010

●全世界
●世界中
世界中一本杉の中は夜三橋敏雄
校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け穂村弘
●世界
いざ夏の風にのらばやどの世界広瀬惟然
いつ仆れても満月の青世界間立素秋
おぼろ月月はおぼろにあらねどもわれも世界もおぼろなりけり前川博
かたつむり青き世界を伝ひゆく布川武男
くらやみは織部の世界鵜飼川加藤春鼎
くれなゐの雪は世界の屋根の峰阿波野青畝
げんげ田を出ずわが世界劃りたし津田清子
この夏は完膚なきまで蝉世界新谷ひろし
こゝに得し独りの世界日向ぼこ嶋田一歩
さくらしないで世界燃焼の種は来ませり加藤郁乎
そこに今音なき世界花吹雪稲畑汀子汀子句集
たんぽぽの絮の世界の残さるる依田明倫
とんぼうの世界に長居したりけり行方克己昆虫記
どの傘も一人の世界桃青忌山田一男
なめくぢの意の茫々と青世界奥坂まや
ねんねこの中の世界に入りたし井村順子
はてしなき世界の秋の行へ哉秋の行方正岡子規
ふぐ鍋や男の世界ちらと見し松尾静子
ふたりだけの月の世界とおもうとき荻原井泉水
ほつかりとかまくらの灯の世界かな鈴木貞雄
ほのと香の三千世界花柚かな飴山實『次の花』
ぼろぼろに世界なるまで涅槃像百合山羽公寒雁
まんさくの黄のもぢやもぢやの世界かな原田喬
まんじゆさげ大千世界足下にす高澤良一寒暑
わたくしと君の世界が混ざり合うサラダボウルのなかの家庭(ファミリー) 田中槐
ソ連なき世界はいよよ潭(ふか)くあれど金柑を置く餅のいただき大辻隆弘
ブラジルは世界の田舎むかご飯佐藤念腹
一つ一つが三千世界しゃぼん玉高澤良一素抱
三千世界いろはもみじのちりぬるを河合多美子
上海の青夜<大世界(ダスカ)>をさまよへるきみを思へり月より遠く日高堯子
世界おほふサタンやためしに子蜥蜴蹴る川口重美
世界てふ完全體を侵しゆく癌細胞のひとつぞわれも高橋睦郎飲食
世界に共通な正直といふ徳義漱石忌川崎展宏
世界の翳怖づ冬帽子眼深にし小松崎爽青
世界は二つであることか一つの月寒くなる荻原井泉水
世界よりマイナスされしアヌス哉武田肇
世界病むを語りつゝ林檎裸となる中村草田男
人ゆきしひとすぢのみち鳥世界高屋窓秋(1910-99)
人形の世界と別にゐて菊師山下美典
人穴に没す緑の世界より百合山羽公寒雁
余り苗育ち四万十川青世界伊藤いと子
光明遍照十方世界囀りぬ尾崎迷堂孤輪
公魚を白の世界に釣り上げる板谷クララ
冴えて書の天金浮けり病世界秩父
凍蝶の黄昏世界極まりぬ平井照敏
初音聞く世界遺産の原始林田中康委子
勅語捧答私語の世界を師は毆る筑紫磐井花鳥諷詠
南京錠こはれて世界寒くなる中烏健二
原爆忌ドームを世界遺産とす鈴木とし子
双六の上りは月の世界かな椎名みすず
古草と石人とある世界かな阿波野青畝
君を欠き世界が違う今朝の秋高澤晶子純愛
喜雨世界眠るも青きもの見ゆる大熊輝一土の香
団扇膝に立て世界は左右に分れけり上野泰春潮
地に届くまで汝が世界糸ざくら松本旭
地球儀の世界を覆ふ春の塵浅見まき子
坂登る黒き外套は吾が世界細見綾子
夕朝の露で持たる世界哉一茶
夜盗虫三千世界見て来たる梶川礼子
大雨警報世界ペン大会了る林原耒井蜩
天上も五月みどりの橡世界後藤比奈夫めんない千鳥
子が引きし傍線寒し「死後の世界」田川飛旅子
子の世界母を遠ざけ水遊び稲畑汀子
子地蔵の唇に紅さす枯世界岸田稚魚筍流し
孟蘭盆具売場一角青世界鈴木昭一
山下りていま日盛りの娑婆世界春樹
山葵田の彼方の水も青世界鈴木鷹夫渚通り
山葵田も彼方の水も青世界鈴木鷹夫
島霞み三千世界霞みけり平井伊都子
川蟹の渡る世界に我一人山内崇弘
布引の滝を要の緑世界小路智壽子
常夏の花もて飾る彌陀世界筑紫磐井婆伽梵
廻り灯籠めぐりのはての色世界小林康治『華髪』
御代の春世界之日本となりにけり泉鏡花
忙中閑星の世界に涼み台斎藤康人
恋猫や世界を敵にまはしても大木あまり火球
放たれて金魚の世界はじまりし阿部みどり女
数へ唄夕焼世界寒くなる堀井春一郎
映し出す三千世界しやぼん玉伊丹三樹彦
春浅き世界遺産のねむり猫角田よし子
昼顔や別の世界を子ら駆ける和田悟朗
朦朧たる月下の花や死後世界石塚友二
朧夜の鶏が夢見る白世界能村研三騎士
木の晩に揚羽の世界したたれり鈴木鷹夫渚通り
木も草も世界みな花月の花上島鬼貫
杉菜には杉菜の世界翳りあふ有働亨汐路
枯れ蓮の折れ下がる葉の世界かな永田耕衣吹毛集
森といふ日裏の世界蝸牛千村ちえ子
毛糸編む母子の世界病みて知る大野林火(1904-84)
沙熱し沈黙世界影あるき加藤楸邨
法然の聖青世界浸るべし大橋敦子
洪水の以前も以後も世界には末来がありぬいたしかたなく香川ヒサ
流氷や世界の終りはきっと青中田美子
漉き紙の仮の世界に雪降れり和田悟朗
濃紫なる春眠の世界かな成瀬正とし星月夜
瀧落ちて群青(ぐんじょう)世界とどろけり水原秋桜子(1892-1981)
灰色の世界を仄と虹照らし稲畑廣太郎
焚火しておれば世界が立ち上がる徳弘純麦のほとり以後
爪紅や童女の世界夕焼けつつ岡本まち子
父より小さき世界火鉢に足乗せて磯貝碧蹄館握手
牡丹双輪月世界は白日世界は紅福田蓼汀秋風挽歌
物堅き義理の世界や事始岡田抜山
物音のなき安らぎや梅雨世界古賀まり子緑の野
生きゐるかぎり豚は炎暑の鼻世界加藤楸邨
生まれたる蜻蛉に沼の世界あり稲畑汀子
生まれたる蝉にみどりの橡世界田畑美穂女「吉兆」
産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか阿木津英
畳みゆく双六世界虹と失せ上野泰春潮
白亜紀の世界へ続く蝉の穴加藤房子(秀)
白銀の世界留めて春立ちぬ稲畑廣太郎
眠りとはひとりの世界明易し広瀬美津穂
眼に映る世界ゆらゆら蜻蛉生る渡辺啓二郎(萬緑)
眼のなかに三千世界鬼やんま八矢北帰郎
着ぶくれて世界を敵に回しけり沼田美山
空間は世界をつつむ忘却か一本の樹の彼方なる青市原克敏
竹馬の高さとなりし子の世界宮地玲子
簟五尺四方の世界哉簟正岡子規
紅葉且つ世界遺産や高野山磯野充伯
網戸して五感の世界広がりぬ堀川福子
綿虫のまはりの酸素世界とは須藤徹
縮緬の座布団仕上ぐ枯世界殿村菟絲子『牡丹』
繃帯を巻く白樺の霧世界和知喜八同齢
繭玉の寡なからざる黄の世界後藤夜半底紅
美しき世界のはじめ卓の薔薇磯貝碧蹄館
美化したる死後の世界や夏芝居成瀬正とし星月夜
老いといふ未知の世界や茄子の花石田榮子(かびれ)
膝の上が女の世界毛糸編む伊丹三樹彦人中
花すみれ小虫の世界揺れにけり鍵和田[ゆう]子武蔵野
苗障子のぞけば苗の世界かな田中憲二郎
苗障子一枚づつの世界かな西本一都
草うらの影絵の世界匂ふべき夜叉のおごりもあさつきの色筑紫磐井未定稿Σ
草取りの黙の世界でありにけり小川笹舟
菜の花の中はお伽の世界とも高橋一平
落花なる音なき世界踏み入りぬ梅田実三郎
蓮世界翠の不二の沈むらく素堂「虚栗」
蓮世界翠の不二を沈むらむ山口素堂
蓮華田に立ちて泰治の世界かな石原喜代子
蕨狩はじまれば道無き世界八木澤高原
薔薇園に世界の薔薇の集結す塩川雄三
虚子祀る世界の果ての果てに来て佐藤一陽
蛇衣を脱ぐ別の世界が見えてきて黛執
蜻蛉と風の世界の乳母車斉藤夏風
蝉生れよ橡の世界のととのひし堀恭子
蝸牛子に偏差値の世界あり野上水穂
螢の世界をひたすらに行く大きな目今瀬剛一
蟲鳴けばしばらく蟲の世界かな石井露月
襤を檻で横切る世界紅葉して永田耕衣
見る我と別な世界を螢とぶ松瀬青々
詩歌とは真夏の鏡、火の額を押し当てて立つ暮るる世界に佐佐木幸綱
貝雛のくれなゐ世界閉ぢにけりほんだゆき
跼まればここ瑠璃世界いぬふぐり鈴木貞雄
踏青や世界遺産の平城趾磯野充伯
輪を描いて音なき世界水馬山田弘子こぶし坂
退院し花の世界に没入す下村非文
鉦叩き女は沈む世界もつ堀井春一郎
銀世界すんでそろそろ泥世界雪正岡子規
雪柳三千世界此処にあり高澤良一燕音
雲の上露の世界を忘るゝな露正岡子規
雷鳥や霧吹くのみの岩世界岡田貞峰
露世界つるみし犬に脱帽す川崎展宏
青梅雨の金色世界来て拝む水原秋櫻子「帰心」
青空より西瓜へ世界まつぷたつ鎌倉佐弓潤
音の無き世界の母に雛飾る小島左京
頽齢や蝉の世界の法師蝉石塚友二
顔見世は世界の図なり夜寝ぬ人西鶴
風花の音の世界に来て消ゆる伊藤凉志
風除を隔てて別の世界あり稲畑広太郎
飛雲菩薩舞ひ出づる日ぞ緑世界(平等院) 河野南畦『風の岬』
騨前の梅雨陋巷も聖世界下村ひろし西陲集
鮪糶る男の世界覗きけり鈴木真砂女
鰭酒や世界の事は遠く置き星野椿
鴫焼は夕べをしらぬ世界かな其角「五元集」
鵜飼舟過ぎたる後は風世界今瀬剛一
黒マント脱ぐや世界を脱ぐやうに櫂未知子蒙古斑以後
龍の玉塀の窓にも未知の世界香西照雄対話
●地球
あまぎらし地球とよめきぬるその風間日夏耿之介婆羅門誹諧
あらぬ方へ手毬のそれし地球かな川崎展宏冬
あをあをと地球も蝌蚪の紐の中波戸岡旭
かぶとむし地球を損なわず歩く宇多喜代子
きちきちと鳴いて地球を後にせり山田径子
げんげ田はまろし地球のまろければ三橋鷹女
この花野ゆゑに地球を信じたし諸田登美子
ころぶして地球の膚に触れたりき日野草城
さむき地球愛づるごと坐す少年ら山崎しんぺい
しやぼん玉瀕死の地球を包みをり山田一男
つなぎ凧どんどん地球が軽くなる宮川としを
てんと虫地球半分背負ひけり山城千恵子
でで虫に早鐘打つている地球伊吹和枝
ふらここや地球泡立ちゆく予感中野真智子
ふりむきて地球のうしろのぞくとき麒麟やさしも父の目をせり安森敏隆
ぽっかりと地球あるなれ蕗の花池田澄子
まくなぎよ地球は君をこぼさない池田澄子たましいの話
もう誰もいない地球に望の月山崎十死生
もう誰もゐない地球の秋の暮小川双々子
やどかりや地球だんだんあたたかく池田澄子たましいの話
ゆらゆらと地球へしだれ桜かな松尾隆信
よぼよぼの虻を看とらぬ地球哉永田耕衣殺佛
わが毛糸玉と地球の相似形後藤貴子
アマゾンを地球の裏に年の市和田悟朗
ガレに告ぐ一蚊溺るる水地球阿部鬼九男
クリスマスカード地球は狭くなり水原春郎
クリスマス地球にリボンかけるかな高田たづ子
ハッピーニューイヤーレタスのごとき地球浮き和田耕三郎
ハンモック刻々地球裏がへり竹下流彩
ピカソの絵皿が見ている地球の裏側青木比呂
マリが住む地球に原爆などあるな渡辺白泉
マリア月地球は一つなのに銃呉羽陽子「鴎座合同句集翔」
ミモザ咲き地球は青いとは言へず後藤立夫
レコード盤の端っこにいる扁平な地球いしだ実
ワインゼリー青い地球に乾杯す丸山嵐人
三日月や地球を吊つて西へ行く大嶋南涯子
下萌ゆる地球回転してゐたり塩川雄三
丸きもの地球がひとつ蚯蚓鳴く栗栖浩誉
九年母や地球ときどき暗くなり岩淵喜代子
今朝秋をわがねて丸き地球かな雑草長谷川零餘子
俺を振り落とさずに一年廻つた地球だ下山逸蒼
億年を燃ゆる地球に春炬燵和田耕三郎
元日を地球が廻る元日も安藤和風
元旦の地球啄む雀かな鈴木貴水
六月や地球は青き水の星三苫真澄
冬の海地球の裏より文届く御崎敏江
冴えかえり冴えかえりして地球病む穴井太原郷樹林
初日射この美しき地球に棲む桂信子
初暦めくれば地球うごいたような夜基津吐虫
十六夜や地球の上に我家あり星野立子
原油まみれの海鵜地球の墓標とも堀葦男
台風を生める地球と金魚玉高澤良一素抱
名づけえぬ闇にも荒るる緑濃く地球にかなし海のあふるる市原克敏
咳き込んで地球踏みつけ止まぬなり高澤良一燕音
啓蟄や地球が釦はづす音林友次郎
啓蟄や地球の裏より電話くる佐竹泰
喧嘩独楽地球にすこしかすり傷萩原陽美
回りつづけて落とすものなし冬の地球桑原三郎龍集
土佐の冬青き地球を垣間見し原裕正午
地球があって人間がいて愛と死渡辺洸次
地球こそ其処に涼しく照るといふ中村汀女
地球この半分は春かすていら中尾寿美子
地球には笑窪があつて風花す大下真利子
地球には隅などなくて冬萌ゆる斉藤たみ
地球のんのんホモサピエンス回りゆく伊丹啓子
地球の水のひとつぶ竜の玉辻美奈子
地球の空気が少し抜けてる小正月永井徹寒
地球の芯に水流るるや秋の蝉寺井谷子
地球の芯をいつも見つめて無名戦士.....東ベルリン無名戦士の墓横山白虹
地球はまわる金木犀が二度咲いた紙谷香須子
地球またかく青からむ龍の玉鷹羽狩行
地球まろき旅して洗ふ髪一握稲垣きくの黄瀬
地球二個ありて一個の蚯蚓鳴く攝津幸彦未刊句集
地球今温暖化して牡蠣ぶつぶつ赤尾恵以
地球儀が地球に落下青嵐原田暹
地球凍てぬ月光之を照しけり高浜虚子(1874-1959)
地球崩れてゆくコロンブスの卵の反抗三好千峰
地球抱けばかすみの奥の癇癪玉竹中宏
地球暦西暦和暦個人暦渡辺正芳
地球覆ふ春潮の先足許に村松紅花
夏帽子地球の裏へ逢ひにゆく山田弘子懐
夕焼けやぼおんぼおんと地球鳴り阿部完市証
大根を抜けば地球が廻るなり斎藤美規
天の川地球に光る子等のあり池上奈々子
家毎に地球の人や天の川三橋敏雄畳の上
寒すみれ地球がゆるぶねと瞠る古沢太穂
寒卵地球をくらく抱きけり平井照敏
寝ころんで背負ふ地球や鰯雲鶴田独狐
岩ぶよぶよ嬰児ぶよぶよ地球抱く野ざらし延男
巣立鳥地球の果てより子の電話桜井つばな「あした季寄せ」
御来迎地球卵を生む如し山中みね子「牛峠」
忘れそうな地球の素肌よところてん松本恭子世紀末の竟宴テーマによる競詠集
思ひ切り地球叩く西瓜割阿部一彦
性交も飽きてしまった地球都市したたるばかり朝日がのぼる林あまり
戦争がいつも何処かに青いか地球池田澄子たましいの話
戦争や地球の裏に西瓜食ふ脇本星浪
戸あければ地球の裂け目に宇宙人ら蝟集す仲上隆夫
手花火の君は地球の女なり高山れおな
揚雲雀地球の自転追い切れず若井越路
新世紀まはる地球で独楽はじく安井常人
日をめぐる地球に生れ手毬唄野見山朱鳥
星のひかり地球で止まりさくら満つ和田耕三郎
春一番歌ひ出したる地球かな仙田洋子雲は王冠
春待つや地球のやうにみごもりて仙田洋子
春満月地球いびつになる予感小林照代
暖かい地球葉牡丹眠つてしまふ星野紗一
最果てに凍てし地球の皮膚呼吸樽谷俊彦
月おぼろ地球もきつとおぼろだろうゆにえす
月に置く地球の影や冴返る三島広志
月の地平に地球沈む圖柏餅竹中宏饕餮
月はいま地球の裏か磯遊び大峯あきら
月めぐる地球日めぐる血のめぐり高澤晶子
月明の地球の裏の子へ電話猪瀬松枝
月涼し地球の影を映しては内田美紗魚眼石
月見草はらりと地球うらがへる三橋鷹女「白骨」
月面に人の足痕地球灼く石塚友二
松とれし一つ地球にいくさあり都筑智子
母を入れ地球寒暮の蒼さかな下山光子
水の地球すこしはなれて春の月正木ゆう子静かな水
氷爆実験地球の裏に桃の蘂田川飛旅子花文字
氷菓溶け気味テレビに緊迫する地球花田春兆
永き日や地球自転に逆行し澤田緑生
河馬がゐて地球河馬色秋時雨岩淵喜代子硝子の仲間
流星や地球はなほも恙なし矢島渚男延年
湯たんぽの地球に落ちておりにけり五島高資
滴りや地球のどこか箍緩む鈴木貴水
炎帝や地球は男ざかりなり和田耕三郎
煩悩も地球も古き秋の暮攝津幸彦
熊穴に入り地球の不思議考へる佐々木文子
独楽廻す少年地球廻しけり脇本星浪
玉虫も地球も空をころげけり河野南畦
球体の地球恋しやな春の暮斎藤愼爾冬の智慧
生きしなの地球に衛生兵たりき攝津幸彦鹿々集
白桃を産み落したる地球蒼し安斎郁子
百億の人に元日一地球和田悟朗
百合匂う地球は月を抱きにけり細井啓司
知られざる地球の皮や茗荷汁攝津幸彦
短日や地球の自転に落ちこぼれ坪井きよ
磯遊ひとり地球に残されし武知陸子
秋雲の地球の円に従へり阿部みどり女『雪嶺』
秋黴雨地球の角をなでていく水月りの
空気疲れの地球可愛や初嵐三橋敏雄
空蝉のしつかと地球つかんでいる大木石子
窓からの青空地球に独り森田高司
筍梅雨地球の孤独深めけり脇本星浪
管にして地球を思ふ春のひと攝津幸彦未刊句集
紙風船ついて地球を軽くせり小澤克己
細雪地球の嘆き包みつつ多田紀子
耕や漢が地球割らむとす宮澤さくら
肉饅頭の湯気に地球の温暖化松山足羽
背泳ぎの地球も空も独りじめ岸田雨童
胡桃の影濃し地球半分は夜内藤吐天鳴海抄
自転の地球のしぶき浴び初日の出小橋啓生
花吹雪地球自転を繰り返す柴田奈美
草の絮地球の上を飛びにけり太田土男
菊冷や地球を縛る飛行雲嶋田麻紀
菜の花や月の彼方に地球浮き石井哲夫
菜の花を月が離れる地球かな五島高資
落葉一枚地球は傾いている屋代美枝子
葛引いていづこにありや地球の根恩田侑布子
蓑虫は地球の振子夕間暮今井茅草
蓑虫や地球の林傾きぬ暮尾淳
蕗の雨地球は川をめぐらせて森田美智子
虫の夜の地球すっぽり浮いており相川玖美子
虫の夜の星空に浮く地球かな大峯あきら
蚯蚓生るこのみづいろの地球より長谷川秋子『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
蛞蝓の地球回るに追ひつかず堀川節子
蝌蚪滅ぶのち満水の地球かな仁平勝東京物語
蟇ごとりと地球廻りたる辻田克巳
蟇地球を尻の下に敷く福田貴志
赤とんぼ地球は円き空もてり長尾虚風
赤子いま立てり地球よ動くなよ出口善子
踏青の地球削りし第一打竹口十外
遠くから見たき地球に糸瓜垂れ岩淵喜代子硝子の仲間
金色に茗荷汁澄む地球かな永田耕衣殺佛
鈍色の地球に沿つて蚯蚓這ふ辻村麻乃
雪だるま解けない地球のいじめっ子高橋久子
雪兎ぐいと地球が回り出す宇多喜代子象
雲のまほろば地球いつまで光る前原東作
雲海を眼下に丸き地球かな稲畑廣太郎
雲雀揚がる青い地球が見えるから春日井誠
電磁波の地球出てゆく星月夜和田悟朗
霜柱地球を少し太らせて角間鋼造
霧流れ地球たしかに自転せる岩岡中正
露草を地球の羽化に置きませう蘭東子
青い地球に一匹の綿虫と九鬼あきゑ
青き踏む地球そこここ削られて中村英子
青嵐地球は自転速めけり冨山俊雄
静かなる地球の便所こほろぎよ攝津幸彦未刊句集
面白の地球の音や西訛り攝津幸彦鹿々集
音もなく地球は廻り大旦野村多寿子
飢餓難民多き地球に餅を搗く四宮遇子
髪立てゝゆるりと回る地球かな攝津幸彦
麗ら我引つ懸かり居る地球かな永田耕衣殺祖
黄沙ふる地球の微熱続きをり山口隆右
黒い犬を飼うのぞみは地球一周の旅内田南草
●半球
パラポラの半球春の星に向く辻知子
柔かき海の半球クリスマス三橋敏雄
磯の香や春星半球面に満ち品川鈴子
●地殻
山巓に海底地殻まざと夏斎藤梅子
●地層
V字型の巨大な地層大西日影島智子
あざやかな地層のよぎる根釣かな長谷川櫂
かの地層河より立ちて夏空に桂樟蹊子
やわらかな地層阿武隈河口に死す一原九糸郎
地層出て夜長の卓に鸚鵡貝矢島渚男船のやうに
天平の地層は赫し若菜摘む田代朝子
新涼の地層断面火山灰軽石高澤良一素抱
第三紀地層が搾る春の水永野孫柳
縄文の地層を駆くる羽抜鶏屋山漫太郎
青き踏み地層のなかの貝の層小檜山繁子
●断層
コイン投げ込む霧の断層料金所対馬康子愛国
億年を揉む断層のすさまじや小田木弥栄子
兵出征機械断層の辺に汗す細谷源二鐵
冬銀河活断層はわが足下上野良
冴返る野島断層目の当り菊池共子
冷奴活断層の上に棲み大西津根夫
凍る断層黄河文明起りし地長谷川素逝
刈りかけし草の断層招魂祭殿村莵絲子雨月
地震去つて活断層の冬椿銀林晴生
屋根の雪断層しるしとどまれる天野しげる
揚がる凧曳きずっている活断層鴨下昭
断層に秋風がしむ別れかな細見綾子冬薔薇
断層のまこと逸れをり秋簾赤尾恵以
断層の上かも梅を干しにけり大谷史子
断層の上に住みゐて葛湯吹く中村ふみ
断層の億年のこゑ風死せり池添怜子
断層の縞あらく海の風灼けぬ内藤吐天鳴海抄
新旧の土の断層燕の巣前川喜久代
日出づる国活断層のひた走る丸山景子
春雨にぬれたハガキ活断層滲んでる日下部正治
有珠山の断層覆ふ草もみぢ橋本弘子
柿を接ぎ活断層の上に住む安藤治
桜ゆさゆさと活断層の上加古宗也
活断層に生きてゆきやなぎ垂れて咲く日下部正治
活断層の上かも知れず蓬摘む赤尾恵以
活断層の真上に住みて炬燵抱く安達光宏
活断層蟻がミシン目入れている高橋和彌
火の山の断層蝶は羽より老ゆ対馬康子吾亦紅
神割といふ断層の氷柱かな茨木和生倭
花種蒔く活断層の上に住み山口照子
草いきれ断層盆地鬱と照り豊長みのる
萩が紅こぼす活断層の上増田信昭
葛の花地震の断層とも見えず森田峠避暑散歩
葛の花地震の断層なりといふ森田峠
葛桜活断層の上に住み蓮見ミエ子
薄墨のさくら養ふ断層土藤本安騎生
記憶の断層秋天の蝶墜ち来たる小松崎爽青
阿波淡路活断層へ冬鯰相原左義長
●油田
どしや降りの寂しさ海中油田の火伊藤淳子
夏枯れ葦に棲む行々子が油田の声赤城さかえ
油田鉄塔勁しラガーのスクラムも成田千空地霊
炎天の風のきこゆる油田帯石原舟月
炎暑のバスに油田櫓の空しさは平井さち子完流
●鉱脈
鉱脈のいづち走れる夏野かな石井露月
閑古鳥鳴いて鉱脈絶えにけり雉子郎句集石島雉子郎
父の父の父の鉱脈清水つたう八木三日女落葉期