句集　雪うさぎ　佐藤　和枝　角川書店
　　　　　　　　　　1998.5.15      2700円
　
縁先に一鉢欲しき風知草

摘みすての蛍袋が雨を呼ぶ

水を打つ手もと狂はせてはならぬ

よよよよと蒲の穂絮のくづれだす

おおはるしゃぎくよと舌を噛みさうな

風呂吹のこれは大人の味であり

マスクして目と目合はさぬやうにをり

鬼やらふ真（まこと）の鬼はいづれなる

清潔が好きと海芋に生まれしや

山畑の鬼灯虫にくれてやろ

鬼灯の豆余らせてなんとする

ほうといふ口みつよつつ藪椿

麦笛のぶっきらぼうが性に合ふ

菜の花に来てほんたうの目覚めかな

冬瓜を貰ってくれと置いてゆく

名にし負ふどんぐり好きに候ひて

目白駅すぎて見えくる鴉の巣

子のつむりよりも大きく牡丹かな

農協の名入りの団扇なりごつし

鰭ながき金魚とひとつ屋根の下

冷やしたる西瓜ありけり急ぐべし

飛べといふ声の聞えて蓮の実

若武者の面影に立つ梧桐かな

数珠玉のそばを行ったり来たりかな

偶数といふは良きなり浮寝鳥

もぐらねば鳰といふ名を返ずべし

野に遊び天に吸はるる笑ひかな

うぐひすの来てをり母の名はうめ乃

たとふれば春の風なりフラミンゴ

風鈴と怠けてをりし昼下り

涼しさの大きく息を吸ふてみる

水ゆれて鯉現はるる日蓮忌

ぽっぺんのぺこんと鳴れりぽこんとも

恋猫の駆け上りたる路傍の木

手ぶらにて歩けばありし古巣かな

初蝶に眼のさはがしくなりにけり

ふるさとのふらここに揺れのこしきし

蓼の葉に虫の歯形の残りけり

のうぜんにおいでおいでをされにけり

すみぞめの色を心に唐辛子

曖昧を好みて枇杷の咲きにけり