●日用品●箒●塵取●モップ●歯ブラシ●耳掻き●梯子●脚立●ライター●火打ち石●マッチ●葉書●裁縫具●鋏●針●安全ピン●日用品●箒●塵取●モップ●歯ブラシ●耳掻き●梯子●脚立●ライター●火打ち石●マッチ●葉書●裁縫具●鋏●針●安全ピン
●日用品
●箒 
あたたかき立冬を掃く高箒 鈴木路世
あたたかや箒につきし黒き土 しばたよしえ
あたらしき煤の箒をあてにけり 後藤夜半
あはれ孤りの箒あやまつ冬こほろぎ 小池文子
あやとりの箒で掃かむ花山椒 安田優歌
あやとりの魔法の箒秋の夜 伊藤 ふみ
あら〜と箒のあとや萩の門 阿部みどり女 笹鳴
いとけなし箒なるべく帚草 宮坂静生 春の鹿
お火焼や塵にまじはる箒の神 才麿
かたばみを掃きいぢめたる箒かな 辻桃子
ころがつてをり乾きたる簗箒 宮津昭彦
ささささと火を掃く箒お水取 山田弘子 懐
そこに立つ座敷箒や晝寝覚 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
たてかけてあるだけ夢の冬箒 河野多希女 こころの鷹
つめたさに箒捨てけり松の下 太祇
とある梅雨闇箒先のみ現れて消ゆ 香西照雄 対話
はきよせた箒に殘るもみち哉 散紅葉 正岡子規
ははきぐさ箒となりて紅葉せり 長谷川櫂 天球
びんづるはんごめんやしてと煤箒 西野文代
ぶらさがる箒とはたき残る虫 榊李耶子
ゝゝと落花をつけて作務箒 小原菁々子
ウラン怖づ暮秋を母の箒持つ 磯貝碧蹄館
セルを着てけさの箒は軽しといふ 永井龍男
パンジーの中に光るは箒の柄 岸本尚毅 舜
一月の眩しかりけり箒の柄 中田剛 珠樹以後
一月の荒神箒須磨の海 宇佐美魚目 天地存問
一月の雲と語れる古箒 中嶋秀子
一月の音にはたらく青箒 能村登四郎 民話
一月一日棒立の箒かな 四ッ谷 龍
一霜の降りたる竹の箒かな 長谷川櫂 蓬莱
下萌に箒つまづきつまづきぬ 山田閏子
下萌やふなべり洗ふ繩箒 永井龍男
主病む露の箒を柴垣に 橋本鶏二 年輪
乗れそうな箒のなくて敬老日 奥山貞子
二の午をまつり箒をつくりをり 西本一都 景色
二度までは箒とりたる落葉哉 高井几董
二度迄は箒とりたる落葉哉 几董 (草庵)
二日には箒のさきや福寿草 太祇
今日落ちし木槿を今日の箒かな 岡田史乃
今朝の秋柔き箒の動くまま 桂信子 草影
侘助の哲学はじまる箒の目 藤岡秋良
借家のあるじとなつて落葉掃かう箒を持つ 人間を彫る 大橋裸木
八千草に使ふ箒の手の長き 赤松[けい]子 白毫
冬ざれの掃けば首ぬけ箒かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
冬の日や縁の下まで箒の目 長谷川櫂(1954-)
冬の蜂おさへ掃きたる箒かな 高野素十
冬の陽に箒を立ててみなまぼろし 松岡貞子
冬めくや子が曳きあそぶ捨箒 福永耕二
冬来るや庭の箒の新しき 小澤碧童 碧童句集
冱蝶の箒の先にあがりけり 追川瑩風
凌霄花落つる箒の行手かな 岩田由美 夏安
凍箒よく見れば薄笑ひゐし 河原枇杷男 蝶座 以後
出代やかはる箒のかけどころ 也有
初冬の門広し兵の執る箒 楠目橙黄子 橙圃
初場所の土俵の座敷箒かな 田村すゝむ
初夢のごとくに忘れ棕櫚箒 遠山 陽子
初雪の畳ざはりや棕櫚箒 智 月
十三夜廊下暗きに寺箒 松山足羽
十五夜を箒とならんこころざし 杉本雷造
厩出箒の影の衰ふる 宮坂静生 山開
吊したる箒に秋の星ちかく 波多野爽波
君が春箒に掃ふ塵もなし 君の春 正岡子規
啓蟄の土を均して作務箒 木内彰志
啓蟄や箒のなかばくろき節 中田剛 竟日
啓蟄や運動場に箒持つ 金井かおり
団栗を掃きこぼし行く箒かな 高浜虚子
国宝の仏に煤の箒あつ 五十嵐播水 埠頭
園守が捨てし箒や鳥交る 安斎桜[カイ]子
塵取と箒の間を鶫かな 日原傳
墓守の箒三昧夏鶯 増田治子
大寒の空を箒で掃いてみし 石黒ナツ子
大寺に箒だまりや春の霜 向笠和子
大根焚箒の首がほたと落ち 辻桃子
大根焚箒の首がほと落ちて 辻 桃子
大風の落葉の中の捨箒 比叡 野村泊月
天女死ヌ箒ノヨウニ靡キツツ 西川徹郎
天淋し箒と遊びゐる蝶も 河原枇杷男 蝶座
妻よ吾の影が箒に似るときなきや 細谷源二
学童ら箒を肩に尊徳忌 富安風生
寒取や土俵箒の掃き応へ 増田龍雨 龍雨句集
寒菊にふれし箒をかるく引き 星野立子
寝冷えして箒のごとく立ちゐたり 平井照敏 天上大風
寺箒立てかけしより時雨かな 桂信子 草影
屋根虫を掃き下したる箒哉 屋根虫 正岡子規
山の根に箒の及ぶ花樒 綾部仁喜 樸簡
山神社土用の入の青箒 大峯あきら 鳥道
山際の涼しさに寄せ墓箒 下田稔
影置いて箒冬木によりかゝり 上野 章子
御影供や深使ひせる寺箒 永作火童
手すさびや祖父のつくりし黍箒 松藤夏山 夏山句集
手箒を蛤に編む寒しごと 西本一都 景色
拾はずに椎掃慣れし箒かな 柑子句集 籾山柑子
拾得の几巾にからむや玉箒 其角
拾得の箒に枯れて蓮かな 佐々木六戈
指箒大空おびただしき葉あり 赤尾兜子
捨てて置く箒埋めて落葉かな 正岡子規
掃かれゆく箒の先の冬の蝶 松尾 静子
掃き了へて落葉をとむる箒かな 飯田蛇笏 椿花集
掃き寄せし箒も焚きぬ秋の暮 福田蓼汀 山火
掃ぞめの箒や土になれ初む 高浜虚子
掃初の箒のさきの松の塵 芝原無菴
掃苔の埃あげたる箒かな 西島麦南 人音
掃苔の箒の筋目偈のごとし 津田清子 二人称
放課後の喧嘩は箒日脚伸ぶ 三嶋隆英
新しき箒に落葉従へり 上野泰 佐介
新しき箒のにほふ淑気かな 柳田清次
新月や箒が遠出して困る 鳴戸奈菜
昏倒の蝉を箒に懸けにけり 高澤良一 随笑
春めきし箒の先を土ころげ 星野立子
春寒の断片として捨箒 斎藤玄
春待つや箒柄に彫るしだれ梅 西本一都 景色
春惜む箒があれば箒手に 後藤比奈夫 めんない千鳥
春意とは山墓箒立てしまま 赤尾兜子
春月のまろきを寒み箒置く 金尾梅の門 古志の歌
春蘭の辺はねんごろに棕梠箒 池田蝶子 『草絵』
春霜や箒に似たる庵の主 内田百間
昼顔のゆるりとからむ箒の柄 中嶋秀子
月夜には魔女の箒をかくしておく 工藤克巳
月明の雪に箒のさしてあり 辻桃子
朝寒の壁こぼし掃く箒かな 雑草 長谷川零餘子
朝寒や箒取りたる心もち 朝寒 正岡子規
木に箒たてかけ去るや秋の蟇 蓼汀
木枯の吹きにし箒つかみ出づ 斎藤玄 玄
木賊むら箒いれ居り敷松葉 保田ゆり女
桜三月箒のような犬と争う 西川徹郎 瞳孔祭
梅咲くやいつより箒休み癖 田中年枝
椽下に箒十本牡丹寺 藤岡筑邨
横死者の髪は箒として使う 西川徹郎 死亡の塔
樫の根の忘れ箒も初むかし 児玉南草
毛箒や芒種の机整へん 佐々木六戈
水取の火の粉掃きゆく箒かな 比叡 野村泊月
池の面の椿に延べし箒かな 比叡 野村泊月
油照りバスヘ持ち込む長箒 北野民夫
浮き草に間引きすてたる箒かな 飯田蛇笏 霊芝
淋しさに炉箒使う胎の姉 西川徹郎 死亡の塔
漂へるごとくに露の捨箒 風生
灯を消して羽蟻を追へる部屋箒 小原牧水
炉埃のつきころげくる箒かな 橋本鶏二 年輪
炉箒のささくれて春寒きかな 近藤一鴻
炉箒の小幅な動き語尾篤し 平井さち子 完流
炭斗の羽箒に来る鼠かな 師走
煤掃の箒けたゝまし成らぬ戀 煤払 正岡子規
煤箒仁王足下の銭集む 河村むつ子
煤箒放り出しあり御陵みち 波多野爽波
牡丹に手箒置いてありにけり 小笠原和男
狐めく箒や京の祭あと 渋谷道
生前も死後もつめたき箒の柄 飯田龍太 忘音
畦焼や燃え残りたる箒の柄 荒井幸子
畳目に箒のひびく旱かな 長谷川櫂 天球
白雨をよろこぶ能登の箒ぐさ 高橋睦郎 金澤百句
真昼の寺に大きな箒死んでいる 西川徹郎 死亡の塔
神饌に山鳥・箒・薪と繭 伊藤いと子
祭笛堆肥の跡に箒の目 香西照雄 対話
福引の箒をまたぎても飛べず 神蔵器
秋めくと箒担いで売りに来る 石川文子
秋日に憩へよ箒と塵取りを持ちつ妻よ 磯貝碧蹄館 握手
秋風や箒をあてしごとき雲 西本一都 景色
空海忌箒は腐爛しつつ在り 河原枇杷男 流灌頂
窓下の箒の掃きし春の土 桂信子 花影
立てかけてある年の夜の箒かな 稚魚
立てかけて箒がちぢみ行く良夜 中山玲子
箒こせまねてもみせん鉢扣 向井去来
箒さはる琴のそら音や冬籠り 冬籠 正岡子規
箒とめて空蝉はがす詩を待つごと 赤城さかえ句集
箒の柄つめたき八十八夜かな 吉田明
箒もて寿と書く春の雪 林昌華
箒もて氷柱落すも飛騨山家 鈴鹿野風呂
箒より先に風来て落葉飛ぶ 犬飼道子
箒・塵取露けく下がり共同湯 高澤良一 随笑
箒取つて小僧蝙蝠を打たんとす 蝙蝠 正岡子規
箒取る汝に我は夏書かな 尾崎迷堂 孤輪
箒手に佗助咲くと呼びにけり 吉屋信子
箒手に妻が出て来る寒雀 梧逸
箒持ち子が木枯の道に出て 岸田稚魚
箒持ち寒山拾得虫狩に 児玉信子
箒持つて所化二人立つ紅葉哉 紅葉 正岡子規
箒持つ兄めづらしや祭の日 比叡 野村泊月
箒止めくわりん採り頃かとおもふ 高澤良一 寒暑
箒磨る槌の柄ほそり寒深し 西本一都 景色
箒編む枠木の下の胼ぐすり 西本一都 景色
箒編む黍殻をうつ寒砧 西本一都 景色
箒老人 いつそう屈まる マロニエ散る 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
老の手の箒落葉や干反り逃ぐ 石塚友二 方寸虚実
老僧の箒に悟れ朝露草 乙由「類題発句集」
色界に立てかけてあり雪箒 磯貝碧蹄館
花の昼箒のかげを跨ぎけり 中田剛 竟日
花散るや留守の*とぼその立箒 比叡 野村泊月
茎桶に立てかけてある箒哉 篠原鳳作
茶の花や誰が箒せし里の道 加舎白雄
落枝にかくれし箒松手入 亀井糸游
落椿挟まるまゝに立て箒 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
落葉掃く箒の癖のあるままに 橋本夜詩美
落葉掃く箒百本修学院 滝青佳
葉鶏頭箒は常に傾けり 好井由江
葬終へし箒の音や百日紅 鷲谷七菜子 花寂び
蒔砂に箒の波や初しくれ 時雨 正岡子規
薄氷荒神箒捨てられず 宮坂静生 樹下
薪能篝しづめの藁箒 山田弘子 懐
蛙の衣衛士の箒にかかりけり 石田勝彦 秋興
螢火の消えてわりなき箒かな 比叡 野村泊月
蟻の國の事知らで掃く箒かな 高濱虚子
行商が箒で払ふ秋の蜂 小林嘉代子
衛士と巫女こもごも箒初めかな 向野楠葉
貸しくれぬ花屑つきし墓箒 岸田稚魚
身に入むや高野箒のうちふるヘ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
連翹や箒たのしむ人の老 遠藤梧逸
運動会箒を持つて走りけり 広瀬千鶴
道端や氷りつきたる高箒 夏目漱石 明治三十二年
達磨忌や箒で書きし不二の山 一茶
遠近はみんな箒をしまいけり 阿部完市 軽のやまめ
避暑二日目は男たち箒とる 後藤比楽夫
銀杏散る巫女の箒に塵取に 郡良子
門を掃く箒がおもし朝ぐもり 五十崎古郷句集
門中に何やかとある箒ぐさ 能村登四郎 寒九
雀隠夕日の箒あてにけり 八木林之介 青霞集
雪の戸に立てかけて置く箒かな 加賀 仏仙 五車反古
霜掃きし箒しばらくして倒る 能村登四郎
露の門ひらきて沙彌の箒かな 橋本鶏二 年輪
青みどろ箒はかなり寂しきか 飯島晴子
馬鹿うれし箒の柄洩る花の雪 昌夏 選集「板東太郎」
高鵙に箒を持つて歩くだけ 長谷川かな女 花 季
鳥屋(とや)屋根に箒の並び冬の梅 中戸川朝人 星辰
鳥帰る魔女の箒も帰りけり 石田郷子
鵙来るや箒となりしははきくさ 神尾久美子 桐の木
鹿の子が箒の先を嗅ぎにくる 斉藤史子「絵絣」
麦藁は麦はく庭の箒きかな 上島鬼貫
黄鳥の音や雪の戸の玉箒 松岡青蘿
冬の梅箒目はけさ引きなほし 長谷川櫂 蓬莱
初霜の箒目渦の紋様に 福原幸子
参道の箒目正しく神迎ふ 白木サダ子
塔頭の箒目つよし日短か 大峯あきら 鳥道
境内に朝の箒目一位の実 藤田枕流
大前に箒目残り神の留守 きよみ
春風や箒目入れし鳰の海 春風 正岡子規
春風や箒目直し掃部寮 含粘 俳諧撰集「藤の実」
正造の墓所の箒目紅葉降る 高田貴子
燕来る箒目を引く陵守に 亀井糸游
爽かに箒目立てぬ人未だ 徳永夏川女
石だゝみ箒目疎し神の留守 調和 選集「板東太郎」
砂利庭の深き箒目落葉浮く 杉本みつる
秋潮へ放つ箒目和布刈宮 赤松[ケイ]子
箒目にあやまつ足や若楓 蕪村遺稿 夏
箒目に木守の影沈壽官 黒田杏子 花下草上
箒目に桃の花散る吉備の宮 松原三枝子
箒目に母の手跡や秋の虹 水口諄子
箒目に水仙浄し欅の根 西山泊雲 泊雲句集
箒目に水打つ除夜の麹蔵 能村登四郎 幻山水
箒目に綿虫うかぶ真珠庵 深草不二雄
箒目に莟をこぼす柚の樹かな 杉田久女
箒目に霜の蘇鉄の寒哉 游刀
箒目に鳥の足あと恵方道 小島健
箒目のおろそかならず神の留守 松田美子
箒目のゆるき流れや臘八会 舩山東子
箒目の乾きて乗せる竜の玉 松田美子
箒目の匂いのままの夏木立 姉崎蕗子
箒目の少しは見えて別れ霜 井上井月
箒目の幾日たてねば暑気埃 石塚友二 方寸虚実
箒目の庭寒鯉の桶しづか 鈴木鷹夫 渚通り
箒目の新しき上を落葉哉 寺田寅彦
箒目の正しき春の寒さかな 赤尾冨美子
箒目の波ひたひたと菩提子に 徳永 球石
箒目の流れる方へ萩吹かる 西宮はるえ
箒目の門へ流るゝ梅の寺 上野章子
箒目の集つてゐる焚火かな 星野立子
箒目はやさしく立てむ石蕗の花 田村マサエ
箒目は井戸にて終る朝桜 鈴木鷹夫 渚通り
箒目は人住むあかし枇杷の花 大岳水一路
箒目は土の装ひ更衣 大岳水一路
箒目をしめらす程の初時雨 飯村周子
箒目をしめらす雨や初雀 白水郎
箒目をほつほつ乱す初雀 中上 澄
箒目を打つてどんぐりまつさをな 石田郷子
箒目を正す神域露光る 赤尾恵以
箒目を湿らす雨や初雀 白水郎句集 大場白水郎
箒目を立ててありしへ松毟鳥 殿村莵絲子
箒目を緑雨撫でゆく曽良忌かな 明田ゆき子
箒目を踏みはづしけり冬の蜂 眞鍋呉夫
藤棚の箒目のある潦 西本一都 景色
蟻も添ふ父の箒目砂に整し 香西照雄 対話
霜の庭箒目なりに固まりぬ 高野清美
お多福の片目を拾ふ初箒 鈴木きぬ絵
ひとりにはひとりの塵や初箒 山田弘子
もう土を擡げゐる芽や初箒 荒井正隆
わが庭の松葉のみなる初箒 大場美夜子
一重八重椿七本初箒 染矢久仁
二三羽の雀と遊ぶ初箒 岸田稚魚
初箒妻の月日の始まりぬ 庵達雄
声高の漁婦過ぎゆけり初箒 松本千恵女
山からの光がしなふ初箒 鎌倉佐弓
石段の一段ずつや初箒 山縣輝夫
福の座は母ゐるところ初箒 大木あまり 山の夢
臘梅に日の美しき初箒 遠藤梧逸
遠くまで松笠まろぶ初箒 本庄登志彦
門前の寸土払いぬ初箒 浜田波川
鳥が遺す実生いろいろ初箒 滝 春一
この家に生まれ小春の庭箒 藺草慶子
庭箒十日の菊に凭れあり 大島雄作
春山へもたせかけある庭箒 橋本鶏二
翳曳きて鈴虫を聞く庭箒 鈴木鷹夫 渚通り
霜の庭箒目なりに固まりぬ 高野清美
鶏頭にときどき触る庭箒 片山由美子 天弓
みな子なり霊まつ門に草箒 加舎白雄
啓蟄や幹にあづけし草箒 井上雪
小百姓の嬉しき布施や草箒 村上鬼城
新年の壁に吊るせり草箒 穴井 太
晩涼や彫師の膝の草箒 和泉昭子
晩秋やかりの宿りの草箒 金子せん女
空蝉のしがみついたり草箒 森無黄
立て懸て蛍這ひけり草箒 夏目漱石
草箒どれも坊主や返り花 阿部みどり女 笹鳴
草箒壁に吊るして深ねむり 穴井太 天籟雑唱
萩掃くや蜘蛛の囲巻きし草箒 龍胆 長谷川かな女
誰の忌や蝶をあつめて草箒 河原枇杷男 訶梨陀夜
雪ぼたるかの草箒竹箒 村瀬つとむ
*ひつじ枯れ酔つてよちよち箒売 細川加賀
トンネルを抜け十月の箒売 黒田杏子 水の扉
仙石線待ちて秋日の箒売 横山房子
又夢を来るは暮春の箒売 河原枇杷男 蝶座 以後
呼びとどむべき冬晴の箒売 斎藤玄 雁道
影が先づさし春昼の箒売 鈴木鷹夫 渚通り
春山の色に消えたる箒売り 中村苑子
松も過ぎお国訛の箒売り 園部光代
極月の路地深く来る箒売り 菖蒲あや あ や
盆過ぎし海を見てをり箒売 畠山譲二
秋風の濱に来てをり箒売 加倉井秋を 『午後の窓』
秩父より風花つれて箒売 野崎ゆり香
箒売り去りたる道の陽炎へり 大串 章
箒売り木枯沁みし茶色の瞳 八牧美喜子
箒売夏の蓬を見てをりぬ 鈴木鷹夫 春の門
箒売月の峠を越えきたり 中田剛 珠樹以後
行年の日影曳きけり箒売 小澤碧童 碧童句集
裏□に箒売来て春のこゑ 鈴木鷹夫 大津絵
連翹や今年まだ来ぬ箒売 古賀まり子
金縷梅のころの雲追い箒売り 河村四響
麦秋の利根を越え来し箒売 今井杏太郎
麦秋や箒かつぎて箒売 安住敦
●塵取
初冬の大塵取に塵少し 阿部みどり女 笹鳴
塵とりをこぼれし落葉かへりみる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
塵取と箒の間を鶫かな 日原傳
塵取にすこしかゝりて蟻の道 桜坡子
塵取になほ吹く風や鳥交る 飯田蛇笏 山廬集
塵取にはこびて藍を植ゑにけり 岡安迷子
塵取に今年の塵や掃納 泥谷竹舟
塵取に入れて戻りぬ蕗の薹 鈴鹿野風呂
塵取に啓蟄の虫あるあはれ 林翔 和紙
塵取に塵なく園の秋日和 池内たけし
塵取に尚吹く風や鳥交る 飯田蛇笏
塵取に押し込む桐の廣葉かな 桐一葉 正岡子規
塵取の手にも夕ベの蜘蛛の糸 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
塵取も夕日の中や日短き 銀漢 吉岡禅寺洞
塵取りにしほれてかゝる杉菜かな 松藤夏山 夏山句集
塵取をこぼるゝ塵や秋の暮 草城
墓の門に塵取かゝる盆会かな 芝不器男
大塵取日永の日影つくりけり 、 松藤夏山 夏山句集
枯菊に帚塵取休みをり 阿部みどり女 月下美人
秋日に憩へよ箒と塵取りを持ちつ妻よ 磯貝碧蹄館 握手
箒・塵取露けく下がり共同湯 高澤良一 随笑
虎落笛塵取に塵はなかりけり 五十崎古郷句集
銀杏散る巫女の箒に塵取に 郡良子
陽炎へるものはと見れば塵取か 池内たけし
鶯や塵取さげて老の妻 遠藤梧逸
●モップ
舟洗ふモツプ秋湖に浸しては 川崎慶子
光きてモップの棒の倒れたり 森田緑郎
●歯ブラシ
ガラスコップにつかはぬ歯ブラシ梅雨じめり 谷口桂子
壺の中歯ブラシ落ちてゐる夜長 皆吉司
教室に歯ブラシの列子雀来る 中村洋子
歯ブラシのつかれし毛先神無月 木谷はるか
歯ブラシを吾子にも与へ初手水 高田風人子
秋風の西国街道歯ブラシ立つ 坪内稔典
●耳掻き
あたゝかや耳掻當てし耳の垢 松根東洋城
べつ甲の耳掻使ふ初湯あと 下村ひろし 西陲集
もてあそぶ耳掻き定家忌なりけり 榎本好宏
ゆく春の耳掻き耳になじみけり 久保田万太郎 草の丈
ドラム缶の焚火耳掻きそろそろと 加倉井秋を 『真名井』
一本の耳掻棒と除夜の鐘 ひらのこぼ
初金比羅耳かき売も出てゐたり 永方裕子
啓蟄や耳掻き棒の塗剥げて 高澤良一 素抱
大年の耳掻棒が見付からず 小出秋光
夫使ひし耳掻き吾も冬の夜 田中英子
年行くや耳掻光る硯箱 普羅
春宵の耳掻き灯る耳の中 山崎千枝子
桐の実を見るは耳掻き使ふとき 岩淵喜代子 硝子の仲間
水引の耳掻ほどの花弁かな 大橋敦子 匂 玉
秋立つと耳掻いてゐておぼえけり 清水基吉 寒蕭々
筆立の中の耳掻き居待月 鈴木真砂女
筆箱の中に耳掻年の宿 四ツ谷龍
簪の耳掻きほどの草の花 高浜虚子
耳掻きの絮毛の煌と年を越す 中嶋秀子
耳掻きの鈴がちりちり春の風邪 三村純也
耳掻きをもつて入院走り梅雨 山田ひろむ
耳掻の綿毛の恍と年を越す 中嶋秀子
耳掻をつかふ恍惚猫やなぎ 稲垣きくの
耳掻購(か)い帰る東京の旱星 赤尾兜子
鹿角の耳かき買へり柿の秋 角川春樹 夢殿
●梯子
あやとりの梯子はずして藤袴 玖保律子
あやとりの舟や梯子や文化の日 石崎多寿子
いたどりの花へ降りゆく鉄梯子 金箱戈止夫
うぐひすのなかに梯子の短かかり 飯塚まさよし
うなぎやのせまき梯子の三の酉 車谷弘
おぼろ夜のよいしよよいしよと木の梯子 安藤尚子
おぼろ夜の湯の梯子して椿の湯 高澤良一 寒暑
かげろふに懸け余したる梯子かな 小山森生
きさらぎの麓よく見え梯子市 福田甲子雄
さへづりの空へ梯子を掛けにけり 脇 祥一
たをやかに柚子の木に入る長梯子(桂木柚子) 野澤節子 『存身』
とまるよりかけし昼餉の鉾梯子 田畑比古
ぴかぴかの梯子の先のさくらんぼ 小宮山青衣
ふうはりと梯子はづれて昼寝覚 木田千女
み仏の胸に梯子や御身拭 小田道知
やどり木に蜻蛉もかよへ捨梯子 辰下 俳諧撰集玉藻集
ゐのこづち梯子久しく使はぬかな 増山美島
ソドム見え青潮に浮く縄梯子 八木三日女 石柱の賦
バナナ採る梯子かついで園案内 篠原鳳作
ホップ摘み高き梯子の遠ちが見え 猪俣千代子 秘 色
ボーイスカウト人梯子して巣箱懸く 相澤清彦
ヤコブが見し一つの梯子秋天へ 田川飛旅子 『山法師』
一天に一滴もなき梯子乗り 秋元不死男
一本の梯子に一人松手入れ 今瀬剛一
三輪山へかかげし梯子松手入 木村蕪城
中空に寝ころぶ人や梯子乗 大谷美和子
二階への梯子ぎしぎし遍路宿 今川青風
五月雨の天へふるびし竹梯子 平井照敏 天上大風
井戸替の梯子降りゆく赤ふどし 山崎羅春「弥彦嶺」
享保雛かかえて暗き蔵梯子 寺島勝子
亭々に菖蒲葺きゆく梯子かな 大場白水郎 散木集
人が逝く梨に梯子を懸けしまま 辻田克巳
冬支度一つに長き梯子かな 後藤兼志
冬日向夫の庭師の高梯子 蕪木啓子
冬晴のつづきぬ梯子立てかけて 中村明子
冬泉暗しと梯子負ひ歩く 佐藤鬼房 地楡
冬空へとどかぬ梯子婚約す 対馬康子 愛国
出初式使ひし梯子天に畳む 橋本美代子
出初式天なる雲に梯子掛け 野尻遊星
出初式梯子の空の上天気 富安風生
初富士やさかさにかかる梯子乗 吉田冬葉
初市の梯子のうしろ通りけり 栗田九霄子
初御空天使の梯子かかりをり 大東照子
初東風や一樹にのびる長梯子 草深昌子
剪定の青空拡む長梯子 後藤一朗
卒業すプールの梯子垂直に 宮坂静生 樹下
危き哉古き軒端に梯子掛け菖蒲葺 尾崎紅葉 紅葉山人俳句集
卸したる雪に梯子の脚埋まる 長田等
叢より梯子が立ちて夜涼なり 鈴木鷹夫 渚通り
啓蟄や蔵の窓より縄梯子 仲田益子
囀に届かぬ梯子ありにけり 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
土用波寄するや荘の裏梯子 久米正雄 返り花
土間梯子ひらひらおりて風蝶花 平井さち子 完流
地に印す梯子の跡や秋海棠 会津八一
垂直の梯子西日に書を探す 栗田やすし
埋火の二階の闇へ梯子かな 楠目橙黄子 橙圃
夏空へ榧の手入の梯子かな 金子せん女
夏草に隠る梯子の一段目 鈴木節子(門)
夏雲に梯子を掛けしままの亡父 斉藤すず子
夏鶯道のをはりは梯子かな 田中裕明「先生から手紙」
外梯子並めて梅雨めくスラム街 石原舟月
外梯子濡るる春雪降るかぎり 田村了咲
夜の空へ梯子の掛かる冬隣 小口信治
夜の鰻突くとておろす蔓梯子 藤原 如水
夜天より梯子降り来て梅を干す 三橋鷹女「羊歯地獄」
大梯子掛け入学者発表す 佐伯哲草
天につながる梯子雪ふる奥に見ゆ 寺田京子 日の鷹
天に登る梯子の途中鵙が呼ぶ 加藤昭夫
天に首出して柚子摘む高梯子 坂根白風子 『彩雲』
天へ行く綱梯子のごと烏瓜 関森勝夫
天上大風梯子乗りして遠見の形 北野民夫
天井に梯子秋蚕のねむりどき 殿村菟絲子 『樹下』
天井に秋日のかけら裏梯子 能村登四郎
天女降る縄梯子垂れ冬田中 鶴田育久
天高く梯子は空をせがむなり 仁藤さくら
太宰忌を梯子酒して鳥となる 工藤克巳
奈落涼し天井を斫る横梯子 西本一都 景色
子は育つ柱・梯子に苔咲きつつ 中村草田男「母郷行」
寒禽の寺にアルミの梯子照り 本宮哲郎
屋根替に長き梯子の盆地空 野澤節子 黄 炎
屋根替の男に梯子とどきけり 黒田杏子
山吹を捨てんと散らす梯子段 川崎展宏
山笑う梯子のかかり具合かな 永末恵子 発色
山葵田へ青水無月の粗梯子 鈴木鷹夫 渚通り
岩頭に陽炎 揺れる鉄梯子 小原康司
帝国の梯子しずかに朽ちゆけり 久保 純夫
帰燕の宙へ農夫が梯子突き出せり 山口 伸
年玉の袋に加賀の梯子乗り 大類つとむ
影の木に影の梯子や囀れり 遠山 陽子
御城下の欅と競ひ梯子乗り 中村純子 『花守』
御臍に梯子参らせお身拭 藤村うらら
御身拭御胸に白木の梯子掛け 都合ナルミ
扉は叩かれ秘符は祈られこの縄梯子 高柳重信
掴みどころなし凍天の縄梯子 河合凱夫 飛礫
断食の首あきらかに夜の梯子 川端鱗太
新居まだ梯子いらざる松手入 平尾圭太
施餓鬼棚組む島人の高梯子 渡辺幸恵
旗竿と梯子と洋杖 明治節 伊丹三樹彦
早池峰山に梯子たてかけホップ摘む 梅森サタ
早池峰山に雲一つなき梯子乗 小原啄葉
春の夢縄の梯子をのぼらせて はらだかおる
春めくと梯子の上で父が言ふ 菖蒲あや 路 地
春眠の船の寝台梯子垂れ 大橋敦子
昭和史のをはりも春の人梯子 桑原三郎 春亂
昼寐して梯子とられし二階哉 蕉雨亭
昼餉どき日にあづけ置く柚子梯子 田中英子 『浪花津』
時雨るるや庭師梯子を下りてこず 田中絹子
時雨るゝや暗車磨が舁く梯子 米沢吾亦紅 童顔
晒井のたらりと落す縄梯子 北村仁子
晩秋や梯子の足に柿の籠 阿部みどり女 笹鳴
暮れる基地梯子かかえてよこぎるは 井沢唯夫
月の梯子のぼりてくらき操舵室 五十嵐播水 埠頭
月名残子らのぼりをる稲架梯子 金尾梅の門 古志の歌
月山へ手足を広げ梯子乗 阿部月山子
木犀の天へ架けたき鉄梯子 鍵和田[ゆう]子 浮標
本尊に梯子立て掛け御身拭 小関忠彦
松の木に梯子が長し女正月 藤田湘子 てんてん
松手入梯子が邪魔になりにけり 細川加賀 『玉虫』
枇杷*もぎのしなふ梯子や沖焼けて 空林美恵子
枇杷咲けりいつも心に梯子かけ 丸山嵐人
枝切りの梯子を雲の峰に掛け 大塩千代
枝打ちの梯子に岡部清次郎 鈴木鷹夫 大津絵
枝打ちの梯子残して山眠る 冨田みのる
枝打の足が梯子を探しをる 吉沼等外
枯れ蓮やホテルの鉄の裏梯子 石川文子
柚子の木に梯子を置けば押し戻す 今瀬剛一
柚子を摘む人の数だけ梯子立つ 里川水章
柚子摘や女ばかりの高梯子 松岡英士
柚子梯子日にあづけ置く昼餉どき 田中英子
柿の実を*もぐより風の風梯子 中村苑子
柿の木に梯子そのまま雪二尺 宇佐美魚目 秋収冬蔵
柿を*もぐ梯子ずらして空ずらす 大川幸子 『小春日和』
桃採のすみし梯子をあちこちに 長谷川櫂 天球
桃採の梯子を誰も降りて来ず 三橋敏雄 長濤
桑はこぶ蚕屋の二階へ外梯子 宇佐美一枝
桜咲きぬサイロに梯子かけしまま 加倉井秋を 午後の窓
梅の実をもぐたび梯子軋みたり 中田剛 珠樹以後
梅雨の海ヤコブの梯子までは遠し 成瀬櫻桃子 素心
梯子あり颱風の目の青空へ 西東三鬼
梯子かけて屋根の南瓜を食ふ日かな 柑子句集 籾山柑子
梯子から梯子が伸びて出初式 岩本あき子
梯子の先も枯木も天に向き明るし 菖蒲あや 路 地
梯子より人の匂ひや神無月 桂信子
梯子より足下りてくる暮の秋 岡地蝶児
梯子乗ま青き空がまはりけり 細川加賀
梯子乗りあはれ吹かるる音聞こゆ 花田春兆
梯子乗り天を仰ぎてはじまれり 宮田富昭
梯子乗富士へ乗り出す膝八艘 高澤良一 随笑
梯子乗蒼天ひびきはじめけり 小野恵美子
梯子持ち去る下萌えに梯子の型 今瀬剛一
梯子掛けありて屋根にも麻を干す 富岡桐人「かつらぎ選集」
梯子段とんとん降りる菊日和 藤岡筑邨
梯子段一歩より闇秋蚕飼ふ 木村蕪城
梯子段広し二階は寒からん 真下喜太郎
梯子湯のどこを切っても雪が降る 武田和郎
梯子箪笥きしませ上る雲の峰 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
梯子継ぎ危く棕梠を剥ぎゐたり 兼巻旦流子
梯子車が磨く除日の信号機 山崎冨美子
棕櫚の花梯子とゞかぬ高さかな 棕櫚の花 正岡子規
棕櫚剥ぐと幹に掛けたる高梯子 藤松遊子
横抱きの梯子に垂れて枯葛 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
櫨ちぎる梯子の下に落ちゆく日 属朔夏
次なるは「帆掛」でござい梯子乗り 高澤良一 随笑
歳晩の梯子がオリオン座の方ヘ 高野ムツオ 陽炎の家
歳晩や大原へ帰る梯子売 日野草城
母船より縄梯子垂る良夜かな 冨田みのる
母迎ふ苧殻の梯子低うして 向井久子
毛虫焼く梯子の上の五十歳 西東三鬼
水澄むや梯子の影が草の中 田中裕明 山信
沢梯子春の氷柱を鳴らし攀づ 加藤知世子 花 季
海山に伸びる梯子や出初式 中川文子
海市より垂らし呉れたる縄梯子 櫛原希伊子
炉辺より梯子段あり月の寺 木村蕪城 一位
炎天に届かぬ梯子持ち出せり 樋口游魚
炎天の梯子昏きにかつぎ入る 橋本多佳子「紅絲」
炭屋死す高きに梯子かけてあり 菖蒲あや 路 地
煤梯子触れて奏づる華鬘あり 山本梅史
熟れ柿の梢に伸ばす長梯子 石川文子
爐辺より梯子段あり月の寺 木村蕪城
男しか踏まぬ梯子に柿の花 渋谷道
白牡丹耀りくらがりの梯子段 桂信子 花影
盤梯の火の子の飛ふか星一つ 正岡子規
直立に近き梯子や柚子を摘む 大橋敦子
真つ青な竹梯子吊り冬構 岡本 眸
短日や庭師の残す高梯子 川崎俊子
石楠花や賀茂源流の岩梯子 原 柯城
秋晴や庭師の梯子くぐり訪ふ 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
秋空に梯子つきさす庭師かな 荻原邦弘
秋高く梯子の先の塀を出づ 池田秀水
種芋や旅籠の急な梯子段 大峯あきら
積む雪に梯子の根置き架線なおす 古沢太穂 古沢太穂句集
紅梅にぬつと出でたる梯子かな 岡部誠
紅茸へ小人の梯子絵本かな 嶋田麻紀
細梯子足袋裏白くはづみけり 小島千架子
結び目に鬼を棲まわす縄梯子 大西泰世 椿事
結界に冬空が見ゆ縄梯子 河合凱夫 飛礫
繭部屋に立てたる梯子雀の子 藤田あけ烏 赤松
羽抜鶏梯子見上げてゆきにけり 河合照子
聖鐘へ深雪明りの梯子とどく 宮津昭彦
背負ひ梯子借りて返して花八ッ手 皆川白陀
脇宮は梯子掛けながし年移る 宮武寒々 朱卓
腎病むや耀ひ止まぬ夏梯子 齋藤玄 『狩眼』
臘梅を剪る蒼天に梯子架け 堀口星眠 営巣期
花桐や屋根の葺替長梯子 小杉余子 余子句選
花薄梯子つれなくこけかゝり 服部嵐雪
蓮咲いて吾に届かぬ縄梯子 柿本多映
蓮掘の下りる梯子であるらしく 須田冨美子
蔵梯子残る寒さに軋みけり 大橋一久子
薬掘る巌におろせし縄梯子 目黒白水
藁氷る地へむらさきに梯子かげ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
虫鳴くや梯子かけたる洋書棚 大峯あきら 宇宙塵
蚕の部屋へ丸太刻みし掛梯子 中田 樵杖
蚤ひとつ魯般の梯子のぼりけり 龍岡晋
蛾とのぼる合掌部落の縄梯子 桂信子 草影
螢袋咲く山小屋の裏梯子 柴田白葉女 『月の笛』
蟻梯子つくつてゐると見ゆる蟻 京極杞陽
行く秋に染められてゆく梯子かな 根上かえる
袋掛林檎一家の太梯子 村上冬燕
裏の梯子に手足は揃つたEcce Homo! 加藤郁乎
親梯子よりの子梯子松手入 魚井 苔石
踏みはづすふりも加へて梯子乗 近藤酔舟
迷わぬための芋殻の梯子乾ききる 日下部正治
連翹や垣ゆすり行く梯子売 柑子句集 籾山柑子
過ぎてゆく青空梯子はずされて 穴井太 天籟雑唱
酒倉の名のある梯子松手入 後藤夜半 底紅
鉄梯子下りて禊や滝の行 鳥居忠一
鎌倉やぼんぼり祭の梯子酒 清水基吉
鐘楼へ短き梯子年惜しむ 立本美知代
長梯子さらに伸ばして年用意 早田維紀子
長梯子何処へ掛けても師走空 高澤良一 ねずみのこまくら
長梯子松が支へて松手入 片山由美子 天弓
門内に梯子の見えて緑摘む 大気十潮
降りてくるもの待つ梯子沙羅の花 二村典子
雁帰るすこし軋める納屋梯子 三原清暁
雁渡るあやとりの梯子は消え 寺山修司 花粉航海
雛の間へ母が軋ます裏梯子 伊藤 清
雪の嵩亡夫の掛けたるこの梯子 中村梨枝
雪卸す屋根梯子より暮れにけり 吉澤 卯一
雪卸す雪へ梯子を深くさし 山崎ひさを
雪囲ひ妻の支へる高梯子 羽吹利夫
雪囲ひ解きし梯子の置かれあり 桂信子 花影
青空に足踏み入れて梯子乗り 龍神悠紀子
非常梯子北風へ少女の裾ふくらむ 田川飛旅子 花文字
風が鳴る銀河へ船の鐵梯子 中島斌男
風鈴や選句に占めし梯子段 渡辺水巴 白日
飾窓の中に梯子や梅雨の漏り 宮武寒々 朱卓
養花天梯子の先の消えかかり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
高き天植木屋梯子置いて去る 松本旭
高き木に梯子かけたり冬構 高浜虚子
鯨切るや梯子なんぞを取散らし 野村喜舟 小石川
鯱よりも亀のめでたし梯子乗 茂恵一郎
鰡見梯子一段づつに海を嵌め 神蔵 器
鳥雲にぬれてはかはく反り梯子 三橋鷹女
鳥雲に踏みはづしたる梯子段 川崎展宏
麦秋の金剛峯寺の大梯子 瀧澤伊代次
龍太居の松みどり摘む高梯子 上野さち子
●脚立
ぐらぐらの脚立据ゑては梅をもぐ 上野さち子
ロビーにも脚立働く十二月 山田弘子 こぶし坂
剪定のおとやみ脚立たたむ音 西本一都 景色
剪定の脚立の足の掻きし土 波多野爽波 『一筆』
剪定の脚立尺余の雪に挿す 内出ときを
口ビーにも脚立働く十二月 山田弘子
垂直に虹の脚立つ暮春かな 廣瀬直人
婚の荷へ脚立買ひ足す花ぐもり 吉田紫乃
手の範囲脚立の範囲袋掛 山下美典
数へ日の乗つてあやふき脚立かな 池田秀水
木守柿風にのこして脚立降る 戸恒東人
松手入脚立にラヂオぶらさげて 松本明
林檎*もぐ脚立に半田山臨み 小関忠彦
林檎もぐ脚立の下にいつも猫 西本一都 景色
林檎園脚立を夕陽あたたむる 高澤良一 ももすずめ
林檎摘花の脚立寄せ合ひ夫婦老ふ 宮津昭彦
林檎摘花脚立の階を一つ下り 清崎敏郎
歳晩の脚立に妻の指図待つ 安居正浩
沖ぼろに夏至の小雨や脚立釣り 増田龍雨 龍雨句集
父の日や脚立の脚に亡父の名 長友砂峰
白魚火や脚立の裾の水走り 高濱年尾 年尾句集
脚立で採るむかごはらはら大菩薩 古沢太穂
脚立より下りて地上や秋の雲 根岸善行
脚立より帽子下りくる袋掛 片山由美子 水精
蛇の髭の花を跨ぎて脚立かな 片山草香(童子)
裏畑の脚立のぼれば盆の過ぐ 神蔵 器
鷽替を脚立押へて見てをりぬ ふけとしこ
●ライター
ライターで照らす胎内仏涼し 平畑那木
ライターのありあり燃ゆる毛皮かな 中村汀女
ライターのポケットとして冬服に 河村木舟
ライターの火のポポポポと滝涸るる 秋元不死男(1901-77)
ライターの火や燈籠の灯のまへに 百合山羽公 寒雁
ライターの火映ゆる歯鏡鳥曇り 宮武寒々 朱卓
ライターの炎ひとひら樹氷林 高橋正子
ライターの青火寒鯉水に澄む 三谷昭 獣身
ライターは落すもの夏眠きかな 石川桂郎 高蘆
ライターをつけてプールにまだ濡れず 平畑静塔
ライターをまさぐりをれば夏鴬 横山白虹
傘ぬちにライターを摩る月見草 宮武寒々 朱卓
冬ざれや手にライターの握り皺 高井北杜
待てど来ずライターで焼く月見草 寺山修司(1935-83)
毛虫焼くための百円ライターなり 藤田湘子 てんてん
秋の野にライターの火の爪立つる 皆吉司
立待のライター仏壇に戻す 池田澄子
行きずりのライター借りて落葉焚 高橋利雄
●火打ち石
かじか啼て袖なつかしき火打石 蕪村遺稿 秋
こぶし咲く商家に江戸の火打石 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
むめが香やたが売喰ひの火打石 中村史邦
何もなし飛騨山中の火打ち石 津沢マサ子 華蝕の海
冷房の淡きところの火打石 能村研三 鷹の木
初灯明上ぐ火打石うちにけり 関戸高敬
嵯峨菊は火花打ち出す燧石 高澤良一 ぱらりとせ
左義長の宝前におく火打石 西村三穂子
炎昼や離れてふたつ火打石 花谷和子
熊手また売れたり火打ち石をちょい 高澤良一 燕音
燧石使つてみたき落葉あり 後藤比奈夫 めんない千鳥
燧石修二会の行の火を点す 木村閑流
白玉や連中といふ火打石 加藤耕子
虫声如雨燧石すりこぼす 雑草 長谷川零餘子
雪国の雪の奥より火打石 穴井太 土語
鞴祭燧石にて火を創り 平野照子
●マッチ
あたらしきマッチよくつく涼みかな 成瀬桜桃子 風色
おしろいの蕾はマッチつんつんつん 嶋田麻紀
おびたゞしきマッチの屑や破れ火鉢 寺田寅彦
かじかめる手にマツチすり渡しけり 星野立子
つるやまでマッチもらひにしぐれかな 室生犀星 犀星発句集
なん本もマッチの棒を消し海風に話す 尾崎放哉
ストーブのそばに小さきマッチかな 京極杞陽 くくたち下巻
バット吸ふ梅雨のマッチの暗く灯り 成瀬正とし 星月夜
バツハ聴く蛇をマッチの火に集め 栗林千津
ポケツトのマッチが誘惑枯の中 原田青児
ポプラの木凩去りてマッチ棒 吉田茂子
マッチすれば森の揺るるよ青葉木菟 関森勝夫
マッチすれば風どこからやつくしんぼ 碧雲居句集 大谷碧雲居
マッチなき暮しいつより秋時雨 橋本榮治 逆旅
マッチの火強く匂ひぬ花疲 岩崎照子
マッチの火消えたる闇の菊人形 細川加賀 生身魂
マッチの火燃えて黄色やセルの胸 大峯あきら
マッチの火肩にあふれぬ霧の中 畑耕一
マッチの火虚空へとびし夜釣かな 米澤吾亦紅
マッチの火雪に投げたる恋慕かな 遠山 陽子
マッチの炎の白色男ら厚着して 桜井博道 海上
マッチの絵五十三次初時雨 河野南海
マッチの軸散りをり昼の炉は淋し 高濱年尾 年尾句集
マッチの軸頭そろえて冬逞し 金子兜太 少年/生長
マッチの頭くつついてゐる復活祭 大石雄鬼
マッチの頭薬火になる速さ見えて冬 田川飛旅子 花文字
マッチややにあたたかき色となるを待つ 篠原梵 雨
マッチ売の少女死なせし雪はげし 成瀬櫻桃子 素心
マッチ売る少女の点けし聖樹かも ふけとしこ 鎌の刃
マッチ摺れば玻璃戸に燃えて雪の夜半 西山泊雲 泊雲句集
マッチ擦つて真昼があおし魚市場 寺田京子 日の鷹
マッチ擦るごとき恋の冬帽子 寺田京子 日の鷹
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや 寺山修司
マッチ擦る星の一生の一端に 高橋正子
マッチ擦る横浜の坂冬日満つ 皆吉司
マッチ擦る闇匂ひあり沈丁花 文挟夫佐恵 黄 瀬
マッチ擦れば森の揺るるよ青葉木莵 関森勝夫
マッチ擦れば焔うるはし閑古鳥 渡邊水巴
マッチ擦れば真昼の匂ひ春の芝 緒方句狂
マッチ箱に玉虫入れて都の子 金子兜太
マツチすつた顔が寒い闇のそこに消えた 人間を彫る 大橋裸木
マツチの棒で耳かいて暮れてる 尾崎放哉
マツチ擦れば発火すはるかな白鳥も 高野ムツオ 陽炎の家
一本のマッチをすれば湖は霧 富澤赤黄男
二本目のマッチ明るし時雨宿 谷口桂子
余分のマッチ乞へり単独登攀者 篠田悌二郎
冬も終りの外套 数珠とマッチが出て 伊丹三樹彦
冬日なき芝にマッチの軸こぼす 横山白虹
冬灯蝶々飛び出すマッチ箱 二村典子
冬青空マッチの軸が水に浮き 桜井博道 海上
劫初の火その子・孫(うまご)のその裔の飛火ぞマッチ摺るに生れたる 高橋睦郎 飲食
去年今年一と擦りに噴くマッチの火 成田千空 地霊
呵々と寒し君もマッチを持たざるか 林原耒井 蜩
咳けば土管の中にマッチの火 石川桂郎 含羞
夜晒の寒天干し場にマッチ擦る 田中冬二 俳句拾遺
広重の版画のマッチ初竃 河野頼人
意志表示せまり声なきこえを背にただ掌の中にマッチ擦るのみ 岸上大作
捨てマッチ地に燃え青春は霧か 宮坂静生 山開
擲げ棄てしマツチの火らし霧の中 高浜虚子
昆布の村寒暁マッチ明りほど 鷹羽狩行
木の実独楽マッチの脛を見せて孤独 細谷源二
末枯の陽よりも濃くてマツチの火 大野林火
歳末の路上ちらばるマッチの軸 穴井太 ゆうひ領
水打つて斜めに流すマッチ棒 岡田史乃
汗の服のポケツトにマッチこぼれいて 古沢太穂 古沢太穂句集
涸川や生きゐるものにマッチの炎 成瀬桜桃子 風色
湖は霧一本のマッチをすれば 富澤赤黄男
無神の旅あかつき岬をマツチで燃し 金子兜太(1919-)
玉苗にマッチの煙や誘蛾燈 西山泊雲 泊雲句集
祖父逝きて蟻とぢこめしマッチ箱 皆吉司
紙雛の衛士へ篝のマッチ棒 嶋田麻紀
薄霜や母の濡れ手がマッチつまむ 桜井博道 海上
薔薇よりも淋しき色にマッチの焔 金子兜太「少年」
蝶眩しマッチかすかに燃える音 三谷昭 獣身
親切のマッチあかりが稲架てらす 京極杞陽
誘蛾燈とぼしきマッチすりにけり 銀漢 吉岡禪寺洞
誘蛾燈点すマッチの消えやすく 田中冬二 麦ほこり
霧に擦るマッチのばうと硫黄の香 高澤良一 随笑
露地晩夏風にマッチの焔先反り 神尾久美子 掌
青野ゆく空のマッチを捨てきれず 岸本真紀郎
魚の絵のマッチ点すか雪をんな 佐藤喜代子 『水の綺羅』
鷭鳴くや男の厚きマッチ箱 飯島晴子
いっぽんの燐寸の燃やす火のいみじき 日野草城
お返しは小燐寸一つ餅配 池田世津子
しばらくはつづく不幸と燐寸の火 徳弘喜子
ふしだらに燐寸が立ってさくら咲く 坪内稔典
またたく北よ島破(ぬ)けの黄燐燐寸 折笠美秋 虎嘯記
下闇や磨りし燐寸の一とあかり 楠目橙黄子 橙圃
塵穴に燐寸一本冬日和 後藤夜半 底紅
夜の潟の鳰驚かし燐寸摺る 西村公鳳
寒き燐寸十指で囲み教師業 齋藤愼爾
小春日の空家の椽に燐寸哉 内田百間
形代を燐寸の箱の下にせる 相生垣瓜人 微茫集
掌にかこむ燐寸が濡れし著莪照らす 加藤楸邨
摩り跡に寒さただよふ燐寸箱 源 鬼彦
春の家はみ出してゐる燐寸棒 小泉八重子
春の道四、五人が行く燐寸が行く 坪内稔典
末枯に一とき囲む燐寸の火 沢木欣一
朱の色の燐寸の頭一の酉 亀丸公俊
杢兵衛の燐寸箱の字春灯 角光雄
桃印の燐寸とろとろ揚雲雀 坪内稔典
榾の火や燐寸入れある割れ柱 雑草 長谷川零餘子
河童忌の燐寸一本すりもして 加藤耕子
燐寸(まっち)摺りてゴビの砂漠の虫を見き 加藤秋邨 沙漠の鶴
燐寸が燃やした束の間の女体の嵩 林田紀音夫
燐寸しめり帰雁の閑に一藁屋 古舘曹人 能登の蛙
燐寸すりて人を送れるしぐれかな 室生犀星 犀星発句集
燐寸すれば森の揺るるよ青葉木莵 関森勝夫
燐寸すれば路傍を照らす年の暮 萩原麦草 麦嵐
燐寸摺りてゴビの沙漠の虫を見き 加藤楸邨
燐寸擦りたり冬の来る匂ひせり 永野由美子
燐寸擦る屋根裏部屋の蜘蛛の絲 佐々木六戈 百韻反故 初學
燐寸擦る微臭きさらぎ半ばなり 石田京子
燐寸擦る音ぴしぴしと枯るる潟 齋藤愼爾
燐寸買ふ霜ふけし家の蔀かな 室生犀星 魚眠洞發句集
燐寸賣るともし火細し枯柳 枯柳 正岡子規
瓦斯つける袂の燐寸冬籠 宵曲
秋の夜の燐寸の火色さす畳 加藤楸邨
秋雨の瓦斯がとびつく燐寸かな 中村汀女(1900-88)
笹鳴きや妻いくたびも燐寸擦る 加倉井秋を 『胡桃』
芝を焼く美しき火の燐寸かな 中村汀女
花種用喇叭印の燐寸箱 池田澄子
草萌や燐寸ももてるみどりの火 耕二
走る霧紅軸燐寸芝に散り 田川飛旅子 花文字
●葉書
あるが中の兄の葉書も梅雨さなか 原石鼎 花影以後
さかさまに葉書かきゐて秋夕 室生犀星 犀星発句集
しやぼん玉割れて葉書を濡らしけり 奥坂まや
また村がもめているという葉書が雪にぬれてきた 栗林一石路
みちのくより葉書一枚 風花す 佐々木栄子
バレンタインデーを違へず来し葉書 行方克巳
ピアニストからの葉書や額の花 仙田洋子 雲は王冠
一枚の時雨に濡れて来し葉書 瀬川春暁
一枚の葉書炎暑を逃げきたる 小泉八重子
一枚の葉書運ばれ枯野の家 桂信子 黄 瀬
一枚の虚子の葉書に忌を修す 小路紫峡
一通の茅舎の葉書黴を拭く 小原菁々子
亡き父にとゞく葉書や西行忌 寺山修司 花粉航海
侘助や褪せし葉書の男文字 谷口桂子
出代の国に著きたる葉書かな 相島虚吼
別れようとし三人で書く一枚の葉書 シヤツと雑草 栗林一石路
十薬の白さこの世の捨て葉書 鍵和田釉子
台風圏飛ばさぬ葉書飛ばさぬ帽 磯貝碧蹄館 握手
寄せ書の葉書の上を柳絮飛ぶ 高浜虚子
師より来し葉書一枚露の宿 成瀬正とし 星月夜
息あらく葉書も焼かん冬仕度 対馬康子 吾亦紅
懐に葉書を買つて梅咲く町 遠藤梧逸
新婚の雪がにじみし葉書つく 永田耕一郎 海絣
既に昼団扇の上に葉書載り 木村蕪城 寒泉
春銀座また出し忘れたる葉書ここ 永井龍男
暑中見舞と太字四字の子の葉書 志摩知子
松蝉や葉書・破瓜・墓・馬鹿・破壊 田川飛旅子 『山法師』
松過ぎの葉書一枚読む日暮 廣瀬直人
桜川水の遅速を映しけり「御」を消して出す返信葉書 島田幸典
洗ひたる蕪の上の葉書かな 西川章夫
海の青滲む葉書に数行余り 林田紀音夫
灯火親し葉書あるだけ書いてしまふ 加藤三七子
無事でいた葉書一枚 加賀谷灰人
礼帳や埃及よりの葉書など 松瀬青々
祖父宛の茂吉の葉書赤光忌 山下 功
秋風の柱に凭れ読む葉書 西村和子 夏帽子
胸の上に仕事はじめの葉書束 石田波郷
船乗りになったと葉書 岬の教員室 伊丹公子 陶器の天使
葉書にも続きのありぬ雁来紅 石川文子
葉書ぬりつぶしたる光椿うらら 梅林句屑 喜谷六花
葉書一枚颱風を来し細字がき 川崎展宏
葉書押印機秋夜明日まで音蔵ふ 磯貝碧蹄館 握手
葉書来てから暮るるばかりの家となり シヤツと雑草 栗林一石路
遺書となる葉書一枚敗戦日 森田和子
野分に身起こし葉書五円を憤る 冨永寒四郎
針金を巻いて昼顔手に葉書 川崎展宏 冬
鰯雲読みし葉書は手に白し 木村蕪城 一位
鴬に父の葉書の荒さかな 永田耕衣 加古*傲霜
麦秋や葉書一枚野を流る 誓子
●裁縫具
●鋏
いさよひや鋏を鳴らす洋裁師 村山古郷
かなかなや絹の海ゆく裁鋏 澁谷道
きりぎりす大裁ち鋏鳴るごとく 平井照敏 天上大風
ひばりへ光る農着の上の裁ち鋏 友岡子郷 遠方
フランネルの上に鈴鳴る裁鋏 中山純子 沙羅
妻留守の裁ち鋏鱧の皮を切る 岡本圭岳
布を裁つ鋏の音も聖五月 岩瀬鴻水
形代を裁つ和鋏のよく切れて 草間時彦 櫻山
旅せむと夜業いく夜の裁鋏 桂石裕子
木耳や母の遺せし裁鋏 秋元不死男
残暑なほ置かれて久し裁ち鋏 久志妙子
母の日やそのありし日の裁ち鋏 菅裸馬
色鳥や日のぬくもりの裁鋏 斎藤道子
花冷えやずしりと重き裁鋏 八染藍子
花冷や古りても貸さぬ裁鋏 満佐子
裁ちもののごとく葡萄に鋏入れ 鷹羽狩行
裁ち鋏そばに青い陽の少年居り 駒走鷹志
裁ち鋏月をよそなる切れ味に 中村汀女
裁鋏ひかりて波の寒さかな 中山純子 沙 羅以後
裁鋏春めく布地やはらかし 岡田晏司子
のぼりくだる大花鋏かつぎ鈴鹿 阿部完市 にもつは絵馬
わがほとりもつとも冴ゆる花鋏 古賀まり子
初午や研ぎものに出す花鋏 花尻 万博
封ひらく薔薇を剪りたる花鋏 猪俣千代子 堆 朱
押入に炎昼古き花鋏 殿村莵絲子 牡 丹
春めくや先づ研ぎに出す花鋏 古賀まり子
春月や生活をかけし花鋏 古賀まり子 降誕歌
朝寒のぬくめてつかふ花鋏 うまきいつこ
木瓜剪りしばかりに曇る花鋏 関成美
母に娘に十一月の花鋏 菅原鬨也
白菊のしづくつめたし花鋏 飯田蛇笏 山廬集
白露に置かれしままの花鋏 桑江良太
花鋏つかふ眉間にいなびかり 朝倉和江
花鋏つゆけき石に置かれたる 木下夕爾
花鋏ひと冬を身に風邪栖ませ 佐野美智
花鋏夜の泉へとしづめたし 朝倉和江
花鋏忘れしは枯木賊の辺 岡本差知子
花鋏手に春愁を断ちがたし 高木美沙子
花鋏持ちて秋思をそらしけり 朝倉和江
花鋏持つとき春の動きけり 藤間美枝
花鋏磨ぎ巌冬の香をたたす 朝倉和江
花鋏露にまぶれて鳴りにけり 吉屋信子
花鋏露にまみれて鳴りにけり 吉屋信子
花鋏露の秋草えらむべく 中村汀女
花鋏静かに置きぬ菊の前 椎橋清翠
花鋏高くかざして紫苑切る 椋砂東
花鋏鳴らし佐保姫安房に居り 武田和郎
花鋏鳴る春暁の夢ふかし 金尾梅の門 古志の歌
苧殻箸剪る花鋏新しく 大場美夜子
草蜉蝣発たせて鳴らす花鋏 山口葭子
菱の実の刺を切るなる花鋏 久保田 北朗
薔薇活けて外料病室に花鋏 品川鈴子
薫風や艶戻りたる花鋏 朝倉和江
蜩に忘れ置かれし花鋏 谷中隆子
飛燕あれは夢に落下の花鋏 市野記余子
麻衣音よくひびき花鋏 野澤節子 黄 炎
黄鶲をおどろかしたる花鋏 飴山 實
「鋏、庖丁、かみそり研ぎ 研ぎやでござい」研いで貰おうか 橋本夢道
ある寺に華会の鋏鳴る春夜 森川暁水 淀
がくがくと鋏揺れつつ蟹よぎる 山口誓子
ざりがにの鋏かざして後づさる 小川ユキ子
とまれ弱者蟹は目を立て鋏あげ 福田蓼汀 秋風挽歌
なまくらな鋏を使ふ大暑かな 高澤良一 素抱
ひそやかな鋏の音を萩にたて 高田正子
まづ鋏上げてざりがに歩み出す 斎藤正仁
ゆるゆるの鋏のかなめ雛祭 辻桃子
よく切れる鋏おそろし水仙花 高橋淡路女 梶の葉
よく剪るる鋏失せけり黴の宿 神野三巴女
アネモネ剪る鋏に匂ひうつしつつ 古賀まり子
チゴガニの鋏上げ下げバッタンコ 高澤良一 寒暑
チリと鳴る鋏の小鈴薺爪 小西須麻
ドイツより肉切鋏ぼたん雪 鳥居美智子
パンを買ふ主婦は鋏を持ちし蟹 田川飛旅子 『使徒の眼』
一便に鋏を入るる涼あらた 阿部みどり女 『雪嶺』
一斉に鋏み振り上げ汐まねき 和才ふさ子
人は核蟹は鋏で戦へり 富重かずま(耕)
仕上りの鋏鳴らして雪吊師 三田絽十
先生に鋏を贈る春*はやて 宮坂静生 樹下
冬雲を截るや庭師の大鋏 山田健弘
剪るは白薔薇か鋏の鋭き音は 加倉井秋を 『武蔵野抄』
剪定の一人の鋏音を立て 深見けん二
剪定の枝落ち鋏其の位置に 高浜虚子
剪定の鋏の音に近づきぬ 深見けん二
労務者と同じ鋏にみかん狩る 百合山羽公 寒雁
右の手に鋏左に茄子三つ 今井つる女
和鋏の冬芽を払ふ音密に 平井照敏 天上大風
和鋏の鈴耳につく多佳子の忌 鳥居美智子
嚢駝来て寒ンの鋏を鳴らしけり 久保田万太郎 流寓抄以後
壁際に錆ふ鋏や雪解風 木村里風子
夏来ぬとまた長鋏(ちょうきょう)を弾ずらく 夏目漱石 明治三十年
夜なべするや舌切雀の鋏鳴らし 鈴木栄子
夜なべの母舌切雀の鋏鳴らし 鈴木栄子
夜の梅鋏のごとくひらく足 柴田千晶
夜の色の葡萄に鋏さしいれし 加藤三七子
大いなる剪定鋏庭うらら 上村占魚 球磨
天高し俄か庭師の鋏音 小泉はつゑ
娶剪りゐる鋏のひえは兵器の冷え 熊谷愛子
子の描く蟹の鋏のみな大き 伊東白楊
家に来て蟹は鋏を使ひをる 寺沢一雄
小春日や庭師の鋏よく鳴りて 今泉貞鳳
小鋏の付根の鈴や薺爪 山田梅屋
岩蟹の隠れ損なう片鋏 新井澄子
年つまる庭師やたらに鋏あて 浦野志津雄
年逝くや日本出発よりの鋏 小池文子 巴里蕭条
幻氷や貝の鈴鳴る紙鋏 坂井とみ子
形代の鋏惜しみし袂かな 綾部仁喜 樸簡
彼岸市買ひし鋏のためし切り 吉村つる
悠然として鋏かな手長蝦 松根重洋城
手に鋏刀何摘む人か春の園 春の園 正岡子規
手の力ためさむ鋏梅を切る 朝倉和江
改札の鋏におこる雪降る旅 橋本夢道 『無類の妻』以後
改札の鋏を鳴らすひとりの夏 大井雅人 龍岡村
文なき日々蟹は鋏を胸に当つ 平井さち子 鷹日和
新松子夫の手鋏鳴りやまず 小林弘子
春の宵鋏の小鈴よくひびき 吉屋信子
春雨の音にくはへん鋏鈴 安東次男
暁の芍薬切れば鋏濡る 加藤 耕子
月光に開きしままの大鋏 眞鍋呉夫
朝の気のリラの白さに鋏入れ 山田弘子 こぶし坂
木鋏に木渋かたまる土用かな 高澤良一 素抱
木鋏の縁にひびきて秋の雷 山口誓子
枝豆のあとさき鋏む語りをり 永井龍男
枳殻剪る植木鋏はドイツ製 高澤良一 随笑
柄をむけて鋏くれけり濃山吹 亀井糸游
柚子剪つて鋏ひびきぬ二日月 小川軽舟
柚子摘むと山気に鋏入るるかな 大橋敦子
柿芽吹き蟹の鋏のやうな芽を 高澤良一 ぱらりとせ
桃の日の絵本の上の鋏かな 大木あまり 火球
梅林に鋏と鋸(のこ)の剪定音 高澤良一 宿好
梅活けて鋏の齢ふかめけり 朝倉和江
梅雨晴や庭師が使ふ腰鋏 上野さち子
梨きりし鋏のそばに盆の笛 百合山羽公 寒雁
棚へ置く鋏あまりに見えすぎる 林田紀音夫
植木屋さんの鋏さくさく冷夏切る 清水伸子
椿咲くしじまに鋏入れにけり 佐藤美恵子
極月の水もらひけり鋏研 安東次男 昨
残菊やためらひ鋏鳴らしつゝ 川畑火川
母の遺した鋏・針・糸・紫木蓮 松野順子
水仙剪る錆びし鋏を花に詫び 桂信子 花寂び 以後
汝が為に鋏むや庭の紅蜀葵 高浜虚子
汝鋏まばあまくなるらし青蜜柑 阿波野青畝
沢蟹の鋏もうごくなづなかな 蓼太
消えてしまふしんこ細工に鋏入れ 三橋鷹女
清明や鋏をかろく封を切る 北見さとる
温仙花散りて落つれば小さき蟹鋏をささげて驚き走る 窪田空穂
滅多には鋏使はず松手入 山田弘子 螢川
灯を置きて菊人形に鋏かな 依光陽子
炉塞いで爪の長さを鋏みけり 安斎桜[カイ]子
炬燵の上に温もる鋏もう寝ねん 田川飛旅子 花文字
牡丹いま活けをはりたる鋏かな 久保田万太郎 流寓抄以後
牡丹剪る鋏の音にそひかゞみ 高濱年尾 年尾句集
獺祭忌紙切る鋏街に買ふ 沢木欣一
理髪屋の鋏いろいろシクラメン 大槻久美
病葉や妻縦横に鋏使ふ 加倉井秋を
白菊にしばし逡巡(ため)らふ鋏かな 夏目漱石 明治三十七年
百足虫の頭くだきし鋏まだ手にす 橋本多佳子
短日の鋏の音が樹を移る 宮城白路
石に忘れし鋏に夕立煙あげて 河野静雲 閻魔
秋の爪船の鋏を借りてつむ 林原耒井 蜩
秋気澄む若き庭師の鋏音 高坂みつ恵
秋海棠ニ鋏ヲアテルコト勿レ 秋海棠 正岡子規
紙を切る鋏の先まで残暑かな 越川三枝子
紙切つて鋏おとろふ秋暑かな 片山由美子 風待月
索駝師の鋏酷しや木槿垣 阿波野青畝
紫蘇の実を鋏の鈴の鳴りて摘む 高濱虚子
縫ぞめや堺の鋏京の針 高浜虚子
縫初の小鋏に鳴る金の鈴 穂坂日出子
縫初の鋏の鈴のりんと鳴り 鷺くら
羅紗鋏程に伸びたる菖蒲の芽 斎藤朗笛
美容師の二丁鋏や秋気澄む 渡邊かづ子
老菊師具足震ひの腰鋏 磯崎兼久 『孤雲』
芒から芒へ鋏持ち歩く 岡田史乃
花摘みの鋏曇れり花渋に 高澤良一 寒暑
花野風鋏借りあふ声離る 井上雪
菊を切る鋏の音の晴るるかな 野村喜舟
葉ざくらや鋏ひとつのほどきもの 檜紀代
蒲剪つて鋏するどし山の月 殿村莵絲子 雨 月
薔薇の首擡げて鋏入れにけり 西村和子 夏帽子
薔薇を剪る鋏刀の音や五月晴 五月晴 正岡子規
薔薇剪るや深きところに鋏入れ 島谷征良
薺爪木屋の鋏の小振りにて 日柴鬼あき代
蛇を追ふ茶摘の太き鋏向け 百合山羽公 寒雁
蜜柑剪る借りし鋏を鳴らし合ひ 百合山羽公 寒雁
蝦夷の血や剪定鋏大きかり 宮坂静生 樹下
蝦蛄剪つて濡るゝ鋏も春深し 龍雨
蟹が肩怒らす方の鋏大 田畑比古
蟹の鋏が硝子を擦つて満月なり 豊山千蔭
試し切る刈込鋏夏芽伸ぶ 土屋保夫
逝く年の星ほど切符の鋏くづ 有馬朗人 知命
造花の紗に いま鋏入れ 都市の裏 伊丹公子 パースの秋
酢橘採る鋏のひびく札所道 丸川越司
重代の鋏を蟹の翳すちふ 相生垣瓜人 明治草抄
鈴鳴つて秋草を剪る鋏かな 大峯あきら 宇宙塵
鉄線の剪り処ここらと鋏当て 高澤良一 ももすずめ
鋏の音天につぶやく松手入 上野泰 佐介
鋏の音遠くよりして薔薇騒然 高澤良一 寒暑
鋏の音間遠に林檎の枝おろす 川島彷徨子 榛の木
鋏もて計り連翹剪りにけり 西本一都 景色
鋏塚たしかここらよ草の花 星野 椿
鋏抱き磯蟹波をかぶりけり 高澤良一 ももすずめ
鋏挙ぐ毛蟹とどきて寒見舞 矢ヶ崎雅雲
鋏濡らしぬ露草を剪りしのみ 檜山たつ子
鋏研ぐ老の背にある冬日かな 今泉貞鳳
鋏立てゝ苔食ふ蟹に水浅し 龍胆 長谷川かな女
鋏音ややあつて柚子落つる音 今瀬剛一
鋏鳴る音に素早き青蜥蜴 杉山青風
鎌倉に鋏の音す冬の虻 榎本好宏
随所に鋏の類い日曜の午前終り 林田紀音夫
雪の日のそれはちひさなラシャ鋏 中岡毅雄
雲水の手に鋏あり百舌の贄 阿波野青畝
青芝に鋏やさしく横たはり 京極杞陽 くくたち下巻
青芝のはづれに鋏横たはり 京極杞陽 くくたち下巻
額咲いて鋏おもたき女かな 石田 波郷
颱風を来し濡れ手紙鋏剪る 山口誓子
黍を摘む鋏の音の野中かな 木村蕪城 寒泉
黒葡萄鋏を入るる隙のなし 嶋田麻紀
●針
あきらめて縫ふ夜の針がひかるなり 藤木清子
ありありと針孔なほ撓む雪の藪 宇佐美魚目 秋収冬蔵
あるじする乳母よ御針よ庭の花 炭 太祇 太祇句選
いんげんや針ほどの実のぶらさがる 山崎 くに子
うたゝねを針にさゝれる日永哉 日永 正岡子規
かかり鮎針はづす手の中にやさしき 瀧井孝作
かけ針や舟引きとめん天の川 綾戸 俳諧撰集玉藻集
きさらぎの針に絹糸母のこゑ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
きさらぎやかぞへて仕舞ふ針の数 中尾茉子
きさらぎやむかし健気な針坊主 松本孝太郎
くらがりの針山を翔び春の蝿 大中祥生
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる 正岡子規
さくらの夜声のきれいな糸と針 栗林千津
さみだれの夜の母に針煌々と 大井雅人 龍岡村
しあわせのほころびを縫うもめん針 大西泰世
しのび縫ひてふゆかしきを針起し 永井敦子
しろがねの冬の針曳く紅一糸 野澤節子 『八朶集』
すすき原傷縫ふ針を嚢中に 渋谷道
たらちねの母よ千人針赤し 片山桃史 北方兵團
ちりめんへ散らす待針春隣 大津茂子
つづれさせ祖母の声するお針箱 佐藤きよ子
ねこのこゑ海原に雪針穴に雪 柚木紀子
ばせを葉の破れつづらん松の針 万里 俳諧撰集玉藻集
ふくよかな胸に針刺し縫始 龍神悠紀子
ふゆの夜や針うしなうておそろしき 梅室
まるめろや針触れあはぬ針鼠 矢島恵
もみあげて針の如くに玉露かな 水内鬼灯
コスモスや結城大事にしんし針 野村喜舟
コンパスの針あと深き図に西日 長倉閑山
シベリウス聴き如月の針使ふ 田代朝子
テレビ塔天に一針冬きたる 百合山羽公 寒雁
トンネルのかなたに針穴ほどの夏 土肥あき子
ネルを縫ふ針又折つてしまひけり 湯川雅
ハネムーンキャベツを針のごと刻む 品川鈴子
ハープシコードの音こぼれ針の川 上原祥子
ブローチに鋭き針のあり寒波来る 朝日勝子
ホチキスの針一列や神無月 清水ミヨ
一葉忌やうやく通す針の糸 山川慶子
一針をまだ捨てきれぬ冬の蜂 古田正治
七色の待針並べ縫初 岡田弘子
七輪の柚味噌に針を置いて立つ 岡崎莉花女
上がる手の針大きくて畳替へ 藤村克明
亀鳴くや針箱にある隠し棚 春林いく子
五月雨の雲に針さす所なし 立花北枝
五色針糸の尾長う縫ひ初め 中村烏堂
人の言針のごとくに菌山 田中裕明 櫻姫譚
仕立屋と針千本の呑みくらべ 仁平勝 東京物語
仙人掌の針の中なる蕾かな 吉田巨蕪「玉葛」
仲秋や針山はいま紅の糸 大峯あきら
伊勢手毬針返すよう夏燕 鱸久子
伝針にかはほり暫し羽休め 多代女
伝針の杭木を巡る蛍かな 多代女
作る畳へ銀針出没鮎釣りたく 香西照雄 素心
使ひよき針三ノ三花の雨 鈴木真砂女
光る優曇華長短二針めぐりあひ 成田千空 地霊
公魚かなし針の数だけすぐ釣るる 旭 蝸牛
公魚は針はづされてすぐ凍てぬ 江中真弓
冬の海や里恋しさは安針も 清水基吉
冬サボテン護身の針を金色に 柴崎左田男
冬日向待ち針といふ名もやさし 矢島房利
冬目高針湧くごとく深まりに 高井北杜
冬茜針の山から針を抜き 柚木 紀子
冬青草細葉吹かれてきらめく針 高澤良一 燕音
冬鵙や針山待針咲くがごと 大峯あきら
冱て折るる針なさけなき夜なべかな 森川暁水 黴
冱て折るる針にひまどる夜なべかな 森川暁水 黴
冱て折るる針に手をつく夜なべかな 森川暁水 黴
冱て折るる針に鏝冷ゆ夜なべかな 森川暁水 黴
冱て折るる針のとびちる夜なべかな 森川暁水 黴
凍み柿に楊枝が程の針氷柱 高澤良一 随笑
凍蝶に待ち針ほどの顔ありき みつはしちかこ
出がはりや行燈に残す針の跡 横井也有 蘿葉集
初夢の駱駝ぬけゆく針の穴 小室善弘
初針の浮き沈みゆく布の上 上野泰 春潮
初針の糸をぴしりとしごきけり 閑野芙慈子
前髪に磨ぐ縫針や一葉忌 馬場移公子
北風避けて畳師針を口で引く 姿見陽揚
十三夜母子針箱それぞれに 鈴木栄子
千人針の糸の真赭や片陰に 内藤吐天
千人針はづして母よ湯が熱き 片山桃史 北方兵團
千人針はガラスの向こう敗戦日 神谷冬生
千人針を広げしことも刈田雨 丸山利亀
千人針加ふ一絲も極寒裡 岸風三樓
千人針樹齢たけたる樹の下に 細谷源二 鐵
千人針火蛾は燈をうち身を編る 細谷源二 鐵
千人針職工の妻街角に 細谷源二 鐵
千人針記憶の中に終戦日 脇中みち子
千本目の針に五月晴を通す 時田久子
千針生ふ*たらも寒林なせりけり 皆吉爽雨
半夏生酢飯にちらす針生姜 岩上真沙子
卓上に一本の針薔薇匂ふ 和田耕三郎
南よぶ針吸石あられよぶムー 加藤郁乎
南無阿弥陀仏鯊より針をはづす時 鈴木鷹夫 春の門
去年今年針を進めて五分ほど 土生重次
台風一過よく見えてきし針の穴 成保房子
台風裡胸襟に針さし溜めて 宮坂静生 青胡桃
啄木鳥や針山が見え赤子見え 大峯あきら 鳥道
啓蟄の針箱からも小虫たつ 小檜山繁子
啓蟄やすんなり通る針の糸 明才地禮子
啓蟄やときどき風が針含む 窪川寿子
土用干千人針の捨て切れず 橋本蝸角
夏の瀬音して九番のミシン針 藤本鯖人
夏めくや縫針もてば愚痴しらず 谷本てる女
夏桔梗口すぼめしは針を吹く 渋谷道
夕紅葉 こころ鎮めの針をもつ 平井幸子
外は吹雪の継の四隅に待針さす 川口重美
夜の河へ凩針となりて散る 小檜山繁子
大寒の弓張月の針ほどに 伊藤涼子
大寒の海胆の一つの針動く 野見山朱鳥
大寒の針ともならぬ猫の髭 大木あまり 火のいろに
大寒む小寒む針もつ妻へ飴投げむ 磯貝碧蹄館 握手
大陸に針ひとつ落ちて澄む秋やアジアとは誰が名付けし大地 川野里子
失ひし針おそろしき秋暑かな 鎌田容克
妻も寒き教師減りゆく針の数 羽部洞然
姉呼んで馳ける弟麦の針芽 西東三鬼
子蟷螂針より細き斧上げて 神九六
孤雁の高さ針の山越ゆる父見ゆるや 磯貝碧蹄館 握手
実椿や立つるによわき蜂の針 野坡
家居の妻玉虫筥を針さしに 森川暁水 黴
寒天に落葉松の尖針と揃ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
寒潮や針ぬくかいづ岩を摶つ 渡邊水巴 富士
寒菊や縫ひつつおとす針の錆 加藤知世子
寒雷や針を咥へてふり返り 野見山朱鳥
小春日の針箱祖母の匂ひみつ 古賀まり子 降誕歌
小横物糸針よせよ涼みの軒 調幸子 選集「板東太郎」
小褄より針ひねり出す袷哉 高井几董
小鳥来る手紙秤の針の振れ 須川洋子
山の田の手植の苗は針をなす 古舘曹人 樹下石上
山茶花散るくれない祖母の花待針 花谷和子
川波の光の針や末黒葦 岡本まち子
帆をあげて優しく使ふ帆縫針 三橋敏雄 眞神
帰省子の鞄に入れる針と糸 松田吉憲
年の暮や行燈の針のあなかしこ 幸田露伴 拾遺
待ち針に白息かかるたび曇る 田川飛旅子 花文字
待ち針の珠春蝉のいつよりぞ 友岡子郷 未草
待針といふは佳き名の浴衣かな 鈴木栄子
待針のごと谷間に春着の子 高野ムツオ 雲雀の血
待針の少し反り身やかな女の忌 長谷川幸子
待針の待ちて錆びたり秋の風 ふけとしこ 鎌の刃
待針の頭かなしき一葉忌 仁平勝 東京物語
待針は花の如しや春著縫ふ 多田菜花
待針を失う木菟の声がして 平井久美子
待針を打ちしままなる火事見舞 渡辺政子
徹夜の水針のごとささる火夫ののど 細谷源二
怠れど針は器用や縫始 富安風生
悴みて千人針の糸くくる 井上雪
手を休め毛糸の針の休みをり 上野泰 佐介
手揉み茶の針のごとくになりゆきぬ 平林孝子
掃きよせし春塵の中針光る 橋本鶏二 年輪
採血の針見ぬやうに木の葉髪 高澤良一 宿好
揺さぶらる桔梗発芽の針ほどに 篠田悌二郎
数へ日やわが針山の糸の虹 吉田みち子
数珠玉を刺す針光り誕生日 北見さとる
新涼や刺子の針のすすみ良く 金田八重子
新涼や針と糸とを買ひにゆぐ 鈴木桜子
新涼や針のきしみを髪で研ぎ 瀧 登喜子
新茶の香一針二葉より走る 百合山羽公 寒雁
旅先に針糸愛でる蕎麦の花 小平 湖
日本海おどろに暗し針千本 萩原独去
日覆に針のやうなる洩れ日かな 松本たかし
早春や光の針を飛ばす海 小川公子
春疾風万の昆虫のかがやく針 赤尾兜子
春着縫ふ針に燈火のうつろへる 田中冬二 俳句拾遺
春袷針目細かき縫ひはじめ 田中幸雪
春陰にふくみ針せし眼の少年 熊谷愛子
春雷に針を落とせしグラモフォン 筑紫磐井 婆伽梵
春雷や針を咥へてふり返る 野見山朱鳥(1917-70)
春風に針の折れたる女かな 春風 正岡子規
昼寝覚針刺に針光りをり 館岡沙緻
時雨来て海波に針の穴穿つ 田川飛旅子 花文字
晶子忌や針をつきさす赤い布 藤岡筑邨
曇天に紛れて針を買ひわする 攝津幸彦
曠野かな朝より蜂の針光る 徳弘純 麦のほとり
月光に針の如くに乳花飛ぶ 野見山朱鳥
月光の針のむしろの貝割菜 平井照敏
月影の針もてさすか冬の空\ 何某母 俳諧撰集玉藻集
月花の愚に針立てん寒の入り 芭蕉
東風吹かば秤の針のしづもれり 如月真菜
東風吹くや松の深山の松の針 東洋城千句
松手入ひかりの針をふりこぼし 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
松茸や笠にたつたる松の針 浪化
枯萩やせはしき針に清夫なし 飯田蛇笏 山廬集
柞降る針打つ音の夜明けまで 児玉悦子
桃咲いてこころ拍子の針運び 小檜山繁子
桑摘みて針持てぬほど指疲れ 吉持鶴城
桜芽吹く空へ千人針刺して 渡辺恭子
梅がゝや針穴すかす明り先 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
梅雨の母たたみに針をこぼしけり 宮坂静生 雹
棒針の先よりねむる春炬燵 佐伯幸子
榧の芽のりりしき針に触れて見る 阿部みどり女
標本の針うつくしき十二月 大木あまり 雲の塔
残世に打つ待針や朧月 秦夕美
母の遺した鋏・針・糸・紫木蓮 松野順子
母よ子に千人針はいまもある 片山桃史
毛糸編み針の饒舌たのしめり 新谷方子
毬栗のみどりの針の錆びはじむ 大橋敦子 匂 玉
気に針のなうて枳殻(きこく)の実も丸う 上島鬼貫
水栽培針の根降ろすヒヤシンス 高澤良一 宿好
水草の針芽ちら〜水を出づ 松藤夏山 夏山句集
氷の針奔り寒天緊りけり 羽部洞然
氷河飛ぶ計器の針の敏き搖れ 品川鈴子
汗に饐えし千人針を彼捨てず 長谷川素逝 砲車
汗の中一針ごとの願ひかな 加藤知世子 黄 炎
河骨や金の待針湖に刺し 坂本祥子
洋上の羅針北指し鯨追ふ 杜あとむ
流星の針のこぼるるごとくにも 山口青邨
浦里に汐風強し針千本 木谷のぶ子
海彦の針をのんどに桜鯛 藤井亘
海暁けてこぼれ松葉の霜の針 阿部みどり女
海胆の針紫にして美しき 野村喜舟
海胆居りて海胆の折れ針ちらばれる 森田峠 避暑散歩
海胆裂けば暗たんとして針死なず 只野柯舟
海贏打や安針町に釘店に 野村喜舟 小石川
涼しさや針葉の梢星に遠く 内田百間
涼しさや魚くひつかぬ針のさき 涼し 正岡子規
深夜の細い針が血管を探している 住宅顕信 未完成
火蛾狂ふ針にさすべき絲青き 上村占魚 『鮎』
灰の中から針一つ拾ひ出し話す人もなく 尾崎放哉
点滴の針あと蒼し秋黴雨 成田郁子
焼芝の針の如くに蓬かな 松藤夏山 夏山句集
煮あがりし千人針の虱かな 渡辺白泉
燈心蜻蛉(とうすみ)は瑠璃一色の針とんぼ 高澤良一 素抱
猪犬の傷十針ほど縫ひたると 茨木和生 遠つ川
珍しき妻のお針や春の雪 金箱戈止夫
男手の針あやふしや水中花 石川桂郎 四温
畦跳んで薄氷結ぶ針走り 中戸川朝人 尋声
畳より針をどり出ぬ蝿叩 齊藤俳小星
畳屋の針さす音も秋めきぬ 重弘昭三
畳屋の針のぬくもり青葉木菟 長田等
畳替わびすけに針はこびゐる 室生犀星 犀星発句集
病者には千切キャベツ針の触 辻田克巳
病葉やもの載せて秤の針うごく 加倉井秋を
白き糸針に通して夜の秋 工藤義夫
白梅の待針ほどにふふみたる 西村和子 かりそめならず
白絹に待針を打つ菊日和 佐藤 緑
白衿に針はこぶ夜の鰤起し 井上雪
眼に針を立つるところぞ読みはじむ 野見山朱鳥
着て秋の手針の縫目有難う 三橋敏雄 畳の上
瞳のなかに青ざめてゆく針があり 沢好摩
短日や一針づつの手くらがり 今井つる女
石に針生姜も入らず清水かな 秋色 俳諧撰集玉藻集
磁石の針大きくふれる五月山 高澤良一 燕音
磔像を仰ぎ芽吹きに針感ず 黒坂綾子 『黙契の虹』
祈ぎ籠めて針ほどかなう白木槿 渋谷道
秋さやさや天平の針包む紙 矢島渚男 延年
秋の夜の待針あまた打ちて妻 福永耕二
秋の夜や針あやまちし指の腹 沢田はぎ女
秋の蝶です いっぽんの留針です 三橋鷹女
秋の風秤の針を動かしぬ 内田美紗 誕生日
秋刀魚焼く匂に針を仕舞ひけり 加藤 芳子
秋水や藻につく魚の針のごと 福田蓼汀 山火
秋灯や要かなめの小町針 橋本白木
秋風や俄かにくらき針の耳 小松崎爽青
秋風や相誘ふて錆びる針 月舟俳句集 原月舟
秤いま0をさす針鮪市 森田峠 逆瀬川以後
種痘針きめこまかなる娘をさしぬ 飯田蛇笏 春蘭
窓に延びし零余子つく〜と針をもつ 龍胆 長谷川かな女
節分の町行けり針ポケツトに 永島靖子
糸遊やみすやの針の長短 四明句集 中川四明
網針の折々まぶし揚雲雀 加藤知世子
綿虫や北にさだまる磁石の針 村越化石 山國抄
縫ぞめや堺の鋏京の針 高浜虚子
縫ひすすむ針より衣ひゆる夜ぞ 多佳子
縫ひ初めや一気に裁ちて手馴針 藤田いづみ
縫ひ針に紬は強しほととぎす 八染藍子
縫ふ衣を針だらけにし青葉の夜 寺田京子
縫初のめでたき女針男針かな 高橋淡路女 梶の葉
縫初めの針箱母の玉手箱 鷹羽狩行 六花
縫初やいつもの如く胸に針 高橋路草
縫物に針のこぼるる鶉かな 千代尼
縫針につやの戻りし鵙日和 大橋美知子
考へを針にひつかけ毛絲編む 上野泰
職人の二人しぐるゝ畳針 川崎展宏
腕にさす針に脈あり青葉光 奈須ゆう子
膝すゝめ来て待針ををさめけり 清崎敏郎
色あせし針山まつるねもごろに 清原枴童 枴童句集
色かへで空をさしけり松の針 嘯山
芭蕉葉の破れつづらむ松の針 女-万里 俳諧撰集「藤の実」
花と針の心問ひたき茨かな 千代尼
花冷や磁石が拾ふこぼれ針 ながさく清江
花冷や針さす如く嫁の愚痴 塩谷健一
苗代やまだ水抽かぬ苗の針 東洋城千句
苗代や水を離るゝ針の尖 苗代 正岡子規
苗箱に針千本の早苗かな 宮田正和
菜種梅雨針が一本胸の中 石田風女
落葉松の梢針なす木莵の山 堀口星眠 営巣期
落葉松の針のくすぐる冬の旅 殿村莵絲子 雨 月
落葉松の針の煌めく冬隣 山崎千枝子
落葉松の錆針敷けり雪の上 福永耕二
蒸し暑し立ちて憩える畳針 増田河郎子
蓄音機針は枯野におりてゆく あざ蓉子
蕾ながら石竹の葉は針の如し 石竹 正岡子規
薄氷の針を見出でし宿酔 三橋敏雄
薔薇の虫刺すべくありぬ蜂の針 西島麦南 人音
薫風や鼈甲いろの伸子針 島村久枝 『矢作古川』
藻の花におもひもよらず鯤(ぎぎ)の針 乙州 俳諧撰集「藤の実」
藻の花に釣針かゝり困りたる 藻の花 正岡子規
虫なくや出しては縫はぬ針包 龍胆 長谷川かな女
虹は野に羅針は夕の北を指す 神尾久美子 掌
蜂の尻ふわふわと針をさめけり 川端茅舎
蜜蜂の喜ぶ余り針一本 中村草田男
蝶に針天上ふいに足元に 栗林千津
螢火や針箱をかたづけもせず 中山純子 沙 羅以後
螻蛄鳴くや針穴いよよ見えづらく 杉田智栄子
蟻曳ける針穴ほどのこぼれ菓子 神山佳子
行く春の釣針にかゝる魚もなし 行く春 正岡子規
裁台に針娘等よりの鏡餅 溝越春甫
裁台の花鳥畳みて針まつる 小路初夏女
襦袢縫ふ待針赤く春隣 菖蒲あや
谺も不在雪渓垂らし針の木小屋 宮津昭彦
貸付け田針千本の麦芽吹く 早川翠楓
赤めだか針のごとき子生れたり 細見綾子 黄 瀬
走り茶の針のこぼれの二三本 石田勝彦「秋興」
追儺会の山国の雨針のごとし 土田祈久男 『素心』
這松に白銀の針きらと秋水 福田蓼汀
逢坂の町や針研ぐ夜半の秋 几董
酷寒のかすかなひかり針の山 長田等
金の針胸に打たれし愛の羽根 谷中淳子
金銀針茄子赤さを島の日がぬくむ 和知喜八 同齢
針*含み飾窓内年守る 宮武寒々 朱卓
針が支へし母の生涯花八ツ手 石川さだ子
針さしにもつるる糸や夕薄暑 安部 恭
針と糸借してごらんよ朧月 請地 仁
針と糸旅荷のすみに一葉忌 山田弘子 螢川
針に糸かざしてゐたり新障子 井上雪
針に糸夜梅馥郁匂ひだす 中山純子 茜
針に糸通してゐるや去年今年 細見綾子 黄 炎
針に糸通して罌粟の花見ゆる 岸本尚毅 鶏頭
針に糸通す初音とおもひつつ 吉谷万寿重
針のごと刻むにんじん増税論 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
針のひく糸の尾ながき弥生かな 久保田万太郎 流寓抄
針のめどをりをりしはぶきを通す 長谷川双魚 風形
針の目を抜けて来るらん秋の猫 永末恵子 発色
針はづす鱚のぬくもり悲しけれ 桶川皆舟
針は今夜かがやくことがあるだろうか 大井恒行
針ほどの痛みにも萎え露の夜 財津立枝
針ほどの音して気づく十三夜 筑紫磐井 未定稿Σ
針まつる蒟蒻やがて風のいろ 鳥居おさむ
針もつ母に東京の冬空となりくる 栗林一石路
針もてかがやく 肉体のぽるとがる 星永文夫
針もてばねむたきまぶた藤の雨 杉田久女
針もてば悩みなき母冬隣 本郷和子
針もて刺す韃靼の海知らぬ蝶 藤田湘子 てんてん
針やめて蕨の鍋を懸けにけり 柑子句集 籾山柑子
針よりも細き冴え瞳や針の神 加藤知世子 花寂び
針をうつ音をつぶてと帰る雁 大胡寿衛
針をだに持てば寐る婢や灯取虫 菅原師竹句集
針を持つ暖かき手が手をつつんでくれる 住宅顕信 未完成
針ノ木岳見し乗越の鳥兜 奥村喜代子
針・刃物・鏡・ひかがみ熱沙越ゆ 小檜山繁子「流沙」
針事や椽の小春を追歩き 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
針休みその日柔和な男の子生る 隈 治人
針使ふ手元あたりの暮早し 山田弘子 初期作品
針使ふ風の蓮田を遠く見て 宮坂静生 山開
針傷の咎め厭ふや夜半の春 泉天郎
針傷をいくたびも舐め雪降れり 長谷川双魚 風形
針刺して止める刺繍の流星群 対馬康子 純情
針創をつめたく唇にふれ癒やす 野澤節子 黄 瀬
針千本呑んだ男に片時雨 田辺泰光
針千本子らと唄ひて土筆摘む 三浦妃代 『花野に佇つ』
針千本飲ます算段赤のまま 櫛原希伊子
針坊主に針かがやきてクリスマス 桑原月穂
針売も善光寺みちの小春かな 飯田蛇笏 山廬集
針始つゞれ刺すてふはてもなや 石橋秀野
針寒うして燈下に胼を吸ふ音す 尾崎紅葉
針山に待針植えて妻の聖夜 原子公平
針山に母の遺髪やあたたかし 伊藤杜夫
針山に羽なき針や鳥渡る 磯貝碧蹄館
針山に針あそばせて女正月 山中千香
針山に針あることも春という あざ蓉子
針山に針いきいきと春の雷 橋本榮治 麦生
針山に針をひからす二百十日 中山純子 沙 羅以後
針山に針木の暗に母立てる 宇佐美魚目 天地存問
針山に針満たしめて春着縫ふ 朝倉和江
針山の如くに芒刈られあり 高木晴子 花 季
針山の糸はむらさき松の内 大峯あきら 宇宙塵
針山の針錆びしままつづれさせ 石河義介
針山はわびし月下の花八つ手 大井雅人 龍岡村
針山も日にふくらみて福寿草 八染藍子
針山も石蕗の日向や旧城下 大峯あきら 鳥道
針山を涼しく風の通りけり 松山足羽
針折れてふつとさみしき三日かな 川端豊子
針折れて我鬼忌身めぐり夕暮れぬ 野澤節子 黄 炎
針攻めの仮縫をはる花ミモザ 朝倉和江
針攻めの幾夜経たるや月鬱金 成田千空 地霊
針槐濁がうがうと梓川 桜井かつ子
針槐風とどまればにほひたつ 深谷雄大
針歇むや塀こゆるまで小灰蝶 石川桂郎 含羞
針深く呑みし虎魚の横つ面 高澤良一 ももすずめ
針穴に糸の逃げゆく冬夜かな 雨宮抱星
針穴に集まるこころ秋灯 中垣成子
針穴の見えて通らぬ余寒かな 山口凱得
針穴を二尺離せる秋思かな 橋屋美重子
針立てし青いが栗に野分雲 亀井糸游
針立や肩に槌打つから衣 松尾芭蕉
針箱にはぐれ釦のある暮春 内田美紗 浦島草
針箱に日当り新穀感謝の日 加倉井秋を 『胡桃』
針箱に色糸満たし縫始 大橋鼠洞
針箱のどんぐり一つ年経ぬる 馬場移公子
針箱のはり銹び秋暑つゞきけり 及川貞 榧の實
針箱の中の山河や夏の暮 鈴木伸一
針箱の片よせありて菊の留守 阿部みどり女 笹鳴
針箱の糸のくさぐさに夜よげな妻 梅林句屑 喜谷六花
針箱の針銹び秋暑つゞきけり 及川貞 夕焼
針箱や日輪秘めし花の種 有馬朗人 知命
針箱を引き寄せて母秋の雨 山本洋子
針置くや夕日残れる木槿垣 千手和子
針美し糸美しと春著縫ふ 穴井まき
針荒き雑巾寄進寺涼し 赤松[けい]子 白毫
針落しそよろと撫づる梅雨畳 谿昭哉 『航跡』
針葉のひかり鋭くソーダ水 藤木清子
針買ひに出た妻に冬青い夜空がある 人間を彫る 大橋裸木
針通神の薄目にすみれぐさ 高澤良一 ももすずめ
針運ぶ手許より昏れ日短か 松永兼子
釣針のひつかゝりたる花藻哉 藻の花 正岡子規
釣針の傷のふさがる春の鮒 山本紫黄
釣針の智恵にかゝらぬ海鼠哉 横井也有 蘿葉集
釣針も鍼も供へて針千本 稲元稲月
銀座明るし針の踵で歩かねば 八木三日女 赤い地図
長き夜や針を狂はす噴火音 宝亀 重子
雪原に北斗の針の廻りけり 福田蓼汀 秋風挽歌
雪晴るる畳に針をひろひけり 飯田蛇笏 春蘭
雲丹の針五色に動く汐干かな 栗原ゆうゆう
霍乱や一本道の気付け針 太祇「題林集」
霜柱おびただしき針胸に持ち 嶋田麻紀
霜柱の針の山中蘭の温室 殿村莵絲子 花寂び 以後
霜柱子供らが蹴り針千本 殿村菟絲子 『菟絲』
青落葉松一針をだに降らしめず 福永耕二
青葉して針箱の中貝釦 純子
静かさよ水鶏なく夜の針包 飯島みさ子
顔死にてゐし冬蜂の針を出す 加藤知世子 花寂び
風花のときをり針の光もつ 木暮陶句郎
馬追や母が居眠る針箱に 柑子句集 籾山柑子
骨針は春の上澄み縫ふによし 栗林千津
鮎の口しかと毛針をくはへたり 滝井孝作 浮寝鳥
鯰釣らるる針ごとふかく呑みこみて 田北ぎどう
鳥帰る赤い針山窓際に 佐藤和夫
鳥雲に縫針のまた折れる日よ 馬場移公子
鵜の瞼針で縫ふとは哀れなり 伊藤柏翠
黒南風や燭盡きたれば鐵の針 竹中宏
●安全ピン
毒消売安全ピンで胸もと守り 加倉井秋を