披講選者別選0807
尋ね来し墓所水無月の青の中 ヤス子
もも色の袋の桃の袋掛け ヤス子
菖蒲咲き高名雅名羞じぬ色 ヤス子
水揚げも減って焼津の燕の巣 ヤス子
真打ちの寄席文字大き額の花 ヤス子
門跡の膳に蓴の吸ひとろろ ヤス子
鉄橋の下にも一人鮎釣人 ヤス子
暗峠抜けて棚田と合歓の花 ヤス子
柏葉あぢさゐ風集めたり放したり ヤス子
宇宙食のごときもの食べ浴衣の娘 ヤス子
 
籐寝椅子父の夢見て覚めにけり 英子
絽羽織を早や脱ぎにけり大師匠 英子
また同じ愚痴と思案の行々子 英子
見舞とてメロンごろりと置かれけり 英子
日に透きて小蜘蛛の張りし囲の細か 英子
浜の家ひっかけ干しに軒の烏賊 英子
もぐら威し回りて灼けぬ小角像 英子
木槿咲くしじま彼の世と眺めたり 英子
宇宙食のごときもの食べ浴衣の娘 英子
たたみ皺きっちり残る浴衣かな 英子
 
狩衣も瀬波も真白川祓 柑生
雷に裂け天突く梢に鴉鳴く 柑生
邯鄲の夢見心地や藤寝椅子 柑生
入道雲仁王に力瘤いくつ 柑生
マジシャンの手付き干し梅返す婆 柑生
啖呵売をひやかし鳳梨買う羽目に 柑生
ざりがにの鋏朱の透く神の御井 柑生
風鎮の時に壁打つ夏座敷 柑生
キャンバスに一筋上がる蚊遣香 柑生
風通る席が馳走と洗鯉 柑生
 
尋ね来し墓所水無月の青の中 久美子
かき氷伊豆大島の遥かなり 久美子
もも色の袋の桃の袋掛け 久美子
行く雲に足をのせたる水馬 久美子
明易し屋根に鴉の足の音 久美子
入道雲仁王に力瘤いくつ 久美子
五十年ハンカチーフをくれてより 久美子
駈け抜ける子の真っ白な捕虫網 久美子
生きていることに戸惑う昼寝覚め 久美子
森青蛙水の惑星瞬かす 久美子
 
かき氷伊豆大島の遥かなり 香燿子
三伏の鉄打つ火花路地の奥 香燿子
明易し屋根に鴉の足の音 香燿子
木と木の間目で吊ってみるハンモック 香燿子
汗が目に廻りてねずみ黐の花 香燿子
洗顔の泡溢れさす朝曇 香燿子
そっと目をあけてをはしぬ梅雨仏 香燿子
とうもろこし孫の数だけ穫れにけり 香燿子
青嵐イルカのショウーの飛沫浴ぶ 香燿子
ジュンサイを掌にぷるぷると日を返す 香燿子
 
昼顔や一湾臨む療養所 坤子
籐寝椅子父の夢見て覚めにけり 坤子
守宮棲む売れぬ売家の勝手口 坤子
かき氷伊豆大島の遥かなり 坤子
吾が想ひ知られたくなしサングラス 坤子
仏壇の今食べごろのメロンかな 坤子
ごきぶりを遊ばせてより狙ひけり 坤子
初蝉の声の和讃や黄梅院 坤子
投げくれしもぎたて胡瓜まるかじり 坤子
風通る席が馳走と洗鯉 坤子
 
春蝉のオーケストラに雨あがる 菜緒
昼顔や一湾臨む療養所 菜緒
籐寝椅子父の夢見て覚めにけり 菜緒
籠城の石碑に絡む忍冬 菜緒
半夏生自販機に声かけらるる 菜緒
眠られぬままあかときのほととぎす 菜緒
七変化はなから紅で押し通す 菜緒
風通る席が馳走と洗鯉 菜緒
畦豆を植えいて畦を踏み外す 菜緒
大砲のごとくどかんと梅雨明くる 菜緒
 
ナイトゲーム闇に吸われし大飛球 真次
狩衣も瀬波も真白川祓 真次
行く雲に足をのせたる水馬 真次
梅雨冷や古きピアノの蓋二折 真次
生きていることに戸惑う昼寝覚め 真次
父の日やひとり昔の棋譜ならべ 真次
ざりがにの鋏朱の透く神の御井 真次
校庭の声の千切れる青嵐 真次
大砲のごとくどかんと梅雨明くる 真次
サングラス教師楽しむ独り旅 真次
 
棹させば葉の楯逃げるぬなは舟 晴子
行く雲に足をのせたる水馬 晴子
洗顔の泡溢れさす朝曇 晴子
滝音を背らに山葵負ひきたり 晴子
鳥声に耳より覚むる夏館 晴子
でかければだうしてくれやうこの西瓜 晴子
森青蛙水の惑星瞬かす 晴子
のうぜんの辻を汚して恥ずるなし 晴子
門跡の膳に蓴の吸ひとろろ 晴子
しんかんとして夕焼の空きベッド 晴子
 
新茶汲む鳥獣戯画の染付け碗 素人
早起きの鳥にトマトを啄まる 素人
三回忌百合一色を供花とせり 素人
水揚げも減って焼津の燕の巣 素人
また同じ愚痴と思案の行々子 素人
掬ふごと机上のががんぼ逃がしやる 素人
父の日やひとり昔の棋譜ならべ 素人
夏椿慎ましく咲き散りにけり 素人
とうもろこし孫の数だけ穫れにけり 素人
ユッカ咲く剣道場より嗄れ声 素人
 
ある時は蓮に化身のくわんぜおん 智弘
花よりも葉の眠り初む合歓の花 智弘
籠城の石碑に絡む忍冬 智弘
点滴に耳澄ませゐて明易し 智弘
邯鄲の夢見心地や藤寝椅子 智弘
ごきぶりを遊ばせてより狙ひけり 智弘
生きていることに戸惑う昼寝覚め 智弘
柏葉あぢさゐ風集めたり放したり 智弘
夕立を避け居る軒に触れ太鼓 智弘
打水や掃き清めらる要石 智弘
 
震度六強万緑の底抜くる 貞雄
半夏生自販機に声かけらるる 貞雄
緑陰に携帯・読書・三尺寝 貞雄
瘤取り神汗のお百度お火焚祭 貞雄
五十年ハンカチーフをくれてより 貞雄
落し文どれも開きて見たくなる 貞雄
梅雨晴れの術後のおやつ乳ボーロ 貞雄
浜の家ひっかけ干しに軒の烏賊 貞雄
目を覚ます梅雨の茸のわらわらと 貞雄
暑にめげずこなす課題があればなり 貞雄
 
捻くれて捩れても好き文字摺草 睦子
店先の賀茂茄子艶を競ひ合ふ 睦子
三伏の鉄打つ火花路地の奥 睦子
行く雲に足をのせたる水馬 睦子
点滴に耳澄ませゐて明易し 睦子
風鈴の似合ふ団扇屋手拭屋 睦子
花茗荷刻んで京のお漬物 睦子
五十年ハンカチーフをくれてより 睦子
そっと目をあけてをはしぬ梅雨仏 睦子
ざりがにの鋏朱の透く神の御井 睦子
 
種多き代々の枇杷とほき日よ 明人
修復の登呂の遺跡に竹煮草 明人
籐寝椅子父の夢見て覚めにけり 明人
健在なる白寿の母に桔梗咲く 明人
狩衣も瀬波も真白川祓 明人
かき氷伊豆大島の遥かなり 明人
畑仕事の手元に這へり大蚯蚓 明人
思春期の子の髪匂ふ梅雨湿り 明人
掬ふごと机上のががんぼ逃がしやる 明人
鷹の檻いましづかなり旧端午 明人
 
捻くれて捩れても好き文字摺草 遊子
紫陽花の藍濡れそぼつジャポニスム 遊子
壊す蔵の年貢割り状紙魚だらけ 遊子
新茶汲む鳥獣戯画の染付け碗 遊子
吾が想ひ知られたくなしサングラス 遊子
滴りの一光線に風の筋 遊子
落し文どれも開きて見たくなる 遊子
もう帰れぬふるさとの川蛍舟 遊子
門跡の膳に蓴の吸ひとろろ 遊子
磐座の白き三つ石滴れり 遊子
 
ある時は蓮に化身のくわんぜおん 洋子
点滴に耳澄ませゐて明易し 洋子
大地震覚悟を決めて暮らすのみ 洋子
入道雲仁王に力瘤いくつ 洋子
ひとところ水きらめくは田を植うる 洋子
看取りより戻り短夜深眠る 洋子
何に彼にと値上げの愚痴に鯵たたく 洋子
日に透きて小蜘蛛の張りし囲の細か 洋子
目を覚ます梅雨の茸のわらわらと 洋子
宇宙食のごときもの食べ浴衣の娘 洋子
 
震度六強万緑の底抜くる 隆子
籐寝椅子父の夢見て覚めにけり 隆子
行く雲に足をのせたる水馬 隆子
仏壇の今食べごろのメロンかな 隆子
父の日の一齣として入院す 隆子
生きていることに戸惑う昼寝覚め 隆子
念佛の凝りしものとも空蝉は 隆子
どうしても近づいてくるはたた神 隆子
何に彼にと値上げの愚痴に鯵たたく 隆子
宇宙食のごときもの食べ浴衣の娘 隆子
 
婦長さん目高の世話を任せられ 良一
炎色して尼鷺梅雨の田んぼが好き 良一
特攻碑葉桜に実の一つ無し 良一
合歓の花咲き満ちそれを里の名に 良一
そっと目をあけてをはしぬ梅雨仏 良一
ひとところ水きらめくは田を植うる 良一
滝音を背らに山葵負ひきたり 良一
ものの影みな濃くなりて夏来る 良一
昼深むぬなはの花も水に潜み 良一
浜の家ひっかけ干しに軒の烏賊 良一
 
店先の賀茂茄子艶を競ひ合ふ 遼子
守宮棲む売れぬ売家の勝手口 遼子
新茶汲む鳥獣戯画の染付け碗 遼子
水揚げも減って焼津の燕の巣 遼子
入道雲仁王に力瘤いくつ 遼子
予科練の遺影鎮魂盆の供華 遼子
初蝉の声の和讃や黄梅院 遼子
篝火の爆ぜて鵜匠の手繰る紐 遼子
遠きいくさ汗と涙で語りけり 遼子
省エネのキャンドルナイト夏至夕べ 遼子