010

●雌雄
うすうすと牛の雌雄の行つて茶の花阿部完市軽のやまめ
かなかなの澄みて雌雄のあるあわれ澁谷道
六夜祭御饌の雌雄の焼き山女山下智子
十一月は青微光なし越前の蟹の雌雄も食はれてしまふ鈴木春江
双塔に雌雄のありて風花す木戸渥子
土深く雌雄の性も冬眠す中條角次郎
大綱の雌雄からめる夏祭り多良間典男
大膳に越前蟹の雌雄かな磯野充伯
大銀杏雌雄別なく注連飾る村上辰良
天の鶴雌雄の紅をならべたる大岳水一路
寒生くる闘魚の雌雄憎からず瀧春一菜園
山鳥の雌雄来て遊ぶ谷の坊泉鏡花
御神渡鷲の雌雄の空を占め増澤正冬
朧夜やちりしく梅に蝦蟇雌雄島村元句集
木も石も雌雄の負ひ目冬の山殿村菟絲子『菟絲』
枯るる園雌雄の鷹をわかち飼ふ齋藤玄『舎木』『飛雪』
滴りの雌雄の響や夜の厨西山泊雲泊雲
甲虫の雌雄かちかち触れにけり榎本冬一郎眼光
竹に葉無し松に雌雄無し江戸の春初春正岡子規
藪くぐる小鳥雌雄も見ゆるかな太祇
蚕蛾はや雌雄となるをかなしめり野澤節子黄炎
街路樹の楊梅雌雄異株なり田村梛子
輪飾りの船に雌雄のあるごとし榎本好宏
雌雄の雉子が艶をつくしあふ栗生純夫科野路
風吹かば吹けと雌雄の羽抜鶏平井照敏天上大風
鯛焼きに雌雄なくて夏の夜田中信克
●性交
性交も飽きてしまった地球都市したたるばかり朝日がのぼる林あまり
平安貴族性交解剖圖ゑがかむか胃の底の干魚(ひを)干菜(ほしな)干飯(かれいひ) 高橋睦郎飲食
●セックス
●乱交
どこからゆるむ瀑の乱交凍結し田邊香代子
●売春
●娼婦
「娼婦なりし女」と遊ぶみちをしへ相生垣瓜人微茫集
うまごやし炭坑の娼婦帯を結ばず山口誓子
ふるさとに帰りし娼婦夜光虫成瀬桜桃子風色
ゆく年の娼婦雑沓にまぎれぬる岸風三楼往来
デパートで娼婦のことを思い出す武馬久仁裕
ヨットの帆清澄娼婦の街からも伊丹公子アーギライト
呼び名欲し吾が前にたつ夜の娼婦佐藤鬼房
夏草と溝の流れと娼婦の宿鈴木しづ子
夕虹や娼婦もしうとめとなりて塚本邦雄甘露
夜にかけて娼婦の一舟春愁ひ阿部みどり女
夜の黄葉運河に並ぶ娼婦館棚山波朗
天使のごとく娼婦のごとく毛糸編む加藤三七子
娼婦の日傘黒死病の町の千年後馬場駿吉
娼婦またよきか熟れたる柿食うぶ鈴木しづ子
娼婦ゐる木天蓼の葉の白光し宮坂静生樹下
娼婦来てベツドに坐る我鬼忌かな角川春樹
娼婦等は首から老ゆる春の午後対馬康子愛国
我よりも若き娼婦の髪匂ふ樋口喜代子
昼の無為娼婦の下着透明に横田矢凪
晩夏の蛾娼婦かげひく街燈に西島麥南
枯蘆に娼婦のうたの洩る月夜瀧春一菜園
橋や娼婦そこらの夥しい翼徳弘純非望
正午なお春仄暗き火と娼婦徳弘純非望
歩きゐてすなはち娼婦霧の街岸風三楼往来
母の死後わが死後も夏娼婦立つ鈴木六林男桜島
沖残照娼婦の歩幅もて歩く多賀芳子
海に来て娼婦も春を惜みけり鈴木真砂女生簀籠
瀧壺に虹と娼婦の立つてをり仙田洋子雲は王冠
焼藷や娼婦に愁ひなきごとく下村梅子
煙草すて娼婦しづかに海に入る東京三
白百合の娼婦たらんとして眠る高澤晶子純愛
碧き眼の娼婦ら肥えて虫飼へる瀧春一菜園
秋出水火鉢かこみて娼婦達宮武寒々朱卓
稲架襖くぐり戸をもち娼婦宿原田青児
茹であげし娼婦のパスタ雛祭柴野みちゑ
蟻の列しずかに娼婦街進む対馬康子吾亦紅
行人に娼婦に霧の流れけり岸風三楼往来
西塔の西日さけたる山の娼婦萩原麦草麦嵐
郵便局の娼婦の裸体を包みに行こう武馬久仁裕
銀河澄む墨東の夜の娼婦街西島麦南人音
鍋焼を娼婦と啖ふ山の月富安風生
雲から飛んだ娼婦が燃えるビルから見え阿部完市絵本の空
霧さむく娼婦肩掛もて呼べる岸風三楼往来
霧さむく娼婦肩掛を長くせり岸風三樓
霧の路次莨すてしが娼婦なり岸風三楼往来
●同性愛
珈琲と鴎と同性愛のふたり伊丹公子アーギライト
●絶倫
●男娼
川幅へホッチキスを打つ男娼K 須藤徹
男娼と鶏走る火事の跡須藤徹
男娼の唄うシャンソン巴里祭加藤静子
男娼は砂で五感を磨くなり夏石番矢
男娼街桶にびっしり布袋草五島エミ
落葉ぬくく男娼館の屋根に堆む文挟夫佐恵黄瀬
●遊女
いなづまや僧と契りし遊女の碑後藤綾子
いにしへの遊女といぬる湯婆かな東洋城千句
うたゝねや遊女の膝の明け易き明け易し正岡子規
うちかけを着たる遊女や螢狩篠原鳳作
かぞえきれない遊女の影のなかにいる児玉怡子
さみだれや船路にちかき遊女町高井几董
しぐるゝや潮来は古き遊女町幸田露伴拾遺
その街に遊女の墓も初閻魔黒田杏子
ただ居りて髪をあつがる遊女かな路通「蝶すがた」
だまされて遊女うらむや年の暮年の暮正岡子規
はまなすや星近付けて遊女塚堺信子
ひらきゆく屏風に遊女現はるる下村梅子
もたるるは遊女墓石か秋風か諸角せつ子
ゆく春の江口の遊女即菩薩下村梅子
わかたけや橋本の遊女ありやなし蕪村「続明烏」
セルを着て遊女なりしと誰か知る石島雉子郎「改造文学全集」
一つ家に遊女も寝たり萩と月芭蕉 (越後一振の関にて)
一家に遊女もねたり萩と月芭蕉
一日に遊女の老いる若葉哉若葉正岡子規
三千の遊女に砧うたせばや砧正岡子規
九頭龍の月待つ舟に遊女達森田愛子
五月雨や船路に近き遊女町几董
住吉の雪にぬかづく遊女かな蕪村遺稿冬
何思ふ室の遊女の蚊遣哉蚊遣正岡子規
凧ひら～港遊女が母おもふ松瀬青々
出帆まねく遊女も立てりはな薄蓼太
初鴈や遊女にあぶらさゝせけり炭太祇太祇句選後篇
動かれぬ遊女の罪のあつさ哉暑正岡子規
千両や日陰をつねの遊女塚中村翠湖
名の高き遊女聞えず御代の春栄阿
夏果ての瀬戸の岬や遊女の碑木村速子
夏痩を親に泣かるゝ遊女哉夏痩正岡子規
夕顔やどこの遊女のなれのはて夕顔正岡子規
夜牡丹や長谷の遊女は二階から藤後左右
夢に見ん遊女もしらず春の雨春の雨正岡子規
大坂の遊女かしらずさくら狩高井几董
大津絵の遊女と出合ふ手毬花高橋克郎
大磯や遊女の墓に杜鵑草高木美波
太夫待つ遊女ばかりの一桟敷久保晴
太秦や山ほとゝきす古遊女時鳥正岡子規
奥羽を遊女下りけり長い草の葉安井浩司乾坤
小娘の遊女見たがるすずみかな几董「晋明集二稿」
小春といふ遊女を買ひぬ春の暮春の暮正岡子規
小格子や遊女と語る春の宵春の宵正岡子規
小桜といふ遊女を買ひぬ春の暮春の暮正岡子規
山里の星にいるなりあの遊女阿部完市
島抜けし遊女の噺桜貝柴田南海子
幟たつ母なん遊女なりけらし炭太祇太祇句選後篇
忌日なき遊女の墓や虎落笛正岡照世
愛宕火の燃えて遊女の閑な晩後藤比奈夫初心
捨団扇遊女の顔のあはれなり正岡子規
捨團扇遊女の顔のあはれなり捨団扇正岡子規
掛香や遊女が親の泥臭き掛香正岡子規
文殻の手鞠はづまぬ遊女哉尾崎紅葉
春寒や吹き寄せられて遊女墓増田守
春風や遊女屋並ぶ向ふ河岸寺田寅彦
暁の遊女か吐血ほとゝぎす召波
月忘れをりて遊女の墓も冷ゆ宇佐美魚目天地存問
月見草遊女らの墓凭れ合ひ鍵和田[ゆう]子浮標
木がらしや廿四文の遊女小屋小林一茶 (1763-1827)
末黒野の果てに猟師と遊女墓脇坂啓子
松過ぎの泊船へ漕ぐ遊女かな矢津羨魚
桔梗や遊女の果の尼容チ野村喜舟
梅咲いて帯買ふ室の遊女かな蕪村
欠け欠けて遊女の墓や夏蕨柏禎
気に入らぬ遊女眠りぬ朧月朧月正岡子規
水鳥や港に近き遊女町会津八一
汗くさき遊女と寝たり狭き花筵汗正岡子規
海猫帰る遊女のやうな首のべて北光星
清く凄く雪の遊女の朝い顔一蝶
炉開いて僧呼び入るる遊女かな正岡子規
熔岩一基遊女の墓として涼し宮坂静生春の鹿
燈籠の夜に見初めたる遊女哉燈籠正岡子規
爐開いて僧呼び入るゝ遊女かな炉開正岡子規
猛り来て野火つまづけり遊女塚宮木孝苑
白玉や遊女屋の昼閉ざしつつ田中冬二行人
皹や遊女の恋を琴に弾き熊丸淑子
秋の濤崖の上には遊女の碑木村蕪城寒泉
稻妻に屏風をかこふ遊女かな稲妻正岡子規
稻妻に紅粉つけて居る遊女哉稲妻正岡子規
立ちて菩薩坐りて遊女舞始大堀柊花
細雪遊女の墓のまへうしろ福島せいぎ
絵屏風の遊女は遊女いくら見ても後藤比奈夫めんない千鳥
膳の時はづす遊女や納豆汁炭太祇太祇句選
舟に寐る遊女の足の湯婆哉たんぽ正岡子規
船にたく室の遊女の蚊遣哉蚊遣正岡子規
船を出て月に散歩す遊女町月正岡子規
船沖に遊女さみしきふところ手森田峠避暑散歩
芍薬は遊女の知らぬさかり哉芍薬正岡子規
芍薬や雨の遊女を思いおり遠藤秀子
若竹や橋本の遊女ありやなしや與謝蕪村
菊人形遊女は緋菊薄く着て吉田ひろし
菜の花や遊女わけ行く野の稲荷闌更
落日や枇杷*もぎくれし修遊女森光梅子(藍生)
葦火とろとろ西行も遊女も後藤綾子
葺き垂れし菖蒲のもとの遊女かな大橋櫻坡子雨月
蓑虫や美しき名の女墓(遊女夕霧の墓) 角川源義『冬の虹』
蓼咲くや墓石となりし遊女たち大島民郎
蔦若葉がんじ搦めに遊女の墓渡辺風来子
藻に押され舟着く遊女の墓翳り伊丹公子メキシコ貝
虫干の寺宝に遊女苦役の図松藤夏山夏山句集
虫干や釈迦と遊女のとなりあひ土用干正岡子規
蚊に馴れて能く寝る室の遊女哉蚊正岡子規
蚊の声に馴れて遊女の眠り哉蚊正岡子規
蛞蝓の跡あきらかに遊女墓相川やす志
蜃気楼遊女は細き眉を描き福永鳴風
蜑の子の遊女うらやむすゞみ哉納涼正岡子規
覚束な遊女が後世の蓮の数蓮正岡子規
豁然と牡丹伐りたる遊女かな牡丹正岡子規
賓頭盧へ頭巾まゐらす遊女かな紫暁
近松忌重い遊女の木偶頭浜垣和子
遊女その墓のよすがの稲の花諸角せつ子
遊女つれて京に入る日や紅葉散る散紅葉正岡子規
遊女なき室とて冷えつ金蒔絵有働亨汐路
遊女なりし母が勵ます夜學かな松瀬青々
遊女の句映し黄菖蒲池菖蒲長谷川かな女牡丹
遊女の墓おがみ来てより汗疹ふゆ中村明子
遊女の墓馬の白息地を這へり加倉井秋を
遊女の帯の細しも青き踏む橋本多佳子
遊女の昼流るでもなきトマトの蔕八木三日女落葉期
遊女らの裾ながながの絵踏かな藤村克明
遊女一人ふえぬ日はなし京の秋秋正岡子規
遊女塚あらはに萩の枯れてゐし竹中弘明
遊女屋(のすかい)の在りしはここら涼み舟手塚美佐昔の香
遊女屋のあな高座敷星まつり汀女
遊女屋の使はぬ部屋の秋の暮松本たかし(1906-56)
遊女屋の厠の灯暗し遠蛙田中冬二行人
遊女屋の渡り廊下の朧かな田中冬二行人
遊女屋の草履つめたし花菖蒲田中冬二行人
遊女等もたむろしてをり月の浜篠原鳳作
遊女老いて茅花まじりの垣根哉芽花正岡子規
野の中の遊女屋ばかり櫻見し横光利一
金魚売るや子らは遊女の名を知らず長谷川かな女花寂び
鏡見てゐるや遊女の秋近き秋近し正岡子規
鏡見てゐる遊女の秋近き正岡子規「子規句集」
長き夜の更けて遊女の目井・乙前辻桃子
長島は濯ぐ遊女に桃にほふ鈴鹿野風呂浜木綿
門に呼ぶ遊女はかなし夏の宵臼田亜浪旅人
陽炎にいらか並ぶや遊女町寺田寅彦
陽炎や遊女の嘘はたくみにて尾崎紅葉
青嵐遊女享年十九とあり丸山嵐人
青梅や潮来出島の遊女墓井村和子
鰤起遊女・桔梗屋ありやなし宮坂静生山開
●情事
剃刀に蝿来て止まる情事かな寺山修司(1935-83)
女らは中庭(パティオ)につどひ風に告ぐ鳥籠のなかの情事のことなど栗木京子
女郎花宮人の情事旅にあり楠目橙黄子橙圃
情事がやわらか過ぎてひたすら海長瀬甘吐
情事に似たりこもりて鯨煮ることよ草間時彦
情事サンドは川端やなぎこの水を見よ加藤郁乎形而情学
情事話頭に兵塵想ふこの柳河東碧梧桐
暗室より水の音する母の情事寺山修司(1935-83)
海霧の陸橋抛物線の情事経て八木三日女落葉期
焚火すやふと情事の胸騒ぎ石塚友二光塵
葱坊主ひとの情事は見て見ぬふり安住敦
蜂の巣の千の暗室母の情事齋藤愼爾
遠い情事水面ひりひりと昏れる森川木ノ芽
風鈴の音忍び込む情事の間星野光二