●隘路●青田道●悪路●畦道●アベニュー●荒磯道●蟻の道●蟻道●家路●石道●伊勢道●磯路●一里塚●一揆街道●一本の道●一本道●田舎道●犬戻り●インターチェンジ●植田道●畝道●海路●裏街道●裏参道●浦路●裏通り●裏抜け●裏の道●裏道●迂路●運河●枝道●沿道●遠路●往還●往来●往路●大路●大通●御成道●表街道●表通り●貝殻道●海道●街道●街路●帰り道●崖道●片道●通い路 通い道●刈田道●雁道●川路●間道 閑道●木曾路●狐道●帰途●軌道●絹の道●旧街道●旧道●行者道●切通し●岐路●帰路●隈路●車道●獣道●県道●険路●交叉路●小路●高速道路●高速路●公道●坑道●航路●行路●コース●国道●古道●小道
●隘路
●青田道
あしびきの良寛みちは青田みち 田中水桜
そうめんともう決めている青田道 坪内稔典
カーナビの指示にも迷ひ青田道 尾首美知子
何はなくとも青田道あればよし 橋本敏子
先生の月の句遺る青田道 京極杞陽 くくたち下巻
出勤の車の列よ青田道 大山妙子
出奔の成らざりし日の青田道 沖田行人
合羽着て父煙り去る青田道 石塚友二 光塵
日に二度のバスが尾をふる青田道 青木千秋
書きだめて手紙ふところ青田道 石橋秀野
申し訳ないやうな青田道あるく 岡本眸
自転車が占む青田道青田駅 小黒黎子
鉤の手に青田道来て参陵す 岡村英彦
青田道来て礼拝の顔揃ふ 谷島 菊
●悪路
妻が押す稲車今悪路出づ 田川飛旅子 『外套』
彼岸観世音来給ふ村の悪路より 百合山羽公 寒雁
美しく悪路乾きて麦車 百合山羽公 寒雁
花ほつほつ咲き出す山に悪路なし 高澤良一 寒暑
菊咲けり悪路つゞきの家々に 右城暮石 声と声
●畦道
うぶすなに尽く畦道に薺摘む 吉田以登
なまはげのひとり畦みち帰りけり 小原啄葉
わすれな草咲く畦道も斬罪址 沼澤 石次
国古し冬の畦道直ぐなるは無く 宮津昭彦
太宰府の畦道潰えきんぽうげ 山口青邨
太郎次郎枯畦道を登校す 石川文子
学童の霜の畦道通りゆく 桜井征支朗
早稲の香の畦道抜けて来りけり 副島静枝
早苗饗もすみそれ〜に畦道ヘ 高木晴子
油火を点す畦道秋祭 茨木和生 往馬
犬ふぐり畦道に火はつけられて 岩崎令子
畦みちを春のいそぎの空手かな 手塚美佐 昔の香
畦道にすべる風あり仏の座 後藤小石
畦道に日の残りたる蛇苺 西島美代子
畦道に涼みけり牛よけたまゝ 納涼 正岡子規
畦道に若菜つむ少女並びけり 菊の苗 正岡子規
畦道に蓬摘みゐる親子連 佐古寛一郎
畦道のつゞくかぎりは花煙草 小野 鶴子
畦道の失せて狐の牡丹かな 佐々木六戈
畦道の曲り曲りや蓼の花 蓼の花 正岡子規
畦道の消えて狐の牡丹かな 佐々木六戈 百韻反故 初學
畦道の盡きて溝あり蓼の花 蓼の花 正岡子規
畦道の蚤の綴りを受け継ぎて 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
畦道の蚤の綴を継承す 佐々木六戈
畦道や曲り曲りの土筆 土筆 正岡子規
畦道や月も上りて大熊手 酉の市 正岡子規
畦道や苗代時の角大師 水田正秀
畦道や鰤五七駄を年の物 鸞路
畦道をうろたへ廻る時雨かな 水田正秀
畦道を団地へうかれゆく猫か 亀井糸游
畦道を好き放題に雉筵 高田正子
畦道を来つつある子の霞みけり 大峯あきら
畦道を来る姉妹の春著かな 館岡沙緻
畦道を歩いて春の日が暮れぬ 今井杏太郎
畦道を禰宜につく児等御祓かな 西山泊雲 泊雲句集
畦道を鴉のあるく祭笛 椎橋清翠
通り抜けできぬ畦道蛍狩 佐藤之朗
降り足らぬ畦道ほてる魂むかへ 加藤一郎
風花の畦道つたひ訪れぬ 高木晴子 晴居
●アベニュー
●荒磯道
大根負ふ腰入れ直し荒磯道 稚魚
屏風売ゆらりと曲り荒磯道(松ヶ崎) 岸田稚魚 『負け犬』
東門の奥は雪積む荒磯道 猿橋統流子
獅子舞と行き過ぎしより荒磯みち 秋元草日居
●蟻の道
「光あるうちに」とはげむ蟻の道 下村ひろし 西陲集
かたばみの花をめぐるや蟻の道 酸漿草の花 正岡子規
とまと一つ大蟻の道塞ぎをり 古川ヨシエ
アパートの二間貫く蟻の道 品川鈴子
一筋に秋や真赤な蟻の道 小檜山繁子
先頭もしんがりも無く蟻の道 斉藤葉子
句碑の文字なぞりて蟻の道となる 稲畑廣太郎
塵取にすこしかゝりて蟻の道 桜坡子
大風に吹き曲げらるる蟻の道 高澤良一 宿好
学問の迷ひにも似て蟻の道 能村研三
密林の奥へ消えゆく蟻の道 大森光栄子
手を抜きし家事を知られて蟻の道 水田むつみ
掌が寒しまだ一本の蟻の道 対馬康子 吾亦紅
教会の門より出づる蟻の道 山内山彦
日盛りや踏みても消えぬ蟻の道 岩田由美 夏安
梅雨晴やところどころに蟻の道 正岡子規
永き日や本堂めぐる蟻の道 日永 正岡子規
火の島の火口に近き蟻の道 保坂伸秋
石獣の口よりつづく蟻の道 山崎冨美子「足音」
舁かれゆく萩の花あり蟻の道 軽部烏頭子
蟻の道つづいてをりし爆心地 保坂伸秋「微光」
蟻の道つづき人の世飢えてけり 赤城さかえ
蟻の道はづれし蟻につづく蟻 原勲
蟻の道まことしやかに曲りたる 青畝
蟻の道より別れゆく蟻の道 松崎亭村
蟻の道仏足石を越えゆけり 服部高明
蟻の道円周率の字がつづく 市ヶ谷洋子
蟻の道墓行く道と眩く 石塚友二 方寸虚実
蟻の道大木にあり今日も同じ 上村占魚 球磨
蟻の道大磐石にかかりけり 細川加賀 『玉虫』
蟻の道大蟻急ぎ横切れり 高田風人子
蟻の道屁屎葛を引つ張れば 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
蟻の道影おちつける竹数本 村越化石 山國抄
蟻の道念珠繰る如つゞくなり 塩田東邨
蟻の道昨日の如くありしかな 片岡奈王
蟻の道晩翠草堂より出でぬ 蓬田紀枝子
蟻の道白雲木の花降れり 水原秋桜子
蟻の道碑へまつすぐに立ち上がる 小原啄葉
蟻の道聖地へつづくごとくあり 新明紫明
蟻の道薄日しみ〜さしにけり 林之助
蟻の道見てをり椅子の背ナ抱ヘ 行方克己 無言劇
蟻の道話の好きな蟻もいて 中村重義
蟻の道象牙の塔を出てきたり 井川市三
蟻の道遺業はこごみ偲ぶもの 雨宮昌吉
蟻の道雲の峰よりつづきけん 一茶「おらが春」
複雑な家系墓碑へと蟻の道 佐藤登季
轟々と走る跫音蟻の道 柴崎左田男
陽を浴びて既に始まる蟻の道 岩崎恒子
●蟻道
落花地に樫の山蟻道作る 松瀬青々
●家路
いつもより家路の遠く風邪心地 水田むつみ
うかと出て家路に遠き躍かな 召波
おぼめかす家路の宮に帽を脱る 下村槐太 光背
じふぶきに足が覚えてゐる家路 後藤洋子
すたすたと宵闇かへる家路かな 飯田蛇笏 山廬集
たくさん雑茸を採つて戻る山みちの一つを家路とする 安斎櫻[カイ]子
つゆすべる螢いくたび見し家路 松村蒼石 雁
どの道も家路とおもふげんげかな 田中裕明 先生から手紙
ひぐらしの告るもしらぬ家路かな 宗因
ひぐらしや急ぐ由なき家路にて 石川桂郎 四温
ゆふべやや寒き家路や梨の花 相馬遷子 雪嶺
わが旅も家路をさしぬ都鳥 下村梅子
オリオンに向ふ家路や凍てる夜 神田典夫
オリオン凍つ家路幾度の曲り角 齋藤愼爾
メーデーの遂に一人の家路にて 伊丹 丈蘭
万緑の中へ中へと家路かな 藤野順子
中學生二里の家路の山紅葉 相馬遷子 雪嶺
人親しわきて家路の凍てゆるぶ 飯田蛇笏 雪峡
住み慣れしかど馴染まなく蚊の家路 石塚友二 方寸虚実
初句会星美しき家路かな 内藤豊子
墓地抜けて家路へ急ぐ日短か 福田蓼汀 山火
夏の星空の家路よ犬の寝そべり 小澤碧童 碧童句集
夕月や家路となれば家恋し 松尾静子
夕月夜人は家路に吾は旅に 星野立子
夕蝉や家路といふは幾曲り 鈴木鷹夫 風の祭
夕霧に微風ながれて家路かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
夕霧や家路に馬のおとなしき 西島麦南 人音
夕風の白き茅花の家路あり 山田弘子 こぶし坂
子は医師に委ね家路の霜踏めり 石塚友二 光塵
学童に雪あらたなる家路あり 石橋辰之助 山暦
家路とは情のあるもの夕時雨 粟津松彩子
家路とる身に寒千鳥な鳴きぞ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
家路なる御陵の鴨も引きけらし 亀井糸游
家路なる眞夜の枯野は行くべかり 山口誓子
家路のくらい飾り竹の風すぐる音 碧童
家路の娘球菜をだきて幸福に 飯田蛇笏 春蘭
家路の宵のぬかるを知りつつ暖冬 梅林句屑 喜谷六花
家路やすらか太刀魚の銀を見て 友岡子郷 春隣
家路忘れて薫風に乗りしか妻よ 安井昌子
寒柝も街も後にす家路かな 中村草田男
師は荼毘に吾は家路に朧月 橋本美代子
師走三日月家路は誰も靄まとふ 古沢太穂
年々や家路忘れて年の春 井上井月
年々や家路忘れて花の春 井月
弦月のかかる冬至の家路かな 川口利夫
慈善鍋余所目に急ぐ家路かな 清原枴童 枴童句集
放牛に涸れ沼を渡る家路あり 加倉井秋を
昇給を蛙が囃す夜の家路 菖蒲あや 路 地
春の星母の家より吾が家路 高木晴子 花 季
春の暮家路に遠き人斗(ばかり) 蕪村
春めくと家路半ばにして思ふ 高澤良一 宿好
月が照る家路は畦も落葉かな 及川貞
木枯を背に待つ人のなき家路 中島京子
木犀の香り伝ひの家路かな 高橋逸郎
桑野明り家路ぐんぐん縮むなり 林原耒井 蜩
梟や森の家路の子に遠し 原柯城
極楽鳥花抱へる家路冬北斗 斉藤智子
橇あそび家路の雪の凍りゆく 石橋辰之助 山暦
残してや家路を急ぐ鰯売 古白遺稿 藤野古白
汐まねき夕日の家路はるかかな 友岡子郷 日の径
洗ひたる楮雫の家路かな 山田弘子 螢川
淋しとは美しき事菫咲く家路へ 安斎櫻[カイ]子
満月の冴えてみちびく家路あり 飯田龍太 童眸
潮浴びし家路しだいに地の固さ 小内春邑子
父われが冬夜口あけ家路にあり 石橋辰之助
犬も亦凍湖を渡る家路あり 青葉三角草
田植女の誰も火がまつ家路あり 福田甲子雄
異国の虫吾子居ぬ家へ家路とて 平井さち子 完流
病む父のありての家路寒の月 深見けん二
秋の暮家路はいつも坂上り 山田弘子 懐
秋風をそびらにいそぐ家路な 竹下しづの女句文集 昭和十二年
終に夜を家路に歸る鉢たゝき 蕪村遺稿 冬
綿取りや犬を家路に追ひ帰し 蕪村
草おぼろ木おぼろ家路しかと踏む 下村槐太 光背
草匂ふ夜の家路や青葉木菟 星野椿
草枯るゝ家路の闇のあたゝかく 金尾梅の門 古志の歌
蚊がかほにあたる家路を疲れつつ 森川暁水 黴
蝗皆居向をかふる家路かな 阿波野青畝
蝙蝠に足のもつるる家路かな 森川暁水 黴
蝸牛家路を辿る子に似るか 村越化石
螽皆居向をかふる家路かな 阿波野青畝
豆撒きの夜の雪やむや家路急き 石川桂郎 含羞
身ひとつの海女の家路に夏小菊 下田稔
酔眼の一寒燈を家路にす 石川桂郎 含羞
釣瓶落し夫亡き家路急ぎけり 菊池静子
長旅の家路近づく半夏生 吉田孤羊
降る雪や旅人われに家路なく 山本歩禅
隠亡の家路を照らす蛍かな 麦南
隠亡の家路を照らす螢かな 西島麦南 人音
雉子うちてもどるや家路の日ハ高し 蕪村遺稿 春
雉子うちてもどる家路の日は高し 與謝蕪村
雉打て帰る家路の日は高し 蕪村 五車反古
雨淋し家路の螢肩に背に 木村蕪城 寒泉
電球転がる枯野が家路一教師 齋藤愼爾
霙打つ家路見てゐる男靴 谷口桂子
霧に濡れ踊子も夜の家路なる 石原舟月
青饅や家路の果に家はあり 友岡子郷 風日
鴫たつや凡夫家路のいそがるる 白雄
麦嵐瞳をつむりてもひかる家路 藤本由美子(萬緑)
●石道
凍雪に松飾挿す石道寺 後藤和朗
初氷木曾石道の石の窪 矢島渚男 延年
後撓ひ下る石道苔の花 石塚友二 方寸虚実
石道のくわんおんさまやお茶の花 大石悦子 群萌
石道寺さまのふるみち栗咲いて 関戸靖子
石道寺世話方留守や唐辛子 八木林之介 青霞集
石道寺門松立ててゐるところ 大峯あきら 宇宙塵
雪は野をおほひて山に石道寺 八木林之介 青霞集
●伊勢道
ゆくりなく伊勢路に入りて荻の声 松宇
三伏のにはとり走る伊勢路かな 吉田汀史「浄瑠璃」
伊勢みちを子のよき声に注連貰 内山芳子
伊勢路より伊賀に岐るる菜種梅雨 古舘曹人 砂の音
伊勢路馳る馬車かつ〜と初日影 金尾梅の門 古志の歌
伊勢道の拳のやうな蓬餅 大石悦子 百花
山越えは古き伊勢みち藤の花 山口みちこ
左伊勢路とは中仙道やきりぎりす 草田男
新樹寄す伊勢路いよいよ神の国 坂本美代子
春子山そこを伊勢みち日の中へ 岡井省二
春雪の伊勢路を語り曽良語り 山田弘子 こぶし坂
潮騒の二見泊りに伊勢道者 高橋淡路女 梶の葉
神御衣祭伊勢路いちめん田の植わり 近藤一鴻
神風の伊勢路の花に遊ぶなり 鈴鹿野風呂 浜木綿
誓子忌の伊勢路に遇ひし初燕 山口超心鬼
軒ごとの太注連飾伊勢路かな 染谷彩雲
鈴鹿越伊勢路となりて葛の雨 鈴鹿野風呂 浜木綿
●磯路
冬の日や磯路は濡れて松落葉 有働亨 汐路
磯路ゆくバスに飛びつく波の花 水田江葦
秋潮に磯道かくれ机島 田村愛子
落葉しげき磯みち英虞の朝日踏み 河野南畦 湖の森
雛まつる小家に著きぬ磯路来て 岡本松浜 白菊
●一里塚
みちをしへとんで妻籠の一里塚 大橋敦子 匂 玉
むく大樹芽ぶくと見ゆる一里塚 佐藤ちゑ
一里塚に声かけてゆく雪の旅 小川原嘘帥
一里塚過ぎ日盛の塩の道 佐々木小夜
冬草のつづきし道の一里塚 五十島典子
北風やわが生涯の一里塚 星野立子
杉の葉の雨が冷たし一里塚 中拓夫 愛鷹
柵されて榎の実をこぼす一里塚 小林勇二
榎の実熟るる志村の一里塚 斎藤一郎
清明の風きらきらと一里塚 甘田正翠
登りつめたる葛が首振る一里塚 加藤知世子 花 季
秋暑し榎枯れたる一里塚 茅舎
秋風や乗りてあそびし一里塚 長谷川かな女 雨 月
空っぽの鉄鉢が行く一里塚 内田利之
篠の子や石手の奥の一里塚 清水基吉
草餅や中仙道に一里塚 福原紫朗
蕗の葉を傾けし風一里塚 柏原眠雨「炎天」
野は焼けてすつくり高し一里塚 焼野 正岡子規
銀杏黄葉日のまろうして一里塚 井桁衣子
門まつや冥途のみちの一里塚 井原西鶴
●一揆街道
●一本の道
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり 斎藤茂吉
一本の道つけて来し雁のこゑ 鷹羽狩行
一本の道ひよろひよろと麦の秋 中村鈍石
一本の道を微笑の金魚売り 平畑静塔(1905-97)
一本の道両側の秋の暮 草間時彦
向日葵や一本の道グラナダヘ 関 禎子
山に入る一本の道箱庭に 鈴木鷹夫 千年
峠まで一本の道雁渡し 草間時彦
川に沿ふ一本の道や草田男忌 川崎慶子
掌が寒しまだ一本の蟻の道 対馬康子 吾亦紅
炉塞いで一本の道麓まで 神尾久美子 桐の木
穂薄や牛は一本の道負ひて来る 岩田昌寿 地の塩
菜の花咲く一本の道来迎図 中山純子 沙 羅以後
青田貫く一本の道月照らす 臼田亞浪 定本亜浪句集
鵙鳴いて一本の道とほりたり 村越化石 山國抄
麦刈りへ一本の道食運ぶ 沢木欣一
麦熟るる一本の道渇きをり 穴井太 原郷樹林
●一本道
たんぽぽと一本道とあそびをり 藤田湘子 てんてん
一戸より一本道や夕桜 小川軽舟
何処までも一本道や桃の中 松本たかし
元日の道ゆく一本道愛し 大熊輝一 土の香
吾を容るる故郷や月の一本道 青柳志解樹(1929-)
夕暮の一本道の木槿かな 小川軽舟
寺領谷一本道の晩稲かな 奥村住実子
山裾の一本道の木の芽風 千原満恵
戦前の一本道が現るる 三橋敏雄(1920-2002)
来るかげや桔梗くもりて一本路 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
母許へ雪の一本道急ぐ 山田弘子 螢川
水鳥となるまで猫の一本道 鳥居美智子
海へ出る一本道やあづま菊 小島火山
涼しさは一本道の母の墓 大木あまり 火球
滝道の一本道を引き返す 右城暮石 上下
胸中の一本道もねこじやらし 小檜山繁子
花野なる一本道を神父来る 歌川山黛
蛙鳴く在原寺へ一本道 川崎展宏
蜩の一本道を来りけり 大峯あきら 宇宙塵
門を出て一本道や石蕗昏るゝ 波多野爽波
雪消田の一本道を山に継ぎ 岸田稚魚 筍流し
霍乱や一本道の気付け針 太祇「題林集」
駅からの一本道が恵方道 塩川雄三
鮎食つて峡の一本道帰る 辻田克巳
麦藁帽吹かれ喉焼く一本道 桜井博道 海上
●田舎道
初午や半日程は田舎道 初午 正岡子規
我等夫婦田舎道者や春の風 西山泊雲 泊雲句集
田舎道いづこの父のカンカン帽 中山純子 沙 羅以後
田舎道まつすぐ白し霍乱す 飯田綾子
菜の花や娘に出あふ田舎道 菜の花 正岡子規
蝶々や妻の嫌ひな田舎道 青葉三角草
田舎路の馬車馬痩せぬ草いきれ 夏痩 正岡子規
田舎路は鷺こきませて青田哉 青田 正岡子規
●犬戻り
●インターチェンジ
●植田道
遠い樹ばかり見てゆけり植田みち 柴田白葉女 花寂び 以後
●畝道
畝道を来たりて御慶申しけり 山本洋子
●海路
海路にて着きし熊野の初詣 川口美江子
海路八月暗く遠のく繭の棚 宇佐美魚目 秋収冬蔵
海路来て灼くる埠頭に旅終る 山口波津女 良人
海路遠見の羅漢の前後 柿紅葉 伊丹公子 沿海
瓜揉んで待てど海路に日和なし 鈴木真砂女 夕螢
●裏街道
凍て埃り裏街道は初大師 石原舟月
●裏参道
●浦路
●裏通り
けつまづくピエロ秋めく裏通り 笹岡峠
にやあと鳴きたい夏の夜の裏通り 祐森彌香
人混みを避け啓蟄の裏通り 納富はじめ
売る菓子の乾く花見の裏通り 桂信子 黄 瀬
木天蓼や昔色町うら通り 段原スミヱ
梅二月脂粉の匂ふ裏通路 浜島君江
棚橋や水鶏に近き裏通り 井上井月
歳の市裏通りより入りけり 桂信子
河骨や古き都の裏通り 井上豊
祭の裏通りが好きで、深まりゆく傷だ 田中 陽
秋風やいつも子の泣く裏通り 石井保
箱に咲く朝顔銀座裏通 松尾隆信
虫鳴いて砂漠の町の裏通り 山口牧村
裏通りの灯までゆきつく陶器祭 桂信子 花寂び 以後
裏通りよりセロハン巻いた春休み 森須蘭
裏通り少し歩きて春惜しむ 渡辺雅子
裏通り梨は終りて柿を盛る 松岡さよ子
裏通り樞の音や百日紅 横光利一
襟まきやしのぶ浮世の裏通 永井荷風
襟巻やしのぶ浮世の裏通り 永井荷風
質屋あり雁木もここら裏通り 小林樹巴
雪掻きの真似事する子裏通り 高澤良一 随笑
鬼灯を咲かす六波羅うら通り 佐藤麻緒
●裏抜け
●裏の道
●裏道
はぐれけり林檎の皮の裏道に 森谷彰
下駄作る街の裏道鳳仙花 田島蔦子
傘さして梅雨の裏道和尚来る 山田山三
吉原の裏道寒し卵塔場 寒し 正岡子規
土用三郎裏道を風抜けて 石川美佐子
想い出の裏道あるく羽抜鶏 穴井太 天籟雑唱
眼を病みて四月裏道のみ歩く 中川須美子
絵硝子の見える裏道 飛ぶ天使 伊丹公子 時間紀行
老鴬や裏道抜け道御師部落 岡田日郎
裏道に垂れ烏瓜忘らるる 大熊輝一 土の香
裏道に緑陰が見えそこへゆく 桂信子 遠い橋
裏道の貝がら砂利や霜柱 丸之 選集「板東太郎」
裏道は捨てある関や閑古鳥 菅原師竹句集
裏道は虻が吸ひゐる胡麻の花 細見綾子 花寂び
裏道やおこん花咲く小笹垣 枸杞 正岡子規
豆腐買ふて裏道戻る野分哉 野分 正岡子規
銀杏落葉城の裏道明るうす 池田三斗史
●迂路
妹が目を閉じ蜜柑咲くおかしな迂路 宮崎二健
葦枯るる迂路の電柱うなり立つ 成田千空 地霊
●運河
おはよう運河 登校の徽章映えては消え 伊丹公子 メキシコ貝
お会式太鼓夜の運河に打ち連ね 加藤望子
かげろふや運河へひらく家の門 日原傳
きりきりと運河満船受験の刻 寺田京子 日の鷹
くちびるに夏来る運河しづかなり 皆吉司
さざなみの余白は暗し冬運河 北見さとる
しぐるるや船いま運河わたるとき 佐川広治
ななかまど明りの道を運河まで 成田智世子
はたはたや夕は船のなき運河 福田蓼汀 山火
はつはなのはまなすの濃き運河かな 永島靖子
カンツォーネ運河に響き秋麗 森田文
カンナひらひら運河逆流してゐたり 山田真砂年
シリウスの真下の黒き運河かな 柴田いさを
ゼラニューム溢るる窓も運河沿ひ 稲垣きくの 黄 瀬
一人のオウバア衿より灯る運河べり 寺田京子 日の鷹
七夕の運河汲みては船洗ふ 小林康治 玄霜
七月の運河見てゐる傘を垂れ 大屋達治 絵詞
三伏の運河臭ふや職変る 皆川白陀
三月十日運河に赫い毬ひとつ 酒井雪子
九月はや運河に人の咳ひびく 榎本冬一郎 眼光
五月来る運河にギター沈みゐて 皆吉司
傾けばさびしさ集れり運河の帆 細谷源二 鐵
儀式一つ映して唖となる運河 増田まさみ
八月や艀ふたげる癈運河 八木林之介 青霞集
兵庫運河兵庫大仏鳥曇 大高弘子
冬の運河に光渡してバス廻る 田川飛旅子 花文字
冬シャツ乾く運河と熔鑛爐の間 中島斌男
冬運河雲の屍がふたつほど 本庄登志彦
出鉄を見し眼冬日の運河越ゆ 桜井博道 海上
初天神黒き運河を越えて来ぬ 村山古郷
利根へ続く運河の茶屋の帆掛鮓 久米正雄 返り花
利根運河燕一直線に飛ぶ 岩崎照子
十三夜木場に名残りの江戸運河 中島五月
古き町運河に沿へり夾竹桃 水野爽径
古傷のたぐい運河に窓落ちて 増田まさみ
啼き移る田鶴に運河を拓きゐる 神尾久美子 掌
啼鳴や運河も昏れて哭くときあり 三橋鷹女
墨いろの運河へ垂らす秋すだれ 有馬籌子
壜の尻浮く憲法の日の運河 出井一雨
夏みかんの皮の黄浮かべ運河の朝 古沢太穂 古沢太穂句集
夕焼や鍛冶の火ともる運河べり 木下夕爾
夕風絶交運河・ガレージ十九の春 高柳重信
夜の運河どこか黍引く音がする 伊藤淳子
夜の黄葉運河に並ぶ娼婦館 棚山波朗
夜学淋し運河の破船玻璃に峙つ 橋本鶏二
夜業果て運河にそそぐ水細る 宮武寒々 朱卓
夾竹桃さき運河ゆく蔬菜舟 西島麦南 人音
夾竹桃運河一本鉄のごと 永方裕子
定めなき運河の日紋夏は行く 細見綾子 黄 炎
寒夕焼運河をそめて昏らかりき 塚原麦生
寒念仏運河の橋を渡りけり 成田智世子
小樽初夏大道芸も運河べり 小倉英男
小樽運河ガス燈黄なる雨月かな 細井みち
小樽運河庇に並ぶ大氷柱 小木曽フジヱ
少女らに異なる未来運河の灯 寺井文子
少女らに運河の桜濡れどおし 井上純郎
少年泳ぎ赤子が笑う 運河の家 伊丹公子 山珊瑚
工場地帯へ虻が先ゆく運河わたる 古沢太穂 古沢太穂句集
帆を燈しゆふべの運河布となる 細谷源二 鐵
年終る運河の夕日肉色に 三谷昭 獣身
廃運河何に波立つ雪の中 水原秋櫻子
廃運河水澄む秋をやゝ澄めり 水原秋櫻子
忘年会果てて運河の灯影かな 小川濤美子
手摺なき運河の柵や春の潮 上野泰 春潮
旅人に運河波立ち降る霙 有働亨 汐路
春の雷漁邑の運河潮さしぬ 西島麦南 人音
春場所の太鼓に運河光るなり 渡辺亀齢
昨日捨てた花 氷る 運河に街詰まり 伊丹公子 メキシコ貝
昼寝覚腹に溜つてゐる運河 杉野一博
時の日の笛歇む運河鳩飛べり 宮武寒々 朱卓
時効だと告げる運河に雪降れば 櫂未知子 貴族
時化波の運河に魂を送りけり 加藤三七子
晩涼や運河の波のややあらく 中村汀女
暗車の朱うかべて運河神無月 宮武寒々 朱卓
月明く焦土の運河潮満ちたり 内藤吐天 鳴海抄
月涼し運河をめぐるカンツォーネ 今留治子
枯尾花運河はなにもかも隠す 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
柳散る運河の奥ヘタグボート 大島民郎
梅雨に入り運河のくろさ胸を占む 榎本冬一郎 眼光
梅雨運河まれに舟過ぐ樫の幹 文挟夫佐恵 黄 瀬
橋に零れ運河に零れ桐の花 日原傳
橋のせて黒き運河の街冬に 深見けん二
歳晩の運河身軽きかもめ来て 高井北杜
河口にて運河は終る鰯雲 佐藤鬼房 何處ヘ
浪尖る小樽運河や秋日影 坂川 巌
海鳴りやことに冬至の運河べり 水谷郁夫
漂へる手袋のある運河かな 高野素十(1893-1976)
火を焚けば運河にうつり且ひゞく 榎本冬一郎
灯を籠めて運河凍てむと揺蕩へり 下山芳子
炎昼の運河の筏動かざる 阿部寿雄
燃ゆる石炭棄てて運河の落葉照らす 加藤楸邨
狐火のひとつがとびて運河あり 森川暁水
狐火や二つに岐れ一運河 加倉井秋を 『風祝』
獅子舞の胸紅く運河渡るなり 石田波郷
玉虫を手でかこみゆく運河ぞひ 細見綾子 天然の風
町裏にのこる運河もみどりさす 古賀まり子 降誕歌
白菜わづかに干してここの運河に一家族 古沢太穂 古沢太穂句集
盆浴衣運河の夜風鉄くさし 石田波郷
短日や運河の水のやつれゐて 片山由美子 風待月
秋ざくら倉庫とともに運河古る 赤塚五行
秋の日が好きと運河の藻はそよぐ 川崎美知子
秋意ふと運河の水の匂ふとき 下鉢清子
秋暑き運河に落とす犬の貌 石寒太 翔
秋暑し小名木運河のもやひ杭 福島壺春
秋霖の運河櫛比の窓映す 山口青邨
筏漕ぐ佐太の運河や鰡飛べり 川上忠良
緑蔭に椅子あり小樽運河あり 鈴木鷹夫 風の祭
羽子浮かぶ今日の運河のさざなみに 加藤三七子
脊椎の抱かれるときは運河なり 田中亜美
臘梅や運河を渡る友二の葬 鳥居美智子
舟の窓より赤き風船運河のぼる 加藤秋邨 まぼろしの鹿
船この日運河に入るや雲の峰 夏目漱石 明治三十六年
船倉の葡萄は熟睡して運河 塩見恵介
芙蓉枯れ朝の書斎に運河の日 木村蕪城
芝枯れて運河は青し朝のお茶 片山桃史 北方兵團
花真菰汽船通はぬ利根運河 上田夜唱
花種買ふ運河かがよひをりしかば 石田波郷
芽柳や鰡の影差す運河べり 角田太一
草摘に光り輝く運河かな 川端茅舎
萍の一夜に運河塞ぐなり 葛山たけし(天狼)
葭切や貯木運河のうす濁り 鈴木三四郎
葭切や運河さびしく突き出せり 原田喬
葭簀越しに運河が匂ふかなしけれ 加倉井秋を 午後の窓
薔薇酒すこし飲みたるわれに大運河小運河の脈絡暗し 葛原妙子
蘗の屋上園祠運河見ゆ 宮武寒々 朱卓
蠅取リボンきらめく運河べりの家 沢木欣一
裁判や冬の運河に花流れ 島津 亮
赤い紫陽花に運河がきて曲がる 和知喜八 同齢
赤潮の運河をのぼる速さかな 大山春江
身に入むや運河に流す厨水 石川文子
逆落つるごとく運河の壁に芥子 石原八束 『人とその影』
遅れ焚く門火が澄めり運河べり 古賀まり子 洗 禮
運河くろし投げては盆供漂はせ 石田波郷
運河に入る水母を海が呼びもどす 橋本美代子
運河より雨の匂ひや桜桃忌 見永千恵子
運河冬水垢にほひ飢ゑ湧き来 細見綾子
運河却つて国を亡ぼしぬ雲の峰 久米正雄 返り花
運河夏向き変う方にも走るクレーン 古沢太穂 古沢太穂句集
運河悲し鉄道草の花盛り 川端茅舎
運河春昼亡父の旧知の舟漂よひ 神尾久美子 掌
運河春風ビルの窓より花買はれ 神尾久美子 掌
運河暗し秋暑捨つべきところなく 大谷碧雲居
運河暮れゆき蝙蝠の空となる 清水攝郎
運河温み大地に薊復活す 神尾久美子 掌
運河濃く冬菜の青のただ一条 三谷昭 獣身
運河老ゆ海月は群れて乳色に 中村明子
運河老ゆ蓮葉氷に海猫乗せて 佐藤まさ子
酢の倉の運河引き込む春の雨 今泉かの子
野分めき運河小暗らし煤降れり(はじめて波郷先生を訪ふ途上) 細川加賀 『傷痕』
銀やんま運河の黒き水を打つ 佐藤至朗
鐘響く運河の街の五月かな 平野無石
鑑真の船出の運河柳絮とぶ 目貫るり子
長春花運河の瞑さ解きほぐす 沼田布美
閑な市電尻ふり早春の運河沿いに 赤城さかえ句集
隋の世の運河流れてゐる遅日 田中由子
雪の運河艀火を焚く氷るため 小林康治 玄霜
雪柳古き運河に水通す 堤 妙子
雲流れ運河は秋の水湛へ 池内友次郎 結婚まで
霞みても紺青コリントス運河 石原八束 人とその影
露地裏の暗き運河ぞ雁渡し 高橋北斗
青年の眼の奥いくつもの運河ある 藤本一幸
風花に運河は青く廃れゆく 木村蕪城 寒泉
食器洗う白き運河に卯波立つ 綾野南志
馬立ちて運河にうつる朝曇り 榎本冬一郎 眼光
高西風の蒼き運河に鴎翔く 細田寿郎
高速路良夜の運河わたりけり 大島民郎
鰡とぶや運河に潮の満ちきたる 道川源治郎
鰡跳ねて潮の道ある旧運河 道川虹洋
鳥渡る小樽運河の石の倉 有村節香
鳥雲に湾岸道路運河越ゆ 上島顕司
鴎とび雪解濁りの運河かな 高濱年尾 年尾句集
麦芽ばえ寒の水舟運河ゆく 西島麦南 人音
麻打ち洗う運河暗緑の旅なり 金子皆子
黄塵に暮れゆく運河燈ともさず 竹下陶子
黒い運河の艀密着して眠る 赤松太郎
黒南風の切傷に沁む運河べり 秋元不死男
●枝道
まくなぎや枝道互生の植木村 平井さち子 完流
一分五間枝道うれし四方の花 調幸子 選集「板東太郎」
卯の花や枝道は温泉の箱根越え 素外
枝道としらずのどけし歩一歩 加藤郁乎(1929-)
枝道に枝道折るるやまぶき草 石川桂郎 四温
枝道の又枝道の忘れ雪 村越化石 山國抄
枝道は古道結葉の翳深し 猪股洋子(秀)
枝道は砂丘に消えて実*はまなす 鍵和田[ゆう]子 未来図
●沿道
落人部落沿道飾る秋桜 鈴木勘之
沿道にほとぼり醒ます祭人 高澤良一 素抱
沿道に汗を振りまき阿呆連 高澤良一 寒暑
●遠路
うぐひすや遠路ながら礼返し 其角
月の野を渉りしよりの遠路かな 尾崎迷堂 孤輪
梅の枝持つて遠路を女客 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
●往還
下駄履いてすずしき河岸の往還り 尾村馬人
山がかる秩父往還かたくり咲く 瀧 春一
山襞に入る往還や手鞠唄 綾部仁喜 寒木
平凡な往還かがやく蛇の殼 沢木欣一
往還といふ秋の暮また秋の暮 沼尻巳津子
往還にむけて猪吊る丹後かな 河野照子
往還に出て竹馬の秩父の子 森田公司
往還に向いて昼餉す露の秋 宮武寒々 朱卓
往還に大津絵を買ふ柿の秋 加古宗也
往還の上雪嶺のたたずまひ 猪俣千代子 秘 色
往還の巡礼ばかり葱坊主 井沢正江
物音の死して往還油照り 青谷小枝(春月)
猪よぎる阿蘇の往還芽吹く音 穴井太 原郷樹林
田落して往還人に交りけり 楠目橙黄子 橙圃
短夜の月の往還をとぶ蛙 原石鼎 花影以後
秋風に往還翳るひとところ 小林康治 『叢林』
秩父往還メロディバス来橡咲けり 清水山彦「山火合同句集」
秩父往還朝から雨の仏生会 曽野 綾
稲の花伊勢往還の海に沿ひ 橋本榮治 逆旅
繭も紙も往還の関秋霞 田中英子
草に花往還つねに急がれて 沼尻巳津子
蚕飼ふ往還に葛咲きかかり 猪俣千代子 秘 色
●往来
あてどなく廊下往来や春の雨 西山泊雲 泊雲句集
いくばくの書簡の往来青簾 金田咲子 全身
おそろしき人の往来に灯の凍てず 大場白水郎 散木集
お詣りの往来見えをり枯木茶屋 阿部みどり女 笹鳴
ことごとく沖さすヨット往来忌 山崎ひさを
この門の木犀の香に往来かな 高野素十
ひたと冬見て馬ら秩父市往来す 阿部完市 軽のやまめ
まぎれなき風の往来や葛かづら 岸田稚魚 筍流し
まだ解けぬ氷に人の往来かな 凍解 正岡子規
ポストが口あけている雨の往来 住宅顕信 未完成
一人来て種蒔くまでの畦往来 高野素十
一月のひとの往来に村古るぶ 長谷川双魚 風形
二百十日雲の往来に終りけり 椎名水村
人待つや秋の夕ベの往来中 白水郎句集 大場白水郎
冬の蚊の往来してゐる二間かな 岸本尚毅 舜
凩や往来をひた走る鶏 内田百間
切干や人の往来のまれにあり 九鬼あきゑ
初秋や往来端の竹細工 井上井月
初鼓日の有難き往来かな 永井龍男
口たゝく夜の往来や花ざかり 炭 太祇 太祇句選後篇
向き〜に往来人や霧の中 西山泊雲 泊雲句集
団扇まき近づく水をえび往来 宇佐美魚目 秋収冬蔵
夏山や一方開く帆の往来 夏山 正岡子規
夏帽や暮れてしばしの町往来 青峰集 島田青峰
夕映の海芋や神父往来す 小池文子 巴里蕭条
夜の秋の影も生絹の往来かな 橋石 和栲
夜長の子夫婦の膝を往来して 黒坂紫陽子
大根さげ街の往来の中にあり 岡崎な津
大蟻の往来せはし風化仏 山田弘子 初期作品
天窓を激しきものら往来せり 沼尻巳津子
山茶花を道楽として往来する 太田雄司
崖の上の人の往来や秋祭 白水郎句集 大場白水郎
崖藤や国道往来仰ぐもの 野村喜舟 小石川
帚木や憂き往来の夜に入る 小池文子 巴里蕭条
帰省子と書物往来ありにけり 下村槐太 光背
常夜燈竹馬の子の往来して 本多佑子
庭訓の往来誰が文庫より今朝の春 松尾芭蕉
往来せで年くるゝ雪の山家哉 通助
往来のころく石や冬ざるゝ 内田百間
往来のへりにあそべる畦火かな 阿波野青畝
往来の人を魚とす花氷 小澤克己
往来人皆背ぐくまり枯野道 西山泊雲 泊雲句集
患者食往来の寒さ窓に見て 石川桂郎 四温
慈善鍋に霙れて街の往来かな 青峰集 島田青峰
日覆馬車高嶺のもとの街往来 橋本鶏二 年輪
明寺や花咲て人往来す 花 正岡子規
星の下に涼追ふ人の往来かな 青峰集 島田青峰
春めきし人の往来を聞きて病む 高濱年尾 年尾句集
春日や往来映ゆる海のへり 小杉余子
春霧人は自在に往来せり 河合良尚
昼は青田夜は蛙聞く往来哉 蛙 正岡子規
曇りゐしが霙れて暮るゝ町往来 青峰集 島田青峰
月朧花の下には火の往来 朧月 正岡子規
朧夜ノ端唄ヲ歌フ往来カナ 朧夜 正岡子規
本洩日のポーチに蟻の往来見つ 高木晴子 花 季
杣が往来映りし池も氷りけり 原石鼎
来るとはや往来数ある燕かな 炭 太祇 太祇句選
枯桑の径の往来は初薬師 奥田可児
栗の花落ちて庭とも往来とも 高濱虚子
梅雨傘の大きな模様往来して 田中裕明 櫻姫譚
槍沢も雪渓となる雲往来 石橋辰之助 山暦
毛衣を著ての往来や幾種族 依田明倫
水引をひそかに蟻の往来かな 会津八一
氷解けて湖辺の路の往来かな 凍解 正岡子規
江の島の往来せまし蝉しぐれ 増田龍雨 龍雨句集
泉まで雪原踏まれ往来あり 岡田日郎
法隆寺前の往来や草芳し 野村喜舟 小石川
浄土寺へ往来の野面麦黄ばむ 滝井孝作 浮寝鳥
海道や往来も稀に藍を干す 雉子郎句集 石島雉子郎
涼しさの中に白帆の往来哉 涼し 正岡子規
片蔭の街の往来に恵那聳ゆ 木村蕪城 一位
白地着てこもれば宵の往来見ゆ 太田鴻村 穂国
盆まへのあつさみえ来し往来かな 久保田万太郎 草の丈
短夜の往来も絶えぬ都かな 短夜 正岡子規
石の天使は 億年瞑目 雲の往来 伊丹公子 沿海
秋晴れて雨国橋の往来かな 正岡子規
秋近き往来となりぬ黍畑 大谷句佛 我は我
秋雨や靄の往来に窓くらし 西山泊雲 泊雲句集
種痘ある寺の境内人往来 山内十夜
稲枯れて往来もあらず星月夜 中島月笠 月笠句集
船長の白靴海を往来して 津田清子
花卯ッ木往来に匂ふ荘泊り 高木晴子 花 季
若竹に折ふし雲の往来かな 大江丸「はいかい袋」
草夕ベ往来に離りゐて寒し 太田鴻村 穂国
落葉掃き居る人の後ろの往来を知らず 尾崎放哉
蚕飼女の往来にゆるゝ二階かな 雑草 長谷川零餘子
蜘蛛飢ゑて樹と磔像を往来せる 津田清子「礼拝」
蜻蛉めく飛機の往来の避暑の島 吉良比呂武
蝶の往来とみにまぶしや渡航迫る 平井さち子 完流
行年の往来皆乗る渡舟かな 野村喜舟 小石川
行方も知らずこの往来にこの一歩 研生英午
行春もしらぬ往来や下河原 松岡青蘿
賽銭箱をボール往来し春休み 猪俣千代子 堆 朱
足はやき僧の往来や木の実落つ 安原 葉
酢を運ぶ舟の往来冬鴎 高澤良一 鳩信
野の道を傘往来す五月雨 五月雨 正岡子規
金くさき人の往来や八重桜 八重桜 正岡子規
鎌倉に馬車の往来やクリスマス 久保田万太郎 草の丈
鎌倉のなかの往来も寒の内 清水基吉 寒蕭々
鏡面に雲の往来避暑前期 上田日差子
防人の往来の径や冴返る 間宮多佳司
雪山は晴れて港の船往来 高濱年尾 年尾句集
餅搗の臼往来す京の町 福田把栗
駅の灯が映る水田の人往来 桂信子 遠い橋
鬼やんま往来白き埃道 高澤良一 素抱
鴨の陣出来て互に往来する 遠藤梧逸
●往路
ががんぼの帰路の往路の曠野哉 小原洋一
水没の遺跡は鳥の帰路往路 対馬康子 吾亦紅
往路より復路ものものしき時雨 宇多喜代子 象
初伊勢の玉砂利鳴らし往路帰路 高澤良一 燕音
復路には往路の木影草紅葉 一枝伸
沙羅咲いて往路ばかりの月日かな 脇本星浪
●大路
くれ涼し大路にならふ金魚売 金魚 正岡子規
こがらしや大路に鶏のかいすくみ 加舎白雄
たむろして春日大路の春の鹿 白井常雄
ねぶた果て疲れし大路現はるる 岸田稚魚
まつり後の無人の大路寒鴉 伊藤いと子
バスを待ち大路の春をうたがはず 石田波郷(1913-69)
リラ冷えといふを大路に諾へり 茂里正治
上る下る都大路や蟻の列 林 宏
人力車炎ゆる大路をゆらぎ来る 宮崎 要子
元朝の薄日黄ろき大路かな 内田百間
八重洲大路ふと秋風に出遇ひけり 須藤省子
初つばめ若宮大路横切れり 和気永子
初雀朱雀大路に弾みをり 豊田紀久子
名月や大路小路の京の人 名月 正岡子規
名月や都大路の馬車 名月 正岡子規
喜雨ありて朱雀大路のさわがしき 筑紫磐井 野干
夏鹿の大路かけりしすねの音 原石鼎
夕立や大路にかゝる牛車 夕立 正岡子規
大和大路団栗下ル菊盛り 如月真菜
大路はや時代祭の鼓笛隊 小島國夫
大路ゆくこころの夏や晴れ間をみせ 津沢マサ子 空の季節
巨船出でしあとの大路の暦売 飯田龍太
廻禮の按摩酔ひ臥す大路かな 会津八一
御忌の鐘都大路の果までも 北川法雨
御車を大路に立てゝ夜の雪 古白遺稿 藤野古白
政庁の前の大路や青柳 西山泊雲 泊雲句集
日吉館閉ざせる大路春の逝く 岩崎照子
星流る都大路や勇の忌 南雲秀子
春の夜や京の大路の化爺 春の夜 正岡子規
春の雪大路の風に乱れ鳧 内田百間
時鳥都大路の人通り 時鳥 正岡子規
晝鳶の大路を走る時雨かな 内田百間
曼珠沙華大路の際にあはれなり 相馬遷子 山国
松取りて春まだ浅き大路かな 綺石
松過ぎて再び雪の大路かな 浅野白山
水郷の大路小路や早稲の都 原子公平
永き日の大路小路を下ル入ル 上林レイ子
永き日の銀座大路にゐて孤独 田中兼豊
油照る大路真直ぐに伸び切れる 内田百間
火傷して都大路に果てし夏 津沢マサ子 空の季節
焼藷の笛鳴る都大路かな 小路智壽子
王城や大路の柳小路の花 柳 正岡子規
畑隅を跳ねて大路へ初雀 高梨忠一
白朮火の闇うつくしき大路かな 鳥羽とほる
真澄む空大路の雪はまだ全く 及川貞 夕焼
真直ぐなる大路つづきてただ汗す 杉本寛
祭牛都大路に涎垂れ 大川嘉智香
秋雨の大路明かるく暮れに鳧 内田百間
秋風や京の大路の朱傘 秋風 正岡子規
稲妻に猫走りだす大路かな 伊藤いと子
草穂立つ一叢に触れ大路踰ゆ 篠田悌二郎 風雪前
薬喰して出て大路しんの闇 亀井糸游
虫干しのすきまに朱雀大路みゆ 澁谷道
街大路雪の山裾なほせまる 池内友次郎 結婚まで
諒闇の都大路や杜宇 寺田寅彦
路次口を出れば大路の野分哉 野分 正岡子規
路次口ヲ出デヽ朧ノ大路カナ 朧 正岡子規
都大路の弥生の雪となりにけり 林原耒井 蜩
鉾の灯に大路の雨の上りけり 西村和子 かりそめならず
鐘楼へあつまる大路仏桑花 亀田清子
雲の峯大路二つに分れけり 雲の峯 正岡子規
霊園の中の大路や風光る 和田耕三郎
風ありて新樹淋しき大路なり 内田百間
馬車の鞭はげしき凍ての大路なり 日原傳
馬車柳大路のひろさ哉 柳 正岡子規
●大通
かりがねの冬や長浜大通寺 草間時彦 櫻山
アカシヤの花の札幌大通り 松原地蔵尊
スコール来八丈ケ島大通り 湯浅桃邑
不夜城となり大通り雪祭 新宮月泉
冬晴の日の鎌倉の大通り 上野泰 春潮
夜の日除ある鎌倉の大通り 岩崎照子
大通り空車溢れて五月闇 稲畑廣太郎
慈善鍋キネマはてたる大通り 篠原鳳作
札幌のみどり親しや大通り 高浜年尾
雪解や小千谷は坂の大通 長谷川櫂 古志
霜月や下駄の音冴ゆる大通り 寺田寅彦
●御成道
御成道穴に入る日の蛇に遭ふ 町田しげき
●表街道
●表通り
鶯や表通りは馬の鈴 鶯 正岡子規
●貝殻道
貝殻みち魚臭と詩人とところてん 宮田和子
梅雨白し路次の貝殻道来れば 文挟夫佐恵 黄 瀬
夏痩せて貝殻道の続くかな 飯島晴子
●海道
ここからは海道となる雪間かな 大峯あきら 宇宙塵
しまなみ海道飛ばす単車に花菜の黄 高澤良一 寒暑
ぜんまいやまだ海道の峠越 百合山羽公 寒雁
どんど焚海道沿ひの村ならず 百合山羽公 故園
ほととぎす水戸海道も夜船なり 山店 芭蕉庵小文庫
乙鳥飛び海道筋の大社 高澤良一 随笑
凩の海道山の中辿る 百合山羽公 寒雁
初富士や海道長きわが県 百合山羽公 寒雁
寒明の雪海道に少し降る 百合山羽公 寒雁
小峠に海道憩ふ山ざくら 百合山羽公 寒雁
抽んでて海道の松十三夜 川村紫陽
朴咲いて海道ときに山の中 齊藤美規
来る年も海道の風松かざり 百合山羽公 故園
桃咲くや海道の星みなうるみ 羽公
海道と山路いで逢ふ威し銃 百合山羽公 寒雁
海道に山群れ迫る冬の凧 百合山羽公 故園
海道に渡海の津々や雁帰る 尾崎迷堂 孤輪
海道に立塞がりし冬も去る 百合山羽公 故園
海道に籬し居りて業平忌 後藤夜半 翠黛
海道に赤き給油所鳥雲に 羽公
海道のくらき昔の年の豆 百合山羽公 故園
海道のくゞつがことも千鳥かな 尾崎迷堂 孤輪
海道の切れつ聳えつ冬の雁 百合山羽公 故園
海道の山へ糸張る冬の凧 百合山羽公 寒雁
海道の左右遠チ近チと植う田かな 尾崎迷堂 孤輪
海道の方にゆくなり穴惑 百合山羽公 故園
海道の秋風爽やか広重忌 風間秀泉子
海道の難所の峠杉の花 和田孝子
海道は緋牡丹明り義経忌 小枝秀穂女
海道も初こがらしに一転す 百合山羽公 故園
海道や往来も稀に藍を干す 雉子郎句集 石島雉子郎
海道や松蔭小家北風に 尾崎迷堂 孤輪
海道や蘆枯川をしば〜に 尾崎迷堂 孤輪
海道をくらます山の威銃 百合山羽公 寒雁
海道をやゝ径す家の燈籠かな 尾崎迷堂 孤輪
海道を一碧として菊日和 百合山羽公 故園
海道を好みて走るいなびかり 百合山羽公(1904-91)
海道を染めて消えたり別れ霜 百合山羽公 故園
海道を芭蕉や愚庵茶摘笠 百合山羽公 寒雁
海道を衝くべき道の夏野かな 野村喜舟 小石川
綿虫や海道一重山幾重 百合山羽公 故園
緑の中東海道線酷使さる 茨木和生 木の國
耕の海道すこし削りけり 野村喜舟 小石川
草虱まだ海道に恋着す 百合山羽公 寒雁
菖蒲葺き海道の町折れ曲る 百合山羽公 故園
街道の先に海道菜の花忌 武田和郎
風ならぬ海道筋の一飛燕 高澤良一 素抱
馬曳いて海道行けば帰雁かな 尾崎迷堂 孤輪
●街道
うど咲いて例幣使街道の古家かな 村上鬼城
かきつばた鎌倉街道雨上がる 二村典子
がうがうと鯖街道の雪解川 石田野武男
ここよりを巡礼街道雪ぼたる ふけとしこ 鎌の刃
このあたり鯖街道や冬構 小島みつ代
こほろぎや出羽街道に桜榾 斉藤夏風
すかんぽや鎌倉街道庭よぎり 白岩てい子
ただ一戸浦街道の鳥総松 石川[テキ]子
ところてん街道いまも土ぼこり 岸野曜二(白露)
なびく芒の穂のみ日あたり街道昏る 桂信子 花寂び 以後
なほつづくコスモス街道ナイスディ 高澤良一 寒暑
へしこ焼く鯖街道や虎落笛 玉木芳子
まつくらな街道にそひ蚊火の宿 福田蓼汀 山火
みちのくの街道細し春祭 田中由喜子
よろよろと出て街道の布子婆 谷野予志
ダム底となる街道の夕焼けたり 冨田みのる
亭々たる街道松に雛のやど 西本一都 景色
人泊めて氷柱街道かがやけり 黒田杏子 水の扉
代掻くと小栗街道はしり来る 阿波野青畝
余り江に麦たくましき脇街道 佐野美智
例幣使街道麦笛も横切らず 平畑静塔
例幣使街道麻を刈つてをり 西本一都 景色
借紋服月の街道広きかな 成田千空 地霊
六十里越街道を蟻の列 岩田 諒
出雲崎燕街道貫けり 高澤良一 寒暑
初時雨姫街道の石紅し 有馬朗人
千住出れば奥街道の青嵐 青嵐 正岡子規
千国街道婆が夕顔かかへくる 永方裕子
善光寺街道の民山桜 斉藤夏風
団扇絵に街道あるく馬子と松 高澤良一 寒暑
埃立つダンプ街道たうもろこし 高澤良一 素抱
塩街道干菜懸けある桜の木 岩田 諒
夏蓬秀衡街道細りけり 菊池民(屋根)
大榾や土佐街道は闇の中 斎藤梅子
天領の街道沿ひの種物屋 大峯あきら 鳥道
奈良街道ゆくや竹伐る音の中 伊藤いと子
姫街道にすこし遊びぬ桃の花 鈴木鷹夫 大津絵
姫街道ほたる袋に雨残り 内山亜川
姫街道ほのかに桐の花匂ふ 近藤文子
姫街道小旗を立てて新茶売る 飯森 茂
小鳥小屋飛騨街道も一目なり 松本たかし
戸明くれば東街道や冬籠り 几董
手花火は鯖街道を照らすなり 大峯あきら 鳥道
持統街道くぐつの道と伝へたる 後藤綾子
掛乞の大街道となりにけり 掛乞 正岡子規
日光街道の版画見せられ茹小豆 長谷川かな女 花寂び
日光街道走り代馬逞しき 臼田亜浪
日昃るやねむる山よリ街道へ 芝不器男
日覆より出て水捨てし街道かな 比叡 野村泊月
旧伊勢街道ざらりすかんぽ日和かな 大木孝子
早乙女や街道の砂利いたがりつつ 中村草田男
春浅き鞍馬街道貴船かな 草間時彦 櫻山
木の芽吹く姫街道の石畳 寺島初巳
木曾街道軒端に吊す鷹の爪 寺島美園
松に蔦街道古き羽州かな 佐藤肋骨
枯萱に塩の色あり浜街道 高橋圭爾
柳生街道とかげは尾つぽ置き忘れ 大木あまり 雲の塔
柳生街道笹原ふかくおとし角 中村翠湖
桐の花見てより会津西街道 高澤良一 素抱
桑枯れて秩父街道晴れわたる 武田光子
棉の実や秩父街道土埃 新間絢子
棒杭や四ッ街道の冬木立 冬木立 正岡子規
椎洩る日蟻の街道晴れにけり 雪人句集 西村雪人
椿寿忌の鎌倉街道風渡る 秋野静子
榛の芽の銅街道野風とも 諸角せつ子
標には「浪漫街道」春立てり 渡辺真映
母屋より街道みえて日永かな 辻桃子
気車戻る三津街道や朧月 朧月 正岡子規
水音より明くる街道燕来る 加藤安希子
法師蝉藍甕の香が街道に 細川加賀 生身魂
浜街道よし簀のそとにきらきらす 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
浜街道鮟鱇鍋の幟立つ 平山節子
海上に街道のあり鳥賊火點け 山口誓子 不動
清明や街道の松高く立つ 桂信子 草樹
渋柿や街道中に枝をたれ 蟻夢
湖風の姫街道や青蜜柑 阿久津都子
熊野街道外れし径の秋日かな 岡本松浜 白菊
熊野街道青き和泉の国通る 楠 節子
父として街道を行く大暑かな 妹尾 健
片時雨妻篭街道光らしむ 岡田智彦
狐火にたゞ街道のあるばかり 阿波野青畝
狐火や鯖街道は京を指す 加藤三七子
猪を街道松に吊し撮る 猪俣北洞
獅子舞や大和に古りし長谷街道 鈴鹿野風呂
町に入る飛騨街道や小六月 松本たかし
白樺街道雪の香を呼ぶ白ばんば 鳥居おさむ
石位寺脇街道の草紅葉 永川絢子
秋しぐれ鯖街道をひた濡らす 木下ふみ子
秋の夜やまだ街道の宵の口 尾崎迷堂 孤輪
秋風の西国街道歯ブラシ立つ 坪内稔典
稲むしろ奥街道を一目かな 下村牛伴
稻こくや街道狹き藁の束 稲扱 正岡子規
竹の内街道に住み青簾 大橋純子
笹鳴や鎌倉街道切通し 矢田邦子
義経の落ちし街道しぐれけり 猪俣 壽水
能勢街道たつた一人で炭を焼く 氷川絢子
脱藩者めく蝉街道外れゆけり 高澤良一 寒暑
芒野や本街道は松並木 青峰集 島田青峰
茶の花の京街道を下校路に 宮津昭彦
草笛吹いて北国街道曲ることなし 長谷川かな女 花寂び
草霞む街道ゆくは花袋かも 三沢一水
菊賣るや十二街道の塵の中 菊 正岡子規
菜の花や街道ありく黒き猫 島村元句集
葉ざくら街道老婆らここに行き逢へり 三橋鷹女
薫風や汀小高み浜街道 尾崎迷堂 孤輪
藁塚やもと街道の長丁場 百合山羽公 寒雁
藤浪や街道に亡き影うごく 小池文子 巴里蕭条
蜩や杉街道を急ぐ人 岡田鱶洲
蟇善光寺街道名所図絵 宮坂静生 樹下
街道にうなじ焼かるゝ花すゝき 相馬遷子 山国
街道にくだけし瓜や奈良格子 桂 信子
街道にダリヤとわれと濃くゐたり 金田咲子 全身
街道に一つはぐれし秋の蝶 今泉貞鳳
街道に余の木もまぜぬ柳哉 柳 正岡子規
街道に古りし欅や道灌忌 君塚定規
街道に咲く痩カンナ痩老婆 三橋鷹女
街道に大根洗ふ大盥 富安風生
街道に孤松艶立つ冬雲雀 桂樟蹊子
街道に家なし松に春の月 福田蓼汀 山火
街道に山影せまるとろろ汁 鷲谷七菜子
街道に干されて青き藺草かな 森田公司
街道に梅咲くは 木蝋幻影か 伊丹公子 パースの秋
街道に秋寂ぶる碑と理髪店 寺島ただし
街道に胡麻干してあり高麗の里 福島壺春
街道に芋煮る匂ひ許六の忌 小林美成子
街道に障子を閉めて紙一重 山口誓子 一隅
街道に馬糞も見えず五月雨 五月雨 正岡子規
街道に鶏にふためく葛晒し 米沢吾亦紅 童顔
街道のうどん屋にゐる端午の日 小宮山政子
街道の一日は永し苜蓿 赤尾恵以
街道の伊賀へ伸びたる夕櫻 福島壺春
街道の先に海道菜の花忌 武田和郎
街道の古りし連子や秋寂し 松永里子
街道の夜長床屋に客ひとり 福田蓼汀 山火
街道の旅人多き霞かな 霞 正岡子規
街道の月のまろさに鮎を焼く 木村蕪城 寒泉
街道の灯の明るきは秋蚕飼ふ 吉村ひさ志
街道の真ん中に落つ螢かな 軽部烏帽子 [しどみ]の花
街道の空に山あり柿若葉 宗廣貞芳
街道の蒲公英馬糞に肥にけり 蒲公英 正岡子規
街道の造酒屋の夏炬燵 武重恭子
街道の門火にこどもひとりいる 澁谷道
街道の馬糞にまじる落葉かな 落葉 正岡子規
街道はこれから灼けむ露葎 高澤良一 宿好
街道はとほり冬田はただありぬ 長谷川素逝 村
街道は冬山裾をめぐりけり 青峰集 島田青峰
街道は奈良へ篁落葉いま 旭
街道は高きを走り盆休 綾部仁喜 樸簡
街道や大樫垣の北おろし 村上鬼城
街道や時雨いづかたよりとなく 中村草田男
街道や磧つゞきに春深く 道芝 久保田万太郎
街道や稲架の中なる柿茶店 河野静雲 閻魔
街道や萱負婆に春疾風 草間時彦 櫻山
街道や露の馬ゐししらたき買ふ 小池文子 巴里蕭条
街道をこえてなめらに春の水 軽部烏帽子 [しどみ]の花
街道をせばめて峡の出初式 砥上白峰
街道をつらぬく水路秋桜 多々良敬子
街道を出でてお遍路一列に 白山晴好
街道を夕日に向ひ神輿揉む 深見けん二 日月
街道を外れ梅が香の谷戸の寺 濱田登季子
街道を尻に稻こく女かな 稲扱 正岡子規
街道を挾んで盛る田植かな 温亭句集 篠原温亭
街道を桑売ひとり野蒜の花 田中冬二 行人
街道を花火の煙這ひゆけり 辻桃子
街道を西へ歩けば蕪引き 山本洋子
街道を遠乗つづく小春かな 会津八一
街道往く「菜の花」の旅司馬遼忌 山田琢麿
豆植ゑて土寄するなり奥街道 細見綾子 黄 瀬
足音も鯖街道の夜長かな 榎本好宏
遁走する菜の花 舗装の無頼街道 仁平勝 花盗人
道赤く奥州街道秋立つも 阿部冬樹
野水仙浜街道の風匂ふ 勝見玲子
陸中街道 いつも無人の 燕子花 伊丹公子 山珊瑚
雉打に木曾街道の蛇行かな 大峯あきら 鳥道
雪山に沿ふてりんごの花街道 高澤良一 燕音
電信の街道筋や稻の花 稲の花 正岡子規
霞み行く奥街道の車哉 霞 正岡子規
餅花や街道馬の匂ひして 百瀬ひろし
馬繋ぐ奥街道の新樹かな 新樹 正岡子規
駄馬つづく阿蘇街道の若葉かな 夏目漱石 明治二十九年
高稲架となりて街道北を指す 板谷芳浄
高稲架に鯖街道のうち晴るる 西村和子 かりそめならず
鯖街道い行けば雪に火の椿 橋本榮治 麦生
鯖街道すこし外れて梅真白 皿井芳子
鯖街道外れしところに花の闇 小泉八重子
鯖街道廃家茎石のみ遺す 久保 武
鯖街道旅の土産にふぐの鰭 長野敏子
鯖街道朴散つてその北さびし 岡田 貞峰
鯛網や浜街道は山に入り 内田百間 百鬼園俳句帖
鳥雲に姫街道の道しるべ 福田友衛
黄落の街道をゆき消えかかる 徳弘純 非望
●街路
一新の街路アメリカハナミズキ 高澤良一 ももすずめ
仏蘭西区古き街路にかなしみのまぎるるごときゆふまぐれあり 島田修二
凍て街路ちらばる命拾ひあふ 飯田蛇笏 椿花集
吹きさらす街路ほてらん後の月 中島月笠 月笠句集
小旗の黄無視されて薄暑なる街路 長谷川かな女 花寂び
徒に凍る街路を歩きけり 高澤良一 随笑
昼凪や街路の空の干むつき 石原舟月
街路劇月下に靴をうちたたき 友岡子郷 春隣
風死んで黒白分つ一街路 有馬朗人 母国
●帰り道
なまはげのひとり畦みち帰りけり 小原啄葉
まつかさ拾ひ春の祭の帰り道 阿部みどり女
威し銃鳴る葬送の帰り道 宇佐見蘇骸
巣構への見え帰り道明るしや 下田稔
帰り道木の葉はとうに眠りおり 二村典子
母子草能に泣きたる帰り道 田川飛旅子
苗さげて御影供詣の帰り道 林 アヤ
●崖道
秋の海へ崖道乾きつくしたり 増田龍雨 龍雨句集
嵐のあとの蝶々ひらひら飛んで崖道 人間を彫る 大橋裸木
崖道を氷室へはこぶ氷哉 氷 正岡子規
●片道
片道の七百歩なる雪を踏む 金山 柏樹
片道はかはきて白し夏の月 炭 太祇 太祇句選後篇
●通い路 通い道
能舞台雲の通い路火の粉降る 八木三日女 落葉期
●刈田道
刈田道ふりむくたびに父が老ゆ 太田 梟
刈田道忘れゐしこと何かあり 鎌田 勝
山村の巡査としばし刈田道 粂原英雄
日の暮の金沢に入る刈田道 長谷川櫂 天球
晩年の風は樹々より刈田道 所山花
泣きながらついて行く子や刈田道 伊藤 ふみ
犬も來て牛につはべる刈田道 刈田 正岡子規
謝罪する役目の長子刈田道 佐藤紀生子
雲流れ道志七里の刈田道 伊藤いと子
電柱の果てなき行進刈田道 高田美津子
風負うて緩歩ゆるさぬ刈田道 奈良文夫
●雁道
水枕といふ雁道にちかきもの 齋藤愼爾
ひとり膝抱き雁道に在るごとし 斎藤 愼爾
雁道の塵もつもれば大和なる 攝津幸彦 鹿々集
●川路
●間道 閑道
下闇の一つが間道離農多し 香西照雄 対話
城山に間道のあり冬すみれ 佐藤八百子
城山に間道のあり花五倍子 山下明山
猟人ゆく雪の間道肩揺りゆり 鷲谷七菜子 雨 月
織りやすむ如水間道明易し 野見山ひふみ
薔薇を剪る音の間道に冬の海 小島千架子
間道という質実な冬の山 山本朗史
間道の藤多き辺へ出でたりし
間道はいづれも京へ丹波栗 渕上千津
間道は知れど語らず漆掻 巌谷小波
●木曾路
あふみ路と木曾路の境春の山 松村蒼石 雁
ありきながら桑の実くらふ木曾路哉 正岡子規
いすか来る木曽路は雲の湧きやすく 大島隆三
うらやまし君が木曾路の橡の粥 路通
これより木曽路真うしろから天狗 遠藤 煌
なつ木立いとゞ木曾路の空せまし 蝶夢「水薦苅」
はせを忌や木曽路の痩も此ためぞ 高井几董
はせを忌や木曾路の痩も此のためぞ 几董
ぽつ〜とひらふ木曾路の野菊かな 松藤夏山 夏山句集
万緑や木曾路はすべて山の中 今井杏太郎
世の土用知らぬ木曽路の行脚哉 土用 正岡子規
世の土用知らぬ行脚の木曽路哉 土用 正岡子規
丸太積みあげて木曾路の冬はじめ 永田トシ子
凍てもどり木曽路は夜へ渓響き 福田蓼汀
夏燕あな高翔くる木曾路かな 西本一都 景色
子へいそぐ木曾路の稲架の照りかへし 加藤秋邨 火の記憶
子規祀る心木曽路にはじまりて 成瀬正俊
小鳥引く木曾路は細き人の道 大串章
帚木や木曾路の椀を買ふことも 小池文子 巴里蕭条
新蕎麦や木曽路へ抜ける峠茶屋 吉田幾代
昨日しぐれ今日又しぐれ行く木曾路 漱石
時鳥鳴くや木曽路の初桜 素山
木偶えらぶ軒や梅咲く木曾路口 桂 樟蹊子
木曽路にも鉄道かけたか時鳥 時鳥 正岡子規
木曽路ゆくわれも旅人散る木の葉 旅人 臼田亜浪
木曽路ゆく我も旅人散る木の葉 臼田亞浪(1879-1951)
木曽路行ていざとしよらん秋ひとり 蕪村 秋之部 ■ 旅人に別る
木曽路行ていざ年よらん秋孤 蕪村
木曾路ゆく我も旅人散る木の葉 臼田亜浪 旅人
木曾路行きていざとしよらん秋ひとり 蕪村
朴若葉木曽路の駅は風の中 荒川優子
桑の実の木曽路出づれば穂麦かな 穂麦 正岡子規
汽車ゆけば美濃路木曽路と踊の夜 大島民郎
片蔭の宿へ入り来し木曽路かな 松本たかし
猿引の木曽路を下る霞かな 霞 正岡子規
白雪の下に灯ともす木曾路かな 雪 正岡子規
稗の穂や昔を今に木曽路古り 鈴鹿野風呂 浜木綿
端居せる家のここより木曾路なる 木村蕪城 一位
芭蕉忌や木曾路の痩も此のためぞ 几董(東武にありて深川芭蕉庵の正当会に)
苧環や木曽路は水の音の中 蟇目良雨
草鞋はいて木曾路の露につまづくな 正岡子規
菊芋に日照雨の走る木曽路かな 大脇徳恵
螻蛄鳴いて木曽路の暮色地より涌く 原 与志樹
谷川に小鍋の氷る木曾路かな 古白遺稿 藤野古白
道しるべして木曽路とや花木槿 濱坂みち子
風の樹々見せて木曽路や夏座敷 米住小丘子
鳳仙花はぜる木曽路の細格子 上田千登子
鹿笛はどこか暗しや木曾路また 成瀬正俊
麦うずら木曽路もここはただの谷 鳥越亜希
●狐道
風笛に呼ばるるここは狐みち 平子 公一
跫音のぬけがらや雪の狐みち 平井さち子 紅き栞
●帰途
さびしさの冬菫買ふ墓参帰途 及川貞
人に逢へぬ帰途の追風義仲忌 原子公平
巡業の帰途年尾忌に馳せ参じ 片岡我當
帰途の人これからの人春の宵 不破 博
担ぎ屋も帰途は身緩め枯野汽車 北野民夫
旅の帰途夫待つ妻は秋刀魚買ふ 及川 貞
猫街の帰途は三日月光りだす 青木澄江
獲物なき帰途の足どり猟犬も 小坂蛍泉
白蜀葵のようなる人と帰途に 阿部完市 純白諸事
酉の市帰途の渡舟の灯のつきし 石井とし夫
金髪に染め帰途は黒恋い雪積む樹々 寺田京子 日の鷹
●軌道
この軌道の果に繁華な町がある 富澤赤黄男
どこまでも単線軌道夏野断つ 相馬遷子 山河
在りて見えぬ月の軌道や冬至の夜 下村ひろし 西陲集
夜店の灯裏より洩れて軌道まで 北野民夫
太陽も軌道を外れん大嚏 高澤良一 宿好
曼珠沙華軌道ここより岐れゆく 山口波津女 良人
火の山の裾曲軌道に瀧しぶく 佐野まもる
霜の朝一路軌道の如くあり 高澤良一 ぱらりとせ
●絹の道
しらしらと銀漢往古は絹の道 伊東杏花
たんぽぽや敷石残る絹の道 藤野澪子
一枚の空に鴈ある絹の道 角川春樹
春山のふところを縫ふ絹の道 毛塚静枝
春雨に土匂ひ立つ絹の道 笠井順一
桑解くや秩父に寂びし絹の道 国井遭子
絹の道なべて日当る冬菜畑 市橋千翔
絹の道縷々と棉干し豆も干す 小檜山繁子
絹の道麦稈帽を重ね売る 日原傳
西安の噴井に絹の道始まる 高木一恵
雪原のかなた雪嶺絹の道 片山由美子 風待月
鳥雲に影の世のこる絹の道 渡辺恭子
●旧街道
かげろふの飛脚が馳ける旧街道 渡辺恭子
卒爾ながら旧街道のねじり花 穴井太 天籟雑唱
山裾に旧街道や桐の花 吉田伝治
接骨木の花にはじまる旧街道 長谷川せつ子
旧街道峠の茶店の長火鉢 蕪木啓子
旧街道草津の宿の蝿叩 橋本榮治 越在
旧街道藁屋根残り桐の花 吉屋信子
旧街道角っこの銭葵かな 高澤良一 鳩信
月まどか雛の店出て旧街道 鍵和田[ゆう]子 未来図
枸杞の芽や旧街道の機の音 火村卓造
猪の注意札立つ旧街道 斉藤葉子
秋すだれ旧街道はすぐに尽き 村上恵生
芋水車門川流る旧街道 中村しげ子
蓮如輿今も旧街道通る 高谷靖昭
風死して旧街道の半旗かな 中田朗子
●旧道
きれぎれに旧道くらし秋の暮 茂里正治
ほととぎす旧道森にのみのこり 中戸川朝人 残心
ハイカー稀に旧道をだまきの花伏目 斎藤春楓
倶利伽羅の旧道に住み義仲忌 今村をやま
夏葱のやさしき旧道を笠島へ 庄子真青海
旧道に出て立話日脚伸ぶ 大峯あきら 宇宙塵
旧道に国旗の多しとろろ汁 三浦正弘
旧道に祭片寄り青胡桃 中戸川朝人 残心
旧道に芒ののこる日見峠 倉橋澄子
旧道に農具市立つ午祭 植竹政一
旧道の二階障子の夏を真白 皆吉爽雨 泉声
旧道の石垣古りし臭木の実 古川芋蔓
旧道の葉桜並木のこるダム 右城暮石 声と声
旧道の道においらん草の花 右城暮石「定本右城暮石全句集」
旧道はくねる本筋十三夜 平畑静塔
旧道はこゞしき岩木百千鳥 吉井莫生
旧道は今も砂利道山つつじ 加藤武夫
旧道は子供神輿の通る道 林 夾山
旧道は杉の落葉の箱根かな 木下一静(欅)
旧道は消ゆるほかなし夏蕨 西本一都 景色
旧道は細々常磐木落葉みち 高澤良一 素抱
旧道も新道も亦桑の中 浜井武之助
旧道や人も通らず草茂る 草茂る 正岡子規
旧道や寒木瓜の紅見出でたり 石川桂郎 四温
旧道や昼顔咲て小石がち 昼顔 正岡子規
旧道や焼野の匂ひ笠の雨 漱石
旧道を蟹渉り急く伊勢薄暑 鳥居おさむ
杉落葉積みて旧道絶えだえに 高澤良一 素抱
松落葉踏んで旧道なつかしむ 小野寺麦秋
桑の実の甘き旧道坂急に 杉本寛
桑を解く三国旧道瞽女轍 松川洋酔
沢胡桃旧道に橋低きまま 中戸川朝人 星辰
涙松なほ旧道に松陰忌 福田蓼汀 山火
熊手買つて千住旧道月明り 渡辺白峰
矢車の旧道を来る薬売 長田等
秋雨に鈴鹿旧道尚存す 鈴鹿野風呂 浜木綿
空港へつづく旧道桐の花 杉田栄子
箱根旧道脚高蜘蛛の足早に 池上樵人
箱根路の旧道知らず枯葎 秋元不死男
落椿見えて旧道ゆきがたし 五十嵐播水 埠頭
虚子行きし旧道は荒れ葛咲けり 堤俳一佳
越後路へつづく旧道秋しぐれ 渡辺喜峰
駄馬に會ふことも旧道郁子垂れて 及川貞 夕焼
●行者道
きりぎりす声おさへ鳴く行者道 右城暮石 上下
ためらはで雷押し渡る行者道 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
三椏の花がゆめみる行者みち 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
盲蝉ぶつかりに来る行者道 茂里正治
石楠花や雲の中なる行者みち 河村宰秀
筒鳥や熊笹覆ふ行者道 岡田日郎
行者みち谿へ消え行き夕蛙 毛塚静枝
行者道雉子翔ちさくら紅葉散り 関森勝夫
雪折れの蝦夷山桜行者みち 川村暮秋
●切通し
たたら踏む神輿となりし切通 槐太
丑満の星飛び氷る切通し 佐野美智
何時も春に湧く水祭の切通し 宮田正和
何求(と)めて冬帽行くや切通し 角川源義(1917-75)
公暁忌のしんと底冷え切通し 伊藤伊那男
冬空の鋼色なす切通し 大野林火
切通からの青空水仙花 中田剛 珠樹以後
切通しこほろぎの音に満ち満てる 山本歩禅
切通し出て天辺に枯野星 石塚友二
切通し岩に日の照る蜻蛉哉 内田百間
切通し岩石剥いで氷柱落つ 高澤良一 鳩信
切通し手套の拳固めすぐ 大岳水一路
切通し抜けて田に出る冬日和 藤田あけ烏
切通し春りんどうに足をとめ 坂本いつ子
切通し海へ出る蝶かずしれず 佐野まもる 海郷
切通し磐しぼる水凍りつき 高澤良一 宿好
切通し落葉朽葉を踏み付けに 高澤良一 宿好
切通し薄の空の深くして 森本芳枝
切通し蜑がくさめのこもりたる 佐野まもる 海郷
切通し路藁苞の胡瓜苗 滝井孝作 浮寝鳥
切通し霜踏めば遂はるるごとし 角川源義 『口ダンの首』
切通破魔矢かざせば海が見ゆ 宮下翠舟
初音して海ひらけくる切通し 水原春郎
団栗や入日に冷ゆる切通 長谷川櫂 古志
大雪や藪と藪との切通し 秋紅 俳諧撰集玉藻集
天に葛飛び咲く赭き切通し 末次雨城
好しき切通あり小正月 八木林之介 青霞集
妹許へ萩に触れゆく切通し 北野民夫
山吹の風ふき抜くる切通し 中原八千子
山桑は花垂らしをり切通 阿波野青畝
捨雛に甲斐の山見ゆ切通し 水原秋櫻子
早春の空嵌(は)めて悲し切通し 楠本憲吉
本郷は切通し上吹雪かな 久保田万太郎 草の丈
烈風に桜のけぞる切通し 高澤良一 寒暑
猟犬の綱引き絞る切通し 嶋田一葉詩
猪狩の大勢が来る切通 細川加賀
獅子頭抱へてゆきし切通し 増成栗人
盛んなる雪解や湯島切通し 村沢夏風
石蕗は絮飛ばし亀ヶ谷切通し 青木重行
秋郊のひやゝかなりし切通し 山口誓子
笹鳴のたどたどしさよ切通し 長谷川浪々子
笹鳴や鎌倉街道切通し 矢田邦子
背負籠に水仙風の切通し 佐野美智
茱萸の花寺へ往き来の切通し 永島きみ子
葛咲くやいたるところに切通 槐太
藤揺れて朝な夕なの切通し 中村汀女
蚋が出て闇の下り来る切通し 原口英二
蝉に蝉声加へゆく切通し 都筑智子
行く秋の鶴に似る雲切通し 鍵和田[ゆう]子 未来図
鎌倉の切通ゆく冬青空 大橋敦子
阿羅漢のつくる野分や切通 齋藤玄 飛雪
雪折の竹裂くるよる切通し(末次雨城庵二句) 『定本石橋秀野句文集』
零余子散るいざ鎌倉の切通し 川崎展宏
青を以て聖土曜日の切通 柚木紀子
青葉風都電跡なる切通し 長 カツコ
●岐路
岐路あまた花野にありて愉しけれ 西野たけし
岐路いくつ桜濃き方水ある方 鍵和田釉子
岐路に佇ち踊り出でたる猫じやらし 高澤晶子
岐路に来て西日やすらぐ枯野かな 松村蒼石 雁
春老いぬ一身の岐路崖の上 石塚友二 方寸虚実
柘榴裂け岐路一方に逃げ易し 古舘曹人 能登の蛙
栗の毬踏みわりし跡の岐路うすく 原田種茅 径
父と娘に煤まじる雪朝の岐路 飴山 實
生涯の岐路かも知れず登山岐路 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
蝸牛や岐路あらばたちどまるらむ 上田五千石 田園
裏街はあまたの岐路の夕凍みつ 有働亨 汐路
見下ろして梅園に岐路おほきかな 小澤 實
金亀子人生の岐路今ここに 軽部烏頭子
闇の岐路冷ゆるまで佇ち姑へ行く 加藤知世子 花寂び
雑炊の湯気吹きこころ岐路に立つ 稲垣きくの 黄 瀬
●帰路
ががんぼの帰路の往路の曠野哉 小原洋一
どんたくの帰路の人出を避ける道 稲畑汀子
ほたる狩帰路の遅月さしにけり 飯田蛇笏 椿花集
オリオンと店の林檎が帰路の栄(はえ) 中村草田男(1901-83)
パン抱へ女礼者の帰路急ぐ 小室藍香
仏法僧鳴かねば帰路は灯をかざす 市瀬 元吉
冬帽の内にひとりひとりの帰路 中尾寿美子
凧の紙尾帰路の大工の鋸ひらひら 香西照雄 対話
初伊勢の玉砂利鳴らし往路帰路 高澤良一 燕音
四万六千日胸突坂をのぼる帰路 中原鈴代
夜の秋のパン屋パンこね帰路照らす 西垣脩「西垣脩句集」
大足の中学生に落葉の帰路 細見綾子 黄 炎
失意の帰路雪の達磨が向き向きに 川口重美
女正月帰路をいそぎていそがずに 柴田白葉女
妻急変冬木一列帰路一途 松崎鉄之介
子の手紙けふ頃来べし帰路の雪 及川貞 榧の實
宍道湖の大夕焼をあとに帰路 浅井青陽子
宝恵駕の帰路のきしみの福積むごと 中山フジ江
屍搬びし帰路は手つなぐ乙女等よ 赤城さかえ句集
山に雪女に帰路といふものあり 細見綾子 花寂び
岬より帰路は岐れて花苺 古館曹人
岳父を埋めて帰路の梅園素通りに 奈良文夫
帰路いつも母に戻りぬ金木犀 都筑智子
帰路で聞く終り知らせし大花火 根岸ナツ
帰路となる雪の越路に名残あり 高濱年尾 年尾句集
帰路とほし見ざるに月見草がみゆ 柴田白葉女 花寂び 以後
帰路に意をとめざりきはたと川と梅 栗生純夫 科野路
帰路の三日月会議の人等は夜を徹せん 赤城さかえ句集
帰路の友にぶし雪嶺は夕日得て 大井雅人 龍岡村
帰路の月明耳が振りむく吸引器ヘ 磯貝碧蹄館 握手
帰路はしる汽車旅情すでに茫々 柴田白葉女 花寂び 以後
帰路は暗闇藺刈女の乳が張る 藤井 亘
帰路は自在春徂く夜を惜しまばや 鈴木栄子
帰路は論強し銀杏は全く裸 中戸川朝人 残心
帰路へ握手ゆきぐにの旭よふり注げ 赤城さかえ句集
帰路も亦雑木紅葉の高き山 坂本ひろし
帰路寒し胸中に人そしりつつ 猿橋統流子
帰路急ぐおでん屋台の灯を抜けて 宮坂いつ子
帰路遠し泳ぎし髪をまた括る 津田清子 礼 拝
探梅の帰路一水の光るあり 三浦十八公
旅の帰路亡ぶ藁塚晴るる家 原裕 葦牙
春光の像逆光の帰路となる 稲畑汀子 春光
松一里帰路暑き日を荷ふ哉 麦水
梅雨寒の砂丘の帰路はあらあらし 古館曹人
母婦会の帰路夜桜へ連れ立ちて 竹下しづの女句文集 昭和十年
水没の遺跡は鳥の帰路往路 対馬康子 吾亦紅
消炭のごとき息して帰路にあり 桑原雅子
潮の香の帰路のくらやみ花いたどり 田中英子
牡丹見し帰路を夕市歩きけり 杉本寛
牧牛の帰路なり嶺を海霧下る 長谷川かな女 雨 月
皆寝しハンドル確と花の帰路 藤浦昭代
破魔矢うけて帰路八方のわが一路 稲垣きくの 黄 瀬
福詣帰路にも渡る隅田川 川崎妙子
空き瓶の甘茶を帰路に少し飲む 細見綾子 黄 炎
空瓶の甘茶を帰路に少し飲む 細見綾子
竹の春帰路ほど馴れし道なかり 布施伊夜子
芒みな光れり西に向ふ帰路 町田しげき
芒解けて旅はも帰路の急がるる 稲垣きくの 牡 丹
茱萸翳す人も揉まるゝ帰路の汽車 石塚友二 方寸虚実
菩提子を拾ひて帰路を迷ひけり 秋元不死男
蚊柱にバット打ち込む負けの帰路 原 大祐
行きに見し雷魚帰路にも浮きゐたり 川島彷徨子 榛の木
通夜の帰路月の物影選り歩く 大熊輝一 土の香
金星や刈田を帰路として教師 堀井春一郎
金魚玉帰路は短き父として 古舘曹人 能登の蛙
雪無限帰路きめかねし今日があり 山本つぼみ
雲をつみあげクレーン工のねむい帰路 益田 清
青葦の渡船帰路とす不如意の日 鍵和田[ゆう]子 未来図
高麗の里秋夕映に鳥の帰路 貞弘 衛
麦の芽の青さたまたま早き帰路 楠本憲吉
麻服のすがしや帰路は歩きけり 目迫秩父
●隈路
●車道
あふ坂や花の梢の車道 智月 俳諧撰集玉藻集
ついに決断亀が車道へ歩き出す 竹村雀宝
人道と車道を分る柳哉 柳 正岡子規
冬木影しづけき方へ車道わたる 篠原鳳作 海の旅
初蝶の恙なく車道わたりけり 今勝喜代
娶らむか片陰もなき車道掃き 岩田昌寿 地の塩
花樗ちりしく鳥羽の車道 四明句集 中川四明
落石の車道にひとつ閑古鳥 鈴木鷹夫 大津絵
踊の輪ふくれて歩道車道まで 長田等
車道へは乱れ川へは舞ふ落花 蔦三郎
車道広く埃捲くなり夏柳 夏柳 正岡子規
車道狭く埃捲くなり夏柳 正岡子規
雪車道や童の雪車も引き出でぬ 橇 正岡子規
駅出づれば行年の車道歩道かな 青峰集 島田青峰
駈けだして車道へ銀杏落葉かな 片山由美子 天弓
鳩の屍に幹線車道朝焼す 宮武寒々 朱卓
●獣道
けもの道朽葉を貫きて萌ゆるもの 平井さち子 紅き栞
けもの道獣臭くて蘖ゆる 原裕 『青垣』
けもの道獣臭くて蘗ゆる 原裕 青垣
振り向きて鼬の睨む獣道 市之瀬明童
流氷のまつたゞなかの獣みち 島蓉子
花合歓や雲へとつづく獣みち 渡辺恭子
雪解沢見て引き返すけもの道 栗原稜歩
零余子熟れけもの道はた仏道 安達実生子
霧晴れる瘤の木黐の木けもの道 穴井太 ゆうひ領
青空へ氷づたひや獣みち 長谷川櫂 天球
●県道
県道にダミーの巡査稲雀 房川喜三男
●険路
老鴬や険路尽きにし気安さに 佐野良太
●交叉路
交叉路の影なき西日別れ易し 野沢節子
交叉路の陰なき西日別れ易し 野澤節子 牡 丹
●小路
あやめ草綾の小路の夜明けかな 青蘿「青蘿発句集」
この小路月となりけり鳥総松 長谷川かな女
こゝに梅ありと思ひつゝ闇の小路行く 梅が香 正岡子規
ご城下に諸白小路うめもどき 中戸川朝人 尋声
さんしゆゆの花善光寺坊小路 西本一都 景色
すぐそこに錦小路の千枚漬 大久保節子
その奥に閻王見ゆる小路かな 伊藤田々子
みぎ左小路岐れて秋時雨 小川濤美子
よぎりたる月鉾みえし小路かな 長谷川櫂「虚空」
よく冷えしくづまんぢゆうや姉小路 大石悦子 聞香
万葉の小路そぞろにカタクリが 吉田和子
万里小路(までのこうぢ)瓜をかかへて女の童 筑紫磐井 野干
中々に錦小路は花もなし 花 正岡子規
乙鳥(つばくろ)や小路名(こじな)の多き京の町 井上井月(1822-86)
予後の身に曇る小路の紫荊 柴田白葉女 遠い橋
公卿小路藻に住む虫の音を聞けり 大野今朝子
冬の夜や小便小路寺小路 小杉余子 余子句選
凌霄や油小路の通し土間 小川三補子(梛)
勝菊は大名小路もどりけり 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
卯の花のただよふ油小路かな 筑紫磐井 野干
名月や大路小路の京の人 名月 正岡子規
宿根木の世捨小路や蟹はしる 高橋稚郎
寄席小路に遊ぶ児や溝の三日の月 久米正雄 返り花
寒施行ありし祗園の裏小路 田中としこ
寒紅を買ふ妻をみし小路かな 長谷川櫂 蓬莱
小路して青田の風に吹かればや 青田 正岡子規
小路ふかくもろこし見ゆる門火かな 金尾梅の門 古志の歌
小路ふかく川波はるゝ落葉かな 金尾梅の門 古志の歌
小路ふさぐ雪嶺へ蒸籠けむりけり 金尾梅の門 古志の歌
小路行ばちかく聞ゆるきぬた哉 蕪村 秋之部 ■ 我則あるじゝて會催しけるに
川沿ひの小路かまくらの五つ六つ 杉本寛
干菜して祇園の昼の抜け小路 桂樟蹊子
彫金の音小きざみに冬小路 影島智子
影踏んで梅の小路を戻りけり 夜の梅 正岡子規
御降や浮世小路の駕仲間 松瀬青々
息白く花見小路を鉢たゝき 角川春樹
抜け裏の食ひもの小路午祭 清之介
提灯の小路へ曲る夜寒かな 夜寒 正岡子規
散歩人行き交ひ小路帰り花 野口和子
数へ日の下竪小路ひそかなる 上野さち子
数へ日の花見小路に分譲地 佐川広治
春しぐれ湯葉の匂ひの京小路 吉川信子
春の夜や綾の小路の人通り 春の夜 正岡子規
春の月小路小路のほと暗く 福田蓼汀 山火
春寒の花見小路に宿をとり 町春草
春月の狸小路にまぎれゆく 角川源義 『神々の宴』
朝のものごい氷柱小路は駆けぬけて 寺田京子 日の鷹
札幌の狸小路の暦売 白井 新一
松茸の錦小路となりにけり 山根真矢
柚子の香の小路の奥に片泊り 小池万里子
桐の木に家あらはるゝ小路哉 桐の秋 正岡子規
梅か香をくゝつて通る小路哉 梅が香 正岡子規
此の小路月となりたり鳥総松 長谷川かな女 雨 月
武家町の塵なき小路夏衣 中西しげ子
武者小路実篤たのし夜永からず 石塚友二 方寸虚実
水打つて小路の奥に東山 長谷川櫂 蓬莱
水打つて花見小路の動き出す 岩本菊江(雷鳥)
水郷の大路小路や早稲の都 原子公平
永き日の大路小路を下ル入ル 上林レイ子
油小路に裾をのこして鶏頭花 松本恭子 二つのレモン 以後
油小路の土塀のぬくし御講凪 島端謙吉
浦安や小舟の小路も梅雨いろに 文挟夫佐恵 黄 瀬
湯葉小鯛錦小路の春たけなは 水原 春郎
炎天や小路を廻る薬賣り 井上井月
熊手売る冥途に似たる小路哉 渡辺白泉
熊手売る冥途のごとき小路かな 渡辺白泉
片蔭や萬里小路(までのこうじ)に蝉鳴くも 赤尾兜子
玉うちに馬乗りよける小路かな 蝶夢
玉打ちて雪に筋つく小路かな 一路
王城や大路の柳小路の花 柳 正岡子規
白朮火の祇園小路を曲りけり 大森光栄子
砲二門ひき行く萩の小路かな 会津八一
祭鱧祇園小路も奥の奥 小澤實
稲刈りて野菊淋しき小路かな 正岡子規
稲荷お出も塩小路あたりものめきぬ 松根東洋城
稲車世捨小路にさしかかり 藺草慶子
立秋や萬里小路に嬰が泣ける 塚本邦雄 甘露
竹植えし銀座小路や虫を売る 長谷川かな女 牡 丹
竹牀几師匠小路といふ名あり 中村若沙
笑み割れて柘榴すさまじ武家小路 新井佳津子
舗装せぬ小路に飲屋海雲和へ 志城柏
花とぶや加茂の小路の夕日影 芥川龍之介
花枇杷や小路ばかりの鞆の街 挟間敏子
花楝谷風騒ぐとき匂ふ 小路紫峡「石の枕」
菖蒲葺いてかをる錦の小路かな 蝶夢「草根発句集」
菖蒲葺く駄菓子屋のある坊小路 西本一都 景色
蒲公英の小路左へ分れけり 蒲公英 正岡子規
薄月の山焼きに行く小路かな 山焼 正岡子規
蛇のから山の小路に横はる 蛇の衣 正岡子規
蜑町のかくれ小路の花すみれ 笹次和子
裏小路かばやきの旗ななめなる 井上雪
赤微塵はた黒微塵金魚苗 小路智壽子(ひいらぎ)
遣羽子や往來の繁き拔小路 遣羽根 正岡子規
銀座うらとある小路の河豚の宿 高橋淡路女 淡路女百句
鎌倉小路木瓜の平穏乱すまじ 内田恒道
馬車柳小路の広さかな 柳 正岡子規
骨切りの杜撰な鱧や押小路 大石悦子「耶々」
鰺をたたく日暮の音や海女小路 高尾まもる
鱧を焼く匂ひも錦小路かな 木内怜子
鶯や川そひ小路寺の裏 鶯 正岡子規
●高速道路
高速道路増殖しつつ滴りぬ 五島高資
大渋滞高速道路に雪だるま 稲垣知子
支那粥や高速道路に鋲打つて 攝津幸彦 鹿々集
高速道路晩秋という車間距離 河原井初絵
●高速路
カーブして薔薇園またぐ高速路 大島民郎
ポインセチア荷台に揺れて高速路 林 康子
廃炉廃ダム廃高速路夏蓬 今井聖(街)
旅の鏡にねむり冬夜の高速路 寺田京子 日の鷹
終戦日風吹き抜ける高速路 山口佳澄美
迷ひ犬歩く二日の高速路 船坂ちか子
逃げ水が逃ぐ雪原の高速路 茨木和生 木の國
高速路を走る牛いて冷夏という 関田誓炎
高速路交叉して街朝焼す 村田 脩
高速路初富士滑り来りけり 岡田貞峰
高速路良夜の運河わたりけり 大島民郎
●公道
●坑道
切羽出て大坑道の寒さかな 片山雪洋
坑道(しき)冬をしずくし隠れキリシタン 諸角せつ子
坑道に残る鑿跡滴れり 南 紫香
坑道を出て子雀をいとほしむ 古賀まり子
盆の月坑道の匂ひの身をひいて 石原八束 空の渚
●航路
ひとすぢの月の航路の涯もなく 山本歩禅
ゆつくりと航路を変へる芒かな 遠藤美由樹
ゆつくりと航路を変へる芒かな 遠藤美由樹
わが窓のいつより白鷺の航路 今井一栄
二時間と何んぼの夏の佐渡航路 高澤良一 寒暑
佐渡航路寄する卯浪の彩親疎 高澤良一 寒暑
佐渡航路春の毛布をあてがはれ 大石悦子 百花
佐渡航路舷側を過ぐほんだわら 高澤良一 寒暑
卯浪駈く果てまぶしめり佐渡航路 高澤良一 寒暑
去年今年航路真下の旅の町 龍太
台風のうねりすさまじ壱岐航路 阪本トミ子
夏近く良平の絵の佐渡航路 高澤良一 寒暑
大夏爐樺太航路今は絶え 橋本鶏二
子には子の航路あるらむ泳ぎゆく 都筑智子
水尾白き航路に燕ひるがへる 馬詰 敏恵
流れ藻の長短首夏の佐渡航路 高澤良一 寒暑
涅槃西風海猫のつき来る佐渡航路 渡道陸郎
紅梅の空に外国航路あり 太田土男
航路の一すぢ白し鳥渡る 大橋敦子
航路冬忠君の琵琶船室に 宮武寒々 朱卓
●行路
わが墓標無明の行路のいや果てに 藤木清子
咳やまぬここより暗夜行路の地 対馬康子 純情
地図にて辿るパウロの行路秋薊 宮脇白夜
恋の猫暗夜行路を跳び交し 鷹羽狩行 遠岸
果てしなき行路に立てり法師蝉 阿部みどり女
樫は実に行路を託つうつけもの 成田千空 地霊
殼子(さい)振るや炎暑のごとき我が行路 河野南畦 『黒い夏』
猫の恋暗夜行路を跳び交し 狩行
羽蟻落つ「暗夜行路」の終章に 和田 祥子
蛞蝓の行路はかはく冬の石 山口青邨
鯖雲や四十の行路見えかくる 登四郎
●コース
競詠のどのコースにも驟雨はげし 鷹羽狩行
農園も観光コース夏薊 榎本栄子
犬の好きな散歩コースやきりん草 植木登志
橋コース水車場コース大花野 中戸川朝人
●国道
さそり座へ消えし国道立葵 菅原鬨也
国道に狸轢かれてゐたりけり 瀧澤伊代次
国道の一歩外側梅雨の暗 右城暮石 声と声
国道の伸び来つつあり懸煙草 富岡掬池路
国道の普請出来たる夏野哉 夏野 正岡子規
国道の死者に線香犬ふぐり 百合山羽公 寒雁
国道の端のめくれて蟇 大石雄鬼
国道を無事横切りし稲車 甘中房恵
国道を猿のはしる初嵐 武村幸子
国道を竹曳いてゆく神の留守 岸野曜二
国道を雁字搦めの初荷ゆく 井出和幸
国道二号冬長州に突き当る 白石不舎
崖藤や国道往来仰ぐもの 野村喜舟 小石川
市に入る国道並木芽を吹きし 内田百間
急雪の国道走る被覆の荷 津田清子 礼 拝
海に沿ふ佐渡国道の花萱草 本間みつえ
稲の花瀬音高まる千国道 中根多子
芋の花咲くや国道真つ平ら 小川蘆哉
花遅しさびれし絹の千国道 桂樟蹊子
蛇生れて国道に死す儀式かな 攝津幸彦
街中の須磨国道を稲車 五十嵐播水 埠頭
金雀枝や国道八号北上す 浅生圭佑子
●古道
おとどいに廬の古道や若菜つむ 飯田蛇笏 山廬集
きれぎれの箱根古道みちをしへ 岡本欣也
ここよりは筑波古道や山ざくら 桑島 蟆
ひらき映ゆ扇に大和古道を 皆吉爽雨 泉声
三浦なる古道辿る注連貰 田部井土来子
余花ありてここより勿来古道なる 佐々田まもる
初鶏や宇陀の古道神ながら 鈴鹿野風呂
双塔をつなぐ古道笹子鳴く 赤松[けい]子 白毫
古道にかゝるや余花に逢着す 竹冷句鈔 角田竹冷
古道に水の奏づる摩耶詣 徳村千畝
古道に馬も通らぬ冬木哉 冬木 正岡子規
古道のほろぶる輪廻曼珠沙華 富安風生
古道の岡に上るところ茨白し 茨の花 正岡子規
古道の栞も朽ちぬ冬木立 冬木立 正岡子規
古道の榎に立つや春の徂く 比叡 野村泊月
古道の残る河内野蓮根掘り 高濱年尾 年尾句集
古道は残すか狩るかさくら時 広瀬惟然
古道は濤音ごもり新松子 六本和子
古道や影もつき来ず冬野原 松根東洋城
古道や真間の入江に沿ひて秋 池内たけし
古道や馬糞日の照る枯芒 枯薄 正岡子規
古道をいたはり遺す青芒 富安風生
古道をみかへる松のみどりかな 其角
古道を沈めてダムの水温む 稲畑汀子 春光
古道跡石に黄菅が咲くばかり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
咽せるほど熊野古道の霧を吸ふ 多々良敬子
夏草に熊野古道途切れては 美馬風史
奔放にひろふ古道うまごやし 赤松[けい]子 白毫
威し銃かつらぎ古道消えがてに 村上 光子
寒禽や古道の起伏林中に 中戸川朝人 星辰
屋敷林斑鳩の来鳴く古道かな 岡田日郎
山蛾現る木洩れ日暗き木曽古道 長谷川雄一
心太古道の寺にふるまはれ 石川政男
恵方なる熊野古道の幾曲り 岡村紀洋
手を出せば零余子こぼるる古道ゆく 稲畑汀子
日照雨して熊野古道花臭木 行方克己 昆虫記
暮早し戻りて点す厨の灯 古道記美子
曼珠沙華鎌倉古道細りけり 水島つる子
朝じめる熊野古道竹落葉 大賀豊泉
本丸の古道うづむあせぼ哉 井原西鶴
枝道は古道結葉の翳深し 猪股洋子(秀)
枯野来て人懐しむ奈良古道 伊藤敬子
栗の花箱根古道に雲重し 中村哲三
梅の花鎌倉古道とぎれとぎれ 川崎展宏
火の付きし鎌倉古道曼珠沙華 白岩てい子
焼藷屋来てゐる熊野古道口 若山智子
熊野古道巫女と出会ひし霧の中 伊藤律子
熊野古道谿間の畑の鳥威し 文挟夫佐恵
秋麗鼬とび出す木曽古道 長江克江
竹の内古道の家並燕の巣 中島みち子
箱根古道杉の天より初の鶏 野口節子
絶々に温泉の古道や苔の花 蓼太「蓼太句集初編」
繭玉を軒に鎌倉古道かな 松本澄江
胡桃落つ鎌倉古道坂がかり 関戸文子
苗田あり大和古道そひ濡るる 皆吉爽雨 泉声
草刈るや古道一気に匂ひ立つ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
菫咲く宇陀の古道いゆくなり 皿井旭川
葛城古道わが大足に春めけり 橋本榮治 逆旅
葛城古道地干しの稲の匂ひくる 山田春生
葛掘に吉野古道ほそりつゝ 山下豊水
薺摘む勿来古道の上り口 遠藤アサ子
蟹歩く熊野古道の石畳 井上啓子
足柄古道よぎる蜥蜴の貌に冬日 高澤良一 ももすずめ
踊たつ河内古道暮るる辺に 亀井糸游
蹠から古道のしめり夏わらび 林和琴(草苑)
鈴振つて古道涼しむその錆音 加藤知世子 花寂び
雲海を来てみ熊野の古道を 花田道子
雲霧や嶽の古道柿熟す 飯田蛇笏 霊芝
風蘭や伊勢への風の伊勢古道 山秋穂
駅前に始まる古道花楝 茂里正治
黒揚羽鎌倉古道横ぎれり 橋本美智代
●小道
いちごある園の小道や下駄の跡 苺 正岡子規
おもしろや小道盡きたる花野原 花野 正岡子規
きぬきぬの薄の小道君招く 薄 正岡子規
さをとめの一むれ帰る小道哉 早乙女 正岡子規
じゅずだまの小道盡きたり曼珠沙華 曼珠沙華じゅずだま(漢字二文字:草冠+意 正岡子規
たそがれや蛙の小道牛戻る 蛙 正岡子規
ところところ月漏る森の小道哉 月 正岡子規
はね返し牛行く萩の小道哉 萩 正岡子規
ひらひらと蛾の飛ぶ藪の小道哉 蛾 正岡子規
ふむまいそ小道にすみれつくつくし 土筆 正岡子規
ニ三町柿の花散る小道かな 柿の花 正岡子規
ヴエネチアの細道小道霧笛鳴る 奥山俊子
僧返る竹の小道の余寒哉 余寒 正岡子規
兩側の枯芝高き小道かな 枯芝 正岡子規
円墳へつづく小道や麦鶉 海老原真琴
冬菊や下雪隱へ行く小道 寒菊 正岡子規
切れ凧を追ひ行く人か野の小道 凧 正岡子規
卯の花や雨後の小道に靴の跡 林 康子
君が來る月の小道を見てやらん 月 正岡子規
夏川や小道に溢れ田に落つる 夏川 正岡子規
夏草に犬糞多き小道かな 夏草 正岡子規
大仏を見に行く花の小道哉 花 正岡子規
寺見えて小道の曲る野菊哉 野菊 正岡子規
小春日の庭も小道も花の鉢 岡本まち子
小道して廓に出でぬ春の月 春の月 正岡子規
山がら小がら山みち小みち水神へ詣る 荻原井泉水
山辺の小道は野菊日和かな 長谷川櫂 蓬莱
岡にそふてつゝじの多き小道哉 つつじ 正岡子規
提灯の小道へ這入る夜寒哉 夜寒 正岡子規
散松葉数寄屋へ通ふ小道哉 散り松葉 正岡子規
時鳥待つや小道の夕占問 時鳥 正岡子規
木槿咲く垣や小道の楷子賣 木槿 正岡子規
木槿垣人も通らぬ小道かな 木槿 正岡子規
杏咲く小道登りて千鳥塚 山口茂代
枯尾花燒場へ曲がる小道かな 枯薄 正岡子規
棉の花*(竹冠+禦)へ曲る小道哉 棉の花 正岡子規
森にそふて葉隠れ月の小道哉 月 正岡子規
火を強く嵯峨の小道の焼いもや 山本良明
火串振つて鹿担ひ来る小道哉 火串 正岡子規
無花果で始まる森の小道かな 郷 絹子
煙しみるなじみの小みち萱車 成田千空 地霊
田芹生う小道をゆけば鬼子母神 大重裕子
石塔に月漏る杉の小道哉 月 正岡子規
祗園会や小道小道の人の蟻 祗園会 正岡子規
稲の香や闇に一すぢ野の小道 正岡子規
稲刈りて野菊おとろふ小道かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
稻の香や闇に一すぢ野の小道 稲 正岡子規
稻刈て野菊淋しき小道哉 野菊 正岡子規
稻刈りて野菊おとろふ小道かな 野菊 正岡子規
節季候の馬につれだつ小道かな 節季候 正岡子規
茄子南瓜小道小道の別れ哉 茄子 正岡子規
草鞋薄し枯野の小道茨を踏む 枯野 正岡子規
菜の花や獅子の頭の行く小道 菜の花 正岡子規
菜種散る泥の小道の轍哉 菜の花 正岡子規
萩散らぬ寺の小道もなかりけり 萩 正岡子規
萩薄中に水汲む小道かな 萩 正岡子規
蔦かづら裏門多き小道かな 正岡子規
藪入のさびしく戻る小道かな 河東碧梧桐
虻飛んで栗の花散る小道哉 寺田寅彦
蚊の声もよわる小道の夜明哉 蚊 正岡子規
蛙迯げ螽飛ぶ野の小道哉 蝗 正岡子規
蛙飛び交ふ小みち親しく女教師となつて戻る 人間を彫る 大橋裸木
螳螂にしばしば出逢ふ小道哉 蟷螂 正岡子規
蟲の音をふみわけて行く小道哉 虫の声 正岡子規
行き馴れし墓の小道や杉寒し 寒し 正岡子規
見て行くや小道小道の土筆 土筆 正岡子規
貝塚へ曲る小道の菫かな 菫 正岡子規
遣羽子の笑ひ聞ゆる小道かな 遣羽根 正岡子規
野に曲つて光る小道や春の雨 楠目橙黄子 橙圃
陽炎や獅子のかしらの行く小道 陽炎 正岡子規
雪ながら氷る小道や星月夜 雪 正岡子規
霜月の小道にくさる紅葉かな 霜月 正岡子規
馬ひとり帰る小道やおほろ月 朧月 正岡子規
馬引てつゝじの小道帰り行く つつじ 正岡子規
黒板塀無花果多き小道かな 無花果 正岡子規