●靴●革靴●ズック靴●紳士靴●婦人靴●運動靴●スニーカー●ベビーシューズ●ハイヒール●ローヒール●パンプス●長靴●ブーツ●下駄●サンダル●草履●地下足袋●バレーシューズ●スリッパ●木靴●靴屋●靴●革靴●ズック靴●紳士靴●婦人靴●運動靴●スニーカー●ベビーシューズ●ハイヒール●ローヒール●パンプス●長靴●ブーツ●下駄●サンダル●草履●地下足袋●バレーシューズ●スリッパ●木靴●靴屋
●靴 
編みシューズ落葉の匂ひかきたてて 高澤良一 燕音
銀杏散るバスケット・シューズ下駄箱に 鈴木栄子
いさかひて夫の白靴まで憎し 堀恭子
お見合の子に白靴を揃へやる 毛塚静枝
くらがりの白靴いつまでも歩く 岸田稚魚
ふりむかぬための白靴履きにけり 中井恭子
まさに無職たり白靴にてステッキ 加倉井秋を 午後の窓
やや尖る白靴妻はヴァチカンヘ 林翔
よく遊びたる白靴を仕舞ひけり 白根純子
わが耳にわが白靴の歩のゆびく 柴田白葉女
わぎもこの小さき白靴夏は来ぬ 岸風三楼 往来
シュトラウス聴いて白靴履きぞめに 村上 光子
スパニール背低し白靴にて愛す 内藤吐天 鳴海抄
パリー祭白靴巌の上に脱ぎ 岸風三樓
メトロから白靴が下り犬が蹤き 須川洋子
リハビリの白靴をもて母立たす 三田逃水
九十九里浜に白靴提げて立つ 西東三鬼「夜の桃」
京子忌の脱ぎし白靴揃へけり 猪俣千代子
債鬼の間駈け白靴の減りざまよ 楠本憲吉
光緒年間諸葛菜と白靴といつぱい 阿部完市 軽のやまめ
四十路も佳し白靴しろく夜を帰る 赤城さかえ
土曜日の白靴を抱き麻工女 西本一都 景色
夏果の白靴濁る漂白感 小堤香珠
山の戸や古白靴ももののかず 飯田蛇笏 山廬集
山駕籠に乗る白靴の脱がれけり 野村喜舟
彫刻展出て白靴の先とがる 上田日差子「忘南」
恐山巡りの白靴戞々と 高澤良一 随笑
息しづめ白靴の歩を揃へ行く 内藤吐天 鳴海抄
捨て薔薇に白靴が来るきつと踏む 鈴木鷹夫 千年
文学の果の白靴並べ干す 飯田龍太「童眸」
新しき白靴しかと始発駅 田上久枝
新しき白靴阿蘇の野におろす 高橋満子(湾)
暑に負けて白靴の白日々たもつ 林翔 和紙
森醒ましゆく白靴の少女たち 福永耕二
浜木綿に集ふ白靴師と逢ふや 勝亦年男 『枠場』
熱砂ゆくなほ白靴を捨てきれず 野澤節子 花 季
白紐のようなるみちを白鞠白靴 阿部完市 春日朝歌
白靴で行くユトリ口の坂の路地 松本澄江(風の道)
白靴にはきかへて行く夢二展 今岡直孝
白靴に信濃古径の土少し 加藤耕子
白靴に場の睡蓮夕焼けぬ 飯田蛇笏 霊芝
白靴に岩礁はしる潮耀りぬ 飯田蛇笏
白靴に干藻がからむせむもなし 佐野まもる 海郷
白靴に急に雨降り急に照り 嶋田摩耶子
白靴に明月院の泥すこし 大屋達治 龍宮
白靴に朝焼けのして蘇鉄園 飯田蛇笏 霊芝
白靴に照る洋上の広い道 杉野一博
白靴に男の過去は匂はざる 行方克巳
白靴に踏む浜砂の曇りたる 内藤吐天 鳴海抄
白靴に過ぎし日の甦へる町 山田弘子 螢川
白靴のなんとなくまだ身にそはず 稲畑汀子
白靴のよごれなぞりし指はどれ 仙田洋子 橋のあなたに
白靴のよごれにけふの旅了る 塚原 夜潮
白靴のマンハツタンに出かけたる 鈴木しげを
白靴の一団お釜を覗き見に 高澤良一 素抱
白靴の中なる金の文字が見ゆ 波多野爽波 鋪道の花
白靴の二三歩拾ひあるきして 佐山文子
白靴の先突堤の端に出す 池田秀水
白靴の埃停年前方より来 文挟夫佐恵 黄 瀬
白靴の小さい方が母のもの 黒川悦子
白靴の平均点の子供達 横山香代子(街)
白靴の弾んでくれぬ旅の雨 稲畑汀子 汀子第二句集
白靴の旅に赤道通過証 小河きよ子(ホトトギス)
白靴の来し方行方揃えけり 徳弘純 麦のほとり 以後
白靴の歩みそろひし修道女 田島魚十
白靴の汚れが見ゆる疲れかな 青木月斗
白靴の汚れ通ひの看取妻 鈴木 子
白靴の淡き光に咳くひとり 赤尾兜子
白靴の爪先海へ向けて脱ぐ 猿橋統流子
白靴の男出て来ぬ司祭館 星野麥丘人
白靴の疵わかき日のきずに似る 平栄子(波)
白靴の踏まれ〜ていさぎよき 佐野青陽人
白靴の軽きに峠二つ越え 西浦幸男
白靴の長襦彦や耳順過ぎ 浜明史「人日」
白靴の降りくる客船ターミナル 高澤良一 素抱
白靴の音なき午後をペルシヤまで 和田悟朗「山壊史」
白靴の高さを若き躬に加ふ 池田秀水
白靴は今底抜けの遊びやう 大越 晶
白靴まで少女全容鏡に満つ 大串章
白靴もほつほつ花もほつほつと 阿部みどり女
白靴もパリーの雨に似合ふもの 高木晴子 花 季
白靴も混じりて従兄弟はとこかな 阿部静雄
白靴やひとっとびできさうな島 武知陸子
白靴やサティのワルツを唇に 仙田洋子 雲は王冠
白靴や少女大人びやすきこと 藤松遊子
白靴や忘れて生きること多き 西村和子 かりそめならず
白靴や手鏡を出す峠口 増子 京
白靴や移民送りにうち踏まれ 五十嵐播水 埠頭
白靴や葬儀屋主人戻リをり 深見けん二
白靴や街の活気に立ち交じる 大津信子(風花)
白靴や見知らぬ闇を降りてゆく 横山節哉
白靴や連絡船のタラップを 田中冬二 麦ほこり
白靴や鍾乳洞を出るところ 森田峠 避暑散歩
白靴をあくまで白く北国へ 山田弘子 螢川
白靴をはいてしばらくポルカの中 折井紀衣
白靴をはいて刑事と思はれず 松岡ひでたか
白靴を宙に浮かしぬ逆上り 佐藤善也
白靴を少し汚しておろしけり 三浦恭
白靴を履いてたちまち裕次郎 汐月ゆたか
白靴を穿いて歩きしアメリカよ 京極杞陽 くくたち上巻
白靴を穿くためらひの今もあり 能村登四郎
白靴を翼代はりに履いてゆく 仙田洋子 雲は王冠
白靴を脱ぐ瑞巌寺昼ふかく 加藤耕子
白靴を脱げばハワイの砂こぼる 佐伯哲草
白靴を買ひ旅支度整ひぬ 矢嶋淳子
白靴を踏まれしほどの一些事か 安住敦「暦日抄」
白靴買ふ乏しき金を数へ買ふ 石田あき子 見舞籠
真ッ直に来てくちばしのやうな白靴 吉見春子
紋白蝶ほどの汚れの白靴に 耕二
経験の多さうな白靴だこと 櫂未知子 蒙古斑以後
船長の白靴海を往来して 津田清子
草千里白靴の子を放ちやる 福永耕二
虚子庵の沓脱ぎ石に白靴を 高澤良一 燕音
跫音のなき白靴を選びけり 内田美紗 浦島草
車より白靴すつと出て銀座 広渡詩乃
車椅子白靴汚すことなきも 舩田千恵康
遠目にも白靴歌劇場に入る 後藤比奈夫 めんない千鳥
黴を干す古白靴をいたみけり 西島麦南 人音
キヤツサバ林軍靴を照らす火の果てに 金子兜太 少年/生長
三月菜にがし軍靴は空耳か 鈴木ふさえ
優曇華や軍靴のリズム天を刺す 仙田洋子 橋のあなたに
占守島軍靴戛々赤黄男の忌 田中 満
夜もなほ海月と軍靴ただよへり 有馬朗人 母国
婀娜をつれ軍靴をはきて夜寒かな 飯田蛇笏 雪峡
我講議軍靴の音にたたかれたり 井上白文地
才蔵が履きてあはれの古軍靴 北野民夫
春愁や生ある限り軍靴胼胝 小見山希覯子
春蘭の花茎ゆらし軍靴くる 松浦敬親
溶暗の消ししもの日盛りの軍靴 田川飛旅子
落葉 朽葉 落葉 朽葉 軍靴 軍靴 木寺和實
葱華輦(そうかれん)担がれざっくざっく軍靴のおと 日下部正治
西行忌形のこりて軍靴あり 佐野まもる
訪ねあぐめる炎天の靴軍靴のごと 波多野蟻杖 『風祭』
軍靴はもう鳴らぬ砂利道破魔矢買ふ 佐々木英子
軍靴ら来て蘆生の雲雀絶えにけり 高柳重信
軍靴古りほとんどを占め初句会 永井龍男
軍靴地下足袋ホームへたたく冬の泥 古沢太穂 古沢太穂句集
軍靴過ぐ響を秋の音とせり 文挟夫佐恵 黄 瀬
雪にむかし軍靴の響き寒雀 齋藤愼爾
雪幽くつのりて軍靴湧くごとし 飯田蛇笏
霜柱踏めば軍靴の音うまれ 田中矢須彦
霜柱踏めば軍靴の音すなり 篠原 飄
青峠むかし軍靴と鶏の足 栗林千津
音のなき軍靴の列や蝉しぐれ 小野 伶
あかんぼにはや踏青の靴履かす 飴山實
あたたかや子の靴の砂はたき出し 小島健 木の実
あらあら黴下駄箱の靴掻い出して 高澤良一 素抱
あるきつつ靴の底ひに足は凍つ 長谷川素逝 砲車
いが栗踏みつぶす兵隊靴の空が青い 人間を彫る 大橋裸木
いなびかりこれはこれはと靴を脱ぐ 永末恵子
うかうかと黴にとられし夫の靴 和田祥子
うなだれて靴修理屋の扇風機 今村妙子
うららかや指もて計る幼靴 国井美代
うりずんや療養明けの靴磨き 平丘由香
おのがうちに靴音を積み雪の館 宮坂静生 山開
おん靴の音まぢかくて花散りぬ 及川貞 夕焼
お茶席へ草虱つく靴を脱ぎ 半田陽生
かじかみし手を尻に敷き靴みがき 北野民夫
かたくりの花山靴は行くばかり 野沢節子
かの旗を靴もて春泥にふみにじらんか 長谷川素逝 砲車
かまへつつ猟人の靴地をゑぐる 菅原鬨也
きさらぎの潮音なれ靴の紐むすぶ 北原白秋
ぎつしりと並ぶ黒靴虚子忌なり 奥坂まや
げんげ田に誰からとなく靴を脱ぐ 太田土男
ここ勿来靴の先まで夕焼垂り 高井北杜
ことの外遺品の中の靴に黴 藤浦昭代
こどもの日小さくなりし靴いくつ 林翔
こまくさに誰か憩ひし靴の跡 三嶋隆英「鞭木」
ごつたがえす雪靴雪下駄わが喪なり 寺田京子 日の鷹
さまざまな枯葉踏み来し靴を脱ぐ 神長裕子
しぐれの跡泥の靴あと吾子病むや 古沢太穂 古沢太穂句集
すずかけの風に少女の刺繍靴 影島智子
すりへりし靴裏のはるかな上を雁わたる 橋本夢道 無礼なる妻
たま来ると夜半の焚火を靴で消す 長谷川素逝 砲車
つくしの粉あをしとおもふ靴の先 有風
てのひらに乗るほどの靴芝青む 田中美月
とんがりの靴に回りて飛び鯊(トントンミー) 山内君南風
どた靴で踏めば破けて埃茸 高澤良一 寒暑
どの靴も苦しきかたち蝉しぐれ 森沢 程
どんどんやぬかるみを来し靴ばかり ふけとしこ 真鍮
なつく児に靴かくさるる小正月 浜田みずき 『石蕗の花』
なまぐさき風の噴水靴に傷 小島千架子
はきなれしヴェニスの靴に黴すこし 皆吉司
はく息の霧より白し靴固し 原田種茅 径
はたはたも靴すべる草もつややかに 内藤吐天 鳴海抄
はたはたも靴の埃もたのしけれ 石田波郷
ひぐらしの駅に駅夫の靴の音 昭彦
ひとしきり雪降る川の破れ靴 中拓夫 愛鷹
ひるね児のぐにやぐにや足に靴はかす 品川鈴子
ひゞくものたゞ凍てきりし靴音のみ 河合凱夫 藤の実
ふらここの靴をとばしてしまいけり 岡島幾子
へなへなと土間にくずれし田植靴 日高寛史
ぺしやんこの靴に勤労感謝の日 杉浦一枝
まだ冬の桜並木に靴ひからす 横山白虹
みかんと靴ぬくみ中学生下校 斉藤夏風
みごもりて夏靴ゆるむ灸師の娘 宮武寒々 朱卓
みの蟲や靴はをかしき神輿寄(桂離宮) 石川桂郎
みんなきようの泥靴でだまりこくつている 栗林一石路
みんな今日の泥靴でだまりこくつてゐる シヤツと雑草 栗林一石路
もう何処へも行かぬ黒靴西東忌 岡 典子
やつと学校へ行けるわが子の背たけもちさく靴を穿いてゆく 橋本夢道 無禮なる妻抄
ゆく春や下駄箱にある亡妻の靴 荒巻大愚
ゆふざくら堂の靴音出で来る 山口波津女 良人
ゆるい靴長鳴鳥を鳴かしめよ 永末恵子 留守
よき落葉道ありて靴埋めたる 細見綾子 黄 炎
よく育つ稲田に深き靴のあと 澤内ゆき子
わか草を踏み来し靴な並びゐる 林原耒井 蜩
わが靴はガリバーの如く土筆ふむ 加藤知世子 黄 炎
わが靴音おもし梵鐘に烏鳴き 河合凱夫 藤の実
われ農や年始疲れは靴からくる 大熊輝一 土の香
アパートの靴音おもき梅雨に入り 藤後左右
ウインドに落葉のやうに靴ちりばめ 西村和子 夏帽子
エジプトヘ跣足に靴で旅立てり 都筑智子
ガスの夜の街 知性の 靴音であるく 吉岡禅寺洞
ガード下から春があかるすぎる靴みがき 栗林一石路
クリスマスらしくほほ笑み靴みがき 成瀬正とし 星月夜
ザビエルの布教の靴よつづれさせ 辻村勅代
シャガールを見に春装の靴青し 西村和子 かりそめならず
スキー靴ぬがずにおそき昼餐とる 橋本多佳子
スキー靴履いて船歌おもひだす 岩淵喜代子 朝の椅子
スキー靴脱ぎて自由な足となる 千原草之
スキー靴買ふ目的のアルバイト 山田弘子 螢川
スケートの靴が木椅子に夜の湖畔 根岸 善雄
スケートの靴に乗りたる青春よ 稲畑汀子
スケート靴肩にさばさば一浪す 富田美和
ストーヴに濡れたる靴の裏をあぶる 暖炉 正岡子規
ズック靴土いろにしみ冬の前 古沢太穂 古沢太穂句集
セザンヌと林檎のごと一生君も釘打て靴に 橋本夢道 無禮なる妻抄
セーヌ流れわが靴音に落葉降る 深見けん二
チャツプリンの靴が片方秋の海 磯貝碧蹄館
バッグより白兎のごときスキー靴 奈良文夫
バレンタインデーいつもの黒き靴穿いて 今泉貞鳳
バレンタインデー片減り靴を磨きあぐ 横山左和子
パリー祭靴直し屋の蝶ネクタイ 毛塚静枝
ヒロシマを歩いた靴ずれを愛している 田中陽
フランスの落葉踏みたる靴穿いて 永井良
ベビー靴の子を福藁に抱きおろす 俵土紀子
ペンキ屋の靴って重たい色を被り 関戸美智子
ボスに對う意志の黒靴足裏濡れ 鈴木六林男
ボートにて細き靴脱ぎ愉しさ増す 蒲田陵塢
マラルメの靴音を恋ふ枕木よ 荻原久美子
ヤゴを獲る少年の靴川上に 半沢つや子
リユック緊め靴の紐緊め火口去る 津田清子 礼 拝
一列に片かげにをり靴磨き 上野泰 佐介
七五三袴に靴の男の子振り 戸村美智子
七夕の雨にピエロのふくれ靴 飯野弥生
七輪に炭火熾して靴磨き 添野光子
三ケ日喜怒哀楽の靴並び 室山花子
三月の土間に大きな山の靴 成田千空
三浦綾子展雪靴の人ばかり 勝又星津女
三足の靴履きつぶし竜天に 波戸部のばら
三鬼忌や靴の尖もて芝突つく 藤田湘子 てんてん
上元や靴むらさきに帰化夫人 中尾杏子
下萌や駆け出しさうに靴干さる 来栖早殳子
下駄箱の靴みな干され雲の秋 嶋田麻紀
人も世も疑はず来て靴白し 渡邊千枝子(馬酔木)
仁王履く程の靴干し秋高し 吉村絹子
仏生会靴にもぐらの泥つけて 加藤和子
仕事靴履くや春暁の窓にのせ 米沢吾亦紅 童顔
他人の靴切に磨けり一茶の忌 佐野まもる
仙台虫喰巨き靴置く司祭館 岩城のり子
仲見世に軽き靴買ふ十三夜 都筑智子
会議のこえごえ梅雨の泥靴わけ入る時 赤城さかえ句集
佳き日か車中靴に毛糸玉ころげ来て 川口重美
使わない靴べらを吊り巴里祭 横田純子
僧形の靴きさらぎを翔びて去る 松村蒼石
優曇華や夫の遺せし山の靴 堀田恵美子
兄の忌を修すかまきり靴に入り 石脇みはる
兄の靴提げて従ふ目高採り 大石昌代 『清見潟』
兄弟の年貢納やゴムの靴 相島虚吼
兵われは靴カツカツと甲板に 片山桃史 北方兵團
其角忌やこの橋詰も靴磨き 菅裸馬
冒険小説読んでる冬の靴みがき 北野民夫
冬の虹かかるを知らず靴磨き 山崎ひさを
冬州にひかり仕事のとき穿く靴を穿く 磯貝碧蹄館 握手
冬浅き靴の埃を払ひけり 川崎展宏
冬深し脱ぎすてし靴の朝は穿く 瀧春一 菜園
冬野来る靴音か父母に逢う音か 長谷川かな女 牡 丹
冬靴のべこんべこんと不安な世 寺田京子
冬靴の飛機雲上に放たれし 寺田京子 日の鷹
冬靴を曳き行き妻も夕焼くる 金箱戈止夫
冴返る花壇の端に靴のあと 岡本眸
凍ゴム靴穿けど女の小刻みに 鈴木真砂女 夕螢
凍瀧に靴の十指に力あり 大石悦子 聞香
凍靴に足突つ込んで父亡きなり 藤田湘子 てんてん
凶作の靴脱ぎ石に及びけり 森田智子
出たがりの靴を磨いてたんぽぽ野 星野和子
出てゆくや万歳の靴泥あげて 臼田亜浪 旅人
出勤の靴結ふ日ざし日日草 鶴間まさし
初夢に硝子の靴をはいてみし 朝倉和江
初旅の靴の紐締む詩碑の前 山口超心鬼
初秋の土ふむ靴のうす埃 杉田久女
初蝶に逢ひし日軽き靴を買ふ 大村フサエ
初雪や異人ばかりの靴の跡 初雪 正岡子規
初雪や靴門内に入るべからず 初雪 正岡子規
初霜に靴濡らし行く一の谷 木村八重
初鶏や子連れの旅の靴履けば 皆川白陀
十二月八日でありし靴を履く 川崎展宏
十二月八日靴音消ゆる壁 寺井 治
半夏生あすへの靴を磨きをり 萩原きしの
卒業の大靴ずかと青荒地 西東三鬼
南風に龍馬舶来ものの靴を履き 高澤良一 寒暑
卯の花や雨後の小道に靴の跡 林 康子
厚底の靴に恋した犬ふぐり 三宅李佳
厚底の靴に鉄漿蜻蛉かな 西田孝
原爆忌老女も靴を履くあはれ 殿村菟絲子 『旅雁』
受験子や靴のかかとの傾ぎ癖 昆みき
古草に靴拭き納得せしにあらず 猿橋統流子
古靴を磨く縁先囀りぬ 金井苑衣
可憐な靴落ちてる 団地の大年の 伊丹公子 時間紀行
同じ靴何度も修理春を待つ 細見綾子 黄 炎
吾にとどかぬ沙漠で靴を縫ふ妻よ 佐藤鬼房 海溝
咲き分けて靴に雪崩るゝ霜の花 石塚友二 光塵
唐辛子吊れば小人の靴めきぬ 松平知子
啓蟄のわが門や誰が靴のあと 高橋淡路女 梶の葉
啓蟄や試し履きして旅の靴 林 民子
喜びて靴に入る足雪降れり 桑原三郎 晝夜
噴水の辺り靴音たてゝ歩す 高木晴子
囀や靴の中より小石出て 藺草慶子
四万六千日飢餓絵図の婆靴磨く 黒田杏子「木の椅子」
国定教科書の桜が咲いて重い靴 橋爪鶴麿
国慶節スエードの靴はいてをり 皆吉司
土がすみ靴にくもりの昼すぎを 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
土間に遊ぶ児に大靴や五月闇 上林白草居
地の底に靴音とどく氷かな 長谷川櫂 天球
地の黄葉踏めば靴型人の婚ヘ 寺田京子 日の鷹
地虫出て靴の踵の急に減り 池田秀水
垣に干す靴とりどりに水温む 西村和子 夏帽子
堂前に靴の累々御命講 高澤良一 鳩信
堅香子の花を見に行くズツク靴 河西みつる
夏の波見馴れし靴を揃えけり 高澤晶子 復活
夏の靴砂に忘れしこと忘る 対馬康子 吾亦紅
夏落葉寺に見馴れぬ女靴 福田甲子雄
夏霧が靴のかたちで来る朝か 四ッ谷 龍
夕凍みの直路三十路の靴鳴らす 高澤良一 ねずみのこまくら
夕日明るき谷間を思い靴縫う友 大井雅人 龍岡村
外套の重きに減りて靴悲し 橋本鶏二
夜遊びの靴べら反らし櫻桃忌 本庄登志彦
夜長妻栗色の靴買へと言ふ 欣一
夜鷹鳴く森ゆき友の靴白し 堀口星眠 火山灰の道
大きくて冷たき靴を揃へけり 栗島 弘
大き破れ靴月射しくれば美少年 加藤知世子 黄 炎
大根焚子供の靴をポケツトに 田中裕明
大股に雪藁靴が脱いであり 松本一農舎
大靴の男がひとり連翹忌 小原啄葉
天にオリオン地には我等の靴音のみ 楠本憲吉
天上に川あるごとく靴流る 和田悟朗
天地灼けぬ兵士乗船する靴おと 片山桃史 北方兵團
太柱抱きて靴脱ぐ修正会 中戸川朝人 星辰
夫の靴そろへ年始の客となり 牧山美佐子
女の靴が離れて脱いである さくら田中陽
女将われ客に夜寒の靴揃へ 鈴木真砂女 夕螢
女犯すごと大靴に雪汚す 滝本魚顔女 『絵踏』
始まりも了りもさむい靴の紐 津沢マサ子 空の季節
子が靴の土ほこり麦の穂が出た 北原白秋
子が靴を落すチユーリツプの花のやうに 有馬朗人 母国
子に靴を穿かすインバネス地に触り 山口誓子
子の靴の六文 落葉踏んでゆく 西川碧桃
子の靴の脱ぎざまや暮るゝ鉢の菊 碧雲居句集 大谷碧雲居
子の靴も木馬も眠る冬銀河 保坂敏子
子の靴を光らせもして送盆 鳥居美智子
子の靴を洗へば泥も花屑も 仙田洋子 雲は王冠以後
子を持ちて靴磨四月日焼けたり 原田種茅 径
子供の日小さくなりし靴幾つ 林翔 和紙
子供靴片方冬の海へ出る 小泉八重子
子供靴買ふ銭芋に化けちやつた 石川桂郎 含羞
孤児睡る月光の地靴にて過ぐ 中島斌男
学習塾花屑付けし靴並ぶ 春山道代
宝石店に隣り寒夜の靴の店 森田智子
宵浅し露台へのぼる靴の音 日野草城
家中の靴磨きをり小鳥来る 平田玲子
宿坊に百の子の靴蝉しぐれ 田中恵子
寐ころべば靴青空へ卒業期 香西照雄
寒明けの波止場に磨く旅の靴 沢木欣一
寒月へのぼる靴音螺旋階 近藤甚之助
寒月や氷ふみわる靴の音 寒月 正岡子規
寒雀と分かち合ふ陽や靴みがく 鍵和田[ゆう]子 浮標
寝ころべば靴青空へ卒業期 香西照雄 対話
小春日や波あなどりて靴ぬらす 檜紀代
小暗さや櫻のころの靴の中 正木ゆう子 悠
少女提ぐスケート靴も細足首 品川鈴子
尖る靴きりきりと旅いちご食む 寺田京子 日の鷹
尻踏んであるズック靴西ようず 茨木和生 三輪崎
屈まずに使ふ靴べら額の花 川崎展宏
履いたまま洗ふ泥靴春田打ち 永田貞子
履きつぶす靴は吾が顔寒の雨 和田耕三郎
履き替へし靴を揃へて耕せる 中戸川朝人 尋声
履くことも無き靴磨き春惜しむ 福田たみ子
山吹によき日ざし見つ靴をはく 碧雲居句集 大谷碧雲居
山滴る靴音軽き朝かな 中村輝峰
山眠る愛用の靴すり減らし 影 いづみ
山靴にくだく除日の厚氷 望月たかし
山靴に赤紐交差涅槃西風 田川飛旅子 『使徒の眼』
山靴に踏めど崩れず霜柱 岡田日郎
山靴や炉を遠まきの深眠り 小宅容義
山靴を脱ぎ金屏の間にとほる 石川桂郎 高蘆
山靴を脱ぐ背に炉火の燃えさかる 越智貴美子
岳人の大靴太脛卓の下 平畑静塔
左足の靴がとほくにある夜学 大石雄鬼
布靴の古りしを穿きて剪定す 橋本鶏二
師走くる靴屋に靴をはきながら 秋山巳之流
師走の燈にひたりし金の靴を売る 斉藤夏風
帰らねど磨くよ夫の黴の靴 品川鈴子
帽子から靴の先まで新入生 藤井圀彦
幅広のわが足形りに黴の靴 杉本寛
幕営の山靴ほたるぶくろ挿す 中戸川朝人 星辰
年棚にまだ土つかぬベビー靴 橋本榮治 麦生
幸福の靴首にかけ馬鈴薯を掘る 山口青邨
幻影の春泥に投げ出されし靴 星野立子
幼ナ児の靴を揃へて暖かし 岩城美津子
幼子の靴を増やして三が日 篠原ノリ子
座敷より靴はく音や入学す 水谷り得子
往診の靴の先なる栗拾ふ 金子伊昔紅
忌に参ず虚子一門の靴の数 高澤良一 随笑
忘年会一番といふ靴の札 皆川盤水
恋人は飛魚のような靴で来る 瀬間 陽子
恪勤の靴の片べり朝より蝉 小松崎爽青
悴みて少年人の靴磨く 岸風三楼 往来
慈悲心鳥靴一足の籠堂 矢田幾久
憂国忌どこかで靴の音しきり 石崎素秋
手に乗せて嬰の靴選ぶ買初 杉本東舟
捨てがたき幼なの靴や踊子草 山戸みえ子
捨て切れぬ遺品の靴の黴拭ふ 高橋豊子
捨靴にいとどを飼ふも夢の夢 高橋睦郎 稽古飲食
擦り切れの靴も交じりて致命祭 木場田秀俊
数珠玉や靴をはかない風の群 磯貝碧蹄館 握手
新しき靴は疲れて墓詣 青葉三角草
新しき靴履く朝の四温かな 宮田わこ
新しき靴春雪を受け止めし 稲畑廣太郎
新入生靴むすぶ顔の充血する 山口誓子
新兵の靴引するや春の塵 尾崎紅葉
新妻の靴ずれ花野来しのみに 鷹羽狩行 誕生
新娶土間の藁靴日浴びをり 山内美津男
新春の靴を磨かぬ妻と生活らすか 藤後左右
新涼の靴音を待つ石畳 西村和子 夏帽子
新盆や空耳なれど靴の音 秦夕美
新緑の庭より靴を脱ぎ上る 山口誓子
新緑の雨古靴と古鞄 小出秋光
新藁の能登雪靴の赤き糸 沢木欣一
旅の靴黒穂を燃やす火を跨ぐ 橋本鶏二
旅の飲食靴ごと炉火に温まり 清子
旅二人靴ぼこり椎若葉の下 細見綾子 花 季
旅涼し燈下繚乱のペルシャ靴 林翔 和紙
旅発ちの靴にひそんでゐし余寒 山田弘子 螢川
旅立の靴にひそんでゐし余寒 山田弘子
日傘立て老靴磨自愛せよ 山本歩禅
日常の靴みがく婢や冬埃り 飯田蛇笏 山廬集
早発ちの靴こほろぎを吐きにけり 渡辺抱朴子
旬日を妻見舞はねば靴黴たり 小林康治 玄霜
春の土踏むはじめてのベビー靴 山田弘子 こぶし坂
春の野が尻に冷たし靴の皺 池田澄子 たましいの話
春の靴音人の流れに溶けずわれ 小松崎爽青
春の靴齧りに駆けて来る栗鼠よ 仙田洋子 雲は王冠
春一番かつきと絞めん靴の紐 山田久栄
春待てり製靴工場の木型どち 磯貝碧蹄館 握手
春愁やミイラに履かす金の靴 池松幾生
春愁や子のフィアンセの男靴 前川敏夫
春昼や細くぬがれて女靴 永井龍男
春泥にとられし靴を草で拭く 稲畑汀子 汀子第二句集
春泥に新しき靴たじろがず 戸川 晟
春泥に船長の靴新しき 岡田 耕治
春泥の靴ぬぎ拝む延暦寺 関 多美
春泥の靴憚らず来りけり 坊城中子
春泥の靴揃へあり牧の弥撒 太田昌子
春泥の靴溢れをり珠算塾 塩田晴江
春泥の靴脱ぐひまもほとけ恋ふ 伊丹三樹彦
春泥の飛びつきにけり乗馬靴 西村和子 窓
春泥や大きくなりし吾子の靴 木暮陶句郎
春泥や干されて巨き靴の裏 大塚代子
春泥や靴音重く子の帰る 高橋淡路女 梶の葉
春泥をおそれぬ靴の先頭に 小比賀陽子
春泥を来て大いなる靴となり 上野泰 佐介
春燈下踊り子靴をはき替ふる 田中冬二 麦ほこり
春空の思はぬ方へ靴飛べり 守屋明俊
春蘭を踏み大靴の悪霊たち 八木三日女 落葉期
春虹や蔵王しめりの靴脱げば 清水基吉
春近し雪にて拭ふ靴の泥 沢木欣一 雪白
春雷や男が磨く女の靴 不死男
昨夜撒きし豆恪勤の靴の中 下川光子
時雨忌の風に干しある旅の靴 生江通子
時鳥靴音高き人もきく 細見 綾子
暑く明るく街へ靴音波をなし 大井雅人 龍岡村
暖や遊船の舳の靴二足 島村元句集
月下に全貌靴磨きまだ今日終へず 磯貝碧蹄館 握手
朝ざくら童女はきゐし父の靴 阿部ひろし
朝の靴つやゝかに一葉踏みにけり 碧雲居句集 大谷碧雲居
朴の落葉わが靴のせるべくありぬ 山口青邨
杏匂ふ店過ぐ独りの雨の靴 小池文子
東京へい行く懶さ梅雨の靴 石塚友二 光塵
東雲の刈萱の中靴ぬらす 谷村幸子
松の花いつしか積る客の靴 前田普羅 春寒浅間山
枯れ急ぐ男ばかりの靴音に 影島智子
枯園や靴音家の中行ける 相生垣瓜人 微茫集
桐咲けり天守に靴の音あゆむ 山口誓子 炎晝
桜ン坊を踏んで叔父訪へり靴新た 吉岡禅寺洞
桜落葉踏みたくて靴脱ぎにけり 関戸靖子
桜蘂踏む靴裏に傷増やし 館岡沙緻
桟橋にひびく靴音三鬼の忌 片山由美子 風待月
梅ひらくドイツの靴を履きしめて 黒田杏子 花下草上
梅闌けぬ紙もて拭ふ靴埃 北野民夫
梅雨の階真夜の靴音のぼりくる 木下夕爾
梅雨晴れの或る日選んで靴を干す 高澤良一 素抱
梅雨晴れ間ビルからビルヘ靴光る 吉原文音
機関車にかこまれ濡るる東風の靴 宮武寒々 朱卓
歩きいい靴で木道まゆみの実 古川塔子
歳晩の足とどまらず靴磨 山本歩禅
死者の靴の中で靴が鳴る晴天 筑網敦子
残る虫一夜泊りの靴しまふ 倉橋羊村
母も子も赤き靴はき雨情の忌 黒岩保行
毎日の靴を小脇に鳥曇 富安風生
水無月やまだ歩かざる嬰の靴 田辺典子
水着少女靴もヘッセも身を離る 小檜山繁子
汗馬降り音信絶えし我が靴音 片山桃史 北方兵團
沈丁花重たい靴を脱ぎ散らす 高桑婦美子
沢蟹の歩むその先靴で堰き 高澤良一 燕音
流行の靴に疲れぬ秋の風 朝倉和江
海にゐる我跣足なり君は靴 三宅麻子
海亀のスープを啜るスキー靴 角川春樹
海女の磯靴はくをんな吾ひとり 品川鈴子
海市よりもどらぬ人の靴が着く 直江裕子
満開のダチユラの花に靴かくす 岩淵喜代子 硝子の仲間
滝見るにイタリヤ製の靴泣かす 諸田登美子
滝道を行くに似合はぬ靴なれど 稲畑汀子
漁夫は沖へ遺し乱れ雪の靴型 寺田京子 日の鷹
潮ぬれし靴脱ぐ頭上行く蜻蛉 石塚友二 方寸虚実
濡れ靴に新聞を詰め茂吉の忌 皆川盤水
火屑掃くわが靴あとや霜じめり 飯田蛇笏 山廬集
火山灰を踏む大靴小靴みどりの日 白井爽風
火戀しわが靴音をわが聞けば 佐々木六戈 百韻反故 初學
炎天の現実女靴みがき 石橋辰之助
炎天来し靴を不浄のごとく脱ぐ 三浦紀水 『湖その後』
点在の制動靴のみ白き冬 鈴木六林男 第三突堤
無力にてしづかに靴を脱ぎにけり 小寺正三
無惨やな人葬り来し黴の靴 小林康治 『虚實』
煤の梁に藁靴宿題は母がして 武田伸一
熱砂踏む靴音世より来し人か 金子晃典 『望郷独語』
爪先を揃へて春の靴おろす 正木ゆう子 静かな水
父の靴くたびれており燕の子 三浦ミヨ子
父の靴全てを並べ星月夜 櫂未知子 貴族
父の靴磨き忘れずこどもの日 亀井糸游
父よりも子の靴大き雪解風 藤田枕流
片方の縫ひあげし靴冬の燈消す 中山純子 茜
牡丹に招かれて行く靴を履く 川崎展宏
犬の聲靴の音長き夜なりけり 夜長 正岡子規
犬靴をくはへてゆける子規忌かな 夏井いつき
玄室へ靴の運びし春の泥 八染藍子
玄関に山靴干され梅匂ふ 山田千代 『淡墨』
玄関に雨月の靴の匂ひして 高澤良一 寒暑
玄関に靴やら下駄やら三河万歳 星野昌彦
玄関の狭しと靴や年始客 高村寿山
玻璃の靴欲し薄氷を踏むときの 辻美奈子
生れたての蜻蛉に風の靴あげよ 小澤克己
生身魂戞々と靴ならし来て 田中裕明 先生から手紙
産んで来て白高靴にまたも載る 鷹羽狩行 遠岸
男より女の度胸靴白し 西村和子 かりそめならず
男靴そろへ灼かれる指の先 谷口桂子
画布さむし大き靴音きて去れる 木下夕爾
畦痩せて靴を支へず金鳳花 小島昌勝
白南風や砂丘へもどす靴の砂 中尾杏子「ながさき曼陀羅」
白南風や靴より吐かす星の砂 長谷川閑乙
盆波や乞食靴を鳴らしくる 黒田杏子 花下草上
看護婦の布靴急ぐ花の昼 西村和子 夏帽子
真昼間の/中也の/友の/短靴よ 林桂 黄昏の薔薇 抄
石炭箱を靴に踏まへし暖炉かな 雑草 長谷川零餘子
石蕗の花ここに帰りて靴鳴らす 加藤楸邨
石蕗咲けりいつも泥靴と並びたる 加藤楸邨
破れた靴がばくばく口あけて今日も晴れる 尾崎放哉
破れ靴に花踏み松山中学生 中村草田男
破靴や延命菊に雫せる 齋藤玄 飛雪
確と来し巌冬へ靴揃へ置く 朔多 恭
磔像やわれは驟雨に靴濡れて 相馬遷子 山国
磨かれて履かぬ靴あり小六月 本田なぎさ
磨きたる靴にて踏みし初の霜 吉岡葉家子
神は意外の近さ秋ぐさに靴覆(かへ)り 友岡子郷 遠方
神を信ぜぬ配達夫の靴匙型に減つて 細谷源二
禽餌擂る素はだしにはく魚皮の靴 宮武寒々 朱卓
秋の蜂脱ぎたる靴に入りてゐし 右城暮石
秋出水少年のごと靴提げて 奈良文夫
秋天や上野は低き靴にせむ 中山洋子
秋晴やいつも来てゐる靴直し 久保田万太郎 草の丈
秋晴や勤めの靴を揃へられ 椎橋清翠
秋風に二人の靴をほす巌 横山白虹
秋風の隠岐こころざす靴の白 高橋睦郎 稽古飲食
秋高し草の貼りつく乗馬靴 三森鉄治
空一枚へ靴べらすべらせ消えてゆく 八木三日女 落葉期
空虚なる食後ストーブに靴触れゐし 榎本冬一郎
空蝉の結婚式の靴がない 攝津幸彦
空風に場所を置き去る靴磨 百合山羽公 寒雁
立冬や靴音一人急ぎくる 高橋幸代
籠の人参ごろごろ女靴安売 星野紗一
紫木蓮くらき生家に靴脱ぐも 角川源義
紫陽花が試験官の靴だつたら 春名喜多
緑蔭にゐて靴磨あぶれたり 鷹女
緑蔭の大きな下の靴磨き 上野泰 佐介
緑蔭踏みしだく山靴は大甲虫 宮津昭彦
緞通に大きな靴のあとありぬ 高浜虚子
編あげ靴大きすぎる子秋来る 中山純子 沙羅
纏足斯くやスケート靴の赤い紐 宮崎二健
置かれある靴ベラ白し寒椿 原田青児
美術展近づく靴のなかに釘 皆吉司
翡翠を見て来し靴の露じめり ふけとしこ 鎌の刃
聖夜待つケーキのやうな嬰の靴 石橋茉莉
職を追ふ呆け赤靴冬日沁む 小林康治 玄霜
脚冷えて靴をひそかにうち鳴らす 加藤楸邨
脱ぎし靴遠くに置いて磯遊び 池田秀水
脱ぎすてし幼の靴に春の泥 小泉豊流
臘八会村人よりも多き靴 丸山海道
自宅附近にきて不器用な靴音さす 仲上隆夫
自由の時間なり靴中に梅雨染むも 寺田京子 日の鷹
舗道凍つわが靴音の夜々ほてり 河合凱夫 藤の実
舞踏靴はき出て街の驚破や秋 飯田蛇笏 霊芝
舟までの藁靴を貸す雪見舟 松本泰二
船を待つ身空に靴が鳴門海 仁平勝 東京物語
色鳥やわが靴のいつ磨かれし 福永耕二
色鳥やケーキのやうなベビー靴 轡田進
芦の芽や志賀のさゞなみ靴ぬらす 田村木国
芭蕉忌の舟底で靴さがす足 澁谷道
花寒し教師は常のズック靴 木村蕪城 寒泉
花火の夜少年の靴枝にささり 小檜山繁子
花片のきのふの靴を履きにけり 綾部仁喜 樸簡
花疲れ靴の埃に夕ごころ 吉屋信子
花筵入水のやうに靴置いて 大牧広
花菜の海汝が銀の靴遠く泛く 磯貝碧蹄館 握手
花菜雨少女より購ふ刺繍靴 谷中隆子
花飛脚五足の靴の先きぶれに 河原マサエ
苑深き落葉に靴を踏み入れし 西村和子 夏帽子
茎立や泥靴乾く薪の上 石塚友二 光塵
草芳し女は靴を脱ぎて座る 藤松遊子
草萌えてチャップリンめく古靴よ 細川加賀 『傷痕』
草虱靴にも付けて再会す 降籏幸子
荒縄巻きて靴も滑らず氷切り人夫 寺田京子 日の鷹
菊の香や庭に切れたる靴の底 松尾芭蕉
菊人形見て来し靴の汚れかな 藺草慶子
菜明りやわが靴音の靄ひゆく 林原耒井 蜩
落ちるにじむ椿じめじめ魔女の靴 八木三日女
落葉まひ靴磨より紙幣とぶ 爽雨
葉桜やすゞろに過ぐる夜の靴 金尾梅の門「古志の歌」
葉桜や木深き窓に靴工兵 西山泊雲 泊雲句集
葬も了へてなほ靴音をまつ秋夜 飯田蛇笏 雪峡
蕗のとう釣師の大き靴通る 小島國夫
蕗の薹靴の爪先傷つけて 岡田史乃
蕨と古靴日は逸脱を許しくれむ 磯貝碧蹄館 握手
薄い雑誌が靴箆がわり雪降り出す 鈴木六林男 第三突堤
薫風や干されて白き靴の紐 早乙女成子
藤の雨に来し数十の靴ならぶ 横山白虹
虻の下靴履く吾子の髪かがやき 石田波郷
蜜豆や馬蹄のやうな靴脱いで 鎌倉ひろし「百鳥俳句選集」
螺旋階段凍てて靴音をこぼしける 有働 亨
血の担架秋風は靴音に昏れ 片山桃史 北方兵團
街に見て陸戦隊は靴固き 片山桃史 北方兵團
街凍ててこころおごらず靴の音 飯田蛇笏 雪峡
街角の靴音白とわかるまで 菅原さだを
街路劇月下に靴をうちたたき 友岡子郷 春隣
被災地へ帰るほかなし冬の靴 神田ひろみ
裸木も視る月蝕は侏儒の靴 河野多希女 彫刻の森
観桜の靴占ひは晴れと出て 松岡裕子
記者の朝ちぎれ靴噴く一刷(はけ)の血 赤尾兜子
試着せし毛皮に靴の貧相に 高崎登喜子
詮もなや霜やけかゆき靴の中 寺田寅彦
誕生日靴の重たさだけがある 佐藤鬼房
誰そ靴に唾はきしわが師走かな 飯田蛇笏 山廬集
誰の銀座だこの一足の靴で歩く 石橋辰之助
誰も皆靴冷たくて始発駅 櫂未知子 貴族
買ひたての靴を喪にはき春の藪 鈴木鷹夫 渚通り
買初のメモ靴墨と神曲と 飛旅子
貸スキー貸靴若さ借りられず 津田清子
赤き靴はきたるごとし色鳥来る 佐久間俊子 『むさし野』
赤とんぼ洗ひざらしの靴二足 山内てるこ
赤ん坊にゴム靴にほふ父帰宅 篠原鳳作
赤ん坊の靴と浮きをり百合鴎 三森鉄治
赤靴の女が立てる社会鍋 鈴村寿満
足に合ふ古靴のごとき愛ぞ冬の地ゆく 磯貝碧蹄館 握手
足の靴は宿直の枷春夜の花 大井雅人 龍岡村
路鋲ふむ靴のあらたに空つ風 飯田蛇笏 雪峡
踏んでくらべて雪靴の底談義 かとうゆき
踏んでゆく靴より大き朴落葉 高橋利雄
踏青の靴を古草くつがへす 皆吉爽雨 泉声
踏青や底薄き靴足袋めきて 香西照雄 素心
車内爽やか山歩きせし靴音ぞ 大熊輝一 土の香
軍国の怒濤湧きたち靴繊し 藤木清子
軍艦に遅れて着きぬ赤き靴 攝津幸彦
軍艦のやうな靴ある梅雨の土間 砂山節子
軽き靴履いて花野に深く入る 池田秀水
辞す家の靴の中なる夜の秋 武田和郎
近道を知りつくしゐる白い靴 赤尾恵以
退院の靴そろへられ法師蝉 横山白虹
逢引の春泥靴先に少し 角光雄
道頓堀を靴流れゆく敗戦忌 木田千女
郭公や靴に鞭挿し騎馬乙女 岡田貞峰
野施行の米粒靴に入りにけり 吉本伊智朗
野歩きの靴の重さが春に通ふ 細見綾子 黄 炎
野遊びの身投げのやうに靴揃へ ふけとしこ 鎌の刃
金の靴一つ落ちゐし謝肉祭 有馬朗人 天為
長い冬をあるいてきた雪靴の右とひだり 斉藤房子
長き夜や磨き上げたるダンス靴 徳永幾代
開襟の小脇に匂ふ妻への靴 野口根水草「誕生」
降る雪のかなた蝋燭の輪の舞踏靴 高柳重信
降誕祭雪靴脱げばうなだれぬ 田川飛旅子 花文字
陣場野の露に濡れたる旅の靴 高濱年尾 年尾句集
陽炎や破れ小靴が藪の中 飯田龍太 山の木
雨の靴薺の花に滑り止む 長谷川かな女 牡 丹
雨の鶏頭なりはひの靴はや重し 小林康治 四季貧窮
雨靴をぬぎて雨夜の雛の宿 後藤夜半 底紅
雪に印す昭和を生きし靴の裏 佐々木春蔵
雪ふんで靴くろぐろと獄吏かな 飯田蛇笏
雪を来し年賀の靴のどかとあり 井手千二
雪を来し靴と踊りぬクリスマス 山口波津女
雪卸少女ならねど赤き靴 長谷川櫂 古志
雪国を出てゆく靴を履き替えて 伊藤かず
雪掻きの靴はき替へて出勤す 村井桂子
雪掻人夫が大きな靴で踏み立つた雪朝 人間を彫る 大橋裸木
雪渓の尾を踏みよごす老の靴 富安風生
雪渓や身を傾けつ靴緊める 河野南畦 湖の森
雪眼の子氷上すべる靴穿ける 森川暁水 淀
雪踏んで靴くろ〜と獄吏かな 飯田蛇笏 霊芝
雪靴でづかづかと入る文学館 櫻井菜緒 『帰雁』
雪靴と塩送り来し能登の人 細見綾子
雪靴に常の勤めの三日かな 相馬遷子 山国
雪靴に添へて賜はる塩五合 沢木欣一 赤富士
雪靴のまま産小屋にのこさるる 古舘曹人 砂の音
雪靴の小樽の雪になれにけり 鈴木しげを
雪靴の気後れ雪のなき街に 稲畑汀子
雪靴の疲れ雪にて拭ひけり 北川英子
雪靴をもてセザンヌの前に立つ 田川飛旅子 花文字
雪靴を履けば遊行の顔となり 下鉢清子
雲の峰学者の夫の靴減らず 多賀啓子
雷遠し聖堂に脱ぐ旅の靴 古賀まり子「源流」
雷鳥に鳴らすひとりの靴の鋲 岡田貞峰(馬酔木)
霙打つ家路見てゐる男靴 谷口桂子
霜の夜の塀に靴音跳ね返る 臼井培子
霜の夜の靴音止りベル鳴らず 林原耒井 蜩
霜の花・底うすき靴もて足らう 古沢太穂 古沢太穂句集
霜柱十二月八日の無数の靴 山口和夫
霜柱踏めば傷つきさうな靴 蘆田富代
霧の夜の靴音果して夫なりし 西村和子 夏帽子
露の未明鉄路を汚し女靴 寺田京子 日の鷹
青き林檎とわが古靴と笑窪あれ 磯貝碧蹄館 握手
青写真父の靴音近づきぬ 石倉啓補
青年の大靴木の実地にめり込む 西東三鬼
青月夜靴のおもたいほど酔えず 石橋辰之助
青梅雨や靴だぶだぶの信徒の子 下村ひろし 西陲集
青芝や精勤の靴並べ干す 鳥居おさむ
青芝や靴から脱けてゆく女 田中不鳴
青草に置く結願の足と靴 奈良文夫
青葦や捨て靴と居て捨て児めく 鍵和田[ゆう]子 未来図
靴きゆんと鳴らして黄金週間了る 清水衣子
靴ずれの小指の胼胝や啄木忌 松沢佐多子
靴と靴叩いて冬の空青し 和田耕三郎
靴に入る小石の痛さ桃満開 鈴木鷹夫 大津絵
靴に足嵌りてきたり大枯野 中戸川朝人 星辰
靴に踏み割れし木の實の身に傳ふ 上村占魚 『自門』
靴ぬぎて青きを踏みて友ら亡し 富澤統一郎
靴ぬげば鳴き出でし虫の雨夜かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
靴のみは無傷炎天下の轢死 田川飛旅子 『山法師』
靴の中に幾万の足秋の暮 加藤秋邨 吹越
靴の先に青草の実がつまりゐぬ 川島彷徨子 榛の木
靴の先みんな綺麗に春の燈に 京極杞陽 くくたち上巻
靴の先濡らす恵方の渚かな 館岡沙緻
靴の先荒れしを秋の波濡らす 桜井博道 海上
靴の右左違へて目借時 寺岡捷子
靴の泥こそぎ落せば行々子 高澤良一 さざなみやつこ
靴の泥すつきり流す文化の日 小村水枝
靴の泥枯草つけて富士を見る 横光利一
靴の砂返して冬の海を去る 和田祥子
靴の紐しつかり結び入学す 高岡すみ子
靴の紐切れて卯の花腐しかな 市川愁子
靴の紐白く結んでアマリリス 星野麥丘人
靴の紐結ぶふりして蟇を突く 星野明世
靴の紐締むるにうつぼ草群るる 浦野芳南
靴の裏見つつ靴買ふ秋の雲 和田耕三郎
靴の釘石もて曲ぐる野分中 秋元不死男
靴の鈴鳴らして来る子クリスマス 玉木 愛子
靴の黴ぬぐひ遠くへ遊びたし 細見綾子
靴の黴拭ひ俄かに逢ひたくなる 横山白虹
靴はいてから屏風絵を今一度 波多野爽波 『骰子』
靴はくと痛む指あり終戦日 佐藤静峰子
靴べらがものいいた気な秋日和 田辺三耶子
靴までもちゝろの宿となりにけり 淺利惠子
靴みがきうららかに眠りゐなりけり 室生犀星 犀星發句集
靴みがきのうしろこがらし昇天す 石原八束 空の渚
靴みがき伏してひたすら柳散る 吉屋信子
靴みがくや春風に鳴る門の鈴 碧雲居句集 大谷碧雲居
靴みがく馬丁部屋の寒さかな 寺田寅彦
靴を履く背中見てゐる寒さかな 谷口桂子
靴を穿く今が一番寒い時 京極杞陽 くくたち下巻
靴を買う冬のさみしき惑星に 高野ムツオ 鳥柱
靴二足ともにかすかにかびゐたり 川島彷徨子 榛の木
靴二足修理に出しぬかたつむり 和田耕三郎
靴先で朴の落葉を返すべく 高澤良一 宿好
靴先に犬ふぐり咲きかたまれる 西村和子 夏帽子
靴先に立ち束の間の花旋風 石塚友二 光塵
靴先の土にめり込む蕗の薹 川崎展宏
靴先の砂飛びやまず東風の浜 内藤吐天 鳴海抄
靴先を波にあやまつ俊寛忌 上田五千石 風景
靴凍てゝ墨塗るべくもあらぬ哉 凍る 正岡子規
靴出せばちちろがさつと 席ゆずる 西田三千代
靴叩き穿き大寒とおもふかな 村越化石 山國抄
靴埋めて火山灰の径ゆく冬雲雀 朝倉和江
靴墨のはつかに匂ひ春寒し 行方克巳
靴大きな船員師走の坂のぼる 川崎展宏
靴大き若き賀客の来て居たり 能村登四郎
靴屋の鏡に靴と映つた冬の貌 田川飛旅子 『外套』
靴履きて巫女いそぎ行く十二月 内野睦子
靴履けば妻問ひに似る葛あらし 伊藤白潮
靴持つて上る薄暮の村芝居 田口素子
靴提げて廊下を通る鶏頭花 北野平八
靴洗ひ干菜吊すや一千年 岩淵喜代子 硝子の仲間
靴白し一寸先の闇知らず 岡本 眸
靴磨き箱に木炭と雲詰めて 田川飛旅子
靴磨き聖夜の隅で石となる 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
靴磨くも磨かすも貧虹久し 川口重美
靴磨く兵が空見たり空が曇りゐたり シヤツと雑草 栗林一石路
靴磨く塞波に胸を盾として 西島麥南
靴磨く街の冬日は肩に消ゆ 西島麥南
靴磨く逢へば告げたきこと充ちゐて 西村日出子
靴磨けば光る倖せこんなところにある 杉山青磁
靴穿いて発ち際の酒鳥渡る 皆川白陀
靴繕しの挽歌のごとき音にぶつかる 細谷源二
靴脱いで久闊の露涼しけれ 田中裕明 櫻姫譚
靴脱いで右繞三匝寝釈迦仏 町田しげき
靴脱いで憩ひゐる尼下萌ゆる 山田弘子 初期作品
靴脱いで蹠さみしき涼み舟 館岡沙緻
靴脱ぎし二百二十日を火で埋める 伊東達夫
靴脱ぎて佇てり葉月の夕渚 根岸善雄
靴脱げば足裏おどろく秋の風 正木ゆう子 静かな水
靴脱に主客の靴とシクラメン 富安風生
靴脱に女草履や沈丁花 水原秋桜子
靴脱石に主客の靴とシクラメン 富安風生
靴脱石に何神の娘ぞ苗置きし 宮武寒々 朱卓
靴裏に都会は固し啄木忌 秋元不死男
靴貧しき神父と吾と西日履む 津田清子 礼 拝
靴買うて卒業の子の靴磨く 杉田久女
靴買ふと極月を子の縫ひはげむ 小澤満佐子
靴買へば米買ひかねつ梅雨の雲 加藤楸邨
靴足袋のあみかけてある火鉢哉 夏目漱石 明治三十二年
靴踏みし跡の緑やクローバー 京極杞陽 くくたち下巻
靴選ぶことに始まる春の旅 数崎清子
靴音がコツリコツリとあるランプ 富澤赤黄男
靴音が淋しいこの道がきらいです 黒田政子
靴音と栗落つる音の均しさ 四ッ谷 龍
靴音に咳で応へて灯しけり 板橋美智代
靴音のみな跳ねかへる寒さかな 仲村美代子
靴音の凍ててオランダ坂に沿ふ 山田弘子 螢川
靴音の暑さ呆けの穹の花 松澤昭 神立
靴音の消ゆる黒土初大師 鍵和田[ゆう]子 浮標
靴音の記者は乙女か夏めける 室生犀星 遠野集
靴音の響かぬ雪の深さかな 佐々木京子
靴音はをんならしくも霜夜なる 室生犀星 犀星発句集
靴音は女が高しものの芽に 古舘曹人 能登の蛙
靴音をビルより落とし後の月 富川三枝子
靴音一つ戒壇院の秋の昼 鷲谷七菜子
靴鳴らす地団駄橋や苑小春 高井北杜
靴黒しなほ雪中を進みをり 徳永山冬子
韓国の靴ながれつく夏のくれ 小澤實 砧
額の花下山の靴の紐締むる 金田野歩女(白魚火)
風花や砂丘に浅き靴の跡 森田 操
颯爽と付添気どりの白き靴 影島智子
馬蹄跡に置く靴先や山開 香西照雄
高価の靴かにかく買ヘリ祭笛 中村草田男
高靴の泥付け戻り蛍狩 高崎紀美枝
魔女の靴めくかたかごの花ゆれて 沢田有湖
鮎の瀬に向く歯科の窓靴干せる 宮武寒々 朱卓
鮭小屋へ鮭のにほひの靴を脱ぐ 岡田史乃
鰯雲喪の家に靴混沌と 小檜山繁子
鳥帰る人の世は靴すり減らし 清水径子
鳴き靴を履かせ茅の輪をくぐらする 鈴木節子
麦秋のガラスの靴でありにけり 朝吹英和
麦秋や旅に減らせし靴の底 成瀬桜桃子 風色
黒き靴磨きて鴨を見にゆかむ 和田耕三郎
黒船の黒の淋しさ靴にあり 攝津幸彦(1947-96)
黒靴を黒に磨いて万愚節 梅本豹太
黙通したき日や黒き防寒靴 鍵和田[ゆう]子 未来図
鼬罠あり戦争の靴の音 白石多重子
●革靴
革靴のまま岩跳んで磯遊び 辻田克巳
雪踏みしあとの革靴底きよら 田川飛旅子 花文字
子よ革靴は父の俸給より高き 日野草城
皮靴はさみしいかたちオタワの星 対馬康子 愛国
とほりやんせ甘き皮靴皮となり 攝津幸彦
●ズック靴
ズック靴土いろにしみ冬の前 古沢太穂 古沢太穂句集
喜捨もせしズックを脱げり四月尽 山口風樹
堅香子の花を見に行くズツク靴 河西みつる
尻踏んであるズック靴西ようず 茨木和生 三輪崎
履かざりしズックの劣化敗戦日 熊野英子
植木鉢とズックが野分の水溜めて 川崎展宏
白ズック祭の日よりおろしたる 細見綾子 黄 炎
花寒し教師は常のズック靴 木村蕪城 寒泉
●紳士靴
●婦人靴
●運動靴
白という孤独運動靴の少年 高階健一
川みているきつねのその白い運動靴 阿部完市 春日朝歌
爽かに運動靴の下ろしたて 今泉貞鳳
川みているきつねのその白い運動靴 阿部完市 春日朝歌
●スニーカー
いい恋をしてます スニーカーは白 久保典子
スニーカー履いて禰宜来る山開 脇坂啓子
スニーカー履きて七福詣かな 木村清華
スニーカー店にあふれて入学期 樋笠文
十薬や渡り廊下のスニーカー 中町恵美子
啓蟄のスニーカー一つ買いもして 元石美津枝
山笑ふ初めて穿きしスニーカー 八幡より子
竹垣に干すスニーカー芙蓉の実 武田光子
●ベビーシューズ
ベビー靴の子を福藁に抱きおろす 俵土紀子
年棚にまだ土つかぬベビー靴 橋本榮治 麦生
春の土踏むはじめてのベビー靴 山田弘子 こぶし坂
色鳥やケーキのやうなベビー靴 轡田進
●ハイヒール
おしろいや日暮れて出て行くハイヒール 左名木京子
ハイヒール呆然と提げ大干潟 櫂未知子 蒙古斑
ハイヒール提げて火渡る初薬師 永井武子
ハイヒール浜昼顔に脱ぎ捨てて 西村和子 窓
ハイヒール躓き易し干大根 稲垣暁星子
ポインセチア抱いて真赤なハイヒール 西坂三穂子
一日のどこにも桜とハイヒール 坪内稔典
三鬼忌の野よりひき抜くハイヒール 正木ゆう子 静かな水
上り簗こはごは覗くハイヒール 五十嵐みい
二百十日上司の白いハイヒール 小四昭夫
台風の中へ覚悟のハイヒール 有坂裕子
爪先に懐炉を入れてハイヒール 相馬沙緻
芙美子忌の芙美子の小さきハイヒール 岩崎眉乃
花冷えや足に馴じまぬハイヒール 矢口由起枝
花冷や砂より抜けるハイヒール 新庄八重
薄氷と踏絵と赤いハイヒール 水月りの
踊りたる夜のあり黴のハイヒール 北見さとる
●ローヒール
●パンプス
●長靴
びしよ濡れネオン梅雨の長靴欲かくす 田川飛旅子 花文字
わかば憂しぼろんとゴム長靴脱いで 川口重美
借りて履く長靴大き田螺取 大上充子
冬晴や長靴白き少女二人 小池文子 巴里蕭条
冴え冴えとゴム長靴の川虫採 高澤良一 宿好
初伊勢や泥長靴の遠国人 奥野曼荼羅
初午や長靴のまま乗り込みて 小坂優美子
太宰忌の黒長靴の脱げば折れ 福永法弘
宙を飛ぶ長靴を買ふクリスマス 有馬朗人 知命
山の子の大き長靴稲運ぶ 井上久枝
掛乞に長靴の泥こそげつつ 安部元気
揃へ脱ぐ中に長靴糸瓜加持 高澤良一 ももすずめ
摘草の子が長靴を脱ぎにけり 綾部仁喜 樸簡
昼も夜も長靴穿けり蝮どき 光永峡関
桃の花土間に漁師のゴム長靴 川崎展宏
梅雨の長靴置きけり死者の足もとに 細川加賀
氷る渚に白鳥を追ふ長靴埋め 小林康治 玄霜
河岸の子の赤き長靴三の酉 黒田杏子
流れ海苔掬ふ長靴胸まで履き 椎橋清翠
父したふ長靴童子蝶生る 堀口星眠 営巣期
猪山に踏み入りたりし黒長靴 藤田あけ烏 赤松
田の人の長靴赤し花まつり 今野福子
百足虫の子長靴の吾が踏まされる 飯沼衣代
秋の暮皆長靴の出稼人 大野林火
糶の蛸ゴム長靴にしがみつく 長谷川寿を(七曜)
蝦夷見むと深雪に窪む長靴は 小林康治 玄霜
街に出で長靴重し雛の市 山田芳子
逆さまに長靴干され豆の花 岡島昭二
長靴で来て囀りを聞き分くる 太田土男
長靴につくづく倦みぬ雪間草 福永耕二
長靴にとび込んでゐる鬼の豆 升本行洋
長靴に囲まれ糶のずわい蟹 森田かずを
長靴に畦踏み荒し蝮捕り 藤井松代
長靴に腰埋め野分の老教師 能村登四郎(1911-2002)
長靴に鯰を入れて子の帰る 永岡はな「未来図合同句集」
長靴のさかさに干され梅雨晴間 今泉貞鳳
長靴のたけに余るや梅雨の泥 梅雨 正岡子規
長靴のつつ立つ賀客日がなあり 赤松[けい]子 白毫
長靴の一人に添へば暮早し 桂樟蹊子
長靴の先で栄螺の山崩す 行方克己 無言劇
長靴の林移動す赤*むつへ 熊谷愛子
長靴の氏子が集ふ池普請 藤田こうじ
長靴の水を出水に還しおく 戸田露生
長靴の洞の音聴く秋の暮 岩城久治
長靴の狭めし土間や牡丹鍋 大東晶子
長靴の長くなりゆく烏貝 緒方 敬
長靴はどこへもゆけて水温む 茨木和生 丹生
長靴は長靴に見え鳥威 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
長靴をはくほど春の雪降りし 細見綾子 黄 瀬
長靴を倒してゆきし狸かな 大木あまり 雲の塔
長靴を履いて入りぬ蕨山 今井誠人
長靴を逆さに干して鎌納め 清水蔦生
雨の夜口あけてゐる長靴に足を入れる 人間を彫る 大橋裸木
雪に爪だちつつかけ長靴新市民 平井さち子 完流
雪を行く長靴たまごの色もゆく 和知喜八 同齢
風船売大和の埴土を長靴に 飴山實 辛酉小雪
鰊汲む胴付長靴の胸濡らし 岩岡吐雲
黴くさき長靴よりも長き貌 赤尾兜子
●ブーツ
ブーツの中の暗さもち愛している 鈴木六林男 後座
ブーツはき群なし来るは怖ろしき 岸風三樓
ブーツもてサッカーボール一蹴す 樋笠文
下駄箱に逢ひ来しブーツ二つ折り 辻桃子
冬の宿赤きブーツのもたれあひ 土生重次
冬の空重きブーツの底鳴らし 谷川 典大
出勤のブーツきりりと初氷 小林絹子
初氷踏みにブーツを穿いて来し 後藤夜半 底紅
吾も買はな背高鴫の赤ブーツ 芹山 桂
天翔ける木馬に白いブーツの子 松岡里江 『桜坂』
春泥をブーツの先に逢いに行く 川副民子
春風や白きブーツの膝小僧 中森清美
枯芝に一団欒のブーツ脱ぐ 館岡沙緻
白鳥に逢ひにゆく新しきブーツ 平井さち子 紅き栞
赤ブーツその他一切赤づくめ 池田秀水
足音の若きブーツに追ひ越され 松根ひろ子
通園の黄色のブーツでんでんむし 高澤良一 素抱
逢うときはブーツに露を乗せたまま 小西雅子
道塞ぎ来る赤ブーツ黒ブーツ 岸風三樓
革ブーツ人間の皺ありにけり 辻桃子
●下駄
あたらしき下駄のうれしき地蔵盆 岸風三樓
あらあら黴下駄箱の靴掻い出して 高澤良一 素抱
あるは下駄脱ぎ草踏みてみれど慰まず シヤツと雑草 栗林一石路
いくたびも締め直したる踊下駄 庄山章信
いちごある園の小道や下駄の跡 苺 正岡子規
いちじくの枯葉が乗つて僧の下駄 井上雪
いつどこで替りし下駄か年の暮 松本翠影
いでたちの下駄をまづ打つ踊りかな 石田勝彦 秋興
うぐいすや亡父の下駄の捨てどころ 鳴戸奈菜
うす雪や梅の際まで下駄のあと 魚日 芭蕉庵小文庫
うどの香や岨に下駄はく山の児 白雄
おばしまに下駄干してある初嵐 藤田あけ烏 赤松
おふくろのちび下駄のこる花石榴 向山隆峰
おぼろ夜や旅先ではく男下駄 あざ蓉子(1947-)
おぼろ夜を行き駒下駄の鳴るはよし 広岡 善
かけいの忌鎌倉彫りの下駄求む 紅家いと子
かへられて残る夜寒の女下駄 会津八一
きたない下駄ぬいで法話の灯に遠く坐る 尾崎放哉
ぎぼし咲く山へ揃へて宿の下駄 神蔵 器
くちなはのしづかに下駄の方へ来る 岸本尚毅 舜
げんげ田に下駄さがすうち月が出た 青木健作 落椎
こゝ迄の下駄の跡ありんめの花 横井也有 蘿葉集
ごつたがえす雪靴雪下駄わが喪なり 寺田京子 日の鷹
さくら紅葉相模の泥に下駄穿つ 『定本 石橋秀野句文集』
しぐるるや遠き日まろぶ飼屋下駄 加藤 春彦
すさましや花見戻りの下駄の音 花見 正岡子規
それぞれの冬や牝鶏下駄を踏み 中村草田男
たかぶりの音かたかたと踊り下駄 稲畑汀子 汀子第二句集
つばくろ飛び新しき下駄はこの中 中山純子 沙羅
どこにでも下駄で行く父芋嵐 國分水府郎
どこやらに下駄ぬぎ忘れ春の山 春の山 正岡子規
どぜう屋の主下駄ばき春の昼 西堀貞子
なりはひの下駄の片減り啄木忌 鈴木真砂女
ぬかるみに下駄とられけり酉の市 高橋淡路女 梶の葉
ぬぎすてた下駄に霜あり冬の月 冬の月 正岡子規
ぬり下駄を光らせあゆむ夜の秋 松村蒼石 寒鶯抄
ねずこ下駄かちかち鳴つて鳴海しぼり 伊藤敬子
のうぜんのことのはじめに女下駄 田中裕明 花間一壺
はつらつと左右違う下駄はく子もじやんけん 橋本夢道 無禮なる妻抄
はり下駄の踵逃げすや蓼の花 石塚友二 方寸虚実
ひつそりと冷えの到りし父の下駄 角川春樹
ぶらんこ漕ぐ下駄裏冬濤旅人へ 香西照雄 対話
ほきとをる下駄の歯形や霜柱 夏目漱石 明治三十四年
みぎひだり下駄履き換ふや土ぬくし 川口重美
みごもりて寒厨に下駄濡れ易し 榎本冬一郎 眼光
みちのくへ涼みに行くや下駄はいて 納涼 正岡子規
やぶ入やいさむ駒下駄に鞭うちて 藪入 正岡子規
やや寒や一人世帯の土間の下駄 鈴木真砂女
ゆく春や下駄箱にある亡妻の靴 荒巻大愚
ゆるい鼻緒の下駄で雪道あるきつづける 尾崎放哉
よろめいてよろめきぐせの雨の下駄 高柳重信
をんな下駄履いてこらるヽ牡丹かな 藤田あけ烏 赤松
ガタの来し下駄箱霧の共同湯 高澤良一 素抱
ポストまで無月の下駄を鳴らしけり ト部純栄
一つ葉や履いてつめたき男下駄 小林篤子
一茶忌の下駄に重たき墓地の土 加藤知世子
三月の桑畑のぼる男下駄 桜井博道 海上
三月の素足や下駄の緒の大き 兼巻旦流子
下駄ありて人なき池の花藻哉 藻の花 正岡子規
下駄うづまりて椿折りたる砂地かな 雑草 長谷川零餘子
下駄からり〜夜永のやつら哉 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
下駄であがる宮の廊下や散松葉 散り松葉 正岡子規
下駄であがる社の椽や散松葉 散り松葉 正岡子規
下駄にのる踵小さし菊日和 鈴木真砂女
下駄に足袋の混血児連れ日本の祖母 田川飛旅子 花文字
下駄ぬいでふんでも見たり春の草 春の草 正岡子規
下駄のはな緒たてて待けり子規 丸石 選集「板東太郎」
下駄のまゝ滝のながれを歩き見し 阿部みどり女 笹鳴
下駄のまゝ足濯ぐ雨の杜若 比叡 野村泊月
下駄の上靴のつてをり避暑の宿 上野泰 春潮
下駄の冷え銀河でてくる野づらかな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
下駄の歯にはさまって来る早春 赤萩文祐子
下駄の歯に刈田の泥を吸ひ上げし 室積波那女
下駄の歯に石つまりたる四迷の忌 市原たけし
下駄の歯の石除くとき鳥渡る 石川文子
下駄の歯を蹴欠いて戻る師走かな 鳳朗
下駄の痕残る渚や誓子の忌 小林青波
下駄の緒きつき脛にぶつかり青蛙 下田稔
下駄の雪土間佗しさよ葱をむく みそ萩(古屋夢拙俳句抄第一集) 古屋夢拙
下駄の音ころんと一つ秋深し 富安風生
下駄の音勝気に冬を迎へけり 鈴木真砂女
下駄の音外は月夜と覺えたり 月夜 正岡子規
下駄の音子供がかけるしぐれ哉 小澤碧童 碧童句集
下駄の音脳に響きつ夜寒けれ 石塚友二 方寸虚実
下駄はいてくる外人はヨットマン 山本歩禅
下駄はいて夫は床屋へ日脚伸ぶ 石川宏子
下駄はいて温泉町の宵の遍路衆 草雲雀 柳原極堂
下駄はいて竹積む上に涼みけり 鈍太楼
下駄はいて行くや焼野の薄月夜 焼野 正岡子規
下駄はけば父の音する墓参り 仲間カズヱ
下駄ひきて初金比羅の石だたみ 村沢夏風
下駄もぬがず足を入れたる清水哉 寺田寅彦
下駄やトマト漂ふ海の親しさよ 津田清子 礼 拝
下駄を履く双六はやく上がり過ぎ 伊藤白潮
下駄作る街の裏道鳳仙花 田島蔦子
下駄借りて出て聴いてゐる仏法僧 小室善弘
下駄借りて宿屋出づるや朧月 朧月 正岡子規
下駄先に艶の集まる阿波踊 上原白水
下駄履いてすずしき河岸の往還り 尾村馬人
下駄履いて丈高きかな猿廻し 高浜虚子
下駄履いて人呼びに出る蓼の花 吉田汀史
下駄履いて童女子すずめ歩きかな 田中北斗
下駄履いて酒買ひにゆく柿若葉 山本洋子
下駄履のそこら歩きに椋鳥の空 藤田湘子 てんてん
下駄履や春光をぬひ蕎麦屋まで 加藤 隆一
下駄探す一人の肩が恥じている 赤城さかえ句集
下駄揃へある秋冷の山廬かな 森田公司
下駄洗ふ音無川や五月晴 五月晴 正岡子規
下駄番のひとりはなれて汐干かな 汐干狩 正岡子規
下駄穿いてゆく秋風の道硬く 瀧春一 菜園
下駄穿いて浜に出てをり日照草 鈴木しげを
下駄箱にいたく似合ひぬ猫じやらし 攝津幸彦 鹿々集
下駄箱に一夜預り兜虫 中西舗土
下駄箱に下駄は老いつつ桐咲けり 桑原三郎「不断」
下駄箱に桐の下駄ある薄暑かな 細見 綾子
下駄箱に河童がいると思う雨月 平島一郎
下駄箱に白緒がひとつ寒灸 石田勝彦 秋興
下駄箱に逢ひ来しブーツ二つ折り 辻桃子
下駄箱の別れそのまま卒業す 田口風子
下駄箱の奥になきけりきりきりす 蟋蟀 正岡子規
下駄箱の底になきけり蟋蟀 蟋蟀 正岡子規
下駄箱の蓋ひとつ取れ大試験 藺草慶子
下駄箱の遠い花野と汽笛かな 鳴戸奈菜
下駄箱の靴みな干され雲の秋 嶋田麻紀
下駄脱ぎすて夏草の子となりゆけり 原田喬
下駄買うて箪笥の上や年の暮 荷風
下駄音の勝気に冬を迎へけり 鈴木真砂女
下駄鳴つて水屋ともれり茄子の花 長谷川櫂 古志
下駄鳴らし過ぐ老獪な冬木のそば 橋石 和栲
下駄鳴らすごとし古刹の山蛙 高澤良一 ぱらりとせ
両国に古りし下駄屋や冬の雨 一透
久々の足袋に履く下駄探しをり 岡安仁義
二三朝下駄のおもさよ暑に負けて 馬場移公子
五月晴左右で違ふ下駄の音 嶋澤喜八郎
五月雨や下駄屋の前で下駄をきる 五月雨 正岡子規
五月雨や水汲みに行く下駄の跡 五月雨 正岡子規
人妻の突つかけ下駄や独活の花 清水基吉
伊香保下駄買ふや春夜の子等の数 佐野青陽人 天の川
作務衣着て下駄はいてさて葱坊主 鈴木鷹夫 春の門
借る下駄に誰ぞのぬくみ大師講 山下鴻晴
傘にふり下駄に消けり春の雪 横井也有 蘿葉集
僧の下駄尼僧の草履落椿 鍵和田[ゆう]子 未来図
僧坊の糺せし下駄や石蕗の花 国井遭子
元日の母に桐下駄揃へけり 小川原嘘帥
先生の下駄履いてみる冬紅葉 斉藤夏風
冬枯に天狗の下駄を蔵す寺 山田弘子 こぶし坂以後
冬桜庭下駄厚く奈良に在り 桂 信子
冬梅や母の履き古る日和下駄 河久保喜秋
冬蝶や日向にひさぐねずこ下駄 村上 光子
冬風に下駄も結べる鵜籠かな 飯田蛇笏 霊芝
冴え返る土にこたへて下駄の音 青峰集 島田青峰
冷まじや軍艦のそば下駄流れゆき 納漠の夢
凍どけやかし下駄もある下向道 正岡子規
切れし下駄すげゐて雁に啼かれけリ 安住敦
切火して桐下駄おろす盆祭 乾佐和子
初詣あかつきくらき男下駄 石橋秀野
前管猊下朱塗の下駄が日向ぼこ 結城美津女
十万の下駄の歯音や阿波おどり 橋本夢道 無類の妻
卒業の日の下駄箱を閉める音 長島富郎
取的の下駄響かせる薄暑かな 大野英雄
合歓の花母と連れ立つ宿の下駄 中村衣江
合歓咲けりふるさと乙女下駄小さし 西東三鬼
君来る夏服に下駄かる〜と 佐藤紅緑 花紅柳緑
四万六千日片べりの男下駄 長谷川久々子「花香」
地蔵湯の秋の灯洩るゝ女下駄 高澤良一 随笑
坂めくに下駄爪尖の時雨かな 松根東洋城
塗り下駄に妹(いも)が素足や今朝の秋 井上井月(1822-86)
塗り下駄に妹が素足や今朝の秋 井月の句集 井上井月
塗下駄の方へと桜ちりにけり 一茶
塗下駄の湿りや萩の露曇 尾崎紅葉
塗下駄の音の愛染詣かな 高見岳子
塗下駄の音やかんじてちる桜 一茶
塗下駄は津軽の音いろ花あかり 平井さち子
塩田を下駄履き通ふ盆やすみ 佐野まもる 海郷
売れもせず赤い鼻緒の滑り下駄 川崎展宏
夏の夜や木魂に明くる下駄の音 松尾芭蕉
夏書僧下駄つつかけて現れぬ 坊城としあつ
夏痩て庭下駄太き門の外 中川 富女
夏痩の薬採りにまかる日和下駄 尾崎紅葉
夏草や小石や下駄に喰ひ込んで 原子公平
夏負けのなごりの下駄を履き出づる 藤田あけ烏 赤松
夕ぐれに馬下駄とめん庭の雪 笑薄 選集「板東太郎」
夕紅葉柾目正しき男下駄 笹瀬節子
外股の下駄の減りぐせ夏立ちぬ 山崎重雄
夜々澄みて郡上踊の下駄の音 橋本榮治 麦生
夜の底にやがてはぐれて踊下駄 湯川雅
夜店へと紅き鼻緒の下駄履いて 川口咲子
夜神楽は果てるか下駄の氷る音 許六
大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波 『骰子』
天行は下駄の上なり梅の花 永田耕衣 人生
女ありく春の砂原下駄を没す 春 正岡子規
女下駄はきて其処まで一葉忌 伊豆三郷
女下駄はきて煖爐の火をおとす 横山白虹
妹が垣根古下駄朽ちて落葉哉 落葉 正岡子規
妻の下駄履いてポストヘ鏡花の忌 千田一路
妻泣かせ出づるや固き下駄はきて 播本清隆
子供下駄吊して売るや春の風 鈴木真砂女 生簀籠
学僧の下駄並べあり冬安居 樹下敏諦
実朝忌波の上なる女下駄 川崎展宏
実梅*もぐ下駄戞戞と蟻払ひ 亀井糸游
宿の下駄鳴らして渡る渓紅葉 斎藤正仁
宿下駄に波ふくれ来る島薄暑 毛利憲子
宿下駄に草紅葉踏むところまで 山田弘子 懐
宿下駄の片減りて踏む花火屑 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
宿下駄の足に馴染まず十三夜 岡村文恵
宿下駄を揃へて去りぬ潤目売り 小川千賀
宿坊の下駄の感触木葉木莵 新家保子
寄鍋や下駄からころと路地通る 辻田克巳
寒月光下駄の揃へてありにけり 赤澤新子
寿福寺に下駄の音して石蕗の花 小圷健水
小相撲の下駄音ひびく花曇 長屋せい子
居風呂を焚くや古下駄枯芒 枯薄 正岡子規
履かぬまま桐下駄古りぬ一葉忌 田中 珠生
履きへらした下駄で草原の秋を踏んで来た 人間を彫る 大橋裸木
履き馴れし下駄の響や初詣 堤 俳一佳
川暮れて郡上をどりは下駄をどり 脇屋善之
広下駄に乗れば父らし潮浴びヘ 香西照雄 対話
広下駄の左右行くや秋涙あり 永田耕衣 物質
店閉づといふ盆下駄をどかと喜捨 赤松[ケイ]子
庭下駄がひんやり美男葛の実 川崎展宏
庭下駄になじめぬ日なりうそ寒し 田中祥子
庭下駄に柾目のとほり蝉時雨 片山由美子 水精 以後
庭下駄に犬の歯型や地虫出づ 高城圭子
庭下駄に茶の花摘まん霜日和 茶の花 正岡子規
庭下駄に草蜉蝣をおどろかす 塚田文
庭下駄に萩蔽ひかゝる茶室かな 寺田寅彦
庭下駄に足のせ初夏の縁に腰 星野立子
庭下駄の下にもちちろ鳴いてをり 藤原弘心
庭下駄の木目くっきり寒の月 白井万恵
庭下駄の歩き出しさう夜の梅 前田静枝
庭下駄の爪先濡れて花茗荷 竹田青雨
庭下駄の緒に来てとまる秋の蝶 吉屋信子
庭下駄の蹠になじむ今朝の秋 秋枝蕭子
庭下駄の重きあゆみや露の萩 荷風
庭下駄の音をたのしむ盆帰省 木内彰志
庭下駄の音をはばかる星月夜 池永洋子
庭下駄は亡き夫のまま落し文 村山 方
庭下駄をみな履いて萩がくれゆく 大橋櫻坡子 雨月
庭下駄を用意枯菊焚く用意 稲畑汀子
庭下駄を雨濡らしゐる昼寝覚 西山 睦
引鶴やと暮か暮や日和下駄 加藤郁乎 佳気颪
強面(こわおもて)なる桐下駄の今年かな 永田耕衣 葱室
彼岸会や身内の下駄を一纏め 久米幸叢
待宵や箱から出して桐の下駄 藤井恒子
思想展高校生ら下駄を鳴らし 岸風三楼 往来
恋いまだなき子の下駄や春の山 原コウ子
恋すてふ顔の踊りの下駄鳴らす(郡上踊) 殿村菟絲子 『菟絲』
恵方への下駄にて渡る橋一つ 千田一路
手毬つくはこせこの鈴下駄の鈴 松藤夏山 夏山句集
手花火の子が好み履く母の下駄 大熊輝一 土の香
挿木辺やこま〜踏みて下駄の跡 西山泊雲 泊雲
捨石や下駄の枯葉の庭の霜 曲言 選集「板東太郎」
揃へある一夜かぎりの踊り下駄 染矢恵二
散りかけた花におそろし下駄の音 散桜 正岡子規
文七が下駄の白さよ春の月 一茶 ■享和二年壬戌(四十歳)
斑猫や童女にゆるき湯治下駄 川崎 俊子
斑雪風手に載せて買ふ桐の下駄 石川サト子
料峭や真砂女の下駄の音消ゆる 吉田 昌
新しき下駄の柾目の淑気かな 西田飄石
新品の下駄を履きたる啄木忌 國分水府郎
新婚の夏や緒つよき男下駄 中山純子 沙羅
新涼や朝湯帰りの下駄の音 清水和子
日に並ぶ庭下駄ぬくし菖蒲まで 室積波那女
日盛の塗下駄ぬげば曇りかな 杉田久女
日車に下駄へらし来る猿廻し 阿部みどり女 笹鳴
星月夜外湯へ借りる男下駄 西原真佐子
星祭夫婦の下駄の新しく 館岡沙緻
春昼や尼ぜの下駄の白鼻緒 高濱年尾 年尾句集
春近し廻国どもが下駄の泥 飯田蛇笏 霊芝
春雨に下駄買泊瀬の法師かな 蕪村遺稿 春
春雨やゆるい下駄借す奈良の宿 蕪村
昼深く元日の下駄おろすなり 千葉皓史
月に稲運ぶ田下駄の水の音 羽部洞然
月に雲下駄はいて出る義士会 藤倉哲夫
月ほそし柿くひながら下駄ならし 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
月夜なり買ひ来て下駄を眺める妻 中村草田男
朝寒の神道のぼる下駄の音 高澤良一 ももすずめ
朝桜坊ちやんの湯へ下駄はいて 陣場孝子
朝焼や砂丘下げゆく宿の下駄 有働亨 汐路
朝霧に散歩の下駄の緒の緩し 高澤良一 素抱
朝顔も双葉や下駄を出してみる 横澤放川(萬緑)
木に掛けしままの田下駄の冬に入る 西形佐太郎 『てんご』
木の下に下駄脱いである秋の暮 敏雄
木曾泊浴衣に軽きねずこ下駄 的場 敏子
木枯れたり深夜下駄曳く街はづれ 石塚友二 方寸虚実
朴歯下駄鳴らし戻りぬ子の良夜 伊藤いと子
東風の岸下駄をつないで持つ子かな 阿部みどり女 笹鳴
枕の下雁木にこもる下駄の音 星野潔子
枯山中木曾の香のしてねずこ下駄 奥田恵美 『再度山』
柊の花こぼれゐる下駄履かな 飴山實 辛酉小雪
柳枯れて屋根干しの下駄木おろしけり 冬葉第一句集 吉田冬葉
栗飯や下駄ぬぐきはに菊の花 菊 正岡子規
桐一葉下駄にかゝりし庭の闇 室積波那女
桐下駄に母の指跡しむ晩夏 中尾杏子
桐下駄の細き鼻緒や傘雨の忌 田中幹也
桐下駄の輪積み傾く鳥曇 佐藤俊子 『雪の本丸』
桐下駄の音を追ひゆく蛍狩 橋本榮治 逆旅
桐下駄を後ろに跳ねて阿波踊 福本愛子
梅さくや泥田の中の下駄の跡 梅 正岡子規
梅雨の庫裏白き鼻緒の利休下駄 友正義子
櫻より高く駅ある日和下駄 高橋睦郎 稽古
正月の下駄の音する飛騨の峡 前田普羅 飛騨紬
正月や下駄新しき小百姓 川村鳥黒
水撒くもいつしん父の小さき下駄 桜井博道 海上
水無月の下駄の鼻緒の雫かな 石黒一憲
水無月や素足の下駄は浅く履く 行廣すみ女
河骨や吾が青春は下駄なりし 藤後左右
法印の朱き雪下駄修正会 加藤三七子
波郷忌の女下駄ゆく吾妻橋 橋本榮治 麦生
泥稲をかかへ田下駄をひきずれり 大野林火
洗はれし下駄幾そくや年くるゝ 碧童
洗ひあげて正月下駄の二足かな 皆川白陀
洪水や下駄も真桑もほかほかと 甜瓜 正岡子規
浜下駄の鼻緒の濡れて芋の花 平野無石
浴衣の子足に馴じめぬ下駄はいて 渕沢信子
涼しさは端の欠けたる僧の下駄 川崎展宏
渡し場や下駄はいてのる舟の霜 霜 正岡子規
湯上りの庭下駄軽し夏の月 芥川龍之介
湯浴み後の下駄冷たしや夕河鹿 手島 靖一
濡縁と下駄と手花火そして母 名井ひろし
焼下駄や縮羅(しじら)にとほる宵の蟲 高橋睦郎 稽古
焼印が素足くすぐる宿の下駄 岩木秋水
煤拂ひ又古下駄の流れ來る 煤払 正岡子規
父の下駄履く少年や揚花火 保田芳子
片蔭や下駄となる木の井桁積み 近藤タヅエ
牛若の下駄の跡あり橋の霜 霜 正岡子規
犬ふぐり朝の餉に下駄鳴らしゆく 角川源義
狢出ではや庭下駄の失せてをり 伊與愛子
猛犬である下駄箱は町を映し 西川徹郎 家族の肖像
猿田彦下駄脱ぎ来たる六夜待 山田春生
獅子舞を見にゆく赤い下駄はいて 橋本鶏二 年輪
玄関にころがつてゐる下駄の雪 林澄山
玄関に靴やら下駄やら三河万歳 星野昌彦
玄関や拝観人の下駄の露 比叡 野村泊月
田下駄に足引つぱられ稲抱へ出す 大熊輝一 土の香
田下駄びと寒き顔して振り向ける 羽部洞然
田下駄曳く百姓の児よ寝にゆきぬ 村上しゆら「風祭」
町を守れとどしや降りを来た下駄が並ぶ 古沢太穂 古沢太穂句集
白藤や下駄箱の蓋しまりきらず 加倉井秋を 午後の窓
白足袋に狭目の下駄も好みかな 野村喜舟
盆休み緒のやはらかき母の下駄 藤田かよ子
眼の前に脱かれし下駄や日向ぼこ 飯田蛇笏 霊芝
石棺に下駄音高き帰省かな 吉本伊智朗「柝頭」
石段に下駄の谺や山椿 池内たけし
祖国あり凍夜の下駄の音を拾ふ 小倉緑村
神楽果て闇打つてゆく下駄の音 奈良文夫
祭の夜旅行者下駄を愛し出づ 平井さち子 完流
福引へ下駄かつかつと集ひたり 広瀬一朗
秋めくと下駄履き出づる駒場駅 石田波郷
秋出水石鼎の下駄没したり 萩原麦草 麦嵐
秋深き下駄幅決めし人を愛す 永田耕衣 葱室
秋雨や蟷螂蹂る下駄の跡 島村元句集
秋風や下駄流したる最上川 秋風 正岡子規
秋風や古下駄浮ぶ浪がしら 岡本松浜 白菊
秋風や吹くだけ吹いて下駄一足 永田耕衣 泥ん
稲刈り終へ田下駄に供ふ小豆粥 西形佐太郎 『てんご』
積み上げて桐下駄の塔月の塔 加倉井秋を
積塔や下駄でふまるゝつぼ菫 東 以
空梅雨の下駄箱の戸をがらがらり 高澤良一 燕音
穿き馴れし下駄の片べり花の冷え 石川文子
突然に下駄箱を動かし愛の恐怖 仲上隆夫
立冬や音はねかへる厠下駄 大熊輝一 土の香
立待月や狐が下駄を盗りに来る 金久美智子
竿灯担ぐ下駄の歯一本男意気 岡本喜美
笹酒を受く雪下駄の女たち 河合佳代子
笹鳴や青道心の日和下駄 乙字俳句集 大須賀乙字
箱の如き庭下駄のあり夏座敷 前田普羅
緒の切れし下駄捨てゝある冬田かな 冬田 正岡子規
緒の延びた下駄かりて来る寒さ哉 多代女
縄の緒の庭下駄一つ放哉忌 山本みゆき
縋り合ひて雪を叩くや下駄と下駄 左衛門句集 吉野左衛門、渡邊水巴選
聞き送る君が下駄遠き氷かな 氷 正岡子規
芭蕉忌の下駄多き庵や町はづれ 芭蕉忌 正岡子規
花冷えや赤きはなをの巫女の下駄 時田稚枝子
花栗に巨き桐下駄置かれあり 石寒太 炎環
花桐の琴屋を待てば下駄屋哉 桐の花 正岡子規
芽をふかぬ小庭淋しや下駄の跡 芽立 正岡子規
苔涼し平泉先生の白緒下駄 桂樟蹊子
若衆が上げる鉄下駄雪柳 川崎展宏
茶屋の下駄はいてそこらを秋の蝶 高濱年尾 年尾句集
草市へおろして軽き桐の下駄 中山純子
荷風忌や豆腐屋までの日和下駄 桑島 蟆
菊月や備後表の下駄買はむ 鈴木真砂女
菖蒲湯へ旦の下駄のあとしるく 大橋櫻坡子 雨月
菖蒲湯へ来る少年の女下駄 小野冬虹子
菖蒲見るにぬいで下駄貸す女あり 鳥の巣 松瀬青々
落ち毛虫病後の下駄の踏み迷ふ 鍵和田[ゆう]子 未来図
葱坊主鼻緒の切れし下駄さげて 石川文子
薔薇剪って庭下駄重き病上り 蘇山人俳句集 羅蘇山人、村山古郷編
薫風や下駄の低さの恥しく 野村喜舟 小石川
薮入の姉の下駄履き野菊摘む 南 南浪
藤寺の裏に田下駄の干されをり 佐川広治
藪入の姉の下駄履き野菊摘む 南南浪
虫の夜の名札付けたる男下駄 飯田龍太
蚊遣火の音よく戻る日和下駄 野村喜舟
蚯蚓出て高下駄を鳴りとどろかす 長谷川かな女 花寂び
蜥蜴出づ天狗下駄干す神宮寺 武田孝子
蝙蝠の糞下駄箱に阿弥陀寺 佐野みつ
蟻あそぶ神官脱ぎし白緒下駄 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
行き合うて共に下駄好き青芒 友岡子郷 翌
行春やゆるむ鼻緒の日和下駄 永井荷風
裏見せて下駄浮く堀辺布団干す 北野民夫
裕忌や故郷へ帰る下駄の音 田宮真智子
裾かゝげ夏川わたる下駄ながら 夏川 正岡子規
親鸞忌人の温みの下駄借りる 西島民江
角乗りの下駄乾く木場冬に入る 村山敏行
試に下駄の高きに上りけり 鉄僧
試みに下駄の高きにのぼりけり 鉄僧 五車反古
護岸に下駄ひびき片蔭こくなれる 川島彷徨子 榛の木
貝塚や土に下駄くふ春の雨 春の雨 正岡子規
貸下駄の客を待ちゐて長閑なり 赤尾恵以
踊下駄踊りはじめの緒がきつし 佐野美智
踏青や草履駒下駄足袋はだし 青き踏む 正岡子規
身籠って薄暑の下駄を脱ぎ散らす 綾野南志
送水会堂に揃へし天狗下駄 石川義介
通ひ妻梅雨の下駄音紛れなし 石川桂郎 含羞
逝きし彼の下駄も焚火にくべらるる 肥田埜勝美
道場に女下駄あり初稽古 高橋淡路女 梶の葉
達磨忌の集ひにまじる女下駄 川端青踏
遠ざかりゆく下駄の音十三夜 久保田万太郎 流寓抄
邯鄲を聴きにひきずる下駄の音 高澤良一 ねずみのこまくら
郡上八幡宿に溢るる踊り下駄 古川昭子
金鳳華番所の跡に下駄干せり 高木良多
鈴虫を聴く庭下駄の揃へあり 高浜虚子
鈴虫坂の鈴虫、宿の下駄であるく 荻原井泉水
銀杏散るバスケット・シューズ下駄箱に 鈴木栄子
錢湯で下駄換へらるゝ夜寒かな 夜寒 正岡子規
長き夜やつゝかけ下駄の土間の音 島村元句集
門々の下駄の泥より春立ぬ 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
門へ来て下駄鳴らしけり夜の雪 菊舎尼
門畑や下駄はきながら木わた取 樗良
防波堤のコンクリートに下駄なづまず 藤後左右
陽炎や手に下駄はいて善光寺 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
陽炎や青邨の下駄虚子の下駄 深見けん二 日月
階や下駄を草履に春の風 松根東洋城
雛僧の下駄並べゐる施餓鬼かな 星野立子
離室には女の下駄や秋海棠 斉藤洋圃
雨の椿に下駄辷らしてたづねて来た 尾崎放哉
雨やんで下駄はいて行く厄詣 やしま季晴
雨国に巨き下駄売る年の暮 白井新一
雨音を確かめて出る花の下駄 稲畑廣太郎
雪の下駄竹垣にかけ隠棲地 鍵和田[ゆう]子 未来図
雪の朝二の字二の字の下駄の跡 捨女
雪下駄が雪噛み町へのバス待つ間 米田一穂
雪下駄で金時女房滑走する 秋沢 猛
雪下駄にすべり止め打つ雪をんな 鳴瀬芳子
雪折竹うらみや下駄の緒に残す 調鶴 選集「板東太郎」
雪虫や田下駄を山の神に吊り 柴田冬影子
雲衲は棕梠緒の下駄や蓮の花 河野静雲 閻魔
霙るゝや籬の方へ下駄の跡 西山泊雲 泊雲句集
霜晴れに下駄履き出づや畏るゝごと 小林康治 四季貧窮
霜月や下駄の音冴ゆる大通り 寺田寅彦
霜解けや下駄の緒切れし畷道 寺田寅彦
霜解や杭にふるふ下駄の土 霜解け 正岡子規
霜除や下駄の鼻緒の朱も失せて 田中裕明 山信
露の地やもう誰のでもない下駄一つ 成田千空 地霊
面掛の「天狗」の高下駄のっしのし 高澤良一 燕音
風かをる庭下駄のさきを蟹にぐる 滝井孝作 浮寝鳥
馬下駄やひけどもあがらず厚氷 常矩
馬下駄やまた霧分くる湯殿道 言水
駒下駄が御堂筋ゆく祭かな 山田弘子 こぶし坂
駒下駄に桜落葉を蹴りもして 上村占魚 鮎
駒下駄の橋わたりくる初不動 角川春樹
駒下駄を突つかけて出る夜の秋 川崎展宏
鰯雲つつかけて出る女下駄 川崎展宏
鰯雲下駄を鳴らして子を呼びに 桂樟蹊子
鳴川の戸に寄る鹿や下駄の音 黒柳召波 春泥句集
鳶になり下駄スケートの子ら早し 松田ひろむ
鶯や下駄の歯につく小田の土 凡兆
黒塗りの下駄爪立てて阿波をどり 見浦町子
鼻緒無き下駄のさすらう真菰池 佐藤文子
龍雨忌や歯のゆるびたる日和下駄 田口農夫
●サンダル
お揃ひの白きサンダル双生児 斎藤夏子
サンダルがそつとまたいだ初氷 河野勝二
サンダルで本屋を覗く四温かな 石川文子
サンダルで青鬼灯を提げてくる 小野啓々
サンダルのプラトン曰く真・善・美 高澤晶子
サンダルの人の入りゆく文部省 岸本尚毅 舜
サンダルの浜に捨てあり夏の果て 岡村 匡
サンダルの革紐きつき巴里祭 磯貝碧蹄館
サンダルは晩夏の海を漂うもの 倉持祐浩
サンダルを履き違へ来し甚平着 高澤良一 素抱
サンダルを履く裸子や基地の町 木場田秀俊
サンダルを編む睡蓮のほとりかな 天野小石(天為)
亡き母のサンダル借りて落葉掃く 高野美奈子
子のぬぎし月夜のサンダル裏ばかり 石寒太 翔
懺悔して白きサンダル穿きて去る 津田清子 礼 拝
晩夏光サンダル白くデッキ踏む 冨田みのる
横須賀のサンダル履きの開国祭 高澤良一 素抱
法廷にサンダルで行く冬ひでり 角川春樹
足入れてサンダル小さき日向ぼこ 依光陽子
●草履
*こほろぎや草履べたつく宵使ひ 富田木歩
*ばい廻すときは必ず草履穿く 後藤比奈夫
あやめ草足に結ばん草履の緒 松尾芭蕉
いい色に日暮るる礼者草履かな 本庄登志彦
きざはしの下観桜の庭草履 後藤夜半 底紅
こほろぎや草履べたつく宵使ひ 木歩
しめなほす奥の草履や冬の月 惟然
ちらぬ木葉音を分けけり皮草履 調川子 選集「板東太郎」
なまはげの脱ぎし草履を揃へをり 伊藤絹子
ぬけたりな清水が本の片草履 服部嵐雪
はきながら草履を洗ふ清水かな 立花北枝
はでやかにお練り奴の投げ草履 西本一都 景色
また一人草履隠され一葉忌 二村典子
まばたきの少し重たき草履虫 長崎静江
みみず鳴く草履編みため編みため死に 武田伸一
むしり羽の草履うづむる鳥屋場かな 大橋櫻坡子 雨月
ものもへば春の草履の重き足 稲垣きくの 黄 瀬
ゴム草履水鉄砲でぬらす日々 細見綾子 花寂び
七夕に草履を貸すや小傾城 七夕 正岡子規
三月や廊の花ふむ薄草履 飯田蛇笏 山廬集
世を越えてしまう草履のはき心地 板垣鋭太郎
五月雨や扉の外の蔵草履 楠目橙黄子 橙圃
亡き母の草履いちにち秋の風 飯田龍太 忘音
亡き祖母の草履小さし春の土 古賀まり子
亡父の草履母に余れり落葉掃く 吉野義子
作務草履ならべ干しあり冬安居 芋川幸子
借りてはく藁の草履や苺摘 今井つる女
借りて履く楽屋草履や花の塵 稀音家塔九
倫敦の春草を踏む我が草履 高浜虚子
僧の下駄尼僧の草履落椿 鍵和田[ゆう]子 未来図
僧正の白緒の草履初蝶来 大石悦子 聞香
冬鵙や足になじまぬ露地草履 斉藤小夜
冷やかに病院草履地をふめば 飯田蛇笏 春蘭
冷やかや土間に脱ぎある藁草履 田中冬二 麦ほこり
出這入りや蚕部屋草履の脱ぎ揃ヘ 楠目橙黄子 橙圃
初釜へおろしぞめなる草履かな 近藤紀代女
古池に草履沈ミてみぞれ哉 與謝蕪村
古草履寒水に澄み聖農奴 香西照雄 対話
向き合はす僧の草履や日脚伸ぶ 松本ヤチヨ
土落として又履く草履豆の花 龍胆 長谷川かな女
報恩講厠の草履はきしまま 大西尚子
塩の道新藁草履の緊り緒や 平井さち子 鷹日和
墓地抜けて潮浴びにゆくゴム草履 森重 昭
夏夕ベ淡竹草履にはやも慣れ 宇多喜代子 象
夏川を越すうれしさよ手に草履 蕪村
夏惜しむもののひとつに浜草履 能村登四郎 寒九
夏河を越すうれしさよ手に草履 蕪村「蕪村句集」
夏祓海女が脱ぎたる濡れ草履 門伝史会
夕焼の山を駈けゆく草履の子 神崎聖徳
夕立や砂にまみれし庭草履 竹久夢二
夕薄草履さげて人うろうろす 薄 正岡子規
夕鰺をくれてひたひたゴム草履 能村登四郎
大寒や白緒草履の足捌く 村野秋果
妙義嶺の風に干しある簗草履 岡村葉子
安居寺厠草履のうすべつた 高澤良一 さざなみやつこ
宝恵駕を降りる草履をそろへけり 長谷川素逝
寒垢離の串ざしに干す濡草履 福田蓼汀
寒垢離の草履干しゐる寺男 伊藤美音子
小春日の社務所草履の裏を干す 秋を
屋根葺の草履であがる熱哉 正岡子規
干草の月夜草履の緒がゆるむ 中拓夫 愛鷹
御所の雨菊拜觀の草履哉 菊 正岡子規
御降に尻ぞ濡れ行く草履取 寺田寅彦
打水や草履ぬれたる庵の内 妻木 松瀬青々
打水を踏みてなじます藁草履 大熊輝一 土の香
抜たりなあはれ清水の片草履 服部嵐雪
探り履くつめたき草履飼屋更く 福田蓼汀 山火
揃え脱ぐおわら流しの草履に名 高澤良一 宿好
換えられし厠草履や冬ごもり 五十嵐播水 播水句集
日運ぶ燕草履袋が壁に咲いた 磯貝碧蹄館 握手
旱月草履の音の門を出づ 大熊輝一 土の香
春の夜や草履に軽き町歩き 松浜
春の日や雪隠草履の新しき 一茶 ■文化五年戊辰(四十六歳)
春惜しみ出でしか草履消えてをり 赤松[ケイ]子
春昼やひや〜として貸草履 五十嵐播水 埠頭
昼顔に海女身をいとふ磯草履 野澤節子 花 季
暮遅き四谷過ぎけり紙草履 芭蕉
月きよし利根に沿いゆく藁草履 古沢太穂 古沢太穂句集
朝の戸の草履つめたし柚の花 細木芒角星
朝市の胼の手に編む布草履 中田勘一
木場衆のつゝかけ草履宵閻魔 岸巴波
木履あまた草履も見えて彼岸寺 廣江八重櫻
朽つるまで吊れる草履か夏遍路 伊藤秀雄
村涼し飼屋の草履見えてをり 大峯あきら 鳥道
東風吹くや舸夫に穿かるる藁草履 野村喜舟
松落葉草履の裏にやはらかし 堀澤臺子
松葉降るお庭草履をかりにけり 鈴鹿野風呂 浜木綿
枯菊に草履落とすや外厠 龍胆 長谷川かな女
栗の宿重き音する上草履 龍胆 長谷川かな女
梅が香や垣をへだつる草履取 立花北枝
梅咲や信濃のおくも草履道 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
死を想へ極彩色の浜草履 小澤實 砧
母の日の母の草履を揃へけり 小川原嘘帥
母の杖母の草履に春来れど 阿部みどり女
水取の異人に草履よろこばれ 阪東春歩
水含む落葉わび行く草履かな 黒柳召波 春泥句集
氷る夜や畳にしめる上草履 青蘿
氷を供ず草履素足の刺青師 友永佳津朗(雑木)
氷夜や畳にしぶる上草履 松岡青蘿
氷室守清き草履の裏を干す 前田普羅「新訂普羅句集」
沓脱に古りし草履や竹の秋 獅子谷如是
法皇の草履大きな花の院 後藤夜半
洋装で草履はく母終戦日 尾沼チヨ子
浜木綿や荒垣に干す磯草履 木村仁美
海胆採りの礁草履はき島教師 小原菁々子
海蘿掻潮垂草履ぺたぺたと 岡安迷子
海贏廻すときは必ず草履穿く 後藤比奈夫
涅槃図に蟠(わらぢむし)とも草履とも 小澤實
渓遊の草履も売りて氷店 佐藤星雲子
滝にゆく新藁草履堅作り 西本一都 景色
潮もて草履濯ぎぬ海蘿掻き 軽部烏帽子 [しどみ]の花
灌仏会ぬぎし草履はふところに 細見綾子 黄 炎
炎暑日の眠れるに似て脱ぎ草履 飯田蛇笏 椿花集
煤掃や脱ぎ忘れたる草履どこ 河野静雲 閻魔
物干の草履飛行く野分かな 泉鏡花
瓜小屋に人あるさまの草履哉 瓜 正岡子規
甚平には草履不慣れな歩き方 高澤良一 素抱
甚平着て間なし草履の鼻緒擦れ 高澤良一 寒暑
畔薊ぬぎ揃へある草履かな 西山泊雲 泊雲句集
皹や矢取りする子の藁草履 寺野竹湍
相撲取草履つっかけ総武線 高澤良一 寒暑
石に反る厠草履や初比叡 波多野爽波
石蕗咲くや海女の草履の脱ぎ捨てに 宮田正和
磯遊び踵のあまる草履買ふ 遠藤芳郎
秋は日向に気づきて草履うらかへす 飯田蛇笏 雪峡
秋千(ふらここ)に揺れつゝ草履ぬぎに鳧 内田百間
秋来ぬと知るや其手の古草履 会津八一
竹秋の古き草履や厠口 比叡 野村泊月
紫陽花に厠の草履かたきかな 雑草 長谷川零餘子
絨毯を踏み苜蓿を踏む草履 福田蓼汀 山火
緑蔭に脱ぎ揃へある草履かな 岸風三楼 往来
織娘たち身暑し草履はき平め 中島斌男
老の歩を固めて足袋と藁草履 藤田湘子 てんてん
船長の板裏草履みやこ鳥 永井龍男
芥より探す草履や注連作り 山田弘子 初期作品
芭蕉忌や草履になごむ月明り 水巴
芭蕉忌や草履になでむ月明り 渡辺水巴
花ふみし草履をぬいで絵踏哉 妻木 松瀬青々
花を蹈し草履も見えて朝寢哉 蕪村 春之部 ■ なには人の木や町にやどりゐしを訪ひて
花人の草履の塵に朽つる橋 西山泊雲 泊雲句集
花室や戸口に二つ上草履 岡本松濱
花川戸三社祭の草履売る 須賀允子
花蓼のつゆに小固き草履の緒 飯田蛇笏
若草や草履の裏に塵もなし 若草 正岡子規
若草を踏む赤き緒の草履かな 篠崎霞山
茸山の深き落葉に藁草履 松本たかし
茸狩の人等にほどく草履束 亮木滄浪
草の露夜舟を昇る草履哉 露 正岡子規
草履が片つ方つくられたばこにする 尾崎放哉
草履の尻折りてかへらん山桜 松尾芭蕉
草履の緒すこしかたくて花衣 山口波津女 良人
草履はいて薄雪ふみぬ松納め 梨葉
草履はたはたと日盛りの学校から戻つて来た子 人間を彫る 大橋裸木
草履売る隙(ひま)に見事や菊の花 立花北枝
草履虫くるりと閉づる溽暑かな 服部たか子「紙人形」
草芳しと見つゝや草履作るらむ 露月句集 石井露月
草萌ゆる尻きれし草履我妹 梅林句屑 喜谷六花
菊咲くやけふ仏参の紙草履 飯田蛇笏 山廬集
蓬摘まんといふ客に草履おろしけり 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
藁草履ははそ紅葉をひつかける 西野文代
藁草履みなよろこべり避暑散歩 山本さい
藍を掻く草履のままに神送 古舘曹人 樹下石上
虫聴きに箱根の嶺ろの山草履 長谷川かな女 花 季
蚕屋草履そのまゝ雨の軒づたひ 高濱年尾 年尾句集
蝉涼し水踏んて来た藁草履 尾崎紅葉
蝶とぶやしなのゝおくの草履道 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
衝突入のはき違へゆく草履哉 千家元麿 千家元麿句集
赤紐の草履も見ゆる秋の夕 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
踊の出草履をぬらす春時雨 金子伊昔紅
踊子や紅が淋しき草履の緒 月舟俳句集 原月舟
踏青や草履駒下駄足袋はだし 青き踏む 正岡子規
蹤いてくる草履の音や穴施行 下村槐太 天涯
逃げ易き手水の草履大石忌 山田弘子 懐
遅き日やひとへからげる草履道 高井几董
遊女屋の草履つめたし花菖蒲 田中冬二 行人
道端に脱ぎ捨て草履花の雨 野村泊月
道芝や遅き日を踏むなら草履 千渓
酒庫口のはき替草履寒造 西山泊雲 泊雲句集
釈奠の赤き草履の鼻緒穿く 大貫時余
野辺の草草履の裏に芳しき 芳草 正岡子規
関址の栗落葉付く草履裏 野澤節子 遠い橋
降雪に草履で旅宿出たりけり 一茶 ■寛政八年丙辰(三十四歳)
階や下駄を草履に春の風 松根東洋城
雛を出す鼻緒の紅き蔵草履 中田勘一 『雪礫』
雨の日のすることのなき草履あみ 長谷川素逝 村
雨上り菊拜觀の草履哉 菊 正岡子規
露地草履ほの湿りして蝸牛 池松昌子
露地草履より跳ね出でて青蛙 田守あき子
露地草履一葉拾へば苔厚し 及川貞
露地草履裏返したる炉の名残 飯田はるみ
青あらし天守に登る草履あり 前田普羅 新訂普羅句集
青簾すこしくゆらぎ露地草履 伊藤敬子「存問」
青苔に足をおろせる庭草履 綾部仁喜 樸簡
靴脱に女草履や沈丁花 水原秋桜子
風邪の神わが家に草履ぬぎて久し 上村占魚 球磨
餅花に金の草履のぬいであり 大野朱香
鮎の瀬へ下りる草履の社務所にも 後藤比奈夫 初心
鮎宿の裏より入る濡れ草履 渕 万寿子
鯖雲にをみなはためき磯草履 平井さち子 完流
鷺草や草履を通す宵の雨 東皐
麻がらの杖草履手向ん瓜の皮 洞雨 選集「板東太郎」
黄昏のおもき草履や桜人 梅亭
黒土や草履のうらも梅花 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
黴畳わたる草履のありにけり 河野静雲 閻魔
ぞうり買ふ小家うれしき汐干かな 蕪村
●地下足袋
こはぜ掛け緊る地下足袋鍬始 林昌華
みどりきれいな地下足袋の顔アヴェマリア 栗林千津
地下足袋に土筆の花粉水跳べば 大熊輝一 土の香
地下足袋に巻く荒縄や御柱 前川みどり
地下足袋に指先つめて冬菜洗ふ 沖田佐久子
地下足袋に草の霜つけ何に急く 大熊輝一 土の香
地下足袋のかかとも減りぬ年の暮 大熊輝一 土の香
地下足袋のほころびてをり年の暮 小浦遊月
地下足袋のまあたらしさや毛見の老 松本可南
地下足袋のまま味噌買ひに秋の暮 大熊輝一 土の香
地下足袋の一座を占むる花見酒 田中 俊尾
地下足袋の仕事賜はる鳥総松 小原紫光 『めくら縞』
地下足袋の先に挟まる草紅葉 太田土男
地下足袋の底が藻刈の舟支ふ 萩谷ただし
地下足袋の紺の匂ひて麦を刈る 門岩明子
地下足袋の紺の匂へる七日かな 北見さとる
地下足袋の紺来て朝顔市開く 島崎省三
地下足袋の裏のぬくめり厚落葉 大熊輝一 土の香
地下足袋の足裏仰がれ松手入 奈良文夫
地下足袋の跡の踏ん込み菖蒲の芽 行方克己 知音
地下足袋の逆さに干され蚊喰鳥 伊藤愛子
地下足袋の鞐ほつるる敷松葉 橋本榮治 越在
地下足袋の馬臭がのぼる踏込み炉 石橋林石 『石工日日』
地下足袋をきようの形に脱ぎすてる 林田紀音夫
地下足袋を脱ぐ涼しさや牧の小屋 青柳志解樹
地下足袋凍る徹夜の君ら会えば笑む 鈴木六林男 第三突堤
墓守の地下足袋干され秋ざくら 鈴木岑夫
夏立つや地下足袋もわが身の一つ 大熊輝一 『土の香』
巨き冬陽地下足袋の泥重くなる 岩田昌寿 地の塩
旧年の地下足袋の土叩き穿く 大熊輝一 土の香
春眠のゴリラの地下足袋めく蹠 高澤良一 寒暑
月の湯壺ひざまづき脱ぐ杣の地下足袋 中島斌男
殿中を菊師地下足袋ばきのまゝ 佐々木トミ
泡盛や地下足袋の足ばかり見え 宮坂静生 青胡桃
男爵を地下足袋に踏み薯植うる 松倉ゆずる
畦を焼く地下足袋に水かけ通し 北村保
考古学教授地下足袋夏帽子 野見山ひふみ
船頭の地下足袋さやに舟下り 高澤良一 随笑
豊年の地下足袋叩く夕重み 久米正雄 返り花
踏んばれる百の地下足袋秋祭 松本洋子
軍靴地下足袋ホームへたたく冬の泥 古沢太穂 古沢太穂句集
退職の夫に地下足袋新調す 飯田晴久
逆さまに地下足袋干して庭薄暑 藤原香雲
鍬始め地下足袋の跡ふんわりと 香西照雄 対話
駒鳥や地下足袋に繩結び足し 石川桂郎 四温
鰯雲や継ぎし地下足袋の中に鳴く 宮坂静生 青胡桃
●バレーシューズ
●スリッパ
ごきぶりを打ちしスリッパ手に残る 高木瓔子(俳壇)
さくら咲く朝のスリッパひややかに 片山桃史 北方兵團
ぬくもりし借スリツパぞ脱ぎたくなし 辻桃子 ねむ 以後
みづいろの夏スリッパに葵と一字 西本一都 景色
クローバに降りるスリッパ海霧の這う 長谷川かな女 牡 丹
スリッパで春の山脈見てゐたる 鈴木鷹夫 春の門
スリッパに百足横たふ夜の厠 森中すみ子
スリッパのひつくり返り小米花 行方克己 無言劇
スリッパのまま誰ぞすててこ穿かんとす 大住日呂姿
スリッパの向きととのへる神の留守 山口きみえ
スリッパの散らかる山の終戦日 岡田史乃
スリッパの数見事なり忘年会 右城暮石
スリッパの父眠り籐椅子を出るヘリコプター 島津 亮
スリッパの裏ましろなる秋の暮 小川軽舟
スリッパはしかとはくべし彌生盡 久保田万太郎 流寓抄以後
スリッパもあたたかさうに父の部屋 京極杞陽
スリッパをどこでぬいでもいわし雲 布戸道江
スリッパを出船に揃へ初句会 松倉ゆずる
スリッパを幾度も揃へ夏館 下坂速穂(屋根)
スリッパを新しくして夜長かな 岡田史乃
スリッパを越えかねてゐる仔猫かな 高浜虚子
スリツパのひつくり返り小米花 行方克巳
休日の家族藺草のスリッパで 棚橋澄子
借り履きの赤きスリッパさくらびえ 林翔 和紙
啓蟄やスリッパにまた次の客 加藤佳子
廊に群る夜長のスリツパ鼠めく 高澤良一 ねずみのこまくら
思ひ出はいつもあたたかスリッパも 山田弘子 懐
拝殿に赤いスリッパ神還る 相馬沙緻
春暑し悠然とスリッパ裏返る 根本 准
短夜やスリッパの字の鹿野山 波多野爽波
裸子がスリッパ揃へ呉れにけり 山尾 玉藻
蹼のごときスリッパ河童の忌 小檜山繁子
鍬形虫ドアーの内のスリッパに 和知喜八 同齢
霜降やスリッパ厚く厨事 井沢正江
鵙鳴いて亡き師の癖のスリッパよ 小島千架子
●木靴
いまも履く木靴の媼葛根掘 山本柊花
ひつそりと干す木靴秋のあぢさゐに 小池文子 巴里蕭条
リラの径酪牛に従く僧の木靴 石原八束 空の渚
三月に木靴ほとほとはいていて 阿部完市 軽のやまめ
修道尼の木靴につゆのうまごやし 石原舟月 山鵲
僧院に木靴鳴る花期の林檎園 石原八束 空の渚
夕月や木靴を刳りし屑を焚く 小池文子 巴里蕭条
山畑を耕す木ぐつ修道女 佐藤一村
春の鴨木靴を穿いて本読む娘 西本一都
春野にて輪舞の木靴汚しけり 泉田秋硯
林檎村神主の木靴(さぼ)大きかり 宮坂静生 樹下
梨の花老婆の暗き木靴去る 小池文子 巴里蕭条
濡れ髪の水を出てゆく木靴かな 久保純夫 水渉記
牡蠣捌く木靴聴きをり買ふ列に 小池文子 巴里蕭条
窓ひとつ木靴刳りゐし銀河かな 小池文子 巴里蕭条
胡桃焼く夫が便りの木靴の絵 小池文子
西日消え木靴脱ぎおくくぼみふたつ 小池文子 巴里蕭条
●靴屋
めったにあげぬ顔で靴屋が秋燕追う 城門次人
口のくぎみんな打つて靴屋さんおそいひる 市川一男
喫いかけの火を消して靴屋又猫背になる 橋本夢道 無禮なる妻抄
子を負うて浅草へゆく靴屋の幸福に逢う 橋本夢道 無禮なる妻抄
師走くる靴屋に靴をはきながら 秋山巳之流
時計草ドイツ靴屋の裏垣根 福岡蝶花
森の夕焼終る靴屋の木椅子にも 綾子
浅草の靴屋は月の真下なる 斉藤夏風
靴屋の奥に赤児の衣見ゆ初蛙 磯貝碧蹄館 握手
靴屋の鏡に靴と映つた冬の貌 田川飛旅子 『外套』