●青畳●石畳 甃●一畳●板畳●薄縁●縁側●縁先●縁台●縁の下●カーペット●茣蓙●敷物●絨毯●畳●畳替●畳廊下●廊下●段通 緞通●テラス●濡縁●花茣蓙●バルコニー●バルコン●ベランダ●筵●毛氈●床下●露台●青畳●石畳 甃●一畳●板畳●薄縁●縁側●縁先●縁台●縁の下●カーペット●茣蓙●敷物●絨毯●畳●畳替●畳廊下●廊下●段通 緞通●テラス●濡縁●花茣蓙●バルコニー●バルコン●ベランダ●筵●毛氈●床下●露台
●青畳 
いのち思ひをり新涼の青畳 古賀まり子
かつこうや一炉空しき青畳 碧雲居句集 大谷碧雲居
すずしさや額をあてて青畳 斯波園女
ひねもすを雲雀があがり青畳 細川加賀 生身魂
ほととぎす足袋ぬぎ捨てし青畳 鈴木真砂女 夕螢
元日の青畳といふ一奈落 齋藤愼爾
冬の鳶鳴けば微風の青畳 飯田龍太
初燕五感のもどる青畳 つじ加代子
千両の実をこぼしたる青畳 今井つる女
塞ぎたる炬燵のあとの青畳 香下寿外
夏山のうしろ姿か青畳 仁平勝 東京物語
夏風に切疵痛む青畳 飯田蛇笏 椿花集
夕螢には晴れすぎて青畳 倉橋羊村
寝返りを打つ子五月の青畳 大橋利雄
少年をよごす月光青畳 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
干烏賊の影おく冬の青畳 木村蕪城 寒泉
平成の蝿とんでゐる青畳 加藤季騒
幸うすき足を伸ばせよ青畳 相原左義長
彼岸会や花吹き入るゝ青畳 泉珀雲
恋猫が過ぎてあをあを青畳 加藤秋邨 吹越
投扇のたなごころ置く青畳 大橋敦子
春昼やほのかに匂ふ青畳 五十嵐播水 播水句集
晩涼やはすかひに寝て青畳 林翔
月明の死者を剥ぎたる青畳 杉本雷造
梅咲くや門迹を待つ青畳 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
橙のころがるを待つ青畳 桂信子 黄 瀬
水無月の蹠の聡き青畳 岡部名保子
澄む水を敷きつめたるや青畳 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
灯を入れずおく新涼の青畳 貝瀬久代
熟睡子を置く涼風の青畳 佐野美智
直坐りして晩涼の青畳 野木徑草
短夜や卍につめし青畳 栗栖恵通子
祭客やその神山の青畳 丸之 選集「板東太郎」
穂俵の先届きたる青畳 岸川素粒子
笹鳴やこの一間のみ青畳 友岡子郷
耳たれて舞獅子伏せし青畳 掛札常山
舟虫や灯のあかあかと青畳 加藤楸邨
茶を淹れて別のわれ待つ青畳 一田玄之介
蚤飛ぶや草の庵の青畳 赤木格堂
鍋乙女八人揃ふ青畳 高橋千之(年輪)
霜月のひかり泛べて青畳 有働亨
露涼し自在鉤影なす青畳 石川桂郎「含羞」
青畳こめつきむしの一人芸 三谷治
青畳人間よりも猫涼し 鈴木鷹夫 風の祭
青畳夜を匂へり走り梅雨 大橋敦子
青畳月に漣なせりけり 大石悦子 群萌
青畳涼し一書の重さの影 野澤節子 黄 瀬
青畳足長蜂を先づ招ず 細川加賀
青畳静謐にして武具飾る 後藤夜半 底紅
青畳音して蠅のとびにけり 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
大寺の青き畳や仏生会 佐藤信子
寒稽古青き畳に擲(なげう)たる 日野草城
楪のこぼれて青き畳かな 渡辺大年
歌留多会青き畳の匂ひけり 山口波津女
秋の日の青き畳をはこびくる 神尾久美子 桐の木以後
秋立つと青き畳を拭きにけり 山田弘子 螢川
菊の香に畳青さや客設け 青峰集 島田青峰
蓬莱や青き畳は伊勢の海 伊藤松宇
雪とならん畳の青さ日ざしけり 河合未光
革布団青き畳に浮みけり 高浜虚子「虚子全集」
音立てぬ虫ゐて青む夜の畳 桂信子 黄 瀬
●石畳 甃
かなかなや山に入りゆく石畳 細田恵子
けさはけさの落葉はじまる石畳 下村ひろし 西陲集
さくらもち店の中まで石畳 岸 洋子
ひや酒やはしりの下の石畳 其角
やや暑し弾痕に続く石畳 香西照雄 対話
ゆるやかに落ち石畳瀧の影 古舘曹人 砂の音
デイゴ散る島の墳墓の石畳 深見けん二
ビール馬車幻と過ぎ石畳 楠本憲吉
一切の枯れてたしかに石畳 池田秀水
一葉落つ絵描き広場の石畳 小原菁々子
三人で鯰食べる気石畳 石田 素
三月やモナリザを賣る石畳 秋元不死男
人波羅に若水を汲む石畳 松本澄江
人絶えて桜蕊降る石畳 長門美熙子
低き風は秋のはじめの石畳 長谷川双魚 風形
僧が掃く追儺会果てし石畳 仁科翁童
六波羅に若水を汲む石畳 松本澄江
冬鵙や風が磨ける石畳 大岳水一路
初雀トコトコトッと石畳 高澤良一 宿好
古都首里 にふみみがかれし石畳、ひえびえとして風ふきとほる 嶋袋全幸
叱られて帰る霰の石畳 桂信子 黄 炎
土筆生ふ半蔵門の石畳 吉原千恵
夕風に暑さ残りし石畳 小川濤美子
外つ国の夜寒雨降る石畳 佐手恒子
夜ざくらやなほ奥宮へ石畳 飯野燦雨
大学の石畳にも燕来ぬ 香西照雄 対話
大寒の 音が先立つ 石畳 田中お福
実梅落ちはずむが見えて石畳 高濱年尾 年尾句集
家々をつなぎて露の石畳 瀧 春一
小鳥来る雨の洗ひし石畳 片山由美子 水精
御田植の素足のもどる石畳 数合信也
捨猫の群るる白夜の石畳 岩崎照子
撒水車去りて古城の石畳 山村千恵子(円虹)
文化の日小銭とび散る石畳 飯田龍太
新涼の靴音を待つ石畳 西村和子 夏帽子
春潮が寄す水神の石畳 松井利彦
晩涼や蝉落ちまろぶ石畳 木下夕爾
月破れて ここには かたき石畳 富澤赤黄男
木の芽吹く姫街道の石畳 寺島初巳
木下闇昔へ曲る石畳 川崎慶子
栴檀の実がよごしたる石畳 石橋秀野
梯梧散る島の墳墓の石畳 深見けん二「余光」
椿落つ直哉旧居の石畳 高橋克郎
欅若葉して石畳冷え込めり 高澤良一 素抱
海棠の静かにちるや石畳 吟江
滝谷寺椿落ち継ぐ石畳 中條睦子
熊野みち石畳より華鬘草 三好かほる
玄関の白障子まで石畳 茨木和生 遠つ川
玄関へ松葉牡丹の石畳 星野椿
琴平参道さくら蘂降る石畳 吉野義子
盧溝橋春陰深き石畳 田中英子
石畳かがよひゆくは春着の子 木下慈子
石畳つぎ目つぎ目や青草む 一茶
石畳径ひろひに髪涼し 石川桂郎 高蘆
石畳朝儀に参ず蟻ならむ 高澤良一 ぱらりとせ
石畳洗ひ流るゝ水澄めり 高木晴子
石畳雀のたごにひびきけり 下村槐太 天涯
石畳電柱の根をかこみ冬 香西照雄 対話
石畳飛花着地して石のいろ 高澤良一 随笑
神迎ふ出雲の国の石畳 有馬朗人
秋の日の貌のごとくに石畳 吉田鴻司
秋冷や石畳ゆく馬車の音 野崎ゆり香
秋時雨ありしをとどめ石畳 稲畑汀子
秋暑し鹿の匂ひの石畳 木村蕪城
秋風の吹きとどまらぬ石畳 岸田稚魚
羽抜鶏歩む王家の石畳 品川鈴子
羽抜鶏遠出に似たる石畳 吉田鴻司
聖教殿へ霜一枚の石畳 毛塚静枝
船が出る松葉牡丹の石畳 遠藤梧逸
花ぐもり兵士の征きし石畳 渡辺志ま
苔の花出湯にみちびく石畳 照山とし子
菅公の梅石畳直進す 高澤良一 素抱
萩刈れば現れし被爆の石畳 宇川紫鳥
落葉掻石畳より手をつけむ 高澤良一 随笑
蔵址や雨の石畳実梅落ち 及川貞 夕焼
蘗や石畳高く沖見えて 下村ひろし 西陲集
蜂光る琉球王の石畳 細川加賀 生身魂
蜥蜴出づ後醍醐陵の石畳 国枝隆生
蝉声のまつしろな石畳かな 石田郷子
蟹歩く熊野古道の石畳 井上啓子
蹄よくひゞく白夜の石畳 平松三平(かつらぎ)
郭公や水の底まで石畳 廣瀬直人「矢竹」
銀杏の落ちて汚せし石畳 小川凡水
門松や藍師の青き石畳 藤江駿吉
閑散と鳩と落葉と石畳 高澤良一 燕音
陽炎やカスタネットの石畳 仙田洋子 橋のあなたに
雲梳きし日の冷やかな石畳 岸田稚魚 筍流し
露打つて影のととのふ石畳 渡辺恭子
青梅雨のあを冷えてくる石畳 竹花美代恵
飲み逃げの身に入む夜の石畳 石塚友二 光塵
鶯やわが影を行く石畳 青木久美子
鶯や山門もなき石畳 比叡 野村泊月
黒猫の掠めて春の石畳 小池文子 巴里蕭条
ちやんぽんを食ひに夜寒の甃坂ゆく 内藤吐天 鳴海抄
むくろじの青き実を踏む甃 大橋越央子
ミモザ散るダンテが踏みし甃 松本澄江
リラ冷や聖堂までの甃 関森勝夫
夏めきし港にまがる甃 上村占魚 鮎
大浦の甃みち朝たけて啼ける小鳥は十字架を負はず 山下陸奥
夾竹桃夢二の甃(いし)の坂いまも 千代田葛彦
寒月や見渡すかぎり甃(いしだたみ) 川端茅舎(1897-1941)
春蝉や松の中なる甃 富安風生
暑からぬ西日本漏るる甃 殿村莵絲子 雨 月
暑き日や栢槇一樹甃 尾崎迷堂 孤輪
月の友又来し気配甃(いしだたみ) 星野立子
松籟やしぐれぐもりの甃 石田波郷
柿の花こぼれて白し甃 田中冬二 俳句拾遺
桑の実や廃宮の庭の甃 竹冷句鈔 角田竹冷
梧桐の一葉銀座の甃 細川加賀 生身魂
炎天の甃(いし)そり返るロゴス見き 加藤郁乎 球体感覚
甃の落葉さつさとしざり掃き 河野静雲 閻魔
甃みちに花抱く尼僧濡れ映つる 石原八束 空の渚
甃みちの五月の聖女鍵を掌に 石原八束 空の渚
甃よし夏足袋のふみ応ヘ 稲垣きくの 黄 瀬
甃カンナの家をたかくして 川島彷徨子 榛の木
甃乾きそめたる落椿 山田弘子 螢川
甃坂を蜥蜴がよぎる隠れ旅 小林康治 玄霜
甃来て佇むは芙蓉かな 尾崎迷堂 孤輪
甃碑に満つ土佐水木 久保田月鈴子
甃窪の氷る真昼を木歩の碑 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
甃花塵止めず隠元忌 青木月斗
甃長々と来る御慶かな 野村喜舟 小石川
甃音曾て無く夜長かな 尾崎迷堂 孤輪
白甃をゆくまへうしろ燕とぶ 西村公鳳
石甃にあふるゝ水や落ち椿 菅原師竹句集
神護寺の山蟻わたる甃 志賀松声
禪堂や月さし入るゝ甃 月 正岡子規
竜の髭の実や甃坂に杖曳けば 下村槐太 天涯
花水木甍と応ふ甃 宮坂静生 春の鹿
茶の花のころがつてをる甃 風生
落ちざまに椿くだけぬ甃の上 石原舟月
蔦紅葉せり甃坂の一町ほど 鷹羽狩行
蛇の髭の実や甃坂に杖曳けば 下村槐太 光背
銀杏のかすかに匂う甃を歩みゆくときユダの消息 武藤雅治
鮒鮓や柿の花散りしく甃 田中冬二 若葉雨
鮒鮨や柿の花散る甃 田中冬二 冬霞
鳩の足も雪どけの石甃ありく シヤツと雑草 栗林一石路
黄檗の円座並びし甃 桑田青虎
●一畳
たたみ一畳亡骸を乗せ月のぼる 成田千空 地霊
ベツド一畳死に場所と決め温まれり 村上 泰子
一畳に起居する僧や仏生会 大萱比奈子
一畳の電気カーペットに二人 大野朱香
初鏡一畳で足る妻の城 土生重次
半畳に座し一畳に眠る夏 砥上白峰
大の字に寝て一畳の九月尽 土生重次
奥祖谷の一畳畠黍を刈る 佐野大志
寝て一畳流離極まる餅うまし 北野民夫
畳一畳海を漂よひ佐渡に虹 田川飛旅子 『使徒の眼』
風花や地に一畳の青菜売り 山本秋穂
一つ火を待つ百畳の冷え膝に 鈴木貞雄
凧日和百畳の凧天に在り 竹内瑞芽
初七日の百畳敷の寒さかな 河合順
大寺に百畳敷けり朴落葉 石田あき子 見舞籠
天井も百畳青葉木菟近し 穴澤篤子
寺の子の遊ぶ百畳額の花 山田弘子 懐
寺継ぎし子に百畳の風光る 肥田葉子
本堂の百畳わたる蓮の風 大熊輝一 土の香
松阪城址棚百畳の藤は実に 西田嘉代子
百畳に人まばらなる十夜かな 中山隆弘
百畳に善男善女十夜講 高澤良一 随笑
百畳に善男善女遍路宿 武内婦美子
百畳に松の枝這はす涼しさよ 杉本寛
百畳に波打つごとく曝書かな 小島和子「百鳥俳句選集」
百畳の写経に火鉢なかりけり 福井重子
百畳の寺千畳の鰯雲 吉内 健
百畳の巌を滴る蝉の声 加藤耕子
百畳の本堂抜ける青嵐 高橋利子
百畳の畳波打つ極暑かな 橋本榮治 麦生
百畳の藺草の匂ふ歌かるた 田中とし子
百畳の通し障子よ囀れり 荒井正隆
百畳を拭く学僧の秋思かな 那須淳男
百畳を見渡してをり秋彼岸 斎藤梅子
百畳敷まづ秋蝉の入り来たり 松井恭子
藤垂れて百畳の間をつくりけり 水田光雄
遊行寺の畳百畳替へて夏 守屋典子
達磨忌の百畳昏くなりにけり 河北斜陽
開け放つ方丈百畳秋の声 大西フサ子
鳥交る四百畳の禅の寺 上川みゆき
わが城は六畳一間障子貼る 渡辺淑子
二番三畳六畳とある寒さかな 小杉余子 余子句選
六畳ガス水道完備哀愁列車のあいつ 仲上隆夫
吾子の下痢止まり六畳の間に朝が来る 橋本夢道
暖炉取りて六畳の間の広さかな 正岡子規
炉塞や六畳の間のひろうなる 炉塞 正岡子規
炉塞取りて六畳の間の広さかな 炉塞 正岡子規
神の島西瓜ころがる六畳間 宮平早千
蚊遣香効を奏しぬ六畳間 高澤良一 寒暑
風入れの涅槃図六畳領しけり 関森勝夫
八畳の松下村塾ちちろ鳴く 藤野澪子
八畳の間にちちははのなき禅 川崎展宏
八畳はこんなに坐れる忘年会 池田澄子 たましいの話
壺焼や海へ張り出す八畳間 石井公子
炬燵塞ぐ八畳の居間真四角 栗橋敏子
盆棚をしまひしあとの八畳間 猪俣千代子 秘 色
あぢさゐに修理して住む四畳半 長谷川貴枝
あつき日や運坐はじまる四畳半 正岡子規
優曇華やひと日をこもる四畳半 永井京子
冬を待つ用意かしこし四畳半 正岡子規
冬待つや寂然として四畳半 正岡子規
冷蔵庫が泣いている四畳半の未亡人 藤田踏青
四畳半三間の幽居や小米花 高浜虚子(岩倉公遺跡)
探題樂 口切や北も召れて四畳半 蕪村遺稿 冬
春光のかくまでやさし四畳半 対馬康子 吾亦紅
昼の虫四畳程なる円空堂 高澤良一 素抱
時雨つつ竹真青なり四畳小屋 藤田湘子 雲の流域
此君にわれに秋行く四畳半 正岡子規
病み籠り西日四畳を逃げまはる 石川桂郎 含羞
白玉と待たされてゐる四畳半 鈴木鷹夫 風の祭
秋ちかき心の寄や四畳半 芭蕉 (元禄七年六月廿一日大津木節庵にて)
秋風の吹きぬけて行く四畳半 上林暁(1902-80)
華涼み月に隣るや四畳半 服部嵐雪
蠅打てしばらく安し四畳半 子規句集 虚子・碧梧桐選
西側は蔦の窓なり四畳半 子規句集 虚子・碧梧桐選
賑かや餅花ありて四畳半 高濱年尾 年尾句集
輪飾や凭る壁もなき四畳半 石橋秀野
●板畳
冷(すず)しさを吹きこめぬるる板畳 広瀬惟然
●薄縁
●縁側
だん〜に縁側の月よくなりぬ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
俤の母縁側に山桜桃咲く 中村姫路
凸柑実玄関も縁側も本棚有 瀧井孝作
台所へ縁側長き月夜かな 白水郎句集 大場白水郎
夕月の縁側にゐて形見分け 山本洋子
夕焼す縁側へ月の供へ物 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
子規庵の縁側ことに秋暑かな 上田日差子
小豆干す縁側広き尼の寺 後藤節子
尼寺の縁側近きもの芽かな 高浜虚子
朝寒の子に縁側の光りをり 星野立子
椅子一つ縁側に置き秋の雨 京極杞陽 くくたち下巻
母の爪切る縁側の桃の花 桜井周子
海の縁側さくら貝さくら貝 水内慶太
無住寺の縁側ひろき目借りどき 仲村美智子
秋日濃し縁側散歩されし縁 上野泰
種芋や縁側雨に濡れしぶき 山本洋子
縁側といふ佳きところ日脚伸ぶ 清水一莉
縁側と老婆と猫と炬燵かな 里見宜愁
縁側にころがす嬰と八ツ頭 津幡龍峰
縁側にどうと倒れて日向ぼこ 京極杞陽 くくたち下巻
縁側には猫のゐるべし干蒲団 細谷喨々
縁側にカフカの書置く猪の村 脇本星浪
縁側に七夕紙と硯かな 高木晴子 晴居
縁側に切子干して寒牡丹 遠藤梧逸
縁側に夏座布団をすすめけり 杉田久女
縁側に射したり消たり雨月かな 阿波野青畝
縁側に弾みし蚤を見失ふ 中野輝子
縁側に打水終へし跣かな 比叡 野村泊月
縁側に日のまはりきし春着かな 原田喬
縁側に月の芒の花こぼれ 深見けん二 日月
縁側に棒ふる人や五月雨 子規句集 虚子・碧梧桐選
縁側に椅子ありて雷かすかなり 原田喬
縁側に母の居さうな秋日和 高石敏子
縁側に浪うちよせる春の風 会津八一
縁側に秋の蚊遣を置きにけり 高濱年尾 年尾句集
縁側に立ち塞がりぬ秋日和 比叡 野村泊月
縁側に緋毛氈ある日傘ある 京極杞陽 くくたち下巻
縁側に赤子と芋茎置いてゆく 原田喬
縁側に速達届く梅の花 星野 椿
縁側のある家遺るゆすら梅 寺島美園(若葉)
縁側の少し高めや水温む 波多野爽波 『湯呑』
縁側の川のごとくに月激つ 山口青邨
縁側の庇の暗し寝待月 高木 一水
縁側の日にゑひにけりお元日 鬼城
縁側の松竹籠も祝ひ物 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
縁側の極暑の煤やいづこより 五十嵐播水 播水句集
縁側の母の屈折日脚延ぶ 橋本昭一
縁側の簾のうちに西瓜食ふ 高濱年尾 年尾句集
縁側は家内か外か黒揚羽 宇多喜代子
縁側は母の仕事場吊し柿 高橋悦男
縁側へ出て汽車見るや冬籠 子規句集 虚子・碧梧桐選
縁側へ出て髪とかす薄暑かな 白水郎句集 大場白水郎
縁側へ雪見の火桶持ち出して 松元桃村
縁側を拭きゆく蹴出梅日和 岡澤康司
縁側を走り拭きして麦の秋 龍神悠紀子
縁側欲し春愁の足垂らすべく 中原道夫
●縁先
古靴を磨く縁先囀りぬ 金井苑衣
縁先から虫鳴いてくらい山がある シヤツと雑草 栗林一石路
縁先から豆作つて旅籠もする シヤツと雑草 栗林一石路
縁先へお屠蘇と申せ沓の客 森鴎外
縁先や後の月夜の種袋 清原枴童 枴童句集
鯖鮓や縁先は夜の桐畑 岡本高明
●縁台
もち咲けば縁台売が町にくる 岩崎健一
夕の鵜縁台に身をおきしとき 木津柳芽 白鷺抄
縁台にかけし君見て端居かな 高浜虚子
縁台に在りし日の父星月夜 松田小恵子
縁台のうすべりとんで青嵐 星野立子
縁台の王手飛車とり秋うらら 宮下師水
縁台を重ね掃きをり葭簀茶屋 高浜虚子
銀やぐら崩れて白し天の川 縁台将棋 中勘助
●縁の下
それならば縁の下には蟇 桑原三郎 晝夜
一茶庵縁の下より昼ちちろ 古澤活水
何虫ぞころ〜じいと縁の下 寺田寅彦
冬の日や縁の下まで箒の目 長谷川櫂(1954-)
半夏生草のはみ出す縁の下 若井新一
子等はたゞ蟇去りし縁の下を思ふ 高濱年尾 年尾句集
山寺は縁の下まで西日かな 高浜虚子
山寺や縁の下なる苔しみづ 高井几董
山寺や縁の下より冬椿 五十嵐播水 播水句集
春一番縁の下より矮鶏のとき 半谷智乗
春星や縁の下よりけもの径 中山純子 沙 羅以後
春祭縁の下より人現れて 綾部仁喜 樸簡
枯野はも縁の下までつゞきをり 久保田万太郎 草の丈
残雪や如意輪堂の縁の下 竹冷句鈔 角田竹冷
毛虫焼く棒をかならず縁の下 藤田あけ烏
牡丹寺まつくらやみの縁の下 辻桃子
産後の犬這ひ出る花の縁の下 中山純子 沙 羅以後
盗人潜む二百十日の縁の下 寺田寅彦
空也忌や縁の下より鉦叩 加古宗也
縁つづきはうらめしや縁の下の風呂井戸 加藤郁乎
縁の下しずかに茂る鉈に鎌 鳴戸奈菜
縁の下に瓶もたれあひ雛の夜 桂信子 黄 瀬
縁の下の筍汝を掘り出だす 鎌倉佐弓 水の十字架
縁の下の薪とれば蜥蜴出てきたり 川島彷徨子 榛の木
縁の下までとどく陽に豆が芽となり シヤツと雑草 栗林一石路
縁の下一俵の炭を蔵したり 山口青邨
縁の下或夜は浮巣寄りにけり 下村槐太 光背
縁の下或夜は浮巣集りにけり 下村槐太 天涯
縁の下高くて蛇のつきすすむ 小内春邑子
蝶はずみ出る縁の下真暗がり 中山純子 沙羅
蟻いそぎおり西大寺縁の下 鈴木六林男 桜島
蟻急ぎをる西大寺縁の下 六林男
行水し居れば縁の下より初嵐 寺田寅彦
●カーペット
英霊や海の息するカーペット 森 早恵子
一畳の電気カーペットに二人 大野朱香
椿のカーペット踏んで 外人墓地の旅人 伊丹公子 メキシコ貝
●茣蓙
あな黒し茣蓙にひろげて棒若布 中西夕紀
うちくぼみ浪間のごとき寝茣蓙かな 轡田 進
お神楽の涼しき茣蓙を踏みにけり 大木あまり 火球
かさなりて寝茣蓙の厚きところかな 小原啄葉「遙遙」
すさまじや夫婦の部屋の茣蓙衾 上野さち子
ちゝろ鳴きそめし寝茣蓙も別れかな 金尾梅の門 古志の歌
ふたまはり寝茣蓙の夫の細りけり 足立和子
ほんたうは茣蓙を敷きたき花筵 後藤比奈夫 めんない千鳥
ままごとの茣蓙そのままに霜に明く 永井龍男
まんさくや茣蓙いちまいに子が乗りて 田畑京子
みちのくの太き畦ゆく著茣蓙かな 内藤圀彦「著茣蓙」
よこたへて老の身かろき寝茣蓙かな 野間紅蓼
アイヌかなし秋の暮色を茣蓙に織り 林翔 和紙
バンガロー絵茣蓙一枚敷けるのみ 桑田詠子
一と部屋は藺茣蓙の香あり夏初め 瀧春一
七月の舞台鞴の茣蓙に雨 宮武寒々 朱卓
下萌えに二人の茣蓙をひろく敷く 山口みちこ
伽藍広し寝茣蓙を貸しに小孩来 成瀬桜桃子 風色
佐渡までのしぐれ明りや茣蓙帽子 岸田稚魚 『負け犬』
僧の座の敷茣蓙にほひ魂祭 井沢正江 以後
図書に手のとどくところに寝茣蓙敷く 国弘賢治
土曜市草の匂ひの寝茣蓙買ふ 平野山石
夏掛や寝茣蓙の上の一トつかみ 瀧井孝作
夏虫や茣蓙の織屑焚くならひ 安斎桜[カイ]子
夢見茣蓙巻きかかえねば失せやすき 澁谷道
奥能登の一夜の宿の寝茣蓙かな 大橋越央子(俳句年鑑)
女らの夜はつくろひの田植茣蓙 長谷川素逝 村
婆五人しつかりと載せ花見茣蓙 林 和琴
客茣蓙を蚕棚の裾に延べくれし 上村梢雪
寝茣蓙してくすくす笑ひいつまでも 辻桃子
寝茣蓙して法師蝉けふ聲加ふ 石田あき子 見舞籠
寝茣蓙して蹠よごれてゐしを恥づ 林田紀音夫
寝茣蓙なる花にかこまれ妊る身 井桁敏子
寝茣蓙よりはがし起きたる背中にて 徳永山冬子
寝茣蓙干すことが日課に加はりぬ 磯村美鶴
寝茣蓙敷きかなしき音の中に寝る 小林康治 『存念』
寝茣蓙買ふ郷愁しきりなる妻よ 松尾緑富
年男茣蓙して謡一番す 大野洒竹
打敷きて寝茣蓙の花鳥いのち得し 鈴木穀雨
拝殿に茣蓙敷き寒の能舞台 富田潮児
捨て茣蓙を寄居虫越えてゆきにけり 小澤實
敷きくるる魚臭の茣蓙や舟あそび 亀井糸游
敷き茣蓙に守る村の子等宵閻魔 宮脇和正
敷茣蓙の藍の匂へり蓮見舟 玉澤幹郎
新しく買ひ来し茣蓙も盆用意 福島喜代女
新涼や茣蓙敷きにゆく村芝居 大野今朝子
春泥に茣蓙かぶせあり堂の前 岩田由美 夏安
昼寝茣蓙机辺の反古をあふち敷く 亀井糸游
桃摘花侍しゐる茣蓙と魔法瓶 八木林之介 青霞集
案内者の著茣蓙を走る急雨かな 川原檳榔子
梨番の茣蓙の上なる筑紫琵琶 石鼎
棚経や父の寝茣蓙の端ほつれ 皆川白陀
横坐りして女らの絵茣蓙かな 青野卯「渋柿句集」
浮かせ木に茣蓙敷き酌めり今日の月 野村泊月
海贏の子の茣蓙の窪みを見て温か 石川桂郎 四温
涼風や持ちよるものに茣蓙二枚 鈴鹿野風呂 浜木綿
湯治茣蓙抱へて出づる朝曇 白井爽風
演劇部備品の着茣蓙虫干す 茨木和生 三輪崎
火山灰の風牛の日除けの茣蓙焔立つ 殿村莵絲子 遠い橋
瓜番の茣蓙一枚の褥かな 広沢米城
盆茣蓙をきつちり巻いて仕舞ひけり 中里 篠
相見てののちの絵茣蓙の古りにけり 後藤夜半 底紅
真青な寝茣蓙の上の窶れかな 鈴木鷹夫 渚通り
眼科出て寝茣蓙を買へる入日中 宮武寒々 朱卓
着茣蓙してまつわる虻をうとみをり 石田良作
神前に固く巻きたる絵茣蓙かな 吉本伊智朗
神神の器も茣蓙に年の市 白川時子
竪琴のごとく糸張り絵茣蓙織る 田村了咲
粟の草取るや着茣蓙に風もなく 篠原温亭「温亭句集」
絵茣蓙古り人生もほぼ古りにけり 後藤夜半 底紅
絵茣蓙敷きあり見るにつけ思ふなり 高木晴子
綿虫のおちてきたりし茣蓙の上 中田剛 竟日
織る茣蓙の花くれなゐに雪ごもり 田村了咲
老どちに茣蓙席冷ゆる里神楽 山田弘子 初期作品
胡床居の童女の茣蓙にゆすらうめ 秋元不死男「万座」
舟の茣蓙にすてつきは横はらせる シヤツと雑草 栗林一石路
舟茣蓙に月の夜風の冷え来る 上村占魚 球磨
舟茣蓙に砂のざらつく沖膾 堤月耕
花包む小茣蓙こぼるゝ夏の露 四明句集 中川四明
花見茣蓙広げお城に馴染まする 加藤憲曠
花見茣蓙端近もある奥もある 平畑静塔
花見茣蓙華やぎ何か疲れゐて 塩川雄三
茣蓙の上に婆を満載川施餓鬼 高澤良一 寒暑
茣蓙の上の母を標や野に遊ぶ 不破 博
茣蓙の下田水走れる瓜番屋 村上三良
茣蓙を巻くことも八月十五日 柿本多映
茣蓙を着て足くつきりと白きかな 高浜虚子
茣蓙を著てすつくと立てり御来迎 田中蛇々子
茣蓙一枚持ちて菊師の現はるる 佐草しげを
茣蓙一枚火鉢ひとつのなりはひや 福田蓼汀 山火
茣蓙半帖*ささげを干して盆の島 山本つぼみ
茣蓙売の茣蓙抜けてゆく和布村 岸田稚魚 筍流し
茣蓙敷いて蚤の市たつ初観音 鈴木真理子
茣蓙敷いて遊びゐし子に春時雨 波多野爽波 鋪道の花
草の戸に買ひ戻りたる寝茣蓙かな 松藤夏山 夏山句集
草取の膝敷茣蓙の小ささよ 高倉観崖
草市の茣蓙にたまりし小銭かな 比叡 野村泊月
草萌の野に敷く茣蓙のふくらみに 稲畑汀子 汀子第二句集
荻窪に茣蓙屋があればこそ涼し 筑紫磐井 花鳥諷詠
華麗なる寝茣蓙の上の齢かな 草間時彦「瀧の音」
萱刈の茣蓙臑当のいでたちや 松藤夏山 夏山句集
著茣蓙など買うて行かれし旅の人 三浦俊
蔓引くや茣蓙一杯のぬかご雨 羽根田薫風
薬缶茶碗と置けば傾ぎて田植茣蓙 今瀬剛一
藺刈賃もらひ土産の茣蓙もらひ 三木朱城
角を切る鹿の背丈の茣蓙敷きて 木田千女
話まだ寝茣蓙につづく姉妹かな 井上和子
誰も来ぬままの一枚花火茣蓙 渡辺真帆(麓)
貸し練炭貸し茣蓙夜桜真っ盛り 高澤良一 寒暑
野々宮へ茣蓙さげてゆく祭かな 比叡 野村泊月
闘鶏の囲へる茣蓙の揺れとほし 工藤一艸
雨やんで茣蓙ひろぐれば紅葉かな 田中裕明 櫻姫譚
霧雨や着茣蓙の袖を重ねゆく 本田一杉「霧海」
青田風暁の寝茣蓙の端冷えし 高田蝶衣「青垣山」
青田風着茣蓙煽りつ亘るなり 石塚友二 光塵
風の故郷が見える一日茣蓙にいて 阿部完市 絵本の空
鮮やかに寝茣蓙の夢の残りけり 砂田貴美子
●敷物
山陰や敷物とても今年藁 乙由 (茂秋法師の十方庵)
若菜摘み敷物やらうさん俵 去来
●絨毯
うご草は海女の絨毯路に敷き 沢木欣一
はばからず絨毯踏んで値踏みせり 遠山保子
庫裡ふた間赤絨毯を敷き詰めし 右城暮石
微笑邪気なし綿絨毯の温きいろ 柴田白葉女 『夕浪』
恋めきて絨毯をふむ湯ざめかな 飯田蛇笏 雪峡
春昼や絨毯に足音消える 高木晴子 花 季
春芝へ絨毯の緋の流れやむ 高梨花人
林道のここは栃の葉絨毯道 高澤良一 素抱
歌舞伎座の絨毯踏みつ年忘 渡邊水巴 富士
母のベッドありしあたりの緋絨毯 大木あまり 火球
油虫打たれた後の絨毯なり 四ッ谷 龍
港よりあまた飛び立つ絨毯も 高澤晶子
灯して絨毯暗し帰化家族 下村ひろし 西陲集
空を飛ぶ夢持ち絨毯の縁反れる 岸 典子
絨毯につづく枯芝海も見ゆ 和田祥子
絨毯に双膝ついて悔い拾う 窪田久美
絨毯に坐せる少女を見下すも 草間時彦
絨毯に子らのねむたき祭かな 大橋櫻坡子 雨月
絨毯に座せば毎日雀が来 林薫子
絨毯に手籠の猫子はなたれぬ 飯田蛇笏 春蘭
絨毯に指をすべらすアラベスク 二村典子
絨毯に眠つてをりし電子辞書 細井みち
絨毯に蛍火ひろふ多佳子の忌 鷹羽狩行
絨毯に足美しく現れぬ 吉屋信子
絨毯のあしおと吸うて冬日影 飯田蛇笏 春蘭
絨毯の上を温風這ひ廻り 高澤良一 ぱらりとせ
絨毯の奥より宮司現はるる 坂本宮尾
絨毯の山水渉る冬至の日 原田青児
絨毯の年古る塵に凍火鉢 西島麥南
絨毯の月と土星に横坐り 三雲繪里子
絨毯の染みの真上で暮らしをり 櫂未知子 貴族
絨毯の深さへ卵を産んだ記憶 藤原千秋
絨毯の火鉢の跡へ火鉢置く 吉屋信子
絨毯の眞紅古ぶは滅ぶさま 橋本鶏二
絨毯の真紅に年の豆こぼれ 大野紫水
絨毯の美女とばらの絵ひるまず踏む 柴田白葉女
絨毯の花柄生きるは修羅なるや 河野多希女
絨毯の花汚せしまゝ何時帰る 殿村菟絲子
絨毯の花鳥に軽し桐火鉢 吉屋信子
絨毯の薔薇が次の間までひらく 正木ゆう子 悠
絨毯の赤き道来し夜を寒む 上田日差子
絨毯の足らざる隅におのが影 宇咲冬男
絨毯の階ばらの闇に出づ 岸風三樓
絨毯は新調壁炉機嫌よし 河本 和
絨毯は空を飛ばねど妻を乗す 中原道夫
絨毯は赤し晶子の書は古りて 石原八束
絨毯をひさぐきち〜ばったの野 依田明倫
絨毯を敷き畳替せぬことに 中村芝鶴
絨毯を歩んでゐたる原爆忌 鈴木鷹夫 風の祭
絨毯を踏み苜蓿を踏む草履 福田蓼汀 山火
絨毯を踏む黒人の跣かな 山本歩禅
絨毯踏む氷上ながく滑り来て 橋本美代子
緋の絨毯吾をみちびく避寒宿 山口青邨
花冷や絨毯の緋や恋ひわたる 齋藤玄 飛雪
苔寺の苔の絨毯あまがえる 池田勝之
菊活くる水絨毯にまろびけり 西島麥南
虎落笛絨毯に曳く折鶴蘭 阿部みどり女 月下美人
蛇乗れり丸めて捨てし絨毯に 茨木和生 野迫川
血のいろの絨毯に坐し銃みがく 高久清美
雪渓を踏み来し足を絨毯に 稲畑汀子
香臭き絨毯となり年逝けり 殿村菟絲子
卒業の赤きじゆうたん踏みて去る 手塚基子
坂上がる少女に春の日のじゅうたん 峠谷清広
冬萌に紅じゆうたんを掛けしかな 赤尾兜子
●畳
*ささげ干す半畳ほどの荒莚 神蔵 器
*はったいを吹き飛したる畳かな 前田普羅
*ひかげ趁うて蓑虫かへる畳かな 渡辺水巴 白日
ああああと畳に赤子秋の山 鈴木鷹夫 大津絵
あたたかや畳が見えて屋形船 小島健 木の実
あたらしき畳に実梅しづかなり 中田剛 珠樹
あたらしき畳匂ふや夕蛙 久保田万太郎 流寓抄
あつき湯で畳拭かすや五月闇 青木月斗
いくど掃く畳のいろの竹落葉 石川桂郎 高蘆
うぐひすの音のすべりくる畳かな 正木ゆう子 悠
うそ寒や畳にをどる影法師 木歩句集 富田木歩
えんぶりや土も香にたつ雪畳 林 翔
おぼろ坂あとは畳を拭いてをり 新関幸至
お前が死んでからも来る新聞を畳にひろげる 栗林一石路
お月見や畳にこぼす花の水 高橋淡路女 梶の葉
かあゆやな畳にさむき児の寝顔 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
かなかなや三十畳を借り申す 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
かなかなや橋の下ゆく畳船 花尻 万博
かなかなや畳に寝たる身を起こす 脇本星浪
かるたへり〜て畳の青さかな 温亭句集 篠原温亭
げぢげぢが畳に対角線をひく 藤岡筑邨
こおろぎが畳のうへに上がり込む 高澤良一 随笑
これもこれもこれも土産よ梅雨畳 高澤良一 ねずみのこまくら
ころがる枝豆畳に遠き海と山 磯貝碧蹄館
ごろ寝して畳の蟻に親しめり 高澤良一 素抱
さねかづら置かれし夜の畳かな 水野恒彦
さみだれの畳くぼむや肱枕 森鴎外
さるすべり畳八枚かわききる 正木ゆう子 悠
さわ蟹の畳を這へる泊りかな 明石茂子
しなへよく畳へ置や藤の花 炭 太祇 太祇句選後篇
しらじらと畳のひろさ年を守る 鷲谷七菜子
じんべい鮫ゆらり畳を拭く日なり 中北綾子
すいとん畳に下してきて不服を言わさぬ妻 橋本夢道 無禮なる妻抄
せきれいの霜の色して岩畳 高澤良一 燕音
その蝿に十畳ほどの青みどろ 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
そろ〜と畳を風が夜の秋 川崎展宏
だんらんの畳を汚す菫かな 仁平勝 東京物語
ちちははや畳にゆらぐ雪明り 金箱戈止夫
とどまらぬ時間のうちに秋の蜂まぎれ入りきて畳をあるく 加藤知多雄
どんぐりの影やはらかき畳かな 高橋泰
ながき夢さめてつめたき畳踏む 松村蒼石 雁
なほざりに団扇白しや古畳 楠目橙黄子 橙圃
ぬきんでて畳針なり祀らるる 山崎冨美子
ねんぶつ会薄のいろの堂畳 高澤良一 燕音
のどかさや鞄寄せある岩畳 森田公司
はしり来る畳の影や灯取虫 木津柳芽
はったいを吹き飛ばしたる畳かな 前田普羅
はつふゆの竹の影さす畳の目 吉田八重子
はなびらがおとづれてゐる畳かな 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
ひとところ暗き畳の施餓鬼寺 落合敏子
ひとところ葉畳没し蓮咲けり 飯田晴子
ひとり寝て畳あまれり遠蛙 岩田昌寿 地の塩
ひとり居のひとりの畳淑気満つ 高木あけみ
ひと死ぬる畳枯野のごとくあり 秋好山好
ひややかに人住み畳なめらかに 藤木清子
ひらひらとおはぐろのくる畳かな 長谷川櫂 蓬莱
ふぐ汁や鍋のかたぶく古畳 猫帳
ふと覚めし仮眠畳に百足虫這ふ 田崎令人
ぶらんここぎすぎて畳屋のようなり 宮崎斗士
まつさらの畳運べる十三夜 山本洋子
みどりの畳に鯉のようにわれはいるなり 阿部完市 純白諸事
もみづるや高脚蜘蛛のゆく畳 古田紀一
よきみくじ四つに畳んで単帯 星野立子
よみかきの肘つく梅雨の畳かな 西島麥南
わが生の中盤冬田畳々と 古館曹人
わびすけの畳にこぼれひぐれけり 加藤楸邨
ゐのこづち剥いでは畳に並べゆく 加藤楸邨
ゐもり浮く藻畳いまだ密ならず 森田峠 避暑散歩
ゑんどうの畳にまろび止まりし所 細見綾子 花寂び
アンテナを花を隠せる葛畳 石川桂郎 高蘆
カンナ咲き畳古りたる天主堂 大島民郎
サロマ湖の江の千畳に海蘿の座 原柯城
ストーヴの消えてゐるかげの畳に 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
セレベスに女捨て来し畳かな 火渡周平
ペーチカに畳四五枚敷いて住む 田村了咲
ポットの湯畳にこぼす花曇 石川文子
マンボウ棲む沖見え 少年に暗い畳 伊丹公子 メキシコ貝
一ところ葉畳くぼめ蓮の風 宮脇和正
一八を活けて冷たき畳かな 長沼利恵子
一力の昼の畳や春の風 小山内薫
一夜寝て暖か佐渡の置畳 石川桂郎
一巻の系図を置きて黴畳 串上青蓑
一月の畳ひかりて鯉衰ふ 飯島晴子
一枚の畳となつて冬篭り 大鋸甚勇
一生一泊布団の跡にぬくき畳 香西照雄 対話
一粒の枇杷まろびたる畳濡れ 亀井糸游
一軒家畳いわしを干す生活(たつき) 高澤良一 鳩信
七夕や宵の畳の白団扇 碧雲居句集 大谷碧雲居
七畳小屋へ雁寒と申すべく 島谷征良
七畳小屋闇に影なし柿落つや 及川貞
七畳屋冬うららかに失せにけり 手塚美佐 昔の香
三畳の仏間より見え山笑ふ 長谷川双魚 風形
三畳の書斎に足りて蝸牛 岩崎健一
上がりはな畳かをれる事始 小林貴子
下萌に置く古畳南吉忌 長村雄作
世事肚に畳んで忘じ宿布子 杉本零
串人形よよと泣かせて黴畳 佐野美智
丸薬のこまかい音が夜更の畳に散らばる 人間を彫る 大橋裸木
二日はや物憂かりける壁畳 石塚友二 光塵
五月雨や畳に上る青蛙 五月雨 正岡子規
人は皆外に畳の月夜かな 尾崎紅葉
人影をひきよせてゐる冬畳 石田郷子
人征きしあとの畳に坐りつる すずのみぐさ女
今散りし牡丹を掃くや新畳 島村元句集
今替えし畳に母が体操す 山尾玉藻
仙人掌や畳敷なる天主堂 石原千代
仲秋や畳にものの影のびて 片山由美子 風待月
位牌たゞ日焼畳に置けるのみ 森田峠 避暑散歩
佐渡島畳々として照り卯浪 高澤良一 寒暑
体臭が脱ぎ棄ててあり梅雨畳 文挟夫佐恵 黄 瀬
余生とは未し古希へ畳更ふ 殿村莵絲子 雨 月
作る畳へ銀針出没鮎釣りたく 香西照雄 素心
俘虜のわれ畳に生きて年酒酌む 権藤義隆
傀儡の歎き伏したる畳かな 橋本鶏二 年輪
元日の居ごころや世にふる畳 太祇
元日の畳恋しや肘と膝 敏雄
元旦や畳にひろふ毛糸の屑 加藤楸邨
先住の焦がせし畳竹の秋 野村泊月
先住の焦せし畳竹の秋 比叡 野村泊月
八つ手咲いて畳のしたし冬になりぬ 森川暁水 黴
八月の畳にをんな肥りたり 藤木清子
八月や潮の下の岩畳 増田龍雨 龍雨句集
八朔の畳明るき方へ掃く 前田攝子
冬ごもり家主よりとて畳見に 五十嵐播水 播水句集
冬の日の暮の畳に酒を吸はれた 人間を彫る 大橋裸木
冬の蚊や書院の畳やや窪み 石垣青☆子
冬の蚤畳の痛き目を蹴つて 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
冬日和講道館の畳かな 花眼亭椋鳥
冬日射す畳に母の物ひろげ 大田和子
冬桜三十畳を拭きあげて 夏井いつき
冬浅き畳にひろぐ肌着類 高澤良一 随笑
冬畳きしませあればオシラサマ 岸田稚魚
冬畳とりすがる死の無造作なり 寺田京子
冬畳父が善意の寝息つたふ 友岡子郷 遠方
冬畳直哉の眸して海を見る 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
冬畳身倒し拭きてひと悼む 神尾久美子 掌
冬至とて畳の墨を拭せけり 成 美
冷(すず)しさを吹きこめぬるる板畳 広瀬惟然
冷々と畳広さよ御忌の鐘 清原枴童 枴童句集
冷やかに忘れ潮あり岩畳 高橋淡路女 梶の葉
凍て畳に落ちてひろごる涙かな 竹下しづの女 [はやて]
凍鮪千畳なすを糶り尽す 鷹羽狩行
出代の畳へ落す涙かな 太祇
出水禍の十一月も畳なし 近藤一鴻
切岸の畳に坐る春嵐 松山足羽
初ひぐらし畳の部屋を通るとき 北原志満子
初夏の塩のこぼれし畳かな 長谷川櫂 古志
初夢のマンボウ何と畳大 高澤良一 随笑
初日さす戦後の畳やはらかし 桂信子 黄 炎
初春の辞儀に冷たく畳かな 池田澄子 たましいの話
初糶を待つ翻車魚の二畳程 小澤實
初蝶や只越方の畳数 石塚友二 光塵
初雪の畳ざはりやしゆろ箒 智月 俳諧撰集玉藻集
初鴉父母とゐる畳かな 上田操
北風避けて畳師針を口で引く 姿見陽揚
十三夜畳をめくれば奈落かな 河原枇杷男
十六夜や妻への畳しこうこうと 加藤秋邨 雪後の天
十夜講畳を擦りて坐につける 高澤良一 随笑
十畳に少し暗しや冬灯 上野泰 佐介
十畳の草鞋踏んまへ厄払ふ 折井ふじ子
十畳を這ふやうに拭く豊の秋 辻 響子
千畳閣海の風入れ新松子 館岡沙緻
卒業や畳しづけく思ほゆる 山口誓子
南風の後畳拭かしめ気落ちをり 篠田悌二郎 風雪前
南風の蟻吹きこぼす畳かな 芝不器男
卯の花にしめつぽくなる畳哉 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
友禅描き梅雨百燭の畳の間 白澤よし子
双六の山河畳んでありしかな 大石悦子 聞香
双六の花鳥こぼるる畳かな 橋本鶏二 年輪
反物は畳をころげお山焼き 大野朱香
古ぼけし畳の目あり昼寝覚 高澤良一 ぱらりとせ
古夜着も今朝畳なすしめ飾 曾良
古畳いとひはらばふ裸かな 下村槐太 光背
古畳ばさと音して竃馬 佐藤至朗
古畳より躬をおこし秋と思ふ 菖蒲あや 路 地
古畳団扇に虫をおさへけり 正岡子規
古畳拭きひからする祭かな 森川暁水 黴
台風後畳たいらか帰りこず 出口 善子
史書編みし十畳冥しほととぎす 鍵和田[ゆう]子 浮標
合掌の家の涼しき畳かな 土永竜仙子
吉田屋の畳にふみぬ年の豆 高浜虚子
吊忍畳つめたくあゆみけり 木村ふく
名刺一枚畳に落ちし冬仕度 鈴木鷹夫 春の門
吹かれ来て畳に上る千鳥かな 乙由
吹き入りし畳の木の葉暮れにけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
吹き抜けの千畳閣に草の絮 日暮ほうし
吹き降りや畳に移す花御堂 松尾信也
吾とこの火鉢にくぼみ古畳 亀井糸游
呉服売る畳続きの蔵開 小島國夫
啄木鳥と畳越しなるお元日 松山足羽
四弦一斉霰たばしる畳かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
土用波畳に立てば見ゆるかな 岩田由美「夏安」
在ることのひるの暑さの畳かな 長谷川素逝 暦日
坐して老ゆ畳師島の麦青み 大串章
坐りたる畳のしみは蜘蛛の糞 佐野良太 樫
報恩講詰めれば入る畳の間 奥田筆子
夏めきて畳拭く妻髪梳く母 鈴木鷹夫 渚通り
夏めくと坐せば畳の匂ふなり 田中茗児
夏めくや畳いわしに目の数多 堤 保徳
夏帯とく畳のはての青い潮 櫛原希伊子
夏怒濤千畳の石折りたたむ 藤田康子
夏籠や畳にこぼすひとりごと 日野草城
夏草に加担し畳息をせる 佃 悦夫
夕べ誰畳焦しつくすり喰 黒柳召波 春泥句集
夕凪や畳に塩をこぼしたる 岸本尚毅 舜
夕暮や螢にしめる薄畳 一茶 ■文化六年己巳(四十七歳)
夕焼に畳飛びゆくわが離郷 寺山修司 花粉航海
夕風に畳はひ行く蚊やり哉 蚊遣 正岡子規
夜の畳祭かんざし影持てり 浦川聡子「水の宅急便」
夜の秋母臥す畳ふみとほる 野澤節子 『存身』
夜の秋畳が眼鏡をかけてをり 工藤克巳
夜の蟻の畳に殖えて旅疲れ 河野南畦 『空の貌』
夜の蠅の群るゝ畳に麦を挽く 石橋辰之助 山暦
夜具の下畳つめたき四月尽 橋本多佳子
夜神楽は畳に酒を打ちて舞ふ 橋本鶏二
大塔に畳を替へて女あり 赤木範子
大寒や畳を拭けば畳泣く 辻田克巳
大寺の襖畳の秋の暮 能村登四郎
大寺の青き畳や仏生会 佐藤信子
大書院梅雨の畳に茶をすする 吉屋信子
大熱のひけた畳に萩の花こぼれ 栗林一石路
大粒な蚤とびありく畳哉 蚤 正岡子規
大蟻の畳をありく暑さかな 士朗
大蟻の畳を走る俳諧寺 竹川貢代
太柱のもとの畳や秋扇 比叡 野村泊月
如己堂の二畳の居間に緑さす 木暮剛平
如己堂は永劫二畳破芭蕉 百合山羽公
妻戸閉せば畳艶めき春燈下 香西照雄 対話
嫁が来る畳を掃いて菊籬 遠藤梧逸
子が居ねば一日寒き畳なり 臼田亞浪 定本亜浪句集
子に堰かる寒の畳を躄りゐて 小林康治 玄霜
子の反抗期ぶざまに坐して梅雨畳 河野多希女 琴 恋
子をつれて鷭のあるける菱畳 吉川葵山
子規堂の子規の三畳秋日さす 暮石
子規庵の暮秋の畳明りかな 高澤良一 随笑
子規庵の畳に坐せば蚯蚓鳴く 高須禎子
学校に畳の間ある歌留多かな 森田峠 逆瀬川
実家の名の畳紙に残る花衣 有馬籌子
家中の畳縮んで冬に入る 筒井功
家移り来て踏む寒き畳数 三好潤子
宿の畳にべつたり坐る四月かな 桂信子 黄 炎
寄港ごとに空く船畳蝿荒ぶ 西村公鳳
寒き夜の夫との間の畳の目 波津女
寒き夜の畳におきし時計かな 徳川無声
寒き日の畳の蠅が這ひ出しぬ 臼田亜浪 旅人
寒の餅切る日あたりの古畳 松村蒼石 寒鶯抄
寒木の影が倒れてゐる畳 佐々木六戈 百韻反故 初學
寒椿畳の艶の深まりし 山崎 篤
寒稽古青き畳に擲(なげう)たる 日野草城
寝そべりてクイズを解ける梅雨畳 高澤良一 素抱
寝て見れば畳のかたき袷かな 闌更「半化坊発句集」
寝るだけの畳を拭くや鯊日和 春日一枝
寝落ちたる夜陰の畳白団扇 松村蒼石 雪
寧楽のみやこ少し外れの畳屋匂う 和田悟朗
寺猫の乗りし畳に喜雨しぶく 長谷川かな女 花 季
小包とゞく燈台守の灼け畳 中島斌男
小春日の畳よろこぶ素足かな 宇多喜代子 象
小畳の火燵ぬけてや花の下 内藤丈草
少年病む畳の西日ヨット形 香西照雄 対話
尻の跡のもう冷かに古畳 子規句集 虚子・碧梧桐選
尻焦げし柚味噌の釜や古畳 子規句集 虚子・碧梧桐選
山の蚤暁け来て畳目にかくるる 長谷川かな女 花 季
山吹やそこら散らかす畳さし 柑子句集 籾山柑子
山背風やみ畳をこする木の葉かな(山廬にて) 飴山實 『辛酉小雪』
山茶花の散る月光に畳職 黒田杏子
山蟻の畳をよぎる肘まくら 柴田白葉女 牡 丹
山蟻や緑漂ふ五千畳 島村元句集
岩畳蟹追いかけて追いかけて 高澤良一 宿好
岳の雨二日にあまり畳冷ゆ 石橋辰之助 山暦
岳麓の枯れのつづきの畳に母 友岡子郷 日の径
島へゆく船の畳に紫蘇の束 吉田汀史
島帰る土畳の巨き椋の上 大野林火
川止の宿の畳に青蛙 平松竃馬
布巾きちんと畳んで白し雲の峰 中山純子 茜
帰国して畳の朝寝ほしいまま 岡安仁義
帰省子に腹ばふ畳ありにけり 生田恵美子
帷子をさと脱捨てし畳哉 篠崎霞山
幟下せし畳暮るゝになほ話す 清原枴童 枴童句集
干畳一枚菊のほとりにも 清原枴童 枴童句集
平らかに畳に居るや春のくれ 桂信子 黄 炎
年明ける畳に白紙いちまいと 稲垣暁星子
店前の畳屋にほふ春の雪 石川桂郎 四温
庭先の金雀枝明り畳縫ふ 石川文子
庭先へ花をかくせる葛畳 石川桂郎 四温
影抱へ蜘蛛とどまれり夜の畳 松本たかし
彼岸桜活けてこぼるる畳かな 山本洋子
征くとまた告げ去りし畳蟻がゐる 石川桂郎 含羞
待宵のこほろぎありく畳かな 中西泗汀
御忌の僧畳に杖を運ばるゝ 田畑比古
悪女かも畳ふくるる秋黴雨 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
手にとりて畳平の初氷 高澤良一 素抱
手枕に畳目の痕蝉しぐれ 田中みち代
折鶴を畳にさくら月夜かな 鈴木鷹夫 春の門
抱かれて畳に広がる余寒かな 谷口桂子
招かれて秋夕焼の畳かな 岸本尚毅 舜
拭いてゐる畳の数や十三夜 大木あまり 火球
拭上げし畳百枚蝉しぐれ 石川美佐子
拾ひ来て畳に置きぬ丹波栗 前田普羅 新訂普羅句集
指圧教室畳広らに秋気充つ 高澤良一 素抱
挿木して俄かに暗き畳の目 青野三重子
捨畳蘭の芽吹き出て敗戦日 中村草田男
掃き終へし畳つめたき鉦叩 菖蒲あや 路 地
放哉の梅雨めく畳踏み窪め 小林康治 『潺湲集』
文化の日来るくらがりに畳冷え 鷲谷七菜子 花寂び
新しき畳に寐たり宵の春 夏目漱石 明治三十三年
新しき畳のにほふ敬老日 平野貞子
新ら畳辷り易くて乙鳥来る 長谷川かな女 花寂び
新涼の岩畳いま潮畳 友岡子郷 春隣
新涼の畳になじむ肘枕 成田昭男
新涼の畳敷きたる天主堂 今井杏太郎
新聞紙畳にふかれ土用波 桂信子 遠い橋
新走り身の影をおく畳かな 桂信子 樹影
旅果ては月の畳に眠り神 小檜山繁子
既にして畳なしたり水草生ふ 森田峠 三角屋根
日の丸が畳に鮎の落ちし村 宇佐美魚目 秋収冬蔵
日の暮の畳に柿と赤ん坊 原田喬
日まはりこちらむき畳の子 シヤツと雑草 栗林一石路
日盛りの畳きよらか琴を置く 長谷川かな女 雨 月
日盛りの畳つめたき父の家 辻田克巳
日蓮も裳を畳く菊人形 菖蒲あや
明け方の蚊帳のまはりの畳かな 今井杏太郎
明易き畳の冷えと沼の水 松村蒼石 雪
昔から角は畳屋亥の子唄 浜野 茂
春さむしねざめの畳よく匂ふ 石橋秀野
春の夜や子をあゆまする古畳 長谷川春草
春の蚊の畳に低くそひうせし 上村占魚 球磨
春の蚊や淡き日の射す畳廊 大久保白村
春寒く畳にこぼす鳥餌かな 宮武寒々 朱卓
春寒しねざめの畳よく匂ふ 『定本石橋秀野句文集』
春帽子畳に投げて故郷かな 佐藤さよ子
春愁ふ島の港の畳職 黒田杏子 花下草上
春泥や車ひしめく畳市 下村ひろし
春潮を家の畳に立ち眺む 山口誓子 遠星
春蘭に畳の埃とぶことも 吉井幸子
春袷けふこそ縫はな畳拭く 市川阜実
春陰の畳つめたく踏みゆけり 柴田白葉女 遠い橋
春雪霏霏聴禽書屋畳の香 黒田杏子 花下草上
春風や柩を置きし畳拭く 依光陽子
昼の蛾の這へる温泉宿の畳かな 高濱年尾 年尾句集
昼寝さめて腕さするや畳の目 昼寝 正岡子規
昼寝より背を畳よりはがし起く 篠原梵 雨
昼寝覚うつつの蝿の畳這ひ 行方克己 昆虫記
昼畳七夕様の塵を掃く 阿部みどり女 笹鳴
晝寝より背を畳よりはがし起く 篠原梵
晩夏光ふるき畳に足まげて 岸風三樓
晩秋の日ざし拭きこむ畳かな 速水道
暁の畳の凍てて座禅堂 田中南耕
暑き夜の畳に寝たる夫婦かな 森川暁水 黴
暑にこもる畳に塵をとどむなく 長谷川素逝 暦日
暮遅く日の這わたる畳かな 炭 太祇 太祇句選後篇
曼荼羅の前の畳の寒さかな 山本洋子
替へて早火こぼす師走畳かな 比叡 野村泊月
月に照り枯生のやうな古畳さみしき母と坐らぬか子よ 森岡貞香
月光の畳のほかは欲しくなし 大木あまり 火球
月明の畳にうすき団扇かな 原石鼎
月祀る家の冷たき畳かな 渡辺純枝
朝夕に座右の冬光古畳 飯田蛇笏 雪峡
朝晴れの畳つめたし鵙の声 金尾梅の門 古志の歌
木の匂ひ畳のにほひ梅雨明けぬ 朝倉和江
木の葉髪直に畳に眠りけり 榎本冬一郎 眼光
木洩れ日の畳にゆるる風炉名残 小林 遊
木犀や同棲二年目の畳 高柳克弘
木魚居る畳に坐り夜学かな 松本たかし
未婚にてふつとつめたき畳かな 正木ゆう子
末枯の葛の葉畳土手をなす 高木晴子 花 季
本堂の畳ざはりや棕櫚の花 高澤良一 ももすずめ
本堂の畳の砂も十夜明け 四明句集 中川四明
本尊にひれ伏す黴の畳かな 滝口芳史
本願寺二百三畳冴返る 稲垣美知子
本願寺畳叩いて年用意 吉川能生
朴若葉子規の無念の畳かな 長谷川櫂(1954-)
杖突いて畳を歩く西行忌 遠藤梧逸
松の花畳にこぼれ武徳祭 岸風三楼 往来
板かるた畳叩きて飛ばしけり 山田俊郎
枯畳の平野石狩朱の鷹とぶ 寺田京子 日の鷹
枳殻の実旅の畳に直に置く 石井公子
柚子湯出て蹠に荒き畳の目 菖蒲あや
柩出て畳八枚の雪国なり 古館曹人
柿ころげ古き畳となりにけり 細川加賀 生身魂
栄坊は注射もされず死んで二畳で昼寝のよう 橋本夢道 無禮なる妻抄
栓抜が畳のうへに秋の家 川崎展宏
梅が香や畳へこぼす水のうへ 椎本才麿
梅千畳干されしままに暮るる村 山岸勝子
梅雨あけて静かに涼し夜の畳 高橋馬相 秋山越
梅雨の畳に体重のせて歩く音 高橋信之
梅雨明の畳上げたる一夜庵 藤田静古
梅雨畳千住に守る手描き絵馬 町田しげき
梅雨畳踏めば鶏鳴裏手より 鈴木鷹夫 渚通り
梅雨茸の呪詛のひと日は畳拭く 金久美智子
梅雨霽れや四夷畳店畳の森 塚本邦雄 甘露
棚に余る雛やならぶ古畳 雛祭 正岡子規
棺出して朱夏の畳の高さかな 武藤鉦二
棺出でしあとの畳の春の暮 細川加賀 生身魂
椿落つ音を畳に睡り際 西井琴子
楪のこぼれて青き畳かな 渡辺大年
榾けぶる住居侘びしや畳なき 黒柳召波 春泥句集
樗咲く教会堂は畳敷 京極杞陽
横たへし七夕竹に古畳 高橋淡路女 梶の葉
櫛畳紙ひろげてさむき畳かな 久保田万太郎 流寓抄
次の間も畳明るし筆始 柴田佐知子
次狂言の面ンを畳に壬生日永 幸治燕居
歌かるた打たれどほしの畳かな 苅谷裕里子
歌留多会青き畳の匂ひけり 山口波津女
歯朶の塵こぼれて畳うつくしき 大峯あきら 宇宙塵
死は畳いちまいのくに天の川 三森鉄治
死んでゆく畳の波を月照らす 白井房夫
残る蚊の声のまぎるる古畳 大熊輝一 土の香
母と寝て畳のあまさず冬燈 舘岡沙緻
水仙の花うつふせに畳かな 松藤夏山 夏山句集
水引草畳のつやにうつりけり 室生犀星
水楢のこかげに憩ひ岩畳のさざなみを踏み 梅林句屑 喜谷六花
水汲んで畳をとほる厄日かな 角光雄
水無月や畳敷きなる天主堂 大岳水一路
水葱畳払はれ江津の景戻る 梶尾黙魚
水貝や畳に風の出でて来し 川崎展宏 冬
水門番屋に畳一枚ほととぎす 唐橋秀子
水鱧や父との酒の舟畳 藤田あけ烏 赤松
氷る夜や畳にしめる上草履 青蘿
氷夜や畳にしぶる上草履 松岡青蘿
氷海の巌畳々と濤に非ず 古館曹人
汚れたる畳なつかし西瓜切る 阿部みどり女 笹鳴
汝とわれ月の畳といふものに 黒田杏子 花下草上
沙彌夜学月の畳のまん中に 橋本鶏二 年輪
法華寺の減罪の凍て畳より 井沢正江 晩蝉
波打てる畳に屏風傾ける 高浜虚子
泥槃図を畳にのべて皆立てり 吉本伊智朗
活けんとして柳置きたる畳哉 柳 正岡子規
浄土これ畳のヘりにとろゝ汁 攝津幸彦
浮人形畳に置けばさみしけれ 大橋櫻坡子 雨月
浮草の芽吹のみどり畳なす 大場白水郎 散木集
海へもつれて行かず今年も誰かしら病んで機械が震動してくる畳に 橋本夢道 無禮なる妻抄
海暑くなる日の畳潔めけり 佐野まもる 海郷
涅槃を拝む虫喰へる畳の広き 梅林句屑 喜谷六花
涅槃会の畳に百の足の裏 星永文夫
渓の家涼しと見れば畳掃く 大岳水一路
満月に暑さのさめぬ畳哉 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
満月の畳に海の砂すこし 正木ゆう子 悠
漆屋の畳口まで初荷かな 石田勝彦 秋興
潮寄する春の夜畳にすわり 中塚一碧樓
潮引きしあとあたたかき岩畳 渡辺大円
潮風に倦めり畳に水眼鏡 三宅一鳴
火の遠く畳の広し風炉手前 白石時子
火鉢抱いて瞳落とすところ只畳 石鼎
灯さねばわが影もなし冬畳 吉野義子
灯すや月光失せて古畳 清原枴童 枴童句集
灯のもとの畳の夜長はじまりぬ 長谷川素逝 村
灯を消して畳に招く盆の月 黒田杏子 花下草上
灰の火や夜は目につく古畳 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
炉塞いで畳の海に波もなし 炉塞 正岡子規
炉塞ぎの日や来合はせる畳さし 也有
炉火燃え上る畳に氷る射鳥かな 雑草 長谷川零餘子
炉開いてとみに冬めく畳かな 日野草城
炉開きの明日へ音たて畳拭く 秋山素子
炉開の畳に袂ひと流れ 井沢正江 晩蝉
炭はぜてうつつにかへる夜の畳 福島小蕾
無造作に祈る畳屋針供養 秋山夏樹
煤払ひ畳に仏寝かせあり 阿部静雄
煤払ふなき七畳の座椅子かな 石川桂郎 高蘆
燈籠のくらがり出来し畳かな 塩月 能子
燈籠の暗き畳に枕かな 雑草 長谷川零餘子
燈籠を吊るや畳に裾曳いて 温亭句集 篠原温亭
燕去ぬ西日に焦げし畳かな 金尾梅の門 古志の歌
片足は畳に寝ねて夏の風邪 渡辺白峰
牡丹活けて古く汚さぬ畳かな 雑草 長谷川零餘子
牧師住む露けき二畳一間かな 橋本榮治 麦生
物として寒の畳に坐しゐたり 村越化石
狂ひ女の乾飯すひとる畳つめたし 岩田昌寿 地の塩
猟銃も女も寝たる畳かな 吉田汀史
猪荒れて畳のごとき稲田かな 岡田耿陽
猪食べて北の畳に日が廻る 清水経子
猫の子が踏むあぶな絵の畳皺 長谷川双魚 『ひとつとや』
猫の子のまつはるを蹴て畳掃く 清原枴童 枴童句集
猿曳の猿が畳に下りし音 京極杞陽 くくたち下巻
獄中の畳に日脚伸びにけり 角川春樹
獄中の畳を歩く秋遍路 角川春樹
玉垣を借りて出水の畳干す 森田峠 避暑散歩
玉虫の死にからびたる冬畳 飯田蛇笏 山廬集
玩具と野菜畳に置くよ春待つよ 磯貝碧蹄館 握手
琴を弾く初伏の畳冷たしと 長谷川かな女 雨 月
琵琶の撥畳におかれ南吹く 旭
生きていて畳表を裏返す 穴井太 原郷樹林
田を植ゑし夜はありありと畳の目 大関靖博
甲斐青嶺畳々として裕計忌 佐藤和夫
畳あげて蚕飼仕度の拭掃除 上村占魚 球磨
畳ある限り羽蟻はそこへ落つ 高澤良一 素抱
畳から柱の立ちし大暑かな 古館曹人
畳から秋の草へとつづく家 鴇田智哉
畳さし二人並びて師走富士 増田龍雨 龍雨句集
畳といふ筏にひとり天の川 遠藤慶奈
畳とも蚊帳ともつかぬ匂かな 京極杞陽 くくたち下巻
畳にもあまたひらきて扇買ふ 赤松子
畳にもつまづき癖や冬の蝿 阿片瓢郎
畳に帯曳きずつて巻く金魚玉 鈴木鷹夫 渚通り
畳に手つきて絵を観る後の雛 中西夕紀
畳に日の差して秋の暑さかな 松本 丈
畳に河鹿をはなしほうほうと言うて君ら 梅林句屑 喜谷六花
畳に甘えゐる肌夏も終らんか 村越化石
畳に置く眼鏡夜更けの蛾が打てり 桜井博道 海上
畳に頭あつちへやつて籠枕 川崎展宏
畳のへりのめし粒が反る鰐眠る 坪内稔典
畳の光父の手に銭がならべらる シヤツと雑草 栗林一石路
畳の塵をつまんで燃やす深海魚 久保純夫 瑠璃薔薇館
畳の目かくも細かき初茶の湯 山口誓子 紅日
畳の目先へ先へと早稲みのる 橋石 和栲
畳の目粗し仏間の底冷に 岡本佐知子
畳の目粗し雪夜をかへりきて 桂信子 黄 炎
畳の目緊る寒夜に布を裁ち 三好潤子
畳の目見遣り昼寝の漂流感 高澤良一 寒暑
畳の目雪垣解きし日矢遊ぶ 草間時彦
畳の色まで搬んだか渚辺の馬 安井浩司 青年経
畳よりすぐに真紅に雛の段 中田みづほ
畳より深く沈みし蒲団かな 山崎十生
畳より針をどり出ぬ蝿叩 齊藤俳小星
畳わたる蟻に足あとなかりけり 谷口桂子
畳一枚ひるねの形が決まらない 荻原幸子
畳上げ昼を舫ひし鵜飼船 河野頼人
畳乾して打てば打つほど貧しい音 細谷源二
畳入れてあか〜と日の木槿かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
畳入れて一間に住めり秋の雨 比叡 野村泊月
畳古り炭火ともしも新娶り 三谷昭 獣身
畳売つて出られよ旅へ五月雨 浜田酒堂
畳屋が突然に死ぬ寒九かな 鈴木鷹夫 風の祭
畳屋とおしろい花が暮れにけり 榎本好宏
畳屋に声掛けて行く小六月 石田阿畏子
畳屋に日がな叱られ羽抜鳥 山田みづえ 木語
畳屋のいなでぞありぬ夕しぐれ 高井几董
畳屋の名刺出てくる文化の日 小平 湖
畳屋の日向を占めて二月かな 神蔵器
畳屋の来てゐる庭や日短かし 阿部みどり女 笹鳴
畳屋の汗は大粒鳳仙花 大岳水一路
畳屋の肘が働く秋日和 草間時彦
畳屋の茶どきに鶲あらはるゝ 飴山實 辛酉小雪
畳屋の菊の出来栄えよかりけり 高澤良一 ももすずめ
畳屋の薄刃を研げる夜寒かな 室生犀星 魚眠洞發句集
畳屋の裏は鉄路や立葵 和泉千代
畳屋の針さす音も秋めきぬ 重弘昭三
畳屋の針のぬくもり青葉木菟 長田等
畳屋の青女房を裏返す 仁平勝 東京物語
畳屋兄弟肘うち揃へ盆仕事 中村草田男
畳廊百日紅に突きあたる 高澤良一 ももすずめ
畳建具妻より古く夏さりぬ 下村槐太 天涯
畳拭いて夕蝉のよく聞こえけり 折井紀衣
畳拭く死後のながさの寒の暮 関戸靖子
畳拭く秋やかがめば血の音す 寺田京子
畳拭く躬を曲げのばし夏果つる 菖蒲あや
畳拭く黴雨の宿のめしひかな 西島麦南 人音
畳持といふくらがりへ雛しまふ 伊藤政美
畳掃く足裏に秋の来てをりぬ 秋月すが子
畳掃く音ある秋の古江かな 大峯あきら 鳥道
畳掃く音天の鶴しづまれば 友岡子郷 未草
畳擦る跫音も淑気満ちにけり 堀口星眠
畳擦る跫音迎へ火焚きをれば 後藤綾子
畳数尽きしところに干大根 石田勝彦 秋興
畳染めてこゝにも百合の花粉かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
畳畳と照る白壁や朱欒割く 小池文子 巴里蕭条
畳皺そのまま羽織り秋寒し 平岡喜久子
畳皺一つもなかり薔薇の花 藤田輝枝
畳目にまぎれて春の蚊なりけり 岡本眸
畳目に箒のひびく旱かな 長谷川櫂 天球
畳目のきれいに見ゆる初明り 高橋雅世
畳目のときに物差し利久の忌 出浦美江子
畳目の大きく見えて春立つ日 八田和子
畳紙に包まれていた紫雲英田よ 福富健男
畳紙の紙縒りの固き白重 宮野やよひ(*ろうかん)
畳紙より出でし春著の花模様 高本時子
畳職人雨に目を遣り秋燕 高澤良一 素抱
畳荷出し糸瓜に頭こづかれて 小林のり人
畳薦平群の若菜摘みにけり 茨木和生
畳踏む夏足袋映る鏡かな 阿波野青畝「万両」
畳踏む大足うつす梅雨鏡 桂信子 花寂び 以後
畳踏む足のしっとり更衣 高澤良一 素抱
畳這ふ山の蛾を掃き月見酒 小川斉東語
畳這ふ深山の霧に地図案ず 鈴鹿野風呂 浜木綿
畳這ふ秋蚊に憎しみ起りけり 長谷川かな女 雨 月
畳這ふ蟻を見逃し盆供養 大上すみ枝
畳針ぐいと豆腐にまつりけり 秋元正江
病床の払はれ梅雨の新畳 阿部みどり女 『雪嶺』
百日紅死はいちまいの畳かな 齋藤慎爾
百枚の畳を拭きて盆用意 杉山睦
盆すぎのひとりの畳拭いてをり 森尾仁子
盆の花かかへて歩く畳かな 深見けん二
盆寺の畳のへりのうすびかり 大木あまり 火球
盆棚のあとや畳のうす湿り 根岸善雄
盆過ぎたり渚行くごと畳拭く 丸木美津子
目に見えて秋風はしる壁畳(売り渡すこととなりし生家での最後の夏に二句) 飴山實 『少長集』
目の一つ畳にはづれ福笑 村上凡花
真言や少しへこみし梅雨畳 栗林千津
眠りえぬ母に燈籠つれば畳光る夜や シヤツと雑草 栗林一石路
着替へむと畳を立つや鴨とべり 岡井省二
睡蓮の葉畳を飛ぶ糸蜻蛉 笹目翠風「浮寝鴨」
瞽女の宿黴びし畳に置竈 西本一都 景色
短夜の畳に厚きあしのうら 桂信子 黄 瀬
破れ畳妻も諸声あげて担ぐ 早川邦夫
破魔矢置く寺の畳の青海波 平畑静塔
祖母あらず坐るほかなき冬畳 倉橋羊村
祖母逝くや畳の縁がすこし浮き 仁平勝 東京物語
祗王寺の苔畳照り竜の玉 田中水桜
私生児が畳をかつぐ秋まつり 寺山修司(1935-83)
秋の夜の燐寸の火色さす畳 加藤楸邨
秋の夜の畳せましと旅の地図 尾堂美和子
秋の日の青き畳をはこびくる 神尾久美子 桐の木以後
秋の昼ねむらじとねし畳かな 飯田蛇笏 霊芝
秋の波畳々として音しけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
秋の蚊の跳ねて飛び去る畳かな 雑草 長谷川零餘子
秋口の藻畳の縁流れをり 宇佐美魚目
秋寂びの酒こぼしたる舟畳 鈴木鷹夫 風の祭
秋富士が立つ一湾の凪畳 上田五千石
秋彼岸千畳の間を赤子這ふ 藤崎実
秋扇や障子の外の縁畳 比叡 野村泊月
秋扇をおとしてひらふ畳かな 橋本鶏二 年輪
秋日和畳いよ〜黄ばむかな 吉屋信子
秋晴の日射呼込む畳かな 島谷征良
秋暑し覚めても腕に畳の目 木下夕爾
秋海棠煉瓦畳に咲きみだれ 滝井孝作 浮寝鳥
秋立つと青き畳を拭きにけり 山田弘子 螢川
秋立つや畳に分つ旅の米 齋藤玄 『玄』
秋霖の音の畳の翳とあり 長谷川素逝 暦日
秋風や寺の畳に踏まぬ所 尾崎迷堂 孤輪
積み捨てし水禍の畳赤のまま 渡辺文雄
積塔や塔の影おく畳の目 姫 墨
空暗く垂れ大きな蟻が畳をはつてる 尾崎放哉
窓枠の卍を月の畳かな 辻 桃子
立春の風入れ畳拭きあげる 沢田康女
立春や娘の膝まろき夜の畳 畠山譲二
竜胆を畳に人のごとく置く 長谷川かな女
端午来る畳に直かに鉈置かれ 大岳水一路
端居してうしろ何なき古畳 石川桂郎 四温
竹の春茂吉寝起きの古畳 阿部月山子
竹秋や西日に掃いて古畳 野村泊月
笛稽古畳すれすれ蚊が飛んで 岸本尚毅 鶏頭
笹舟を畳に置けば畳が川 鈴木鷹夫 千年
笹鳴や平群の山は畳なはり 山口誓子
筆の穂のがくと抜け落つ梅雨畳 石塚友二 光塵
節分会鬼も畳に正座して 大前幸子
節季候や畳へ鶏を追あげる 広瀬惟然
籐椅子もなくて畳にはらばひぬ 上村占魚 球磨
粉雪積むあかつき闇の藪畳 松村蒼石 雪
紅梅の落花をつまむ畳哉 紅梅 正岡子規
紅葉観て寝ころぶによし岩畳 斎田鳳子
素足にてひひな祭の夜の畳 澄雄
紫陽花の雫ほたほた畳とほる 中拓夫
終戦日どこへもゆかず畳拭く 田口紅子
組上や下座の黒御簾やぶ畳 龍岡晋
絶望といふ畳から起ちにけり 山崎十生
絽縮緬膝の畳紙(たたう)を出たがりぬ 大石悦子 聞香
網代笠懸かる竹秋古畳 倉橋羊村
縁なしの畳敷きある朴落葉 竹内悦子
縁談をことはる畳なめらかに 藤木清子
繭玉の夜の影ふかき畳かな 丸山哲郎
羽子一つはなやがすなり古畳 清水基吉
聖堂の畳涼しき津和野かな 長谷川明子
職人の二人しぐるゝ畳針 川崎展宏
胴着抜いて我殻を見る畳かな 篠原温亭
脚高く蜘蛛わたりくる畳かな 比叡 野村泊月
腕捲りして畳屋の春火鉢 安田守男
腕立ての遂に伏したる夏畳 桂信子 草樹
腕立て伏せに突く父の忌の冬畳 奈良文夫
腫に沁む春冷の大畳 久米正雄 返り花
膝ついて畳拭きゐる落花かな 吉田みち子
舟虫の畳をはしる野分かな 久保田万太郎
船が出る畳のへりの恥毛燃え 坪内稔典
船鍵を仮に置く除夜の畳かな 宮武寒々 朱卓
芋茎干す歩危には広き岩畳 酒井黙禅
花冷えの畳を掃ける夕心 阿部みどり女 笹鳴
花屑の流れ込みたる畳かな 吉野昭子
花御堂据うる畳を拭きゐたり 大石悦子 百花
花桐に干してぼろ〜畳かな 河野静雲 閻魔
花茗荷三畳書斎また楽し 景山筍吉
花莚畳んで四つ折八つ折に 高澤良一 随笑
花野より戻りし夜の畳かな 伊藤敬子
芸事は寒し祇園の畳にて 山口誓子 青銅
苗床のできしいはひの灯の畳 長谷川素逝 村
若竹に猫の寝てゐる畳かな 雑草 長谷川零餘子
若菜籠ゆきしらじらと畳かな 室生犀星 魚眠洞發句集
茶はのみて茶碗をおきし冬畳 細見綾子 花寂び
草の戸や畳かへたる夏祓 炭 太祇 太祇句選後篇
草餅や板間二枚の置き畳 友岡子郷 遠方
草餅をとりまはしをる畳かな 山西雅子
荒畳なり秋蝶を遊ばしめ 下村槐太 天涯
菊の前畳こがねと坐りたる 赤松[けい]子 白毫
菊の香に畳青さや客設け 青峰集 島田青峰
菖蒲人形つきさしてある畳かな 春日部春二
菜の花や日焼け畳に俳諧師 島村元句集
菱採にまだひろ〜と菱畳 瀬野直堂
菱畳より貌あげて鳰の子よ 岸風三楼 往来
菱畳割れて鳰の子吐きにけり 大石悦子 群萌
萍の畳のひまに映る塔 遠藤梧逸
萩咲くや庫裡の畳は人臭く 永井龍男
落柿舎の畳古りけり竹の秋 武田鶯塘
落花あびて来し眼に畳冷えている 河合凱夫 藤の実
葉桜の月に笛吹く畳かな 原 石鼎
葉畳となり十薬の深緑 飯村周子
著莪畳には陰日向はつきりと 上崎暮潮
蒲団うてば畳の音の貧しうて 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
蒸し暑し立ちて憩える畳針 増田河郎子
蓬莱や青き畳は伊勢の海 伊藤松宇
蓮剪つて畳の土に横倒し 村上鬼城
蓮浮葉すこし離れて菱畳 尾高青蹊子
薫風や畳んでみたい村がある 山田冨裕
藪入の日の浜宿の畳かな 綾部仁喜 樸簡
藪畳蚊になる茅の穂吹かれけり 廣江八重櫻
藺の匂ふ畳素足できて祈る 佐野美智
藻畳にもり上りをり水葵 浅野白山「ホ誌雑詠選集」
藻畳に捨てられてある花芒 高濱年尾 年尾句集
藻畳に毬のごとしやかいつぶり 高濱年尾 年尾句集
藻畳に水もどりくる残暑かな 小嶋常和
藻畳に漕ぎつけし舟の傾く見ゆ 原田種茅 径
藻畳に立ちて羽摶つ軽鳧の子よ 市毛暁雪
藻畳に色来る頃か暖め酒 仲野絢子
藻畳に藻の花かげの夕づける 富田木歩
藻畳の一座々々の花盛り 村上三良
藻畳の中にて蟹の目覚むらん 高澤良一 寒暑
藻畳の己にうねり十三夜 斎藤梅子
藻畳を揺らし春潮ふくれ来る 浜塚蒼雲
虫の夜や畳のくぼむひとところ 鈴木青泉
虫干や手畳敷を大般若 古白遺稿 藤野古白
蚊を焼いて蝋落したる畳かな 中山稲青
蚊遣してザビエル堂の畳かな 原 聖子
蚊遣して住めば住まるる畳かな 森川暁水 黴
蚊遣して畳に立たす位牌かな 吉本伊智朗「墨隈」
蚕したくの畳をあげて女たち 長谷川素逝 村
蛍来る島の弥撒なり畳敷 白澤よし子
蛙鳴くや我が足冷ゆる古畳 木歩句集 富田木歩
蜘蛛の囲の待たむ七畳小屋如何に 石川桂郎 高蘆
蝶のごとく畳にあれば夕顔咲く 長谷川かな女
蝶のやうに畳に居れば夕顔咲く 長谷川かな女 雨 月
蝸牛や畳を這へる風雅者 野村喜舟 小石川
蝿叩畳を打ちて出来あがり 山崎一角
螢来て畳にひかりともしけり 山口波津女 良人
螢烏賊畳目のごと並べられ 三枝幸子
蟻つぶす罪も加えし夜の畳 花谷和子
蟻地獄畳のにほひ忘れ得ず 宮坂静生 山開
蠅が来る冬の朝日や古畳 蘇山人俳句集 羅蘇山人
蠅憎き世の懐かしや畳撫す 高澤良一 寒暑
蠅打の音の曇りの畳かな 野村喜舟 小石川
血ふくれて畳する蚊のにくさ哉 蚊 正岡子規
血を喀くや梅雨の畳に爪をたて 石原八束 秋風琴
行く年に畳の跡や尻の形 去来 極 月 月別句集「韻塞」
行春や畳んで古き恋衣 高浜虚子(1874-1959)
衣がへやきのふの花を袖畳 丸石 選集「板東太郎」
裏白や寒気の畳躙りける 伊丹さち子
襖絵の波頭畳へ鑑真忌 浦野芳南
西日ありし畳にしろし月の光 川島彷徨子 榛の木
西日のほとぼりなほある畳に服をぬぐ 篠原梵 雨
見ぐるしき畳の焦や梅の影 高井几董
親子してへな〜畳大掃除 河野静雲 閻魔
解きし髪生きし春夜の畳かな 長谷川かな女 雨 月
誰も来ぬ梅雨の畳を拭きにけり ふけとしこ 鎌の刃
豊作やあとは畳を拭けばいい 田中いすず
貧しさの沁み込む畳年暮るゝ 手塚白水
賀状書きならべていよよ古畳 浦野芳南
起き臥しは畳一枚達磨の忌 林なつを
足ざはり手ざはりかくて夏畳 鳥居おさむ
足のばしゐてもひとりや梅雨畳 館岡沙緻
足のべて正月古き畳かな 松岡草羊
足はつめたき畳に立ちて妻泣けり 中村草田男
足袋つづるくらくて低き灯の畳 長谷川素逝 村
趺坐一躯花野半畳あれば足る 林昌華
踏みしめて淑気みなぎる御所畳 高澤良一 燕音
踏み応へなき宿坊の黴畳 松尾緑富
踏むたびに沈む畳や百日紅 辻桃子
身に入むや島の教会畳敷き 宮丸千恵子
軍服を畳に展げ梅二月 坂本宮尾
転居荷の発ちし遅日の畳拭く 山田弘子 こぶし坂
迷ひ出て畳を歩く青蜥蜴 石井保「淡海から大海へ」
通されし畳の硬き夏座敷 梅田男
遠花火畳に湯呑置きしまま 田中正子
適塾に畳のあまた落霜紅 山西雅子
遺骨に日の射すまで畳凍つるかな(兄の遺骨還る) 岸田稚魚 『負け犬』
酒置いて畳はなやぐ卯月かな 林徹「群青」
金亀子を畳に鳴かせ祇園町 飯島晴子
金屏の畳んでありし寒さかな 大石悦子 聞香
釣宿の畳ざらつく寒土用 水野宗子
鈴屋の畳に伸びる日脚かな 陣場孝子
鉄線を活けて山風畳摶つ 林翔 和紙
長瀞や月の座のある岩畳 赤星水竹居
長臥しの梅雨降る音の畳かな 長谷川素逝 暦日
除夜の畳拭くやいのちのしみばかり 渡邊水巴
隠岐神楽畳二枚を出でず舞ふ 増本春蘭
雁わたる風か畳に輪ゴム踏み 桂信子 黄 瀬
雁を見しその夜畳に海を聴く 金箱戈止夫
雉のこゑ畳のわづか沈みたる 正木ゆう子 悠
雛あられこぼれしままの畳かな 吉屋信子
雛あられこぼれし畳掃きにけり 吉屋信子
雛の間の更けて淋しき畳かな 高濱年尾 年尾句集
雛の間更けて淋しき畳かな 高浜年尾
雛祭る旅の畳を雲いそぐ 加藤楸邨
雛納め畳に疾き雲の影 清本幸子
雨の底に古りゆく畳明易き 松村蒼石 雪
雨安居の大波うてる堂畳 岩田参露
雨蛙畳叩きて追ひ出せり 奈良文夫
雪くると湿る古刹の古畳 前山松花
雪とならん畳の青さ日ざしけり 河合未光
雪ふるや勘助柱美濃畳 浜田酒堂
雪晴るる畳に針をひろひけり 飯田蛇笏 春蘭
雪渓に遇ひし強力畳負ふ 西田浩洋
雪空を畳のやうに鷲飛ぶと 大峯あきら 宇宙塵
雲白し夜の畳の灼けのこる 松村蒼石 雪
霜やけをこすり歩きぬ古畳 龍胆 長谷川かな女
霜焼をこすり歩きぬ古畳 長谷川かな女
青光る毛虫仏間の昼畳 柴田白葉女 花寂び 以後
青山椒寺に畳のゆるぶ日の 岡井省二
青柚子の風の三畳子は眠る 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
青田かな大暗黒の畳かな 佃悦夫
青田風アイロン余熱の畳に寝て 中拓夫 愛鷹
面打のいちまい畳秋冷ゆる 山口都茂女
革布団青き畳に浮みけり 高浜虚子「虚子全集」
音がして蟋蟀のゐる畳かな 岩田由美
音立てぬ虫ゐて青む夜の畳 桂信子 黄 瀬
風そよろ花びらはらり生死のさかひに畳一枚がある 桑原正紀
風炉名残午後から曇る畳かな 上田千恵子
風船浮く紐が畳にさはりをり 小川軽舟
颱風後畳たいらか帰りこず 出口善子
飛んで来て畳を這へる源五郎 加藤三陽
飯事の三畳は大天高し 香西照雄 素心
飯饐える畳のくらさ夜の如し 宇佐美魚目
餅花に畳あをあを匂ひけり 加藤楸邨
餅花の一つがおつる夜の畳 小川ユキ子
餅花の影ふえゆるる畳かな 皆吉爽雨
高濤の夜は舟虫の畳這ふ 沖一風
魂棚や畳に移る草の露 妻木 松瀬青々
鮟鱇鍋はこぶ畳の鳴りにけり 鈴木鷹夫 大津絵
鯛や身を横たふる古畳 前田普羅
鰺ずしや畳湿らす海の風 中拓夫
鱶の白い腹浮く畳の北のへり 坪内稔典
鳥雲にいくたび山山畳はる 齋藤愼爾
鵙天に孫は畳にはらばへる 山口青邨
鶯の畳さはりや雪のうへ 立花北枝
鶯や曲りつつなほ畳廊 皆吉爽雨 泉声
鶯や畳冷たき着替への間 八木三日女 紅 茸
黄落の千畳を占める大銀杏 西村美枝
黴畳わたる草履のありにけり 河野静雲 閻魔
黴畳踏み立ち得ねばまろびけり 小林康治 四季貧窮
鼠出て炭ひきよごす畳かな 森川暁水 黴
龍胆を畳に人の如く置く 長谷川かな女 雨 月
●畳替
きさらぎや亀の子寺の畳替 久保田万太郎 流寓抄
くつろげる影新しき畳替 成田郁子
ときならぬ畳替して弥生尽 松村蒼石
とんとんと縁踏み畳替終る 森本順代
ぽつくりと逝きたき畳替へにけり 中村清子
一日を洋間にこもり畳替 杉山木川
一枚を灯下に仕上げ畳替へ 鷹羽狩行
上がる手の針大きくて畳替へ 藤村克明
交番のたちまち済みし畳替 中 火臣
仏壇を閑めて始めし畳替 山村美恵子
凡々の余生見通し畳替 藤崎さだゑ
函館とわれから名のり畳替ゆ 中村汀女
又人の住みかはるらし畳替 高浜虚子
古家の畳替して目出度けれ 高浜虚子
天井の竜の見てゐる畳替 後藤 章
女将わが憩ひの部屋の畳替ふ 鈴木真砂女 夕螢
孤篷庵畳替へてや鵙の晴 多納有紀
寺田屋の龍馬の部屋も畳替 太田 暁
床の間に提灯置いて畳替 石田雨圃子
床低き明治の家や畳替 正木江深
後任の為の官舎の畳替 鈴木洋々子
敲いてはのし歩いては畳替 千葉皓史
早々と畳替して老夫婦 阿部みどり女 笹鳴
松蝉や畳替へある八雲の居 林徹
済みしものこれからのもの畳替 児玉輝代
湯薬師の堂の二枚の畳替 室崎みさを
猫の眼のみどりに燃ゆる畳替 中野ただし
町中や庭持つ寄席の畳替 増田龍雨 龍雨句集
畳替う焦げ痕のいろ忘れたく 青木つね子
畳替して姿見の落着きし 星野椿
畳替して芳しき起居かな 佐藤朴水
畳替して鏡台も新しく 星野立子
畳替すみたる箪笥据わりけり 久保田万太郎
畳替すれば狸が来て坐る 平島一郎
畳替せずとも障子白ければ 高木晴子 花 季
畳替へし香に夜の茶を入替へぬ 山本春子
畳替へその夜は遊ぶ家の神 秋山流士
畳替へて家の古さや寒椿 白水郎句集 大場白水郎
畳替へて煤も真似ごと払ひけり 清原枴童 枴童句集
畳替へて病に対ふ秋簾 相馬遷子 山河
畳替へひよいと片手に乗せてゆく 伊藤綾子
畳替へ産月の子を迎へけり 塩井志津
畳替りて新樹の中の御庵 河野静雲 閻魔
畳替わびすけに針はこびゐる 室生犀星 犀星発句集
畳替丸を書くのも字の一つ 小林敏朗
畳替公孫樹落葉の降る下に 大橋越央子
畳替出来てふたゝび客間とす 稲畑汀子
畳替江戸エスプリの一語あり 筑紫磐井 花鳥諷詠
畳替錐残りをる秋の宵 横光利一
畳替高嶺いちにち日浴びたる 友岡子郷 春隣
禅寺に茶殻の乾く畳替へ 飯塚ゑ子
禰宜吶々巫女蝶々畳替 神尾季羊
絨毯を敷き畳替せぬことに 中村芝鶴
良寛にゆかりの寺の畳替 小林のりん
草の戸や畳替へたる夏祓へ 太祇「太祇句選後篇」
藺の香たゞようてゐる畳替 宮坂和子
裏山に日のたつぷりと畳替 太田寛郎
谷戸の日の奥までとどく畳替 金子邦子
路地口に吹きつさらしや畳替 佐々木星輝
遊行寺の畳百畳替へて夏 守屋典子
部屋々々に匂ひしてゐて畳替 下田実花
野の家の畳替へしは盆用意 遠藤正年
青桐は柱のごとし畳替 阿波野青畝
青空の常念岳や畳替 小澤實 砧
鳥籠から粟散り次ぎて畳替 中村草田男
●畳廊下
大覚寺畳廊下の秋のこゑ 高澤良一 宿好
短日や畳廊下の花の屑 増田龍雨 龍雨句集
●廊下
あたらしき廊下をとほる恋の猫 仙田洋子 雲は王冠
あてどなく廊下往来や春の雨 西山泊雲 泊雲句集
うか〜と東をどりの廊下行く 高濱年尾 年尾句集
うなぎ焼くにほひの風の長廊下 きくちつねこ
お水取果てし廊下に応と遇ふ 稲増雁来
お涅槃に近づいてゆく廊下かな 岸本尚毅 舜
お涅槃の長き廊下を走り拭き 百瀬ひろし
げんげ咲き胸底という長い廊下 塩野谷 仁
こがらしや廊下のしたの村雀 越中-夕兆 俳諧撰集「有磯海」
ざらつく廊下子に春の咳付き纏ひ 田中英子
たんぽぽの絮舞ふ松の廊下跡 沢田弥生
つややかな廊下に立ちて水を打つ 岸本尚毅 舜
ぬれ足で雀のあるく廊下かな 正岡子規
はたた神渡り廊下でつかまった 渡辺のり子
ふくろふが夜の廊下を歩きけり 角川春樹
まつすぐな廊下明りに入学す 塩谷きみ子
みぎひだり廊下まちがへ彼岸婆々 河野静雲 閻魔
一人出て一人の廊下大試験 森田峠
七草の雪降る渡り廊下かな 長谷川櫂 古志
上の廊下はじまるここに山荷葉 福田蓼汀
上堂の僧等ねむたき蓮廊下 河野静雲 閻魔
下駄であがる宮の廊下や散松葉 散り松葉 正岡子規
人の家に廊下探しぬ春の闇 長谷川かな女 雨 月
人並ぶ寮の廊下や五月雨 五月雨 正岡子規
人日や廊下の艶に日のあそび 今野福子
修行僧拭きゐる廊下雪降り込む 山口超心鬼
僧に尾いて足袋冷え渡る廊下かな 楠目橙黄子 橙圃
僧寝ねたり廊下に満つる梅の影 夜の梅 正岡子規
元旦の廊下に落とす玉子かな 鳥居真里子
冬の夜や柾目の廊下つぎつぎと 横光利一
冬籠朝日を拝む廊下かな 会津八一
冬至冷え湧き出す廊下は闇の舌 神矢みさ
分校の廊下飛び交ふ雪ぼたる 佐藤 哲
初雪は渡り廊下を濡らすのみ 岩田由美 夏安
十三夜廊下暗きに寺箒 松山足羽
十薬や渡り廊下のスニーカー 中町恵美子
口切やあくびしに出る廊下口 口切 正岡子規
吹き上げて廊下あらはや夏暖簾 高浜虚子
吾妻のくせ月はけさうし舟廊下 調賦子 選集「板東太郎」
団扇取つて廊下舞ひ出る酒興かな 団扇 正岡子規
夏めくや廊下に映る脛二本 高橋千代美
夏山に温泉の廊下の折れ沈み 高木峡川
夏山を廊下づたひの温泉哉 夏山 正岡子規
夏足袋や温泉宿の廊下山映る 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
夕立や廊下あまりに長すぎる 渡辺誠一郎(小熊座)
外湯まで渡り廊下や火蛾の宿 吉田ひろし
夜の秋の長き廊下を人来たる 石塚秋竹女
夜を寒み鼬の荒るる長廊下 会津八一
夜学の灯洩れ合ふ寮の廊下かな 五十嵐播水 播水句集
夜学子にあるとき暗き廊下かな 高柳重信
夜学果つ廊下真つ先駆けてくる 永井龍男
大覚寺畳廊下の秋のこゑ 高澤良一 宿好
大試験始まつてゐる廊下かな 徳竹芽萌子
大風の落花の廊下掃きにけり 増田龍雨 龍雨句集
太陽が廊下を渡るクリスマス 鴇田智哉
姑の部屋廊下のつなぐ夏のれん 稲畑汀子
子役者の来て手鞠つく廊下哉 尾崎紅葉
学校の廊下に拳大の雪 富沢葦生
学校の廊下をおもう寒露かな 三浦ミヨ子
学校の渡り廊下の干菜かな 上原富子
実むらさき松の廊下の跡にかな 奥村香都子
宿坊の廊下軋むや春の宵 内田八重子
寄せて居る厠廊下の十夜婆 河野静雲
寒参うぐひす張りの長廊下 文田多加子
小廊下や布子の児等が目白押し 西山泊雲 泊雲句集
山桜渡り廊下のある母校 古本ふみ子
山茶花や渡り廊下のひかりをり 木下ひでを
市役所の渡廊下も年木積み 早川紀水
年の灯やとほく廊下のつきあたり 久保田万太郎 流寓抄
廊下から手燭をうつすもみち哉 紅葉もみち<木+色> 正岡子規
廊下から海ながめたる夜寒哉 夜寒 正岡子規
廊下にも一夜たちこめ冬の霧 原石鼎 花影以後
廊下の柿廂の柿に日は一つ 阿部みどり女
廊下の燈寒泉の梅咲きにけり 渡邊水巴 富士
廊下まで匂ふ楽屋の菖蒲風呂 片岡我当
廊下まで夏の落葉の散らばりて 岸本尚毅 選集「氷」
廊下まで破れかぶれの虫時雨 櫂未知子 蒙古斑
廊下ゆくまた芍薬の活けてある 岸本尚毅 舜
廊下よく拭かれし春の寒さかな 赤尾冨美子
廊下より四十九日の夜の辛夷 川崎展宏
廊下より手燭さし出す牡丹哉 牡丹 正岡子規
廊下尽きて唱歌室あり春の雲 永井龍男
廊下幾曲がり奥ある枯木宿 本井 英
廊下曲つて新入生きよとんとす 辻田克巳
役僧の廊下走れる日短か 阿部みどり女 笹鳴
待ち伏せてゐる児春の夜の廊下 長谷川かな女 花寂び
待宵の姿見のある廊下かな 山本洋子
御封切る廊下の口やいとざくら 美濃-支老 俳諧撰集「有磯海」
戦争が廊下の奥に立ってゐた 渡辺白泉
手燭袖に芭蕉の廊下通りけり 芭蕉 正岡子規
手術室廊下の外は春の雨 吉屋信子
揚雲雀旗日の渡り廊下かな 柿本多映
教室へ九月の廊下光りけり 植松安子
料峭の渡り廊下の踏めば鳴る 西村和子 かりそめならず
旅籠屋に浴衣のそろふ廊下哉 浴衣 正岡子規
日盛やこそりともせぬ長廊下 河野静雲 閻魔
早紅葉も見えて廊下を渡りけり 比叡 野村泊月
明易や廊下磨きし日の遠く 高島珠美
春かぜや蝶のうかるム長廊下 林紅 俳諧撰集「有磯海」
春の暮廊下に母のハツピィーミシン 森章
春寒し泊瀬の廊下の足のうら 炭 太祇 太祇句選後篇
春寒のひそむ廊下も美術館 稲畑汀子 春光
春昼の廊下のごとき電車かな 仁平勝
春昼や廊下に暗き大鏡 高浜虚子
春暁や玻瑠戸の中の長廊下 五十嵐播水 播水句集
春雨や古き廊下の朽つるまゝ 五十嵐播水 播水句集
春雨や子等消えし廊下一直線 佐野青陽人 天の川
春雨や温泉宿の廊下縦横に 五十嵐播水 播水句集
春雪や木瓜に廊下の灯をわかち 永井龍男
春風や蝶のうかるゝ長廊下 林紅
晩涼の二堂をつなぐ高廊下 松永浮堂
月を見る窓は廊下のつきあたり 後藤夜半 底紅
月二更廊下に満つる梅の影 夜の梅 正岡子規
月光の匍ひ流れをる廊下かな 上野泰 春潮
朝の人朝のくにまで廊下あるく 阿部完市 にもつは絵馬
朝寒や起つて廊下を徘徊す 正岡子規
朝寒や起て廊下を徘徊す 朝寒 正岡子規
朝涼の渡り廊下に言交はす 西村和子 窓
朝霜や不二を見に出る廊下口 朝霜 正岡子規
朧夜の鼾廊下に出てをりぬ 鈴木鷹夫 風の祭
木の実のような少年廊下に佇たされる 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
木の実雨渡り廊下を黒くせる 大石雄鬼
本堂へ通ふ廊下や初嵐 寺田寅彦
本山の長き廊下に蛾の躯 関森勝夫
松おちば洋梨を置く廊下にも 川崎展宏
松の廊下日向ぼつこによささうな 正木ゆう子 静かな水
枯芝や廊下あかるき照りかへし 高田保
梅咲いて廊下まできている残り時間 植田次男
梅雨晴れの法衣透きゆく長廊下 鍵和田[ゆう]子 未来図
植木鉢廊下に溜り日脚伸ぶ 田村萌尖
歌留多会廊下の冷えてゐたりけり 岡本眸
歌舞伎座の廊下にながき御慶かな 喜多みき子
水引の花のうしろの廊下かな 中田剛 珠樹
氷き日の廊下つづきに汝も病む 阿部みどり女
沢蟹が廊下に居りぬ梅雨深し 矢島渚男 延年
泥葱の泥が廊下に日暮れをり 鈴木鷹夫 春の門
流氷の泣きたる宿の廊下の灯 布川武男
温泉ぼてりは足より逃れ凍廊下 嶋田摩耶子
湖の風涼しく入りて廊下の灯 京極杞陽 くくたち下巻
湯にかよふシベリア廊下聖樹たつ 角川源義 『西行の日』
濁酒廊下の端に灯が一つ 鈴木鷹夫 春の門
点滴のまま運ばるる冬廊下 井垣清明
煤竹の渡り廊下をゆきにけり 山尾玉藻
熊谷草鉤の手廊下きしみけり 鈴木寿美子
燈籠をともす揚屋の廊下かな 雑草 長谷川零餘子
玄関に立てば廊下の夏の闇 中田剛 珠樹以後
画展さながらの廊下や避寒宿 黒岩恵津子
病棟の廊下吹き抜け花吹雪 草間時彦 櫻山
病院のもとより暗き梅雨廊下 波多野爽波 鋪道の花
病院の廊下鏡の夜半の夏 中村汀女
病院の長き廊下の寒さかな 岡村柿紅
白足袋の過ぎゆく盆の廊下かな 角川春樹 夢殿
皿の破れし響廊下を走る冬 容(内田易川句集) 内田易川
短日や畳廊下の花の屑 増田龍雨 龍雨句集
石楠花や奥書院へと長廊下 星野椿
祖母がゆく梅雨の廊下を猫足で 栗林千津
禅林の廊下うれしきしぐれ哉 蕪村遺稿 冬
禅院のかた餅さげし廊下かな 会津八一
秋ともし通し廊下の柾目板 上田俊二
秋の海見つゝ廊下を送らるゝ 比叡 野村泊月
秋の灯の暗く廊下のまだ暗く 京極杞陽 くくたち下巻
秋湯治長き廊下がありにけり 綾部仁喜 樸簡
秋燈のはなはだ暗き廊下かな 原田青児
秋雨や池の上越す古廊下 白水郎句集 大場白水郎
籐椅子が廊下にありし国敗れ 川崎展宏「夏」
紅梅や雪洞遠き長廊下 紅梅 正岡子規
紅葉見の駕仕立あり宿廊下 深川正一郎
肖像の並ぶ廊下や秋湿り 片山由美子
膳はこぶ廊下のゆきゝ葭戸かな 大場白水郎 散木集
舟廊下真葛ヶ原の風を踏み 黒田杏子 花下草上
花冷の廊下囚はれの膝つけて 岩田昌寿 地の塩
若葉雨渡り廊下にしぶきけり 山本洋子
菊人形殊にも狭き廊下かな 松藤夏山 夏山句集
葉桜につくづく長き廊下かな 瀧澤伊代次
葱を切るうしろに廊下つづきけり 下村槐太 天涯
蓑虫の歩けば見えぬ日の廊下 新田 郊春
薬玉を提げてまゐりぬ長廊下 高橋淡路女 梶の葉
藤豆の垂れて小暗き廊下かな 高浜虚子
裸子をひつさげ歩く温泉の廊下 高濱虚子
見古りたるあしべ踊の廊下番 後藤夜半 翠黛
足袋裏に東風の埃や茶屋廊下 阿部みどり女 笹鳴
遊女屋の渡り廊下の朧かな 田中冬二 行人
避暑客の荷物はみ出しゐる廊下 大塚郁子
釣殿へ廊下を通ふ杜若 寺田寅彦
鍵かけし廊下月光溜まり居し 宮坂静生 青胡桃
長き夜の隔離の廊下魔が通る 左右
長廊下微かに傾斜秋のこゑ 鈴木鷹夫 風の祭
長廊下踏みゆく稽古始かな 西沢十七里
降る雪にピンポンの音は廊下の果 栗林一石路
雪しまく長き廊下の向うがは 菅原鬨也
雪原へつながつてゐる長廊下 西山 睦
雪院へ通ふ廊下の燈籠哉 燈籠 正岡子規
霜やけの生血踏みたる廊下哉 尾崎紅葉
露寒や廊下に映る太柱 福地果山
青鷺来る外科病棟の長廊下 蓮田双川
靖鈴のつつとぬけたる廊下かな ミノ-斜嶺 七 月 月別句集「韻塞」
靴提げて廊下を通る鶏頭花 北野平八
風ひたひたと走り去る人の廊下 住宅顕信 未完成
風船の佇んでゐる廊下かな 中村映子
風鈴や廊下に坐る通夜の客 角川春樹「海鼠の日」
髪切虫鉱泉宿の長廊下 皆川盤水
髪洗ふ人通りたる廊下かな 原石鼎
鮎宿の廊下に月のさしてあり 長谷川櫂 天球
鮟鱇鍋廊下灯してなほ暗し 藤田直子
黒揚羽廊下の奥へ追ひつめし 亀田虎童子
●段通 緞通
七草粥の段通の座につきぬ 長谷川櫂 古志
空海の日の段通の座に昏れつ 岡井省二
緞通に大きな靴のあとありぬ 高浜虚子
●テラス
はまなすを吹いてテラスに及ぶ風 高澤良一 燕音
ひなの待つテラスの前の巣箱かな 今川かつ子
よく笑ふ客やテラスに小判草 内田美紗 魚眼石 以降
テラスから夜の始まる直哉の忌 矢内涼人
テラスのさき露のジャパニーズ・ローズかな 高澤良一 燕音
テラスより見てことごとく松の芯 桂信子 樹影
三鬼館らしきテラスの冬薔薇 西脇妙子
北壁に真向ふテラス避暑期過ぐ 澤田緑生
夕焼のテラスのひとの耳飾 木下夕爾
新樹光人待つ朝のカフェ・テラス 棚橋活明
日のテラス雪嶺へ展べ佳人亡し 木村蕪城 寒泉
旧世紀のテラス ゆらりとアラブ語過ぐ 伊丹公子
月照らしテラスのうへの種袋 多田裕計
望郷のテラスに育つ茄子胡瓜 山田弘子 懐
灼けて暁くるテラスに亀とその卵 小池文子 巴里蕭条
烏瓜咲くテラスよりさやうなら 山田弘子 こぶし坂以後
睡蓮やテラスにきざむ水明り 原 柯城
船の灯の沖航くテラス星祭る 山田弘子 螢川
茜富士テラスに得たるお元日 北代 汀
雲の影移るテラスの晩夏かな 木下夕爾
風通るテラスにてピザ避暑家族 高澤良一 燕音
●濡縁
あによめは濡縁に棲む月の暈 仁平勝 東京物語
くさぐさの影濡縁に月祀る 片山由美子 風待月
ぬれ縁にいづくともなき落花かな 高浜虚子
ぬれ縁に向けし枕や暑気中り 稲垣きくの 黄 瀬
ぬれ縁のとことん乾く敗戦日 宇多喜代子
ぬれ縁のぬれもこそすれ梅雨ごもり 稲垣きくの 黄 瀬
ぬれ縁の干坐布団や沈丁花 河野静雲 閻魔
ぬれ縁や薺こぼるる土ながら 嵐 雪
ぬれ縁をわづかに照らし盆燈籠 今井つる女
切干しに濡縁の日を搦めとる 平井伊佐子
啓蟄や脱ぎし羽織を濡縁に 星野立子
地に這ふ朝顔濡縁木目骨のごと 宮坂静生 青胡桃
客人(まろうど)として濡縁の桐一葉 手塚美佐 昔の香
春霰ぬれ縁せまき五合庵 渡辺陸郎
月よしと縁に出で又濡縁に 上野泰 佐介
濡縁で聞きて夜蝉の腹話術 高澤良一 素抱
濡縁と下駄と手花火そして母 名井ひろし
濡縁にいづくとも無き落花かな 高浜虚子
濡縁にリラを眺めてゆくりなし 後藤夜半 底紅
濡縁に一塵おかず解夏の寺 竹内素風
濡縁に夕べのひかり沙羅の花 藺草慶子「遠き木」
濡縁に宿場の名残り星まつる 宮坂静生 青胡桃
濡縁に戸開くを待てり猫の夫 星野立子
濡縁に母念ふ日ぞ今年竹 石田波郷「風切」
濡縁に立てば日のあり石蕗の花 上村占魚 鮎
濡縁に落梅三つ四つ寄せてあり 高澤良一 宿好
濡縁に釘ひとつなき花明り 長谷川櫂 天球
濡縁に雨の後なる一葉かな 高浜虚子
濡縁のとことん乾く敗戦日 宇多喜代子 象
濡縁のぬくもりに触れ仏生会 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
濡縁のぬれては乾く百千鳥 中尾寿美子
濡縁のわれに近づく牡丹あり 阿部みどり女
濡縁の南瓜に冬至近づきぬ 大星たかし
濡縁へかたむいて来し今年竹 五十崎古郷句集
濡縁へ上つてみたき蜥蜴かな ふけとしこ 鎌の刃
濡縁や薺こぼるゝ土ながら 服部嵐雪
濡縁をすこし濡らしてしやぼん玉 八染藍子
灰皿が濡縁にあり天の川 梶山千鶴子
秋冷や濡縁古びゆく色に 高木晴子
●花茣蓙
かぐろしや花茣蓙にゐる母の影 織部正子
また雨が降る花茣蓙の香なりけり 細川加賀 生身魂
一枚の花茣蓙にかくわが老後 富安風生
冷しうどん去年の花茣蓙青々と 渡邊水巴 富士
寝惜めば花茣蓙にかげる月ありし 雑草 長谷川零餘子
山城の画人来りぬ花茣蓙に 長谷川かな女 花寂び
広げ売る花茣蓙川の光る辻 町田しげき
愁ひつつ坐る花茣蓙はなやかに 日野草城
捲けば掌に細き花茣蓙母は亡し 山中不艸
新しき花茣蓙匂ひ立つ夜なり 河野美奇
旅人として花茣蓙の端に座す 福永耕二
暗がりの花茣蓙にゐて野盗めく 藤田直子
月の出の花茣蓙を捲く別れかな 豊長みのる
母のこゑ花茣蓙に捲きこみしまま 小檜山繁子
海嘯や花茣蓙に寝て日が余る 坪内稔典
老人の身持の話花茣蓙に 後藤夜半 底紅
船酔の眼に花茣蓙の花が燃ゆ 福永耕二
花茣蓙といふさむしろに漂へり 鈴木栄子
花茣蓙といふ一人部屋巻き納む 都筑智子
花茣蓙とともにどこかへ消えし夫 八染藍子
花茣蓙にはらから多き遠忌かな 佐藤十全
花茣蓙にひとのはかなくなりにけり 田中裕明 花間一壺
花茣蓙にまどろみて亡き人に逢ふ 桑野秀子
花茣蓙にやまひおもりてゐると知らず 久保田万太郎 草の丈
花茣蓙にやまひ重りてゐると知らず 久保田万太郎
花茣蓙にわがぬくもりをうつしけり 阿部みどり女「微風」
花茣蓙に一と日の疲れ乗せてをり 稲畑汀子
花茣蓙に佛のごとく冷えしかな 牧野麦刃
花茣蓙に吾子抱かす母髪白く 有働亨 汐路
花茣蓙に命を休めをられけり 新井ひろし「寒鯉」
花茣蓙に四肢泳がせて遠き海 岡本富子
花茣蓙に坐れば母とあるごとし 八染藍子
花茣蓙に夢の短くきれにけり 鷲谷七菜子
花茣蓙に夢はこばるる昼下り 伊藤 文
花茣蓙に子の友溢れ玩具溢れ 奈良文夫
花茣蓙に子よりも早く眠りけり 黒坂紫陽子
花茣蓙に子供の膝の二つづつ 大嶽青児「塔六集」
花茣蓙に子等の落書消えぬまま 藤原照子
花茣蓙に寝て底知れぬ昼にあり 小澤克己
花茣蓙に寝て押花の出来るまで 村松ひろし
花茣蓙に寝て西鶴の忌なりけり 池田秀水
花茣蓙に山の風呼ぶ土産茶屋 飯田弘子
花茣蓙に帰帆の船の光さす 大岳水一路
花茣蓙に座つてゐて瘠せたぢやないか 人間を彫る 大橋裸木
花茣蓙に息もらしたる魔法瓶 辻桃子
花茣蓙に敬称略の人を待つ 加藤春子
花茣蓙に母の眼鏡が置いてある 加倉井秋を
花茣蓙に母の逗留はじまりし 関夫久子
花茣蓙に母亡きのちのながきかな 渡邊千枝子
花茣蓙に沈みもあらず立ちたまふ 依光陽子
花茣蓙に無常の顔が行き来する 奥田昶子(渦)
花茣蓙に異郷の夢は見ずなりぬ 樋笠文
花茣蓙に病と遊ぶ思ひあり 村越化石
花茣蓙に痩身老いて恙なし 吉澤卯一
花茣蓙に目覚めしばらく花の中 沖 祐里
花茣蓙に穂田の蝗の来て青し 水原秋櫻子
花茣蓙に背骨のあたる日曜日 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
花茣蓙に脱いだるものを隠しけり 長谷川かな女 雨 月
花茣蓙に術後の身体癒しをり 朝岡和佳江(若竹)
花茣蓙に見し夢にして継ぎ難し 齋藤愼爾
花茣蓙に飾り気のなく暮しをり 辻本斐山
花茣蓙に餘す手足よ手術経て 石田あき子 見舞籠
花茣蓙のふくるる風に座りけり 山下率賓子
花茣蓙の上に置かれて通知表 小島健 木の実
花茣蓙の二枚の人数川下り 清崎敏郎
花茣蓙の仮寝たのしむ帰国の子 和田 祥子
花茣蓙の匂ひの中の誕生日 原田青児
花茣蓙の夢の短くきれにけり 鷲谷七菜子 黄 炎
花茣蓙の大きすぎたる社宅かな 小川竜雄
花茣蓙の寝窪に花のふたつみつ 福永耕二
花茣蓙の潮風に浮き上りけり 井上弘美
花茣蓙の糸のほつれは許されて 後藤夜半 底紅
花茣蓙の色香の色に溺れけり 大石悦子 群萌
花茣蓙の花に影なき暮色かな 嶋田麻紀
花茣蓙の花のかたよる目覚めかな 片山由美子 天弓
花茣蓙の花の暮色を座して待つ 福永耕二
花茣蓙の花蕊の中にうたたねす 恒川絢子
花茣蓙の藍はひとりの海に似て つじ加代子
花茣蓙の藍ふかければ母沈む 中尾杏子
花茣蓙の記憶の端に母坐る 白澤良子
花茣蓙の走りひろがる匂ひかな 朱鳥
花茣蓙の部屋に一夜の客となる 宮本とよ
花茣蓙の青い花から湿りけり 渡辺澄
花茣蓙の音のしづかになつてきし 岡本高明
花茣蓙は古れど思ひ出深き荘 星野 椿
花茣蓙やいたこに渡す皺の札 柏原眠雨「草清水」
花茣蓙やこの母祖母にすることなく 鈴木栄子
花茣蓙やごろりと雨の日曜日 湯川雅
花茣蓙やひとり去りゆけば夕日去る 吉田鴻司
花茣蓙やコーランの声澄みわたる 鈴木貫一(浮野)
花茣蓙や三年敷きける花褪せて 水原秋櫻子
花茣蓙や五十の膝を母の前 細川加賀 生身魂
花茣蓙や奈落へ落ちし夢に覚め 檜紀代
花茣蓙や寝ねし重さに妻の胴 草間時彦
花茣蓙や縮みきつたる祖母を置き 依光陽子
花茣蓙をよろこばれたるうれしさよ 富安風生
花茣蓙を一枚しきしくらしかな 高野素十
花茣蓙を外れし寝息をつづけをり 森澄雄
花茣蓙を小舟のごとくひろげたる 狩野優子
花茣蓙を敷き口寄せのいたこかな 棚山波朗
花茣蓙を敷くは九谷や陶器市 大島民郎
花茣蓙を横抱きにして盆の町 綾子
花茣蓙を甥と分ちてビール酌む 遠藤梧逸
花茣蓙を美しく敷く庵かな 山口青邨
花茣蓙を鉄砲担ぎする日かな 高野万里
芳ばしき花茣蓙に寝て無名かな 出口善子
逢へば別るる人花茣蓙に招じけり 長谷川かな女 花寂び
雨蛙聞く花茣蓙に手をついて 松村蒼石 雁
魚籠揚げて舟の花茣蓙ぬらしけり 大島民郎
●バルコニー
いつのまに椅子たゝまれしバルコニー 飯田三小子
バルコニーの烏有人に蠍する日送り 加藤郁乎
バルコニー一番星は風が呼ぶ 田口一男
バルコニー三宝小さく月祀る 高井北杜
星に魅せられし吾子またバルコニー 青島麗子
母の星近々とあるバルコニー 山田弘子 こぶし坂
波音も星も真近きバルコニー 永野由美子(阿蘇)
祭すぎ花すぎ海のバルコニー 佐藤鬼房(天狼)
麦酒の泡を吹くバルコニーの微風かな 青峰集 島田青峰
●バルコン
へこんだフツトボールの革、バルコンの陽だ 北原白秋
バルコンに人ゐぬ霧の流れをり 西村和子 夏帽子
バルコンに露けき言を交はしけり 西村和子 夏帽子
バルコンのヒツトラーは月を撃つ 東 和歌子
バルコンの客よ詩病を召さるるな 宇多喜代子
蒲団白いバルコンに見つけた蠅 北原白秋
●ベランダ
ベランダに二人出てゐる星月夜 舩戸しづか
ベランダに夕づつ仰ぎ見るばかり 山田光子
ベランダに御慶の雀来てをりぬ 鈴木久仁江
ベランダに忘れられゐし茎の石 館岡沙緻
ベランダに撒きし餌に来て寒雀 石田美奈子
ベランダに足跡光る白露かな 蒲 みつる
ベランダに鉢を並べて菊根分 高濱虚子
ベランダの椅子に大きな富士の闇 今井千鶴子
ベランダは母の菜園尊徳忌 長島久江
ベランダを亜炭がよごし日短か 原田青児
ベランダを夕餉の場とし一家健 左右木韋城
ベランダを好みて雀愛鳥日 石垣青[そう]子
マンシヨンのベランダ占める掛大根 渡辺和子
リラ冷えやベランダに富士見えている 鈴木とよこ
一茶忌のベランダに撒く米少し 横山玄水
七種爪ベランダは陽にあふれをり 平井洋城
夏雲やベランダに解く引越荷 和久津フミエ
新築のベランダくまなく布団干す 金元喜代子
病良き日はベランダに由布山を見る 河上睦女
白菜干す百人町のベランダに 浅場芳子
色鳥やベランダに置く子供椅子 鈴木貞雄
●筵
あくびして花の筵に赤ん坊 黒田杏子 花下草上
あけたての筵一枚鴨番屋 大石悦子 聞香
あぜ豆のつぎめは白し稻莚 稲筵 正岡子規
あぜ豆のつぎめは青し稻莚 稲筵 正岡子規
あたらしくそろひ織らばやあら筵 園女
いくたびも筵叩いて日短か 山本洋子
いんげんの色さま〜の一筵 柴田冬野
うす日さす障子の外に籾筵 田中冬二 行人
うら若き婿と向きあふ花筵 河村むつ子
おとろふは秋風抜ける筵の目 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
ぎらぎらと天日据ゑて籾筵 中島斌男
ぐんぐんと日は山へゆく梅筵 樋口桂紅
ぜんまいの筵にちぢむ峠茶屋 深井かず子
ぜんまいの筵日陰となりて留守 小川公巴
ぜんまい干す灰汁に染まりし荒筵 上石みち子
そくそくと夫あるごとし花筵 小坂順子
どこからも出入りできて花筵 荒井英子
どこからを参道といふ胡麻筵 能村研三 鷹の木
なかぞらに星のあつまる餅筵 木村虹雨
なつかしみ見て蒲筵かと問ひし 高野素十
にはとりの右目左目榧筵 大石悦子 百花
ぬかるみに筵敷きつめ初観音 野瀬美智子
ねぢふせられるなら満目の雉筵 大木孝子
はせ違ふ氣車のかけりや稻莚 稲筵 正岡子規
はせ違ふ氣車の行方や稻莚 稲筵 正岡子規
ひろびろとうしろ日暮れて餅筵 廣瀬直人
ふるさとや地ごと引きずる籾筵 百合山羽公
ほんたうは茣蓙を敷きたき花筵 後藤比奈夫 めんない千鳥
まざまざと彼の英霊菰筵 小原菁々子
まゝごとの筵に皿と散る木の葉 吉屋信子
みづうみのひかりを先に籾筵 森澄雄
ユダ一人ゐる筈なれど花筵 伊藤稔代
一と筵くるみが干され鬼無里口 荒井正隆
一と筵大小鏡餅並ぶ 滝沢鶯衣
一と筵柿の皮干す飛鳥寺 原田しずえ
一枚の筵に干せる茸いろ〜 岡安迷子
一枚の筵に足りし豆を干す 吉田紫乃
一枚はお遍路さんの花筵 南冨美子
一條も九條も見えず稻莚 稲筵 正岡子規
一灯を鼠に備へ餅筵 西山泊雲
一筵ちるや日かげの赤椿 去来
一筵干して明るし除虫菊 田村奎三(古志)
七十路の男ばかりの花筵 石垣青☆子
二番茶の筵干しなる不破の関 細見綾子
五月孕女神の子を産む凍筵 関森勝夫
些かの序の乱れたる花筵 今泉貞鳳
亡き人のひとり加はる花筵 ほんだゆき
今年藁青き筵や熊手市 中村汀女
仮の世の居場所の一つ花筵 大川つとむ
低きにも星見えそめし梅筵 藺草慶子
体育の日の山頂に彩筵 筏奈雅史
傷兵の義肢が跼める荒筵 三谷昭
先匂ふ真菰筵や草の市 白雄
六月の女すわれる荒筵 石田波郷「雨覆」
冷やかや大鹿歌舞伎の荒筵 森すみ子
冷汁の筵引ずる木蔭かな 一茶
凸凹の坐りごこちの花筵 岸田稚魚 『花盗人』
出勤す我に妻はや筵織り 前田六霞
切干の日に反りかへる荒筵 山田節子
切干も筵も甘き香に乾く 江口良子
別筵に坊主もゐたり梅雨の夜 内田百間
剪りて積む室独活匂ふ二筵 近本雪枝
十夜ある昼の筵に霰かな 田中寒楼
十日町更けて露けき筵買ふ 小室善弘
反り合はぬ叔父貴がひとり花筵 橋本榮治 逆旅
古筵もて路地奥の雪運ぶ 石川文子
古酒の壺筵にとんと置き据ゑぬ 佐藤念腹
句筵を四方の芒の中に敷く 水田むつみ
句筵を月の水辺に移しけり 比叡 野村泊月
叩きて入る雪の大戸の垂筵 皆川白陀
哺乳瓶ころがつてゐる花筵 柴崎いよ子
四國路や小山の底の稻莚 稲筵 正岡子規
団欒をたたみて戻る花筵 眞砂松韻
国栖の春闌けて杉箸干す筵 高瀬哲夫
堂押祭の蝋かさぶたの干し筵 宮岡計次
売値決る痩せ数の子のひと筵 岡澤康司
夏の夜のこれは奢りぞあら筵 惟然
夕かほの露やはだかの高筵 夕顔 正岡子規
夕影にくれなゐふかし梅筵 内藤吐天 鳴海抄
夕日にもひと日の疲れ籾筵 友岡子郷
夕烟りまとうて畳む籾筵 石原八束
夜嵐のあとくぼみけり稻莚 稲筵 正岡子規
夜桜やひとつ筵に恋敵 黛まどか(1965-)
大小の花筵敷き主を待つ 木藤ヒデ子
大根に筵を掛けてゆきしかな 酒井裕子
大豆干す筵二枚の納戸光 村井国男
大輪のかわきおそさよ菊筵 杉田久女
天窓に月がありけり餅筵 皆川白陀
太き掌の玉露揉み出す荒筵 上原白水
太宰府の宮居に並ぶ梅筵 井上千恵子
太宰府の訪ふ先々の梅筵 川崎慶子
太陽に湯気あげてゐる花筵 浜渦美好
婆が揉む小豆筵も津和野ぶり 石塚友二
婆と孫に筵一枚田のさくら 竹鼻瑠璃男
子が鬩ぐ枕辺の餅一と筵 小林康治 玄霜
字が一字書かれてありて籾筵 八木沢高原
寝筵にさつと時雨の明りかな 一茶
寝筵や窓から這入る草いきれ 一茶
寝筵や虱忘れてやゝ寒き 一茶
寝筵や野分に吹かす足の裏 一茶
小筵や敷合せより今朝の秋 椎本才麿
小豆乾す筵またぎて轆轤場へ 石川文子
小豆干す筵一枚大野寺 石井桐陰
居ないやうに居る人佳けれ花筵 鈴木鷹夫 千年
屈み入りたり闘鶏の掛筵 茨木和生 往馬
屋号にて呼ばれ座に付く花筵 犬束 孤憧
山の蒸湯へ筵小腋の裸ども 石川桂郎 高蘆
山吹に田水ながれて筵ばた 中勘助
山寺や切干筵松籟シ 尾崎迷堂 孤輪
山梔子を乾かしありぬ一筵 夕芽
岬根へ廻りこむ陽を豆筵 平井さち子 鷹日和
島の丘に瀬戸の海凪ぎ花筵 中川康子
帰り咲く木瓜に筵を着せにけり 墓田まさこ
干す小豆筵二枚の暮らしなり 古川澄子
干瓢のはりつき乾く筵まく 春山他石
庄吉の小屋の前なる茸筵 比叡 野村泊月
座をつめてまた座をつめて花筵 石川天虫
庭に敷く夕餉の筵こどもの日 坂本竜門
引ずつて位置を正せる花筵 山崎ひさを
引つ張れば豆が踊つて豆筵 小林いまよ
恋の唄水洟すすり花筵織る 小原菁々子
戸の外に筵織るなり夏の月 正岡子規「子規句集」
押し出され踊らされをり花筵 清崎敏郎
指入れて筵に流す新小豆 長谷川かな女
撫子に帽子をとりて荒筵 古舘曹人 砂の音
敷換へて正月遅し青筵 秋毛
新らしき筵の上や飾り臼 中村泰山
旅ごろも耻つゝ花の筵かな 井上井月
日だまりの筵に座して楮剥ぐ 岩津必枝
日の筵たたけば大豆をどりけり 田中千鶴子
昼顔やからみもあへず筵切 西山泊雲 泊雲句集
晴天の筵機は藁噛みしまま 今瀬剛一
暮れてなほ土蔵のほてり梅筵 山仲英子(狩)
月こぼす水のはしりや竹筵 月 正岡子規
月の雨被講きこゆる句筵かな 尾崎迷堂 孤輪
有徳なるひとの調度や花筵 後藤夜半 翠黛
有線の声の野太き梅筵 増成栗人
朝筵くちなしの黄を乾し並べ 大島葭人
木々の間に鳥の目があり花筵 田中玉江
木仏師や水のごとくに藤筵 古舘曹人 樹下石上
末社まで雪に敷きある福筵 中山幸枝
松の根にまるめて捨蚕筵かな 大石香代子
松山の城を載せたり稻莚 稲筵 正岡子規
林中に日がさし入りて餅筵 柴田白葉女
枝に吊る筵の日除地蔵盆 田中紫水
枯茨に投げし筵や雪少し 山本梅史
枯菊に藍玉くだく筵かな 烏不關句集 織田烏不關、吉田冬葉選
柚子百顆籾の筵へ照りにけり 大野林火
梅の筵の喧嘩に果てし事可笑し 青峰集 島田青峰
梅を干す手のひら熱き荒筵 三橋迪子
梅干の紅染みし筵かな 太田南岳
梅筵来世かならず子を産まむ 岡本眸(1928-)
梢より螢下り来ぬ麦筵 吉武月二郎句集
榎の実降る母ありし日の筵機 為井しのぶ
機嫌よく小豆弾ける荒筵 竹内藹子
母の忌や草の湿りの花筵 奈良文夫
水打つて供養の菊のひと筵 岸 風三楼
水番の筵の上の晴夜かな 福田甲子雄
水色のゆふべとなりぬ餅筵 角川春樹
水飯のこぼれてしろし花筵 田中冬二 行人
汗くさき遊女と寝たり狭き花筵 汗 正岡子規
法師蝉月の筵の設けあり 鈴木花蓑
波音の筵成したり桜えび 佐野鬼人
泣いてゐる子に籾筵かゝへ母 高野素十
浦上や花の筵に神父さま 末広 京
浮くごとく踏んでをるなり籾筵 大石悦子 聞香
海かけて天むらさきや籾筵 中島斌雄
渡舟銭散らばつてゐし蒲筵 関俊雄「落花」
湖航くはみな白く照り豆筵 友岡子郷
湿りたる花火見筵巻きにけり 岸田稚魚
漬瓜や砂の上なる一と筵 長谷川かな女 雨 月
炎天に筵たたけば盆が来る 飯田龍太
片尻は岩にかけけり花筵 丈草 俳諧撰集「有磯海」
狭筵のへり踏みありく葉よりかな 山店 芭蕉庵小文庫
猫が来てちよつと座りぬ花筵 川口咲子
玄関はどこにあるやと花筵 辻桃子 ねむ 以後
田仕舞の筵敲けば一揆かな 早川翠楓
田植女のまろび寝ふかし荒筵 地元 道雄
甲板に桃の荷ひさぐ荒筵 伊藤京子
畦道を好き放題に雉筵 高田正子
白山の神降臨の花筵 近藤一鴻
盃を天に飛ばして花筵 上野泰
盆用意先づ菰筵編み始め 白石高一
盲導犬共にくつろぐ花筵 寺尾美津子
真ん中は赤子が座る花筵 松塚大地
砂浜の砂あたゝかき粟筵 中村汀女
磯振りや筵の上に夏書筆 加藤耕子
神棚の下に一枚餅筵 森田君子
神棚の前より敷きぬ餅筵 高浜虚子
福達磨重なり糶らる荒筵 北村風居
秋ともし上つ蚕ねむらす別筵 きくちつねこ
科挙などの無き世を遊び花筵 鳥居おさむ
稲筵近江の国の広さかな 浪化
稻莚九條あたりは見えぬ也 稲筵 正岡子規
稻莚國旗立てたる村見ゆる 稲筵 正岡子規
稻莚朝日わつかに上りけり 稲筵 正岡子規
立ち上がるとき窪ませて花筵 八木澤高原
立膝にこんにやく本や花筵 加藤郁乎 江戸桜
筆硯や月の筵に置かれたり 池内友次郎
筵おる伏屋が軒の南瓜かな 中勘助
筵くるりと巻いて野菊の風の中 大木あまり 火球
筵の餅の夜のかげの丸く並べ終へたる 人間を彫る 大橋裸木
筵はね露まみれなる独活を剪る 高濱年尾 年尾句集
筵剥ぐやわつと喚きのなめくぢり 千代田葛彦 旅人木
筵戸に不発の海鞘は隠さるる 攝津幸彦 未刊句集
筵戸の二重の温し鮭番屋 古田瀧茶
筵戸の裾かまくらの灯を洩らす 館岡沙緻
筵戸をすこしかかげてパナマ編み 篠原鳳作 海の旅
筵敷いて這ふ児立つ児や桃の下 比叡 野村泊月
筵旗掲げ埠頭に初荷船 土屋保夫
筵旗朽つるにまかせ女日焼 柏禎
筵編む駒をどりをり韮の雨 町田勝彦
筵織る一筋ごとの藁匂ふ 安福降詞
籐筵移宅次第に自家となる 平井さち子 鷹日和
籾筵たたむや木の葉選り捨てて 西山泊雲 泊雲
籾筵でん〜大鼓置いてあり 比叡 野村泊月
籾筵のべし日だまり土手を背に 高浜年尾
籾筵凧を貼るごと敷きつめぬ 大熊輝一 土の香
籾筵夕波ひとをしづかにす 友岡子郷 翌
籾筵片づけられし墓混み合ふ 香西照雄 素心
籾筵百枚渡り往診医 小池つと夢
籾筵素足となりて踏みわたる 山口誓子
籾筵色に出そめし柚子のあり 鈴木花蓑
糀散るべつたら市の荒筵 平岡仁期
紅に朝日さしけり餅筵 貞木句之都
紅葉狩筵の下に岩の山 長谷川櫂 天球
絵筵の花つぎの世はなに病まむ 綾部仁喜 樸簡
練供養拝む筵を借りにけり 橋本月路
繭嵩の筵の間に居 小澤碧童 碧童句集
聖域と教へし筈の梅筵 櫂未知子 蒙古斑
胡麻筵片よせ婚の荷を通す 木本たけ子
能初め鉾神の坐す荒筵 角川源義
能因の墓の前なる籾筵 比叡 野村泊月
膝つゝむ古き筵や鰊割き 石田雨圃子
膝を抱く若人ひとり花筵 川原瀞秋
自ずから円座となりて花筵 羽吹利夫
色鳥や筵一枚夕日の座 村越化石 山國抄
花守を通す筵をうち返し 石田勝彦 秋興
花筵かかへて水の井之頭 鈴木しげを
花筵この世の隅に拡げける 石飛如翠
花筵こまやかに踏み平らかに 西山 睦
花筵しくや落花の吹き過ぎし 高野素十
花筵ただしく敷けば墓に当る 大牧広
花筵てふ大仰なもの持たず 高澤良一 素抱
花筵ふいに淋しき風の中 林 青峰
花筵ほんたうに夫寝てしまふ 園部光代
花筵まつさをにしてくちやくちやに 大木あまり 火球
花筵よそにかゝはりなく和して 星野立子
花筵入水のやうに靴置いて 大牧広
花筵四隅を残し円く座す 池田秀水
花筵夫の視線の先に美女 川崎榮子
花筵山の夕冷え払ひけり 高澤良一 寒暑
花筵巻くころの風川よりす 鈴木鷹夫 春の門
花筵巻くはなびらを払ひつつ 正木ゆう子 静かな水
花筵引きずつてきし水邊かな 野村泊月
花筵引きずつて来し水辺かな 比叡 野村泊月
花筵往生際の話など 塚本忠
花筵敷きて平らな家族かな 後藤立夫
花筵生きて引き据ゑられてをり 竹本健司
花筵端の暗さを重ねあふ 能村研三 海神
花筵転がりやすき紙コップ 山田弘子 懐
花筵野党与党の村議ゐて 井村順子
花筵青洟垂るる子がひとり 辻桃子
花見とは地に筵敷き酒に酔ひ 星野立子
苗床に筵の厚き一夜あり 綾部仁喜 寒木
苗床やはねて又きせ覆筵 西山泊雲 泊雲
茄干しの一ト筵坊の縁 伊藤風楼
茸筵この傾きを良しとする 波多野爽波 『骰子』
茸筵三味線に日のあたるなり 岡本松浜 白菊
草野球帰りの花の筵かな 服部 満
荒るゝ日は筵戸下ろし藁仕事 大森積翠
荒筵澤瀉細く活けて住む 石田波郷
荒筵積みあげ牧の冬仕度 井出智恵子
菊の秋母が寿筵に帰郷かな 大橋櫻坡子 雨月
菜の花を包みて筵雪まみれ 長谷川櫂 天球
萍草を吹きあつめてや花筵 蕪村
萩を圧して筵敷きたる月見かな 大釜菰堂
蒲筵一枚敷いてあるばかり 高濱年尾
蒲筵長しと思ひつつ話す 高野素十
薄暮まで地の花筵女充つ 飯田龍太
薪棚の筵落ちゐし雪解かな 大橋櫻坡子 雨月
薬草は吊干し豆は筵干し 島田秋牙
虫聴くや素足に痛き蒲筵 小泉迂外(俳諧雑誌)
蚕筵を洗ひし水のまはりをり 西本一都
蜑の家角又干せる一筵 岡安迷子
蟋蟀の跳ぶ朝市の濡れ筵 尾崎雪江
行く年の湾にただよふ荒筵 不死男
裏湿りをり炎熱の麦筵 豊田 昇
西瓜売り厚き筵をひろげけり 皆川盤水
見えぬ黴漂ふ納屋の筵かな 鬼頭ふみ子
豆筵ふつくら捲いてありにけり 大石悦子 聞香
豆筵峠をおりしここに干す 村越化石 山國抄
赤かぶら抜いてありけり一筵 星野麥丘人
赤子ごと引きずつて来し花筵 阿部静雄
走り出て花見筵を貸す女 荒木花王
足の先ばかりさす蚊や筵機 癖三酔句集 岡本癖三酔
車停り花見筵を出すわ出すわ 中戸川朝人 星辰
輪になりて少しはみ出す花筵 石川薫
輪飾や織上げ近き筵機 木村仁美
避暑人に近く鯵干す筵かな 温亭句集 篠原温亭
酸鼻なる蚕筵垂れて干されけり 八木林之介 青霞集
鍬を手に花の筵をはなれけり 大坂泰一
門松や霜に敷きたる新筵 大谷句佛 我は我
闘鶏の血ぬりし筵隠れ干す 坂本秋峰
雁渡る加留多も遂げたり筵の上 安井浩司 赤内楽
雛僧の茶を運びゆくや花筵 比叡 野村泊月
離乳食たべさせてゐる花筵 中村和子
雨雲の夕栄すなり稲筵 子規句集 虚子・碧梧桐選
雲軽き日は音出して豆筵 影島智子
電柱の影が乗りくる籾筵 辻田克巳
霜月のさ筵かけし人葬る 萩原麦草 麦嵐
青かりし時より清し餅筵 蓼太
青空へ祭舞合は筵がけ 太田鴻村 穂国
静かなる国旗の影や籾筵 比叡 野村泊月
音もなく紅葉散りゐる苔筵 杉山青風
風のげんげ鶏舎(とや)にかの日の筵旗 友岡子郷 遠方
風吹いていま誰も居ぬ花筵 嶋田麻紀
風立つや坐り直して花筵 岸田稚魚
風除の筵吊り下げこけし挽く 鈴木貞二
餅つきや敷き並べたる青筵 島田五空
餅筵つねづね暗き座敷かな 中村汀女
餅筵ほてり白眉の父が立つ 原 裕
餅筵一隅に白しいのち祝ぐ 村越化石
餅筵書斎狭むること許す 安住敦
餅筵燈は舞良戸に遮られ 小川双々子
餅筵箪笥の裾につかえけり 吉屋信子
餅筵絵本ひろげしまま日ぐれ 大串章
餅筵誰かがゐなくなりさうに 飯島晴子
餅筵踏んで仏に灯しけり 岡本松濱
高低に螽とぶなり稻むしろ 稲筵 正岡子規
高遠城濠の底まで花筵 村上冬燕
魚店や遅き日影のつり筵 樗堂
鮭の眼をこぼるる塩や荒筵 正岡陽炎女
鶏糞の筵干さるる札所寺 小島千架子
鶴の紅さだかなる日の籾筵 大岳水一路
鷹に声なし雨にたれたる塒筵 白雄「白雄句集」
鷹の塒筵突き破られゐたる 茨木和生 三輪崎
麦秋の筵仕舞ひや畑の中 比叡 野村泊月
齢富む一間に寝ねて餅筵 森澄雄
●毛氈
うつれるは緋毛氈のみ雛鏡 西本一都 景色
おくんちの緋の毛氈に猫も居る 下村ひろし 西陲集
かな〜や緋の毛氈に茶をたまふ(九月廿日陽明文庫に折口信夫先生をむかへて) 『定本石橋秀野句文集』
土の匂ひの毛氈たたむ花の夕 桂信子 黄 瀬
山雀や舞台は敷きし緋毛氈 野村喜舟
散り初めし花に毛氈濃かりけり 永井龍男
毛氈と絵反古の間捨て扇 島村元句集
毛氈に初雀飛ぶ影を踏む 廣江八重櫻
毛氈に土こぼしたる若菜かな 菊の苗 正岡子規
毛氈に寐たる心の小春かな 桃李
毛氈に据ゑて二日の硯かな 中村祐子
毛氈に水平の琴鳥曇り 神尾久美子 桐の木以後
毛氈に草芳しき野点かな 森田洋子
毛氈の上に置かれて春火鉢 岩本栄子
毛氈の緋のはなやぎや年忘 久保田万太郎 流寓抄
毛氈の褪せを親しく梅に居り 永井龍男
毛氈の赤き座敷に種痘する 田中冬二 俳句拾遺
毛氈をかけし床几や露の中 後藤夜半 翠黛
毛氈を敷けば雨降る紅葉かな 野村喜舟 小石川
水仙の国の海ゆく緋毛氈 兵頭幸久
水仙や試筆のあとの緋毛氈 久保より江
氷水きて緋毛氈の端濡らす 石川桂郎
涅槃会の僧を待ちゐる緋毛氈 吉野義子
火の滝の雛毛氈懸け垂らす 上野泰 佐介
緋毛氈に菜の花こぼししは誰 岡田史乃
緋毛氈の上に春筍の籠 川崎展宏
縁側に緋毛氈ある日傘ある 京極杞陽 くくたち下巻
菊暮れぬ菊見の宴の緋毛氈 松藤夏山 夏山句集
葉櫻にひまな茶店の緋毛氈 成瀬桜桃子
蝶飛びぬ扇おとしの小毛氈 四明句集 中川四明
遊船や毛氈の上水の玉 大橋宵火
酔眼に毛氈の朱や筆始め 島村元句集
鉾を待つ二階手摺の緋毛氈 比叡 野村泊月
霜旦のイエスに通す緋毛氈 高澤良一 ねずみのこまくら
●床下
夏料理床下を水走らしめ 川村紫陽
大花火床下の蛇跼むころ 赤尾兜子
室生寺の床下にして蟻地獄 瀧澤伊代次
床下に丹波大甕能始 福永法弘
床下に兎飼ふ家の初日かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
床下に入りしくちなわ気にかかる 中松みきゑ
床下に捨て犬の鳴く冬の暮 富田木歩
床下に枯野続けり能舞台 澤木欣一
床下に洋酒ねむれる梅雨厨 松原とく子
床下に狐狸天井に蛇棲ませ 村松紅花
床下に生きものゐるや風邪癒えず 山口誓子
床下に祭の材と蟻地獄 丹間美智子
床下に空瓶乾く鮎の宿 桂信子 黄 瀬
床下に緋鯉を飼つて鯉屋敷 前田まさを
床下に舟をつなぎぬ水の秋 長谷川櫂 蓬莱
床下に茸狩の籠ころげあり 辻桃子
床下に虫啼き微笑円空像 西村公鳳
床下に雨夜の蛙鳴いて賃仕事にせいだす 人間を彫る 大橋裸木
床下のひろびろとして万燈会 田中英子
床下の地蜂の穴に秋の風 長谷川櫂 蓬莱
床下の蕗のそよぎや秋の風 会津八一
床下はなづな花咲く能舞台 林徹
床下も海辺のちちろいつしんに 槐太
床下を吹き抜く風や秋掃除 青山松樹
床下を干してやんまと馴染みけり 永井龍男
床下を早稲の香くぐる能舞台 柏禎
床下を色鯉の水京の宿 桂信子 草樹
床下を風吹きぬくや石蕗の花 癖三酔句集 岡本癖三酔
本堂の床下くゞり萱運ぶ 高浜虚子
校倉の床下に臥て夕鹿の子 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
校葬のおとうと銀河が床下に 西川徹郎 死亡の塔
池水を床下に引き花御堂 綾部仁喜 樸簡
百姓の床下暗く昼寝せり 榎本冬一郎 眼光
薩摩屋敷床下高し年木積む 大立しづ
薪を焚く床下知れり蚕屋の主 長谷川かな女 雨 月
蟻地獄群るる病者の床下に 石田波郷
銀河暗し床下に茄子一夜漬け 宮坂静生 青胡桃
鐘氷る夜床下にうなる金の精 鐘氷る 正岡子規
●露台
ささめごと星空に咲く露台 安田 笙
ぬれ帯のひとすぢ懸る露台かな 松村蒼石 寒鶯抄
われひとり夫もひとりの露台かな 斎藤紬
トマト一鉢に露台の色を集めけり 青峰集 島田青峰
ハーブティ淹れて呉れたる露台かな 鈴木しげを
城のごとき船よぎりゆく露台かな 川合玉枝
夕づゝのひかり親しむ露台かな 日野草城
夕波のあつまつて来る露台かな 園田筑紫郎
夕狩りは終わらず祖父を待つ露台 水野真由美
多摩近く星多きわが露台かな 中島斌雄「樹氷群」
大航海時代の眼だ リスボンの露台で老い 伊丹公子 山珊瑚
宵浅し露台へのぼる靴の音 日野草城
明易き露台の花卉に人さめず 西島麦南 人音
映画では恋を囁く露台かな 守屋明俊
春宵や押せば露台へあく扉 波多野爽波 鋪道の花
朝寒の部屋の露台の湖に向く 高木晴子 花 季
朝粥のテーブル並ぶ露台かな 岸本隆雄(ひいらぎ)
朴伐つて露台に迫る嶺ひとつ 大島民郎
椶櫚蔭も露台のひるや雲雀籠 飯田蛇笏 霊芝
水色の露台も看えて花ぐもり 滝井孝作 浮寝鳥
洋人の夫婦犬飼ふ露台かな 長谷川澪余子
湯の宿の露台の夕餉旅楽し 池内友次郎 結婚まで
灯の中に船の灯もある露台かな 福田蓼汀 山火
療院の露台の女髪乱れ 上野泰 春潮
花房の吹かれまろべる露台かな 杉田久女
花桐にカステラ甘き露台かな 久米正雄 返り花
蠍座の尾のちかぢかと露台かな 永島靖子(鷹)
足もとに大阪眠る露台かな 日野草城「青芝」
道を来る客に下りゆく露台かな 岡田順子
銀漢の多摩にかたぶく露台かな 中島斌雄
雲を滾れ来し色鳥に露台あり 久米正雄 返り花
露台から木椅子海まで歩かせる 前西一尾
露台なる一人の女いつまでも 高濱虚子
露台の日あつく白樺の花すぎぬ 水原秋桜子
露台よりことづてありし二三こと 稲畑汀子
露台よりわが青春の海見えて 星野椿
露台より減速ばかり見つめけり 宮崎斗士
露台より見下ろす花や雨の中 比叡 野村泊月
青づたや露台支へて丸柱 杉田久女
風知草風の露台に忘られて 三宅一鳴
餌箱を置けば鳥寄る露台かな 猪俣千代子
鮓馴るるころの露台に椅子運ぶ 皆吉爽雨
麦酒のむや露台を掩ふ若楓 青峰集 島田青峰