●港町●波止場●入江●漁港●ドック●突堤●埠頭●軍港●船渠●桟橋●港湾●空港●滑走路 ●港町●波止場●入江●漁港●ドック●突堤●埠頭●軍港●船渠●桟橋●港湾●空港●滑走路
●港町
ある窓の聖樹の影も港町 福田蓼汀 秋風挽歌
きさらぎの昼火事ありし港町 原田青児
つばくろや男ばかりの港町 濱田のぶ子
どこまでも薔薇整然と港町 岩田由美 夏安
やはらかく蝙蝠あげぬ港町 秋澤猛
クリスマス来る港町渦なす灯 柴田白葉女 『月の笛』
リラ咲けば誰も旅人港町 古賀まり子
十字架にまず風光る港町 源鬼彦
寒月や猫の夜会の港町 大屋達治
山の霧下り来て包む港町 飯田京畔
明月に小雨降りけり港町 田中貢太郎 貢太郎俳句集
春灯の山へのびゆき港町 高濱年尾 年尾句集
朝霧や消え残る灯の港町 寺田寅彦
棕櫚の辺の冬日の欄干港町 木村蕪城 寒泉
椋鳥渡る出船送りし港町 西村公鳳
歌枕多くて港町日永 菅原玲子
港町のっぺらぼうに雪が降る 穴井太 土語
港町まるごとメリークリスマス 甲田美代子
港町ダチユラに荒き夕の雨 柴田美枝子(かびれ)
港町海の機嫌の霰過ぐ 猪俣千代子 秘 色
港町隠岐風蘭を軒なみに 草村素子
炎天の影もちあるく港町 八尾とおる
父の世の外套はやる港町 古賀まり子
石蕗の崖負うてや港町書店 高田風人子
秋つばめ盆地に港町一番地 穴井太 原郷樹林
芽ぐみゐる幹のうしろの港町 木下夕爾
蜜豆や手にとるごとく港町 岬雪夫
豊橋に港町あり初荷船 耿陽
銀河から船現はるる港町 豊長みのる
鍋焼の提灯赤き港町 岡安迷子
雨一過みよ港町初夏の景 中村汀女
雨降りて南吹くなり港町 高浜虚子
風車売れて日高き港町 市場えつ子
鶴もねむる北半球の港町 岸本マチ子
●波止場
いつよりのメリケン波止場小鳥来る 鈴木圭子
いわし雲メリケン波止場修復す 斉藤敬子
おでんやのうしろに夜の波止場あり 鮫島春潮子
すずしさや波止場の月に旅衣 飯田蛇笏 山廬集
なすな恋波止場のケーキ評論家 徳重千恵子
まんぼうを揚げし波止場の日永かな 細川加賀 『玉虫』
みどり子の頬突く五月の波止場にて 西東三鬼(1900-62)
ベンチみな波止場に向けり夏帽子 井野キミ子
冬の波冬の波止場に来て返す 加藤郁乎(1929-)
南風ふく波止場に雲のたゞよへり 上村占魚 鮎
南風や波止場の好きな赤い髪 加藤高治
噛みタバコの唾吐いて波止場で老いゆく 下山英太郎
寒し愛は波止場渡しということに 池田澄子 たましいの話
寒明けの波止場に磨く旅の靴 沢木欣一
春ショール春の波止場に来て帰る 攝津幸彦 未刊句集
春昼の波止場へつづく馬ぐるま 瀧春一 菜園
月青き波止場の猫の会議かな 眞鍋呉夫
杖の古老曰く 島を出るため波止場はある 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 島嶼派
波止場で尽く彷徨 雲は ラマのようで 伊丹三樹彦 樹冠
波止場の光に 老い深くなる 俥夫と幌 伊丹公子 メキシコ貝
波止場の焚火火の粉はみんな海に降る 田川飛旅子 花文字
波止場まで来てゐる山車や浦祭 土屋仙之
波止場見にある日斑雪の丘に佇つ 稲垣きくの 牡 丹
火の島の夾竹桃の咲く波止場 保坂伸秋「微光」
炎天に牛吊られをる波止場かな 山口耕太郎
獅子舞が波止場の舟に稼ぎ抜く 河野南畦 『風の岬』
秋の蛾の舞ふ波止場なり君を待つ 高塚圭子
窓開ければメリケン波止場灯のおぼろ 高澤良一 寒暑
紅卯木波止場に咲きて散りやすく 加倉井秋を 午後の窓
老皺を繰りこむ波止場原爆忌 熊谷愛子
老移民 波止場の寒の水を飲む 伊丹三樹彦 樹冠
菊売女朝の波止場に来てゐたる 高濱年尾 年尾句集
輸送船はかなし波止場の波の塵あくた 栗林一石路
鈴懸の花に月の澄む波止場街 鈴木昭夫
魚島の鞆の波止場の床几かな 皆吉爽雨
●入江
あしかびの真間の入江の水曇 末永弘子
あたたかに白壁ならぶ入江哉 正岡子規
あぢむらや入江の水のうち曇り 馬吹
あるほどの水を入江の氷かな 炭 太祇 太祇句選後篇
うすもみぢ能登は入江のやさしさに 細見綾子 存問
ここに又湖の入江の地蔵盆 大峯あきら 宇宙塵
この入江もつともくらき踊の夜 田中裕明 花間一壺
さわさわと入江をのぼる千鳥哉 千鳥 正岡子規
すぐ翳る浦の入江や大根干す 石川文子
ぜんまいに相模湖の入江ひとつ見ゆ 水原秋桜子
そら豆のもう咲いてゐる青入江 高澤良一 ねずみのこまくら
まだきしむ野分芥の入江かな 辻桃子
エリカ咲き入江けぶれる朝の雨 山本 莎草
バラード入江で迷ったかもめ 頭上へまた 伊丹公子 アーギライト
ペーロンの果てし入江の潮匂ふ 徳沢南風子
一舟を熔岩の入江に島の秋 皆吉爽雨 泉声
七夕の入江奥まで並木うつす 中戸川朝人 残心
七福神巡る舟つく入江あり 長谷川久代
二上の裾の入江の明易し 大宮広子
二日はや魚干す入江軒深し 北村典子
入江すぐ木場へつづけり天の川 杉田淑子
入江より漕ぎ出て朝のカッチキ釣 高澤良一 寒暑
入江濃きくまの一木枯れにけり 金尾梅の門 古志の歌
入海の更に入江の里の秋 松本たかし(1906-56)
冬ぬくき入江の中の入江かな 中村たかし
初あらし鷹を入江に吹き落とす 水原秋桜子
初凪や入江重ねて安房上総 平松茂都子
初茜入江入江の動きそむ 帰山綾子
初詣湖の入江を漕ぎ出でて 小路紫峡
初鴨に能登の入江の波尖り 谷内みつ子
初鶏の入江を渡りきこえ来る 田中冬二 俳句拾遺
北国の入江は静か月見草 大峯あきら 宇宙塵
十一二日の月は入江の水がいつぱい 荻原井泉水
古道や真間の入江に沿ひて秋 池内たけし
品川の霞んで遠き入江哉 霞 正岡子規
啓蟄の船は入江を出て真昼 川崎ふゆき
土浦の入江に温みて蓮ひらく 乾 修平
夏燕入江よぎるに影もたず 樽谷青涛
夕凪や入江に舟の舫ひせる 田中冬二 俳句拾遺
外套や白き鴎を入江にて 草間時彦 櫻山
大琵琶の入江ゆるりと蓮見舟 大石喜美子
大瑠璃のこゑや入江の村しづか 森田かずを「金環蝕」
大瑠璃や入江の深さ眼下にす 目黒十一
宗鑑の蓮に埋もれてゆく入江 山田弘子 懐
家々の入江に沿ひし花胡瓜 上原はる
小夜しくれ小鴨のさわぐ入江哉 時雨 正岡子規
川舟の戻る入江に鳰鳴けり 長谷川草洲
帆柱のさきに蝉鳴く入江哉 蝉 正岡子規
帆柱をねさす入江や天の川 椎本才麿
帰り花宿の入江に渡船着く 北川酔歩
廓跡ありし入江や桐一葉 山本洋子
御忌詣潟の入江に舟着けて 濃口鶴仙渓
旅の椅子春の入江がここまできている 金子皆子
日あたりの入江にたまる小鴨哉 子鴨 正岡子規
早桃噛んで能登の入江を渡りけり 前田普羅 能登蒼し
春の夜や入江の闇のおもしろく 尾崎迷堂 孤輪
春雷や入江の奥にみかん山 田中冬二 冬霞
月の出遅き入り江の闇に唄放つ 林原耒井 蜩
月代や背戸の入江は芦の風 京-柯山 俳諧撰集「藤の実」
月落ちて入り江は寒し舟一つ 寒し 正岡子規
朝の入江ええ恰好して鯔飛べり 高澤良一 素抱
東に開く入江や明け易き 青峰集 島田青峰
松若し寒さはここの入江にも 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
枯芦や難波入江のささら波 鬼貫
柾木の実紅し入江に日を置きて 篠田麦子
桐一葉入江かはらず寺はなく 田中裕明 花間一壺
棹さすは女よ入江朝の霧 高濱年尾 年尾句集
横雲に夏の夜あける入江哉 正岡子規
水軍の入江にあまた牡蛎筏 紙野康美
水門の見えたる入江夏燕 山田房子
永き日を入江浮遊の毬一つ 小島文英
汐引いて棒杭寒き入江かな 寒し 正岡子規
汐満ちて鳥居の霞む入江哉 霞 正岡子規
波荒るゝ入江の月の千鳥哉 千鳥 正岡子規
浮草の流れ寄たる入江かな 萍 正岡子規
海よりも青き入江や初不動 松林朝蒼
海苔麁朶にさゝ波よする入江哉 海苔 正岡子規
港とは名のみの入江浮寝鳥 大瀬雁来紅
湖のごとき入江や冬暖し 佐藤千兵
湖北入江挿し終へし*えりくきやかに 松崎鉄之介
湯屋のある入江の町の残暑かな 高橋睦郎 荒童鈔
満開の桜がうつる入江かな 楠目橙黄子 橙圃
漁港古りあさき入江に鯊あそぶ 富岡掬池路
潮さす木場の入江の牡丹雪 高橋佳子
潮の香も入江の景も春らしく 稲畑汀子 春光
濱による鯨小き入江かな 鯨 正岡子規
烈風の入江を走る干菜汁 大木あまり 火球
煮凝や若狭の入江深うして 辻 桃子
燻製魚店 昏れだす 入江よりはやく 伊丹公子
玲瓏と入江の鰈煮凝りぬ 水原秋櫻子
畦焼くや湖の入江をかよふ鵯 米沢吾亦紅 童顔
白鳥の入江しづかに交るかな 阿部みどり女 『光陰』
皮ひてし穢多が入江や芦の角 炭 太祇 太祇句選
真珠育つ花の入江の静かかな 森田峠 三角屋根
真菰の芽斐川の入江のびにけり 和井白風
真間は今入江のあとの若菜哉 菊の苗 正岡子規
石州の狭き入江に鰤荷上げ 水本祥壱
破魔弓や入江の波の立つばかり 大木あまり 火球
磯鴫や入江にひらく投網の輪 広瀬釣仙
秋立つと入江に溺る田一枚 高橋睦郎 稽古
稲の花湖の入江の汀かな 尾崎迷堂 孤輪
竹藪の裏は鴨鳴く入江哉 鴨 正岡子規
紫雲英咲き諸子魚の入江ここに伸ぶ 大島民郎
老鶯や真間の入江の真菰刈 癖三酔句集 岡本癖三酔
背戸口の入江にのぼる千鳥かな 丈草
舟還る熔岩の入江や枇杷の花 野上 水穂
船隠してふ麦秋の入江かな 能村研三
花冷や入江に舟の低くあり 梓沢あづさ
花火揚ぐ入江巡れりモノレール 高澤良一 素抱
花菖蒲入江侍従に出逢いけり 金子泰子
芽柳や加太の入江は汚れたり 五十嵐播水 埠頭
若芦や入江は雨の光り降る 吉成公一
荒海と別に弥生の入江あり 阿部みどり女
荒海と東風の入江を分くる岬 稲畑汀子 春光
菜の花や筑摩の入江*えり残す 高濱年尾 年尾句集
葛水や入江の御所にまうづれば 蕪村「夜半叟句集」
蓮枯れて入江をさらに奥にせり 中戸川朝人 残心
藻の花に入江は静かなるところ 高浜年尾
蘆の根のしつかり氷る入江哉 正岡子規
螢飛ぶ入江の御所の雨戸かな 柑子句集 籾山柑子
行く年の帆柱多き入江かな 古白遺稿 藤野古白
西瓜台地帆を片寄する入江持つ 中戸川朝人 残心
誘蛾燈入江の闇を抱きにけり 米澤吾亦紅
通し鴨入江の秋をまち得しか 加舎白雄
遅き日や入江の波のところ見え 尾崎迷堂 孤輪
遠泳後の入江涼しき舵の音 中拓夫 愛鷹
遠泳終ふ入江涼しき舵の音 中拓夫
部屋の名も入江の宿の春灯 稲垣きくの 黄 瀬
雁もなし入江見おろす山の上 雁 正岡子規
雁啼て船の灯遠き入江哉 雁 正岡子規
雁渡し入江名残りの手児奈池 夏目悦子
霜月の軍艦ひそむ入江かな 霜月 正岡子規
静かなる入江につどひ初かもめ 寺田栄子
風光る入江のぽんぽん蒸気かな 内田百間
風吹て裏は入江や花杏 杏の花 正岡子規
鯊船や入江の凪に日もすがら 水原秋桜子
鯊釣や松ある景の入江にて 尾崎迷堂 孤輪
鯛生簀由良のきんちゃく入江かな 高澤良一 寒暑
鰤起し入江に波をたたせけり 森田 峠
鴨啼て小鍋を洗ふ入江哉 鴨 正岡子規
齟齬ばかり師走の入江まつ平ら 鍵和田[ゆう]子 浮標
●漁港
おでん屋をのこし早寝の小漁港 大島民郎
お寺様守りて露の漁港かな 八木林之介 青霞集
かいつぶり小さき漁港のしづもれり 阪本早苗
かたばみや古都の果なる小漁港 池上樵人
しぐれる漁港「めし」の看板立てっぱなし 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
しろがねの魚買ふ秋の小漁港 野澤節子
とある漁港に廻り澄む独楽一つ 友岡子郷 日の径
ハープひく漁港の船の夏至白夜 飯田蛇笏 春蘭
五寸釘散らばる漁港夏に入る 小泉八重子
保安艇泊つる漁港に競泳す 宮武寒々 朱卓
元旦の漁港鳶の輪の中に 福川悠子
八重椿漁港二月の風鳴れど 水原秋桜子
冬かもめ小さき漁港に小さき船 文挾夫佐恵
初鶏のこゑに明けゆく漁港かな 石田静江
北冥く漁港彎りてつばき咲く 飯田蛇笏 春蘭
口吸えば産卵期のひかりの漁港だ 大石雄介
夏日照り漁港の濁りひろごれる 瀧春一 菜園
夏潮に漁港の街は弧をなせり 内藤吐天 鳴海抄
夏至白夜濤たちしらむ漁港かな 飯田蛇笏「山響集」
夕千鳥漁港の雪となりにけり 石原舟月 山鵲
夕蝉に漁港はくらき潮湛ふ 太田鴻村 穂国
夜は狐来るといふなる漁港かな 茨木和生 往馬
夜も暑き漁港に何か捨つる音 西村和子 窓
夾竹桃漁港の昼の雲翳す 石原舟月 山鵲
家並すぐ尽きて漁港の残暑かな 長谷川エミ
寄居虫売漁港に軋む音ばかり 窪田英治
小坪漁港春愁なれば蛸逃げる 前田吐実男
拍餅の肌ねつとりと漁港曇る 野澤節子 牡 丹
日除して漁港の端に女床屋 北野民夫
春を待つ漁港の娼家はなやぎぬ 西島麦南 人音
春暁や漁港の秩序ある活気 郡司吾郎
春浅き漁港休みの樽積まれ 山口幸代
春濤の一線あまる小漁港 大野林火
月低く黄なり晩夏の小漁港 下村ひろし 西陲集
木五倍子咲く崖を漁港へ切り落す 今本まり
柏餅の肌ねつとりと漁港曇る 野沢節子
海霧の縞日漁港路線に貨車あらはる 石原八束 空の渚
渡り椋鳥つく木のありて廃漁港 大野林火
漁港ともヨツトハーバーともつかず 吉岡翠生(諷詠)
漁港の灯またたきはじむ雁渡し 山本つぼみ
漁港への一路 路鋲の金色光 伊丹公子 メキシコ貝
漁港みな竜王祀る青あらし 前田鶴子
漁港古りあさき入江に鯊あそぶ 富岡掬池路
漁港古り縄と菫と子供かな 永島靖子
漁港春鴎に魚を盗まれし 原コウ子
漁港過ぐ寒月列車と同じ速さ 川村紫陽
秋口の漁港の昼の日差かな 茨木和生
高潮をむかへて漁港春さむし 飯田蛇笏 雪峡
鯛の絵を的に漁港の弓始 藤田かよ子
鰤あがり漁港は昼も夜もにぎはふ 岡田日郎
鴎より高きものなし凍漁港 高木公園
鵙鳴いて犬来て漁港明けそむる 林八州生
黒頭浮かべ泳げる漁港かな 右城暮石
●ドック
くろがねの戦艦ドック星月夜 脇本星浪
人間ドックすませ十薬干している 高木青二郎
夏衣ドック帰りのそば処 佐藤青氷
巨船ドックにあり海は二百二十日 福田蓼汀 山火
布袋腹撫でて人間ドックの秋 舘 柳歩
帆船をつなぎしドック海月浮く 小田 亨
後の月戦艦大和のドックにて 川崎展宏
昼顔が咲いてドックの廃れたる 行方克己 無言劇
朧夜の湾にねむらぬドックの灯 刈米育子
母の白いパラソル降りるドックの街 川崎展宏
熔接の白光へ顔梅雨のドック 古沢太穂「火雲」
父の日のドックに乾く潜水艦 内田美紗 誕生日
生ゴミ出し人間ドックに走り込む 山本弥生
盆波や船渠(ドック)の中に自衛艦 二又淳子
●突堤
いくさいくたび 突堤はざまの酒くらい 星永文夫
ごめさわぐ雨の突堤穴子釣り 阪井節子
たぷりたぷり潮容れて突堤老いゆくか 赤城さかえ句集
人影は去り突堤に春怒濤 小川濤美子
出迎への日傘を高く突堤に 池田秀水
思惟の船腹突堤汚れだぶつく午後 鈴木六林男
日傘さすとき突堤をおもひ出す 岡本眸(1928-)
枯野の鹿また突堤に来て立てり 永田耕一郎 方途
橇犬の渦巻く太尾突堤ヘ 成田千空 地霊
渡りきて遠突堤のこぼれごめ 村上しゅら
漁夫渡りゆけり突堤子が跳ねて 村上しゆら
白靴の先突堤の端に出す 池田秀水
突堤あり青葉裏返りうらがへり 桜井博道 海上
突堤で波と語らむ梅雨晴間 鈴木淑生
突堤にぬくもり残り蚊喰鳥 木村里風子
突堤にゐる犬十二月はじめ 川崎展宏
突堤にリハビリ兼ねて根釣人 高澤良一 素抱
突堤に人立ち代る遅日かな 山崎雅葉
突堤に半日ねばる根釣人 高澤良一 素抱
突堤に原色五人西東忌 鷹羽狩行
突堤に弁当とどく鯊日和 佐藤信子
突堤に朱の字われらの夏終る 友岡子郷 遠方
突堤に毛衣ひとり暮れのこり 綾部仁喜
突堤に波の逃げ穴神無月 奈良文夫
突堤に浮く旅の貌秋魚うき 松村蒼石 雁
突堤に海女の焚きゐる盆のもの 山 信夫
突堤に濤高き日も蜜柑熟る 原田青児
突堤に生き餌のうごく余寒かな 北見さとる
突堤に秋暑き日のへばりつき 西村和子 かりそめならず
突堤に舟の日覆の触れて休む 五十嵐播水 埠頭
突堤に舟虫しゃしゃり出て祭 高澤良一 素抱
突堤に足を垂らして春休 牧野多絵子
突堤のあをぞら冬に入りにけり 中岡毅雄
突堤のその空の端に立ちて秋 神谷波
突堤のほどよきところ氷旗 尾関乱舌
突堤の一番先きの冬帽子 細見綾子 花寂び
突堤の人立ちかはる遅日かな 山崎雅葉
突堤の先端にゐて雲の峰 前山松花
突堤の内潮ふくれ秋の暮 松瀬青々
突堤の喇叭が吃る梅雨晴間 石井保定
突堤の外へそとへと鰆船 板敷浩市
突堤の突端の鵜の寒さかな 蓬田紀枝子
突堤の端まで行かず白日傘 山口あつ子
突堤の蟹が引っ張る赤い月 河合凱夫 飛礫
突堤は江戸の石築きさくら散る 中戸川朝人 星辰
突堤へ夜釣の人を呼びに来し 大橋越央子
突堤や燈籠流す人ゆきゝ 五十嵐播水 播水句集
突堤や石首魚釣りの禰宜ひとり 下山田禮子
突堤や荒鵜も人も春たけなは 栗生純夫 科野路
突堤をゆく舟虫に怪しまれ 橋本美代子
突堤を乗り越す浪に浦まつり 佐野まもる 海郷
突堤を波のころがる羽子日和 秋を
突堤を越す青海苔の千々に裂け 栗生純夫 科野路
船長は留守突堤のきりぎりす 藤谷和子
鉄帽に息抜きの穴突堤の尖端 上月章
首夏突堤古紐となる忘れ昆布 平井さち子 紅き栞
鯊を釣る突堤伸びて渦潮へ 今井千鶴子
●埠頭
ざら塩の黄に染む埠頭夏詰る 成田千空 地霊
そのかみの和蘭陀埠頭鰺を干す 高濱年尾 年尾句集
一と筋に島の埠頭へ年の市 佐藤脩一
冬あかね埠頭押しやる離岸の渦 平井さち子 完流
冬日和埠頭お城のごとき船 河野静雲
冴返る埠頭に並ぶ輸入材 宇野直治
初汐や埠頭の内なる蒸氣船 初潮 正岡子規
千鳥飛ぶや埠頭の積荷宿毛船 雑草 長谷川零餘子
去ぬ燕水夫ら溜まる風の埠頭 櫛原希伊子
台風の余波の埠頭に接岸す 伊藤いと子
埃から埠頭吸い馬の眼馬の眼を怒る 赤尾兜子
埠頭いま帰省の錨しぶきあぐ 矢野 聖峰
埠頭で海に触れる町の子マスク小さく 宮津昭彦
埠頭には埠頭の虫のよく鳴ける 福原瑛子
埠頭に居り「おッさん」と遠足に呼ばれ 赤城さかえ句集
埠頭の灯凍てたる鼠走らせる 高橋馬相 秋山越
声絶ぇて真昼の凪の埠頭のくらげ 高柳重信
壱岐埠頭時雨の銅鑼となりにけり 文挟夫佐恵 遠い橋
外套の淋しさ埠頭に極まれり 古川歌子
多喜二忌の埠頭に刺さる波の先 源 鬼彦
大丸太積み上ぐ埠頭蝦夷晩夏 斉藤輝子
寒月の埠頭も船も寝しづまり 高林蘇城
放心即絶叫埠頭の風冴ゆる 平井さち子 完流
旅人に焼藷売の来る埠頭 大橋敦子
春の浮雲馬は埠頭に首たれて 佐藤鬼房
春嵐埠頭突端より追へず 小池文子
望郷のらくがき埠頭に年詰る 佐野美智
朝焼けぬ埠頭に人夫犇めきて 古賀まり子
木の葉髪埠頭の暗き潮に捨つ 小林康治 玄霜
枯るゝ埠頭犬曳き枷を曳くごとし 小林康治 玄霜
梅雨の雷沖かけて埠頭荘厳す 小林康治 玄霜
梅雨溢る埠頭の端や妻癒えず 小林康治 玄霜
流謫かな髪が暴れる真昼の埠頭 中里夏彦
海猫退けて埠頭を占むる島鴉 高澤良一 素抱
海路来て灼くる埠頭に旅終る 山口波津女 良人
涼趁うて埠頭の闇や夏帽子 飯田蛇笏 霊芝
清見潟いづこ埠頭の朝ぐもり 小野宏文
玉葱の臭ふ埠頭の倉庫かな 大星たかし
白南風埠頭帆船フアンで賑はへり 高澤良一 素抱
短日の埠頭がとどむ黒き荷車 飯田蛇笏 雪峡
短日の埠頭の午後を惜しみけり 松澤昭 神立
秋日沁む埠頭に晒す糞尿車 小林康治 玄霜
秋風が肩越す埠頭師を訪はず 小林康治 玄霜
秋風の埠頭の隅の氷菓売 小林康治 玄霜
筵旗掲げ埠頭に初荷船 土屋保夫
終の舟発つや埠頭の火蛾狂ふ 新川光波
船を待つ仲仕と犬と梅雨埠頭 亀井糸游
船発ちて埠頭に遺す養花天 林昌華
花カンナ埠頭に夕日ひつかかり 宮坂静生 雹
荒天の埠頭の雲に夏つばめ 石原舟月 山鵲
荷こぼれの玉葱まろぶ埠頭かな 大星たかし
荷役なき埠頭の真昼鰡はねる 日比野里江
街の音遠く埠頭の木木芽ぶく 古賀まり子
護謨菓子を噛みつつ南風の埠頭去る 宮武寒々 朱卓
走り梅雨埠頭につなぐ牛百頭 鈴木太郎
踊りゐて月の埠頭となりてゐし 岸田稚魚 筍流し
輸入石塊北風一枚となり埠頭 諸角せつ子
遠い雷埠頭にころがる赤い缶 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
錆びし鉄ばかり目につき寒い埠頭 池田秀水
長く灯をつづりて長き夜の埠頭 町田しげき
離れ貨車いつも一輛梅雨埠頭 亀井糸游
雪呼んで埠頭外れの裸灯よ 小林康治
雪晴の埠頭まぶしく林檎売 西島麦南 人音
雷うつ埠頭軽子歓喜の躍る形 小林康治 玄霜
露けしや水脈たしかなる埠頭の端 小林康治 玄霜
髪おさえ見送る埠頭南風吹く きよみ
黒南風の埠頭淋しき倉庫群 酒井みゆき
●軍港
かりがねや軍港かくす貨車の胴 秋元不死男
ゼリーやや歯応えありし旧軍港 水島洋一
七月軍港帰還の唾を海へとばす 皆川白陀
下車前途無効余寒の軍港に 戸塚時不知
人形浮き冬の軍港とぞ思ふ 秋元不死男
住み古りていまも軍港藤咲けり 下田稔
嘶きや旧軍港に日は落ちて 攝津幸彦 未刊句集
旧軍港浮寝の鳥もなかりけり 高澤良一 宿好
旧軍港直立の父傾ぐ母 齋藤愼爾
朽ちて明るい旧軍港に蜜柑抛る 穴井太 穴井太集
桐咲いて喪の貌が行く旧軍港 河野南畦 湖の森
潮まねき軍港の名の浜に消え 米沢吾亦紅
秋暑き軍港の名の還るなり 石川桂郎 高蘆
腐り藻を深く沈めて雨の軍港 江里昭彦
蜜柑浮く旧軍港の潮満ちて 殿村菟絲子
軍港が見えて撥ねゐる小鳥罠 米沢吾亦紅 童顔
軍港と呼びし世のあり手鞠唄 立石せつこ
軍港にはらりとかかるうろこ雲 蓬田紀枝子
軍港に子規の句碑あり敗戦を知らざれば波あたたかく詠む 古吉義彦
軍港のごとく白鳥遊弋す 三宅草木
軍港の兵の愁ひに深雪晴れ 飯田蛇笏 霊芝
軍港の眠りが足らぬ月見草 川辺幸一
軍港の黄昏 水仙と鉄匂う 伊丹公子 沿海
軍港へ貨車の影ゆく犬ふぐり 秋元不死男
軍港まで駈けておとうとはよしきり 筑網敦子
軍港や音たてて飛ぶかぶと虫 加藤憲曠
軍港をあぶり出したる焚火かな 中村和弘
鰡跳ねて旧軍港の昼寂と 青木重行
●船渠
えのころに風の集まる船渠跡 二又淳篁
かもめたかくかけりて船渠暮の春 飯田蛇笏 春蘭
三日はや雲に映れる船渠の灯 藤木倶子
千鳥鳴く船渠の底に灯が動く 米沢吾亦紅 童顔
安治川の冬が船渠の底につゞく 米沢吾亦紅 童顔
寒天に船渠の鎖長短あり 細谷源二 鐵
寒明けし船渠の光り眼を囚ふ 飯田蛇笏 霊芝
春愁の友に船渠の暗渠あり 森川暁水 黴
時雨るるや船渠は火屑こぼしつつ 五十嵐播水 埠頭
涅槃西風船渠の底に鎚鳴らす 長谷川浪々子
盆波や船渠(ドック)の中に自衛艦 二又淳子
船渠の底暮早き日を失ひぬ 吐天
船渠百態冬日輪が尾を垂らす 伊藤敬子
野遊の果の船渠にうづくまる 大石雄鬼
雪来ると船渠にありて手に受くる 米沢吾亦紅 童顔
露けしや船渠は青き火屑とび 五十嵐播水 埠頭
●桟橋
かもめ来る夕立あとの桟橋に 原島悦子
さみだれや浮き桟橋へ歩み板 吉野義子
すべてが去りすべてが在り浮桟橋の動揺 堀葦男
みづうみの桟橋ほそく月すずし 瀧春一 菜園
ペーロン祭浮桟橋が桟敷なる 品川鈴子
ヨット解く春の桟橋水漬きつつ 加藤耕子
人濡れてくる桟橋の花菜雨 宮津昭彦
初旅の桟橋なれば大揺れに 辻 桃子
初東風や桟橋渡る賽者づれ 高橋淡路女 梶の葉
夏はじまる大桟橋を真直ぐ来て 中村明子
夏は夜ゆつくり待つてゐる桟橋 杉野一博
夏帽子大桟橋の端に彳ち 西村和子 夏帽子
夏潮や浮桟橋の揺れやまず 満田玲子
夕虹や湖の桟橋に鱒を釣る 田中冬二 麦ほこり
大桟橋波をデフォルメして涼し 高澤良一 寒暑
大桟橋踏んばり立ちし冬の風 志村文男
小桟橋つくろひ島に避暑季来ぬ 和田 祥子
支笏湖の波桟橋の雪洗ふ 茨木和生 木の國
枯柳棧橋朽ちて舟もなし 枯柳 正岡子規
柴漬の首尾見る小桟橋に乗り 井沢正江
桟橋で釣りする老女夏の夕 泉利喜郎
桟橋にかぶさる柳散りにけり 久保田万太郎 草の丈
桟橋にひびく靴音三鬼の忌 片山由美子 風待月
桟橋に出て夕凪の団扇かな 水原秋桜子
桟橋に初荷の花の溢れたり 坂本孝子
桟橋に団体を措き雁渡る 五十嵐研三
桟橋に打返す浪や秋の暮 白水郎句集 大場白水郎
桟橋に散る船虫や夏近し 柑子句集 籾山柑子
桟橋に日傘の影をもらひけり 石黒泊舟
桟橋に涼んで居るや茶屋女 牧野望東
桟橋に湖の鯉釣れ天高し 皆吉爽雨 泉声
桟橋に灯を投げ繋る鰹船 岡安迷子
桟橋に舟着く紅葉昃るとき 深見けん二
桟橋に船をらぬ間の鯊を釣る 松村柳浦
桟橋に裸子水中翼船来る 杉本寛
桟橋に鍋釜洗ふ管絃祭 浜田千代美「雉俳句集」
桟橋に霊魂冷える科の空 須藤 徹
桟橋に鶯啼くや向島 鶯 正岡子規
桟橋の先に鯔跳ぶ弁天屋 高澤良一 随笑
桟橋の先ぷっつりと冬かもめ 赤塚五行
桟橋の影引く卯浪たつ港 小原菁々子
桟橋の春の灯火一列に 上村占魚 球磨
桟橋の杭のタイヤの灼けてをり 行方克己 無言劇
桟橋の灯にうちこごみ*さより汲む 楠目橙黄子
桟橋の色なき風や帽を脱ぐ 猪俣壽水
桟橋の錆びたるままに秋の湖 上野澄江
桟橋の門しめて来て夜寒かな 久保田万太郎 草の丈
桟橋の鯊の濡れ型すぐ乾く 西本一都 景色
桟橋は島の玄関初荷著く 佐藤清流子
桟橋は淋しや夏の灯がともり 上野初穂
桟橋へゆるむ船脚秋の風 宮原可里江
桟橋まで行きて旅とす蚊喰鳥 大木あまり 山の夢
桟橋や傘すれ合うて春の雨 阿部みどり女 笹鳴
桟橋や先づ思い出づ駒迎へ 松尾芭蕉
桟橋や命をからむ蔦葛 松尾芭蕉
桟橋や横に吹るゝ夏羽織 翠哉
桟橋をふさぎて洗ふ近江蕪 和田祥子
桟橋を渡ればすぐに月の宿 星野椿
桟橋を足して旱の続く湖 伊藤凉志
梅雨荒れの浮き桟橋に波遊び 赤松しづ
棧橋に別れを惜む夫婦かな 正岡子規
棧橋の日傘に白き雲湧けり 河合凱夫 藤の実
水撒かる日暮桟橋通船混み 大田和子
汐けむる桟橋の端の夜釣の燈 田中冬二 俳句拾遺
波暮れて浮桟橋の春鴎 山岡朱実
浮桟橋生える手足や夏土用 兼近久子
浮桟橋花屑さらに湖へ散り 河野南畦 湖の森
浮桟橋軋む底より秋の声 野木民子
海月打ちつけし桟橋の師走の灯 河東碧梧桐
湖に突き出して木の灼け桟橋 右城暮石 上下
満ち干なき湖の桟橋大根干す 右城暮石 上下
白日傘行き交ふ新装大桟橋 高澤良一 寒暑
秋うらら浮桟橋のひとり鳴る 永方裕子
立夏かな浮桟橋の一輪車 なかのまさこ
紅葉鮒釣れて桟橋すたれけり 竹中春男
終便の出し桟橋に外寝人 花田喜佐子
花虎魚桟橋ゆらし潮満ち来 脇坂啓子
落花浴び浮桟橋のボート守 皆川白陀
蜆舟浮き桟橋に雨細し 横井かず子
貝寄風や桟橋は哀歓に朽ち 鷹羽狩行
霜のこゑ別府桟橋船去れば 大島民郎
馬行くや雨の棧橋夕紅葉 紅葉 正岡子規
鳥帰る浮き桟橋の軋む音 能田多佳子
●港湾
五月の港湾頸に人夫が日の環を享く 磯貝碧蹄館 握手
浪寒し港湾地図から目離せば 友岡子郷 遠方
港湾の繁華に秋のうす霞 石原舟月 山鵲
港湾の船動かざる雲は秋 西村和子 夏帽子
港湾の道の十字に海紅豆 冨田みのる
港湾の音の働く薄暑かな 西村和子 窓
港湾荷役空の一角暮れおそし 岩田昌寿 地の塩
黒鯛釣に港湾の潮碧なす 鈴鹿野風呂 浜木綿
●空港
いつも靡いて空港の猫じやらし 池田秀水
いと小さき島に空港遠雲雀 福田 蓼汀
いわし雲空港百の硝子照り 福永耕二
かなしみなり空港で海産物購うは 八木原祐計
とりあへずカレーを秋の空港にて 正木ゆう子 悠
やうやくに辿りつきたる空港に時差を加へし顎の髭伸ぶ 青田伸夫
アディオス!この暁闇の花時計.....ポルテラ空港 横山白虹
イースター近き空港混雑す 山本歩禅
セロリなど空港へ急ぐ初荷なり 岡田貞峰
三鬼忌は万愚節なり空港に 秋山巳之流
乾鮭を提げ空港の端よぎる 小林康治
倒れるまでタイヤ転がる寒い空港 三橋敏雄 まぼろしの鱶
傘雨忌や空港に腰浮かしゐて 小林康治
八丈島空港仏桑花の迎へ 伊藤やすを
初夢に息子を乗せて空港へ 中野太浪
地の果のごとき空港茅花照る 横山白虹
夏雲の空港に別れ来たりし手 阿片瓢郎
宵闇の武漢空港友の待つ 後藤 緒峰
帰る子を待つ空港の星月夜 五十嵐波津子
年明けの朝の空港ジャズ流る 長谷川冬虹
星月夜空港つぎの離陸待つ 石崎素秋
晦日そば下げ空港に降り立ちぬ 高木紫乃
月明の空港暗き一部分 池田秀水
海港に展く空港雁渡し 倉橋弘躬
涅槃西風海に空港出来つつあり 辻 善次郎
狐の提灯広き空港の端に咲けり 岡部六弥太
異国語もまじる空港秋暑し 後藤軒太郎
白夜呆け醒め空港の霧に佇つ 小原菁々子
真白きトランク初夏の空港に 成瀬正とし 星月夜
着陸を待つ空港の星月夜 岡安仁義
空港から死角の梨の花の家 脇本星浪
空港が待ち合はせ場所ソーダ水 本間一萍
空港で鞄にすわるチューリップ 田中裕明 先生から手紙
空港と言えど枯野の一部なり 中村耕人
空港につヾく曠野の麦の秋 久保田万太郎 流寓抄
空港になるかならぬか麦を踏む 松山足羽
空港ににつぽんの虹濃かりけり 町田しげき
空港に初夏の自動車輝き来 成瀬正とし 星月夜
空港に子供の多し子供の日 佐久間道子
空港に居りて永き日終りけり 宮津昭彦
空港に曼珠沙華見て阿波に入る 能村登四郎 菊塵
空港に月と猫の子残さるる 加藤秋邨 死の塔
空港に朱欒輝き雨上る 高橋悦男
空港に流す琴の音三日かな 直野秀子
空港に眼鏡の力士雲の峰 吹野 保
空港に着けば酒ありなまこ食ふ 横山白虹
空港に終便送る海紅豆 羽田岳水
空港に肥後赤酒や漱石忌 星野麥丘人
空港に青蜜柑買ふ旅ごころ 小坂順子
空港のかかる別れのソーダ水 成瀬櫻桃子 風色
空港のたんぽぽ地に張りつきて 後藤夜半 底紅
空港のソーダ水より旅ごゝろ 大槻右城
空港のロビー遍路杖突きをさめ 飯島晴子
空港の全面鋪装地虫出づ 塩川雄三
空港の別れその後のソーダ水 泉田秋硯
空港の大格納庫大西日 森田峠 避暑散歩
空港の寒さ金属音ばかり 池田秀水
空港の恐ろしきかな肺活量 星野一郎
空港の整備に月の不寝とし 柴田黒猿
空港の灯の点に胃をあたためる 林田紀音夫
空港の灯は赤と青芝涼し 田中蘇冬
空港の爆音ざらし鵙の贄 西川雅文
空港の端見えてをり干蒲團 八木林之介 青霞集
空港の管制塔に鏡餅 塩川雄三
空港の迎へ夜寒となる遅著 肝付素方
空港の長き通路や夜の秋 若林杜紀子
空港の雨の涼しさ殊のほか 森田峠 避暑散歩
空港の青き冬日に人あゆむ 西東三鬼
空港の黒旗に追われ患者ら発つ 藤後左右
空港は別るるところ冬夕焼 谷中隆子
空港は別るるところ寒夕焼 谷中隆子
空港へつづく旧道桐の花 杉田栄子
空港や大末枯をいそぐなり 鈴木楢谷
空港や春の蠍座しかと見て 宮坂静生 春の鹿
空港や駆け寄る人の夏帽子 和田健三
空港ロビーの対話慇懃に掠める機影 小倉緑村
空港出て田植ゑ汚れの電柱立つ 波多野爽波 『骰子』
空港近く蜜柑二三の夜の刻 桜井博道 海上
翼の数かぞへ成人の日の空港 鈴木鷹夫 風の祭
花朱欒島の空港つばらかに 西田キヨ
芹摘みが来れば空港白々し 静塔
落花生掘り空港に近付きぬ 山田東龍子
蛇穴に入る空港を翔び立てり 金堂豊子
蹠やわらかし故国の空港踏み 久米富美子
開襟少年空港ビルの屋上駈く 加藤かけい(天狼)
降誕祭空港とみに星多し 麻生和子
霧の空港ボスも黄色い傘さすよ 八木三日女 赤い地図
革ジャンの裏は浮世絵パリ空港 中野英歩
寒星と発つ灯と着く灯エアポート 嶋田摩耶子
台風の報聞く帰国のエアポート 八巻絹子
●滑走路
つちふるや島に短き滑走路 中村房子
オリオンへ向く大年の滑走路 奧坂まや(1950-)
一本の滑走路ある花野かな 下村梅子
一筋の花野の中の滑走路 工藤吾亦紅
初蝶が一気によぎる滑走路 河野南畦 『風の岬』
夏草や海までつづく滑走路 宮下 幸
大年や灯ゆるめず滑走路 奥坂まや
帷子に白々とある滑走路 糸 大八
春光や紙飛行機に滑走路 倉本 岬
湖べりへはしれる鷭や滑走路 水原秋櫻子
滑走路に遊ぶ日雀や島日和 木田千女
滑走路尻のごときもの降りて来よ 在 気呂
滑走路尽きしところに月見草 冨田みのる
滑走路尽きてすぐ海花カンナ 池田秀水
滑走路突き出す湖に蜆掻く 小原ひとし
葦の穂や滑走路昃り吾等帰る 金子兜太 少年/生長
虎杖一本立つ滑走路のほとり 横山白虹
虹の下猫の死骸と滑走路 三谷昭 獣身
蚯蚓鳴く大滑走路ひびわれて 山田春生
諸葛菜咲くや知覧の滑走路 中條睦子
遥かなる国へ夜長の滑走路 竹中碧水史
陽炎ををんなにとられ滑走路 小島千架子
露草や島に古りたる滑走路 水見寿男
風になりたる五月の滑走路 植山恂子
鳥交る日に一便の滑走路 山川安人
麦秋や海に迫り出す滑走路 高橋秀夫