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●光沢●光り●色艶●輝く●赫々●きらきら●ぎらぎら●きらり●金ぴか●黒光り●炯々●煌々●こんがり●燦々●燦●燦然●手沢●白々●ちかちか●ちらちら●艶●艶消し●艶やか●てかてか●てらてら●ぴかぴか●ぴかり●爛々●玲瓏

●光沢
やはらかき楕円光沢繭ごもる猪俣千代子秘色
伊予柑に光沢与ふ燧灘高澤良一　寒暑四月-六月
入学の帽のひさしの光沢を拭く原田種茅径
恋果てし猫の佗寝よ光沢よ加藤知世子花季
方丈の油団の光沢や棕櫚団扇大谷繞石
春寒や葱のみどりと白き光沢笹沢美明春光秋色
淋しさは夜の電話の黒い光沢住宅顕信
空に光沢「愛の日」を妻が干竿上ぐ磯貝碧蹄館
絹糸の光沢しめやかに窓の雪瀧井孝作
遊行寺のすすき光沢持ち始む高澤良一　燕音九月
●光り
*たらの芽や少年少女光り飛ぶ栗林千津
*たら芽ぐむ真白き雲の光りとび岸風三楼往来
あきつ羽の光りつめたし菊畠内藤吐天
あばら骨風と光りぬ泣き仏加藤知世子花季
あれちのぎく咲きみちし光り土用かな内藤吐天
いなびかり遅れて沼の光りけり橋本多佳子
うすものの老僧となり光り苔鳥居美智子
かたびらのうるし光りや琉球女篠原鳳作
かび美しき闇やわが身も光りだす桂信子
からかねの踏絵の端の光りをり山本歩禅
かゞやける野よりも光り畦塗れる石井とし夫
けふできて光り一日苗代田森澄雄
こころこの寒の光りに国憂ふ石原八束秋風琴
この旦時雨光りて樹を洗ふ西村公鳳
こほろぎの漆光りの富士額山口青邨
さざなみに国のはてなる日の光り細谷源二砂金帯
さざなみは切子光りに猫柳上田五千石
さんらんと光りに浴びせられ夜を働く者橋本夢道無禮なる妻抄
しろじろと花を盛りあげて庭ざくらおのが光りに暗く曇りをり太田水穂
すと立ちて帯が光りぬ春著の妓高濱年尾
すゝき穂に昏れゆく雨の光りけり長谷川双魚風形
せゝらぎの現はに光り十三夜西山泊雲泊雲句集
たかんなの光りて竹となりにけり小林康治四季貧窮
たんぽぽの絮光り飛ぶはげむべし原コウ子
つぶやく名良夜の虫の光り過ぐ西東三鬼
ところどころ水光りつつ春となる桂信子花寂び以後
とんぼうの腹の黄光り大暑かな室生犀星犀星発句集
ねこやなぎ銀色に光りかえしつつうつつに強き抱擁がほし川口美根子
ねむるときさくらの光りつつむべしきくちつねこ
はるかなる光りも畑をうつ鍬か皆吉爽雨
ひとごとではなく柿が光りだし鳴戸奈菜
ほたるとぶ光りいろめく宵の口飯田蛇笏椿花集
ぼて振りに踏まれたんぽぽ光り出す柴田白葉女花寂び以後
まつろはぬものなき風の光りけり金尾梅の門古志の歌
まひるまは蛇の光りに母の閨高野ムツオ
みかん光り一人臥す家結束す高橋富久江
みづからの光りにまたたき枯野星中村明子
みどり醒め光りはしれる風の庭柴田白葉女花寂び以後
めしつぶに来て鶯の青光り小島千架子
もづく舟遠くにありて光りけり大嶺春蘭
ものの芽のほぐるる先の光りをり深見けん二
やがて闇の来ると螢の光り出す鈴木真砂女夕螢
ゆく秋の遠い水より光りだす吉岡満寿美
わがために塔を、天を突く塔を、白き光りの降る廃園を黒瀬珂瀾
わが息に光り白魚藻に消ゆる加藤知世子花寂び
わが行けばどんぐり光り触れ合えり金子兜太
わが道の淡き光りの藍微塵石原八束『藍微塵』
わづかながら掻きえし海苔の薄光り渡邊水巴富士
わづかな日向光りつつ虫があらそへりシヤツと雑草栗林一石路
アメリカンチェリー一粒底光り高澤良一　鳩信炎帝
ゴム長を光り軋ませ父亡き冬赤城さかえ
ジュラルミン光りに枯枝枯枝かな高澤良一　宿好十月-十二月
ニイチエ忌尾輛ゆレール光りつ去る中村草田男
ビルの霜雲とびちりて光り盈つ飯田蛇笏雪峡
ペン皿の燈りに光り春近し内田百間
マスカツト剪るや光りの房減らし大野林火
ミサに行く道の彼方に光りつつ積乱雲立つ神は旱にあり前田透
一すじの光り花野の忘れ水橋口ふみ
一天の漆光りに星月夜富安風生
一天の玉虫光り羽根日和清崎敏郎
一日の終りの光り立つているのは生きた塑像吉岡禅寺洞
一望に枯草の曳く光りかな吉武月二郎句集
一木の枯るゝ光りや秋の雨萩原麦草麦嵐
一湾の明けゆく光り芭蕉祭柴田白葉女雨月
一群の裸子光り来たりけり不破博
一連の雲光りあふ鰯引き広井紅柳
三日月の光りそめつ鮎に箸つけぬ渡邊水巴富士
三月菜つむや朝雨光り降る渡辺蟹歩
中年や冬雲に光りこもらせて柴田白葉女花寂び以後
串伝ふ脂の光り岩魚焼く深見けん二
久方の光りが霜に歸り花松瀬青々
乙女らはかすみの光り吊橋揺り長谷川双魚風形
九十九折雪しろ棚田光り合ふ西村公鳳
九十九里の波の遠鳴り日の光り青葉の村を一入来にけり伊藤左千夫
五月雨に田よりも径の光りけり関塚康夫
五月雨や竹おほまかに光りをり中島月笠月笠句集
人の死やいま光り出す蛞蝓小林康治玄霜
人力車光り置かれて萩の門上野泰佐介
仰ぎ見る大日滝は濡れ光り鈴鹿野風呂浜木綿
佃煮の漆光りや初不動岡本眸
何もかも光りて雨の祭笛町田しげき
元旦の構図光りはテレビ塔にある吉岡禅寺洞
光りあふ二つの山の茂りかな去来
光りあるうちに詠めとや椎若葉清水基吉
光りかけた時計の面梅若葉いま北原白秋
光りきし人水に入り泳ぎけり徳永山冬子
光りけり田螺の甲羅返すとき大久保橙青
光りしは東風なり白き月ならず林原耒井蜩
光りしは蘭亭めぐるつばくらめ山田みづえ草譜以後
光りしは雁の童子か雁帰る山田みづえ手甲
光りたい干潟がありてひかるなり津沢マサ子風のトルソー
光りたる仔牛の尿やほととぎす堀口星眠営巣期
光りつつたちまち消えし流れ星あかつきの海はいまだ暗しも小泉千樫
光りつつアイヌに届く夏川ぞ細谷源二
光りつつ冷たき春の雲がゆく関成美
光りつつ沖より時雨来たりけり石原八束(1919-98)
光りつつ花下の湿りを蟻歩く猿橋統流子
光りつつ針魚の吻が迫り来る白澤良子
光りつつ鳥影よぎる二月尽小沢明美
光りつゝアイヌにとどく夏川ぞ細谷源二砂金帯
光りつゝ早二つ三つのぼり鮎中島月笠月笠句集
光りつゝ空へ消えたり花一片月舟俳句集原月舟
光りては光に消ゆる糸蜻蛉仙田洋子橋のあなたに
光りては水の尖れる我鬼忌かな上田五千石風景
光りて青き麦生戦前戦後なし昌寿
光りとも影とも見ゆる朝の蜘蛛加藤水虹
光りと熱がまむこうてくる雀の巣のわらくずもない吉岡禅寺洞
光りゐる囀へ歩み入りにけり徳永山冬子
光りをおそれ口を真一文字にして坐つている吉岡禅寺洞
光り出づ深き露あり八重葎皆吉爽雨
光り合ふ二つの山の茂りかな去来
光り合ふ枯野と玻璃の美術館竹田登代子
光り合ふ雲の行方や西行忌鍵和田[ゆう]子
光り居る木賊の底の螢かな比叡野村泊月
光り来し冬のキャベツに煽らるる殿村莵絲子牡丹
光り満つ部屋こまやかに初髪とく花谷和子
光り澄む師走の星のみな低し新井石毛
光り過ぎるシヤツのボタン矢代もう夏だ北原白秋
光り降る一片の羽根城反る町楠本憲吉
光り降る泰山木は花か鳥か原裕『王城句帖』
光り靡く芒野原にただ対す小川濤美子
八ッ手の葉光りて梅雨の半ばかな今泉貞鳳
冬となる光りの中のきつね雨長谷川双魚風形
冬の浪牙の如くに光りたる海が見えゐつ吾の椅子より岡部文夫
冬の蝿いきなり飛びて光りけり深見けん二
冬の蠅いきなり飛びて光りけり深見けん二
冬帽の鍔の光りて谷越ゆる木村蕪城寒泉
冬桜波のひかりと光りあひ正円青灯
冬椿光り誠実に過剰ありや香西照雄対話
冬泉生きてゐて受く光りかな村越化石
冬空に触れし指より光りそむ仙田洋子橋のあなたに
冬虹の明日なき潟に光り合ふ佐川広治
冴返り燈光り出づるを見たり佐野良太樫
冷素麺きらら光りの切子鉢星川佐保子
凍港や楽器売場のごと光り櫂未知子貴族
凍蝶の金箔褪せし日の光り加藤三七子
凍解の径光りそむ行手かな野村泊月
凸凹の光りを見たり秋の暮加藤郁乎
出初式放水同士光り合ふ工藤千代治
出迎への吾子光り風光りけり小川竜雄
初めに言ありと雪嶺光りだす田川飛旅子『植樹祭』
初めに言葉ありと雪嶺光りだす田川飛旅子
初凪の光りまとひぬ石叩増田燕城
初凪の沖の深さの光りけり安立恭彦
初日出て海面百里の光り道竹本仁王山
初景色野川一本光り出す中村明子
初月に蒟蒻玉を掘る光り萩原麦草麦嵐
初秋の月大川に光りけり阿部みどり女笹鳴
初蝶の触れしものから光り出す鴫原さき子
初雁や沖より光り来る怒濤小松崎爽青
初鴨の光りを曳きて着水す横山美代子
勿忘草光りて呼ぶはちさき水面(みお) 香西照雄
十三夜乏しき星の光り出づ澤木欣一
十六夜の石おのづから光り出す望月たかし
半島が黒光りして十三夜坪内稔典
去年の星今年の星と光り合ふ高橋悦男
又昃る地上光りなし囀れる楠目橙黄子橙圃
及ばざる天の光りに蟻地獄飯田蛇笏椿花集
受難節卓に鶏卵光りをり上田操
古き家具みな光り合ふ雪の晴鷲谷七菜子黄炎
句に疲る秋のまくらべ旭の光り飯田蛇笏雪峡
吾と枯木うつし鏡の光りをり成瀬正とし星月夜
吾の眼も光りてをるか霧の中海津篤子
啓蟄や光り流るる厨水内藤吐天鳴海抄
啓蟄や命あるもの光り合ふ星野椿
喪の簾からひそと朝の光りが来てゐる人間を彫る大橋裸木
喪章はづす雪嶺ちかき野の光り鷲谷七菜子黄炎
噴水光り月の水の面の鳥眠れる原田種茅径
嚏して恋猫と同じ眼の光り河野多希女納め髪
囮鮎もろとも宙に光り跳ね香山豊宏
土用波ことば光りて父の遺言北光星
坂なして橋光りたり降り出す雪石田波郷
城下町瓦光りて夏めきぬ宮口征子
塗りこめし蝌蚪光りをる畦夕久米正雄返り花
塗畦の光りて蜑が通るなり木村蕪城寒泉
墓場ぽつんと白く光りて青葉なし飛鳥田[れい]無公湖におどろく
壇の浦枯れゆくものの光り合ふ石川文子
夏の星きよらに光り寝そろひぬ片桐苣女
夏は来ぬ焼津の海の魚(とと)光り高澤良一　燕音四月
夏光り午乳壜にある棲家対馬康子愛国
夏川の流材溜りし光りかな楠目橙黄子橙圃
夏帽子林に入りて光りけり大串章百鳥以後
夏潮に渦の一眼光りけり上村占魚『萩山』
夏燕光り逆ふ瀬風かな長谷川かな女雨月
夏祭まへや大工ののみ光り百合山羽公故園
夏蝶のやさしからざる眸の光り飯田蛇笏椿花集
夏雲やいるか光りて宙に飛ぶ池田順子
夕づつの光りぬ呆きぬ虎落笛阿波野青畝(1899-1992)
夕刈田水のかけらの光りけり高井北杜
夕星の光りそめたる秋刀魚買ふ和田祥子
夕立に鎌の光りや草の上寺田寅彦
夕立や死は底光りして来たる仙田洋子雲は王冠以後
夕闇に馬光り居る野分哉内田百間百鬼園俳句
多摩の瀬の見ゆれば光り李咲く山口青邨
夜の卓や光りあつめて林檎あり阿部みどり女笹鳴
夜の雪晴れて薮木の光りかな浪化 (1671-1703)
夜の雷雨砲車に光りては消ゆる長谷川素逝砲車
夜の霧に羅卒の兜光りけり(ロンドン) 石原八束『高野谿』
夜を経たる光りの中の苗木市長谷川双魚風形
夜半月の光りさしこむ炭俵市堀玉宗
大き木の光りいさまし夏の空安藤甦浪
大寒の底光りせる樫青葉高澤良一　宿好一月-三月
大寒の星に雪吊り光りけり久保田万太郎
大寒の星雪吊に光りけり久保田万太郎草の丈
大寒の河みなぎりて光りけり桂信子黄瀬
大空に飛び据る虻の光りかな楠目橙黄子橙圃
天地の光り巣藁にありぬべし村越化石
天心に光りいきづくおぼろかな川端茅舎
天暗きまで海光り鰰来関根黄鶴亭
天暗し炭塊寒く地に光り三谷昭獣身
天狼の光りて豆腐凍りけり野木与情
天蚕虫瑠璃光りしてあるきけり飯田蛇笏霊芝
夫婦鴨さみしくなれば光り合ふ松本旭
女星とて男星にまさる光りかな籾山梓月
妬み星有明けてさへ光りけり菅原師竹句集
子を抱けば解氷期の湖光り出す有馬朗人母国
孑孑のすでに目玉の光りゐし日夏緑影
孤の我は光りぬ蛍かな一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
実梅落ち光りしは風真昼時金子麒麟草
宵冷えに烏賊の身切れば光りけり中川宋淵
富士はだけて雪解光りや天の原渡邊水巴富士
寒すすき濤より星の光り出す高木杜詩子
寒の星うすき光りの娘星柴田白葉女花寂び以後
寒凪の海へ寒河の光りゆく百合山羽公寒雁
寒明けし船渠の光り眼を囚ふ飯田蛇笏霊芝
寒海苔の漆光りをたたみけり新村喜和子
寒蜆鼈甲くろき光りかな松瀬青々
寒行の眼鏡妖しく光り来る竹下しづの女句文集昭和十四年
寒鯉の黒光りして斬られけり飯田蛇笏(1885-1962)
小夜食やパン焼けつ皿光りをり『定本石橋秀野句文集』
小春日や眼底までも光りけり阿部みどり女月下美人
小田原城刃もの光りに著莪の崖長谷川松子
小鳥来て足柄山に光り棲む仙田洋子雲は王冠
少年の掌中の種子光りせよ大西泰世椿事
屋敷田に光りこぼして初雀影島智子
山の秋雨古陶の光り深沈と加藤知世子花寂び
山の雨さくらに触れて光りけり関森勝夫
山は光りて生徒らに写されてゐるシヤツと雑草栗林一石路
山中一湖の光り山中漆掻く一人の男安斎櫻[カイ]子
山水のここにも光り山毛欅黄葉内藤吐天鳴海抄
山脈に何か光りし稲を刈る百合山羽公寒雁
岩山に裸の櫟光りあふ佐藤鬼房
巌灼けて真鐵の光り濤摶てり内藤吐天
川底を太刀光りして紅葉鮒藤間蘭汀
川浪の霰光りに川千鳥飯田蛇笏椿花集
川涸れて小石みるみる光りけり仙田洋子雲は王冠
川魚の木の芽と光り交しけり寒烟(かんえん)喜谷六花、内田易川編
已に出でゝ光り洩れけり杉の月尾崎迷堂孤輪
巻舌よりパン光りおつ医大の傍(そば) 赤尾兜子
帆柱の日向光りて沖の小春内田百間
帰る鴨沼の光りの外に出し石井とし夫
干足袋のこはぜの光り草枯るゝ金尾梅の門古志の歌
引鴨の俯瞰の谷間光りをり坂本山秀朗
弧をたもつ原爆ドームに光りつつ日照雨過ぐるなり虹などたつな岡田逸樹
彼の世より光りをひいて天の川石原八束
待合の木椅子涼しき黒光り仁平勝東京物語
後の月松風さそふ光りかな井月の句集井上井月
慈雨光りお蚕みな繭にこもりけり佐野青陽人天の川
戸の隙に青麦光り昼の箸桂信子黄瀬
手どりたる寒の大鯉光りさす飯田蛇笏霊芝
手に提て螢すいすい光りけり松瀬青々
手のとどく還暦柚子の光り行く近藤一鴻
手負鮭金輪際を光りけり北見さとる
手首なる汗の中より光りにじむ汗篠原梵
拓かれて麦の走り穂光り初む石塚友二
掘られ掘られてみみず渾身に光り合ふ長谷川秋子『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
提灯のうるし光りの水落とす中村若沙
散策圏出でず綿虫光り飛ぶ樋笠文
数珠玉を刺す針光り誕生日北見さとる
斧光り薪割けて飛ぶ鵙叫ぶ上野泰佐介
新月の光りから梅雨の蛙田にとどかない吉岡禅寺洞
新涼を告ぐ一片の光り雲相馬遷子雪嶺
日あるうち光り蓄めおけ冬苺(西東三鬼氏危篤の報に葉山を訪ぬ憔悴甚し) 角川源義『秋燕』
日に光りせゝらぐ水や草の花西山泊雲泊雲句集
日に光りて駒鳥わたる木の芽かな雑草長谷川零餘子
日の光り初夏傾けて照りわたる横光利一
日の光り雪とも見ゆる流れかな阿部みどり女月下美人
日の春のちまたは風の光り哉加藤暁台 (きょうたい)(1732-1792)
日本海さむざむ光り髪ひかる横山白虹
星のごと光り消えたる炭火中高浜虚子
星光り耶蘇降誕の夜なりけり小林康治『虚實』
星光り雪嶺になほ夕日の斑岡田日郎
星見えて星の光りの粉雪降る佐々木夕加子
春なれや古き簾越しを日の光り飛鳥田[れい]無公湖におどろく
春の地震白き少年光りあふ攝津幸彦
春の雲より囁きの光りかな尾崎三翠
春の霜過ぎし月日が光り出す井沢正江湖の伝説
春もやや光りのよどむ宙のさま飯田蛇笏椿花集
春暁の川まつさきに光り出す田川飛旅子花文字
春暁の我が吐くものゝ光り澄む石橋秀野
春殿の風の凶鴉に日の光り飯田蛇笏霊芝
春水にことば光りてゐたりけり仙田洋子雲は王冠
春泥に光り沈みし簪かな龍胆長谷川かな女
春泥や光りて売らる鑿鉋駒敏郎遠天
春燈の見上ぐるたびに光り増す大野林火
春草や光りふくるる鳩の胸松本たかし
昼寝覚針刺に針光りをり館岡沙緻
時雨空光りくる朝の松葉踏む金尾梅の門古志の歌
暁雲の光りしづまれる南瓜咲く金尾梅の門古志の歌
暮がての光りに増えし水馬阿部みどり女『陽炎』
月に掬へど砂光り無し秋の暮渡邊水巴
月一輪凍湖一輪光り合ふ橋本多佳子
月一輪湖一輪光りあふ橋本多佳子
月蝕終るや又光り見ゆる田の氷高濱年尾年尾句集
朝ぐもる新芽するどき光りかな『定本石橋秀野句文集』
朝の静かさ穂芒の光り充ち草山横山うさぎ
朝寒の光りつつ来る看護婦ら猿橋統流子
朝寒の子に縁側の光りをり星野立子
朝日かつと凍て土やがて光り出でぬ高濱年尾年尾句集
朝月の光り差したる落葉谷松村蒼石雁
朝粥のきらりと光り花曇赤尾恵以
朝雲ちり冬空とほく光りあり飯田蛇笏雪峡
朝餉すみし汗やお位牌光りをり渡邊水巴
木々の秀に消ぬべく光り別れ雪西村和子窓
木々の芽は天暗くして光りいづ加藤楸邨
木の芽晴レール光りてふくらむやう香西照雄素心
木の芽燃え土佐路も古りし光り渦河野南畦湖の森
木蓮に翔りし鳥の光り哉長谷川零余子
木蓮に雨一すぢの光りかな大橋櫻坡子雨月
末枯をきて寿司だねの光りもの波多野爽波『湯呑』
末黒野に昼光りなき瀬戸の海阿部みどり女
末黒野の昼光りなき瀬戸の海阿部みどり女
朱欒咲く五月となれば日の光り杉田久女(1890-1946)
朴の花越しに光りて最上川稲畑汀子汀子第三句集
杉の光り仏間に通し夏立てり大木あまり山の夢
杉の花光り降りつつ滝ほそし柴田白葉女花寂び以後
杉闇に瞳光りぬ春の鹿筒井盧仏
村中の鏡が光り春の泥黛執
松笠の青さよ蝶の光り去る北原白秋
松籟や寸鉄寒を光り出よ齋藤玄飛雪
枇杷熟れて脳裡光りの沼となる小檜山繁子
果物舗雨月の光りさしそひぬ飯田蛇笏霊芝
枯れゆけばおのれ光りぬ枯木みな加藤楸邨(1905-93)
枯園の一点光り独楽舞へり内藤吐天鳴海抄
枯尾花放せし絮も光りつゝ河野美奇
枯芝の少し光りて道があり高木晴子晴居
枯芝や服光りつつ学生ら波多野爽波鋪道の花
枯草の中に氷柱の光り見ゆ高濱年尾年尾句集
枯萩の光りに鹿狼颪かな阿部みどり女
染糸をさらすや花藻光りをり杉本寛
柚の花の風に光りて暮れやらず内田百間
柿熟るる真夜の硝子の光りけり仙田洋子橋のあなたに
栗鼠の春並木の果に塔光り有働亨汐路
桃の花牛の蹴る水光りけり沢木欣一雪白
桃の虻皆光り飛び茶褐色鈴木花蓑鈴木花蓑句集
梅一枝青光りして寒に入る山田みづえ手甲
梅林の光りて落つる雨雫山内年日子
梅桜炎天ひくく光りけり飛鳥田[れい]無公湖におどろく
梟や底光りせる皿秤中田剛珠樹以後
梧の葉に光り広げる螢かな土芳
梳初や油光りの手馴櫛高橋淡路女梶の葉
森出づる時のほうたるよく光り吉田せつ子
椎若葉かゝる光りを嘗つて見しや高橋馬相秋山越
榛の花雪嶺かすかに光り暮れ岡田日郎
横笛のごと波光り螢籠田川飛旅子
橋わたる電車光りて寒明けぬ梅田男
檀の実割れて山脈光り出す福田甲子雄
歩々に詩や*ひつじ田の光り移りつつ香西照雄対話
死はかろし玉虫のいま掌に光り西川織子
殪つさまに光りもぞする螢かな飯田蛇笏霊芝
母がふく天使のラツパの花光り和知喜八同齢
毛馬堤かげるや光り初つばめ加藤知世子
水中花たちまち雲の光りくる桜井博道海上
水仙の潮の光りを盃に平井久美子
水光りゐてワシントン黄落期仙田洋子雲は王冠
水張りし棚田の光り仏舞伊藤秀雄
水揚げの鮟鱇ビロード光りせり高澤良一　寒暑四月-六月
水晶の一面光り渡り鳥小川軽舟
水月の望の光りに嶽おろし飯田蛇笏雪峡
水桶につかる葡萄の光りけり今泉貞鳳
水蜜たべ月の光りをたべてゐる成田千空地霊
水鉄砲松に走りて光りけり龍胆長谷川かな女
汗光りおつ田水日輪ぎららシヤツと雑草栗林一石路
江東やブリキ光りに初景色舘岡沙緻
池の光りを松の葉の暮るるしづけさシヤツと雑草栗林一石路
池遠見萍の座の光り見ゆ高浜年尾
沫雪の水際ばかり光りけり佐藤鬼房
河光り末黒野の道うながしゆく成田千空地霊
沼光る中に光りて蜻蛉生る石井とし夫
沼波の光りを消さず時雨来し石井とし夫
洞窟の流人の星なり光り苔堺信子
流氷の光り三百六十五面体の我沼尻巳津子
浅瀬よりみちびく光り小鳥来る鷲谷七菜子花寂び
浪よけに藻を吹く風の光りかな乙字俳句集大須賀乙字
浮雲光り春徂く月の澄みまさる原田種茅径
海にふる光りの飛沫落葉にも石原八束
海峡の舟虫にして黒光り高澤良一　随笑七月-九月
海猫舞ふ沖吹雪来る間の光り満つ小林康治玄霜
涸池の光りてそこに水のこる辻田克巳
温石の抱き古びてぞ光りける飯田蛇笏霊芝
滝しづか岩苔萌ゆる光りあり河野南畦湖の森
滝の上に光りて小き雲の峰比叡野村泊月
潦椿にのりし水光り上野泰春潮
潮先の光りまぶしく昆布刈る津田芳人
潮光り鴎光り春日たしかなる柴田白葉女花寂び以後
澱む光りを一日まとひ深田打森澄雄
激つ瀬に巣を作る蜘蛛光りどほし加藤知世子
瀑に対す簀戸や初秋の日の光り久米正雄返り花
瀧桜天へゆかむと光り翔つ仙田洋子雲は王冠
火口鳴るや迅風の冴えは空に光り石原八束空の渚
炎天下剣のごとく城光り成瀬正とし星月夜
点滴の金剛の粒光り夏石塚友二
熊谷の涙光りぬ村芝居文挟夫佐恵
燕に海の光りの映りけり増田龍雨龍雨句集
燕来て長女きらりと光りけり野田誠
燦々と光りを抱き初雀長谷川秋子
父母老いぬ殻うす光りかたつむり鍵和田釉子
牛鳴いて光りをさはに雪解能登猿橋統流子
独楽まはり澄めば鉄輪の光り出づ篠原梵雨
独活の目が天主のごとく光りだす平井照敏
猫の目の如く光りて滴ゝるも上野泰佐介
猫柳光りて漁翁現れし高濱虚子
猫柳日の昃りても光りけり鈴木花蓑句集
猫柳風に光りて銀鼠鈴木花蓑鈴木花蓑句集
玉虫のむくろのとはに瑠璃光り浅井青陽子
甘茶仏甘茶光りの寧けしや大橋敦子勾玉以後
甘藍の剥がるゝいのち光りけり林原耒井蜩
生えそめて水光りけり荻の角高橋悦男
産卵のあぶら光りに蟇小島千架子
田の氷光りあやうく人ゆかしむ桑原月穂
田植人光りを曳きて田移りす松村蒼石雁
画展よりつゞく光りの銀杏の黄渡辺桂子
画鋲ひとつ枯木に光り学園祭桂信子黄瀬
畔切れて早苗の水は光り落つ高橋馬相秋山越
白ばらを貧しきわれの光りとす柴田白葉女牡丹
白刃みる雪解の光り感じつつ柴田白葉女花寂び以後
白制札呼ぶかに光り遠桜香西照雄素心
白桃を剥くや膜なす光りの蜜真鍋呉夫
白砂光り早箸さばき白子干す丹羽卓
白菊の光り放ちて空しき室阿部みどり女
白鍵の底光りして夕立来仙田洋子橋のあなたに
白髪に蜜光りけり夢の秋攝津幸彦
白魚の月の光りに契りけり鈴木真砂女
白鳥の朝日浴びては光り翔つ伊東宏晃
目に光りくる蝉声と父の斧原裕葦牙
直截な月の光りの病個々に成田千空地霊
看護婦らの声光りあう朝の廻診住宅顕信未完成
真晝野の光り琥珀に麦熟れぬ内藤吐天
眠られぬ夜は光りをり鉦叩大屋達治絢鸞
眼とひたいで出逢う雪野に光り合い岩間愛子
瞳にいたき光りを踏みて働ける篠原鳳作
短夜の浪光りつゝ流れ鳧内田百間
石を切る山の光りて麦を踏む安藤節
石切場四角に風の光りけり大串章百鳥以後
秋の月人の国まで光りけり上島鬼貫
秋冷や山河光りを失へり阿部みどり女
秋天を射たる砂丘の光り物百合山羽公寒雁
秋澄むに白杖を身の光りとも村越化石
秋燕にはるかなる海光りけり阿部みどり女笹鳴
秋立つや地を這ふ水に光りあり内田百間
秋航や光りをもらす艦の胴阿部みどり女笹鳴
秋茄子のいづこか光り夜の湖加藤知世子花寂び
秋蛇に暗く光りし眼を当てぬ山田みづえ手甲
秋蛍つちくれ抱いて光りけり山本村家
秋行くや花輪の露の光りつゝ佐野青陽人天の川
秋近し夕ベの汐に光りなく鈴木真砂女生簀籠
秋風やときに光りて夜の土矢島渚男天衣
秋鯖の光りて並ぶ海の色伍賀稚子
稔り田に二つの神輿光り合ふ冨田みのる
稲妻に穂高むら尾根光り合ふ河野南畦『黒い夏』
稲運ぶ山辺に光りくもの糸宇佐美魚目秋収冬蔵
稽古場の舞台冷たく光りをり大野彰子
稽古鉦黄金光りや祭来る後藤夜半底紅
積雪や埋葬をはる日の光り飯田蛇笏霊芝
空の光りの湯の面にありぬ二月風呂定本芝不器男句集
空の星聖樹の星と光り合ふ福川悠子
空の電線ぢりぢりと光り這ふ毛虫太田鴻村穂国
空澄みて光り増したる冬銀河中村仏船
立ち岩寝岩に光りとびつく冬の浪柴田白葉女花寂び以後
競はぬも競ふも光り牡丹かな伊藤京子
竹散つて光り走れる水の面石塚友二
笹鳴の鳴き翔つ光りいつまでも加藤知世子花寂び
筍の光り放つてむかれけり渡辺水巴
簾をもる星の光りや夜半の秋蘇山人俳句集羅蘇山人
籐椅子のどこか光りて部屋暗し森田峠避暑散歩
粥炊くや新月すでに光りそむ飯田蛇笏山廬集
粧ひし全山光りはじめたり仙田洋子雲は王冠
精養軒の玻璃窓光り花の中龍胆長谷川かな女
紅梅になほななめなる日の光り飯田蛇笏雪峡
紫陽花や一つ光りて赤き星岸本尚毅選集「氷」
綿虫や光りつづける死者の爪宇多喜代子
緑蔭や眼鏡光りてこちを見る高浜虚子
編みあがる麦藁籠の光り哉松浦為王
縄取瓶只光り見ゆ家の内松藤夏山夏山句集
縮緬織る雪解しづくの光りづめ大礼阿以子
置き水の光りが渡る梅の昼宇多喜代子
群衆が光り秋ばら奏でけり柴田白葉女『夕浪』
翡翠の光りとなりて川上へ坊城としあつ
翡翠は川の宝石光り飛ぶ竹葉英一
老幹を雨光り落つ夏隣岡本眸
老梅はいくさの光り空へ返す萩原麦草麦嵐
老画人光りて消えし荻の声平井さち子
耕の鍬の光りて横に置き上野泰佐介
肝臓は光り桜は散りにけり五島高資
舎利塔へ光りの絃となる秋日河野多希女こころの鷹
舷に礑と光りつ和布刈鎌橙黄子
船底の閼伽に三日月光りけり大須賀乙字
芒なほ午前の光り峠路は野澤節子黄炎
芭蕉糸しろがね光り糸車沢木欣一
花辛夷笊を漉す水光り混み伊藤京子
芹の水ときどき光り迅さ見ゆ柴田白葉女花寂び以後
芽柳は水の光りの上に垂れ成瀬正とし
苔に寝て墓標のかたちの光りかな水野真由美
苗植うと漆光りの田水張る有馬籌子
若芦に来て浦波の光りけり菅井たみよ
若芦や入江は雨の光り降る吉成公一
若鮎の釣らるる糸も光りつつ立石勢津子
茂吉忌や光りて遠き池と梅林翔和紙
茅花の穂光り忘れてゐる時も佐藤裸人
茅野川の光りゐる辺を跨ぎけり加倉井秋を午後の窓
茶箱つんで板間光りぬ花葵龍胆長谷川かな女
草の市あはれ蛍の光りけり奇淵
草の穂の光りたまれば茎はなれ長谷川双魚『ひとつとや』
草千里光りとどめて囀りぬ太田蘆青
草原に蜻蜒の羽の光りけり寺田寅彦
草摘に光り輝く運河かな川端茅舎
草深む光りを踏んで孕鹿鷲谷七菜子天鼓
荒れし谷底光りて寒の水流る西東三鬼
荒梅雨にけむれる花の光りかな石原八束空の渚
菜の花は光り灯台守眠る櫛原希伊子
菜殼火をふちどる雨の光りつつ内藤吐天鳴海抄
萍や光りて動くもの殖やし都筑智子
落つ角の光りて白しあはれとも原コウ子
落鮎の簀竹に光り身じろがず館岡沙緻
葉ざくらの光りを拒み人拒む柴田白葉女『冬泉』
葉桜を出でず光りて五日月宮津昭彦
葛餅やすずめいろどき水光り渡邊千枝子
蓬莱や障子明くれば日の光り竹冷句鈔角田竹冷
蕎麦を刈る光りの中に身を沈む萩原麦草麦嵐
蕣にしばしこてふの光り哉榎本其角
薔薇垣を飛び立つ虫に日の光り島村元句集
藁仕事うしろに昼の海光り依田由基人
藁塚崩しゐて早春の野の光り高濱年尾年尾句集
藁庇夕月光りそめしかな久米三汀
藪からし怪しき光り放ちけり高澤良一　素抱七月-九月
藺田の風備前瓦に光りけり大島民郎
蘆火中淀の一水光りけり井桁蒼水
虻のゐて狭庭のどこか光りをる内藤吐天鳴海抄
蛇をみて光りし眼もちあるく野沢節子未明音
蛇を見て光りし眼もちあるく野澤節子黄瀬
蛇苺世を拒まねば光りえぬか齋藤愼爾
蜉蝣へ太子の眸の光りけり和田悟朗法隆寺伝承
蜥蜴の尾鋼鉄(まがね)光りや誕生日中村草田男(1901-83)
蜥蜴光り縷の如き思念たどりゐる内藤吐天鳴海抄
蜻蛉の光り微塵にわがゆくて川本臥風
蜻蛉の影には翅の光りなし阿部みどり女月下美人
蝶光りて雨晴れんとす杜若島村元句集
蝶光りとべる簾の外面かな高濱年尾年尾句集
蝿光りからたちの雨あがりゆく梅の門
螢三夜息づき光りぬ吾子の部屋奈良文夫
螢籠螺鈿の卓の光りけり中戸川朝人
螺子ひとつ独活より光り棄てらるる田川飛旅子『邯鄲』
蠅光りからたちの雨あがりゆく金尾梅の門古志の歌
行く水のまがね光りや曼珠沙華沢木欣一往還
街の天光り鼻さきをこごえしむ三谷昭獣身
衣手は露の光りや紙雛蕪村遺稿春
裁判やかのオートバイ光り休む鈴木六林男
裏山へ鎌光りゆく盆支度神野久枝
西日の磔死いかに舟棹抜けば光り香西照雄対話
誰もゐず尊徳像暑に光り出す松山足羽
誰通りても猫柳光りけり佐々木有風
谷渡る雉子に太虚の光りかな西村公鳳
豊年や天守の床の黒光り片山由美子水精
貌が眼が光り荒天かぎりなし三谷昭獣身
貧乏の足袋のこはぜが光りけり長谷川双魚風形
轆轤まはり埴(はに)のつめたき光り消ゆ篠原梵雨
近江らしく水光りゐて明け易き犀星
道光りおり母の日のニューヨーク対馬康子吾亦紅
遠きほど海の光りて初つばめ茂里正治
遠つ田の藁塚のみ光り一ト時雨飛鳥田[れい]無公湖におどろく
遠光りする野の水や返り花亜浪
遠天の蒼光り凍河流るる音齋藤玄『玄』
遠目にも毛並光りて馬肥ゆる吉村ひさ志
還らざる光りあめつち秋ふかむ柴田白葉女花寂び以後
酢の物の残り酢に秋光りけり内田百間
野生馬の黒光りして夏岬寺田順子
野葡萄の実の光り沖荒れなか～やまぬ吉岡禅寺洞
金魚田の時々光り梅雨の闇川瀬孝子
針祭る光り初めたる樹々の芽よ加藤知世子
鉈の刃をむけて冬日の光りけり百合山羽公故園
銀芒丹波山系光りけり岩崎照子
鋤牛に水田光りて際しらず水原秋桜子
鍬始太初の光り身に降りて大月芳雨
防人に白く光りてカムチャッカ小田保
阿蘇の霜光りて遠見ケ鼻隠る石原八束空の渚
陶酔や白糖を蟻光り出づ内藤吐天鳴海抄
陸奥ふじの光りにあひて大冬木阿部みどり女
隠岐牛の黒光りして五月来ぬ山崎房子
雀らの来ては光りぬ楓の芽野原貞吾
雉鳴くや風ゆくところ山光り相馬遷子山国
雨だれのまた光りそむ雨月かな大橋櫻坡子雨月
雨の中に立春大吉の光りあり高浜虚子
雨の木暮れゆく光りに鶏舎の鶏が寝てゐる人間を彫る大橋裸木
雨の菊雫光りて晴れんとす鈴木花蓑鈴木花蓑句集
雨まへのくらきに光り蛙ゐる篠原梵雨
雨交り光り落ち来る木の実哉西山泊雲泊雲句集
雨脚の光りの中の法師蝉冨田みのる
雪の上光りの贅のたよりなし松澤昭神立
雪の嶺の霞に消えて光りけり鈴木花蓑句集
雪の鳩翔つや夕べの光り曳き石原八束空の渚
雪やんでおのが光りに梅一輪伊藤京子
雪女郎いま光りくる妻と識れり石川桂郎含羞
雪無尽人麻呂の山光りだす和田悟朗
雪礫光り掠めし恋の中成田千空地霊
雪稜線光りては生む銀河かな仙田洋子雲は王冠
雪肌の一つの雪の光りをり上野泰春潮
雪解風山々たゆく光りあふ相馬遷子山河
雪雫梅に光りを送りけり高澤良一　随笑一月-三月
雲の上を雲光りゆく牡蠣筏高樹旭子
雲灼けて鋼光りの沖とざす手塚美佐
雲雀翔つ荒野の光り尋めゆきぬ内藤吐天鳴海抄
電燈の光りの下の夜長かな成瀬正とし星月夜
電球も黄金光りに酉の市高澤良一　宿好十月-十二月
霜のくらさ水のたぎち光りシヤツと雑草栗林一石路
霜光りして翔び立ちぬ一番機西岡正保
霧に消え霧に光りて秋蛍山田流
霧ふ夜の光りて眠る秋螢石原八束空の渚
露一つ強く光り篠の風よ涼北原白秋
露眩し漆光りに馬も照り福田蓼汀山火
青あらし金のばれんの光りかな幸田露伴谷中集
青いちじくに光りが跳ねて乳母車柴田白葉女牡丹
青りんご薄光りせるおでこかな高澤良一　寒暑七月-九月
青光りつつ天駈け巡る燕のように西川徹郎
青嶺こす鉄塔墓の上に光り福田甲子雄
青芝に夜の雨光り誕生日佐藤脩一
青葉からちるものの花として光り荻原井泉水
韮芽ぶく茶碗のかけら光りゐて上村占魚
頭上渡る椋鳥の大群光りけり富田木歩
風ぐるま光りを紡ぎ廻る子よ成田千空地霊
風に雨光りじやらじやら棗の実和知喜八同齢
風光り雲また光り草千里門松阿里子
風邪に臥す一日梅の光りざま高澤良一　ねずみのこまくら昭和五十四年
飛魚の翼の光り波を切る高濱年尾
飛魚群海を離るる青光り加藤知世子花寂び
食へぬ茸光り獣の道せまし西東三鬼
飯櫃入渋光りとも煤光りとも高浜虚子
首にかけし十字光りぬたんぽゝに龍胆長谷川かな女
馬肥えてレール走らす日の光り秋元不死男
馬肥えぬ夜目にも漆光りして佐藤念腹
馬鈴薯の初夏や新婦の眼鏡光り下村槐太天涯
馬鈴薯ふとり光りつ土をまろび出し江良碧松
高西風に雲光りては溶くるのみ飯田蛇笏雪峡
魚はねて湖國に風の光りそむ田中英子
魚よりも光りて子等の泳ぎけり岩岡中正
鮎粥の鮎一片の光りかな山田みづえ草譜以後
鱚細く光りジェット機上昇す山本陽子
鱚舟に研ぎたての波光り寄す石塚友二光塵
鳥光り飛んで夏めく空の雲石塚友二
鳶の背を縁どる春の光りかな高橋馬相秋山越
鴉の嘴ときに光りし大枯木阿部みどり女
鴨帰る朝の工場の屋根光り米沢吾亦紅童顔
鵙の贄かくも光りて忘らるる熊谷静石
鶲飛ぶ黄繻子の光り枯桑に内藤吐天鳴海抄
鷺舞の老の白足袋光りけり上野さち子
鹿ずれの松の光りや夕月夜内藤丈草
麦星の豊の光りを覚ましけり楊水
麦烏賊や花崗岩の山光り居る田中冬二俳句拾遺
麦秋の光り水門の中までも内藤吐天鳴海抄
麦秋や鋪道は光りつつ遠く波多野爽波鋪道の花
黄金虫雲光りては暮れゆけり角川源義
黍の中に洗ひし馬の光りかな柑子句集籾山柑子
黒光りしたる御田の牛を引く亀井碧
●色艶
渋柿の色艶栄えてあはれなり日野草城
色艶のうごいて熟れし石榴かな鈴木花蓑鈴木花蓑句集
裸身の色艶もなし紅の花村上鬼城
●輝く
「撫牛」の鼻面の輝り雲の峯毛塚静枝
いくさ知らぬ裸が海を輝かす赤井淳子
かいば桶輝いてをり聖誕祭菊池アグネス
かんばせの輝き三社祭の日竹花小百合
きらきらと輝く種を蒔にけり立子
きら～と輝く種を蒔きにけり星野立子
たたかう今年へ蜜柑盛りあげられ輝く赤城さかえ句集
つんざきてわれらのからだ貫きし輝くリズム消ゆることなし松坂弘
どんぐりの拾へとばかり輝けり藤野智寿子
はまゆふの実を輝かせ漁家ならぶ森田峠避暑散歩
ゆつさりと廻かけて輝く向日葵北原白秋
よき日なり啓蟄の日は輝かし高木晴子花季
をり～に沼輝けば芒またたかし
カンナ燃え異人眺めし海輝やく清水基吉
ホルン吹く子の目輝く黄水仙池田ヨシ子
三方の玻璃輝きて春隣上野章子
五頭山の雪と輝き白鳥舞ふ加藤知世子花季
人を待つ冬日に頬を輝かし成瀬正とし星月夜
仏花たることに輝き金盞花文挾夫佐恵
入学の顔の輝き揃ひけり稲畑汀子
八月一日反戦デモに押しかける兄弟輝しい顔だ橋本夢道無禮なる妻抄
冬の月かこみ輝き星数多高木晴子晴居
冬の月中天にあり輝かず高木晴子花季
冬菜に塩ふつて輝く路地の日よ菖蒲あやあや
凍て華厳烏全身輝やき翔ぶ加藤知世子黄炎
出潮にのつて来る船の落日の輝きとなる人間を彫る大橋裸木
刃の如く輝き始む大山の襞に残れる雪の幾条川辺古市
初富士の輝やく窓にリス踊る碓井のぼる
初蝶の輝く翼受胎告ぐ有馬朗人母国
初雀掠め庭木も輝ける石塚友二
原子爐の白く輝く夏の濱保田白帆子
台風圏水は輝くこと忘れ中川いさを
名ある嶺秋嶺として輝ける竹腰八柏
吾に翅欲しつぶつぶと藤輝やけば(牛島の藤) 長谷川秋子『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
命得て輝く山河冬帽子金箱戈止夫
地にひびくばかり輝やき寒の星松村蒼石寒鶯抄
地に落ちて輝やく熟柿一瞥す松村蒼石
夏の夜街の輝きにまみれ旅人として買ふ物人間を彫る大橋裸木
夏服や沖は輝きもて応へほんだゆき
夏潮の輝くデツキゴルフかな京極杞陽くくたち上巻
夕星の輝きそめし外にたちて別れの言葉短くいひぬ吉本政枝
夕月に輝くごとき太芽かな高橋馬相秋山越
夜の公孫樹輝くばかり青くして一人となれるときを帰りぬ近藤芳美
夜をこめて保美のフレーム輝けり恩智景子
大文字消えて輝く比叡の灯橋本博
大沢崩天に輝く萱を刈る川村紫陽
大鵠輝かしさよ田に羽摶ち山谷春潮
夫婦滝つららとなりて輝けり高橋光江
実せんだん輝るに喪の家昏れやすく岡田海市
富士現れて万物露を輝かす佐土井智津子
寒空は輝く雲にありにけり滝青佳
対岸は輝きにけり鬼やんま沼尻巳津子
小春日の瀬の輝やきとなりにけり鶴田佳三
山吹に輝き去りし小魚かな雑草長谷川零餘子
崖つたふ磯の香に輝る青蜜柑河野南畦
巌に立つ雲丹突きの顔輝けり上村占魚球磨
庭石の輝る日もなくて風邪ごもり桂信子黄瀬
愛されてをり夜の氷柱輝けり松本淳子
教官を囲みて叉銃のみに輝やかな冬日シヤツと雑草栗林一石路
日あたれば馬も輝き花芒阿部慧月
日の射して地吹雪の奥輝けり柏原眠雨
日照雨して蝦蟇も輝く刻のあり冨田みのる
日輝きはっしとかかる鶇らし星野立子
日雇寡婦荷こぼれ鯵を得て輝く岩田昌寿地の塩
春水といふ輝きに不足なし高澤良一　寒暑一月-三月
暁の星の輝き寒に入る高木晴子花季
月が出て閃閃と輝る河床の鏡高柳重信
月や出ん雲の輝き水にあり西山泊雲泊雲句集
月出でて一枚の春田輝けり前田普羅
月出でゝ一枚の春田輝けり前田普羅新訂普羅句集
朽木に高く赤き菌の輝けり原子公平
杏おちる屋根板の干反り輝けり室生犀星犀星発句集
枯芒ただ輝きぬ風の中汀女
柘榴一個老人の巣に輝けり小泉八重子
柿の色日に日に湖の輝きに徳澤南風子
椎の咲く頃吾が四方の輝ける高木晴子花季
椿瀬になだれ咲きつゝ輝けり高浜年尾
楪の葉の輝きのおそろしき中条明
横向いて居るに夏の日輝けり三橋敏雄
橡の芽の水を吐きてぞ輝ける西山泊雲泊雲
此家に輝くや屠蘇の小盃露月句集石井露月
死者の書を閉じて輝く夏の街高澤晶子純愛
残雪や夜の湖底の輝き出す加藤知世子黄炎
母在りき冬至もつとも輝きて三橋鷹女
水あれば飛花の輝き弾みけり関森勝夫
氷湖日の出影も輝くわが分身川村紫陽
泉より石輝ける二月かな大岳水一路
海霧来去り碑が「しらじらと」輝くよ赤城さかえ
温顔の輝きおもふ春の宵相馬遷子雪嶺
漆黒の薬師輝く花会式平尾圭太
爆音去れ霧の向日葵輝くとき赤城さかえ句集
甘茶仏濡れててらてら輝やけり塩川雄三
白地着て星座輝きくるを待つ朝倉和江
白蓮と輝き合ひて白鷺舞ふ加藤知世子黄炎
真輝く氷河を前に道消ゆる高澤良一　ぱらりとせ雜
石蕗の黄をひた輝かす漁家ばかり佐野まもる海郷
破戒後の牡蠣をふくみて輝く目赤松[けい]子白毫
神鏡の今日の輝き女正月高木禮子
秋入日雲つゝまんと輝きて高木晴子花季
秋風や忠輝欷ける一節切小松崎爽青
稜線の輝きませる五月かな遠山翠
空港に初夏の自動車輝き来成瀬正とし星月夜
空港に朱欒輝き雨上る高橋悦男
窯出しの日は秋草も輝かむ鈴木真砂女夕螢
紫水晶輝りに春暁嶺の霧氷文挟夫佐恵雨月
緑蔭の洩れ日を蟻が輝き過ぐ内藤吐天鳴海抄
翳る白輝く白の辛夷見ゆ千原叡子
航空標識燈の梢(うれ)に中(あた)りて織女輝(て)る竹下しづの女句文集昭和二十五年
船の窓の星空の揺れそめし輝き人間を彫る大橋裸木
芦の花輝く頃の湖中句碑成瀬正とし星月夜
芽吹かんと大樹身を揺り輝くも内藤吐天鳴海抄
若餅に輝く松の旭かな尾崎紅葉
草刈つて岬の輝らひを鎮めけり大串章
草摘に光り輝く運河かな川端茅舎
菊の月夜々に輝きまさりけり西島麦南人音
菜園に清輝をあぶる冬至かな高田蝶衣
萎えしダリヤ油彩のダリヤ輝けども瀧春一菜園
葉櫻や人を拒まず輝かず和田悟朗
葱切つて輝きわたるステンレス中田美子
蒲団干すや旭今輝く城の鯱鈴木花蓑鈴木花蓑句集
藪の穂に北斗輝き井華水露月
蜻蛉の目玉ほど空輝くよ高澤良一　寒暑七月-九月
蟻散つて氷砂糖また輝き出す内藤吐天鳴海抄
誰も見よ虚子忌の雲の輝きを(高浜虚子先生一周忌) 上村占魚『一火』
輝いてゐる部分だけ春の雲千原叡子
輝いて煮ゆるひじきや冬すみれ山西雅子
輝きてすれ違ふ雲や月の面西山泊雲泊雲句集
輝きてそそぐ水あり晩夏の海安東次男裏山
輝きて翅*むしらるる虫螻よ和田悟朗法隆寺伝承
輝きて銀狐は銀狐雪は雪依田明倫
輝きは谿間の朴の花にあり高浜年尾
輝く日涼しき水に城映る高木晴子花季
輝く浪の大きな汽船ぢりぢり岸に寄る人間を彫る大橋裸木
輝けば消ゆる他なき野の霧氷加倉井秋を『真名井』
輝ける万朶の露は悉皆仏福田蓼汀山火
輝ける光の朧夜会服京極杞陽くくたち上巻
輝ける己おそれて蜥蜴かな中村汀女
輝ける眉毛へ年賀申しけり野村親二
輝ける露に射すくめられにけり福田蓼汀山火
輝る波の玻璃にひびける寒の午後桂信子花寂び以後
逃げ水の輝くさなか揺らぎつつこの世の夏をパレードが来る谷岡亜紀
逆光のすすき最も輝けり佐藤美恵子
通り雨すぎてなやめる皮のごと輝りてひそむる志度のわたつみ玉井清弘
遠くにて水の輝く晩夏かな高柳重信
都井岬の輝きの中馬交る戸川幸夫
野の星に朝の輝き霧氷散る中野東峰
野分あと街は輝く万華鏡高澤良一　寒暑七月-九月
除夜の星幾光年を輝りきそふ西島麦南人音
陽は輝き月は照るもの花蓮和田耕三郎
陽炎の輝眼にしみるばかりなり加舎白雄
雛祭無口の童女輝けり秋山好見
雨上りゆく輝きに青芒星野椿
雪の富士神の白さを輝かす林瑠美
雪山の今日の輝き明日ありや阿部みどり女
雪山の端が輝き奴凧阿部みどり女
雪嶺に輝きし日も昏れそめし上村占魚球磨
雪嶺輝り伊那の小梅も咲くべかり西本一都景色
雪輝りのみぎはに鵞毛吹かれゐる石原舟月山鵲
青空を輝きとべる柳絮かな比叡野村泊月
風凪ぎて富士の新雪輝かす村上辰良
飛魚の入りて輝く鮪網前田普羅能登蒼し
驟雨来白馬の美田輝かせ高澤良一　宿好七月-九月
鯉幟より輝きて城ひとつ成瀬正俊
鴛鴦の水鴛鴦をはなれて輝けり永作火童
鴨の池木の間をもつて輝やけり加倉井秋を午後の窓
黄葉一樹輝きたてり紅葉山西山泊雲泊雲句集
齢惜しむ残雪の嶺輝けば大野岳翠
●赫々
七輪の炭赫々と氷下魚小屋千原瀟湘
人がなす冬蚕に炭火赫々と栗生純夫科野路
仙蓼の実の赫々と忘れられ佐々木六戈百韻反故吾亦紅
初夢や赫々として馬の尻大木あまり火球
狛犬の金歯赫々木下闇河野静雲閻魔
赫々と炉火活きて炭いぶりやむ仙波花叟
赫々の九月惨暑とも云ふべき斎藤空華空華句集
●きらきら
きらきら姉の一行のごとし石川阿部完市春日朝歌
ほそめし眼きらきら*いもり死に真似す加藤知世子花寂び
よろこべば言葉きらきら秋晴るゝ大橋敦子匂玉
イヤリングきらきらスキー担ぎくる木島松穹
地蔵会の井水きらきら汲まれけり鈴木しげを
天界に散華きらきら蝉の昼誓子
星きらきら氷となれるみをつくし闌更
海上を驟雨きらきら玉椿岸本尚毅(1961-)
炭の塵きらきら上がる炭を挽く川崎展宏
炭団干す日和きらきら踏切まで大野林火
酒きらきら句ごころよしの厚着せる河野南畦『広場』
除夜の花舗きらきら考へ詩人の瞳加藤知世子花寂び
雨きらきら鬼灯市の夜空かな北澤瑞史
きら～とまだ見ゆ雁の別かな米澤吾亦紅
きら～と人日にあり露西亜菓子長谷川かな女雨月
きら～と天日に凧近づけり及川貞
きら～と松葉が落ちる松手入星野立子
きら～と浜昼顔が先んじぬ中村汀女
きら～と祭の街が露地の口たかし
きら～と若葉に光る午時の風子規句集虚子・碧梧桐選
きら～と輝く種を蒔きにけり星野立子
地獄灼け悪鬼の胸に汗きら～横山白虹
海きら～帆は紫に霞けり森鴎外
白山の雪きら～と暑かな一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
紫陽花に雨きら～と蠅とべり飯田蛇笏霊芝
金箔に風きら～と熊手店高橋淡路女梶の葉
●ぎらぎら
池ぎらぎら花をひらくに念なき朴飛鳥田[れい]無公湖におどろく
木がらしに恋の黒猫眼ぎら～松瀬青々
●きらり
きらり～時計玉振る黴の宿河野静雲
●金ぴか
花菜畠ゆくには金ぴか馬車でゆけ津沢マサ子華蝕の海
●黒光り
どぜう鍋老舗の床の黒光り村井信子
半島が黒光りして十三夜坪内稔典
夕立の来る板の間の黒光り小田正夫
子ら跳ねる生家爽か黒光り羽部洞然
寒鯉の黒光りして斬られけり飯田蛇笏
待合の木椅子涼しき黒光り仁平勝東京物語
海峡の舟虫にして黒光り高澤良一　随笑七月-九月
涼風を通す柱の黒光り桂信子
神送りお諏訪太鼓の黒光り野田豊子
豊年や天守の床の黒光り片山由美子
野生馬の黒光りして夏岬寺田順子
隠岐牛の黒光りして五月来ぬ山崎房子
黒光りしたる御田の牛を引く亀井碧
●炯々
青鷺の眼の炯々と瀬の早し玉木郁子
松飾る鶏炯々と風の中古舘曹人樹下石上
炯々とたんぽぽ黄なり万愚節百合山羽公寒雁
●煌々
さみだれの夜の母に針煌々と大井雅人龍岡村
アダムの太根煌々寒の雀ども角川源義『神々の宴』
ギリシヤ正教会煌々として雪の除夜阿部洋子
人の世の灯の煌々と十三夜青木重行
凍蝶によく似たものの煌々す佐藤成之
初荷船着きし港の煌々と伊藤一子
初電車灯の煌々と野路走る奥田敦子
南風の濤煌々と崖の風化はげし内藤吐天鳴海抄
受験子の煌々灯し眠りをり堀口星眠営巣期
吹雪く戸のくらくトンネル煌々たり石橋辰之助山暦
夜業燈煌々と海へ排水す右城暮石声と声
夜長の灯煌々として人在らず日野草城
夜鷹の目煌々と雛かばひをり内山亜川
家まづしおゝ煌々と夜の列車細谷源二砂金帯
拝殿の奥煌々と去年今年栗原澄子
救命棟煌々と灯り去年今年水原春郎
旅ここまで燭煌々と精神科齋藤愼爾
月下の穂麦煌々婚期定まらず宮慶一郎
月煌々とろり煮つまる芋煮鍋吉野義子
樟青実地べたに落ちて煌々と高澤良一　寒暑七月-九月
正月の夜を煌々と妻子遊ぶ辻田克巳
煌々とある灯に戻り螢狩久米正雄返り花
煌々とせり場を歩くかじけ猫古舘曹人樹下石上
煌々とねぶたや狂ひそめにけり岸田稚魚『雪涅槃』
煌々と三十路も末の文月照中村草田男
煌々と五月の林樹液充つ内藤吐天鳴海抄
煌々と人離れゆく雪催角川源義『秋燕』
煌々と冴えたる庭の月の石白石時子
煌々と厚物白菊スプーン弁高澤良一　燕音十一月
煌々と夏場所終り又老ゆる秋元不死男
煌々と夜汽車動かず雪崩来て岡本まち子
煌々と渇き渚・渚をずりゆく艾(もぐさ) 赤尾兜子
煌々と田植仕舞ひの燈なりけり成田千空地霊
燈管の船の浴槽のみ煌々横山白虹
窓明り皆煌々と熱帯夜関口美子
花の下黒煌々と牛闘ふ吉野義子
荒鋤きの田に煌々と波打てり松村蒼石春霰
虫時雨夜汽車煌々野をわたり堀口星眠営巣期
街娼に橋煌々と造られる金子兜太
路地の月煌々たるを見のがさず鈴木真砂女夕螢
遠蛙恋のシーンの煌々たり瀧春一菜園
都電一塊煌々たるは露けしや岡本眸
陰謀の場を煌々と菊人形鷹羽狩行(1930-)
雛の日の灯を煌々と雛の店相馬沙緻
電力地帯煌々の灯に銀河懸く林翔和紙
颱風あがりの白れむの月煌々たり臼田亜浪
颱風の灯が煌々と牛うまる福田甲子雄
魚市場灯を煌々と初荷待つ佐々木勇三郎
黄葉降り煌々と時過ぎゆけり橋本榮治麦生
●こんがり
宿の膳こんがり焼きの黒ハチメ高澤良一　寒暑四月-六月
●燦々
あかつきの山燦々とよもぎの香福田甲子雄
ずわい蟹いま燦々と切られをり飴山實
メーデーやあぐる拳に日燦々南光翠峰
冬日燦々さよならを終のー語とす赤城さかえ
初日燦々死に価して生きたかり磯貝碧蹄館握手
大胡桃垂れ太陽は燦々と小川背泳子
尿しぶく日の燦々と麦穂だつ西島麥南
影燦々べら釣りの気ままなる森田緑郎
心太燦々と灯を掬ひをり村上光子
桃吹くや燦々と貧しかりし日渋谷道
歌劇観て来て夜長星燦々上田日差子
池替の声燦々と嶺に流れ福田甲子雄
燦々とただしき繭をなしにけり平井照敏天上大風
燦々とステンドガラス彌撒始阿波野青畝
燦々と人も戦げり蘆の秋金箱戈止夫
燦々と光りを抱き初雀長谷川秋子
燦々と台風一過カレー煮よ松澤昭面白
燦々と愛してゐるかきんぽうげ平井照敏天上大風
燦々と日照雨は過ぐる種浸し斎藤夏風
燦々と日裏日表風若葉原コウ子
燦々と燃して寒土を明るくす細谷源二砂金帯
燦々と老皇后の米こぼすたむらちせい
燦々と菊泰衡の首一つ宮慶一郎
芋嵐子ら燦々と登校拒否栗林千津
逃げ水のごと燦々と胃が痛む佐藤鬼房
野良の鳶燦々と年送りをり百合山羽公寒雁
露燦々胸に手組めり祈るごと波郷
露燦々釈迦出山の道照りぬとよなが水木
●燦
*えり挿すと堅田はひかり燦めく地宮坂静生
あかつきの山燦々とよもぎの香福田甲子雄
ずわい蟹いま燦々と切られをり飴山實
ひじき置かれ燦たり寒九たり中北綾子
みちのくの星燦然とどんど焚く三谷いちろ
みの虫をついばむ鶏や燦として飯田蛇笏山廬集
チユーリップ園に燦爛師は古稀に木村蕪城寒泉
メーデーやあぐる拳に日燦々南光翠峰
ロビー冷房船よりの灯を燦めかす河野多希女
一樹なき萱山燦と二月果つ村上光子
一湾の燦爛として海豚狩和田祥子
乏しきに堪へて燦たる雛かな林原耒井蜩
休暇語る汗の生徒ら燦爛たり林翔和紙
停年や燦爛と日の犬ふぐり皆川白陀
冬日燦々さよならを終の一語とす赤城さかえ句集
冬星のひとつ燦く鴟尾の上狹川青史
初日燦々死に価して生きたかり磯貝碧蹄館握手
初日燦西の涯まで海祓ふ加田貞夫
初景色燦燦とはた茫茫と佐藤鬼房
合はす掌の揃へば冬日燦爛と下村ひろし西陲集
噴煙の燦たり樹々はいま黄ばむ石田波郷
壮丁の眉濃し夏日燦として椎橋清翠
夏料理燦たり昏れゆく河口背に楠本憲吉
大胡桃垂れ太陽は燦々と小川背泳子
天牛の燦爛としてみづうみよ山西雅子
尿しぶく日の燦々と麦穂だつ西島麦南人音
山裾の日に燦とあり仏の座工藤弘子
川上に一燦の過去竹煮草飯田龍太
帆船なればこそ燦然たる夕焼け佐川広治
弾とばぬ日は借金が燦とある片山桃史北方兵團
影燦々べら釣りの気ままなる森田緑郎
心太燦々と灯を掬ひをり村上光子
我熟す寂しさ熟す西日燦永田耕衣自人
掻傷の燦爛として會陽かな塚本邦雄甘露
日は燦と処暑の沖波昂ぶれる小野恵美子
日は燦と浮巣に卵水びかり大野林火
春日燦サンタモニカの波頭中村初枝
時雨れて燦と八百年の筆力加藤知世子花寂び
暮れぎはの水燦くはかいつぶり今井杏太郎
杉燦と鶫の群れも寺の空和知喜八同齢
松とるや燦と夕日の遠雨戸大峯あきら
枯木燦黒衣少女の顎とがる仙田洋子橋のあなたに
桃吹くや燦々と貧しかりし日渋谷道
梅干の種捨つエーゲ海の燦八木三日女石柱の賦
梅花燦たり歌會始の儀久保田万太郎流寓抄以後
棘の木は燦然と人ねむらしめ佃悦夫
歌劇観て来て夜長星燦々上田日差子
殉教図春日燦と射せば見えず山口青邨
池替の声燦々と嶺に流れ福田甲子雄
浪の背にのる舟冬陽燦として柴田白葉女
漬物甕整然と炉火燦然と加藤知世子花寂び
炎天を来て燦然と美人たり久米正雄(三汀)(1891-1952)
燦々とただしき繭をなしにけり平井照敏天上大風
燦々とステンドガラス彌撒始阿波野青畝
燦々と人も戦げり蘆の秋金箱戈止夫
燦々と光りを抱き初雀長谷川秋子
燦々と台風一過カレー煮よ松澤昭面白
燦々と愛してゐるかきんぽうげ平井照敏天上大風
燦々と日照雨は過ぐる種浸し斎藤夏風
燦々と日裏日表風若葉原コウ子
燦々と燃して寒土を明るくす細谷源二砂金帯
燦々と老皇后の米こぼすたむらちせい
燦々と菊泰衡の首一つ宮慶一郎
燦として春の花ありちらし鮓尾崎紅葉
燦として霜夜の星や江の五更古山鶴年
燦と日が連翹の黄はなんと派手池内友次郎結婚まで
燦然と大名竹に冬日かな松藤夏山夏山句集
燦然と日の闌けにけり牡丹園高橋淡路女梶の葉
燦然と金色堂や春の昼河野静雲
燦燦と交通巡査に雪降れり池内友次郎結婚まで
燦燦と浪と浪間の鳰中田剛珠樹
燦爛たる霧水の原に麺麭を食ふ山口誓子
燦爛としてなめくぢの跡交叉川崎展宏
燦爛としらぎくの霜こぼれけり飴山實
燦爛と壁の弾痕夏日浴ぶ加藤耕子
燦爛と松明おけり雪の径前田普羅飛騨紬
燦爛と波荒るゝなり浮寝鳥芝不器男
燦爛と胃の荒れゐたり朝桜小川軽舟
田の燦と雪解鴉の落ちつかぬ鷲谷七菜子花寂び
福寿草十花燦たる鉢一つ水原秋櫻子
秋日燦天国自由切符欲し沼尻巳津子
秋風一燦閑右衛門家のピエロたち石原八束操守
窓明けよ燦燦たるは春の鳥金箱戈止夫
終の石榴燦たりや笑う遺影寺井谷子
芋嵐子ら燦々と登校拒否栗林千津
花火燦すなはち別辞かはしけり石原八束雪稜線
苗床の障子燦たり桃の影小林広子
草の実の瑠璃色燦と枯れはじむ稲垣きくの牡丹
菊剪るや燭燦爛と人にあり石鼎
菜のみどり燦爛として冬を待つ有働亨汐路
見極むる母の屎(し)や吾が浴衣燦永田耕衣與奪鈔
軒氷柱燦としたたる日の山河山口草堂
退官や霙燦たる思ひにて有働亨汐路
逃げ水のごと燦々と胃が痛む佐藤鬼房
逃水のごと燦燦と胃が痛む佐藤鬼房地楡
酷暑燦然たれば死するも我が勝利斎藤空華空華句集
野良の鳶燦々と年送りをり百合山羽公寒雁
金星ロケットこの日燦燦とパンむしられ金子兜太
金魚玉に燦爛として酒宴の灯青峰集島田青峰
銃後に燦としておとづれる刃のひかり室生犀星犀星発句集
雪割の雪燦爛と町さびし岸田稚魚
雪払つて起つ篠の葉や日燦爛碧雲居句集大谷碧雲居
露の燦杉の燦ともいふべかり齋藤玄『雁道』
露一粒命ひとつの朝日燦河野南畦湖の森
露燦々胸に手組めり祈るごと石田波郷
露燦々釈迦出山の道照りぬとよなが水木
露燦と俳諧やくざ恥多し山口草堂
露燦と諸刃の剣の薬飲む相馬遷子山河
青葉燦狂気の王の城残り関森勝夫
風車燦と馳けゆき見失ふ小池文子巴里蕭条
飛雪中暁紅燦と八ケ岳伊東宏晃
餅花の燦爛として咳きにけり細川加賀生身魂
鯉のぼり野は燦めける水の上相馬遷子山河
●燦然
みちのくの星燦然とどんど焚く三谷いちろ
帆船なればこそ燦然たる夕焼け佐川広治
棘の木は燦然と人ねむらしめ佃悦夫
漬物甕整然と炉火燦然と加藤知世子花寂び
炎天を来て燦然と美人たり久米三汀返り花
燦然と大名竹に冬日かな松藤夏山夏山句集
燦然と日の闌けにけり牡丹園高橋淡路女梶の葉
燦然と金色堂や春の昼河野静雲
酷暑燦然たれば死するも我が勝利斎藤空華空華句集
●手沢
笹鳴や手沢出でたる桐火鉢日野草城
川原寺ほとり手沢の稲架木組む赤松[けい]子白毫
辞書黴びて手沢(しゅたく)のくもる夜の疲れ石原八束秋風琴
●白々
つと入や縁白々と足の跡喜谷六花
はてどなく白々春雪の少しづゝ西山泊雲泊雲句集
まなうらの瀧白々と風邪きざす馬場移公子
一人分の米白々と洗ひあげたる尾崎放哉
下り簗白々月の磧かな松根東洋城
冬隣る屑屋の籠の竹白々内田百間
初鶏や富士白々と明心友之
卓布白々と夜寒のカフェー静かかな青峰集島田青峰
堰落つる水白々と夕紅葉大橋櫻坡子雨月
夜食する箸白々と狎妓かな久米正雄返り花
宵闇の白々浮かむ棺ひとつ平松綾
寒芹の根の白々と父の古稀皆川白陀
帷子に白々とある滑走路糸大八
息白々昨日を痣のごとく負ふ加藤楸邨
新涼の雲まばらなり白々と飛鳥田[れい]無公湖におどろく
春雨や白々けぶる堰の水西山泊雲泊雲句集
月は寒く日は白々と低くなる斎藤空華空華句集
枇杷の芽立白々と春の夕なる碧雲居句集大谷碧雲居
椎若葉白々と墓地暮れにけり富田木歩
横ざまに雨白々と牡丹かな根根東洋城
樹にのぼる蛇白々と水展け松村蒼石雪
水冴えてカーヴす鯉の白々と渡邊水巴富士
水鳥や白々明けの尖り浪野村喜舟小石川
湛水の夜を白々と秋闌けし臼田亞浪定本亜浪句集
燕麦の白々熟るるこよひ泊つ山口青邨
狐雨白々と聳つ秋の槍ケ岳羽部洞然
獨り居や梅雨寒の窓白々と内田百間
病む人の足袋白々とはきにけり前田普羅新訂普羅句集
白々と何の新樹か吹かれ立つ高木晴子晴居
白々と余白めでたし年賀状七三郎
白々と女沈める柚子湯かな日野草城
白々と寝釈迦の顔の胡粉かな高浜虚子
白々と木の間の空や十夜寺柏木白雨
白々と梅あり粥のありにけり相生垣瓜人明治草抄
白々と浄土ケ浜の年明ける磯野充伯
白々と海女が潜れる秋の海前田普羅能登蒼し
白々と立夏の月の在りどころ高木晴子花季
白々と縁にさし来ぬ後の月前田普羅新訂普羅句集
白々と障子しめあり冬安居前沢落葉女
白々と雲湧き由布の月夜かな石橋梅園
白魚汲む湖の曙の白々と玉置仙蒋
石除るや十薬の根の白々と西山泊雲泊雲句集
秋風や蝶々さへも白々と野村喜舟小石川
花冷や白々と居る障子内池上浩山人
花禰宜の息白々と祓ひをり山田文子
苗代田に幣白々と夜明けたり青峰集島田青峰
苧の露白々と結びけり奥園操孔
萍に白々浮くは捨団扇鈴木花蓑鈴木花蓑句集
葉桜や逢うて手を挙げ白々と青邨
蔕のあと白々とある木の実かな西山泊雲泊雲句集
藪茗荷白々とはや実をかかげ山西雅子
虎河豚の白々として夜の生簀小林葭竹
身にしむやそよや銀河の白々と椎本才麿
雨あとの花白々と桜かな原石鼎花影以後
●ちかちか
砂ちかちかホテル楽呼ぶ仏桑華河野南畦湖の森
●ちらちら
ショウマ等ちらちら兎平かな高澤良一　宿好七月-九月
何の歓喜か病者らに雪ちらちら金田咲子全身
川床に居る舞妓ちらちら橋を見る成瀬正とし星月夜
死は何かどまん中なり雪ちらちら金田咲子
水草の針芽ちら～水を出づ松藤夏山夏山句集
玉暖簾ちらちら子ども覗きに来樋笠文
腸(はらわた)が古びん昼の雪ちらちら高澤良一　随笑一月-三月
話ちらちら東をどりにふれがちに成瀬正とし星月夜
雪ちらちら峠にかかる合羽かな夏目漱石明治三十二年
雪ちらちら時にさんらん松にふる佐野良太樫
雪ちらちら笹子ちらちら峠越大橋敦子
雪ちらちら鵯の遠音をなつかしむ臼田亞浪定本亜浪句集
うす月に火山灰ちら～す花大根高田蝶衣
ちら～としぶく水あり濃山吹比叡野村泊月
ちら～とちる花も見え花の雲鈴木花蓑鈴木花蓑句集
ちら～と凧見えそめぬ花の雲島村はじめ
ちら～と初雪ふりぬ波の上子規
ちら～と空を梅ちり二月尽原石鼎花影以後
ちら～と色鳥のくる伊豆の風呂飴山實辛酉小雪
ちら～と陽炎立ちぬ猫の塚夏目漱石
ちら～と風に花あり烏瓜井沢正江
住み老いて飲む茶碗のお湯焚火ちら～映り安斎櫻[カイ]子
大茶盛蝶ちら～の西大寺阿波野青畝
山の萩ちら～小さき花を持つ高木晴子花季
春めくや西日に小鳥ちら～す原石鼎花影以後
松葉牡丹ちら～白も咲きそへる鈴木花蓑鈴木花蓑句集
水草の針芽ちら～水を出づ松藤夏山夏山句集
消えがてに漁火ちら～と夕霞鈴木花蓑鈴木花蓑句集
潮先のちら～見ゆる初茜和田鳥峰
濃き日射ちら～こぼし葡萄狩山口七重
灯ちら～どの皃つきも夜寒哉一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
灯ちら～疱瘡小家の雪吹哉一茶 ■寛政六年甲寅(三十二歳)
耳を打つちら～雪や夜の橇楠目橙黄子橙圃
陋巷や雪ちら～と年歩む清原枴童
雪ちら～一天に雲なかりけり一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
●艶
きさらぎの火もて炙れば一枚の烏賊は艶書のごと燃ゆるなれ江畑実
くちなしを艶なりといふ肯はず高浜虚子
こんにやくの煮しめの艶や報恩講井上雪
さなぶりとなる磨りこ木の握り艶成田千空地霊
しぐるゝや番茶土瓶の肩の艶久保田万太郎流寓抄
しつけ糸ふくむ衰艶秋袷飯田蛇笏
すすりなく艶容足袋をしろうしぬ飯田蛇笏春蘭
たましひの艶はげて菊のさかり病む原コウ子
てのひらの艶をたのめる初湯かな能村登四郎(1911-2002)
ねぶた衣の艶に腰鈴袂鈴成田千空
のれん出て婦の艶たるは十二月飯田蛇笏雪峡
ひと霞叱る源氏か艶二郎加藤郁乎佳気颪
ぼうたんの艶をつくして我が前に阿部みどり女
みんみんやこんこん眠る艶ぼくろ大木あまり火球
むらさきは朱よりも艶にホクシヤ咲く岸風三樓
もろ袖にハンカチ探るとき艶めく山口誓子
ゆく年や蕎麦にかけたる海苔の艶久保田万太郎流寓抄
よべの雨ふふみたる艶寒牡丹田中英子
わが庭の一紅梅のつくる艶大橋敦子母子草
パン箱にパンの艶あり鑵焚火香西照雄対話
一日使ひし双の手の艶水温む野沢節子
一点に寒燈の艶お六櫛下田稔
三宝に載せて艶やか飾米鎌田政子
三月の梢艶噴く島の空飯田龍太
丹前もかけて艶めく布団哉小澤碧童碧童句集
人妻の風邪声艶に聞えけり高橋淡路女淡路女百句
今日ことに髪に艶あれ浴衣着る朝倉和江
仙顔や艶なる声の閨に呼ふ尾崎紅葉
伊賀人の土間艶やかや梅擬皆川盤水
傾いて地蔵艶なる冬日かな橋石和栲
冬ざるる階高きほど水の艶対馬康子純情
冬耕のあとさき艶歌こぼしゐて長谷川秋子『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
冬耕やくだきくだきし土の艶内藤吐天鳴海抄
切疵の指艶でに見し夜も桜河野南畦『焼灼後』
初旅にすぐ艶歌師の恋の唄殿村菟絲子
匂ひ艶よき柚子姫と混浴す能村登四郎(1911-2002)
古代埋蔵の村で艶もつ山珊瑚伊丹公子
吉野の蛇まこと長身肌艶佳し北野民夫
味噌漬の艶追分の宿秋涼長谷川かな女花寂び
啓蟄の艶浚渫の泥もまた加藤耕子
塗膳の艶の出て来し寺の秋長谷川かな女花寂び
墳山の樒艶ます西行忌佐川広治
夕づつやわけても艶に菊畑手塚美佐昔の香
大根の花咲く厩出す黒馬の艶安斎櫻[カイ]子
大空の清艶にして流れ星高浜虚子
大空の青艶にして流れ星高浜虚子
大蕪の首根ひつさげ艶ばなし熊谷愛子
太梁は夜に艶増す虎落笛能村研三騎士
女かと艶ン白き御衣や夏灯影松根東洋城
女の髪膚怖ろし滝に艶うせて原コウ子
女人過ぐ海苔簀の海苔の艶増して楠本憲吉
妻去るに白玉艶を消しにけり萩原麦草麦嵐
妻戸閉せば畳艶めき春燈下香西照雄対話
宇陀の紙女人の艶にさくらどき関森勝夫
寒の雨山中に艶もどりたる原田しずえ
寒椿畳の艶の深まりし山崎篤
寒波来目刺一連艶張り合ふ森井夕照子
寒燈といひたけれどもやゝ艶に久保田万太郎草の丈
寒肥やひと艶増せる土の色檜紀代
寒餅の紅切れば艶老妻に山口青邨
小暗きに一穂の艶水引草赤井淳子
山の膚艶ますばかり梅雨旱相馬遷子山国
山吹の葉茎の艶に日のあたる滝井孝作浮寝鳥
山茶花の艶極まりてしぐれけり長谷川双魚風形
山蟹の眼の艶もてる父の墓河野南畦湖の森
幟の座海棠ことし殊に艶林原耒井蜩
幸しかと林檎の艶肌窓映す中村明子
床板の拭き艶瓜の重み据ゑん成田千空地霊
庫燈といひたけれどもやゝ艶に久保田万太郎
弥生てふ艶めく暦めくりけり高木桂史
彩餅吊る藁しべの艶雪祭文挟夫佐恵雨月
御所沼に蓮の艶蕾秋暑し手塚美佐昔の香
恋猫のひそみて闇の艶あける能村登四郎
恋猫の足萎え猫の艶やかに三谷昭獣身
惜春や堆朱の香炉艶ふかむ伊藤敬子
愛は日常の埓の外なりつかのまを艶めきて消ゆ冬の青虹道浦母都子
慈姑掘るや鍬で切られし泥の艶西山泊雲泊雲句集
懐手むしろ艶なり女佇つ田村無径
扇面のをんな艶たる秋扇高澤良一　寒暑七月-九月
投げし団扇ひたと吸ふ縁や夜の艶高濱年尾年尾句集
拭きこみし柱の艶や年忘久保田万太郎草の丈
拾ひ上ぐ紅葉の中の艶(あで)紅葉高澤良一　燕音十二月
掌にのせて木の実の艶を思ふかな吉武月二郎句集
撃ちとつて艶なやましき雉子かな飯田蛇笏霊芝
斗枡の艶姑のものなり年の暮影島智子
新海苔としての艶とはあきらかに稲畑汀子
新海苔の艶はなやげる封を切る久保田万太郎草の丈
新米の艶盛りあがる京茶碗立花豊子
方丈の炭火艶めく近松忌藤村たけし
日傘さしてまねぶ嬌態艶姿かな岡本松浜
春光に艶惜しみなき牡牛の背柴田白葉女花寂び以後
春待や花もつ枝の艶ぶくれ室生犀星魚眠洞發句集
春風や酢売りありく声の艶井月の句集井上井月
晩秋や艶あるものは愛を得て原コウ子
木の実ひとつポケットより出づ艶増して宮津昭彦
木の芽出て手擦れの艶の男神森澄雄花眼
木槿垣島原言葉艶あらぬ下村ひろし西陲集
朱の緒のなほ艶めくや別れ蚊帳前田普羅
板の間に柚子の艶おく留守の家桂信子遠い橋
枯れきつて艶を深めし近江芦近藤一鴻
枯色とせぬを艶とや柿落葉稲畑汀子
枯草にかりそめの艶おける雨木暮つとむ
枯草のなほ艶なるに火を放つ百合山羽公寒雁
枯葦の茫々と艶雪解川澤木欣一
柊の艶を見てをり春神楽神尾久美子桐の木以後
柚子一顆父に艶夢を贈りたし中西夕紀
柿の艶蜜柑の艶や家籠澄雄 (退院自宅療養をつづく)
柿干され藤村の世の艶となる林翔
栗よりもすでに茸の艶まさる百合山羽公故園
桜桃の艶におどろく夜学生沢木欣一地聲
梅幸の羽子板艶を失はず相島虚吼
梅雨寒しわざと消したる声の艶久保田万太郎流寓抄
椿艶老師の昼をさまたげす長谷川かな女花季
楓の芽艶なきはわが疲れかも新井英子
楪の艶を飾りて子を持たず穂坂日出子
極月の白昼艶たるは海の藍飯田蛇笏雪峡
極月の白晝艶たるは海の藍飯田蛇笏
横杵竪杵にぎり艶より冬に入る吉田紫乃
檄文も艶文もあり落し文島村正
残り火の艶まだありし牡丹焚大森三保子
母の手に穫られて茄子艶やかに椎橋清翠
水を濾す鱒の艶肌冬山中原裕青垣
水狂言役者の髪の艶めいて斎藤由美
池隈の鴛鴦の彩艶に時雨かな東洋城千句
洞然と覚めつ朝顔の艶に過ぐ林原耒井蜩
海幸の羽子板艶を失はず虚吼
海苔の艶玉子の照リや年の暮久保田万太郎流寓抄
涼しき雨老境の艶ほくろにも村越化石山國抄
清艶と観るに牡丹の腥き千代田葛彦
渋柿の色艶栄えてあはれなり日野草城
湯女どちの肌の湯艶よ深雪宿たかし
火夫あわれ火に呆ければ艶が出る細谷源二
火山灰の畑いちごは冬を艶もみぢ及川貞榧の實
灯の増えて羽子板市の艶めけり阿部美恵子
灯りぬ花より艶に花の影竹下しづの女 [はやて]
炬燵して老艶の書に深入りす能村登四郎天上華
点字本なる喜寿艶やお風入れ波出石品女
熊笹に春めく艶のありにけり今泉貞鳳
燈(ひとも)りぬ花より艶(あで)に花の影竹下しづの女句文集昭和十年
爽籟や艶にも馬の尻ならぶ篠田悌二郎風雪前
牡丹の艶にすぎたる雨もよく河野南畦『花と流氷』
牡蠣船に大阪一の艶話かな河東碧梧桐
猫よりも艶なり雀交りけり石塚友二光塵
田地塞(せ)まき吾妻も艶(なまめか)し花続調管子選集「板東太郎」
男の根石霜にもめげず艶艶と上村占魚『方眼』
畦塗つて雨に艶張る離宮の田町田しげき
瘤に艶ためて街樹が招く夏佐野まもる
白き月艶めきそめし枯野かな相馬遷子山河
白と云ふ艶なる色や寒椿浩山人
盛ともなれば艶めき韮の花倉田紘文
盛りともなれば艶めき韮の花倉田紘文
真暗な土蔵の艶ぶき魂迎ふ加藤知世子花寂び
短夜の空の艶ンなるうすぐもり滝井孝作浮寝鳥
石垣島万花艶(にほ)ひて内くらきやまとごころはかすかに狂ふ馬場あき子
石楠花の優艶つくす晩鐘後水谷晴光
禅苑の日に艶やかな冬芭蕉下村ひろし西陲集
秋薔薇や彩を尽して艶ならず松根東洋城
秋近き灯の艶蕎麦の実かりんとう高澤良一　素抱七月-九月
秋風や艶劣りせる籠の鶏鈴木花蓑鈴木花蓑句集
穴に入る蛇とも見えず艶やかに大場白水郎
空蝉に艶といふものありにけり鈴木貞雄
立てばあはあは屈めば艶にげんげん田吉野義子
竜髯に雪解雫の艶やかさ西山泊雲泊雲句集
竹杖にあめいろの艶花に佇ち加藤耕子
筆文字の艶に色増す花蘇芳河野多希女
箱段に累代の艶菜種梅雨藤岡筑邨
紅梅に艶なる女主人かな夏目漱石明治三十二年
紅梅の艶めく小諸絵巻かな滝川賜
紅梅は固し艶さへ凛とあり及川貞榧の實
紅梅や雨も艶なる殿つくり尾崎紅葉
紅茶あまし蔦の若葉の朝の艶碧雲居句集大谷碧雲居
結納や大蛤の艶やかに池田博子
緬羊の後肢艶めく秋の風杉山岳陽晩婚
繊月の艶の冴えゆく冬隣小池文子
羽子板の眼の艶なるや険なるや京極昭子
老の手に握られ胡桃艶を増す清田阿賀人
老鶯として声の艶声の張後藤比奈夫
耕すやむかし右京の土の艶炭太 (たんたいぎ)(1709-1771)
肉桂の葉がもつ艶や寒の内裸馬
肥桶洗ふや冬田の艶に負けられず原田喬
胴熊(ほらぐま)の先づ覗くらん春の艶(いろ) 内藤丈草
胸もとの艶なる女礼者かな堤俳一佳
臘八の警策艶をふかめけり伊与幽峰
色艶のうごいて熟れし石榴かな鈴木花蓑鈴木花蓑句集
艶ありて甕の薄も念仏も高澤良一　燕音九月
艶すこしありて冬木の桜かな青柳志解樹
艶といふつめたきひかり針供養長谷川双魚『ひとつとや』
艶なるやつゝじの炭に火がうつる松瀬青々
艶に無色や田打ちつづけて解くる帯草田男
艶ばなしさらりとありし地蔵盆波多野爽波『骰子』
艶ふかき漆の花台寒の入玉川悠
艶ふかき蜜柑を剥きて静かなるわがめぐりいま世紀が変わる窪田司郎
艶ぶりの女将のこゑや寒諸子石嶌岳
艶やかに仔犬乳を吸ふ雷のあと河野多希女琴恋
艶やかに雪嶺まだ出ぬ蕗の薹相馬遷子雪嶺
艶やかに鴉たたかふ岳雲解千代田葛彦旅人木
艶ナル奴今様花に弄斎ス芭蕉
艶歌師の雨着真青く梅雨の月林翔和紙
艶生きて鳴り出すセロも夜寒のもの宮津昭彦
艶隠の寺縁にかけて初扇長谷川かな女花寂び
花ふくべ今日の尼様艶なこと宮野寸青
花冷や露地ものならぬ茄子の艶鈴木真砂女夕螢
花宰相艶寿の二語を諾えば楠本憲吉
花舗の灯果舗の灯殊にレモンの艶めく灯楠本憲吉
若き日の羽子板絹の艶失せず麓美奈
若竹の艶見す親竹並みてみせ香西照雄素心
茄子の艶畝の湿りにくもりけり宮津昭彦
草の実の艶なきものも秋のもの佐々木六戈
荒梅雨をしとどに艶に地唄舞中山純子沙羅以後
菊日和働きて杼に艶加ふ加倉井秋を
薫風や艶戻りたる花鋏朝倉和江
虎落笛わが詩に欲しき塩の艶磯貝碧蹄館握手
蛇の艶見てより堅き乳房もつ河野多希女琴恋
蝉の殻ちひさきものは艶なりし中田剛珠樹以後
蝦夷青嶺肩寄せて守る湖の艶高澤良一　ねずみのこまくら昭和五十二年
蝶の昼艶深くなる砧盤原裕青垣
蟻出でてたちまち石も艶ふくむ篠田悌二郎風雪前
行きずりの銃身の艶猟夫の眼鷲谷七菜子雨月
行く春や娘首(がしら)の髪の艶水原秋桜子(1892-1981)
行ずりの銃身の艶猟夫の眼鷲谷七菜子
街道に孤松艶立つ冬雲雀桂樟蹊子
裸木のこよなき艶がすべてなり高澤良一　素抱一月-三月
裸身の色艶もなし紅の花村上鬼城
観世音跣足艶冶に踏み出され渡辺恭子
貌鳥や艶の出て来し黄楊の櫛豊田八重子
負真綿艶を失ないゆくばかり岩田朝子
贋作に歳月の艶枇杷の花中戸川朝人
赤蕪の百貫の艶近江より大石悦子
走り根も艶なす桜水温む大岳水一路
近づけば紅葉の艶の身に移る沢木欣一遍歴
遺書にして艶文、王位継承その他無し加藤郁乎
野分吹く女名刺の角艶に神尾久美子掌
野生馬の馬身艶なく冬ざるゝ大橋敦子
金柑の甘煮の艶や九月果つ藤井三郎
針山の年経し艶や針供養有働木母寺
銀行街しぐれて艶歌通りけり長谷川双魚風形
門松や板戸艶もつ武家屋敷上部晴子
開けはなつ閾の艶の夏祭鷲谷七菜子天鼓
障子張るや艶吹き出でし梅の枝室生犀星魚眠洞發句集
雌雄の雉子が艶をつくしあふ栗生純夫科野路
雪肌の艶に膨み焼くる餅上村占魚『自門』
霞む中馬を磨いて艶を出す加倉井秋を
青き踏むより踏みたきは川の艶齋藤玄『雁道』
青北風が吹いて艶増す五島牛下村ひろし西陲集
額艶やかに蟷螂の妙好人高澤良一　素抱七月-九月
顔見世ときくだに艶に雪来る松瀬青々
風の蓮餘命の母の胸の艶ン小林康治玄霜
風まとふ樹肌の艶も雛のころ加藤耕子
風光るけふ命日の句碑の艶下村ひろし西陲集
風邪薬くらしの艶の匣階文挟夫佐恵雨月
飛行機雲艶なる日かな蓬伸び百合山羽公寒雁
香掛けて艶文めきしものを書く大橋敦子匂玉
馬の艶見とれて居れば夏はじまる細谷源二砂金帯
鳥追の艶冶こぼるる笠のうち石原舟月
鴛鴦の思ひ羽映す水の艶能村研三鷹の木以後
鶯の老いの艶音を如何に聴く中村苑子
黄は艶なり長けては灼くる女郎花高澤良一　素抱七月-九月
黒艶の民具生きゐて飛騨の秋河野南畦湖の森
齢にも艶といふもの寒椿比奈夫
●艶消し
●艶やか
三宝に載せて艶やか飾米鎌田政子
●てかてか
べったら市麹てかてか粒立てり高澤良一　燕音十月
●てらてら
てら～と飽食の顔薬喰向野楠葉
てら～と賓頭盧赤し十夜の灯大谷句佛
木の葉しぐれか明り障子に日てら～乙字俳句集大須賀乙字
掛け水に白魚てら～ほそりけり渡邊水巴富士
●ぴかぴか
けものの眼ぴかぴかと夜も笑ふ山藤本草四郎
大寒の鍋ぴかぴかと磨きあげ鈴木真砂女
旧紀元節ぴかぴかと鍋光る辻田克巳
色鳥やラッパぴかぴか行進す吉原文音
●ぴかり
木斛の葉っぱぴかりと秋がくる高澤良一　さざなみやっこ秋
北丹後ぴかりぴかりと氷柱に日宇多喜代子象
●爛々
ガラス窓に蛾の眼爛々と夜の秋佐野良太樫
サボテンの花爛々と古港柴田白葉女
傾ける日は爛々と飾り舟石田波郷
凍星の爛々と咲き屍車いづる柴田白葉女遠い橋
向日葵の爛々と潮道に乗る西村公鳳
夏茱萸の爛々として墓の上津沢マサ子
寒の日の爛々とわれ老ゆるかな中川宋淵
寒鯛の瞳の爛々と気品満つ鈴木真砂女
打ち据ゑし火蛾の眼の爛々と五十嵐播水播水句集
書餓鬼の眼灯に爛々と秋夜かな西島麦南人音
木兎や眼を爛々と神代より野村喜舟小石川
松過ぎや宵より星の爛々と相馬遷子雪嶺
梅雨蝉の目の爛々と昼の燭殿村莵絲子花寂び以後
炭斗の炭の切口爛々と山口青邨
爛々とをとめ樹上に枇杷すゝる橋本多佳子
爛々と二月の夕陽ルオー死す文挟夫佐恵黄瀬
爛々と昼の星見え菌(きのこ)生え高浜虚子(1874-1959)
爛々と暁の明星浮寝鳥高浜虚子
爛々と虎の眼に降る落葉富沢赤黄男
荒梅雨を押しやり爛々たる入日佐野美智
虻の眼の爛々として宙にあり今井杏太郎
蛙狂ふや夜も爛々と石仏群河野南畦湖の森
●玲瓏
くわりん頭上尻に玲瓏雨雫山口青邨
わが眼射て玲瓏と浮く椿かな清原枴童枴童句集
わさび田に水玲瓏と鳴る信濃加藤耕子
初冨士の玲瓏巨き創あをし篠田悌二郎
古墳出て耕人耕馬玲瓏と野見山朱鳥
古渡りの切子玲瓏そのものに青木月斗
土縮むみみずの尾の玲瓏と古館曹人
山々の玲瓏として春の鷹大木あまり火球
括り桑玲瓏と子を泣かしめて細川加賀
月の戸に玲瓏とゐて老ゆ身かな村上鬼城
枯芦の玲瓏と空ばかりかな村上麓人
梅漬けて玲瓏たりしきのふけふ大石悦子
水眼鏡玲瓏として海松若布江剌秀穂
波郷忌や富士玲瓏の道行きて水原秋桜子
灯流してとみに玲瓏雨後の芝林原耒井蜩
玲瓏たる冬日秘仏に焦がれ逢ふ稲垣きくの黄瀬
玲瓏として早苗田の早苗穎(ヒイ)でけり日夏耿之介婆羅門俳諧
玲瓏として邯鄲のむくろかな富安風生
玲瓏とわが町わたる冬至の日深見けん二
玲瓏とチーズ工房白雨来る千田稲人
玲瓏と入江の鰈煮凝りぬ水原秋櫻子
玲瓏と富士痩せ冬に入りにけり西本一都
玲瓏と池にも天の鴟尾凍る狹川青史
玲瓏と烏賊火の風をふところに古舘曹人樹下石上
玲瓏と玉を噴き居る清水かな星野麦人
玲瓏と病む三日月を肴とし川崎真彌
玲瓏と花の天衆でありしかな平井照敏天上大風
玲瓏と雪頂いて暑寒別岳(しょかんべつ) 高澤良一　素抱四月-六月
玲瓏の飴玉舐る夜寒かな田中冬二麦ほこり
玲瓏や論理もみみずも雨垂れも小檜山繁子
白鳥の第一陣が玲瓏たり小暮洗葦
空ッ風にわかに玲瓏となるときも金子兜太
立春の海玲瓏と明けそめし道川虹洋
羽衣の松玲瓏と卯波立つ松野自得
舟を戴す水玲瓏や鱸釣る尾崎迷堂孤輪
螢火や玲瓏たる歩一人得し都筑智子
金柑百顆煮て玲瓏となりにけり川端茅舎
雨をふくむ菊玲瓏とすがれけり渡辺水巴白日
青葡萄玲瓏と昼過ぎにけり菅原鬨也
鷺草に露玲瓏と凝りにけり小路智壽子