井博
父母晩年雪まぼろしの刻と降る 深谷雄大
父母未生の期懐ひをり蜥蜴の尾 篠田悌二郎
父母未生以前大いに霞みたり 関口比良男
父母未生以前青葱の夢のいろ 中村苑子
父母来ては一泊二泊鉄線花 赤松[けい]子 白毫
父母棲ます家なり雪に埋もれて 阿部完市 無帽
父母消えてひろきこの世の氷かな 本庄登志彦
父母生きて在るが尊き終戦日 大内史現
父母祖父母仏を刺殺にくる蝶か 齋藤愼爾
父母老いて朝餉静かや庭桜 高濱年尾 年尾句集
父母老いて木犀の香にこもり住む 渡会 昌広
父母老いぬ殻うす光りかたつむり 鍵和田釉子
父母老いゆく島の早蕨みな斜め 白石司子
父母送り届けて帰る土用あい 斉藤史子(白露)
父母逝きてくれなゐうすき冬牡丹 杉本寛
父母連れて少年スキー行にあり 松村蒼石 雁
父母遠し朝餉にきざむ瓜の音 小山えりか
父母遥かわれも遥かや春の海 中村苑子
犬垣に父母凭れたる時の記念日 攝津幸彦 鹿々集
狐火のみづみづしきは父母の山 黒田杏子 花下草上
猟銃音父母の墓山その裏山 杉本寛
琉歌なる父母の歌垣機始め 安里青蛙
産みに来て父母の膝下に端居かな 金丸鐵蕉「千波」
田螺鳴く父母亡きわれの誕生日 那須 乙郎
異教徒として父母の墓洗ふ 景山筍吉
痩せし父母授受す五月の湯気と童児 香西照雄 対話
癌を病み父母なきを謝す秋の暮 中嶋秀子
白れんの花の吹雪よ父母は老ゆ 小檜山繁子
白山が照り元日の父母の墓 細川加賀 『玉虫』
白木蓮の燭金婚の父母のゐる 橋本榮治 麦生
白玉や父母濡れて着きにけり 佐藤幸寿
百合の香や誓ひのキスを父母の前 奈良文夫
盆の月父母の御魂を迎ふべく 川口咲子
盆の雨ほとけの父母と暮らしけり 西嶋あさ子
盆僧の話の父母に笑ひけり 青山 丈
眠る山裾の谷倉に父母の墓 高木晴子
短日の父母の辺に咳隠すなし 細川加賀 『傷痕』
破魔矢の鈴師の星父母の星呼べり 奈良文夫
祖父母父母鉄道草が立つてゐる 折井紀衣
秋の風故山に父母をゆだね去る 大串章
秋刀魚焼く卓袱台に父母ありし日よ 岡野美代子
秋川の音のかなたに父母います 金子兜太
秋思やがて父母を恋ひをりにけり 蝉之助
秋晴や父母なきことにおどろきぬ 内田美紗 浦島草
秋澄むや問診に亡き父母のこと 中原昭子
秋灯下一学徒夫に父母在さぬ 平井さち子 完流
稲の香や父母ありし日の山と川 石塚友二
穀象や父母に諍ひありし晩 栗原利代子
空仰ぎて父母を忘れし夜涼かな 中島月笠 月笠句集
空蝉や日昏れてとほき父母のくに 平田繭子
簀戸いれて父母亡き座敷ただ広く 篠塚しげる
紋章のごと父母疲れ夕焼ける 阿部完市「絵本の空」
紙を漉くにおい草木に父母埋まり 井沢子光
紫蘇の穂や父母在ることのつねひごろ 神戸由紀子
緑蔭に毛沢東の父母の墓 日原傳
緑蔭の濃みどり未生以前の父母 松井利彦
繭売となり父母に会ひにゆく 井上弘美(俳句研究年鑑)
繭売りとなり父母に会ひにゆく 井上弘美
繭玉のむかしは父母もをられけり 小檜山繁子
美しく日焼けて父母に抗へり 庵 達雄
美作の父母の墓辺も鮎の頃 光信春草
義士祭や若死したる父母思ふ 山形 理
羽後湯沢闇に父母絵灯籠 高嶋藤之助
老いし父母菜漬くる聲をたかぶらせ 相馬遷子 雪嶺
老い父母に間遠に昏れる秋の声 落合よう子
老父母の三寒四温に従ひて 田中房子
老父母はまた老夫婦梅漬くる 百合山羽公 故園
耕して耕して父母消えにけり 清水志郎
聲あげて父母を呼びたし秋の山 阿部みどり女
脂浮く水甕の水祈る父母(ふも) 夏石番矢 猟常記
脚光浴びざる父母にも日月茄子の馬 磯貝碧蹄館 握手
花を過ぎ父母を過ぎなみまくら 前田圭衛子
花嫁の花びら父母に薔薇捧ぐ 和知喜八 同齢
花苔に父母おはす墓となりし 長谷川かな女 雨 月
芹の水父母淡くなりにけり 横山奈生子
苧殻焚く父母在りし日は父母が焚きし 直井烏生
茄子の花知命を過ぎて父母を持つ 相馬遷子 雪嶺
茶立虫四方より湧ける父母の塚 北榧微笑
草牡丹沼見えてゐる父母の墓 山田美保
菜飯炊き銃後守る父母はげまして 小原菁々子
落花濃し三滝のお山父母恋へば 中村汀女
葉桜のころの父母家にゐる 岡本 高明
葉桜や父母なきあとのひとり旅 新井英子
葉牡丹や隣人として父母の住む 河合澄子
蓑虫の其父母よりも鳴くなめり 蓑虫 正岡子規
蓬を語ればいつか父母のこと 西村三重子
蓼紅しそよぎて父母は遥かな 石田波郷
蔓に見し父母芋を掘りたまふ 坂照雄
蕎麦掻や父母に遅れしのみの孝 斎藤四郎
薺打来世も父母を父母とせむ 渡邊千枝子
薺粥六十路を父母は赭顔に 大熊輝一 土の香
藷掘る野父母に戦中ながかりき 鍵和田[ゆう]子 未来図
虎落笛また父母の墓にきぬ 三宅句生
虫の夜や父母早寝吾読書 成瀬正とし 星月夜
蚊を打ちてふる里の夜を父母とあり 山田弘子 初期作品
蚊遣火や父母にそむきし恋も古り 横山柳汀
蝉も来ぬ父母の墓洗ふなり 石田あき子 見舞籠
蝙蝠の生れて別るる父母の町 飴山實 『おりいぶ』
螢草老父母に金遣はしつ 永田耕衣 奪鈔
話したき父母を措いて出て虫に鳴かれをる シヤツと雑草 栗林一石路
読み初めの漂うて父母てふ語 殿村莵絲子 雨 月
走馬灯父母を乗せれば動きだす 相原左義長「地金」
身をゆする蛙の夜汽車父母を残し 大井雅人 龍岡村
辿る世の父母来て露の墓洗ふ 及川貞 榧の實
送り火や帰りたがらぬ父母帰す 森澄雄 四遠
逃水のさきに父母そして兄 加藤朱
逆縁の喪に服す父母梅真白 杉本寛
逝く年の眠り貪り父母老いぬ 藤田美代子
遅桜須磨に父母住み古りぬ 五十嵐哲也
遊び場が展がる父母が稲を刈り 品川鈴子
遠い父母こたつやぐらの骨熱し 大井雅人 龍岡村
遠富士の初雪父母の墓洗ふ 依田由基人
遠嶺星涼し父母ゐる昂りに 鍵和田[ゆう]子 未来図
遥かに秋声父母として泣く父母の前 中村草田男
遺父母には甘すぎる湯気栗の飯 香西照雄 素心
野に老いし父母よ勤労感謝の日 石井飛大男
野の果に亡き父母が佇つ袋掛 成瀬櫻桃子 素心以後
野菊摘み来世は父母に甘えたき 菖蒲あや あ や
銀漢の下に父母なき山河あり 深川正一郎
鏡餅のあたりを寒く父母の家 林 朋子
長姉吾に父母の絆や木の葉髪 大橋敦子 手 鞠
長持に父母の枕の棲む野分 島みえ
門火焚く父母より友の面輪かな 石川桂郎 四温
降り囲む晩夏の雨の父母が墓 石塚友二
降る雪や父母を子が持つ日曜日 林翔 和紙
陶枕につづく山河に父母のあり 柴田佐知子
陽炎や父母の墓域の下に住み 堀口星眠 営巣期
雁渡し富士を遠見に父母の墓 岩下ただを
雑煮食ぶわが父母はいのちなが 岡本多可志
雑魚寝して父母なき里の明け易し 池田律夫
離れ住む父母にビデオ七五三 浅見咲香衣
雪となり父母天降りくる誕生日 品川鈴子
雪便り届けば父母の墓おもふ 山田弘子 こぶし坂以後
雪夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び 加藤秋邨 起伏
雪来ぬと父母眠ります墓にもかも 石塚友二 光塵
雪童女雪にまろびて父母もなし 小林康治 四季貧窮
雪虫を払う眼前父母の土地 村田治男
雪霏々と父母なきのちも里は里 栗生純夫 科野路
雲の峯もう父母の居ぬ四国 品川鈴子
電灯が消えて晩夏の父母うごく 仁平勝 東京物語
霍乱の旅来て坐る父母の前 澤木欣一
霜の墓洗ふ父母より顔を知らず 原田種茅 径
霜夜子は泣く父母よりはるかなるものを呼び 加藤楸邨(1905-93)
霧の村石を投(ほ)うらば父母散らん 金子兜太 蜿蜿
露けさの茶山のまろさ父母を抱け 村越化石 山國抄
露けしや父母訪ふ金をまた貯めむ 石田波郷
露はしるむしろ必死は父母の瞳に 桜井博道 海上
青田雨亡き父母来るによきところ 大峯あきら 鳥道
青蜜柑食ひ父母とまた別れたり 石田波郷
青饅やいつときを濃く父母とゐる 里見美季
高山にまた父母の部屋初日さす 相馬遷子 雪嶺
鬼灯をつまぐり父母に拠るながし 野澤節子 黄 瀬
魂迎へ父母に供へし井戸の水 小林 馨
鮎食べて父母の山河をまだ訪はず 関戸靖子
鰤雑煮父母の故郷に縁なしや 茘枝
鴬餅父母の知らざる世をば生く 村越化石
齢とらぬ父母の遺影に栗おこは 上沖文男
いつしかに遠きちちはは萩の花 深見けん二 日月
ちちははを一つの石に団扇風 宇佐美魚目「草心」
ちちははを吹く秋風も塩なりき 桑原三郎 春亂
ちちははを容れ冬霧の軋みだす 山口 剛
ちちははを思へと涅槃し給へる 細川加賀 『玉虫』
ちちははを水鉄砲の的に呼ぶ 井沢正江
ちちはは経て半纏となるを重ね着ぬ 茂里正治
ちちはは逝き高き梁から来たる夏 大峯あきら
刈田焼く煙ちちはは隠しけり 金箱戈止夫
地蔵盆ちちはは山になりたまふ 熊谷愛子
夜祭の秋父ちちはは魍魎も 矢島渚男
天の川ちちはは遠し遠忌年 長谷川己代治
妻に未だちちはは在す桜餅 伊東宏晃
山茶花やちちはは忌日同じうし 河野南畦 湖の森
良夜帰るちちはは眠りたる家に 伊丹三樹彦 人中
蝉時雨ちちはは恋し死ぬるまで 中村昭子
貝雛ちちはは離々とありにけり 岩城久治
鬼ぼうふらの天井ちちはは脱れえず 野呂田稔
●名付け親
名付親喪ひ龍の玉探す 細川加賀
名付親の墓に詣でぬ落花踏む 細川加賀 生身魂
●二親
夫に吾に二親ありぬ今年麦 柳澤和子
霞み行や二親待し小すげ笠 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
●継親
●養親
●養父母
●両親
きりぎりす入れ歯はずして両親は 坪内稔典
さびしい両親盥の中に馬はいず 津沢マサ子 華蝕の海
両親に少し離れてソーダ水 高橋悦男
果てしなき熱砂に両親揃わぬ子 対馬康子 吾亦紅
●老親
老親を亡くして盆の藺坐布団 百合山羽公 寒雁