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●肉●牛肉●鶏肉●馬肉●魚肉●刺身●トロ●挽肉●ビーフ●ポーク●チキン●マトン●ソーセージ●ベーコン●ウインナー●腸詰●ハム●ビフテキ●カツレツ●トンカツ●肉屋●魚屋●山鯨●レバー●ロース●ヒレ●燻製●精肉

●肉
*たいらぎの濡れ肉を出す喜悦かな山上樹実雄
あざらし見て夕焼いろの肉を買う岸本マチ子
あな醜し肉附の面の春埃山田みづえ
あぶらぎる肉へ塩ふり町医十年真島筍雄
ある街の木瓜の肉色頭を去らず三谷昭獣身
あれは熊の肉だつたといふ後日談鈴木節子
いくばくはわが肉となる刈葱刈る正木ゆう子悠
いさゝかの肉を薬に貰ひけり小林天風
うたた寝のあとずぶずぶと桃の肉柿本多映
うまや出て軋む太肉田掻馬百合山羽公寒雁
うめぼしの肉うつくしき寒の入星野麦丘人
おとうとの皿に厚肉青葉の夜佐野美智
おんじきに肉の馴れたる白夜かな佐川広治
おん肉の涅槃したまふともなき図皆吉爽雨泉声
かくまてに見透いて白し河豚の肉河豚正岡子規
かたつむりつるめば肉の食ひ入るや永田耕衣「驢鳴集」
かたつむり死して肉より離れゆく柿本多映
かたつむり肉しづかなる冬旱飯島晴子
かたつむ力死して肉より離れゆく柿本多映
きりぎりす啼くや子生みし肉たるみ榎本冬一郎眼光
くちふれて肉ゆたかなる桃果かな飯田蛇笏春蘭
くつくつと肉じやが仲間意識が煮え吉田源泉
くどきゐる声のきこゆる鹿の肉宮坂静生樹下
けだものの肉喰ひ師走の町に出づ福田蓼汀山火
けむりになる肉身さくらが少し咲き穴井太土語
さし湯して永久に父なる肉醤(ししびしほ) 三橋敏雄眞神
しもふりの肉ひとつつみ寒見舞上村占魚
しゃぶしゃぶと肉を揺らして神の留守山田靖子
しんしんと肉の老いゆく稲光玄
その途上早口休めば汗の肉(しし) 赤城さかえ
たそがれの肉限可視星花くわりん高澤良一ももすずめ
たましいが逃げふっくらと頬に肉前田弘
たましひが肉のふかみに閉ぢこもり六月ひと日ひと日とすごす奥村晃作
ちちははの呼ばわり亡ぶ肉うどん竹本健司
つづみ打つ肉手丁々都踊橋本多佳子
つゞけざま肉摶つひゞき低かりき片山桃史北方兵團
でで虫の繰り出す肉に後れをとる飯島晴子「八頭」
とり肉並ぶ歓楽街の夕間暮れ五島高資
どこまでも鮑の肉の縮みゆく長谷川櫂天球
どびろくや兎の肉は土臭き瀧春一
なやらひの鬼くたくたの肉襦袢後藤綾子
ならはせのいちごくひけり肉の後苺正岡子規
にがだま胆嚢ひとつ肉の闇深く蔵せば歓語は盡きず高橋睦郎飲食
ぬれ髪を振りては肉を叩く春宇多喜代子
はなびらの肉やはらかに落椿飯田蛇笏
ひとに満ちくる潮ありさればあけぼのの渚は肉の何処にありや米満英男
ひとひらの肉ちぢこまる鯨汁坪井耿青
ひるがおの時間が肉化しはじめる高岡修
ぶつ切りの肉(み)の山もりや鯰鍋野村喜舟
ぶらんこに肉饅熱きをお手玉す森下賢一
へな～と猪肉焼けて年忘れ萩原麦草麦嵐
みづいろやつひに立たざる夢の肉攝津幸彦
みどり子の甘き肉借りて笑む者は夜の淵にわれの来歴を問ふ米川千嘉子
むらさきの御肉がひとつ雲の峯攝津幸彦鹿々集
もむないといふ熊の肉旨かりし後藤綾子
らあめんのひとひら肉の冬しんしん石塚友二(1906-86)
るいるいと肉ある深夜の冷蔵庫江里昭彦ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
わが肉よ恐らくはいま錆朱色高柳重信
われに無かりし青春海女の堅肉灼け野澤節子花季
われのみに肉添ふ梅雨の朝餉憂し石川桂郎含羞
クリスマスの灯が震へて七面鳥の白い肉露石遺稿(蛙鼓) 水落露石
サフランが朝の肉噛む月曜日坪内稔典
セイウチの肉の罐詰霾りぬ小川軽舟
ドイツより肉切鋏ぼたん雪鳥居美智子
ナプキンに肉の血の染みクリスマス長田等
バランスを以て肉あり受肉祭永田耕衣(1900-97)
パン林檎指輪衣肉なみだ顔和知喜八同齢
ピーマンに詰め込む肉とけふの鬱嶋田麻紀
ポインセチア肉むら厚き裸婦の像加古宗也
ミケランジェロに暗く惹かれし少年期肉にひそまる修羅まだ知らず春日井建
一塊の肉羽ばたきて羽抜鶏福田蓼汀
七面鳥の示威の肉髯枯るる中津田清子
万物の秋や牛蒡の肉を削ぎ桑原三郎晝夜以後
丑の日の鰻ぎらひに肉を焼く田中良子
並肉をよく伸ばしをり大朝寝暮岸江
主知的に透明に石鯛の肉め金子兜太詩經國風
五月堅肉背丈の棕梠も花もちて古沢太穂古沢太穂句集
亡きひとと在り惜春の鯛の肉中島斌雄
人はみな肉の断岸青き踏む齋藤玄『無畔』
人形の肉が落ちゆく十三夜田邊香代子
今宵飲むビールは鉄の味のして凜きまで肉のおもひは滾る小野興二郎
仏足の肉づけの石法師蝉秋元不死男
伸びる肉ちゞまる肉や稼ぐ裸中村草田男
俘虜ならび寒燈下肉つままるる若木一朗
八月や肉しまる鯛沖に食ひ中島斌雄
冬晴や手話に肉打つ音のあり内田美紗浦島草
冬近き薪は肉色霧巻く小屋大井雅人龍岡村
冷凍の肉の一塊年を越す池田秀水
冷水を配ってから売る肉の断面山崎愛子
冷肉の芯の桃色雷雨来る田川飛旅子
凍土に溺れる家の骨と肉増田まさみ
凍鶴を見てきぬ皿に肉赤き波多野爽波『湯呑』
刃を入れて滴る血なし猪の肉山口誓子
初不動帰りの厚き肉啖ふ菖蒲あや
初松魚片肉に江戸の月夜哉初鰹正岡子規
初湯出し肉湯気をはなちけり飯田蛇笏霊芝
勝牛の肩肉震ひ蠅払ふ奈良文夫
厚き肉喰ひをり喪章つけしまゝ河野閑子
厚肉買う毛衣の背で順を待つ赤城さかえ句集
友を待つアスパラガスに肉巻いて中戸川朝人尋声
友死すや啜りて牡蠣のうすき肉小澤實(1956-)
叡山の雪気太肉締めつけぬ高澤良一燕音
吊肉に検印青き立夏かな山崎千枝子
同門や炉火にこがせる肉の端石川桂郎四温
和田金の肉しきり恋ふ雪二日石川桂郎高蘆
唇も肉なれば尊し桃の花桑原三郎龍集
啓蟄や仰向けの顔が肉を喰む岸田稚魚
嘴は肉につづけり桃の花森川麗子
四十の肉やはらかき柚子湯かな黒田杏子一木一草
塗椀の内の肉色秋の暮金子青銅
塩蜻蛉すゝいと肉のなき家に攝津幸彦鹿々集
壁蝨の口肉に喰い込み根づきおり北山河「山河」
夏近し焼くるとよりは烹ゆる肉久保田万太郎流寓抄
夏雲や農夫肉群負ふごとく香西照雄対話
夕焼風干して肉づきよき海女着平井さち子完流
夕虹や荊冠の棘肉の中野見山朱鳥
夜の淡雪食思にあまる炙り肉北野民夫
大寒の紅き肉吊り中華街池田秀水
大根になるため肉を削ぎ落とす田邊香代子
天涯や刺しつ刺されつ肉の音穴井太原郷樹林
天瓜粉子らに痩せ腕太肉水原春郎
太股に肉戻りたる曼珠沙華飯島晴子
女の肩肉づきやすしほほづき市沢木欣一
如月の牡蠣打ち割れば定型を持たざるものの肉やわらかき道浦母都子
妻の肉おごりて柿を好むなり萩原麦草麦嵐
子規所蔵本肉蒲団四海波日原傳
宝印の肉の赤さや牛王加持吉田冬葉
富士火口肉がめくれて八蓮華山口誓子不動
寒の肉隆々西大寺会陽かな沖田正秀
寒星となるらし土橋は肉の響き遠藤煌
寒暮肉屋に肉の断面渦を巻く谷野予志
寒月や穢多(ゑた)が虎竹に肉の影黒柳召波春泥句集
寒茜浴びゆく赤肉団上に高澤良一さざなみやつこ
寒鯉を割けばあけぼの色の肉岸原清行
小春日におろして美しき鯛の肉相馬遷子山河
少年の見る青き蠶の青き肉阿部完市無帽
屋上に肉積まれゆき記者たち書く金子兜太
山ざくらまた寂寥の肉を産む高岡修
山ふたつむかふから熊の肉とゞく飴山實
山国に積み重なりし肉の草佃悦夫
山野跋渉せし猪肉の薔薇色細見綾子黄炎
巻貝の肉引き出だす日雷鈴木鷹夫春の門
帯へ附く苺の肉みて戦後派なり田川飛旅子花文字
帰燕日日肉つかぬ嬰の目鼻立栗林千津
干梅の肉の厚きを裏返す武田志づ穂
干肉のほどよき焦げ目一葉忌渡辺二三雄
年祝ぐや肉ゆたかなる妻の耳千代田葛彦旅人木
年終る運河の夕日肉色に三谷昭獣身
弱肉もやゝ肥大せる蝸牛百合山羽公寒雁
律寺への峠肉(しし)切る青芒山口草堂
怒りては己が肉咬み大浅蜊出口善子
思はざる肉のうごきし裸かな藤田湘子
抜け山ゆくまめやかものや肉屏風加藤郁乎
掌を打つて肉の音聞く薄紅葉西野理郎
掛蓆薬の肉を売る家かな根本露皎
掛香やよその妬のふとり肉尾崎紅葉
接木してつながる肉の疎ましき長谷川櫂天球
撫で物の肉吸ひまざる未開紅加藤郁乎
敬老日鯛の眼肉掬ひけり黒田櫻の園
敵手と食ふ血の厚肉と黒葡萄能村登四郎枯野の沖
日ノ本暁ヲ覚エズ諸諸ノ肉ノ煮凝リ夏石番矢真空律
春あつく旅人づれの肉を焼く飯田蛇笏春蘭
春の闇にも肉づきというがあり高野ムツオ蟲の王
春光や白猫に透く肉の色浅生田圭史
春宵の叩きに叩く肉一片大倉郁子
春昼や肉屋は赤き肉掴み長嶺千晶
春暑く旅人づれの肉を焼く飯田蛇笏
春雨やふところに肉ひとつつみ宇多喜代子象
春雨や油したゝる牛の肉春の雨正岡子規
晩春これ肉に含める黒真珠鳴戸奈菜
晩春の肉は舌よりはじまるか三橋敏雄眞神
晩秋の肉より立てりうす煙柿本多映
暗闇の子猫両手につつめば肉長島武治
月の出のおそろし肉を偏食し宮坂静生山開
朝顔に抱く子の肉のしまりたる林原耒井蜩
木枯やランナーの肉のびちぢみ小島健木の実
松過や肉屋は鉤に肉吊し栗原米作
枯柏ざわわざわわわ肉へ串矢島渚男百済野
枯芝や鹿の肉むら起ちあがる不破博
柿照るや母系に享けて肥り肉岡本眸
梅青し銅像の肉服に満ち中島斌雄
梨の肉にしみこむ月を噛みにけり東洋城千句
極上の肉を叩けり女正月佐藤文子
模型飛行機孫の肉感野に移し金内茜
歯肉だけの母が嚥みこむ麦飯の音ぞ橋本夢道無禮なる妻抄
歳の市を抜け厚肉を地下にたぶ高井北杜
水より高きに/肉を/量りて/暮春かな林桂銀の蝉
水洟や熊の肉噛み切れずゐて石沢蟹城子
永き日や高きより振る肉の鹽金久美智子
汗の肉打ちつけん空の蒼さかな中島月笠月笠句集
沓下に足を入れつつ「己が腸に己が肉も血も詰めらるる豚」高橋睦郎飲食
沙羅は雙樹に肉の寺院を傾ける加藤郁乎
流燈を送るは肉を櫓とし齋藤玄『雁道』
海から誕生光る水着に肉つまり西東三鬼(1900-62)
満月に傷あり肉肉野菜肉夏石番矢神々のフーガ
漆掻く肉一塊や女なし月舟俳句集原月舟
灯眩し肉摶つおとのにぶきおと片山桃史北方兵團
灼けず濡れず真赤な水着肉余る下田稔
炙らるる肉に火明り冬の暮下村槐太天涯下村槐太全句集
焔上げて肉皿の来るイースター黒田和子
焙り肉に鮮菜雪や春宴松根東洋城
無思想の肉が水着をはみ出せる長谷川櫂天球
無花果爛熟冷凍鯨肉半ば溶け吉野義子
煮え激つ鶏の肉ふたりかなし竹本健司
煮くづれてかげなほ重したらの肉上田玄
熟柿つつく鴉が腐肉つつくかに多佳子
爽かや身に夏痩の戻り肉石塚友二光塵
牡丹にことば肉より出て瞑し竹中宏
猪の肉いたみて届く十二月石川桂郎四温
猪の肉一葉の忌と知りながら長谷川かな女花季
猪肉のかたまりふたつ年の贄茨木和生
猪肉のかたまりもらふ五家の荘松本翠
猪肉のがんじがらめの小包みよ細見綾子黄炎
猪肉の包み大事に故里人細見綾子黄炎
猪肉の味噌煮この世をぬくもらむ細見綾子黄炎
猪肉の鍋おろしても煮えつづく羽部洞然
猪肉を煮る味噌焦げて冬至なり細見綾子黄炎
田水沸く田螺は肉の煮ゆるならむ関成美「朱雀」
畜生の肉も交へつ寒施行草間時彦櫻山
畜類の肉もこのもし葱の味飯田蛇笏山廬集
白桃のつかのまの肉をなおすする北原志満子
白葱の一皿寒し牛の肉葱正岡子規
睡蓮や死ならぬもの以て肉浄めよ中村草田男「銀河依然」
短日や分けて経木の鹿の肉田原海
石を投げる少年の力学肉の挨拶加藤一郎
福壽草肉に痒みの遊びぞめ竹中宏饕餮
秋風や己に肉なきかたつむり勝又一透
空中戦避難英人肉を喰ふ細谷源二鐵
空蝉に肉残り居る山河かな永田耕衣(1900-97)
竹串に火の付いて出し鹿の肉茨木和生丹生
米久の肉に飽いて酔うて人のどこへ行く梅林句屑喜谷六花
粟の垂穂子の固肉に触りて鳴り大野林火
紅塵を吸うて肉(しし)とす五月鯉竹下しづの女句文集昭和十一年
紅塵を吸うて肉とす五月鯉竹下しづの女 [はやて]
絵硝子に秋磔像の肉ひかる鍵和田[ゆう]子浮標
緑の肉詰まる松笠子の遺骨香西照雄素心
繋ぎ馬蚋に肉動く腓かな長谷川零余子
罪深き肉あぶるなりいまは雨季岸本マチ子
羅の紺にほやかや太り肉野村喜舟
聖バレンタインデー宙吊りに牛の肉土井信旺
聖夜の肉つめたし刃物もちてそぐ品川鈴子
肉(たましい)と訓(ルビ)して春や帯垂れて折笠美秋虎嘯記
肉うすき肩や亜鉛をよろこびぬ宇多喜代子
肉かつぐ肉のゆらぎの霜朝河東碧梧桐
肉がやせて来る太い骨である尾崎放哉(1885-1926)
肉が瘠せて来る太い骨である大空(背・放哉俳句集、扉・俳句集大空) 尾崎放哉、荻原井泉水輯
肉が知る骨の痛みやもがり笛成田千空地霊
肉さしに見事つきさす蠣の腹牡蠣正岡子規
肉じゃがのほっこり煮えて春嵐甲斐住子
肉ちぎる鷲はたゝらを踏みにけり森田峠
肉づきの鬼面をはがす報恩講森本青三呂
肉とキャベツ抱く母のさち肩に蛍原コウ子
肉にある縫目はしづか萩すすき鳥居真里子
肉になってからの豚の重さである河本緑石
肉に振る酒炎となれり佛桑花中戸川朝人星辰
肉に月ありといへ許婚者大屋達治繍鸞
肉の影して削るものなし野の裸木赤尾兜子
肉の白さの潮の迅さで夜の出漁隈治人
肉は幼少に痴れて支那うぐひすのリエゾン加藤郁乎
肉も血も/暗喩も/翳る/字神梅林桂銀の蝉
肉をわれいくど食べしや籾殻火栗林千津
肉を焼く煙あがりぬ秋の山長谷川櫂天球
肉を買ひ葱を買ひさて一人とは岡本眸
肉を買ふ列に入れりしづり雪佐藤文子
肉・葱・馬鈴薯ごつた煮にして走り梅雨能村登四郎枯野の沖
肉一塊提げて避暑地の女たり佐川広治
肉切れば星が出ましょう文化の日松本恭子
肉垂れを振つてほろほろ鳥の秋川崎展宏冬
肉少し買つて霜夜の誕生日宮田正和
肉屋の肉にかなり離れており三日月五十嵐研三
肉感に浸りひたるや熟れ石榴鈴木しづ子
肉感は天に捧げて朴の花小檜山繁子
肉炙いてすぐに火燵の火となる火下村槐太天涯
肉炙るなどかなしけれ昼の虫黒田杏子木の椅子
肉焼くや如月の富士てらてらす矢島渚男延年
肉煮えるときぞかなしき夏野原津沢マサ子楕円の昼
肉病むのみ寒風玻璃戸を平手打香西照雄対話
肉皿に秋の峰来るロツヂかな中村汀女
肉維核にほのほのごとし大白桃原石鼎花影以後
肉維核ほのほのごとし大白桃石鼎
肉血に秋の蜂くるロッジかな中村汀女
肉襦袢びゆうと吹かるる野分かな岸本尚毅鶏頭
肉買ひに出て真向に吹雪山金田咲子
肉買ふや冬の太陽熟して落つ細見綾子黄炎
肉身へ一直線に早苗投ぐ能村研三
肉身やとどろいてゐる竹煮草桑原三郎晝夜
肉附の匂ひ知らるな春の母三橋敏雄眞神
肉饅頭の湯気に地球の温暖化松山足羽
肉魂のかけら飛び去る秋の風萩原麦草麦嵐
肌寒や肉紅くせる肉屋の灯茨木和生遠つ川
肥肉の目には見ゆれど秋の風秋風正岡子規
背ナの肉さむし亀の子束子かな宮坂静生樹下
胡桃充ち迷路の如き肉蔵す田川飛旅子『外套』
胸肉のばりと音して蜃気楼宮坂静生春の鹿
能勢颪農夫等わかつ猪の肉羽田岳水
腐肉してなお血筋とは春の雲増田まさみ
腰に肉このごろ付いてちゝろ鳴く中西夕紀
腿に肉もどる夜ごとのほととぎす大石悦子百花
自動ピアノ鳴りだす鉄板の肉を焦がし星野昌彦
自転車の蒼光る肉峠より西川徹郎死亡の塔
舌といふ肉白桃の肉を捲き熊谷愛子
舌のみは肉の色して雪女郎松尾隆信
色々の酒肉を断ちて小鳥来る佐々木六戈百韻反故わたくし雨
芍薬の肉のひたすらなる哀しみ清水径子「清水径子全句集」
花ざくろピカソ嫌ひは肉嫌ひ大木あまり「大木あまり集」
花びらの肉やはらかに落椿飯田蛇笏春蘭
花一片肉一片と崩るなり宇多喜代子
花瓣の肉やはらかに落椿飯田蛇笏
芽吹く前の谷は肉色友の家大井雅人龍岡村
茘枝裂けて肉醤むしろ凄じく川端龍子
荒梅雨や肉屋が肉を解体し大木あまり火のいろに
荒淫の肉しおからき沈魚久保純夫水渉記
落つる時椿に肉の重さあり能村登四郎
落葉存分浴びきたりし夜肉を煮る大野林火
葉柳や肉売る軒の色ガラス寺田寅彦
葡萄熟れぬなんぞわが肉落ちやまぬ林原耒井蜩
蓮は肉母上は酢でしめるなり柿本多映
蔵王キラキラ労働者らは肉の船団稲岡巳一郎
蕪肥えて而も山厨の肉に富む尾崎紅葉
薔薇色の肉を手渡す夜の秋櫂未知子蒙古斑
薦巻く松肉界旦暮繰り返す磯貝碧蹄館
薫風や朱もあざやかに鯨肉佐川広治
虻せはし肉うちふるふ洗ひ馬飯田蛇笏春蘭
蛆生れ腐肉の上に眼鼻なし仲止外也
蛇穴に入る一本の肉の棒吉田汀史
蜂飛翔少年の肉重かりき新関岳雄
蜜柑山女の肌に血肉満ち桂信子花寂び以後
蝮(はめ)裂きし肉のももいろ朝曇岡本高明
蟄虫の弱肉として世に出でし北川英子
蟹の肉せせり啖へばあこがるる生れし能登の冬潮の底坪野哲久
蟹の肉はらはら言葉ばらばらに石寒太翔
蟹の肉蝋のごとくに地主祭宮武寒々朱卓
血よ肉よ眩暈は青い青い褶曲内山いちえ
血湧き肉おどるト伝読初めに高澤良一燕音
血肉噛むかに巴旦杏甘く渋し津田清子礼拝
衣越しに肉置き透かす梅の雨扇田一郎
西瓜の紅き肉たべ余し人と会ふ津田清子礼拝
西瓜の紅き肉喰べ餘し人と会ふ津田清子
観音の背なの肉づき草ひばり小林貴子
言葉ふと肉のごとくに蘆青し岡井省二
貝の肉のびちぢみては進む薄暑小澤實
貝の肉氷にちぢむ良夜かな能村登四郎
貧厨に鯨肉配給雪が降る山口青邨
赤々と肉ひろげたる薬喰千原草之
足袋ぬいでからびはてたる肉刺を剥く川島彷徨子榛の木
返り焔あびるや聖夜の焙り肉平井さち子完流
逆しまに肉の吊られてクリスマス杉野秋耕死
通夜の膳割きある茸の肉白く北野民夫
逝く年のやさしきものに肉襦袢飯島晴子
遅れ来る者に残せり牡丹肉右城暮石
過ぎし日は肉重かりし万愚節沼尻巳津子
道祖神/漢のすなる/肉の/華林桂黄昏の薔薇抄
鄙びたる宿の大暑の熊の肉中山純子沙羅
酒なしに肉くふ人や秋のくれ秋の暮正岡子規
金星や羊の肉のごつと凍て日原傳
鋤焼や笹も日高の熊の肉木津柳芽
闇市に牛馬の屍肉凍てにけり日野草城
院々の肉煮ゆる香や夕紅葉川端茅舎
雑炊にぼんやり泛ぶ鴨の肉鈴木鷹夫春の門
雛の夜や串肉しごき唇濡らす石川桂郎含羞
雪百日酒肉うるわし一忌日宇多喜代子
霊と肉たたかふごとく紅葉せり沼尻巳津子
霊肉のあひたたかひし日記果つ加藤三七子
霜降や立方体の鯨肉辻桃子
霰散り肉を包むに竹の皮長谷川櫂天球
霾や肉鳥として駝鳥飼ふ小室風詩
青葉茂れるに押し出て土の肉和知喜八同齢
音たてて肉運ばるる薄氷山田健太
頬の落る林檎齒の痛む肉に足る林檎正岡子規
頬桁の肉暑くなる濁酒かな雑草長谷川零餘子
風光るドタール弾きの肉うごき加藤知世子
食ふ肉と滅びあふ身ぞ空のあを三橋敏雄 *シャコ
食むべくはなみだたたふる梨の肉栗生純夫科野路
駈け出して肉(しし)の揺るるよ花菜径中戸川朝人残心
鬱鬱と肉に串刺す裸かな小澤實「瞬間」
鬼やらひ肉屋の肉に灯のともり円城寺龍
鮭のぼる肉の襤褸のあかあかと小檜山繁子
鯨肉が高知に残る菫草池禎章
鯨肉揚ぐ影が鯨肉に冬日かな小原菁々子
鳥叫(な)くや鷹にあたへる肉一れん黒柳召波春泥句集
鴨肉に手帳の風を足す焜炉平井さち子鷹日和
鹿の肉喰らひ黄泉まぬがれがたし高良満智子
鹿の肉望のひかりのなかに食ぶ武藤紀子
鹿肉でありしカレーや避寒宿榎本享
鹿肉に酔うてうなずく油団なり井口☆子「ホ誌雑詠選集」
鹿肉もありと高遠冬障子細見綾子
麦の穂や肉にくひ込む服を着て黒坂紫陽子
麦星や肉の池尻大橋に攝津幸彦未刊句集
黄塵を吸うて肉とす五月鯉竹下しづの女
黒南風や乾き初めたる鯨肉内田美紗魚眼石
●牛肉
勝牛の肩肉震ひ蠅払ふ奈良文夫
宝印の肉の赤さや牛王加持吉田冬葉
春雨や油したゝる牛の肉春の雨正岡子規
白葱の一皿寒し牛の肉葱正岡子規
聖バレンタインデー宙吊りに牛の肉土井信旺
しみじみと牛肉はあり寒雀永田耕衣(1900-97)
牛肉の切口いいえヒロシマ絵図中台春嶺
牛肉の看板赤き柳哉寺田寅彦
牛肉の赤いまだらの銀河糸対馬康子吾亦紅
牛肉の赤きをも蟻好むなり暮石
牛肉の鍋おろしたる熱さ哉暑正岡子規
牛肉の鍋にはりつく熱さ哉暑正岡子規
牛肉は食べぬ媼の薬喰吉田長良子
牛肉を妻に食はさん青嵐岸本尚毅舜
牛肉を雪に買ひ行き妻は留守京極杞陽くくたち下巻
●鶏肉
一塊の肉羽ばたきて羽抜鶏福田蓼汀
煮え激つ鶏の肉ふたりかなし竹本健司
客に鶏肉あぶりまた諸葛菜かな阿部完市軽のやまめ
枯野星括られし鶏肉冠振る福田蓼汀山火
羽抜け鶏肉のはなびら咥へけり井上康明
羽抜鶏肉ひつぱつて脚運ぶ中戸川朝人星辰
●馬肉
うまや出て軋む太肉田掻馬百合山羽公寒雁
繋ぎ馬蚋に肉動く腓かな長谷川零余子
虻せはし肉うちふるふ洗ひ馬飯田蛇笏春蘭
春の風馬肉売る店の並ひけり春風正岡子規
汗し病み馬肉煮る日の蹠片山桃史北方兵團
首さむく馬肉を買うてもどる飯島翠壺洞
馬肉(さくら)切るあつく切るから雪が降る星永文夫
馬肉売る大仏前や夕時雨四明句集中川四明
馬肉屋の紅殻格子冬ひばり宮岡計次
馬肉屋を諳める軍隊将棋かな仁平勝東京物語
馬肉赤し唐招提寺曇りつつ星野昌彦
●魚肉
初松魚片肉に江戸の月夜哉初鰹正岡子規
荒淫の肉しおからき沈魚久保純夫水渉記
●刺身
*ほうぼうの刺身といふは美しき小野淳子
かのししは刺身で出たり猪の宿茨木和生丹生
こんにやくの刺身つるりと休暇果つ山田桂三
さみどりの刺身こんにやく花時雨角川春樹夢殿
ひとふりの刺身庖丁買ひて冬鈴木真砂女夕螢
ふぐ刺身舌にのせれば舌と化す出井一雨
まらうどよ刺身もつまも氷りたり佐野良太樫
予期せざる鱶の刺身や夏祓長井通保
古酒にして鱚の刺身のほかなくも石川桂郎高蘆
大皿の模様の透けり河豚刺身塙きく
大輪の河豚の刺身の美しく豊東蘇人
桜並木と忌中の刺身透きとおる西川徹郎家族の肖像
歯固は栄螺の刺身なりしかな四谷たか子
河豚刺身何しんみりとさすものぞ中村汀女
海鳴や氷の色に烏賊刺身佐藤喜代子『水の綺羅』
父の日と言ひて虎魚の刺身食ふ大坪景章
目に跳んで鹿の刺身に鹿の姿石川桂郎高蘆
竹の子の刺身を喰ひに東山角川春樹
自然薯を刺身づくりに空也の忌吉田紫乃
花疲れ烏賊を刺身にさせて買ふ北野民夫
菎蒻の刺身もすこし梅の花松尾芭蕉
蒟蒻の刺身ひやひや山紅葉井桁白陶
蒟蒻の刺身もすこし梅の花松尾芭蕉
蒟蒻の刺身涼しき夫の忌丹羽雪
蘭一華のせし刺身や春寒き佐野青陽人天の川
裸で鯛の刺身を食べてをり藤岡筑邨
邯鄲や山河を藍に刺身皿望月百代
酒すすむ氷見の寒鰤刺身かな山口耕堂
黒鯛もつれて刺身の月見かな瀧井孝作
●トロ
●挽肉
夕焼や空のどこかに挽肉機江里昭彦ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
褒貶や汗で真向ふ挽肉機河野南畦湖の森
苔くさい雨に唇泳ぐ挽肉器赤尾兜子
●ビーフ
歳末やビーフステーキ箸で食ふ藤岡筑邨
ビーフシチュー煮詰めておいて煤払高澤良一随笑
ビーフカリーは最も淋しい朱夏である攝津幸彦未刊句集
●ポーク
●チキン
●マトン
金星や羊の肉のごつと凍て日原傳
●ソーセージ
去年今年貫くパンのソーセージ後藤貴子
晩春のつながつてゐるソーセージ奥坂まや
●ベーコン
朝寒のベーコン炒めゐたりけり草間時彦櫻山
ベーコンのちりちり縮む涅槃西風松山登美子
●ウインナー
●腸詰
火を恋ふや独逸腸詰薄く切り宮下恵美子
春聯の店腸詰をすだれ吊り岩崎照子
野の中の腸詰工場麦の秋原田青児
●ハム
うす紙が包めるハムや蠅這へる西山泊雲泊雲句集
ウインドのハムにもリボンクリスマス西村和子かりそめならず
ハムの紐ほどきてバレンタインの日高見岳子
ハム切れば月さす障子松の内飯田蛇笏雪峡
ハム買ひに海月の中を漕ぎいでぬ下村槐太光背
ハム輪切秋肥え来たる自信持つ河野南畦『焼灼後』
ハム食へば一片厚き秋の暮久米正雄返り花
凍る夜のハム厚く切り誕生日菖蒲あや路地
多喜二忌や糸きりきりとハムの腕秋元不死男
島のハム提げて訪ひ来ぬ春の僧宮武寒々朱卓
手榴弾のやうなハムとどけられ十二月皆吉司
春の坂丸大ハムが泣いている坪内稔典
疲れるな鯨のハムをパンにはさむ古沢太穂古沢太穂句集
縛られしハムの糸解くクリスマス田島蔦子
重詰にハム添ふ世にぞ巡り遭ふ林昌華
●ビフテキ
糞のごとひかるビフテキアメリカ映画島津亮
暮れなづむ夏至ビフテキの血を流す松崎鉄之介
花の宿ビフテキの血に皿汚す関森勝夫
●カツレツ
短日のカツレツ五十五銭かな久保田万太郎流寓抄
●トンカツ
ボロ市や衣の厚きトンカツ屋高澤良一宿好
●肉屋
あるやうに肉屋があつて花の冷え藤岡筑邨
けふもまた肉屋の屋根に石たたき黒田杏子
すいつちよん来たり肉屋のウインドに辻桃子
二三尺雪つむ軒や猿肉屋飯田蛇笏山廬集
凧の尾を引きずつて行く肉屋の子川崎展宏
十時なほ肉屋開きをり人汗す宮津昭彦
受難節肉屋の鉤のひとつ空く山本左門
喪の七日鮮烈に覚め肉屋八百屋成田輝子
夏の風邪またも肉屋の前通る大矢ひろ志
寒暮肉屋に肉の断面渦を巻く谷野予志
春愁や逗子の肉屋の九官鳥青木重行
春昼や肉屋は赤き肉掴み長嶺千晶
松過や肉屋は鉤に肉吊し栗原米作
立春の肉屋の前を通りけり高澤良一宿好
義士祭の高張立てし肉屋かな村田塢城
肉屋の肉にかなり離れており三日月五十嵐研三
肉屋へ突き出た肉親の足は桜木西川徹郎家族の肖像
肉屋来て雀押し合ふ葱畑萩原麦草麦嵐
肌寒や肉紅くせる肉屋の灯茨木和生遠つ川
荒梅雨や肉屋が肉を解体し大木あまり火のいろに
蝿が多くて肉屋本屋は傾けり宇田蓋男
金魚手向けん肉屋の鉤に彼奴を吊り中村草田男(1901-83)
驟雨来る肉屋で借りる真赤な傘初村迪子
鬼やらひ肉屋の肉に灯のともり円城寺龍
鮮烈な夕暮鬼の肉屋が<もういいかい> 星永文夫
●魚屋
さかなやと叫ぶ魚屋秋桜岡本健一
しまく玻璃とざす魚屋火を裡に木村蕪城寒泉
タイル張り魚屋の売る地のたかべ高澤良一素抱
上嵯峨や魚屋ありて秋の蠅松根東洋城
北風や鍛冶屋魚屋の腰障子六花
日和じやと魚屋言ひけり桜かり公遠
春泥や魚屋の荷の鯛鰆野村喜舟小石川
桃の日や魚屋の魚の目鼻立ち三矢らく子
死なぬために魚屋は不意に身をよじる西川徹郎月山山系
波十あまり五つかぞえて朝朝魚屋阿部完市純白諸事
湯の山の魚屋に鰤床濡らす石川桂郎
節分の道まで濡らし魚屋閉づ神林信一
花曇り呟きて去る魚屋かな飯島みさ子
誕生日担ひ魚屋鯛を売る細谷源二鐵
走り茄子買つて魚屋を断りぬ飯島みさ子
遊ぶごとし魚屋の朝の水打ちは森澄雄花眼
鉢巻をして魚屋の雪だるま斎藤修子
養花天比良に消え入る魚屋道六本和子
魚屋が戸毎にたづね霜旦角光雄
魚屋が散らす紅鱗福寿草林翔和紙
魚屋が行ってしまひぬ秋の山斎藤夏風
魚屋とあらがふ家や暮の秋沢田はぎ女
魚屋に雪の色して猫飼われ宇多喜代子
魚屋に青物売つて小鳥来る石川桂郎四温
魚屋のつぎは株屋の祭舟飴山實
魚屋のつね水流すつばくらめ猪俣千代子堆朱
魚屋のなかを通りし草の市松本ヤチヨ
魚屋のまへ夕焼を見しこころ川崎展宏
魚屋の刃物研ぐ音寒に入る飯泉善一郎
魚屋の売場広がり年の市島田夏楓
魚屋の夕べは巻きて葭簀丈蓬田紀枝子
魚屋の大きな桶の桃の花栗原菊枝
魚屋の小僧薬屋の小僧に蝉とらせ上野泰春潮
魚屋の店藤の実の垂下り京極杞陽くくたち上巻
魚屋の後ろで巨蛤笑ってる友田孝兄
魚屋の昔や暗き海鼠桶石川桂郎高蘆
魚屋の箱積み重ね盆休み横田和子
魚屋の隣に住みて梅雨ふかし鈴木真砂女夕螢
魚屋の魚ぶつ切りに半夏生谷中隆子
魚屋や天秤棒で門の柿月舟俳句集原月舟
鮟鱇を吊し魚屋夕景色山口青邨
鰯買ふポセイドンてふ魚屋に吉村玲子
●山鯨
くろがねの鍋の分厚き山鯨山崎幻児
山鯨五臓六腑のよく動く松澤雅世
山鯨狸もろとも吊られけり石田波郷
店頭や吊りて日をへし山鯨二木倭文夫
西鶴もたしなみしこの山鯨成瀬正とし星月夜
●レバー
●ロース
●ヒレ
●燻製
燻製魚店昏れだす入江よりはやく伊丹公子陶器の天使
燻製の山椒魚は暴れたか小島健木の実
●精肉