光

●一閃●一灯●稲光●海明り●円光●オーロラ●外光●外灯●輝く●川明り●眼光●逆光●蛍光●光陰●皓々●光彩●光線●光芒●後光●採光●燦々●紫外線●島影●寂光●樹影●春光●照射●消灯●照明●燭●曙光●蜃気楼●水銀灯●瑞光●赤外線●閃光●底光り●電光●点灯●点滅●投影●日照●ネオン●ハイライト●裸灯●白光●発光●反射●微光●輻射●フラッシュ●火影●街明り●明滅●夜光●余光●雷火●雷電●乱反射●燐光

●一閃
あぢさゐに一閃の雨つきさゝる 川口重美
かはせみの瑠璃の一閃水温む 佐長芳子
かはせみの紫紺一閃よき日なれ 成田千空 地霊
せきれいの来て一閃の冬日さす 柴田白葉女 遠い橋
とろ箱に朝日一閃冬の蟹 石田阿畏子
はちどりの一閃したる渓の春 仙田洋子 雲は王冠
一閃に白骨の温泉や夜の雷 東洋城千句
一閃の雷火のなかに青胡桃 阿波野青畝
一閃を永久につたへて原爆忌 蔦三郎
一閃光初島は覚めぬ鰤おこし 及川貞 夕焼
俳諧や斧鉞一閃の蟻地獄 石原八束 『風信帖』
冷麦に朱の一閃や姉遠し 秋元不死男
初蝶の黄の確かさの一閃す 中村汀女
初蝶一閃あのころとは同じならず 坂本宮尾
夏つばめ一閃最上は男川 武田玄女
太陽の中へかへらむとする鳥か黒き一閃のたちまちに消ゆ 小野興二郎
寒林へ径一閃や狂へる窓 古舘曹人 能登の蛙
尾のごときものが一閃鵙なるや 高澤良一　随笑 十月-十二月
岩つばめ一閃けふの日が上る 藤波孝堂
捕虫網空振りの棹一閃す 高澤良一　素抱 七月-九月
捨水の一閃に木曾氷りたり 宇佐美魚目 天地存問
斧一閃又一閃と寒まづし 細谷源二 砂金帯
春鮒のくらき一閃忘恩か 能村登四郎
月鉾の月烈日に一閃す 大橋敦子 母子草
枇杷の実のイヱズスに化す一閃よ 平井照敏 天上大風
燕一閃大阪は橋多きかな 田中英子
磯鵯の一閃ふかき青葉潮 古賀まり子 緑の野以後
秋風の吹きし一閃太柱 上野泰 春潮
竹落葉一閃二閃風の中 成瀬正とし 星月夜
翡翆の一閃に瑠璃残しけり 冨田みのる
翡翠の一閃山を遠くせり 須藤徹
翡翠の一閃枯野醒ましゆく 堀口星眠 営巣期
翡翠の翔つ一閃の川涸るる 渡辺七三郎
蔦若葉一閃当り矢放ちたり 河本好恵
蛾の落ちるとき一閃のふくらはぎ 宇多喜代子
蝿叩一閃したる新居かな 岸本尚毅 舜
返り花一閃の紅とどめたる 石嶌岳
魚鱗一閃水中に春動く 高崎武義
鮎鷹の一閃に水蒼むかな 窪田佳津子
鮎鷹の一閃青嶺澄みにけり 土山紫牛
鮠のかげ一閃二閃水澄めり 荒井正隆
鯔一閃それっきりかと眺めゐる 高澤良一　素抱 四月-六月
鳥影の一閃湖の解氷期 山田弘子
鵙一閃行方よぎりぬ就職す 山田みづえ 忘
●一灯
かなかなに一灯ふやし水使ふ 池田秀水
さび鮎を焼く一燈の炉端かな 石川桂郎 高蘆
さみだるる一燈長き坂を守り 林火
たまゆらの一燈つきし万燈会 細見綾子 黄 炎
つきしぶる橋の一灯雁渡 辻美奈子
またたかぬ一灯が刺す雪の原 鷲谷七菜子 銃身
まづ一灯ゆれて迎へ火みなゆるる 西村牽牛
ゆくりなき一灯の雨情梅しろし 桂樟蹊子
パス嚥む妻へ一燈飾す降誕祭 磯貝碧蹄館 握手
一橙を据う一燈を置く如し 相生垣瓜人 明治草抄
一灯があれば梟よりゆたか 清水径子
一灯にわが名があるよ万燈会 丸山いわを
一灯に据ゑられてある神輿かな 鈴木貞雄
一灯に母子の浄土白障子 毛塚静枝
一灯に虚色ふかまる水中花 成田昭男
一灯に音なく狂ふ白蛾かな 大竹朝子
一灯の下のひとりや青葉木菟 野末たく二
一灯の低きを囲み薬喰 若井新一
一灯の及びてをれる虫の闇 行方克巳
一灯の照らす路傍が冬の視野 和田悟朗
一灯の端島灯台五月闇 森山 抱石
一灯の限界に渦雪解川 桂信子 黄 瀬
一灯へ人の息寄る峡の冬 桂信子 樹影
一灯もなき山中の火取虫 檜紀代
一灯をもて照らしたる梅雨の川 行方克巳
一灯を棕櫚にくくりし浦祭 小原啄葉
一灯を残し夜なべの座をつくる 巻野南風
一灯を継ぎて久しや菊膾 小林康治 『叢林』
一灯を鼠に備へ餅筵 西山泊雲
一燈が招く暮情よ麦刈れば 細谷源二 砂金帯
一燈と熟柿を磨崖仏の裾 皆吉爽雨 泉声
一燈にみな花冷えの影法師 大野林火(1904-84)
一燈に二人はさびし蕪鮓 古舘曹人 樹下石上
一燈に執して果つる火蛾なるべし 樋笠文
一燈に山峨身を打つ荒き霧 野澤節子 『鳳蝶』
一燈に山蛾身を打つ荒き霧 野澤節子 黄 炎
一燈に豚と寝につく雨季の宿 佐藤念腹
一燈に闇のあつまる寒の人 丹羽啓子
一燈の世襲の闇の金屏風 森田雄
一燈へ真向ふ遠き枯蟷螂 吉田紫乃
一燈をさいなみて雪霏々と降る 伊東宏晃
一燈をもらひ祭の森の泉 村越化石
一燈を残し夜長の仕事終ふ 高濱年尾 年尾句集
一燈を消せば雪ふる夜の国 加藤秋邨 山脈
一燈を蟇に分かちて夜々の稿 中島斌男
一燈を谷の奈落に夜の蝉 伊藤京子
万灯の一灯吾が灯秋の声 関口ふさの
万灯やわが一灯は神近く 田畑美穂女
万灯会この一燈で全て点く 秋山暮谷
万燈のどの一燈より消えむとする 橋本多佳子
修復の露の一燈神楽殿 木村蕪城 寒泉
俳諧のわが一灯や千灯会 谷川朱朗
冬籠る身の一灯をともしをり 村越化石
凩の死角一灯生きてをり 植田暁生
初竃一灯の夜気はなれゐし 吉安師竹
初詣無住の宮の一灯に 川島千枝
千灯の吾が一灯や初観音 湖城公子
千灯会一灯は師に捧げむか 伊藤いと子
厳冬の一燈洩らす翁堂 近藤一鴻
友去りて一燈見つむ夜の秋 林翔 和紙
友来る一灯を包む冬の霧 沢木欣一
名月や一灯かゝぐ浮御堂 松瀬青々
向日葵が深夜一燈のために咲く 昭彦
吹越や一灯点る山の駅 山田節子
坑口の一灯に霧あつまれる 戸澤寒子房
堰切つて暁蜩や一灯忌 岸田稚魚 筍流し
夜の海の一艘一燈の走り秋と思ふ 安斎櫻[カイ]子
夜田刈の一燈見ゆる湖尻かな 近藤一鴻
大利根に一灯もなし轡虫 石井とし夫
守り継ぐ一灯のあり去年今年 星野椿
寒の夜の一燈竹をさまよへる 太田鴻村 穂国
寒の闇来て一燈に入る夜学生 桂信子 花寂び 以後
寒詣一灯地獄絵を照らす 石倉啓補
寝衣やさし一灯もなく流氷くる 寺田京子 日の鷹
対岸に一灯ともり冴返る 大西比呂
山小屋の一燈のこり虎鶫 新海りつ子
攻窯に残す一灯夜の秋 林十九楼
星よりも凍て一燈にたどり着く ほんだゆき
春の海一燈つよく昏れにけり 桂信子 黄 炎
晩涼の一燈に森またたかず 千代田葛彦
暗き海より雪とび来ては墓濡らす(畏友小川一灯の墓所詳かならぬに) 岸田稚魚 『負け犬』
曇日の汗頸すぢに君失ふ(一灯遂に逝く) 岸田稚魚 『負け犬』
曉闇の沖の一灯鷹渡る 小松原みや子
書を閉ぢし音枯山の一灯下 殿村莵絲子 花寂び 以後
月に侍す沖の一燈年詰る 吉野義子
朝ともす一燈冷えて飛鳥佛 辰巳比呂史
枯木立一宇一灯あきらかに 阿部みどり女
柿をもぐ一燈一燈消すごとく 吉野義子
梨売が吊る一燈へ多摩の霧 島谷征良
毛糸編む一燈暗し肩凝らすな 榎本冬一郎 眼光
水向や貧一燈につかまつる 飯田蛇笏 霊芝
沙羅咲きて一燈もるる持仏堂 細川螢火
海上の一燈サタンの眼は捨てゆく 八木三日女 落葉期
涅槃高野に亡母の一灯加へけり 影島智子
漕ぎ寄せて一燈加ふ河豚供養 迫田白庭子
燈下親し子も一燈の圏守る 奈良文夫
牡丹咲き一燈の火を継ぎにけり 古館曹人
石仏に一燈淡し茄子の花 鷹野清子
磯神の一燈の白野分浪 近藤一鴻
神座の一燈うるむ遅桜 松本幹雄
秋立つや浜の一燈澄む夜なり 青峰集 島田青峰
秋航の陸の一灯いつまでも 行方克巳
秋蝉や父を一灯として生くる(知水忌) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
穂孕みつつ一燈の田を照らす 猪俣千代子 秘 色
竹伐つて一燈涼を呼ぶごとし 中嶋秀子
簗見せるための一灯鮎料理 青葉三角草
結界や梅雨の桔梗と一灯蛾 石塚友二
苗売の一燈宵を早めけり 近藤一鴻
若鮎の影一燈に流れけり 石田阿畏子
薔薇園に点す一燈聖夜餐 原田青児
虫の闇分つ一灯ありにけり 稲畑汀子 汀子第三句集
蚊帳の上の一燈の黄に目覚めをり 米沢吾亦紅 童顔
蛾も青を被て山中の一燈に 野澤節子 遠い橋
誘蛾燈一燈農事試験場 京極杞陽
送水会の一燈に在り供華椿 佐野美智
邯鄲や一燈くらき山の駅 奈良千代子
里神楽一燈のもと暗く舞ふ 田村了咲
陶房の一人一灯時雨くる 板東紅魚
雪の夜の一灯胸を去ることなし 雅人
雪舞ふや岬の一灯哭くごとし 小林康治 『叢林』
頬白の声の一灯震災地 永見貴子
風呂吹の夜は一灯で足る暮し 野見山ひふみ
食堂の暗き一燈安居寺 五十嵐播水
●稲光
いさぎよき天の剥落いなびかり 苅谷敬一
いなびかり人体密集地を照らす 仙田洋子 橋のあなたに
いなびかり今日といふ日のなごりかな 久保田万太郎 草の丈
いなびかり北よりすれば北を見る 橋本多佳子(1899-1963)
いなびかり夜に入る幹の直立し 桂信子 遠い橋
いなびかり大海原に珊瑚樹に 高澤良一　さざなみやっこ 夏
いなびかり家の粗末を人に見られ 細谷源二 砂金帯
いなびかり屍の顔乾きはじめけり 岩田昌寿 地の塩
いなびかり水中を母歩きをり 有住洋子
いなびかり海の花道誰か来る 津田清子(1920-)
いなびかり生涯峡を出ず住むか 馬場移公子
いなびかり登呂びとの世も長からず 百合山羽公 故園
いなびかり盆花市をひとつかみ 宮津昭彦
いなびかり真南ありて混み合へる 小内春邑子
いなびかり睡りて親の傍へゆく 坂巻純子
いなびかり終に子のなき閨照らす 山口誓子
いなびかり膝ついて床を拭くときも 岩田昌寿 地の塩
いなびかり西瓜がみえて妻おらず 和知喜八 同齢
いなびかり遅れて沼の光りけり 橋本多佳子
いなびかり隠れゐたりし雲の量 野沢節子
いなびかり鼻から鼻へ走りけり 五島高資
いな妻の一網うつやいせのうみ 蕪村 秋之部 ■ かな河浦にて
いな妻や佐渡なつかしき舟便り 蕪村遺稿 秋
いな妻や八丈かけてきくた摺 蕪村 秋之部 ■ かな河浦にて
いな妻や秋つしまねのかゝり舟 蕪村遺稿 秋
うつむく母あふむく赤子稲光 西東三鬼
こめかみは鱗のなごり稲光 秋月玄
しんしんと肉の老いゆく稲光 玄
たらたらと縁に滴るいなびかり 山口誓子 激浪
なぜか口をきくのが大儀いなびかり 久保田万太郎 流寓抄
ふるさとを出でし夜もかく稲光り 成瀬桜桃子
ものゝけの枕辺去らず稲光 寺田寅彦
もろこしの葉にたらたらと稲光 風生
よこがほを淋しとおもふ稲光 斌雄
よみ懸けし戦国策や稲光 井上井月(1822-86)
よみ懸し戦国策や稲光り 井上井月
トラムプの独り占稲光 星野立子
トランプの獨り占稲光 星野立子
一本は岐れる前の稲光(エルサレム) 久保純夫 熊野集
三公の顔ぽかと浮く稲光り 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
亡命や双眸に照るいなびかり 宇多喜代子
佛壇に鼠さわぐや稲光 寺田寅彦
化鷺を五位に叙す夜や稲光 寺田寅彦
參籠の夜すがら淋し稲光 寺田寅彦
吊捨てに枯るゝ荵や稲光り 増田龍雨 龍雨句集
哨兵に誰何せられぬ稲光 寺田寅彦
哨兵の後姿を稲光 寺田寅彦
地震後の春夜つんざき稲光 吉良比呂武
夏深し或る夜の空の稲光 井上井月
夜のわがこころの行方いなびかり 藤田湘子(1926-)
子を庇ひ総毛立つ猫稲光 奈良文夫
山の端の雲浮彫りに稲光 岩原玖々
干草に置きたる露や稲光 碧雲居句集 大谷碧雲居
干草の山なす庭や稲光 松藤夏山 夏山句集
悪玉が下手へ走る稲光 田川飛旅子 『山法師』
掬ひたる出湯の重き稲光り 北見さとる
時に吾を許せざる日の稲光 徳田千鶴子
暮れて尚ほとほるみちの稲光 瀧春一 菜園
朝がほに野辺のちぎりや稲光 サガ農-為有 俳諧撰集「有磯海」
木場の材が将棋倒しに稲光り 八木三日女
来年は遠しと思ふいなびかり 遷子
東京も友も遠しや稲光 石塚友二 光塵
梁上の君子危し稲光 寺田寅彦
橋名ある町に橋なし稲光り 長谷川かな女 花 季
死期の蛾の産卵続くいなびかり 岡澤康司
水底の藻屑を覚ます稲光 藤井寿江子
水面に表裏あり稲光 池田澄子
河口なる産屋をつつむ稲光り 林 徹
法難会あばれまとひに稲光 田中英子
海道を好みて走るいなびかり 百合山羽公(1904-91)
涼宵に生ひたち走るいなびかり 百合山羽公 故園
熱にもゆる手を組み祈るいなびかり 古賀まり子 洗 禮
生きすぎしか否足らざるか稲光 古賀まり子
睡蓮に道草を食ういなびかり 五島高資
稲光/顔の山脈/瞳の海よ 高原耕治
稲光おびえる児らに又ひかり 吉田喜美子
稲光きくきくきくと長かりし 高野素十
稲光さしたる方へ母帰る 井越芳子
稲光して兄弟のうりふたつ 岩田由美
稲光ひら〜吾の手足射る 大橋敦子 手 鞠
稲光もとの星なれどまたたかず 篠原梵 雨
稲光りんごの芯に通るべし 高澤良一　宿好 七月-九月
稲光り指の先より木になれる 菅谷和夫
稲光り男怒りて額美し 加藤知世子
稲光り白ちりめんを積み重ね 鳥居美智子
稲光り秋の祭が来るちふ 前田普羅 新訂普羅句集
稲光り覚めておらねば死へ近づく 鈴木六林男
稲光り走る鏡の暗き中 三好潤子
稲光一商人として旅へ 山中麦邨
稲光一遍上人徒跣 黒田杏子 一木一草
稲光刹那刹那にダム見ゆる 寒川逸司
稲光大きな雲の蟠り 上野泰 春潮
稲光屋久杉古代の貌となる 石河義介
稲光我が吉方を示しをり 柴田奈美
稲光泣くため乳房離しけり 杉山蘇翠
稲光流木はいつ起ち上る 津田清子
稲光煙草寝させし夜頃かな 小澤碧童 碧童句集
稲光畠の上に田の上に 本田 和男
稲光百合のまはりの汚れけり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
稲光真昼の如き芭蕉かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
稲光蝙蝠岳は闇に没し 福田蓼汀 秋風挽歌
稲光西にしきりや風の盆 柏禎
羅の肩をおほへる稲光 中村汀女
羅漢の苦五百息づく稲光り 加藤知世子 花 季
肩肘や秋の夜近きいなびかり 百合山羽公 寒雁
荒地ゆゑ柩を発すいなびかり 高屋窓秋
落人の顔そむけけり稲光 寺田寅彦
葡萄園夜は切り込むいなびかり 百合山羽公 寒雁
蘇る海馬の記憶稲光 柴田奈美
過去永く行手短かし稲光 石塚友二
酸素吸ふ夫まざまざと稲光 石田あき子 見舞籠
長梅雨もわすれて青きいなびかり 百合山羽公 故園
雪を待つ上戸の顔や稲光 松尾芭蕉
韋駄天に走り去る子に稲光 小島左京
顔ふりむきし雄鶏や稲光 重信
風垣や冬稲光はッはッと 佐野良太 樫
風急につめたくなりし稲光 青葉三角草
馬足掻き止め呉るる裸稲光り 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
馬車やがて草に隠れし稲光り 遠藤梧逸
髪切られゐる鏡中にいなびかり 若山千恵子
髪濡れ来て妻美しや稲光 折笠美秋 君なら蝶に
●海明り
をり〜や無月に耐へぬ海明り 中島月笠 月笠句集
千枚の春田なだるる海明り 大森隆子
海あかり代田あかりを夕燕 猪俣千代子 秘 色
海明りして菜の花に行く夜かな 河東碧梧桐
海明り早生り枇杷は四国一 高澤良一　寒暑 四月-六月
海明り障子のうちの水仙花 吉川英治
青天を鷹の逆落つ海あかり 豊長みのる
鰆買ふ店の奥まで海明り 西 宇内
●円光
ろうそくの円光の金、銀婚妻 橋本夢道 良妻愚母
円光を着て漂ひの浮寝鳥 赤井淳子
円光を着て鴛鴦の目をつむり 長谷川素逝(1907-46)
円光寺鳥も差し置く一位の実 高澤良一　素抱 十月-十二月
南無南無と円光負ふてかいもちかき 高澤良一　ぱらりとせ 夏
啄木鳥や日の円光の梢より 川端茅舎
尼どちの頭の円光や日向ぼこ 原田翠芳
屋根石に円光あるや鳥の恋 佐野良太 樫
微笑童子円光童子福壽草 平木智恵子
恋雀頭に円光をひとつづつ 橋本多佳子
胡桃割る燈の円光の一家族 大野林火
藤房に水の円光絶えまなし 島田みつ子
雪白の牡丹に見たり円光を 瀧春一 菜園
露円光おん母の身にあまりけり 斎藤空華 空華句集
青き踏む円光負へるこころにて 柴田白葉女 雨 月
●オーロラ
オーロラのうす虹いろや寒の澄み 石原八束 高野谿
オーロラの彼方氷を砕く音 高澤晶子
オーロラの燃えつゝ凍つる極の空 築山能波
オーロラの間近に手話の乱れ出す 石田よし宏
オーロラの龍巻のぼる雪の涯 澤田緑生
オーロラは天の羽衣樹氷立つ 澤田緑生
オーロラは高度な会話可能なり 羽石イミ
吹雪く夜もオーロラの夜も旅寝せる 伊藤柏翠
帰りたくなければオーロラ突き抜けよ 大島邦子
幽界の狭間オーロラ美しく 藤浦昭代
星を数えてオーロラと私は泳ぐ 林 恒子
鐘を鋳く春オーロラの色にかな 吉田紫乃
●外光
外光の五月や画架に芝映えて 有働亨 汐路
汗の粒貨車を外光に押しいだす 片山桃史 北方兵團
●外灯
どの外燈も家より低い日本の冬 磯貝碧蹄館 握手
公園の夜の外燈に花痴れて 高澤良一　寒暑 四月-六月
刈田の暮子等外灯を弄ぶ 右城暮石 上下
夕焼に外燈かぎりなく古ぶ 野澤節子 黄 瀬
外灯の一つ消えをり花八手 高橋秀夫
外灯の真下に雪を掻き寄せし 行方克巳
外灯を叩きてともす夜の緑雨 右城暮石 上下
点きてすぐ外燈熟るる鳴く鴨に 宮津昭彦
窓の灯に外燈の灯に吹雪見る 高木晴子 晴居
臨海校明けがたまでの一外燈 中拓夫 愛鷹
●輝く
かんばせの輝き三社祭の日 竹花小百合
きらきらと輝く種を蒔にけり 立子
きら〜と輝く種を蒔きにけり 星野立子
さくら散る月代空の輝きに 杉本寛
たたかう今年へ蜜柑盛りあげられ輝く 赤城さかえ句集
つんざきてわれらのからだ貫きし輝くリズム消ゆることなし 松坂弘
ゆつさりと廻かけて輝く向日葵 北原白秋
ホルン吹く子の目輝く黄水仙 池田ヨシ子
三方の玻璃輝きて春隣 上野章子
五頭山の雪と輝き白鳥舞ふ 加藤知世子 花 季
仏花たることに輝き金盞花 文挾夫佐恵
入学の顔の輝き揃ひけり 稲畑汀子
冬の月かこみ輝き星数多 高木晴子 晴居
冬菜に塩ふつて輝く路地の日よ 菖蒲あや あ や
出潮にのつて来る船の落日の輝きとなる 人間を彫る 大橋裸木
刃の如く輝き始む大山の襞に残れる雪の幾条 川辺古市
初成りの茄子の黒さの輝きて 和光弘
初蝶の輝く翼受胎告ぐ 有馬朗人 母国
原子爐の白く輝く夏の濱 保田白帆子
台風圏水は輝くこと忘れ 中川いさを
命得て輝く山河冬帽子 金箱戈止夫
夏の夜街の輝きにまみれ旅人として買ふ物 人間を彫る 大橋裸木
夏服や沖は輝きもて応へ ほんだゆき
夏潮の輝くデツキゴルフかな 京極杞陽 くくたち上巻
夕星の輝きそめし外にたちて別れの言葉短くいひぬ 吉本政枝
夕月に輝くごとき太芽かな 高橋馬相 秋山越
夜の公孫樹輝くばかり青くして一人となれるときを帰りぬ 近藤芳美
大文字消えて輝く比叡の灯 橋本 博
大沢崩天に輝く萱を刈る 川村紫陽
寒空は輝く雲にありにけり 滝青佳
対岸は輝きにけり鬼やんま 沼尻巳津子
山吹に輝き去りし小魚かな 雑草 長谷川零餘子
日あたれば馬も輝き花芒 阿部慧月
日照雨して蝦蟇も輝く刻のあり 冨田みのる
日輝きはっしとかかる鶇らし 星野立子
日雇寡婦荷こぼれ鯵を得て輝く 岩田昌寿 地の塩
春水といふ輝きに不足なし 高澤良一　寒暑 一月-三月
暁の星の輝き寒に入る 高木晴子 花 季
月や出ん雲の輝き水にあり 西山泊雲 泊雲句集
枯芒ただ輝きぬ風の中 汀女
柿の色日に日に湖の輝きに 徳澤南風子
楪の葉の輝きのおそろしき 中条明
此家に輝くや屠蘇の小盃 露月句集 石井露月
死者の書を閉じて輝く夏の街 高澤晶子 純愛
残雪や夜の湖底の輝き出す 加藤知世子 黄 炎
母在りき冬至もつとも輝きて 三橋鷹女
水あれば飛花の輝き弾みけり 関森勝夫
氷湖日の出影も輝くわが分身 川村紫陽
海霧来去り碑が「しらじらと」輝くよ 赤城さかえ
温顔の輝きおもふ春の宵 相馬遷子 雪嶺
漆黒の薬師輝く花会式 平尾圭太
爆音去れ霧の向日葵輝くとき 赤城さかえ句集
白地着て星座輝きくるを待つ 朝倉和江
白蓮と輝き合ひて白鷺舞ふ 加藤知世子 黄 炎
真輝く氷河を前に道消ゆる 高澤良一　ぱらりとせ 雜
破戒後の牡蠣をふくみて輝く目 赤松[けい]子 白毫
神鏡の今日の輝き女正月 高木禮子
秋入日雲つゝまんと輝きて 高木晴子 花 季
稜線の輝きませる五月かな 遠山 翠
空港に初夏の自動車輝き来 成瀬正とし 星月夜
空港に朱欒輝き雨上る 高橋悦男
緑蔭の洩れ日を蟻が輝き過ぐ 内藤吐天 鳴海抄
翳る白輝く白の辛夷見ゆ 千原叡子
船の窓の星空の揺れそめし輝き 人間を彫る 大橋裸木
芦の花輝く頃の湖中句碑 成瀬正とし 星月夜
芽吹かんと大樹身を揺り輝くも 内藤吐天 鳴海抄
若餅に輝く松の旭かな 尾崎紅葉
草摘に光り輝く運河かな 川端茅舎
菊の月夜々に輝きまさりけり 西島麦南 人音
葱切つて輝きわたるステンレス 中田 美子
蒲団干すや旭今輝く城の鯱 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
藪の穂に北斗輝き井華水 露月
蜻蛉の目玉ほど空輝くよ 高澤良一　寒暑 七月-九月
蟻散つて氷砂糖また輝き出す 内藤吐天 鳴海抄
誰も見よ虚子忌の雲の輝きを(高浜虚子先生一周忌) 上村占魚 『一火』
輝きてすれ違ふ雲や月の面 西山泊雲 泊雲句集
輝きてそそぐ水あり晩夏の海 安東次男 裏山
輝きて翅*むしらるる虫螻よ 和田悟朗 法隆寺伝承
輝きて銀狐は銀狐雪は雪 依田明倫
輝きは谿間の朴の花にあり 高浜年尾
輝く日涼しき水に城映る 高木晴子 花 季
輝く浪の大きな汽船ぢりぢり岸に寄る 人間を彫る 大橋裸木
逃げ水の輝くさなか揺らぎつつこの世の夏をパレードが来る 谷岡亜紀
遠くにて水の輝く晩夏かな 高柳重信
都井岬の輝きの中馬交る 戸川幸夫
野の星に朝の輝き霧氷散る 中野東峰
野分あと街は輝く万華鏡 高澤良一　寒暑 七月-九月
陽は輝き月は照るもの花蓮 和田耕三郎
雨上りゆく輝きに青芒 星野椿
雪山の今日の輝き明日ありや 阿部みどり女
雪山の端が輝き奴凧 阿部みどり女
雪嶺に輝きし日も昏れそめし 上村占魚 球磨
青空を輝きとべる柳絮かな 比叡 野村泊月
飛魚の入りて輝く鮪網 前田普羅 能登蒼し
鯉幟より輝きて城ひとつ 成瀬正俊
黄葉一樹輝きたてり紅葉山 西山泊雲 泊雲句集
玉蟲の飛ぶ煌きを日にもとめ 大橋敦子
光年の時差の煌き星涼し 藤浦昭代
樅の芽は煌き岳の肌は荒れぬ 有働亨 汐路
谿を来し青年髪に雪煌く 有働亨 汐路
●川明り
バスの灯の過ぎて夜寒の川明り 石塚友二 光塵
去年の山いでて今年の川明り 白岩 三郎
大文字を待つ間ときめく川明り 稲垣きくの 黄 瀬
川明りかなかなの声水に入る 井本農一
川明り余寒明りと云ふべきや 高澤良一　素抱 一月-三月
川明り吹きさる風に雪あらむ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
川明り螢明りもい寝しより 小林康治 玄霜
炭俵ほどきはじめの川明り 花谷和子
秋空に何か微笑す川明り 飯田龍太
立冬のわが骨つつむ川明り 鳥居おさむ
芋虫に死所を教ふる川明り 秋元不死男
花消えて縁起をつなぐ川あかり 宇佐美魚目 秋収冬蔵
●眼光
力泳あと眼光と口まだ魚族 熊谷愛子
啓龕の細き眼光りたまひしよ 向山隆峰
最明寺殿の眼光著莪明り 高澤良一　寒暑 四月-六月
木像の眼光六月の日に遠し 阿部みどり女
木枯や眼光ひかる人に逢う 細木芒角星
檻の鷲眼光にぶくなりしかな 上田五千石 田園
熔鋼の眼光移し思惟菩薩 八木三日女 落葉期
痩せ犬と服に眼光る青年と 金子兜太
眼光にうがち止むのみ蟻地獄 赤松[ケイ]子
眼光の懸菜を貫かんばかり 岸本尚毅 舜
眼光はピカソのごとし羽抜鶏 堀越せい子
眼光をふつと消しまた耕せる 鈴木鷹夫
読初の茂吉の眼光りだす 火村卓造
鍛冶の火に注ぐ眼光夏袴 武井夜里子
除雪夫の眼光たゞに爐火まもり 石橋辰之助
風の枝に鳥の眼光る落葉かな 渡辺水巴 白日
●逆光
*むつ舟の逆光抜けてより早し 渋谷雛子
あらひ髪逆光にある野の一樹 柴田白葉女 花寂び 以後
ただ真白逆光の中の弥生 斉藤栄子
初秋の逆光に入る鳥の数 沼尻巳津子
夜濯や逆光の母漂へり 藤村多加夫
女ひとり逆光線の花に立つ 渡邊水巴 富士
妻の頬に逆光線の夏ひらけ 石橋辰之助
寒濤の捲き込む青や逆光裡 永井龍男
春光の像逆光の帰路となる 稲畑汀子 春光
春怒濤逆光のものみな動く 桂信子 黄 瀬
片側見せて逆光の遍路海の上 金子兜太
犯人も住み易き世 優曇華に逆光 宮崎二健
聖浴後の透き身 逆光サリーの中 伊丹三樹彦 写俳集
若布刈舟逆光にゐて鎌使ふ 野沢節子
若竹の逆光青を深めたる 松本陽平
蓮ひらきそめし逆光線の池 後藤比奈夫 初心
蝌蚪生る旅に逆光のこしけり 渡部陽子
貝掘るや逆光海の果てよりす 五木田告水
逆光に人哀します羽抜鳥 倉田素香
逆光に光露けくありにけり 井上哲王
逆光に山笑ひつつ暮れなづむ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
逆光に海苔掬ふこと百万遍 高澤良一　素抱 一月-三月
逆光に色鳥彩を失へり 千原叡子
逆光のえのころ草やおびたゞし 川本臥風
逆光のかもめもつれる無音界 八木三日女 石柱の賦
逆光のすすき最も輝けり 佐藤美恵子
逆光のなかに晩夏の湖は照り喪ひしなにに対ふともなし 武川忠一
逆光の人歩みくる西行忌 倉橋羊村
逆光の君の耳透く冬のシグナル 阿保恭子
逆光の塔くろぐろと遅日かな 玉垣 咲良
逆光の嶺のちかづく落穂橙ひ 上田五千石 田園
逆光の嶺一条の滝吊るす 河合凱夫 飛礫
逆光の烏賊曼陀羅に秋の風 文挟夫佐恵 黄 瀬
逆光の紅葉や母を残す旅 豊田恭久
逆光の芒のなかに失えり 岡田 耕治
逆光の落穂拾ひのつもりかな 石田時次
逆光の飛行船浮く流感都市 横山房子
逆光の鯔の間髪入れず跳ぶ 高澤良一　随笑 七月-九月
逆光を色鳥戻り来たりけり 湯川雅
逆光裡躬に酷熱をひとり負ふ 深谷雄大
雪の墓碑富士逆光の訣れかな 中村苑子
青年胸を揃える対岸の逆光に 稲葉 直
鰯売る坂逆光に照り出さる 角川源義
●蛍光
凍ててなほ蛍光ペンを抱いて新宿 櫂未知子 貴族
夕菅の螢光ともる霧の旅 駒沢たか子
子どもたち寄りゐて螢光りそめたり 原田種茅 径
恋蛍光を重ね合ひにけり 石河義介
昆虫の螢光すでに滝の道 後藤夜半 底紅
水ふくや一銭の螢光り合ふ 佐野青陽人 天の川
秋螢光り失ふ稲の上 阿部みどり女
草蛍光の端の触れ合へる 石井とし夫
草螢光るや骨の山の上 真鍋呉夫
蛍光の腕輪して子の花火待つ 高澤良一　素抱 七月-九月
蛍光の蒼き雪道末世なり 山口誓子 青銅
蛍光らない堅くなつてゐる 尾崎放哉(1885-1926)
螢光の夜霧が肩に東吾亡し 松山足羽
螢光るとき眼前の石やわらか 和田悟朗
親一人子一人螢光りけり 久保田万太郎 草の丈
銀行員ら朝より蛍光す烏賊のごとくに 金子兜太(1919-)
銀行員等朝から蛍光す烏賊のごとく 金子兜太 金子兜太句集
霊は自在螢光小籠を滲み出て 香西照雄 素心
●光陰
おくれ毛に春の光陰闌けにけり 野澤節子 黄 瀬
ががんぼが我が光陰に影ひけり 米澤吾亦紅
すみれ束解くや光陰こぼれ落つ 鍵和田釉子
たそがれは光陰にじむ水中花 森沢一行
一子得て光陰密につばめ来る 中村明子
万機光陰ヲ脱スベシ 青猫ノ受胎 夏石番矢 真空律
三椏の花に光陰流れ出す 森澄雄 花眼
三椏の花の光陰流れ出す 森 澄雄
光陰と土に鎮まる蟻地獄 飯田蛇笏 椿花集
光陰に句読点なし夜の蟻 米澤吾亦紅
光陰のかくもやはらか枯木山 中尾寿美子
光陰のながれてをりぬ繭の中 鈴木貞雄
光陰のひそむ枯野をなに急くや 小林康治 『潺湲集』
光陰のやがて淡墨桜かな(根尾) 岸田稚魚 『萩供養』
光陰のやがて薄墨桜かな 宇佐美魚目(1926-)
光陰の七分咲き弥生尽 落合冬至
光陰の束をとらへし白昼夢 谷 芙蓉
光陰の流るる音に昼寝覚 野見山朱鳥
光陰の矢の折れし野の乳母車 増田まさみ
光陰の節目は暗し落椿 齋藤愼爾
光陰は待たず鞦韆強く蹴る 松本あい子
光陰は竹の一節蝸牛 阿部みどり女 『光陰』
光陰や深沈と水巴忌前後過ぐ 斎藤空華 空華句集
光陰や花眼にけぶる毒きのこ 川本洋栄
光陰をほづえにわする冬の鵙 飯田蛇笏 雪峡
光陰を一カツプづつチユーリツプ 赤松[ケイ]子
光陰矢の如き簾捲きにけり 鈴木真砂女 生簀籠
初蝶の流れ光陰流れけり 阿部みどり女 『光陰』
動き初む光陰既に牡丹の芽 辻口静夫
古希過ぎの光陰螻蛄の鳴くに似て 澤田緑生
墓とわが間雪の光陰ありしのみ 岸田稚魚 筍流し
夕顔のひらく光陰徐かなり 石田波郷
夢寐の間も光陰のうちきりぎりす 上田五千石
寒巌に光陰刻み月わたる 齋藤愼爾
山梔子の蛾に光陰がたゞよへる 飯田蛇笏 霊芝
年ゆくや光陰つねに弾指の間 橋本鶏二
恙なく過ぎし光陰枯芙蓉 武田光子
方位なく光陰とどまり冬木立 福田蓼汀
日傘置く洞の光陰なきところ 赤松[ケイ]子
日向ぼこして光陰を惜みをり 後藤夜半 底紅
松過ぎといふ光陰を惜みけり 深見けん二
松過ぎの又も光陰矢の如く 高浜虚子(1874-1959)
松過の又も光陰矢の如く 高浜虚子
枇杷の花ちる光陰の水明り ほんだゆき
林檎甘し酸し光陰はただ迅し 成田千空 地霊
枯菊の鉢に光陰矢のごとし 五十嵐播水 埠頭
枯菊を焚く光陰を火種とし 村本畔秀
極月の光陰たゝみかけてくる 小島隆保
樹のよはひ石の光陰枯深し 池田幸利
此石に秋の光陰矢のごとし 川端茅舎
烏瓜垂る光陰を思ひをり 館岡沙緻
熟柿落ち光陰人を振りむかず 岡野洞之
田を刈つて光陰滝のごときかな 平井照敏 天上大風
百菊の百の光陰まぶしけれ 倉田 紘文
秋風や地に光陰のあともなし 野見山朱鳥
穀象の光陰わかずひた走る 岩田昌寿 地の塩
竹皮をぬぐ光陰もうとまれぬ 小林康治
竹皮を脱ぐ光陰もうとまれぬ 小林康治 玄霜
笹原に光陰流れ青あらし 伊藤敬子
老い初めし光陰たふとしや炭掴む 栗生純夫 科野路
聖壇の光陰へだつ蝉時雨 橋本榮治
若布干す千の光陰ゆらめけり 勝見玲子
落花霏々この光陰を埋めつくす 野見山ひふみ
葛水や光陰ゆらぎつゝ過ぐる 斎藤空華 空華句集
藁屋根にある光陰や青楓 岡本差知子
蚊の声の一光陰をけみしたり 斎藤空華 空華句集
蜥蜴出で光陰をやはらかにせり 伊丹さち子
蝶掠めしのみの光陰算ふべし 小林康治 四季貧窮
蟻地獄見て光陰をすごしけり 川端茅舎(1897-1941)
阿の口に牡丹の光陰見ゆるかな 古舘曹人 砂の音
雛飾る光陰吾を置きざりに 大橋敦子
露一と粒の光陰石を噛む根株 成田千空 地霊
風鈴の古りし光蔭吾が歴(へ)たり 竹下しづの女句文集 昭和二十四年
●皓々
月皓々と貧乏一と月ずつ切り抜けてゆく 橋本夢道 無礼なる妻
皓々と泰山木のけさの花 日野草城
皓々と老が咽喉ゆく餅ひときれ 栗生純夫 科野路
皓々と虫音に緊まる団子かな 林原耒井 蜩
皓々と見慣れし石の良夜なり 甲賀山村
皓々の冬三つ星孫三人あり 及川貞 夕焼
秋日皓々風化の岩を耕土とし 林翔 和紙
●光彩
ナイターの光彩の裡夜学了ふ 能村登四郎
●光線
一塊の光線となりて働けり 篠原鳳作
光線を踏みたんぽぽ咲き過ぎた 北原白秋
冬鴎どこかの光線が顔に 金子兜太
春の光線先生が手をあげてゐる 川島彷徨子 榛の木
柿の若葉の光線です竹をすかして 北原白秋
浅春のカクテル光線エノケンに 高澤良一　ぱらりとせ 春
●光芒
かの光芒放つ天狼星は失せざらん人は何かをやりかけて終る 浜田蝶二郎
ナイターの光芒大河へだてけり 水原秋櫻子
一点の露の光芒拡大す 中村汀女
人麻呂の光芒の瀬か天の河 折野美恵子
光芒の葉ばなれと見し夕蜻蛉 鳥居おさむ
光芒やわれにはためく袴なし 古舘曹人 能登の蛙
凍つる夜の光芒天を駆け会す 岸風三樓
初景色光芒すでに野にあふれ 井沢正江
向日葵の光芒の裡に明け暮るる 相生垣瓜人 微茫集
寒き光芒吾に見えざる海照らす 山口誓子
探照燈の光芒下むきに地の枯草 長谷川素逝 砲車
日輪の光芒曼珠沙華の蕋 石井とし夫
月よりも雲に光芒十三夜 井沢正江 以後
栃茂り光芒あをき奥の滝 岡田貞峰
梅雨の都心光芒放つ川向う 高澤良一　素抱 七月-九月
楢桂滝の光芒みなぎりつ 渡邊水巴 富士
機影捉へし光芒月光よりしろし 原田種茅 径
歳旦の光芒を統べ神の犬 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
稲の穂の寂光芒より淋し 中西碧秋
老い泯びゆく白髪の光芒や 飯田孤石
舞ふ鶴の光芒を師の言葉とす 沼尻巳津子
裏富士の星の光芒鳴く夜鷹 神田岩魚
釣瓶落しといへど光芒しづかなり 水原秋櫻子
除雪車の光芒闇を開き来る 金箱戈止夫
雀とぶそれも光芒日向ぼこ 皆吉爽雨
雷颪す光芒とんで野川かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
●後光
平凡の無念が父母の後光ぞよ 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
梢より放つ後光やしゆろの花 蕪村
おろおろとむかへば月の後光かな 智月 俳諧撰集玉藻集
郭公声や帆にあげて船後光 井原西鶴
●採光
●燦々
あかつきの山燦々とよもぎの香 福田甲子雄
ずわい蟹いま燦々と切られをり 飴山實
メーデーやあぐる拳に日燦々 南光 翠峰
冬日燦々さよならを終の一語とす 赤城さかえ句集
初日燦々死に価して生きたかり 磯貝碧蹄館 握手
大胡桃垂れ太陽は燦々と 小川 背泳子
宿とりて鴨川踊ほど近く 穂北燦々
尿しぶく日の燦々と麦穂だつ 西島麦南 人音
影燦々べら釣りの気ままなる 森田緑郎
心太燦々と灯を掬ひをり 村上光子
桃吹くや燦々と貧しかりし日 渋谷道
歌劇観て来て夜長星燦々 上田日差子
池替の声燦々と嶺に流れ 福田甲子雄
燦々とただしき繭をなしにけり 平井照敏 天上大風
燦々とステンドガラス彌撒始 阿波野青畝
燦々と人も戦げり蘆の秋 金箱戈止夫
燦々と光りを抱き初雀 長谷川秋子
燦々と台風一過カレー煮よ 松澤昭 面白
燦々と愛してゐるかきんぽうげ 平井照敏 天上大風
燦々と日照雨は過ぐる種浸し 斎藤夏風
燦々と日裏日表風若葉 原 コウ子
燦々と燃して寒土を明るくす 細谷源二 砂金帯
燦々と老皇后の米こぼす たむらちせい
燦々と菊泰衡の首一つ 宮慶一郎
芋嵐子ら燦々と登校拒否 栗林千津
逃げ水のごと燦々と胃が痛む 佐藤鬼房
野良の鳶燦々と年送りをり 百合山羽公 寒雁
露燦々胸に手組めり祈るごと 石田波郷
露燦々釈迦出山の道照りぬ とよなが水木
●紫外線
紫外線防止のための長手套 高澤良一　寒暑 七月-九月
紫外線凧の唸りに満ち来たり 佐野青陽人 天の川
●島影
しかと見ん秋島影を父祖の地を 高木晴子 花 季
寒泉や島影に鯉とゞまらず 渡邊水巴 富士
島影のよぎりて揺らぎ浮氷 檜紀代
島影の常世に眠り照りかすむ 臼田亞浪 定本亜浪句集
島影の空はつめたし山桜 原田種茅
島影の芙蓉の色に夜が明けし 稲垣みのる
島影の轡並べ来瀬戸の秋 西村和子 かりそめならず
島影は太古に似たり夏霞 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
島影や遠き明治の冬館 角川源義
●寂光
いつ見ても梅寂光の中にあり 川本臥風
おほわだに寂光のあるどんどかな 松沢鍬江
お松明の寂光さえて大伽藍 高桑義生
さしかはすゆゑ寂光院の紅葉濃し 西本一都 景色
ぜんまいののの字ばかりの寂光土 川端茅舎(1897-1941)
なめくじり寂光を負い鶏のそば 金子兜太(1919-)
びつしりと地に寂光の羊歯黒し 三谷昭 獣身
もがり笛明日醒めざれば寂光土 植村通草
もみづれる木によ苔布く寂光土 臼田亞浪 定本亜浪句集
一斉に大掃苔の寂光土 川端茅舎
冬の雨岳寂光に雪降れり 沢木欣一
冬の雨嶽寂光に雪降れり 沢木欣一 雪白
凍蝶の翅伏す霜の寂光土 西島麦南
切り貼りの障子も梅雨の寂光院 藤岡筑邨
化野の寂光退さる枯尾花 角田独峰
南無寂光郭公の声遠くなる 林原耒井 蜩
在りやうも寂光の中かまど猫 倉橋羊村
夜鷹なき滝寂光をかかげけり 向野楠葉
寂光にいのちしづけき穴まどひ 栗生純夫 科野路
寂光の水なめらかに蝌蚪生る 東原 芦風
寂光の水に一ひら寒牡丹 衛藤 芙代子
寂光や縞蛇跪坐を解きをはる 佐野良太 樫
寂光をまとひて崩る白牡丹 高橋良子
寂光院の道問へば置く藁砧 松藤夏山 夏山句集
寂光院までの古みち蕪引く 鍛治桂子
寂光院春ゆくまゝの松さくら 萩原麦草 麦嵐
寂光院道なほ細く水ぬるむ 福田清人 水脈
小破あり寂光院の春障子 赤松[けい]子 白毫
尚奥へ寂光院は茂り中 堤俳一佳
常寂光浄土に落葉敷きつめて 高浜虚子
庇にもおよぶ寂光朴ひらく 井沢正江 湖の伝説
掃かである寂光院の落葉かな 比叡 野村泊月
春雨や寂光院の傘さして 比叡 野村泊月
時雨去り寂光苔をにほはしむ 山口草堂
木の葉降る寂光音の塚なりけり 山口草堂
木蓮の落ちくだけあり寂光土 川端茅舎
杉苔に万両溺れ寂光土 富安風生
極月の滝の寂光懸けにけり 野見山朱鳥
爽籟に寂光雲を流れたり 大竹孤悠
猫柳吹かれ触れ合う寂光土 森田秋茄子
病葉ちる寂光ふるき墓ばかり 村山古郷
石を負ひ冬寂光を負ひゆけり 細川加賀
秋寂光臈たき菩薩厨子に在し 石塚友二 方寸虚実
秋風や句に寂光を希ひ 尾崎迷堂 孤輪
突き当る常寂光寺竹の秋 行方克巳
紅葉ちる常寂光寺よき日和 高野素十
綿を干す寂光院を垣間見ぬ 高浜虚子
綿虫や寂光まとふ五合庵 石野冬青
茸山と寂光院の径と岐れ 岸風三楼 往来
荒縄の鮭寂光を放ちをり 沢木欣一 遍歴
萍の寂光尼に小机あり 桂樟蹊子
落鮎の寂光まとひ落ちいそぐ 大原颯葉子
蓮ひらくおのづからなる寂光に 竹下陶子
蓮絲で織らばや蓮の寂光土 筑紫磐井 婆伽梵
藪いでて常寂光寺かぎろへる 岸風三楼 往来
行く春の寂光曳けり白孔雀 石田克子
跼るや菫咲きゐる寂光土 内藤吐天 鳴海抄
雪に人無し常寂光寺野の宮も 東洋城千句
霜踏みて碑の寂光をたんのうす 飯田蛇笏 椿花集
露の奥寂光院の灯かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
香もそれも寂光院や苔の花 飴山實 『花浴び』以後
●樹影
つくばひに餘寒の木影宗易忌 及川貞 夕焼
なきがらや木影ほのかに冬障子 斉藤夏風
ぬかるみに木影うつらふ蚊喰鳥 富田木歩
わが影を刺す木影かも霜の門 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
下萌や二歩に三歩に畦木影 高野素十
二タ三掻き樹影を出づるあめんぼう 高澤良一　さざなみやっこ 夏
八月十五日木影が家の中 中田剛 珠樹以後
午過ぎの濃き木影なる泉かな 尾崎迷堂 孤輪
合同句集『樹影』 一九九六年刊 沼尻巳津子
啓蟄の蜥蜴毛虫に木影かな 『定本 石橋秀野句文集』
嚇の移りて障子木影なし 清原枴童 枴童句集
夏来る樹影の黒と土の白 香西照雄 素心
寐待月ガラスに木影月の影 高木晴子 晴子句集
寝待月ガラスに木影月の影 高木晴子 晴居
恵方とや樹影正しき靄の中 京極杜藻
掬ひ合ふ振舞水の木影かな 中島月笠 月笠句集
日光みちて樹影はげしき雪の上 渡邊水巴 富士
時化なほる日ざしの木影啄木鳥 乙字俳句集 大須賀乙字
木影あるところに秋のありにけり 稲畑汀子 汀子第二句集
木影なくあらはに燈籠流しけり 原月舟
木影ばかりの残雪となり蝶の飛ぶ 乙字俳句集 大須賀乙字
木影濃き書院にかをる茉莉かな 那須茂竹
樹影地に卒業の子ら散りぢりに 柴田白葉女 遠い橋
樹影胸に畳みて去らん蝉やめば 鳥居おさむ
樹影身に揺れつつ遠き春の虹 柴田白葉女 花寂び 以後
水門にうごく木影や冬の月 故郷 吉田冬葉
瀬を越えて木影地を這ふ晩夏かな 飯田龍太 山の木
甘酒や木影添ひ来る足袋の白 島村元句集
白樺のまぶしき木影きりぎりす 秋元不死男
皐月晴れて嵐の如き樹影踏む 原コウ子
秋雨や木影ひまなき苔の上 雑草 長谷川零餘子
粟むしろ樹影生れては消ゆる日よ 阿部みどり女
薄氷の樹影が折れてより水面 稲岡長
行くにつれて木影映り消えし水田哉 西山泊雲 泊雲句集
術痕の湯に透きとほり新樹影 高澤良一　素抱 四月-六月
門内の木影すゞしや水遊び 石田一信
障子百枚に梅の木影のありにけり 雑草 長谷川零餘子
雪月夜斜の木影々々かな 東洋城千句
雪解野に木影たばしる目覚めかな 仙田洋子 橋のあなたに
鳥入れてふくらむ樹影去年今年 中田剛 珠樹以後
鳥影も木影もさして青簾 井月の句集 井上井月
鳳蝶や日影木影の異人墓 下村ひろし
●春光
かざす手の春光へだてがたきかな 嶋田一歩
ステッキを振れば春光ステッキに 田中王城
下駄履や春光をぬひ蕎麦屋まで 加藤 隆一
大漁に春光まぶし網の中 西嶋明美
川渡る電車に春の光満つ 後澤啼鳥
店奥にゐて春光を感じる日 岩川みえ女
春の光体(ほし)降るはリルケのわすれもの 高橋比呂子
春光に人語鳥語の谺かな 梅谷紀子
春光に指のかげ置く書をひらく 藤後左右
春光に消えなんと立つ雪の嶺 相馬 遷子
春光に艶惜しみなき牡牛の背 柴田白葉女
春光に面テを上げて退官す 樹生まさゆき
春光のあまねきときぞ吾も仏 星野立子
春光のもつともしるく竹の青 星野立子
春光の手のひらいっぱい自由市場 石川青狼
春光の沼改めて大いなる 石井とし夫
春光の滝打つばかりサキソフォン 鈴木修一
春光の空の打擲杭打たれ 小林美夜子
春光の落書笑う指の丸 兵庫池人
春光の遍けれども風寒し 高浜虚子
春光へすべり落ちたる領収書 岡田史乃
春光やこぼれてはづむ金米糖 龍野よし絵
春光やさゞなみのごと茶畑あり 森田峠 避暑散歩
春光やクルスを刻む鬼瓦 水原春郎
春光や岩に嘴研ぐ川がらす 田中俊尾
春光や掌でぬぐひやる父の位牌 村越化石
春光や斧失いしは軽き病い 児玉悦子
春光や窯入れを待つ壺の肩 川崎俊子
春光や紫を帯ぶ毒魚の瞳 富安風生
春光や蘆にも見えて波一重 原 石鼎
春光や遠まなざしの矢大臣 吉岡禅寺洞
春光や金の鳩抱く乙女像 満田玲子
春光や鳩の曳きゆく鳩の影 杉 良介
春光を壁に塗りこむ鏝さばき 山本 孟辰
春光を白樺白として受ける 手塚基子
春光を砕きては波かがやかに 稲畑汀子
河水厚く青く春光を載せて行くなり 夜の富士 秋山秋紅蓼
目を細め春光の浜一つゞき 清崎敏郎
磔像の全身春の光あり 阿波野青畝
羅宇竹に春光濯ぐ大斜面 橋本夢道 無類の妻
若からぬ歩に春光の銀座憂し 村上 光子
藪の穂の春光こぼれ交しつつ 松本たかし
遅子得て春光いよいよまぶしくなる 赤城さかえ
香合にのせ春光を廻したる 深見けん二
●照射
武士の子の眠さも堪る照射かな 炭 太祇 太祇句選
鵜舟漕ぐ水窮まれば照射哉 蕪村 夏之部 ■ 春泥舎會、東寺山吹にて有けるに
我宿に物わすれ來て照射かな 蕪村遺稿 夏
照射せし山に焦たる葛葉哉 加舎白雄
●消灯
大部屋の消灯までの春灯 高澤良一　鳩信 入院日誌
山荘の夜霧の深さ消灯す 松本博之
春の夜を看護婦消灯触れ廻る 高澤良一　鳩信 入院日誌
流氷のポスター駅も消燈す 対馬康子 吾亦紅
消灯の放送があってそれからの月が明るい 住宅顕信 未完成
消灯の放送に追い立てられた幼い手をふる 住宅顕信 未完成
消灯の茶屋吸込みし五月闇 古野四方白
消灯は孤独の一つ虫しぐれ 桂樟蹊子
消灯以後水蜜桃の蜜いかに 小寺正三
消燈の喇叭鳴れども野は白夜 田村了咲
消燈の鐘鳴り渡る暖炉かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
消燈や森を近づけ梅雨やまず 村越化石 山國抄
消燈後も市井の明さ冬衾 渡辺幻魚
無医村の消灯早し冬の月 高野清美
蛍籠小児病棟消灯す 中沢三省
●照明
つきささるやうな照明パンジーに 岸本尚毅 舜
ビヤガーデン照明青き城望む 佐野まもる
冷まじき百の照明(てらし)が頭上かな 田口彌生
死の側より照明せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも 斎藤史
水槽の魚を照明熱帯夜 長田等
照明が消えてたもまち城氷る 長田等
照明の城に向ひて踊りゆく 長田等
菜の花の照明誇りよみがへれ 香西照雄 素心
●燭
「雪」 を唄う盲目の眼に冬の燭 長谷川かな女 牡 丹
いなづまを手にとる闇の紙燭哉 松尾芭蕉
うなさかに消ゆる神の燭鹿のこゑ 佐川広治
おねやれの燭を細めて祭宿 近藤一鴻
お十夜の六時不断の燭を継ぐ 竹原竹堂
かはほりがとびつき燭をとり落とす 筑紫磐井 野干
かまくらあそび燭の火ふつくらと招く 村上一葉子
かまくらの人立てば燭揺らぎけり 館岡沙緻
かまくらの心臓として燭をともす 岡部いさむ
かまくらの揺らめく燭や横手川 内山 茂
かゝげたる燭の火明し宵の年 名和三幹竹
こほろぎに違和の強燭深夜作業 津田清子 二人称
こほろぎや尼が来て消すミサの燭 相馬遷子 山國
たなばたの燭はたと消え湖の闇 木村蕪城 寒泉
つかまつる紙燭露けき夜能かな 西村和子 かりそめならず
てのひらに秋の燭守りいたこの灯 八牧美喜子
とかげ這ひ縁切地蔵燭一つ 有馬籌子
はらからのここにも祈る梅雨の燭 宮武寒々 朱卓
ひとりの起居台風の燭かばひつつ 馬場移公子
ひとり来て燭まぶしむや菊供養 村上光子
みほとけに一盞献ず除夜の燭 木村蕪城 一位
ゆきずりの燭を感ずる地蔵盆 飯田蛇笏 霊芝
ゆく年の雪に手燭の油煙たつ 飯田蛇笏 春蘭
わが燭の遅れ加はる地蔵盆 橋本多佳子
ナイターの万燭逃れきれざる蛾 本田青棗
ナイターの強燭を我が胸に享く 右城暮石 上下
ナイターの燭浴び緻密なる芝生 塚腰杜尚
一つ燭で二人で見舞ふ春蚕かな 幸田露伴 谷中集
一対の雛一対の雛の燭 後藤夜半 底紅
一山の僧が出座す十夜の燭 加藤芳雪
一本の燭に梅雨冷え浮御堂 原裕 出雲
一燭が尽き盆の妣寝かしけり 蔦 悦子
一燭に夜寒の影を守るかな 近藤一鴻
一燭のおぼろに浄土変相図 宮下翠舟
一燭のわなわなゆらぐ雛の恋 阿波野青畝
一燭を伐折羅に献じ萩若葉 深見けん二
一燭蛾空室の灯を泣かしをり 石塚友二 光塵
一生を賭けし俳諧春の燭 飯田蛇笏 雪峡
上堂の手燭案内臘八会 藤 小葩
二月堂春の燭足す堂童子 吉原文音
井の端に燭を呼ひ小鰺を割いてきほふ 尾崎紅葉
仏名会燭三千はありぬべし 阿波野青畝
仏壇の燭消してより涅槃雪 田中英子
仏身のほのぼのと現れ春の燭 伊東宏晃
仮住の身に一穂の除夜の燭 木村蕪城 一位
仮堂にして彼岸会の燭太し 百合山羽公 寒雁
信仰の燭を無月の燭となす 村越化石 山國抄
元朝の燭を掲げて仕込蔵 星野佑美
入口に紙燭ありけり竹の春 福井啓子
冬かすみして誕生の窗の燭 飯田蛇笏
冬の川身を脱けゆくは婚の燭 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
冬の燭わが幽情をへだてけり 飯田蛇笏 春蘭
冬の燭燃ゆ羽ばたきの音をこめ 対馬康子 吾亦紅
冬めくや供へし柿にやどる燭 大岳水一路
冬瓜にことに燭のいろ地蔵盆 森 澄雄
冬蝿や十燭光の壁に生く 冨田みのる
冷かに燭蛾とまりぬ膝の上 淡路女
出序でに覗く種井や燭かざし 竹内余花
初勤行の一喝燭をゆらしけり 永口静子
初大師百僧侍る燭あかり 宇都木水晶花
初能や神を誘ふ燭あかり 竹内喜代子
初閻魔浮気封じの燭灯り 菅田静歩
初風や燭より小さき念持佛 神崎忠
北風や涙がつくる燭の虹 高柳重信
十二神将春暁の燭ゆるるなき 原 幸子
十六夜や消されてにほふ燭の芯 渡辺四日女
千の墓露の一基に燭の縁 八牧美喜子
南天燭(なんてん)の実にひよどりのさゝやきよ 泉鏡花
厳寒の行滝に燭揺れ止まず 小松世史子
友禅描き梅雨百燭の畳の間 白澤よし子
受難日の絵硝子のほか燭も消え 八牧美喜子
古き機ふるき燭置き機始め 水原秋桜子
古風なる燭の月光弾はじめ 飯田蛇笏 雪峡
向拝の燭澄み黴の持仏堂 小原菁々子
君を消し得るか聖菓の燭を吹く 三好潤子
啓蟄の燭に花束くばらるる 石原舟月 山鵲
囀に花びら型の燭ふやす 丸山佳子
土佐水木良寛堂を燭しけり 松崎鉄之介
声強きちちろへ死者の燭靡く 林田紀音夫
夏の燭海棠を見る夢うつゝ 尾崎紅葉
夏の燭灯し一管奏さるゝ 内田 愛子
夕顔の白ク夜ルの後架に紙燭とりて 芭蕉
大根を台に年神様の燭 影島智子
大空に万燈の燭花辛夷 佐藤 千兵
太陽は十燭だ稲を刈る俺に 山本仁太郎
奇しきまで夜霧ふかしや燭を前 碧梧桐
奉る燭の穂固し寒に入る 毛塚静枝
奉る燭を映して水澄めり 毛塚静枝
婚の燭焔をたつるとき薔薇真紅 加藤耕子
學寮の燭爛爛と夜寒かな 会津八一
家ふかく昼の一燭柏餅 中村草田男
川風に狸供養の燭ゆらぐ 小関光代
帰る雁物思ふ夜の燭暗し 田村西男
幻談に燭して修す露伴の忌 橋本鶏二
延年の舞や須弥壇燭ふやし 田村美樹子
強燭に雪かがやけり雪祭 平間真木子
強燭の数だけの闇クリスマス 高澤晶子 復活
彌陀の掌に霊のもろもろ春の燭 飯田蛇笏 雪峡
形見分蜩やみて燭灯す 福田蓼汀 山火
後夜の燭またたきましぬお水取 山口峰玉
後志の春さむけれど夜の燭 飯田蛇笏 雪峡
御持佛に既望の燭を奉る 山川 喜八
息ひそめても揺れている春の燭 大高 翔
悴みて佛づとめの燭ともす 吉田 長良子
惜春の闇を背にため燭をともす 古舘曹人 砂の音
愛染の祭仏の燭明く 今井風狂子
手燭して乾鮭切るや二三片 前田普羅
手燭して庭ふむ人や春惜しむ 蕪村
手燭して懐炉の灰をさがしけり 蘇山人俳句集 羅蘇山人
手燭して能ふとん出す夜寒哉 蕪村遺稿 秋
手燭して色失へる黄菊かな 蕪村
手燭して見る湖暗し雨の雁 比叡 野村泊月
持つ燭の短くパスハおへんとす 田村了咲
指ほどの燭炎え露座の童子仏 成田千空 地霊
新涼のマリアに灯す燭七つ 景山筍吉
新涼の燭ゆれあうて誕生日 飯田蛇笏 春蘭
旅ここまで燭煌々と精神科 齋藤愼爾
旅人も燭継ぐ雨の花会式 上村末子
星の燭頒ちてすすむ初詣 伊藤敬子
春の燭ミサのこだまと共に揺れ 山本歩禅
春の燭石卓の花全貌を 飯田蛇笏 雪峡
春寒や燭にまむかふ顔三つ 『定本石橋秀野句文集』
春恨といふべき誦経燭の華 飯田蛇笏 雪峡
春暖の燭餉をてらすかしまたち 飯田蛇笏 雪峡
春雪に子の死あひつぐ朝の燭 飯田蛇笏 雪峡
昼燭す涅槃の幅や東福寺 露石
晨朝の紙燭ともすや春霙 西本一都
月光に燭さわやかや灯取虫 飯田蛇笏
月光に燭爽かや火取虫 飯田蛇笏 霊芝
月昇り燭に痩せゆく雪灯籠 田中英子
朗詠に観月祭の燭消され 北方冬木
朝は憂し机上臘燭と柿一顆 水原秋櫻子
木の根道雪に点して燭匂ふ 佐野美智
杉山に燭をかかげて海老根咲く 青柳志解樹
枯月夜燭入りて堂膨らむよ 高澤良一　ねずみのこまくら 昭和五十五年
柊を挿す手燭かも家めぐり 白岩 三郎
柑園の夜に入る燭やあきのあめ 飯田蛇笏 山廬集
柑子剪る庭石凍る手燭かな 長谷川かな女 雨 月
梅雨蝉の目の爛々と昼の燭 殿村莵絲子 花寂び 以後
棚経僧燭を扇で消し去りぬ 野村喜舟
横顔や蚊を焚く燭のかげひなた 森鴎外
橋殿に燭ぞまたゝき御祓かな 岸風三楼 往来
橋殿に燭奉る御祓かな 吉田愛子
残る蚊もはたとなき夜や燭の風 河東碧梧桐
水へ落つ水あり落穂手燭めき 宇佐美魚目 秋収冬蔵
氷る夜の文殊に燭をたてまつる 茅舎
汝がとる燭芯たちて雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
河豚一尾売るべき燭を立てにけり 佐野まもる 海郷
注連飾り燭に新藁匂ひけり 佐々木春蔵
流木を渉るものみな燭を持ち 中村苑子
流灯の明日なき燭のまたたける 手塚金魚
流燈会高野の燭を賜はりて 民井とほる
涅槃図に居ぬ猫鳴きて燭揺るる 田中英子
消されたる聖燭雪に匂ひけり 石田勝彦 秋興
涼しさや再びともす燭の下 高井几董
深雪見むと軒へのべたる手燭かな 原石鼎 花影以後
源氏よむ燭またたけり梅雨の雷 鷲谷七菜子 黄 炎
滝不動芽木も燭めく祈願声 河野南畦 湖の森
火蛾の舞ふ燭をかざして見送られ 馬場太一郎
火蛾も来ず山の豪雨の燭明り 福田蓼汀
煮凝を探し当てたる燭暗し 高浜虚子
熱の子らに十六燭てう冬灯ともる 古沢太穂 古沢太穂句集
燭(とぼ)しては風にけさるる切籠(きりこ)かな 蝉鼠 俳諧撰集「有磯海」
燭あまた樅に点してクリスマス 四明句集 中川四明
燭うるむ水掛不動夜霧生む 八牧美喜子
燭かへて寒気勝れぬ義士祭 長谷川かな女 雨 月
燭きつて暁ちかし大晦日 夏目漱石 明治三十年
燭つぎて暮春のほとけ揺らぎます 村山春子
燭のためかまくら星のため夜空 鷹羽狩行
燭のもと虫飼ふ壺のひびきけり 飯田蛇笏 春蘭
燭の火をきよき指におほひつつ人はゑみけりその束の間を 古泉千樫
燭の火をーつずつ消し帰雁を消す 中島斌雄
燭の火を燭にうつすや春の夕 蕪村
燭の灯に月下の石のゆらぎけり 桂信子 黄 瀬
燭の灯を煙草火としつチエホフ忌 中村草田男(1901-83)
燭の炎のしづしづ細り秋の風 前野泉
燭の焔の細り太りや梨を食む 阿部みどり女
燭の焔は立ち蕭々と冬の雨 山口青邨
燭の穂の起きるひまなし川施餓鬼 橋口白汀
燭はいま祈りの在り処秋の風 飯田龍太
燭ひとつ貰ひ良夜の野の仏 猿橋統流子
燭ふえて献花息づく花会式 水内菊代
燭まして夜を続ぎにけり年忘 黒柳召波 春泥句集
燭まぶしペンシヨンはやも温め酒 高井北杜
燭もえて僧短日の餉に興ず 飯田蛇笏 春蘭
燭ゆるゝときおもかげの寒さかな 久保田万太郎 流寓抄以後
燭ゆれて寒行の闇動きけり 宇野直治
燭ゆれて寝釈迦まばたきしたまへり 岡本無漏子
燭をもて初花仰ぐ酔ひにけり 龍男
燭を継ぐ孫弟子もある子規忌かな 高浜虚子
燭一つわれとありけり根深汗 鈴木真砂女 夕螢
燭一つ残し睥睨初閻魔 向山隆峰
燭光のここにはなやぐ余寒かな 飯田蛇笏 山廬集
燭光のこゝにはなやぐ餘寒かな 飯田蛇笏
燭光や地獄にのびて新樹の根 鈴木六林男 国境
燭入れてきのふの見ゆる花野宿 伊藤敬子
燭切つて高座明るき十夜かな 野島無量子
燭剪つて暁近し大三十日 夏目漱石
燭剪つて見守る太刀や夜半の秋 伊藤松宇
燭呼べど来らず棋局暮遅き 四明句集 中川四明
燭寒し屍にすがる聖母の図 西東三鬼
燭寸かつ振り子の詩なり片しぐれ 加藤郁乎
燭尽きて精霊舟のさまよへり 宮下翠舟
燭強し春のまくなぎはらひきて 辻桃子
燭明りまた月明り上元会 下村ひろし 西陲集
燭更けて卓に晩夏の虫ぞ降る 石塚友二 光塵
燭浄土露の身のまた露の刻 八牧美喜子
燭澄みて明日売る雛ひかりいづ 中村 金鈴
燭火礼拝私語つつしみて点火待つ 長田等
燭点し瓜番小屋に扉なし 町垣鳴海
燭置いて梅の泊りの客設 橋本鶏二 年輪
燭置けば金屏巌のごときかな 橋本鶏二 年輪
燭足してかまくらに子らまだ遊ぶ 橋本美代子
燭足して冬夜のミサの続きけり 西村和子 かりそめならず
燭足して雛の夜話かぎりなし 河野南畦 『花と流氷』
燭陸離ピアノ音をたえ夜の凍て 飯田蛇笏 雪峡
父母に重陽の燭奉る 香月 梅邨
瓜を売る地に一燭を立てにけり 黒田杏子 木の椅子
甘草を燭と見立てて仏具岩 高澤良一　随笑 七月-九月
産土に冬の燭あり父と母 石寒太
産土に燭あげにゆく桐の花 大峯あきら 鳥道
産土に燭あたらしき小春かな 大峯あきら 鳥道
異端者に凍てゆるびみゆ天主の燭 飯田蛇笏 雪峡
疲れ寝のこぼれ泪も燭に冴え(拙編『定本三好達治全詩集』発刊) 石原八束 『空の渚』
白木蓮の燭金婚の父母のゐる 橋本榮治 麦生
白虹忌銀杏大樹を燭とせり 寺井谷子
白鳥帰る宿の仏間に燭ともり 島田和世
百の燭天井を染め御身拭 太田穂酔
百燭に犇く桃の柔毛かな 宇多喜代子
盲白眼凄涼の燭をとぼすなり 成田千空 地霊
神将にまみゆる冬の燭かざし 岡井省二
禰宜立ちて年守る燭替へにけり 唐津加代子
私室まで見せてほしいと春の燭 櫂未知子 蒙古斑
秉燭や頤をうつ灯取虫 阿波野青畝
稲妻を手にとる闇の紙燭哉 松尾芭蕉
空也忌を心に燭を奉る 前田笑子
窯神の燭のまたゝく餅を搗く 渡部余令子
等身の金ンの寝釈迦に燭一つ 近藤一鴻
節分の燭をくばるよ春日巫女 角川春樹 夢殿
納涼船消え易き燭をつぎにけり 楠目橙黄子 橙圃
紙燭して垣の卯の花暗うすな 鳳朗
紙燭して客おくり出す柳かな 椎本才麿
紙燭して華やぐ樹々や星祭 青峰集 島田青峰
紙燭して蚊を焼く妻や蚊帳の内 寺田寅彦
紙燭の灯揺らげば萩の影揺らぐ 塚本青曜
紙燭足り草も匂ふや虫供養 原 俊子
終夜ともる聖燭に火蛾あやまてり 津田清子 礼 拝
終夜灯る聖燭に火蛾あやまてり 津田清子
羽の国の青田が原に百戸の燭 佐川広治
翠黛に聖燭節の雨げしき 飯田蛇笏 霊芝
老いの手にまねき消されぬ雛の燭 山本梅史
聖堂の燭かすかにて花圃の秋 飯田蛇笏
聖堂の燭幽かにて花圃の秋 飯田蛇笏 霊芝
聖夜に読む光の中に燭を点じ 香西照雄 対話
聖夜の燭絵硝子わづか浮かびけり 小池文子 巴里蕭条
聖燭に更けゆく露の身な里けり 中川宋淵 遍界録 古雲抄
聖燭のごとき冬芽やこぶし老い 高島筍雄
聖燭のごとし雪積む枯芙蓉 堀 葦男
聖燭の夜をまな妻が白鵞ペン 飯田蛇笏 春蘭
聖燭祭尊き使徒ら壁に古り 西東三鬼
聖燭祭工人ヨセフ我が愛す 西東三鬼
背を曲げてさやぐ燭の灯良寛忌 秋元不死男
胸もとに燭持してみなイブの友 荒井正隆
膳のもの見ゆればよしや夜寒の燭 原田種茅 径
芭蕉忌の燭の芯剪る坊が妻 高浜虚子
菊剪るや燭燦爛と人にあり 石鼎
落椿燭木橋揺る子はしらず 芝不器男
落葉駈けめぐる燭なき首塚を 渡邊牢晴
蔵王権現一燭に花いまだなり 松岡 英士
虚杖の花の燭ゆれ鵯巣立つ 堀口星眠 営巣期
虫売の燭傾けて壺覗く 平川花月
蚊を焼くや紙燭にうつる妹が顔 一茶
螢見て帰りて母に燭点す 数馬あさじ
行く春の千体仏の燭ゆれて 細見綾子 天然の風以後
裸燈より燭光逃ぐる春夜業 津田清子 礼 拝
観相の燭に五位鳴く真夏かな 宮武寒々 朱卓
贈られし花環に燭や春の宵 四明句集 中川四明
通夜の燭じじと燃えつく夜の蝉 小谷紫乃
道に出て寒行燭をわかち合ふ 加藤まさを
郭公に暁くる聖堂減らぬ燭 津田清子 礼 拝
郭公に曉くる聖堂減らぬ燭 津田清子
釈迦三仏に三燭あげて初諷経 小川登志子
野に山に燭立てしごと花ユツカ 吉良比呂武
金屏に袈裟ちかぢかと燭もゆる 飯田蛇笏 春蘭
金屏のさかさに夜ごろ燭ともる 飯田蛇笏 春蘭
金屏の雲や燭燃ゆ夷講 松瀬青々
鉄燭の壁に影おく蛇笏の忌 桂信子 遠い橋
関帝に燭上り春惜しむ 石塚友二 光塵
閻王に年守る燭を足しにけり 小西須麻
閻王の燭に真赤な地獄変 福田蓼汀 山火
闇に燭手に〜歌ふクリスマス 吉良比呂武
闇汁の闇ゆるがして燭運ぶ 上田春水子
陳さんの遺児上元の燭ふやす 中尾杏子
雁渡るらし燭の火の揺れつづけ 鷹羽狩行
雛の夜の燭にむかしのあるごとく 長谷川素逝
雛の燭ともせば誰もかもやさし 中村幸絵
雛菊に燭映え皇后誕生日 石田あき子 見舞籠
雨漏るや燭して壁に蝸牛 会津八一
雪に辞す人に手燭をこゝろより 飯田蛇笏
雪のこる新墓のまへ燭は炎に 飯田蛇笏 雪峡
電気より熱と燭得て寒夜読む 津田清子
霊まつる燭にまちかくひとり寝る 飯田蛇笏 雪峡
霜の日の燭より紅し屍室 千代田葛彦 旅人木
霜月や手燭の翳のマリア像 倉田春名
霧さやぐ燭幾つ野の聖母像 小池文子 巴里蕭条
霧華きゆ聖燭節の夕げしき 飯田蛇笏 雪峡
露けさの萩にうもるゝ紙燭かな 比叡 野村泊月
露けさや人身じろげば燭ゆらぐ 大岳水一路
青柿やはかなき霊にともす燭 三十尾藤男
風をいとふ中年婦人菊の燭 飯田蛇笏 雪峡
颱風や彌撒の聖燭金色に 内藤吐天 鳴海抄
高楼の銀燭見えかくれ若葉哉 寺田寅彦
鮭の首吊し囲炉裏の燭熾ん 佐川広治
黄泉路いま五月闇なり燭を耒る 三条羽村
黄蜀葵真昼の燭に尼の寺 大野林火
黒南風や燭盡きたれば鐵の針 竹中宏
●曙光
オリオンに手を出す 曙光ヒマラヤ待ち 伊丹三樹彦 写俳集
七月の曙光やあげし手にも影 野澤節子 遠い橋
春眠の睫毛曙光を感じつゝ 西島麥南
海霧ふかきフィヨルドに射す曙光かな 仙田洋子 雲は王冠
降誕祭の曙光に染まる砂漠かな 仙田洋子 雲は王冠
●蜃気楼
うつそみをまぼろしといふ蜃気楼 岡本爽子
おんなと云うからだ重たき蜃気楼 森須 蘭
ことごとくものの音絶え蜃気楼 長沼紫紅
たゞ沙漠なりし眺めに蜃気楼 桑田青虎
どこまでが雲どこまでが蜃気楼 上野たかし
みつけしは非番の厨夫蜃気楼 山口誓子
ものいはぬ女の佇てり蜃気楼 加藤三七子
コーランに欠けたる頁蜃気楼 藺草慶子
人の世の生死なにほど蜃気楼 森久保美子
再びのものとはならず蜃気楼 伊藤玉枝
十代の汚点の上に蜃気楼 櫂未知子 貴族
単色の沖にいのちの蜃気楼 対馬康子 吾亦紅
口笛をあやつる舌や蜃気楼 小川軽舟
同舟の人の見付けし蜃気楼 鈴木花蓑句集
唾でくり呑ます話術に蜃気楼 関本夜畔
太刀魚をさげて見てゐる蜃気楼 新田了葉
巨き船出でゆき蜃気楼となる 山口誓子 雪嶽
憂愁は距りにあり蜃気楼 鷹羽狩行 五行
流人島迎への船の蜃気楼 品川鈴子
海鳴りを聞き蜃気楼いまだ見ず 平間真木子
湖の一寸上る蜃気楼 松澤昭 麓入
珊瑚つむ船の行方や蜃気楼 松瀬青々
現身を真つ白にする蜃気楼 下山光子
生まざりし身を砂に刺し蜃気楼 鍵和田釉子
硝子吹く沖にあらはる蜃気楼 八牧美喜子
舞ふや失せ沙漠の果の蜃気楼 加藤知世子
蜃気楼たちしところに船すゝめ 新谷氷照
蜃気楼たつてふ海に不思議なし 福田蓼汀
蜃気楼だんまりの犀あゆみ来る 白澤良子
蜃気楼の現われない空 帆立貝移動した 吉岡禅寺洞
蜃気楼はたして見せぬ魚津かな 百合山羽公
蜃気楼半分は貝殻なりし 大坪重治
蜃気楼将棋倒しに消えにけり 三村純也
蜃気楼市の淫らをみせにけり 龍岡晋
蜃気楼弁当の紐真つ赤なり 小川軽舟
蜃気楼此岸に眉を剃りをれば 柿本多映
蜃気楼沖にも祭あるごとし 鷹羽狩行
蜃気楼消えてしばらく波さわぐ 吉川康子
蜃気楼現はるといふ子の任地 林真砂江
蜃気楼背にしてもなお涙湧く 平井久美子
蜃気楼見てよりわが眼たよりなし 廣瀬ひろし
蜃気楼見むとや手長人こぞる 芥川龍之介
蜃気楼見ることなしに魚津過ぐ 荒金 久平
蜃気楼見んとや手長人こぞる 芥川龍之介 我鬼窟句抄
蜃気楼詩の行間に立つごとし 中村清志
蜃気楼錬金術師歩きゐる 岩城久治
行く程に消えぬ沙漠の蜃気楼 吉良比呂武
貝類のこぞり舌出す蜃気楼 能村研三
鉄塔の見えしが始め蜃気楼 小林草吾
青信号連続すひとつは蜃気楼 浦川聡子
青信甘連続すひとつは蜃気楼 浦川 聡子
魚津とはさみしき町や蜃気楼 加藤三七子
魚津よりとゞく写真の蜃気楼 瀧澤伊代次
●水銀灯
水銀灯ひとつひとつに一羽ずつ鳥が眠っている夜明け前 穂村弘
水銀灯 のどに涙がつまったわ 松本恭子 二つのレモン
水銀灯晩涼の町坂勝ちに 冨田みのる
水銀灯 のどに涙がつまったわ 松本恭子
昭和時代水銀燈の櫻の園 山口誓子 方位
●瑞光
●赤外線
●閃光
スケートの襟留たまに閃光す 宮武寒々 朱卓
夏風に夜の閃光掛け鏡 飯田蛇笏 椿花集
病む母に霜夜の市電閃光す 丸山哲郎
閃光と顔が重なる暑のきざし 石原八束 空の渚
閃光をちりばめて曳く冬霞 石原八束 黒凍みの道
●底光り
アメリカンチェリー一粒底光り 高澤良一　鳩信 炎帝
夕立や死は底光りして来たる 仙田洋子 雲は王冠以後
大寒の底光りせる樫青葉 高澤良一　宿好 一月-三月
梟や底光りせる皿秤 中田 剛
白鍵の底光りして夕立来 仙田洋子 橋のあなたに
●電光
太古の洞を侵す電光目覚める苔 八木原祐計
春星へ電光ニュースのぼりゆく 浦川聡子
真夜中の蚊帳電光のういういし 渡部陽子
織女星に人の操つる電光(ひ)がとどく 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
電光ニュースの炎がこぼれ未婚の会 寺田京子 日の鷹
●点灯
ナイターの点灯しなほ薄暮なる 岩崎健一
点燈夫来て公園の落葉急 内藤吐天 鳴海抄
野良犬に 点灯惜しむ国 夕冷え 伊丹三樹彦 写俳集
●点滅
やはらかに点滅したり蝶の空 鈴木章和
冴えかへる工事現場の点滅灯 高久フミ
凍つる夜の信号機のみ点滅す 西山すみ子
寝てる間も聖樹点滅怠たらず 塩川雄三
点滅し聖樹はいつも暮れてをり 下村福
点滅は聖樹の言葉クリスマス 山崎みのる
点滅は胸の鼓動よ恋蛍 大野利江
点滅岬で僕喚ぶ灯かしら邂逅終え 楠本憲吉
燈台の点滅に浮く波の花 林 照江
聖樹の灯音あるごとく点滅す 木村利子
聖樹点滅窓に陸の灯港の灯 福田蓼汀 秋風挽歌
聖樹点滅考へる時間欲し 津田清子 二人称
蛍火の点滅杉の脚千本 横山白虹
螢恋ひ運転点滅尾燈黄なり 香西照雄 素心
電卓の数字の点滅西鶴忌 浦野芙美
電気毛布夜半点滅のたしかさよ 水原秋櫻子
電気炬燵のみを点滅万年床 右城暮石 上下
●投影
ビル投影みだして進む藻刈舟 栗原蕎村
芦青ければ甘し堤防の白投影 宮津昭彦
投影に恥ぢざる者よ白鳥身 中村草田男
●日照
このごろの日照時間帰り花 後藤夜半
この谷戸の日照時間烏瓜 高澤良一　随笑 一月-三月
三椏に日照時間伸びて来し 高澤良一　寒暑 一月-三月
五月雨の名をけがしたる日照かな 水田正秀
北国の日照時間柳葉魚干す 山口甲村
日照年二百十日の風を待つ 素 堂
日照雪三輪山のみを雲隠し 北野民夫
花独活に渓の日照の激しさよ 石川雷児
雲まれに世は時鳥の日照なり 椎本才麿
霜庇山の日照のひとところ 阿部みどり女
青芝の日照時間尽きるまで 後藤夜半 底紅
●ネオン
いぶせき陽落つとネオンはなかぞらに 篠原鳳作 海の旅
うたひめにネオンかはたれはつしぐれ 飯田蛇笏 雪峡
はてしなき闇がネオンにみぞるゝよ 篠原鳳作 海の旅
びしよ濡れネオン梅雨の長靴欲かくす 田川飛旅子 花文字
をだまきのネオンの墓場春の霜 宮武寒々 朱卓
タイ購へばネオンの温み秋惜しむ 宮武寒々 朱卓
ネオンさす狭き事務所や夜食とる 小田道知
ネオンともり人水族と化しにけり 林原耒井 蜩
ネオンなき菜館ならぶ夜の若葉 大島民郎
ネオン冬出逢つて話す広告マン 田川飛旅子 花文字
ネオン眼を射て高価なる冬百貨 飯田蛇笏 雪峡
ネオン秋街の晩貌泣くばかり 飯田蛇笏 雪峡
ネオン見て柿よ柿よと子供かな 岸本尚毅 舜
ネオン赤き露の扉にふれにけり 木下夕爾
人待てば年のネオンは媚びるかに 岩田昌寿 地の塩
冬夕焼ネオンがさきに夜創る 長岐靖朗
冴ゆる夜やネオンの一字欠けしまま 青木不二子
凍てきびし屋上ネオン雲に映え 飯田蛇笏 雪峡
凍て空にネオンの塔は畫きやまず 篠原鳳作
凍て空にネオンの蛇のつる〜と 篠原鳳作
凍空にネオンの蛇のつる〜と 篠原鳳作 海の旅
古町にネオン一点ビールの酔 香西照雄 対話
吐く唾に降誕祭のネオン映ゆ 宮武寒々 朱卓
売られる映画館のネオン息づく赤青緑黄 栗林一石路
夏燕街のネオンにひるがへる 林 康子
夕ばえてはやきネオンに地が凍てぬ 飯田蛇笏 雪峡
夕立やネオン浮かべる水溜り 玉澤淑子
夕霧にネオンせはしき街となる 阿部みどり女
天の川寂たりネオン昇降す 林原耒井 蜩
女等昼寝ネオンの骨に蝉が鳴く ねじめ正也
寒鴉とほきネオンのはやともる 木下夕爾
年のネオン遠目夜空は戦火に似る 岩田昌寿 地の塩
文学もかなしネオンの赤き夏 下村槐太 天涯
旅来し妻春夜ネオンは火の如し(別居一歳に余りしが) 細川加賀 『傷痕』
春水の暮れつつネオンとらへつつ 亀井糸游
春燈として車燈点きネオン点き 嶋田摩耶子
昼の蟲骨格見するネオン管 田川飛旅子 花文字
昼ふかきネオンの骸にしぐれゐる 篠原鳳作 海の旅
昼深きネオンの骸にしぐれゐる 篠原鳳作
晝深きネオンの骸にしぐれゐる 篠原鳳作
曾根崎のネオン見て過ぐ近松忌 冨田みのる
柳散る一枚は赤のネオン一枚は青の 山口青邨
梅雨夜空ネオンがほしいままにせり 波多野爽波 鋪道の花
水のシンポジウム果てたるネオン街 石田よし宏
河豚鍋や水面のネオン雨に痩せ 石川 桂郎
油虫ネオンの赤き夜に会ふ 右城暮石 声と声
短か夜のネオンに近き目覚めかな 林原耒井 蜩
短日のネオン流るゝかき料理 高木晴子 花 季
空涼しネオン疲るるさまもなく 岩崎照子
笑うキリストの主題ありきや冬のネオン 田川飛旅子 花文字
紅ばらにネオンの雨が大粒に 柴田白葉女 遠い橋
美しきネオンの中に失職せり 富澤赤黄男
花火空ネオンあくまで照らすなり 林原耒井 蜩
花街のネオン師走の雨に濡れ 本宮哲郎
虎ケ雨濡れてネオンのなまなまし 清崎敏郎
賭博市の質屋の春のネオン赤 吉良比呂武
賭場並び春のネオンを競ひをり 吉良比呂武
近松忌ネオンの花が水に咲く 桝井順子
送火を終へたる遠きネオンかな 石川経子
遠きネオン雲丹食べて父蘇る 渡辺祥子
都會のネオンが こゝの貝殻までは 映らない 吉岡禅寺洞
雪はらむ夜空はふくれネオンばかり 岩田昌寿 地の塩
雪降るや僻地のネオン赤がちに 有働亨 汐路
青きネオン赤くならんとし時雨る 竹下しづの女句文集 昭和十二年
顔そむる飾窗ネオン夜の凍て 飯田蛇笏 雪峡
鴎舞ひ白夜のネオン淡かりし 広瀬河太郎
●ハイライト
●裸灯
ひとり寝て梅雨の裸灯よきびしき世 石橋辰之助 山暦
ビキニ以後も界隈を守る梅雨の裸燈 古沢太穂 古沢太穂句集
二の酉の裸灯滾る大手締 小野恵美子
仮借なき北斎素描裸灯かな 柴田美代子
光度の弱い裸灯の下に芋麦飯食う故郷の親子 橋本夢道 無禮なる妻抄
冴返る裸灯ひとつの杜氏部屋 二村美伽
初市の裸灯に透けり干鰈 伊藤京子
坑氷柱泣かんばかりの坑裸燈 秋元不死男
幕引けば躍る裸灯夏芝居 福田蓼汀
接岸の鰤船裸灯高く吊り 舘岡沙緻
果舗見えて裸燈の下の小石どち 香西照雄 対話
棒稲架に裸灯かがやく祭みち 河野南畦 湖の森
水揚げの裸灯の揺るる鰹船 栗山妙子
波音にくもる裸灯蜜柑選る 石本秋翠
潮騒や裸灯暗く柘榴売る 小池文子 巴里蕭条
烏賊釣船百の裸灯のきんきらきん 高澤良一　寒暑 四月-六月
粗壁に裸灯淡し紙を漉く 山田和子
脱穀機を裸灯が照らす影多し 右城暮石 声と声
脱穀機裸燈が照らす影多し 右城暮石
蟹啖ふ秋の裸灯低く吊り 小林康治
裸木に裸灯を吊り飾売 飯野燦雨
裸灯に生るる暈や露時雨 福田蓼汀 山火
裸灯に鰤の白腹百数ふ 細見綾子 雉子
裸燈より燭光逃ぐる春夜業 津田清子 礼 拝
雪呼んで埠頭外れの裸灯よ 小林康治
霧はれぬ畜舎の裸燈葱の上 桜井博道 海上
鮟鱇をさくや裸灯低く吊り 赤沼薫
鰤あげ場裸灯をどる男の肩 細見綾子
●白光
ちゝはゝとまた呼ぶを得し露白光 杉山岳陽 晩婚
ひなあそび十津川渓谷白光塵 夏石番矢
人の踏む月より更にはるかにて白光浄く鷲座アルファ星 山田あさ
夕顔は白光仏におはすかや 上川井梨葉
早梅の白光色の戦火あり 対馬康子 吾亦紅
昼吸ひし白光を吐き夕牡丹 山口青邨
白光す夜の城壁木々芽ぶく 原裕 葦牙
白光のかの蓬まで行かば死す 永田耕衣
白光のレールを月に向はしむ 上田五千石 田園
白光の一筋通ひ去年今年 平井照敏
白光の天上天下那智の滝 成田千空
白光の湯冷めをそそる秋蛍 殿村菟絲子
白光の秋白皙の痩羅漢 原裕 青垣
白光はのべし首より白鳥来 井沢正江 一身
白光を蕊に灯して梅昏れぬ 加藤耕子
白雲の中白光の一雪嶺 岡田日郎
竹育つ白光の径五月雨 長谷川かな女 花 季
紅葉谿白光曳けりひとつ蝶 石塚友二
花の昼白光放つ骨拾ふ 内藤吐天 鳴海抄
藤房の白光放ちつつこぼる 河本好恵
遠吠えの牙の白光蕎麦の花 和田悟朗
雪原の白光月光を以つて消す 岡田日郎
雪渓の白光見ゆる晴るる夜は 岡田日郎
露白光インコの会議熱しつつ 堀口星眠 営巣期
●発光
あおみどろどろりと出でし亀の眼の発光をせり望月の夜の沼 下村光男
をんな佇ちて牡丹の蕊の発光す 稲垣きくの 牡 丹
冬菫水透明に発光し 長谷川かな女 花寂び
地底の鑿岩冬の裸が発光して 加藤知世子 花寂び
夏の闇高熱のわれ発光す 日野草城
大雷雨国引の嶺々発光す 鬼村破骨
天もるる日や銀竜草が発光す 近藤忠
新海苔の帯封解かれて発光す 石村与志
春星の悲願廻れる発光独楽 宮武寒々 朱卓
月白の森黒々と発光す 横井理恵
梅雨深しさみしくて魚発光す 小澤實
泰山木終りの花が発光す 八木尋子
炎昼の窪に発光せる土工等 榎本冬一郎 眼光
牡丹の蕋金色に発光す 丸山嵐人
狂うなら夏金星のごと発光し 岸本マチ子
発光する基地まで闇の万の蛙 西東三鬼
発光独楽購ふ春泥を後戻り 宮武寒々 朱卓
聖樹の種証(あか)せば発光ダイオード 高澤良一　素抱 十月-十二月
花蕊濃きたんぽぽ赭顔発光す 香西照雄 素心
葬の渦とはぐれた神父死鼠の発光 赤尾兜子
鰺割くや夕星低く発光す 中村明子
●反射
島の太陽海に反射す金盞花 松崎鉄之介
手にとれば桐の反射の薄青き新聞紙こそ泣かまほしけれ 北原白秋
晩夏光舵手の眼鏡の強き反射 内藤吐天 鳴海抄
暴悪大笑面雪反射して 津田清子
林檎の芯抛る雪原の大反射 内藤吐天
短日の沼の反射の一走者 湘子
職欲しや暾を反射せるかたつむり 磯貝碧蹄館 握手
連山のかすみ青しや空を反射 八牧美喜子
雪の反射浴びて一行より遅る 津田清子
●微光
たそがれは微光とならむ蛞蝓 能村登四郎 枯野の沖
はばたく蛾の銀粉を紗に微光の町 桂信子 黄 瀬
ふろふきの味噌微光して日の沈む 北原志満子
やすらふや胸に微光の初燕 下田稔
ルンペンの唇の微光ぞ闇に動く 篠原鳳作 海の旅
体内も枯山水の微光かな 橋間石
凍てし湖深夜の微光知らるるな 津田清子 二人称
初空や微光をはなつ八ヶ岳 渡辺立男
刻の影氷面にうつりて微光揺る 石原八束 空の渚
十一月は青微光なし越前の蟹の雌雄も食はれてしまふ 鈴木春江
園児去る微光の中のかたつむり 橋本榮治 麦生
地は暮れて紫雲英田一枚微光せり 遷子
寒鴉微光を羽の内側に 河合凱夫 飛礫
微光して梅雨のみどりに昼の鶏 柴田白葉女 花寂び 以後
微光にも白樺さめて十二月 勝又木風雨
時雨忌やお仏飯の微光みそなはせ 飯田蛇笏 山廬集
晩涼のあたまの微光わが発す 三橋敏雄 巡禮
朴の花白きはまれば微光かな 沢木欣一
柔肌に微光微音の春の星 原裕 葦牙
樺の樹の微光となりて山氷る 対馬康子 吾亦紅
歳月の春田の微光身をつゝむ 相馬遷子
生きて恋して流星の曳く微光年 原子公平
画展出て落葉微光に歩み入る 柴田白葉女 牡 丹
白鷺の微光梅雨野の霽れんとす 徳永山冬子
花房を伝ひて微光下り藤 高澤良一　鳩信 東帝
茶の花に昏れの微光の白く凝り 文挟夫佐恵 黄 瀬
蕨狩微光の蕨採りのこす 柿本多映
藤棚を透かす微光の奥も藤 長谷川かな女 花 季
藪へ来し日に初雀微光せり 福島小蕾
蚊の微光元義の歌ぞかかりける 永田耕衣 加古*傲霜
蛾の微光おのれ昂り母寝落つ 桂信子 花寂び 以後
蝸牛おのが微光の中をゆく 千代田葛彦
踊子の髪に微光や夜半の春 原コウ子
遠浪の微光に崖の石蕗の花 柴田白葉女 雨 月
銀河より享けし微光や林檎噛む 平畑静塔
雲膓の微光よせあふ雨もよひ 柴田白葉女 花寂び 以後
●輻射
●フラッシュ
●火影
お高祖頭巾のおとがひ細き火影かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
きり〜〔す〕人したひよる火影哉 一茶 ■寛政年間
ピッケルに火影拭き込む去年今年 手島靖一
ボイラーの火影踊らせ枯れはげし 伊藤京子
住む方の秋の夜遠き火影かな 蕪村
列立て火影行鵜や夜の水 炭 太祇 太祇句選
夜の萩の火影うけたるところかな 久保田万太郎 草の丈
契りきしゆゑ火影ひく雪女 石原八束 『幻生花』
実柘榴や火影あばるる寺竈 藤田あけ烏 赤松
宿かさぬ火影や雪の家つゞき 蕪村 冬之部 ■ 題七歩詩
小雨降るとんども例の火影かな 鬼貫
山焼の夜叉の火影のはしるかな 大橋敦子 匂 玉
暮の火影鶏頭の野路迷けり 調菅子 選集「板東太郎」
枝のびて火影にこたへおぼろかな 久保田万太郎 草の丈
花守の火影を坂の動悸とす 鳥居おさむ
送り火の火影の中の夫婦かな 白水郎句集 大場白水郎
雨乞ひや火影にうごく雲の峯 闌 更
鵜の面(かほ)に川波かかる火影哉 高桑闌更 (らんこう)(1726-1798)
鵜の面に川波かかる火影かな 闌更
●街明り
●明滅
*かや風や漁火の明滅思ひ寝る 金尾梅の門 古志の歌
わが息の合ひて螢火明滅す 鷲谷七菜子 黄 炎
一水に闇の明滅初蛍 鶴田佳三
子と手花火遠く病む妻明滅して 磯貝碧蹄館 握手
明滅にわが息合はす蛍籠 栗原政子
明滅のなき一つ灯の聖樹かな 高浜年尾
明滅の滅のふかまり秋螢 平井照敏
明滅の聖樹に給ふ詩もなし 黒田櫻の園
明滅の静かなること草螢 井上哲王
梅雨の雷とどろき巣箱明滅す 石田あき子 見舞籠
滑火明滅脛よせて読む手紙かな 櫻井土音
獄塀凍て雲母明滅義民坐すや 香西照雄 対話
蛍火の明滅滅の深かりき 綾子
蝶とぶや心に昔明滅し 徳永山冬子
螢火のなかにまじりて明滅せり 平井照敏 天上大風
螢火の明滅宙にひとつきり 山口波津女 良人
螢火の明滅滅の深かりき 細見綾子 黄 瀬
●夜光
はしきよし鈴の鳴りそふ夜光羽子 高橋淡路女 梶の葉
下冷えや夜光時計の針青く 田中冬二 行人
夜光るものの色なり青林檎 相生垣瓜人 微茫集
夜光る梅のつぼみや貝の玉 其角
夜光る玉もしかめやあられざけ 季吟
夜光る鯨のまなこまなむすめ 夏石番矢 神々のフーガ
夜光杯月の天山想ふべし 下村梅子
燈を消せば部屋はぬば玉夜光羽子 高橋淡路女 梶の葉
玉の如く夜光る子は螢かな 会津八一
算盤の夜光の珠や恵比寿講 尾崎紅葉
舞ひ落つる蠱の青火の夜光羽子 高橋淡路女 梶の葉
●余光
ナイターの余光ざわめく樫若葉 根岸たけを
空のはてながき余光をたもちつつ今日よりは日がアフリカに落つ 斎藤茂吉
流氷のうすくれなゐの余光かな 涌井信雄
ステインドグラスの余光卒業す 行方克巳
●雷火
あかつきの雷火かかれる大牡丹 深川正一郎
かげりなき月に雷火のあとしるき 上村占魚 『天上の宴』
かんばせに雷火かかれる時美(くわ)し 深川正一郎
一閃の雷火のなかに青胡桃 阿波野青畝
不死男忌の雷火まみれの髪膚なり 越高飛騨男
人牛を走らす雷火北伊吹 宇佐美魚目 秋収冬蔵
依代のごとき燈台雷火立つ 橋本榮治 麦生
南壁に雷火一瞬峙ちし 桑田青虎
喪の妻や車窓の雷火浴びとほし 細川加賀
堂暗く天平仏に雷火立つ 狹川青史
夜の雷火巣鳥ひそめる栂照らす 斎藤 道子
山桜雷火の跡を覆ひ咲く 羽部洞然
山羊は角挙げ藻岩山上雷火立つ 林翔 和紙
心急く泊り雷火の海を打つ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
文学論雷火一瞬灯を奪ふ 椎橋清翠
海の守りの月を食ふあなあな雷火 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
煤の沖梅雨緑なる雷火立つ 小林康治 玄霜
睡蓮の池にしばしば雷火陥つ 瀧春一 菜園
空知野に走る雷火や植ゑ急ぐ 石塚友二
竹煮草夜々の雷火のたばしれる 馬場移公子
美幌路の雷火しばらく楡に炎ゆ 堀口星眠 営巣期
脳天に雷火くらひしその刹那 緒方句狂
蚤とんで失せぬ雷火に村打たれ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
谿二つ雷火立ちては相照す 秋櫻子
遠近の森ことごとく雷火刺す 石田あき子 見舞籠
野の燕雷火を浴びて啼きにけり 佐野良太 樫
釣り上げし鯰に雷火にはかなり 松本 幹雄
閃々と雷火泥濘の道に燃ゆ 相馬遷子 山国
雲が呑むウィーンの森雷火立つ 林翔 和紙
雲龍桜幹を雷火に裂かれ咲く 川村紫陽
雷火あとそれも露けし一茶の地 山内山彦
雷火ありたり宮を焼き楠を裂き 村松紅花
雷火とび喜雨の顔々かがやけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
雷火とふ激しきものにあこがるる 西川五郎
雷火にも逆立つ馬の黒たてがみ 桂信子 黄 瀬
雷火立ち海へ落ちゆく馬柵の先 大森三保子
雷火立つたまゆら蛇気のただよへり 千代田葛彦
雷火立つゴツホのタッチさながらに 川口 淀村
駆けつけて雷火匂はす農俳人 近藤一鴻
●雷電
「雷電」の手型に手埋め松涼し 高井北杜
日雷雷電関の碑(いしぶみ)に 高澤良一　宿好 七月-九月
雷電と血の兵が這ひゐたる壕 片山桃史 北方兵團
雷電のふとせしところ昴あり 篠原梵 雨
雷電の線にからまり黄泉を呼ぶ 和田悟朗 法隆寺伝承
●乱反射
さやゑんどうの摘みどき海の乱反射 高澤良一　ねずみのこまくら 昭和五十七年
はや灼けて検問所の窓乱反射 関森勝夫
サングラス断てり氷河の乱反射 高澤良一　ぱらりとせ 雜
八月十五日ますます乱反射 有馬英子
夏の灯の鯨の本へ乱反射 高澤良一　ももすずめ 平成二年
晩春二人乱反射する八郎潟 福富健男
梅雨晴やさつま切子の乱反射 田辺キヨ子
遠巻きに僧林立の乱反射 高田 游
●燐光
月青し夜半は鴎も燐光す 金箱戈止夫