●白日●白光●初日●葉漏れ日●春日●春夕日●反照●晩照●晩陽●日当り●日映り●日裏●日面●日蔭●日暮●日盛り●日差 日射●日沈む●日溜り●日照り●日向●日の入る●日の出●日柱●日の面●日矢●日を返す●日を弾く●冬の日●冬日●山日 山の日●夕映え●夕日●夕焼け●弱日●落日●落陽●落暉●烈日●白日●白光●初日●葉漏れ日●春日●春夕日●反照●晩照●晩陽●日当り●日映り●日裏●日面●日蔭●日暮●日盛り●日差 日射●日沈む●日溜り●日照り●日向●日の入る●日の出●日柱●日の面●日矢●日を返す●日を弾く●冬の日●冬日●山日 山の日●夕映え●夕日●夕焼け●弱日●落日●落陽●落暉●烈日
●白日
*しどみ照る白日の蛇綯へり 西島麦南 人音
きり〜すの 白日のこえが たましいによびかける 吉岡禅寺洞
こがらしをゆく白日の汽車恠し 下村槐太 天涯
ゐなかへ白日の道の家なき彼ら 梅林句屑 喜谷六花
仏桑花白日の圃に蘂ながき 小倉岳杳
出てすでにはるか渡しの白日傘 下田稔
唐黍を噛む白日に歯音立て 大野林火
夏山の白日虻の黄は失せぬ 石橋辰之助 山暦
大緑蔭端の枝白日砕きたる 香西照雄 素心
天上も天下もあらず白日忌 中島月笠
女人群像 街は 白日の畫廊です 吉岡禅寺洞
如月の白日兵を征かしむる 萩原麦草 麦嵐
富士あやめ剪りて白日流れけり 萩原麦草 麦嵐
暑に負けて白靴の白日々たもつ 林翔 和紙
木苺の花白日をおそるるや 青柳志解樹
本売りにゆく白日のつばくらめ 太田鴻村 穂国
松過ぎの寒さ白日たぎる潮 渡邊水巴 富士
水中にくもる白日桜桃忌 鷲谷七菜子
河鹿笛白日を水急ぎつつ 猪俣千代子 秘 色
牡丹双輪月世界は白日世界は紅 福田蓼汀 秋風挽歌
牧師のそりと白日の白亜の島 八木三日女 石柱の賦
画の罌粟と白日の罌粟神通ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
発破待つ白日あをむ真葛原 伊藤いと子
白日 音のない旋律の中に たつている 吉岡禅寺洞
白日にひとすぢ煙る畦火かな 西島麥南
白日に出水の泥の亀裂かな 沢木欣一
白日に向ふ鴨あり皿に鴨 斎藤玄
白日に国尽くる所草枯れぬ 斎藤空華 空華句集
白日に夢さらしけり花人参 上関ふみ子
白日に据ゑて烟れる鵜籠かな 中島月笠 月笠句集
白日に瞑り吹くなり祭笛 井沢正江
白日に蝶の交りしうつつかな 藤田湘子
白日に蟻の肉体すさぶかな 増田まさみ
白日のいかづち近くなりにけり 川端茅舎
白日のくらさ 蝉が 減つていくばかりの森 吉岡禅寺洞
白日のなかへ入りゆく鰆船 友岡子郷
白日の夏炉を天にちかく焚く 石橋辰之助
白日の夢の内外藪蚊棲む 原裕 青垣
白日の天の剥落つばくらめ 秋元大吉郎
白日の天地悲しむ虎落笛 相馬遷子 雪嶺
白日の小さき杓持ち父の墓を濡らす 人間を彫る 大橋裸木
白日の巣引雀のとびかひぬ 吉岡禅寺洞
白日の曼珠沙華より夜を攫へ 阿部みどり女
白日の泳ぎ子墓地をよぎりけり 西島麦南 人音
白日の薄氷ゆるくまはりけり 中田剛 珠樹以後
白日の透きて遊びし蛇の衣 斎藤玄 雁道
白日の酒座しめやかに遠鳴子 西島麦南 人音
白日の閑けさ覗く余寒かな 水巴
白日の雪原を行く浚はれゆく 成田千空 地霊
白日の額の藍こそ淡々し 馬場移公子
白日は我が霊なりし落葉かな 渡邊水巴
白日は硫気に染まず冬の原 渡邊水巴 富士
白日は羽化寸前や梨授粉 中戸川朝人
白日や刈芝を雪のごとく積み 栗生純夫 科野路
白日や白き踊りの踊り草 永田逸水
白日や葉をふるひゐる木々の業 栗生純夫 科野路
白日や雀子チチと咽び啼き 中島月笠 月笠句集
白日や鼠渡りし秋の水 碧雲居句集 大谷碧雲居
白日をしづかな糧と枯芙蓉 鳥居おさむ
白日を敷きて万燈始まらず 平畑静塔
白日を月夜の声や閑古鳥 渡邊水巴 富士
白日を降る雨細し松葉菊 岡本圭岳
白日夢吐息蜥蜴は眉持たず 河野多希女 両手は湖
白日忌寒泉韻く如くなり 中島月笠
白牡丹白日ここにとどまれる 水原春郎
空蝉の泪のいろに白日は 斎藤梅子
蝶に蝶巌に波飛ぶ白日夢 林翔 和紙
蟷螂壁に白日濁る野分かな 西山泊雲
蟹は穴にひそむ白日為すことなし 大野林火
行くほかはなし白日に藤懸かり 橋石 和栲
酷寒の白日照るや雪の嶺 相馬遷子 山河
門並に白日の秋母死なず 下村槐太 天涯
阿蘇野焼焔は白日の空に舞ひ 石原八束 空の渚
青芝や描きて以て白日夢 久保田万太郎
鳥雲に入る白日の湖残し 野田公也
●白光
ちゝはゝとまた呼ぶを得し露白光 杉山岳陽 晩婚
ひなあそび十津川渓谷白光塵 夏石番矢
人の踏む月より更にはるかにて白光浄く鷲座アルファ星 山田あさ
夕顔は白光仏におはすかや 上川井梨葉
早梅の白光色の戦火あり 対馬康子 吾亦紅
昼吸ひし白光を吐き夕牡丹 山口青邨
白光す夜の城壁木々芽ぶく 原裕 葦牙
白光のかの蓬まで行かば死す 永田耕衣
白光のレールを月に向はしむ 上田五千石 田園
白光の一筋通ひ去年今年 平井照敏
白光の天上天下那智の滝 成田千空
白光の湯冷めをそそる秋蛍 殿村菟絲子
白光の秋白皙の痩羅漢 原裕 青垣
白光はのべし首より白鳥来 井沢正江
白光を蕊に灯して梅昏れぬ 加藤耕子
白雲の中白光の一雪嶺 岡田日郎
竹育つ白光の径五月雨 長谷川かな女 花 季
紅葉谿白光曳けりひとつ蝶 石塚友二
花の昼白光放つ骨拾ふ 内藤吐天 鳴海抄
藤房の白光放ちつつこぼる 河本好恵
遠吠えの牙の白光蕎麦の花 和田悟朗
雪原の白光月光を以つて消す 岡田日郎
露白光インコの会議熱しつつ 堀口星眠 営巣期
●初日
「あぶれ者が選ばれた者に」初日拝す 磯貝碧蹄館 握手
うかうかと張子のとらに初日哉 会津八一
うちはれて障子も白し初日影 鬼貫
お玉杓子きはやかに散る池初日 林原耒井 蜩
かぎろひの長谷の初日を拝がめる 山田みづえ
ぐんぐんと初日波頭を躍り出づ 伊東宏晃
げにも春寐過しぬれど初日影 炭 太祇 太祇句選
げにも春寝過しぬれど初日影 太祇
この初日誰が帽の上を越して来しや 細谷源二
この道のはてなき初日あふぎけり 金尾梅の門 古志の歌
こやる窓初日生れぬ凧群れぬ 林原耒井 蜩
さすりゐる幹に初日のあたりけり 仙田洋子
しばらくは初日とめたる格子かな 星野石木
しら粥の茶碗くまなし初日影 丈草
しろがねの潮たる初日濤をいづ 飯田蛇笏 雪峡
たたみ目のゆがみし国旗初日に出す 桂信子 黄 炎
つくば峰のほのくれなゐの初日かな 安江眞砂女
ぬれ色や大かはらけの初日影 任行
ひとりゆく砂丘の雪や大初日 飯田蛇笏 春蘭
ふたもとの松も老いけり初日影 遠藤 はつ
ふと思ふ臍の緒のこと大初日 峰尾保治
ふるさとの伊勢猶恋し初日影 樗良
まつさらの闇おしやりて初日出づ 伊藤敬子
むめが香の筋に立ちよる初日かな 支考
もみ合へる雲金色に初日出づ 戸川克巳
やうやくに谷の十戸へ初日影 佐藤和枝
よき子生せいま金色の初日の妻 大槻紀奴夫
らんらんと打ち延べされし初日いま 橋本夢道 無類の妻
わが祈りかなはざらめや初日出づ 篠田悌二郎
わが藪の天狗の鼻をかけ初日 山口青邨
をかしげに夫婦老いをり初日中 加藤知世子
ガンジスに身を沈めたる初日かな 黒田杏子
シヤギリ澄むくんち初日の朝まだき 下村ひろし 西陲集
ミシガン湖凍りついたる初日かな 仙田洋子 雲は王冠
一切空赤く出でたる初日かな 野村喜舟 小石川
一塊のパン荒々し初日影 原 和子
一山の威のおのづから初日滝 つじ加代子
一木は神のよりしろ初日影 原裕 『王城句帖』
三山の初日御霊よ還りませ 右城暮石
九十九里ただの渚の初日かな 喜舟
九州場所の初日の頃はよく晴れて 寺澤てるよ
九州場所初日晴れたる魚市場 堀之内長一
亀の背に海老ほのあかし初日山 上島鬼貫
人ちらほら練兵場の初日かな 会津八一
伊勢路馳る馬車かつ〜と初日影 金尾梅の門 古志の歌
低く来て初日帯びける鶫の羽 究一郎
低翔の鵜にしぶき立つ初日かな 益田ただし
何が走り何が飛ぶとも初日豊か 中村草田男
健かに母老い玉ふ初日かな 会津八一
傍らの子にも初日のさして来ぬ 長谷川かな女 雨 月
先づは思ふべし草の戸にさす初日 細見綾子 黄 炎
先づ師碑に届きし日矢の初日影 関野八千代
光年の中の瞬の身初日燃ゆ 林翔
初国初日豊石窓命哉 夏石番矢 楽浪
初日いつもの鳶色の日輪となる 菅裸馬
初日いま大字聖書の天金に 田川飛旅子
初日いま天なる鶴に田の鶴に 兼折風外
初日いま楕円核爆発あるな 三橋敏雄 まぼろしの鱶
初日いま辛夷の花芽火の穂なす 小松崎爽青
初日いま阿蘇の萱原さゞめかす 原三猿子
初日うつる水族館の金魚かな 会津八一
初日おろがむは母より享けしかたち 長谷川秋子
初日かげ人に先さす恵かな 松岡青蘿
初日かげ枯草の穂とふきなびけ 梅の門
初日かげ積雪の牙に潮なぎぬ 飯田蛇笏 春蘭
初日さすあかき円葉の岩鏡 堀口星眠 営巣期
初日さすいま金色の盲導犬 佐藤瑛子
初日さすことも劫火の底の底 加藤楸邨
初日さすまつくらがりの町工場 平畑静塔
初日さすや古葉の中の枇杷の花 碧雲居
初日さすや枯木ばかりに庭深く 白水郎句集 大場白水郎
初日さすや舶場守りの観世音 野村喜舟 小石川
初日さすわが表札をひと読みゆく 楸邨
初日さす大竹藪の青しぶき 神蔵器
初日さす戦後の畳やはらかし 桂信子
初日さす方よりとぶは伊勢の鵜か 杉本寛
初日さす朱雀通りの静さよ 河東碧梧桐
初日さす松はむさし野にのこる松 水原秋桜子
初日さす横顔とわが一匹の鮫 鈴木六林男 国境
初日さす歩まねば明日近づかず 永田耕一郎 方途
初日さす波に四駆(よんく)を乗り入れぬ 染谷佳之子
初日さす瑞牆山の岩の間ゆ 相馬遷子
初日さす畦老農の二本杖 西東三鬼
初日さす相模田圃へ出て父は 湘子
初日さす硯の海に波もなし 正岡子規
初日さす細青竹の鶏の柵 柴田白葉女 花寂び 以後
初日さす裾くまなく真新し 荒武 蕾
初日さす鶏に菜を刻むかな 野村喜舟 小石川
初日とどく広野の月の落ちて行く 孝作
初日に決意少年のごと耳羞ぢて 林翔 和紙
初日の壷太平洋に溢れ出す 橋本美代子
初日の壺太平洋に溢れ出す 橋本美代子
初日の花俳諧中間より銘々木々 井原西鶴
初日はや何怖くして佇つ我ぞ 永田耕衣 自人
初日まつ玄海色を得つゝあり 小原菁々子
初日よりゆっくり登る女坂 石井美江
初日乗せベコ千両の振分け荷 高澤良一 さざなみやっこ 冬
初日仰ぐ雙親の愛一身に 轡田進
初日出づかもめ輪舞の渦を解き 松本 幹雄
初日出づ一人一人に真直ぐに 中戸川朝人
初日出づ一礁これに侍せりけり 轡田 進
初日出づ五彩に波を躍らせて 上村占魚 『自門』
初日出づ恵那のいただき今雛れ 太田嗟
初日出て海面百里の光り道 竹本仁王山
初日出る途端にわが眼ふさぎけり 阿波野青畝
初日半輪親しきものの眩しさに 香西照雄
初日受く身体こそ資本病ひあるな 岩田昌寿 地の塩
初日呑むと夢みて発句栄ゆべく 正岡子規
初日噛んで口中赫し神の犬 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
初日四肢になんと坑夫の若いこと 河村正昭
初日射す弓師が店の框かな 野村喜舟
初日影さすや鞍馬の石段に 東洋城千句
初日影せめては伊勢へたよりせん 森鴎外
初日影まづ出でたりな生駒山 上島鬼貫
初日影ゆるきは父のあるところ 金田咲子 全身 以後
初日影万象己が彩放つ 高山洋子
初日影五尺の庵に入れ申す 古白遺稿 藤野古白
初日影人は馬上のものならし 竹冷句鈔 角田竹冷
初日影夜は明けていまだ富士見えず 古白遺稿 藤野古白
初日影子を抱きて常の野をありく 瀧春一 菜園
初日影流木はたちあがらむと 金尾梅の門
初日影焦都大阪市を照らす 草城
初日影煩悩あればこそ生きる 高木青二郎
初日影裏富士雪を新たにす 勝俣明翠
初日影鶴に餌を飼ふ人は誰 松岡青蘿
初日待つ人声にゐて浜の宿 桂信子 緑夜
初日待つ浦の短かき波止に佇ち 松田 八洲丸
初日待つ百の金魚田視野におき 原 好郎
初日待つ霜の手摺に寄りかかり みどり女
初日拝す古稀の目がしらうるみけり 高橋青湖
初日拝す夫のコートを着重ねて 伊藤いと子
初日拝み聖のごとく野夫老いぬ 一戸耕雨
初日描けり二人子額を染めあひて 波郷
初日浴ぶ 一存在は 全存在 伊丹三樹彦 一存在
初日浴ぶ不死とも不老ともならず 仙田洋子 雲は王冠以後
初日海にひと武蔵野にい寝てあらむ 稲垣きくの 黄 瀬
初日炎ゆる涙も茜いろなさむ 稲垣きくの 黄 瀬
初日燦々死に価して生きたかり 磯貝碧蹄館 握手
初日燦西の涯まで海祓ふ 加田貞夫
初日生る一雲映えつつそを包みに 香西照雄 素心
初日粛然今も男根りうりうか 加藤楸邨
初日見る塔下の森に灯ありけり 癖三酔句集 岡本癖三酔
初日赫し戦後貧しき父と子に 石川桂郎 含羞
初日門枯れ太幹とならびたる 原石鼎 花影以後
初芝居のびし初日のあきにけり 久保田万太郎
剰り温泉のそそぐ荒磯の初日かな 宮武寒々 朱卓
加茂川や柳条長き初日影 大谷句佛 我は我
千葉県海上郡初日かな 小杉余子 余子句選
南窓や梅一輪の初日影 寺田寅彦
卵塔の一つは父や初日さす 小内春邑子
厨夫踏む帯のやうなる初日向 静塔
名水の玉なす雫初日さし 岡本まち子
啄木鳥のいつもくる木の初日影 三宅 句生
嘉儀候(かぎそろ)よやおら初日の梅心 上島鬼貫
国原にあまねく初日とゞきけり 稲岡長
土蔵から筋違にさす初日かな 一茶
土蔵から道違いにさす初日かな 一茶
地下電車地へ出て赤し妻へ初日 香西照雄
地軸ずしと傾き太陽は初日と呼ばれ 原裕 投影
堅き足袋はきて初日ををろがめり 鈴木白路子
夏休初日の蝶の飛立つて 樋笠文
外套を掛けし俥の初日かな 増田龍雨 龍雨句集
大あたま御慶と来けり初日影 巣兆
大いなる初日に艦の進むなり 松山足羽
大いなる初日据りぬのぼるなり 石鼎
大初日二見の巌を抱擁す 阿波野青畝
大初日海はなれんとして揺らぐ 上村占魚
大津絵の鬼に初日や庵の壁 柑子句集 籾山柑子
天蛇(テインブウ)蹴ね鳥化の岬初日鳴る 野ざらし延男
奥山や枯木の穂にも初日影 原石鼎 花影以後
女房の威儀のをかしく謡初 日野草城
妻と来てひれふりやまの初日かな 古舘曹人 樹下石上
子が洗ひし万年青の葉なり初日さす 林翔 和紙
寒牡丹展や初日は色固し 毛利不一
寒竹の芽の向き初日さしにけり 室生犀星
山兎跳ぶよ初日にさそはれて 小沢満佐子
山大に水長き里の初日かな 東洋城千句
巌の鵜の闇より黒し初日待つ 清水貴久子
市初日べったら漬の値踏みせり 高澤良一 燕音 十月
床下に兎飼ふ家の初日かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
御幣鯛(おんべだい)献上の島初日さす 高澤良一 鳩信 玄帝
忽と来て初日の波へ泳ぎ入る 飯塚樹美子
悉く吊革あそび初日さす 中山良章
我が郷の富士といふ山初日かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
我と世をのがれん身にも初日影 加舎白雄
我れに四十の初日をかけよかゞやかに 青峰集 島田青峰
手の平に初日の恵み満ち足りぬ 中野三允
拍手の隣久しき初日かな 尾崎紅葉
招提をつゝむ初日の匂ひかな 松瀬青々
斧担ぎ行く杣の脊に初日かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
新しき千年ひらく初日かな 佐藤美恵子
新聞受までの素顔に初日受く 桂信子 花寂び 以後
旅にして梅一號の初日哉 幸田露伴 礫川集
旗色に比す日本の初日影 泉鏡花
日光に初日みなぎる旅にあり 磯野充伯
日光月光面輪通ひて初日中 中村草田男
明け切りて初日遅々たる水馬 林原耒井 蜩
昨日とおなじところに居れば初日さす 桂 信子
朝々の初日をろがみ年のくれ 原石鼎 花影以後
朝雫皺手につたふ初日哉 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
木に草に麦に先づ見る初日かな 来山
木綿縞着たる単純初日受く 細見綾子
木綿縞着たる巣純初日受く 細見綾子 和語
東京湾上に道あり初日さす 益田 清
松の影濃くなりそめし初日かな 信子
松ケ枝にかゝりて太き初日かな
松竹の間を濤に初日哉 幸田露伴 礫川集
枯れ草に國亡びたる初日かな 会津八一
枯草にまじる蓬の初日かな 渡辺水巴 白日
梺には水のつめたき初日かな 一鼠
森羅万象一つ一つに初日影 吉野義子
武蔵野は小さかりける初日哉 幸田露伴 礫川集
歳時記をかざし初日を眩しみぬ 館岡沙緻
殊更に初日待ちたる峠かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
水底に芽ぐむものあり初日出 紅緑
水底泥を喫む鴉の群にさす初日 大場白水郎 散木集
氷る岩肌初日さし金屏となりぬ 岡田日郎
沖の舟大き初日に抱かるる 関森勝夫
沖の船大き初日に抱かるゝ 関森勝夫
沖ゆく煤煙円舞の鳩も初日まみれ 小林康治 玄霜
波皺に鵜の現はるゝ初日かな 白水郎
波郷山河は虚子の山河よ初日影 五十崎朗
浄宮の梢氷れる初日かな 高田蝶衣
海の初日煙のごとく出でにけり 及川一行
海原の初日いただく卒寿すぎ 阿部みどり女 『石蕗』
海坂の千里を一気初日射す 小川玉泉
海坂の波を越えくる初日影 田守としを
海老のつらに伊勢の初日や門飾 白砧
清正の烏帽子長き初日かな 会津八一
清盛の頭ほどなる初日かな 会津八一
渚ゆくわが足跡に初日かげ 年尾
満面に初日妻つれわたる畦 石川桂郎
物干に居る家遠き初日かな 会津八一
犬ころの雪ふみ分けて初日影 井月の句集 井上井月
独立樹全枝伸しきり初日浴ぶ 香西照雄 素心
猫と頒つ初日や子無き膝がしら 川辺きぬ子
玉砂利の初日に帽子外套置く 篠原梵 雨
琴唄の八重の潮路に初日さす 細見綾子
瑞穂の国学東京の初日かな 土橋石楠花
瓦屋根波も静に初日かな 尾崎紅葉
産髪に初日いただかさむと出づ 下村槐太 天涯
田にゐたる鴨が初日をよぎり飛ぶ 水原秋桜子
甲斐の山覚めず初日の多摩郡 水原秋櫻子
男凧海の初日を曳き上る 高橋悦男
男根に初日当てたり神の犬 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
異人街静かに昇る初日かな 会津八一
病みぬけし胸に白矢さす初日かな 石田波郷
瘠ほぢやれ小松ヶ原も初日かな 幸田露伴 拾遺
白波のほかはふれざる初日うく 神蔵 器
白粥の茶碗くまなし初日影 内藤丈草
目つむりて華の如くに初日うく 照子
短檠も明れば長し初日影 乙由
石庭の石それ〜の初日影 松本穣葉子
神の杉神の玄さに初日うく(秩父三峰神社七句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
神杉を射て砕けたる初日かな 稲岡長
秋場所の風のひだるき初日かな 星野麥丘人
穏かに松を離るる初日かな 矢頭萩花
竹も起きて音吹きかはす初日かな 千代女
竹も起て音吹きかはす初日かな 千代尼
簷に干す醪の櫂に初日かな 西山泊雲 泊雲句集
絵馬の文字ひとつひとつに初日かな 佐藤美恵子
群羊の一頭として初日受く 沢木欣一
羽つつき合ふ錦鶏に初日さす 甲子雄
臼杵の玩具土産や初日護摩 高木蒼梧
船長に歌問はれけり初日出 会津八一
茅屋の奢り初日を居間に待つ 吉良比呂武
茜して初日上りし大都かな 龍胆 長谷川かな女
草の戸の我に溢るゝ初日かな 五百木飄亭
草の戸の真白き飯に初日さす 久米正雄 返り花
荒磯に敷きたる雪や初日いづ 水原秋桜子
菜の花の一りんざしの初日かな 龍岡晉
菜畠の初日の客となれりけり 杉風
萱原にいまはあまねき初日かな 清原枴童 枴童句集
蕋の金初日に匂ひ庵椿 風生
行燈に初日の絵品川の海 久米正雄 返り花
観音のまなぶた初日享けたまへ 鷲谷七菜子
觴に受けて芽出たし初日影 井月の句集 井上井月
誰恋ぞ田毎にみつる初日かげ 松岡青蘿
谷住みの小さき初日を拝むなり 藤原たかを
豚小舎に豚の仔ねむる初日かな 成瀬桜桃子 風色
貌出して牛が柱の初日舐む 永野鼎衣
贋作の一休の偈に初日かな 成瀬櫻桃子
起てど坐れど師の亡かりけり初日影 石川桂郎
踏まれたる邪鬼にもさせり初日影 加藤安希子
転びくる初日まみれの紀州犬 つじ加代子
連休の若葉曇りの初日かな 高澤良一 随笑 四月-六月
遅れたり拝む初日雲に浮き 石川桂郎 四温
道真中大首上げて初日掻く 安井信朗
遥拝の初日のあとのハーブティ 佐藤君依
還暦の夫に大きな初日出づ 河本好恵
部屋中が光となりし初日かな 大久保橙青
野に初日膝へたばしる牛乳搾る 小原啄葉
野の低き木に小鳥飛ぶ初日かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
金剛の初日の如来をろがみぬ 上村占魚 『天上の宴』
金糸雀の箱にさゝやく初日かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
長命の媼に積藁の初日かな 長谷川かな女 雨 月
雪國の海なる初日哉 餘生遺稿 鈴木餘生、大曲省三編
雪隠の後ろに登る初日哉 会津八一
雲に一微紅みるみる初日大 富安風生
雲包む初日を空のをしむやは 上島鬼貫
雲抱くうすら初日に掌を合はす 下村ひろし 西陲集
霜とけて初日にけむる葎かな 鬼城
青き鴨波翔けめぐり初日いづ 水原秋櫻子
青雲の坩堝にたぎりおる初日 橋本夢道 無類の妻
音楽に初日さすもの皆入り来 加藤知世子 黄 炎
頬に初日下界を愛する郵便夫 磯貝碧蹄館 握手
顔見せやしばらく冬の初日影 高井几董
風塵のいま鮮しや初日享く 小林康治 玄霜
駒込の田圃で拝む初日かな 白水郎句集 大場白水郎
高山にまた父母の部屋初日さす 相馬遷子 雪嶺
高梢に寄生木昇り初日受く 高澤良一 ももすずめ 平成二年
高檜葉の雪ふりこぼす初日かな 金尾梅の門 古志の歌
鮭の簀の寒気をほどく初日哉 左柳
鳥羽の海初日拝みてはや散りぬ 等々力進午
鳶の輪の大きく島の初日空 閑田梅月
鵯谺初日は千木にのみさしぬ 加倉井秋を
鶏にましらけをやる初日かな 会津八一
鶏百羽白き胸張り初日待つ 大槻九合草
鶴のあそび雲井にかなふ初日かな 千代尼
鷺の舞田川に初日あふれしめ 久田 澄子
鼻梁にて二千年紀の初日受く 辻美奈子
●葉漏れ日
●春日
うちつれて汐木を拾ふ春日かな 暁台
うち晴て障子も白し春日影 上島鬼貫
うらうらと春日に舌ある如し 川崎展宏
おん祭春日乙女が神馬曳き 本多炬生
かもめ騒ぎ春日をかくす翼の数 古館曹人
こけしの眼描く如くに春日愛ず 長谷川かな女 花 季
しろじろと春日に甍反りゆけば危うく自恃を喪わんとす 大野とくよ
てり返す峰々の深雪に春日落つ 普羅
てり返へす峰々の深雪に春日落つ 前田普羅 飛騨紬
とくとくと清水にうつる春日哉 会津八一
としよりの居睡りあさき春日かな 室生犀星 魚眠洞發句集
ぬかるみのいつか青める春日かな 富田木歩
ぬかるみ掻く人がだまれば春日浮く 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
はずむ毬子の丈こゆる春日かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
はるかまで海の膨るる春日和 二村典子
ひとつ着て出ぬも悔しき春日かな 上島鬼貫
ひとり居れば杉垣に満つ春日かな 金尾梅の門 古志の歌
ひと時雨ありてあまねき春日かな 岡本松浜 白菊
ふところに春日の宮の年の豆 岡本松浜 白菊
まつくろな鴨にあたりし春日かな 仙田洋子 雲は王冠
まんまるに出でても長き春日かな 宗鑑
みかぐらや若葉影さす春日宮 中勘助
みささぎの大き春日に出逢ひけり 岸田稚魚 『雪涅槃』
もの涼し春日の巫の眼に惚れた 子規句集 虚子・碧梧桐選
もの皆の縁かがやきて春日落つ 松本たかし
やはらかき春日がおよぶ師のほとり 柴田白葉女 『夕浪』
ゆふ月やもらひ湯にくる春日巫女 中勘助
わが心探る眼知りつ春日桶 吉屋信子
わが肩に降る賽銭の春日かな 久米正雄 返り花
サルーンの柱を染めて春日落つ 五十嵐播水 埠頭
パン分つ看護婦の胸春日満つ 岩田昌寿 地の塩
一人づゝすれちがひゆく春日かな 久保田万太郎 流寓抄
一俵の馬鈴薯ひらく春日かな 室生犀星
三尺の庭を詠むる春日かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
三鬼の死春日が海に遁走す 角川源義
三鬼の死春日は海へ遁走す 角川源義 『秋燕』
上代の春日も光れかぶと山 中村史邦
丹頂に春日いつまで妻遠し 細川加賀 『傷痕』
乞食に銭うつ橋の春日かな 会津八一
争ひ唱ふ二児あり家門春日満つ 久米正雄 返り花
人中の心やすさよ春日影 中村汀女
低き木に鳶の下り居る春日かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
倉敷の雄鶏書房春日差す 高澤良一 寒暑 四月-六月
兄よりも禿げて春日に脱ぐ帽子 久米正雄 返り花
児よりも禿げて春日に脱ぐ帽子 久米三汀 返り花
出格子の刺し子の店や春日差 前田 公子
初詣奈良の春日と約束す 瀧澤伊代次
勿体なくも鳴板ふみし春日かな 長谷川かな女 雨 月
匂玉をかけし頸なお春日に 長谷川かな女 牡 丹
午後からは春日さんさん海の紺 星野立子
双眼鏡あたたむ海の春日差 高澤良一 さざなみやっこ 春
古来稀といふ春日の来てゐたり 野澤節子
呆け春日死者の伝記は脚で書く 岩田昌寿 地の塩
哲人の思索に眠る春日かな 民部里静
唯今只春日爛干蝶も飛ばず 虚子
噴烟を焔にそめ春日修羅おとす 石原八束 空の渚
四方の春日は明かに餅白し 尾崎紅葉
土の上に苺花咲く春日かな 島村元句集
土掘つて切りし球根春日濡る 金子 潮
垂れて居るやうに春日の暮遅き 尾崎紅葉
夢に来て怨む春日の彼某よ 高柳重信
大いなる春日の翼垂れてあり 鈴木花蓑
大佛の俯向き在す春日かな 松本たかし
大和なる夢殿にきたり春日暮る 水原秋櫻子
大団円の春日ぞ妻の幸を誓ヘ 香西照雄
大巌に沿ふや春日のどつと没る 加藤楸邨
大工先あそむで見せつ春日影 炭 太祇 太祇句選
妻に米ありて春日の煙出し 森澄雄 雪櫟
妻の上手ひらくごとき春日あり 八木林之介 青霞集
妻よ子よ春日の杜の冬日和 滝井孝作 浮寝鳥
子供三人の智恵の輪に春日照りこぼるる 冬の土宮林菫哉
宇陀人の春日にさらし蘭の砂 岡井省二
寄り木燃え故旧の春日のぼるなり 成田千空 地霊
屋根石や春日影曳き静かなる 濱人句集 原田濱人
山住みの蕨も食はぬ春日かな 芥川龍之介
山国の春日を噛みて鶏の冠 飯田蛇笏 山廬集
山羊が鳴くけもののにほひ春日かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
岩のいろ一色となり春日没る 福永耕二
島の門を大きく落つる春日かな 比叡 野村泊月
崑の絵を掛け春日の一茶房 皆川白陀
巌の底より春日吸う小魚浮きたり 久保白船
巣鴉や春日に出ては翔ちもどり 芝不器男
干しあはび春日透くまでうすく切る 細見綾子 黄 瀬
年の豆春日の巫女にいたゞきぬ 五十嵐播水 播水句集
幻の邪馬台国の春日落つ 松尾 立石
座蒲団をさげて下り立つ春日かな 比叡 野村泊月
弔辞読む眼に春日影おとろふる 吉武月二郎句集
弥陀の道てらてらうすき春日かな 吉武月二郎句集
弱けれど春日ざしなり夢殿に 細見綾子 桃は八重
影す耕牛春日に浮いて風の椎 岩田昌寿 地の塩
患者らの春日づたひは数珠のやう 斎藤玄
懐しき山をかさねて春日祭 田口冬生
戯るゝ猫に甲板の春日影 長谷川かな女 雨 月
手向山春日へ出づる木下闇 松瀬青々
投げられし毬は春日となりて落つ 原 裕
抜捨し野葱土かはく春日かな 高井几董
掃きて拭きややおちつきぬ春日影 木津柳芽 白鷺抄
春日いま人働かす明るさに 岡本眸
春日いま昃れる額の鉛筆画 京極杞陽 くくたち下巻
春日さすその水位にて金魚死せり 橋本美代子
春日さすまともの水脈ぞよく晴れし 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
春日さす庭の小松菜薹立ちぬ 子規句集 虚子・碧梧桐選
春日さす森の下刈り水々し 乙字俳句集 大須賀乙字
春日ざし歓喜の貌の仏舞 正玄 馨
春日たらり雛の目下瞼から閉づる 野澤節子 黄 瀬
春日てる二見は誰の哥すがた とめ 俳諧撰集玉藻集
春日とは馬のよろこぶ馬の影 松山足羽
春日のすこしを自分のために寝る 宇多喜代子 象
春日のパン与へむ子なく柔かし 山田みづえ
春日の作御名唱えけり鹿の園 椎本才麿
春日の作御名唱へけり鹿の薗 才丸 選集「板東太郎」
春日の背が去るやにわかに多弁の悔 赤城さかえ
春日の蕗の広葉の幾重ね 永井龍男
春日の遅々と旅寝の句碑にあり 古舘曹人 砂の音
春日や種子黒々と地に移す 北園克衛
春日を鉄骨のなかに見て帰る 山口誓子
春日三球ひとりとなりし朧かな 能村登四郎
春日中寄り来る鳩の遠慮がち 高澤良一 素抱 一月-三月
春日仰ぐ車夫ががつしり笑ひをり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
春日哉此昧爽の湖一ツ 乙州
春日山三月寒き落花かな 岡本松浜 白菊
春日山仰ぎていこふ田草取 和田 祥子
春日影どの墓もみな倖に 高橋淡路女
春日影音も香もなき鏡かな 越人
春日明神送る舞楽や水のうへ 大島民郎
春日没る馬車(マーチョ)の鞭の輪の中に 加倉井秋を
春日没る馬車の鞭の輪の中に 加倉井秋を
春日満つ薪の切口の円・半円 岸田稚魚 筍流し
春日濃し七彩に海わかちをり(那覇にて) 上村占魚 『玄妙』
春日照り湧きたつごとし海の面 清崎敏郎
春日燃ゆ火口にとどむおのが像 石原八束 空の渚
春日燦サンタモニカの波頭 中村初枝
春日祭粧ひし馬馬酔木嗅ぐ 清川とみ子
春日祭鹿もつどひて賑はへり 梶原五道
春日若葉みこは白絹あまき酒 中勘助
春日落つひもじき豚等鳴きしきる 草田男
春日遅々ロシア葬にみたび会ふ 田村了咲
春日遅々樽からもやしを妻が買ふ 磯貝碧蹄館 握手
春日頒ち礼文利尻の夫婦島 高澤良一 素抱 四月-六月
春日鶴嘴重き原爆未亡人 藤田湘子 途上
服の汚点春日に曝し晏如たり 林原耒井 蜩
朝比奈の顔を暈取る春日かな 柑子句集 籾山柑子
木に凭れうなだれて居る春日かな 比叡 野村泊月
木の瘤のおろかし記憶春日の中 小松崎爽青
木登りの虚空の足の春日影 上野泰 佐介
村葬や春日ざらしの茄で卵 栗林千津
松を連ねてこゝに嶺作る春日かな 雑草 長谷川零餘子
枝の股ごとの小人の春日たち 林翔 和紙
枯々の篁に春日ふり灑ぐ 雑草 長谷川零餘子
枯蔦の毛蔓巻きゐる春日かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
桶の尻干したる垣に春日哉 夏目漱石 大正三年
椎の木に春日のかけらかぎりなし 篠原梵 雨
楢林春日あるかぎり踏まんかな 渡辺水巴 白日
楼門より寄生木高し春日の中 沢木欣一
殉教図春日燦と射せば見えず 山口青邨
母人は江戸はじめての春日哉 正岡子規
母菩薩春日に白髪抜き奉る 殿村莵絲子 花 季
母負ふてさまよふ庭の春日かな 西山泊雲 泊雲句集
母通る枯草色の春日中 飯田龍太
水は澄むに砂利掻く音の春日影 安斎櫻[カイ]子
水底にゆく水うつる春日かな 大谷句佛 我は我
波崩れ男の頭上春日跳ぶ 古館曹人
泣き寄る子喉の奥まで春日さす 加藤楸邨
流れ鳶ながし春日ゆるぎなし 上村占魚 『天上の宴』
浮鮴の浮きも泳げる春日かな 室生犀星 犀星発句集
湧水に砂のぽこぽこ春日中 高澤良一 随笑 四月-六月
満丸に出でても長き春日かな 宗鑑
潮光り鴎光り春日たしかなる 柴田白葉女 花寂び 以後
灰の中に生きとる虫や春日影 中塚一碧樓
炎ゆ春日黄瀬戸の肌に沁みて失す 文挟夫佐恵 雨 月
無関心な春日の交差 高層窓 森須 蘭
熟れて落つ春日や稼ぐ原稿紙 秋元不死男
猫の目のまだ昼過ぎぬ春日かな 上島鬼貫
猫の目のまだ昼過ぬ春日かな 鬼貫
玉爪(ぎょくそう)の金(こがね)をつかむ春日かな 上島鬼貫
珠数屋から母に別れて春日かな 渡辺水巴 白日
瓶の酒にいつか春日の移りけり 室生犀星 犀星発句集
産寧(さんねん)坂ななめ斜めに春日射す 山田みづえ 草譜
病者の手窓より出でて春日受く 西東三鬼
白き道の白きはづれより春日暮れ 宮津昭彦
白波と春日漂ふ荒岬 桂 信子
白雲の妬心にかくす春日かな 前田普羅 春寒浅間山
白髪うき今朝のむかしの春日かな 上島鬼貫
瞑りつつまぶたにうくる春日かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
瞑るや春日飛びつく五十の膝 小林康治 玄霜
短命のためしのこゝに春日かな 久保田万太郎 流寓抄
石ころを蹴飛ばし春日影も飛び 上野泰 佐介
石の上に立てば全き春日さす 村越化石
石の上の春日やさしき忌日かな 杉本寛
砂浜に足跡長き春日かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
祝祷の神父信徒に春日濃し 下村ひろし 西陲集
神々と春日茂りてつづら山 上島鬼貫
禿頭の男に春日ただ過ぎゆく 宇多喜代子
窓の人やがて出て来し春日かな 比叡 野村泊月
竹の葉を辷る春日ぞ藪すみれ 室生犀星
竹の風ひねもすさわぐ春日かな 室生犀星
竹林に黄なる春日を仰ぎけり 高浜虚子
笹むらや葉一枚づつ春日濃し 上村占魚 鮎
筆とめて外を見て居る春日かな 野村泊月
節分の春日の巫女の花かざし 五十嵐播水
節分の燭をくばるよ春日巫女 角川春樹 夢殿
簾戸に鯛のこけちる春日哉 加舎白雄
籠の戸に鵯いで入りつ春日なれ 室生犀星
絵のある茶碗を子に買ふ春日も卵色 磯貝碧蹄館 握手
羊蹄も摘めばばらけて春日落つ 右城暮石 声と声
美しき孔雀の羽や春日さす 至青
美しき春日こぼるる手をかざし 中村汀女
羽子をつく春日の巫女と茶屋女 平井一途
羽毛が浮き沼にふかでの春日宿す 古舘曹人 能登の蛙
老の手をかざして春日眺め立つ 温亭句集 篠原温亭
老勅使春日祭をさむがられ 飯田京畔
能登の海春日昃れば照りにけり 清崎敏郎
臓器めく配管春日くねり込み 西岡正保
自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波 鋪道の花
興亡の野をおし照す春日かな 中勘助
芽生遅き土鉢の春日ことに濃し 渡邊水巴 富士
苑囿の春日にむせぶ胡弓かな 飯田蛇笏 春蘭
苣の木に雀囀る春日かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
草の家の柱半ばに春日かな 芥川龍之介
草花の仔細に咲きし春日かな 雑草 長谷川零餘子
莟なる梅あたたむる春日かな 智月 俳諧撰集玉藻集
菓子屑に似て女工等や春日照る 中塚一碧樓
薪割つて春日にふるる鼻柱 榎本冬一郎 眼光
藤色を貴び春日おん祭 塚田青女
藪の穂に春日遅々とわたりをり 高浜虚子
藪の穂のさざめきゆるる春日かな 西山泊雲 泊雲
藪の穂のさゞめきゆるゝ春日かな 西山泊雲 泊雲句集
蜑の子の足に波うつ春日かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
蜘の巣もあたらしき窓の春日哉 会津八一
蟻共の尻みな光る春日かな 富田木歩
血色よき児童が通る春日中 高澤良一 宿好 一月-三月
衆目にいま開帳の春日厨子 江口竹亭
袋角春日灯籠の隙間より 岩崎照子
裏くらき若草山の春日かな 下村槐太
裏見せて春日に干され生簀籠 成瀬桜桃子 風色
裾野まで雪一刷毛の春日哉 会津八一
西東六条詣春日かな 小澤碧童 碧童句集
読みつかれ春日を膝のうつつかな 石川桂郎 四温
誰おもひ出しても春日てのひらに 長谷川双魚
象牙婚孔雀まで来て春日浴ぶ 松山足羽
赤犬を呼ぶ春日の第一声 細見綾子
蹇の顔ほがらかに春日哉 高井几董
辻能の剣に映る春日かな 会津八一
遠く見て春日の中に母老いし 相馬遷子 山国
野分あと春日詣での二手より 山本洋子
釣橋の下深ぶかと春日かな 白水郎句集 大場白水郎
釣竿の師についてゆく春日かな 比叡 野村泊月
鉋屑くるりと春日とり込めり 勝田清子
雀より鳩たのし春日神社前 鴻巣又四郎
雨追ひて春日さしわたる殿の簷 水原秋櫻子
雪の樹々春日とゞかざる小屋を置く 石橋辰之助 山暦
雲切れてテームズに春日とゞきけり 高木晴子 花 季
雹はねてけろりんかんと春日かな 角川源義
韓王の行列来る春日かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
馬鈴薯に春日ふふみつ着きにけり 室生犀星 犀星発句集
駒寄に石蹴の子が春日かな 柑子句集 籾山柑子
高階に春日あまねし白ベッド 館岡沙緻
髯瓶の髯かそけしや春日差 下村ひろし 西陲集
鮠の背に春日の乗りて近江かな 関岡光代
鯛の尾のあみがさはねる春日かな 室生犀星 犀星發句集
鰐口の音暮るゝまで春日かな 白鳥
鱒飼へる四方の水音に春日満つ 内藤吐天
鴨一羽ゆるむ春日をくぐり翔ぶ 原裕 葦牙
鵲の人に糞する春日かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
鶏鳴けば侘しさよする春日かな 富田木歩
鶤鶏のみだれ尾に引春日かな 松岡青蘿
鶴を舞ふ扇春日になんなんと 古舘曹人 能登の蛙
鶴亀のあゆみ程よき春日かな 上島鬼貫
鹿踊諸流の中の春日流 高澤良一 寒暑 七月-九月
●春夕日
みちのくや玉よりまろき春夕日 原コウ子
母の忌のことに大きな春夕日 木附沢麦青
松毬を蹴るたよりなき春夕日 小松崎爽青
一抹の雪雲はしる春夕日 前田普羅 飛騨紬
春夕日伊勢を離るる電車かな 山田みづえ 草譜
春夕日よごさぬほどに林檎むく 松澤昭 神立
●反照
茸生ふ樹々の反照ふかまりぬ 山口草堂
●晩照
晩照や麦の芽土に消え入りて 百合山羽公 故園
●晩陽
●日当り
いつも見る山に日当り十二月 池田秀水
はうむりの家に日当り穴惑 岸田稚魚
倚座仏のもすそ日当り御開帳 井沢佐江子
塩蔵の屋根に日当り冬に入る 井上青穂
寒禽の声に日当り来ぬ憩ふ 臼田亞浪 定本亜浪句集
尾根に出るところ日当り春竜胆 岡田日郎
屋根濡るるそれに日当り春しぐれ 皆吉爽雨 泉声
振り返るわが家日当り末枯れぬ 岡本 眸
春山のどれも日当り高からず 大野林火
真つ新な的に日当り弓始め 檜紀代
舟傾ぐ方に日当り沖膾 桂 信子
苔寺の戸樋に日当り秋の雨 京極杞陽 くくたち下巻
軒深き往き来日当り時雨れ去る 臼田亞浪 定本亜浪句集
針箱に日当り新穀感謝の日 加倉井秋を 『胡桃』
飾り馬面出してをり日当りをり 石川 桂郎
●日映り
●日裏
山わかつ日裏日表二月尽 福田蓼汀 秋風挽歌
峯紅葉日裏となりしこともなく 高浜年尾
日表と日裏を隔て白牡丹 稲畑廣太郎
木曾谷の日裏日表霜を解かず 松本たかし
燦々と日裏日表風若葉 原 コウ子
花びらの日裏日表紅蜀葵 高浜年尾
霜除や日表の洋館日裏の和館 島村はじめ
●日面
菰の口みな日面に寒牡丹 田中久子
麦の入日面向けがたく疲れけり 千代田葛彦
日面テの色となりたる葛の花 行方克巳
●日蔭
かたくりの十輪ほどの日陰かな 浅賀君女
きりぎりす日陰ひやりとしてきたり 宮津昭彦
ここにして日蔭ただ恋ふ異邦人 稲垣きくの 黄 瀬
ぜんまいの筵日陰となりて留守 小川公巴
つちくれの小さき日陰に菫かな 虚子
どくだみの白美しき日陰かな 小野 茂川
なでしこやまゝはゝ木々の日陰花 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
はこべらの芽の半分は日陰かな 如月真菜
やがて咲く日蔭の花もありぬべし 北原白秋
やみくもに垂れて木ぶしの日陰谷 高澤良一 寒暑 四月-六月
わが湖(うみ)あり日陰真暗な虎があり 金子兜太(1919-)
わが湖あり日蔭真ッ暗な虎があり 金子兜太 金子兜太句集
わが湖あり日蔭真暗な虎があり 金子兜太
七五三日向日蔭に鳩をまじへ 永井東門居
中年や百日草に日蔭なく 高橋さえ子
乾飯に日陰りて鮓はなれにけり 高濱虚子
佐倉照り日陰は黝き稲架襖 北野民夫
光る鳩守衛はさむい日陰の芯 大井雅人 龍岡村
出て遊ぶ蜥蜴に日蔭なかりけり 高浜虚子
十月の日向日陰に童声 柴田白葉女
千両や日陰をつねの遊女塚 中村翠湖
千振を日陰干して杣の家 大久保重信
叢に咲く百合にして日蔭無し 久米正雄 返り花
古代文様日蔭のごとく土用干 田中裕明 櫻姫譚
夏雲に岬の松は日蔭なる 内田百間
夕立の跡柚の薫る日陰かな 立花北枝
夕虹を見て来ぬ日蔭の子といはれ 和泉香津子
大船の日蔭へまはる筏あり 永井龍男
婆が寄る日向日陰の柿の村 中拓夫 愛鷹
寒くなりぬ日陰は椿咲きつらね 太田鴻村 穂国
寒の日陰シャツがつぶやく妻のように 大井雅人 龍岡村
寒の日陰音失ないて登校児 大井雅人 龍岡村
寒菊の日向日陰を掃きにけり 水巴句集 渡邊水巴
山桃の日蔭と知らで通りけり 前田普羅
引いて悲しき日陰の草の根無草 相馬遷子 山河
御神馬の芦毛つやめく秋日陰 岡田壮三
敦盛草しなのはどこも日蔭冷え 上田五千石 風景
日と日陰残雪は斧ふりかざし すずきりつこ
日向より日蔭が澄みぬ花八つ手 馬場移公子
日向より日陰の白椿見て 柴田白葉女 花寂び 以後
日向より日陰親しき椿径 上野さち子
日向黄に日蔭は蒼しうさぎの眼 岩田昌寿 地の塩
日蔭にて沖のかなしむ刻となり 松澤昭 神立
日蔭にも強者の声のきりぎりす 狩行
日蔭ゆくときろうそくいろの花八つ手 田邊香代子
日蔭より伸びて日南や女郎花 黙禅
日蔭より声の不馴な蕨売 永作火童
日蔭より定家かづらは咲き上る 後藤比奈夫
日蔭より日南に凍る風ありぬ 高橋馬相 秋山越
日蔭より日向の妻を見てゐたり 小川軽舟
日蔭育ちの蒟蒻芋を掘りころがす 津田清子 礼 拝
日蔭蝶追うて林間学校へ 高浜虚子
日蔭鬘かの母を地に投げる者よ 安井浩司 密母集
日蔭鬘われら家曲のままに坐し 安井浩司 氾人
日陰つゝじ咲かねばならぬ春が行く 林原耒井 蜩
日陰なる南瓜飽く迄青きかな 坂本四方太
日陰ゆく日に弱き身や金鳳華 森川暁水 黴
日陰より定家かづらは咲き上る 後藤比奈夫 花びら柚子
日陰より日向に出でし子蟷螂 斉藤夏風
日陰りしサルビアの赤沈黙す 嶋田摩耶子
日陰りて張子天狗の凍みつ鼻 高澤良一 さざなみやっこ 冬
日陰りて木賊に引立てらるゝ家 高澤良一 ももすずめ 平成元年
日陰れば芒は銀を燻しけり 米岡津屋
日陰村より糸出でていかのぼり 衣笠 葉
日陰蝶追うて林間学校へ 高浜虚子
春寒やのび損ねたる日陰獨活 芥川龍之介
木犀や同じ時刻の日陰増え 宮津昭彦
杉林春の日蔭をつくりけり 白水郎句集 大場白水郎
杉林春の日陰をつくりけり 大場白水郎 散木集
枯蔓の日蔭日向と綯ふひかり 水原秋桜子
枯蔓の日陰日向と綯ふひかり 水原秋櫻子
梅干して人は日蔭にかくれけり 中村汀女
梅干にすでに日蔭や一むしろ 河東碧梧桐
梅白し日陰日向に岩ありて 大井雅人 龍岡村
残蝶の日蔭をわづか離れしのみ 加倉井秋を 午後の窓
水神の花括らるる日蔭かな 山本洋子
水馬日陰好みと知られけり 高澤良一 燕音 七月
沖めざす花の日陰に脱糞して 安井浩司 青年経
注連飾日蔭かづらを掛けそへたり 村上鬼城
消えがての日陰の雪や初天神 土方花酔
濃き日には濃き日陰あり石蕗の花 大岩樹代子
濃き日蔭ひいて遊べる蜥蜴かな 高浜虚子
灯台の日蔭の麦を踏みにけり 篠原鳳作
烏瓜日蔭の花を咲かせけり 成瀬櫻桃子
石像の日蔭つめたき二月かな 会津八一
石南花は日陰をよしと盛りなる 高濱年尾
砂にかく日蔭の寺へゆび入れて 安井浩司
竹の皮日蔭日向と落ちにけり 高浜虚子
竹の皮日陰日向と落ちにけり 高浜虚子
笹鳴や日向日蔭へ道伸びて 岸田稚魚 筍流し
粥腹や日陰の花の八ッ手咲き 石川桂郎 高蘆
舟小屋のうしろ日蔭の花南瓜 上村占魚
花八つ手日蔭は空の藍浸みて 馬場移公子
蕗の葉の日向日陰をめぐる蟻 中田剛 珠樹以後
薄暑はや日蔭うれしき屋形船 高浜虚子
藪椿日蔭を好みかくれ咲く 高井北杜
起重機の日陰得て児に乳あたふ 永田耕一郎 氷紋
遅桜二木がつくる日陰かな 大場白水郎 散木集
釘を打つ日陰の音の雛祭 北野平八
釣堀の主の座いつも日蔭なし 山本悠水
鎌倉は日蔭日向の藪柑子 川崎展宏
雪霏々と日蔭日向となくつもる 川島彷徨子 榛の木
霧寒し日蔭のかつら袖につく 暁台
青無花果の日蔭の重さ父の郷 原裕 青垣
音楽の中の日陰や寒卵 宮津昭彦
額の花すこしはなれて日陰あり 後藤夜半 底紅
風露草日陰は風のゆるやかに 渡邊千枝子
駱駝いま運ぶ屍の日蔭持つ 小檜山繁子
鮭を吊るくらがりに妻日陰の寺 大井雅人 龍岡村
麦秋の日陰流れて軒の旗 内田百間
●日暮
あめんぼう日暮は人を遠くする 児玉輝代
いちじくの門の高さの日暮なり 小島千架子
うまし国の秋の日暮の棒置場 原田喬
おねはんの忘れ毬一つ日暮かな 室生犀星 魚眠洞發句集
おほばこの花に日暮の母のこゑ 大獄青児
かたまつて啼く日暮の江川邸 萩原麦草 麦嵐
からまつの散る音たまりゆき日暮 野澤節子 花 季
こうこうと風吹き衰へし蜂の飛ぶ日暮 雲の音 芹田鳳車
ごみ焚く煙り燃え切り日暮のあらい雨来る 人間を彫る 大橋裸木
さっきから鴉が鳴いて枇杷日暮 高澤良一 素抱 四月-六月
すぐくらくなる佗助の日暮かな 草間時彦
すぐそこに日暮が来るよ犬ふぐり 加藤 紅
つくつくしつくつくぼふしまた日暮 脇村禎徳
ひと畝の菜の花である日暮かな 栗島弘
ひもじさののつぴきならぬ日暮鵙 高澤良一 ももすずめ 平成元年
ふとあげし落穂拾ひの日暮貌 山野邊としを
ぼうたんも母も日暮へさしかかり 濱田俊輔
ぽつねんとあれば鵙来て日暮かな 草間時彦 櫻山
ぽつぺんの中の日暮を吹きにけり 櫛原希伊子
みそさざゐしきりに鳴きて日暮たり 麦語 選集古今句集
ゆきちらちらそんな日暮のあかき魚 細谷源二 砂金帯
るり鶲とわかつて それからの るりいろの日暮 吉岡禅寺洞
わが魔羅の日暮の色も菜種梅雨 加藤楸邨
ゑんどうの手を差し了へし日暮かな 白井 爽風
をとこにありてをんなにあらぬ冬日暮 平井照敏
アドバルーンのない空がちらす 日暮の粉雪 吉岡禅寺洞
サハリンより寄せて春寒日暮波 高澤良一 素抱 四月-六月
バナナ下げて子等に帰りし日暮かな 杉田久女
一庵と日暮を頒つ野水仙 つじ加代子
一群の鴨内宮の日暮飛ぶ 右城暮石 上下
一重帯日暮の川の魚跳べり 菅原鬨也
丹波牛のつと日暮の花野かな 鷲谷七菜子 花寂び
井戸深く雪のふりこむ日暮かな 増田龍雨 龍雨句集
仙人掌の花に日暮や海の駅 広瀬一朗
仮睡覚め霧か日暮か音もなし 福田蓼汀 秋風挽歌
何いそぐことなき雪の日暮なり 細見綾子 存問
信濃日暮走り曳き去る御柱 斉藤夏風
僕 捨身 日暮の沖でさびさび浮く 伊丹三樹彦 一存在
元日の日暮ごころに釜の白湯 きくちつねこ
写真館裏で 明治の日暮に遇う 室生幸太郎
写経して仏正月早や日暮 井沢正江
冬晴の水音鋭がり来る日暮 岸田稚魚
冬晴れの水音鋭がり来る日暮 岸田稚魚
冬雨が早める日暮「逃げる」なよ 鈴木六林男 第三突堤
冬雲をわれは日暮にばかり見る 下村槐太 天涯
凍山河日暮かならず熱出して 佐藤鬼房 鳥食
分針は太き泪となる日暮 守谷茂泰
刈り頃の芦擦りあふて湖日暮 高澤良一 燕音 一月
刺客ひそむ峠のような日暮の便所 西川徹郎 無灯艦隊
化野の柿の下(もと)ゆき日暮道 高澤良一 宿好 十月-十二月
十夜寺そこと聞きゆく日暮道 高澤良一 随笑 十月-十二月
半纏の身になじみくる日暮かな 福田甲子雄
厄落とし戻る日暮の華僑街 山田弘子
取返しつかぬ日暮の葱を抜く 櫂未知子 蒙古斑以後
口で紐解けば日暮や西行忌 藤田湘子
吐息みな綿虫となる日暮どき 山崎冨美子
唐辛子日暮は海女も子に帰る 野見山ひふみ
地下街の日暮混み合ふ青目刺 神崎 忠
塩買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子 花 季
塩鮭を女抱きゆく田の日暮 皆川盤水
夏に入るをんな日暮の樹を好み 長谷川双魚 風形
夏わらびここに眠りて日暮まで 田中裕明 花間一壺
夏大根父母の遊ぶを見て日暮 金田咲子 全身 以後
夏立ちて地虫漏れなく日暮なり 百合山羽公 故園
夕鶴いるかな 日暮丹後の機織る音 伊丹公子
大凧のりんとしてある日暮哉 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
大綿や頬とがり来し日暮どき 岸田稚魚 筍流し
夾竹桃日暮は街のよごれどき 福永耕二
子を叱るその声の寒い日暮をおとなふ 人間を彫る 大橋裸木
家のはざまの日暮から水まきに出る 人間を彫る 大橋裸木
寒い日暮の提灯つけてゐる車夫の尖つた顔 人間を彫る 大橋裸木
寒牡丹別の日暮が来てをりぬ 手塚美佐
小田の雁日暮の雨となりにけり 三島霜川
山影を日暮とおもひ浮寝鳥 鷹羽狩行
山桑の枯葉を噛めば日暮見ゆ 佐藤鬼房
山茶花やいまの日暮の旅に似て 藤田湘子
山菜採り日暮忘れてゐたるかな 福田甲子雄
山雰の足にからまる日暮哉 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
島に来て蚊帳吊草の日暮かな 守山琴女
干瓢むく孤村の風の日暮かな 尾崎紅葉
引鴨の羽音ののこる日暮空 福田甲子雄
彼岸会のなほ西方に日暮星 百合山羽公
心細く野分のつのる日暮かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
惜春や白き日暮を繰返し 櫛原希伊子
戸口より日暮が見えて雪の国 櫛原希伊子
戸隠の日暮がおそふ焚火かな 鷲谷七菜子 花寂び 以後
戸隠山の日暮がおそふ焚火かな 鷲谷七菜子 游影
所在なき旅の日暮を葱坊主 森 澄雄
手毬唄日暮は亡き父恋ふ唄に 加藤知世子
放鳥の枯木にとまる日暮かな 原石鼎
敗荷のところかまはぬ日暮かな 河村正浩
数珠玉や日暮はいつもうしろより 岸田稚魚 『紅葉山』
数珠玉や歩いて行けば日暮あり 森 澄雄
旅の日暮の鳥どこに鳴くともなう聞きゆく 人間を彫る 大橋裸木
日暮いずこも巣を作る蜘蛛踵返す 伊丹三樹彦
日暮から桐の木のぼる蝸牛 原田喬
日暮から長屋へやつて砧かな 如元 八 月 月別句集「韻塞」
日暮とも雨けむるとも白桔梗 藤田湘子
日暮には白露の山の坐りゐる 八木林之介 青霞集
日暮の君が細い指の膝にそろへられたる 人間を彫る 大橋裸木
日暮の菜間引きて水尾のごときもの 齋藤愼爾
日暮の里の旧家や冬牡丹 子規句集 虚子・碧梧桐選
日暮まで居ればいよいよ蒲の晴 岡井省二
日暮まで山かげの田の薄氷 長谷川櫂
日暮まで椎葉青空花山葵 神尾季羊
日暮まで水さわさわと早苗とる 百合山羽公
日暮まで蝿のまどろむ花八つ手 白岩 三郎
日暮もつるる寒い波跨いで船出る 人間を彫る 大橋裸木
日暮待つのみ杣が戸のつららごめ 千代田葛彦
日暮日暮春やむかしのおもひ哉 蕪村遺稿 春
日暮見ぬ十一月の道の辺に 原 石鼎
日脚伸ぶことは日暮を待つときに 稲畑汀子 春光
早乙女の蛙にわたす日暮哉 尾崎紅葉
昭和日暮の蚊帳吊草を吊る遊び 柿本多映
曇りしがそのまま日暮鯊の潟 橋本風車
木の葉降る音も日暮もうしろより 中尾寿美子
木を伐つて日暮寂しや西行忌 安立公彦
木曾の旅日暮も植田あかりかな 古賀まり子 緑の野
末黒野に蝶さしかかる日暮かな 森田伊佐子
本能寺あたりで秋の日暮かな 関戸靖子
杉の鵜が竹の鵜を呼ぶ日暮かな 臼田亜浪 旅人
李噛みながき日暮をすごしける 中田剛 珠樹以後
来て見れば霞の松に日暮たり 暁台
東京は日暮の早し鮟鱇鍋 茂里正治
枇杷すでに青からずして日暮なり 山西雅子
林道の日暮落葉のにはたづみ 松村蒼石 雪
枯芦の一本づつの日暮かな 岸田稚魚
柿色の日本の日暮柿食へば 加藤楸邨
栗鼠つひに胡桃を割りし日暮時 堀口星眠 営巣期
桃の木を蟻おりて来る日暮かな 大串章 百鳥
桐の花日暮と知つて咲いてをり 大串章
棲みつきし馬刀に日暮の舟の音 東條和子
椅子の背に冬至日暮の日が斜め 高澤良一 素抱 十月-十二月
橋なくて日暮んとする春の水 蕪村
水尾曳いて白鳥蒼みくる日暮 伊藤孝一
水平に来る死期山茶花の日暮 赤松[けい]子 白毫
水底に落梅七つ八つ日暮 工藤義夫
水底の日暮見て来し鳰の首 福氷耕二
水撒かる日暮桟橋通船混み 大田和子
水洟や父母の代の日暮見え 上田五千石
水洟や石に腰かけ日暮待つ 草間時彦
水雪の降る日暮まで札所道 吉田紫乃
水馬日暮は母が呼びにくる 加藤楸邨
氷らざる水あり日暮青鵐鳴く 右城暮石 声と声
沖波や盆の日暮の鉦満ちぬ 岸田稚魚 『雪涅槃』
海はすぐ冷ゆる日暮の花吹雪 中拓夫
海鳴るは日暮の音ぞ雪の国 伊藤京子
淡々と日暮が来たり花八つ手 草間時彦
深爪のやうな日暮や沼田打 石田阿畏子
火にあそぶ火の粉茂吉の忌も日暮 藤田湘子
炭斗炭こぼれそに日暮の二階へあがる 人間を彫る 大橋裸木
炭火吹く祖母美しい日暮かな 森下草城子
焚火消えさざなみだちに来る日暮 鷲谷七菜子 花寂び
煮凝てふ日暮たのしむにも似たり 神尾久美子
熊笹に蛾のほろほろとたつ日暮 福田蓼汀 秋風挽歌
父を思ふ日暮の色のところてん 櫂未知子 蒙古斑以後
牛吼えて雲雀落ちたる日暮かな 山本露葉
牧草を刈るは祈りに似て日暮 有働亨 汐路
猿曳の猿を抱いたる日暮かな 尾崎紅葉
珠数玉や歩いて行けば日暮あり 森澄雄
甕のふち薄氷ひ日暮ただよへり 長谷川双魚 『風形』
生欠伸して啓蟄の日暮どき 平子公一
田の色の揺れうごきをる日暮かな 今井杏太郎
白梅や父に未完の日暮あり 櫂 未知子
白飯やいづこの山も日暮にて 桑原三郎 龍集
百姓牛の尻見つつ寒い日暮を戻る 人間を彫る 大橋裸木
砂村の能登恋しさよ蚊の日暮 松瀬青々
破蓮に雨ぞろぞろと来て日暮 鷲谷七菜子
破蓮の騒然として日暮来る 古賀まり子 緑の野以後
祇女ざくらさらに日暮のきてゐたり 吉田紫乃
祇王寺の日暮紅葉の佛間にゐ 高澤良一 宿好 十月-十二月
秋草に更紗日暮の来てをりぬ 鈴木妙子
秋草のいづれの草か日暮呼ぶ 佐藤鬼房
秋遍路日暮は潮の匂ひする 児玉輝代
種すこし蒔いて日暮の水と居り 鷲谷七菜子
空稲架となりて日暮のすぐにくる 永峰久比古
立ち止まるたびに日暮の雪螢 平子 公一
笹鳴きに覚めて朝とも日暮とも 中村苑子
箱庭にやがて正しき日暮来る 櫂未知子 蒙古斑以後
籾殻焼母に呼ばれて日暮なり 太田土男
紅糸が足らぬ日暮の滝こだま 神尾久美子 桐の木
紅葉狩り観世音寺に日暮けり 松本ヤチヨ
細菌を鳥がついばむ日暮かな 金子 晉
網戸入れ波おとなしき日暮かな 花尻 万博
綿摘みの日暮印度を想ふかな 田中哲也
羅宇屋笛を止め日暮の橋ことこと戻る 人間を彫る 大橋裸木
羊と牛は日暮を下る明きかな 金子兜太 詩經國風
老人に日暮が来たりすみれ草 橋本榮治 越在
老柳の立ちはだかれる日暮かな 鳴戸奈菜
肩から覗く子供の眼の寒い日暮を来る 人間を彫る 大橋裸木
芋の葉や歩みよろめく日暮方 百合山羽公 故園
花なづな日暮は口がさみしくて 長谷川双魚 風形
花八つ手昏れて日暮に気付かざる 手塚美佐 昔の香
花合歓や木地挽く音の日暮まで 青木不二子
花摘の蹤きくるごとき日暮かな 鷲谷七菜子 天鼓
花桐の日暮より来し童女はも 岸田稚魚
若竹の節々勁くなる日暮 根岸善雄
苺ばたけの日暮の雨に濡れて子が来る 人間を彫る 大橋裸木
茎の石抱いて日暮と思ひけり 小笠原和男
茶が咲いて肩のほとりの日暮かな 草間時彦
草の戸に日暮てくれし菊の酒 芭 蕉
草の戸や日暮てくれし菊の酒 松尾芭蕉
菊の灰日暮の空のあをあをと 岸本尚毅
菜の花やペタルも軽き日暮路 横光利一
萩黄葉日がな日暮のやうな空 山田弘子
萱草の花に日暮のピアノ鳴る 秋篠光広
落葉焚いつも海から日暮来る 徳田千鶴子
葡萄食ふ日暮何かがくらくなり 森澄雄
葭切やよろこび駐まる日暮馬車 楠目橙黄子 橙圃
葱坊主ああと鴉が日暮云ふ 高澤良一 燕音 四月
蒔き終る顔を寄せあふ日暮かな 福田甲子雄
蒔き終る顔を寄せ合ふ日暮かな 甲子雄
蕗の薹影一寸の日暮かな 大城きせの
藤の花ほつりと夫を待つ日暮 信子
蜂の貌して妻が帰る日暮時 石寒太
蝙蝙はぼろ着の聖者なり日暮 佐藤鬼房 潮海
蝙蝠が日暮の空を断るころは会はぬ嘆きの極まるものを 木俣修
蟹の足の純粋運動日暮かな 中北綾子
裏山の日暮が見えて雛祭 斎藤 愼爾
見かへれば寒し日暮の山桜 小西来山
見返れば寒し日暮の山桜 小西来山
見飽きたる田螺を探す日暮かな 柿本多映
許されしごとき日暮も大暑かな 野見山朱鳥
誕生日秋の日暮のすぐ到る 百合山羽公 寒雁
赤のまま地玉子売りの来る日暮 松浦 釉
赤松の秋の日暮の真宗寺 高澤良一 素抱 十月-十二月
跫音の日暮を誘ふ枯野かな 桜木俊晃
身の中を日暮が通る西行忌 黛 執
辛夷咲き日暮のこころ永くせり 細見綾子 黄 瀬
返り花水滲むごと日暮くる 西村博子
送り火消え旅の日暮のごとく居り 鷲谷七菜子
遥かまで澄みゐる日暮烏瓜 石田阿畏子
金鳳華日暮あやしき神の径 加藤知世子 花 季
鈴が鳴るいつも日暮の水の中 中村苑子(1913-2001)
階段が無くて海鼠の日暮かな 橋間石
隣室のギターやみ日暮の冬の屋根 古沢太穂 古沢太穂句集
雛を呼ぶ雷鳥尾根の日暮どき 新井 英子
雛流し日暮を少し余したる 谷田部栄
雨の日暮樹のかなしみをもち帰る 酒井 弘司
雪となる日暮の幹に鈴をかけ 橋石 和栲
雪の声聞く耳欲しき日暮なり 太田土男
雪の日暮はぃくたびも読む文のごとし 飯田龍太
雪虫のただよふ日暮手のあそぶ 桂信子 遠い橋
霜枯や眼をすゑてゐる日暮鵙 赤尾冨美子
青文字の花を手折りて日暮なる 堀口星眠 営巣期
青蚊帳を泳ぐ昭和の日暮かな 柿本多映
青蜜柑日暮の海の肩ひかる 中拓夫
風死して別の日暮のあるごとし 櫛原希伊子
風花の日暮とぼしき白魚漁 下村ひろし 西陲集
風花を糞(た)れていづこよ日暮鳥 安東次男 昨
馬鈴薯の花に日暮の駅があり 有働 亨
鬼女祀る堂出て日暮とりかぶと 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和五十九年
魚が身を曲げる日暮や桐の花 宇多喜代子
鰯雲の不思議な日暮排卵日 柴田千晶
鰺をたたく日暮の音や海女小路 高尾まもる
鰺舟の著く日暮まで昼寝かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
鳥の尾の雪すりしのみまた日暮 宇佐美魚目 秋収冬蔵
鳥貝や風音遠き日暮来る 角川春樹
鴨啼いて山の日暮をさそひけり 福永みち子
鵜舟から日暮広がるやうす哉 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
鶏頭のひとり頑張りをる日暮 高澤良一 燕音 十月
鹽買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子
麦藁帽に頂のある日暮かな 大木あまり 火球
あめふらし遊びあかして磯日暮れ 高澤良一 鳩信 東帝
いつよりかわれを娘と思いいる老いの爪きる梅雨の日暮れは 水谷きく子
じやがいもの花の日の日暮れのしわしわと 羽原青吟
その日暮れなほ秋蝉の泣きじやくり 福田蓼汀 秋風挽歌
ひぐらしの日暮れて温き子供かな 攝津幸彦
ひと日挽きゐし木を倒し日暮れる 人間を彫る 大橋裸木
ひと日暮れひとりの秋を深めけり 石川桂郎 四温
ふらここや日暮れて風の指定席 笹本カホル
もういいよ沼の日暮れは数えきれぬ 増田まさみ
プールサイドを日暮れのひとり濡らして去る 林田紀音夫
メモ一つ消して師走の一と日暮れ 稲岡長
ユッカ咲き沙漠の日暮れ怪しけれ 平田縫子
一気に来る日暮れ高澤良一 ねずみのこまくらに 高澤良一 随笑 十月-十二月
一遍の秋空に遭ふ日暮れかな 平井照敏
七福神めぐり詣でて日暮れけり 藤松遊子
事務の日暮れ屋上に呼び合い共に染まり 金子兜太
今日もまた 誰とも話さないで 各の日暮れる 吉岡禅寺洞
傀儡師日暮れて帰る羅生門 藤野古白
元日の日暮れ磨かれたるガラス 大井雅人
六月の日暮れ樫の木雨を感じ 大井雅人 龍岡村
冬日暮れ女ひとり行き絶えにけり 室生犀星 犀星発句集
冬至とてなすこともなく日暮れけり 石川桂郎 高蘆
冬蝶の居丈をとばず日暮れぬる 齋藤玄 飛雪
冬鵙や寺の日暮れは一段づつ 小島千架子
初猟の佳景日暮れや舟の上 飯田蛇笏 山廬集
初鰹都心に出でて日暮れたり 石川桂郎
北風を軽しと思ふ日暮れけり 今井杏太郎
唐突に冬の日暮れて犀の尻 高澤良一 随笑 十月-十二月
回廊のはやき日暮れの棗の実 中田剛 珠樹
土踏む喜びのいつしかぼやぼや日暮れる 人間を彫る 大橋裸木
地蔵盆鉦を叩けば日暮れきて 関戸靖子
地震やんで日暮れて秋の雨がふる 露月句集 石井露月
埃くさき日暮れとなりぬ寒椿 中拓夫 愛鷹
夏星に海も日暮れの音展く 飯田龍太
子ら残し来て日暮れたる年賀かな 植田久女
子溜りの日暮れてゐたり花八つ手 関戸靖子
子等残し来て日暮れたる年賀かな 久女
寒の松母子のくらし日暮れけり 中山純子
山の日暮れは山燃ゆるかに冷し酒 竹鼻瑠璃男
山吹の日暮れ無数の日が舞へり 中山道輔
山国の日暮れ狂へるつばくらめ 中拓夫 愛鷹
山山は紺に日暮れて雛まつり 福田甲子雄
山茱萸の日暮れ惜しまむ片田舎 高澤良一 素抱 一月-三月
帆船は雲と日暮れて雪降りぬ 細谷源二 鐵
干蒲団叩いて日暮れ早めけり 阿部静雄
年礼の思ふ半ばを日暮れたり 九寸児
年礼や日暮れて来たる酔李白 文屋菱花
弟と日暮れを立てば鐘霞む 柴崎七重
数人に棒高跳の日暮れ来る 林田紀音夫
斗酒ありや日暮れて胡瓜刻む音 尾崎紅葉
斗酒ありや日暮れ胡瓜刻む音 紅葉句帳 尾崎紅葉、星野麥人編
斧置けば即ち日暮れ朴の花 神尾久美子 桐の木
日の牡丹日暮れて風の牡丹かな 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和五十七年
日暮れたりほかほか湯気のむかご飯 中山純子 沙 羅以後
日暮れたる女賀客に灯しけり 池内たけし
日暮れたる巣箱の穴を見て過ぎぬ 藤田あけ烏 赤松
日暮れたる野菊の道に灯しけり 楠目橙黄子 橙圃
日暮れては何処も地の果て天の川 朱鳥
日暮れては野山相寄る龍田姫 児玉南草
日暮れては鳩の声まで芦の声 斎藤玄 雁道
日暮れて山のちかづく鵜飼川 鈴木六林男
日暮れは遊べ大きな栗の木の下で 水野 麗
日暮れまでままごと遊びおんこの実 工藤眞智子
日暮れまで摘みし蓬のこれつぽち 中村苑子
日暮れよごれる教会風が灯を持つ田 隈治人
日暮れ口ただ眺めをるに雪来り 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
日暮れ早やわが家灯りて雪ちらつく 椎橋清翠
日暮れ胸裡に冥府の空母わだかまる 林田紀音夫
日暮れ飛び燕まぎれるなまこ壁 宮津昭彦
日短しと言に出づるに日暮れぬる 岸田稚魚
日雇女児といく 鋪道の きいろな日暮れ 吉岡禅寺洞
春の雪日暮れてくろき蜜柑山 中拓夫
晩秋を病み水薬のごとき日暮れ 藤木清子
暖かき枯蓮の色日暮れても 欣一
曇る日の小鳥かゝらず日暮れたり 蘇山人俳句集 羅蘇山人
朝寝して二食に秋の日暮れたり 会津八一
木枯や日暮れて白き干大根 中勘助
未帰還機若干日暮れひぐらし数多と誌す 折笠美秋 虎嘯記
松原の果てしを秋日暮れにけり 金尾梅の門 古志の歌
松島や日暮れて松の冷まじき 岸田稚魚
枯枝の一ト葉もなくて日暮れゐる 石川桂郎 含羞
桜餅空際にほひ立つ日暮れ 平井照敏 天上大風
梅林のなかを日暮れの水のいろ 角川春樹 夢殿
梅雨晴れの一と日暮れゆく味噌豆腐 赤城さかえ
橋なくて日暮れんとする春の水 與謝蕪村
機の瑕もどかしう雪に日暮れたり 金尾梅の門 古志の歌
母ありし日暮れのごとしおほでまり 上野波翠
母の客日暮れて帰る秋彼岸 相馬遷子
母の忌の日暮れを飛んで金亀子 斉藤 京子
母の辺に日暮れてゐたり毛糸玉 猪俣千代子
毯唄に雪少し降り日暮れたり 幹彦
水くらく菜の花白く日暮れたり 紫暁
水中花日暮れてくらくなりにけり 山口波津女
水洟や日暮れて仰ぐ梁柱 千代田葛彦 旅人木
水際に日暮れを掬う紋白蝶 宇多喜代子
法師蝉日暮れて尾*てい骨ありぬ 小檜山繁子
液化の日暮れ死後も吊皮の手があり 林田紀音夫
炎天の日暮れてをりし躙口 神尾久美子
焼鳥やしずくのような日暮れ鳥 金子兜太
爽涼と一枚の田の日暮れどき 金田咲子
田を植うる光を残し日暮れ谷 鷲谷七菜子
田雲雀や日暮れかねつつ塔ふたつ 岡井省二
癌の妻落花も踏まず日暮れぬる 齋藤玄 『玄』
白桃を剥くうしろより日暮れきぬ 野澤節子 黄 瀬
盆路の八方けむり日暮れどき 井上 雪
眞赤に塗つて日暮れ手洗う塗裝工 金子兜太
石手寺へまはれば春の日暮れたり 正岡子規
砂利を曳く馬見つゝ小春の日暮れたり 青峰集 島田青峰
硝子窓拭きて日暮れぬ春支度 則近文子
秋の空澄たるまゝに日暮れたり 亜洒
秋深し日暮れの畑の唐辛子 永井龍男
秋鯵に遊行寺通り早日暮れ 長谷川かな女
筍の出かかつてゐる日暮れかな 長峰竹芳
紫蘇もんで日暮れ濃くなる鞍馬口 飯田龍太
絽の喪服日暮れて紋の梅萎る 殿村莵絲子 牡 丹
綿虫の綿の青さの日暮れくる 石田郷子
肩落すやうに日暮れて牡丹雪 岡本眸
能書きのつぶつぶと冬日暮れたり 永末恵子
芭蕉路の日暮れの著莪に業車 小檜山繁子
花八つ手山を集めて日暮れたり 廣瀬直人
花蜜柑日暮れいつせいに蜂帰る 中拓夫
花過ぎの泪色する日暮れあり 北原志満子
芽蘆枯蘆日暮れを鳴ける雀かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
苗木植え妻が稚くなる日暮れ 斉藤白砂
茄子割れてなまものしりの日暮れたり 橋石 和栲
草の戸や日暮れてくれし菊の酒 松尾芭蕉
菜種刈る日暮れの空の下り坂 中拓夫 愛鷹
落葉掃く日暮れの母も琥珀かな 小檜山繁子
落葉焚妻よりつぎて日暮れけり 荒井正隆
著莪の花日暮れは鳥の真似をする 橋爪鶴麿
葱の花しろき日暮れの道長き 太田鴻村 穂国
蓬生や日暮れておろす凧の音 梅室
行方(なめかた)の海ことことといさざ舟(霞ヶ浦東岸玉造にて日暮れぬ) 角川源義 『神々の宴』
裏山の日暮れのいろの風邪心地 白岩 三郎
負ひ来し黍の音かも日暮れゐつ 中村四峰
転がりしままの冬瓜日暮れけり 平田はつみ
郭公の日暮れて老に炉がひとつ 鷲谷七菜子 花寂び
郭公や日暮れて森の道のこる 松村蒼石 雁
酢のような日暮れを歩き子を宿す 坪内稔典
里芋のほつくり煮えて日暮れけり 高久フミ
野ゆく子に余所なる冬日暮れにけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
鈴が鳴るいつも日暮れの水の中 中村苑子
銭使ひはたして日暮れ日傘たたむ 中山純子
長閑さに日暮れていまだ戸もさゝず 松宇家集 伊藤松宇
雪の日暮れはいくたびも読む文のごとし 飯田龍太
雪雀俵しらべに日暮れたり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
風の木のそのまま夏至の日暮れの木 岸田稚魚
風呂を焚く螢袋も日暮れたり 猪俣千代子 堆 朱
魚が身を曲げる日暮れや桐の花 宇多喜代子
鮟鱇や店に生きゐて日暮れなる 中川宋淵
鵜舟から日暮れ広がるやうすかな 一茶
鶏頭と窯火と競ふ日暮れ刻 鈴木真砂女 夕螢
鷺赤くとんで日暮れて野地蔵会 落合水尾
●日盛り
いたづらつ子を妻に托し日盛り旅立つ 人間を彫る 大橋裸木
しづかさや日盛りの的射ぬくおと 飯田蛇笏
じつとしてをれず日盛りの鳩たちも 西村和子 かりそめならず
四時五時はまだ日盛りや田草取 村地卉木
園広し日盛りの池の大柄杓 阿部みどり女 笹鳴
地獄絵を見て日盛りを戻るなり 佐藤信子
山下りていま日盛りの娑婆世界 春樹
市電すでに日盛りの音人形店 川端青踏
我が生もこの日盛りも過ぎゆくを 京極杞陽
日盛りにくさめを一つ古俳諧 宇佐美魚目 天地存問
日盛りにとびの黒人足場組む 熊沢 豊
日盛りににんげん出たり入つたり 松澤昭 麓入
日盛りにパントマイムのたぢろがず 稲垣 一雄
日盛りに並べたてたり鰻籠の闇 鳥居美智子
日盛りに仕事の父の大きな背 辻田克巳
日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり 松瀬青々
日盛りに見るや一茶の硯など 大峯あきら 鳥道
日盛りのあごをつるして貧馬かな 飯田蛇笏 霊芝
日盛りのくらき渡舟に僧侶の子 長谷川双魚 風形
日盛りのこの世を過ぎて蝶消えし 長谷川櫂
日盛りのひかるの夢に揚子江 山岸竜治
日盛りのふと日かげりし道路かな 高浜年尾
日盛りのわが担送車無口なり 栗林千津
日盛りのコザ街ガムを踏んづけぬ 沢木欣一
日盛りのショウウインドに犬うつり 行方克巳
日盛りのベルが鳴りをり映画館 行方克巳
日盛りのポプラのさやぎ渡りをり 高浜年尾
日盛りの一個の鞄軽からず 八木 實
日盛りの一本蓼や飛鳥川 原田喬
日盛りの中軸打線火を噴きぬ 高澤良一 燕音 八月
日盛りの元佃とはこのあたり 素十
日盛りの元湯六花の六角堂 高澤良一 宿好 七月-九月
日盛りの出湯に血行よくなれり 高澤良一 寒暑 七月-九月
日盛りの切換線路動きけり 岡本佐和子
日盛りの唐鳩は声忘れしか 斎藤道子
日盛りの土に寂しきおのが影 日野草城
日盛りの墓碑やあらわに匂いもなし 兜太
日盛りの女陰冷たき青線忌 蝶丸
日盛りの宅造天に至るまで 福原紫朗
日盛りの寂しさに幹立ち並ぶ 岡本武三
日盛りの山のかなたに山ひかる 那須辰造 天窓
日盛りの岩をめがけて草の蔓 中川宋淵 詩龕
日盛りの径あり山毛欅の森切れて 高澤良一 寒暑 七月-九月
日盛りの悪魔(ぢゃぼ)を拂へと犬放つ 筑紫磐井 婆伽梵
日盛りの戸棚に紙を敷いてをり 竹内悦子
日盛りの旅の荷からげ捨てにけり 小林康治 玄霜
日盛りの日御碕なる冷し飴 山田みづえ 草譜
日盛りの日空に叶ひゐるごとく 岡井省二
日盛りの昼顔いろの便座かな 大木あまり
日盛りの時鳥啼く杉の山 冬葉第一句集 吉田冬葉
日盛りの暗がり仏の手が遊ぶ 森田智子
日盛りの水に山菜つけて去る 阿部みどり女
日盛りの水辺ばかりに蝶とんで 薗田 秀子
日盛りの波倒れんとする際の照り 高澤良一 素抱 七月-九月
日盛りの湖辺に置かれ百葉箱 三崎由紀子
日盛りの火焚けば膚に来るけむり 右城暮石 声と声
日盛りの町中にして傘屋 飯田蛇笏 山廬集
日盛りの畳きよらか琴を置く 長谷川かな女 雨 月
日盛りの畳つめたき父の家 辻田克巳
日盛りの石の中より水の音 佐藤星雲子
日盛りの石弾かれて天に消ゆ 相馬遷子 雪嶺
日盛りの破船無数の蟹が棲む 中島斌雄
日盛りの老人割引利く映画 高澤良一 随笑 七月-九月
日盛りの脳までつづく耳の穴 栗林千津
日盛りの船はいま出る投げテープ 藤後左右
日盛りの蔓あそばせて吉野山 宇佐美魚目 秋収冬蔵
日盛りの街海坂に傾ける 石原舟月
日盛りの読経すみし僧二人 阿部みどり女 笹鳴
日盛りの鉄瓶鳴つて菓子づくり 佐川広治
日盛りの鉄砲屋敷溝潺々 下村ひろし 西陲集
日盛りの音を間遠に城普請 冨田みのる
日盛りの鯉手捕られし濁りかな 宇佐美魚目 天地存問
日盛りは今ぞと思ふ書に対す 高浜虚子
日盛りやとぎれがちなるピアノ曲 福見敦子
日盛りやなまこを噛んで男死ぬ 坪内稔典
日盛りやみな江の島へ寄せる浪 増田龍雨 龍雨句集
日盛りや二筋黒き壁の跡 関森勝夫
日盛りや土管口あく辺に飯食ひ 岩田昌寿 地の塩
日盛りや墓標となりし影ならぶ 仙田洋子 橋のあなたに
日盛りや声をからして旅芸人 阿部みどり女 笹鳴
日盛りや戦ふごとき女の腕 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
日盛りや新田の緋合歓田に落ちぬ 鳥居美智子
日盛りや時打つ余韻時計の中 中村草田男
日盛りや汽車みち風の絶ゆるなく 岩田由美
日盛りや波のうねりの見ればある 小杉余子
日盛りや流木いろの港まち 福田甲子雄
日盛りや祭の聯の小買物 増田龍雨 龍雨句集
日盛りや統一の火のなほ燃えて 関森勝夫
日盛りや舟に乗りこむとき黙る 池田澄子
日盛りや葭雀に川の音もなき 一茶 ■寛政四年壬子(三十歳)
日盛りや褥を背後退路なし 斎藤空華
日盛りや読みて居睡り覚めて読む 滝青佳
日盛りや踏みても消えぬ蟻の道 岩田由美
日盛りをあれもこれもと欲張らず 高澤良一 寒暑 七月-九月
日盛りをひとまづ死亡時刻とす 攝津幸彦
日盛りをみどりや斎の膳のもの 大峯あきら 鳥道
日盛りをゆくふところの遺品かな 鷲谷七菜子 天鼓
日盛りをゆく木造りの列車かな 仁平勝 東京物語
日盛りを刃物のごとくひとりゐる 深谷鬼一
日盛りを妹裁ち板にあらざりし 阿部みどり女 笹鳴
日盛りを朱の薄れゆく太鼓橋 高澤良一 素抱 七月-九月
日盛りを来て病廊の暗さかな 清水不二
日盛りを煌めき渡る風のあり 高澤良一 寒暑 七月-九月
日盛りを紫はしる蜥蜴かな 宮部寸七翁
日盛りを行けば蜘蛛手の橋がある 安井浩司 密母集
日盛りを走つていたり稲と犬 永末恵子 発色
日盛りを逢ふ一刻の髪死せる 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
日盛りを長方形の箱がくる 宇多喜代子
日盛り出しやる二部教授を厭ひ親の身 梅林句屑 喜谷六花
月草は日盛りの花とも思ふ 行方克巳
東京のいまが日盛り水中花 高野素十
根本中堂日盛りの杉立ちつくす 佐野青陽人 天の川
海に入る日盛りの川こともなげ 佐藤鬼房
溶暗の消ししもの日盛りの軍靴 田川飛旅子
無言館出て日盛りへしばし無言 吉田未灰
煤下がる日盛りあつし台所 怒風 芭蕉庵小文庫
父ひとりゆく日盛りの商店街 廣瀬直人
画家居りぬオリーブ園の日盛りに 森田峠
目覚むれば日盛り峠越してをり 高澤良一 随笑 七月-九月
硯屏に日盛りの草うつりけり 室生犀星
舌をやく日盛りの茶をよばれけり 西島麥南
草履はたはたと日盛りの学校から戻つて来た子 人間を彫る 大橋裸木
那須の野へ来て日盛りや鳶の声 岡本癖三酔
金魚玉日盛り移りそめにけり 増田龍雨 龍雨句集
長命寺裏の日盛り梅酒のむ 波郷
(旅)日盛や橋立の松あるものに 尾崎迷堂 孤輪
われやくすし死なれて帰る日盛を 軽部烏頭子
塩田に沿ひ日盛を行く外なく 高濱年尾 年尾句集
日盛やこそりともせぬ長廊下 河野静雲 閻魔
日盛やさがしあぐめる棚経僧 河野静雲
日盛や一山の僧のありどころ 河野静雲 閻魔
日盛や乗り降りなきにドア開く 爽波
日盛や人の噂に口あはせ 馬場移公子
日盛や人の気もなき二尊院 比叡 野村泊月
日盛や人大笑す道の家 東洋城千句
日盛や半ば曲りて種胡瓜 闌更
日盛や土塊の影蝶の影 島村元句集
日盛や岸打つ汐の音は音 東洋城千句
日盛や息をしてをる蜥蜴の尾 辻 桃子
日盛や所かへたる昼寝犬 島村元句集
日盛や杖の鈴鳴る盲僧 小川軽舟
日盛や松の下なる手桶水 比叡 野村泊月
日盛や松脂匂ふ松林 龍之介
日盛や椰子にをさまる椰子の影 福永 耕二
日盛や水かつぎゆくこぼしこぼし 成瀬桜桃子 風色
日盛や汽車路走る小さき蟹 泉鏡花
日盛や漂流物のなかに櫛 夏井いつき
日盛や箕に溢れたる垣刈穂 西山泊雲 泊雲句集
日盛や紫蘇の大束さげて伯母 河野静雲 閻魔
日盛や罔兩(かげぼふ)一人汝か我か 松根東洋城
日盛や蜘の囲光る小松原 蒼狐
日盛や蟻這ひ出づる蝉の穴 会津八一
日盛や覗けばおはす閻魔王 百合山羽公
日盛や誰も応へぬ種物屋 藤田あけ烏 赤松
日盛や辻に小さきつむじ立つ 四明句集 中川四明
日盛や鏡のごとき父の墓 西野晴子
日盛や鐘を撞かせて端書売る 温亭句集(篠原温亭遺稿) 篠原温亭、島田青峰編
日盛や額爛れし急使 尾崎紅葉
日盛や馬の腹覆羅に 野村喜舟
日盛や駒形どぢやう客ありて 田島 秩父
日盛や鯉に瞼のあるらしく 山本洋子
日盛を少し気弱になり歩く 武藤和子
日盛を御傘と申せ萩に汗 榎本其角
日盛を来て会ふモネの睡蓮に 後藤比奈夫 花びら柚子
日盛を来て山坊の水甘き 田中延幸
日盛を花とみたらし明日もこん 上島鬼貫
日盛を蕎麦屋暗きに入りにけり 野村喜舟 小石川
腰太き南部日盛農婦かな 成田千空
●日差 日射
*ろうかんや夏の日射しの砕け散り 藤松遊子
「生き物のやうに」日差が滴りが 田中裕明 櫻姫譚
おだやかな日射しに長し鳴子縄 岡松 あいこ
おぼつかなくなりし日差しに愚図る蝉 高澤良一 さざなみやっこ 夏
およそ健気な犬山城に冬日射す 鈴木栄子
かいつぶりもつとも日射し強き辺に 棚山波朗
かつ日射しかつ風しけり初大師 徳永山冬子
がさ市の日差し遊ばせ野老売り 町田しげき
きつぱりと朝顔市に日差かな 前野雅生
ぎらぎらと日差すなかにも秋意かな 高澤良一 素抱 七月-九月
こぞ新生鍵の穴より冬日射す 岩田昌寿 地の塩
さわぐ笹二日の日射し入りみだれ 桂信子 花寂び 以後
しろがねに雲洩る日射し松虫草 加藤耕子
それらしき日差しとなりぬ秋簾 高澤良一 素抱 七月-九月
つきまとふ日差し裸の木となりて 村田美代子
とりすます陶器のポット秋日差 高澤良一 燕音 十月
にんにくの芽に親しめば日差し来ぬ 小池一覚
ふいに判ず日差のありか菊根分 田中裕明 櫻姫譚
ふりそゝぐ日射しの中に寒さあり 高木晴子 花 季
ぶだう酒のやうに日差しの冷えて来し 高澤良一 ぱらりとせ 冬
まっすぐに日射すジャケツの妻の胸 藤田湘子
もどりたるつよき日差しが帚木に 中田剛 珠樹以後
ゲレンデの日射しに雪の舞ひ来たる 行方克巳
コスモスや風も日差もしなやかに 土生重次
バトンガール風をきらりと夏日射 加藤耕子
ペンキが乾くあいだの日射し母乳ゆたか 林田紀音夫
一人居のにはかに日差福寿草 川崎展宏
一日の日射さぬままに宵天神 舘岡沙緻
一月の日差しに泛けり骨ぼこり 辻桃子
一村に一墓原を寒日差 斎藤玄 雁道
二級河川天上川に冬日差し 京極杞陽
亜麻色のわが髪老いぬ秋日差 上野さち子
今着きしばかりの日差し冬桜 高澤良一 ぱらりとせ 冬
侘助に斜めの日差しとどきけり 大西 土水
傘干してほとりの日差つまりけり まり子
入日射す上り框や落穂あり 能村登四郎
冬日射わが朝刊にあまねしや 日野草城
冬日差し胸の奥までこんこんと 小檜山繁子
冬日差し酒蔵の黒塗りかさね 山崎和枝
冬日差すこの平面が世界地図 原田喬
冬日差烏山椒の枝を研げる 高澤良一 さざなみやっこ 冬
冬日差運ぶ女の俯向きて 杉山岳陽 晩婚
冬海やなか〜日射す冲津波 東洋城千句
冬鵙の顔をはなるる日射かな 小島千架子
凍蝶の日差貪ることもなく 高木石子
凍鶴に寸の日差しも来ずなりぬ 斎藤玄 無畔
初夢のはじめに谷の日差あり 藤田あけ烏 赤松
化野の人肌ほどの秋日差 高澤良一 宿好 十月-十二月
医師の顔仏めくとき秋日射す 岩田昌寿 地の塩
十二月八日の日差がんもどき 原田喬
十薬に朝の一刻日差しけり 高澤良一 ももすずめ 平成二年
卒業の少女に日射す父母の墓 服部ますみ
反古稿よりわが名すつくと冬日射し 寺田京子
古障子色の日差しが花石蕗に 高澤良一 ぱらりとせ 冬
問ふことの多き遺影に冬日差 横山房子
嗚呼といふ声々寒の日差来て 斎藤玄 雁道
囀りをこぼし日射をこぼさざる 稲畑汀子
囀をこぼし日射をこぼさざる 稲畑汀子
回転ロビー海向くときは冬日射す 山田桂梧
地虫出づ穴に日射のあまねかり 高浜年尾
坑夫墓地日射しすぐ逃げ夕笹子 岡部六弥太
大綿や日射しを抱く寺の猫 吉井秀風
女郎花強き日差しを欲りにけり 高澤良一 随笑 七月-九月
子の西瓜清水に冷えてゐて日射す 中山純子
寒明けの日射に鶏のはゞたきぬ 上村占魚 鮎
寒明の日射机辺に眩しとも 築山能波
寒晴の日差しの中を少女行く 辻三枝子
寒村の日射をさそふいかのぼり 長谷川双魚 風形
寒梅の日差し我家を包みをり 秋沢和加子
寒雀をりし所に日射失せ 西村和子 夏帽子
小鳥来る藁の日差の一堂宇 橋本榮治 越在
屑籠に二日の日差し移りけり 高澤良一 宿好 一月-三月
山椒の実雨後の日射しにはじけけり 山田節子
山毛欅枯葉山の日差しに背を丸め 高澤良一 燕音 十二月
山滝に日射すとみゆれ懸巣翔ぶ 飯田蛇笏
山繭の営み透けてゐる日射 稲畑汀子
岳蜻蛉日差しの強さ知ってをり 高澤良一 宿好 七月-九月
年の豆日差しに紛れてしまひけり 高澤良一 宿好 一月-三月
廃家めくかなしさ言へず冬日差 杉山岳陽 晩婚
愛着の古着のやうな冬日差し 高澤良一 燕音 十二月
我れ日射し 我れ雨 我れ風 君と在らむ 折笠美秋 君なら蝶に
手狭なる机の上の冬日差 高澤良一 素抱 十月-十二月
手配師に堰かれし数や冬日差 石川桂郎 高蘆
投函に十一月の日差す道 高澤良一 宿好 十月-十二月
掃き終えて日差し深々濃りんどう 鈴木みさ子
探梅の行手行手にある日射 中島よし絵
料亭の一繋舟に秋日差 高澤良一 さざなみやっこ 秋
日射さんさんと梅を落してる 北原白秋
日射しつつ降る雪の綺羅蔵開 早川柾子
日射しより雨に咲かんと梅の花 高木晴子 花 季
日射し来し石の匂ひや飾臼 池田弥生
日射し落ちそめて秋めく潮かな 田坂紫苑
日射すたび瀧は鱗を見せるかな 中田剛 珠樹以後
日差しにも奥行のある稲架襖 高澤良一 鳩信 白帝
早苗生る水に日射せば消ぬほどに 及川貞 夕焼
明快な日射の中にある余寒 保坂リエ
春めくと探りを入るゝごとき日差し 高澤良一 宿好 一月-三月
昼深き日射に薔薇の疲れ見ゆ 細江大寒
曇天のにはかに日差す桔梗の芽 米山源雄
木立もる雨後の日射や蛇苺 上村占魚 鮎
木蓮の枝はつらつと冬日差 高澤良一 素抱 一月-三月
机塚あたじけなしの冬日差し 高澤良一 鳩信 白帝
杉玉を泛かばす山の冬日差 関戸靖子
束の間の日差あつめて干す蒲団 安藤マチ子
束の間の日差よろめき冴返る 後藤一秋
枯草の日差しをのぼる微塵あり 中田剛 珠樹以後
柿若葉日差しが濡れてゐるやうな 高木晴子
栗材の台輪屋台秋日差す 高澤良一 素抱 十月-十二月
桜草妻子が日射し惜しみつつ 橋本冬樹
梅天にひそみし日射しありにけり 高木晴子 花 季
梅雨明けの伐るべき枝の荒日射 小澤克己
梧桐の実を透く日差し芸大見ゆ 高澤良一 随笑 七月-九月
極月のおもむき常の日差しさえ 高澤良一 随笑 十月-十二月
橇の子に日射せば珠の声放つ 板持玲子
此の日射し冬遠ざかりゆきしかな 高木晴子 花 季
毛糸玉まろぶ日差の有る方へ 黛執
水仙の黄なるは日射し通しをり 高木晴子 花 季
水噛んでをれば日射しぬ戻り寒 手塚美佐 昔の香
水芭蕉日差一直線にくる 後藤一秋
水面の落葉も日差し受けながら 高澤良一 ぱらりとせ 冬
没日射す落人墓やかけす鳴く 高井北杜
河童忌をすぐれて太る日差しかな 櫂未知子 蒙古斑以後
河童碑を残す日射しや広島忌 石川桂郎 四温
注連の束積んで日差の青みけり 関森勝夫
海猫鳴いて日射しの移る林檎園 本宮哲郎
海芋咲き日射し俄かに濃き日なり 藤松遊子
滝の面強き日差しのありにけり 大串章
漉き舟にをどる日射や紙を漉く 西川かずを
潮浴びに行けば行けさう日射し来し 嶋田摩耶子
濃き日射ちら〜こぼし葡萄狩 山口七重
照り降りの沼が日射せば河原鶸 鈴木多江子
熊穴に入りし日差を人歩く 奥田智久
生きてこそ病みてこそ濃し梅雨日射 殿村菟絲子 『菟絲』
畦草に日差あまねしくづれ藁塚 加藤耕子
畳まで日射のびくる福笑ひ 根岸善雄
病む窓の日射しさへぎる冬の雲 並松 生代女
病めばおろおろ膝が崩れて冬日射す 岩田昌寿 地の塩
白子干す日射うすしと仰ぎけり 大石暁座
真処女の白鳥羽づくろひゐて日射す 中山純子 沙 羅以後
眦に乱るる日差し鴨の湖 正木ゆう子
短日の勾玉ほどの日差かな 新谷ひろし
石階にましろき日射し蝉時雨 原田青児
石階を寒の日射しの降り来る 木下夕爾
祖母の忌や日射しの中に寒雀 古賀まり子
秋日射し杉の匂ひの厠紙 桂信子 遠い橋
秋日射す冷たき貌を拭ひけり 松村蒼石 寒鶯抄
秋日差し湯釜水釜涸釜に 高澤良一 ぱらりとせ 秋
秋日差一ト山づつを愛づるらし 村越化石
秋晴の日射呼込む畳かな 島谷征良
穂絮飛び日差しも刻も失せやすし 伊藤京子
穴まどひ厚き日射しの崖つづき 岸田稚魚 筍流し
立春の日射しへ雪を抛り上ぐ 大滝時司
立春の日差雪嶺の肌燃やす 岡田日郎
竹の花やたらに咲いて強日射 岸田稚魚 『雪涅槃』
竹林の日差しよぎりて耳冷ゆる 神尾久美子
笹鳴の移りて残る日差しかな 星野恒彦
笹鳴や痩せし日射しを膝の上 岸田稚魚 筍流し
紅梅を顕たせる日差し加減かな 高澤良一 素抱 一月-三月
紅鱒群粛々ときぬ秋日射す 浅原六朗 紅鱒群
紙をすく谷に日射が這ひ下りる 清崎敏郎
綿虫の日差しの中や五十代 伊藤京子
綿虫の高さに日射す異人墓地 橋本榮治 麦生
緩急の山の日差しに雪間草 高澤良一 燕音 五月
群れてゐて目白鳴くでもなき日差 中山 允晴
耳たぶに岸辺の日差し水ぬるむ 高澤良一 寒暑 一月-三月
聖者らの視線波うつ冬日差 下村ひろし 西陲集
背に受く冬日差しほど愛の欲し 石川文子
腰痛の抜けず日差しは春めけど 高澤良一 寒暑 一月-三月
膝に来る日差しに年酒出来上がり 高澤良一 ぱらりとせ 新年
膝の上にありて微小の寒日差 斎藤玄 雁道
臘梅を透けし日差の行方なし 後藤比奈夫 花匂ひ
芒野に来て日射し欲し風が欲し 佐土井智津子
花さんしゆゆ日差しに斑のありにけり 高澤良一 さざなみやっこ 春
茶の花や日射しはいつも人包む 星野椿
菱の花閉づる日差の薄れ来て 式地須磨
萱塚に心もとなくなる日射し 佐藤冨士男
行く馬の背の冬日差はこばるる 中村草田男
衰へぬ日射に蜻蛉飛びそめし 西村和子
赤松の高みに日差冬隣 藤田あけ烏 赤松
透し百合日差し閉ざしてしまひけり 高澤良一 素抱 七月-九月
逡巡を打ち消す春の日射しあり 稲畑汀子
遠嶺より日差伸び来る葡萄棚 橋本榮治 麦生
野山獄址寒しひと筋冬日射し 岡部六弥太
鎌倉にかたむく春の日差かな 川崎展宏
雛段に午前の日差しさし込みぬ 高澤良一 さざなみやっこ 春
雛飾る日より日差しのやはらぎて 高澤良一 随笑 一月-三月
雪吊りの半ばに日差し失せにけり 梅本安則
雪新たそれに春立つ日射しけり 林原耒井 蜩
雪止んで別の日のごと日射しをり 嶋田摩耶子
雪渓に日差せば旅愁俄かなり 福永みち子
雲割れて日差すや起てる孕鹿 秋元不死男
青き踏む昔むかしの日差かな 高橋陸郎
鶏頭のけむりて立てる日差かな 宮津昭彦
黄は日射し集むる色や福寿草 藤松遊子
●日沈む
ひねもすの牡丹の日の沈む園 後藤夜半
ふろふきの味噌微光して日の沈む 北原志満子
ヴェニスにて死ぬべし冬日沈むとき 有馬朗人
二上は日の沈む山鳥雲に 小早川恒
冠鷲翔けて樹海に日の沈む 田村萱山
冬の日の沈むを惜しむわれのみか 星野立子
子を負ひて日の沈むまで葱洗ふ ながさく清江
復活祭表参道日の沈む 小泉瀬衣子
日の沈むまで一本の冬木なり 橋石
日の沈む国かや雁をわたしつゝ 飴山實 『次の花』
日の沈む地平線まで藷畑 本間 登世
日沈むや鵙忘れたる山河あり 原石鼎
日沈むや黙りこくつて鵙あはれ 原石鼎
日沈む方へ歩きて日短 岸本 尚毅
狐罠日沈むとき月のぼる 大峯あきら
秋日沈むピアノを強く弾きさして 中島斌男
葛根掘るうしろ冬日の沈む海 清川とみ子
葭切の鳴くにまかせて日の沈む 石井とし夫
麦埃ただよひ沼に日沈む 橋本鶏二 年輪
●日溜り
しばらくは日溜りを飛び秋の蝶 木村秋湖
すべり台冬日溜りへ子等こぼし 塙告冬
クロッカス黄に日溜りの陽を吸へり 山本満義
ヒヤシンス日溜の色頒ち合ひ 小坂かしを
一村を日溜にして蜜柑山 園部白雨
凍蝶をみし日溜りのいつ失せし 柴田白葉女 花寂び 以後
地の神の小さき日溜七五三 原田喬
坂といふ長き日溜り秋の蝶 山田弘子
夢死するもよし 梅林のこの日溜り 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 夢見沙羅
家々の年の瀬の庭の日溜り シヤツと雑草 栗林一石路
小鳥来る命のごとき日溜りに 小林康治 『存念』
岬なればこその日溜り藪つばき 高澤良一 鳩信 玄帝
手綱解く馬柵の日溜り雪間草 上原律子
揚船の日溜を跳ぶきりぎりす 丸田余志子
日溜りがある抜け道の枯木山 中拓夫 愛鷹
日溜りにこぼれひよどりじようごの實 八木林之介 青霞集
日溜りに一生のごと炭俵を編む 鈴木貞雄
日溜りに咲く一群のサルビアの昏さに父の戦後はありぬ 三井修
日溜りに遊んでばかり囮鴨 石井とし夫
日溜りの布団のやうにうちとけて 高澤良一 随笑 十月-十二月
日溜りの犬は夢みる枯芙蓉 鍵和田[ゆう]子
日溜りの石に腰かけ楮剥く 田中冬二 行人
日溜りへ婆らかたまるから落葉 内田啓
日溜りへ飛びきし枯葉白川郷 中西舗土
樹氷林にも日溜りのありて佇つ 嶋田摩耶子
正倉院うらの日溜り今年藁 後藤克巳
汲み水によき日溜りや寒造 藤田あけ烏 赤松
海とても日溜りはあり浮寝鳥 国松ゆたか
焚火へも歩み日溜りへも歩み 夜半
祖母の忌の雛に日溜り蕗の下 飴山實 『おりいぶ』
立冬や葎一つを日溜りに 村越化石 山國抄
菱の花さざ波溜りの日溜りに 見市六冬
落葉嶽児は日溜に遊ばせて 西山泊雲 泊雲句集
薺摘む安曇平の日溜りに 石 昌子
蛇穴に入る日溜りの献血車 仁平勝 東京物語
蜻蛉の好きな日溜り風溜り 後藤比奈夫 金泥
護摩祈祷待つ日溜や初薬師 富田潮児
鉄板の遠い日溜り喪主を待つ 杉本雷造
食卓の下の日溜りシクラメン 西村和子 夏帽子
●日照り
ある日照りある日くもれり水草生ふ 久保田万太郎 流寓抄以後
この日照り不死男また林火の忌 河野南畦 『元禄の夢』
コスモスの百万本に日照り雨 山田圓子
冬川に赫と日照りし芥かな 清原枴童 枴童句集
初蝶の日照り日曇り落ちつかず 阿部みどり女
夏日照り漁港の濁りひろごれる 瀧春一 菜園
寒明くと日がな濡雪日照り雪 西本一都 景色
忘れ潮といふもをりをり冬日照り 山口草堂
日照りそむ長く昃りゐし椿 後藤夜半 底紅
日照りつつ四温に紛れ込む雪か 鳥居おさむ
杜若咲くや日照りの朝曇り 浪化
氷河見よやかく新たなる夏日照り 有働亨 汐路
痩稲も垂穂そろひぬ日照り雨 鷲谷七菜子
白天のさなか真日照り真日見えず 原石鼎 花影以後
秋日照り子の髪がもりあがりゐる 永田耕衣 傲霜
繰り返し歌流れたる日照りかな 内野 修
花合歓のいつときけむる日照りなか 河野多希女 こころの鷹
茅蜩や孟宗籔の片日照り 北原白秋
●日向
*えいを干す崖の日向に海桐の木 宇佐美魚目
あたゝかに冬の日向の寒きかな 上島鬼貫
あちらでも日向が母を縮ませる 坪内稔典
いかに見し日向の灘や冬の虹(亡き吾娘、級友と遊びし日南海岸をたどる) 角川源義 『冬の虹』
いささかの雪の日向の青写真 和地清
うつろふや日向(ひなた)の花に陰の花 上島鬼貫
かいつぶりさびしき波の日向かな 櫛原希伊子
かじかんで戻る日向の師のもとに 八牧美喜子
かまきりの出目熟睡子と日向分け 古沢太穂
ことごとく日向に反つて梅落葉 石田郷子
この日向にとざされ忘れられゐるも 野澤節子 黄 瀬
さくら咲く峡は虚空といふ日向 鈴木蚊都夫
さむざむと見て水の上の日向かな 岸田稚魚 『花盗人』
ざわめきて山荻枯るゝ日向あり 萩原麦草 麦嵐
すっぽりと湯町の入る冬日向 高澤良一 鳩信 玄帝
ぜんまい干す日向日向の峡の家 山口草堂
そこここの日向ばかりの梅匂ふ 山口草堂
そぼぬれて毛虫這出す日向哉 寺田寅彦
そら豆の花の黒目にかげ日向 篠田悌二郎
たゆたふは鱚舟ならむ日向灘 松本 進
つぶやきの子の英単語冬日向 島田高志
てのひらにのせて日向へ風邪薬 藺草慶子
てゝら脱ぐ帯跡白し日向水 上島鬼貫
とり出でて日向にさゝげ室の梅 高浜虚子
とんとんと薪割り紅葉ちる日向 高澤良一 寒暑 十月-十二月
どんぐりを拾へば根あり冬日向 藺草慶子
どーんと波音日向に覚めて石蕗の花 有働亨 汐路
ななかまど日向も寒くなりにけり 細川加賀 生身魂
ねむる嬰に日向がありて福寿草 伊藤京子
はこべらの賑ふ日向ありて行く 村越化石
はぢらひのごと早梅の日向かな 石刀
はつたいの日向臭きをくらひけり 日野草城
はや猫の日向癖つく鶏頭に 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
ひとのことばかり知りをり冬日向 石原舟月
ひとり寝も能宿とらん初子日 向井去来
ひらひらと日向山吹返り咲く 臼田亜浪 旅人
ぼろ市のあとかたもなき日向かな 大木あまり 火球
ぼろ市のはづれの日向よぎりけり 小野恵美子
まだ顔の寒き日向を歩みけり 高澤良一 素抱 一月-三月
みちのくの旅信を吾子に子供の日 向野楠葉
よその水仙の日向好んで白き犬 長谷川かな女 花寂び
わが恃む寒気日向もその裡に 野澤節子 黄 瀬
わが膝の日向を去らず冬の蝿 友永一郎
わづかな日向光りつつ虫があらそへり シヤツと雑草 栗林一石路
カラ〜の野糞日向や虻唸る 内田百間
クロッカス咲き終りたる日向かな 成瀬正俊
シクラメン日向ひなたと追ひて置く 田口登志
ジヤケツ編む日向の鶏に竹さがり 飯田龍太
ビルディングみな日向なり暮れ遅き 瀧井孝作
ランチ見本覗く老人冬日向 嶋田麻紀
ローズマリー日向ぼつこの海眺む 三宅優子
一人子のおもちやで遊ぶ冬日向 山根きぬえ
一尾根に日向が逃げて葛しぐれ 上田五千石 琥珀
一枚の日向伸ばして海夏へ 湯川雅
一茶忌を移る棺形日向かな 永田耕衣 殺佛
七五三日向日蔭に鳩をまじへ 永井東門居
三椏咲く日向薬師の雨にあへり 松村武雄
人ごゑの日向にまはる種選び 児玉輝代
人形を悪事に誘ふ日向水 栗林千津
仏具屋に日向がありて福寿草 敏郎
仕あがれば日向にだして黒花輪 飴山實 少長集
休み田に弔客あふれ日向寒 下村ひろし 西陲集
何もせねば木石の類枯日向 高澤良一 素抱 一月-三月
何作る日向の脊中桃の花 荘丹
元日の日向の母に鶏集まる 直人
八つ手咲き板塀が反る日向路 高澤良一 宿好 十月-十二月
内濠に小鴨のたまる日向かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
冬日の象べつの日向にわれらをり 桜井博道
冬日向なり崖の縞模様 中田剛 珠樹以後
冬日向ふるさとの山近づいて 藍原弘和
冬日向ガス検針夫よぎりけり 森重昭
冬日向力の抜けてゆく楽し 高木晴子 花 季
冬日向向きを替へては達磨干す 吉田鈴子
冬日向夫の庭師の高梯子 蕪木啓子
冬日向女やさしく牛を出す 瀧澤伊代次
冬日向待ち針といふ名もやさし 矢島房利
冬日向渡り歩いて病院へ 高澤良一 宿好 十月-十二月
冬日向犬のおほきな耳を愛す 大野林火
冬日向足音いづこにもあらず 飯田龍太
冬日向跛あゆめり羽摶つごと 小林康治 玄霜
冬耕の腰打ち伸ばし日向灘 殿村莵絲子 牡 丹
冬蝶の日向セルロイドの匂ひ 櫛原希伊子
冬蝶や日向にひさぐねずこ下駄 村上 光子
凍蝶の日向といふも風少し 玉城仁子
出雲より嫁しし日向の雲丹採女 山崎正人
切り取りしごとき日向や一茶の忌 片山由美子
切干の日向の匂ひなりしかな 砂長かほる
初午や日向に稚魚のあすか山 手塚美佐
初蝶に日向の景色つなぎをり 稲畑汀子
十姉妹の籠を日向に三日かな 高澤良一 ぱらりとせ 新年
十月の日向日陰に童声 柴田白葉女
半日村樹頭の日向鷹が占む 中戸川朝人
卓球の日向の音のポインセチア 永末恵子
南蛮の日向すずろにふまれけり 飯田蛇笏
受験了ふ観音山の日向みち 田中鬼骨
吉墳群日向の空の澄み極まる 瀧 春一
吉書焚く同じ日向に白い門 加倉井秋を
吾にお似ましの日向なんきん迩而久於乎 沼尻巳津子
唐丸のどうどうと鳴く日向かな 中勘助
善人と歩く日向の枇杷の花 寺井谷子
囀りの一木が日向つくりをり 臼田亜浪
四五人に日向ばかりの秋の道 桂信子
囮木兎日向に眠りかねにけり 野村喜舟 小石川
囮鳴く山の日向の椿の木 川島彷徨子 榛の木
土は土に隠れて深し冬日向 三橋敏雄
土塀の日向の記憶四温光 深谷雄大
坪庭の寒竹の子にある日向 稲畑汀子
塩鯖の泳ぐ日向だ、君にやる 坪内稔典
壬生狂言日向雀に囃されて 山田弘子
夏木立ぽつかり弓場の日向あり 波多野爽波 『湯呑』
夏風邪の児の髪日向臭きかな 高野 芳
夜の部屋に日向の色の桜草 片山由美子
夢に見し日向と思ひ種を採る 山本洋子
大寒のぬくき日向をひろひゆく 高木晴子 花 季
大小の馬穴並べて日向水 森田 たえ
大幹の日向めでたし神の留守 大峯あきら 鳥道
大根焚日向に杖の二つかな 関戸靖子
大根馬日向の虻をさそひけり 川口 哲郎
大綿の翔ちし日向に水のさび 手塚美佐
大茅の輪日向臭きをくぐりけり 雨宮きぬよ
如月の日向をありく教師かな 前田普羅
妻の座の日向ありけり福寿草 石田 波郷
婆が寄る日向日陰の柿の村 中拓夫 愛鷹
媼らの日向選りゆく菊花展 高野喜八郎
子の去りしあとの日向に冬残り 長谷川双魚 風形
子の後を烏が歩く冬日向 石川桂郎
実をあまたつけたる柚子の日向かな 渋亭
実南天かげ日向ある庭の隅 青峰集 島田青峰
家に入る電線黒し柿若葉 日向野初枝
家鴨群る日向つづきに鴨のゐて 高澤良一 随笑 十月-十二月
富士初雪日向はどこも鉄くさし 加藤楸邨
寒木瓜に耳かゆきまで日向なる 山田佐人
寒木瓜のおのが木なる影日向 久米正雄 返り花
寒木瓜のぽつりぽつりとよき日向 臼田亜浪 旅人
寒林の日向がさみし藁敷かれ 長谷川双魚 風形
寒梅の唯一輪の日向かな 高浜年尾
寒椿咲きたる家の日向かな 田中冬二 俳句拾遺
寒牡丹一輪づつの日向もつ 牧野春駒
寒菊のところに庵の日向あり 高濱年尾 年尾句集
寒菊の日向日陰を掃きにけり 水巴句集 渡邊水巴
対岸の日向を歩く猫の恋 大木あまり 火球
対岸の日向好みて浮寝鳥 長屋せい子
小庭にて一ばんの日向鳳仙花 瀧井孝作
小日向の色なき風に隠る声 藤村瑞子
小日向の鷺坂に舞ふ白すすき 石原八束 黒凍みの道
山の影に押さるる日向蒟蒻掘る 奈良文夫
山吹の日向に開く支那鞄 山本洋子
山晴れてきて雨あがる日向甘夏 古舘曹人 樹下石上
山深く日向を愛しちやんちやんこ 村越化石
山茱萸にきれいな日向ありにけり 大木あまり
山茶花の日向ぬくさや冬の蜂 西山泊雲 泊雲句集
山茶花や日向に咲いて花多き 高橋淡路女 梶の葉
山頭火忌の藁くさき日向かな 今井杏太郎
山風ののこす日向に桑括る 橋本鶏二
峰入りの鈴の音絶えし日向水 宇佐美魚目 天地存問
川の面の赤き日向や雲の峯 内田百間
帆柱の日向光りて沖の小春 内田百間
師を央の日向ぼつこや弟子も古り 杉本寛
帰り花黐は日向に寒げなり 雑草 長谷川零餘子
干柿や同じ日向に猫がゐて 榎本虎山
干菜して村のどこにも日向媼 北沢瑞史
床をあげて日向に坐るほかはなき 太田鴻村 穂国
廣庭に虻が陰食ふ日向かな 内田百間
影とんでまり飛んで来し冬日向 千原叡子
影よりも風の日向の冴返る 稲畑汀子
待つ群や歩廊の日向にかた寄れり 原田種茅 径
心易す冬の日向に遊ばせて 上野章子
忍冬忌ひとは日向を歩きけり 今井杏太郎
忘れめや日向の奥の春の雷 五十嵐播水 播水句集
忘れられあるが如くに日向水 高浜虚子
懐手すれば日向のあらはるる 清水径子
我と云ふ友もありけり冬日向 水島稔
手毬唄日向のひとつづつ消えて 関戸靖子
托鉢も日向を選るや二月尽 角川春樹 夢殿
折り取つて日向に赤し寒椿 渡辺水巴 白日
数へ日の三時は日向四時の影 永井龍男
文書くもかごとも日向福寿草 中村汀女
新走りふふみ日向に出づおもひ 高澤良一 ぱらりとせ 秋
日向あり影ありて芭蕉静也 五明
日向たのしみ日向寒みて波郷亡し 石川桂郎 高蘆
日向たのし吾子の稚き十あまりの語彙 篠原梵
日向なる飛ぶ向日葵と日の言葉 高柳重信
日向にも尻のすはらぬ猫の妻 上島鬼貫
日向にゐて口中保つ柿の味 村越化石
日向にゐて影がまつくら手毬つく 橋本多佳子
日向に赤子独航船が海に咲いた 瀬戸 密
日向の冷え日影の冷えの蜜柑剪る 仲田藤車
日向の椿一足飛びに中年に 磯貝碧蹄館 握手
日向の老婆に廐廂の新しさ 飯田龍太
日向ばかりを飛ぶ蝶萩の芽に添つて 北原白秋
日向へとしきり散る小竹(ささ)つ葉にして 北原白秋
日向へと飛びちる豆を叩きけり 森田峠 三角屋根
日向より園児消えれば寒き町 飯田龍太
日向より日蔭が澄みぬ花八つ手 馬場移公子
日向より日陰の白椿見て 柴田白葉女 花寂び 以後
日向より日陰親しき椿径 上野さち子
日向好き枯蟷螂の妙好人 高澤良一 随笑 十月-十二月
日向寒鶴舞ふ最中やや過ぎて 下村槐太 天涯
日向居につぎの柱の影が来ぬ 篠原梵
日向朴の狂ひ芽しるし九月尽 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
日向歩む冬の白蝶覚ましつつ 野澤節子
日向水いとひもならずかぶりけり 森川暁水 黴
日向水かの渤海をさまよわん 津沢マサ子
日向水かぶりてその日暮しかな 森川暁水
日向水かぶりて其日暮しかな 森川暁水
日向水に玉蜀黍の映りゐる 滝井孝作 浮寝鳥
日向水ひろごる雲をうつしけり 久保田万太郎
日向水二歳の弟子よあればあれ 加藤郁乎 江戸桜
日向水今在る今のなつかしく 小澤實
日向水使ひし後を打水に 野見山ひふみ
日向水凝然として黄熟す 相生垣瓜人
日向水子にも遣はせ吾もつかふ 岡田万堂
日向水木連翹の黄を貶めて 高澤良一 寒暑 一月-三月
日向水母の縁者の来て泊る 金田咲子 全身
日向水湯よりもあつく沸きにけり 森川暁水 黴
日向水漣立ちて昃りをり 京極杞陽
日向水農婦尻より子を浸す 皆川白陀
日向海鳴りすでに南瓜の花盛り 穴井 太
日向焚火藁しべの燃ゆるかなしき 臼田亜浪 旅人
日向縁に祖父母健在雛祭 香西照雄 素心
日向葵に縄帳の魚の腐れ行く 龍胆 長谷川かな女
日向葵や昼着く汽車に終ひ馬車 雑草 長谷川零餘子
日向葵や花相背き雨紛々 楠目橙黄子 橙圃
日向葵や醜草刈れば蟻おどる 島村元句集
日向葵や頬冠りして釣りに行く 龍胆 長谷川かな女
日向蝶応へなき文いたみをり 成田千空 地霊
日向路も寒しと綴る初日記 渋田有紅
日向辺や籾がらにつばきくづれてる 北原白秋
日向道とれば木の葉のはらはらす 臼田亞浪 定本亜浪句集
日向黄に日蔭は蒼しうさぎの眼 岩田昌寿 地の塩
日蔭より日向の妻を見てゐたり 小川軽舟
日陰より日向に出でし子蟷螂 斉藤夏風
春寒し比良の日向帰るかり 曉台
春水の日向に出でて網目状 高澤良一 鳩信 玄帝
春浅し日向薬師の藪の径 星野麦丘人
春立ちぬ日向放髪の乙女らに 加倉井秋を
時々は話にまじり冬日向 高木晴子 晴居
書初のひとりの日向ありにけり 藺草慶子
有袋類おばさん秋の日向路へ 高澤良一 鳩信 炎帝
朝寒のけふの日向や鳥の声 上島鬼貫
朝霧やおなじ日向に甲板と陸 加倉井秋を 午後の窓
朝顔のみな空色に日向灘 川崎展宏
朝顔の売れ残りたる日向かな 尾崎紅葉
木の実みな小さき影持てり日向縁 西山泊雲 泊雲句集
木の実降るぽっくりさんの寺日向 高澤良一 随笑 十月-十二月
木の股に雪のたまれる日向かな 滝井孝作 浮寝鳥
木枯の蠅しづかなる日向かな 金尾梅の門 古志の歌
木歩の忌秋の日向に雀の子 飯田龍太
村ありて日向がありて寒雀 原田喬
束の間の日向の種を採りにけり 大峯あきら
東京に亀鳴くといふ日向かな 田中裕明 櫻姫譚
松手入れ日向日翳を渡り継ぐ 上田千恵子
松納めし日向あり足袋下しにけり 中島月笠 月笠句集
林間に見通す日向寒の水 藤井孝子
枯れ枯れて幹恍惚と立つ日向 村越化石
枯山の日向の道の腕めく 和田耕三郎
枯芝の日向跳ぶ禽歩く禽 原 柯城
枯蓮に荒涼として日向あり 山田弘子
枯蔓の日蔭日向と綯ふひかり 水原秋桜子
枯蔓の日陰日向と綯ふひかり 水原秋櫻子
枯露柿は甲斐の日向の匂ひして 藪田 郁子
柚貰ふ日向変らぬ百姓家 百合山羽公 寒雁
柳鮠水の日向に浮びをり 江中真弓
柿落葉日向をよぎる時早く 福田蓼汀
梅が香や日向へ廻す酒袋 井上井月
梅の窓に祝砲ひゞく日向哉 寺田寅彦
梅白し日陰日向に岩ありて 大井雅人 龍岡村
棗の実落つる日向に陶乾く 五十嵐播水
椿落ちて影生れたる日向かな 島村元句集
椿落ちよごれはてたる日向かな 深川正一郎
楪の日向老いたる村ばかり 櫛原希伊子
檜葉松葉日向は煤のかたまつて 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
歯朶刈のもどる日向の一軒家 大峯あきら
死は甘きよサルは日向の木にのぼる 松本恭子
死後も日向たのしむ墓か蜜柑山 篠田悌二郎
死水と同じひかりに日向水 綾部仁喜
段取りをさらってをりぬ冬日向 高澤良一 素抱 十月-十二月
母縮む日向くさくて飴なめて 坪内稔典
比良山の春の日向を歩きけり 関戸靖子
水仙の花の日向も冱ての中 素逝
水打ちて日向の匂ひ逃げ行きぬ 谷口和子
水神へ勿忘草の日向道 伊原正江
水音の日向さびしく蕗刈れり 小田 司
水鳥のとほくそこだけ日向かな 西山 誠
池の面の日かげ日向や散る柳 西山泊雲 泊雲句集
波郷忌の日向にありて柿を食ふ 小島千架子
注連張つてうしほ濃くなる日向かな 鷲谷七菜子
注連飾りうしほ濃くなる日向かな 鷲谷七菜子
浜木綿や日向七浦七峠 磯野充伯
浮かび出て遠き日向や鳰 山田弘子
浮寝にはすこし間のある日向鳥 高澤良一 さざなみやっこ 冬
浮寝鳥桜田門の日向かな 滝井孝作 浮寝鳥
海鳴りのもみくだきをり冬日向 平井照敏 天上大風
涅槃堂出てうつし世の日向あり 鈴木貞雄
消えたがる日向ありけり実むらさき 町田しげき
消防車を日向に出して黴退治 田川飛旅子 『使徒の眼』
漕ぎ出て日向となりぬ蓴舟 奥野素径
灌木の上なる顔が冬日向 鳥居おさむ
炭子の子父の辺にゐて日向跳ぶ 森 澄雄
烈風の日向が揺るる猫柳 有働 亨
烏瓜赤き日向の山へゆく 森 澄雄
焼け残る塀の日向の薺かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
煤掃いて宇陀は日向の山ばかり 大峯あきら 鳥道
父を待つ銀座の角の冬日向 伊藤いと子
父母あらず到るところに冬日向 沼尻巳津子
父癒えぬ日向いづこも虻散らし 野澤節子 黄 瀬
片陰を行く母日向行く子供 粟津福子
牛羊の日向に遠く受験待つ 木村蕪城 寒泉
犬と対す日向の椅子に柿食ひて 下村槐太 天涯
猫の上の日向の汚れ空母近し 杉本雷造
玻璃うちの日向炬燵をして老婆 高濱年尾 年尾句集
甘茶仏すこし日向に出てをられ 関戸靖子
生身魂日向あるいてきたりけり 木下野生
産土神の椎は日向のお元日 太田鴻村 穂国
産終えて日向のようにあるスープ 対馬康子 愛国
産衣おく籠まつさをな日向水 中田剛 竟日
畑売つて父の背まろき日向なり 太田鴻村 穂国
留守の戸に海女が汲みおく日向水 大橋敦子
病間の日向かたゐに見舞はれし 太田鴻村 穂国
痩身の冬日向恋ふことしきり 高木晴子 花 季
白れんげ燃えたつ昼をひとり鬼日向の芝にうしろ向きおり 馬場あき子
白梅の下に月夜の日向灘 本村 蛮
白梅の日向にゐたり船大工 大峯あきら 鳥道
白梅の日向を開き呉れるごとし 高澤良一 ぱらりとせ 春
百日紅日向もつとも冥かりき 村上高悦
目いつぱい日向を使ふ藪柑子 晏梛みや子
目白啼く日向に妻と坐りたり 臼田亜浪 旅人
目白鳴く日向に妻と坐りたり 臼田亜浪
眼下の怒濤女・子供に日向の岩 鈴木六林男 第三突堤
短日のしばらく墓を日向にす 長谷川双魚
石段は水塚の高さ冬日向 落合水尾
石蕗の花つき出してをる日向かな 清崎敏郎
石蕗の花婆来て日向つくりけり 長谷川双魚 風形
石蕗の花突き出してをる日向かな 清崎敏郎
砂浴ぶ鶏と同じ日向に着ぶくれて 野沢節子
祖母いつも日向くさかりき良弁忌 森 澄雄
福寿草の日向に母を連れ出して 伊藤通明
福藁に雀の下りる日向かな 正岡子規
秋の夢驢馬が持てくる日向かな 中川宋淵 遍界録 古雲抄
秋の蝶日向に出でて黄なりけり 大久保橙青
秋は日向に気づきて草履うらかへす 飯田蛇笏 雪峡
秋もはや日向の草の根がしめり 長谷川双魚 風形
秋日向すぐ去る人を追ひかけぬ 長谷川かな女 雨 月
秋風や日向は波の大き国 野見山朱鳥
種を採る日向をさらさらしてゐたり 高千夏子
種芋を日向にならべ居なくなる 岡本信男
穴あらば落ちて遊ばん冬日向 中尾寿美子
立冬の日向ゆたかに数馬村 小島千架子
竹の皮日蔭日向と落ちにけり 高浜虚子
竹の皮日陰日向と落ちにけり 高浜虚子
竹の葉や近くは黒し冬日向 滝井孝作 浮寝鳥
竹伐つて日向つくりぬ冬構 龍胆 長谷川かな女
竹林のすずしさ日向へだてて 北原白秋
竹林の奥の日向を梅雨の蝶 星野立子
笹鳴や日向日蔭へ道伸びて 岸田稚魚 筍流し
籔虱のほのかを日向ゆく子ょ 北原白秋
籠りきり日向ぼっこのやうな日々 高澤良一 さざなみやっこ 冬
紅梅の石垣の角から日向 永井龍男
納め繭より蛾の生れゐて冬日向 伊藤いと子
紙漉の梅の日向は猫歩く 森澄雄
素直には喜べぬ長寿日向ぼっこ 桑田秋冬
絶壁の日向を仰ぎ歯朶を刈る 小島千架子
緑蔭に藻揺れのごとき日向あり 千代田葛彦
緑蔭へ日向の匂ひついて来し 西元貢
義仲忌湖の日向へ梅出でて 関戸靖子
老いし舸子艫の日向に孫匐はす 川島彷徨子 榛の木
老巡査菊の日向に物書ける 五十嵐播水 埠頭
老我に菊の日向は芳しき 深川正一郎
考査児の母は母どち日向の木 原田種茅 径
胃袋の重くて日向水があり 伊達甲女
臘梅の嫌ふ日向をきらひけり 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和六十二年
臼の蔭に鶏交む日向かな 朝叟
舟艤ふ日向に雪の舞ひにけり 上村占魚 鮎
舷にすれて強さよ日向蘆 原石鼎 花影以後
芍薬の蕋の湧き立つ日向かな 太祗
芦刈りて念仏日向作りけり 平畑静塔
花茨の日かげ日向や夏木立 島村元句集
茂索忌の膝を日向にまかせけり 永井龍男
茄で卵むけば日向に浮寝鳥 桂信子 遠い橋
茅の輪に日向ながらの雨涼し 内藤鳴雪
草の餅日向に人のかき消えて 野沢節子
草木瓜や墓の日向の魔法瓶 小島千架子
草枯るる日向の音にめぐりあふ 有働亨 汐路
菊月の日向に細き雨至る 三田きえ子
菊枯れて寒き日向となりにけり 虚子
菊苗を庭一番の日向に置き 高澤良一 寒暑 四月-六月
菜の花や土塀と壁の真ッ日向 滝井孝作 浮寝鳥
菜の花や日向に運ぶひとりの餉 石田あき子
菱の中に日向ありけり目高浮く 村上鬼城
萩刈つてそのまゝ倒しおく日向 高浜年尾
落葉掃く音の日向にうつりけり 高瀬竟二
著莪畳には影日向はつきりと 上崎暮潮
著莪畳には陰日向はつきりと 上崎暮潮
葬の日向にをりぬ枯蟷螂 坂井三輪
蒲団干す日向が出来て居りにけり 稲畑汀子
蒲団干す縁の日向にうづくまり 高浜年尾
蓑を吊る日向を秋と思ひけり 吉田紫乃
蔭日向なく神野寺の蟻と蜂 高木晴子 花 季
蕗の葉の日向日陰をめぐる蟻 中田剛 珠樹以後
薔薇の根に蟻の群る日向哉 寺田寅彦
藍の香の日向にまじる寒さかな 政二郎
藤色といふ花房の影日向 永井龍男
蘆刈りしあとの日向を惜しみけり 小林康治
虻うなる破船廃舸の蔭日向 成田千空 地霊
蛭肥えて芹ふし立ちぬ日向水 暁台
蝦夷菊に日向ながらの雨涼し 内藤鳴雪
蝶々の内堀を越ゆる日向かな 内田百間
蝶ありく日向葵の芯の腐れかな 雑草 長谷川零餘子
蝶は緩の羽虫は急の日向あり 中西夕紀
蝶飛んで正夢となる日向婆 原裕 青垣
蟷螂とおなじ日向の捨蚕かな 藤田湘子 途上
蟻ひたすら日向の土を嗅ぎにけり 中田剛 珠樹以後
行春の日向埃に商へり 臼田亞浪 定本亜浪句集
行春の日向埃りに商へり 臼田亜浪 旅人
訪れて留守の家なる日向水 村岡 悠
語尾甘き親を日向に冬菫 栗林千津
谷の冬日向日向に墓据ゑて 鷲谷七菜子 花寂び
谷戸の田や日向拾ひに田螺取 石川桂郎
豆の生える小春の日向かな 正岡子規
豆まはし廻しに出たる日向かな 支考 八 月 月別句集「韻塞」
貧しき犬が寝るだけの日向となって 不滅の愛 小澤武二
路傍仏人も着膨れ来る日向 村越化石
身の透けて心あらはになるごとき秋の日向の白きに遊ぶ 富小路禎子
軍鶏籠を日向にうつし柿簾 藤木倶子
軽塵や冬隣る川縁の日向 内田百間
軽暖の日かげよし且つ日向よし 高浜虚子
辻にのみ銀座の日向十二月 皆吉爽雨 泉声
返り花日向は耳が静かなり 長谷川双魚 風形
通夜堂の前に粟干す日向かな 正岡子規
遺書父になし母になし冬日向 飯田龍太
還送者絽刺に日向もとめゆく 川島彷徨子 榛の木
重し重し日向薬師の里芋ぞ 辻桃子
野に出れば稲架の日向もかんばしや 松本たかし
金の事思ふてゐるや冬日向 籾山庭後
針山も石蕗の日向や旧城下 大峯あきら 鳥道
釣堀の日向に蕎麦をすすりけり 長谷川春草
鎌倉の日向をあるく裘 高澤良一 ももすずめ 平成元年
鎌倉は日蔭日向の藪柑子 川崎展宏
長閑さや日向の独活に蟻上下 月舟俳句集 原月舟
門松のすこしゆがんでいる日向 桂 信子
防人の歌碑ある日向柚子匂ふ 町田しげき
陣移し鴨の日向を移したる 山田弘子
陰日向濡らして終わる掃除かな 永末恵子 留守
雛買うて日向を帰る山の町 鷲谷七菜子 花寂び
雨の日の日向に遊ぶ花南瓜 古舘曹人 樹下石上
雪竹のばさと起きたる日向かな 真如院 中勘助
雪霏々と日蔭日向となくつもる 川島彷徨子 榛の木
雷門脇の日向の師走猫 高澤良一 燕音 十二月
霞うすしとほき日向の木むきむき 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
青草の朝まだきなる日向かな 中村草田男
青葉きらめく日向の眠りかなしけれ 林原耒井 蜩
静かなり枯菊焚いてゐる日向 川口利夫
風たつや街はつきりと日向だく 川島彷徨子 榛の木
風垣の日向となりぬお元旦 金尾梅の門 古志の歌
風除けの蔭に日向の庭広く 高浜虚子
魚骨煮る日向を盗む音たてて 坪内稔典
鮎食うて旅の終りの日向ある 金子兜太
鳥籠を日向にサトウハチロー忌 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和六十一年
鳥籠を日向に移す鳥総松 鈴木さち
鴛鴦にはるかなところが日向かな 加倉井秋を
鴨たつ音縁の日向にききにけり 川島彷徨子 榛の木
鴨泛いて日向は餅を焼く匂ひ 長谷川双魚
鵜がのぼる屋根の日向や芦の花 吉田冬葉
鶏犬われ眼つむるによき冬日向 村越化石 山國抄
鶯笛冷えて日向のありにけり ながさく清江
鷽替へて日向の方へ歩きけり 宮下翠舟
黄は黄でも日向水木の薄黄好き 高澤良一 ぱらりとせ 春
黄塵の巷の日向人を見ず 川島彷徨子 榛の木
黄梅の衰へ見ゆる日向かな 高木晴子
黄落や風船売のゐる日向 千手和子
黒々と日向の芝の焼けて行く 高浜虚子
●日の入る
やはらかな雲に日の入る虚子忌かな 河野一郎
万山の中に日の入る紅葉かな 山口花笠
冬木立山鳥の飛んで日の入りぬ 作者不知 選集古今句集
十月の日の入る後部座席占め 高澤良一 寒暑 十月-十二月
去り難し除日の入日見し後も 相生垣瓜人 微茫集
奥出羽のよき日の入りや稲の秋 名和三幹竹
数え日の日の入る部屋で耳掃除 高澤良一 随笑 十月-十二月
日の入に時計の合へる余寒かな 久保田万太郎 流寓抄
日の入のかたちをなさず年の果 玄
日の入やはや屋根に出る猫の恋 正岡子規
日の入りしあとに秋雲むらがれる 篠原梵
日の入りしより夏潮の匂ひ濃き 中村清子
日の入りし空の寄せくる花辛夷 小池文子
日の入りて夜にひまある朧かな 松瀬青々
日の入りて空の匂ひや乞巧奠 才麿
日の入りをみている陸の白兎 宇多喜代子
日の入るを待ちかねて咲く瓢かな 原 鬼灯
日の入るを待つと唄へばしぐれけり 猿橋統流子
日の入るを忘れて伊勢の春の鳶 中拓夫
日の入れば蘆の葉風のさびしとよ 成瀬桜桃子
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕 北原白秋
木そして饑饉のこと日の出日の入のこと 阿部完市 春日朝歌
柿落ちてたうたう一つ日の入り際 高澤良一 鳩信 白帝
海苔粗朶と日の出日の入澪つくし 百合山羽公 寒雁
炎天の日の入り込まぬ蝉の穴 青葉三角草
甲斐駒に日の入りてすぐ秋の暮 相馬 遷子
病棟に日の入るころの稲雀 百合山羽公 故園
芦刈や日の入るころの風やんで 中拓夫 愛鷹
芦原にさめざめと日の入りにけり 西村和子 かりそめならず
花蜜柑日の入りぎはの潮迅し 中 拓夫
蕭条として石に日の入る枯野かな 蕪村
蕭條として石に日の入枯野かな 蕪村 冬之部 ■ 金福寺芭蕉翁墓
雛の日の入日雑木にさし込める 高澤良一 さざなみやっこ 春
雲に日の入れば氷河の憮然たり 高澤良一 ぱらりとせ 雜
鷹匠の日の出日の入り鷹と在り 宇佐美魚目 天地存問
●日の出
あらき日の出あらき暮雪の泥炭地 細谷源二
うそ寒や日の出待つ間の浪の音 高橋淡路女 梶の葉
お花畠雲を足下に日の出待つ 近藤一鴻
かたびらにあたゝまりまつ日の出かな 内藤丈草
かたびらに温まり待つ日の出かな 丈草
かんぴようは白き干しもの日の出前 平畑静塔
くれなゐの日の出しばらく一葉忌 廣瀬直人
この障子日の出にうつる何やかや 原石鼎 花影以後
にぎわしき日の出に踏みし病葉よ 萩原麦草 麦嵐
ぬれぬれに日の出の竹の涼しさよ 石塚友二 光塵
ほとゝぎす日の出の遅き岨匂ふ 米沢吾亦紅 童顔
むめがゝにのつと日の出る山路かな 松尾芭蕉
コスモスが咲いて日の出をさみしくす 菖蒲あや 路 地
七月の日の出雉鳩鳴きつゞき 高橋馬相 秋山越
七月の碧落にほふ日の出前 水原秋桜子
乙鳥の胸のまろみも日の出前 成田千空 地霊
乾坤に虫の音満つる日の出前 大内迪子
井戸端より日の出て貧の庭寒し 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
冷々と日の出給ふうしろ哉 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
凍りしが楡は日の出を肢に見す 細谷源二 砂金帯
凧の子の海の日の出を呆然と 阿部みどり女
出穂の田の日の出に村はすむ朝餉 長谷川素逝 村
出羽びとの青田這ふ腰日の出前 猪俣千代子 堆 朱
初不二の雪を貢(みつぎ)の日の出かな 千兵
初刷の真赤な日の出佳かりけり 野沢節子
初空や船なき海に日の出る 百池
垣越しに低き日の出や寒の内 小澤碧童 碧童句集
夏山の洗ふたやうな日の出哉 一茶 ■寛政十年戊午(三十六歳)
夜鷹鳴き日の出たづさふ一位笠 澤田 緑生
大甍日の出てうすし初音売り 村上麓人
妻起す蝉かも知れず日の出前 杉山岳陽 晩婚
子の声の花満天星や日の出前 齋藤玄 飛雪
寒雷の後の日の出に海荒し 水原秋桜子
山頂や日の出待つ間の煮しめ芋 つじ加代子
強霜や栗鼠と遊びて日の出待つ 伊藤敬子
徹夜の日の出ほろ苦い蕗の薹を焼いて 北原白秋
心空なり日の出は霧の彼方なり 豊山千蔭
心空なり日の出は霧は彼方なり 豊山千蔭
慈悲心鳥牧の日の出をうながせる 前田 鶴子
断崖の青萱さやに海日の出 内藤吐天 鳴海抄
日の出いまだ霜が真白のうす明り 貞
日の出づる国のまほろば雪の川 深谷雄大
日の出でて東さみしき足袋を干す 寺田京子
日の出でや鶉水呑む窓あかり 琶扣 俳諧撰集「藤の実」
日の出とは点にはじまる野水仙 柴原保佳
日の出より蝉鳴くまでの読書かな 広瀬美津穂
日の出一気に椿の丸芽青蕾 成田千空 地霊
日の出前にぬれしや菖蒲花ゆたか 渡邊水巴 富士
日の出前五月のポスト町に町に 石田波郷
日の出前磯草夏も萌黄色 香西照雄 素心
日の出叫ぶ鳥や柿の葉びしよぬれて 渡辺水巴 白日
日の出待つやむくげいつせいに吹かる 大野林火
日の出待つ三角点の露しとど 島田夏楓
日の出待つ蜂の子すでに凛々しくて 蓬田紀枝子
日の出待つ霜の藁塚地に充てり 沢木欣一
日の出時雪嶺向きを変へはじむ 永田耕一郎 雪明
日の出桜煮えいだす飯わやわやわや 寺田京子 日の鷹
日の出殊に寒き刻なる農家族 右城暮石 声と声
日の出町・今町・殿町・肴町 とほいおもひでのやうにあるけば 中山明
日の出花四つ猿楽よ暮明樽 山夕 選集「板東太郎」
日の出見し洲崎の戻り初不動 中野三允
日の出見ず没日見ず山は霧月夜 福田蓼汀 秋風挽歌
日の出起きして身強めや燕とぶ 森川暁水 黴
春田より鷺啼き立つや日の出前 鈴木 晶
曲りて赤し風無き日の出の松の蕊 石田波郷
木そして饑饉のこと日の出日の入のこと 阿部完市 春日朝歌
木曾谷や柿の漂ふ日の出前 加藤楸邨
杏熟れ日の出にけむる濡れ土塀 西村公鳳
東京日の出屋根の隙より柿あふれ 加藤知世子 花 季
松蔭の避難者よ日の出さわやかに 渡辺水巴 白日
枯野の日の出わが白息の中に見る 野澤節子 黄 瀬
校倉に藤ゆるぎなし日の出前 桂樟蹊子
梅か香にのっと日の出る山路かな 芭蕉 選集古今句集
梅が香にのつと日の出る山路かな 松尾芭蕉
梅雨寒の日の出早かれ柳散る 渡辺水巴 白日
欅高校に椋鳥が見てをり日の出すすむ 森 澄雄
水仙の一輪匂ふ日の出どき 谷川みゆき
水仙や日の出をまてる海の雲 水原秋櫻子
水打つてまつ初秋の日の出かな 中島月笠 月笠句集
氷塊に煙まつはる日の出前 右城暮石 声と声
氷湖日の出影も輝くわが分身 川村紫陽
沙漠炎え揺らぐ日の出に眼痛む幸 林翔 和紙
浜木綿やいづこより日の出る村ぞ 千代田葛彦
海つばめ日の出に肺を清めたり 阿部みどり女
海を想ういもうと断食の日の出前 加川憲一
海日の出蟹一斉に崖のぼる 内藤吐天 鳴海抄
海苔粗朶と日の出日の入澪つくし 百合山羽公 寒雁
滴れり日の出前なる明るさに 茨木和生 木の國
澄む凧や浪に日の出のあざやかに 野村喜舟 小石川
炭竃から匍ひ出すと青芒の日の出 北原白秋
煤はきや東は赤い日の出空 一茶 ■文政六年癸未(六十一歳)
燕のターン日の出を船から船へ告ぐ 磯貝碧蹄館 握手
玉椿海の日の出は靄ふかし 水原秋櫻子
生きんとし日の出のごとく木をきりに 細谷源二 砂金帯
百姓の肩に日の出や蓮枯るゝ 萩原麦草 麦嵐
着ぶくれて砂丘に並び日の出待つ 都筑智子
秋かやの父子に日の出の栄(はえ)満ち来 金子兜太 少年/生長
穴釣のかたまつてゐる日の出かな 小原寿々美
空晴れてかぜ早き日の出初かな 福田井村
立山の日の出を祝ふ雑煮かな 金尾梅の門
立山へ日の出まはりぬ露の秋 金尾梅の門 古志の歌
笹鳴や日の出の何ぞなつかしき 加藤秋邨 火の記憶
筒鳥や岸壁くらき日の出前 小林葭竹
義士の日の出店が売れり鯨尺 北野民夫
芋の葉の八方けむる日の出かな 石田波郷
芋の葉の八方むける日の出かな 石田 波郷
花ダリア雀さわぐは日の出前 芳賀杜牛
茄子が食べどき朝毎に日の出るを謝す 磯貝碧蹄館 握手
茄子もぐや海荒れてゐて日の出づる 岩木躑躅
菊の色のこがね粧ほふ日の出かな 上島鬼貫
落葉松の日の出真青にほととぎす 千代田葛彦 旅人木
蒼白き雲海に富士日の出待つ 沢 聰
蝶生れて日の出へ声なき身を燃やす 小檜山繁子
要黐正(まさ)しく其処へ日の出かな 高澤良一 素抱 四月-六月
連峯や匂ふ日の出のうろこ雲 及川貞
遠き世の畦の土筆も日の出待つ 鈴木 晶
郭公の咽喉鳴らしくる日の出前 堀口星眠 営巣期
金色のあかき日の出の若葉ごし 原石鼎 花影以後
金雀枝や日の出に染まぬ帆のひとつ 水原秋桜子
鉄骨の函から日の出世阿彌の忌 竹中宏 饕餮
門松や日の出の大気富士に凝り 佐野青陽人 天の川
雪の日の出裏屋根雀わきたちて 松村蒼石 雪
雲海に偃松渚なす日の出 落合伊津夫
雲海の中ぞ鳥鳴く日の出前 相馬遷子 山国
雲海の日の出にゆらぐ岳ひとつ 岡本まち子
雲海の端崩れ飛ぶ日の出前 岡田日郎
雲海の薔薇色つくす日の出まへ 小林 碧郎
雲雀啼くや日の出の客の釣舟屋 碧雲居句集 大谷碧雲居
霜あをし日の出を待てる雀らに 相馬遷子 山河
霜くすべ日の出の空の濁りをり 久保乙秋
霜天に万象黙す日の出前 相馬遷子 山河
露のなか蓼も野菊も日の出まヘ 長谷川素逝 暦日
露ふかし日の出る山も没る嶺も 飯田龍太
露寒といふも日の出るまでのこと 宮閑子
青年水汲む太い水柱霧の日の出 田川飛旅子 花文字
馬鈴薯掘る土の匂ひの日の出前 山崎明子
駒草や寝袋を干す日の出前 渡辺立男
鮭網や日の出に染まる十勝川 飯塚秀城
鴬や日の出の後の霜ぐもり 高井几董
鶏が音は遥かにみだれ日の出護摩 高下容太
鶯や海に日の出る山の裏 古白遺稿 藤野古白
鷹匠の日の出日の入り鷹と在り 宇佐美魚目 天地存問
麦の穂のおのおの濡れて日の出まヘ 長谷川素逝 暦日
黄の濃さよ日の出前なる花南瓜 両角竹舟郎
●日柱
うららかや礎石に生るる日の柱 上田日差子
山肌に日柱移り鷹柱 中戸川朝人
年歩む海上に*たつ日の柱 原裕 『出雲』
日の柱立ちて動かぬ菊畑 斎藤玄 玄
日の柱立つ寒鰤の定置網 神蔵 器
永き日の柱を数へつつ死なむ 桑原三郎 春亂
笹子ゐる葭の洲のいま日の柱 岡井省二
芦の水入日の柱たちにけり 竹末春野人
静嗟き添ふ遅き日の柱かな 宮武寒々 朱卓
●日の面
吹越やきらりきらりと日の面 加藤楸邨
泥鰌掘り去りぬよごれし日の面 栗生純夫 科野路
朱雀なる方へ川ゆく日の面 和田悟朗 法隆寺伝承
寒林やしろがね色に日の面テ 高橋淡路女 梶の葉
花散るや日の面刻々一新す 香西照雄
●日矢
しぐれ忌の日矢を遠見の志賀にあり 藤田湘子
ときをりの日矢をよろこぶ紅葉山 仙田洋子 雲は王冠
ふりむかぬ大勢に射す春の日矢 桂信子 草樹
まだ淡き日矢の手さぐり蕗の薹 吉本 昴
一条の日矢沖にしてえりを挿す 中浜菌芽
二上山にまだ日矢のある秋燕忌 佐川広治
佐渡の上に日矢旺んなり鰤起し 岸田稚魚
先づ師碑に届きし日矢の初日影 関野八千代
入院の師のかむばせに春の日矢 青木重行
冬の日矢二○○○年来る加速して 銀林晴生
冬田にも喜面渋面日矢差せる 藤原たかを
冬耕の恵那谷深く日矢一つ 羽部洞然
冷やかな沖の日矢見て旅ひとり 鷲谷七菜子
初場所やまだ序の口の日矢さして 水原秋桜子
千条の日矢の海恋ふ宝船 河本沙美子
反転の寒鯉黄銀日矢の中 中村明子
受難節の日矢むらさきに雪の原 鷲谷七菜子
咳きに咳く日矢太束にひれふして 石田波郷
啼く田鶴の一身銀の日矢の中 橋本榮治 麦生
大灘に日矢いくたびも鍬始 斎藤梅子
太き日矢さしたる中の滝桜 石田阿畏子
太き日矢立ち啓蟄の荒磧 鷲谷七菜子 花寂び
子の朝寝篁に日矢遊びをり 清水基吉 寒蕭々
子を旅へ放つ日矢射す露葎 小林康治 玄霜
孑孑の水かけのぼる朝の日矢 那須淳男
寒潮の日矢ことごとく消え去れり 大岳水一路
帰り鵜やいまし全島日矢の中 岸田稚魚『負け犬』
戸の隙の日矢に起きいで十二月 石田あき子 見舞籠
技師の夢遠し寒鴉日矢に入る 米沢吾亦紅 童顔
日矢かへす鴫群翔の大干潟 坂本香寿子
日矢こぼしゆける迅さに秋時雨 稲畑汀子
日矢とどく聖泉春を奏でをり 秋月すが子
日矢の中泉にひたす櫛ちさき 鷲谷七菜子 黄 炎
日矢やさし松は年経し実朝忌 清水基吉
日矢を背にさきがけて掘る蕗の薹 寺田博
日矢厚し点から点へ虻飛んで 北野民夫
日矢射して淵の青さよ霰魚 中村春逸
春の日矢珊瑚の海が浮び出す 河野多希女 両手は湖
時雨雲割れて日矢差す浮御堂 斎藤朗笛
暗がりの蜷にときどき日矢の射す 石渡芳美
朝の日矢燕の巣立つ消防署 伊藤いと子
枯るゝ崖日矢の踊ればやはらかく 杉山岳陽 晩婚
枯菊の日矢まとひたる微塵かな 小林康治
枯葦の色なく立てる日矢の中 鷲谷七菜子 黄 炎
梅雨雲を日矢躍り出づ信夫郡 杉山岳陽 晩婚
楮晒し日矢幾筋も引きちぎる 殿村莵絲子 遠い橋
水洟や遠日矢の嶺消えたれど 杉山岳陽 晩婚
沖に日矢十一月の波頭 星野椿
海の面を冷じき日矢とらへたる 八木林之介 青霞集
湿原の日矢射す方の恵方かな 斎藤青火
烈風の日矢薙ぎゆくや霧氷林 小林碧郎
焼工場日矢群がりて萌ゆるらし 石田 波郷
畳の目雪垣解きし日矢遊ぶ 草間時彦
石菖に青き日矢さす氷室口 新井盛治
石蕗の花赫と日矢さす九十九里 水野 柿葉
砂山の歌碑に日矢立つ鰤起し 伊藤京子
竜串の日矢さびします花きぶし 河野南畦 湖の森
紅卯つ木日矢聚むるは吾妻山 杉山岳陽 晩婚
美しく日矢透きとおる芽木の森 下山一羽
臘八の日矢の金色雲間より 倉橋弘躬
花野より白根を指せる雲の日矢 細見綾子
落葉焚く煙は日矢を昇りけり 伊藤瓔子
螢谷日矢さして亀孵りけり 堀口星眠 営巣期
逃亡や牛がけちらす冬の日矢 原裕 葦牙
降る火山灰に日矢衰へて阿蘇の冬 中村田人
雪原の日矢に盲ひし達磨売り 木内彰志
雲割れて日矢の射しけり仏の座 豊長みのる
鵙音落つ敗荷に日矢の揺ぎかな 乙字俳句集 大須賀乙字
鶲呼ぶ老女童女に風の日矢 原 裕
黄葉山どんどん日矢のあたりけり 仙田洋子 雲は王冠
●日を返す
しづけさの青芦原は日を返す 村田脩
わが日を返せ夾竹桃のその色の 津沢マサ子 空の季節
塗り終へて畦黒檀の日を返す 三輪閑蛙
春蘭は日を吸ひ落葉日を返へし 上野 泰
水渡りゆく蛇の日を返す 桑田青虎
氷挽く鋸抜けば日を返す 今泉貞鳳
湖が日を返しそこねし彼岸花 関戸靖子
犬ふぐり藍より青き日を返す 石塚友二
猪垣の日を返しゐる谷の底 茂里正治
縄外す蝦蛄わらわらと日を返す 木村敏男
●日を弾く
薄氷のかけらとなりて日を弾く 山田閏子
●冬の日
この草をわが草として冬の日のうすくなるまで横はるなり 土屋文明
たゝかひのまなかの冬の日と仰ぐ 高橋馬相 秋山越
つつしみ繰る平家の系図冬の日に 杉本寛
どすんと冬の日が暮れ一人の獄は一人なり 橋本夢道 無礼なる妻
ふるき帽いただき冬の日にちかく 細谷源二 鐵
まな鶴も短き冬の日あし哉 也有 (真鶴ケ崎)
ハンモックの吾子冬の日が桐の木に 中山純子 沙羅
一軒のために冬の日ある如し 山中みね子
全身が書に飢えて冬の日は海となる 橋本夢道 無禮なる妻抄
冬の日 青い魚が せわしく買われて暮れた 吉岡禅寺洞
冬の日が墓墓の影を天に吊る 下村槐太 天涯
冬の日が羞らひともる児の耳に 林翔 和紙
冬の日が風にゆらゆら骨納め 細川加賀
冬の日が鷺を舞はせて充ちてをり 高橋馬相 秋山越
冬の日とわれと消ぬべき一呼吸 斎藤玄
冬の日と余生の息とさしちがふ 斎藤玄 雁道
冬の日にのけぞる檻の羆かな 太田鴻村 穂国
冬の日に埴輪掘りたる人死ぬか 萩原麦草 麦嵐
冬の日に焼けて今年の猟終る 甲斐 謙次郎
冬の日に透けてウツボの天日干し 高澤良一 随笑 十月-十二月
冬の日に釦をかがる卒壽かな 阿部みどり女
冬の日に駱駝の鼻先白っぽく 高澤良一 鳩信 白帝
冬の日のあをむところに針魚干す 友岡子郷
冬の日のいちばん底にゐるつもり 糸屋和恵
冬の日のいま松に落ち畦に落つ 水原秋桜子
冬の日のおだやかなる息苦しけれ 冬の土宮林菫哉
冬の日のこの土太古の匂ひかな 飯田蛇笏
冬の日のしばらく照らす我身かな 高野素十
冬の日のふつと離るる余呉の湖 下條杜志子
冬の日のまぶしくなりて力抜け 阿部みどり女
冬の日のみるみる低き供華挿せる 齋藤玄 『玄』
冬の日のむごき墓石選びかな 斎藤玄 雁道
冬の日のやつがれいくや出でていくや 加藤郁乎
冬の日のゆめに入りたる橋一つ 宇佐美魚目
冬の日の三時になりぬ早や悲し 高浜虚子
冬の日の乳よりも濃し楮汁 沢木欣一 地聲
冬の日の亡夫の木椅子揺らし遣る 殿村菟絲子 『菟絲』
冬の日の今はなくとも観世音 星野高士
冬の日の刈田のはてに暮れんとす 正岡子規
冬の日の古墨のはなしそれ限り 宇佐美魚目 天地存問
冬の日の喪服の肩のうすぼこり 土田 広
冬の日の夕照橋を渡りけり 青木重行
冬の日の失せたる塔を仰ぎをり 五十嵐播水 播水句集
冬の日の小藪の隅に落ちにけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
冬の日の尼をふり向く夫ありて 殿村莵絲子 牡 丹
冬の日の川釣の竿遺しけり 宇佐美魚目
冬の日の我が影を置く都かな 佐藤惣之助
冬の日の暮の畳に酒を吸はれた 人間を彫る 大橋裸木
冬の日の朝晴全き静けさよ 青峰集 島田青峰
冬の日の杉うごき雲の動きひとり居 安斎櫻[カイ]子
冬の日の柵に相寄り象と人 小間さち子
冬の日の水をはなれし鯉の息 宇佐美魚目 天地存問
冬の日の沈むを惜しむわれのみか 星野立子
冬の日の沈むを惜むわれのみか 星野立子
冬の日の海に没る音をきかんとす 森 澄雄
冬の日の照りゐる嶽のうらおもて 栗生純夫 科野路
冬の日の眩しと吾子や病めるなり 石塚友二
冬の日の眼に満つる海あるときは一つの波に海はかくるる 佐藤佐太郎
冬の日の筆の林に暮れて行く 正岡子規
冬の日の羅漢寄せあふ咽喉佛 古舘曹人 砂の音
冬の日の胸かい抱き町を行く 阿部みどり女
冬の日の落ちて明るし城の松 子規句集 虚子・碧梧桐選
冬の日の落つるを沼は息ひそめ 石井とし夫
冬の日の言葉は水のわくように 鈴木六林男
冬の日の障子白さや吸入器 碧雲居句集 大谷碧雲居
冬の日の雁の背丈の寸づまり 斎藤玄 雁道
冬の日の露店のうしろ渡るなり 岸田稚魚
冬の日は墜ちーぽんの葦のこる 富澤赤黄男
冬の日は赤く涙はあたたかし 萩原麦草 麦嵐
冬の日やざしきぼつこがゐはせぬか 山田みづえ
冬の日やすがたただせし軍鶏の丈ヶ 松橋利雄
冬の日やつれなく残る蓮の茎 松瀬青々
冬の日やとけては氷るわすれ水 浪華 一鼠 五車反古
冬の日や亡児がうつしゑの曇り拭く 林原耒井 蜩
冬の日や仏の花の松ぼくり 野村喜舟 小石川
冬の日や兄のかたくななつかしき 野村喜舟 小石川
冬の日や写真の隅をいつも占む 八牧美喜子
冬の日や前にふさがる己が影 村上鬼城
冬の日や前に塞がる己が影 村上鬼城
冬の日や前に塞る己が影 村上鬼城
冬の日や去るに遺せし印一つ 宮武寒々 朱卓
冬の日や園の中なる径の枝 尾崎迷堂 孤輪
冬の日や塩の中なる浄め塩 鷹羽狩行
冬の日や大きな柳ゆれてゐる 岸本尚毅 選集「氷」
冬の日や富士を残して落ちにけり 種市清子
冬の日や屋上の吾を見ぬ人等 香西照雄 対話
冬の日や庭木の枝の地に近く 南 うみを
冬の日や指しぬきぬるき魚の棚 水田正秀
冬の日や樹を伐仆す五六本 石井露月
冬の日や欄の埃を吹いて凭る 龍胆 長谷川かな女
冬の日や歯医者が鳴らす金属音 伍賀稚子
冬の日や火種大事にやきとり屋 金子佳子
冬の日や父が手擦れの菓子木型 石嶌岳
冬の日や知らぬ町に来て人を訪ふ 室生犀星 犀星発句集
冬の日や磯路は濡れて松落葉 有働亨 汐路
冬の日や縁の下まで箒の目 長谷川 櫂
冬の日や老もなかばの隠れ笠 智月 俳諧撰集玉藻集
冬の日や臥して見あぐる琴の丈 野沢節子
冬の日や苔に水打つ法善寺 青木重行
冬の日や蜂も親しきもののうち 奥野桐花
冬の日や蝶々が吸ひ水減りぬ 金子晉
冬の日や象の病気をみておわる 宇多喜代子
冬の日や障子をかする竹の影 芥川龍之介
冬の日や雀煤けて駅の屋根 野村喜舟 小石川
冬の日や馬上に凍る影法師 松尾芭蕉
冬の日や馬上に氷る影法師 松尾芭蕉
冬の日や馬關の潮瀬衰へず(下関) 上村占魚 『橡の木』
冬の日や鵜匠の羽織る黒紬 殿村莵絲子 花寂び 以後
冬の日や龍の落し子長汀 野村喜舟 小石川
冬の日をだんだら縞に幹の幸 細谷源二 砂金帯
冬の日をまぶしみ母のふところに 椎橋清翠
冬の日を仰ぎ目くらむ一事かな 岸田稚魚 『紅葉山』
冬の日を高きに陸上競技場 片山由美子
冬の日を鴉が行つて落して了ふ 橋本多佳子
冬の日矢二○○○年来る加速して 銀林晴生
冬の日聰きもの鯉は人に竹林は風に 安斎櫻[カイ]子
古都歩きゐて冬の日の真あたらし 鷲谷七菜子
壁の荒れ慈しむ目と冬の日と 殿村莵絲子 牡 丹
太幹のしづかさ冬の日をながし 長谷川素逝 暦日
峠に見冬の日返しゐし壁ぞ 深見けん二
左右ありや子の沓冬の日に穿かす 皆吉爽雨
恋破れたり冬の日のスタジアム 和田耕三郎
旧くて大きな銀杏が冬の日と話す 磯貝碧蹄館
月桂樹剪られて冬の日に匂ふ 山田登美子
梟の眼に冬の日午なり 子規句集 虚子・碧梧桐選
泥沼に冬の日の堕ちゐたりたり 上野泰 春潮
炎々と燃ゆ冬の日の遠きゆえ 萩原麦草 麦嵐
父と母の御墓一つ冬の日に 長谷川かな女 雨 月
珈琲を飲むとき冬の日は斜め 今井杏太郎
石に水触れ冬の日のちりぢりに 斉藤夏風
穏やかな冬の日着物たたみけり 猪俣千代子 堆 朱
窓を拭く冬の日は手で包めさう 西村和子 かりそめならず
篁の日のかろやかに冬の石 岸田稚魚 筍流し
緑蔭の冬の日に似るレストラン 京極杞陽 くくたち上巻
花屋敷冬の日の乗る観覧車 高澤良一 燕音 十二月
苔さわぐことなき冬の日なりけり 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
蕪干せば冬の日低うなりにけり 松瀬青々
身起すや冬の日が先づ心火挙ぐ 成田千空 地霊
逃亡や牛がけちらす冬の日矢 原裕 葦牙
長いまつ毛して冬の日病んでいる 荻原井泉水
降ものに数ある冬の日より哉 渡中
降るものに数ある冬の日よりかな 渡牛 五車反古
露座仏の背に冬の日のありにけり 井上一灯
頭重き冬の日ことに神は近し 田川飛旅子
魚剖きて余念なかりし一枚のうす刃となりてありし冬の日 安永蕗子
鯉の朱の澄みぬ冬の日深むごと 橋本榮治 麦生
●冬日
「いろはにこんぺえと」地を跳べ地が父冬日が母 磯貝碧蹄館
「黄金バット」が吃るよ冬日が眼にしむよ 磯貝碧蹄館 握手
いかに活きよといふにや冬日晴るるのみ 安斎桜[カイ]子
いかに生きよといふにや冬日晴るゝのみ 安斎櫻[カイ]子
いくさ経し罅硝子戸の冬日かな 徳永山冬子
いつぽんの幹のさへぎる冬日なり 長谷川素逝 暦日
いつもここで冬日の終り川一条 千代田葛彦
いつ失せてもよき瀬戸物屋の冬日 加倉井秋を
いづこにも冬日いちにち来給はず 飯田龍太
お化け煙突冬日を赤児のごと抱けり 磯貝碧蹄館 握手
かくれ鬼冬日の塀に顔あてて 上野泰 佐介
かげる山のうしろ照る山冬日低し 相馬遷子 山国
かすかにも冬日のさして来りけり 高木晴子 晴居
かの日さながら路傍冬日の肥桶達 赤城さかえ
ぎつしりの材木の底にある冬日 臼田亞浪 定本亜浪句集
くくり女と同じ冬日にうづくまる 細見綾子
くちづけは永きものかな冬日華奢 齋藤玄 『玄』
くらしつまるか村人に美しき冬日の空(戦時體制) 安斎櫻[カイ]子
くれなゐのこころの闇の冬日かな 飯田蛇笏
くれなゐのこゝろの闇の冬日かな 飯田蛇笏
けだものの食欲る目もて冬日見る 右城暮石
ここいら松ばかりの冬日の小さい家がある 人間を彫る 大橋裸木
ことごとく冬日に顔を突き出し征く 石橋辰之助
すがれゐしものにあまねき冬日かな 稲畑汀子
すきまなくかたまる羊冬日落つ 石井とし夫
すぐ翳る冬日の家も捨てかねつ 清水基吉 寒蕭々
すでにすでに冬日を鼻におん屍 石塚友二 光塵
すべり台冬日溜りへ子等こぼし 塙告冬
すめらぎの城壁の冬日雉子いでず 渡邊水巴 富士
せきれいの来て一閃の冬日さす 柴田白葉女 遠い橋
そのあとの冬日昃ることもなく 波多野爽波 鋪道の花
たまたまの風音にかすむ冬日かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
つかの間の冬日つかの間逢ひ得たり 成瀬桜桃子
つかの間の冬日にたれし日覆かな 中尾白雨 中尾白雨句集
ときのまの黄瀬戸の色の冬日見し 相生垣瓜人
とろ〜と冬日が溶ける埴輪かな 萩原麦草 麦嵐
どすんと冬日男は鉄器女は土器 窪田丈耳
にはたづみ冬日まみれや白毫寺 岸田稚魚 筍流し
はなやぐ冬日昔国禁の書なりしを 内藤吐天 鳴海抄
はりつめし人の面に冬日かな 阿部みどり女
ひとやさし背に置かれし冬日また 木下夕爾
ひとりゆけば雉子たつ墓の冬日かな 龍岡晋
ひよどりの持ち来し冬日墓の上 岸田稚魚 筍流し
ひよどりの瘠せ眼に立ちて冬日なる 室生犀星
ふたまたの幹へながれて冬日かな 長谷川素逝 暦日
ぶらんこを漕ぎ上げてゆき冬日蹴る 川口重美
もちの木の上の冬日に力あり 高野 素十
やはらかき餅の如くに冬日かな 高浜虚子
ゆらゆらと冬日のたばこ稼ぐ時間 椎橋清翠
ゆるすまじ富士真ッ向うに冬日の基地 栗林一石路
よこたはる杖を冬日がじつと見る 竹中宏 句集未収録
よび出して聞きたる声に冬日さし 長谷川かな女 雨 月
わが山のしゞまぞ冬日耳に鳴り 石橋辰之助 山暦
わすれゐるときのうれしさ冬日濃く 木村蕪城 一位
われぬくめ没りし冬日よ誰れあたたむ 中戸川朝人
をちかたのみどりさだまる冬日かな 長谷川双魚
をとこにありてをんなにあらぬ冬日暮 平井照敏
タンカーの曳きずつてゆく冬日かな 下田水心子
トマス小崎身丈かなしく冬日浴ぶ 下村ひろし 西陲集
バラックも並めば冬日にこの明るさ 香西照雄 対話
ポストの頭冬日てらてら虚実古り 木村蕪城 寒泉
マッチ擦る横浜の坂冬日満つ 皆吉司
マリヤの前母亡きわれの背に冬日 成瀬桜桃子
ローンテニス冬日の肩の触れあふも 萩原麦草 麦嵐
ヴェニスにて死ぬべし冬日沈むとき 有馬朗人
一人旅気楽で淋し冬日浴ぶ 山田弘子
一度だけの波音冬日昏れにけり 桂信子 黄 炎
一日の暖かなりし冬日落つ 上村占魚 球磨
一隅をひたと照らして冬日去る 鬼塚梵丹
七面鳥冬日の中にわらひけり 原石鼎 花影以後
中年工女冬日笑むごと弁当開く 岩田昌寿 地の塩
主も大工冬日ぬくめし鑿を買ふ 有馬朗人 知命
乳ふくむ仔豚が冬日の芯となる 岩田昌寿 地の塩
乳を滴りて母牛のあゆむ冬日かな 飯田蛇笏
乳牛のそよりと動く冬日哉 中川宋淵 詩龕
二間貰て冬日のひくしみだれ籠 廣江八重櫻
五分粥の一匙にある冬日かな 井上雪
五重の塔の朱は朱からず冬日落つ 阿部みどり女
五重の塔朱は朱からず冬日落つ 阿部みどり女 『笹鳴』
井桁に乾し薪を冬日の塔となす 川口重美
亡き人の鼎に現るる冬日かな 永田耕衣 物質
人たちて椅子の冬日もいつかなし 福田蓼汀 山火
人として冬日の鹿の眼過ぐ 神蔵器
人の家辞し市電の隅にこの冬日 香西照雄 対話
人よれば驢馬うれしがる冬日かな 阿部みどり女
人を待つ冬日に頬を輝かし 成瀬正とし 星月夜
人刺しし蜂が冬日を煌めかす 山田弘子
人家あるところ冬日のよく當り 上村占魚 『霧積』
人遠く低き冬日のもとにあり 木村蕪城 一位
人黙り冬日の岩にいどみゐる 石橋辰之助 山暦
今しがたありし冬日の其処に無し 粟津松彩子
今下りし塔に冬日や浄名会 雑草 長谷川零餘子
今在りし冬日の何処へ十賊刈 高澤良一 ぱらりとせ 冬
今日もきて冬日百くる真珠筏 和知喜八 同齢
何か慌し立つは冬日のどん底に 赤尾兜子
何ごともなかりし如く冬日あり 星野立子
何よりも冬日が馳走仏日庵 高澤良一 さざなみやっこ 冬
使へる鉛筆地上に拾ひ冬日拾ふ 磯貝碧蹄館
俳句とは冬日だまりのひとり言 今井杏太郎
倶利伽羅の西にまはりし冬日かな 前田普羅 能登蒼し
傷兵の冬日を犬がかきみだす 横山白虹
傾いて地蔵艶なる冬日かな 橋石 和栲
僻地校さらば冬日の葱坊主 堀井春一郎
児に托す未来冬日のアンテナ群 赤城さかえ
児に託す未来冬日のアンテナ群 赤城さかえ
兵児帯を探す机辺の冬日沿ひ 原裕 葦牙
円柱の並びつらなる冬日かな 比叡 野村泊月
冬日あたるうぶ毛の中のひよめき正し 篠原梵
冬日あびるに桜の園のひろすぎる 川島彷徨子 榛の木
冬日からりと歩み居る己れ無くもかな 中島月笠 月笠句集
冬日が 陰影を與えて ビルを墓石とした 吉岡禅寺洞
冬日が照る山容に応ふべし 中塚一碧樓
冬日が磨く骨董市のトランペット 西村和子 かりそめならず
冬日くさし一日離れてゐたりし子 細見綾子
冬日こぼるるなら町の奈良格子 三輪陽子
冬日さし色のかげんの草の山 岡井省二
冬日さすあんかうの肌かはきけり 室生犀星
冬日さすこの道がまた楽しくて 中村吉右衛門
冬日さす上段の間に明治帝 木村蕪城 寒泉
冬日さす土間ぬち牛の孕み腹 木村蕪城 寒泉
冬日さす寝部屋恋部屋人待つも 岩田昌寿 地の塩
冬日さす式台ひろき山屋敷 西島麥南 金剛纂
冬日さす柱列賽者ゆかしむる 皆吉爽雨 泉声
冬日さへ遠きに隔て門跡寺 大橋敦子
冬日さむう蜉蝣くづれぬ水の面 室生犀星
冬日さやかと告ぐれば頷く死迫る額 赤城さかえ句集
冬日しかと匙の光となりて澄む 柴田白葉女
冬日すぐかげる木椅子を毎日出す 中山純子 沙羅
冬日たかし乙女らがいて琴ひく家 古沢太穂 古沢太穂句集
冬日なき芝にマッチの軸こぼす 横山白虹
冬日なめらか今は父母なきたしかさよ 石塚友二
冬日に伸ばす皺を無限に狂女の老 岩田昌寿 地の塩
冬日に干す籠に縋りて貝死なず 林翔
冬日に微笑師弟切磋は会へば足る 香西照雄 対話
冬日のぼる焼跡大きな影のごと 桜井博道 海上
冬日の松皮剥げやすし一人居む 内藤吐天
冬日の枝に鴉も去んでしまつてまたオルガン 三好草一
冬日の縁弾み通せり今金色 香西照雄
冬日の象べつの日向にわれらをり 桜井博道
冬日の象べつの日向にわれらをり 桜井博道
冬日の馬うなづくはばのみ進む 安東次男 裏山
冬日は一つ幸福もまた多からず 細谷源二
冬日もとより人をなぐさむるものでなく 細谷源二 砂金帯
冬日やさし濃娘壺抱くは添乳めき 成瀬桜桃子
冬日よぎる軽子の畚翼めき 小林康治 玄霜
冬日よりあをしイエスを描きたる 野見山朱鳥
冬日を頒つ友なし山を開拓す 細谷源二
冬日一ぱい受けて障子を閉し居る 青峰集 島田青峰
冬日今日冬日とならず暮れにけり 嶋田摩耶子
冬日今日夕日とならず暮れにけり 嶋田摩耶子
冬日今瞼にありて重たけれ 高浜虚子
冬日伸び狂人の手が伸ぶこぼれ飯 岩田昌寿 地の塩
冬日低し吾と子の間妻急がん 石田波郷
冬日低し鶏犬病者相群れて 石田波郷
冬日去る柱の影のついて行く 松本巨草
冬日呆 虎陽炎の虎となる 富澤赤黄男
冬日宙少女鼓隊に母となる日 石田波郷
冬日宙湧水八重にひらきけり 高澤良一 ぱらりとせ 冬
冬日宙見る見る孤児が煙草吸う 石橋辰之助
冬日強し愛吉を殺した被爆の船の朽ちざま見よ 橋本夢道 無類の妻
冬日抱きゴールキーパー立ち上がる 藺草慶子
冬日掬ふ如き両掌や日向ぼこ 池内友次郎
冬日柔か冬木柔か何れぞや 高浜虚子
冬日浴びをる夫の背緋鯉の背 中山純子
冬日浴び鳶の炯眼彫り深し 香西照雄 対話
冬日浴ぶとき翼せり翌檜 松山足羽
冬日消えとほき島山に紺還る 篠原梵 雨
冬日消え池のほとりの女消え 高野素十
冬日消ぬわが悔恨にかゝはりなく 横山白虹
冬日消ゆオコジョのやうにすばしこく 高澤良一 寒暑 十月-十二月
冬日消ゆ道は築地を左右となる 皆吉爽雨 泉声
冬日澄む天のまほらゆ火は降るや 久米正雄 返り花
冬日濃きことに心を集めをり 後藤夜半
冬日濃く林泉の橋さへ苔匂ふ 岸風三楼 往来
冬日濃しわが手汚さぬことばかり 岩岡中正
冬日濃し冬日淡しと干す瓦 後藤比奈夫 初心
冬日濃し山羊の毛残る土器太鼓 都筑智子
冬日燦々さよならを終のー語とす 赤城さかえ
冬日移るちりめん白地一寸織られ 橋本多佳子
冬日縁はなし一とときはずみけり 飯田蛇笏 山廬集
冬日缺けても人を敬いて座しいたり 細谷源二
冬日義理ほど石山の石切るに 津田清子 二人称
冬日見え鴉かたまり首伸ばす 西東三鬼
冬日踏む宗祗の碑より十歩ほど 細見綾子 天然の風
冬日蹴るくびれのふかき勁き足 篠原梵
冬日逃げるな河原の穴に石取女 沢木欣一
冬日透る子の駈けぼこり学強ひねば 香西照雄 対話
冬日閑薄き顱頂を笑ひ合ふ 石田あき子 見舞籠
出鉄を見し眼冬日の運河越ゆ 桜井博道 海上
分銅と冬日の縁に再会す 原田喬
切株に冬日二段の鋸の跡 大串章
刑務所も枕む冬日も汚れをり 成瀬正とし 星月夜
削る度冬日は板に新しや 香西照雄
化粧成り女冬日に立ちいづる 波多野爽波 鋪道の花
千代田城げに太極の冬日かな 飯田蛇笏
号外を見つつ冬日を来る二人 阿部みどり女
号外を見つゝ冬日を来る二人 阿部みどり女 笹鳴
合はす掌の揃へば冬日燦爛と 下村ひろし 西陲集
向かひゐて禅問答に似る冬日 櫂未知子 貴族
吾が佇てば墓石傾ぎ来冬日の中 石塚友二 光塵
吾子の掌をつつみ冬日を掌につつむ 古館曹人
吾子生まる冬日幽かの妻を覗く 石川桂郎
呪文とけ冬日の亀が歩き出す 桂信子 遠い橋
噴火口のぞく片頬冬日が染む 鈴木真砂女 夕螢
噴火烟町に降るなる冬日かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
国愛しむまことに松の冬日かな 石塚友二 方寸虚実
地球一万余回転冬日にこ〜・・・播水、八重子結婚三十周年祝句
垣へだてとなりの庭も冬日の菜 篠原梵
埋立地冬日は己彩り射す 有働亨 汐路
城壁にあれば冬日が野に落つる 長谷川素逝 砲車
城頭に冬日衰へゆくときに 京極杞陽 くくたち下巻
塩田の上の冬日の頼母しき 高野素十
塩買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子 花 季
塩買ふや紫がゝる冬日暮 綾子
墜ちてゆく 燃ゆる冬日を股挟み 三橋鷹女
墾田殖え墓殖え冬日あまねきのみ 香西照雄
墾田殖へ墓殖へ冬日あまねきのみ 香西照雄 対話
壇上の教授の足に冬日あり 安原葉
売る本の重さ冬日の中に佇つ 飴山實 『おりいぶ』
多摩一すじ冬日に展け光なす 古沢太穂 古沢太穂句集
大いなる寺跡に来し冬日かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
大きなる空あり冬日あふれしむ(都築蕃椒居) 上村占魚 『石の犬』
大仏に袈裟掛にある冬日かな 高浜虚子
大仏の冬日は山に移りけり 星野立子
大仏の肩に冬日も風もながれ 京極杞陽 くくたち上巻
大仏の頬ゆたかなる冬日かな 池内友次郎 結婚まで
大仏は親し冬日はあたたかし 伊藤柏翠
大佛の冬日は山に移りけり 星野立子
大佛の冬日何よりなつかしく 池内たけし
大佛の頬ゆたかなる冬日かな 池内友次郎
大和国原冬日が額にあつまりぬ 細見綾子
大悪人虚子墓前なる冬日かな 行方克巳
大木の幹に影あり冬日濃し 上村占魚 鮎
大木をすべり落ちたる冬日かな 雑草 長谷川零餘子
大空の少し低きにある冬日 粟津松彩子
大空の片隅にある冬日かな 高浜虚子
大阪の冬日やビルにひつかかり 京極杞陽
大阪市ぬくもりがほの冬日かな 日野草城
天の冬日烈風の富士に炎え熄まず 渡邊水巴 富士
天窓をこぼるる冬日猫の皿 細川加賀 『傷痕』
妻の命は冬日を胸に戴するなり 齋藤玄 『玄』
妻を見る冬日さらさら森澄雄 寺田京子
姉弟の遺稿冬日に重ねおく 宇多喜代子 象
子を褒むる言葉匂はす冬日の卓 林翔
子乞食に冬日あつめてドウムの扉 竹下しづの女
子供ゐて人形寺の冬日かな 細川加賀 生身魂
子育ての時間冬日の射す時間 中山純子 沙羅
孕みつつ枳殻の少しの冬日を惜むぞ 梅林句屑 喜谷六花
安兵衛の鎖じゆばんの冬日かな 小島千架子
家をさる柩のはやき冬日かな 飯田蛇笏 春蘭
家を去る柩のはやき冬日かな 飯田蛇笏
家族ゐぬとき冬日の忍び寄る 百合山羽公 故園
富士茜真紅の冬日しづみければ 篠原梵 雨
寝返れど半身いつも冬日享く 篠原梵 雨
寡黙な鉄材身の錆び冬日の黄より濃し 磯貝碧蹄館 握手
寸織つて冬日を逃がす結城機 石川桂郎
寺の畑冬日さらさらさらさらと 岸田稚魚
寺の畑冬日さら〜さら〜と 岸田稚魚 筍流し
寺町や瓦に触れて冬日あり 殿村莵絲子 雨 月
封筒の中の冬日のただ遠く 山西雅子
屈葬の過去も冬日を母として 有馬朗人 母国
屋根石の一つを冬日ゐざりそむ 森田峠
山の端にころがる冬日忌を修す 岸田稚魚 筍流し
山取れて墓あらはなる冬日かな 青木重行
山坂や冬日は秀野亡き後も 清水基吉 寒蕭々
山川の冬日を流すところあり 北垣宵一
山登る常に眉間にある冬日 福田蓼汀
山肌の濃紫なる冬日かな 『定本石橋秀野句文集』
山茶花の紅を逃げたる冬日かな 阿部みどり女
山藤の蔓はね上がる冬日かな 岸本尚毅 選集「氷」
山門をつき抜けてゐる冬日かな 高浜年尾
山頂の松一本に冬日あり 高木晴子
岩山に冬日的*れき友の婚 木村蕪城 寒泉
岬に来て芭蕉と同じ冬日の下 原田喬
峡移る冬日墓域を取り遺し 河野南畦 湖の森
川波や冬日あたれる家の下 佐野良太 樫
工場の塀の冬日に沿うて住む 石橋辰之助
左眼閉づれば右眼の冬日忽と消ゆ 安住敦
師よりの金妻よりの金冬日満つ 石田波郷
常盤木の葉のてらてらと冬日かな 飯田蛇笏 山廬集
帽子の中の冬日や人に逢ひ度くて 内藤吐天
年輪と冬日を杣が会はせけり 都筑智子
幹太く冬日は左右にある如し 戸川稲村
広前は石も犇めく冬日かな 久米正雄 返り花
庭石に斑にさせば冬日かな 久保田万太郎 流寓抄
庵さびれゆくにつけても冬日艶 高木晴子
廟の扉を開けば冬日流れ入る 五十嵐播水 埠頭
弟つれ髪刈つてきて冬日の中 古沢太穂 古沢太穂句集
影よりも淡きわれ行く冬日かな 土橋たかを
影落して木精あそベる冬日かな 渡辺水巴 白日
彼の森の名はなに三輪の冬日落つ 高木晴子 花 季
御仏の蒲団は薄き冬日かな 阿部次郎
悔ゆる身を忘ぜんとする冬日かな 飯田蛇笏
悲しめば我れに冬日のいと親し 高橋淡路女 梶の葉
愛銃を冬日あかるき木にもたせ 百合山羽公 故園
我が庭や冬日健康冬木健康 高浜虚子
我に大きく冬日の電車とまりけり 島村元句集
手のひらに載せる冬日や北の国 北光星
手品師の手の鉄の輪にさす冬日 皆吉司
手漉紙丹念に積む冬日溜め 柴田白葉女
打ち減りし魚板の腹や冬日さす 大谷句佛 我は我
投函へ冬日ぬくめる肩たぬし 原田種茅 径
抜きん出て冬日を峨々と荒削り 加藤耕子
抱き上げて冬日のにほふ子供かな 中島斌男
拍手の二つひゞきし冬日かな 高野素十
指先の冬日逃げゆく嵯峨野径 谷口桂子
教官を囲みて叉銃のみに輝やかな冬日 シヤツと雑草 栗林一石路
斑鳩の鴟尾に小さな冬日落つ 角川春樹 夢殿
方寸亭二階の冬日あたたかし 鈴木しげを
旅景色描くパレット冬日溜め 脇田絹子
旅果ての灘をけぶらす冬日あり 高瀬哲夫
旗のごとくなびく冬日をふと見たり 高浜虚子
旗のごとなびく冬日をふとみたり 高浜虚子
日時計に針なく冬日移ろふや 下村ひろし 西陲集
昼過ぎてやや頼もしき冬日かな 岩田由美
智恵の輪にさしこんでをる冬日かな 京極杞陽
暖き冬日あり甘き空気あり 高浜虚子
暖流の魚族の階に冬日届く 中戸川朝人
暮天の冬日掴み来たれよかじかむ子 細谷源二 砂金帯
書庫の塵冬日親しくなりにけり 飯田蛇笏 椿花集
朝雀冬日はさやの出雲ぶり 清水基吉 寒蕭々
木に草に冬日の影を風あそぶ 加藤耕子
束の間に冬日逃がせし古机 小林康治 『虚實』
松のあひだに鎌倉はある冬日かな 長谷川かな女
松の間の冬日に黒き松江城 高木晴子 花 季
松山に無人の冬日なまめきて 飯田龍太
枇杷の樹によき小禽来る冬日かな 江戸庵句集 籾山庭後
枝に透いて鳥かげ迅き冬日かな 室生犀星
枯葉払つて竹の高さの冬日かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
柏槇の岬の冬日賜ふ句碑 阿部みどり女
柚子冬日父の白眉開くかに 宇佐美魚目 秋収冬蔵
柱に透いて鳥かげ迅き冬日かな 室生犀星 魚眠洞發句集
校の冬日にうずくまる児よ腹へるか 赤城さかえ
校塔の冬日はうすれ青春失せ 岩田昌寿 地の塩
根方まで冬日が当り気さくな木 高澤良一 ももすずめ 平成二年
桐の木にありし冬日の失せにけり 加倉井秋を
桐の木の冬日と睦みゐる上枝 高澤良一 燕音 十二月
桐畑の冬日に透けて死後の顔 宇佐美魚目 秋収冬蔵
桑も戦列冬日くわしき枝をあげて 赤城さかえ句集
梅林の冬日素通しなる明るさ 細見綾子 黄 瀬
棕櫚の辺の冬日の欄干港町 木村蕪城 寒泉
椅子に在り冬日は燃えて近づき来 松本たかし
椋鳥がかこめばくるふ冬日かな 加藤楸邨
楼門の中に冬日の山なだらか 遠藤梧逸
歳月に減りし漉桁冬日に干す 成瀬桜桃子 風色
死ぬ日までわが世終らず身の冬日 稲垣きくの 黄 瀬
死の寸前冬日の中まで見えるかも知れぬ 細谷源二
死や生や冬日のベルト止むときなし 加藤楸邨
母の忌のこの日の冬日なつかしむ 高野素十
母の背を蹴って冬日へ泣きあげる 川口重美
母の衣たたむ冬日に母を撫づるごと 野澤節子 黄 瀬
母よ母よ冬日に繭のごと眠り 橋本榮治 麦生
母恩恋ふ訃の一枝に冬日集め 岩田昌寿 地の塩
母老いしや冬日に浮ぶ峠あり 村越化石
水に泛く冬日掌にとるやうに死後 長谷川双魚 風形
水上は冬日たまりて暖かし 前田普羅 飛騨紬
水口の止板にある冬日かな 岡井省二
氷挽ききつていきれる冬日の鋸 古沢太穂 古沢太穂句集
汐木拾へば磯べに冬日したゝれり 原 石鼎
汐汲みの汐こぼしゆく冬日かな 鈴木真砂女 生簀籠
河原冬日子より眠しや子守歌 古沢太穂 古沢太穂句集
油垢しむ櫛筥に冬日かな 飯田蛇笏 山廬集
沼底にわれを居竦め青冬日 羽部洞然
沼底に沈みて小き冬日かな 比叡 野村泊月
波郷忌や安房の冬日をふところに 椎橋清翠
泣く眼と笑う眼ともに冬日をくちやくちやに 細谷源二
浜松の中の冬日に庵せる 高濱年尾 年尾句集
浪の背にのる舟冬日燦として 柴田白葉女 遠い橋
海へ人を送つてしまつた冬日の卓 シヤツと雑草 栗林一石路
消えたがる冬日掴んで仏手柑 町田しげき
涙腺をもたぬ木馬に冬日が射す 磯貝碧蹄館 握手
淡々と冬日は波を渡りけり 稲畑汀子
温室仕事冬日二つを戴きつ 羽部洞然
滑る冬日群集の中の声追いゆき 寺田京子 日の鷹
滴る冬日血を弾ませて濯ぐ妻に 磯貝碧蹄館 握手
火山灰散つてくるおほぞらの冬日かな 鷲谷七菜子 花寂び 以後
火舎纏く冬日へ火舎の天人笑みこぼす 磯貝碧蹄館 握手
煙突の煙にかげる冬日かな 松藤夏山 夏山句集
燈籠の笠の冬日がまづ消ゆる 阿部みどり女
燦然と大名竹に冬日かな 松藤夏山 夏山句集
父が正坐なしゐて冬日さびしくす 寺田京子
父の死顔そこを冬日の白レグホン 森澄雄
父を待つ杣の子に椎の冬日消ゆ 石島雉子郎
犬赤し冬日が洩れて馳け出す 岩田昌寿 地の塩
狼葬の草原にある冬日かな 島田 柊
猿のつら皆枯れてある冬日かな 野村喜舟
獄出でしや曇り日一点の冬日ほのか 古沢太穂 古沢太穂句集
獅子像を過ぎて城見ゆ冬日かな 宮武寒々 朱卓
玉階の高きところに冬日かな 遠藤梧逸
玲瓏たる冬日秘仏に焦がれ逢ふ 稲垣きくの 黄 瀬
玻璃を透く冬日の中にゐる懈さ 高澤良一 寒暑 十月-十二月
珠のごと生まれ冬日の寵を受く 伊東宏晃
球根を埋めて冬日を均しけり 清水忠彦
環濠を屈曲したる冬日かな 島田一耕史
生徒騒がせ冬日の心燃えずをり 林翔 和紙
生涯を冬日のごとく幾つまづき 西本一都
田のへりに藁ばかま洒れ冬日かな 原石鼎 花影以後
田鶴舞ふや眩し冬日を端山にし 森川暁水 淀
留守居して夕影になる冬日かな 小澤碧童 碧童句集
病得し身にあたたかき冬日あり 藤松遊子
瘤欅すんなり欅冬日浴ぶ 高澤良一 ぱらりとせ 冬
癌きらふ如くに冬日すぐかげり 菖蒲あや
白といふさびしさ冬日の下着売 岡本眸
白墨の埃冬日の窓開くる 波多野爽波 鋪道の花
白焔の縁の緑や冬日燃ゆ 松本たかし
白粥の老人冬日たゆたひて 松村蒼石 雪
白銀の重き冬日が山にありぬ 岡田日郎
百合根煮て冬日のごとき妻たらむ 石田あき子 見舞籠
百花園冬日衰へゆきにけり 上野泰 春潮
目つむればまぶたにぬくき冬日かな 中村汀女
目を押へたるハンカチに冬日かな 細川加賀
眠る岩立ちあがる岩冬日濃し 細川加賀
眼白頬白一つ籠なる冬日かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
石の相時にやさしく冬日濃し 星野瞳
石臼も父の匂ひよ冬日みち 古賀まり子 降誕歌
石階を踏みて冬日に近づきぬ 後藤夜半 底紅
砂雪隠螢光色に冬日溜め 殿村莵絲子 遠い橋
稲干のもも手はたらく冬日かな 立花北枝
空を航く冬日に顔の彫ふかめて 横山白虹
空港の青き冬日に人あゆむ 西東三鬼
空溝に冬日とゞまることしばし 石橋辰之助
竹むらに冬日こん〜とさす一村 乙字俳句集 大須賀乙字
竹垣よごれたちから〜な冬日の惜しぞ 小澤碧童 碧童句集
笹にさす冬日いみじき喪にありぬ 藤木清子
節穴の冬日玉なす酒母に射す 桂樟蹊子
簀の葭の一すぢ一すぢ冬日沁む 林翔 和紙
米俵金となりゆく冬日閑 瀧春一 菜園
糞る犬のすまなさうなる貌に冬日 高澤良一 宿好 十月-十二月
純白な鶏に冬日がまはり来る 阿部みどり女
紙芝居冬日しばらくとどまれり 北見さとる
紙芝居抽斗に冬日蔵ひこむ 鈴木貞雄
編笠に須臾の冬日の燃えにけり 『定本石橋秀野句文集』
緻密な冬日刷毛が地にありのまゝに 磯貝碧蹄館 握手
縁はなし冬日珠なす晩年など 安住敦
繃帯とれば冬日に足のかたちかな 長谷川かな女
翔けるものなく天城嶺の冬日かな 五所平之助
翔ぶものを許す冬日の大菩薩 飯田龍太
耳病めば冬日かがやきわたるかな 右城暮石
耳病めば冬日かゞやきわたるかな 右城暮石 声と声
職を追ふ呆け赤靴冬日沁む 小林康治 玄霜
腰下ろせよと冬日の石のひとつひとつ 上野さち子
臼立てゝ挽かでしまひし冬日かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
舵輪廻す一段高く冬日享け 津田清子
船よせて漁る岸の冬日かな 飯田蛇笏 山廬集
船腹に冬日とびつく朝の航 上田日差子
芝のやさしさは冬日が来てきめる 後藤比奈夫 花匂ひ
芝原の石の影ある冬日かな 野村喜舟 小石川
花のひらくごとく冬日の射しにけり 瀧春一
苦虫の遺影に冬日届きけり 嶋田麻紀
茶の花に煤来てかげる冬日かな 島村元句集
草に消ゆる囚屋の外の冬日かな 雑草 長谷川零餘子
荷をおろす漁婦の肩いま冬日乗る 中山純子
落葉松に没る傷まみれなる冬日 福永耕二
著けたまふ淡き冬日の色のもの 相生垣瓜人 微茫集
葛城路まゆごもりせる冬日かな 伊藤敬子
葛根掘るうしろ冬日の沈む海 清川とみ子
葬の前の物争ひや冬日落つ 石島雉子郎
蕪村忌や山ふところの冬日濃し 中田余瓶
薄き冬日枯木の瘤に集中す 菖蒲あや 路 地
薬塗るやうに冬日を背に当つる 岡本眸
藍生きて冬日の布に染み憑きぬ 柴田白葉女 遠い橋
藪の端を染むる冬日の仄かにも 飯田蛇笏 椿花集
虎臥城をはづれんとする冬日かな 京極杞陽
虚子育てたる予の国の冬日かな 上崎暮潮
蛇百頭百舌冬日嘗めてをり 松山足羽
蜂死して机上の冬日おとろへず 内藤吐天
蜘蛛歩く冬日の呉れし力だけ 中戸川朝人
街はろか冬日落ち込むところあり 小畑一天
裳の過ぎて瓦斯火片消ゆ冬日かな 宮武寒々 朱卓
襟白く坐して冬日を浄らにす 柴田白葉女
襟白く坐す冬日を浄らにす 柴田白葉女 花寂び 以後
見下してゐる間に冬日移る街 波多野爽波 鋪道の花
角を磨ぐ牛木隠れに冬日かな 乙字俳句集 大須賀乙字
詣で去る維摩の像に冬日かな 雑草 長谷川零餘子
誇らかに牛を撫でをり冬日の中 永田耕一郎 氷紋
豚どもは言葉あるごと冬日押す 桜井博道 海上
象には象の冬日ことりとある寝部屋 栗林千津
貝掘りやほぐれ波くる潟冬日 冬葉第一句集 吉田冬葉
貴重な冬日雑役夫の手がクレーン撫でて 磯貝碧蹄館 握手
賞与の額冬日はいつも斜から 北野民夫
赤松に冬日押し照る豪徳寺 高澤良一 宿好 十月-十二月
足柄古道よぎる蜥蜴の貌に冬日 高澤良一 ももすずめ 平成元年
足湿る冬日の巨象昭和逝く 柴崎左田男
路地路地に冬日が低し海の街 金箱戈止夫
追分の冬日溜めゐる路傍の石 長谷川かな女 花寂び
逃げ足といふが冬日にありにけり 粟津松彩子
通天の庇に冬日ありや無しや 後藤夜半
造船所砦のごとし冬日西 五十嵐播水 埠頭
遅起きの冬日が逃げてゐる芽鉢 林原耒井 蜩
道の辺や冬日にぬくむ塚の膚 小林康治 玄霜
道元元(もと)元(もと)冬日親鸞も亦また 永田耕衣 人生
道曲りはたと冬日に包まれて 千原叡子
道草の子の背に冬日落ちにけり 谷口桂子
遠くより見守るごとく冬日あり 遠藤睦子
遠く斑ら牛はつきり見えるそれだけの景色冬日の村 安斎櫻[カイ]子
那須五峰冬日に黒さつらねけり 渡邊水巴 富士
都心やや離れ冬日の塀洗ふ 木村蕪城 寒泉
野の冬日恋ひて逃避のこころ湧く 瀧春一 菜園
野の冬日貞任橋の上に燃ゆ 田村了咲
野を貫く郵吏貨幣以上の冬日の円 磯貝碧蹄館 握手
野鳩来る冬日の磨く句碑の上 長谷川かな女 花 季
金色を冬日はぐくみゐたりけり 松崎鉄之介
金輪際牛の笑はぬ冬日かな 飯田蛇笏
金魚田に冬日みごもり海の音(芭蕉のやどりし佐屋の渡(愛知県)は桑名行の舟だまりなりしが蒼海すでに陸と変じぬ) 角川源義 『神々の宴』
鉄を下し冬日の馬に水やりいる 古沢太穂 古沢太穂句集
鉈の刃をむけて冬日の光りけり 百合山羽公 故園
銀献納冬日が凍るいとまなし 萩原麦草 麦嵐
銅版画冬日堕ちゆき混み合う鳥 中島斌雄
鋏研ぐ老の背にある冬日かな 今泉貞鳳
鍵かけるうしろに冬日来てゐたり 谷口桂子
鎌倉の谷戸の冬日を恋ひ歩く 星野立子
鏡かけ派手に冬日の燃えつづく 柴田白葉女 遠い橋
門に消え門前の欅に冬日かな 石島雉子郎
防毒マスク路地駆け冬日呆けたり 岸風三樓
陸橋の風のむかうにある冬日 富澤赤黄男
隠れ岩冬日もつとも永かりき 齋藤玄 飛雪
雨戸引く顔にあたりし冬日かな 阿部みどり女
雨雲のどこかを渡りゐる冬日 塙告冬
雲にのる冬日をみたり仏山忌 飯田蛇笏 山廬集
雲を叱る神あらん冬日夕磨ぎに 河東碧梧桐
雲厚く大川ンに乗る冬日かな 松村蒼石 寒鶯抄
電車すぎ大き冬日が河に没る 柴田白葉女
青冬日めがけ火の山駈く砂塵 羽部洞然
靡かずに歪む冬日となりにけり 中田剛 珠樹以後
靴磨く街の冬日は肩に消ゆ 西島麥南
靴紐を結ぶ冬日を手ではじき 高橋沐石
顔に来る冬日に甘えつつ歩く 嶋田摩耶子
飛騨の山冬日とわれが今日は越ゆ 岡田日郎
食器重く座せば冬日は分裂す 岩田昌寿 地の塩
飢餓の手の習作冬日蕊ながし 宇佐美魚目 秋収冬蔵
首まで掘り土工の冬日すでに落つ 古館曹人
骨屑のごとき冬日や黒怒濤 齋藤玄 『狩眼』
髭焦げし猫がをるなり冬日宿 冬葉第一句集 吉田冬葉
魂しづむ冬日の墓地を通るかな 飯田蛇笏 雪峡
鯛寄るや千尋の底にさす冬日 白水郎句集 大場白水郎
鯨肉揚ぐ影が鯨肉に冬日かな 小原菁々子
鳥唄ふ冬日に深き愁ひとは 阿部みどり女
鴈やふたかみ山に冬日落つ 角川春樹 夢殿
鴉行く沖の冬日の覚えかな 齋藤玄 飛雪
鵜の群の栖み枯らす松の冬日かな 大場白水郎 散木集
鵜は舟に鴉は山に冬日かな 飯田蛇笏 霊芝
鶴摶てば冬日カラカラ壊れけり 富澤赤黄男
鶸わたる冬日の下はひろかりき 高橋馬相 秋山越
鷹とんで冬日あまぬし竜ケ嶽 前田普羅 新訂普羅句集
鸚鵡飼ふめしひにぬくき冬日かな 石原舟月 山鵲
鹽買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子
鹿の中鹿ひた急ぐ冬日かな 岸田稚魚
麦畑の起き伏し冬日わたるなり 瀧春一 菜園
●山日 山の日
あけび熟る鳥語に山日明るくて 福川ゆう子
冬シャツの十字架干しに山日射す 本宮鼎三
初秋の山日が崩す山の砂 長谷川かな女 雨 月
向ふ山日あたり今日の鳥屋仕舞 福田蓼汀 山火
四囲の山日暮れてをりぬ菜殻焼 小原菁々子
山日乗せ隠れ暮らしの紙を漉く 秋元不死男
山日濃く幹の匂へる大冬木 澤原たけお
山葵田の真向の山日当れる 岸田稚魚 筍流し
巡礼に山日を強ふる竹煮草 上田五千石 森林
枯木山日のしたゝりの菫照る 渡邊水巴 富士
枯木山日暮のいろを怺へをり 石嶌岳
檐の端に山日傾く温め酒 角田独峰
生き蛸の盛り上がる山日雷 平畑静塔
綿の山日ざせば雪の来るごとし 池上近志
自然薯の枯葉を金に山日濃し 上條勝
花の山日当る裾を濁り川 加藤耕子
菜園の夜露あきらか山日待 飯田蛇笏
*たらの芽に山の日のなほよそよそし 長谷川素逝 暦日
さいかちの莢に山の日風あらぶ 島田兎月
ゆつくりとかげる山の日種なすび 星野麥丘人
一日世を隔つ枯山の日だまりに 相馬遷子 山国
凧あがる衣笠山の日表に 比叡 野村泊月
夏萩に草山の日の影のさす 岡井省二
大年の山の日ぐれとなりにけり寒雷一つ澄みて霽れたり 穂積忠
山の日がげんのしようこの花に倦む 長谷川素逝
山の日が一尺とびぬ菊畑 萩原麦草 麦嵐
山の日が揺れて飯噴く霜の家 飯田龍太
山の日と八月青き栗のいが 長谷川素逝 暦日
山の日にまなこからして芒剪る 太田鴻村 穂国
山の日に乾きし野老かざりけり 鈴木薊子
山の日に山葵の許をもぎる音 萩原麦草 麦嵐
山の日に帰依して眉の冷たくて 岡井省二
山の日に扇冷たき風おこす 高橋馬相 秋山越
山の日に染めあげられし赤蜻蛉 吉村ひさ志
山の日に檜扇の実もはじけたり 細見綾子 黄 炎
山の日に汚れなき白水芭蕉 吉村ひさ志
山の日に焦げて草刈る麻衣 宇佐美魚目 天地存問
山の日に焼けてつとめのあすがまた 大島民郎
山の日に燃ゆるサルビア美術館 大津信子
山の日に玉虫彩をなしてとぶ 西野白水
山の日に荻にしまりぬ便所の戸 原石鼎
山の日に遊子きらめく柴屋寺 田中英子
山の日のあたたかかりし文化の日 鈴木しげを
山の日のしみじみさせば吾亦紅 鷲谷七菜子 天鼓
山の日のたつぷり詰まる栗届く 恵良いさ子
山の日のつぶさに鯉の水澄めり 神尾久美子 桐の木以後
山の日のところどころに蜻蛉の目 加藤耕子
山の日のどかと入りたる真葛かな 大峯あきら
山の日のもう一押しに木守柿 高澤良一 宿好 十月-十二月
山の日のわづかに伸びて冬芽紅し(箱根三句) 内藤吐天
山の日の俄かにまぶし蛭蓆 瀬戸 十字
山の日の凛々として木の実瑠璃 内藤吐天 鳴海抄
山の日の射し込んでゐる茸鍋 粟津松彩子
山の日の少し濡れたる茄子の花 丸田肇
山の日の林檎枯れ立つもののうち 古舘曹人 能登の蛙
山の日の極楽いろに鴉の子 柴田白葉女 『月の笛』
山の日の氷柱をのぼる梁框 古舘曹人 樹下石上
山の日の深く入り来し冬座敷 稲畑汀子
山の日の焦げて小粒の吾亦紅 岡部名保子
山の日の照り疲れして*ごりの汁 鳥居おさむ
山の日の燻り落ちたり旗すすき 岩村牙童
山の日の片頬あつき濃竜胆 富安風生
山の日の翳るはやさぞ初ざくら 根岸 善雄
山の日の草の日となる野海棠 古舘曹人 樹下石上
山の日の落つれば夜や昼寝さめ 癖三酔句集 岡本癖三酔
山の日の薄きにひろげ蕎麦の花 吉年虹二
山の日の軒を過ぎゆく目自籠 猪俣千代子 堆 朱
山の日の透きとほる日の破芭蕉 細川加賀
山の日の障子にありて寒見舞 高室呉龍
山の日の霧に捲かるる朝寒き 臼田亜浪 旅人
山の日はうなじにぬくし落葉踏む 福田蓼汀 山火
山の日はここ草木瓜の赤に消ゆ 影島智子
山の日はやさし障子の内外かな 江口千樹
山の日は中天にあり蝶の舌 志賀佳世子
山の日は五倍子の蓆に慌し 阿波野青畝
山の日は如来の裏に凧 古舘曹人 砂の音
山の日は山へ帰りて豆の花 今井杏太郎
山の日は掬ふほどなり冬の蝶 田口章人
山の日は月より淡し霧紅葉 福田蓼汀 秋風挽歌
山の日は爽涼吾等早起す 高木晴子 花 季
山の日は鏡のごとし寒桜 高浜虚子
山の日をまぶしみふくむ一位の実 上村占魚
山の日を讃へやまざる初電話 木村蕪城
山の日を集めて御師の障子貼 田中俊尾
山の日を頼りに接ぎし木なるかな 月舟俳句集 原月舟
山の辺の道の子の日の遊びかな 秋山まさあき
山近く山の日つよし麦を蒔く 阿部みどり女 笹鳴
当たりゐし山の日を花逸したり 高澤良一 ぱらりとせ 春
戸隠山の日暮がおそふ焚火かな 鷲谷七菜子 游影
春蘭の曾ての山の日を恋ひて 高浜虚子
柚子湯出て枯山の日に歩きけり 石原舟月
柚湯出て枯山の日に歩きけり 石原舟月
梅干や豁然として四山の日 西島麦南 人音
温泉山の日闌けたり花圃に人声す 宮武寒々 朱卓
紙干すや農民一揆の山の日に 影島智子
落ちぎはの山の日のある注連飾り 福島 勲
葛の葉の化粧ふに山の日の加勢 高澤良一 宿好 十月-十二月
蕎麦刈にかまはず山の日は落ちぬ 菅原師竹
足袋干すに薄き山の日ななかまど 稲垣きくの 牡 丹
雪の果山の日あたる障子かな 龍雨
頂に山の日のこる桐の花 佐藤美恵子
鴨啼いて山の日暮をさそひけり 福永みち子
●夕映え
あぢさしに夕映え雲や戎克(じゃんく)泊つ 千代田葛彦 旅人木
あめんぼう夕映さめて散りにけり 草坡句集(水野草坡遺稿) 水野草坡
かいつぶり人は夕映着て帰る 林翔
かげろふの命微塵に夕映えて 高橋たか子
こころ燃ゆ夕映え燃ゆる束の間は 三橋鷹女
しかすがに梅雨の夕映え行々子 鈴鹿野風呂 浜木綿
なめくぢも夕映えてをり葱の先 飴山實 『辛酉小雪』
モンローも死ぬ夕映えの木蔭の湯 八木三日女 赤い地図
一本が一本としてきわだてる雑木林の夕映えのとき 沖ななも
今年より子が植ゑし田よ夕映えて 田辺キヨ子
優曇華やかく夕映えの我家にも 杉山 岳陽
公魚舟つぎつぎ蛻き夕映えぬ 千代田葛彦
冬泉夕映うつすことながし 柴田白葉女
刈田の夕映え車窓に躍り眠くなる 田川飛旅子 花文字
初袷夕映ゆる樹を押して見たり 中島月笠 月笠句集
地に子供春の夕映母のごとし 三谷昭 獣身
地の涯に夕映ありぬ青すゝき 堀口星眠 火山灰の道
夏山の萱の刈あと夕映えぬ 瀧春一 菜園
夏老いし夕映うつる鏡かな 久保田万太郎 流寓抄
夕映えてうつせみに踏む寒浄土 相馬遷子 山国
夕映えて不作の稲に空やさし 相馬遷子
夕映えて夜の影持てる枯木かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夕映えて海女とらへをり新茶売 石田波郷
夕映えて雪の奥嶺のあぶり出し 堀口星眠 営巣期
夕映えにひそまりしのちふかき闇引寄せて闇にかがやける樹よ 新井貞子
夕映えに一人づつおく夏帽子 有泉公子
夕映えに向つて泳ぐ一人かも 文挟夫佐恵 黄 瀬
夕映えのはげしき雛をかざりけり 石田郷子
夕映えのオホーツクを背に魚箱うつ 福田甲子雄
夕映えの一村囲む桑若葉 桂 信子
夕映えの中に揺るるは祖母と紫蘇 田口満代子
夕映えの淵おそろしやかたつむり 飯田龍太
夕映えの空に海月ののぼる見え 仙田洋子 橋のあなたに
夕映えの遠き焚火は地の吐息 林 翔
夕映えの雲より生れし鶴の棹 今井つる女
夕映えは水に流れて凌霄花 川崎展宏
夕映えや茂みの漏るる川の跡 丈草
夕映えをもつともまとひ諸子売 石田勝彦
夕映えを延ばしてをりぬ春渚 今井誠人
夕映えを長びかせをりブラシの花 高澤良一 ももすずめ 平成元年
夕映と灯にしづもりぬ蝌蚪の水 久米正雄 返り花
夕映に何の水輪や冬紅葉 渡辺水巴
夕映のしばらく倚るは冬襖 角川源義
夕映の残る虫より淡くして 相馬遷子 山河
夕映の端からくづすかき氷 鎌倉佐弓
夕映の蚊柱の胴緊めがたし 澁谷道
夕映の赤土すみれも濃くなりしよ 香西照雄 素心
夕映や沙魚釣もどる土堤の上 寺田寅彦
婆のよだれは自然夕映えの喉に 大沼正明
寒き夕映え被爆ドームを宙にして 岸 風三楼
寒林讃根元根元で濃き夕映 香西照雄 素心
山々の夕映のくるスキー場 京極杞陽
方舟に乗せむ夕映え色の鮭 櫂未知子 貴族
時雨虹かけし浅間嶺夕映える 安藤衛門
林檎もぐ夕映えの八ケ岳真向に 柳 清子
橇を曳く子の丹の頬よ夕映よ 中島斌男
檐近き夕映空や鳥帰る 寺田寅彦
海中の真珠におちて夏夕映え 和知喜八 同齢
渡り蟹いろの夕映え額染めて 高澤良一 ぱらりとせ 夏
父の日の河口バツハの夕映よ 熊谷愛子
独活の実や雲の夕映身に染まず 渡邊水巴 富士
玉葱にとまる金蝿夕映えて 岸本尚毅 鶏頭
甘蔗刈る夕映えなかき海を背に 井関昌子
秋の雨からりと晴れて夕映す 寺田寅彦
秋夕映えの真顔ばかりが揺られをり 森 澄雄
秋夕映の海より来たり鮃の死 森澄雄 花眼
秋茄子や峡の夕映え地には来ず 馬場移公子
箒木の茫々として夕映えぬ 杉山岳陽 晩婚
胡頽夕映えまづ仔がのぞく厩口 矢島房利
芥子咲くやけふの心の夕映に 水原秋櫻子
花南瓜夕映遠くなりにけり 五十崎古郷句集
花明り夕映の黄が退りつつ 香西照雄 素心
菜の花や夕映えの顔物をいふ 草田男
萩束ね山夕映えとなりにけり 関戸靖子
蟹あゆむ刈展べ若布夕映えて 金子 潮
裏梅も見えて夕映ゆ老木かな 渡邊水巴
豆畑に吸筒ぬるみ夕映す 寺田寅彦
豊年や夕映に新聞を読み 加畑吉男
賞与月疲れざる顔夕映えよ 香西照雄
軍鶏乳み蕗絮とびて夕映えぬ 飯田蛇笏 春蘭
金色の夕映え鶴を呼びもどす 原裕 『出雲』
雄阿寒に長き夕映え洗鯉 奈良文夫
雲のみに夕映えのこる水芭蕉 中村信一
風呼ぶ夕映え花菜は金の環浮かべ浮かべ 古沢太穂 古沢太穂句集
飛魚干して夕映ながし廓あと 北見さとる
驟雨過の道の夕映え明日香村 奈良文夫
鯛よ潮どき夕映えはふるえるもの 渋谷道
鳳凰の夕映えしづむかきつばた 桂樟蹊子
鶴わたるかぎり夕映消えまじく 水田のぶほ
鹽竃は夕立すらん沖夕映 寺田寅彦
麦枯れて鮎の水上夕映えぬ 石原舟月 山鵲
鼻の差に敗れたる馬いつまでも夕映えのなか戻りきたらず 小高賢
●夕日
*たらの花汚れ夕日をとほくせり 小松崎爽青
あからひく風の夕日や牛蒡引 小倉栄太郎
あつ過ぎる行水にさす夕日影 飯田蛇笏 山廬集
いちにちの大暑の夕日嶺が曳く 雨宮抱星
いつとなく夕日の黄ばむ小はるかな 素丸
いつまである母との夕日夕牡丹 古賀まり子
いつまでも夕日沈まず行々子 森田峠 避暑散歩
いつまでも夕日離さぬ凌霄花 須賀井せつ子
いまありし夕日の跡の冬霞 野沢節子
いまに自爆かオロロン岬の物憂い夕日 楠本憲吉
うしろよりさし込む夕日菊花展 深見けん二
うらがれや遠樹は夕日うちかむり 木下夕爾
おかめ等が夕日呼び込む酉の市 高澤良一 宿好 十月-十二月
おきまつり夕日を桑の中におき 草津平
お彼岸の朱の全円の夕日かな 福田蓼汀 秋風挽歌
お花畑夕日夕月左右に懸け 岡田日郎
かきつばた伊勢の夕日は櫛比して 八田木枯
かげりなき夕日や砂糖黍を刈る 橋本榮治 麦生
かげりゐし春の夕日のまた射して 京極杞陽 くくたち下巻
かたくりの花に夕日の端とどく 井上あい
かどはかされて熊手ゆくごと夕日の中 高澤良一 ももすずめ 昭和拾遺
かなかなや夕日のあとの海の紺 中拓夫
かなかなや夕日を知らぬ谿の村 鷲谷七菜子 花寂び
かまつかに集る夕日ありにけり 野口弥生
きちきちの翔てば金色夕日谷 野澤節子 遠い橋
きりぎりす夕日は金の輪を累ね 友岡子郷
きりぎりす夕日地を射ることもなし 曹人
くれなゐや夕日もへたつ雉子の声 立花北枝
くろもじの咲くを夕日が教ふなる 宮津昭彦
げんげんや夕日眩ぶしく人の声 笹沢美明 春光秋色
げんげ田に新妻おけば夕日匂う 赤城さかえ
げんげ野に夕日の海を見てゐたり 伊藤いと子
この指にとまれ夕日も綿虫も 大石 悦子
こまやかに夕日の萩の言葉かな 宮津昭彦
さくら散る海の夕日に耐へがたく 関森勝夫
ささ啼のとぶ金色や夕日笹 原石鼎
さざなみに夕日を加へ鱒の池 森 澄雄
さるすべりに夕日曼陀羅師を葬る 伊藤京子
しかと見る冬至をきのふなる夕日 皆吉爽雨 泉声
しぐるるや夕日残れる原くらし 立花北枝
しもふさの夕日冷たき大根引 落合伊津夫
しやぼん玉夕日を入れしまま消えぬ 加藤瑠璃子
しらしらと青田痩せさす梅雨夕日 古沢太穂 古沢太穂句集
じやがたらの花や夕日をあそばせて 大岳青児
せんだんの花に夕日の波がしら 青柳志解樹
そこはかと夕日ただよひ萩枯るる 橋本鶏二 年輪
たばこ干す山田の畔の夕日かな 其角
ちんぐるま飛騨の夕日に絮もえて 村上 光子
つかのまの夕日のせたり蜆舟 藤井寿江子
つくつく法師夕日とどまる二上山 角川春樹 夢殿
つつじ燃ゆ海の夕日の惜しみなく 枡田国市
つばめ帰り街角の夕日ひそけしや 内藤吐天 鳴海抄
つるし雛夕日とろりとまとひをり 武内婦美子
てのひらに山繭春の夕日透く 沢木欣一
てりたてて夕日うすづけ初もみぢ 野童 九 月 月別句集「韻塞」
とどわらの夕日に撓む荻のこゑ 沼澤 石次
とほき神隠し夕日の雪解川 子郷 (笛吹川)
とんぼうや夕日の羽のよろこべる 石川桂郎 四温
とんぼ竿消えたる池を夕日占む 関森勝夫
どさどさと夕日に落ちぬ塔の雪 前田普羅
どさ〜と夕日に落ちぬ塔の雪 前田普羅 新訂普羅句集
どんぐりの山から山へ夕日の軍歌 櫻井博道
なつかしむなり胼の手に夕日あて 村越化石
ななかまど夕日より道走りだす 永田耕一郎
なまぬるき夕日をそこに竜の玉 岸田稚魚 筍流し
にわとりを殺めて剥ぎし掌の記憶遠き故郷に夕日が当たる 三枝昂之
ぬひ物の障子に冬の夕日かな 巴流娘-鴎子 俳諧撰集「藤の実」
ぬり笠や若葉にしづむ夕日かげ 水田正秀
ぬり笠や青葉にしづむ夕日影 水田正秀
ねじばなに落ちし夕日が丹生に照る 斎藤玄 雁道
ねずみもちくすみ初めたる実に夕日 高澤良一 さざなみやっこ 秋
ねんねこの衿は天鵞絨夕日の野 岡本まち子
はたはたがたち陵の夕日澄む 落合伊津夫
はたはたの夕日にもどる砂の上 古館曹人
ひつぢ田に紅葉ちりかゝる夕日かな 蕪村 秋之部 ■ 高尾
ひつ〜と冬木鳴る丘の夕日かな 乙字俳句集 大須賀乙字
ひとりには余る夕日を花野道 黒滝志麻子
ひばり鳴く夕日の墓に顔があり 石原舟月
ひよどりのさわぎ夕日のどまんなか 松澤 昭
ふたかみの夕日を吸ひて柿赤し 大東 晶子
ふり返る夕日の高さ枯尾花 稲畑汀子
ぶらんこに夕日を乗せてまたあした 田中由喜子
べたべたの柿食べ夕日落ちし空 桜井博道 海上
べつたら市ビルのあはひの夕日どき 草村素子
ぼんのくぼ夕日にむけて火鉢哉 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
まくなぎのここぞと毬を夕日中 小檜山繁子
みずすまし故郷の夕日裏返す 平井久美子
みぞそばに沈む夕日に母を連れ 中村汀女
みちのくの夕日あまねき冬木かな 五所平之助
みちのくや玉よりまろき春夕日 原コウ子
みづうみの長き夕日に雁きたる 百合山羽公 故園
みはるかす新羅国原すすきに夕日あるところ 山本木天蓼
みんみんに夕日の割れむばかりなり 奥坂まや
むかご飯夕日がくらくなりにけり 永作火童
むぎぶえは夕日も知らず山へ山へ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
むらさきのあやめの夕日わが額に 阿部みどり女
もろこしの葉にやはらかき夕日さす 山口いさを
やのむねの麦や穂に出て夕日影 内藤丈草
やぶ入りの二日になりし夕日かな 大江丸
ゆく夏の幾山越えて夕日去る 飯田龍太
ゆく径の夕日に消えて鳴く雲雀 金尾梅の門 古志の歌
ゆるぎなく夕日とどまる枯木山 松村蒼石
よれよれとなりて夕日の山車を曳く 高澤良一 ももすずめ 平成三年
れんぎよう、月が月の色になるまでの夕日で 荻原井泉水
わが来し尾根わが来し雪渓夕日さす 岡田日郎
わが死後の夕日とどまり葱坊主 塚原哲
わさび田の小流れ夕日返しけり 高澤良一 ぱらりとせ 夏
わたりふたつ見えて夕日の柳哉 高井几董
アルプスの夕日に赤し林檎園 粟津松彩子
コスモスに夕日はいつも揺れて落つ 横山白虹
チツチ蝉夕日炎となる蔵二階 野澤節子
デコポンに瀬戸の夕日の大きこと 高澤良一 寒暑 四月-六月
ビアガーデンに夕日まだある誕生日 内田美紗
プールサイドに夕日の裸母が待つ 大井雅人 龍岡村
ラグビーの敗者の引きし夕日影 三井千秋
ラベンダー畑や夕日を瑠璃色に 青柳志解樹
ロゼワイン花野の夕日窓に冷え 村上 光子
一しきり木の実落ちたる夕日哉 前田普羅
一人静に跼めば夕日来迎図 山田みづえ 手甲
一合の飯に夕日のとどまれり 谷口桂子
一抹の雪雲はしる春夕日 前田普羅 飛騨紬
一村の夕日戸毎の柿にあり 石川星水女
一村の柿紅葉して夕日哉 寺田寅彦
一村は夕日をあびる紅葉哉 正岡子規
一皿に海髪のあふるる夕日かな 柚木紀子
万歳の烏帽子さげ行く夕日かな 闌更
万緑に沈む夕日の朱を見たり 福田蓼汀 秋風挽歌
丈山の夕日じまひや笹啼ける 安東次男 昨
三椏の花や雪照る夕日受け 及川貞 夕焼
上り簗花に夕日の残りけり 長谷川零余子
下金色の夕日に菜を間引く 高澤良一 ももすずめ 平成元年
下闇を出て春日野になほ夕日 赤松[けい]子 白毫
久々の夕日手袋の手をかざす 細見綾子
九頭竜の夕日は熟るる麦の上 黒田桜の園
乾鮭に吹雪の夕日あたりけり 名和三幹竹
二上に夕日の降(くだ)つ花菜かな 角川源義 『神々の宴』
二上山の夕日かへして鳥威 面地豊子
二日はや風のとらへし夕日かな 高橋潤
五倍子をさつさと夕日通り過ぎ 岸田稚魚
井田川に夕日集めて風の盆 若島風久
人去つて冬至の夕日樹に煙り 桂信子 花寂び 以後
人参の掘り出してある夕日かな 大串章
人日の夕日のなかを雨が降る 内田美紗
今日もまた夕日見てゐる案山子かな 佐土井智津子
今消ゆる夕日をどつと屏風かな 山口青邨
仏桑花凋み夕日も力失せ 能田みち
仙人掌にそれほど高くなき夕日 星野高士
仲秋や夕日の岡の鱗雲 村上鬼城
伽羅蕗の煮染まる鍋や夕日影 滝川愚仏
低空の夕日を掬ひ初つばめ 住谷不未夫
優曇華に夕日さしゐる京都御所 飯田龍太
元日の夕日さしをり床柱 金尾梅の門 古志の歌
元日の夕日金閣かがやかす 倉光迪子
全円の夕日に憑かれ海枯るる 河野南畦 湖の森
八月尽の赤い夕日と白い月 中村草田男
冬の切株夕日量なす人群なす 岩田昌寿 地の塩
冬の滝朝日夕日もなき巌 野沢節子
冬山の樹々の貌に夕日がある 石橋辰之助 山暦
冬日今日夕日とならず暮れにけり 嶋田摩耶子
冬濤をかぶりて沈む夕日かな 橋本鶏二 年輪
冬田より夕日の鴉上田城 大野林火
冬紅葉およそ夕日になづみけり 松村蒼石 雁
冬蝶や夕日しばらく野をぬくめ 斎藤 道子
冬青菜したゝる夕日ごと背負ふ 北沢瑞史
冬鵙となる一幹に夕日透き 神尾久美子 掌
冷し牛夕日いよいよ真赤なり 村山古郷
冷ゆる夕日遠き貨車より人顔出す 古沢太穂 古沢太穂句集
凌霄に井戸替すみし夕日影 西島麦南 人音
凍原の剥落鳥は夕日より 対馬康子 愛国
凍豆腐夕日の赤も温みなし 八牧美喜子
凍雲を夕日貫き沈みけり 福田蓼汀 山火
凩や海に夕日を吹き落す 夏目漱石
凩や海日夕日を吹き落す 漱石俳句集 夏目漱石
切干や涙目となる夕日あり 山本洋子
初冬の尾花にきらふ夕日かな 古白遺稿 藤野古白
初凪やワイングラスにある夕日 小高沙羅
初稲架に夕日沁み入る音のあり 永方裕子
初電車沈みし夕日また現れて 柳澤和子
初髪に映ゆる夕日をいとほしむ 五所平之助
北風凪ぎて夕日のしみる桐畠 麦生
千人の摂待すみて夕日かな 浜田波静
千鳥ゐる夕日が広くさす渚 高木晴子 花 季
半蔀や夕日こぼるゝ濃もみぢを 及川貞 夕焼
単衣着て足に夕日のさしゐたり 橋本多佳子
卵黄のよな夕日に冷えて芽木をゆく 佐野良太 樫
厨子の箔夕日に古び出開帳 近藤一鴻
双子山脊肩のさむい夕日哉 滝井孝作 浮寝鳥
口あけた封筒へ河の夕日満たす 林田紀音夫
口の辺に夕日流るるいぼむしり 加藤楸邨
古利根の夕日に灼けて蘆枯れし 石井とし夫
叩きたき肩の親しさ夕日の稲架 大井雅人 龍岡村
台風の大き夕日を残しけり 塚原静枝
号令が谺す夕日の小学校 斎藤康子
吊し柿縄目夕日の濃かりけり 近藤一鴻
名月や夕日にむかふ宮ざかな 塔山 芭蕉庵小文庫
向日葵の高さ夕日を捉へをり 清水忠彦
向日葵をふり離したる夕日かな 友次郎
吾亦紅夕日つめたくなりにけり 草間時彦 櫻山
吾亦紅夕日といへど眼に痛し 福永耕二
吾亦紅夕日の雑木くすぶりぬ 山口草堂
喉仏痒し夕日の稲の花 和田耕三郎
喪天に疲れし夕日松に没る 阿部みどり女
噴き出でし夕日も千々に藪からし 百合山羽公
囚人去りし畑の夕日に烏来し シヤツと雑草 栗林一石路
四万六千日の夕日の涼しさよ 外川飼虎
四迷忌の夕日いつまで水のうヘ 鷲谷七菜子 花寂び 以後
圏谷の雪田風吹き夕日さす 岡田日郎
土用波夕日の力まだのこる 桜井博道 海上
土筆野や夕日も山も涙ぐむ 阿部みどり女
土蔵の村夕日があれば母がいて 北原志満子
土蜂や夕日の弱き頃をとび 山口誓子
土間移る夕日の重さ蓬餅 桂信子 黄 瀬
地吹雪の野を抜けきって夕日あり 奥田智久
坂かけて夕日美し竹の春 中村汀女
坊主雲夕日かぶつて哀れなり 太田鴻村 穂国
場末で夕日となつてころがつてゐた シヤツと雑草 栗林一石路
堺では夕日疲れの花かぼちや 藤田あけ烏 赤松
塗りあげし畦の掌型へ夕日澄む 吉田鴻司
塵取も夕日の中や日短き 銀漢 吉岡禅寺洞
墜ちてゆく 炎ゆる夕日を股挟み 三橋鷹女
壁の夕日に痩外套や腕たらす 角川源義
売れ残るラムネに秋の夕日哉 寺田寅彦
変化いま午の日夕日白障子 皆吉爽雨
夏夕日石柱青き薔薇をまとふ 太田鴻村 穂国
夏痩の我影長き夕日哉 寺田寅彦
夏痩や夕日に長き影法師 寺田寅彦
夏花摘夕日のやうな朝日つれ 石嶌岳
夏萩やすいすい夕日通り抜け 大野林火
夏雲の夕日のうへをとびて暮れぬ 石橋辰之助 山暦
夕 日 に 夕 刊 が き た 山頭火
夕日あかあか浴衣に身透き日本人 中村草田男
夕日あか〜浴衣に身透き日本人 草田男
夕日あび担架舁きくるは遮蔽せず 片山桃史 北方兵團
夕日あるかぎりは畦を塗りやめず 石井とし夫
夕日いま百株の菊に沈まんと 阿部みどり女
夕日いま藤の一ト房捉へたる 浅賀魚木
夕日いま雁来紅にあるばかり 益田 白堂
夕日いま高き実梅に当るなり 星野立子
夕日うつすり畑の人遠くなつかしく シヤツと雑草 栗林一石路
夕日おつるにこの木のみ静まりかねし シヤツと雑草 栗林一石路
夕日かげ松のあしらふ紅葉かな 水田正秀
夕日かなし春の蚊柱だけに差す 加倉井秋を 午後の窓
夕日が来て枯向日葵に火を放つ 三橋鷹女
夕日が逃げる稲田黍原北信濃 古賀まり子 緑の野以後
夕日くわつと山茶花に妻おどろきぬ 栗林一石路
夕日さしカットグラスの一雪嶺 岡田日郎
夕日さす仏の国の仏桑花 松本苳日
夕日さす他郷の春の扉かな 柴田白葉女 花寂び 以後
夕日さす元日の野の水緊り 原裕 葦牙
夕日さす峠の白膠木紅葉かな 山本順子
夕日さす波の鯨や片しぐれ 巴人
夕日さす漬物樽や秋暑し 内田百間
夕日さす青田に霧のありしなり 佐野良太 樫
夕日ざらざらと人送る群の一人なる シヤツと雑草 栗林一石路
夕日すこし川底にあり秋蚕村 古賀まり子
夕日だるし浅蜊を量る音こぼれ 松村蒼石
夕日とは別のやさしさ吾亦紅 橋爪四季
夕日どき製鉄所も影を枯芦へ 宮津昭彦
夕日なほ濃き一群の雪嶺あり 岡田日郎
夕日について考える人はなべて棒立ち 細谷源二
夕日に夏からの崖の人夫ら シヤツと雑草 栗林一石路
夕日に尻をむけ明るく静かなる牛 シヤツと雑草 栗林一石路
夕日のなか時には認識票磨く 鈴木六林男 荒天
夕日の大団円 印度の最南端 伊丹三樹彦 写俳集
夕日の宿消え入りさうな手毬唄 大野林火
夕日の岳冬帽おのず脱ぎ仰ぐ 川村紫陽
夕日の手伸び米倉は枯野の繭 大井雅人 龍岡村
夕日の机で旅のたより書く 山頭火
夕日の母はためき冬は空より来る 桜井博道 海上
夕日の筋に胡蝶むらがる 史邦 芭蕉庵小文庫
夕日の蔦紅葉もつと赤い蔦紅葉かなた 安斎櫻[カイ]子
夕日まだたかきにありぬ川施餓鬼 藤田あけ烏 赤松
夕日まで刈つてしまひし芦刈女 龍神悠紀子
夕日みる青鷺の眼となれず見る 大木あまり 火のいろに
夕日めがけて鞭あぐる馬車はまろびゆく 芹田鳳車
夕日もろとも風にはためく紅蜀葵 きくちつねこ
夕日より人歩みくる暮春かな 鷲谷七菜子 游影
夕日より濃き桜桃を竿秤 有馬朗人 天為
夕日より降り隣人の柿くるる 佐野美智
夕日わが総身照らす枯蕨 岡田日郎
夕日を浴びて何かつらつら咲いて居し 雲の音 芹田鳳車
夕日中甘柿渋柿裸木に 杉本寛
夕日今奥湯河原の山桜 星野椿
夕日今枯野の大を現じけり 東洋城千句
夕日今芦の花より低きかな 高田風人子
夕日傘さして高野に着く女 京極杞陽
夕日傘さして高野に著く女 京極杞陽
夕日凍み石塁矢竹生ひにけり 冨田みのる
夕日向のみの犬小屋寒の入 香西照雄 素心
夕日寒檻の奥処のはや暗く 三谷昭 獣身
夕日射す木の間人の間秋まつり 廣瀬直人
夕日嵌む遠き窓あり風車 小池文子 巴里蕭条
夕日差し芽吹き浮きたつ別れかな 高橋良子
夕日影せきて古簾や竹の秋 飯田蛇笏 山廬集
夕日影町一ぱいのとんぼ哉 一茶
夕日影町半に飛こてふ哉 榎本其角
夕日影競漕赤の勝とかや 高浜虚子
夕日影蟹も晩夏の眼なりけり 村越化石 山國抄
夕日影道まで出づるかがしかな 黒柳召波 春泥句集
夕日得て翔けむばかりに雪の比良 佐野美智
夕日惨休戦めきて案山子満つ 草田男
夕日抱く大萩黄葉なりしかな 山田弘子
夕日明るき谷間を思い靴縫う友 大井雅人 龍岡村
夕日明るく朝日は暗し紅椿 加藤知世子
夕日枯れ人智の極へ神の畏怖 小松崎爽青
夕日消え岩にまぎれし岩桔梗 岡田日郎
夕日消ゆ山吹草の黄を溶かし 木村恊子
夕日濃く懸かり雪水街に溢る 松村蒼石 雪
夕日燃ゆる岩うつてとぶ燕かな 金尾梅の門 古志の歌
夕日真赤に湖へ葉ふるふ若狭柿 西村公鳳
夕日肩に手応へつよき麦を刈る 皆川盤水
夕日背に黒々と山眠りたる 稲畑廣太郎
夕日草にあり邯鄲の鳴き始む 高木晴子
夕日荒く浜豌豆に尾を引けり 大野林火
夕日落ちたるを見とどけて二階をおりる シヤツと雑草 栗林一石路
夕日落つれば山はしんしんと尖り立ち シヤツと雑草 栗林一石路
夕日落つ雪山の裏は明るからん 岡田日郎
夕日負ふ竹の子路傍菩薩とも 荒井正隆
夕日赫っと枯野白堊にぶつかり来 竹下しづの女 [はやて]
夕日透けし雲雀の羽は確かみどり 香西照雄 対話
夕日逐ふ乗合馬車の寒かな 夏目漱石 明治二十九年
夕日通す居間の照り返す襖古びぬ 梅林句屑 喜谷六花
夕日野のたんぽぽのみな絮となり 冨田みのる
夕日鳥影はるかより枯るゝ木ヘ 原石鼎 花影以後
夕日鵙朴直な木を見付けたり 久米正雄 返り花
夕顔のひらきし蕊は夕日得し 中村汀女
夕顔の開きし蕋は夕日得し 中村汀女
多摩の夕日のどこへ納める松ならむ 加倉井秋を
大寒の夕日をはじき竹襖 荒井正隆
大寒の残る夕日を市の中 石橋秀野
大年の夕日当れる東山 五十嵐播水 播水句集
大年の夕日見にくる奴らなり 夏井いつき
大年の夕日見に来る奴らなり 夏井いつき
大松の夕日見なれし麦の秋 長谷川かな女 雨 月
大江山の夕日に干して柿の皮 猿橋統流子
大海の振子の夕日へ跳ぶ蛙 野ざらし延男
大皿に平鰤海に夕日かな 内野修
大綿の夕日消えいて吾にかえる 古沢太穂 古沢太穂句集
大花野夕日とどまるところなし 鬼島雄司
大花野夕日は赤き玉となり 中村明子
天は碧く雲白く狗ひんの鼻に夕日影 日夏耿之介 婆羅門俳諧
太宰忌の夕日まるごと沈みゆく 中村明子
夫子の墓秋の夕日の別れかな 阿部みどり女
奥へ奥へ夕日を送り山眠る 大野林火
女人高野河骨残花は夕日いろ 中村明子
姿鏡に映る楓の夕日かな 井月の句集 井上井月
子が駆けて秋の大きな夕日の輪 永田耕一郎 雪明
孤児達に真向よりの秋夕日 石橋辰之助
完熟のトマトを夕日よりはづす 南 うみを
実柘榴や夕日の奥の絵本棚 能村研三 騎士
実石榴のはじけて夕日集めけり 中村 佳子
家ひとつ夕日浴びゐる栗の花 小林 兌
家をめぐりて今年の夕日おくるなり 臼田亞浪 定本亜浪句集
家裏に廻る夕日や花みづき 草間時彦 櫻山
家裏へ廻る夕日や花みづき 草間時彦
富士川の淡き夕日に崩れ簗 上田孤峰
寒く居れば茜こぼるゝ夕日かな 小澤碧童 碧童句集
寒木に夕日おだやかなる退庁 榎本冬一郎 眼光
寒林の影起ち上る夕日かな 北野登
寒梅に夕日の真紅浸み透る 笹尾操子
寒鴉とんで夕日の枝つかむ 井上雪
寝て窓へのせしあうらを夕日が染め 川口重美
小供等さけび居り夕日に押合へる家 尾崎放哉
小窓より夕日藤村遺稿冷ゆ 鷲谷七菜子 花寂び
少年帰る夕日の根雪蹴りながら 飴山實 『おりいぶ』
尺蠖の夕日は掴みがたきかな 大類孝子
尾根に延ぶエーデルワイス夕日の的 影島智子
屋上のタンクに夕日冬ぬくし 林原和枝
山かげに夕日とどかぬかりんの実 小笠原須美子
山ざくらに夕日円山川に夕日 山田弘子
山つつじ海に見よとや夕日影 智月 俳諧撰集玉藻集
山に触れ春の夕日の崩れたり 吉原文音
山の枯柏夕日がきて炎やす 和知喜八 同齢
山の蟻大き夕日を引きに出て 野沢節子 八朶集以後
山より朝日山より夕日稲の花 岡田日郎
山を去る顔にかすかに夕日の熱 大井雅人 龍岡村
山吹草夕日うするる隠れ里 桑山ヨシミ
山国や夕日くもらす草蚊遣 近藤一鴻
山女の斑見えきて夕日すでになし 下田稔
山川と夕日をわかつ赤とんぼ 滝佳杖
山眠る夕日の溜り場をふやし 村越化石
山繭に風花あそぶ夕日かな 荒井正隆
山繭の脱けがら夕日青みたり 六角文夫
山肌を夕日が照らすみちひとすぢ 柴田白葉女 『月の笛』
山茱萸の弾けてぽっと夕日中 高澤良一 宿好 一月-三月
山茱萸の窶れ夕日にあはれまる 高澤良一 素抱 一月-三月
山茶花の夕日ひとひら剥がれけり 林 翔
山茶花の根もとの夕日掃きにけり 西山誠
山茶花や夕日の枝に花多き 鈴木花蓑句集
山茶花や夕日の窓を開きけり 餘生遺稿 鈴木餘生、大曲省三編
岬鼻に夕日つかの間寒波来ぬ 伊藤京子
峡の白鷺夕日はものを細うなす 中村草田男
崕下の浪の夕日や東風の中 増田龍雨 龍雨句集
崖歯朶に斑の夕日柴盗む 徳弘純 非望
崖赫く溶けずに昏るる夕日の霜 赤城さかえ句集
崩れかゝる簗に夕日のちらりちらり 仙波花叟
嶺々涼しどこからどこまで夕日さし 岡田日郎
嶺降つて夕日涼しき釣座かな 金尾梅の門 古志の歌
川の砂夕日に流れゐる盛夏 松村蒼石 雪
川狩の夕日まばゆうなりにけり 羅蘇山人
巣の鳥の顔出している夕日かな 星野麦人
巣箱かけて少年夕日まみれなり 増永安子
市の坂に春の夕日を見て吃りし 鈴木六林男 悪霊
帰路の友にぶし雪嶺は夕日得て 大井雅人 龍岡村
常よりも今日の夕日の芒かな 尾崎迷堂 孤輪
幕切れのごと雪嶺の夕日消ゆ 岡田日郎
干し煙草峡の夕日は家貫く 桜井博道
干し煙草峡の夕日は家貫く 桜井博道 海上
年木割る夕日に僧の眉太き 羽田岳水
年用意朝日も夕日も大きくて 大峯あきら
年終る運河の夕日肉色に 三谷昭 獣身
庭先に凧落かゝる夕日哉 寺田寅彦
弱い夕日にガソリン匂ふ雛祭 桜井博道 海上
彼岸太郎水田に大き夕日据ゆ 西村公鳳
徂く春のばつたり会ひし夕日かな 岸田稚魚
後れ馬いさぎよからぬ夕日かな 柑子句集 籾山柑子
徐々に憂し夕日の牡丹恋に似て 殿村莵絲子 雨 月
微塵蚋夕日にまひて斃ちゆけや 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
息つめ見まもる砂塵の渦の中の夕日 三谷昭 獣身
懸崖菊夕日の色を重ねけり 福島孝子
懸菜鎧ふ欅の夕日移りけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
我れ在りて薄き夕日となりにけり 中村苑子
我声を蹴て飛鵙や夕日かげ 嵐方
手をかけて夕日の枯木たのしめり 内藤吐天 鳴海抄
打ち返す馬草に秋の夕日哉 蘇山人俳句集 羅蘇山人
打返す秣に秋の夕日哉 羅蘇山人
捧げては夕日を運ぶ捕虫網 本田秋風嶺
捨ててある紫雲英の束や夕日射す 苑子
捨鰯浜に夕日の裏日本 大野林火
掃く手より夕日逃げゆく枯零余子 大滝大和
掛け終へし稲架が夕日をまとひをり 小島ユキエ
掛乞ふて夕日の刈田よぎりけり 千葉 大行
掛稲に螽飛びつく夕日かな 正岡子規
探梅に夕日まだある天守閣 山本洋子
撫子のふしぶしにさす夕日かな 成美
撫子の節々にさす夕日かな 成美
撫子や上野の夕日照り返す 正岡子規
敗戦のラガーに大いなる夕日 市ヶ谷洋子
敗荷にひつかゝりたる夕日かな 岸風三楼 往来
敗荷や夕日が黒き水を刺す 鷲谷七菜子
散りかさむ紅葉夕日につがもなし 松村蒼石 雪
数珠玉のかちりと夕日返しけり 大嶽青児
斑鳩の夕日に染みぬ白木蘭 柴田白葉女 『朝の木』
新渋の網うちはゆる夕日かな 路通
早月を見出でゝうれし夕日傘 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
星光り雪嶺になほ夕日の斑 岡田日郎
春の野に夕日傾き野火止の流れはあかくきらめき続く 原田清
春の雁市井の夕日卑しかり 石原舟月
春りんだう夕日はなやぎてもさみし 安住敦
春夕日よごさぬほどに林檎むく 松澤昭 神立
春夕日伊勢を離るる電車かな 山田みづえ 草譜
春寒き夕日の海となりにけり 柿腸 近藤浩一路
春泥の金泥となり夕日落つ 福田蓼汀 秋風挽歌
春蚕のねむる夕日に細き川 大井雅人 龍岡村
春近したゞ麦畑の夕日影 尾崎迷堂 孤輪
春近し夕日を背負ふ富士の線 林原耒井 蜩
春雪のあとの夕日を豆腐売 大串章
春雪を夕日に擲げて茂吉の忌 火村卓造
時雨雲ちぎれ北澄み夕日さす 岡田日郎
暑き日も樅の木の間の夕日かな 山口素堂
暗い鉄扉が砂塵舞い立つ夕日の前 三谷昭 獣身
曇りしが降らで彼岸の夕日影 其角
曲水や後手突いて夕日山 沙 羅
曳く波の夕日を返す鮭群れて 森田 博
曼珠沙華夕日を連れて山に入る 中拓夫
曼珠沙華夕日沈まばくづほれむ 徳永山冬子
最後の審判 夕日は警告しつづけた 平田栄一
月ありて夕日うするゝ芭蕉かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
月になるべき夕日が浮御堂の御格子 荻原井泉水
朝日と夕日どちらが重い夏料理 栗林千津
朝日にも夕日にも山笑ひけり 岩淵喜代子
朝日より夕日親しく秋の蝉 飯田蛇笏
朝日夕日も見えざる河口を母と呼ぶ 夏石番矢 猟常記
木つつきや漆が原の夕日かげ 蕪 村
木枯に夕日うかべる信濃口 龍太
木枯らしや海に夕日を吹き落す 夏目漱石
末枯の夕日むさぼるごとくあり 松村蒼石 雪
末枯るるもの皆光れ夕日落つ 西田孤影
末黒野を踏み来てうまき夕日の水 佐々木有風
杉苗を植うる夕日に雉子の声 佐野美智
杉谷に夕日呼びこみ花山葵 大串 章
杉高く秋の夕日の茶店かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
束の間をしぐれて束の間の夕日 小谷明峰
東の間の夕日に干してはした籾 西山泊雲 泊雲句集
東京の夕日傾きメロン切る 山崎十死生
松とるや燦と夕日の遠雨戸 大峯あきら
松の中にすめる夕日や凧下ろす 金尾梅の門 古志の歌
松の芯顔出すものへ夕日の紅 桂信子 花寂び 以後
松毬を蹴るたよりなき春夕日 小松崎爽青
松虫草雨の中より夕日さし 岡田日郎
松過ぎの夕日濃くなる日本海 佐川広治
枇杷の花侘しき夕日とどめをり 椎橋清翠
林檎もぎどき朝日さす夕日さす 木附沢麦青
枯れきつて崖は夕日を流しをり 田口一穂
枯山に夕日あやしきまで赤し 岡田日郎
枯山の枯れの匂ひも夕日なか 青木重行
枯木立千々ありありと夕日去る 松村蒼石 雁
枯桑のおどろや夕日どこへ落つ 中島月笠 月笠句集
枯紫蘇に夕日ちぎれて届きけり 草間時彦 櫻山
枯芝に夕日の山の影のびる 伊藤淳子
枯芦の根水に夕日映りけり 大谷句佛 我は我
枯蓮の池にてりつく夕日哉 寺田寅彦
枯蓮や夕日が黒き水を刺す 鷲谷七菜子 黄 炎
枯蔓に山にしみじみ夕日さす 岡田日郎
枯蔓に縋り夕日の柄長啼き 小林黒石礁
枯蘆に傾城町の夕日哉 百里
枯蘆の中とゞまらず夕日落つ 石井とし夫
枯蘆を落ちゆく夕日刈られけり 小林康治 『存念』
枸杞の実や竹藪越しの大夕日 工藤行水
柊に夕日零るる四日かな 福島 勲
柴漬をあげて夕日によろめける 篠田悌二郎
柿ちぎり夕日まぶしく射し消えぬ 松藤夏山 夏山句集
柿の個々夕日を捉ふ掌の柿も 秩父
柿の蔕夕日外れてしまひけり 高澤良一 随笑 十月-十二月
柿供へ辻はみろくの名に夕日 野澤節子 黄 炎
柿干して一部落ある夕日ざし 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
栃の実は夕日の落しゆく冷えか 金子皆子
根元まで赤き夕日の葉鶏頭 三橋敏雄
桃摘花夕日に翻すたなごころ 木村蕪城
桃熟るる夕日の重さ加へつつ 太田 昌子
桐の実や山の夕日のすぐそこに 岸田稚魚
桐の花紅の夕日は人去る方 桂信子 黄 瀬
桐一葉猿も夕日を惜しみけり 村山古郷
桑の芽に郷里玉なす夕日射 飯田龍太
桑摘むや夕日まぶしき乙女さび 林原耒井 蜩
桑海の涯に山あり夕日あり 岸善志
梅雨晴間夕日はどこへ沈まうか 原田暹
棒杭の五六夕日に氷魚の網 加藤耕子
椋鳥の夕日の中に遠ざかる 岩切 葉子
椿一輪夕日いただき帰る人 野澤節子 黄 炎
楢林枯れ迦具土神に夕日差す 宮津昭彦
樵人に夕日なほある芒かな 原石鼎
橇に葱夕日が深む山の襞 宇佐美魚目 秋収冬蔵
橋脚の夕日に染り芦の角 松藤夏山 夏山句集
橡の花きつと最後の夕日さす 飯島晴子
死の指のダイヤモンドに夕日かな 伊川菜津
残雪にとどきしばらく夕日澄む 岡田日郎
母の忌のことに大きな春夕日 木附沢麦青
母子の背四万六千日の夕日くる 中山純子
母病みぬ夕日とどける胡麻畑 館岡沙緻
母許や夕日とどめて零余子摘む 穂苅富美子
水を打つみちの夕日のいま真面 久保田万太郎 草の丈
水中に夕日爛熟花蓮 野沢節子
水引の紅を奪ひて夕日落ち 坊城としあつ
水打つて松江の夕日まだ沈む 大峯あきら
水替へて夕日入り込む金魚玉 寺岡捷子
水瓶に秋の夕日や台所 蘇山人俳句集 羅蘇山人
水着ほす夾竹桃の夕日中 西島麦南
水舐めて届く夕日に浮寝鳥 深見けん二
水面すずし夕日瞼をまだ閉ぢぬ 村越化石
水鳥に人とどまれば夕日あり 中村汀女
水鳥の夕日に染まるとき鳴けり 林原耒井 蜩
水鳥の川わかれては夕日さす 百合山羽公
水鳥や台詞けいこに夕日来て 大峯あきら 鳥道
水鳥や夕日きえゆく風の中 万太郎 (向島)
水鳥や夕日江に入垣のひま 蕪村遺稿 冬
水鳥や夕日消えゆく風の中 道芝 久保田万太郎
氷住みや雪割りし地へ夕日流す 村越化石 山國抄
氷林に夕日せつなるを胸にうく 細谷源二 砂金帯
氷球場いよいよ夕日人に濃き 西村公鳳
永き日の末の夕日を浴び歩く 林火
汐あびや夕日すゞしき店の桃 松瀬青々
汐まねき夕日の家路はるかかな 友岡子郷
汐木積む夕日まみれの魂迎 熊丸 淑子
池の面に夕日散らしてかいつぶり 安斉君子
油虫殺すいちめんの夕日いろ 加藤楸邨
油蝉死せり夕日へ両手つき 岡本 眸
流れつつ夕日の華やゆりかもめ 千代田葛彦
流れ藻に水母に夕日さしてをり 今井杏太郎
流氷声なく夕日の弥撒へ急ぐなり 中村還一
浅山に夕日とどむる合歓の花 柴田白葉女 花寂び 以後
浅春の夕日の中に鶴なけり 田中冬二 行人
浅間こす夕日に追はれ畦をぬる 前田普羅 春寒浅間山
浦人や早稲の夕日に帆をたゝむ 斎藤 道子
浪除に若布乾て居る夕日哉 太田南岳
海じまひけふに夕日の野菜売 篠田悌二郎
海で訣れた夕日とくらい死角で逢う 隈治人
海に入る夕日見守るおけさ柿 高澤良一 ももすずめ 平成二年
海に落つ夕日かなしむ草の絮 小松崎爽青
海の絵の蒼きに夕日颱風過 福田蓼汀 山火
海へ落つ越後の夕日草の市 稲荷玄之
海峡を夕日埋むる先帝祭 すずき波浪
海苔掻の臑の長さよ夕日影 素丸
海贏打や夕日に張つて太き紐 長谷川かな女 雨 月
涅槃すみ山に一本夕日道 村越化石 山國抄
涅槃図に束の間ありし夕日かな 安住 敦
涼しけれ睫毛夕日に灼かれつつ 佐野良太 樫
淋しさや夕日横たふ蓼の花 妻木 松瀬青々
淡雪のやみたる草に夕日かな 芝不器男
清衡とんぼ秀衡とんぼ高夕日 津田清子
渓々へ霧しづもれり夕日落つ 福田蓼汀 山火
渓声や夕日の中の楓の芽 岡田日郎
渡り鳥夕日に翳をわきばさみ 誓子
湖の夕日さしゐる接木かな 山口青邨
湯の峰が夕日の中や遅桜 滝井孝作 浮寝鳥
満山の蜜柑に夕日うこん照り 鈴鹿野風呂 浜木綿
満山夕日紅葉抵抗しつつ散る 荻原井泉水
濠氷解けず夕日の坂長し 内藤吐天
瀧三條夕日にかゝる新樹かな 泉鏡花
瀬田降つて志賀の夕日や江鮭 蕪村
瀬田降て志賀の夕日や江鮭 蕪村 秋之部 ■ 竹渓法師丹後へ下るに
瀬田降りて志賀の夕日や江鮭 蕪村
灌仏の横向いてゐる夕日かな 渡辺水巴
火の夕日落ちたるあとの秋の潮 鷲谷七菜子
火の玉の夕日を包む枯尾花 殿村菟絲子
炉を塞ぎさしこむ夕日膝にせり 近藤一鴻
烏瓜あまつさへなる夕日かな 柑子句集 籾山柑子
烏瓜背戸に引き込む夕日かな 影島智子
無花果にさして朝日も夕日なれ 中尾寿美子
焼原の夕日の末や茎の石 増田龍雨 龍雨句集
煙草したしう笠の夕日にうづくまる シヤツと雑草 栗林一石路
煤かづきたまふ夕日にちる辛夷 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
熊谷も夕日まばゆき雲雀かな 蕪村
熟れ麦はほろびのひかり夕日また 石原舟月
燃えてゐし冬至の夕日すぐ消えし 富田巨鹿
片丘の麦刈り伏せて夕日赤し 内藤吐天 鳴海抄
片時雨南に夕日残しけり 山岡正嗣
物換ゆる壁の夕日やあきの風 黒柳召波 春泥句集
犬吠えて夕日呼び込む雪解谷 宮津昭彦
独楽の子の眉間はつしと夕日さす 内藤吐天 鳴海抄
猟狗吠え枯木の夕日澄みにけり 内藤吐天
献げ柿あらむ夕日の聖堂は 村越化石 山國抄
玉虫や旭夕日を着るごとく 加藤知世子
玉虫を拾い夕日の宇陀にをり 大峯あきら
琴坂の新樹洩れくる夕日かな 星野立子
瓶の芒野に在るごとく夕日せり 大野林火
甘蔗刈りの手斧に夕日とどまれり 島袋常星
生身魂門辺の夕日浴びにけり 八木林之介 青霞集
田より夕日を引き剥すごと稲を刈る 細谷源二
田掻馬奮ひ濡れたる夕日中 石原舟月
田植ひそか夕日を得つつ水流る 大井雅人 龍岡村
田雲雀の十は来てゐる夕日かな 飴山實 辛酉小雪
町空に夕日みなぎりまんじゆしやげ 柴田白葉女
畑の囚人吸はれゆく監獄の夕日 シヤツと雑草 栗林一石路
畦塗の夕日に押されゐたりけり 柳澤和子
畫架たたむ夕日の鴨の飛ぶ下に 石田あき子 見舞籠
疲れどつと夕日のなかの葱坊主 南部憲吉
癇ばしる佐渡や夕日の雁渡し 千代田葛彦
白い小さい夕日が夫の泣きどころ 鎌倉佐弓
白れむに夕日の金の滴れり 臼田亜浪
白梅の仄か色めく夕日ざし 林 翔
白痴少年芦の夕日にひた泳ぐ 阿部みどり女
白萩のつめたく夕日こぼしけり 上村占魚
白萩の散るは夕日のこぼるなり 細見綾子 黄 炎
白藤には白きひかりの夕日射 飯田龍太
白酒や夕日しばらく雲の中 岸本尚毅 舜
白鷺の孤高はるかにある夕日 関根あつ子
盆すぎて山のおちつく夕日かな 福田甲子雄
盆提灯吊りてしばらく夕日射す 岡本 眸
盛装を稲田の夕日照らしけり 山口誓子
相模行く夕日の国の妻なりけり 折笠美秋 死出の衣は
真二つに白菜を割る夕日の中 福田甲子雄
真円き夕日霾なかに落つ 中村汀女
真円き夕日霾るなかに落つ 中村汀女
真珠養殖筏浮き夕日の後の青葉月 和知喜八 同齢
眠る山夕日ころりと落ちにけり 鷲谷七菜子
石楠花に夕日さまよふまつりあと 伊藤いと子
石楠花やキヤムプはりつく夕日岩 望月たかし
石楠花や全き夕日飛騨に落つ 新井 英子
石蕗の黄の夕日の紐を垂れにけり 古舘曹人 砂の音
砂の上に夕日しみ入る石蓴採り 古沢太穂
砂利山にしばらく春の夕日かな 菅原多つを
砂走りの夕日となりぬ富士詣 飯田蛇笏
硝子戸の終の夕日や鵯がゐて 中拓夫 愛鷹
磯山の夕日重たし大根引 井関昌子
神棚の習字に盆の夕日さす 福田甲子雄
神無月夕日をうけて山座る 松崎鉄之介
秋すでに種唐辛子その夕日 草間時彦 櫻山
秋となる夕日に耐へて馬車(マーチョ)避く 永井龍男
秋の海の夕日に向ひ汽車の窓 比叡 野村泊月
秋の薔薇夕日を海へひろげたる 宮津昭彦
秋の薔薇海へ夕日をひろげたる 宮津昭彦
秋夕日風触絶景岩千丈 敷地あきら
秋晴の名残りの夕日山に落つ 高木晴子 花 季
秋燕のとぶ夕日ある限りをや 奥田智久
秋立ちぬ夕日あたる木あたらぬ木 中村苑子
秋風や夕日がなめす波の皺 青木重行
秋鯖を提げて夕日を滴らす 戸川稲村
種採や夕日にふるふ箕の塵 山本洋子
稲刈つてにはかに夕日遠くなる 永峰久比古
稲刈つて夕日明るき方へ行く 廣瀬直人
稲架を組む男のおけさ夕日を呼び 福田甲子雄
稲架解いて夕日を海に落しけり 磯野利秀
稲秋の夕日の壁のとなり村 長谷川素逝 村
稲穂はやしめるけはひに夕日山 鷲谷七菜子 花寂び
穂芒やはたとなくなる夕日影 吉武月二郎句集
穴釣に夕日射し入る酒の瓶 野澤節子 遠い橋
空梅雨の夕日真赤に落ちにけり 小林一行
空梅雨の川の夕日が疲れたり 柴田白葉女 牡 丹
空気銃もてる少年があらわれて疲れて沈む夕日を狙う 岡部桂一郎
空蝉の腹にさし込む夕日哉 野崎柴兮
窓の椎夕日に映えて北風かな 富田木歩
竜の玉うしろに夕日まばたきて 岸田稚魚
童女泣きやすし夕日の葱坊主 柴田白葉女
竹の幹二日の夕日射しにけり 加藤三七子
竹の葉やひらつく冬の夕日影 広瀬惟然
竹伐りて夕日ひらきぬ山小春 金尾梅の門 古志の歌
竹立てゝ夕日尚あり星祭 比叡 野村泊月
竹騒のこぼす夕日や寒の崖 永井龍男
笠の緒や夕日ぬはせて片時雨 暮舟 選集「板東太郎」
笹鳴くや石にいろなき野の夕日 上村占魚 鮎
節分の夕日を弾く鬼瓦 八木岡宏子
節子忌の花を貫く夕日かな 木原寿美子
節季候(せきぞろ)や夕日につゞく袋持 浪化 俳諧撰集「有磯海」
簗番や夕日にかむるあじろ笠 橋本鶏二 年輪
簾一枚夕日名残をとどめけり 近藤一鴻
粉雪あがる夕日の彩がただよいて 古沢太穂 古沢太穂句集
粗壁に夕日が射して甘藷煮ゆる 柏 禎
粟の穂に夕日や与謝へ峠越す 宮津昭彦
粟刈りて此頃の夕日ちからなし 佐藤紅緑
粟畑の夕日さびたる穂先かな 竹冷句鈔 角田竹冷
糸すすき以後の凶器となる夕日 増田まさみ
紅き蓮ねむるや長き夕日さし 百合山羽公
紅梅と夕日と溶くる刻永し 永井龍男
紅梅や夕日の影が路上を占む 大井雅人 龍岡村
紅葉の中新居夕日に染みやすく 香西照雄 素心
紅葉折て夕日寒がる女哉 正岡子規
紙飛行機と共にかけ出し夕日なし 古沢太穂 古沢太穂句集
紫蘇を抜くうしろ夕日の町があり 加藤正子
網代打夕日に禿けしつぶりかな 尾崎紅葉
緋梅かつと棄て身の彩の夕日刻 殿村莵絲子 花寂び 以後
練雲雀夕日となりし筑波かな 野村喜舟 小石川
羊毛刈る人とけものの夕日影 橋本多佳子
美しき夕日三日や狐罠 大峯あきら
翡翆や柳百歩の夕日影 加藤春波
老い櫻夕日に朱をば注がれし 相生垣瓜人
老鶯や夕日溜りの竹の奥 岸田稚魚
耕やかの脛長の夕日影 野村喜舟 小石川
耕人に夕日の落つる椰子の丈 桂樟蹊子
肩ごしの夕日をつかむ寒鴉 安東次男
背の子に夕日寒さや麦を蒔く 比叡 野村泊月
胡麻叩くすとんと夕日落ちにけり 大出百合子
胸元に夕日集まる芒採 橋本榮治 麦生
胸高にとどめ夕日の牡丹見る 赤松[けい]子 白毫
腰据ゑて梅雨明けの山夕日さす 百合山羽公 故園
膝に来て消ゆる夕日や一重帯 中島杏子
舂ける夕日の中の蘆火かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
舞ふ鷹のつばさの下の夕日かな 橋本鶏二 年輪
舟を待つ夕日の色に小判草 浜 福恵
舟遅し夕日暖きぼんのくぼ 佐藤紅緑
色づきて柿現るゝ夕日かな 温亭句集 篠原温亭
色草に夕日の荒ぶ信濃口 黛 執
色鳥や筵一枚夕日の座 村越化石 山國抄
芒の穂ばかりに夕日のこりけり 久保田万太郎
芥子をはなれし夕日こんもり白熱す 桜井博道 海上
芦の穂の片側くらき夕日かな 古沢太穂
芦刈に夕日いざりぬ風の中 石原舟月 山鵲
芦刈に道一本や夕日中 茂里正治
芦刈の夕日いざりぬ風の中 石原舟月
芦刈の舟は夕日に向き直る 老川敏彦
芦刈りの舟は夕日に向き直る 老川敏彦
芦間より夕日を見遣る鰻掻 佐野美智
花いそぐ秋は草々の夕日かな 飯田蛇笏 山廬集
花ざくろ夕日に後れとりにけり 長谷川双魚
花とぶや加茂の小路の夕日影 芥川龍之介
花に棹さすや夕日の片だより 古好
花冷えの浮き足だちし夕日かな 岸田稚魚 『雪涅槃』
花合歓に夕日旅人はとどまらず 大野林火
花合歓の夕日ただよふ別れかな 霊園文子
花山茱萸いり玉子めき夕日中 高澤良一 さざなみやっこ 春
花御堂夕日のをはり射してをり 藤田湘子 春祭
花木槿弓師が垣根夕日さす 内藤鳴雪
花柿に雨余の夕日のさむきまで 松村蒼石 寒鶯抄
花桐や山は夕日の鮮らしき 小島千架子
花溜や夕日さしこむ梅嫌 尾崎紅葉
花火待つ空に夕日のプロローグ 加藤芳子
花筏行きとどまりて夕日溜む 宮津昭彦
花芒夕日はいつも揺れて落つ 佐土井智津子
花蕎麦に車をとめて夕日なか 松村蒼石 雁
花薊夕日の前を人馬ゆく 柴田白葉女
花野より夕日の在り処幽かなり 細見綾子 黄 瀬
花野果て夕日に向いて寺の門 比叡 野村泊月
苗代や小蛇のわたる夕日かげ 大江丸
苗木畑ひとたび消えし夕日さす 佐野美智
若竹や夕日の嵯峨と成にけり 與謝蕪村
若竹や夕日の嵯峩と成にけり 蕪村 夏之部 ■ 諸子此枝の僧房に會す、余はいたづきのために此行にもれぬ
茜掘夕日の岡を帰りけり 尾崎紅葉
茨の実いつか夕日の沈みゐし 稲畑汀子
茨剛し血を混じたる夕日の箭 三谷昭 獣身
茶の花のほろと夕日や人も惜し 田中裕明 花間一壺
茸狩や赤松林に夕日さす 瀾水
草かげろふ髄に夕日のひびきけり 草刈勢以子
草の実に薄き夕日となりにけり 東洋城千句
草の実や平城宮址夕日染む 大獄青児
草の穂に夕日の金や魂まつり 上村占魚
草の芽や夕日かゞやくゴルフ場 阿部みどり女 笹鳴
草の葉をもるる夕日に水すまし 長谷川 櫂
草刈つて夕日の中に館守 関森勝夫
草山に夕日見送る冬の虫 宮沢映子
草木瓜の真只中に夕日あり 広瀬町子
草枯れて石のてらつく夕日かな 村上鬼城
荒海や雲をつんざく秋夕日 大谷句佛 我は我
菅貫の菅のみだれの夕日さす 猪俣千代子 秘 色
菊にさす夕日は卓を溢れけり 大野林火
菊の鉢を片つけて一杯な夕日になる日 河東碧梧桐
菊低く活けて夕日のさすままに 岸本尚毅 舜
菖蒲剪つて盗みめくなり夕日射 石田波郷
菖蒲田の夕日に浮ぶ花となりぬ 松本たかし
菜の花にしあはせさうな夕日かな 石川文子
菜の花に触れて大きくなる夕日 黒坂紫陽子
菜の花やむかし蕪村に夕日の句 今井杏太郎
菩提子に風のひびける夕日かな 小松崎爽青
萩の面の夕日は辷り消えにけり 五十嵐播水 埠頭
萱の穂に夕日ふれては燃えにける 和田朴人
萱活けて夕日をあかく壁に受く 村上冬燕
萱草の夕日の色に咲き惜しむ 駒井えつ子
萱草の花も夕日もつかれたる 青柳志解樹
落椿這ひづる虻や夕日影 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
落葉して岩の秀にある夕日かな 上村占魚 鮎
落葉踏んで僧のあとゆく夕日かな 比叡 野村泊月
落鮎の夕日を引いて釣られけり 大串章
葉ざくらに足どり重くなる夕日 柴田白葉女 『夕浪』
葛堀るや蹴抜(けすけ)の堂の夕日影 志用 俳諧撰集「藤の実」
葛飾の夕日が好きで残る鴨 中嶋秀子
葡萄吸う腰から下に夕日浴び 徳弘純 麦のほとり 以後
葬ひの終る夕日や鳳仙花 癖三酔句集 岡本癖三酔
葬列たたまり輪となれり枯芝の夕日 シヤツと雑草 栗林一石路
葭切や夕日の蘆を飛ぶは見え 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
葱きれば葱の香手もとに夕日さす 柴田白葉女
葱の香に夕日のしづむ楢ばやし 飯田蛇笏 山廬集
葱の香に夕日の沈む楢ばやし 飯田蛇笏
蒲公英のとびとびに野の夕日まで 橋本榮治 麦生
蒸す夕日おもおもと入れ椎の花 稲垣法城子
蓬摘む籠の中まで夕日入る 鈴木幸子
蕎麦刈のひとりに哭す夕日光 飯田蛇笏 山廬集
蕗叢をかこむ紫蘇畑夕日かな 八木林之介 青霞集
薄雪に月出ぬ山は夕日して 飯田蛇笏 山廬集
薄雪草咲く尾根夕日朝日さす 岡田日郎
薔藪剪れば夕日と花と別れけり 加藤秋邨 怒濤
薬壜に夕日映じて落葉哉 寺田寅彦
藁塚に燃え搦りし夕日かな 京極杞陽 くくたち上巻
藁屋根の柿の落葉に夕日哉 寺田寅彦
藤さびし渓に夕日のとどくころ 岡田日郎
藪夕日児の背の落葉払ひやる 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
蘂のみのさくらとなりて夕日透く 能村登四郎
蘆の辺に流れつきたる夕日かな 関戸靖子
蘆刈に夕日ゐざりぬ風の中 石原舟月
蘆原に夏のきはまる夕日かな 松村蒼石 雪
蘆暮れて秋ゆく夕日ひそみけり 松村蒼石 雪
虎が雨晴れて小磯の夕日かな 内藤鳴雪
虫啼いて夕日とどむる金剛界 西村公鳳
虫鳴くや夕日の金のかすれ音に 内藤吐天
蛇穴に入る畦の木の夕日いろ 大石香代子
蛇穴に夕日貧しく果てにけり 細江白峰
蛙去つて戸口をおそふ野の夕日 吉田鴻司
蜉蝣や夕日はなさぬ水の面 丹羽啓子
蜜蜂のさざめく夕日赤きとき 中拓夫
蜩や何にもしみる夕日影 野村喜舟 小石川
蜩や夕日さし入るガラス窓 会津八一
蜩や夕日の坐敷十の影 正岡子規
蜩や夕日の里は見えながら 正岡子規
蜩や神鳴晴れて又夕日 子規句集 虚子・碧梧桐選
蜻蛉やいま起つ賤も夕日中 芝不器男
蜻蛉らも夕日まみれや殉教址 福永耕二
蝉の屍に夕日いつまでとどまるや 伊藤いと子
蝉の穴二百十日の夕日射す 酒井みゆき
蝉声や没つるを忘れ夕日あり 殿村莵絲子
蝗とぶ藁の匂の夕日かな ほんだゆき
蝙蝠や夕日はかなき暴れもよひ 富田木歩
蟹横に横に夕日を引摺れる 高澤良一 ももすずめ 平成三年
蟻地獄夕日は灘に燃えしぶり 井口千枝子
蟻泳ぎゐて水甕の夕日濃し 内藤吐天 鳴海抄
血に染まり夕日に染まり鯨裂く 米倉明司
血のごとき夕日の鶏を提げて立つ 三谷昭 獣身
行く秋の夕日飛鳥の太柱 近藤一鴻
行年や夕日あつまる渡船中 増田龍雨 龍雨句集
行年や夕日の中の神田川 増田龍雨
行水の裸に麦の夕日影 飯田蛇笏 山廬集
街は夕日とつづいてゐる冬木 シヤツと雑草 栗林一石路
裏口柿に茂られて夕日こぼれてゐる シヤツと雑草 栗林一石路
裏山を夕日洩れくる春炬燵 宮津昭彦
裏白に夕日しばらくありにけり 時彦
裏白に夕日しばらくありにけり 草間時彦
襟巻の中からのぞく夕日山 前田普羅
襟巻の中からのぞく野の夕日 前田普羅
襤褸かがやく冬の夕日のひろがりて 柴田白葉女 遠い橋
見つけたる夕日の端の蕗の薹 柴田白葉女
谷へちる花のひとひらづつ夕日 細見綾子
谷もみぢ夕日をわたる寺の犬 烏西
谷紅葉夕日をわたる寺の犬 烏西 五車反古
豆の花島の夕日は永かりし 阿部みどり女
豊穣の夕日ねつとり送り盆 塩崎晩紅里
買はれつゝ夕日のやどる寒卵 池禎章
赤い夕日にわが時計死すああ満洲 高柳重信
赤草や夕日に重き水の色 重厚
赤蜻蛉夕日を乗せて飛んでをり 石井とし夫
足許へ夕日の二人静かな 海老原真琴
路傍の石に夕日や枯すゝき 泉鏡花
車中の夕日昭和が溺死していたり 高野ムツオ
軒に吊る*かんじき夕日したたらす 山本雅子
辛夷をちこち帰る切なき夕日中 殿村莵絲子 花 季
返り花風吹くたびに夕日澄み 龍太
追儺会のすみたる夕日泥に射す 宮岡計次
逝く夏や夕日あたれる松の幹 安住 敦
遍照の夕日春田もその中に 廣瀬直人
遠き嶺の紅葉一期の夕日照る 松村蒼石
郭公や沈みきれざる夕日あり 奥田智久
重陽の夕日をのこす奥嶺あり 大峯あきら 鳥道
野の夕日いま去り枯木よりあへる 石橋辰之助
野の朝日山の夕日を夏休 三橋敏雄
野の果につまづく夕日馬橇去る 堀口星眠 営巣期
野の辛夷夕日かゝりて見え難し 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
野人消えて夕日大きくなつてゐし 石井とし夫
野分あと夕日が村を癒しをり 為重大五
野分止んで夕日の富士を望みけり 寺田寅彦
野焼の火夕日の色に燃えさかる 阿部みどり女
金の夕日纒ひし地蜂穴に入る 内藤吐天 鳴海抄
金屏の紅葉に秋の夕日哉 寺田寅彦
金盞花夕日に岬の漁夫消され 桜井博道 海上
金魚藻の奥にも夕日漂へり 甘粕世紀夫
針供養空枝夕日に伸べりけり 太田鴻村
針置くや夕日残れる木槿垣 千手和子
針金のはしにも夕日冬の宿 百合山羽公
釣柿や障子にくるふ夕日影 内藤丈草
銀夕日栃の芽ばかり荒々し 堀口星眠 営巣期
錦繍の夕日のそとにゐのこづち 百合山羽公
鐘撞いて僧の瞳が炎ゆ秋夕日 殿村莵絲子 牡 丹
閉つたドアで消えた戦争や夕日 鈴木六林男 国境
阿武隈に夕日洽き炉を開く 加倉井秋を
陰々と夕日語らず横光忌 戸田九作
陸橋から穂芒もレールも夕日の中 シヤツと雑草 栗林一石路
隠れ家や夕日あつめる紙鳶 鈴木六林男
隠岐うかぶ沖より夕日捨苗へ 昭彦
隣りも隣りも地肌から夕日の壁 シヤツと雑草 栗林一石路
雀の稗傾ぐ夕日が穂を染めて 高澤良一 素抱 七月-九月
雀隠夕日の箒あてにけり 八木林之介 青霞集
雁渡しゆくてさびしき夕日坂 柴田白葉女 花寂び 以後
雉子啼いて安居に似たり夕日満つ 林火(三峰山)
雉子飛ぶや望遠鏡の夕日影 竹冷句鈔 角田竹冷
雛かざる干潟色なる夕日中 高澤良一 さざなみやっこ 春
雛壇に美しかりし夕日かな 星野立子
雛壇を転げ落ちたる夕日かな 野口嘉子
難波橋春の夕日に染まりつつ 後藤夜半
雨のあと夕日がのぞく茗荷竹 南部憲吉
雨乞の太鼓よわりし夕日かな 蝶 夢
雨後の木々夕日をこぼす袋角 細見綾子
雨粒を溜めて夕日の花楓 河本好恵
雨降りつつ黄葉の宝の木に夕日 岡田日郎
雪原にまつたき夕日垂れ来たる 石橋辰之助 山暦
雪原に風吹き夕日消しにけり 岡田日郎
雪垂れて我が家ともなし夕日影 前田普羅 新訂普羅句集
雪山に何も求めず夕日消ゆ 飯田龍太
雪山の夕日に溶けて鳩の道 阿部みどり女
雪嶺を雌蘂とし夕日の巨花開らく 岡田日郎
雪折や夕日こぼるるさげ油 尺草 選集「板東太郎」
雪残る夕日や父にちかく坐す 野澤節子 黄 瀬
雪谿の夕日まぶたに背の登山綱 石橋辰之助 山暦
雪雲のかたちににじみ夕日消ゆ 岡田日郎
雫たらたらと夕日のまたたき シヤツと雑草 栗林一石路
雲に触れゆがみて秋の夕日入る 篠原梵
雲曇草に夕日さしたる京都御所 飯田龍太
雲雀野の夕日の赫さ叫喚なし 内藤吐天 鳴海抄
雲雀鳴く夕日に染まり服ぬげる 金尾梅の門 古志の歌
雷去りし夕日夏日となりて落つ 石橋辰之助
雷晴れて一樹の夕日蝉の声 正岡子規
霊ひとつ草に憑きたる夕日かな 河原枇杷男 流灌頂
霜柱なほあり夕日とどきけり 松村蒼石 雁
霧の山小屋夕日いくたびさして暮れず 岡田日郎
青くさき夕日追ひゆく蝗捕 中村翠湖
青梅や夕日の色をすこしとめ 小杉余子 余子句選
青芦に松の夕日の濃かりけり 阿部みどり女
静かにも夕日の前を蛇通る 大峯あきら
面白う聞けば蜩夕日かな 河東碧梧桐
鞦韆の蹴り落したる夕日かな 塙告冬
頂の夕日わづかや雪の嶺 長谷川かな女 雨 月
頬赤来て峠の夕日いま円に 塩野谷仁
風塵の中に夕日や海贏を打つ 橋本鶏二 年輪
風強く夕日の強き若葉かな 野村喜舟 小石川
風花のあとの夕日に鴨濡るる 宮津昭彦
風花やわが掌染めたる夕日影 石田波郷
風落つるさまなき夕日照る辛夷 臼田亞浪 定本亜浪句集
風袋ぐるみサーカス夕日雀の冬 宮津昭彦
風車夕日に燃えてまはりをり
飛ぶ柳絮夕日まつはり風まつはり 石井とし夫
飛ぶ鴨も夕日も波のしぶく中 橋本榮治
飛島川夕日をながし四十雀 吉向宗心
餅搗のすみて夕日の前を掃く 大峯あきら
馬の瞳に夕日が届く籾殻火 栗林千津
馬はぬれ牛は夕日の北しぐれ 杜国
馬酔木咲き森の奥まで透く夕日 根岸 善雄
馬鈴薯の花も電車も夕日中 愛澤豊嗣
骨芒夕日ふることさかんなり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
高々と夕日とゞめて酔芙蓉 星野椿
高き牡丹低き牡丹も夕日かな 高田風人子
高みより夕日のこゑの夏つばめ 鷲谷七菜子 花寂び
高稲架をあたたむ束の間の夕日 柴田白葉女
鬼百合や山の夕日の狐いろ 柴田白葉女 花寂び 以後
魂の重さ夕日に雪蛍 徳田千鶴子
魚籠のぞく夕日明りに落鰻 秋元不死男
鮎刺や夕日に雫曳きあがる 出牛青朗
鯖鮨や夕日みなぎる別府湾 下村ひろし
鯵刺や夕日の波を目のあたり 大木あまり 火球
鰡飛んで夕日小さくなりにけり 今井杏太郎
鰤と蜜柑夕日どやどや店に入る 小原俊一
鰯雲夕日の山に行きづまる 井口朝子
鳥鳴て夕日の雲に入る別 寺田寅彦
鳩吹くや犬は夕日にうづくまる 村山古郷
鳩吹や夕日に出たる山の墓 飯田蛇笏 山廬集
鳰なくや梁にさす夕日かげ 金尾梅の門 古志の歌
鳳仙花夕日に花の燃え落ちし 鈴木花蓑
鳳仙花夕日の花の燃え落ちし 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
鴎舞ふ夕日の中を二月過ぐ 城 松喜
鴛ゆくや夕日江に入る水のあや 几董
鴛ゆくや夕日江に入水のあや 几董 (遊龍安寺)
鴛鴦の胸石暖き夕日かな 柑子句集 籾山柑子
鴨の背に夕日やのこす雪のあし 膳所-支幽 俳諧撰集「有磯海」
鵙の腹夕日を宿す高樹かな 久米正雄 返り花
鵙啼くや夕日の残る杉の末 也有
鵙啼や夕日の残る杉の末 横井也有 蘿葉集
鵯や藪を徹して夕日影 竹冷句鈔 角田竹冷
鵲の古巣夕日に大いなる 本多 勝彦
鶏とめに夕日にいでつ榾の酔 飯田蛇笏 霊芝
鶯や島の夕日は海に落つ 宮田蕪春
鶯菜洗ふ夕日が山羊鳴かせ 米川欣秀
鶴とんで如月夕日かなし千松島 日夏耿之介 婆羅門俳諧
鶴舞へる夕日を人もまとひゐし 北元 多加
鷺の羽に夕日をかざす時雨かな 古白遺稿 藤野古白
麓田の夕日に多き案山子かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
麥蒔の罔雨長き夕日かな 蕪村遺稿 冬
麦の芽に夕日さす顔あげずゆく 下村槐太 天涯
麦を刈りし鎌よみがえる夕日の丘 大井雅人 龍岡村
麦熟れてたらたら夕日漂はす 鷲谷七菜子 花寂び
麦秋の埃に沈む夕日かな 比叡 野村泊月
麦蒔いて居る人遠き夕日哉 星野麦人
麦蒔の影法師長き夕日かな 蕪村
黄帷子夕日の中や墓詣 滝井孝作 浮寝鳥
黄沙降る夕日駱駝の腫れ瞼 佐野美智
龍の玉うしろに夕日まばたきて 岸田稚魚
●夕焼け
*ささげ摘む籠を小脇に恵那夕焼 富安風生
<少年>の声によばれてめくりゆく古きノートのなかの夕焼け 三枝浩樹
WAAAAAH!OHH!アルプスの大夕焼 吉原文音
あぢさゐの毬の真ン中夕焼来 近藤一鴻
いくたびもひめゆりの塔夕焼くる 松山足羽
いくたびも山彦かへす夕焼かな 吉武月二郎句集
いつぽんのすすきに遊ぶ夕焼雲 野見山朱鳥
いつぽんの木に血のかよふ寒夕焼 岡澤康司
いてふ散るちるから夕焼け惜しまるる 椎橋清翠
いま褪せし夕焼の門の虫しぐれ 水原秋櫻子
いわし雲もことし豊作の今日も夕焼 荻原井泉水
うしろ手をするには夕焼まだ薄し 加倉井秋を 午後の窓
うすけれど夕焼けし雲東にのみ 篠原梵 雨
うにの棘青む海底に迄夕焼 杉本寛
お台場の松は黒松夕焼けて 青木重行
かくれんぼ鬼の孤独や夕焼くる 佐土井智津子
かさぶたの彼方大夕焼が棲む 櫂未知子 蒙古斑
かはせみの巣ありと思ふ夕焼川 松村蒼石
からまつ芽吹き夕焼長き火山帯 八牧美喜子
きさらぎの樹々あたたかに夕焼けす 上野美智子
きちきちと冬夕焼に家縮む 川口重美
きはまりし夕焼人のこゑ染まる 長谷川素逝 暦日
ぐんぐんと夕焼の濃くなりきたり 清崎敏郎
けふもおなじところを曲る夕焼汽車 榎本冬一郎 眼光
ここ勿来靴の先まで夕焼垂り 高井北杜
こむらのみ凛々しく夕焼野良帰り 香西照雄 対話
こんこんと田井湧く雪後夕焼けて 内藤吐天 鳴海抄
さきがけてわが部屋灯す春夕焼 桂 信子
しづかなる刻経て夕焼身に至る 桂信子
しづかなる時経て夕焼身に至る 桂信子
たたなはる夕焼のみが野の富か 香西照雄 対話
たちまちに大夕焼の天くづれ 長谷川素逝 暦日
ちからしば罠に結びし夕焼かな 太田土男
ちぎれ雲夕焼けてさめて夕長し 富安風生
ちちははの枕のように夕焼ける 大西泰世
つばくらや春夕焼の岩の角 加藤楸邨
てのひらが夕焼けている叛かれる 三谷昭 獣身
どこも夕焼職工それぞれの考え持つ 石橋辰之助
どこを開いても夕焼色の本 今瀬剛一
どっと夕焼海月もときに裏返る 野沢節子
どつと夕焼海月もときに裏返る 野沢節子
どの扉にも冬夕焼の精神科 鍛冶みつ
どやどやの極楽門に冬夕焼 田中英子
どんな明日秘むるや冬の大夕焼 八島美枝子
ながいながい夕焼けの後スプーンのグラニュー糖に星迷い込む 小守有里
ながかりしけふの夕焼夏果つる 大橋櫻坡子 雨月
にんげんの五臓六腑が夕焼ける 園田芳久
ぬきん出て夕焼けてゐる大根かな みづほ
はからずも夕焼濃しや軒菖蒲 藤田湘子
はたらくものの詩は美しい夕焼雲 栗林一石路
はふられし山羊のかたちに夕焼雲 原裕 葦牙
ひとときの夕焼よりも緋の記憶 櫂未知子 貴族
びろうどの如き汗馬や夕焼雲 内藤吐天 鳴海抄
へら釣の終るサイレン秋夕焼 村上辰良
ほどかれてゆく夕焼けかわたくしか 大西泰世
ぽつと出の社員に新宿秋夕焼 高澤良一 さざなみやっこ 秋
まだ知らぬ森のうらがわ冬夕焼 信濃小雪
みすずかる信濃の夕焼青葡萄 福田蓼汀 山火
みちのくの鬼のはらわた大夕焼 渡辺誠一郎
むさしのの夕焼を描く父と祖父 皆吉司
むつかしき辭表の辭の字冬夕焼 富安風生
むつつりと居て夕焼を濃くしたり 中尾寿美子
むらさきの冬夕焼を掌にすくふ 古舘曹人
もう一度呼ばれて帰る秋夕焼 二村典子
やはらかく夫の灰抱く余花夕焼 殿村莵絲子 雨 月
ゆくりなく冬夕焼の尾をつかむ 櫂未知子 蒙古斑
わが声にわが子らを呼ぶ梅雨夕焼 千代田葛彦
わが声にわが子ろを呼ぶ梅雨夕焼 千代田葛彦 旅人木
わが庭にかむさつてきし沼夕焼 石井とし夫
わが昔寒夕焼けを樽に詰め 津沢マサ子
わが死にしのちも夕焼くる坂と榎 加藤かけい
わが死にし後も夕焼くる坂と榎 加藤かけい
アカシヤに夕焼雲のいなびかり 飯田蛇笏 雪峡
イタリーの風車見て夕焼けて 星野立子
ガラス屋が寒夕焼を背負ひくる 森 酒郎
クルーズ船バンクーバーの夕焼け追ひ 高澤良一 ぱらりとせ 秋
コップに鳴らす夕焼重なり澄む母の忌 金子皆子
ゴビを行く人も駱駝も夕焼す 下村梅子
サビタ咲き雨後の夕焼野に長し 甲賀 山村
サーカス去りし地くぼみをり夕焼す 大石悦子
シヨベルカー梅雨夕焼ヘ口を開く 杉山とし
ダム底となる街道の夕焼けたり 冨田みのる
ダンテ読み夕焼てのひらに乗せる 皆吉司
トマト*もぐ手より地の涯まで夕焼 齋藤愼爾
ドアに閉めだされた夕焼の中 シヤツと雑草 栗林一石路
ニツポニア・ニツポンに染む秋夕焼 仙田洋子 雲は王冠
パリ祭妬心のいろの夕焼あり 山田ひろむ
ヒト誕生以前の長し大夕焼 太田土男
ビール泡だつ夕焼劫火の日の如く 榎本冬一郎 眼光
マリア現れよ芝生の幹々夕焼けたり 赤城さかえ
ヨブ記以後短日の野の夕焼濃し 嶋田麻紀
レモンティ春夕焼けの消ゆるまで 小林寿子
ワッと声あげて泣きたし冬夕焼 土屋ゆき
一人出て粟刈る里や夕焼す 夏目漱石
一切の記憶なき町春夕焼 中村汀女
一刷きの夕焼雲は隠岐の辺か 峠
一本づつ夕焼け終る天の松 沢木欣一
一本の欅のゆゑの寒夕焼 豊田都峰
一痕の月も夕焼けゐたりけり 篠原鳳作
一葉地に還る夕焼音もなし 塩田紅果
七草のつねの夕焼空なりし 石田いづみ
三十三歳夕焼よりもしづかなり 内藤吐天 鳴海抄
下雲へ下雲へ夕焼移り去る 中村草田男
下雲を透き夕焼けし雲うかぶ 篠原梵
下黒く上夕焼けの雲の秋 寺田寅彦
世阿弥忌の佐渡につどひぬ夕焼雲 高橋睦郎
主の御手の釘大いなり梅雨夕焼 古賀まり子 緑の野以後
主婦の手籠に醤油泡立つ寒夕焼 田川飛旅子
久しの夕焼ソウル陥つ日のぬかるみ越す 古沢太穂 古沢太穂句集
乙女受洗に重き扉開く秋夕焼 下村ひろし 西陲集
二十六聖人大夕焼に合掌す 能村登四郎
五つ六つ門の葵の夕焼や 細谷源二 砂金帯
五体夕焼亡母の他は頼られず 寺田京子
五箇山のきつてもきれぬ血の夕焼 伊藤敬子
亡母訪ねくるよな夕焼白芙蓉 大野林火
人も獣も目は二つ大夕焼 和田耕三郎
人参の村は地中も夕焼けし 大串章
仄めきし夕焼せずに春の雨 鈴木花蓑句集
今一度寒夕焼けを見に出でむ 横山房子
今日のわざ今日終へんとし夕焼濃し 中村汀女
今日もかの枯木立つなり夕焼けて 秋元草日居
今日も亦曠野の夕焼秋の風 相馬遷子 山国
今日生きし者出でて見よ大夕焼 蔦三郎
今焚ける紅葉のいろの夕焼雲 根岸善雄
仏壇ある家の奥まで秋夕焼 柴田白葉女
仏壇の奥のもの見え夕焼どき 鷲谷七菜子
仕合せは逃げてゆくもの寒夕焼 本間愛子
何もなく死は夕焼に諸手つく 河原枇杷男 定本烏宙論
何思ふとなく冬夕焼の坂の上 木下夕爾
使ひ鳩かへる空みち夕焼けぬ 大橋櫻坡子 雨月
俎に流す血黒し秋夕焼 桂 信子
俤も秋夕焼にいろどられ 加藤楸邨
俳優のあかあかと立つ夕焼川 平井照敏 天上大風
個々にいて大夕焼に染りいる 鈴木六林男 荒天
光太郎の棲みたる山の秋夕焼 岡田智了
兎跳んで跳んでとどかぬ秋夕焼 鈴木栄子
全身の夕焼を見よと海豚跳ぶ 福永耕二
内職の家夕焼は突き抜ける 田川飛旅子 花文字
冬ざれの沖の夕焼陸へは来ず 赤城さかえ
冬の夕焼さびしい指が生えた 河本緑石
冬の猫通りすがりに夕焼けたり 小宅容義
冬夕焼くちびる乾くまで見つむ 鎌倉佐弓
冬夕焼けと老との間の傘寿かな 今泉宇涯
冬夕焼さらに淡くて水にあり 林翔 和紙
冬夕焼しづかに汐のいろ変へぬ 今井杏太郎
冬夕焼ときには金の馬車を駆り 吉本和子
冬夕焼もう十字架を負ふ齢 小林康治
冬夕焼わが失ひし血のごとく 木下夕爾
冬夕焼をいま記憶する赤ん坊 中村明子
冬夕焼タイムカードを食べてゐる 郡山やゑ子
冬夕焼ネオンがさきに夜創る 長岐靖朗
冬夕焼人をあやむるごとき色 加藤三七子
冬夕焼会社勤めも大詰めに 高澤良一 宿好 十月-十二月
冬夕焼君住む町へつづきけり 伊藤和子
冬夕焼山塊を押し戻し来る 行方克巳
冬夕焼永遠とは永き束の間や 赤岡淑江
冬夕焼沁み入る地下の茂吉かな 堀井春一郎
冬夕焼沖に消えゆく油槽船 道川虹洋
冬夕焼浅間の裾の*ろうたけし 伊藤敬子
冬夕焼繰り返し言ふさやうなら 笹本カホル
冬夕焼貝の空籠十重がさね 北野民夫
冬夕焼鋳物不況の町つつむ 田上真知子
冬夕焼雲よりあふれ馬柵ながし 古賀まり子 降誕歌
冬夕焼風樹に小人棲むごとし 大串章
冬夕焼駆けだせば樹も傷癒えん 磯貝碧蹄館 握手
冬暖の濃き夕焼に橋の白 野澤節子 黄 炎
冬来ると夕焼烈し猟師町 小川幸子
冬靴を曳き行き妻も夕焼くる 金箱戈止夫
冷されし馬のふぐりの夕焼色 岸田稚魚 筍流し
凍てゆるみ緊り信濃は黄夕焼 福田蓼汀
凍て寒い日の夕焼け障子の皆に 八年間『碧梧桐句集八年間』 河東碧梧桐
凍りけり疎林に散りし夕焼も 相馬遷子 雪嶺
凍雲のふちの僅かに夕焼けし 高浜年尾
凩や雲裏の雲夕焼くる 臼田亞浪 定本亜浪句集
出帆や雲は夕焼ひろげつつ 岩崎照子
刃物の町来て夕焼のトランペット 中村明子
初汐の艇庫閉されて夕焼けぬ 石原舟月 山鵲
剪定の桃を夕焼の癒すなり 大野林火
剪定の桃を夕焼の癒やすなり 大野林火
副葬の剣をあつめる夕焼けて 鈴木六林男 悪霊
勝ち残る綱のひびきや夕焼凧 櫛原希伊子
北風強く夕焼を地の果に押す 田川飛旅子
十字架墓夕焼け影をつなぎ合ふ 小西 藤満
十歩して夕焼さめし麻畠 野沢節子
卵黄を掻き解き掻き解く冬夕焼 中村草田男
厨出て夕焼烈し蓼を摘む 桜井亜石
叛意の色キリシタン墓地濃き夕焼 子郷(島原)
合掌すガンジス河の大夕焼 永井敬子
吉野川火の帯となる夕焼かな 上崎暮潮
吊り歯朶に深山育ちの小夕焼 橋本渡舟
名月のいづる夕焼ひろごりぬ 渡邊水巴 富士
向日葵に今日の夕焼さむるなし 鈴鹿野風呂 浜木綿
向日葵に天よりも地の夕焼くる 山口誓子
吾も塑像も夕焼け怠惰些事ならず 川口重美
吾下りて夕焼くる山誰もゐず 津田清子
吾子よ汝がつぶらの瞳さへ夕焼くる 草堂(父となりて)
哨戒機夕焼くる向きしばし保つ 篠原梵
唖蝉の夕焼に耐へゐたりけり 中島窯火
喪の家も春夕焼の一戸たり 蓬田紀枝子
噴水や夕焼はげしき雲流れ 池内友次郎
噴烟の嗚咽が襲ふ夕焼寒ム 石原八束 空の渚
噴煙が雲押し上ぐる大夕焼 中村明子
国中の夕焼およぶ冬牡丹 宮津昭彦
国振のをみなが被ぐ布夕焼 細谷源二 砂金帯
園もはや夏たけてをる夕焼けかな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
土手に牛全形をもて夕焼くる [しょう]人
土赫き切り通しの崖昏らみたり梅雨に入りゆく空夕焼ける 草間正夫
土間夕焼じやが藷の山夕刊のせ 椎木嶋舎
地にひとり跼み夕焼浄土かな 村越化石
地に子供春の夕焼母のごとし 三谷 昭
地に悩みあり夕焼はうつくしく 岸風三楼 往来
地に沁みて夕焼薄し年暮るる 内藤吐天 鳴海抄
地の果にしづもり放つ夕焼見よ 桂樟蹊子
地蔵盆佐渡の夕焼さめてより 大峯あきら
坂くだる寒き夕焼に腕を振り 加藤楸邨
堰番の交代大夕焼のもと 長谷川素逝 村
塩田の筋目すぢめの秋夕焼 吉田紫乃
墓に逢ふうつろ夕焼松染めて 阿部みどり女
墳すでに闇に入りたる夕焼かな 鷲谷七菜子
声呑むや廃墟夕焼剰すなし 小林康治 玄霜
夏ふけて梁の塵も夕焼けぬ 内藤吐天 鳴海抄
夏雲の裾より引ける地曳網 土岡夕焼
夕刊のなき信州の大夕焼 茨木和生 木の國
夕焼が 冬木の幹を もやそうとする 吉岡禅寺洞
夕焼がおしよせてくる喉仏 今瀬剛一
夕焼がきれいと炭ひく腰のばす 菖蒲あや
夕焼がしづかに充たす藤の崖 柴田白葉女
夕焼が凍てて泪の粒を生む 三谷昭 獣身
夕焼が壜あかく染めオリーブ漬 中山純子 沙 羅以後
夕焼が流れる川から這い出る蟹 久保純夫 瑠璃薔薇館
夕焼くるかの雲のもとひと待たむ 橋本多佳子
夕焼くる人に近づきがたきかな 原 コウ子
夕焼くる墓に縄かけ運ぶなり 八木三日女
夕焼くる大和よ恋も死もあまた 沼尻巳津子
夕焼くる子らにやさしきことを言う 三谷昭 獣身
夕焼くる掛稲露をおびにけり 西島麦南 人音
夕焼くる明日といふ日を思ふなく 松岡巨籟
夕焼けざる航跡板書も師の遺筆 香西照雄 対話
夕焼けし雲一片や月の下 雑草 長谷川零餘子
夕焼けたる修羅の波うつ摩文仁丘(辻千鶴著『伊原野に死す』を読む) 石原八束 『藍微塵』
夕焼けだ夕焼けだ電線をゆする子供 内田南草
夕焼けて 珊瑚になった エルクの角 伊丹公子
夕焼けてあめつち時を喪へる 相馬遷子 山国
夕焼けてこの馬鹿げたるはんだごて 津沢マサ子 空の季節
夕焼けてすさむ家うち敗戦忌 岡本 眸
夕焼けてつひにホプラの風をよばず 久保田万太郎 流寓抄
夕焼けてなほそだつなる氷柱かな 中村汀女
夕焼けてのちも初潮早湍なす 下村槐太 天涯
夕焼けてゐたりしシャツを今日著て出ず 川口重美
夕焼けてゐたりし襁褓たたみ出す 上野さち子
夕焼けてスラムの土間も地のつづき 香西照雄
夕焼けてセーヌをはしる船は鰐 皆吉司
夕焼けてセーヌを走る船は鰐 皆吉司
夕焼けてマストの十字架ひとおりる 片山桃史 北方兵團
夕焼けて一本釣の船洗ふ 綿谷ただ志
夕焼けて何もあはれや船料理 中村汀女
夕焼けて俄かに昏き樫の音 田川飛旅子 花文字
夕焼けて出航間なき船がゐる 山口波津女 良人
夕焼けて土の古さや袋蜘 吉岡禅寺洞
夕焼けて埴輪となんぬ洗ひ馬 出口孤城
夕焼けて夏山おのが場に聳ゆ 飯田龍太
夕焼けて夏山己が場に聳ゆ 飯田龍太 麓の人
夕焼けて大天竜が海に入る 鈴木太喜雄
夕焼けて大群衆のはづれなる 中村正幸
夕焼けて天柱宝の夏嵐 飯田蛇笏 雪峡
夕焼けて天龍もたゞゆく流れ 百合山羽公 故園
夕焼けて寒し待たざるものも来ず 油布五線
夕焼けて寒鮒釣も堰の景 水原秋桜子
夕焼けて小さき雲の連れ立てる 篠原梵 雨
夕焼けて帰鴉はてしなき屋島かな 大橋櫻坡子 雨月
夕焼けて干草ぐるま道一筋 太田土男
夕焼けて年増女のやうな舟 高澤良一 ぱらりとせ 夏
夕焼けて息づく海が魚はなつ 沢 聰
夕焼けて揺るる静けさ枯木の実 松村蒼石 露
夕焼けて朝焼けて田の出穂の日日 長谷川素逝 村
夕焼けて汝が住む街の痩せし犬 津沢マサ子 楕円の昼
夕焼けて池塘に影のみつがしは 小林 碧郎
夕焼けて法悦に入る法師蝉 上田五千石 田園
夕焼けて流れつづける刈藻かな 中村秋晴
夕焼けて漁網のひと目づつ乾く 寺島ただし
夕焼けて火花の如く飛ぶ蝗 鈴木花蓑
夕焼けて炎のうねり秋桜 柴田奈美
夕焼けて真紅のくらげ渦とゆく 佐野まもる
夕焼けて砂町に棲むほかはなし 石田波郷
夕焼けて秋草原の火なりけり 高屋窓秋
夕焼けて窓の小さき子の下宿 岡田順子
夕焼けて羅刹のごとく焦土ゆく(故小川貴章の通夜に参席して空襲にあひ、翌日東長崎より歩いて丸之内の勤先に出で、それより夜に入つて世田谷へ帰りつく、五月二十五日) 石原八束 『秋風琴』
夕焼けて考へる葦そよぐ葦 和田祥子
夕焼けて良寛坊の吹かれゆく 加藤耕子
夕焼けて荒磯の牛のよろこべり 富澤赤黄男
夕焼けて薫ゆる月あり月見草 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夕焼けて蘇枋咲くさびしさに逢へり 加藤楸邨
夕焼けて西の十万億土透く 山口誓子
夕焼けて西の十萬億土透く 山口誓子
夕焼けて護国神社の裏しづか 飯田龍太
夕焼けて遠山雲の意にそへり 飯田龍太
夕焼けて雲くづれゆく茂かな 富田木歩
夕焼けて雷鳥も身を焦したつ 澤田 緑生
夕焼けて鳥獣戯画を繰る指よ 仙田洋子 橋のあなたに
夕焼けに挙句の果ての寅次郎 高澤良一 ぱらりとせ 夏
夕焼けに新聞手に手にバスを待つ 篠原梵 雨
夕焼けに満ちつつ帰帆ならざるなし 内藤吐天
夕焼けに顔のないわが子をさがす 住宅顕信 未完成
夕焼けに顔を燃やして発句修羅 高澤良一 随笑 七月-九月
夕焼けぬ壁にすがりて立てる身も 古賀まり子
夕焼けのホ-スたどれば必ず父 今井 聖
夕焼けの佐渡を良寛ならずとも 高澤良一 寒暑 四月-六月
夕焼けの川面空壜が沈みさう 斉藤夏風
夕焼けの彼方が恋し暑気あたり 阿部みどり女
夕焼けの木やかなしみの色絶えたり 宇多喜代子
夕焼けの海染め了る西津軽 高澤良一 寒暑 七月-九月
夕焼けの温もりを抱き聖書売り 吉田与恵
夕焼けの終の光の水平線 高澤良一 燕音 七月
夕焼けの色を残して海静か 稲畑汀子
夕焼けは神話のほとり蝸牛 橋口 等
夕焼けむと激つ雲脱ぐ八ケ岳 千代田葛彦 旅人木
夕焼けやあさきゆめみてゑひもして 平井照敏 天上大風
夕焼けや暗き樹の根に猫ゐたり 桜井博道 海上
夕焼けや裁かるゝごと木にもたれ 川口重美
夕焼けを孤舟まつすぐ戻りけり 川口 襄
夕焼けんとせし樹も梅雨に滲みけり 篠田悌二郎 風雪前
夕焼けビルわれらの智恵のさみしさよ 阿部完市
夕焼け杉間からの茶店に暗くされてゐる シヤツと雑草 栗林一石路
夕焼す縁側へ月の供へ物 鈴木花蓑
夕焼て富士あり凧の絲たるみ 岸風三楼 往来
夕焼て指切の指のみ残り 川崎展宏(1927-)
夕焼と何ある山の彼方には 山口誓子 一隅
夕焼と木枯を濾す硝子のビル 田川飛旅子
夕焼にうつつの青鵐遠病む師 佐藤鬼房
夕焼にこころをさなく染りけり 椎橋清翠
夕焼にそまりやすさよ末の子は 今瀬剛一
夕焼にそまり水車をふみつかれ 長谷川素逝 村
夕焼にひかり撒くもの子の手足 野澤節子 黄 炎
夕焼にむかひて走り少女死す 下村槐太 天涯
夕焼に加はりさうな浮雲も 稲畑汀子 春光
夕焼に外燈かぎりなく古ぶ 野澤節子 黄 瀬
夕焼に子がかたまりて石数ふ 福田甲子雄
夕焼に手をあげしごとき冬木ならぶ 篠原梵 雨
夕焼に攫われゆきしかくれんぼ 有沢文枝
夕焼に染まりて低き家ばかり 成瀬桜桃子 風色
夕焼に染まる春風とぞ思ふ 目迫秩父
夕焼に染りて低き家ばかり 成瀬桜桃子
夕焼に油まみれの手を洗ふ 細谷源二 鐵
夕焼に父の帆なほも沖にあり 寺山修司 未刊行初期作品
夕焼に畳飛びゆくわが離郷 寺山修司 花粉航海
夕焼に祈る言葉も染りつゝ 山内山彦
夕焼に遺書のつたなく死ににけり 佐藤鬼房
夕焼に野川が染みつ寒の入 水原秋桜子
夕焼に鎌あがる見ゆ磯田刈り 木村蕪城
夕焼に飢ゑを二匙加へけり 櫂未知子 蒙古斑
夕焼のあへなく消えし案山子かな 万太郎
夕焼のいつかをさまり星二つ 高浜年尾
夕焼のいよいよ暗き寝釈迦かな 岸本尚毅 舜
夕焼のうすれ山茶花も散りゆくか 渡辺水巴 白日
夕焼のうつせみと蝉相識らず 澁谷道
夕焼のうつりあまれる植田かな 木下夕爾
夕焼のかそかなりしか雪の原 相馬遷子 山国
夕焼のきはみに手あぐこゑをあぐ 上田五千石 田園
夕焼のくまどつてをる潦 京極杞陽 くくたち下巻
夕焼のさめたる崖に蟹赤し 内藤吐天 鳴海抄
夕焼のさめたる雲の残りをり 波多野爽波 鋪道の花
夕焼のさめつつひかるさくらの実 飯野燦雨
夕焼のさめゆく白夜つづくなり 石原舟月
夕焼のさめゆけばはやいなびかり 山口青邨
夕焼のすべてを許しゐる冬木 加藤燕雨
夕焼のそむる上衣をぬぎて手に 久保田万太郎 草の丈
夕焼のとどく机に何も置かず 関戸靖子
夕焼のどこに立ちても荒き海 福田甲子雄
夕焼のどの階も硝子割れをり 榎本冬一郎 眼光
夕焼のながかりしあと鮑食ふ 森 澄雄
夕焼のにじむ白壁に声絶えてほろびうせたるものの爪あと 前川佐美雄
夕焼のにはかにさむる木賊刈る 高橋稚児
夕焼のはかなきことも美しく 稲畑汀子
夕焼のはげしさに蟻引つ返す 榎本冬一郎 眼光
夕焼のはたと消えけり秋の川 村上鬼城
夕焼のひろがるほどに孤独知る 山本歩禅
夕焼のひろがる中の花の幹 柴田白葉女 遠い橋
夕焼のみ赤し冬来る森の方 神尾久美子 掌
夕焼のやうな魚をさげてくる 富澤赤黄男
夕焼のやがてさめゆく蟻地獄 山口誓子
夕焼のテラスのひとの耳飾 木下夕爾
夕焼の一どにさめし浦曲かな 高濱年尾 年尾句集
夕焼の一瞬さめし桔梗かな 深見けん二
夕焼の中かぎりなく柿落す 内藤吐天 鳴海抄
夕焼の中に危ふく人の立つ 波多野爽波 『鋪道の花』
夕焼の仔馬映せり天の野に 長谷川かな女 牡 丹
夕焼の吾も変幻の影曳きぬ 古舘曹人 砂の音
夕焼の堰に激ちてより天竜川 荒井正隆
夕焼の大きな空を消えてゆく 池内友次郎
夕焼の大表情の下にあり 上野泰 春潮
夕焼の天へ段なしケルン立つ とよなが水木
夕焼の奈落が見たし麦踏めり 中拓夫
夕焼の奥に鷹おり撃たれけむ 寺田京子 日の鷹
夕焼の女松湯浴みのごとくあり 工藤ミネ子
夕焼の山を駈けゆく草履の子 神崎聖徳
夕焼の峰雪崩れむとして止みぬ 殿村莵絲子 花 季
夕焼の手足洗ひて鵜川びと 渡辺 昭
夕焼の断雲つひに岩を染めず 福田蓼汀 秋風挽歌
夕焼の暗澹たるや隠れ岩 榎本冬一郎
夕焼の有平糖屋九段下 小島千架子
夕焼の柩をおろし休みけり 久保純夫 聖樹
夕焼の柱を離れ月日たつ 徳弘純 麦のほとり
夕焼の栄光の中胸汗ばむ 斎藤空華 空華句集
夕焼の橋に遊んで蛍待つ 鈴木花蓑
夕焼の橋に遊んで螢待つ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夕焼の流れはやむる砂簾 岸田稚魚 筍流し
夕焼の海せりあがる茄子の紺 阪本謙二
夕焼の消えて又雨栗の花 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夕焼の消ゆる湖畔に灯影冴ゆ 瀧春一 菜園
夕焼の港に鳩の降る日かな 小林康治 『存念』
夕焼の瀬舟縫ひゆき打つ時鐘 米沢吾亦紅 童顔
夕焼の無名村落を撃ちて死す 齋藤玄 『舎木』『飛雪』
夕焼の狂える雲が椎をつつむ 田川飛旅子 花文字
夕焼の狂へる雲が椎をつつむ 田川飛旅子 『花文字』
夕焼の瓦冷えびえ波をたゝみ 上村占魚 鮎
夕焼の盥のたがの撥ねてをり 野村喜舟
夕焼の真赤に御用納かな 藺草慶子
夕焼の短き蓮を掘りゐたり 大場白水郎 散木集
夕焼の空のサイレン野球果つ 雨月 大橋櫻坡子
夕焼の紅射しのこす書絮の端 野澤節子 遠い橋
夕焼の美をこらしたる国に着く 橋本美代子
夕焼の耳噛めば耳かたくなり 久保純夫 聖樹
夕焼の肌身に迫り大根蒔く 廣瀬直人
夕焼の茜彩めむと布の丈 文挟夫佐恵 雨 月
夕焼の蚕室へ帰る女達 飯田龍太 春の道
夕焼の血潮掌に汲みパラダイス 八木三日女 石柱の賦
夕焼の褪せてみづうみ霧らひそむ 瀧春一 菜園
夕焼の褪めてしまひて時あまり 後藤比奈夫
夕焼の褪めてしまへば明日の雲 後藤比奈夫 初心
夕焼の赤き山女を岩にならべ 瀧春一 菜園
夕焼の輪中の田より凧一つ 近藤一鴻
夕焼の道骨壷をかかへ来る 瀧春一 菜園
夕焼の野空の濃きを馬車塞ぐ 田村了咲
夕焼の金をまつげにつけてゆく 富沢赤黄男
夕焼の金板の上水馬ゆく 山口青邨
夕焼の金龍飛べり冬の空 山口青邨
夕焼の長しや二百十日暮れ 白石天留翁
夕焼の間に合うようにマラソンす 小泉 静
夕焼の雪ある嶺を尊みぬ 長谷川かな女 雨 月
夕焼の雲の中にも仏陀あり 高浜虚子
夕焼の雲の裂けゆく 蝸 牛 富澤赤黄男
夕焼の雲より駱駝あふれ来つ 楸邨 (アルガリンド・オボ附近)
夕焼の風に消えゆく真菰かな 久保田万太郎
夕焼の馬込は黍の坂ばかり 猿山木魂
夕焼の麓の村の帰省かな 田中冬二 俳句拾遺
夕焼の黄にかはりゆく蛇の衣 柴田白葉女 『冬泉』
夕焼の黄金のきびしき慰霊祭 片山桃史 北方兵團
夕焼の黙人の黙山を崩し 直人
夕焼はじまる涼しき位置に夫の箸 神尾久美子
夕焼はひろし雑草を縺れしめ 下村槐太 天涯
夕焼はや人魚に波をくりかへす 桂樟蹊子
夕焼はゆすらのひとつ〜にも 出牛清朗
夕焼は全裸となりし鉄路かな あざ蓉子
夕焼は大樹のかなたにて激し 柴田白葉女 牡 丹
夕焼は天の帝王切開か 田川飛旅子 『山法師』
夕焼は映らず白きゆきのした 渡邊水巴 富士
夕焼は濃ゆけれどもう字が読めぬ 山口波津女 良人
夕焼は羅刹の兵を天におく 石原八束 藍微塵
夕焼は美しけれど農貧し 新津稚鴎
夕焼は膳のものをも染めにけり 風生
夕焼は青田の空をひきしぼり 長谷川ふみ子
夕焼へ下水の口のならびたる 白泉
夕焼へ墓標たてもう汗も出ない 鈴木六林男 荒天
夕焼へ真紅の玻璃扉ひらき出づ 鷲谷七菜子 黄 炎
夕焼へ群集だまり走り出す 西東三鬼
夕焼も海の匂も消えしとき 久保田万太郎 草の丈
夕焼も炎に入れて落葉焚 大高千代
夕焼やあとひと息の逆あがり 高木杏子
夕焼やひつくりかへりをる馬穴 上野泰 春潮
夕焼やみな黒髪を持つ誇り 池内友次郎
夕焼やわが門札のいたくうすれ 瀧春一 菜園
夕焼やバス止め戻る牛の列 石垣軒風子
夕焼や人のなげきはすぐ忘る 油布五線
夕焼や忘れてをれば蟻の列 加藤秋邨 野哭
夕焼や手にせる魚を喜びて 雑草 長谷川零餘子
夕焼や新宿の街棒立ちに 奥坂まや
夕焼や木になはとびの端と端 田中純子
夕焼や未来都市なる埋立地 岩崎照子
夕焼や杉の梢の凌霄花 村上鬼城
夕焼や梅も桜も固けれど 中村汀女
夕焼や楽屋の前の水車 中村吉右衛門
夕焼や海よりおこる巌襖 橋本鶏二 年輪
夕焼や海よりおこる巖襖 橋本鶏二
夕焼や生きてある身のさびしさを 鈴木花蓑
夕焼や生毛ほろほろ吹かれゐて 仙田洋子 橋のあなたに
夕焼や空のどこかに挽肉機 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
夕焼や芒野を渡る大鴉 内田百間
夕焼や若し夫在らば厨妻 鈴木真砂女 夕螢
夕焼や西へ西へと船すすむ 山口波津女 良人
夕焼や運び行く鍋煮ゆる音 香西照雄
夕焼や鍛冶の火ともる運河べり 木下夕爾
夕焼や鰯の網に人だかり 正岡子規
夕焼より頭上の夜に眼を移す 展宏
夕焼をしろしとおもふ葬り以後 神尾久美子 掌
夕焼をつみ残したる離陸かな 佐川初江
夕焼をみて来し稿の継ぎ目何処 田川飛旅子 花文字
夕焼を唱はずなりし子と覚ゆ 林原耒井 蜩
夕焼を堕ちてしまひし夕陽かな 坊城俊樹
夕焼を巻込む渦や船施餓鬼 矢野聖峰
夕焼を永くゆるして梅雨の暮 八木林之介 青霞集
夕焼を父と思へり父の忌日 山口波津女 良人
夕焼を睫に溜めて汽車にゐる 三好潤子
夕焼を経し雲まろく皆眠げ 香西照雄 対話
夕焼を背負ひて立てり枯木立 並松 玉哉
夕焼を脱ぎて厨の人となる 長山あや
夕焼を見つくしてまた螢まつ 百合山羽公
夕焼を見とどけ金星に歩む 中村ひでよ
夕焼を追ふべくありぬ螺旋階 橋本榮治 麦生
夕焼を雪に変ふなり奥毛野は 村越化石 山國抄
夕焼久し老後の母と予後の吾に 成田千空 地霊
夕焼光弥陀の来迎つげわたる 上田五千石 田園
夕焼寒う杣小屋の大きな鋸 人間を彫る 大橋裸木
夕焼寒しかはほりはブリツヂヘとぶ 太田鴻村 穂国
夕焼寒む廃墟灯るとび〜に 岸風三楼 往来
夕焼山羊精薄児らに愛さるる 成瀬桜桃子 風色
夕焼沼黄金分割の鴛鴦の航 田仲了司
夕焼波漂ふほどに色を増す 加倉井秋を 午後の窓
夕焼消え真紅の薔薇を抱き来し 野見山朱鳥
夕焼消え除夜大空の汚れなし 池内友次郎
夕焼涼し牀几へ膳を運び出づ 高田蝶衣
夕焼濃き海を航くなり口噤み 津田清子 礼 拝
夕焼濃し手を振りあふだけの別れ 木下夕爾
夕焼濃し船繋ぐ綱ふみ越えて 津田清子 礼 拝
夕焼濃し船繋ぐ綱踏み越えて 津田清子
夕焼空に五位ほのと見し宵の春 木歩句集 富田木歩
夕焼空は愚問の如し大工の子 夏石番矢 メトロポリティツク
夕焼空アラー讃ふるこゑのぼる・・・タイ、インドネシア 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和五十六年
夕焼空燃えきはまれりソーダ水 木下夕爾
夕焼空詩に鴆毒あることも 飯田龍太
夕焼褪せ月影渦をはしらする 佐野まもる 海郷
夕焼褪め沙漠は東より昏るる 奥田智久
夕焼過ぎなほ薔薇色の帆を置けり 佐野まもる 海郷
夕焼雀砂あび砂に死の記憶 穴井太
夕焼雀砂浴び砂に死の記憶 穴井 太
夕焼雲ですよと妻の割烹着 向山隆峰
夕焼雲代田に爛れ選挙終る 相馬遷子 雪嶺
夕焼雲仰ぐいのちを大切に 古賀まり子 洗 禮
夕焼雲月のしろがねつゝみけり 久保田万太郎 流寓抄
夕焼雲棚曳きもの煮て独りなり 奈良文夫
夕焼雲消ゆるを追ひて出帆す 福田蓼汀 山火
夕焼雲渦なしくらき炭坑街 大野林火
夕焼鵙祈りの鐘も鳴る頃か 下村ひろし 西陲集
大き夕焼河も流れを止めてゐる 相馬遷子
大和夕焼蛇の穴墓の穴 今瀬剛一
大夏のけふよりぞとも夕焼雲 原石鼎 花影以後
大夕焼うすれゆく時逢ひたしも 西村和子
大夕焼わが家焼きたる火の色に 鈴木真砂女
大夕焼オランダ坂をころげゆく 清水明子
大夕焼一天をおしひろげたる 長谷川素逝 暦日
大夕焼悪寒に鳴らす歯二十枚 石橋秀野
大夕焼戻りの馬車の遊び鞭 太田土男
大夕焼掌にのるほどの古代船 佐川広治
大夕焼昆明よりの敵機くる 坊城としあつ
大夕焼曳きて亀の子歩みをり 影島智子
大夕焼消えなば夫の帰るべし 石橋秀野
大夕焼牛に指笛ゆきわたる 太田土男
大夕焼瞑れば眼窩なほ陥つや 斎藤空華 空華句集
大夕焼空ひとゆすりして消えし 今橋真理子
大夕焼苗一すぢも染めにけり 深川正一郎
大夕焼視野の山巓みな踏みし 福田蓼汀 秋風挽歌
大夕焼野仏に血が通ひだす 立澤菊子
大夕焼鯛眼上に青一抹 香西照雄 対話
大年の大夕焼や観世音 京極杞陽 くくたち下巻
大槻に夏至の夕焼ふたたびす 亀井糸游
大窓に夕焼うすく淋しき日 伊津野 静
大章魚を片手におもく夕焼くる 佐野まもる 海郷
天と湖夕焼け近江美(うま)し國 山口誓子 紅日
天国(ぱらいそ)の夕焼を見ずや地は枯れても 水原秋桜子
天国の夕焼を見ずや地は枯れても 水原秋櫻子
天地夕焼冬木の中の分教場 川村紫陽
天壁を夕焼のぼる深雪かな 児玉南草
天安門にたたかふごとし大夕焼 鳥居おさむ
天平の朱の大門や大夕焼 西本 俊
天心へ大夕焼のゆるむなし 長谷川素逝 暦日
太刀魚に箸をつけたる夕焼かな 岩田由美
夭折といへど夕焼より赤し 櫂未知子 貴族
奢りながき夕焼透いて不作の田 佐藤鬼房
女坂のぼれば春の夕焼け町 中村汀女
如泥臼花藻かづきて夕焼くる 西本一都 景色
妻が呼ぶ声夕焼の中につよし 右城暮石 声と声
妻の刻いつもときいろ秋夕焼 野口大輔
妻は湯にわれには濃ゆき冬夕焼 富澤赤黄男
妻居ねば子よ夕焼の歌うたへ 山口草堂
妻病むとわが割る氷夕焼す 中島斌雄
妻祷る真黄色なる夕焼に 中村草田男
娶らむと冬夕焼に母を牽き 斎藤玄
子どもばかり飛びおりる空寒夕焼 仙田洋子
子を連れて野の夕焼に片手浮く 飯田龍太
子を遠く大夕焼に合掌す 中村汀女
子供去り夕焼雀そこら跳ね 福田蓼汀 山火
子等離りゆく夕焼が炎なす 柴田白葉女
孔雀の羽根が噴水になつた夕焼 富澤赤黄男
孤児たりき今は夕焼二児の父 中島斌雄
孫悟空火を放ちたる寒夕焼 那須淳男
宍道湖の夕焼終り王を攻む 角川源義
実葡萄に甲斐の夕焼火のごとし 徳永山冬子
室までも凄き夕焼避暑の宿 松藤夏山 夏山句集
家中に馬具干すにほひ寒夕焼 西野陽子
寄席を出て秋夕焼のすさまじく 杉山岳陽 晩婚
富士がとほく夕焼のまだ明りある草原 シヤツと雑草 栗林一石路
富士の前夕焼及ばぬところにゐて 岸田稚魚 筍流し
富士の肩棚雲よりも夕焼濃し 篠原梵 雨
富士夕焼父の言ひたきこと知りつゝ 赤城さかえ
寒卵夕焼にかざす掌 兼巻旦流子
寒夕焼いつまでまとふまづしさよ 梗間ふみ
寒夕焼いぶりて宿す星ひとつ 塚原麦生
寒夕焼さめつつ浮雲相寄らず 福田蓼汀 秋風挽歌
寒夕焼じゃんけんぽんの石と紙 鷹羽狩行
寒夕焼じやんけんぽんの石と紙 鷹羽狩行
寒夕焼どつかり収め雑木山 武藤ほとり
寒夕焼ひかゞみに手を挟み臥て 石田波郷
寒夕焼われも罪人かく染まり 小松崎爽青
寒夕焼をさなのごとく母を見る 原裕 葦牙
寒夕焼スプーンが曲るまで待てよ 永末恵子 留守
寒夕焼一塵となり列車去る 仙田洋子 雲は王冠
寒夕焼人肉花と散りし日あり 小松崎爽青
寒夕焼他国へいそぐ千曲川 宮津昭彦
寒夕焼反り身に魚の焼かれ居り 桂信子 黄 炎
寒夕焼富士一日の力抜く 久保田重之
寒夕焼母負ひ越えね渋谷川 小林康治
寒夕焼浄土のいろとなりゆけり 柴田白葉女 『朝の木』
寒夕焼海峡を火の燠とせり 加藤かけい
寒夕焼照らしおほせず山暮るる 福田蓼汀 秋風挽歌
寒夕焼男峰に女峰傾斜かく 上村占魚 『自門』
寒夕焼硝子細工の馬車を攻む 櫛原希伊子
寒夕焼神々の座は炎えあがり 堀口星眠
寒夕焼端まで塗らず画布の紅 桂信子 黄 瀬
寒夕焼終れりすべて終りしごと 細見綾子
寒夕焼縄跳び場より跳び帰る 鷹羽狩行 誕生
寒夕焼羅漢幾百あご親し 山本一糸
寒夕焼荒馬街を出でゆけり 佐藤鬼房
寒夕焼西天に詩をかきなぐる 小川双々子
寒夕焼見よと二歳児つま立てり 北見さとる
寒夕焼親に先立つかも知れず 結城昌治
寒夕焼運河をそめて昏らかりき 塚原麦生
寒夕焼遠富士の上の一つ星 金子麒麟草
寒夕焼那頂の噴煙穂みじかに 西本一都
寒夕焼那須の噴煙穂みじかに 西本一都 景色
寒夕焼鹿呼ぶこゑの渚まで 加藤真吾
寒暮少し夕焼け母に還らねば 蓬田紀枝子
寒木となる夕焼を力とし 奥名春江
寒牛となり夕焼の雲とゐる 上野さち子
寒雁のゆくへ橋々夕焼けて 松村蒼石 雁
寒雲の夕焼けはしいくさ勝つ 渡邊水巴 富士
寒鮒を焼けば山国夕焼色 山口青邨
寡婦に馴れ大阪に馴れ寒夕焼 久松久子
小説の死を夕焼の中に閉づ 原裕 投影
少年工泣かさじと諭す秋夕焼 米沢吾亦紅 童顔
少数派祭りのあとは夕焼けて 高澤晶子
屋根の夕焼剥がれて佃島昏るる 斉藤夏風
屋根屋根の夕焼くるあすも仕事がない 栗林一石路
屋根替の人も古墳も夕焼くる 伊藤いと子
山こえてゆく子らゆゑに夕焼けて 長谷川素逝
山の端に見えざる海の夕焼雲 水原秋櫻子
山夕焼牛の漆黒ひき出だす 落合水尾
山小屋は岩を楯とし夕焼けぬ 岡田日郎
山河消え日輪ひそむ霧夕焼 福田蓼汀 秋風挽歌
山眠る浮世絵いろの夕焼に 朝倉和江
岩桔梗紫消えてなほ夕焼 福田蓼汀
岸にうつ泳ぎの波や大夕焼 飯田蛇笏 山廬集
崩崖夕焼渡り坑夫の墓燃ゆる 文挟夫佐恵 黄 瀬
巌狭間縮つてくる秋夕焼 岸田稚魚
川底までとどく夕焼若葉どき 古賀まり子 緑の野
工は火を燃し吾は夕焼につきすゝむ 細谷源二 砂金帯
帆船なればこそ燦然たる夕焼け 佐川広治
師と坐り茶の出ごろ待つ春夕焼 羽部洞然
帰りなむ春夕焼を壜に詰め 櫂未知子 蒙古斑
干梅の皺たのもしく夕焼くる 竹下しづの女
干草に大夕焼のさめにけり 清原枴童 枴童句集
店頭の米の名やさし大夕焼 石井直子
庶民の死ある度夕焼淡夕焼 香西照雄 素心
彼の丘にトラピストあり夕焼けて 高濱年尾 年尾句集
征きし日のかの夕焼と風呂敷と 加藤楸邨
待つことも待たるることもなき夕焼 政木 紫野
後山の夕焼刻を落葉鳴る 飯田蛇笏 椿花集
御岳に立つ夕焼雲夜ものこる 水原秋櫻子
微笑のみ町の確かさ黒夕焼 鈴木六林男 谷間の旗
忌にあれば濃き夕焼をまぶしみぬ 山口波津女 良人
忌詞杣には生きて寒夕焼 茨木和生
忽然と阿蘇夕焼けし枯野道 穐好樹莵男
思はずも遠くに来たる梅雨夕焼 佐藤美恵子
急がねばまた夕焼けが遠くなる 大西泰世
恐竜のなかの夕焼け取り出しぬ あざ蓉子
恐竜のなかの夕焼取りだしぬ あざ蓉子
惜命や残り葉の方夕焼けをり 角川源義 『西行の日』
想ふこと春夕焼より美しく 富安風生
慶雲丸逐ふ隠岐丸も夕焼けぬ 鈴鹿野風呂 浜木綿
我が死後もかく夕焼くる日のあらん 高田風人子
戦は夕焼くる野に泣きて終ふ 上村占魚 鮎
手を振りし家族のために大夕焼 櫂未知子 貴族
手を振るが別れの言葉大夕焼 植木千鶴子
技師われの怒声あとひく寒夕焼 米沢吾亦紅 童顔
抱きいづるみづ児と染まり梅雨夕焼 赤松[けい]子 白毫
招かれて秋夕焼の畳かな 岸本尚毅 舜
挿木舟はや夕焼けて泛びけり 飯田蛇笏 山廬集
挿木舟はや夕焼けて浮びけり 飯田蛇笏 霊芝
掛取りのもどり天国のよな夕焼 佐野良太 樫
揚げ物の音が窓洩れ春夕焼 三村純也
摩伏仁岬大夕焼が目にも燃ゆ 細川加賀 生身魂
擦過傷ほどの赤夕焼を抱く 櫂未知子 蒙古斑
放愁より淡く潮路も夕焼けたり 秋櫻子
敦盛草の母衣も夕焼く雲の頭も 野沢節子
数へ唄夕焼世界寒くなる 堀井春一郎
文月の六日の夕焼羨しかり 窪田英治
文来ぬ日牛がひたすら夕焼けをり 川口重美
斜里町はサーモン色の夕焼けに 高澤良一 燕音 七月
旅なほも遙かへ誘ふ冬夕焼 山田弘子
旅人のうしろ照らるる夕焼かな 吉武月二郎句集
日のつまり目にみえて夕焼くるかな 久保田万太郎 流寓抄
日本海の夕焼に土平らかなり 長谷川かな女 雨 月
昇天の合掌そろふ梅雨夕焼 下村ひろし 西陲集
明日へ巻く時計城なほ夕焼けて 川口重美
明星の銀ひとつぞや寒夕焼 相馬遷子 山国
明星の銀ひとつぶや寒夕焼 相馬遷子
昔日のうしろの正面大夕焼 谷口桂子
春の夕焼背番「16」の子がふたり ねじめ正也
春の夕焼魚焼き終るまでありぬ 角野正輝
春夕焼いくつも橋を渡りけり 岩井久美恵
春夕焼たれも虔しき明日はもつ 石田波郷
春夕焼ぶつかりさうな礁と礁 加藤憲曠
春夕焼ジャングルジムより子をとり出す 井上真実
春夕焼向ひの家の鏡見ゆ 岡本 眸
春夕焼土積むトラック坂のぼる 桜井博道 海上
春夕焼星の生るる波紋見ゆ 橋本鶏二
春夕焼海女も鴎も染めつくす 柴田白葉女 『冬泉』
春夕焼真珠筏を染めにけり 小山南史
春夕焼終命の夫あどけなし(翌、十八日午後四時四十五分永眠、六十九才なり) 殿村菟絲子 『旅雁』
春夕焼華やぐ中に宴待つ 相馬遷子 山河
昼風呂に小野子の片頬夕焼けて 前田普羅 春寒浅間山
晩稲刈雲の端々夕焼けて 橋本榮治 麦生
暑げなき夕焼の雲雫すや 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
暑を湛ふ渾天渾地夕焼けて 相馬遷子 山国
書き騙るあはれ夕焼野に腹這ひ 三橋鷹女
木のこぶの夕焼長し痕めき 細谷源二 砂金帯
末枯の夕焼うつる布団かな 増田龍雨 龍雨句集
杉の秀にわだの翠眉や秋夕焼 富安風生
杉は夕焼下萌の辺は尚明るし 加藤知世子 黄 炎
束の間の大夕焼でありしかな 成嶋いはほ
来し方や冬夕焼のさめ易し 内藤吐天 鳴海抄
松籟のほとりただよふ春夕焼 猿山木魂
松老いて城より高く夕焼ける 吉屋信子
林檎剥く指も曠野の夕焼を 楸邨
果しなくうつろの空の大夕焼 家田小刀子
枯芦の遠きものより夕焼す 山田みづえ 手甲
枯蘆の遠きものより夕焼す 山田みづえ
柱時計のなかの夕焼鴎の冬 中島斌雄
柳絮おふ家禽に空は夕焼けぬ 飯田蛇笏
柿本人麻呂走る冬夕焼 蓮田双川
校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け 穂村弘
校歌まだ歌えるふしぎ秋夕焼 渡邊禎子
根緒の海士栄螺あげたり夕焼波 烏越すみこ
桃のなか別の昔が夕焼けて 中村苑子
桃買ふや夕焼けて来し旅の空 藤岡筑邨
梅雨の街異郷のごとく夕焼す 瀧春一 菜園
梅雨夕焼こんにやくいもの葉にすこし 長谷川素逝 暦日
梅雨夕焼一羽の鴉こゑ忘れ 細川加賀 生身魂
梅雨夕焼世の隅家の隅に縫ふ 馬場移公子
梅雨夕焼少年の四肢細く白く 福田蓼汀 山火
梅雨夕焼算盤塾に子等昏む 田川飛旅子 花文字
梅雨寒や三ツ葉の花の夕焼けて 佐野青陽人 天の川
梧桐のはや夕焼を隠し得ず 三橋鷹女
棟越しの木々夕焼けて秋の風 木歩句集 富田木歩
森の中ついに夕焼けざる石と 川口重美
森の中被告の如く夕焼けくる 川口重美
森の夕焼終る靴屋の木椅子にも 綾子
植ゑし田に夕焼淡くみだれたり 相馬遷子
横雲の夕焼をして一二片
横顔の夫と柱が夕焼けて 加藤知世子
樹にのぼる少年の四肢夕焼くる 阿部みどり女
檻夕焼虎母子しづかな相似形 香西照雄
歩みよるそこも夕焼草の中 植山露子
歩を進めがたしや天地夕焼けて 山口誓子
死のきわの夕焼雲を見せてやる 三谷昭 獣身
死の脈をとりきし指に夕焼くる 荒谷利夫
死を囃すごと夕焼の空ベッド 岡部弾丸
死者もみひらく寒夕焼の小むらさき 金尾梅の門
水あれば夕焼ひたる晩夏かな 木下夕爾
水を飲む馬は耳より夕焼けて ながさく清江
水中に夕焼浄土蓮の花 川村紫陽
水尾のはて由布の夕焼消ぇんとす 水原秋櫻子
水流る寒の夕焼と藻の間を 宮津昭彦
水車ふむ人に夕焼かかはらず 長谷川素逝 村
水車踏む夕焼空をゆくごとし 豊里とも吉
水郷の夕焼ながし鵙猛る 鈴鹿野風呂 浜木綿
水飲んで春の夕焼身に流す 岡本 眸
水鳥のてらし出されぬ夕焼波 吉武月二郎句集
水鳥や夕焼色に芝に在り 温亭句集 篠原温亭
池の面ながれてゐたり夕焼に 川島彷徨子 榛の木
沖夕焼けて鴎鳴き合ふ時雨かな 金尾梅の門 古志の歌
沼わたる蛇夕焼けを消しながら 福田甲子雄
沼夕焼多佳子の家を遠く置く 上野さち子
泣きやめてなほ夕焼けてゐたりけり 林原耒井 蜩
流れ来て夕焼雲となりにけり 塙告冬
流水に夕焼こごる青胡桃 相馬遷子 雪嶺
流水に夕焼こゞる青胡桃 相馬遷子
流氷に追はれ来し船夕焼けて 未光
浅間山夕焼ながら初嵐 村上鬼城
浜木綿にさへぎるもののなき夕焼 高橋金窗
浜木綿の実の放埒に夕焼けたり 殿村菟絲子 『晩緑』
浦上や冬夕焼にわが染まり 大竹孤悠
海と言ふ器の中の秋夕焼 大木涼子
海は夕焼裘のぼる坂の町 角川源義
海へ向く子は夕焼のおとしもの 一ノ木文子
海上に夕焼屈み込むやうに 高澤良一 ぱらりとせ 夏
海上の大夕焼や施餓鬼船 村上鬼城
海夕焼トマトを伊太利亜風に煮て 中戸川朝人
海染むる力をもたず寒夕焼 加藤三七子
海猫の翔つ夕焼の断崖白し 石原八束 空の渚
海胆突いて大夕焼をもどりけり 北見さとる
海鳴やこの夕焼に父捨てむ 奥坂まや
渓空に夕焼けてつづく川ちどり 飯田蛇笏 春蘭
渤海の秋夕焼やすぐをはる 加藤楸邨
渤海の秋夕焼やすじをはる 加藤楸邨
渤海も鶏冠山も大夕焼 合田ミユキ
渦を覆ふ濃き夕焼に佇ちつくす 佐野まもる 海郷
湖めぐる山むらさきに夕焼けぬ 瀧春一 菜園
湖傾ぎ夕焼はじまる馬の肌 柴田白葉女 牡 丹
湿原に夕焼とどく柳葉魚漁 磯部 実
満潮の波をたゝまず夕焼す 鈴木真砂女 生簀籠
滅罪の寒の夕焼法華尼寺 津田清子
滝田ゆうの夕焼横町抜ケラレマス 倉橋羊村
漁船帰る冬夕焼を曳きつれて 嶋村博吉
漂ひゆく葬花河口の秋夕焼 鷲谷七菜子 雨 月
潟橇の跡の一水夕焼くる 奈良文夫
潦には寸断の秋夕焼 依田明倫
濃くなつて重たくなつてゆく夕焼 蔦三郎
濃く浄き秋の夕焼誰も見ず 相馬遷子 山河
濃夕焼泥田をいでず泥夫婦 橋本多佳子
濤よりもおのれはためく寒夕焼 米沢吾亦紅
瀬戸夕焼平家不幸と誰が決めし 三好潤子
灘に尽く野生馬の岬冬夕焼 大橋敦子
火の島の冬夕焼や海の音(大久保康雄氏と房州館山に越年) 角川源義 『西行の日』
火の鳥と思ふ白鳥に夕焼寒ム 仙田洋子 雲は王冠
火事のごと砂漠町現れ夕焼くる 嶋田摩耶子
火口燃ゆ屈折光の夕焼寒ム 石原八束 空の渚
灯を入れて夕焼したる切子かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
点滴の露のひとつぶ夕焼けたり 佐川広治
焼跡の空朝焼し夕焼す 林原耒井 蜩
煉獄への道の半ばや大夕焼 荒井千佐代
熱の子にくすぶる寒の夕焼よ 佐藤鬼房
燃え足らぬ夕焼雲よ雁渡る 石田あき子 見舞籠
爪紅や童女の世界夕焼けつつ 岡本まち子
父も子も音痴や野面夕焼けて 伊丹三樹彦
父抱けばこころ焦土となる夕焼 櫂未知子 貴族
父母ら秋夕焼にまぎれこむ 松澤昭 麓入
爼に流す血黒し秋夕焼 桂信子 晩春
牛吠えて梅雨の夕焼はるかなり 相馬遷子 山国
牛減りて残る曲屋秋夕焼 清水寥人
牛群れて牛小屋ぬくし寒夕焼 相馬遷子 雪嶺
物として我を夕焼染めにけり 永田耕衣
犬が来て人が来て川の大夕焼 柴田白葉女 『夕浪』
狂う夕焼戦盲冬の地下道に 田川飛旅子 花文字
狂ふ夕焼戦盲冬の地下道に 田川飛旅子
狐らの夜となる夕焼野にくらし 堀口星眠
現じたる夕焼浄土乱雲に 相馬遷子 雪嶺
甘蔗刈りの人夕焼に並びけり 諸石虎城
甘藍をだく夕焼の背を愛す 飯田龍太
生徒居ねば疲れあらはに夕焼けをり 林 翔
町の端に地下出づ電車寒夕焼 大橋敦子 手 鞠
畦塗や夕焼けながら小糠雨 雉子郎句集 石島雉子郎
痩谿のヴァリスは雲の夕焼かな 有働亨 汐路
白地着てつねなく夕焼待ちゐたり 大野林火
白帝城幕おとす如春夕焼 田中英子
白靴に場の睡蓮夕焼けぬ 飯田蛇笏 霊芝
白魚網夕焼くるを見て泊りけり 大野林火
白鳥の去りし水面へ春夕焼 佐藤美恵子
看取りにも終る日のあり秋夕焼 今井千鶴子
眼も口も裂けめの寒の夕焼かな 大木あまり
睡蓮に風ものこらで夕焼けをり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
知床の夕焼海を焦しけり 今井栄之助
石となり砂と乱れて夕焼くる 鈴木六林男 悪霊
硝子窓隅にゆくほど夕焼濃し 川島彷徨子 榛の木
磔像下の古きオルガン梅雨夕焼 冨田みのる
磯神のがんばつてこそ夕焼す 松澤昭 麓入
礁に群れて夕焼よりも赤き蟹 木下夕爾
祝ぎの如夕焼の鶴仰がるる 阿波野青畝
神々の乗り込む船が夕焼けて 高澤良一 ぱらりとせ 夏
神々の焚火出雲の夕焼は 柴田奈美
祭あはれ夕焼がさし月がさし 下村槐太 光背
福島の桃の夕焼けどき長き 高澤良一 随笑 七月-九月
秋夕焼かちかち鴉溺るるな 井桁白陶
秋夕焼ぎりぎりの朱とおもふべし 鎌倉佐弓
秋夕焼くわえて抜き手切つている 岸本マチ子
秋夕焼け母のなき子のやうに去ぬ 池之小町
秋夕焼むかし租界の煉瓦館 加藤耕子
秋夕焼わが溜息に褪せゆけり 相馬遷子 山国
秋夕焼一徹ゆらぐ現場椅子 米沢吾亦紅 童顔
秋夕焼不二の黒さを残しけり 三木十柿
秋夕焼乗換駅に水を買う 宇多喜代子 象
秋夕焼壮麗人間小さくて 柴田白葉女
秋夕焼引出しに蕎麦浚ひけり 小池文子 巴里蕭条
秋夕焼待つときわれは暗き森 目須田和子
秋夕焼旅愁といはむには淡し 富安風生
秋夕焼母攫はるるかも知れぬ 江中真弓
秋夕焼燈もて応ふる淡路島 宮津昭彦
秋夕焼芯はまつくろかもしれぬ 夏井いつき
秋夕焼褪せしづかなる木にもどる 阿部みどり女
秋夕焼風紋つねに影あたらし 鷲谷七菜子
秋暑の旅今日も朝焼また夕焼 相馬遷子 山国
秋霖の夕焼ほのと飛燕見ゆ 西島麦南
秘めごとや鬼雲となる夕焼雲 大木あまり
移居了へしその夕焼に襁褓干す 原田種茅 径
種浸す予後の夕焼ながかりし 赤尾兜子
種蒔けば天の限りの夕焼ぞ 大野林火
種蒔けば天をかぎりの夕焼ぞ 林火
稲刈つて出羽の夕焼拡げたり 茨木和生
稲扱くや越の夕焼ひろごりぬ 渡辺笑鬼郎
稲架立てて夕焼暗き川流る 内藤吐天 鳴海抄
空のやや夕焼めきて雪が降る 京極杞陽 くくたち上巻
空也忌の夕焼畠の二三歩や 鳥海むねき
空蝉の透けて夕焼濃くなりぬ 内藤吐天 鳴海抄
窓々の夕焼消えし暖炉かな 大場白水郎 散木集
竹山の声つつぬけや春夕焼 長谷川 櫂
笑い声ぶつかり歩く春夕焼 二村典子
箱眼鏡海盤車の底の夕焼くる 佐野まもる 海郷
節分や夕焼の濃き杏色 森 澄雄
紅型のいろの夕焼甘蔗刈る 中尾杏子
紐切れて冬夕焼の端もなし 古舘曹人 能登の蛙
紫陽花やこやみとなりて夕焼けぬ 原田種茅 径
終戦日夕焼くさき水を飲めり 福永耕二
総金歯の美少女のごとき春夕焼 高山れおな
練供養その先にある大夕焼 松本 旭
縄とびの波の向うに春夕焼 小林蘇美
罪の不安夕焼けの影みな森と 加藤楸邨
群なしてからす寒夕焼の中 三宮美津子
老の汗夕焼さめて来りけり 松村蒼石 寒鶯抄
聖玻璃の原色燻ゆる海夕焼 下村ひろし 西陲集
職たのし寒夕焼に目を細め 米沢吾亦紅 童顔
背泳の沖へ沖へと夕焼濃し 嶋田麻紀
胸さらす冷たき岳の夕焼に 澤田緑生
胸まで暗き冬の夕焼夫入院 加藤知世子 花寂び
胸元にきて夕焼の黒變せり 小川双々子
自転車泥棒逃げても逃げきれぬ大夕焼 磯貝碧蹄館
芦刈の刈りあらはれし夕焼川 松村蒼石
英霊に大寒の雲夕焼けたり 沢木欣一
茄子もげば雲がひらひら夕焼けて 太田鴻村 穂国
茨の実や大夕焼も野渡の景 飯田蛇笏 山廬集
茶の泡に春夕焼のとどまらず 加藤楸邨
茶の花や夕焼けてゐしひとの肩 湘子
草取の大夕焼にそまり来る 遠藤麗花
草夕焼山水邑を落ちゆけり 千代田葛彦 旅人木
草田男眸つむり光淋笹も夕焼けぬ 沢木欣一 雪白
草田男眸つむり光琳笹も夕焼けぬ 沢木欣一
草蜉蝣湖の夕焼けあつすぎる 伊藤 和
荒海や不意に死が馳す春夕焼 柴田白葉女 花寂び 以後
莢を出てなたまめ夕焼よりも濃し 木下夕爾
落葉松に微醺ただよふ冬夕焼 澤田緑生
落葉踏むやしばし雀と夕焼けて 渡辺水巴 白日
葭切や片耳つんぼ夕焼けて 太田鴻村 穂国
葱抜くをんな寒の夕焼炉のごとく 飯田龍太
蒲の穂に嫗あらはれ長夕焼 大峯あきら
蓮根掘夕焼面をあげにけり 富安風生
蓮田のみ雪消え夕焼低くなる 西村公鳳
蓮真青なる夕焼を保母帰る 飯田龍太
薄い夕焼の風吹きつゞけ篠山 安斎櫻[カイ]子
薄原暮れてもあかき夕焼かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
薄氷の裏に夕焼こもりけり 吉野義子
薔薇崩るるとき嚠喨と夕焼雲 千代田葛彦 旅人木
藁しべの括り髪なる夕焼け馬 中村苑子
藤は万朶の夕焼ににじむ五稜郭 石原八束 空の渚
虫ないて夕焼くる土の葉一枚 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
虹消えて夕焼けしたる蔬菜籠 飯田蛇笏 霊芝
蚊のこゑと活字はかなむ夕焼に 野澤節子 黄 瀬
蛙遠し夕焼くる方へ歩まん 佐野良太 樫
蜑の町すみのすみまで夕焼けて 敏郎
蝌蚪生る絵の夕焼は横裂きに 古舘曹人 能登の蛙
蝗の眼今も昔も夕焼けて 柿本多映
蝙蝠を吐き桜閣の夕焼けぬ 千代田葛彦 旅人木
蟻なども群れてはにほふ梅雨夕焼 篠田悌二郎
蟻の列いま粛然と夕焼けぬ 川端茅舎
血ぬられし大和やさしく夕焼して 坂戸淳夫
血の色の夕焼に歓喜蚊食鳥 羽部洞然
血を喀いて大夕焼の中に臥す 石原八束
行くピエロ帰るピエロよ寒夕焼 小沢昭一
行く年の夕焼彼の世の色ならずや 水野 柿葉
行く雁を見送る顔も夕焼けぬ 米沢吾亦紅 童顔
行けど行けどミシシッピーの大夕焼 矢島 恵
行水に天の夕焼したたれり 相馬遷子
街なかの桃ヶ丘町夕焼けて 鈴木六林男 *か賊
街夕焼魚いくども水打たれ 桜井博道 海上
裏山に声なき鷺や大夕焼 岡本まち子
西の都の冬夕焼の崩れしか 夏井いつき
親離れも子離れもいまだ夕焼けて 中村明子
誇張して夕焼空を彩れる 高澤良一 さざなみやっこ 夏
誰も言はぬ塩田の夕焼野辺送り 佐野まもる 海郷
誰恋ふとなく庭にあり春夕焼 勝又一透
象潟の夕焼くらく終りけり 岸本尚毅 舜
負ひきれぬ昆布地を擦る夕焼中 川勝 春
買ひし菜の抱くほどもなし冬夕焼 鷲谷七菜子
賀状書く背を夕焼が移るらし 黒岩有径
赤と青闘つてゐる夕焼かな 波多野爽波 『鋪道の花』
走つても転んでも夕焼の赤さ逃れられぬ 細谷源二
越前の夕焼芭蕉も曾良もなし 福田甲子雄
路地をゆくこころの迷路夕焼けて 津沢マサ子 空の季節
路地染めて何をもたらす寒夕焼 菖蒲あや 路 地
踏地染めて何をもたらす寒夕焼 菖蒲あや
追ひかけて馬を夕焼に染めてしまふ 細谷源二 砂金帯
退職工諭し夕焼の椅子すゝむ 米沢吾亦紅 童顔
造成地にビル建つまでの秋夕焼 寺岡捷子
造船音絶えてこのかた寒夕焼 榎本冬一郎 眼光
連嶺も踏める砂礫も秋夕焼 福田蓼汀
遊ぶ輪を春夕焼に解かれけり 長島武彦
過去へ向く己れ宥せず冬夕焼 河野南畦 湖の森
遠き日のことのごとしや夕焼けて 加藤楸邨
都に友あり夕焼鵜追ひ越す汽車 香西照雄 対話
酒となく漠と渇せり夕焼けて 石塚友二
重陽の夕焼けに逢ふ幾たりか 阿部みどり女 『月下美人』
重陽の夕焼に逢ふ幾たりか 阿部みどり女
野の果てに人遠ざかる寒夕焼 宮本径考
野は夕焼富士晴れてゆく晴れてゆく 岩松草泊
野は白く咲くものに満ち大夕焼 奥田智久
野分雲夕焼しつつ走りをり 高浜年尾
野分雲夕焼しつゝ走り居り 高浜年尾
野生馬ねぐらいづこや寒夕焼 鈴木詮子
野菊折るやうちみる早瀬夕焼けて 飯田蛇笏 山廬集
野馬いくら馳けても夕焼の裏へ行けず 加倉井秋を
金星は日の嗣子夕焼雲が褥 香西照雄 対話
金箔の夕焼の空すぐ琵せぬ 阿波野青畝
金魚大鱗夕焼の空の如きあり 松本たかし
金魚玉夕焼さめて来りけり 石井貫木子
金魚田の一つ一つに寒夕焼 大橋敦子 手 鞠
鈴買つて春夕焼の肩ぐるま 菅原鬨也
鉛筆を鋭く削り秋夕焼 能美澄江
銀座裏火の見櫓が夕焼けて 深見けん二
銃肩に遊牧民や夕焼す 下村梅子
錫杖は遠き世のおと寒夕焼 三浦秋葉
長夕焼旅で書く文余白なし 田中 裕明
長夕焼旅で書く文餘白なし 田中裕明 山信
長政のこゑぞ全天夕焼けて・・・タイ、インドネシア 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和五十六年
門掃けば夕焼さむる余寒かな 金尾梅の門 古志の歌
門火焚く峰の夕焼けいつまでも 福田甲子雄
闇師等が欺しあひをり夕焼けつつ 加藤秋邨 野哭
阿修羅王敗れ夕焼終りの朱 岩村蓬
陸になき夕焼海に濃く寒し 菖蒲あや
隊商に大夕焼のいつまでも 原田青児
雀もろとも夕焼けてをり雪達磨 村上古郷
雄阿寒のうしろの夕焼雌阿寒に 石原八束 空の渚
雌阿寒夕焼若き母なる山と思ふ 岡田日郎
雨晴れし空の果まで夕焼くる 能美丹詠
雪の山脈怒濤のごとし寒夕焼 相馬遷子 雪嶺
雪下し剣岳はひとり夕焼くる 金尾梅の門 古志の歌
雪中に夕焼けて日伸びにけり 鈴木花蓑
雪山に春の夕焼滝をなす 飯田龍太
雪嶺のうしろを見たき夕焼かな 太田土男
雪嶺夕焼鈴高鳴らす供米車 加藤知世子 花寂び
雲にある明るき穴が夕焼す 田川飛旅子
雷のあと夕焼はげしき野の病舎 古賀まり子
電燈に夕焼うつりて暑きさま 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霧湧いて夕焼けそびれつかなかなかな 林原耒井 蜩
露地染めて何をもたらす寒夕焼け 菖蒲あや
青き夕焼峰さす「細道」を藪にさがす 加藤知世子 花寂び
青柿が青柿を見て夕焼けたり 千代田葛彦
青梅にうかべる雀斑地の夕焼 松村蒼石 寒鶯抄
風垣(かっちょ)夕焼どの少年も固挙(龍飛岬二句) 河野南畦 『風の岬』
風岬くらし夕焼の日本海 角川源義 『冬の虹』
食パンにはさむ夕焼色のもの 対馬康子 純情
飯といい飯といい村が夕焼ける 奥山甲子男
首断たれ鰤夕焼を吐き出せり 熊谷愛子
馬がゐてコップの中も夕焼けぬ 桜井博道 海上
馬具耕具軒に掛け干す春夕焼 畑中七郎
駱駝に乗れば夕焼紅蓮のピラミッド 石原八束 『仮幻』
骨として我を夕焼染めにけり 齋藤愼爾
高野切墨継ぎも佳き春夕焼 伊藤敬子
髪あらふとき夕焼のはげしきいろ 柴田白葉女
髪よりももつれて冬の夕焼は 夏井いつき
髪切つてしまひたくなり大夕焼 谷口桂子
鬼に影踏まれしよりの冬夕焼 萩山栄一
魚突いて男夕焼に立ち上がる 大串章
鮮烈な沖の夕焼片身貝 柴田白葉女
鯉群れて夕焼の水すゞしうす 佐野青陽人 天の川
鯖火見ゆ天の夕焼とつゞきつゝ 水原秋桜子
鰯豊漁いづくを果の夕焼ぞ 藤井富美子
鰯雲も孤児のシャッポも夕焼けて 川口重美
鳥翔ける夕焼きよき彼方へと 相馬遷子 雪嶺
鳩まつや夕焼のなか雲生る 桜井博道 海上
鳩小屋に秋夕焼を賜はりぬ 石田波郷
鴨耀りて万の綺羅おく春夕焼 柴田白葉女 『月の笛』
鵜が翔ける大石狩の夕焼空 飯田蛇笏 雪峡
鶏頭のうつれる水も夕焼て 岸風三楼 往来
鶏頭の紅夕焼の落し子か 三好潤子
鶴の首夕焼けてをりどこよりもさびしきものと来し動物園 伊藤一彦
鷭の子の小さき水尾も夕焼たる 岸風三楼 往来
鷺たかし秋夕焼に透きとほり 軽部烏頭子
鷽替へて昔の色の寒夕焼 塚原巨矢
鸚鵡孤児寒夕焼に舌染めて 渋谷道
鹿の血をそそぐにあらず夕焼塚 鳥居美智子
鹿舞の波止に競へり秋夕焼 羽田岳水
黄のままに没るいかるがの秋夕焼 吉田紫乃
黒石はねぶた祭の雨夕焼 藤田あけ烏 赤松
龍骨成る木屑と河口夕焼けて 飴山實 『おりいぶ』
●弱日
冬弱日白鷺町へひと筋に 石川桂郎 高蘆
命惜しまむ寒の弱日に縋りても 小林康治
田草取峡の弱日にこそ縋れ 小林康治
白壁をすばやく過ぎし秋弱日 岸田稚魚 筍流し
風船葛弱日も吸ひて脹らめり 能村登四郎
風邪の目に墓の弱日のなつかしき 岸田稚魚
●落日
あとずさりして落日の蟻地獄 とよなが水木
きりぎりす落日前の濤騒ぎ 野沢節子 飛泉
くづるる刻来て落日の白牡丹 鷲谷七菜子
しなしなと秋落日の轎ゆけり 千代田葛彦
なぜ見えぬ白村江の落花落日 夏石番矢
ひまはりは実に落日の川鴉 柴田白葉女 花寂び 以後
まくなぎの修羅落日を濁しけり 佐藤 国夫
むさし野の落日花の辺に見たり 目迫秩父
らんらんと落日もゆる*ひつじかな 富安風生
ストーブから顔あげた落日一つ シヤツと雑草 栗林一石路
チンチク・チンチク伊予国松山秋落日 中村草田男
ボージヨレーヌーボー撥ね橋の朱の落日 山崎 聰
メロン熟れる落日稿は急ぐもの 寺田京子 日の鷹
何首烏芋提げ落日の方へ行く 小田南天子
冬の海落日や薄氷の番して居れば 永田耕衣 葱室
凍てゆるびたる処落日さすところ 行方克巳
出潮にのつて来る船の落日の輝きとなる 人間を彫る 大橋裸木
刻々と春の落日幸うすし 石川桂郎 含羞
原子炉を出で落日のあな寒き 岸風三樓
叫喚に似る落日の敗戦忌 小出秋光
声走る寒の落日見に来よと 龍男
大きければ箔の音する落日は 南出好史
大阪の落花落日モツを焼く 坪内稔典
影捨てにゆく落日の芒原 千代田葛彦
日色すぐ落日めくや冬の果樹 中島斌男
春の航落日を追ふごとく月 稲垣きくの 黄 瀬
春風の旗の日の丸落日色 池田澄子
末枯の野に落日の力なく 浅野右橘
末枯れて野の落日のゆたかさよ 岡部名保子
枯樅の透け落日を海に見き 岸風三樓
枯萱の切先失せて能登落日 金子無患子
枯葎落日の珠しづめたる 鷲谷七菜子 花寂び 以後
柿の向ふの落日山のやすらぎに 桜井博道 海上
柿吊りて落日部落つぶら眼を 原裕 青垣
栗山にあれば落日慌し 高浜虚子
栗山に在れば落日慌し 高浜虚子
梅の下にけふ落日を見るゆとり 瀧春一 菜園
植ゑし田に大落日の宿りける 土生耕石
正面に落日うけて涅槃像 妻木 松瀬青々
母病む冬砂塵の落日大きく見て 桜井博道 海上
水鳥に落日のあり巣にもどる 伊東 伸堂
水鶏ゆくや落日を眉間の光とす 日夏耿之介 婆羅門俳諧
海の落日しんかんと船の人らかな 人間を彫る 大橋裸木
海苔桶に落日燃ゆる年惜しむ 金尾梅の門 古志の歌
渚ゆく水着夫人や落日後 桂樟蹊子
渤海の秋の落日けふも見き 長谷川素逝 砲車
牛の眼の春の落日よりも大き 瀧春一 菜園
生涯に落日いくつ青葡萄 山口 剛
秋湖澄み富士の落日真紅なり 富安風生
秋耕の父よ落日へ横すべり 遠藤秀子
秋落日岩塊流木荒れしまま 福田蓼汀 秋風挽歌
稲刈のいたるところに落日して 小川双々子
糸瓜忌の落日淋し白芙容 竹の門句集 筏井竹の門、木津螢雪編
糸瓜棚解いて落日かくれなし 上野果堂
絶壁へ冬の落日吹きよせられ 富澤赤黄男
老画家とゆく落日の氷湖の辺 野澤節子 遠い橋
能登は落日旅の仏を見る寒さ 宮武寒々 朱卓
芽ぶく樹々大落日を捧げたり 加藤知世子 黄 炎
若者に落日はなし黄水仙 工藤紫蘇
落日にうづくまりたる接木かな 大峯あきら
落日にきらめき立てり野の新樹 鈴木しづ子
落日にくろ〜とあり凧の陣 高橋淡路女 梶の葉
落日にしばられてゆく秋の水 鎌居千代
落日によき声洩らし松毟鳥 飯田龍太
落日に向ひて下る紅葉山 西山小鼓子
落日に向日葵の背を向けしまま 吉田ひろし
落日に垂る蓑虫に剌客の目 千代田葛彦
落日に拓地の鳥居稲架を抽く 木村蕪城 寒泉
落日に支那のランプのホヤを拭く 富澤赤黄男
落日に曳かれて辷る一白鳥 林翔
落日に群衆が透く川施餓鬼 橋本多佳子
落日に蹴あへる鶏や鳳仙花 飯田蛇笏
落日に蹴合へる鶏や鳳仙花 飯田蛇笏
落日に頬白さむき鳥の母子 浜 芳女
落日に鵙絶叫す吾子還せ 福田蓼汀 秋風挽歌
落日のあとの湖照る帰雁かな 石田久美子
落日のごとく崩れし牡丹かな 稲垣きくの 牡 丹
落日のしづかにうごく雲の鰭 富澤赤黄男
落日のために冬田が見えぬ時 相生垣瓜人
落日のなかくらくらと夏去れり 桜井博道 海上
落日のふと寒木瓜の朱を点ず 加藤楸邨
落日のアルカリ性の天の意志 高柳重信
落日のビュッフェの裸木殺到す 桜井博道 海上
落日の中に灯ともる菊供養 能村登四郎
落日の大きかりける鴨の陣 佐草佳子
落日の大きく赤き菜を間引く 遠藤梧逸
落日の奢りのあとの鉦叩 友岡子郷
落日の巨眼の中に凍てし鴉 富澤赤黄男
落日の潜りて染る蕎麦の茎 蕪村
落日の獣身を寄せ嘆き合う 三谷昭
落日の石狩川は燃えながら少女のわれの中を流れき 斎藤史
落日の粘野ゆく子のうたへるや 臼田亞浪 定本亜浪句集
落日の荘巌麦の穂が囃す 桜木俊晃
落日の華やぎ少し茨の実 藤松遊子
落日の落し子ここに烏瓜 但馬美作
落日の赤く太りつ麦の秋 加藤安希子
落日の雪に嘴とぐ鴉はも 金尾梅の門 古志の歌
落日の魚に袖なし花衣 上島鬼貫
落日はうすくれなゐの霧まとふ 福田蓼汀 山火
落日は火の帯太き秋の湖 神原栄二
落日は鰯のごとくなまぐさし 富澤赤黄男
落日へ なんぞ男の息荒き 富澤赤黄男
落日へ並ぶ雑木や年惜しむ 目黒十一
落日へ吹きつけ吹きつけ石鹸玉 増田達治
落日も亦好からずや月を待つ 福田蓼汀 山火
落日も河も壮年終戦日 小檜山繁子
落日も雀隠れに遊びけり 堀口星眠 営巣期
落日やフェリーにしぶく寒の潮 河本好恵
落日や刈田万畦胸ひらく 千代田葛彦
落日や戸口に払ふ野火ほこり 金尾梅の門 古志の歌
落日や焼きつくされし野をもどる 金尾梅の門 古志の歌
落日や玉揺すり飲むラムネ瓶 松山足羽
落日や薄氷の番して居れば 永田耕衣 葱室
落日や釈迦のうしろに入佐山 上島鬼貫
落日をのせ稲車ひいて来る 深見けん二
落日をゆく落日をゆく真赤い中隊 富澤赤黄男
落日を城の旬とす雪解川 鳥居おさむ
落日を境に氷り鷹ケ峯 宇佐美魚目 秋収冬蔵
落日を戻す冬木あらざり雲もなし 細谷源二
落日を朝日とまがう由紀夫の忌 五島高資
落日を湛へて沼の草紅葉 渡辺立男
落日を追ふ霧絶えて月のぼる 岡田日郎
落日運ぶ少年の船黒ぶどう 伊藤 和
落日顔にしみ緑おもたい坂みち シヤツと雑草 栗林一石路
落葉とびひと落日を負ひゆける 中尾白雨 中尾白雨句集
蒼海の落日とゞく蚊帳かな 杉田久女
蛇穴に落日の光ふと冷ゆる 武田一朗
蝮捕り渡り吊橋落日さす 秋元不死男
西瓜のやうなおもたい落日がある シヤツと雑草 栗林一石路
身構えて飛ぶ落日の北京蝿 神山姫余
野は枯れて落日支ふ何もなし 吉本 昴
金泥の水の落日鳰くぐる 桂信子 遠い橋
長城の月落日を追ふさまに 臼田亜浪 旅人
雪吊りの中の落日まぶしめり 新田祐久
青蘆の中落日の朱一条 千代田葛彦
飛ぶ蛾族落日すでに力なし 相馬遷子 山国
養花天落日とみに耀ひぬ 西島麦南 人音
麦蒔の大落日に影浮き出す 小坂順子
●落陽
落陽も巻き込む落葉つむじ浴ぶ 藤浦昭代
雪嶺に死ぬ落陽を生かしたし 細谷源二 砂金帯
●落暉
いましばし人なるわれか海原は視野をかぎりの落暉をかへす 岸田典子
すきとほる赤立春の沼落暉 石井とし夫
はまなすや落暉の色に濁る河 澤田 緑生
ひかりなき落暉と見れば野火あがる 桂樟蹊子
ひととゐて落暉栄あり避暑期去る 石田波郷
ひとゝゐて落暉栄あり避暑期去る 石田 波郷
ほとゝぎす沙羅は落暉を照りかへし 佐野青陽人 天の川
スキー脱ぐ膝に落暉のうちふるふ 澤田 緑生
マンハツタンに鹿なだれ込む落暉 五島高資
一つづつ落暉ふちどるみな冬鹿 橋本多佳子
一事終へ湖の落暉に冬ざくら 塚田秋邦
二上山の落暉をまとふ寒牡丹 佐川広治
五時閉す寺門大和の落暉冷ゆ 近藤一鴻
児の軍歌意味なしなさず寒き落暉 中島斌男
冬落暉檻のけものら声挙げて 三谷昭
冬落暉檻の獣ら声挙げて 三谷昭 獣身
北風凪の海の落暉や飽かず立つ 金尾梅の門 古志の歌
坩堝なす落暉を沖に百日草 松本幹雄
城壁に触れはじかれし秋落暉 中村明子
夏惜しみ今日も落暉の原よぎる 榎本冬一郎 眼光
大寒や萎えざるものに落暉相 皆吉爽雨
大氷湖落暉散乱しても無音 甲斐虎童
大落暉べら一匹と子ら五人 下山田禮子
大落暉わが愚者の船まなうらに 寺山修司
大落暉呑めり台風兆す海 米田双葉子
学校始そのはらからに日冷し 吉村落暉
安達太良は智恵子の空よ冬落暉 椎橋清翠
寒林のガソリンにほふ方落暉 石田波郷
寒濤へ昭和の落暉呑まれゆく 甲斐すず江
恋すてふ落暉追ひ落つ寒椿 渡辺恭子
抜手切る 亀よ 落暉は沖で待つ 三橋鷹女
敗荷にひつかかりたる落暉かな 岸風三楼
昔より落暉変らず藍の花 上崎暮潮
曼珠沙華落暉も蕊をひろげけり 中村草田男
曼珠沙華落暉も蘂を拡げけり 中村草田男
枯山の落暉に音のありにけり 塚原いま乃
枯草のちりちり鳴りて山落暉 福田蓼汀
柊の花に落暉のとどまらず 吉岡 宏
染まる雲なき元日の落暉かな 後澤啼鳥
染め上げし藍きびきびと冬落暉 池上不二子
柿もぐや殊にもろ手の山落暉 定本芝不器男句集
梅紅し雪後の落暉きえてなほ 西島麦南
梅雨の落暉を硝子の傷がとり囲む 田川飛旅子
汐踏や秋の落暉をその上に 町田しげき
沼の野火消えて落暉の赤一つ 石井とし夫
沼統べて冬至の落暉赤かりし 石井とし夫
海落暉神子・遊子・塩坂越鳥渡り 伊藤いと子
渡り鳥落暉の島を埋めつくす 朝倉和江
湖凍てて落暉の総のそよぎをり 大峯あきら
無花果を裂けば落暉の燃え移り 相生垣瓜人 微茫集
牛蛙茫とふるへし落暉かな 三木星童
産めよ殖えよ……雲焙りゐる落暉の炉 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
病廊の果にとどまる秋落暉 横山房子
立葵病廊落暉火のやうに 大峯あきら
群鶴の落暉に寒き首揃ふ 冨田みのる
船上に二百十日の落暉浴ぶ 阿部喜恵子
菊のかげこまごまとある落暉かな 岸風三楼 往来
落暉いまトマト剪り取る手にゆらぐ 林原耒井 蜩
落暉おとろへぬ肺なす芋の葉に 下村槐太 天涯
落暉はや鶏頭の黄を余すのみ 石塚友二 方寸虚実
落暉ほのと顔に照るらし梅雨の原 渡邊水巴 富士
落暉凍て阿蘇の風嘯天に泣く 石原八束 空の渚
落暉望んで男ばかりや尾花照る 渡辺水巴 白日
落暉燃えて厳冬の海ほてりけり 渡邊水巴 富士
落暉美し身の係累を捨てにけり 鈴木しづ子
蕗の葉に落暉晩夏の刻の影 下村槐太 天涯
蘆花くゞりそむより落暉赤くなる 石井とし夫
蘆花の揺れたるや落暉の揺れたるや 石井とし夫
行人に枯林の落暉及ばざり 林原耒井 蜩
西国の落暉まともに曼珠沙華 行方克巳
谷杉につよき落暉や鴉の巣 大橋櫻坡子 雨月
郭公も金色ならん落暉いま 栗生純夫 科野路
長き尾を曳き大寒の落暉澄む 上村占魚 『石の犬』
隼の落暉に燃ゆる瞳に逢える 百合山羽公
雁の列寒き落暉の中に入る 相馬遷子
雪の富士落暉紅さと円さの極 中村草田男
雪止めば島は落暉のあふれけり 佐野まもる 海郷
青葦や落暉の方へ潮迅し 兒玉南草
静かなる驢馬に重き荷冬落暉 都筑智子
鳥雲に古墳の丘の大落暉 甲斐すず江
鴨浮かべ落暉一つに沼はあり 石井とし夫
鷹のほか落暉にそまるものもなし 木村蕪城
麦を蒔く地上五尺に落暉燃ゆ 岡田 貞峰
黒姫も落暉負ふ山燕去る 橋本多佳子
●烈日
さみしい烈日の押し易い扉がある 安斎櫻[カイ]子
ははき草干され烈日蒼くせり 杉本寛
岳樺幹の阿修羅に秋烈日 高澤良一 ぱらりとせ 秋
月鉾の月烈日に一閃す 大橋敦子
烈日に切り抜かれたる影法師 津沢マサ子 風のトルソー
烈日に君が日傘の小さゝよ 青峰集 島田青峰
烈日に灼けつつまれて造船所 五十嵐播水 埠頭
烈日に病めば啼く鵜や花葵 西島麥南 金剛纂
烈日に開きて固き扇かな 中村汀女
烈日のあげ藻の中のゐもりかな 野村泊月
烈日の下に不思議の露を見し
烈日の光と涙降りそゝぐ 中村草田男
烈日の土の息吹や百日紅 小坂かしを
烈日の曼珠沙華みて髪凝る 小檜山繁子
烈日の美しかりし桔梗かな 中村汀女
烈日やころげし雹に草の影 原 石鼎
烈日やふりむくたびに通草の実 中田剛 珠樹
烈日や老杉の映え社殿の丹に 石塚友二 方寸虚実
烈日をかへして椰子の葉は勝てり 高橋馬相 秋山越
照らすべき物なき烈日沖に満つ 篠原梵
狐舎のうら秋烈日の火山立つ 相馬遷子 山国
瞼垂れ蝉も烈日も忽と消ゆ 相馬遷子 山国
祈りゐて烈日焦土眼を離れず 下村ひろし 西陲集
絶巓のコーラス烈日に肩を組み 福田蓼汀 秋風挽歌
背なを灼く烈日われはアラビアヘ帰り来しなり火の匂いする 三井修
降りそゝぐ山の烈日秋の風 相馬遷子 山国
雲間より烈日出でて敗戦忌 竹田一郎
雹ころがりて烈日の大地かな 清原枴童 枴童句集
青いうしほくぐり飛ぶ鳥が烈日の下 人間を彫る 大橋裸木