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句集「過ぎ航けり」
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鈴木貞雄さんより句集「遠野」に続いて「過ぎ航けり」をご
恵送頂いた。
「過ぎ航けり」は「遠野」と同時期に上木されたものという。
ますます以て 今時は氏にとり俳句多産の男時と拝察する次第です。
先づ 一読して共鳴した句は以下の通り。
春の朝勾玉のごとありにけり
蕗のたうと呼ばるるまへのかたちかな
草萌や嬰が出合ふものすべて噫
誰が塚としらねどのぼり野に遊ぶ
めくれ翔ち春の鴎となりにけり
一枚の舌となりたる揚雲雀
地に降りて花の遊びのつづきをり
過ぎ航けり桐咲く町の名はしらず
はつなつの帯とつて本我のもの
ホメーロス想ふユリの木花咲けば
一切があそび鳰の子涼しけれ
亀泳ぐ手足ばらばらの涼しさよ
一帆の毅然とゆけるヨットかな
まつさをな天の掻き疵流れ星
草清水木の実の上を流れけり
桔梗や格の正しき日本語
焔のなか秋風とほり過ぎにけり
鶏頭の腓掴んで引き抜きぬ
とほき日の秋の日がさす茨の実
遠きゆゑ雪嶺確とありにけり
白鳥の白さは生きてゐる白さ
象遊ぶ凍てし鉄鎖を鳴らしては
踊り場に雪の香のありにけり
小生の俳句の刀自は ”濱”なので おのづから その風潮に泥む句を
採るのは自然の成り行きなのだが 集中 次の一句に立ち止まった。
白鳥の白さは生きてゐる白さ
一読 生きてゐる白さ なる措辞にいささか ”拙”なるものを感じたが しかし これがどこをどう押してか 妙に気を引くのである。
句の構造はと見れば 白の再定義だ。
白鳥の句で こんな構造の句はみたことない。
今 わたしは炎暑の真っ只中でこの句を味わっているが
作句の現場は 鼻水垂らしての苦心の一作に違いなかろう。
そこで思い出したのだが 小生が最近みた 白鳥の景は北海道 猿払
ちかくの沼。荒涼たる景の中での餌付けの現場。
何千羽といる白鳥の抜け羽が湖面を舞い 湖岸に押し寄せている。
そこで 感じたのが 白鳥というものの ”妙ななまなましさ”だ。
こんな記憶が戻って来て この句に合点する訳である。
妄言陳謝。
2007/08/09(木)
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