●水枕●氷枕●旅枕●石枕●枕元●枕上●枕刀●枕カバー●枕頭●夢枕●枕言●枕絵●枕捜し●枕●手枕●木枕●枕辺（枕べ）●籠枕●箱枕●小枕●北枕●草枕●波枕●陶枕●肘枕 肱枕●菊枕●獏枕●水枕●氷枕●旅枕●石枕●枕元●枕上●枕刀●枕カバー●枕頭●夢枕●枕言●枕絵●枕捜し●枕●手枕●木枕●枕辺（枕べ）●籠枕●箱枕●小枕●北枕●草枕●波枕●陶枕●肘枕 肱枕●菊枕●獏枕
●水枕 
*はまなすや波の音聞く水枕 雪島東風
みな愚かなる日にまつれ水枕 高橋睦郎 稽古飲食
三伏の柱に懸けて水枕 佐々木六戈「佐々木六戈集」
冬ぬくし肝臓のごとき水枕 上林 裕
夜泣そば眠らねば水枕鳴る 大井雅人
寒暮に売らるわが水枕魚となり 寺田京子 日の鷹
寒灯の死角に眠る水枕 宮本正義
春曙ただよふて水枕かな 梶千秋
母もまた候鳥なりしか水枕 齋藤愼爾
水枕して木枯を聞きゐたる 片山由美子 風待月
水枕たふんと火蛾・モガ・モボ舞へり 攝津幸彦 鹿々集
水枕といふ雁道にちかきもの 齋藤愼爾
水枕に櫂の音ある緑夜かな 大島雄作
水枕ゆらしに来たる雪をんな 伊藤通明
水枕ガバリと寒い海がある 西東三鬼(1900-62)
水枕中を寒柝うち通る 山口誓子 青女
水枕干されて海の駅にあり 攝津幸彦 鹿々集
水枕干して秋澄む田廬かな 宮武寒々 朱卓
水枕干すにも春の海の音 中山純子 沙羅
水枕替へゐる二十三夜月 今井 三千寿
水枕椿一輪流れゆく 五十嵐進
河骨のぽつんとひらく水枕 中尾寿美子
渡り鳥なりしと思う水枕 橋間石
短夜の夢の白さや水枕 鈴木しづ子
秋冷の病舎に残る水枕 藤原美規男
良夜なりたぷんたぷんと水枕 金城照子
●氷枕
それぞれの氷枕抱いて眠るだけ 仲本彩泉
なまぬるき氷枕を軽蔑す 津根元潮
月、静かに氷枕の氷がくずれる 住宅顕信 未完成
氷枕にひたと頭あてゝ暮の春 青峰集 島田青峰
菊枕氷枕に重ねけり 宮澤 薫
青林檎かめば氷枕きしりなる 岩田昌寿 地の塩
●旅枕
名月の前へまはるや旅まくら 内藤丈草
夏炉焚く匂ひの中の旅まくら 徳重怜子
夜あらしや時雨の底の旅枕 上島鬼貫
文月やそばがらこぼす旅枕 黒田杏子
旅まくら雨夜の夢はつばくらへ 林原耒井 蜩
旅枕かたみに覚めつ蚊におびゆ 林原耒井 蜩
旅枕ただ五月雨を聞きにけり 野田雅城
旅枕はづれやすくて明易し 松尾節朗「大山蓮華」
旅枕ゆさぶる能登の雪起し 緒方眞帆子
旅枕夜目にも茅花流しかな 沼尻巳津子
旅枕手さぐりおれば雁の声 源鬼彦
旅枕甲斐のちちろに眠り落つ 藤本はるを
旅枕雁が鳴いても目がさめる 雁が音 正岡子規
明易し白紙を巻ける旅枕 河野博行「貴船菊」
星合の夜を俳諧の旅枕 堀内吟一
梟や耳覚めてゐる旅枕 堀井和子
痩せ蚤の這ひ出る肩や旅枕 丈草「幻の庵」
痩蚤の這出るかたや旅枕 内藤丈草
眼うらに鵲舞はす旅枕 成瀬櫻桃子 風色
秋雷を遠くに聞きて旅枕 尾沼チヨ子
臍寒し柿喰ふ宿の旅枕 柿 正岡子規
蛙鳴くこの夜忘るな旅まくら 上島鬼貫
鷺草の白き月夜の旅まくら 岡部六弥太
●石枕
あたたかし石に木枕石枕 中戸川朝人 星辰
石枕してわれ蝉か泣き時雨 茅舎
石枕して雲仰ぐとき秋風 福田蓼汀
石枕夜闌の水にうつりけり 飯田蛇笏 霊芝
石枕山淑魚の出を待てり 吉本伊智朗
石枕玉簪の触るゝ音すなり 二松葦水
花冷ゆる石棺に石枕かな 和田知子
虎魚飼ふ海酸漿の石枕 出口まこと
鉦叩黄泉より茅舎は石枕 福田蓼汀 秋風挽歌
雪沓を吊せし下の石枕 福田蓼汀 秋風挽歌
●枕元
あるかれてゐる春眠の枕もと 相沢透石
うぐひすの古巣を飾る枕もと 川崎展宏
うぐひすの巣のぬけがらを枕元 川崎展宏
うは風に音なき麦を枕もと 蕪村「蕪村句集」
うらみ寝や梶の葉ちらす枕元 妻木 松瀬青々
うハ風に音なき麥を枕もと 蕪村 夏之部 ■ 嵯峩の雅因が閑を訪て
けしの散る光ひまなし枕元 梅室「梅室家集」
ふぶく夜や蝶の図鑑を枕もと 橋石 和栲
ほうらいや夜は曾祖父の枕元 梅室
フリージアに空の来てゐる枕許 永田耕一郎
一夜寝て暁ひぐらしを枕もと 橋本多佳子
七種や明けぬに婿の枕もと 其角 正 月 月別句集「韻塞」
二日灸きかぬ薬を枕元 高田寒水
人病んで籠の虫鳴く枕もと 虫 正岡子規
元日の行燈をかしや枕もと 正岡子規
初秋の芭蕉動きぬ枕元 夏目漱石 明治四十二年
午後五時の西日つれなし枕もと 皆川白陀
古蚊帳に安全燈を枕元 清原枴童 枴童句集
埋火や煙管を探る枕もと 寺田寅彦
嫁が君冠おいたる枕もと 四明句集 中川四明
山蟻の立ち寄らで去る枕もと 林原耒井 蜩
年玉のかず〜に灯や枕元 露月句集 石井露月
年玉を竝べて置くや枕もと 年玉 正岡子規
怪獣軍団ずらり昼寝の枕元 川村紫陽
手術があるという枕元に紙札が置かれた 住宅顕信 未完成
日当つてくるや風邪寝の枕許 上崎暮潮
春ふかきぬばたまの夜の枕もと 飯田蛇笏 山廬集
春暁や枕元なる歌屏風 高橋淡路女 梶の葉
春近き補聴器二つ枕元 中山悦子
暑き日や水薬ぬるむ枕もと 会津八一
月涼し百足の落つる枕もと 之道 俳諧撰集「藤の実」
朝顔や朝寝涼しき枕もと 会津八一
枕もと浦島草を活けてけり 浦島草 正岡子規
枕元にさしてくれてうちの萩もと思う萩(富山中央病院) 荻原井泉水
枕元に内紫を竝べけり 朱欒 正岡子規
枕元まで散りこんで山桜 黒田杏子
枕許サンタにB鉛筆ねがふ 平畑静塔
枕許障子静かに開かれし 森田 愛子
梨子二つ大なり病人の枕もと 尾崎紅葉
水仙の花鼻かぜの枕元 夏目漱石 明治三十年
独活の香の旅にしあれば枕もと 加藤楸邨
猟宿や枕元なる置ランプ 松藤夏山 夏山句集
瓜小屋や溝のせゝらぎ枕元 西山泊雲 泊雲句集
短夜や汽<車>走り行く枕元 短夜 正岡子規
秋の雨漏るや古駅の枕もと 尾崎紅葉
稲の波はる〜と来て枕元 梅室
紅梅の散りぬ淋しき枕元 梅散る 正岡子規
聖霊や同じ旅寝の枕もと 内藤丈草
舞ひ落ちて梶の一葉や枕もと 長谷川櫂 虚空
芍薬の衰へて在り枕もと 芍薬 正岡子規
蓬莱や日のさしかゝる枕もと 釣壺 古句を観る(柴田宵曲)
蚤虱馬の尿する枕もと 芭蕉「奥の細道」
蚯蚓鳴くや冷き石の枕元 寺田寅彦
袵(おくび)形りに吹込雪や枕元 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
貧しからぬ秋の便りや枕元 夏目漱石 明治四十三年
退職願出して来た枕元に朝が来ていた 住宅顕信 未完成
雛段の流血を享く枕許 佃悦夫
露の身やさむき剣を枕もと 会津八一
鶯や燈あかるき枕もと 会津八一
●枕上
うづみ火に我が夜計るや枕上 黒柳召波 春泥句集
おしやかさまちかき日のさす枕上み 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
きりぎりす白湯の冷え立つ枕上 室生犀星
ずぶ濡れの山椒魚が立つ枕上ミ 嵯峨柚子
ゆく春の大釈寺山枕上ミ 石原舟月 山鵲
わら砧暁さめやすき枕上 石橋秀野
一穂の除夜のみあかし枕上 木村蕪城 一位
元日やふどしたゝんで枕上ミ 村上鬼城
元旦やふどしたゝんで枕上ミ 村上鬼城
初旅の破魔矢挿す荷を枕上み 茂里正治
味方となせる朱欒一箇を枕上ミ 沼尻巳津子
夏掛や鳴門渦潮枕上ミ 岡本 眸
大寝釈迦新涼の松を枕上み 下村ひろし 西陲集
大津絵の鬼枕上ミ宿夜長 大橋敦子 匂 玉
富士の灯を母と外寝の枕上ミ 中山フジ江 『富士南』
寒梅や念者を見舞ふ枕上ミ 蘆角
寝積や大風の鳴る枕上ミ 村上鬼城
尿する茶壷も寒し枕上 芥川龍之介
山吹の枝長過ぎし枕上み 細見綾子 黄 炎
年だまやわび寝の庵の枕上 召波
手術すみて月の朧を枕上み 松村蒼石 露
春曉や眼薬さぐる枕上 野村喜舟
昼寝覚め雪渓解くる枕上ミ 冨田みのる
暁方の藻刈の音を枕上 黒田杏子 花下草上
朝かすみ立つや夜舟の枕上 几董
枕上あらうことかや嫁ヶ君 山本三才
枕上みふはりと消ゆる盆の月 松村蒼石 雪
枕上み夜はふ蜘蛛も影負ひて 石塚友二
枕上み秋は小蜘蛛も影負ひて 石塚友二 方寸虚実
枕上ミの妻と夜咄してゐたり 森澄雄
枕上ミはるか神鳴よぎるらし 瀧井孝作
枕上ミ泰山ありておぼろ濃し 田中英子
枕上来てやる度に隙間風 中村汀女
枕上汝と海棠たちかはり 齋藤玄 飛雪
枕上秋の夜を守る刀かな 蕪村
水差に月光いたる枕上 鈴木鷹夫 千年
深秋に鋸を入れたる枕上ミ 増田まさみ
獺祭や枕上には常に辞書 松浦敬親
百合の香を枕上にて寝冷えけり 林原耒井 蜩
短夜や枕上ミなる小蝋燭 鬼城
秋*かやや枕上ミなる芭蕉像 西島麦南 人音
秋ふかみゆく鶴唳を枕上ミ 斎藤梅子
秋まつや朗詠集を枕上 松瀬青々
羽子板やかなしき闇を枕上み 長谷川春草
翅あをき昆虫を夜の枕上 石塚友二 光塵
芒活けぬ佗しき双の枕上ミ 島村元句集
蓬莱を枕上ミなる寝覚かな 野村喜舟 小石川
蚰蜒に這はれし避暑の枕上ミ 銀漢 吉岡禅寺洞
行暮て案山子を草の枕上 子曳
解夏の夜や草ひばり鳴く枕上 長谷川かな女 雨 月
雪折や覚めて灯す枕上 中島月笠 月笠句集
餅の香をうれしきものに枕上 松瀬青々
髪の菖蒲解けて匂へり枕上 大木石子
鼠追ふや椿いけたる枕上 田福
●枕刀
秋の夜や枕刀に上る蜘 秋の夜 正岡子規
秋の蜘枕刀にかくれけり 秋の蜘蛛 正岡子規
秋の蜘枕刀に落かゝる 秋の蜘蛛 正岡子規
長き夜や枕刀を置き直す 夜長 正岡子規
●枕カバー
●枕頭
一石路の枕頭に五分遅れしぞ口惜しき 橋本夢道 良妻愚母
可笑しからずや枕頭台薔薇あふるるは 石川桂郎 高蘆
憂き一日菫の本を枕頭に 田川飛旅子 『植樹祭』
文芸無頼枕頭の書へ足袋重ね 北野民夫
朝寒の枕頭にあり新聞紙 青峰集 島田青峰
枕頭に医書山と積み秋深む 相馬遷子 山河
枕頭に垂れてまゆ玉まぶしめり 石川桂郎 四温
枕頭に木の葉うつらふ昼寝かな 金尾梅の門 古志の歌
枕頭に柚子置けば秋の風到る 草城
枕頭に波と紺足袋漁夫眠る 鈴木六林男 第三突堤
枕頭に金の匙ある夏の風邪 四ツ谷龍
枕頭に陽炎せまる黒田武士 高山れおな
枕頭の干潟にしやがみ大がらす 加藤郁乎
枕頭の歳時記更へむ猫の恋 相馬遷子 雪嶺
枕頭の花開きたる寒さかな 太田鴻村 穂国
枕頭の薬餌の数や去年今年 徳永夏川女
枕頭の蚊遣に咽喉ひからびし 富田木歩
枕頭やアンナ・カレニナ芥子の花 芥川龍之介
枕頭を大足よぎり登山宿 桜井のの
病む母の枕頭晦日蕎麦すゝる 大橋敦子
遍路病む枕頭金剛杖一本 岡部六弥太
●夢枕
ヒマラヤの星の 真下の 夢枕 伊丹三樹彦
三椏が咲いてきのふの夢枕 手塚美佐 昔の香
髪なびき/霜夜/夜ごとの/夢枕 折笠美秋 火傅書
●枕言
●枕絵
巻つくす枕絵甘し秋のくれ 立花北枝
枕絵といふ菜の花のごときもの 榎本 好宏
枕絵のようにもみえる超音波かな 安西篤
●枕捜し
●枕
あいの風松は枯れても歌枕 角川源義
あやめかけて草にやつれし枕かな 暁台「暁台句集」
あやめさく畦を枕に戦死かな 森鴎外
ありあけの枕をただすしぐれかな 金尾梅の門 古志の歌
ありそめし昼寝の枕わが机辺 亀井糸游
あり合すものを枕や避暑の宿 池内たけし
あるは又松の根枕ひるね人 西山泊雲 泊雲句集
あんぺら枕唐土迄や寝覚の秋 才丸 選集「板東太郎」
あゝ誰ぢや下女が枕の初尾花 芭蕉
いつもする枕屏風の安らかに 遠藤梧逸
いづれは死の枕妻寐し月明に 林田紀音夫
いとほしき児の寐汗や枕蚊帳 松下紫人
いなづまやどの傾城とかり枕 向井去来(1651-1704)
いろいろの枕の下を野分かな 加藤郁乎(1929-)
うそ寒や黒髪へりて枕ぐせ 杉田久女
うたたねの枕に春の風が吹き 今井杏太郎
おうつりの柳川鍋や新枕 加藤郁乎 江戸桜
おたまじやくしあたま出しよるべなう枕む 冬の土宮林菫哉
お四國の月光枕低うして 黒田杏子 花下草上
お年酒に寝てしまひたる不覚かな 藤田枕流
かけまくも枕二つや初あらし 加藤郁乎
かさと鳴る菊の枕に酔ひ心地 森田 愛子
かたびらの雪をれ竹や枕蚊屋 井原西鶴
かなかなのこゑが枕に沁みにけり 山西雅子
きさらぎや火燵のふちを枕本 服部嵐雪
きつちり置くひとりの枕青葉木菟 河合照子
きぬぎぬにとくる菖蒲の枕かな 松瀬青々
きり〜す鳴くや雨夜の腕枕 井月の句集 井上井月
くたひれをおさめてしまう枕哉 正岡子規
くろかみを枕にのべし吹雪小屋 平畑静塔
こがらしをゆめに躱すかさし枕 郁乎
この冬を枕抱へて峠越ゆ 柿本多映
この雪は積もると二つ枕かな 星野石雀
こほろぎの声絶えだえに枕経 脇坂啓子
こほろぎは枕の闇を押し上げる 古市絵未
こゝこせは世は邯鄲の枕はし 正岡子規
ごろり寝の枕にしたる真瓜哉 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
ごろ寝するはじめ冷たき竹枕 安斉君子
さはやかに古りし二つの枕かな 小島千架子
しとれ枕寝覚ぞ嬉し子規 調子 選集「板東太郎」
しんと鳴く枕のくぼみ山ぶどう 遠山郁好
せせらぎを枕の下に昼寝覚 石井龍生
ぜんまいの強き渦見し夕枕 永島靖子
その昔枕腑分けや小豆粥 高橋睦郎
そばがらの枕や野分おとろへて 北見さとる
そばがらを足せし枕に秋立ちぬ 佐久間慧子
そぼふるや誰が枕橋春暮るゝ 春の暮 正岡子規
そろばんも枕数なり竹婦人 卯七 俳諧撰集「有磯海」
そろばんを枕の旅人春の蚤 宮武寒々 朱卓
たましひの枕してゐる烏瓜 柿本多映
ちちははと枕ならべて螢の夜 石川文子
ちちははの枕のように夕焼ける 大西泰世 世紀末の小町
つけ床や月待つ客のかり枕 調泉 選集「板東太郎」
ながき夜の枕かかへて俳諧師 飯田蛇笏 山廬集
なじみたる枕ほころび春眠し 菖蒲あや
にはとりも犬も林檎の花の中 藤田枕流
ぬれ縁に向けし枕や暑気中り 稲垣きくの 黄 瀬
ねざめよき児が透く秋の枕蚊帳 飯田蛇笏 春蘭
はつ夏の風を枕に「放浪記」 中村和代
はなれじときのふの菊の枕かな 山口素堂
はらからにへりし枕や*かやの秋 吉武月二郎句集
ひぐらしの鳴くふるさとの枕かな 中山子泉
ひときはは凩ちかきひぢ枕 三好達治
ひとつ蚊屋に僕も朝寝の枕哉 加舎白雄
ひとり寝の枕にかよへ秋の風 室生犀星
ひと夜さの枕を味方袋角 正木ゆう子 悠
ふたたびの寝酒にかへす白枕 山口草堂
ふるさとや夕顔の実を枕とし 小林鱒一
ぶりぶりやあるは添乳の枕にも 重厚
ほととぎす二児の枕の房ひそか 中村草田男「火の島」
ほととぎす聞きたる枕正しけり 瀧澤伊代次
ほととぎす通夜の枕は扇かな 青峩 五車反古
ほとゝぎす旅寝の枕低くして 相馬遷子 山国
ほとゝぎす瀬枕大きに瀧鳴つて 川崎展宏
ほどほどの未来を買へり達磨市 岡崎枕子
ぼんやりと枕を抱いて十二月 今井杏大郎
またの世の枕に束ね置く銀河 佐藤鬼房 潮海
みえてゐる枕一つや泉殿 加藤三七子
みじか夜や枕にちかき銀屏風 蕪村 夏之部 ■ 雲裡房に橋立に別る
みどり子の萌黄うるはし枕蚊屋 几董「晋明集四稿」
むつ言の枕にひゞく砧かな 尾崎紅葉
やはらかき枕へひびき秋の潮 澤木欣一
やぶ入りの枕うれしき姉妹 召波
やわらかな枕で哀れ海鳴りす 宇多喜代子
やゝひくき枕かたしく寒さかな 久保田万太郎 流寓抄
よき衣の枕邊に在り初鴉 初鴉 正岡子規
よき雨や枕もあげず稲積まむ 風蘿
よく滑る空気枕と瓜の花 永末恵子 発色
わがための寒灯なれば枕に寄せ 秋庭俊彦 果樹
わが家の池の底ひに冬久し枕める魚の動くことなし 島木赤彦
わが枕には山姥の木の葉髪 品川鈴子
ピラニアの浮枕の隣り 会談なお 伊丹公子 陶器の天使
ヘルン旧居に濃い夏 明治の机枕み 伊丹公子 メキシコ貝
一匹は枕の中に来て鳴くこおろぎ 橋本夢道 無禮なる妻抄
一夜庵午睡の枕ありにけり 比叡 野村泊月
一尺をいきなり跳びぬあめんぼう 藤田枕流
七夕の枕に貸さん子持石 七夕 正岡子規
上下とひねる枕のあつさかな 魚日 俳諧撰集「有磯海」
世は口切瓢箪空し野人が軒調 枕子 選集「板東太郎」
世を忘れ菊の枕に沈みゐる 橋田憲明
久女にはなれず薔薇咲き薔薇枕 鈴木榮子(春燈)
九十九里の海が見えゐて篭枕 勝又富美子
二人子よ夜寒の枕寄せねむり 古沢太穂 古沢太穂句集
二日にもなほ寝積まん糠枕 道彦
五月海荒れるを定めのごとく固き枕の一つ 中塚たづ子
人居ねば枕を出しぬ夏桔梗 阿部みどり女 笹鳴
人日の海蒼々と磯料理 藤田枕流
人日の肝胆沈む枕かな 宇多喜代子 象
人麿忌旅の枕を返しけり 細貝幸次郎
今朝いかに鼠かみつく枕の秋 露泊 選集「板東太郎」
仏法僧枕並べし他郷かな 菅原鬨也
何はともあれと昼寝の枕出す 島谷征良
俊寛の枕ながるる千鳥かな 飯田蛇笏 山廬集
倒れけり霜の下荻卒中風 調枕子 選集「板東太郎」
借りものの枕に汗を残し来ぬ ふけとしこ 鎌の刃
元政の枕にひびく鶉かな 蕪村
元日の枕安らかにはなれけり 青峰集 島田青峰
元日の茶筒枕になりたがる 池田澄子
兄の忌日の暑き枕を裏返す 北野民夫
兄達の枕はさくら熊野灘 夏石番矢 楽浪
充ち来たる蝿の頭脳や仮枕 耕衣
光り合ふ二つの山の茂りかな 去来「枕かけ」
児へ寝返る枕の熱き黍あらし 中拓夫 愛鷹
八千草や古墳に白き枕石 菅原多つを
六月や枕高くて怯懦なる 河野南畦 湖の森
冬瓜の枕さだむるかゝしかな 千代女
冴え冴えと手術待つ夜の白枕 毛塚静枝
凩の夜の鏡中に枕みゆく 柴田白葉女
出陣の前しかと飲みねぷた衆 藤田枕流
切実に水になりたい日の枕 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
切炭や下戸なき里の朝枕 調和 選集「板東太郎」
刈稻を枕に寐たるこじき哉 刈稲 正岡子規
刑務所も枕む冬日も汚れをり 成瀬正とし 星月夜
初ゆめの枕ならべて灯を消しぬ 上村占魚 鮎
初ゆめの枕並べて灯を消しぬ 占魚
初午や枕にひゞく大々鼓 初午 正岡子規
初夢に枕のひくきホテルかな 山口波津女 良人
初夢の子等の枕の窪みかな 上野泰 春潮
初夢の枕の上にひろがりぬ 章子
初夢の途切れし枕裏返す 吉井秀風
初夢や枕の横の幼な顔 永田耕一郎 方途
初夢を見ぬは枕の高きゆゑ 木内彰志
初枕狐の闇に眼を凝らし 星眠
初枕齢得て辻が花召して 依田明倫
初秋の枕小さき宿屋かな 初秋 正岡子規
初秋の枕小さき旅籠かな 初秋 正岡子規
初蛙ねむれぬ枕うらがへす 徳永山冬子
初音聞け春の根岸の枕売 春 正岡子規
初鴉東の方を新枕 夏目漱石
初鷄の枕の上にうたひける 初鶏 正岡子規
剃つたあたまが夜更けた枕で覚めて居る 尾崎放哉
前の世の河に捨てけり白枕 齋藤愼爾
北寂し枕の北の芹淋し 河原枇杷男 定本烏宙論
十六夜の宿の枕を均しけり 高澤良一 燕音
十六夜の母に枕を足しにけり きちせ・あや
十悪も貘に食はるゝ枕かな 柑子句集 籾山柑子
十薬の匂ひゐる雨枕経 川口水歩
卒業の頭をのせる枕かな 富樫均
去来忌や誰が頭の香して仮枕 高橋睦郎
古ぼけし枕時計や去年今年 白水郎句集 大場白水郎
古暦花も紅葉も枕紙 古暦 正岡子規
古郷や枕の上も夜の雨 小林一茶
只の夜の夢の枕や月の昼 上島鬼貫
名月や枕に匂ふ古手箱 成美
呉須淡く嘉兵衛が陶の舟枕 品川鈴子
唯置て枕の塵や時鳥 千代尼
嗚呼と言ふ枕在りけり春の暮 河原枇杷男 訶梨陀夜
囀や枕屏風の水の景 石嶌岳
囀りや枕ただしてまた眠る 鈴木良戈
四方の葦母と枕を低く寝る 北原志満子
地虫鳴く枕ひとつの夜の底に 奥村麻衣
境内に朝の箒目一位の実 藤田枕流
壁にさす小溝の刎ね竹枕 秋元不死男
夏の夜やただ邯鄲のかり枕 立圃「空礫」
夏千鳥醒めて枕の下にきく 川島彷徨子 榛の木
夏山は寝覚の枕屏風かな 宗因「境海草」
夏川や枕にひゞく山の宿 夏川 正岡子規
夏痩や枕にいたきものゝ本 夏痩 正岡子規
夏至の髪枕に置けば重さなし 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
夏草に枕の跡もとゝめ得ず 尾崎紅葉
夏風やこときれし児に枕蚊帳 飯田蛇笏 霊芝
夕べ雪降りしことのみ初日記 藤田枕流
夕皃の花に冷つく枕かな 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
夜みじかき枕に落つる山の声 臼田亞浪 定本亜浪句集
夜や更くる枕に近し川千鳥 法眼紹巴
夜をこめて東風波ひびく枕かな 飯田蛇笏 山廬集
夜を残す袖に枕に夏の露 上島鬼貫
夜光虫枕の下をただよへる 橋本榮治 越在
夜枕に雁のとびかう吹雪かな 杉田桂
夜枕の蕎麦殻すさぶ郡かな 三橋敏雄(1920-2002)
夢を見し菰きてまでも臂枕 素丸
夢想枕神ならば神郭公 黄吻 選集「板東太郎」
夢見ざる枕まつ白ほととぎす 岩永佐保
大寒の明日へきちんと枕置く 岡本眸(1928-)
大年の冷たき枕こそ幽か 宮坂静生 春の鹿
大石忌男の枕匂ひけり 梶本きくよ
天保の墓石ざらざら木の芽風 藤田枕流
天草を枕砂ふり女の昼寝 羽部洞然
妻恋の夕はねこの枕かな 井原西鶴
媼ともなりて芒の枕せむ 正木ゆう子 静かな水
嫁ケ島見えて昼寝の枕あり 木村蕪城
子の枕買はむと春の寝ね語り 殿村菟絲子 『旅雁』
子もふまず枕もふまず杜鵑 榎本其角
孤児の枕並べて夢凍る 寺田寅彦
宍道湖にのぞめる宿の蒲枕 鈴鹿野風呂 浜木綿
宝舟さざなみ打てる枕かな 渡辺恭子
宝舟御枕香ぞいや高き 黒柳召波 春泥句集
宝舟敷き寝の枕高々と 田中王城
宵もはや枕はづせし宝舟 後藤夜半 翠黛
宿かるや枕の上に秋の山 秋の山 正岡子規
宿にねて枕のひくき夜寒かな 内田百間
寄れ枕ふり海鼠(こ)になりし鼠かな 秋色 俳諧撰集玉藻集
富士洗ふ冷え引き寄せし枕かな 長谷川かな女
寒し熱しわらはやみこそ新枕 正岡子規
寒の闇旅寝の枕返しけり 池田光子
寒凪といへども枕ひびきけり 黒田杏子
寒夜さめふと枕燈(まくらび)に霧の笛 赤尾兜子
寒波くる枕に耳を押しあてて 対馬康子 純情
寝がへりの耳に枕のひやりとす 寺田寅彦
寝そびれし枕を均す春の闇 塙 きく
寝つかれぬ枕となるや子規 経長 選集「板東太郎」
寝て聞く花火低くて固き宿枕 米沢吾亦紅 童顔
寝るより枕かたむく初霰 齋藤玄 飛雪
寝冷子の抱へし枕大きかり 金田咲子(白露)
寝返つて枕を水とおもひけり 加藤拝星子
寝返りし枕つめたく身ひとつを 鷲谷七菜子 黄 炎
寝飽きたる風邪の枕を裏がへす 榎本冬一郎 眼光
対岸の花を肴に枕流亭 高澤良一 宿好
専用の枕をもちて青山河 和田悟朗
小びらきに枕屏風や雪催ひ 柴田白葉女
小坊主の木魚枕に昼寝かな 中川 富女
小夜千鳥かなしきものに枕かな 龍岡晋
小百足を摶つたる朱の枕かな 日野草城
居待月起きて守らん枕挽(ひき) 大津尼-智月 俳諧撰集「藤の実」
屍と枕を並べる冬座敷 石原八束
屍に枕あたへ泣く母秋暮れて 岡部六弥太
屠蘇の香や枕にうらむ薬紙 支考
山々を枕に敷きぬ三布蒲団 芥川龍之介
山中の秋めくものに枕かな 大木あまり 火のいろに
山洗う冷えひきよせし枕かな 長谷川かな女
岳人の岩を枕に大昼寝 荒川文雄 『銀河』
島踊旅の枕にひゞき来る 鈴鹿野風呂 浜木綿
川荒るる日や簗守の仮枕 下田稔
師の枕霜夜の富士へやゝ遠し 佐野青陽人 天の川
座布団をいまは枕に兼好忌 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
座布団を折りて枕や月の秋 依光陽子
座布団を折りて枕や業平忌 上野一孝「萬里」
座布団を枕に父の日なりけり 名護靖弘(航標)
庵主や肱を枕に夜短か 清原枴童 枴童句集
引き寄せる二度寝の枕黍嵐 佐藤のぶ女
当てゝみる菊の枕の匂ひかな 松藤夏山 夏山句集
待つ程や趣向の枕今宵の月 丸之 選集「板東太郎」
御乳(おち)の人添ひ寝ややさし枕がや 千春妻-綾戸 俳諧撰集玉藻集
御家門や偃蓋(えんがい)の松国の春 調枕子 選集「板東太郎」
御枕赤きに涅槃し給へる 吉井莫生
志ん朝の逝きたる紫苑日和かな 藤田枕流
忽然と空のあをさよさくら餅 藤田枕流
急な帰省戸締りしっかり枕並べて しまかわひとし
息自く訪うて雑魚寝の歌枕 萩原麦草 麦嵐
患者皆南枕に月を浴ぶ 染谷十蒙
悲運にも似たり林檎を枕とし 安東次男 裏山
我病んで鶯を待つ西枕 鶯 正岡子規
手が足が勝手に動き雪を掻く 藤田枕流
打返す枕に虫の遠音かな 井上井月
押入れに使はぬ枕さくらの夜 桂信子 草樹
播磨枕夢路の尾上桜もかな 調鶴 選集「板東太郎」
播磨路のはやばやと冷ゆ枕あり 小泉八重子
故郷の虫の浄土に枕並べ 成宮紫水
数へ唄枕の中まで紅葉して 齋藤愼爾
敷妙の古き枕や宝船 高橋淡路女 梶の葉
敷妙の枕紙なり宝船 井月の句集 井上井月
新しき枕眠れず虎落笛 星野椿
新米十キロ枕のやうに届きたる 須川洋子
旅にして蕎麦殻枕太宰の忌 吉村正「鶴髪」
旅人に枕がかたし河鹿鳴く 原子公平
旅籠屋の数多枕や秋夕 妻木 松瀬青々
日に一度日当たる枕黄落す 柿本多映
日月を枕に欲しき花野かな 小川原嘘師
日輪のたらたら枕む枯野かな 成瀬正とし 星月夜
旧端午探りの宿り歌枕 長谷川 裕
明け易き枕邊の蟻潰しけり 内田百間
明易き枕本尊ありにけり 尾崎迷堂 孤輪
明時の海を枕のさいたづま 岡田美佐枝
春の夜の三味線箱を枕かな 春の夜 正岡子規
春の夜の夢の涙や枕紙 蘇山人俳句集 羅蘇山人
春の夜の枕にしたり酒の反吐 尾崎紅葉
春の夜の枕にゆるき鼓かな 春の夜 正岡子規
春の夜の枕嗅ぐやら目が腫れた 上島鬼貫
春の暮かりねの枕はつれけり 雪居
春仏石棺の朱に枕しぬ 飯田蛇笏 春蘭
春宵の枕行燈灯を忘る 飯田蛇笏 霊芝
春愁や派手いとへども枕房 飯田蛇笏 山廬集
春愁や稽古鼓を仮枕 松本たかし(1906-56)
春暁の夢は枕に封じ込む ふけとしこ 鎌の刃
春暁の旅の寝あさき枕かな 稲垣きくの 黄 瀬
春暁の枕いでゆく櫓音かな 佐々木 咲
春暁の船にだにある枕かな 飯田蛇笏 山廬集
春深し耳あてて寝る仮枕 宮武寒々 朱卓
春灯の句を書きとむる枕に顎 加倉井秋を
春眠のつむりを載せし羽根枕 佐藤和枝
春眠の低き枕と思ひつゝ 星野椿
春眠の枕にならぬ電子辞書 藤井 豊
春眠の枕大きく婚期過ぐ 菖蒲あや 路 地
春眠やそば殻こぼれゐる枕 一杉
春眠や旅の枕に水ながる 原田豊子
春眠や枕ほとりの落し櫛 高橋淡路女 梶の葉
春眠を我れに恵みし枕かな 高木晴子 晴居
春雨や心のまゝのひじ枕 井上井月
春雨や枕くづるる謡ひ本 支考
春雨を枕に耳をあてて聞く 京極杞陽 くくたち下巻
春雪の悪霊乗りし夜の枕 小林康治 玄霜
春風や侍町の枕売 春風 正岡子規
昼すぎの枕はたけば草蜉蝣 永末恵子 発色
昼の鳶高きに賢治記念館 藤田枕流
昼を寝て枕の固き西東忌 田中荒砂
昼寝せしあとの枕につまづきて 石倉啓補
昼過ぎてより秋霖と諾へり 藤田枕流
昼過ぎの枕はたけば草蜉蝣 永末恵子
時は彌生ひさご枕に鼾かな 竹冷句鈔 角田竹冷
時鳥通夜の枕は扇かな 青蛾
晴天枕に彼も宇宙飛行士のほほえみ 金子兜太
暖や寐足りし枕はなれ時 渡辺波空
暮の秋枕にかよふ草活けて 矢島渚男 船のやうに
曲て寝る枕も痩て老の秋 横井也有 蘿葉集
月落ちて枕にひゞく砧かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
月雪もふるき枕にとし暮れぬ 杉風
朝の日の障子にとゞく枕かな 上村占魚 鮎
朝の間や蚤に寐ぬ夜の假枕 井上井月
朝火事の寺町小町革枕 攝津幸彦 鹿々集
朧夜のときに枕と入れ替はる 齋藤愼爾
木の枕して棟梁の昼寝かな 新井淳子
木犀に一睡ほりす枕かな 河野静雲 閻魔
末枯の近江に枕重ねつつ 柿本多映
東山と枕並ぶる午睡かな 大谷句佛 我は我
松籟のやまとうるはし篭枕 山元志津香
枕あぐれば春雪に塔きはだちて 龍胆 長谷川かな女
枕あるところに帰る草紅葉 中尾寿美子
枕かへし冬濤の音ひきよせる 橋本多佳子
枕から外れて秋の頭あり 橋石
枕から真葛ヶ原へゆるき坂 富田敏子
枕ずれゐて春眠のさめやらず 下阪淑峰
枕とは知恵わくかたち百千鳥 西川文子
枕ともならで茎石となりにけり 小杉余子 余子句選
枕にす俳句分類の秋の集 秋 正岡子規
枕にもならふものなり春の水 無腸
枕にもなれよ旅寐の春の鹿 松岡青蘿
枕に手置いてはるかや初昔 鷲谷七菜子
枕のあたりの軽い空気の彩を塗る 村田治男
枕の下雁木にこもる下駄の音 星野潔子
枕の暮声はあかるし子規 西勝 選集「板東太郎」
枕ひとつの流れの中に夜を迎える 林田紀音夫
枕へと朧を通ひつめにけり 杉野一博
枕まで海の暁紅鴨の声 百合山羽公 寒雁
枕まで海の来てゐる桜桃忌 岡節子
枕もわれもめざめがちなる草の露 中尾寿美子
枕より低く墓山は桜山 齋藤愼爾
枕より離れる身丈蕨飯 桂信子
枕をすればにはかにも春の夜 角光雄
枕二つ金魚にとほく並べられ 太田鴻村 穂国
枕低く母が病み澄む蚊帳かな 小林康治 四季貧窮
枕出せ裏屋にまはる秋の雲 内藤丈草
枕団子を月光の離れゆく 中戸川朝人 星辰
枕均して雪積む音を聞いてをり 林菊枝
枕外す癖もなほりぬ宿さがり 高田蝶衣
枕屏風花鳥の裏の何もなき 高橋淡路女 梶の葉
枕木は石を枕に陽炎へり 山口 速
枕灯消し牡丹の香に眠る 橋本真砂子
枕立て狐の声を恋ひわたる 後藤綾子
枕継ぐ若女房やふぐと汁 和石 選集「板東太郎」
枕膝に肱にせむ哉月ひと夜 加舎白雄
枕蚊帳に通ふ風あり針仕事 青峰集 島田青峰
枕邊に明けかゝる夜や嫁か君 嫁が君 正岡子規
枕邊のものゝ形や初明り 鈴木洋々子
枕香の梅をみよとの旅路かな 炭 太祇 太祇句選後篇
果もなく長き枕を春の闇 山本紫黄
枯山を見るに枕を高くせり 橋間石
枯葉の音枕の中に吹き溜る 中尾壽美子
枯蓮や枕に枕よりそへる 大野朱香
栗落つる枕も青き月夜哉 会津八一
栗飯や木曽の小石を箸枕 山崎竹堂
桃さくや李白は樽を枕にて 桃の花 正岡子規
梁もひくき枕も年の暮 清水基吉 寒蕭々
梨花の冷え手術の足の白枕 中戸川朝人 残心
棒に寝て田植衆らが畦枕 石塚友二
橋こせは世は邯鄲の枕かな 正岡子規
橘や枕草紙のうろ覚え 保吉
歌枕勿来にあそび雪ばんば 菊地一雄
歌枕卯月曇に松ななめ 木村蕪城
歌枕多くて港町日永 菅原玲子
歌枕色なき風と訪ふことに 山崎房子
武蔵野の丘を庭とす作り滝 小路紫峡「石の枕」
母の持てくれし枕に昼寝せり 冨田みのる
母の日の大きな枕買つてひとり 舘岡沙緻
母よりは祖母の匂ひの篭枕 島田恒夫
母好む東枕に梅ほころぶ 川村紫陽
水に嗽ぎ湯に枕して紅葉かな 河東碧梧桐
水音の枕に落つる寒さ哉 寒さ 正岡子規
水鳥の眠りにまじる白枕 藤井孝子
水鳥の羽の刺さりし萱枕 大石悦子 百花
汗拭きてふたたび寝落つ羽根枕 稲垣きくの 黄 瀬
汝が声の枕をめぐる寒夜かな 久保田万太郎 流寓抄
江南の冬瓜枕よりも大 森田峠 逆瀬川
沈丁や宵曙のひぢ枕 十黄第一句集 小田島十黄
河鹿笛枕に旅の耳二つ 小笠原和男「方寸」
河鹿聴きぬる湯湯ぶちに木の枕 岡田日郎
泊り山枕の寒き木根かな 蘆白
波音に寒夜枕を深く当つ 井上雪
波音のいつか遠のく篭枕 上 慶子
泣き貌を埋むる枕遠蛙 文挟夫佐恵 黄 瀬
流れよる枕わびしや秋出水 武原はん女
浅学の枕つらぬく鉦叩 岡澤康司
浮寝鳥うすき枕をうら返す 木村虹雨
海山の枕かへしやはつ寝覚 梅室
海汝れを枕ける雁の死ひんがしへ 米元元作
涅槃像いばんや人間絹枕 安昌 選集「板東太郎」
涙涸れ枕に伏して寒更くる 阿部みどり女
涼しさや夢もぬけ行く篭枕 乙 由
淡雪のように枕に沈みゆく 宇田喜代子
添水成て丈山枕変られたり 嘯山
渡りゆけは世は邯鄲や枕はし 正岡子規
渡り鳥船の枕に日の匂い 相原左義長
渡鳥船の枕に陽の匂い 相原左義長
澎湃と除夜の枕にひゞくもの 京極杜藻
火の枕はずして眠るとき逢える 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
火事消えて行燈消して夜の枕 柑子句集 籾山柑子
灯を消して枕に虫や耳鳴りや 渡辺七三郎
炉ふさいで炉を枕とす亡犀星(昭和三十七年三月二十六日犀星詩人逝く、室生家にて) 石原八束 『空の渚』
無間への浮枕の昼寝かいくぐり 赤松[けい]子 白毫
熟睡せり梅雨禽声に枕して 堀口星眠 営巣期
燈籠の暗き畳に枕かな 雑草 長谷川零餘子
父の匂いの冬波が棲む蕎麦枕 宮川としを
父よりも子の靴大き雪解風 藤田枕流
爽やかに投げる枕を受けて寝る 秋元不死男
片づけし部屋に昼寝の枕置く 波多野爽波 鋪道の花
牛蛙安眠枕の貸し出し日 古川塔子
狐火見て梅雨の枕の青臭し 殿村莵絲子 牡 丹
独り居の夢に尾のあり初枕 百間
独り蚊帳の裾から枕をいれる シヤツと雑草 栗林一石路
生路幽か枕のもとに蝶が舞ふ 成田千空 地霊
産み了へし蜻蛉水の枕して 矢島渚男 延年
畦塗りし脛のほてりに足枕 太田土男
病める子の枕に廻り燈籠かな 雑草 長谷川零餘子
病よし菖蒲枕をするほどに 上村占魚 球磨
病人の枕ならべて五月雨 五月雨 正岡子規
病枕地吹雪ときに火の音して 寺田京子
白妙の菊の枕をぬひ上げし 杉田久女(1890-1946)
白枕いづこに置くも雁のこゑ 齋藤愼爾
白梅や枕をつつむ裘 会津八一
白髪抜く枕の下やきりぎりす 芭蕉
相思ふ枕の下や宝船 妻木 松瀬青々
眺めを振つてごらん求婚は枕花とされたり 加藤郁乎
短夜のみ枕北にわが父たり 岸風三楼 往来
短夜の叩いて均す宿枕 増田みよ子
短夜の枕にひびく鉄鎖 佐藤鬼房 「何處へ」以降
短夜や枕にちかき銀屏風 蕪村「蕪村句集」
短夜や枕の下に壇の浦 百合山羽公
石 を 枕 に 雲 の ゆ く へ を 山頭火
磯枕涼しといふもおろか也 尾崎紅葉
神無月枕かかへて漂へり 中尾寿美子
祭の町嶺の雨霧きて枕む 千代田葛彦 旅人木
秋の風枕の塵もとめあへず 飯田蛇笏 山廬集
秋女酔ひ伏す枕抱きしめて 飯田蛇笏 山廬集
秋来にけり耳をたづねて枕の風 芭蕉
秋涼のしみじみ己が蕎麦枕 つじ加代子
秋深きもののうちなる枕かな 矢田喜堂
秋草山に枕を押し着る刀があり 安井浩司 汝と我
秋蚊帳の枕に通ひ噎ぶ潮 石塚友二 光塵
秋風の枕をときに顎の下 岩淵喜代子 硝子の仲間
秋風や窓に枕に須磨の巻 上島鬼貫
稲刈つて海の際まで平らにす 藤田枕流
稲雀風をくゞりて枕みけり 松藤夏山 夏山句集
積み上げて林檎うれしや枕下 会津八一
空漠を用いて白し夏枕 永田耕衣 葱室
竈馬来て独りの枕渡り過ぐ 小坂順子
立冬や父の枕の重かりき 片山由美子 風待月
竜胆の夜風枕に眠るかな 中西美華穂
端渓といふも怪しき初硯 藤田枕流
竹の花うなづきゆけば白枕 夏石番矢
笹のはに枕付てやほしむかヘ 榎本其角
笹の葉に枕付けてやほしむかへ 其角
篭枕こころに高嶺ありし日や 鷲谷七菜子
篭枕軽き頭をのせにけり 天河真佐子
簔張や枕にひびく五月雨 立独 選集「板東太郎」
籾の香の枕にとほし源義の忌 伊藤三十四
紅葉して山の脈うつ枕かな 正木ゆう子
紙枕がわがわと鳴る坊夜寒 向野楠葉
置きどころ枕の下の秋団扇 下田稔
羽根二つ飾るがごとくおく枕 山口青邨
羽根枕抱いてこの町よそよそし 橋本七尾子
羽根枕破れて低き讃美歌よ 攝津幸彦
老いぼれて菊より萱の枕よし 後藤綾子
老はみな居眠る駅舎の 枕んだ平和 伊丹公子 メキシコ貝
耳底に蝉はまだ啼く枕かな 蓼太「蓼太句集二編」
聖夜寝る機席に小さき羽根枕 橋本美代子
聞法の襖外して大根焚 坂田流枕
肘をわけて枕炭には冬もなし 吟松 選集「板東太郎」
肘曲げて初東雲に枕せり 五島高資
胸枕して麦わらの籠ぼたる 嶋田麻紀
脇息を枕に寝たり余花の宿 岡本松浜 白菊
腹ばひて枕を胸にうめもどき 御木正禅
膝枕哉物の音の喜春楽 言水
臂枕われ水よりも麥湯かな 会津八一
舟虫に仮寝の枕かへしけり 山本梅史「ホ誌雑詠選集」
舷を枕に月の舟遊び 矢野奇遇
船に寐て行李を枕の夜寒哉 夜寒 正岡子規
船室の枕ちひさし雁帰る 奥坂まや
船酔ひの残りし枕祭笛 稲垣きくの 牡 丹
良雄忌や肘にもどりし膝枕 鷹羽狩行
色鳥や枕はづして父病めり 小川千賀
芍薬や枕の下の銭減りゆく 石田波郷「惜命」
芝に寝ば此の風呂敷や枕蚊屋 服部嵐雪
芭蕉忌の枕が鳴るや仮の宿 耕衣
花ぐもり高き枕をけふ厭ふ 山田 文男
花は四方科人(とがびと)多し武門の暮 調枕子 選集「板東太郎」
花冷えのもののひとつに枕かな 赤尾冨美子
花冷えや沙翁全集函の中 藤田枕流
花冷のその身を硬く箸枕 源鬼彦
花枕して黒揚羽横たはる 上野泰 佐介
花栗に枕みて大き藁屋なり 三宅句生
花楝谷風騒ぐとき匂ふ 小路紫峡「石の枕」
茂吉忌の枕の寒くありにけり 増成栗人
茶のたてや蚊ふすべによるかり枕 含粘 俳諧撰集「藤の実」
茶の匂ふ枕も出来て師走かな 河東碧梧桐
草刈つて枕に遠しきりきりす 蟋蟀 正岡子規
荷(か)たれて母にそふ鴨の枕蚊帳 山口素堂
荻吹くやかしこの山も歌枕 石橋秀野
菊慈童の思ひに菊の枕かな 青木月斗
菖蒲太刀枕に敷ける旅寝かな 橋本珠見「雛の部屋」
萍の中を進みて白枕 桂信子
萎れたるつまくれなゐの枕花 吉武月二郎句集
萩咲くやかしこの山の歌枕 『定本石橋秀野句文集』
萬歳の鼓を倒す枕かな 万歳 正岡子規
落鱸枕の裏のひんやりと 宮坂静生 春の鹿
葉がくれの枕さがせよ瓜ばたけ 蕪村 夏之部 ■ みちのくの吾友に草扉をたゝかれて
蓬髪の枕にもつれ夜ぞ長き 高濱年尾
蕎麦殻の枕かへせば夜の秋 木附沢麦青
蕎麦殻の枕二つや敬老日 富田潮児
蕎麦殻をかへて枕や翁の忌 森澄雄 空艪
蕎麦殻を枕につめる夜寒哉 寺田寅彦
蕎麦殻を枕に足すもそぞろ寒 土生重次
蕎麦粕の枕の音の寒さかな 角上 極 月 月別句集「韻塞」
薔薇枕つくる横顔見せゐたり 加藤三七子
薪割の枕出でたる雪間かな 茨木和生 往馬
薪割りの枕がとんで雪催 鷹羽狩行
薬のむさらでも霜の枕かな 芭蕉
薬掘るふもとは恋の歌枕 津森延世
薬飲むさらでも霜の枕かな 松尾芭蕉
藪医師や鴬啼いて捨枕 調古 選集「板東太郎」
藺枕の置き処を決めぬ吾なりに 高澤良一 寒暑
藺枕をひょいとつまみて頭(かしら)に当て 高澤良一 寒暑
藺枕を投げ出すそこが仮寝所 高澤良一 寒暑
藺枕を頭に馴らす身を揺すり 高澤良一 寒暑
虫しぐれ枕につけばありにけり 徳永夏川女
虫の声低き枕を選びけり 水谷芳子
虫声の海が枕を引きに来る 川崎展宏
虫干の中に児ねる枕蚊屋 浪代「甲戌集」
蚊の居らぬ月見て沖の楫枕 蚊 正岡子規
蚊を打つや枕にしたる本のかさ 其角
蚊一ッの一日さはぐ枕哉 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
蚊喰鳥この緋枕のみる夢は 後藤綾子
蚊遣の火枕ともしを消せばあり 下田実花
蚤とばす枕銭より集金す 下田稔
蛇皮線と籠の枕とあるばかり 篠原鳳作
蛸枕の棘に刺さるる磯遊び 上原瑞子 『燈台草』
蝉しぐれ遺書は枕の下にあり 中嶋秀子
蝗捕り枕のやうな袋持ち 小林宏基
蝶追ふや朝寝の枕ふり上げて 雑草 長谷川零餘子
螢を見てねむる夜の一つの枕 中塚一碧樓
螳螂の石を枕にはてにける 蟷螂 正岡子規
行く秋や油かわきし枕紙 行く秋 正岡子規
行けば在る吹雪の佐渡や堅枕 池田澄子
表裏なき枕蛙の目借時 長谷川久々子
覚めてまた今日ある枕屏風かな 中山碧城
覚めてよりなほ春眠の羽根枕 向笠千鶴子
覚めて春夢泪ぞ沁める枕あり 石塚友二 光塵
角伐らる鹿に小さき枕あり 桂 信子
角切の小さき枕を草の上 小野淳子
誰はやい枕あはせに郭公 昌夏 選集「板東太郎」
貘枕子のよき夢をつゆ知らず 赤尾兜子
貧乏の壁に枕や水中り 森川暁水 黴
贈呈の菊の枕の菊を摘む 打出 たけを
赤まんま空地に捨てゝある枕 秋元不死男
軒つばめお紺の枕灯し見る 宮武寒々 朱卓
返り咲く海棠一枝枕花 黒田杏子 花下草上
過去ばかり犇めく枕夏の風邪 佐藤みさを(たかんな)
遠鹿や枕にちかき山おろし 几董
避暑の子や白き枕を一つづつ 岸本尚毅(屋根)
邯鄲につかれ忘れる枕かな 虫の声 正岡子規
邯鄲の宿のそば殻枕かな 荒井正隆
邯鄲の枕かゝへて二日灸 妻木 松瀬青々
邯鄲を聞くそばがらの枕かな 川崎展宏
酔ざめの枕に低し初蛙 紫暁
酔ふて後枕にすこの瓢かな 乙字俳句集 大須賀乙字
里の子や麦藁笛の青葉山 才麿「誹枕」
野紺菊狐に枕縫うてやろ 大石悦子
金婚のあとを自若の篭枕 鈴木良戈
釣魚大全枕にしたり三尺寝 山口青邨
銀河濃し枕に頬を埋め寝る 星野立子
長き夜の頭をきらふ枕かな 桑原三郎
長き夜を重ね〜し枕かな 高浜虚子
長持に父母の枕の棲む野分 島みえ
闇凍てて枕時計の夜光浮く 瀬野美和子 『毛馬堤』
闇涼し灯影ちらつく枕ばし 涼し 正岡子規
降りつのる枕はなさず芭蕉林 田中裕明 花間一壺
雁の声いくたび枕かへしても ほんだゆき
雁の夜の枕の上の頭かな 柿本多映
雛の間に足にも枕あてゝ病む 国弘賢治
雛市に誰もゐなくて落着かず 藤田枕流
雨月かな河原に枕近すぎし 鳴戸奈菜
雨聞いて枕につきぬ花の宿 清原枴童 枴童句集
雨脚の見えて明るき桜桃忌 藤田枕流(草苑)
雪のこゑ低き枕に眠りけり 雨宮きぬよ
雪の夜を当つる枕は白鳥か 三橋敏雄 畳の上
雪国の闇に置きたる枕かな 黒田杏子 水の扉
雪女郎枕の中を通りけり 鷹羽狩行 平遠
雪林の静謐をこそ除夜枕 千代田葛彦
雲水の笠に墨痕雲の峰 藤田枕流「雪解風」
霜の夜へ並ぶ枕のしろさかな 谷口桂子
霰ちれくゝり枕を負ふ子ども 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
露の夜に黍殻枕軋み寝る 百合山羽公 寒雁
露の夜の枕三つや相寄せて 岸風三樓
露霜に軽し雀の笹枕 樗堂
青柳も日覆と成やぬり枕 井上井月
青草に西瓜枕す西瓜売 寺田寅彦
青葉木莵枕の凹み直して寝る 岡松久子
音立てゝ枕の下を秋の水 中西月龍
預かり金を枕の下に大暑来る 平井さち子 紅き栞
顔押し当つる枕の中も銀河かな 三橋敏雄 巡禮
風吹て枕はつれし昼寝哉 昼寝 正岡子規
風邪に臥すや枕に近き手水鉢 雑草 長谷川零餘子
風邪の妻男枕をしてをりぬ 山口波津女 良人
風鈴や暑き枕を裏返す 田川飛旅子 花文字
風鈴や枕に伏してしくしく涕く 鈴木しづ子
飯籠の次第に枕む泉かな 比叡 野村泊月
飯蛸や内浦かけて歌枕 辻田克巳
高塀を越ゆるつもりの蝸牛 藤田枕流
高遠の宿の花冷え枕かな 能村登四郎
髪こはして枕に沈む寝冷かな 阿部みどり女 笹鳴
髪埋めてひとりに余る羽根枕 辻美奈子
鮓に成る間を配る枕哉 一茶 ■文政八年乙酉(六十三歳)
鰹千本枕ならべて朝糶に 北野民夫
鳥雲に一升瓶の枕かな 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
鶏頭の昼をうつすやぬり枕 内藤丈草
鶯や枕に遠き籠の音 会津八一
麦の秋はそびれて固い枕を寄す 松本赫男
麦藁を枕に瓜の昼寐かな 赤木格堂
黒き枕ひとつ干しあり利休の忌 小檜山繁子
●手枕
かりそめの御手枕の寝釈迦かな 高橋淡路女 淡路女百句
ひとり見るわが手枕や走馬燈 高橋淡路女 梶の葉
仮の寝に返す手枕水鶏鳴く 嶋田麻紀
六月の花魁島を手枕に 大森知子
夜は君が手枕の手を田植かな 松岡青蘿
夢をみるための手枕春隣 信濃小雪
大正の手枕頬杖蚤の市 攝津幸彦 鹿々集
子の頬杖父の手枕うまごやし 鷹羽狩行
宇治川の風手枕に鵜舟待つ 北見さとる
手枕に畳目の痕蝉しぐれ 田中みち代
手枕に身を愛す也おぼろ月 蕪村
手枕に隠岐の二タ夜の流れ星 中戸川朝人 尋声
手枕のあと高枕敬老日 鳥居おさむ
手枕のしびれて熱し花ざくろ 櫛原希伊子
手枕のしびれて覚めてしんと夜長 篠原梵
手枕のそばの無月の筆硯 阿波野青畝
手枕の一閑張やほととぎす 会津八一
手枕の人うつくしき蚕棚哉 妻木 松瀬青々
手枕の兒にちからなき團扇かな 井上井月
手枕の夢にふりこむ霰かな 二葉亭四迷
手枕の彼方の闇の鉦叩 矢村三生
手枕の爪美しき寝釈迦かな 稲荷島人
手枕の猫の出てゆく冬ぬくし 木岡陽子
手枕の肘よりきこえ宵の虫 井沢正江 以後
手枕の脈のとくとく秋といふ 吉田紫乃
手枕の腕三角に秋の風 近藤一鴻
手枕やボンの凹よりとぶ螢 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
手枕や小豆洗ひを聞きとめて 阿波野青畝
手枕や日は落ちなむと新松子 齋藤玄 飛雪
手枕や日脚伸びたる越のくに 角川照子
手枕や月の布目のかやの中 園女 俳諧撰集玉藻集
手枕や蝶は毎日来てくれる 小林一茶
手枕を解いて藺枕引きよせて 森信坤者
春の夜の妹が手枕更けにけり 春の夜 正岡子規
梅雨晴れや手枕の骨鳴るままに 横光利一「横光利一全句集」
楓の芽紅するどしや手枕に 石田波郷
蝦夷の裔(すゑ)にて手枕に魚となりたる 中村苑子
蝦夷の裔にて手枕に魚となりたる 中村苑子
誰れ待つとなき手枕や宵の春 沢田はぎ女
足枕手枕鹿のむつまじや 一茶
鈴虫や孫に手枕かしてやり 斎藤 みつ子
雷落ちて手枕はづす僧のあり 藤原如水
青嵐手枕熱く目覚めたる 岡本眸
●木枕
あたたかし石に木枕石枕 中戸川朝人 星辰
さはるもの蒲団木枕皆あつし 暑 正岡子規
喰過ぎたり松の木枕とても雪 露言 選集「板東太郎」
木枕にしら髪なづむ夜寒かな 星布尼
木枕にわれ目の見ゆる土用哉 土用 正岡子規
木枕に惟然泣く夜の長さ哉 夜長 正岡子規
木枕に母の残り香土用東風 西川みさを(南風)
木枕に耳のさはりて暑き也 炭 太祇 太祇句選後篇
木枕に鼻紙あつる夜寒かな 伊賀-風麦 俳諧撰集「有磯海」
木枕のあかや伊吹にのこる雪 内藤丈草
木枕のうるしに負けし暑さかな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
木枕の垢や伊吹に残る雪 内藤丈草(1662-1704)
木枕の真中の凹み雪をんな 後藤綾子
木枕を寺にかり寝の十夜哉 妻木 松瀬青々
海女小屋の木枕にある秋西日 綾部仁喜 樸簡
濡れ髪を木枕に海女横たはる 関口祥子
茶摘唄木枕に聞く湯治客 穐好樹菟男
●枕辺 枕べ
あけぼのや枕辺に散る羽後ざくら 黒田杏子 花下草上
おさなごの枕辺たのし百日紅 桐井玉枝
つひにたうべず逝きしままの林檎枕辺 シヤツと雑草 栗林一石路
ひとり寝の枕辺に佇つ冬の王 大木孝子
ものゝけの枕辺去らず稲光 寺田寅彦
ゐなかで売るものを枕辺に病んでゐた シヤツと雑草 栗林一石路
三人の子より中元枕辺に 池上樵人
亡き母の枕辺に年尾句碑の梅 坊城中子
体温計の赤線をおそれ枕辺 シヤツと雑草 栗林一石路
佳き睡り餅の白さを枕辺に 岡本眸
子が鬩ぐ枕辺の餅一と筵 小林康治 玄霜
寝る時の枕辺に匂ひ袋かな 安藤橡面坊
年を越す父の薬の枕辺に 岡本高明
恋ふといふしづけき思念、枕べに夜もすがらなるこほろぎのこゑ 成瀬有
懐中電灯枕辺に置く震災日 高澤良一 素抱
我鬼忌はや羽あをき虫枕べに 石川桂郎「含羞」
旅一夜蜜柑の花を枕辺に 山口誓子
明易し嵯峨竹霊を枕辺に 堀口星眠 樹の雫
春愁や枕辺せめて花満たし 高橋淑子
暁ひぐらし枕辺に風たたすなり 黄川田美千穂 『貝むらさき』
月待つや早寝の母の枕辺に ミュラー初子
枕べに蝌蚪やすみなき手術以後 石田波郷
枕べのさかづきなめるいとどかな 室生犀星 犀星発句集
枕べの一夜の共寝草ひばり 石川桂郎 高蘆
枕べの花はむらさきみじかよの 林原耒井 蜩
枕辺にともしび燃ゆる蒲団かな 西島麦南 人音
枕辺にゆれ落葉松の影晩夏 堀口星眠 営巣期
枕辺によせある杖や老の秋 吉武月二郎句集
枕辺に今日は萩咲く話など 岡崎莉花女
枕辺に医学書増ゆる熱帯夜 中野るみ子
枕辺に句帳を置いて春の風邪 下田実花
枕辺に団扇やりきれなき夜明け 高澤良一 寒暑
枕辺に夜の水賜る蟲襖 斎藤玄
枕辺に捜神記など春の微雨 穴井太 原郷樹林
枕辺に散らかりしもの去年今年 猿渡藜子
枕辺に櫛ならべ寝る虫しぐれ 宮武寒々 朱卓
枕辺に眼鏡を外す夜寒かな 誓子
枕辺に花こんこんと降るは夢 高澤良一 寒暑
枕辺に苺咲かせてみごもりぬ 篠原鳳作 海の旅
枕辺に蟻這ふとみてまどろみぬ 原田種茅 径
枕辺に衣をたたむ露の山 藺草慶子
枕辺に財布よせたる風邪かな 吉武月二郎句集
枕辺に賀状東西南北より 草城
枕辺に這ふ山蟻や簟 赤木格堂
枕辺に鈴蘭手術前夜なり 品川鈴子
枕辺に青黄のみかんまどろめり 角川源義『西行の日』以後
枕辺に魚龍百頭梅雨滂沱 高野ムツオ 雲雀の血
枕辺のものゝ形や初明り 鈴木洋々子
枕辺の春の灯は妻が消しぬ 日野草城
枕辺の櫛をさぐりぬ春の闇 今井つる女
枕辺の障子しめけり秋の蚊帳 高橋淡路女 梶の葉
枕辺の鞄に匂ふ夏蜜柑 遠藤志津香
枕辺へ賀状東西南北より 日野草城
枕辺や星別れんとする晨 夏目漱石 明治二十九年
桃の花わが枕辺に挿してより葉の萌えいづるあはれなりけり 半田良平
桔梗や深き眠りの枕辺に 脇坂啓子
死顔の母の枕辺を起ちさて人寄せの事 栗林一石路
水鳥の枕辺近き湯宿かな 杉原竹女
河童忌はや羽あをき虫枕べに 石川桂郎
猫あまゆ人の生死の枕辺に 赤尾山稜
瓦茸新茶の筒と枕べに 石川桂郎 四温
病みつつも更待月を枕辺に 村上白浪
病みて臥す子の枕辺に雪兎 薦田伸子
秋灯よのつねならぬ枕辺に 三島由紀夫
草ひばり鳴くか鳴かぬか枕辺に 手塚美佐 昔の香
草蜉蝣枕辺の灯に逆らひし 大場美夜子
虎つぐみ滅びの歌を枕辺に 堀口星眠 営巣期
蚊の姥を泊めてひと夜の枕辺は 手塚美佐
豆撒きし枕べのまま寝ぬるべし 皆吉爽雨 泉声
起きもならぬわが枕辺や菊を待つ 夏目漱石 明治四十三年
金鵄勲章虫鳴く通夜の枕辺に 亀井しげ子
霜柱枕辺ちかく立ちて覚む 山口誓子
風車臨終の母の枕辺に 八重樫弘志
風邪の子の枕辺にゐてものがたり 日野草城
體温計の赤線をおそれ枕辺 栗林一石路
●籠枕
ありし人そこにあらざり籠枕 長谷川櫂 虚空
からつぽの頭を載せて籠枕 田辺レイ
きり〜す啼せて寝たし籠枕 支考
けぶりつつ来る波がしら籠枕 中拓夫
するすると涙走りぬ籠枕 松本たかし「石魂」
そこにあり見ればさびしき籠枕 森澄雄
たはむれに枕く籠枕髪噛みぬ 大石悦子 聞香
ちちははの遺影の下の籠枕 下田稔
はかなさが骨身にこたへ籠枕 長谷川櫂 虚空
ふる里や母の匂ひの籠枕 亀井すみ子
まろび寝や羅かゝる籠枕 雑草 長谷川零餘子
みちのくの夜の耳聡し籠枕 松村富雄「花の内」
もちあるく葉月なか日の籠枕 松崎豊
よき夢と覚えゐるのみ籠枕 片山由美子 水精
われ思はざるときも我あり籠枕 三橋敏雄(1920-2002)
をりをりの風が救ひや籠枕 高澤良一 随笑
デジタルの時流に乗らず籠枕 坂上香菜(苑)
プーシュキンの生れし日にして籠枕 近藤晴彦
一身のま直ぐに眼ざめ籠枕 皆吉爽雨 泉声
世を一度捨てし身守りて籠枕 村越化石
九十九里の海が見えゐて篭枕 勝又富美子
二三行読めばうとうと籠枕 酒井素女
亡き母の寝息聞こゆる籠枕 大西一冬
亡き祖母のこゑほろほろと籠枕 古賀まり子
人の世の見るべきは見つ籠枕 長谷川櫂 虚空
今もなほ昭和が好きで籠枕 池田琴線女(うぐいす)
何ひとつ遺さぬ父の籠枕 亀田虎童子
何もかも夢も抜けたり籠枕 森澄雄「虚心」
俳諧は業余のすさび籠枕 長谷川櫂 蓬莱
口あけて寝たる僧都や籠枕 高濱虚子
君が魂の蛾ぞ美しの籠枕 岡本松浜 白菊
喪の帰り籠枕見て買はざりし 宮岡計次
夢のなか風吹き抜けて籠枕 檜紀代
天井に抜げてもみたる籠枕 岩淵喜代子 硝子の仲間
客来ると妻が隠せり籠枕 青木重行
寝ころびしよりひき寄せて籠枕 今井杏太郎
寝ねられぬ夜の籠枕過去が透く 池田蝶子 『草絵』
寝乱るるほどの髪なき籠枕 片山由美子 水精
寝飽きたる夜をもて余す籠枕 堤俳一佳
床の間に父の遺愛の籠枕 棚山波朗
引越の重き荷となる籠枕 宇多喜代子 象
忘恩や片耳寒ぐ籠枕 藤田柊車
怒りはや肩より抜けて籠枕 吉川智子
戦争の後の余生を籠枕 長谷川櫂 蓬莱
新聞や鎮石にしたる籠枕 森無黄
早起きが徒の寝不足籠枕 高澤良一 素抱
時はるか空またはるか籠枕 長谷川櫂「松島」
時差呆けのいまだ残りて籠枕 小川匠太郎
月影の洩れて涼しや籠枕 利会「顕題発句集」
来客やしまひおくれし籠枕 阿部みどり女 笹鳴
松籟のやまとうるはし篭枕 山元志津香
棲みながら直す二階家籠枕 小川軽舟
母よりは祖母の匂ひの篭枕 島田恒夫
気を張らぬ暮し好もし籠枕 松尾緑富
波音のいつか遠のく篭枕 上 慶子
浅き世を浅き眠りの籠枕 三溝沙美
海女の数だけころがるや籠枕 清水諄子「かつらぎ選集」
涼しさや夢もぬけ行く篭枕 乙 由
父の世の風が通ふよ籠枕 井手千二「籠枕」
片よせてありし仏間の籠枕 後藤夜半 底紅
物忘れ多き頭をのせ籠枕 高澤良一 寒暑
生き死にを俳諧の種籠枕 長谷川櫂 虚空
畳に頭あつちへやつて籠枕 川崎展宏
病みぬれば病とあそび籠枕 長谷川櫂 虚空
白晝の夢のぬけがら籠枕 大野せいあ
目が覚めてゐていつまでも籠枕 今井杏太郎
硬くなる頭年々籠枕 高澤良一 素抱
空しさに身をよこたへて籠枕 長谷川櫂 虚空
篭枕こころに高嶺ありし日や 鷲谷七菜子
篭枕軽き頭をのせにけり 天河真佐子
籠枕あてがひ呉るゝ頭あげ 吉武歓之助
籠枕うなじおしつけ静かさよ 雑草 長谷川零餘子
籠枕くぢらの夢を見るとせむ 正木ゆう子 悠
籠枕こころに高嶺ありし日や 鷲谷七菜子「晨鐘」
籠枕ことしの頭慣らしをり 高澤良一 素抱
籠枕この世の母のやすらへる 長谷川櫂 蓬莱
籠枕ころかつている虚空かな 長谷川櫂 虚空
籠枕ころがつている虚空かな 長谷川櫂
籠枕して邯鄲の夢もなし 後藤比奈夫 祇園守
籠枕そこそこの身のよこたわり 原裕 『王城句帖』
籠枕そを山風の吹き抜けて 飴山實 『花浴び』以後
籠枕なんにも仕掛なかりけり 小野克雄
籠枕に物相頭(もっそうあたま)定年後 高澤良一 随笑
籠枕ひとつを抱へ家出せむ 宇多喜代子
籠枕まひるの夢をむさぼりぬ 高橋淡路女 梶の葉
籠枕もちて気軽に入院す 梶尾黙魚
籠枕ゆめの続きを揺りもどし 平川雅也
籠枕一つを友としたりけり 長谷川櫂 虚空
籠枕一つ出されて亀城館 成瀬正とし 星月夜
籠枕一帙芭蕉句集かな 雑草 長谷川零餘子
籠枕並べて夢のすれ違ふ 土生依子
籠枕仰臥の腹を凹ませて 岸風三樓
籠枕合歓より上の二階かな 東洋城全句集 松根東洋城
籠枕島の泊りの雨に暮れ 大野林火
籠枕新しすぎて逃げ易く 北川喜多子
籠枕死にあひし身の置きどころ 井沢正江 湖の伝説
籠枕水の流れる音のせり 阿部静雄
籠枕浅き夢見ず酔ひもせず 南 英四郎
籠枕滑らか白髪ふえけるや 大石悦子 百花
籠枕父を恐れしこと不思議 大沢呑舟
籠枕百夜通へる島の船 桂 信子
籠枕眞晝の夢はすぐ忘れ 吉屋信子
籠枕眼の見えてゐる夢ばかり 村越化石「山国抄」
籠枕編むや連峰雲の中 大島民郎
籠枕老妓にありし月日かな 井上雪
籠枕身に添ふものの一つかな 松本つや女
籠枕風吹きぬける音すなり 岩谷山梔子
籠枕骨身にひびく何々ぞ 長谷川櫂 虚空
老画伯邸皮椅子に籠枕 鈴木鷹夫 風の祭
耳の下風吹き抜ける籠枕 中畠ふじ子
詩集より押花こぼれ籠枕 大島民郎
読みかけの新聞を着て籠枕 相馬沙緻
賢兄は戦死愚弟は籠枕 鈴木鷹夫 風の祭
起きざまの足が蹴つたる籠枕 鈴木鷹夫 風の祭
身のまはりすこし片付け籠枕 細川加賀 生身魂
身をもたげて湖上を望む籠枕 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
金婚のあとを自若の篭枕 鈴木良戈
雨やむを待ちて仮寝の籠枕 鈴木花蓑「鈴木花蓑句集」
青萩の昼青く置く籠枕 長谷川かな女 花寂び
風かよふうなじ高しや籠枕 皆吉爽雨 泉声
首細くなりし思ひの籠枕 鈴木伊都子(狩)
高き門深き廂や籠枕 宇佐美魚目 天地存問
髯剃らぬ居士の頤や籠枕 雑草 長谷川零餘子
鴎なほうかがつてゐる籠枕 杉野一博
齢あらはに見せて無心や籠枕 小黒露村
●箱枕
春眠や舞妓に固き箱枕 史あかり
椿の実生家に古りし箱枕 鈴木えい子
民具館暑し臼・桶・箱枕 辻田克巳
箱枕して洪水に出合ひける 柿本多映
箱枕てふ戯れも秋の夜半 都筑智子
箱枕夏は真水の如くなり 栗林千津
蓬莱や母の枕は箱枕 磯貝碧蹄館
●小枕
小枕に仮りねのさむき御祭風かな 飯田蛇笏 霊芝
●北枕
ががんぼの影曳く旅の北枕 平子公一
こがらしの昼はたらいて北枕 長谷川双魚 『ひとつとや』
ささぶね流れる空 のびやかな北枕 星永文夫
むさしのの蝉聴く母は北枕 渡辺恭子
元日を覚むるやつねの北枕 前田普羅
北枕して木犀の香に近し 目迫秩父
北枕そっとずらせば雁渡る 木戸葉三
北枕その北窓の霜のこゑ 鈴木鷹夫 大津絵
北枕は北は真白は晴れなり 阿部完市 春日朝歌
北枕真北に涅槃図絵垂らす 赤松[けい]子 白毫
夜の秋北枕して弟よ 菅沼義忠 『早苗饗』
夜を寒み小冠者臥たり北枕 蕪村 秋之部 ■ 山家
夜を寒むみ小冠者寝たり北枕 蕪村 五車反古
寒星やいのちの果ての北枕 佐藤きみこ
新涼や旅の夜もまた北枕 下村槐太 光背
橡の実落つ寝釈迦北枕でありぬ 小堀葵
熱帯夜しやうことなしに北枕 佐々木久子
獣らはみな北枕春の星 三好さら
目覚めゐて八十八夜の北枕 手塚美佐
薄雪の夜をたはむれの北枕 岩村蓬
覚めよ起てよ花の朝の北枕 つじ加代子
香げむり寒をうづまく北枕 飯田蛇笏 春蘭
麦を蒔くひとを遠くに北枕 高橋去舟
●草枕
あした行く旅路の梦や草枕 正岡子規
あぢさゐを五器に盛らばや草枕 服部嵐雪
あらたまや俳枕とは草枕 原裕 正午
いざ共に穂麦食らはん草枕 芭蕉(行脚の客にあうて)
くらがりに覆盆子(いちご)喰ひけり草枕 中村史邦
けふの日を祝へ野菊の草枕 野菊 正岡子規
こてふこてふ合宿たのむ草枕 胡蝶 正岡子規
たらちねやかくなでしこ(撫子)の草枕 立花北枝
つちふるや殷周秦漢草枕 川崎益太郎
五月雨や田蓑の島の草枕 五月雨 正岡子規
六郡を稲妻すなり草枕 石井露月
出かはりし身のかたづきや草枕 高井几董
名月はどこでながめん草枕 名月 正岡子規
太箸の嬉しさしるや草枕 蒼[きう]
山茶花を椿ときくも草枕 蒼[きう]
旅をしも草枕とや合歓の花 細見綾子 花寂び
朝見れば撫し子多し草枕 撫子 正岡子規
氣樂さのまたや師走の草枕 師走 正岡子規
焼米や月日指折る草枕 柑子句集 籾山柑子
白魚や小佐渡をめぐる草枕 会津八一
秋もこぬその人の閏の草枕 上島鬼貫
秋風を分ちて眠る草枕 櫻井尚子
草枕あり其稲穂手向かな 杉風 (翁塚の記)
草枕して末枯れは旅の匂ひ 野見山朱鳥
草枕たまの宵寝に風邪薬 楠目橙黄子 橙圃
草枕の我にこぼれぬ夏の星 正岡子規
草枕の我にこぼれよ夏の星 夏の星 正岡子規
草枕まことの花見しても来よ 芭蕉
草枕まことの華見しても来よ 松尾芭蕉
草枕ジジジジ自恃と螻蛄の声 文挾夫佐恵
草枕ランプまたゝきしぐれくる 相馬遷子 山國
草枕今年は伊勢に暮れにけり 年の暮 正岡子規
草枕射水の川に聞く千鳥 有馬朗人
草枕小春は替へむ夢もなし 水原秋櫻子
草枕我膝にくる蜻蛉哉 蜻蛉 正岡子規
草枕故郷の人の盆曾かな 暁臺
草枕涼し三千の姫小松 涼し 正岡子規
草枕犬も時雨るか夜の声 芭蕉
草枕犬も時雨るるか夜の声 芭蕉
草枕薺うつ人時とはん 山川
草枕虻を押へて寝覚けり 路通
草枕虻を押へて寝覚めけり 路通
草枕蚊遣火焚て寝入りけり 文皮
草枕袷の領の汚れかな 楠目橙黄子 橙圃
草枕青藺の香して大昼寝 長谷川かな女 花寂び
薬欄にいづれの花を草枕 松尾芭蕉
裾折て菜をつみしらん草枕 服部嵐雪
解夏草やすぐに結びし草枕 桐 雨
陽炎に心許すな草枕 陽炎 正岡子規
雲雀なく其下や花に草枕 雲雀 正岡子規
飛かはづ草まくらより草枕 服部嵐雪
飛ぶ蛙草まくらより草枕飛ぶ 服部嵐雪
餅を夢に折り結ぶ歯朶の草枕 松尾芭蕉
●波枕
ころりんと渚に海鼠波枕 高澤良一 素抱
みえはじめはかまとゆかいに波枕 阿部完市 春日朝歌
丈夫(ますらを)やマニラに遠き波枕 攝津幸彦
放生の河豚しばらくは波枕 森田峠 逆瀬川以後
昼月をあふぎ海月の波枕 高澤良一 宿好
老梟となりゆくもよし波枕 佐藤鬼房
●陶枕
なほざりに母の陶枕ころがされ 肥田埜勝美
亡き母の陶枕に濃き山水図 肥田埜恵子
夢見よく覚め陶枕の彼方なる 千田百里
大船の女流に頼む陶枕 攝津幸彦 鹿々集
来客に起きて陶枕撫しにけり 永尾宋斤
漆黒の揚羽蝶彫り陶枕 辻桃子
父の遺せし陶枕の青き竜 海野迪子(対岸)
虚事をうつくしく描き陶枕 大石悦子 百花
陶枕につづく山河に父母のあり 柴田佐知子
陶枕に似せて字引の三つ重ね 矢島渚男 延年
陶枕に固きあたまを載せにけり 細川加賀 生身魂
陶枕に夢の出てゆく穴ふみつ 中原道夫
陶枕に宮沢賢治読みきかす 辻桃子 ねむ 以後
陶枕に昼寝て夜の磁気枕 中戸川朝人 尋声
陶枕に昼寝の猫の似てきたり 日原傳
陶枕に浅き眠りを托しけり 鷲田裕子(野火)
陶枕に耳遠き娘の眠りたる 小野田三保子
陶枕に貼られぽつくり寺の護符 六田あき子
陶枕のかたきを得たる九月かな 安住敦
陶枕の冷えのまにまにわが昼寝 皆吉爽雨
陶枕の呉須の長江下りかな 飴山實 『花浴び』以後
陶枕の唐子の遊戯にまどろみぬ 後藤綾子
陶枕の唐子散らしや宵の雨 小野恵美子
陶枕の李朝の猫と目覚めけり 加藤知世子
陶枕の生ひ立ち聞いてやる夜かな 十見達也(銀化)
陶枕の絵の仙人となり睡る 中田勘一 『雪礫』
陶枕の置かれしゆゑの風通る 角 光雄
陶枕の見えゐたりしがそを薦む 木村蕪城 寒泉
陶枕の詞は孤閨歎きけり 由山滋子
陶枕の陶の肌へのくもりかな 足立幸信(狩)
陶枕の青き山河に睡りけり 綾部仁喜「寒木」
陶枕も遺品の一つまどろまむ 稲葉百年
陶枕や上段の間のいまは無く 木村蕪城 寒泉
陶枕や呉須の七賢夢に出よ 秋田卯子
陶枕や昼うすれゆく朝の悔 大屋達治「絢鸞」
陶枕や琉球駄菓子ほろほろと 村沢夏風
陶枕を借りて視線の鮮しき 都筑智子
陶枕を愛せり猫のかたちゆゑ 日原傳
陶枕売る華僑の片言日本語 高澤良一 寒暑
●肘枕 肱枕
こがらめの通ひ四六時肱枕 斎藤玄 雁道
さみだれの畳くぼむや肱枕 森鴎外
すゝしさやあるじまつ間の肘枕 涼し 正岡子規
ひとときは木枯ちかき肱枕 三好達治 柿の花
わか草や烏帽子ながらの肘枕 几董
三界のあじさい見んと 肱枕 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
五色縷の垂れも垂れたり肘枕 飯田蛇笏 霊芝
元旦の大計を載せ肘枕 辻田克巳
君琴弾け我は落花に肘枕 芥川龍之介 我鬼窟句抄
夏雲の姿変へゆく肘枕 鶴田邦子
新涼の畳になじむ肘枕 成田昭男
春蝉や山の平に肘枕 佐藤鬼房 朝の日
梅が香や南吹く夜の肘枕 詰洲
涼しさやよき碁に勝ちて肱枕 雨谷
白魚や肱枕して酔はぬ人 長谷川かな女
秋涼し寝羅漢にして肘枕 米住小丘子
肘枕しびれ醒めたる無月かな 金居欽一
肘枕月の豊かな国に生れ 大嶋康弘
肱枕そらねがくりと夜涼かな 飯田蛇笏 山廬集
蟲時雨吾子泣いて解く肱枕 高田風人子
避暑に来て雲をながめの肱枕 森田峠 避暑散歩
青簾肘枕して吾と居り 増田和子
青萩か萩の青さか肘枕 鈴木鷹夫 風の祭
頂上の寝釈迦のどけし肘枕 内海良太
●菊枕
うすやみにまろ背の母の菊枕 佐川広治
うたかたのくの一を抱く菊枕 小林草夫
うつり香のうなじにほのと菊枕 高橋淡路女 梶の葉
これよりは菊の酒また菊枕 山口青邨(1892-1988)
ささくれの沁みる今宵の菊枕 高木喬一
しのび泣く声のこもりし菊枕 檜紀代
その日より菊枕して化粧して 森田 愛子
ちなみぬふ陶淵明の菊枕 杉田久女(1890-1946)
どちら選ばうか膝まくら菊枕 鈴木鷹夫 千年
みちのくの黄菊ばかりの菊枕 瀧春一
やはらかく叩いて均す菊枕 菊田一平
一と夜さの夢にぺしやんこ菊枕 小畑晴子
三椏が咲いてきのふの菊枕 手塚美佐
今更と思へど欲しき菊枕 古賀まり子
他家の血を交へざる婚菊枕 岩城久治
余生又美しからん菊枕 下村非文
保育器の吾子にあてがふ菊枕 小橋里水
俳諧に命あづけて菊枕 伊藤柏翠
健康に留意と寒の菊枕 富田潮児
叡山を下りて今宵の菊枕 星野椿
夢淡き齢となれり菊枕 鷹野清子
好み縫ふ房は水いろ菊枕 高橋淡路女 梶の葉
妻が借り子が借り母の菊枕 福島 胖
妻のまま盲となりぬ菊枕 宇多喜代子
客として生家にありぬ菊枕 市場基巳
寝すごして青き空あり菊枕 満田たけを
寝返れば醒めれば匂ふ菊枕 土居牛欣
年寄りし姉妹となりぬ菊枕 星野立子
恋ごころより情こもる菊枕 飯田蛇笏
愛蔵す東籬の詩あり菊枕 杉田久女(1890-1946)
戦死には枕無かりし菊枕 吉田汀史
明日あるを信じて憩ふ菊枕 八木綾子
明日よりは病忘れて菊枕 高浜虚子
晩学は半歩でよろし菊枕 工藤佐都子
欲しきもの久女の作る菊枕 神蔵 器
此の千代を今日の馳走よ菊枕 季吟
死支度忘れがちなり菊枕 近藤一鴻
濤激すまま夜明けたり菊枕 岡本 眸
点滴の音なき音や菊枕 新 純子
父五十年忌の母に菊枕 茂 恵一郎
生き延びて来しこと大事菊枕 後藤夜半 底紅
生くるとは別るることや菊枕 倉田素香
眼をあいて闇の佳かりし菊枕 高野寒甫
神無月 妻のまま盲となりぬ菊枕 宇多喜代子
立子より送りくれたる菊枕 高浜年尾
竜宮の夢より覚めて菊枕 すずき春雪
縫ひ上げて房にも色の菊枕 藤本 翠
耳底の記憶繰りなむ菊枕 森川喜美子
菊枕かくて老いゆく人の幸 高濱年尾 年尾句集
菊枕かるくたたいて夢違へ 櫛原希伊子
菊枕ぐんぐん虧くる夜々の月 京極杜藻
菊枕してなにほどの夢や見し 吉田汀史
菊枕して極彩の夢を見し 七里みさを
菊枕なりし寝返りするときに 田畑美穂女
菊枕はづしたるとき匂ひけり 大石悦子 百花
菊枕ひと夜のくぼみありにけり 佐藤博美
菊枕ゆめにも呉れぬ仮寝覚め 石川桂郎 四温
菊枕ゆらりと島の浮いて来し 永末恵子 発色
菊枕一願こめて縫ひ急ぐ 三谷蘭の秋
菊枕二つ重ねて夢もなし 手塚美佐 昔の香
菊枕作らん花の篭にあふれ 貫名 英子
菊枕北に廻して死後の景 中戸川朝人 尋声
菊枕南山の壽をさづからん 松尾いはほ
菊枕古りてことしの菊月夜 大島民郎
菊枕夢に続きといふことなし 藤谷令子
菊枕夢も通へるものとして 高田美恵女
菊枕子のない親に寝てもらう 間宮洋子
菊枕山に音なき日なりけり 山田三四郎
菊枕干して吉野のよき日向 大峯あきら 宇宙塵
菊枕心やつるるまじきかな 加藤三七子
菊枕知らず黍殻枕敷く 百合山羽公 寒雁
菊枕貰うて病軽ろかりし 高濱年尾
誰がためにつくらんとする菊枕 高橋淡路女 梶の葉
躓づきは石ではあらず菊枕 檜山火山
身の丈の髪の昔や菊枕 鷹羽狩行
遠く住む母と揃ひの菊枕 大島民郎
野に摘みし菊も少しや菊枕 橋本鶏二
金賞の花びら賜ふ菊枕 鈴木節子
金輪際嫌ひと言ひし菊枕 山田弘子 こぶし坂
願はくは多病息災菊枕 高橋健文
魂と魄といずれ選びぬ菊枕 寺井谷子
●獏枕
うつゝなき妹が笑ひや獏枕 妻木 松瀬青々
こんこんと親子の眠り獏枕 高橋淡路女 淡路女百句
なか〜に寐つきかねたる獏枕 高橋淡路女 梶の葉
もどきの絵一枚敷きて獏枕 矢島久栄
三途の川渡りそこねし獏枕 鈴木智子
世の流れ変るともなく獏枕 平川常迺
因はれの銀河系中獏枕 三橋敏雄
夫が手の確かめにくる獏枕 大石悦子 百花
思ふことある身なりけり獏枕 高橋淡路女 梶の葉
獏枕なみのりふねの音聞かな 窪田佳津子
獏枕わりなきなかのおとろへず 飯田蛇笏 春蘭
獏枕妻より子より早寝して 大久保白村
獏枕子のよき夢をつゆ知らず 赤尾兜子
空ごとと思へど捨てず獏枕 佐藤紅緑