新刊句集紹介　上野澄江

句集『ももすずめ』高澤良一

『ねずみのこまくら』に次ぐ第二句
集。著者はＳ１５年横浜市生まれ。Ｓ５１
年「濱」入会、大野林火に師事。Ｓ５７
年「濱」賞受賞。Ｓ５８年同同人。モモ
スズメとは、桃にくる蛾の幼虫だそう
である。「此のころころ虫が大いに気
に入ったので本集名とした」とある。

新社員交へて今朝の昇降機
大あくび春の海より貰ひけり
着膨れて後部座席を占めにけり
朝顔の種蒔く臍を下にして
あめんぼう跳び越しゆけるあめんぼう
なめくぢら砥石溶かしにかかりけり
夕顔を天蛾（すずめが）ぶると発ちにけり
泥亀の鼻もたげゆく秋風裡
悴める掌のかたちして枯柏
お祓ひの済みてなまはげ放たれし
なまはげの足踏み鳴らす屋台骨
なまはげのずいと茶の間に踏み込みて
なまはげのもぞと酒盃に手を出しぬ
やおろちのうみの初東風萱鳴らし
花を発つ鳥の胴より翼出で
ぶつかってここは譲れぬ蟹同志

自己の体温や鼓動を無防備に吐き出
している感があるが、これら作品群に
は、稀有の純粋無垢の詩質が感じられ
る。独自性を高く評価したい。

平成四年八月号　「海」所収