●杉木立●杉林●木曾杉●秋田杉●吉野杉●尾久杉●北山杉●杉材●杉●杉木立●杉林●木曾杉●秋田杉●吉野杉●尾久杉●北山杉●杉材●杉
●杉木立 
しくるるや上野谷中の杉木立 時雨 正岡子規
はつ夏や樅をまじへし杉木立 岡井省二
むささびの夜となる霧の杉木立 岩城のり子
やませ吹く伊達霊廟の杉木立 赤池せつ子
五月雨やから駕籠戻る杉木立 蘇山人俳句集 羅蘇山人
冷え込んで来し信楽の杉木立 茨木和生
初秋の石壇高し杉木立 初秋 正岡子規
墓は皆涼しさうなり杉木立 涼し 正岡子規
家康の魂ひやゝかに杉木立 冷やか 正岡子規
採氷や日輪退る杉木立 窪田あさ子
早乙女の憩ひの色に杉木立 四條五郎
昼中の彼岸の月や杉木立 彼岸 正岡子規
月青しくれ行く山の杉木立 月 正岡子規
杉木立ますぐますぐと雪ふれる 河村文子
杉木立中に紅葉の家居あり 紅葉 正岡子規
杉木立土につく手のうらすゝし 涼し 正岡子規
杉木立寺を蔵して時雨けり 夏目漱石 大正元年
杉木立淋しき秋の鳥居哉 秋淋し 正岡子規
杉木立空の露けさ引きしぼり 岡本眸 午後の椅子
杉木立縫うはニンフか三光鳥 高山紀子
杉木立錦木一木庫裏の前 滝井孝作 浮寝鳥
桜狩深入りすぎて杉木立 桜狩 正岡子規
火祭やまだ暮れきれぬ杉木立 鈴木真砂女
立秋の声のぼりゆく杉木立 長谷川櫂 古志
経の声かすかに涼し杉木立 涼し 正岡子規
経の声はるかにすゞし杉木立 涼し 正岡子規
経の声聞えてすゞし杉木立 涼し 正岡子規
花散るをすぐ立つまでの杉木立 斎藤玄 雁道
芽立華やぐ僧結界の杉木立 河野南畦 湖の森
蜩や木曾塚こゝに杉木立 蜩 正岡子規
蝉鳴くや寺は石橋杉木立 蝉 正岡子規
遠雷や山坊包む杉木立 高木晴子 花 季
●杉林
きさらぎや緑控へて杉林 猪俣千代子 秘 色
のしかゝるもの杉ばやし花曇 久保田万太郎 草の丈
わづか杉林の小暗く夏草も高からぬ日あたる窟 梅林句屑 喜谷六花
凍裂の匂ひ顕ちくる杉林 伊藤杜夫
星月夜寺を取り巻く杉林 酒井 京
杉林あるきはじめた杉から死ぬ 折笠美秋(1934-90)
杉林ほのぼのかこふ落鮎や 松澤昭 山處
杉林奥へ散り込む山ざくら 高澤良一 燕音
杉林春の日蔭をつくりけり 白水郎句集 大場白水郎
濁酒(どぶろく)を酌むと燿う杉林 宇多喜代子
羽の透くひぐらし数多杉林 川崎展宏
雪しづれたりしづれたり杉林 三村純也
霧はゆたかにはやし未明の杉林 柴田白葉女 花寂び 以後
高らかに鶯啼けり杉林 前田普羅 新訂普羅句集
鳩吹や坂道下りて杉林 松下紫人
●木曾杉
木曾はるか揃ふ杉苗夏霞 村田脩(萩)
杉の実に木曽の夕日は落つるなり 宮田正和
●秋田杉
秋田杉の香を積む釣瓶落しの日 柴田白葉女 『朝の木』
●吉野杉
むささびや吉野は昼も杉の闇 深井いづみ
下萌に杉の箸干す吉野かな 岩切貞子
初盆やすでに実重き吉野杉 大峯あきら
夏兆す杉の吉野の水鏡 原裕 青垣
夕冷の声に出でけり吉野杉 小島健 木の実
夢のひと冴えざえ霧の吉野杉 中島斌雄
太箸やほのぼの匂ふ吉野杉 瀧 春一
新豆腐くずす吉野の杉の箸 花谷和子
杉の枝を翳す吉野の春子売り いわたとき
杉挽く香はしりて吉野氷りけり 鷲谷七菜子 花寂び 以後
杉磨く雪解日和の吉野郷 則近文子
杉箸を干して吉野の峡薄暑 竹屋睦子
深吉野の初荷の杉の匂ひけり 赤峰ひろし
白湯を呑む十月吉野杉匂い 中島斌雄
草餅や吉野の果の杉の箸 小笠原和男
菜飯食ふ吉野は杉の箸豪華 浦野芳南
雷裂けて全山震ふ吉野杉 桂信子 遠い橋
頬白や杉箸乾く吉野郷 中村風信子
●尾久杉
●北山杉
ざわめいて北山杉の寒に入る 高間量子
しぐれ避け北山杉の見ゆる簷 高澤良一 宿好
冬眠に入る北山の杉の精 大島民郎
北山の名を守るべく杉を植う 森田 峠
北山の夜の長さを杉育つ 細見綾子
北山の杉の間を吹き上げて雪 ふけとしこ 鎌の刃
北山の杉は竪琴小夜時雨 堀口星眠 青葉木菟
北山の杉映りゐしプール干す 大島民郎
北山の杉真直ぐや春時雨 佳藤木まさ女
北山は良き杉育つこの霧に 板東福舎
北山やしぐれ絣の杉ばかり 福永耕二
北山や杉は片身に雪を被て 鈴木真砂女 夕螢
北山や杉を庭木に鮎の宿 細川加賀 生身魂
北山や霧を堰きたる杉の鉾 金久美智子
北山杉よべしぐれたる濡れに朝日 野澤節子 花 季
北山杉直幹ひびけと雨後の蝉 猿橋統流子
北山杉磨く工房風光る 小川晴子
北山杉風の相聞行く雁と 渡辺恭子
帷子は北山杉の藍模様 宮崎寒水
杉伸びて北山しぐれ呼ぶ雲か 野田記子
杉磨く北山の里風花す 大石英子
片しぐれ北山杉の空せまき 高橋君枝
苗すでに北山杉の容かな 城戸崎母花
薄日射す北山杉の冬構へ 春原幸子
足長の北山杉や夏の雲 川崎享子
鰯雲北山杉の秀が揃ふ 田淵定人
●杉材
●杉
*ひつじ田のあかるさに干す杉丸太 玉垣咲良
あかつき汲む杉の匂ひの若井桶 つじ加代子
あらあらと鞍馬走り根杉の涼 河野多希女 納め髪
いつの間の梅は杉よりさびしけれ 斎藤玄 雁道
おほるりや日の濡れてゐる杉の幹 木津柳芽
お会式の触れ書き杉の板塀に 高澤良一 随笑
お火焚きやあたり更けゆく杉檜 佐藤紅緑
お火焚やあたり更けゆく杉檜 佐藤紅緑
お篝を杉にあなどり初鴉 原石鼎
お降りや杉の青さの中を降る 秋篠光広
かなかなの杉の間の空 シヤツと雑草 栗林一石路
かなかなや山気は杉を濯ぐごと 井沢正江
かなかなや杉の空ゆく熊野越え 山口草堂
かまぼこや梢によする杉の雪 鉄丸 選集「板東太郎」
かむなびの杉百幹の淑気かな 高橋抱石
からすうりとどめて杉の十二月 松尾隆信
きさらぎのひかり微塵に杉の天 柴田白葉女 『月の笛』
くらやみをつくる杉の樹素逝の忌 茨木和生 遠つ川
この寒さはじき飛びけり杉の枝 室生犀星 犀星発句集
この荘の杉森を人の夜寒かな 松根東洋城
しくれけり月代已に杉の上 時雨 正岡子規
しぐるるや杉の高枝のぎいと鳴る 太田鴻村 穂国
しぐれつつ杉は静かに高野山 藤井冨美子
しぐれ居りし烏も杉を離れけり 比叡 野村泊月
しなやかに夏帽子ゆく杉の谿 桜井博道 海上
すぐに火にしたくて拾ふ杉枯葉 甲田鐘一路
すでに未来を老いて近江に立つ杉よ 横山康夫
せつながる男の落下谷杉ヘ 和知喜八 同齢
そよそよと杉の間より春の風 春風 正岡子規
たぎつ瀬に苗浸けてあり杉を植う 平松竃馬
たのもしや杉の木の間の夏日影 酒堂 俳諧撰集「藤の実」
ちりこんだ杉の落葉や心ふと 心太 正岡子規
つら〜と杉の日面行くしぐれ 暁台
とうもろこし焼きたる後の谷の杉 和知喜八 同齢
とことはの谷杉清し囮鮎 大峯あきら 鳥道
とやかうと杉にはなれず春の風 春風 正岡子規
どこか負けの意識渓谷の杉きそい立つ 柴田義彦
どさどさと放り出されし杉の苗 青柳志解樹
なまはげの訪ふさきざきの杉と月 宮津昭彦
のしかゝるもの杉ばやし花曇 久保田万太郎 草の丈
のび給ひ茂り給ひぬ三輪の杉 茂 正岡子規
はるふかく真昼も杉のあらし哉 松岡青蘿
ひえびえと高野の杉の青山気 豊長みのる
ひしひしと杉の木の間や梅の花 梅 正岡子規
ひとしきり雪混んでくる杉の空 高澤良一 ぱらりとせ
ひもじさに杉の香を聞く秋の山 日野草城
ほととぎす椴杉の葉の落つる時 椎本才麿
まつすぐに杉の道ゆく神輿かな 比叡 野村泊月
みあかしに杉の根高し寒詣 竹内南蛮寺
みそさざい屋根に杉の葉干す山家 鵜飼登美子
みんみんの声通せんぼ杉の奥 小檜山繁子
みんみん蝉杉の梢のふんわりと 中拓夫 愛鷹
むささびの杉生を跳ぶを方丈と 猪俣千代子 秘 色
むささびの爪あと杉に秋の暮 伊藤京子
むささびの爪痕しるき杉の幹 橋本記縫恵
むささびの飛ぶ杉の穂や星月夜 野村喜舟
むささびや杉にともれる梅雨の星 水原秋櫻子「磐梯」
やはらかき青田いちまい杉の寺 鷲谷七菜子 花寂び
やはらかく蛇が越えゆく杉丸太 今瀬剛一
やぶさめや霧のよどみの杉生より 木津 柳芽
よく晴れて杉に花粉を飛ばす色 矢島渚男 百済野
よじ登る杉のかなたに鯨幕 天野素子
わかさぎのはつ固さかな杉の折 横光利一
わが前や杉を引裂く力ゆく 和田悟朗
わが吐瀉なり山峡杉の根の残書 高野ムツオ 陽炎の家
わが木にて暗き杉立つ真冬かな 中村苑子
わが美林あり檜葉杉葉言葉千葉 折笠美秋 虎嘯記
ヒマラヤ杉に冬棲みならぶ個室錠 松村蒼石 雪
ヒマラヤ杉の空気吸ふこと歩くこと 浅井一邦
ヒマラヤ杉翼大きく垂れて夏 石田あき子
フルート曲杉一本づつ雪ふらす 桜井博道 海上
ランプ灯してくばりくる杉の尖りとなる 栗林一石路
一休寺一の杉選り冬の鵙 内山芳子
一山の杉の若木や風かほる 会津八一
一山の杉をつつみて五里霧中 桂信子 花影
一山の杉揺り上げて冬の風 茨木和生 遠つ川
一本の杉大寒の月を刺す 藤城茂生
一村は杉の木の間に五月雨 五月雨 正岡子規
一蝶のたゆたひ杉の暗さ負ふ 河野多希女 両手は湖
七堂の浴室暗し杉の月 野村喜舟 小石川
万丈の杉の深さや五月闇 稲畑汀子「さゆらぎ」
万燈会杉が匂へりうしろより 宇野隆雄
万緑の中の一山杉の鉾 野澤節子 黄 炎
三光鳥杉の薪干す奥熊野 小林洋子
三日月の滝のひかりし杉河内 穴井太 原郷樹林
三本の杉芯として霞みけり 阿部みどり女 『雪嶺』
三百年の杉の響きを雨の中 前田秀子
三輪山の杉かぐはしき除夜の雨 山地国夫
不祝儀や雪を落さぬ杉の幹 長谷川双魚 『ひとつとや』
並杉のくさるかと思ふ五月雨 五月雨 正岡子規
並杉の日光領はかすみけり 霞 正岡子規
乾沢地杉叢がくり梅咲けり 飯田蛇笏 雪峡
二タ杉より離々の人家の雪野かな 野村喜舟 小石川
二三本杉もまじりて冬木立 冬木立 正岡子規
二十年の夏杉を指す妻の齢 香西照雄 対話
五人まで友をおもふて杉植ゑる 栗林千津
五月かな合抱の杉の群列色新た 橋本夢道 無類の妻
五月雨は杉にかたよる上野哉 五月雨 正岡子規
五月雨や十里の杉の梢より 句佛上人百詠 大谷句佛、岡本米蔵編
五月雨や畠にならぶ杉の苗 五月雨 正岡子規
五本杉五本囁く冬深空 殿村菟絲子 『菟絲』
井戸水に杉の香まじる春隣 福田甲子雄
人恋し杉の嬬手に霧しぐれ 白雄
今朝秋の日差も杉も水ぶくみ 茨木和生 丹生
今朝秋の杉のもとなる鼓楼かな 大橋櫻坡子 雨月
仏法僧こだまかへして杉聳てり 大野林火
仏法僧巴と翔くる杉の鉾 水原秋櫻子「磐梯」
仏法僧月下に杉の鉾尖り 渡邊千枝子
仏法僧行場に続く杉の径 阿部月山子
仏法僧青雲杉に湧き湧ける 水原秋櫻子
伊勢の神威羽黒の霊威杉の露 河野静雲
伊那谷の杉の真闇の初神楽 太田嗟
伐りごろの杉そそり立つ夏の空 福田甲子雄
何段に杉の木陰のあられ哉 霰 正岡子規
佛法僧巴と翔くる杉の鉾 水原秋櫻子
佛法僧青杉雲にこぞりたり 水原秋櫻子
佛法僧青雲杉に湧き湧ける 水原秋櫻子
倶利伽羅は杉ばかりなる小雪かな 細川加賀
健在に杉種採つて居られけり 斎藤華舟
傘杉の下秋風のめぐりけり 椎橋清翠
傘杉の注連あらあらし別れ雪 古舘曹人 砂の音
傷兵にヒマラヤ杉の天さむざむ 白虹
全身にしたたり溜めて紀元杉 高田ゑみ
八月の黒い神父が杉の中 神宮司茶人
八雲立つ出雲大社の杉おぼろ 西村佐恵
六月の杉の雫や二荒山 六月 正岡子規
六月の火の青かりき杉の鉾 磯貝碧蹄館
六月の空高々と神の杉 都甲憲生
兵燹に杉は残りて山桜 山桜 正岡子規
写経会や杉すれすれに雷歩く 大木あまり 火のいろに
冬すでに暮色の中の杉丸太 関戸靖子
冬に入るいちばん遠い杉として 鎌倉佐弓 潤
冬に入る杉の埃をうち叩き 大木あまり 火球
冬に入る絹ずれの音杉の中 宮坂静生 山開
冬の日の杉うごき雲の動きひとり居 安斎櫻[カイ]子
冬の月杉を燈まするあらしかな 木導 霜 月 月別句集「韻塞」
冬の鵙杉の先から藪の穂へ 大峯あきら 宇宙塵
冬ほのぼの歳月みゆる杉の天 柴田白葉女 花寂び 以後
冬三日月高野の杉に見失ふ 桑島啓司
冬凪や比枝の杉間の琵琶巨細 東洋城千句
冬天へ杉は槍なす平家村 鍵和田[ゆう]子
冬晴の杉のみどりに掌が乾く 中拓夫 愛鷹
冬杉に月照り武蔵一の宮 水原秋桜子
冬杉矗々眦挙げて石狐 北野民夫
冬杣の谺杉枝の雪散らす 町田しげき
冬灼けて秀立つ野守の一つ杉 小松原みや子
切株と同齢の杉南風に鳴る 中戸川朝人 尋声
初市や刻印にほふ熊野杉 松本幹雄
初秋や杉の谷より青煙 沢木欣一
初紅葉せる羞ひを杉囲み 能村登四郎 有為の山
初茜杉の千本ふちどりぬ 清水基吉
初蝉の樹に選ばれて杉熱し 鈴木鷹夫 大津絵
初護摩のほのほゆらめく杉の幹 羽田岳水
初雪のかりそめならず杉に舞ひ 関圭草
初霞して御社の杉にほふ 柴田白葉女
初鴉日を恋ひわたる杉の天 畠山譲二
削られて杉かぐはしき日永かな 河野 真
前山の杉の赤きは花ならむ 松尾いはほ
前山や杉の高きゆ春の雨 楠目橙黄子 橙圃
割箸の杉の柾目や夏料理 勝田たつし
加茂の花杉の木の間を水流る 四明句集全 中川四明
動いてるしやがの葉杉の日かげだ 北原白秋
北暗き杉秀の星よ生さむし 佐藤鬼房
北風や杉の三角野の果に 東洋城千句
十一の鳴き交ひ杉の穂はそろふ 太田 嗟
十一や羽黒の杉の磴険し 皆川盤水
十一や花背峠は杉の谷 脇本千鶴子 『てんと花』
十丈の杉六尺の薄かな 薄 正岡子規
十二代甚兵衛も亦杉を植う 阿波野青畝
十月や檜まつすぐ杉まつすぐ 岬雪夫
南無観世音杉間より散るは櫻よ 荻原井泉水
口笛のまだ冷たくて春の杉 鈴木鷹夫 渚通り
古宮の桜咲くなり杉の奧 桜 正岡子規
古杉に道ある雪の峠かな 古白遺稿 藤野古白
古杉の中にくの木の若葉哉 若葉 正岡子規
古杉の五本並ぶや春の雨 春の雨 正岡子規
古杉の四五本ならぶ春の雨 春の雨 正岡子規
古杉の間に光る若葉かな 若葉 正岡子規
古杉の風薫りけり奥の院 薫風 正岡子規
古杉や三百年の風薫る 薫風 正岡子規
古郷に高い杉あり初しぐれ 荊口 俳諧撰集「有磯海」
台風の後くるひなき杉の列 今瀬剛一
合掌しては歩く涼しさ高野杉 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
名月や杉に更けたる東大寺 夏目漱石 明治三十七年
君待つ夜蚊遣の杉のなくなりぬ 蚊遣 正岡子規
吹かれ来て穂絮漂ふ杉の隙 石塚友二
吹き上げてくる滝風や杉を植う 野生月冷子
吹落す杉の枯葉や雪の上 比叡 野村泊月
吾子泣くか雪山かぎる杉一樹 角川源義
呼び合ふごと杉濤がくれ桜二樹 古賀まり子 緑の野以後
啄木鳥鳴くや杉の匂へる女人堂 川田さちえ
囀りや卒塔婆と杉の碧空に 阿部みどり女
囀りや杉の御坊は燈ともして 臼田亜浪 旅人
四山月明太幹ほそ幹ますぐに杉 古沢太穂 古沢太穂句集
四方の杉錆びて小国の深き冬 佐藤寥々子
土器の三輪の三つ杉屠蘇を受く 下村梅子
垂天の杉を降り来し木下闇 斎藤玄 雁道
基地ほとり人間曲り杉は立つ 徳弘純 非望
塔の空杉は今年の穂をそろゆ 米沢吾亦紅 童顔
塔婆焚き雪解の杉を暗くのばす 桜井博道 海上
墓の杉馬穴結ひあり雪間草 中戸川朝人 尋声
墓へ來て見ればさえけり杉の月 月 正岡子規
墓原の杉見る人を鳴く蚊かな 雑草 長谷川零餘子
墓所の杉火よりもあかき蔦まとふ 大野林火
墓標杉鳥引く空を蔽ひけり 鷲谷七菜子 游影
墓洗ふ杉一本のはればれと 蓬田紀枝子
声明のとき樅に雪杉に雪 岡井省二
夏に籠る杉の匂ひの霧の中 小野千枝子
夏の月杉の一木切られゐて 新谷ひろし
夏の杉北の明治史ひた昏し 平井さち子 紅き栞
夏の蝶書寫の杉間の深さ飛ぶ 高田蝶衣
夏の蝶杉高ければ高きまで 青柳志解樹
夏の露払ひ諏訪社の五兵衛杉 高澤良一 宿好
夏安居や杉谿ふかき天狗寺 芋川幸子
夏書いま窓の杉の穂きりきりと 皆吉爽雨
夏服に杉の別れの匂ひかな 原裕 青垣
夏杉の幹ひえびえと楽焼窯 中拓夫 愛鷹
夏杉の息ととのへり平林寺(平林寺五句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
夏蝶翔るや杉に流れ来て真一文字 島村元句集
夕月をうしろに入れて杉の森 夕月 正岡子規
夕焼け杉間からの茶店に暗くされてゐる シヤツと雑草 栗林一石路
夕焼や杉の梢の凌霄花 村上鬼城
夜に入るや杉にこもりし穂田の風 皆川白陀
夜の杉のときどき覚めて雪墜す 橋本榮治 麦生
夜の雪杉の木の間の伽藍哉 雪 正岡子規
夜は夜のみみづくを聞き深山杉 青柳志解樹
夜は歩く杉もあるらし神の留守 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
夜は雪の杉のかなしび村を囲み 鈴木真砂女 夕螢
夜も光る杉とて立たせ夏の日に 川端茅舎
夜参りの杉むささびの影翔たす 丸山佳子
夜振火のつたひ下りくる穂杉かな 阿波野青畝
夜濯ぎの闇に羽黒の杉匂ふ 安藤章雄
夜濯の母のうしろの杉の闇 関口謙太「冬櫟」
夜神楽や杉の間から光る星 井月の句集 井上井月
大寒の日矢棒ざしに杉の鉾 大石悦子 群萌
大暑にて杉の木霊は背の高き 正木ゆう子
大根焚杉の葉はぜる大竃 芋川幸子
大玻璃の杉の直立あたたかし 阿部みどり女
大粒の杉の雫や春の雪 高橋淡路女 梶の葉
天へ天へ杉は背伸ばす冷奴 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
天狗倒しか/屋久杉か/鹿鳴く闇か/情交か 林桂 黄昏の薔薇 抄
太郎杉降らす花粉や地震あるな 青木重行
太陽と朝な夕なに神代杉 上野草魚子
夫婦杉拝み来てより福沸 安部てい
奥山に夏霧のぼり杉濡らす 原裕 青垣
奥深き杉の木の間の紅葉かな 紅葉 正岡子規
好日のわけても杉の空澄む日 石塚友二
姥杉に大日舞楽奏さるる 荻原映☆
姫杉の真赤に枯れしあつさ哉 暑 正岡子規
婆杉は失せて爺杉梅雨深し 細川加賀 生身魂
子供等の歌うて来るや杉の月 比叡 野村泊月
守宮啼くやヒマラヤ杉の深き燈に 渡辺水巴「水巴句集」
宝鐸草咲いてやさしき杉の肌 山本順子
実南天ひよどり杉の高さ翔び 和知喜八
室生寺の穂杉をのぼる河鹿の音 石原八束 空の渚
家うら元日の杉に日あたる シヤツと雑草 栗林一石路
家二軒杉二本冬の鴉飛ぶ 寒鴉 正岡子規
宿近く雪に昏れゆく杉ありて 京極杞陽 くくたち下巻
寒の水奔らせ磨く杉丸太 ふけとしこ 鎌の刃
寒晴るる天城の杉の太郎にて 矢島渚男 延年
寒月や石塔の影杉の影 寒月 正岡子規
寒雷の後なまじろき杉の空 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
尾根みちの杉の下露濡れて行く 高濱年尾 年尾句集
屋久杉の化石の如き肌の冷え 三好潤子
屋久杉を計るためなり腕時計 辻脇系一
山*しょうに木魅答へて杉の月 子規句集 虚子・碧梧桐選
山がひの杉冴え返る谺かな 芥川龍之介 澄江堂句集
山すだまに木魅答へて杉の月 月すだま<鬼+肖> 正岡子規
山の杉は暗く愚直に四十雀 森澄雄「花眼」
山の杉群おり来月光瀬と睦ぶ 古沢太穂 古沢太穂句集
山へ杉坂谷へ杉坂法師蝉 森澄雄
山上に杉生は重し星祭 斎藤玄 雁道
山中昏れ 昏睡の鵙 美山杉 伊丹公子 山珊瑚
山内の杉に吸はるゝ粉雪かな 野村喜舟 小石川
山刀伐や杉の祠を秋の風 加藤耕子
山国に嫁げば杉を植うことも 西尾 苑
山始杉の挿し穂の明らめり 宮坂静生
山峡の杉冴え返る谺かな 芥川龍之介 蕩々帖〔その二〕
山本の一むら杉や秋の暮 秋の暮 正岡子規
山本や寺は黄蘗杉は秋 秋 正岡子規
山杉に霧ふりかゝる夏祓 山中不艸
山桜杉の闇よりもれにけり 山桜 正岡子規
山清水ごくごく飲めば杉の青 二串康雄
山裾は杉皮葺のひかる午下 横山白虹
山里や杉の葉釣りてにごり酒 一茶
山開き太郎次郎の杉聳ゆ 矢部治子「未来図合同句集」
山雀や杉生を透きて朝の日矢 荒川幸恵
山鳩や穂麥が果の杉の中 会津八一
山鶯の声天明り杉伝ふ 太田鴻村 穂国
岡ぞひや杉の木まじり冬木立 冬木立 正岡子規
峡五月寺領を分つ杉の雨 原裕 青垣
島人よこの杉伐るな魂祭 大峯あきら 鳥道
崖(はけ)泉玉とたばしる太郎杉(偕楽園) 角川源義 『神々の宴』
崖笹に杉の落葉のなだれかな 高濱年尾 年尾句集
巨杉の露の日筋を十方に 高野素十
已に出でゝ光り洩れけり杉の月 尾崎迷堂 孤輪
帚杉から炎帝の笑ひかな 川村哲夫
幟立つ藪穂杉穂の里曲かな 楠目橙黄子 橙圃
幡かけの杉に日当る初薬師 井上玉枝
年の豆礫を跳ねし神の杉 松本秩陵
年移る杉の枝打ちせしままに 岡井省二
幾戦火越えて冬帝二本杉 菊本昌子
庫裡までは濡るるに任す杉しぐれ 北野民夫
庵からは杉の上野の花曇 花曇 正岡子規
弥生杉に耳あて春の修羅となる 遠藤央子
影もつれ鹿ノ子鬼百合杉薬師 石崎素秋
彼国微風吹動常立杉微塵 夏石番矢
待春や雪折れ杉を畑に焚き 古賀まり子
御松明良弁杉の裾に組む 飯隈球子
御殿場や並杉老いて蝉稀也 蝉 正岡子規
思想より喬くヒマラヤ杉の在り 久保 純夫
懸巣とぶ露の重みの朝の杉 佐藤定一
懸巣なく高野の杉の或る木かな 柑子句集 籾山柑子
懸巣鳴く杉の匂ひの光前寺 蟇目良雨
懸鳥の杉あをあをとおん祭 中御門あや
我庵のものぞ上野の杉の雪 雪 正岡子規
戸隠や杉に風鳴りまゆみの実 森岡由江
戻り梅雨杉の山より杉の靄 本田平八郎
手を繋ぐ二階の死者と杉の木が 西川徹郎 町は白緑
手を触れし杉の群れ花花粉散る 野上かずみ
折からの天の打水句碑に杉に 西村和子 かりそめならず
掃苔の人になみ立つ高野杉 長谷川素逝
斧の音杉の貴船の秋天透き 北野民夫
斧始杉凜々と響き合ふ 早川翠楓
新涼の杉の中より行者かな 小野一恵
新涼やかたぶく杉の天の声 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
新涼や白き鳥過ぐ杉の奥 茂里正治
新社員ヒマラヤ杉のみどりの夜 角川源義 『秋燕』
新緑に紛れず杉の林立す 山口波津女
新蕎麦や杉冷えしるき坊の月 吉田冬葉
日あたりて綿虫の宙杉の宙 手塚美佐 昔の香
日ざかりや青杉こぞる山の峡 芥川龍之介「澄江堂句集」
日のさすや杉間に見ゆるからす瓜 多代女
日の旗の杉葉に竝ぶ新酒哉 新酒 正岡子規
日ゆらゆら杉のあからみいつまでぞ 林原耒井 蜩
日傘入りて杉の木の暮きはまりぬ 岸田稚魚 筍流し
日光へ薫風杉の十里かな 赤木格堂
日光もとほさぬ杉のしげりかな 茂 正岡子規
日光ハ杉茂リ箔ノ光カナ 茂 正岡子規
日挟の杉に日輪囀れり 茨木和生 遠つ川
日田杉のずんと高むや秋の空 高澤良一 鳩信
日田杉の身に入む山に泊りけり 鈴木しげを
日田杉の鉾をそろへて山始 岩崎照子
日盛りの時鳥啼く杉の山 冬葉第一句集 吉田冬葉
旧道は杉の落葉の箱根かな 木下一静(欅)
早乙女と別れて急ぐ杉の坂 福田甲子雄
明易し杉の木立のすくとあり 阿部みどり女
春の杉一樹一樹に仏棲む(鎌倉建長寺) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
春の水二本杉より流れいづ 比叡 野村泊月
春の鹿居て大いなる杉の闇 市橋章子
春や昔杉鉄砲の痛きこと 川名大
春天を降り立つごとし爺杉 平井照敏 天上大風
春寒み出づるに入るに杉檜 松澤昭 宅居
春山の遥かな杉と雑木かな 京極杞陽 くくたち下巻
春晝の僧形杉にかくれけり 原石鼎
春暁の杉の青さに佇ちにけり 小坂 順子
春暁や穂を重ねたる谷間杉 楠目橙黄子 橙圃
春浅き一歩にずいと杉動く 鳥居美智子
春深き杉葉の土を切り拓き 遠藤梧逸
春蘭やけんけん雉子も杉の奥 友二
春蘭をのせ伐採の杉を出す 山中みね子
春蝉や雑木も杉も雨後の山 石塚友二
春行くと片身を濡らす杉の幹 奥名春江
春雪や素手もて磨く杉丸太 松岡英士
春風に離れて神の杉二本 岩淵喜代子 硝子の仲間
春風やまだ赤さびの杉の色 春風 正岡子規
昼ながら杉に月ある河鹿かな 芝不器男
時雨るゝやすゞろに匂ふ杉の幹 中島月笠 月笠句集
時雨雲ひろがつてゆく杉磨 西村博子
時鳥杉一本の野の広き 時鳥 正岡子規
晦日月なし千歳の杉を抱く嵐 芭蕉
暁闇の杉に新年満ちてをり 甲子雄
暖かやとく夕凪げる杉の幹 中島月笠 月笠句集
暮るるまで青杉にゐて深眉毛 宮坂静生 山開
暮れ行くや杉の林の薄紅葉 紅葉 正岡子規
更衣鹿島の杉は雲の中 鈴木鷹夫 大津絵
最上峡秋天を抜く土湯杉 高澤良一 随笑
月のぼる二本の杉の間かな 比叡 野村泊月
月もなき杉の嵐や年籠り 召波
月代に尾上の杉の穂並かな 比叡 野村泊月
月涼し杉葉の門の明放し 尾崎紅葉
月青し杉の木の間の閻魔堂 月 正岡子規
有明の杉に隠れて梅の花 梅 正岡子規
朝寒の日当る門や杉の奥 比叡 野村泊月
朝霧の杉にかたよるもみち哉 紅葉 正岡子規
朝霧や杉の木末の園城寺 霧 正岡子規
朝顔小さく杉の梢の紺一輪 島村元句集
木がらしにいよいよ杉の尖りけり 素丸
木の国は花の杉ふる西行忌 上田五千石 琥珀
木の間もる月青し杉十五丈 月 正岡子規
木兎の鳴きやむ杉の霰哉 霰 正岡子規
木枯に岩吹きとがる杉間かな 芭蕉
木犀の軒毎杉の材を干す 高久田橙子
木綿注連に羽黒の杉の風薫る 皆川盤水「高幡」
未生以前の槌の音する朝の杉 鶴岡梨江子
末枯るゝ杉の下道歯朶薊 正岡子規
朱鷺の目にはいま杉の青なだれをり 上野波翠
杉かこみゐる斎館も雪囲 森田峠 逆瀬川
杉が咲き鼻の大きな磨崖仏 菖蒲あや
杉が立つ光にくらし箒草 斎藤玄 雁道
杉こけし亡き娘に買へり星月夜 柴田白葉女 花寂び 以後
杉ごめに灯のうつくしき神遊 晏梛みや子
杉たつる門に蚊の鳴しぐれ哉 高井几董
杉たり 一本杉たり 倒れて銀河と称ぶ 折笠美秋 虎嘯記
杉で囲む王宮 暮光は ながく冴え 伊丹公子 山珊瑚
杉なべて優雅痩身雪の音 鈴木真砂女 夕螢
杉なりにせり上りたる田植ゑかな 丈草「丈草句集」
杉なりの俵の山をしくれけり 時雨 正岡子規
杉による花見車の小牛哉 花見車 正岡子規
杉に北風鳴るばかりなり大原陵 金居欽一
杉に消ゆしぐれの懸巣しかと白羽 皆吉爽雨 泉声
杉に降り田に降り雪の根付くなり 小島千架子
杉に降る雪さらさらと紙漉場 西村公鳳
杉に雨降り絵馬を濡らして雨終る 林田紀音夫
杉の上に馬ぞ見えくるむら紅葉 其角 (箱根)
杉の下に野菊咲きたる誰が冢そ 野菊 正岡子規
杉の下枝払ふ音より鵙高音 大熊輝一 土の香
杉の中残雪は陽をおそれけり 小檜山繁子
杉の光り仏間に通し夏立てり 大木あまり 山の夢
杉の奥に白雲起る紅葉哉 紅葉 正岡子規
杉の幹するすると見て夏炉かな 鷲谷七菜子 花寂び 以後
杉の幹はなるゝ蛾あり明易き 大橋櫻坡子 雨月
杉の幹五六本同じ夜寒かな 中島月笠 月笠句集
杉の幹剥げば赤膚冬の霧 中拓夫 愛鷹
杉の幹太し涼しと中年来る 原裕 葦牙
杉の幹年のはじめのさはやかさ 中島月笠 月笠句集
杉の幹見上げ打ち撫で山始 和田祥子
杉の形に父ゐて秋の大雷雨 栗林千津
杉の暗さの崖の滴り食器置かれ 桜井博道 海上
杉の月冷まじければ寝の難き 富安風生
杉の木に絵馬掛けて来る日永哉 日永 正岡子規
杉の木に鵙鳴きやんで夕燒す 鵙 正岡子規
杉の木のたわみ見て居る野分哉 野分 正岡子規
杉の木のによつきと高し秋の暮 秋の暮 正岡子規
杉の木の下をふりけり春の雨 春の雨 正岡子規
杉の木の揺れて大雪とはなりぬ 今井杏太郎
杉の木や三百年の鳶紅葉 蔦紅葉 正岡子規
杉の木をしろき帽子で埋めけり 宇多喜代子
杉の木を痛がらずして蛇登る 相生垣瓜人 明治草抄
杉の杜の出口に白き桜かな 桜 正岡子規
杉の根に杉の葉おろす夏の機 宮坂静生 山開
杉の根の内侍の墓は雪置かず 森田峠 避暑散歩
杉の樹の影冷え込んで僧の墓 茨木和生 遠つ川
杉の洞すはや響みし御神渡り 岡井省二
杉の皮一枚剥がし山始 石垣青☆子
杉の穂に夜明の星や井華水 川村岐州
杉の穂に月のぼりたる施餓鬼寺 福田甲子雄
杉の穂に風少しあり黒鶫 河内孝子
杉の穂のかさなる文目ほととぎす 亀井糸游
杉の穂のするどき月の高野かな 楠戸まさる
杉の空しぐるゝ駕の見えて行 時雨 正岡子規
杉の空せまきに満ちて星涼し 沢田弦四朗
杉の芽に蝶つきかねてめぐりけり 富田木歩
杉の芽のあかるき梅雨の夕かな 前田普羅 飛騨紬
杉の苗植ゑて過疎化の進む村 馬場檜青
杉の葉に長く蜂をり怠ける日 田川飛旅子
杉の葉のあからむは春近きかな 石川桂郎 四温
杉の葉の残る修二会の火屑かな 山下美典
杉の葉の火もて炭窯点火せり 加藤照枝
杉の葉の種火はじけし牡丹焚 金子知代
杉の葉の赤ばる方や冬の暮 許六 霜 月 月別句集「韻塞」
杉の葉の雨が冷たし一里塚 中拓夫 愛鷹
杉の葉もしくれて立てり繩簾 時雨 正岡子規
杉の葉をあつむる春のはたたがみ 宮坂静生 山開
杉の道秋立つ朴の広青葉 松村蒼石 雪
杉の間にかゝれる瀧を光(こう)と呼ぶ 大橋敦子
杉の間に一きはしるき若楓 臺 きくえ
杉の間に夏の朝日が金の輪に 高木晴子
杉の間に夜の残れる花の雨 山田弘子 懐
杉の間に杉横たへて涅槃西風 今瀬剛一
杉の間に湖ぞ暁けくる霧ながれ 岸風三楼 往来
杉の間に見極めがたし夏の月 稲畑汀子
杉の間のひぐらし下山の息ほどに 桜井博道 海上
杉の間の羽虫明るう寝過ぎたり 林原耒井 蜩
杉の間の蝉を立たする波すゞし 長谷川かな女 雨 月
杉の間を音ある如く夏の蝶 星野立子
杉の雨より浮かび出てさくらかな 山上樹実雄
杉の雪しきりに落ちぬ初薬師 大峯あきら
杉の雪一町奥に仁王門 子規句集 虚子・碧梧桐選
杉の風茘枝の熟れを冷すなり 石井宏史
杉の香と杉を挽く香の木晩径 森山夕樹
杉の香に新緑邃し楞厳寺 河野南畦 湖の森
杉の香に明くる山河やむかご飯 高橋 好温
杉の香のして大年の父の墓 大木あまり 火球
杉の香の火を振りこぼしお松明 宮川杵名男
杉の香の雪折れにきて佇ち止る 中西舗土
杉の香の風にもまるる走り梅雨 和多昭子
杉の香の高尾の護符や星月夜 水原秋櫻子
杉の香や霧の奥より小瑠璃鳴く 沼田淑子
杉の香を胸に充して山始 角光雄
杉の鵜が竹の鵜を呼ぶ日暮かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
杉の黙解かれ社の初太鼓 川本春美
杉はなほ夜の高さに初神楽 鷹羽狩行
杉はみな直立著莪はみな傾斜 蔦三郎
杉は夕焼下萌の辺は尚明るし 加藤知世子 黄 炎
杉は杉であることに倦み虎ヶ雨 今瀬剛一
杉は直雑木は曲に寒明ける 益永孝元
杉は緑南天赤きアーチ哉 寺田寅彦
杉は鉾をさめて月の名残りかな 三田きえ子
杉ばかり霧の世ばかり陥没湖 中島斌雄
杉むらへますぐの滝や春の雨 楠目橙黄子 橙圃
杉より杉生れ夕霧のなかの家族 桜井博道 海上
杉をもる日ひやゝかに曾我の墓 子規句集 虚子・碧梧桐選
杉を来て松は明るし夏の雨 井門三千代
杉を植う木うら木おもて間違はず 上村七里峡
杉を洩る日綾みどりに富貴草 小松崎爽青
杉を背の杣の弁当令法飯 三浦妃代 『花野に佇つ』
杉丸太剥かれて雪を冠りたる 遠藤芳郎
杉丸太磨く音よりしぐれけり 田中君子
杉二十五幹同根冬青天 伊藤いと子
杉伐に逢ひ鮎釣に遇ひにけり 岸風三樓
杉冷えてゆく広重の茜空 鷲谷七菜子 花寂び
杉千本大露の日を透き入れて 柴田白葉女 花寂び 以後
杉千里痛めし指に霧の粒 原裕 青垣
杉叢の幽冥昇る蔦紅葉 高澤良一 燕音
杉叢の群山あつめ涼しけれ 石塚友二 方寸虚実
杉古木檜老木冬青空 津田清子
杉崇し汗しぼりきる三の坂 小松崎爽青
杉折ににじむ春の日卵焼 長谷川櫂 古志
杉抽いて松涼し雨ざんざ降る 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
杉暗き社の雪間〜かな 古白遺稿 藤野古白
杉暗く中に色つく銀杏かな 銀杏黄葉 正岡子規
杉暗く井垣に秋の夕日哉 秋の夕日 正岡子規
杉暗く紅葉散るなり御幸橋 散紅葉 正岡子規
杉暗く飾納めの人につづく 阿片瓢郎
杉暗く鴉なくなり秋の雨 秋雨 正岡子規
杉暗し月にこぼるゝ井戸の水 月 正岡子規
杉板の厚き階段鮎の宿 茨木和生 遠つ川
杉林あるきはじめた杉から死ぬ 折笠美秋(1934-90)
杉植うる一穂々々を天日に 皆吉爽雨 泉声
杉植うる加勢の苗を背負ひ来し 梶本夜星
杉植うる父と顔合ふところまで 下田稔
杉植ゑてこの山齢の若返る 赤座閑山
杉植ゑて十津川気骨なほ存す 吉波泡生
杉植ゑて妻には不自由させて来し 須川峡生
杉植ゑて雲の中より戻りけり 宇都木水晶花
杉檜とつぷり暮れて十夜鉦 檜紀代
杉檜朝日つめたき氷室山 氷室 正岡子規
杉檜槙も太しや蔓手毬 宮崎素直
杉涼し相撲神社の土俵跡 飯隈球子
杉深う行く激流となる余花も 筏井竹の門
杉深くいかづちの居る夏行かな 富安風生
杉深く来て眠る鵞や秋の雨 中島月笠 月笠句集
杉渓はしづか裏白採去りて 茨木和生 木の國
杉焼にこげついて鴨うっぽっぽ 加藤郁乎 佳気颪
杉焼や盃をおく板の上 佐久間法師
杉燦と鶫の群れも寺の空 和知喜八 同齢
杉生出て杉の湿りを春手套 大石悦子 群萌
杉百本伐り倒したるさくら冷え 火村卓造
杉皮の抹香臭し雪解山 大木あまり 山の夢
杉皮の赤むきだしに夏の山 高澤良一 素抱
杉皮を剥げば杉舞茸の白 茨木和生 遠つ川
杉磨く婆のゐて蝶過ぎしのみ 桜井博道 海上
杉籬や杏の若木咲きいでぬ 芝不器男
杉美し鹿島は風のかをる宮 川端茅舎
杉老いて小さく動く冬の人 鈴木汀子
杉老いて雨の中なる若葉哉 若葉 正岡子規
杉育て関東平野かすむなり 城取信平
杉脂の手に煩はし蝉の声 野坡「百曲」
杉花粉半身すでに杉となる 飯田晴久
杉芽こぞり山門今日を華麗にす 河野南畦 湖の森
杉苔に万両溺れ寂光土 富安風生
杉苔に浮ぶ落花の吹かれもす 高濱年尾 年尾句集
杉苔を埋め尽せし散紅葉 高木桂史
杉葉かけて北風防ぎ銭乞へる 比叡 野村泊月
杉葉もてもさと葺いたり小鳥小屋 松本たかし
杉葉搗く香に秋水のみづぐるま 野澤節子
杉葉添へ奈良より届く新走り 岡 潔志
杉鉄砲借りしが縁児と笑ふ 浜田みずき 『石蕗の花』
杉鉾に六月の日の小ささよ 遠藤梧逸
杉鉾の影を一蹴みづすまし 小路智壽子(ひいらぎ)
杉鉾の華やぐ春の雪の中 鈴木よし
杉間より流るる枝垂桜かな 沢木欣一 往還
杉間より粉雪とび出す追儺寺 田中青濤
杉闇き坂より日傘たたみ持つ 山下率賓子
杉闇に瞳光りぬ春の鹿 筒井盧仏
杉雫に傘濡れまされ時鳥 碧雲居句集 大谷碧雲居
杉香にも風邪気催す霜の朝 村山たか女
杉高く秋の夕日の茶店哉 秋の夕日 正岡子規
杉高しなほ高かりし夏の月 高木晴子 花 季
杉高し秋扇もて幹打てば 皆吉爽雨
杉高穂山の寒さを鍾めけり 野村喜舟 小石川
杉鳴りて電源守る夜業の灯 大島民郎
杣を籠め霜焼け深き杉の山 小島千架子
松にしぐれ杉に鳶鳴く夕日哉 時雨 正岡子規
松に杉に燈籠高し山の寺 小林臍斎
松よりも杉に影ある冬の月 井上井月
松例祭火の粉が落す杉の雪 升本行洋
枝打をしたるばかりの杉立てり 右城暮石
枯杉の上にしばらく猿田彦 平井照敏 天上大風
枯蔦や絵馬は古りたる神の杉 寺田寅彦
根にはまだ炎暑至らず杉聳てり 大熊輝一 土の香
根元まで梅咲いて杉黙りいる 和知喜八 同齢
根本中堂日盛りの杉立ちつくす 佐野青陽人 天の川
桃山期にひまらや杉のまうしろに 阿部完市 春日朝歌
梅若葉杉よりも明つてゐる 北原白秋
梅雨に入る杉直幹の男振り 増子京子
梅雨晴や朝日にけぶる杉の杜 梅雨晴 正岡子規
梅雨杉の雫に立ちて遍路めく 下村ひろし 西陲集
梅雨杉の雲に金棺出現す 水原秋櫻子
梅雨雲の電源地帯杉くらし 大島民郎
梟の眼玉も見えず杉の月 月 正岡子規
梟や杉見あぐれば十日月 梟 正岡子規
梢風に侍す天狗杉青葉木兎 百合山羽公 寒雁
榾たくや檜の嵐杉の風 榾 正岡子規
樅杉樅西の虚子忌に詣でけり 岡井省二
権現や桜もまじる杉の雨 花の雨 正岡子規
横に吹く落花の雪や杉の前 花吹雪 正岡子規
樫鳥や杉の匂ひの鞍馬寺 三原清暁
次郎杉の風に落葉の太郎杉 池上樵人
残る杉一本に滲む寒さかな 仲田一笑
残暑見舞に杉のにおいの男来る 出井哲朗
残菊やをみなもはこぶ杉丸太 松澤白楊子
残雪の杉は頭上に暮れゐたり 桜井博道 海上
母はひとり蝉の貼り付く太郎杉 佐川広治
毘沙門の杉が時雨をよびにけり 角光雄
氏神の杉に貂住む平家村 西村しげ子
気が遠くなる先の世へ杉植うる 小沢きく子
水とりや杉の梢の天狗星 正岡子規
水よりも杉の匂へる蛍狩 今井妙子(雨月)
水中りして遠方の杉の鉾 黛執
水取や良弁杉は天そそり 鈴鹿野風呂
水取ヤ杉ノ梢ノ天狗星 お水取 正岡子規
水澄むや神々の代の杉の根に 島谷征良
水無月の杉の雫や二荒山 水無月 正岡子規
氷室の扉かたし杉生は花を垂り 瀧春一 菜園
氷挽く音こきこきと杉間かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
沢蟹のつきあたりたる一の杉 鳥居美智子
法師蝉ヒマラヤ杉の暗さより 阿部みどり女 『石蕗』
法師蝉杉間に蒼む空遠嶺 石 昌子
泣き力などといふもの杉にあり 山崎十生
注連さげし杉の神木花粉撒く 村上辰良
注連つくり杉の木の香の空に酔ひ 飯田龍太
注連杉に落花の風の吹きあたる 鈴鹿野風呂 浜木綿
泳ぎし髪洗ふ遠杉も日焼いろ 中拓夫 愛鷹
洗ふ手に柾目杉の香冬めきぬ 横光利一
涅槃寺ぬかるみに敷く杉の皮 栗田せつ子
涼しさや雫をこぼす杉の月 涼し 正岡子規
涼風の上野吹くらん杉動く 涼風 正岡子規
淋しさや杉の木立ちの秋の蝶 秋の蝶 正岡子規
深山蝉杣夫抜け来し杉の城 原裕 青垣
深熊野の杉の太箸匂ひけり 清水礼子
清冽に杉たちならぶ血のながれ 穴井太 ゆうひ領
湖の月見てこぞり居り杉の下 比叡 野村泊月
満山の芽杉かぐはしほとゝぎす 橙黄子
滴りも杖つく音も杉の中 山崎房子
演習の野中の杉や鵙の聲 鵙 正岡子規
漕ぐよ常世へ帰る者なき真杉の船 高柳重信
火祭に立ちはだかりて太郎杉 堀口星眠
火祭や幹を寄せ合ふ神の杉 北代 汀
火祭や黒きっほこ杉凛と立ち 岩尾 正子
灯のともる東照宮や杉の雪 雪 正岡子規
灯の入りて切子の背山杉匂ふ 田中英子
灯を消せば凩の底杉の声 柴田白葉女 花寂び 以後
灯氷る杉の木立や路の霜 霜 正岡子規
灯籠の間を杉の間を鹿移る 田中眠子
炎天や顔遠くして杉に立つ 桜井博道 海上
炎昼の杉生ふ山の匂ひかな 日下部宵三
点うつたやうに梅咲く杉の中 梅 正岡子規
焚口に杉の葉燻べ焼芋屋 藤木倶子
無月なる杉の梢や瑞巌寺 高野素十
煤掃は杉の木の間の嵐哉 松尾芭蕉
煤負けの杉伐り倒す日の永き 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
照鷽や杉の暮色のとどこほり 鈴木太郎
燕去る智恵子生家の杉の玉 金子知代
父の意志夏こそ光れ杉・陰毛 堀井春一郎
父の日の雫ためをり杉檜 大木あまり
父母ねむる冬なり杉の青こもり 成田千空 地霊
父母の杉より花粉童子かな 磯貝碧蹄館
父母や青杉の幹かくれあふ 三橋敏雄 眞神
父祖よりの杉大切に冬迎ふ 柴田白葉女 花寂び 以後
爽涼や杉一身に朝日浴び 村田 脩
爽籟や天をいざなふ杉の径 下田寿恵子
片側は杉の木立や冬木立 冬木立 正岡子規
片時雨杉葉かけたる軒暗し 泉鏡花
猪鍋や杉の全身雪はなつ 山本洋子
猫二匹杉の根もとに聖夜来る 桜井博道 海上
猿の湯や杉は深雪に花つけて 松村蒼石 雪
玉霰杉の命と檜の妃 下田稔
瑞垣や杉ほの暗く梅白し 梅 正岡子規
瑠璃啼いて天杉の闇渡りゆく 渡部利久子
瑠璃鳴くや渓に横たふ杉丸太 加納圭子
生の終り見えざる七月杉が立つ 寺田京子 日の鷹
生御魂縄文杉を称へけり 石河義介
田じまひの越後や杉のあをあをと 森澄雄
田に立てて杉の木青し小正月 長谷川櫂 古志
男来て杉の余命が語られき 中村苑子
病院とヒマラヤ杉と冬深む 金田咲子
白息を雲のごと吐き杉磨く 殿村菟絲子 『晩緑』
白杖に八十八夜の杉雫 村越化石
白玉や扁たきものに杉の幹 小林貴子
白秋や川に香を立つ杉丸太 宮田祥子
白雲へ杉まつすぐに四月尽 寺井治
白露や杉の葉にまづ火を立てし 宇佐美魚目 天地存問
百ヶ日杉の落葉を掃ひけり 常磐木落葉 正岡子規
百年杉二百年杉出羽涼し 茨木和生 往馬
百日忌の雪の梢抽き杉うごく 岸田稚魚 筍流し
百歳杉倒せば凍土泣き崩る 長野深青
百舌鳥鳴きて暁杉のしづくかな 大江丸
盆の町夜来の雨に杉青し 近藤一鴻
盆路や顔ひんやりと杉の中 外川飼虎
目じるしや晝は杉夜は高燈籠 高燈籠 正岡子規
目玉重くなる一月の杉の中 高野ムツオ 陽炎の家
眞黒な杉の林や寒の月 寒月 正岡子規
真清水に日は衰へて杉小苗 赤尾兜子
真直ぐに黙通しおり雪の杉 伊藤かず
眸のように湖中蝶ゆく杉の山 和知喜八 同齢
睡蓮にヒマラヤ杉の太き影 佐藤宣子(ホトトギス)
短夜や室生寺の杉うつる水 佐野青陽人 天の川
石につく鮎に明るき杉丸太 宇佐美魚目 秋収冬蔵
石塔に月漏る杉の小道哉 月 正岡子規
石段の杉葉掃き敢へず閑古鳥 会津八一
磐座の杉降りきたる冷気かな 岩月通子
磨かれて寒九の杉の横たはる 笹井武志
磨かれて杉の寒さの横たはる 黒坂紫陽子
礎に杉の落葉や平泉寺 池内たけし
祀らるる杉の根方の噴井かな 久保田珠生
神として仰がるる杉秋澄めり 越智照美
神の杉ましろき藤をかけにけり 岸風三楼 往来
神の杉焦げんばかりにどんと燃ゆ 大坂十縫
神の杉神の玄さに初日うく(秩父三峰神社七句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
神の苑藤かからざる杉はなし 岩崎照子
神楽唄のびやかに月杉間より 菅原師竹句集
神野寺へ霧整然と杉檜 鈴木康允
祭囃子山杉覆ふ村を出て 桂信子 遠い橋
禅林の干菜の縄を杉へ杉ヘ 皆吉爽雨
秋しぐれ枝八方へ御仏供杉 高村俊子
秋のバザー杉葉をさして門つくる 井上雪
秋の空尾上の杉をはなれたり 宝井(榎本)其角 (1661-1707)
秋の空浅黄に澄めり杉に斧 漱石
秋の蝶杉にかくれつ思ひ川 岡本松浜 白菊
秋日射し杉の匂ひの厠紙 桂信子 遠い橋
秋晴や杉生の面紺青に 五十嵐播水 播水句集
秋杉の幹しんかんと男立つ 原裕 葦牙
秋田杉の香を積む釣瓶落しの日 柴田白葉女 花寂び 以後
秋立つや千早古る世の杉ありて 夏目漱石 明治二十九年
秋立つや屋久杉の箸かるがると 芝 哲雄
秋雨や杉の枯葉をくべる音 夏目漱石 明治三十二年
秋雲をむかへて樹てり杉大樹 飯田蛇笏 山廬集
秋風のむかう山より杉のこゑ 鈴木鷹夫 春の門
秋風の瞬くそこに杉の苗 鈴木鷹夫 大津絵
秋風の鴉湧く杉の中尊寺 安斎櫻[カイ]子
秋風や杉の葉くさる石のあひ 秋風 正岡子規
秋高し関をつかんで二位の杉 川崎展宏
秘仏拝めば椋群るゝ杉のすてつぺん 長谷川かな女 雨 月
稚児育つ夏や杉の香ことさらに 原コウ子
種浸す朧夜の杉くろぐろと 中拓夫 愛鷹
稲光屋久杉古代の貌となる 石河義介
稲妻やされば夜来る杉の間 百池
稻妻や金碧うつる杉の隙 稲妻 正岡子規
空五月杉の匂ひの毛穴にも 原裕 青垣
空見えぬ縄文杉を落つる瀧 梶山千鶴子
立ちかこむ杉真青に盂蘭盆会 水原秋櫻子
立てかけし杉の丸太や市の月 月 正岡子規
立よりて杉の皮はぐ涼み哉 納涼 正岡子規
立山の杉のくらさに棲む懸巣 坊城としあつ
立待の杉の奥より水の音 殿村 莵絲子
立秋の水にかげ殖ゆ杉檜 原裕 青垣
竹には竹の杉には杉の秋の風 柴田白葉女 花寂び 以後
竹伐や杉の嵐の走る音 麻父「類題発句集」
笠の露も杉の匂ひや霧の朝 呑溟
笹鳴や浅谷杉の小百本 尾崎迷堂 孤輪
笹鳴や磨きて覚ます杉の肌 本多静江
箱庭や小さき杉の風薫る 榾沢墨水
箱根古道杉の天より初の鶏 野口節子
箸となる杉輪飾をして匂ふ 小澤満佐子
箸割れば杉の匂ひや夏料理 福原紫朗
節黒の杉板囲ひ夜長の湯 高澤良一 随笑
簗打ちぬ堰の杉葉の青々と 楠目橙黄子 橙圃
籠塀や杉皮朽てからす瓜 森鴎外
粥占の撒き餅杉の日矢に飛び 羽田岳水
粽蒸すけむりのぼれり青杉添ひ 大野林火
紀元杉神とし祀り滴れる 桑田青虎
紅葉して杉こそ青しいしだゝみ 清水基吉 寒蕭々
紅葉の中杉は言ひたき青をもつ 森澄雄
紅葉散るや夕日少なき杉の森 散紅葉 正岡子規
紅葉散る山の日和や杉の露 散紅葉 正岡子規
素描の杉わが誕生をゆるすなり 和田悟朗
細々と杉に雨ふる大暑かな 増田龍雨 龍雨句集
結界の杉にとどろく夜の雪崩 羽田岳水
絣乙女の唄もてみがく杉丸太 柴田白葉女 花寂び 以後
縄文杉語り出したる列島譚 妹尾 健
羅の二月堂僧杉間より 赤松[けい]子 白毫
老人や楊桃に杉の香のありと思う 金子皆子
老鴬の声縦横に杉の闇 林八州生
老鴬やしんしん暗き高野杉 石塚友二
老鶯に雲じめりして峰の杉 西村公鳳
老鶯やしんしん暗き高野杉 石塚友二
老鶯や日光は町の中も杉 菅 裸馬
老鶯や秩父山並杉矛立つ 松崎鉄之介
耳にとまれ心の杉にほとゝぎす 井原西鶴
耳よわき子に青杉は午睡の木 宮坂静生 山開
肉親あつまる杉の先端病み老ける 徳才子青良
胡弓の音杉間に消ゆる風の盆 畠山譲二
胸突坂杉も花粉を吐き尽す 和田祥子
胼かゆし杉の夕月うるむころ 栗林千津
至れりや杉を花とも社とも 山口素堂
良寛堂ひとりやだれの杉鉄砲 松田ひろむ
芋茎干す杉皮を干す軒の下 勝又一透
花の気を杉の林にさましけり 花 正岡子規
花もろとも葛引きおろす神の杉 青柳志解樹
花りんご杉の鉾立つ羽後に入る 長谷川耿子
花朧杉も朧や如意輪寺 堀 古蝶
花杉に息のにごりは許されず 丸山佳子
花杉や城址に馬頭観世音 西本一都 景色
花杉や斧鉞知らざる峰続く 山地曙子
花粉吐く杉のしばらくして照りぬ 岡井省二
若き杉ことに素直にしぐれけり 古賀まり子
若鮎に朝日さばしる杉の山 大串章
茎たばこ刈つては踏んで山に杉 和知喜八 同齢
茎立や寺の杉板木目浮く 菊井節子
茜富士かな〜杉に収まりぬ 久米正雄 返り花
茸採り再び杉の幹に消ゆ 鈴木荒圃
菜や麦や杉の木の間に野が見ゆる 菜の花 正岡子規
菫艸杉の古根に咲入し 加舎白雄
落葉して杉あらはるゝ山路かな 前田普羅 新訂普羅句集
葛切りて葛切りて杉育てきし 田島振嶺
蓑虫にこの杉である理由なし 今瀬剛一
蓮如堂杉の撥ね上ぐしづり雪 高澤良一 燕音
薄雪の杉の千本機始め 鷲谷七菜子 花寂び
薦を巻く根方ひとつや夫婦杉 堀 研一
薪能闇に羽黒の杉匂ふ 安藤章雄
薬の日杉のにほひをつけ歩く 斎藤玄 雁道
薺咲く杉の空から日が射して 茨木和生 木の國
虎鶫真闇の杉の山に鳴き 雨宮美智子
蚊遣火の杉葉はいたき涙かな 高浜虚子
蛇笏忌の杉が屈託なく高し 飯田龍太
蛍火の点滅杉の脚千本 横山白虹
蛸杉の根の張つてゐる穀雨かな 高木良多
蜂の子の小部屋六角杉暗し 高井北杜
蜂は日へ杉間いでゆく山冷えもて 古沢太穂 古沢太穂句集
蜜柑ひとつを三人で食ふ夜中の杉 桜井博道 海上
蜩の茶屋靜かなり杉の中 蜩 正岡子規
蜩や僧のあとゆく杉の道 比叡 野村泊月
蜩や山の井汲みに杉の道 西山泊雲 泊雲句集
蜩や杉街道を急ぐ人 岡田鱶洲
蜩や自動車倚せて杉の下 比叡 野村泊月
蜩や雲を降りぬく杉の雨 吉田冬葉
蜩二十重青き壮りに杉徹す 宮津昭彦
蝉がもつ固き眼石粉杉にとぶ 桜井博道 海上
蝉すゞし牛頭天王の杉のもり 蝉 正岡子規
蝉啼いて杉にも脂(やに)の流れけり 闌更
蝉止まる所に拘る太郎杉 高澤良一 素抱
蟋蟀や杉の重みの山の闇 森澄雄
行き馴れし墓の小道や杉寒し 寒し 正岡子規
行く春の釘うちこみし杉を見たり 行く春 正岡子規
行く秋や杉寂として赤き宮 行く秋 正岡子規
行春や鐘つきしまふ杉の中 荷兮
街かなし深夜は杉の音色もち 北原志満子
裏山の杉の香つよき雪催 落合伊津夫
裾山や雉子隠るゝ杉の苗 雉 正岡子規
西行庵花より杉のおぼろかな 関戸靖子
見て居れば見えて秋来る二本杉 正岡子規
親たちばかり暖冬の杉ばかり 齋藤美規
親杉小杉熊出し夜も空真青 赤尾兜子
触れてみし夏杉やさし高野道 宇都宮容子
読経しづむ杉千幹の雪の根に 鷲谷七菜子 花寂び
谷杉につよき落暉や鴉の巣 大橋櫻坡子 雨月
谷杉に凪ぎ雲迅さや弥生尽 飯田蛇笏 山廬集
谷杉に桜明るし鞍馬寺 田中王城
谷杉に燻る日のこり一と夕立 楠目橙黄子 橙圃
谷杉に蝶舞ひ上る清水かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
谷杉の深雪に堪へてつむじ舞ふ 松村蒼石 雪
谷杉の紺折り畳む霞かな 原石鼎
谷杉の鬱蒼真白深雪かな 松根東洋城
谷深み杉を流すや冬の川 夏目漱石 明治三十二年
谷空に杉の鉾立広重忌 森 澄雄
谿かけて月光こもる杉ぶすま 伊東宏晃
谿の杉紅葉の中は陽の音す 桜井博道 海上
赤々と杉の葉交る斑雪かな 加瀬美代子
赤松を杉より離す春の雨 蓬田紀枝子
足もとに杉の闇くる雨月かな 竜口幸子
踊子のほてりが過ぎぬ杉の闇 鈴木鷹夫 大津絵
躑躅ちり巨杉鷹をとどむなし 宮武寒々 朱卓
追羽根に高野の杉の高こだま 市川翠峯 『素木』
送水会の火に対岸の杉の鉾 中戸川朝人 残心
送行の袖ひらひらと杉雫 服部嵐翠
造り溜む桶の杉の香梅雨上る 伊藤敬子
道者声杉ふかう起る薫風に 乙字俳句集 大須賀乙字
遥かなる杉の穂そよぐ更衣 阿部みどり女「雪嶺」
郭公や杉は目覚めの幹濡らし 澤村昭代
野の中や只一本の杉の月 月 正岡子規
野は枯れて杉二三本の社かな 枯野 正岡子規
野芝居の杉に霧ふる夜冷えかな 太田鴻村 穂国
金杉や二間ならんで冬こもり 冬籠 正岡子規
金杉や寝床めぐって蛙鳴く 蛙 正岡子規
金杉や早梅一枝垣の外 早梅 正岡子規
金杉や梅にかけたる貸家札 梅 正岡子規
金杉や琴かしましき夏の月 夏の月 正岡子規
金杉や相合傘の初時雨 時雨 正岡子規
鉢植の杉の芽楚々と淡路女忌 阿部みどり女
銀漢の巨杉にかかり出石寺 和気祐孝
鐘を撞く坊主見えけり杉の月 月 正岡子規
鐘古りて杉に声あり三井の秋 古白遺稿 藤野古白
閉山の別子に残り杉を植う 鈴木無肋
間伐の標を付けて年越す杉 津田清子
関跡の藤たをやかに杉を締む 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
闇に浮く杉の直幹万燈会 安達波外
闇に身をしばらく置くと杉が見える 西本古鏡
阿夫利嶺の俄かなる雷杉植ゑる 中拓夫 愛鷹
阿蘇杉の湿り童女の七夕竹 桜井博道 海上
降れ粉雪後段は庭の杉楊枝 元求 選集「板東太郎」
降晴て杉の香高し蝉の声 加舎白雄
陸羽東線植田に朝の杉の影 田川飛旅子
陽炎や庇ふきたる杉の皮 惟然
雑巾や杉に時雨る床柱 一滴 選集「板東太郎」
雛の家杉の樹間に見えにけり 藤田あけ烏 赤松
雨乞や杉のうつつに酌みゐたる 斎藤梅子「濤聲」
雨晴るゝ桜に杉の雫かな 桜 正岡子規
雨水に杉葉涵りて夕蛙 飯田蛇笏
雨蛙杉脳天へまっすぐに 下村槐太 天涯
雪つけて杉の枯穂の舞ひおつる 横山白虹
雪の杉理非曲直を揺れながら 斉藤美規
雪の杉鳶は揺りをりその梢を 篠田悌二郎
雪ふるや姿正しく杉檜 青柳志解樹(1929-)
雪ぼたる開山杉の日おもてに 塚田秋邦
雪安居炊ぎの煙杉に上げ 荒井正隆
雪山の昼も夜も寝て杉丸太 吉田紫乃
雪折の杉ほきほきと天を射す 嶋田麻紀
雪折や一二に非ず松と杉 尾崎迷堂 孤輪
雪折れの杉っ葉蒼く高尾墓所 高澤良一 寒暑
雪折れの杉の錆散る橋懸り 北川英子
雪散つてしばらく白し山の杉 和知喜八 同齢
雪来るとどれも反り身の深山杉 橋本榮治 麦生
雪解山裾の黒杉手をつなぐ 殿村莵絲子 花寂び 以後
雲かかる屋久島杉の淑気かな 紅林みのる
雲の峰杉いつぽんを軸とせり 角川春樹 夢殿
雲やどる杉の下葉のこぼれけり 常磐木落葉 正岡子規
雲を根に富士は杉形の茂りかな 芭蕉
雲白し蝉満開の故郷の杉 福田甲子雄
雷神の太刀先杉をばらりずん 高澤良一 ぱらりとせ
雷神の爪あと杉にあきらかに 下村梅子
雷雨すぎ正座の客に杉の箸 桂信子 黄 瀬
霜晴や素手に磨きて杉丸太 井沢正江
霜焦げのいつか消えゐて杉の春 石塚友二
霧たつや尾上の杉に翌なろう 加舎白雄
霧の夜の火を吹きそだて杉の宿 鷲谷七菜子 花寂び
霧の杉しろがねの息旅に見ゆ 小檜山繁子
霧の杉神事の笛のつらぬける 鷲谷七菜子
霧走る杉の昏さやほととぎす 伊藤いと子
露けさのまだいとけなき杉の青 鷲谷七菜子 花寂び
露しとど樫の槌もて杉を割き 中戸川朝人 尋声
露に漏れ杉の仲間として立てり 青柳志解樹
露の日にみがきあげたる杉丸太 柴田白葉女 花寂び 以後
露の燦杉の燦ともいふべかり 齋藤玄 『雁道』
青こだま父杉母杉和してをり(奥多摩、檜原村) 河野南畦 『硝子の船』
青嶺星ゴッホの杉も谷に暮れ 辻田克巳
青杉と乳房と尖り夜の秋 津沢マサ子
青杉の凍て老境のさだまれり 飯田龍太
青杉の根方を攻めて曼珠沙華 館岡沙緻
青杉の驟雨に跳ねてゆく明日 穴井太 土語
青松虫こずゑに鳴けり杉の月 豊長みのる
青梅雨の瑞巌寺杉ふすまのみ 皆吉爽雨
青梅雨やきりりと結ぶ杉の天 石嶌岳
青梅雨や木霊棲みつく鞍馬杉 河野多希女 納め髪
青炎の杉囀りを鏤めぬ 川端茅舎
青空もつかの間杉にまた雪来 鈴木真砂女 夕螢
青葉木菟夜空に杉の鉾ならぶ 山谷 春潮
青蔦にほのぼの赤き杉の幹 高濱虚子
非目前深雪の杉の立話 和知喜八 同齢
額づけば初日の雲と杉のこゑ 山口草堂
額の花杉間はくらくなりゆきぬ 田村木国
風折れの杉の芽吹くや羽黒谷 阿久津都子
風湿り杉花は地につむじなす 矢吹湖光
風花に杉の匂ひや雲巌寺 谷田部栄
風花やわけて杉立つ永平寺 青木重行
風薫る杉の木立も武蔵の忌 宮川杵名男
風薫る鹿島の杉は剣なす 川端茅舎
颱風に折れたる杉の生命の香 飯田猛雄
颱風のいろさしかかる杉の山 鳥居おさむ
飛や螢杉の折戸の裏あかり 星 布
飛騨の/山門(やまと)の/考え杉の/みことかな 高柳重信
飫肥城は名に負ふ杉の若葉雨 有園すみえ
飯時の鐘や杉より峯の花 広瀬惟然
高く杉あり列なしてわが家族の飢え 阿部完市 絵本の空
高野杉匂へる坊や凍豆腐 御子柴光子
高雄山杉にうつれば日も寒し 暁台 五車反古
鬼やらひ杉も賢く並みゐしよ 加藤有水
鬼杉のうしろの真闇夜鷹鳴く 豊長みのる
魂棚を葺きてまさをき高野杉 塩谷はつ枝
鳴きちらせ杉の嵐に声の花 上島鬼貫
鳶覚めて杉に粉雪の厚帷 西村公鳳
鴉に巣藉したる杉もしんしんと 栗生純夫 科野路
鴬の糞杉の葉白く降りにけり 椎本才麿
鵙啼くや夕日の残る杉の末 也有
鵯の啼く杉より槻へ風わたる 川島彷徨子 榛の木
鵯鳴いて杉の下道晝凄し 鵯 正岡子規
鶯に杉葉つりてや小あきなひ 立花北枝
鶯やみあかしのこる杉の杜 鶯 正岡子規
鶯や干されて白き杉の箸 塚本青曜
鶯や暁光射せる杉の谿 伊東宏晃
鶯や杉の中かとベッドより 阿部みどり女 月下美人
鶯や神の火残る杉の杜 鶯 正岡子規
鶴の本読むヒマラヤ杉にシャツを干し 金子兜太 蜿蜿
鶸鳴くや杉の梢に日の残り 柏後
鷹を吹き上げて黒々鞍馬杉 茨木和生 遠つ川
鹿の声鹿をはなれて杉暗し 中村明子
鹿鳴くや杉の梢の二十日月 鹿 正岡子規
麦わらの帽子に杉の落は哉 麦稈帽 正岡子規
麦を踏む犬の杉作したがへて 木田千女
黄梅や白雲杉にこぞる迫 原石鼎
黒塚の雪折れ杉のばさら髪 きくちつねこ
黒杉へ駈けて冬来る柔道着 鈴木鷹夫 渚通り
黒杉を讃へて去りぬ冬帽子 鈴木鷹夫 渚通り
黒羽や吹雪にさびる杉の山 長谷川櫂 古志
おたいまつ消え千年の杉にほふ 細井みち
三十日月なし千年の杉を抱く嵐 松尾芭蕉
今年鵙杉の千年根も見せず 和知喜八 同齢
初弓や千年杉の雫して 大竹淑子
千年の杉のこゑ棲む青高野 豊長みのる
千年の杉の真すぐや青嵐 加藤知世子 花寂び
千年の杉の花粉を浴び詣づ 滝峻石
千年の杉や欅や滝の音 草間時彦「瀧の音」
千年の杉を喜雨来る東司かな 下山芳子「友禅」
千年の杉千年の涼湛ヘ 三田きえ子
千年の神杉降らす花粉浴び 稲畑汀子 春光
千年杉の千年前の夏の雨 鈴木鷹夫「千年」
千年杉高尾の秋天持ち上げて 川崎慶子
密教の杉千年の露に濡れ 堀井和子
杉の秀をずんずんずんずん雲がゆくもう千年は迅くに経ており 佐伯裕子
梟が土笛を吹く千年杉 大塚健一郎
氏神の千年杉や初詣 水谷純一郎
淑気満つ杉千年の男坂 道川虹洋
神杉の千年の黙冷まじや 森戸光子
秋の声千年杉の梢より 田村恵子
苗木選る千年杉の種といふ 三浦のぼる
蝉とべり千年杉の塵として 百合山羽公
見上ぐるや囀あふるる千年杉 坂田加寿恵
起き出でて千年杉に変わりなし 和田悟朗
うすら〜生薬匂へ冬座敷 杉の實 安井小洒
この墓に杉の実降るも近からむ 下村梅子
さびしくて杉の実鉄砲に胸撃たす 松本正雄
つばくらめひるがへり幾花柘榴 杉の實 安井小洒
名月にまた一料理桃の花 杉の實 安井小洒
夏淡き葉のひとひらに蜻蛉たれ 杉の實 安井小洒
大比叡の檜の実杉の実僧の播く 和気魯石
山国や追はれて杉の実が生りし 竹本健司
日々好日と杉の実干してあり 露月句集 石井露月
杉の実に峡は暮れゆく音にあり 坊城としあつ
杉の実に木曽の夕日は落つるなり 宮田正和
杉の実のほろほろ墓に詣でむか 増成栗人
杉の実のま青き五百羅漢かな 細川加賀 生身魂
杉の実のよく見えて村氷るなり 大峯あきら 鳥道
杉の実の匂いが好きだ嗅ぎすぎた 金子兜太
杉の実の匂い少年滝とひびく 十亀かずみ
杉の実の日影にばかりこぼれけり 今井杏太郎
杉の実の沈めるのみの春の水 岸本尚毅 舜
杉の実の満ち〜し山年暮るゝ 萩原麦草 麦嵐
杉の実の真青き五百羅漢かな 細川加賀
杉の実の見ゆるほどなる山月夜 大峯あきら
杉の実も男鹿も汚れそめにけり 加倉井秋を 午後の窓
杉の実やぎくりと風の古巣箱 山田みづえ
杉の実や同宿の友に土産買ふ 相原茲明
杉の実や渓へ下りざる風蒼し 花田春兆
杉の実や神戸が裏のほとの神 岡井省二
杉の実や観世創座の土舞台 宮田正和
杉の実や青空はいま無一物 田部谷紫
杉の実や魔羅重さうに土地の馬 小澤實 砧
杉の実や黄昏あをき能の郷 篠田豊
杉の実を干し聖林寺みち寒し 石垣青☆子
杉の実を採る杣天によぢのぼる 山口峰玉
杉の実を植ゑつゝ居れば雉子遠し 癖三酔句集 岡本癖三酔
杉の実を真青き風が保ちをり 関根黄鶴亭
樹から樹へ杉の実採は空渡る 三星山彦
沖に船杉の実鉄砲して遊ぶ 村上しゆら
火の見杉の実耳の大きな少年に 藤田湘子
神杉の実の真青なる手向山 福井貞子
神渡したゝか杉の実を降らす 下村梅子
老杉の実のあをあをと敬老日 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
道ひやゝかにあかるく雀下りゐたり 杉の實 安井小洒
乳房重し杉の秀炎えの青鞍馬 河野多希女 納め髪
山深く入りきたりて目をつむる神杉の秀を渡る風音 新井章
御印文頂戴杉の秀先は息溜めて 清水文栄
杉の秀にわだの翠眉や秋夕焼 富安風生
杉の秀に並び立つ塔風光る 火村卓造
杉の秀に十日の月や蛍狩 岡崎元子
杉の秀に大き鴉や崩れ簗 佐久間慧子
杉の秀に山霧の湧く送り梅雨 島田芳恵
杉の秀に星無し聖夜の夜学なる 香西照雄 対話
杉の秀に晩夏の雲のとどまれる 河野南畦 湖の森
杉の秀に朝日が覗く蝌蚪の水 松村蒼石 雪
杉の秀に白刃当つごと初比叡 増田十王
杉の秀に秋霖至る焼山寺 山本けんじ
杉の秀に葡萄紅葉を打ちかけし 富安風生
杉の秀に雲厚くなる冬帽子 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
杉の秀に雷火走れり箱根山 鈴木大林子
杉の秀のときに金色冬深し 田中哲也
杉の秀のゆらゆらとして三光鳥 中西舗土
杉の秀は神を待つなり牡丹雪 沼尻巳津子
杉の秀をずんずんずんずん雲がゆくもう千年は迅くに経ており 佐伯裕子
杉の秀を鳥すべり落つ油照り 岩田育左右
松杉の秀は深大寺月のもと 皆吉爽雨 泉声
父母や杉の秀に水たどりつく 徳弘純 非望
神杉の秀へ火の粉舞ふ八朔祭 佐藤栄美
神杉の秀を押上ぐる大初日 村上誠子
糸杉の秀尖 吸われて さびしい天 伊丹公子 パースの秋
葉桜に杉の秀に風和みけり 茂木宏子
足もとに杉の秀竝び霧の海 高橋淡路女 梶の葉
遥かなる杉の秀そよぐ更衣 阿部みどり女
ただよへるものをふちどり杉の花 富安風生
つくばひにこぼれ泛めり杉の花 松本たかし
ひと言の波紋となれり杉の花 小島多美
みほとけの道の明暗杉の花 東原芦風
ゆさぶれば金の煙や杉の花 瀧澤伊代次
ピノキオや杉の花粉がとんでくるぞ 吉岡光浪
ポケットの底のほころび杉の花 内田美紗 魚眼石
一すぢの春の日さしぬ杉の花 前田普羅 新訂普羅句集
他人の山己が山々杉の花 大野由宇
伊賀伊勢の神風劇し杉の花 阿波野青畝
千年の杉の花粉を浴び詣づ 滝峻石
厠もる誰かのくさめ杉の花 鈴木鷹夫 大津絵
古杉の花咲かぬ身を神の春 神の春 正岡子規
噛み合はぬ会話や杉の花咲いて 奥名春江
夕づくや見えねど杉の花粉散る 松村蒼石
大滝をかくさう杉の花ざかり 谷口南木
大男杉の花粉に泣きながら 藤原わかな
如月や雪のる杉の花ざかり 吉武月二郎句集
嫌われてゐるとは知らず杉の花 清水シズヨ
少年の脛に匂ひて杉の花 斎藤玄 狩眼
山畑のでこぼこ径や杉の花 福川悠子
山鳩の泪目赤し杉の花 無聞 齋
峡空へ吹きぬけ杉の花けぶる 山口草堂
平成の杉の花粉の乱なりし 加藤静夫
微笑仏ふもとは杉の花けむり 小鷹奇龍
散るときは明王の香に杉の花 吉田紫乃
文弱の月のぼりゆく杉の花 長谷川双魚 風形
杉の花けぶり巴の墓どころ 西本一都 景色
杉の花けぶるを翔ちて大鴉 佐野美智
杉の花しづかといふは墓の上 斎藤夏風
杉の花ときには駅も休む村 西村泰三
杉の花にけぶりて杉を詠む気配 加藤知世子 花寂び
杉の花はるばる飛べり杉のため 山田みづえ 草譜以後
杉の花スティックシユガー五本立つ 石寒太 翔
杉の花光り降りつつ滝ほそし 柴田白葉女 花寂び 以後
杉の花径に風のいでしかな 石川桂郎 高蘆
杉の花斧持たざればただの男 神尾久美子 桐の木
杉の花瀬音は径をはなれざり 中村秋晴
杉の花粉黄粉のごとく卓上に 阿部みどり女 月下美人
杉の花護摩火猛れり砂かまど 脇坂啓子
杉の花金泥経を封じ込む 早乙女文子
杣の家の湯文字高干し杉の花 岸風三樓
残雪といへど五尺や杉の花 竹田菁雨 『瞽女慕情』
海へ飛ぶ勿来の関の杉の花 堀古蝶
海道の難所の峠杉の花 和田孝子
瑞垣や杉の花はらり〜落つ 寺田寅彦
石二つ積めば仏や杉の花 館岡沙緻
素戔嗚のいづこに潜む杉の花 平井照敏 天上大風
阿武隈の北より晴れて杉の花 鹿志村余迷
雪の上に杉の花散り永平寺 田村萱山
雪折れの杉の花粉を婆娑と浴ぶ 馬場移公子
静かさのほかは求めず杉の花 宮脇美智子
飛ぶは飛ぶは泣虫山の杉の花 冨田正吉
馬の首垂れて瀬にあり杉の花 小澤實
駐車して杉の花粉に曇る窓 三星山彦
杉山に杉の雨降る夏休み 伊藤通明
杉山に杉の風彦河鹿鳴く 鈴木蚊都夫
杉山の杉それぞれに雪降らす 町田しげき
杉山の杉の寒さの能舞台 河合凱夫 飛礫
杉山の杉の波濤や冬に入る 宮坂静生 春の鹿
杉山の杉の直なる寒さかな 片山由美子 天弓
杉山の杉擲つ風や比良八講 梶山千鶴子
杉山の杉濤裂きて滝とどろく 古賀まり子 緑の野以後
杉山の杉籬づくり花ぐもり 芝不器男
杉山は杉の言葉のしづり雪 文挟夫佐恵 遠い橋
河鹿鳴けり杉山に杉哭くごとく 高柳重信「山川蝉夫句集」
飛騨杉といふ杉山の炎暑かな 藤田あけ烏 赤松
鯉のぼり杉山の杉立ちならび 小田部杏邨
奥多摩に杉玉古りし新豆腐 大林治女
掛け替へし杉玉の香や睦月尽 根岸 善雄
杉玉にとまりては消ゆ粉雪かな 西村和子 かりそめならず
杉玉にみどりの残る新酒蔵 佐藤信子
杉玉に大綿遊ぶ一惨事 殿村菟絲子 『菟絲』
杉玉に用水の鳴る二日かな 高澤良一 随笑
杉玉の噛みしはよべの年の豆 大下秀子
杉玉の新酒のころを山の雨 文挾夫佐恵
杉玉の杉匂ひたつ春の雪 岡本芳子
杉玉の軽くなりたる春の風 内田美紗 魚眼石
杉玉の黙に六甲おろしかな 赤尾恵以
杉玉や親子格子に簾して 石川桂郎 高蘆
杉玉をめぐるでで虫三輪杳し 鳥居美智子
杉玉を吊るす地酒屋蝉涼し 後藤冬至男
杉玉を吊る軒端より鴨が見え 爽波
杉玉を泛かばす山の冬日差 関戸靖子
蔵元の杉玉青き惟然の忌 早矢仕美代
公魚を焼く杉箸のすぐ焦げて 鳥越すみ子
国栖の春闌けて杉箸干す筵 高瀬哲夫
杉箸ではさみし結び昆布かな 松瀬青々
杉箸で火をはさみけり夷講 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
杉箸にとほる柾目や夕しぐれ 橋本榮治 逆旅
杉箸に雲丹の紅染み祭膳 河野頼人
杉箸のほのかに染まり小豆粥 猿橋統流子
杉箸の束の白さも寒九かな 片山由美子 水精
杉箸をもて秋冷の嶺を指す 大石悦子 聞香
杉箸を利休に仕上げ青簾 藤本安騎生
杉箸を染むるはなにか夏料理 前田普羅
物価高の一年杉箸割り損ず 高澤良一 燕音
真直ぐに割るる杉箸ほととぎす 川村紫陽
舞茸や杉箸ふとき坊料理 桂樟蹊子
荒梅雨や杉箸で切る胡麻豆腐 長谷川櫂 古志
風呂吹に杉箸細く割りにけり 高橋淡路女 梶の葉
鱧食うべ杉箸の香の宵祭 岩井英雅
夏草に杉苗溺る廃家跡 倉橋羊村
大年の杉苗畑をきよめをり 飴山實 少長集
子の代に伐る杉苗を植ゑてゆく 影島智子
明日植ゑる杉苗に降る山の雨 八牧美喜子
月光に羽黒杉苗匂ひけり 小島健 木の実
木曾はるか揃ふ杉苗夏霞 村田脩(萩)
杉苗が浮く滝壺の濁り水 茨木和生 往馬
杉苗に這ひのぼりたる真葛かな 籾山 梓雪
杉苗の折れて匂へる秋日かな 大木あまり 火球
杉苗の束割る杉の苗はじけ 今瀬剛一
杉苗の畑もありて春の山 比叡 野村泊月
杉苗の表裏たしかめ植林す 武政礼子
杉苗を植うる夕日に雉子の声 佐野美智
杉苗を植うれば桜散りにけり 白水郎句集 大場白水郎
杉苗を植う白雲に触れさせたく 官林千枝子 『遠郭公』
杉苗を谿に漬けあり山桜 西本一都 景色
杉苗植う学校林の遠き道 澤柳たか子
草刈に杉苗刈られ薫るなり 敏雄
蝉しぐれ寄進杉苗拾萬本 高澤良一 素抱
負ひ来り杉苗栽うる供養かな 西本一都 景色
もう誰の子でもなく踏む杉落葉 鳥居美智子
仰ぐとき人は瞬く杉落葉 鈴木鷹夫 大津絵
伊夜日子の七つの末社杉落葉 長谷川蕗女
山門へ磴二百段杉落葉 高濱年尾 年尾句集
杉落葉うかべ清滝川淵をなす 小寺正三
杉落葉かかれる枝の木の間かな 高浜年尾
杉落葉かぶる庇や坊どまり たけし
杉落葉かむりて無縁塔ばかり 曾祇もと子
杉落葉かゝれる枝の木の間かな 高濱年尾 年尾句集
杉落葉して境内の広さかな 高濱虚子
杉落葉つゝむ風呂敷ひろげけり 比叡 野村泊月
杉落葉ふみてひとりのみちとなる 遠藤正年
杉落葉天誅組の墓に降る 上村梨花
杉落葉嵩むがままの春椎茸 江口竹亭
杉落葉朽ち香本堂蝕めり 高澤良一 素抱
杉落葉焚けば一気に燃えあがり 岡本求仁丸
杉落葉積みて旧道絶えだえに 高澤良一 素抱
杉落葉茶店の奥の火が見えて 小六
杉落葉落ちてぶつきらぼうの嵩 山敷惠三
杉落葉藤村の墓細身なり 藤岡筑邨
杉落葉踏みてひとりのみちとなる 遠藤正年
杉落葉飲食の日が白くあり 鈴木鷹夫 大津絵
杉落葉香りぞたかく年明けたり 加倉井秋を
梢より谿流の音杉落葉 志解樹
逸山忌生家の背戸の杉落葉 田中了咲
冬霞む杉襖より鳥出入り 中戸川朝人 残心
冷やかに月光降りぬ杉襖 大井澄緒
初蝉と合点ゆくまで杉襖 猪俣千代子 秘 色
十一の声や未明の杉襖 熊岡俊子(雨月)
啄木鳥や山門までの杉襖 森田 愛子
大滝の谺相うつ杉襖 石原八束 白夜の旅人
杉襖その上に凧いと高し 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
杉襖とんぼう線をひきにけり 佐野良太 樫
杉襖の藩主の墓所にかけす鳴く 磯崎兼久 『孤雲』
杉襖左右に展けて見ゆる瀧 西本一都
杉襖春の瀧筋見せにけり 鈴木しげを
杉襖霜も名残りの風が鳴る 林原耒井 蜩
炎天を断つ叡山の杉襖 矢島渚男「天衣」
笹鳴や石に日が跳ぶ杉襖 古館曹人
雷いんで靄だつ月の杉襖(上州吾妻山中二句) 上村占魚 『天上の宴』
霜焼けの杉襖なす雪解かな 小林康治 四季貧窮
鶯の一声濃しや杉襖 長谷川櫂 古志
こゝろには松杉ばかりほとゝぎす 服部嵐雪
東臺の松杉青き氷哉 氷 正岡子規
松は松杉は杉なり朧にて 青柳志解樹(1929-)
松杉うらがは八月十五日 松澤昭 宅居
松杉にすくひ上げたるみぞれかな 去来
松杉に微雪樋の竹一つ家に 宇佐美魚目 秋収冬蔵
松杉の上の甍や花曇 比叡 野村泊月
松杉の上野は黒し雪の中 雪 正岡子規
松杉の不破の関屋に春くれぬ 行く春 正岡子規
松杉の中に黄ばみし銀杏哉 銀杏黄葉 正岡子規
松杉の秀は深大寺月のもと 皆吉爽雨 泉声
松杉も花に隠れてしまひけり 花 正岡子規
松杉やわけて雨月のあすならう 佐野良太 樫
松杉や夜寒の空の星ばかり 夜寒 正岡子規
松杉や妙法の山に秋もなし 秋 正岡子規
松杉や晝の虫鳴く八重葎 虫 正岡子規
松杉や朱の圍垣の薄紅葉 紅葉 正岡子規
松杉や枯野の中の不動堂 枯野 正岡子規
松杉や花の上野の後側 花 正岡子規
松杉をほめてや風のかをる音 芭蕉「笈日記」
をろがめる人に神杉落ちやまず 竹下しづの女
仰ぎ見る三輪の神杉実もたわわ 田畑比古
修復成る神杉若葉藤の花 若葉 正岡子規
六夜祭神杉の根に蚊遣香 海野 勲
千年の神杉降らす花粉浴び 稲畑汀子 春光
命綱神杉に掛け注連替ふる 早淵道子
墓山に隣る神杉あをじ来る 野沢節子
始まつて来し神杉の霜雫 茨木和生 往馬
山深く入りきたりて目をつむる神杉の秀を渡る風音 新井章
巌万古御滝万古神杉に 河野静雲
庖丁風神杉ゆすり里神楽 浦野芳南
灯籠祭神杉に雨上りたる 本宮哲郎(河)
珠ゆらぐ神杉や若葉雨霽るる 長谷川かな女 牡 丹
神杉に沿ひ昇る日やほととぎす 柳沢仙渡子
神杉に礫のごとし初雀 安川幸里
神杉に耳あててみる盆休み 朝妻力
神杉に谺し雪のびんざさら 伊藤いと子
神杉のもとに庖丁始の儀 黒田晃世
神杉の上をとびゆく滝しぶき 栗山渓村
神杉の千年の黙冷まじや 森戸光子
神杉の太根を頼み雪残る 林 翔
神杉の実の真青なる手向山 福井貞子
神杉の年縄寂ぶる若葉雨 中村祐子
神杉の明暗負ひて種下ろす 有働亨 汐路
神杉の根を踏み虞る梅雨豊前 井口荘子
神杉の樹齢を仰ぐ淑気かな 東 天紅
神杉の百尺に夏来たりけり 小村陽子
神杉の秀へ火の粉舞ふ八朔祭 佐藤栄美
神杉の秀を押上ぐる大初日 村上誠子
神杉の葉を添へて売る三輪暦 大島民郎
神杉やあまりちひさき秋の蝶 高橋淡路女 梶の葉
神杉や三百年の蔦紅葉 蔦紅葉 正岡子規
神杉を射て砕けたる初日かな 稲岡長
神杉を少し揺さぶり風光る 稲畑廣太郎
神杉を突いて鉄砲宮相撲 茨木和生 往馬
蝉生る神杉をよづ翅の透き 川瀬カョ子
雲よりの那智の御滝神杉に 河野静雲
雷を呼ぶ神杉鉾を研ぎ揃へ 愛須真青
鳩白う神杉に乱れ霰降る 幸田露伴 拾遺
鴉の巣宿す神杉注連張れる 平山純司
ひそみしも炎ゆる糸杉戦ありき 小池文子 巴里蕭条
ゴッホの糸杉 東風に逆立つ我が蓬髪 高柳重信
日に炎ゆる遠き糸杉影有るか 下村槐太 天涯
糸杉がさやりて濃しや秋の虹 内藤吐天 鳴海抄
糸杉に巌になまめき小春の日 石塚友二 光塵
糸杉のこころは驢馬のむこうがわ 津のだとも子
糸杉の秀尖 吸われて さびしい天 伊丹公子 パースの秋
糸杉の腰のあたりが痒いという 徳永希代子
糸杉の道はるばると受難節 有馬朗人 天為
糸杉やゴツホにゆがむその西日 桂樟蹊子
遠き祖は星夕暮れの糸杉 相原澄江
一本づゝ老杉浮べ十七夜 殿村莵絲子
仏法僧羽黒は老杉より昏れて 佐藤栄美
弟を一夜老杉に封じたり 宇多喜代子
残雪や老杉雷に焼けて立つ 野村親二
法衣重くゆく老杉の芽ぶき時 桂信子 黄 瀬
烈日や老杉の映え社殿の丹に 石塚友二 方寸虚実
筒鳥や老杉老檜空洞多く 山口草堂
老杉にむささびの穴湖涼し 西本一都 景色
老杉に三千坊の良夜かな 高津貴美子
老杉に滝白刃となりにけり 澤村昭代
老杉のいたゞきの月明りかな 比叡 野村泊月
老杉のしまけり飛雪止観の座 鷲谷七菜子 花寂び
老杉の天まで真直神の留守 長門美熙子
老杉の奥を点して雪の夜坐 佐野美智
老杉の実のあをあをと敬老日 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
老杉の幹少し見ゆ若楓 比叡 野村泊月
老杉の影も老杉水澄めり 石田阿畏子
老杉の放つ気凛と涼新た 高木初枝
老杉の月の影ゆゑまぎれけり(昨夜古屋ひでを庵の軒と知らず過ぐ) 『定本石橋秀野句文集』
老杉の木肌苔むす天宥忌 伊藤啓泉
老杉の木霊をゆすり初神楽 加藤多美子
老杉の枝の石斛七星めく 田中英子
老杉の直ぐなるに立つ初詣 原 和子
老杉の空えんぶりのこだまかな 原よしろ
老杉の空洞落葉埋め尽す 塩川雄三
老杉の間涼しかり波の音 石寒太 翔
老杉の雪を落せる神降し 伊東 肇
老杉の鴟尾より高き夕霞 舘岡沙緻
老杉へ音響かせて伊勢参り 松原弥生
老杉も注連飾りして神棲める 大木健市
老杉を仰ぎて夏至の日のありど 亀井糸游
老杉を楯とし庵冬に入る 館岡沙緻
老杉を登る若蔦墳墓立つ 百合山羽公 寒雁
虫時雨老杉暗き甘露の井 高橋保平
蝉声に老杉は耳順ふよ 辻田克巳
蝉涼し翁も触れし老杉に 小松崎爽青
蟇うたふ老杉のみどり垂り 三橋鷹女
釣瓶落しの谷や老杉縦列す 渡辺恭子
黒塚の老杉雷を呼ぶごとし 石原八束
鉾杉と九輪の間月懸り 福田蓼汀 山火
鉾杉にかかれば古鏡春の月 小原菁々子
鉾杉のたのもしかりし初日かな 澤村昭代
鉾杉の夕影いたる畑打 村岡 悠
鉾杉の競ひて涼の新たなり 森田里華
鉾杉の鉾を重ねて青嶺なす 山口誓子 紅日
鉾杉や海より冴えて空の青 汽笛 勝峯晋風
鉾杉を縺れ上る蝶や宮静か 野村泊月
鉾杉を遡るが如き落花かな 比叡 野村泊月